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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171087
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】移動体制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20221104BHJP
   E05F 15/41 20150101ALI20221104BHJP
   E05F 15/689 20150101ALI20221104BHJP
   B60N 2/06 20060101ALI20221104BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B60N2/90
E05F15/41
E05F15/689
B60N2/06
B60N2/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077488
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】日本電産モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
【テーマコード(参考)】
2E052
3B087
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052GA08
2E052GB06
2E052GC06
3B087AA02
3B087BA02
3B087BD03
3B087DE08
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】移動体や物体が柔かいものである場合や、挟み込みを避けようとする逃げ動作が行われた場合でも、挟み込みを正確に検出する。
【解決手段】移動体制御装置は、モータ電流の変化に基づいて物体の挟み込みを検出する挟み込み検出部と、この挟み込み検出部の検出結果に基づいてモータの動作を制御する制御部とを備えている。挟み込み検出部は、所定期間Tにおけるモータ電流Iの差分ΔIが閾値α以上であって、かつ、当該期間Tにおけるモータ電流Iの変化の傾向が単調増加である場合に、物体の挟み込みが発生したと判定する。また、挟み込み検出部は、モータ電流Iの単調増加の傾向が、期間Tより長い期間Xにわたって継続した場合は、閾値αをα’に下げて、逃げ動作が行われた場合の挟み込みを検出できるようにする。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転により移動する移動体を制御する装置であって、
前記モータの回転状態を表す物理量の変化に基づいて、前記移動体の移動による物体の挟み込みを検出する挟み込み検出部と、
前記挟み込み検出部の検出結果に基づいて、前記モータの動作を制御する制御部と、を備え、
前記挟み込み検出部は、
所定の第1期間における前記物理量の第1差分が第1閾値以上であって、かつ、前記第1期間における前記物理量の変化の傾向が単調増加または単調減少である場合に、前記物体の挟み込みが発生したと判定し、
前記物理量の単調増加または単調減少の傾向が、前記第1期間より長い期間にわたって継続した場合は、前記第1閾値の値を下げる、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体制御装置において、
前記挟み込み検出部は、
前記第1閾値を下げた後、前記物理量が単調増加または単調減少の傾向を示さなくなると、前記第1閾値を元の値に戻す、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動体制御装置において、
前記挟み込み検出部は、
前記第1期間の最初と最後における各物理量の差を、前記第1差分として算出し、
前記第1期間を分割して得られる複数の第2期間のそれぞれにつき、当該第2期間の最初と最後における各物理量の差を、第2差分として算出し、
前記複数の第2差分のうち、第2閾値以上の第2差分の割合が第3閾値以上である場合に、前記第1期間における前記物理量の変化の傾向が単調増加または単調減少であると判断する、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の移動体制御装置において、
前記第1差分をΔI、前記第2差分をΔIs(m)、前記第1閾値をα、前記第2閾値をβ、前記第3閾値をγ、前記第1期間におけるM個のΔIs(m)のうちβ以上であるΔIs(m)の個数をNとしたとき、
前記挟み込み検出部は、
前記第1期間における前記物理量の変化の傾向を表す傾向スコアSCを、
SC=N/M
により算出し、
ΔI≧αかつSC≧γが成立する場合に、前記物体の挟み込みが発生したと判定する、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体制御装置において、
前記挟み込み検出部は、
前記Mと前記Nの関係がM=Nであって、ΔI≧αかつSC=1が成立する場合に、前記物体の挟み込みが発生したと判定する、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の移動体制御装置において、
前記物理量は、前記モータに流れる電流または前記モータの回転速度である、ことを特徴とする移動体制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の移動体制御装置において、
前記移動体は、車両のシートまたは車両の窓である、ことを特徴とする移動体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備された電動式シートのような移動体を制御する装置に関し、特に、異物の挟み込みを検出する機能を備えた移動体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車のような車両には、モータの回転により前後に移動する電動式のシートが装備されているものがある。このような電動シートの前後位置を調整する場合、従来は、シート近傍に設けられている操作部を手で操作して、シートを前方または後方に移動させることで、シート位置を調整していた。一方、近年では、利用者の好みに合ったシート位置を予め登録しておき、乗車時に利用者を識別して、当該利用者に対応したシート位置までシートを自動的に移動させる機能を備えた車両が登場している。
【0003】
上記のようなシート位置の自動調整機能を備えた車両にあっては、前のシートと後ろのシートとの間に人や物が存在している状態で、前のシートが自動的に後方へ移動すると、前後のシートの間に人や物が挟み込まれて、安全が脅かされるおそれがある。同様のことは、手動式の電動シートにおいても起こりうる。このため、シート制御装置には、挟み込みが発生した場合に、これをすみやかに検出してモータを停止または逆転させ、挟み込み状態を解消する機能が要求される。
【0004】
挟み込みが発生すると、モータに加わる荷重の増加に伴って、モータに流れる電流が増加するとともに、モータの回転速度が低下する。そこで、所定期間におけるモータの電流や回転速度などの物理量の変化(差分)を検出し、その検出値を閾値と比較することにより、挟み込みが発生したか否かを判定することができる。特許文献1~4には、このような物理量の変化に基づいて挟み込みを検出する技術が開示されている。
【0005】
ところで、車両のシートには、一般に柔軟なクッション材が使用されているため、挟み込みが発生してから、挟み込みが検出されるまでに時間がかかる。これを図11により説明する。
【0006】
図11は、前のシートS1と後ろのシートS2との間に、乗員の脚Fが挟み込まれた状態を示している。このような挟み込みは、たとえば、シートS1の後退とシートS2の前進とが同時に行われた場合などに生じる。前のシートS1が、一点鎖線で示す初期位置から実線で示す位置まで、距離d1だけ後退すると、シートS1、S2間に脚Fが挟み込まれる。また、人の脚だけでなく、人の胴体や荷物、動物などが挟み込まれる場合もある。
【0007】
しかしながら、シートS1が柔軟であるため、図11の実線の位置ではモータの荷重が不足して、挟み込みは検出されない。そしてこの後、Kで示した挟み込み部分でシートS1に窪みが生じて、シートS1はさらに距離d2だけ後退し、破線の位置で停止する。この位置では、モータの荷重が増大してモータ電流の差分値が閾値以上となり、挟み込みが検出される。
【0008】
このように、図11においては、シートS1が距離d1移動した実線位置では挟み込みの検出ができず、シートS1が距離d1+d2移動した破線位置で挟み込みの検出が可能となる。このため、挟み込みを正確に検出するためには、モータ電流の差分値を算出する期間を長く設定する必要がある。しかるに、この算出期間が長くなると、挟み込みは検出しやすくなるが、その反面、外乱によって挟み込みを誤検出する可能性も高まる。
【0009】
なお、ここでは、シートが柔軟性を有している場合について述べたが、シートが剛性を有していても、柔らかい物体を挟み込んだときには、上記と同様のことが起こりうる。特許文献5には、シートの柔らかい部分で物体を挟み込んだ場合に、挟み込みを適切に検出できるシート制御装置が示されている。また、特許文献6~10には、車両の窓における柔らかい物体の挟み込みを精度良く検出できるパワーウィンドウ装置が示されている。
【0010】
一方、前のシートが後退して、後ろの席にいる乗員の脚に当ったとき、挟み込みを避けようとして、乗員が下半身を捩る動作(以下「逃げ動作」という。)を行うことがある。これを図12により説明する。
【0011】
図12は、シートに着座している乗員を上から見た模式図を示している。通常の(a)の状態では、後ろのシートS2に着座している乗員Pの脚Fは、前のシートS1から離間している。この状態から(b)のように、前のシートS1が後退して乗員Pの脚Fに当ると、(c)のように、乗員Pは挟み込みを避けるために咄嗟に下半身を捩って、脚FをシートS1に対して傾いた状態にする。その後、(d)のように、シートS1は脚Fに当ったまま脚Fの変位と共にさらに後退し、脚Fが挟まれた状態となるが、シートS1が脚Fの変位に追従することから、図11の場合と同様にモータの荷重が不足し、挟み込みを検出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-27247公報
【特許文献2】特開2005-290691公報
【特許文献3】特開2016-14292公報
【特許文献4】特開2007-56620公報
【特許文献5】特開2007-131138号公報
【特許文献6】特開2010-119210号公報
【特許文献7】特開平8-149871号公報
【特許文献8】特開平8-4416号公報
【特許文献9】特開2001-248358号公報
【特許文献10】特開平7-158338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、移動体や物体が柔かいものである場合や、挟み込みを避けようとする逃げ動作が行われた場合でも、挟み込みを正確に検出することが可能な移動体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る移動体制御装置は、モータの回転により移動する移動体を制御する装置であって、モータの回転状態を表す物理量の変化に基づいて、移動体の移動による物体の挟み込みを検出する挟み込み検出部と、この挟み込み検出部の検出結果に基づいて、モータの動作を制御する制御部とを備えている。挟み込み検出部は、所定の第1期間における物理量の第1差分が第1閾値以上であって(第1条件)、かつ、第1期間における物理量の変化の傾向が単調増加または単調減少である場合(第2条件)に、物体の挟み込みが発生したと判定する。また、挟み込み検出部は、物理量の単調増加または単調減少の傾向が、第1期間より長い期間にわたって継続した場合は、第1閾値の値を下げる。
【0015】
このようにすると、たとえば柔軟なシートによる挟み込みの場合は、第1条件と第2条件が共に成立して挟み込みを検出できる一方、外乱の場合は、第2条件が成立しないので、挟み込みと誤判定するのを回避できる。また、挟み込みを回避しようとして逃げ動作が行われた場合でも、第1閾値の値を下げることによって、挟み込みを検出することが可能となる。
【0016】
本発明において、挟み込み検出部は、第1閾値を下げた後、物理量が単調増加または単調減少の傾向を示さなくなると、第1閾値を元の値に戻してもよい。
【0017】
本発明において、挟み込み検出部は、第1期間の最初と最後における各物理量の差を第1差分として算出し、第1期間を分割して得られる複数の第2期間のそれぞれにつき、当該第2期間の最初と最後における各物理量の差を第2差分として算出し、複数の第2差分のうち、第2閾値以上の第2差分の割合が第3閾値以上である場合に、第1期間における物理量の変化の傾向が単調増加または単調減少であると判断してもよい。
【0018】
本発明において、第1差分をΔI、第2差分をΔIs(m)、第1閾値をα、第2閾値をβ、第3閾値をγ、第1期間におけるM個のΔIs(m)のうちβ以上であるΔIs(m)の個数をNとしたとき、挟み込み検出部は、第1期間における物理量の変化の傾向を表す傾向スコアSCをSC=N/Mにより算出し、ΔI≧αかつSC≧γが成立する場合に、物体の挟み込みが発生したと判定してもよい。
【0019】
この場合、挟み込み検出部は、MとNの関係がM=Nであって、ΔI≧αかつSC=1が成立する場合に、物体の挟み込みが発生したと判定してもよい。
【0020】
本発明における物理量は、モータに流れる電流であってもよく、また、モータの回転速度であってもよい。
【0021】
本発明における移動体は、車両のシートであってもよく、また、車両の窓であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、移動体や物体が柔かいものである場合や、挟み込みを避けようとする逃げ動作が行われた場合でも、挟み込みを正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態によるシート制御装置を備えた電動シートシステムのブロック図である。
図2】挟み込みと外乱を区別する原理を説明する模式図である。
図3】電流差分、傾向差分および傾向スコアと、それらの閾値を説明するグラフである。
図4】電流差分および傾向差分の算出方法を説明するグラフである。
図5】各傾向差分の変化を示すグラフである。
図6】外乱がある場合のモータ電流、電流差分および傾向スコアの変化を示すグラフである。
図7】通常の場合のモータ電流、電流差分および傾向スコアの変化を示すグラフである。
図8】逃げ動作が行われた場合の、モータ電流、電流差分および傾向スコアの変化を示すグラフである。
図9】逃げ動作が行われた場合の、電流差分閾値の変更を説明するグラフである。
図10】本発明の第2実施形態によるシート制御装置を備えた電動シートシステムのブロック図である。
図11】柔軟なシートによる挟み込みの状態を示した図である。
図12】逃げ動作による挟み込みの状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。図面中、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。以下では、移動体として車両用のシートを例に挙げ、本発明をシート制御装置に適用した場合について述べる。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態によるシート制御装置1と、これを用いた電動シートシステム100の一例を示している。電動シートシステム100は、たとえば自動四輪車のような車両に装備されており、シート制御装置50、操作部5、モータ電流検出部6、モータ速度検出部7、モータ8、スライド機構9、およびシート20を備えている。シート20は、モータ8およびスライド機構9によって駆動される電動式のシートである。
【0026】
操作部5は、シート20の動作を手動で操作するためのスイッチなどから構成される。モータ電流検出部6は、モータ8に流れるモータ電流を検出する。モータ速度検出部7は、モータ8の回転速度を検出する。モータ8は、シート20をa方向(前後方向)に移動させるためのモータである。スライド機構9は、モータ8とシート20に連結されていて、モータ8の回転運動を直線運動に変換し、シート20をa方向に所定距離だけ移動させる。
【0027】
シート制御装置1は、制御部1、モータ駆動部2、および閾値記憶部3を有している。制御部1は、CPUなどから構成されており、シート制御装置50の全体動作を制御する。
【0028】
制御部1には、挟み込み検出部4が備わっている。この挟み込み検出部4の機能は、実際にはソフトウェアによって実現される。挟み込みの検出方法については、後で詳しく説明する。モータ駆動部2は、モータ8を回転させるための駆動信号(たとえばPWM信号)を生成する回路などから構成される。閾値記憶部3には、挟み込み検出部4が、シート間における挟み込みの有無を判定するための閾値α、α’、β、γが記憶されている。これらの閾値についても、後で詳しく説明する。
【0029】
次に、本発明による挟み込み検出の基本的な原理について、図2を参照しながら説明する。図2(a)は、挟み込みが発生した場合のモータ電流と電流差分の変化の一例を示しており、図2(b)は、外乱が発生した場合のモータ電流と電流差分の変化の一例を示している。各図の横軸は、モータ8に付設された回転センサ(図示省略)から出力されるパルスのカウント値であり、シート20の移動距離に対応している(後述する図3図9においても同様)。なお、モータ電流や電流差分は、実際には図3のように細かく変動するが、図2では単純化して表している。
【0030】
図2(a)において、期間Tは、挟み込み判定の単位区間であり、当該期間T内でのモータ電流の変化の状況に基づいて、挟み込みの有無を判定する。この期間Tは、時間的に少しずつ図の右方向へシフトしてゆき、その都度、当該期間Tにおける挟み込みの有無が判定される。期間Tは、本発明における「第1期間」に相当する。
【0031】
いま、期間Tの最初の時点n’で挟み込みが発生したとすると、この時点からモータ8の荷重が増加し始め、これに伴ってモータ電流も増加してゆく。また、時間とともにモータ電流の増加率が大きくなるに従って、一定時間ごとのモータ電流の変化を表す電流差分も増加してゆく。そこで、期間Tの最後の時点nにおける電流差分ΔIaが、電流差分閾値α以上であることを以って、挟み込み判定の第1条件とする。しかし、この第1条件だけでは、図2(b)のように期間Tで外乱が発生した場合、nの時点の電流差分ΔIbが電流差分閾値α以上であれば、外乱であるにもかかわらず、挟み込みが発生したと誤判定することになる。
【0032】
そこで、本発明では、挟み込みの場合は、図2(a)のように、期間Tでモータ電流が単調増加するのに対し、外乱の場合は、図2(b)のように、期間Tでモータ電流が単調増加しない(変動する)ことに着目し、期間Tでモータ電流が単調増加していることを以って、挟み込み判定の第2条件とする。そして、第1条件と第2条件が共に成立した場合に、挟み込みが発生したと判定する。
【0033】
これにより、図2(b)の外乱の場合は、第1条件は成立するが第2条件が成立しないため、挟み込みとは判定されず、誤判定を回避することができる。さらに、本発明では、期間Tにおけるモータ電流の変化が単調増加か否かを、以下に述べる独自の手法を用いて判定することで、挟み込みの検出精度を高めるようにしている。
【0034】
次に、本発明による挟み込み検出の具体的手法について、図3図5を参照しながら説明する。
【0035】
図3は、挟み込みの判定に用いるパラメータを説明する図である。図3(a)において、モータ電流I、電流差分ΔI、電流差分閾値α、および期間Tは、図2で説明したものと同じである。電流差分閾値αは、本発明における「第1閾値」に相当する。本発明では、これらに加えて、傾向差分ΔIs(m)、傾向差分閾値β、傾向スコアSC、および傾向スコア閾値γという新たなパラメータを用いる。
【0036】
傾向差分ΔIs(m)は、期間Tを分割して得られる複数の期間(図3(a)では1つの期間Wのみ図示)のそれぞれについて、当該期間Wの最初と最後の時点における各モータ電流Iの差として算出される。この詳細につき、図4を用いて説明する。
【0037】
図4において、期間Tは7分割されていて、当該期間内に複数(ここでは6つ)の期間W1~W6が設定されている。これらの期間W1~W6は、本発明における「第2期間」に相当する。各期間W1~W6の幅は同じであり、分割幅Zの2倍となっている(W1~W6=2Z)。また、各期間W1~W6は、Zずつずれて設定されている。傾向差分ΔIs(m)は、各期間ごとに算出される6つの傾向差分ΔIs(1) ~ΔIs(6)の総称であり、次式によって算出される。
ΔIs(m)=I(n-[m-1]×Z)-I(n-[m-1]×Z-W) ・・・(1)
【0038】
傾向差分ΔIs(1)は、期間W1における傾向差分であり、期間W1の最初の時点(n-2Z)のモータ電流(c点の電流)と、期間W1の最後の時点(n)のモータ電流(a点の電流=I(n))との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=1、W=W1とした場合、傾向差分ΔIs(1)は、
ΔIs(1)=I(n)-I(n-W1)
となる。
【0039】
傾向差分ΔIs(2)は、期間W2における傾向差分であり、期間W2の最初の時点(n-3Z)のモータ電流(d点の電流)と、期間W2の最後の時点(n-Z)のモータ電流(b点の電流)との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=2、W=W2とした場合、傾向差分ΔIs(2)は、
ΔIs(2)=I(n-Z)-I(n-Z-W2)
となる。
【0040】
傾向差分ΔIs(3)は、期間W3における傾向差分であり、期間W3の最初の時点(n-4Z)のモータ電流(e点の電流)と、期間W3の最後の時点(n-2Z)のモータ電流(c点の電流)との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=3、W=W3とした場合、傾向差分ΔIs(3)は、
ΔIs(3)=I(n-2Z)-I(n-2Z-W3)
となる。
【0041】
傾向差分ΔIs(4)は、期間W4における傾向差分であり、期間W4の最初の時点(n-5Z)のモータ電流(f点の電流)と、期間W4の最後の時点(n-3Z)のモータ電流(d点の電流)との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=4、W=W4とした場合、傾向差分ΔIs(4)は、
ΔIs(4)=I(n-3Z)-I(n-3Z-W4)
となる。
【0042】
傾向差分ΔIs(5)は、期間W5における傾向差分であり、期間W5の最初の時点(n-6Z)のモータ電流(g点の電流)と、期間W5の最後の時点(n-4Z)のモータ電流(e点の電流)との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=5、W=W5とした場合、傾向差分ΔIs(5)は、
ΔIs(5)=I(n-4Z)-I(n-4Z-W5)
となる。
【0043】
傾向差分ΔIs(6)は、期間W6における傾向差分であり、期間W6の最初の時点(n’)のモータ電流(h点の電流=I(n'))と、期間W6の最後の時点(n-5Z)のモータ電流(f点の電流)との差として算出される。すなわち、前記の式(1)でm=6、W=W6とした場合、傾向差分ΔIs(6)は、
ΔIs(6)=I(n-5Z)-I(n-5Z-W6)
となる。
【0044】
以上のようにして、期間Tにおいて6つの傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)が算出されると、期間Tは図4で右方向へ所定量シフトし、シフト後の新たな期間Tにおいて、上記と同様に6つの傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)が算出される。図3(b)は、このようにして順次算出された傾向差分ΔIs(m)の変化の様子を示している。傾向差分閾値βは、この傾向差分ΔIs(m)に対して設定される閾値であって、本発明における「第2閾値」に相当する。図5の(a)~(f)には、図3(b)の傾向差分が、独立した傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)として示されている。なお、図5では、縦軸と横軸のスケールが図3(b)と異なっている。
【0045】
各傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)を傾向差分閾値βと比較することによって、期間Tにおけるモータ電流Iの変化の傾向を把握することができる。たとえば、図5のように、nの時点で傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)が全て閾値β以上である場合は、モータ電流Iが期間Tにおいて単調増加していることを表している(電流の細かい変動は無視する)。一方、傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)のうち、たとえば閾値β以上である差分の数が3つで、閾値β未満である差分の数が3つであれば、モータ電流Iが期間Tにおいて変動していることを表している。
【0046】
そこで、本発明では、期間Tにおけるモータ電流Iの変化の傾向を表すパラメータとして、傾向差分ΔIs(m)に基づいて期間Tごとに算出される傾向スコアSCを用いる。期間TにおけるM個の傾向差分ΔIs(m)のうち、閾値β以上であるΔIs(m)の個数をNとしたとき、傾向スコアSCは、次式により算出される。
SC=N/M ・・・(2)
図3(a)の傾向スコア閾値γは、この傾向スコアSCに対して設定される閾値であって、本発明における「第3閾値」に相当する。
【0047】
前述した、傾向差分ΔIs(1)~ΔIs(6)が全て閾値β以上である場合は、上記の式(2)において、M=6、N=6であるから、傾向スコアSCはSC=1となる。一方、閾値β以上の傾向差分が3つである場合は、式(2)において、M=6、N=3であるから、傾向スコアSCはSC=0・5となる。また、閾値β以上の傾向差分が全くない場合は、式(2)において、M=6、N=0であるから、傾向スコアSCはSC=0となる。
【0048】
このように、傾向スコアSCは1≧SC≧0の範囲にあり、SCが1に近いほどモータ電流Iの単調増加傾向を強く示していることになる。したがって、傾向スコアSCを傾向スコア閾値γと比較し、SC≧γであれば、図2(a)のように期間Tでモータ電流が単調増加していて、前述した挟み込み判定の第2条件が成立したとみなすことができる。図3(a)の例では、nの時点で、電流差分ΔIが閾値α以上であり(ΔI≧α)、かつ、傾向スコアSCが傾向スコア閾値γ以上であるため(SC≧γ)、第1条件と第2条件が共に成立して、挟み込みが発生したと判定される。
【0049】
挟み込みが検出された場合、制御部1は、モータ駆動部2により、モータ8を停止あるいは逆転させることによって、挟み込み状態を解消する。
【0050】
図6は、外乱がある場合のモータ電流I、電流差分ΔIおよび傾向スコアSCの変化の一例を示している。外乱は、たとえばシートに着座している乗員が身体を揺すったような場合に、シートを介してモータに加わる荷重が増大することにより発生する。図6では、外乱によって電流差分ΔIが閾値αを超えるが、モータ電流Iの変化が単調増加ではないため、傾向スコアSCは閾値γを超えない。したがって、前述の第1条件は成立するが、第2条件が成立しないので、モータの荷重が増大しても挟み込みが発生したと誤判定されることはない。
【0051】
図7は、挟み込みも外乱もない、通常の場合のモータ電流I、電流差分ΔIおよび傾向スコアSCの変化の一例を示している。この場合は、モータ電流Iの変動が少ないので、電流差分ΔIは閾値αを超えない。また、モータ電流Iが長時間にわたって単調増加することもないので、傾向スコアSCも閾値γを超えない。したがって、第1条件と第2条件が共に成立しないので、挟み込みは検出されない。
【0052】
以上のように、本実施形態では、電流差分ΔIが電流差分閾値α以上であり(第1条件)、かつ、傾向スコアSCが傾向スコア閾値γ以上である(第2条件)場合に、挟み込みが発生したと判定される。そして、傾向スコアSCは、期間Tにおけるモータ電流Iの変化の傾向を表しており、外乱が加わった場合と挟み込みが生じた場合とで、傾向スコアSCの値は異なる。このため、外乱の場合は、第1条件が成立しても、第2条件が成立しないので、外乱によりモータ電流Iが大きく変動した場合であっても、挟み込みが発生したと誤判定するのを回避することができる。その結果、柔軟なシート20による挟み込みの検出を確実にするために、モータ電流Iの差分ΔIを算出する期間Tを長く設定しても、外乱と挟み込みとを明確に区別して、挟み込みの誤検出が生じるのを抑制することができる。
【0053】
しかしながら、上記の判定基準のみでは、図12で示したような「逃げ動作」が行われた場合に、挟み込みを確実に検出できる保証がないという問題が残る。以下、これについて説明する。
【0054】
図8は、逃げ動作が行われた場合のモータ電流I、電流差分ΔI、および傾向スコアSCの変化の一例を示している。この場合、図12において、乗員Pが挟み込みを回避しようとして脚Fを傾けると、シートS1は脚Fの変位に追従しながら後退するため、シートS1が脚Fから受ける反力は急増しない。したがって、モータ8に加わる荷重も急増しないので、モータ電流Iは、図8のQの範囲に示すように、緩やかに増加する。その結果、電流差分ΔIの増加も緩やかなものとなる。
【0055】
図8の例では、期間Tにおいて、モータ電流Iは単調増加の傾向を示しており(細かい変動は無視する)、傾向スコアSCはSC=γを維持しているから、前述の第2条件(SC≧γ)は成立している。しかるに、電流差分ΔIの増加が緩やかなため、期間Tでは電流差分ΔIが閾値αに達せず、前述の第1条件(ΔI≧α)が成立しない。したがって、逃げ動作による挟み込みが発生しているにもかかわらず、挟み込みの検出ができなくなる。
【0056】
そこで本発明では、第2条件であるSC≧γの状態、すなわちモータ電流Iの単調増加傾向が、期間Tより長い期間にわたって継続した場合に、第1条件で用いる電流差分閾値αの値を下げて、逃げ動作による挟み込みを検出できるようにしている。
【0057】
詳しくは、図9に示すように、傾向スコアSCがSC=γである状態が、時刻t1から時刻t2までの期間Xだけ継続すると、挟み込み検出部4は、時刻t2において電流差分閾値の値をαからα’に下げる(α>α’)。時刻t1は、傾向スコアSCがSC=γとなった時点であり、期間Xは、期間Tより長い期間である(X>T)。時刻t2で電流差分閾値がαからα’に下がることにより、電流差分ΔIが閾値α’を超えるので、この時点で第1条件(ΔI≧α’)と第2条件(SC≧γ)が共に成立して、挟み込みが検出される。これにより、モータ8が停止または逆転して、挟み込み状態が解消される。その後、時間が経過して時刻t3で傾向スコアSCがγ>SCになると、挟み込み検出部4は、電流差分閾値をα’から元の値αに戻す。
【0058】
このようにして、本実施形態によれば、乗員Pが挟み込みを回避しようとして逃げ動作を行った場合でも、電流差分閾値αの値を下げることによって、挟み込みを検出することが可能となる。なお、逃げ動作だけに限らず、シートが柔軟な場合や、柔らかい物体を挟み込んだ場合にも、モータ電流Iが緩やかな増加傾向を示すことはあり得るので、そのような場合にも本発明は有効である。
【0059】
図10は、本発明の第2実施形態によるシート制御装置60と、これを用いた電動シートシステム200の一例を示している。図10では、2つの挟み込み検出部4a、4bと、2つのモータ電流検出部6a、6bと、2つのモータ速度検出部7a、7bと、2つのモータ8a、8bと、リクライニング機構10とが設けられている。その他の構成は図1と同じであるので、図1と重複する部分の説明は省略する。
【0060】
図10において、電動式のシート20の座部20aは、第1モータ8aとスライド機構9によってa方向へ移動し、シート20の背もたれ20bは、第2モータ8bとリクライニング機構10によってb方向へ傾斜する。
【0061】
第1モータ駆動部2aと第2モータ駆動部2bは、それぞれ第1モータ8aと第2モータ8bを駆動する。第1モータ電流検出部6aと第2モータ電流検出部6bは、それぞれ第1モータ8aと第2モータ8bに流れるモータ電流を検出する。第1モータ速度検出部7aと第2モータ速度検出部7bは、それぞれ第1モータ8aと第2モータ8bの回転速度を検出する。第1挟み込み検出部4aは、第1モータ電流検出部6aで検出された電流に基づいて、シート20がa方向へ移動した場合の物体の挟み込みを検出する。第2挟み込み検出部4bは、第2モータ電流検出部6bで検出された電流に基づいて、背もたれ20bがb方向へ傾斜した場合の物体の挟み込みを検出する。
【0062】
このような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の原理に基づいて、第1挟み込み検出部4aは、シート20の移動による物体の挟み込みを検出し、第2挟み込み検出部4bは、背もたれ20bの傾斜による挟み込みを検出する。また、制御部1は、挟み込み検出部4a、4bのいずれかが挟み込みを検出した場合に、モータ駆動部2a、2bにより第1モータ8aまたは第2モータ8bを停止させ、あるいは逆転させることによって、挟み込み状態を解消する。
【0063】
なお、第2実施形態の場合、閾値記憶部3に記憶されている各閾値α、α’、β、γは、第1挟み込み検出部4aと第2挟み込み検出部4bのそれぞれに対応して、別々に設定してもよい。
【0064】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、種々の実施形態を採用することができる。
【0065】
たとえば、図9においては、電流差分閾値αを1段階下げてα’としたが、SC≧γの状態(単調増加傾向)が一定時間継続した時点で電流差分閾値をαからα’に下げ、その後SC≧γの状態がさらに一定時間継続した時点で電流差分閾値をα’からα’’に下げる(α>α’>α’’)というように、電流差分閾値αを2段階にわたって下げてもよい。また、電流差分閾値αを3段階以上にわたって下げてもよい。
【0066】
また、前記の実施形態では、モータ電流検出部6、6a、6bで検出されたモータ電流に基づいて挟み込みを検出する例を挙げたが、モータ電流に含まれるリップルの周波数に基づいて挟み込みを検出してもよい。
【0067】
また、挟み込み検出のための物理量としては、電流や周波数に限らず、モータ速度検出部7、7a、7bで検出されたモータの回転速度であってもよい。この場合は、挟み込みが発生するとモータの回転速度が低下し、図2(a)の期間Tにおいて、回転速度の差分は単調減少の傾向を示す。
【0068】
また、期間Tにおいて電流や回転速度が単調増加または単調減少していることを判定するにあたっては、前記の式(1)および式(2)によらずに、他の数学的手法を用いてもよい。
【0069】
また、前記の実施形態では、図1および図10において、モータ駆動部2、2a、2bが、シート制御装置50、60に設けられている例を挙げたが、これらのモータ駆動部2、2a、2bは、シート制御装置50、60の外部に設けられていてもよい。
【0070】
また、図1および図10においては、モータ8、8a、8bが、シート制御装置50、60の外部に設けられているが、これらのモータ8、8a、8bは、シート制御装置50、60に設けられていてもよい。
【0071】
さらに、前記の実施形態では、車両に装備されるシート制御装置を例に挙げたが、本発明は、モータにより車両の窓を開閉するパワーウィンドウ装置にも適用が可能であり、さらには、車両以外の分野で用いられる移動体制御装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 制御部
2 モータ駆動部
3 閾値記憶部
4 挟み込み検出部
6 モータ電流検出部
7 モータ速度検出部
8 モータ
20 シート(移動体)
50、60 シート制御装置(移動体制御装置)
I モータ電流
ΔI 電流差分
ΔIs(m) 傾向差分
SC 傾向スコア
T 期間(第1期間)
W1~W6 期間(第2期間)
X 期間(第1期間より長い期間)
α、α’ 電流差分閾値(第1閾値)
β 傾向差分閾値(第2閾値)
γ 傾向スコア閾値(第3閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12