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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171196
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】被覆部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20221104BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221104BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20221104BHJP
   C23C 22/22 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C23C28/00 C
B32B15/08 G
B32B15/18
C23C22/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077700
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 涼介
【テーマコード(参考)】
4F100
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA04C
4F100AB01B
4F100AB01E
4F100AB03A
4F100AB16B
4F100AB16E
4F100AB18B
4F100AB31B
4F100AK01D
4F100AK17D
4F100AK17E
4F100AK46D
4F100AK48D
4F100BA04
4F100BA05
4F100DA11A
4F100EH71E
4F100EJ65E
4F100EJ68C
4F100EJ82
4F100GB31
4F100JB02
4F100JK06
4F100JL11
4K026AA02
4K026AA25
4K026BA03
4K026BB06
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA23
4K026CA24
4K026DA03
4K044AA02
4K044AB03
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB04
4K044BB05
4K044BB06
4K044BC02
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】3価クロム及びコバルトを含有しない化成処理層を有すると共に、化成処理層を被覆する樹脂層の密着性を確保することができる被覆部材を提供すること。
【解決手段】鋼管10の外周面10aを多層皮膜20によって被覆した車両用配管1であって、多層皮膜20は、鋼管10に対して犠牲防食性を有すると共に鋼管10に積層された第1金属層21と、リン酸カルシウムを含有し、第1金属層21に積層された化成処理層23と、樹脂によって形成され、化成処理層23に積層された樹脂層24と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面を多層皮膜によって被覆した被覆部材であって、
前記多層皮膜は、
前記鋼材に対して犠牲防食性を有すると共に、前記鋼材に積層された金属層と、
リン酸カルシウムを含有し、前記金属層に積層された化成処理層と、
樹脂によって形成され、前記化成処理層に積層された樹脂層と、を備えている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項2】
請求項1に記載された被覆部材において、
前記化成処理層は、30℃を超える温度に設定された化成処理液に、少なくとも前記金属層が積層された前記鋼材を浸漬することで形成されている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された被覆部材において、
前記化成処理層は、pH2.2を超えpH4.0未満に設定された化成処理液に、少なくとも前記金属層が積層された前記鋼材を浸漬することで形成されている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記金属層と前記化成処理層の間には、クラック構造が形成された第2金属層が積層されている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項5】
請求項4に記載された被覆部材において、
前記金属層は、亜鉛又は亜鉛基合金の少なくとも一方を含有し、
前記第2金属層は、前記金属層に化学ニッケルめっき処理を施すことで形成されて、ニッケルを含有し、
前記金属層に含有された亜鉛及び亜鉛基合金は、前記化学ニッケルめっき処理によりニッケル成分と置換する
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記樹脂層は、フッ素樹脂を含有し、前記化成処理層に積層された第1フッ素樹脂層と、前記フッ素樹脂を含有し、前記第1フッ素樹脂層に積層された第2フッ素樹脂層と、により構成されている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項7】
請求項6に記載された被覆部材において、
前記フッ素樹脂は、クロム成分を含有しないクロムフリーである
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記樹脂層は、任意の樹脂を含有し、前記化成処理層に積層されたプライマー層と、ポリアミド樹脂を含有し、前記プライマー層に積層されたポリアミド樹脂層と、により構成されている
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記多層皮膜は、予め決められた所定の剥離試験を行った結果、前記鋼材から剥がれない密着強度を有する
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記鋼材は、管部材であり、
前記多層皮膜は、前記管部材の表面のうち少なくとも外周面を被覆している
ことを特徴とする被覆部材。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載された被覆部材において、
前記多層皮膜は、クロム成分及びコバルト成分を含有しないクロムフリー且つコバルトフリーである
ことを特徴とする被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材を多層皮膜で被覆した被覆部材に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の床下に配策される配管は、金属製の素地パイプの表面に多層皮膜を施した被覆部材である。ここで、多層皮膜は、素地パイプの表面に設けられた亜鉛メッキ層と、その上に化成処理を行って形成された化成処理層と、化成処理層を被覆する樹脂層と、を有している。ここで、6価クロムを使用した化成処理により形成された化成処理層は、環境負荷物質である6価クロムを含有するため環境への影響が問題になっており、その使用が規制されている。そのため、6価クロムを利用しない代替技術に移行した被覆部材が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/029520号
【特許文献2】特許第6665120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の被覆部材における3価クロムを利用した化成処理によって形成された化成処理層は、3価クロム及びコバルトを含有している。コバルトは、環境負荷が高く、また希少金属に分類される物質である。また、3価クロムは、6価クロムと同様に使用が規制される可能性がある。そのため、3価クロムを利用しない化成処理が望まれる。一方、従来の被覆部材におけるジルコニウム化合物を含有する化成処理層では、3価クロムやコバルトを含有しないものの、3価クロムを利用して形成された化成処理層と比べると、化成処理層の上に積層した樹脂層の密着性が低いという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、3価クロム及びコバルトを含有しない化成処理層を有すると共に、化成処理層を被覆する樹脂層の密着性を確保することができる被覆部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の被覆部材は、鋼材の表面を多層皮膜によって被覆した被覆部材であって、前記多層皮膜は、前記鋼材に対して犠牲防食性を有すると共に前記鋼材に積層された金属層と、リン酸カルシウムを含有し、前記金属層に積層された化成処理層と、樹脂によって形成され、前記化成処理層に積層された樹脂層と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の被覆部材では、3価クロム及びコバルトを含有しない化成処理層を有すると共に、化成処理層を被覆する樹脂層の密着性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の車両用配管の断面図である。
図2】実施例1の車両用配管の変形例の断面図である。
図3】構成の異なる被覆部材における剥離試験の評価結果を示す表である。
図4】化成処理条件の異なる被覆部材における剥離試験の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の被覆部材を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
実施例1の車両用配管1は、車両の床下等に配策され、燃料の供給等に使用される管部材である。車両用配管1は、図1に示すように、鋼管10(鋼材)の外周面10a(表面)を多層皮膜20によって被覆した被覆部材である。
【0011】
鋼管10は、例えば、鋼板を巻いて管状にして得られる一重巻鋼管や、鋼板を二重に巻いて管状にした二重巻鋼管である。二重巻鋼管とする場合には、造管時のろう付けのため表面に銅めっきが施された鋼板を使用してもよい。なお、鋼管10又は鋼管10の基材となる鋼板は、車両用配管1の用途等に応じて任意に選択可能であり、その一例としてJIS又はJASOによる表示記号に従って以下に例示するが、これらに限られない。
・STKM、STAM、STS、TDW等の管材。
・SPCC、SPCD、SPHC、SPHD等の板材。
・SWRM、SWCH、SWRCH等の線材。
【0012】
多層皮膜20は、図1に示すように、鋼管10の外周面10aに積層された第1金属層21(金属層)と、第1金属層21に積層された第2金属層22と、第2金属層22に積層された化成処理層23と、化成処理層23に積層された樹脂層24と、を有している。
【0013】
第1金属層21は、多層皮膜20の最内層を構成する層であり、亜鉛又は亜鉛基合金の少なくとも一方を含有し、鋼管10に対して犠牲防食性を有するクロムフリー且つコバルトフリーの金属によって形成されている。ここで、亜鉛基合金は、他の元素(ニッケル等)に亜鉛を基として加えることで生成される金属を意味し、例えば亜鉛-ニッケル合金、亜鉛-鉄合金、亜鉛-アルミニウム合金等である。なお、亜鉛基合金は、亜鉛を基礎として他の金属を加えて生成される亜鉛合金を含んでもよい。また、「クロムフリー」とは、3価クロム及び6価クロムを含むクロム成分を一切含まないことであり、「コバルトフリー」とは、コバルト及び各種コバルト化合物を含むコバルト成分を一切含まないことである。
【0014】
第1金属層21に含有されている亜鉛又は亜鉛基合金の一部は、第1金属層21に対して化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことでニッケル成分と置換する。さらに、第1金属層21は、ここでは13~25μmの厚さを有している。また、第1金属層21の形成方法は、任意の方法によって行うことができる。
【0015】
すなわち、第1金属層21を亜鉛めっき処理で形成する場合、例えば常法の硫酸浴を用いて電気めっきを行い、亜鉛を電着させて第1金属層21とする。また、第1金属層21を亜鉛-ニッケル合金めっき処理で形成する場合、例えば市販の塩化浴を用いて電気めっきを行い、亜鉛-ニッケル合金を電着させて第1金属層21とする。また、第1金属層21を亜鉛-鉄合金めっき処理で形成する場合、例えば市販のアルカリ浴を用いて電気めっきを行い、亜鉛-鉄合金を電着させて第1金属層21とする。また、第1金属層21を亜鉛-アルミニウム合金めっき処理で形成する場合、例えば溶融めっきを行い、亜鉛-アルミニウム合金を固着させて第1金属層21とする。
【0016】
なお、第1金属層21の種類及び形成方法は、上記に限られない。第1金属層21に対して化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施す場合には、第1金属層21は、亜鉛又は亜鉛基合金の少なくとも一方を含有すると共に、鋼管10に対して犠牲防食性を有していればよい。そのため、例えば、亜鉛基合金である亜鉛-チタン合金等の二元化合物や、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金等の三元化合物を、電気めっき法や溶融めっき法等により鋼管10に積層して第1金属層21としてもよい。
【0017】
さらに、第1金属層21に対して化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施さない場合、つまり、多層皮膜20が第2金属層22を備えない場合には、第1金属層21は、必ずしも亜鉛又は亜鉛基合金を含有しなくてもよく、鋼管10に対して犠牲防食性を有してればよい。なお、鋼管10を構成する金属よりもイオン化傾向の大きな金属を含有することで、鋼管10に対して犠牲防食性を持たせることができるため、例えば、第1金属層21はアルミニウムやマグネシウム等の任意の金属を含有するものであってもよい。また、多層皮膜20が第2金属層22を備えない場合には、図2に示すように、多層皮膜20は、鋼管10の外周面10aから順に、第1金属層21と、化成処理層23と、樹脂層24と、が積層されることになる。
【0018】
第2金属層22は、ニッケルを含有し、クラック構造を有するクロムフリー且つコバルトフリーの金属層である。第2金属層22は、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで、第1金属層21に積層される。また、第2金属層22を形成するための化学ニッケルめっき処理によって、第1金属層21に含有された亜鉛又は亜鉛基合金の一部はニッケル成分と置換する。
【0019】
第2金属層22を形成するための化学ニッケルめっき処理は、通常の化学(無電解)めっき法により行えばよい。例えば、ニッケルウッド浴を用いた浸漬処理を行い、第2金属層22を形成することができる。なお、化学ニッケルめっき処理は、めっき浴に限定されない。ニッケル成分を浴中に含み、第1金属層21の表面の亜鉛又は亜鉛基合金を浴中のニッケル成分と置換できる処理であればよい。
【0020】
そして、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで、第1金属層21の表面は荒らされながら亜鉛成分を溶出し、且つ、亜鉛又は亜鉛基合金がニッケル成分と置換することで、第2金属層22に微細なクラック構造が生じる。第2金属層22が有するクラック構造は、第2金属層22の表面に形成された溝、凹凸、ひび割れ、へこみ等であり、クラック構造の深さや幅等のサイズは規定されない。クラック構造は、第2金属層22の表面から第1金属層21に達するまで深くてもよい。
【0021】
第2金属層22に微細なクラック構造を生じさせることにより、樹脂層24の密着性を向上させることができる。なお、第2金属層22におけるニッケル付着量が過度に少ない場合は、クラック構造による樹脂層24のアンカー効果を十分に得ることが難しく、樹脂層24の密着性が低下する可能性がある。また、第2金属層22におけるニッケル付着量が過度に多い場合は、ニッケル成分が剥離しやすくなり、この場合も樹脂層24の密着性が低下する可能性がある。なお、第2金属層22は、浸漬処理後の水洗い・乾燥等の処理により表面が酸化し、不動態化する。
【0022】
化成処理層23は、リン酸カルシウムを含有し、クロムフリー且つコバルトフリーの層である。これにより、化成処理層23は、リン酸カルシウムを含有する一方、3価クロム及びコバルトを含まない。
【0023】
そして、化成処理層23は、リン酸カルシウムを主成分とし、且つ、クロム成分及びコバルト成分を含まない加温した化成処理液に、第1金属層21及び第2金属層22が順に積層された鋼管10を浸漬する化成処理を行うことで形成される。すなわち、実施例1の化成処理層23は、3価クロムを利用した化成処理液に代わり、リン酸カルシウムを利用したクロムフリー且つコバルトフリーの化成処理液を用いて形成されている。
【0024】
なお、第1金属層21に対して化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施さない場合(多層皮膜20が第2金属層22を備えていない場合)では、第1金属層21に化成処理層23が直接積層される。この場合、化成処理層23は、リン酸カルシウムを主成分とし、且つ、クロム成分及びコバルト成分を含まない加温した化成処理液に、第1金属層21のみが積層された鋼管10を浸漬する化成処理を行うことで形成される。
【0025】
そして、実施例1では、下記に列挙する条件に設定された化成処理液を用いて化成処理層23が形成される。
・カルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)=0.2
・温度=40℃~45℃
・pH値=pH2.5~pH3.0
・濃度=主剤:70~150mL/L、建浴剤:10~100mL/L、補給剤0.5~2g/L
【0026】
そして、化成処理層23におけるカルシウム付着量は、ここでは5~16mg/mの範囲に設定され、リン付着量は、ここでは9~22mg/mの範囲に設定される。さらに、化成処理層23のカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)は、ここでは0.5に設定される。なお、化成処理液の諸条件や、化成処理層23における各種設定条件は、第2金属層22の有無に拘らず同等であり、任意に設定可能である。
【0027】
樹脂層24は、多層皮膜20の最外層を構成する層であり、同種又は異種の樹脂によって少なくとも一層形成されている。実施例1の樹脂層24は、化成処理層23に積層された第1フッ素樹脂層25と、第1フッ素樹脂層25に積層された第2フッ素樹脂層26と、で構成されている。
【0028】
第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26は、いずれもポリフッ化ビニル(PVF)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂を含有している。また、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26に含有されるフッ素樹脂は、クロム成分及びコバルト成分を含まないクロムフリー且つコバルトフリーであってもよい。
【0029】
なお、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26に含有されるフッ素樹脂がクロムフリー且つコバルトフリーであるときは、多層皮膜20はクロム成分及びコバルト成分を全く含まないオールクロムフリー且つコバルトフリーとなる。
【0030】
そして、第1フッ素樹脂層25は、例えば、化成処理層23まで順に積層された鋼管10をゾル状のフッ素樹脂の中に浸漬し、化成処理層23にフッ素樹脂を付着させ、その後、加熱して樹脂をゲル硬化させる浸漬法(ディッピング法)により形成される。また、第2フッ素樹脂層26も、第1フッ素樹脂層25を積層後、浸漬法(ディッピング法)によって第1フッ素樹脂層25の上に形成される。第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26は、ここでは、合わせて20~30μmの厚さに設定される。
【0031】
なお、樹脂層24の形成方法は浸漬法(ディッピング法)に限らず、樹脂成分等に応じて、例えばコーティング法(塗料又は粉体吹付塗装法)や、押出被覆法等から適宜選択可能である。また、樹脂層24の厚さも目的等に応じて任意に設定可能である。
【0032】
以下、図3に基づいて、構成の異なる被覆部材における樹脂層24の剥離試験の結果を説明する。
【0033】
剥離試験では、1次密着性と、2次密着性が評価される。1次密着性は、管状の各試料において、まず、鋼管10に多層皮膜20を施した直後に、3D曲げ(D:鋼管10の外径寸法)を行う。次に、カッターナイフを用いて屈曲部分の試料表面に、鋼管10まで達する1mm四方、4×4の碁盤目状の傷を入れる。そして、碁盤目状に区画された試料表面に粘着テープを貼り付けてから当該粘着テープを剥がし、そのときの樹脂層24の剥離結果に基づいて1次密着性を評価する。ここで、碁盤目状(4×4、計16マス)に区画された領域の樹脂層24が1マスも剥離しない場合は1次密着性を合格(○)と評価し、碁盤目状に区画された領域の樹脂層24が1マス以上剥離した場合は1次密着性を不合格(×)と評価する。
【0034】
また、2次密着性は、管状の各試料において、まず、鋼管10に多層皮膜20を施した直後に、3D曲げ(D:鋼管10の外形径)を行う。次に、カッターナイフを用いて屈曲部分の試料表面に、鋼管10まで達するクロスカットを入れる。続いて、試料を55℃の5%塩水に48時間浸漬させた後、クロスカットが形成された領域の樹脂層24の剥離結果に基づいて2次密着性を評価する。ここで、クロスカットが形成された領域の樹脂層24が剥離しない場合は2次密着性を合格(○)と評価し、クロスカットが形成された領域の樹脂層24が剥離した場合は2次密着性を不合格(×)と評価する。
【0035】
そして、図3に示す試料1、試料2、試料3は、実施例1の被覆部材であり、リン酸カルシウムを主成分とし、且つ、クロムフリー及びコバルトフリーの化成処理液を使用して化成処理層23が形成されている。これにより、試料1~試料3では、化成処理層23にリン酸カルシウムを含有する一方、3価クロム及びコバルトを含まない。なお、試料1~試料3の化成処理層23は、温度が40℃、pH値がpH2.5、濃度が主剤:100mL/L、建浴剤:60mL/L、補給剤1g/Lに設定された化成処理液を用いて形成されている。
【0036】
これに対し、図3に示す試料4~試料9は、いずれも比較例の被覆部材である。試料4及び試料5は、3価クロムを主成分とする化成処理液を使用して化成処理層23を形成したものであり、化成処理層23に3価クロム及びコバルトを含有している。また、試料6及び試料7は、リン酸亜鉛を主成分とするクロムフリー且つコバルトフリーの化成処理液を使用して化成処理層23を形成したものであり、試料8及び試料9は、ジルコニア化合物を主成分とするクロムフリー及びコバルトフリーの化成処理液を使用して化成処理層23を形成したものである。このため、試料6~試料9は、化成処理層23に3価クロム及びコバルトを含んでいない。
【0037】
また、試料1、試料4、試料6、試料8は、いずれも第1金属層21に対し、ニッケル置換処理を行わず、第2金属層22が積層されていない。すなわち、試料1、4、6、8では、第1金属層21に対し、化成処理層23が直接積層されている。一方、試料2、試料3、試料5、試料7、試料9は、いずれも第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで第2金属層22が形成されており、第1金属層21と化成処理層23との間に第2金属層22が積層されている。
【0038】
さらに、全ての試料において、樹脂層24は、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26によって構成されている。また、試料3では、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26に含有されるフッ素樹脂が、クロム成分を含有しないクロムフリー且つコバルト成分を含有しないコバルトフリーである。試料3を除いた各試料では、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26に含有されるフッ素樹脂に少なくともクロム成分を含有している。
【0039】
このような試料1~試料9を用いて上記の剥離試験を行った結果、実施例1の試料1~試料3では、いずれも1次密着性は合格と評価された。また、ニッケル置換処理を行わず、第2金属層22が積層されていない試料1では、2次密着性が不合格と評価された。一方、ニッケル置換処理を行い、第1金属層21と化成処理層23との間に第2金属層22が積層された試料2及び試料3では、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26におけるクロム成分の有無に拘らず、2次密着性についても合格と評価された。
【0040】
これに対し、比較例の被覆部材である試料4~試料9では、ニッケル置換処理を行った上で、3価クロムを主成分とする化成処理液を使用して化成処理層23を形成した試料5以外は、全て1次密着性が不合格と評価された。なお、1次密着性が不合格と評価されたため、2次密着性の評価は実施しなかった。一方、試料5では、1次密着性及び2次密着性の双方が合格と評価された。
【0041】
すなわち、図3に示す結果から、実施例1の車両用配管1の多層皮膜20が、鋼管10に対して犠牲防食性を有すると共に、鋼管10に積層された第1金属層21と、リン酸カルシウムを含有し、第1金属層21に対し直接又は第2金属層22を介して積層された化成処理層23と、樹脂によって形成され、化成処理層23に積層された樹脂層24と、を備えることで、3価クロム及びコバルトを含有しない化成処理層23を有すると共に、化成処理層23を被覆する樹脂層24の密着性(1次密着性)を確保できる。
【0042】
また、図3に示す結果から、実施例1の車両用配管1の多層皮膜20は、少なくとも1次密着性を評価する剥離試験を行った結果、鋼管10から剥がれない密着強度を有することが分かった。これにより、実施例1の車両用配管1が、必要な樹脂層24の密着性(1次密着性)を満足することを確認できる。
【0043】
また、実施例1の車両用配管1の多層皮膜20は、クラック構造を有する第2金属層22を第1金属層21と化成処理層23との間に積層している。この場合では、第2金属層22の表面の粗さによって、樹脂層24のアンカー効果を得ることが可能となる。そのため、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施さず、第2金属層22を積層しない場合よりも、樹脂層24の密着性を高め、2次密着性を満足することができる。
【0044】
なお、実施例1の車両用配管1の多層皮膜20では、第1金属層21が亜鉛又は亜鉛基合金を含有している。また、第2金属層22は、第1金属層21に対して化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで形成され、ニッケルを含有している。そして、化学ニッケルめっき処理時、第1金属層21に含有された亜鉛又は亜鉛基合金がニッケル成分と置換する。
【0045】
すなわち、第2金属層22は、第1金属層21に含有された亜鉛又は亜鉛基合金がニッケル成分と置換しながら形成される。このため、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで、第2金属層22を形成すると同時に、第2金属層22にクラック構造を生じさせることができる。これにより、容易にアンカーリング効果を増大させ、樹脂層24の密着性を向上させることができる。
【0046】
さらに、実施例1の車両用配管1の多層皮膜20では、樹脂層24が、フッ素樹脂を含有すると共に化成処理層23に積層された第1フッ素樹脂層25と、フッ素樹脂を含有すると共に第1フッ素樹脂層25に積層された第2フッ素樹脂層26と、により構成されている。これにより、樹脂層24に撥水撥油性、非粘着性、防汚性、耐酸性、電気絶縁性等の性質を持たせることができると共に、樹脂層24の表面が飛び石や泥跳ね等で損傷しても、化成処理層23等への腐食攻撃を抑制することができる。
【0047】
しかも、実施例1では、第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26に含有されたフッ素樹脂は、クロム成分及びコバルト成分を含有しないクロムフリー且つコバルトフリーとしてもよい。樹脂層24に含有されるフッ素樹脂をクロムフリー且つコバルトフリーにした場合、車両用配管1の多層皮膜20をクロム成分及びコバルト成分を含有しないクロムフリー且つコバルトフリーとすることができる。
【0048】
次に、図4に基づいて、設定条件が異なる化成処理液に第1金属層21及び第2金属層22を積層した鋼管10を浸漬することで、リン酸カルシウムを含有した化成処理層23を形成した被覆部材における剥離試験の結果を説明する。なお、剥離試験では、上述の1次密着性と、2次密着性を評価する。
【0049】
図4に示す試料10~試料19は、図3に示す試料3と同一の構成となっている。すなわち、試料10~試料19では、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施すことで第2金属層22が形成されており、リン酸カルシウムを主成分とし、クロムフリー且つコバルトフリーの化成処理液を使用して化成処理層23が形成されている。また、樹脂層24が、クロムフリー且つコバルトフリーのフッ素樹脂を含有する第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26によって構成されている。
【0050】
そして、試料10~試料13では、pH値がpH2.5に設定され、濃度が主剤:100mL/L、建浴剤:60mL/L、補給剤1g/Lに設定されると共に、化成処理液の温度が、試料10では20℃、試料11では30℃、試料12では45℃、試料13では50℃に設定された化成処理液を用いて化成処理層23が形成されている。また、試料14~試料17では、温度が40℃、濃度が主剤:100mL/L、建浴剤:60mL/L、補給剤1g/Lに設定されると共に、化成処理液のpH値が、試料14ではpH2.0、試料15ではpH2.2、試料16ではpH3.0、試料17ではpH4.0に設定された化成処理液を用いて化成処理層23が形成されている。さらに、試料18及び試料19では、温度が40℃、pH値がpH2.5に設定されると共に、化成処理液の濃度が、試料18では主剤:70mL/L、建浴剤:10mL/L、補給剤0.5g/L、試料19では主剤:150mL/L、建浴剤:100mL/L、補給剤2g/Lに設定された化成処理液を用いて化成処理層23が形成されている。
【0051】
このような試料10~試料19を用いて上記の剥離試験を行った結果、化成処理液の温度が30℃以下に設定された試料10及び試料11では、1次密着性及び2次密着性の双方が不合格と評価された。また、化成処理液の温度が50℃に設定された試料13では、1次密着性は合格との評価であったが、2次密着性は不合格と評価された。そして、化成処理液の温度が45℃に設定された試料12は、1次密着性及び2次密着性が合格と評価された。
【0052】
また、pH値がpH2.2以下に設定された試料14及び試料15では、いずれも1次密着性が不合格と評価され、2次密着性の評価は実施しなかった。さらに、pH値がpH4.0に設定された試料17においても、1次密着性が不合格と評価され、2次密着性の評価は実施しなかった。そして、pH値がpH3.0に設定された試料16は、1次密着性及び2次密着性が合格と評価された。
【0053】
また、化成処理液の濃度を適宜変更した試料18及び試料19では、いずれも1次密着性及び2次密着性が合格と評価された。
【0054】
図4に示す結果から、化成処理層23を、30℃を超過する温度に設定された化成処理液に、少なくとも第1金属層21が積層された鋼管10を浸漬して形成することで、化成処理層23を被覆する樹脂層24の密着性(1次密着性)を確保できることが分かる。特に、化成処理液の温度が30℃を超過し50℃未満の場合には、樹脂層24の密着性を高め、2次密着性を満足することができる。
【0055】
また、化成処理層23を、pH値がpH2.2を超過しpH4.0未満に設定された化成処理液に、少なくとも第1金属層21が積層された鋼管10を浸漬して形成することで、化成処理層23を被覆する樹脂層24の密着性(1次密着性)を確保できることが分かる。特に、化成処理液のpH値がpH2.5以上pH3.0以下の場合には、樹脂層24の密着性を高め、2次密着性を満足することができる。
【0056】
以上、本発明の被覆部材を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0057】
実施例1では、フッ素樹脂を含有する第1フッ素樹脂層25及び第2フッ素樹脂層26によって樹脂層24を構成する例を示した。しかしながら、樹脂層24は、目的等に応じて選択された任意の樹脂によって形成された層であればよいので、これに限らない。例えば、樹脂層24を、化成処理層23に積層されたプライマー層と、プライマー層に積層されたフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層で構成してもよい。つまり、樹脂層24におけるフッ素樹脂層が一層であってもよい。なお、「プライマー層」は、目的等に応じて適宜選択された任意の樹脂を有する層である。
【0058】
また、樹脂層24は、化成処理層23に積層されたクロムフリー且つコバルトフリーのプライマー層と、プライマー層に積層されたポリアミド樹脂層で構成してもよい。ここで、ポリアミド樹脂層は、ポリアミド11やポリアミド12等のポリアミド樹脂を含有するクロムフリー且つコバルトフリーの層である。ポリアミド樹脂層は、例えばポリアミド11を含有する場合では、押出被覆法により形成され、ポリアミド12を含有する場合はコーティング法(粉体吹付塗装法)により形成される。そして、樹脂層24をプライマー層と、ポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂層と、により構成した場合、樹脂層24に高い耐摩耗性や、耐油性、耐薬品性等の性質を持たせることができる。さらに、ポリアミド樹脂層にポリプロピレン樹脂を含有する層を積層してもよい。
【0059】
なお、樹脂層24をクロムフリー且つコバルトフリーのプライマー層及びポリアミド樹脂層によって構成した場合等、樹脂層24がクロム成分及びコバルト成分を含有しないことで、多層皮膜20は、クロム成分及びコバルト成分を全く含まないオールクロムフリー且つコバルトフリーとなる。これにより、多層皮膜20による環境負荷をさらに低減することができる。
【0060】
また、実施例1では、第1金属層21に化学ニッケルめっき処理(ニッケル置換処理)を施して第2金属層22を形成すると共に、第1金属層21に含有された亜鉛又は亜鉛基合金の一部をニッケル成分と置換させることで、第2金属層22にクラック構造を生じさせる例を示した。しかしながら、第2金属層22にクラック構造を生じさせる方法はこれに限らない。例えば、第2金属層22を構成する成分の一部を溶解させる処理液を第2金属層22に接触させ、所定成分の溶解に伴って第2金属層22に蓄積された応力を緩和してクラック構造を生じさせてもよい。
【0061】
そして、実施例1では、被覆部材として車両に配策される管部材である車両用配管1とする例を示したが、これに限らない。被覆部材は、任意の鋼材に第1金属層21、クロムフリー且つコバルトフリーでリン酸カルシウムを含有する化成処理層23、樹脂層24が順に積層されていればよい。そのため、被覆部材は、任意の形状とすることができると共に、その用途についても実施例1に限定されるものではない。
【0062】
なお、本発明に係る被覆部材は、鋼材として管部材を適用した場合、多層皮膜20が、管部材(鋼管10)の表面(内周面及び外周面)のうち、少なくとも外周面10aを被覆したものであればよく、外周面及び内周面の双方を被覆したものでなくてもよい。ただし、本発明に係る被覆部材は、鋼材として管部材を適用した場合であっても、管部材(鋼管10)の内周面のみを多層皮膜20で被覆したものを排除するものではない。
【0063】
また、本発明に係る被覆部材は、鋼材として管部材ではなく、板状の板部材(鋼板)を適用した場合においても、多層皮膜20が、板部材(鋼板)の表面(おもて面及び裏面)のうち、少なくともいずれか一方の表面を被覆したものであればよく、おもて面及び裏面の両表面を被覆したものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 車両用配管(被覆部材)
10 鋼管(鋼材)
10a 外周面(表面)
20 多層皮膜
21 第1金属層(金属層)
22 第2金属層
23 化成処理層
24 樹脂層
25 第1フッ素樹脂層
26 第2フッ素樹脂層
図1
図2
図3
図4