IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図1
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図2
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図3
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図4
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図5
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図6
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図7
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図8
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図9
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図10
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図11
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図12
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図13
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図14
  • 特開-反射防止ケース及びその製造方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171083
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】反射防止ケース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/42 20060101AFI20221104BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20221104BHJP
   B29C 45/37 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
B29C33/42
B60K35/00 A
B29C45/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077480
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 雅人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 洋平
【テーマコード(参考)】
3D344
4F202
【Fターム(参考)】
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC25
4F202AF01
4F202AF07
4F202AF15
4F202AH17
4F202CA11
4F202CA30
4F202CB01
4F202CK33
4F202CK53
4F202CK54
4F202CK81
4F202CK83
(57)【要約】
【課題】充分な反射防止効果を有する、製造容易な反射防止ケース及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂成形体である反射防止ケースであって、反射防止ケースの内側面には、可視光の反射を防止する反射防止凹凸面2が形成されている。反射防止凹凸面2は、多数の一次凸部21と、一次凸部21の表面に形成された多数の二次凸部22とを有する。一次凸部21の平均高さは40μm以上である。一次凸部21の平均アスペクト比は0.1以上である。二次凸部22の平均高さは0.4μm以上である。二次凸部22の平均アスペクト比は0.6以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体である反射防止ケース(1)であって、
上記反射防止ケースの内側面には、可視光の反射を防止する反射防止凹凸面(2)が形成されており、
上記反射防止凹凸面は、多数の一次凸部(21)と、該一次凸部の表面に形成された多数の二次凸部(22)とを有し、
上記一次凸部の平均高さは40μm以上であり、
上記一次凸部の平均アスペクト比は0.1以上であり、
上記二次凸部の平均高さは0.4μm以上であり、
上記二次凸部の平均アスペクト比は0.6以上である、
反射防止ケース。
【請求項2】
上記一次凸部の平均高さは50μm以上であり、
上記一次凸部の平均アスペクト比は0.15以上である、
請求項1に記載の反射防止ケース。
【請求項3】
上記二次凸部の平均高さは0.7μm以上であり、
上記二次凸部の平均アスペクト比は1以上である、
請求項1又は2に記載の反射防止ケース。
【請求項4】
上記内側面は、互いのなす角度が90°以上である第1壁面(111)及び第2壁面(112)と、上記第1壁面と上記第2壁面と間の凹曲面状の内角部(113)とを有し、上記第1壁面と上記第2壁面と上記内角部とには、上記反射防止凹凸面が形成されており、上記内角部には、該内角部の形成方向に沿った筋状の凸条部(3)が形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の反射防止ケース。
【請求項5】
上記凸条部の高さは、50μm以下である、請求項4に記載の反射防止ケース。
【請求項6】
上記凸条部は、上記内角部のうち、その法線方向が、上記第1壁面の法線(N1)に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に形成されている、請求項4又は5に記載の反射防止ケース。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の反射防止ケースを製造する方法であって、
上記第1壁面を形成する型面を備えた第1スライド型(41)と、上記第2壁面を形成する型面を備えた第2スライド型(42)と、を有する成形型(4)を用い、
上記第1スライド型と上記第2スライド型とは、互いに異なる方向に移動でき、
上記第1スライド型の型面と、上記第2スライド型の型面との境界は、上記内角部に対応する位置であって、かつ、上記第1壁面の法線に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配される、反射防止ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止ケース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止化された樹脂成形品として、特許文献1には、2段以上の凹凸からなるシボ表面を形成したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-86453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ケースの内側に反射防止構造を有する反射防止ケースを、樹脂成形する場合において、型抜きが難しいという課題がある。
例えば、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」ともいう。)の光学系を収容するケース等として、内側面における光反射を防止する反射防止ケースが用いられる。かかる反射防止ケースを樹脂成形する際、成形型には、反射防止構造における凹凸に対応する凹凸を設けておくこととなる。そして、ケースの内側に凹凸を形成する場合、成形型から成形体を離型する際において、成形型の凹凸に成形体の凹凸が干渉することが懸念される。
すなわち、凹凸形状が高く、また、アスペクト比が大きいと、成形型との干渉を回避することが困難となりやすい。その一方で、凹凸が浅すぎると、反射防止効果を期待しにくい。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、充分な反射防止効果を有する、製造容易な反射防止ケース及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、樹脂成形体である反射防止ケース(1)であって、
上記反射防止ケースの内側面には、可視光の反射を防止する反射防止凹凸面(2)が形成されており、
上記反射防止凹凸面は、多数の一次凸部(21)と、該一次凸部の表面に形成された多数の二次凸部(22)とを有し、
上記一次凸部の平均高さは40μm以上であり、
上記一次凸部の平均アスペクト比は0.1以上であり、
上記二次凸部の平均高さは0.4μm以上であり、
上記二次凸部の平均アスペクト比は0.6以上である、
反射防止ケースにある。
【0007】
本発明の他の態様は、上記反射防止ケースを製造する方法であって、
上記内側面は、互いのなす角度が90°以上である第1壁面(111)及び第2壁面(112)と、上記第1壁面と上記第2壁面と間の凹曲面状の内角部(113)とを有し、上記第1壁面と上記第2壁面と上記内角部とには、上記反射防止凹凸面が形成されており、上記内角部には、該内角部の形成方向に沿った筋状の凸条部(3)が形成されており、
上記第1壁面を形成する型面を備えた第1スライド型(41)と、上記第2壁面を形成する型面を備えた第2スライド型(42)と、を有する成形型(4)を用い、
上記第1スライド型と上記第2スライド型とは、互いに異なる方向に移動でき、
上記第1スライド型の型面と、上記第2スライド型の型面との境界は、上記内角部に対応する位置であって、かつ、上記第1壁面の法線に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配される、反射防止ケースの製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記反射防止ケースにおいて、上記反射防止凹凸面は、多数の一次凸部と、該一次凸部の表面に形成された多数の二次凸部とを有する。かかる構造をとることで、上記一次凸部及び二次凸部の平均高さ及び平均アスペクト比を比較的小さくしても、反射防止効果を得やすくなる。その結果、反射防止ケースを成形するにあたり、反射防止凹凸面の一次凸部及び二次凸部が離型時に成形型と干渉することを抑制することができる。そして、上記反射防止凹凸面の一次凸部及び二次凸部は、それぞれ、上記の平均高さ及び平均アスペクト比を有する。これにより、反射防止凹凸面は、充分な反射防止効果を有する。
【0009】
上記反射防止ケースの製造方法において、上記第1スライド型の型面と、上記第2スライド型の型面との境界は、上記反射防止ケースにおける上記内角部に対応する位置であって、かつ、上記第1壁面の法線に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配される。このような第1スライド型と第2スライド型との配置によって、離型時に、反射防止凹凸面の一次凸部及び二次凸部に、第1スライド型及び第2スライド型が干渉することを抑制することができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、充分な反射防止効果を有する、製造容易な反射防止ケース及びその製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、反射防止ケースの断面説明図。
図2】実施形態1における、反射防止凹凸面の断面説明図。
図3】実施形態1における、一次凸部及び二次凸部の断面説明図。
図4】実施形態1における、反射防止ケースの一部の断面斜視説明図。
図5】実施形態1における、反射防止ケースの製造方法の説明図であって、型抜き前の状態の断面説明図。
図6】実施形態1における、型抜き前の状態の部分断面斜視図。
図7】実施形態1における、第1スライド型が第1壁面から離れた状態の部分断面斜視図。
図8】実施形態1における、第2スライド型が第2壁面から離れた状態の部分断面斜視図。
図9】実施形態1における、型抜き前の状態の部分模式図。
図10】実施形態1における、第2スライド型が第2壁面から離れつつある状態の部分模式図。
図11】実施形態1における、第2スライド型が第2壁面から離れた状態の部分模式図。
図12】実施形態1における、内角部付近の型抜き前の状態の断面説明図。
図13】実施形態1における、第1スライド型と第2スライド型との間に微小な隙間が生じている状態を示す部分模式図。
図14】実験例2における、試験方法の説明図。
図15】実験例2における、試験結果の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
反射防止ケース及びその製造方法に係る実施形態について、図1図12を参照して説明する。
本形態の反射防止ケース1は、樹脂成形体である。図1に示すごとく、反射防止ケース1の内側面には、反射防止凹凸面2が形成されている。反射防止凹凸面2は、可視光の反射を防止する凹凸面である。
【0013】
反射防止凹凸面2は、図2図3に示すごとく、多数の一次凸部21と、一次凸部21の表面に形成された多数の二次凸部22とを有する。一次凸部21の平均高さは40μm以上である。一次凸部21の平均アスペクト比は0.1以上である。二次凸部22の平均高さは0.4μm以上である。二次凸部22の平均アスペクト比は0.6以上である。
【0014】
一次凸部21の平均高さ及び平均アスペクト比は、反射防止ケース1の内側面に形成された反射防止凹凸面2における直径4cmの円の中の任意の10カ所において、レーザ顕微鏡にて測定した10個の値を平均したものとすることができる。ここで、各一次凸部21のアスペクト比は、当該一次凸部21の高さh1を当該一次凸部21の幅w1にて除した値である。図2に、高さh1及び幅w1を示す。
【0015】
二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比は、反射防止ケース1の内側面に形成された反射防止凹凸面2における直径4cmの円の中の任意の10カ所において、レーザ顕微鏡にて測定した10個の値を平均したものとすることができる。ここで、各二次凸部22のアスペクト比は、当該二次凸部22の高さh2を当該二次凸部22の幅w2にて除した値である。図3に、高さh2及び幅w2を示す。
【0016】
また、一次凸部21の平均高さは、例えば80μm以下とすることができる。一次凸部21の平均アスペクト比は、例えば0.25以下とすることができる。二次凸部22の平均高さは、例えば1.5μm以下とすることができる。二次凸部22の平均アスペクト比は、例えば1.5以下とすることができる。このようにすることで、後述する、反射防止ケース1の成形時において、一次凸部21及び二次凸部22の成形型4との干渉を抑制しやすくなる。
【0017】
本形態の反射防止ケース1は、例えば、車両に搭載されるHUD装置のケースとすることができる。かかるケースは、HUD装置の機能等に応じて種々の形状を採りうる。図1は、本形態の反射防止ケース1の概略形状を断面形状として示したものである。
【0018】
すなわち、本形態の反射防止ケース1の概略形状としては、底壁11と、底壁11の端縁から立設した複数の側壁12とを有する。側壁12は、底壁11の全周に配設することもできるし、底壁11の端縁の一部のみに配設することもできる。例えば、底壁11の拡がり方向の三方のみに側壁12を設けることもできる。底壁11と複数の側壁12とによって囲まれた収容空間10に、HUD装置の光学系が収容されることとなる。底壁11及び側壁12における、収容空間10に面する側の面(すなわち内側面)の少なくとも一部に、反射防止凹凸面2が形成されている。
【0019】
本形態において、反射防止ケース1の内側面は、図1に示すごとく、第1壁面111及び第2壁面112と、内角部113とを有する。内角部113は、第1壁面111と第2壁面112と間の凹曲面状の部位である。第1壁面111及び第2壁面112とは、互いのなす角度αが90°以上である。第1壁面111と第2壁面112と内角部113とには、反射防止凹凸面2が形成されている。図4に示すごとく、内角部113には、内角部113の形成方向に沿った筋状の凸条部3が形成されている。
【0020】
本形態において、底壁11における収容空間10側の面が第1壁面111に相当するものとすることができる。また、側壁12における収容空間10側の面が第2壁面112に相当するものとすることができる。また、図1に示すごとく、本形態において、第1壁面111と第2壁面112とが互いになす角度αは、鈍角となっている。
【0021】
図4に示す凸条部3は、後述する成形型4による成形跡であり、その突出高さ、幅は、極めて小さい。凸条部3の高さは、50μm以下である。なお、凸条部3の幅は、例えば、10μm以下である。
【0022】
凸条部3は、内角部113のうち、その法線方向が、第1壁面111の法線に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に形成されている。すなわち、図4に示すごとく、第1壁面111の法線N1と、凸条部3が形成された位置における内角部113の法線N2とのなす角度をβとすると、30°≦β≦60°が満たされている。
【0023】
次に、本形態の反射防止ケース1の製造方法につき、主として図5図12を参照して説明する。
反射防止ケース1の成形に当たっては、下記の成形型4を用いる。図5図6に示すごとく、成形型4は、第1スライド型41と第2スライド型42とを有する。第1スライド型41は、第1壁面111を形成する型面を備えている。第2スライド型42は、第2壁面112を形成する型面を備えている。
【0024】
第1スライド型41と第2スライド型42とは、互いに異なる方向に移動できる。
図12に示すごとく、第1スライド型41の型面411と、第2スライド型42の型面421との境界431は、内角部113に対応する位置であって、かつ、第1壁面111の法線N1に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配される。
【0025】
図5図8に示すごとく、成形型4は、固定型40と、上記の第1スライド型41及び第2スライド型42とを有する。固定型40は、反射防止ケース1の外側面を成形する型面を有する。この固定型440に対してスライド可能な状態で、第1スライド型41及び第2スライド型42が組付けられる。これにより、図5図6に示すごとく、固定型40と第1スライド型41及び第2スライド型42との間に、キャビティが形成される。このキャビティに溶融樹脂を射出し、固化させることにより、樹脂成形体である反射防止ケース1が成形される。
【0026】
なお、図6は、型締め状態における成形型4の一部を切り取った断面斜視図である。図7及び図8は、型抜き時における成形型4の一部を切り取った断面斜視図である。また、図6図8において、符号419にて示す部位は、第1スライド型41から突出した突出板部である。突出板部419は、周方向に隣り合う第2スライド型42同士の間に介在して、両者と摺動する。突出板部419は、上方へ向かうほど、幅及び突出量が徐々に大きくなるような形状を有する。なお、突出板部419の突出端が対向する樹脂成形体の内角部は、他の個所よりも樹脂収縮量が小さい。そのため、第1スライド型41のスライドによる当該内角部における凹凸の削れは防がれる。
【0027】
第1スライド型41の型面411及び第2スライド型42の型面421には、反射防止凹凸面2を成形するための凹凸面が形成されている。すなわち、第1スライド型41の型面411及び第2スライド型42の型面421には、一次凸部21(図2図3参照)に対応する凹部が形成されていると共に、当該凹部内に、二次凸部22(図2図3参照)に対応する微小な凹部が形成されている。
【0028】
また、図5に示すごとく、第1スライド型41と第2スライド型42との接触面43は、第1壁面111の法線方向に対して若干傾斜している。この接触面43と第1壁面111とのなす角度γは、鈍角である。ただし、γ<αである。なお、角度γは、例えば、91°以上とすることができる。
【0029】
固化した樹脂成形体である反射防止ケース1を型抜きする際には、第1スライド型41及び第2スライド型42における凹凸が、反射防止凹凸面2の凹凸に干渉しないように、第1スライド型41及び第2スライド型42をスライド移動させる必要がある。つまり、型抜き時において、反射防止凹凸面2における一次凸部21及び二次凸部22に対して、第1スライド型41の型面411及び第2スライド型42の型面421における凹凸面が、引っ掛からないようにする必要がある。
【0030】
そこで、型抜きに当たっては、図7に示すごとく、まず、第1スライド型41を、第1壁面111の法線方向に沿って上側へスライド移動させる。ここで、第1壁面111が向く側を便宜的に上側という。ただし、この表現は、重力方向との関係を限定するものではない。なお、第1壁面111は、必ずしも平面ではない場合もある。かかる場合においても、第1スライド型41が第1壁面111から離れる瞬間において、第1スライド型41の移動方向と、第1壁面111の各部における法線方向とのなす角度が小さくなるようにする。当該角度は、30°以下となるようにすることが好ましい。
【0031】
この第1スライド型41の移動に伴い、図8に示すごとく、第2スライド型42を内側に移動させつつ上側に移動させる。このとき、第2スライド型42は、接触面43において第1スライド型41に面接触させた状態で、移動させる。上述のように、第1壁面111に対する接触面43の角度γが鈍角であるため、第1スライド型41が上側に移動するにつれて、第2スライド型42を内側に移動させることができる。すなわち、第2スライド型42を第1スライド型41に押し付けた状態において、第1スライド型41が上側に向かうにつれて、第2スライド型42は、第2壁面112から遠ざかる方向へ移動する。第2スライド型42の第1スライド型41への押し付けは、例えば、バネ等の弾性部材(図示略)によって実現することができる。
【0032】
これにより、図9図11に模式的に示すように、第2スライド型42の凹凸が、樹脂成形体(すなわち反射防止ケース1)の反射防止凹凸面2の凹凸(すなわち、一次凸部21及び二次凸部22)に干渉することを防ぎつつ、型抜きすることが可能となる。これらの模式図においては、二次凸部22を省略している。
【0033】
なお、第2スライド型42が第2壁面112から離れる瞬間において、第2スライド型42の移動方向と、第2壁面112の各部における法線方向とのなす角度を、30°以下となるようにする。
以上のようにして、一次凸部21及び二次凸部22への干渉を防ぎつつ型抜きすることができる。
【0034】
ただし、第1スライド型41と第2スライド型42との接触面43の端縁には、微小ではあるが隙間ができてしまう。すなわち、図13に示すごとく、第1スライド型41の型面411と第2スライド型42の型面421との間に、微小な隙間433が生じることは避け難い。その結果、この微小な隙間433に樹脂が入り込むことにより、図4に示すような筋状の凸条部3が、成形体の一部に形成されることとなる。
【0035】
この凸条部3は、上述したように、内角部113における所定の範囲内に形成されるようにする。すなわち、図4に示す角度βが30°≦β≦60°を満たすようにする。そのために、型締め時において、図12に示すごとく、第1スライド型41の型面411と、第2スライド型42の型面421との境界431は、内角部113に対応する位置であって、かつ、第1壁面111の法線N1に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配されるようにする。
【0036】
このようにすることで、第1スライド型41が内角部113から離れる瞬間においても、第2スライド型42が内角部113から離れる瞬間においても、各スライド型の移動方向と、内角部113の各部における法線方向とのなす角度を、30°以下となるようにすることができる。
図12に示す、第1スライド型41の型面411と、第2スライド型42の型面421との境界431が配される内角部113の法線は、上述した法線N2と一致する。それゆえ、同図に示す角度βは、図4に示す角度βと一致する。
【0037】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
反射防止ケース1において、反射防止凹凸面2は、多数の一次凸部21と、該一次凸部21の表面に形成された多数の二次凸部22とを有する。かかる構造をとることで、一次凸部21及び二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比を比較的小さくしても、反射防止効果を得やすくなる。その結果、反射防止ケース1を成形するにあたり、反射防止凹凸面2の一次凸部21及び二次凸部22が離型時に成形型4と干渉することを抑制することができる。そして、反射防止凹凸面2の一次凸部21及び二次凸部22は、それぞれ、上記の平均高さ及び平均アスペクト比を有する。これにより、反射防止凹凸面2は、充分な反射防止効果を有する。
【0038】
内角部113には、内角部113の形成方向に沿った筋状の凸条部3が形成されている。上述のように、第1スライド型41と第2スライド型42とを備えた成形型4によって、反射防止ケース1を成形すると、筋状の成形跡として、凸条部3が形成されることとなる。この凸条部3が、内角部113の形成方向に沿って形成されることで、比較的目立ちにくくすることができる。
【0039】
また、凸条部3の高さは、50μm以下である。これにより、凸条部3を充分に目立ち難くすることができる。すなわち、反射防止ケース1をHUD装置のケースとして用いる場合においては、車両のフロントガラスに凸条部3が映り込むことを抑制することができる。
【0040】
凸条部3は、内角部113のうち、その法線方向が、第1壁面111の法線に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に形成されている。すなわち、図4に示す角度βが、30°≦β≦60°を満たす。これにより、下記のように、反射防止ケース1の製造を容易にすることができる。
【0041】
本形態の反射防止ケース1の製造方法において、第1スライド型41の型面411と、第2スライド型42の型面421との境界431は、内角部113に対応する位置であって、かつ、第1壁面111の法線N1に対して30°以上、かつ、60°以下となる領域内に配される。このような第1スライド型41と第2スライド型42との配置によって、図9図11に示すごとく、離型時に、反射防止凹凸面2の一次凸部21及び二次凸部22に、第1スライド型41及び第2スライド型42が干渉することを抑制することができる。
【0042】
以上のごとく、本形態によれば、充分な反射防止効果を有する、製造容易な反射防止ケース及びその製造方法を提供することができる。
【0043】
(実験例1)
本例においては、一次凸部21及び二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比が、反射防止凹凸面2における反射防止機能に及ぼす影響について調べた。
試験にあたっては、直径4cmの円形板状のテストピースの表面に、反射防止凹凸面に相当する凹凸面を形成した。テストピースは、ポリプロピレン樹脂からなる成形体である。
【0044】
凹凸面における一次凸部21及び二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比を種々変更したテストピース(すなわち、下記の試料1~試料6)を複数作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
各試料において、一次凸部21の高さh1及び幅w1(図2参照)、二次凸部22の高さh2及び幅w2(図3参照)は、レーザ顕微鏡を用いて測定した。レーザ顕微鏡は、オリンパス社製LEXT OLS4100を用いた。そして、一次凸部21についても、二次凸部22についても、各試料における任意の10カ所において測定した値の平均値を算出した。上記の表1~表6のそれぞれに記した平均高さ、平均幅は、その平均値である。
【0052】
試料1~試料3は、二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比を概ね同等としている。試料1は、試料2よりも、一次凸部21の平均高さが低く、平均アスペクト比も小さい。試料3は、試料2よりも、一次凸部21の平均高さが高く、平均アスペクト比も大きい。
【0053】
試料4~試料6は、二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比を概ね同等としている。試料4は、試料5よりも、二次凸部22の平均高さが低く、平均アスペクト比も小さい。試料6は、試料5よりも、二次凸部22の平均高さが高く、平均アスペクト比も大きい。
【0054】
各試料において、一次凸部21の高さ及び幅の調整は、成形型の型面をエッチングする際のエッチングレジストのパターンと、エッチング時間とを調整することにより、行った。
また、各試料において、二次凸部22の高さ及び幅の調整は、成形型による樹脂成形時における温度を調整することにより行った。基本的に、成形時の温度が高いほど、型面の形状が強く転写される。それゆえ、成形時の温度を変更することで、試料4~試料6の間の二次凸部22の高さを異ならせた。
【0055】
以上のようにして得られた各試料について、凹凸面の光沢度を測定した。具体的には、「60°光沢度」を光沢計によって測定した。光沢計としては、コニカミノルタ社製GM-268Aを用いた。その結果を、下記の表7、表8に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
表7に示す結果から分かるように、一次凸部21の平均高さ及び平均アスペクト比にて比較すると、試料1よりも試料2、試料2よりも試料3が、光沢度を抑制できている。つまり、一次凸部21の平均高さが高いほど光沢度を抑制でき、平均アスペクト比が大きいほど光沢度を抑制できている。そして、一次凸部21の平均高さを40μm以上、一次凸部21の平均アスペクト比を0.1以上とすることで、光沢度を低減できるといえる。
さらに、一次凸部21の平均高さを50μm以上、一次凸部21の平均アスペクト比を0.15以上とすることで、さらに光沢度を低減できるといえる。
【0059】
また、表8から分かるように、二次凸部22の平均高さ及び平均アスペクト比にて比較すると、試料4よりも試料5、試料5よりも試料6が、光沢度を抑制できている。つまり、二次凸部22の高さが高いほど光沢度を抑制でき、アスペクト比が大きいほど光沢度を抑制できている。そして、二次凸部22の平均高さを0.4μm以上、二次凸部22の平均アスペクト比を0.6以上とすることで、光沢度を低減できるといえる。
さらに、二次凸部22の平均高さを0.7μm以上、二次凸部22の平均アスペクト比を1以上とすることで、さらに光沢度を低減できるといえる。
【0060】
なお、上記の試料3及び試料6が達成した光沢度0.3という値は、HUD装置の反射防止凹凸面として利用する際に、充分にその機能を発揮できる値である。
【0061】
(実験例2)
本例は、実施形態1に示した反射防止ケース1を、HUD装置のケースとして用いたときの凸条部3(図4参照)の窓映りの低減効果を確認した例である。
【0062】
まず、図14に模式的に示すように、車両における所定位置に反射防止ケース1を、凹面鏡52及び平面鏡53と共に、配置する。そして、フロントガラス54の外側に設置した白色光源51から白色光を、凹面鏡52に向かって照射する。凹面鏡52において反射した白色光は、反射防止ケース1に当たる。反射防止ケース1において反射した光は、当該反射防止ケース1の内側面の像として、平面鏡、凹面鏡52、フロントガラス54を介して、運転者DRの眼に到達する。
【0063】
このような試験装置を用いて、運転者の眼に、反射防止ケース1の凸条部3の窓映りが、見えるか、見えないか、或いは、意識すれば見えるか、の官能試験を行った。凸条部3の窓映りとは、フロントガラス54に映り込んだ凸条部3の像である。
【0064】
この官能試験の結果を、図15に示す。同図において、Aが「窓映りが見えない」、Bが「意識すれば窓映りが見える」、Cが「特に意識することなく窓映りが見える」、との官能評価を示す。同図から分かるように、凸条部3の高さが約150μmのとき、特に意識することなく窓映りが見え、凸条部3の高さが約100μmのとき、意識すれば窓映りが見えた。また、凸条部3の高さが約50μm以下のとき、凸条部3の窓映りは見えなかった。
【0065】
なお、図15において、円形のプロットは、成形型4において、第1スライド型41と第2スライド型42との間の隙間量が20μm以下となるように調整することで、凸条部3の高さを抑制したものを示す。また、同図において、三角形のプロットは、上記の対策を取ることなく成形したものを示す。
【0066】
以上の結果から、凸条部3の高さを100μm以下とすることで、フロントガラスへの凸条部3の映り込みを抑制することができると考えられる。また、凸条部3の高さを50μmとすることで、フロントガラスへの凸条部3の映り込みを確実に防ぐことができると考えらえる。
【0067】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 反射防止ケース
2 反射防止凹凸面
21 一次凸部
22 二次凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15