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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171132
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】万年筆
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/00 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
B43K5/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077575
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350HA03
2C350NC02
(57)【要約】
【課題】 優れた筆記性能を有するとともに、視覚的な楽しみを与えることができる万年筆を提供する。
【解決手段】 前端のペンポイントPから後方に延びたスリット6を有するペン先4と、スリット6に対応した位置に形成されたインキ溝12を有するペン芯10と、ペン先4のペンポイントPから所定の範囲がペン芯10よりも前方に突出した状態で重ね合わされたペン先4及びペン芯10と嵌合する中空のペン先押さえ部材30と、ペン先押さえ部材30の後方に位置する首部22を有する筒状の軸筒20と、を備え、互いに固定されたペン先4、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が首部22に固定されており、スリット6が、ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置まで連続的に形成されており、ペン先押さえ部材30の少なくともスリット6を覆う領域が透光性を有する万年筆2を提供する。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端のペンポイントから後方に延びたスリットを有するペン先と、
前記スリットに対応した位置に形成されたインキ溝を有するペン芯と、
前記ペン先の前記ペンポイントから所定の範囲が前記ペン芯よりも前方に突出した状態で重ね合わされた前記ペン先及び前記ペン芯と嵌合する中空のペン先押さえ部材と、
前記ペン先押さえ部材の後方に位置する首部を有する筒状の軸筒と、
を備え、
互いに固定された前記ペン先、前記ペン芯及び前記ペン先押さえ部材が前記首部に固定されており、
前記スリットが、前記ペンポイントから少なくとも前記首部に達する位置まで連続的に形成されており、
前記ペン先押さえ部材の少なくとも前記スリットを覆う領域が透光性を有することを特徴とする万年筆。
【請求項2】
前記ペン先押さえ部材と前記首部を有する前記軸筒とが個別の部材であり、前記ペン先押さえ部材との嵌合領域より後方に位置する少なくとも前記ペン芯を含む部材と前記首部とが嵌合することにより、互いに固定された前記ペン先、前記ペン芯及び前記ペン先押さえ部材が前記首部に固定された状態になることを特徴とする請求項1に記載の万年筆。
【請求項3】
前記ペン先押さえ部材と前記首部とが一体的に構成されていることにより、互いに固定された前記ペン先、前記ペン芯及び前記ペン先押さえ部材が前記首部に固定された状態になることを特徴とする請求項1に記載の万年筆。
【請求項4】
前記ペン先押さえ部材の内面に、前記スリットの両端から所定の距離1だけ離れて前記スリットに沿って前後に延びた凸部が設けられ、
前記凸部が前記ペン先の外面と接することにより、前記ペン先押さえ部材の内面及び前記スリットの両側の前記ペン先の外面が所定の距離2だけ離間した状態で、前記ペン先押さえ部材と前記ペン先及び前記ペン芯とが嵌合していることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の万年筆。
【請求項5】
前記ペン先押さえ部材の内面に、前記スリットを覆うように前後に延びたシール用凸部が設けられ、
前記シール用凸部が、前記スリットを覆い、前記スリットの両側の前記ペン先の外面と所定の面圧で接する状態で、前記ペン先押さえ部材と前記ペン先及び前記ペン芯とが嵌合していることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の万年筆。
【請求項6】
前記ペン芯よりも前方の領域を除く、前記首部から前側に突出した前記ペン先の外面の略全領域が、前記ペン先押さえ部材で覆われていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の万年筆。
【請求項7】
前記ペン先が個別の2つの部材で構成され、前記2つの部材が所定の間隔で配置されて前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の万年筆。
【請求項8】
前記ペン先押さえ部材の全体が透光性し、前記ペン芯の全体が透光性を有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の万年筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細管現象でインキがインキ溝内を流れる万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具の中には、内部のインキが外部から視認できるように、軸筒が透明な材料で形成されたものがある。そのような筆記具の中には、軸筒がシンジオタクチックポリプロピレンで形成されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。シンジオタクチックポリプロピレンは透明度が高いので、内部のインキをより鮮明に視認することができ、意匠的な効果を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-193868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の筆記具がボールペンの場合には、筆記具の前端の近くまで流れるインキを視認することができる。しかし、筆記具が万年筆の場合、前端から所定の範囲が金属製のペン先で覆われている。このため、仮に軸筒の透明度を上げたとしても、ペン先の領域を流れるインキを視認することができず、使用者に視覚的な楽しみを与えることはできない。仮に、ペン先の領域を流れるインキを視認可能とするため、ペン先に連続的な隙間を設けた場合、隙間の両側のペン先が大きく撓んで、筆記が困難になる虞がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、優れた筆記性能を有するとともに、視覚的な楽しみを与えることができる万年筆を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る万年筆は、
前端のペンポイントから後方に延びたスリットを有するペン先と、
前記スリットに対応した位置に形成されたインキ溝を有するペン芯と、
前記ペン先の前記ペンポイントから所定の範囲が前記ペン芯よりも前方に突出した状態で重ね合わされた前記ペン先及び前記ペン芯と嵌合する中空のペン先押さえ部材と、
前記ペン先押さえ部材の後方に位置する首部を有する筒状の軸筒と、
を備え、
互いに固定された前記ペン先、前記ペン芯及び前記ペン先押さえ部材が前記首部に固定されており、
前記スリットが、前記ペンポイントから少なくとも前記首部に達する位置まで連続的に形成されており、
前記ペン先押さえ部材の少なくとも前記スリットを覆う領域が透光性を有することを特徴とする万年筆。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、優れた筆記性能を有するとともに、視覚的な楽しみを与えることができる万年筆を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン先を示す平面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン芯を示す側面図である。
図3A図1に示すペン先と、図2に示すペン芯とが互いに重ね合わされたところを背部側から見た平面図である。
図3B図3Aに示すペン先及びペン芯の側面図である。
図3C図3Bの断面A-Aを示す断面図である。
図4A】本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン先押さえ部材を示す側面図である。
図4B図4Aに示すペン先押さえ部材の斜視図である。
図5A】本発明の第1の実施形態に係る万年筆の前側の領域を背部側から見た示す平面図である。
図5B図5Aに示す万年筆の前側の領域の側面図である。
図5C図5Aに示す万年筆の前側の領域を腹部側から見た平面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る万年筆の前側の領域を模式的に示す平面図である。
図7A】本発明の第3の実施形態に係る万年筆の一体的に構成されたペン先押さえ部材及び首部を示す斜視図である。
図7B】本発明の第3の実施形態に係る万年筆の前側の領域を模式的に示す平面図である。
図8図5Bの断面E-Eを示し、内面に凸部が設けられたペン先押さえ部材がペン先及びペン芯と嵌合する状態を示す断面図である。
図9図5Bの断面E-Eを示し、内面にシール用凸部が設けられたペン先押さえ部材がペン先及びペン芯と嵌合する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する万年筆は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例を分けて示す場合があるが、異なる実施形態、実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
本明細書において、「前」とは、万年筆の先端部側を指し、「後」とは、その反対側を指す。また、ペン芯のペン先で覆われる側を背部と称し、その反対側の櫛溝がペン先で覆われずに露出した側を腹部と称する。図面では、背部を上側に、腹部を下側に配置して描いている。
【0010】
(本発明の第1の実施形態に係る万年筆)
はじめに、図1から図5Cを参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る万年筆の説明を行う。図1は、本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン先を示す平面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン芯を示す側面図である。図3Aは、図1に示すペン先と、図2に示すペン芯とが互いに重ね合わされたところを背部側から見た平面図である。図3Bは、図3Aに示すペン先及びペン芯の側面図である。図3Cは、図3Bの断面A-Aを示す断面図である。図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る万年筆のペン先押さえ部材を示す側面図である。図4Bは、図4Aに示すペン先押さえ部材の斜視図である。図5Aは、本発明の第1の実施形態に係る万年筆の前側の領域を背部側から見た示す平面図である。図5Bは、図5Aに示す万年筆の前側の領域の側面図である。図5Cは、図5Aに示す万年筆の前側の領域を腹部側から見た平面図である。
【0011】
本実施形態に係る万年筆2は、ペン先4と、ペン芯10と、重ね合わされたペン先4及びペン芯10と嵌合する中空のペン先押さえ部材30と、筒状の軸筒20とを備える。ペン先押さえ部材30がペン先4及びペン芯10と嵌合することにより、3つの部材が互いに固定された組立体が形成され、その組立体が、軸筒20の前側の構成部材である首部22に取り付けられる。
【0012】
<ペン先>
本実施形態に係るペン先4は、個別の部材であるペン先本体4A及びペン先本体4Bから構成される。ペン先本体4A、4Bの前端に設けられたペンポイントPの近傍が、筆記領域となる。例えば、一体的なペン先部材の前端部にペンポイントPを溶接した後、ペン先部材を切断して分離して、個別のペン先本体4A及びペン先本体4Bを形成することができる。ペン先4は弾性と耐食性を要するため、金合金または特殊鋼で形成され、紙と接するペンポイントP部分には耐摩耗性合金が用いられている。
【0013】
このように形成されたペン先本体4A、4Bを所定の間隔をあけて配置し、ペン先本体4A、4BのペンポイントPの近傍の領域がペン芯10よりも前方に突出した状態でペン芯10と重ね合わせる。このように重ね合わされたペン先4及びペン芯10の外面を覆うように、中空のペン先押さえ部材30を嵌合させることにより、互いに固定されたペン先4、ペン芯10及びペン先押さえ部材30の組立体が形成される。このとき、ペン先本体4A及び4Bの間にスリット6が形成される。
【0014】
スリット6は、ペンポイントPから所定の範囲において幅が狭まった前側領域6Aと、それより後ろ側に位置する幅が広くなった後側領域6Bとを有する。ペン先本体4A及び4Bを、前後方向で所定の間隔を隔てて配置、固定することにより、前後方向で略同一の幅の前側領域6Aを有するスリット6を形成できる。幅が狭まった前側領域6Aでは、毛細現象によりインキがペンポイントP側へ流動する。
本実施形態では、幅が狭まった前側領域6Aと、幅が広くなった後側領域6Bとを有するが、これに限られるものではない。例えば、幅が狭まった前側領域6Aが、ペン先4の前端から後端まで連続的に延びている場合もあり得る。
【0015】
本実施形態では、図2図3A図3Cに示すように、ペン芯10のペン先4と重ね合わされる領域に、互いに平行な2つの突起部10Aが前後に延びている。ペン先本体4A及び4Bは2つの突起部10Aの外側の側面と接するように配置されている。よって、2つの突起部10Aにガイドされることにより、確実にペン先本体4A及び4Bの間にスリット6を形成することができる。
【0016】
更に、図3Cの矢印Bに示すように、ペン先本体4A、4Bは、腹部側の端部が曲げられており、ペン芯10の対応する位置に段差部が形成されている。これにより、腹部側において、ペン先本体4A、4Bとペン芯10とが係合するようになっている。突起部10Aと接する背部側と、段差部と係合する腹部側とで、確実にペン先本体4A、4Bがペン芯10に固定される。これにより、確実に所定の幅のスリット6が形成した状態で、ペン先4とペン芯10とを固定することができる。
【0017】
<ペン芯>
ペン芯10は、上記のように、ペン先本体4A、4Bで構成されるペン先4で覆われる前端側の背部に2つの突起部10Aが形成されている。ペン芯10の背部の2つの突起部10Aの間に、前端部から後側領域にかけて前後に延びたインキ溝12が形成されている。毛細管現象により、インキがインキ溝12内を後側から前側へ流れる。これにより、軸筒20の首部22より後側に位置するインキ貯留領域内のインキを、ペン先4の前端の筆記領域まで流動させることができる。インキ溝12は、ペン先4に設けられた前後に延びるスリット6に対応した位置に形成されている。インキ溝12内を流れたインキは、スリット6の前側領域6Aまで達すると、毛細管現象でスリット6の前側領域6A内にも流れて、前端のペンポイントPから接触した紙面に流出する。
【0018】
本実施形態では、インキ溝12はペン芯10の背部を前後に延びているが、図5Aから図5Cに示すように、ペン芯10の後側領域において、背部側と腹部側との間を繋ぐように周方向に延びている(矢印C参照)。更に、インキ溝12は、周方向に延びた領域から、ペン芯10の腹部側を更に後ろ側に延びている(矢印D参照)。ペン芯10を軸筒20に取り付けたとき、ペン芯10の腹部側を更に後ろ側に延びたインキ溝12がインキ貯留領域と連通している。ただし、インキ溝12の延伸方向はこれに限られるものではなく、例えば、インキ溝12がペン芯10の背部側を前後に延びて、後端部でインキ貯留領域と連通している場合もあり得る。
【0019】
ペン芯10の腹部側には、複数の櫛部材16Aが間隔を開けて前後に並び、隣接する櫛部材16Aの間の空間にインキを一時的に保留できる櫛溝16が形成されている。本実施形態では、前後方向において、ペン先4の後端領域と重なる位置から、周方向に延びるインキ溝12が形成された領域の手前まで、櫛溝16が形成されている。また、周方向において、腹部側の約半周に、櫛溝16が形成されている。ただし、これに限られるものではなく、例えば、周方向において、背部に設けられたインキ溝12の近傍まで櫛溝16が形成されている場合もあり得る。
【0020】
また、周方向における背部の中央の領域に、前後に延びる空気溝14が形成されている。空気溝14は、インキ収容領域のインキがインキ溝12内を流れて、ペン先4のペンポイントPから外部に流出したとき、外部の空気を取り込んでインキ収容領域に供給することにより、内部が負圧になることを防ぐ機能を有する。ペン芯10は樹脂材料で形成することができる。これにより、突起部10A、インキ溝12、空気溝14、櫛溝16を有するペン芯10を一体成形することができる。
【0021】
<ペン先押さえ部材>
図4A、4Bに示すように、ペン先押さえ部材30は中空構造を有し、ペン先4のペンポイントPの近傍の領域がペン芯10よりも前方に突出した状態で重ね合わされたペン先4及びペン芯10と嵌合する。ペン先押さえ部材30は、弾性を有する樹脂材料で形成することができる。ペン先押さえ部材30は、ペン先4及びペン芯10と若干絞まり嵌めの状態で嵌合するように、内面の寸法を定めるのが好ましい。これにより、ペン先4、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が互いに強く固定された組立体を形成することができる。
【0022】
本実施形態では、ペン芯10がペン先押さえ部材30より後方に延びており、ペン芯10のペン先押さえ部材30より後方に延びた領域が、筒状の軸筒20の首部22と嵌合するようになっている。つまり、軸筒20の首部22は、ペン先押さえ部材30との嵌合領域より後方に位置するペン芯10と嵌合する。これにより、ペン先4、ペン芯10及びペン先押さえ部材30の組立体が、軸筒20の首部22に確実に取り付けられる。
【0023】
ペン先4の後端部は、軸筒20の首部22の前端部と接する位置、またはそれよりも少し前側の位置に配置されている。ただし、これに限られるものではなく、ペン先4もペン芯10と同様に、首部22と嵌合するように形成することもできる。ペン先押さえ部材30の後端部は、軸筒20の首部22の前端部と接する位置、またはそれよりも少し前側の位置に配置されている。
【0024】
このような構造により、ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置まで連続的に形成されたスリット6を実現できる。そして、ペン芯10の後部領域から前端まで延びたインキ溝12が、スリット6に対応する位置に配置されている。つまり、インキ溝12の上側は、ペン先4で覆われていない。
【0025】
図5Aから図5Cに示すように、ペン芯10よりも前方の領域を除く、首部22から前側に突出したペン先4の外面の略全領域が、ペン先押さえ部材30で覆われている。
また、図4Bに示すように(後述する図7図8にも示される)、ペン先押さえ部材30の内面には、周方向でペン芯10に設けられた空気溝14と対応する位置に位置決め突起36が設けられている。この位置決め突起36が空気溝14内に配置されることにより、ペン先押さえ部材30のペン芯10に対する周方向の位置決めを行うことができる。位置決め突起36が空気溝14内に配置されても、空気溝14内を空気が流動する空間が十分確保されている。
【0026】
<軸筒>
軸筒20は、前側に位置する首部22に加え、中央に位置する胴軸と、後側に位置する尾栓とで構成することができる。首部22及び胴軸は、螺合等により、着脱可能な状態で互いに取り付けられている。軸筒20の内部の主に胴軸の領域に、インキが収容されたインキ貯留領域が配置されている。インキ貯留領域として、インキカートリッジが用いられる場合もあり得るし、コンバータにより吸引されたボトルインキが収容される収容部が用いられる場合もあり得る。軸筒20は、例えば、樹脂材料で形成することができる。
【0027】
(インキの可視化)
本実施形態では、ペン先押さえ部材30の全体について、透光性を有するように形成されている。「透光性を有する」には、透明な場合もあり得るし、インキ等の色に合わせて、若干色が付いている場合もあり得る。ペン先押さえ部材30のうち、スリット6を覆う領域が透明であって、その他の領域に若干色が付いている場合もあり得る。ペン先押さえ部材30を形成する樹脂材料としては、ポリカーボネイトやアクリルを例示できる。ペン先押さえ部材30の透明度を上げる観点からは、アクリルを用いるのが好ましい。
【0028】
上記のように、スリット6が、ペンポイントPから少なくとも軸筒20の首部22に達する位置まで連続的に形成されているので、透光性を有するペン先押さえ部材30を介して、インキ溝12内を流れるインキを外部から視認することができる。これにより、使用者に視覚的な楽しみを与えることができる。
【0029】
ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置までスリット6が連続的に形成されているが、ペン先4及びペン芯10と嵌合したペン先押さえ部材30により、スリット6の両側のペン先4(4A、4B)が保持されるので、ペンポイントPで段差が生じるのを抑制し、一定の字幅で引っかかりのない筆記が可能となる。ペンポイントPで段差が生じるのを抑制する観点からは、ペン先押さえ部材30の剛性が高いことが好ましいが、滑らかな書き味を得る観点からは、ペン先押さえ部材30が多少の弾性を有するのが好ましい。よって、用途や使用者の好みに合わせて、ペン先押さえ部材30が最適な剛性、弾性を有するように形成するのが好ましい。
【0030】
本実施形態では、ペン先4が個別の2つの部材4A、4Bで構成され、2つの部材4A、4Bが所定の間隔で配置されてスリット6が形成されている。これにより、ペン先4(4A、4B)の前端から後端まで連続的に延びたスリット6が得られるとともに、ペン先押さえ部材30により、十分な強度で保持されているので、ペンポイントPで段差が生じるのを抑制できる。
【0031】
特に、ペン芯10よりも前方の領域を除く、首部22から前側に突出したペン先4の外面の全領域が、ペン先押さえ部材30で覆われているので、ペン先4(4A、4B)がペン先押さえ部材30で十分に支持され、ペンポイントPで段差が生じるのを効果的に抑制できる。
【0032】
ペン先押さえ部材30の全体が透光性するのに加えて、ペン芯10の全体が透光性を有するように形成することもできる。この場合には、ペン先押さえ部材30及びペン芯10の全体が透光性有するので、あらゆる方向から、インキ溝12内をはじめとするペン芯を流れるインキを視認できるので、視覚的な楽しみを効果的に与えることができる。
【0033】
上記では、ペン先押さえ部材30の全体が透光性を有しているが、これに限られるものではない。例えば、ペン先押さえ部材30のスリット6を覆う領域のみが透光性を有する場合もあり得る。この場合でも、インキ溝12内を流れるインキを外部から視認することができる。一部が透光性を有するペン先押さえ部材30は、例えば、透光性を有するペン先押さえ部材30にコーティングにより透光性を有さない領域を形成することもできるし、透光性を有する材料と透光性を有さない材料とで二色成形することもできる。
【0034】
(本発明の第2の実施形態に係る万年筆)
次に、図6を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る万年筆の説明を行う。図6は、本発明の第2の実施形態に係る万年筆の前側の領域を模式的に示す平面図である。上記の第1の実施形態では、ペン先4が、個別の部材であるペン先本体4A及びペン先本体4Bから構成されていたが、本実施形態では、ペン先4’が一体的に形成されている点で異なる。
【0035】
具体的には、ペン先4’が、互いに離間した第1の領域4a及び第2の領域4bと、後端側で第1の領域4a及び第2の領域bの間を繋ぐ繋ぎ領域4cとから構成されている。ペン先4’においても、スリット6は、ペンポイントPから所定の範囲において幅が狭まった前側領域6Aと、それより後ろ側に位置する幅が広くなった後側領域6Bとを有する。なお、幅が狭まった前側領域6Aが、ペン先4’の前端から繋ぎ領域4cに達する位置まで連続的に延びている場合もあり得る。
【0036】
上記の第1の実施形態では、ペン先押さえ部材30がペン先4’及びペン芯10と嵌合することにより、はじめてスリット6が画定するが、本実施形態では、ペン先4’単体でスリット6を画定することができる。
ペン先4’のペンポイントPの近傍の領域がペン芯10よりも前方に突出した状態で、ペン先4’及びペン芯10を重ね合わせ、重ね合わされたペン先4’及びペン芯10とペン先押さえ部材30とを嵌合させることにより、互いに固定されたペン先4’、ペン芯10及びペン先押さえ部材30の組立体を形成することができる。
【0037】
本実施形態では、ペン先4’(主に繋ぎ領域4c)及びペン芯10がペン先押さえ部材30より後方に延びており、ペン先4’及びペン芯10のペン先押さえ部材30より後方に延びた領域が、筒状の軸筒20の首部22と嵌合するようになっている。つまり、軸筒20の首部22は、ペン先押さえ部材30との嵌合領域より後方に位置するペン先4’及びペン芯10と嵌合する。これにより、ペン先4’、ペン芯10及びペン先押さえ部材30の組立体が、軸筒20の首部22に確実に取り付けられる。
【0038】
これにより、スリット6が少なくともペンポイントPから首部22に達する位置まで連続的に形成された万年筆2が得られる。本実施形態では、ペン先4’自体でスリット6を画定しているが、スリット6がペン先4’の前端から後部側にまで連続的に延びているので、ペン先4’とペン芯10を重ね合わせただけでは、ペンポイントPで段差が生じる虞がある。しかし、ペン先4’及びペン芯10と嵌合したペン先押さえ部材30により、スリット6の両側のペン先4’が保持されるので、ペンポイントPで段差が生じるのを確実に抑えることができる。
【0039】
上記の第1の実施形態及び第2の実施形態を考慮すると、軸筒20の首部22は、ペン先押さえ部材30との嵌合領域より後方に位置する少なくともペン芯10を含む部材と嵌合すると表現することができる。
【0040】
よって、上記の実施形態に係る万年筆2は、前端のペンポイントPから後方に延びたスリット6を有するペン先4(4’)と、スリット6に対応した位置に形成されたインキ溝12を有するペン芯10と、ペン先4のペンポイントPから所定の範囲がペン芯よりも前方に突出した状態で重ね合わされたペン先4(4’)及びペン芯10と嵌合する中空のペン先押さえ部材30と、ペン先押さえ部材30との嵌合領域より後方に位置する少なくともペン芯10を含む部材と嵌合する首部22を有する筒状の軸筒20と、を備え、スリット6が、ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置まで連続的に形成されており、ペン先押さえ部材30の少なくともスリット6を覆う領域が透光性を有する。
【0041】
首部22から前端部までの全領域にスリット6及びインキ溝12が連続的に延びており、ペン先押さえ部材30のスリット6を覆う領域が透光性を有するので、首部22から前端部までインキ溝12内を流れるインキを外部から視認することができる。このとき、ペン先4(4’)及びペン芯10と嵌合したペン先押さえ部材30により、スリット6の両側のペン先4(4’)が保持されるので、ペンポイントPで段差が生じるのを抑制し、一定の字幅で引っかかりのない筆記が可能となる。これにより、優れた筆記性能を有するとともに、視覚的な楽しみを与えることができる万年筆2を提供できる。
【0042】
上記では、スリット6が、ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置まで連続的に形成されていると記載したが、以下のように表すこともできる。首部22より前方のペン芯10がペン先4(4’)及びペン先押さえ部材30で覆われた領域において、インキ溝12の上側、つまりインキ溝12とペン先押さえ部材30との間にペン先4(4’)が存在しないように、ペン先4(4’)に隙間が設けられ、この隙間が首部22より前方のインキ溝12の全領域に対応した位置に連続的に設けられている。
【0043】
(本発明の第3の実施形態に係る万年筆)
次に、図7A及び図7Bを参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る万年筆の説明を行う。図7Aは、本発明の第3の実施形態に係る万年筆の一体的に構成されたペン先押さえ部材及び首部を示す斜視図である。図7Bは、本発明の第3の実施形態に係る万年筆の前側の領域を模式的に示す平面図である。上記の第1及び第2の実施形態では、ペン先押さえ部材30と首部22を有する軸筒20とが個別の部材であったが、本実施形態では、ペン先押さえ部材30及び軸筒20の首部22が一体的に構成されている点で異なる。
【0044】
図7Bに示すように、首部22と一体的に構成されたペン先押さえ部材30が、互いに重ね合わされたペン先4及びペン芯10と嵌合している。これにより、互いに固定されたペン先4、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が首部22に固定された状態となっている。ペン先押さえ部材30及び軸筒20の首部22が一体的に構成されていることは、ペン先押さえ部材30及び首部22を一体成形することで実現できるし、個々に製造したペン先押さえ部材30及び首部22を接着剤等で接合することでも実現できる。
【0045】
図7Bでは、図1に示す第1の実施形態に係るペン先4が用いられているが、図6に示す第2の実施形態に係るペン先4’が用いられる場合もあり得る。ペン先押さえ部材30が首部22と一体的に構成されている場合には、ペン先4及びペン芯10をペン先押さえ部材30より後方にまで伸ばす必要はない。一方、第2の実施形態に係るペン先4’の場合には、スリット6を首部22に達する位置まで連続的に形成するため、繋ぎ領域4cがペン先押さえ部材30より後方に配置される。
【0046】
上記の第1の実施形態及び第2の実施形態に加えて第3の実施形態を考慮すると、上記の実施形態に係る万年筆2は、下記のように表現できる。
万年筆2は、前端のペンポイントPから後方に延びたスリット6を有するペン先4(4’)と、スリット4(4’)に対応した位置に形成されたインキ溝12を有するペン芯10と、ペン先4(4’)のペンポイントPから所定の範囲がペン芯10よりも前方に突出した状態で重ね合わされたペン先4(4’)及びペン芯10と嵌合する中空のペン先押さえ部材30と、ペン先押さえ部材30の後方に位置する首部22を有する筒状の軸筒20と、を備え、互いに固定されたペン先4(4’)、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が首部22に固定されており、スリット6が、ペンポイントPから少なくとも首部22に達する位置まで連続的に形成されており、ペン先押さえ部材30の少なくともスリット6を覆う領域が透光性を有する。
【0047】
このとき、第1及び第2の実施形態であれば、ペン先押さえ部材30と首部22を有する軸筒20とが個別の部材であり、ペン先押さえ部材30との嵌合領域より後方に位置する少なくともペン芯10を含む部材と首部22とが嵌合することにより、互いに固定されたペン先4(4’)、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が首部22に固定された状態となる。
一方、第3の実施形態であれば、ペン先押さえ部材30と首部22とが一体的に構成されていることにより、互いに固定されたペン先4(4’)、ペン芯10及びペン先押さえ部材30が首部22に固定された状態となる。
【0048】
何れの場合であっても、優れた筆記性能を有するとともに、視覚的な楽しみを与えることができる万年筆2を提供できる。
【0049】
(インキの付着防止機構)
上記のように、透光性を有するペン先押さえ部材30を介して、インキ溝12内を流れるインキを鮮明に視認可能にするには、インキ溝12内を流れるインキがペン先押さえ部材30に付着するのを防ぐ必要がある。次に、図7及び図8を参照しながら、インキ溝12内を流れるインキがペン先押さえ部材30に付着するのを防ぐ機構について説明する。
【0050】
<ペン先押さえ部材の内面に形成された凸部>
はじめに、図8を参照しながら、ペン先押さえ部材の内面に形成された凸部を用いた機構の説明を行う。図8は、図5Bの断面E-Eを示し、内面に凸部が設けられたペン先押さえ部材がペン先及びペン芯と嵌合する状態を示す断面図である。
【0051】
本実施形態に係る機構では、ペン先押さえ部材30の内面に、スリット6の両端から所定の距離L1だけ離れて、スリット6に沿って前後に延びた凸部32が設けられている。そして、凸部32がペン先4の外面と接するようになっている。これにより、ペン先押さえ部材30の内面及びスリット6の両側のペン先4の外面が所定の距離L2だけ離間した状態で、ペン先押さえ部材30とペン先4及びペン芯10とが嵌合している。
【0052】
スリット6の両側に延びた凸部32により、ペン先押さえ部材30の内面及びスリット6の両側のペン先4の外面が所定の距離L2だけ離間しているので、インキ溝12内を流れるインキが、毛細管現象でペン先押さえ部材30の内面に流れるのを防ぐことができる。凸部32は、スリット6の両端から所定の距離L1だけ離れているので、インキ溝12内を流れるインキが、凸部32を伝ってペン先押さえ部材30の内面に流れるのを防ぐことができる。ここで、所定の距離L1及びL2としては、毛細管現象を防ぐ観点から、0.2mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。
【0053】
これにより、インキ溝12内を流れるインキがペン先押さえ部材30の内面に流れるのを防ぐことができるので、インキ溝12内を流れるインキを外部から鮮明に視認可能な美観に優れた万年筆2を提供できる。
【0054】
<ペン先押さえ部材の内面に形成されたシール用凸部>
上記の凸部32を用いる代わりに、シール用凸部を用いたシール機構を採用することもできる。次に、図9を参照しながら、ペン先押さえ部材の内面に形成されたシール用凸部を用いた機構の説明を行う。図9は、図5Bの断面E-Eを示し、内面にシール用凸部が設けられたペン先押さえ部材がペン先及びペン芯と嵌合する状態を示す断面図である。なお、図8及び図9ともに、ペン芯10の腹部側に設けられた空気溝14にペン先押さえ部材30の内面に設けられた位置決め突起36が配置されているところが示されている。
【0055】
本実施形態に係る機構では、ペン先押さえ部材30の内面に、スリット6を覆うように前後に延びたシール用凸部34が設けられている。そして、シール用凸部34が、スリット6を覆い、スリット6の両側のペン先4の外面と所定の面圧で接する状態で、ペン先押さえ部材30とペン先4及びペン芯10とが嵌合している。
【0056】
シール用凸部34がペン先4の外面と圧着して、スリット6をシールするので、インキ溝12内を流れるインキがペン先押さえ部材30の内面に流れるのを防ぐことができる。シール用凸部34の高さL3として、0.2mmから0.8mm程度を例示することができる。なお、シール用凸部34によるシール性をより高めるために、シール用凸部34の表面に弾性を有するシール層を設けることもできる。
【0057】
これにより、インキ溝12内を流れるインキを外部から鮮明に視認可能な美観に優れた万年筆2を提供できる。
なお、図8に示すペン先押さえ部材30の内面に設けられた凸部32も、図9に示すペン先押さえ部材30の内面に設けられたシール用凸部34も、第1の実施形態だけでなく、第2、第3の実施形態に係る万年筆2にも適用することもできる。
が設けられている。
【0058】
本発明に係る万年筆は、上記の実施形態に限定されるものでななく、中空の軸筒を有するものであれば、その他の任意の筆記体が含まれる。本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0059】
2 万年筆
4、4’ ペン先
4A ペン先本体
4B ペン先本体
4a 第1の領域
4b 第2の領域
4c 繋ぎ領域
6 スリット
6A 前側領域
6B 後側領域
10 ペン芯
10A 突起部
12 インキ溝
14 空気溝
16 櫛溝
16A 櫛部材
20 軸筒
22 首部
30 ペン先押さえ部材
32 凸部
34 シール用凸部
36 位置決め突起
P ペンポイント
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8
図9