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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171120
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ステータコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20221104BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077549
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】北林 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】谷口 寛和
【テーマコード(参考)】
5E062
5H615
【Fターム(参考)】
5E062AA06
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP08
5H615SS08
5H615SS25
5H615SS46
(57)【要約】
【課題】残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させることが可能で、かつ、残留応力を除去するための時間を短縮させることが可能なステータコアの製造方法を提供する。
【解決手段】このステータコア100の製造方法では、不活性ガスの雰囲気中で、積層コア10aおよび治具200を、それぞれ、陰極および陽極として、積層コア10aの残留応力層19を除去するように、積層コア10aのうちの少なくとも治具200の複数の挿入部分210に対向する複数のスロット13の内側面13aをスパッタエッチングするスパッタエッチング工程(S3)が行われる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板が積層されるとともに径方向に突出する複数のティースと前記複数のティース同士の間に形成される複数のスロットとを含む積層コアを形成するコア形成工程と、
前記コア形成工程の後に、前記複数のスロット内にそれぞれ挿入される複数の挿入部分を含む治具の前記挿入部分を、前記複数のスロットの内側面に対向するように配置する治具配置工程と、
前記治具配置工程の後に、不活性ガスの雰囲気中で、前記積層コアおよび前記治具を、それぞれ、陰極および陽極として、前記積層コアの残留応力層を除去するように、前記積層コアのうちの少なくとも前記治具の前記複数の挿入部分に対向する前記複数のスロットの内側面をスパッタエッチングするスパッタエッチング工程と、を備える、ステータコアの製造方法。
【請求項2】
前記治具配置工程は、前記治具のうちの、前記複数の挿入部分と、前記複数のティースの前記径方向における先端部にそれぞれ対向する前記積層コアの周方向に延びる複数の周方向延長部分とを、それぞれ、前記複数のスロットの内側面と、前記複数のティースの前記先端部とに対向するように配置する工程である、請求項1に記載のステータコアの製造方法。
【請求項3】
前記治具配置工程は、前記積層コアの前記治具に対向する部分と前記治具との距離が前記積層コアと前記治具とが対向する部分の全体に亘って同等になるように前記治具を配置する工程である、請求項1または2に記載のステータコアの製造方法。
【請求項4】
前記治具配置工程は、全周に亘って前記径方向に突出する前記複数の挿入部分を含む櫛歯状の前記治具の全ての前記挿入部分を、前記積層コアの全ての前記スロットに一度に配置する工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載のステータコアの製造方法。
【請求項5】
前記スパッタエッチング工程は、前記残留応力層を除去するように、前記積層コアと前記治具との間で放電される時間、前記積層コアと前記治具との間に印加される電圧、前記不活性ガスの雰囲気中の前記不活性ガスの密度、および、前記積層コアの前記治具に対向する部分と前記治具との距離のうちの少なくとも1つが調整された状態で、前記積層コアのうちの少なくとも前記治具の前記複数の挿入部分に対向する前記複数のスロットの内側面をスパッタエッチングする工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載のステータコアの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層コアの残留応力を除去する工程を備えるステータコアの製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、電気機器鉄心(ステータコア)の製造方法が開示されている。上記特許文献1に記載の電気機器鉄心の製造方法では、まず、電磁鋼板に対して所定の形状となるように打ち抜き加工が行われる。そして、複数の電磁鋼板を積層して積層鉄心(積層コア)が形成される。そして、積層鉄心を焼鈍することにより、打ち抜き加工時にせん断切り口部に生じる残留応力が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58-63119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の電気機器鉄心(ステータコア)の製造方法では、積層鉄心(積層コア)を焼鈍(熱処理)することにより残留応力が除去されるので、残留応力を除去する際に、積層鉄心の全体が伝熱により加熱されてしまう。すなわち、焼鈍時に、積層鉄心において、残留応力が生じているせん断切り口部以外も加熱されるので、残留応力を除去する際のエネルギー効率が比較的低くなる(エネルギー消費量が大きくなる)。また、焼鈍時に、積層鉄心の全体が加熱された後、積層鉄心の全体が徐冷される必要があるので、残留応力を除去するために必要となる時間が比較的長くなる。このため、残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させることが可能で、かつ、残留応力を除去するための時間を短縮させることが可能なステータコアの製造方法が望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させることが可能で、かつ、残留応力を除去するための時間を短縮させることが可能なステータコアの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるステータコアの製造方法は、
電磁鋼板が積層されるとともに径方向に突出する複数のティースと複数のティース同士の間に形成される複数のスロットとを含む積層コアを形成するコア形成工程と、コア形成工程の後に、複数のスロット内にそれぞれ挿入される複数の挿入部分を含む治具の挿入部分を、複数のスロットの内側面に対向するように配置する治具配置工程と、治具配置工程の後に、不活性ガスの雰囲気中で、積層コアおよび治具を、それぞれ、陰極および陽極として、積層コアの残留応力層を除去するように、積層コアのうちの少なくとも治具の複数の挿入部分に対向する複数のスロットの内側面をスパッタエッチングするスパッタエッチング工程と、を備える。
【0008】
この発明の一の局面におけるステータコアの製造方法では、上記のように、不活性ガスの雰囲気中で、積層コアおよび治具を、それぞれ、陰極および陽極として、積層コアの残留応力層を除去するように、積層コアのうちの少なくとも治具の複数の挿入部分に対向する複数のスロットの内側面をスパッタエッチングするスパッタエッチング工程が行われる。これにより、積層コアのうちの治具に対向する部分(少なくとも複数のスロットの内側面)の残留応力層をスパッタエッチングにより除去することができる。すなわち、積層コアを焼鈍することにより残留応力が除去される場合のように積層コアの全体が加熱および徐冷される場合と異なり、局所的な処理によって残留応力を除去することができる。その結果、残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させる(エネルギー消費量を小さくする)ことができるとともに、残留応力を除去するための時間を短縮させることができる。また、積層コアのうちの少なくとも複数のスロットの内側をスパッタエッチングすることによって、(ステータコアが回転電機の一部として使用される際に磁束の流れを妨げないように)除去が要求される複数のスロットの内側面の残留応力層を局所的に除去することができる。また、治具の複数の挿入部分が複数のスロットの内側面に対向するように配置することによって、複数のスロットの内側面を容易にスパッタエッチングすることができる。また、積層コアの全体が加熱および徐冷される場合と異なり、加熱および徐冷時の形状劣化を抑制するための押圧部材が不要となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させることが可能で、かつ、残留応力を除去するための時間を短縮させることが可能なステータコアの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態によるステータの構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態によるステータの構成を示す拡大平面図である。
図3】本発明の一実施形態によるステータの製造フローを示す図である。
図4】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおけるコア形成工程を示す図である。
図5】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおける治具配置工程を示す1つ目の図である。
図6】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおける治具配置工程を示す2つ目の図である。
図7】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおけるスパッタエッチング工程を示す1つ目の図である。
図8】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおけるスパッタエッチング工程を示す2つ目の図である。
図9】本発明の一実施形態によるステータの製造フローにおけるスパッタエッチング工程を示す3つ目の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
[ステータの構成]
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態によるステータコア10を備えるステータ100の構成について説明する。
【0013】
以下の説明では、ステータコア10(積層コア10a(図4参照))の軸方向、径方向および周方向を、それぞれ、Z方向、R方向およびC方向とする。また、Z方向の一方側および他方側を、それぞれ、Z1側およびZ2側とする。また、R方向の一方側(内径側)および他方側(外径側)を、それぞれ、R1側およびR2側とする。
【0014】
図1に示すように、ステータ100は、ステータ100に対向するようにステータ100のR1側に配置されるロータ(図示しない)と共に、インナーロータ型の回転電機(図示しない)の一部を構成する。回転電機は、たとえば、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータである。
【0015】
図2に示すように、ステータ100は、ステータコア10と、コイル部20と、絶縁部材30と、を備える。なお、図1では、コイル部20および絶縁部材30の図示を省略している。
【0016】
(ステータコアの構成)
図1に示すように、ステータコア10は、Z方向に沿った中心軸線90を中心軸とした円筒形状を有する。ステータコア10は、複数の電磁鋼板(たとえば、珪素鋼板)がZ方向に積層されることにより形成されている。複数の電磁鋼板の厚み(Z方向における大きさ)は、数百μm(たとえば、略300μm)である。
【0017】
ステータコア10は、円環状のバックヨーク11と、バックヨーク11からR1側に突出する複数のティース12と、を含む。そして、C方向に隣接するティース12同士の間には、各々、スロット13が形成されている。すなわち、ステータコア10は、複数のスロット13を含む。
【0018】
複数のスロット13の各々は、Z方向に延びるように設けられている。そして、複数のスロット13の各々は、ステータコア10において、Z方向の両側が開口するように形成されている。また、複数のスロット13の各々は、ステータコア10において、R1側が開口するように形成されている。
【0019】
(コイル部の構成)
図2に示すように、コイル部20は、複数のスロット13の各々に収容される複数のスロット収容部を含む。また、図示しないが、コイル部20は、互いに異なるスロット13に収容されるスロット収容部同士を接続する複数のコイルエンド部を含む。コイル部20は、銅線から構成されている。コイル部20は、電源部(図示せず)から3相交流の電力が供給されることにより、磁束を発生させるように構成されている。
【0020】
(絶縁部材の構成)
絶縁部材30は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS:Poly Phenylene Sulfide Resin)、アラミド紙等により構成された絶縁層を含む。絶縁部材30は、スロット13内において、スロット13の内側面13a(図4参照)とコイル部20のスロット収容部との間に配置されている。すなわち、絶縁部材30は、ステータコア10とコイル部20とを電気的に絶縁するために設けられている。なお、絶縁部材30の厚みは、数百μm(たとえば、略170μm以上、略350μm以下)である。
【0021】
[ステータの製造方法]
図2図9を参照して、本発明の一実施形態によるステータ100の製造方法について説明する。
【0022】
(コア形成工程)
まず、図3に示すように、ステップS1において、コア形成工程が行われる。図4に示すように、コア形成工程(S1)は、電磁鋼板が積層されるとともにR方向(径方向)に突出する複数のティース12と複数のティース12同士の間に形成される複数のスロット13とを含む積層コア10aを形成する工程である。
【0023】
コア形成工程(S1)では、電磁鋼板に対して打ち抜き加工が行われることによって、積層コア10aが形成される。このため、コア形成工程(S1)において、積層コア10aのせん断切り口部(バックヨーク11のR2側の端部11a、スロット13の近傍、および、ティース12のR方向における先端部12a)には残留応力層19(図9参照)が形成される。残留応力層19は、電磁鋼板の厚みの略1/2(たとえば、電磁鋼板の厚みが略300μmの場合は、略150μm)の厚みで等方的に形成される。
【0024】
コア形成工程(S1)におけるせん断切り口部のうち、スロット13の近傍、および、ティース12の先端部12aは、ステータコア10(ステータ100)が回転電機の一部として使用される際に磁束が多く流れる部分となる。このため、スロット13の近傍のおよびティース12の先端部12aの残留応力層19(図9参照)は、後述するスパッタエッチング工程(S3)(図3参照)における除去が要求される。
【0025】
(治具配置工程)
次に、図3に示すように、ステップS2において、治具配置工程が行われる。図5に示すように、治具配置工程(S2)は、複数のスロット13内にそれぞれ挿入される複数の挿入部分210を含む治具200の挿入部分210を、複数のスロット13の内側面13aに対向するように配置する工程である。これにより、治具200の複数の挿入部分210が複数のスロット13の内側面13aに対向するように配置することによって、後述するスパッタエッチング工程(S3)において、複数のスロット13の内側面13aを容易にスパッタエッチングすることができる。
【0026】
また、治具配置工程(S2)は、治具200のうちの、複数の挿入部分210と、複数のティース12のR方向(径方向)における先端部12aにそれぞれ対向する積層コア10aの(C方向に隣り合う挿入部分210同士を接続するように)C方向(周方向)に延びる複数の周方向延長部分220とを、それぞれ、複数のスロット13の内側面13aと、複数のティース12の先端部12aとに対向するように配置する工程である。具体的には、Z方向に見て、ティース12およびスロット13に沿った形状を有する治具200が積層コア10aに対して配置される。そして、治具200が積層コア10aに対して配置されると、治具200の複数の挿入部分210および複数の周方向延長部分220は、それぞれ、積層コア10aの複数のスロット13の内側面13aおよび複数のティース12の先端部12aに対向した状態となる。なお、治具200は、金属製である。これにより、治具200を、積層コア10aのうちの複数のスロット13の内側面13aおよび複数のティース12の先端部12aに確実に対向させた状態で、後述するスパッタエッチング工程(S3)を行うことができる。
【0027】
また、治具配置工程(S2)は、積層コア10aの治具200に対向する部分OPと治具200との距離Dが積層コア10aと治具200とが対向する部分の全体に亘って同等になるように治具200を配置する工程である。具体的には、複数の挿入部分210と複数のスロット13の内側面13aとの距離D1が全体に亘って略同等になるように治具200の複数の挿入部分210が配置される。また、複数のティース12の先端部12aと複数の周方向延長部分220との距離D2が全体に亘って略同等になるように治具200の複数の周方向延長部分220が配置される。また、距離D1と距離D2とが略同等になるように治具200が配置される。これにより、後述するスパッタエッチング工程(S3)において積層コア10aの治具200に対向する部分OPの全体に亘って均一にスパッタエッチングすることができるので、積層コア10aの治具200に対向する部分OPに形成された残留応力層19(図9参照)を、積層コア10aの治具200に対向する部分OPの全体に亘って均一に除去することができる。
【0028】
また、治具配置工程(S2)は、全周に亘ってR方向(径方向)に突出する複数の挿入部分210を含む櫛歯状の治具200の全ての挿入部分210を、積層コア10aの全てのスロット13に一度に配置する工程である。具体的には、図6に示すように、真空チャンバ300内において、櫛歯状の治具200が、Z方向に見て、複数の挿入部分210の全てが複数のスロット13内にオーバラップするように積層コア10aのZ1側に配置される。そして、櫛歯状の治具200が、積層コア10aに対してZ2側に移動されることにより、複数の挿入部分210の各々が複数のスロット13に同時に挿入される。これにより、複数の挿入部分210の各々を複数の挿入部分210毎に異なるタイミングで個別に複数のスロット13の各々に挿入する場合と比較して、複数の挿入部分210を複数のスロット13の内側面13aに対向するように配置する工程(治具配置工程(S2))を簡略化することができる。
【0029】
(スパッタエッチング工程)
次に、図3に示すように、ステップS3において、スパッタエッチング工程が行われる。図7図9に示すように、スパッタエッチング工程(S3)は、不活性ガス(Arガス)の雰囲気中で、積層コア10aおよび治具200を、それぞれ、陰極および陽極として、積層コア10aの残留応力層19を除去するように、積層コア10aのうちの治具200の複数の挿入部分210に対向する複数のスロット13の内側面13aおよび複数の周方向延長部分220に対向する複数のティース12の先端部12aをスパッタエッチングする工程である。
【0030】
具体的には、図7に示すように、真空チャンバ300内に(積層コア10aの部分OPと治具200とが対向するように)積層コア10aおよび治具200が配置された状態で、真空ポンプにより、真空チャンバ300内の気体が排出(排気)されるとともに、Arガス供給部により、真空チャンバ300内にArガスが供給される。これにより、真空チャンバ300内が減圧された状態かつArガスで満たされた状態となる。そして、積層コア10aおよび治具200を、それぞれ、陰極および陽極として、積層コア10aと治具200との間に電圧が印加される。これにより、図8に示すように、積層コア10aと治具200との間において生じた放電現象により、Arガスがイオン化される(Arイオン310となる)。そして、Arイオン310(陽イオン)は、加速しながら積層コア10aの治具200に対向する部分OP(陰極)に向かう。そして、図9に示すように、Arイオン310は、積層コア10aの治具200に対向する部分OPの残留応力層19の原子または分子に衝突する。これにより、Arイオン310による運動エネルギーにより、残留応力層19の原子または分子が、弾き出される(放出される)。なお、弾き出された原子または分子(スパッタエッチングされたスパッタ粒子19a)は、治具200に向かった後、治具200の表面に付着する。
【0031】
これにより、積層コア10aのうちの治具200(図8参照)に対向する部分OP(複数のスロット13の内側面13a(図5参照)および複数のティース12の先端部12a(図5参照))の残留応力層19をスパッタエッチングにより除去することができる。すなわち、積層コア10aを焼鈍することにより残留応力が除去される場合と異なり、積層コア10aの全体の加熱および徐冷を行わずに、局所的な処理によって残留応力を除去することができる。その結果、残留応力を除去する際のエネルギー効率を向上させる(エネルギー消費量を小さくする)ことができるとともに、残留応力を除去するための時間を短縮させることができる。また、積層コア10aのうちの複数のスロット13の内側面13aおよび複数のティース12の先端部12aをスパッタエッチングすることによって、(ステータコア10(ステータ100)が回転電機の一部として使用される際に磁束の流れを妨げないように)除去が要求される複数のスロット13の内側面13aおよび複数のティース12の先端部12aの残留応力層19を局所的に除去することができる。また、積層コア10aの全体が加熱および徐冷される場合と異なり、加熱および徐冷時の形状劣化を抑制するための押圧部材が不要となる。
【0032】
また、スパッタエッチング工程(S3)は、残留応力層19を除去するように、積層コア10aと治具200(図8参照)との間で放電される時間(条件1)、積層コア10aと治具200との間に印加される電圧(条件2)、不活性ガス(Arガス)の雰囲気中の不活性ガス(Arガス)の密度(条件3)、および、積層コア10aの治具200に対向する部分OPと治具200との距離D(図8参照)(条件4)のうちの少なくとも1つが調整された状態で、積層コア10aのうちの少なくとも治具200の複数の挿入部分210に対向する複数のスロット13の内側面13aおよび複数のティース12の先端部12aをスパッタエッチングする工程である。たとえば、上記の条件1、条件2、条件3および条件4が調整されることにより、それぞれ、スパッタエッチングが行われる時間、Arイオン310の運動エネルギー、放電によるArイオン310の生成数、および、Arイオン310の残留応力層19への衝突速度が調整される。これにより、積層コア10aのうちの治具200に対向する部分OPにおける残留応力層19の状態(たとえば、厚み)に応じて、上記の4つの条件(条件1~4)のうちの任意の幾つかが調整されることにより、積層コア10aのうちの治具200に対向する部分OPに対して、残留応力層19が過不足なく除去されるように適切にスパッタエッチングを行うことができる。
【0033】
以上の工程(コア形成工程(S1)、治具配置工程(S2)およびスパッタエッチング工程(S3))により、図2に示すように、ステータ100が備えるステータコア10が製造される。
【0034】
(治具メンテナンス工程)
次に、図3に示すように、ステップS4において、治具メンテナンス工程が行われる。治具メンテナンス工程(S4)は、所定の回数のスパッタエッチング工程(S3)の後に、積層コア10a(図5参照)のスパッタエッチングされたスパッタ粒子19a(図9参照)が付着した治具200(図5参照)の表面のクリーニングまたは治具200の交換を行う工程である。なお、治具メンテナンス工程(S4)は、1回のスパッタエッチング工程(S3)毎に毎回行ってもよいし、複数回(2回以上)のスパッタエッチング工程(S3)毎に行ってもよい(スパッタエッチング工程(S3)毎に毎回行なわなくてもよい)。これにより、スパッタエッチング工程(S3)において治具200の表面に付着したスパッタ粒子19aに起因して次のスパッタエッチング工程(S4)におけるスパッタエッチングが正常に行われなくなるのを防止することができる。
【0035】
(絶縁部材配置工程)
次に、図3に示すように、ステップS5において、絶縁部材配置工程が行われる。図2に示すように、絶縁部材配置工程(S5)は、ステータコア10のスロット13内に絶縁部材30が配置される工程である。
【0036】
(コイル部配置工程)
次に、図3に示すように、ステップS6において、コイル部配置工程が行われる。図2に示すように、コイル部配置工程(S6)は、ステータコア10のスロット13内に(絶縁部材30がスロット13の内側面13a(図4参照)とコイル部20のスロット収容部との間に配置されるように)コイル部20が配置される工程である。
【0037】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0038】
たとえば、上記実施形態では、治具配置工程(S2)において、櫛歯状の治具200が、積層コア10aのZ1側(軸方向の一方側)に配置され、積層コア10aに対してZ2側(軸方向の他方側)に移動されることにより、複数の挿入部分210の各々が複数のスロット13に同時に挿入される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程において、櫛歯状の治具が、積層コアの軸方向の他方側に配置され、積層コアに対して軸方向の一方側に移動されることにより、複数の挿入部分の各々が複数のスロットに同時に挿入されてもよい。また、治具配置工程において、積層コアが、櫛歯状の治具に対して軸方向の一方側または他方側に移動されることにより、複数の挿入部分の各々が複数のスロットに同時に挿入されてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)が、全周に亘ってR方向(径方向)に突出する複数の挿入部分210を含む櫛歯状の治具200の全ての挿入部分210を、積層コア10aの全てのスロット13に一度に配置する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程が、櫛歯状の治具の複数の挿入部分を、積層コアの複数のスロットに、それぞれの挿入部分毎に異なるタイミングで個別に配置する工程であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)において、複数の挿入部分210と複数のスロット13の内側面13aとの距離D1が全体に亘って略同等になるように治具200の複数の挿入部分210が配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程において、複数の挿入部分と複数のスロットの内側面との距離が全体に亘って略同等にならない(互いに異なる部分を含む)ように治具の複数の挿入部分が配置されてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)において、複数のティース12の先端部12aと複数の周方向延長部分220との距離D2が全体に亘って略同等になるように治具200の複数の周方向延長部分220が配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程において、複数のティースの先端部と複数の周方向延長部分との距離が全体に亘って略同等にならない(互いに異なる部分を含む)ように治具の複数の周方向延長部分が配置されてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)において、複数の挿入部分210と複数のスロット13の内側面13aとの距離D1と、複数のティース12の先端部12aと複数の周方向延長部分220との距離D2とが略同等になるように治具200が配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程において、複数の挿入部分と複数のスロットの内側面との距離と、複数のティースの先端部と複数の周方向延長部分との距離とが異なるように治具が配置されてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)が、積層コア10aの治具200に対向する部分OPと治具200との距離Dが積層コア10aと治具200とが対向する部分の全体に亘って同等になるように治具200を配置する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程が、積層コアの治具に対向する部分と治具との距離が積層コアと治具とが対向する部分の全体に亘って同等にならない(互いに異なる部分を含む)ように治具を配置する工程であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、治具配置工程(S2)が、治具200のうちの、複数の挿入部分210と、複数のティース12のR方向(径方向)における先端部12aにそれぞれ対向する積層コア10aのC方向(周方向)に延びる複数の周方向延長部分220とを、それぞれ、複数のスロット13の内側面13aと、複数のティース12の先端部12aとに対向するように配置する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、治具配置工程が、複数のスロットの内側面に対向する複数の挿入部分を含み、複数のティースの先端部に対向する部分を含まない治具を配置する工程であってもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、特許請求の範囲の「不活性ガス」として、Arガスを適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、特許請求の範囲の「不活性ガス」として、Arガス以外の不活性ガス(たとえば、He、Ne、N、CO等)を適用してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、特許請求の範囲の「ステータコア」を、インナーロータ型の回転電機の一部を構成するステータ100が備えるステータコア10に対して適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、特許請求の範囲の「ステータコア」を、アウターロータ型の回転電機の一部を構成するステータが備えるステータコアに対して適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10…ステータコア、10a…積層コア、12…ティース、12a…(ティースの径方向における)先端部、13…スロット、13a…(スロットの)内側面、19…(積層コアの)残留応力層、200…治具、210…挿入部分、220…周方向延長部分、D…(治具と、積層コアの治具に対向する部分との)距離、部分OP…(積層コアの治具に対向する)部分
図1
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図9