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特開2022-171165分析プログラム、分析方法及び分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171165
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】分析プログラム、分析方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/18 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
G06F17/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077636
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 忠重
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 あきら
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇治
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 克己
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB64
(57)【要約】
【課題】分析対象に対する複数の因子の影響の大きさの評価の精度を向上させること。
【解決手段】複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする分析プログラム。
【請求項2】
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする請求項1記載の分析プログラム。
【請求項3】
前記差分が最大となる前記葉ノードを特定する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする請求項2記載の分析プログラム。
【請求項4】
前記葉ノードの確率変数は、価格又は前記価格の対象物の数量である、
ことを特徴とする請求項2又は3記載の分析プログラム。
【請求項5】
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、
処理をコンピュータが実行させることを特徴とする分析方法。
【請求項6】
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする請求項5記載の分析方法。
【請求項7】
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出する第1の算出部と、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出する第2の算出部と、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出する第3の算出部と、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出する第4の算出部と、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する第5の算出と、
を有することを特徴とする分析装置。
【請求項8】
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする請求項7記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析プログラム、分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
経済活動等に関する様々な事象についての予測データが集約され、そのデータをもとに当該活動の計画等が判断される状況を想定する。
【0003】
判断に際し、リスクの発生(計画が未達になること)の確率や、確率に大きく影響する因子を特定したいが、大量の予測データからそれらを判断することは困難である。
【0004】
従来、最終成果物(学習モデルの出力値)に最も影響を与える要素を、複数の要素から特定するために複数の要素のうちの1つについて値を変化させて評価する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-108404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の技術では、変化後の仮定の値の起こりやすさが考慮されていない。したがって、最終成果物(分析対象)に最も影響を与える因子が、実際に起こりえない値に基づいて特定される可能性がある。
【0007】
そこで、一側面では、本発明は、分析対象に対する複数の因子の影響の大きさの評価の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様では、複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
一側面として、分析対象に対する複数の因子の影響の大きさの評価の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における分析装置10のハードウェア構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における分析装置10の機能構成例を示す図である。
図3】分析装置10が実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図4】関係グラフの一例を示す図である。
図5】葉ノードのノード情報の第1の例を示す図である。
図6】葉ノードのノード情報の第2の例を示す図である。
図7】確率分布の合成方法の第1の例を説明するための図である。
図8】確率分布の合成方法の第2の例を説明するための図である。
図9】確率分布の合成方法の第3の例を説明するための図である。
図10】確率分布の合成方法の第4の例を説明するための図である。
図11】リスク確率の算出方法を説明するための図である。
図12】葉ノードの確率分布を変化させた場合のリスク確率の変化を説明するための図である。
図13】分析結果の出力形式の一例を示す図である。
図14】ノード装置20の機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態における分析装置10のハードウェア構成例を示す図である。図1の分析装置10は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置100、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU104、インタフェース装置105、表示装置106、及び入力装置107等を有する。
【0012】
分析装置10での処理を実現するプログラムは、記録媒体101によって提供される。プログラムを記録した記録媒体101がドライブ装置100にセットされると、プログラムが記録媒体101からドライブ装置100を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体101より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0013】
メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムを読み出して格納する。CPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムに従って分析装置10に係る機能を実現する。インタフェース装置105は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置106はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置107はキーボード及びマウス等であり、様々な操作指示を入力させるために用いられる。
【0014】
なお、記録媒体101の一例としては、CD-ROM、DVDディスク、又はUSBメモリ等の可搬型の記録媒体が挙げられる。また、補助記憶装置102の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等が挙げられる。記録媒体101及び補助記憶装置102のいずれについても、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に相当する。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態における分析装置10の機能構成例を示す図である。図2において、分析装置10は、確率分布合成部11、リスク確率算出部12、確率分布変更部13、重要ノード特定部14及び出力部15等を有する。これら各部は、分析装置10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU104に実行させる処理により実現される。分析装置10は、また、因子関係記憶部16及びノード情報記憶部17等を利用する。これら各記憶部は、例えば、補助記憶装置102、又は分析装置10にネットワークを介して接続可能な記憶装置等を用いて実現可能である。
【0016】
因子関係記憶部16には、分析対象に関する複数の因子(分析対象に関係する複数の要素)間の因果関係又は依存関係(以下、単に「関係」という。)を示す情報が予め記憶されている。本実施の形態において、当該情報は、因子がノードに対応し、因子間の関連(関係)がエッジに対応する木構造のグラフ(以下、「関係グラフ」という。)によって表現される。なお、因子とは、分析対象が収穫物の総売上予測値であるとすれば、例えば、各拠点における対象物(収穫物)の単価の予測値、収穫物の数量の(収量)の予測値、各拠点における売上の予測値等である。又は、分析対象が商品を販売する企業の総売上の予測値であるとすれば、例えば、各拠点における商品の販売単価の予測値、対象物(商品)の数量(販売個数)の予測値、各拠点における売上の予測値等である。
【0017】
ノード情報記憶部17には、関係グラフにおける各ノードに対する所与の情報(以下、「ノード情報」という。)が記憶されている。具体的には、各葉ノードについては、各葉ノードに対応する因子の値の確率分布を示す情報がノード情報として記憶されている。すなわち、本実施の形態において、各因子は、確率変数として扱われる。したがって、各因子の値は、確率分布として表現される。確率分布が離散型確率分布である因子については、確率変数(離散型確率変数)のとりうる値とその値の確率との対応関係を示す情報(対応情報)がノード情報の一例である。確率分布が連続型確率分布である因子については、確率密度関数がノード情報の一例である。葉ノード以外のノードについては、当該ノードの子ノードの確率分布を合成又は集約(以下、「合成」で統一する。)するための関数(以下、「合成関数」という。)が記憶されている。すなわち、葉ノード以外のノードの確率分布は、当該ノードの子ノードの確率分布を合成することで算出される。
【0018】
確率分布合成部11は、関係グラフの各葉ノードに対してノード情報記憶部17に記憶されている確率分布を葉ノードから根ノードに対して再帰的に合成することで、根ノードの確率分布を算出する。
【0019】
リスク確率算出部12は、根ノードの確率分布に基づいて、根ノードの確率変数が所定の範囲(本実施の形態では、予め設定された閾値未満)となる確率(以下、「リスク確率」という。)を算出する。
【0020】
確率分布変更部13は、各葉ノードの確率分布を順番に1つずつ変更する。なお、確率分布合成部11は、1つの葉ノードの確率分布が変更されるたびに、根ノードの確率分布を改めて算出する。また、リスク確率算出部12は、根ノードの確率分布が改めて算出されるたびに、リスク確率を算出する。したがって、1つの葉ノードの確率分布の変更ごとに、リスク確率が算出される。
【0021】
重要ノード特定部14は、葉ノードごとに、当該葉ノードの変更前の確率分布に基づくリスク確率と、変更後確率分布に基づくリスク確率との差分を算出し、差分が最大である葉ノードを特定する。
【0022】
出力部15は、重要ノード特定部14によって特定された葉ノードに関する情報等を出力する。
【0023】
以下、分析装置10が実行する処理手順について説明する。図3は、分析装置10が実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0024】
ステップS101において、確率分布合成部11は、因子関係記憶部16から関係グラフを取得する。
【0025】
図4は、関係グラフの一例を示す図である。図4の関係グラフにおいて、各葉ノード(ノードN1~N6)は、各拠点の収穫物の単価(の予測値)又は収穫物の収量(の予測値)に対応する。中間ノード(葉ノードの親ノード(ノードN7、N8、N9)は、各拠点の売上(の予測値)に対応する。根ノード(ノードN10)は、総売上(拠点ごとの売上の合計)に対応する。
【0026】
すなわち、図4の関係グラフは、各拠点の「収量」「単価」の予測値から、各拠点の「売上」の予測値が得られること、及び各拠点の「売上」の予測値から「総売上」の予測値が得られることを示す。
【0027】
続いて、確率分布合成部11は、関係グラフの各ノードのノード情報をノード情報記憶部17から取得する(S102)。具体的には、連続型確率分布を有する葉ノードについては、確率密度関数のパラメータが取得される。本実施の形態では、便宜上、連続型確率分布は正規分布であるとする。したがって、図5に示されるように、当該葉ノードについては、期待値μ及び分散σがノード情報として取得される。一方、離散型確率分布を有する葉ノードについては、図6の表に示されるように、確率変数Xの値とその値の確率P(X)との対応情報が取得される。図6における棒グラフは、当該対応情報に基づく確率分布を示す。なお、葉ノードの確率分布は、過去の実績や理論的な数式などから導出されればよい。
【0028】
また、葉ノード以外の各ノードについては、合成関数がノード情報として取得される。合成関数の詳細については後述される。なお、取得されたノード情報は、各ノードに設定される。
【0029】
続いて、確率分布合成部11は、各葉ノードに設定された確率分布に基づいて、根ノードの確率分布を算出する(S103)。具体的には、確率分布合成部11は、関係グラフに従って、葉ノードから根ノードへ確率分布の合成を再帰的に繰り返す(確率分布の合成を伝搬させる)ことで、根ノードの確率分布を算出する。この際、葉ノード以外の各ノードに設定された合成関数が用いられる。各ノードの合成関数は、当該ノードの確率変数の値が、当該ノードの子ノードの確率変数の値の積によって算出されるのか和によって算出されるのかと、子ノードの確率分布が連続型確率分布であるのか離散型確率分布であるのかとによって異なる。
【0030】
図7は、確率分布の合成方法の第1の例を説明するための図である。図7では、子ノードの確率変数の積によって値が求まる確率変数(売上)に対応するノードであって、各子ノードの確率分布が連続型確率分布であるノードにおける合成方法が示されている。すなわち、図7では、一方の子ノードが収量であり、他方の子ノードが単価であり、合成対象のノードが売上に対応する。当該売上は収量と単価との積によって求まる。
【0031】
図7において、収量のノードの確率分布は、期待値μ=10、分散σ =1である。単価のノードの確率分布は、期待値μ=100、分散σ =100である。この場合、売上のノードの確率分布の期待値μ及び分散σ は、
期待値μ=μ×μ=1000
分散σ =σ ×σ +μ ×σ +μ ×σ =10200
として合成される。すなわち、図7における売上のノードには、このような合成方法を示す合成関数がステップS102において設定される。
【0032】
図8は、確率分布の合成方法の第2の例を説明するための図である。図8では、子ノードの確率変数の和によって値が求まる確率変数(売上)に対応するノードであって、各子ノードの確率分布が連続型確率分布であるノードにおける合成方法が示されている。すなわち、図8では、一方の子ノードが売上であり、他方の子ノードが売上であり、合成対象のノードがこれらの売上の合計に対応する。
【0033】
図8において、一方の売上のノードの確率分布は、期待値μ=10、分散σ =1である。他方の売上のノードの確率分布は、期待値μ=100、分散σ =100である。この場合、売上の合計のノードの確率分布の期待値μ及び分散σ は、
期待値μ=μ+μ=110
分散σ =σ +σ =101
として合成される。すなわち、図8における売上のノードには、このような合成方法を示す合成関数がステップS102において設定される。
【0034】
図9は、確率分布の合成方法の第3の例を説明するための図である。図9では、子ノードの確率変数の積によって値が求まる確率変数(売上)に対応するノードであって、各子ノードの確率分布が離散型確率分布であるノードにおける合成方法が示されている。すなわち、図9では、一方の子ノードが収量(X)であり、他方の子ノードが単価(Y)であり、合成対象のノードが売上に対応する。当該売上は収量と単価との積によって求まる。
【0035】
図9の例では、収量(X)×単価(Y)の組み合わせとして、図示されている4通りの組み合わせが有る。したがって、これら4通りの組み合わせのそれぞれの収量(X)の確率と単価(Y)の確率との積によって、各組の確率が計算される。その結果、2つの離散型確率分布が合成される。
【0036】
図10は、確率分布の合成方法の第4の例を説明するための図である。図10では、子ノードの確率変数の和によって値が求まる確率変数(売上)に対応するノードであって、各子ノードの確率分布が離散型確率分布であるノードにおける合成方法が示されている。すなわち、図10では、一方の子ノードが売上であり、他方の子ノードが売上であり、合成対象のノードが売上に対応する。当該売上は売上と単価との和によって求まる。
【0037】
図10の例では、売上(X)+売上(Y)の組み合わせとして、図示されている4通りの組み合わせが有る。したがって、これら4通りの組み合わせのそれぞれの売上(X)の確率と売上(Y)との確率との積によって、各組の確率が計算される。その結果、2つの離散型確率分布が合成される。
【0038】
なお、一方の子ノードが連続型確率分布であり、他方の子ノードが離散型確率分布である場合には、連続型確率分布を離散型確率分布に変形し、上記したように離散型確率分布同士を合成すればよい。連続型確率分布を離散型確率分布に変形する際における確率変数の値の間隔(粒度)は、適宜決定されればよい。
【0039】
また、上記では、説明の便宜上、2つの確率分布の合成方法について示したが、3つ以上の確率分布の合成についても、公知技術を用いて行うことができる。
【0040】
ステップS103では、上記のような合成が葉ノードから根ノードに対して順番に実行されることで、根ノードの確率分布が算出される。図4の例によれば、ノードN1の確率分布とノードN2の確率分布とが合成されてノードN7の確率分布が算出される。ノードN3の確率分布とノードN4の確率分布とが合成されてノードN8の確率分布が算出される。ノードN5の確率分布とノードN6の確率分布とが合成されてノードN9の確率分布が算出される。ノードN7、N8及びN9のそれぞれの確率分布が合成されてノードN10の確率分布が算出される。
【0041】
続いて、リスク確率算出部12は、ステップS103において算出された根ノードの確率分布に基づいて、根ノードに対応する確率変数(本実施の形態では総売上)が閾値α未満になる確率(すなわち、リスク確率)を算出する(S104)。ここで、閾値αは、例えば、総売上の計画値又は目標値であり、例えば、管理者等によって予め設定される。したがって、総売上が閾値α未満になる確率は、計画値又は目標値を達成できない確率となる。なお、ステップS104において算出されるリスク確率を「リスク確率Pr」という。
【0042】
図11は、リスク確率の算出方法を説明するための図である。図11では、根ノードの確率分布が連続型確率分布である例が示されている。この場合、リスク確率算出部12は、当該確率分布(確率密度関数)において閾値α未満の面積を算出することで、リスク確率を算出することができる。
【0043】
なお、根ノードの確率分布が離散型確率分布である場合、リスク確率算出部12は、根ノードの確率変数について閾値α未満の確率の総和を算出することで、リスク確率を算出することができる。
【0044】
続いて、分析装置10は、関係グラフの葉ノードごとに、ステップS105~S109を含むループ処理L1を実行する。ループ処理L1において処理対象とされている葉ノードを、以下「対象葉ノード」という。
【0045】
ステップS105において、確率分布変更部13は、対象葉ノードの確率分布を当該確率分布の標準偏差分だけ変化させる(ずらす)。具体的には、確率分布変更部13は、対象葉ノードの期待値から対象葉ノードの標準偏差を差し引いた値を、対象葉ノードの新たな(変化後の)期待値とする。例えば、対象葉ノードの確率分布について、期待値がμであり分散がσである場合、変化後の期待値μ'は、以下のように算出される。
μ'=μ-σ
一定値ではなく、標準偏差分だけずらすことで、対象葉ノードの確率分布に応じた分だけ(対象葉ノードに対応する値の変化幅に応じた分だけ)当該確率分布をずらすことができる。
【0046】
続いて、確率分布合成部11は、対象葉ノードの確率分布のみがずらされた状態の関係グラフについて、ステップS103と同様の処理を実行して、根ノードについて新たな確率分布を算出する(S106)。
【0047】
続いて、リスク確率算出部12は、ステップS105において算出された根ノードの確率分布(すなわち、ステップS103において算出された確率分布とは異なる確率分布)に基づいて、根ノードに対応する確率変数(本実施の形態では総売上)が閾値α未満になる確率(すなわち、リスク確率)を算出する(S107)。ステップS107において算出されるリスク確率を「リスク確率Pr'」という。
【0048】
続いて、重要ノード特定部14は、リスク確率Prとリスク確率Pr'との差分(例えば、|Pr'-Pr|)を算出し、当該差分を対象葉ノードに関連付ける(S108)。すなわち、ステップS108では、図12に示されるように、対象葉ノードの確率分布を変化させた場合のリスク確率の変化量が算出される。
【0049】
続いて、確率分布変更部13は、対象葉ノードの確率分布をステップS105の変更前の状態に戻す(S109)。すなわち、毎回のループにおいて、確率分布が変更されるのは、1つの葉ノードである。
【0050】
ループ処理L1が、全ての葉ノードについて実行されると、各葉ノードには、それぞれの確率分布をずらしたことによる差分が関連付けられた状態となる。
【0051】
続いて、重要ノード特定部14は、当該差分が最大の葉ノード(以下、「重要ノード」という。)を特定する(S110)。
【0052】
続いて、出力部15は、ステップS110において特定された重要ノード又は重要ノードから根ノードへ至る経路(以下、「重要パス」という。)を示す情報を、リスク確率に最も影響のある確率変数(因子)又は経路を示す情報として出力する(S111)。例えば、出力部15は、図13に示されるような形式で、斯かる情報を出力してもよい。
【0053】
図13は、分析結果の出力形式の一例を示す図である。図13では、根ノードを中心とした同心円によって関係グラフが表現され、重要ノード及び重要パスが強調表示される例が示されている。なお、図中において、強調表示は太線によって表現されている。
【0054】
なお、図13には、ノード3_1が3つ含まれている。これは、親レベル(ノード2_n)にある異なるノードが、子レベル(ノード3_n)にある同一のノードを子として持つ場合があるからである。図13は、例えば、拠点Aと拠点Bでは同種の作物Cを栽培しており、その単価が同一である場合において、
ノード3_1:作物Cの単価
ノード3_2:拠点Aでの作物Cの収量
ノード2_2:拠点Aの売上高
ノード3_5:拠点Bでの作物Cの収量
ノード2_8:拠点Bの売上高
であるようなケースに相当する。閉路のあるグラフになるので、いわゆる「木」構造ではないが、そのようなグラフを見やすく可視化するするために、木構造で可視化が行われる例である。
【0055】
なお、出力部15は、ノード数が多い場合、一部のノードを非表示にしてもよい。また、出力部15は、いずれかのノードがクリックされると、そのノードを中心に移動させ、その周辺のノードが非表示にされていた場合には展開されるようにしてもよい。
【0056】
また、上記では、根ノードの確率について閾値α未満の確率の変化に基づいて、重要ノードが特定される例を示したが、閾値α以上の確率の変化に基づいて重要ノードが特定されてもよい。すなわち、閾値α以上が「所定の範囲」の一例であってもよい。
【0057】
上述したように、本実施の形態によれば、分析対象とその各因子との関係がグラフ構造によって表現され、各因子には、特定の値ではなく、例えば、過去の実績や理論的な数式などから導出される確率分布が設定される。斯かる確率分布に基づいて、分析対象(根ノード)の確率分布が算出され、当該確率分布に基づいて、リスク確率が算出される。更に、葉ノードの確率分布を一つずつずらした場合のリスク確率の差分が算出される。したがって、分析対象に対する複数の因子の影響の評価の精度を向上させることができる。
【0058】
また、当該差分が最大となる葉ノードが、分析対象に対する影響が最大である(すなわち、最大のリスク要因である)因子として特定される。したがって、各因子の値について起こりやすさを考慮してリスク要因を特定することができる。
【0059】
なお、本実施の形態は、分析対象が総売上であり、最下位の因子が単価及び収量である場合以外のケースに対しても適用可能である。
【0060】
ところで、上記では、1つの分析装置10によって、図3の全ての処理手順が実行される例を示したが、例えば、関係グラフのノードごとに、コンピュータが分散配置されてもよい。この場合、ノードとして機能する各コンピュータ(以下、「ノード装置20」という。)は、図14に示されるような機能構成を有してもよい。
【0061】
図14は、ノード装置20の機能構成例を示す図である。図14中、図2と同一又は対応する部分には同一符号を付している。
【0062】
図14において、ノード装置20は、受信部21、計算部22及び送信部23等を有する。これら各部は、ノード装置20にインストールされた1以上のプログラムが、ノード装置20のCPUに実行させる処理により実現される。ノード装置20は、また、因子関係記憶部16及びノード情報記憶部17等を利用する。これら各記憶部は、例えば、ノード装置20の補助記憶装置、又はノード装置20にネットワークを介して接続可能な記憶装置等を用いて実現可能である。
【0063】
受信部21は、ノード装置20に係るノード(以下、「対象ノード」という。)の全ての子ノードの確率分布を受信する。但し、葉ノードの受信部21は、根ノードからの、確率分布の変更要求を受信する。
【0064】
計算部22は、各子ノードから受信された確率分布を、ノード情報記憶部17に記憶されている合成関数に基づいて合成して、対象ノードの確率分布を計算する。但し、葉ノードの計算部22は、例えば、ノード情報記憶部17に記憶されている当該葉ノードの確率変数の過去の実績値等に基づいて、確率分布を計算してもよい。
【0065】
送信部23は、計算部22によって計算された確率分布を対象ノードの親ノードに係るノード装置20へ送信する。対象ノードの親ノードは、因子関係記憶部16を参照して特定可能である。但し、根ノードの送信部23は、例えば、ユーザによる入力等に応じて、各葉ノードの各ノード装置20に対して、確率分布の変更要求を送信する。
【0066】
なお、計算部22は、いずれかの子ノードからの確率分布が受信部21によって受信されるたびに、対象ノードの確率分布を計算してもよい。送信部23は、計算部22によって確率分布が計算されるたびに当該確率分布を親ノードに送信してもよい。そうすることで、いずれかの子ノードの確率分布が変化した場合に、当該変化をリアルタイムで根ノードに伝達することができる。
【0067】
なお、本実施の形態において、確率分布合成部11は、第1の算出部及び第3の算出部の一例である。リスク確率算出部12は、第2の算出部及び第4の算出部の一例である。重要ノード特定部14は、第5の算出部及び特定部の一例である。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。葉ノードの確率分布の変更前の根ノードの確率分布は、第1の確率分布の一例である。葉ノードの確率分布の変更後の根ノードの確率分布は、第2の確率分布の一例である。リスク確率Prは、第1の確率の一例である。リスク確率Pr'は、第2の確率の一例である。
【0069】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする分析プログラム。
(付記2)
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする付記1記載の分析プログラム。
(付記3)
前記差分が最大となる前記葉ノードを特定する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする付記2記載の分析プログラム。
(付記4)
前記葉ノードの確率変数は、価格又は前記価格の対象物の数量である、
ことを特徴とする付記2又は3記載の分析プログラム。
(付記5)
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出し、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出し、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出し、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する、
処理をコンピュータが実行させることを特徴とする分析方法。
(付記6)
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする付記5記載の分析方法。
(付記7)
前記差分が最大となる前記葉ノードを特定する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする付記6記載の分析方法。
(付記8)
前記葉ノードの確率変数は、価格又は前記価格の対象物の数量である、
ことを特徴とする付記6又は7記載の分析方法。
(付記9)
複数の確率変数の関係を示すグラフのうち、第1要素に対応する各確率変数の値の確率分布に基づき、前記グラフの第2要素に対応する確率変数の値の第1の確率分布を算出する第1の算出部と、
前記第1の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が所定の範囲となる第1の確率を算出する第2の算出部と、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に対応する確率変数の期待値を当該確率変数の標準偏差だけ変化させた場合の前記第2要素に対応する確率変数の値の第2の確率分布を算出する第3の算出部と、
前記第1要素ごとに、当該第1要素に係る前記第2の確率分布に基づいて、前記第2要素に対応する確率変数の値が前記所定の範囲となる第2の確率を算出する第4の算出部と、
前記第1要素ごとに、前記第1の確率と前記第2の確率との差分を算出する第5の算出と、
を有することを特徴とする分析装置。
(付記10)
前記複数の確率変数の関係を示すグラフは木構造であり、前記第1要素は葉ノードであり、前記第2要素は根ノードであることを特徴とする付記9記載の分析装置。
(付記11)
前記差分が最大となる前記葉ノードを特定する特定部、
を有することを特徴とする付記10記載の分析装置。
(付記12)
前記葉ノードの確率変数は、単価又は前記単価の対象物の数量である、
ことを特徴とする付記10又11記載の分析装置。
【符号の説明】
【0070】
10 分析装置
11 確率分布合成部
12 リスク確率算出部
13 確率分布変更部
14 重要ノード特定部
15 出力部
16 因子関係記憶部
17 ノード情報記憶部
20 ノード装置
21 受信部
22 計算部
23 送信部
100 ドライブ装置
101 記録媒体
102 補助記憶装置
103 メモリ装置
104 CPU
105 インタフェース装置
106 表示装置
107 入力装置
B バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14