(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171184
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 73/16 20060101AFI20221104BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20221104BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221104BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B29C73/16
B29D30/06
B60C1/00 Z
C09K3/10 A
C09K3/10 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077672
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】齋木 丈章
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【テーマコード(参考)】
3D131
4F213
4F215
4H017
【Fターム(参考)】
3D131AA60
3D131LA13
4F213AH20
4F213AR06
4F213AR12
4F213AR15
4F213WA95
4F213WM05
4F213WM15
4F213WM35
4F215AH20
4F215VA01
4F215VC03
4F215VP41
4H017AC19
4H017AD02
(57)【要約】
【課題】汎用ゴムを用いた場合であっても良好なシール性を確保することを可能にしたシーラント層を備えた空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】
ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材を塗布装置20によって紐状に吐出してトレッド部1の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布することで空気入りタイヤTのトレッド部1の内表面にシーラント層10を形成するにあたって、塗布装置20として少なくとも加硫前のシーラント材10′を圧送するポンプ24、加熱ホース23、および吐出ノズル25を備えるものを使用し、この塗布装置20を通過させることで加硫前のシーラント材10′を剪断力をかけながら加硫し、加硫された状態のシーラント材を吐出ノズル25から紐状に吐出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材を塗布装置によって紐状に吐出してトレッド部の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布することで前記トレッド部の内表面にシーラント層を形成する空気入りタイヤの製造方法であって、前記塗布装置は少なくとも加硫前の前記シーラント材を圧送するポンプ、加熱ホース、および吐出ノズルを備え、加硫前の前記シーラント材は、前記塗布装置を通過することで剪断力を受けながら加硫され、加硫された状態で前記吐出ノズルから紐状に吐出されることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ポンプがギヤポンプであり、該ギヤポンプを通過することで前記シーラント材が剪断力を受けることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記吐出ノズルの吐出口の直径が5mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記吐出ノズルから吐出された前記シーラント材の複素粘度が、前記塗布装置を通過せずにプレス加硫することで製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の90%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ゴム成分が天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つを50質量%以上含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ製造方法。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部の軟化剤を配合することを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記塗布装置に供される前の未加硫の前記シーラント材を調製するにあたって、未加硫の前記シーラント材の構成成分のうちの少なくとも前記ゴム成分を120℃以上の温度条件で混練して前記ゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程を行うことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなシーラント層は、例えば、略紐状の未加硫のシーラント材を連続的に螺旋状にタイヤの内周面に塗布した後、このシーラント材を加熱して架橋させることで形成される(例えば、特許文献2を参照)。このような空気入りタイヤ(所謂、セルフシールタイヤ)では、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤに用いられるシーラント材は、上述のように貫通孔内に流入するために低粘度であることが求められる。また、シーラント材は、タイヤ内面に貼付されるため、且つ、貫通孔を効果的に塞ぐために、粘着性を有することも求められる。そのため、シーラント材は、例えばブチルゴムを主成分とシーラント材組成物で構成される(例えば、特許文献3を参照)。しかしながら、ブチルゴムは他の汎用ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムなど)と比較すると高価であるため、これら汎用ゴムを用いてシーラント材を構成することも検討されている。
【0004】
前述の汎用ゴムを用いる場合、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保するには、シーラント材組成物に多量の軟化剤(例えばオイル)を配合する必要があり、生産性が悪化する(例えば、軟化剤を投入する工程に要する時間が大幅に延長する)ことが懸念される。そのため、汎用ゴムを用いたシーラント材において、軟化剤の量を抑制しながら、シーラント材として十分な程度まで粘度を低減して、貫通孔を塞ぐ性能(シール性)を良好に確保するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006‐152110号公報
【特許文献2】特開2016‐078817号公報
【特許文献3】特開2019‐163399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、汎用ゴムを用いた場合であっても良好なシール性を確保することを可能にしたシーラント層を備えた空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤの製造方法は、ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材を塗布装置によって紐状に吐出してトレッド部の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布することで前記トレッド部の内表面にシーラント層を形成する空気入りタイヤの製造方法であって、前記塗布装置は少なくとも加硫前の前記シーラント材を圧送するポンプ、加熱ホース、および吐出ノズルを備え、加硫前の前記シーラント材は、前記塗布装置を通過することで剪断力を受けながら加硫され、加硫された状態で前記吐出ノズルから紐状に吐出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発明者は、軟化剤(例えばオイル)の量を増加させる以外の方法でタイヤ用シーラント材の粘度を低減するための製造方法について鋭意研究した結果、シーラント材をタイヤ内表面に塗布するにあたって、上述のポンプ、加熱ホース、および吐出ノズルを備えた塗布装置を用いることで、加硫前のシーラント材は塗布装置を通過する際に剪断力を受けながら加硫され、それによりシーラント材中のゴム分子が切断されるので、軟化剤の量を増加させることなくシーラント材の粘度を低減できることを知見した。また、このようにゴム分子を切断した場合に得られたタイヤ用シーラント材は、軟化剤の量を増加させた場合よりも、良好なシール性を発揮する(特に、低温環境下でのシール性が良化する)ことを知見した。本発明は、この知見に基づいて、上述の塗布装置を用いて剪断力をかけながらシーラント材を加硫し、加硫された状態のシーラント材を吐出ノズルから紐状に吐出してトレッド部の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布しているので、シーラント材の粘度を効果的に低減することができる。その結果、本発明の製造方法で製造された空気入りタイヤでは、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0009】
本発明の製造方法においては、ポンプがギヤポンプであり、該ギヤポンプを通過することでシーラント材が剪断力を受ける仕様にすることもできる。また、吐出ノズルの吐出口の直径が5mm以下である仕様にすることもできる。これにより、塗布装置を通過するシーラント材に効果的に剪断力をかけることができ、シーラント材の粘度を低減するには有利になる。
【0010】
本発明の製造方法においては、吐出ノズルから吐出されたシーラント材の複素粘度が、塗布装置を通過せずにプレス加硫することで製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の90%以下であることが好ましい。これにより、シーラント材の粘度を効果的に低減することができ、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0011】
本発明の製造方法においては、ゴム成分が天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つを50質量%以上含有することが好ましい。また、ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部の軟化剤を配合することが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法においては、塗布装置に供される前の加硫前のシーラント材を調製するにあたって、未加硫のシーラント材の構成成分のうちの少なくともゴム成分を120℃以上の温度条件で混練してゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程を行うことが好ましい。このような切断工程を経ることで、シーラント材の粘度の更なる低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の塗布装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば
図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0016】
図1の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、少なくとも1層のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層7aを必ず含み、任意で図示の例のように、内側ベルト層7aの外周側に隣接して配置された外側ベルト層7bを設けることができる。各ベルト層7(内側ベルト層7a、外側ベルト層7b)は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0018】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0019】
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。特に、走行時に釘等の異物が刺さる可能性がある領域、即ち、トレッド部1の接地領域に対応するタイヤ内面にシーラント層10は設けられる。特に、最小ベルト層7aの幅よりも広い範囲にシーラント層10を設けるとよい。本発明のシーラント材組成物は、このシーラント層10に用いられる。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成する粘着性のタイヤ用シーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
【0020】
シーラント層10は、例えば2.0mm~5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが2.0mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、ここで言う「シーラント層10の厚さ」とは平均厚さである。
【0021】
本発明は、上述のセルフシールタイプの空気入りタイヤの製造方法(特に、シーラント層10をタイヤ内面に塗布する方法)に関するものであるので、空気入りタイヤの基本構造や、タイヤに塗布された後のシーラント層10の構造は上述の例に限定されない。
【0022】
本発明の製造方法において、シーラント層10は、ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材を、後述の塗布装置20(以下、本発明の塗布装置20という)によって、紐状に吐出してトレッド部1の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布することで形成される。尚、以降の説明において、「加硫前のシーラント材」とは、未加硫状態のシーラント材だけでなく、目標加硫量に達する前の半加硫状態のシーラント材も含むものである。
【0023】
本発明では、シーラント材に含まれるゴム成分はジエン系ゴムを主成分とする。本発明で使用可能なジエン系ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴムを例示することができる。これらの中でも、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。特に、ゴム成分中に、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つを50質量%以上含有することが好ましい。本発明では、タイヤ用シーラント材を構成するゴム成分として一般的なブチルゴムを用いることもできるが、低コスト化の観点からは、ブチルゴムを除いた上述のジエン系ゴム(汎用ゴム)を用いることが好ましい。これらゴムのなかでも、特に、天然ゴム、イソプレンゴムを好適に用いることができる。逆に、スチレンブタジエンゴムやブタジエンゴムは後述の分子切断がしにくい傾向があるので、天然ゴムまたはイソプレンゴムと併用することが好ましい。勿論、スチレンブタジエンゴムやブタジエンゴムを単独で使用することもできる。
【0024】
上述の汎用ゴムを用いる場合、従来の製造方法では、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保するには、シーラント材組成物に多量の軟化剤(例えばオイル)を配合する必要があったが、後述の本発明の製造方法を採用することで、軟化剤の量を低減することができる。具体的には、本発明のシーラント材組成物では、軟化剤(オイル)は、ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部、好ましくは60質量部~100質量部が配合される。後述の本発明の製造方法を採用すれば、軟化剤の配合量が前述の範囲であっても、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保することができる。
【0025】
本発明の塗布装置20は、
図2に示すように、プラテン21(加熱盤)を任意で備えることができる。プラテン21は、収容容器C(例えば、ドラム缶など)に収容された加硫前のシーラント材10′に上部から押し当てられて、加硫前のシーラント材10′を加熱し、後述の加熱ホース23を流動できるように溶融するものである。加硫前のシーラント材10′が加熱せずに後述の加熱ホース23を流動できる粘度を有していれば、必ずしもプラテン21を設ける必要はない。
【0026】
本発明の塗布装置は、
図2に示すように、吸い上げポンプ22(例えばピストンポンプ)を任意で備えることができる。吸い上げポンプ22は、加硫前のシーラント材10′を収容容器Cから吸い上げるためのものである。図示の例では、プラテン21の中央に設けた吸い上げ用の穴を通じて加硫前のシーラント材10′を収容容器Cから吸い上げている。後述のシーラント材を圧送するポンプ24のみで、加硫前のシーラント材10′を吸い上げることができれば、吸い上げポンプ22を別途設ける必要はない。
【0027】
本発明の塗布装置は、
図2に示すように、加熱ホース23を必ず含む。加熱ホース23は、収容容器Cから吸い上げられた加硫前のシーラント材10′を後述の吐出ノズル25まで輸送するための流路であり、且つ、輸送されるシーラント材を加熱して後述の吐出ノズル25に到達するまでに、シーラント材を加硫させるものである。
【0028】
本発明の塗布装置は、
図2に示すように、シーラント材を圧送するポンプ24(例えば、ギヤポンプ)を必ず含む。図示の例では、シーラント材を圧送するポンプ24は、前述の加熱ホース23の途中に設けられている。このポンプ24は、シーラント材を圧送するものであるが、それに加えて、ポンプ24を通過するシーラント材に剪断力をかけるものである。シーラント材に剪断力をかける観点から、シーラント材を圧送するポンプ24としては、ギヤポンプを好適に用いることができる。即ち、ギヤポンプを構成する歯車にシーラント材が噛み込まれることで、効率的に剪断力を負荷することができる。
【0029】
本発明の塗布装置は、
図2に示すように、吐出ノズル25を必ず含む。吐出ノズル25は、加熱ホース23の終端に設けられて、加熱ホース23およびポンプ24を通過して剪断力を受けながら加硫されたシーラント材を紐状に吐出すものである。タイヤTを回転させながら、吐出ノズル25をタイヤの幅方向および/または径方向に移動させつつ、シーラント材を吐出ノズル25から連続的に吐出して、順次タイヤの内周面にシーラント材を塗布することで、紐状に吐出されたシーラント材はタイヤTのトレッド部の内表面に螺旋状に塗布される。尚、吐出ノズル25の吐出口の直径は特に限定されないが、好ましくは5mm以下に設定するとよい。このように吐出口の直径を十分に小さくすることで、塗布装置(吐出ノズル25)を通過する際にもシーラント材に効果的に剪断力をかけることが可能になる。
【0030】
このような塗布装置を用いて、塗布装置を通過する際にシーラント材に剪断力かけながら加硫を行うことで、シーラント材中のゴム分子が切断されるので、軟化剤の量を増加させることなくシーラント材の粘度を低減することができる。また、このようにゴム分子を切断した場合に得られたシーラント材は、軟化剤の量を増加させて低粘度化を図った場合よりも、良好なシール性を発揮する(特に、低温環境下でのシール性が良化する)ことができる。そのため、本発明の製造方法で製造された空気入りタイヤでは、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0031】
本発明の製造方法によって製造されたシーラント材(即ち、吐出ノズルから吐出されたシーラント材)の複素粘度は、塗布装置を通過せずにプレス加硫することで製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の90%以下、より好ましくは40%~70%であるとよい。これにより、シーラント材を十分に低粘度化することができる。尚、本発明において「複素粘度」とは、動的粘弾性測定装置を用いて、25mmφパラレルプレート、試料厚さ1.5mm、周波数1Hz、歪0.1%、30℃の温度条件で、測定した値である。
【0032】
本発明の塗布装置に供される前の加硫前のシーラント材は、一般的な方法によって調製することもできるが、好ましくは、後述の切断工程を行って調製することが好ましい。
【0033】
シーラント材は、一般的に、各種材料を混練機(ニーダー)に順次投入・混練した後、所定の温度で加硫を行って調製される。これに対して、本発明の加硫は上述の塗布装置によって行われるので、本発明の塗布装置に供される前の加硫前のシーラント材とは、各種材料を混練機(ニーダー)に順次投入・混練した後の状態を指す。尚、各種材料とは、混練機に投入される段階別に、ゴム成分、粉系配合剤(カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸など)、軟化剤(オイル、DOP(ジオクチルフタレートなどの可塑剤)、液状ゴム、液状ポリマー、熱可塑性樹脂など)、加硫系配合剤(硫黄、加硫促進剤、加硫助剤など)に大別され、これら材料は、通常、ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤、加硫系配合剤の順に混練機に投入される。このとき、軟化剤は、全量を一度に投入されず、少量ずつ分割して投入される。
【0034】
前述の切断工程とは、加硫前のシーラント材の構成成分のうちの少なくともゴム成分を120℃以上の温度条件で混練する工程である。言い換えると、シーラント材を製造する際には、上述のように、各種材料が順次投入されるので、少なくともゴム成分が混練機に投入された状態で、120℃以上の温度条件で混練機に投入された成分を混練する。この切断工程では、120℃以上の温度条件で、加硫前のシーラント材の構成成分のうちの少なくともゴム成分が混練されることで、ゴム成分中のゴム分子が切断されるので、シーラント材の粘度を低減することができる。このような切断工程を導入することで、軟化剤の量を増加させることなく、ゴム分子の切断によって、タイヤ用シーラント材の低粘度化を達成するには有利になる。
【0035】
切断工程を行う場合、各種材料(ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤)のすべてを投入する前、つまり、加硫前のシーラント材の構成成分の一部のみが投入された状態で、切断工程を行うとよい。この場合、切断工程で混練される加硫前のシーラント材の構成成分の一部に占めるゴム成分の割合を50質量%以上、好ましくは50質量%~90質量%にするとよい。言い換えると、切断工程において混練される加硫前のシーラント材の構成成分の一部において、ゴム成分以外に投入されている材料がゴム成分と同量以下であることが好ましい。この状態で切断工程を行うことで、ゴム成分中のゴム分子を確実に切断することができ、シーラント材の粘度を低減するには有利になる。前述のように、ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤、加硫系配合剤の順に材料が混練機に投入されることや、軟化剤の量がゴム成分と同程度であることを踏まえると、切断工程は、ゴム成分および粉系配合剤が投入された段階で行うことが好ましい。
【0036】
切断工程においては、温度条件、混練時間、混練機の回転数や剪断力の調整によって、ゴム成分中のゴム分子の切断の度合(即ち、製造されるタイヤ用シーラント材の粘度)を調整することができる。例えば、温度条件を130℃~180℃、混練時間を20分~120分、混練機の回転数を20rpm~80rpmに設定することが好ましい。
【0037】
本発明の塗布装置は、基本的に、上述の加硫前のシーラント材を塗布することを意図したものであるが、加硫済みのシーラント材を溶融したうえで本発明の塗布装置を通過させて、シーラント材を塗布することも可能である。その場合も、シーラント材中のゴム分子の切断が期待できるので、シーラント材の更なる低粘度化が見込める。
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0039】
表1に記載の組成からなるシーラント材組成物を調製し、各シーラント材組成物からなるシーラント層をトレッド部の内表面に備えた
図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)を製作した。具体的には、0.6Lのニーダー(東洋精機社製)に、表1に記載される材料を、ゴム成分(天然ゴム)、粉系配合剤(カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸)、軟化剤(オイル)、加硫系配合剤(硫黄、加硫促進剤)の順に投入・混練することにより各シーラント材組成物を調整した。
【0040】
その後、比較例1については、シーラント材組成物を厚さ3mmのシート状にプレス加硫(加硫温度:180℃、加硫時間:10分)し、加硫済みのシート状のシーラント材をトレッド部の内表面に貼り付けることでシーラント層を形成した。実施例1~5については、ギヤポンプ、加熱ホース、および吐出ノズルを備えた
図2の塗布装置を用いて、各シーラント材組成物からなるシーラント材を紐状に吐出してトレッド部の内表面に連続的かつ螺旋状に塗布することでシーラント層を形成した。その際、塗布装置の温度、通過時間、吐出ノズルのノズル直径を表1に示すように変化させた。尚、実施例1~5のいずれにおいても、ノズル径、ノズルとタイヤ内面の距離、塗布速度を調整することで、塗布後のシーラント材の厚さは3mmで共通とした。
【0041】
尚、実施例4については、各種材料を混練する際に、表1に記載される条件(混練温度、混練時間、混練機の回転数)で切断工程を行った。この切断工程は、上述の材料のうち天然ゴム、カーボン、亜鉛華、およびステアリン酸を投入した段階で行った。
【0042】
表1には、各シーラント材の複素粘度を併せて記載した。複素粘度は、動的粘弾性測定装置を用いて、25mmφパラレルプレート、試料厚さ1.5mm、周波数1Hz、歪0.1%、30℃の温度条件で測定した。
【0043】
各シーラント材組成物からなるシーラント層を備えたタイヤ(試験タイヤ)について、下記の試験方法により、室温におけるシール性(表中の「シール性(20℃)」)と、低温環境下におけるシール性(表中の「シール性(-15℃)」)を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0044】
シール性(20℃)
各試験タイヤをリムサイズ20×8.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、室温環境下で、初期空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で2時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0045】
シール性(-15℃)
各試験タイヤを温度-15℃の条件で24時間冷却した後、リムサイズ20×8.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kN、温度-15℃の条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で-15℃環境下に2時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0046】
【0047】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、SIR20
・オイル:出光興産社製ダイアナプロセスNM280
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストV
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーDM‐PO
【0048】
表1から明らかなように、実施例1~5は、本発明の塗布装置を用いずにシーラント層を形成した比較例1と比較して、室温におけるシール性および低温環境下におけるシール性を改善した。