(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171233
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】摩擦伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/00 20060101AFI20221104BHJP
F16G 1/08 20060101ALI20221104BHJP
F16G 5/00 20060101ALI20221104BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20221104BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20221104BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20221104BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20221104BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
F16G1/00 F
F16G1/08 D
F16G5/00 F
F16G5/06 D
F16G5/20 A
B32B25/10
B32B7/022
D04B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077767
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真銅 友哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 正吾
【テーマコード(参考)】
4F100
4L002
【Fターム(参考)】
4F100AJ02
4F100AJ04B
4F100AK51
4F100AN00A
4F100AN02
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD05
4F100DD05A
4F100DD21
4F100DD21A
4F100DG01
4F100DG01B
4F100DG13
4F100DG13B
4F100EJ17
4F100EJ17A
4F100EJ19
4F100EJ37
4F100GB32
4F100GB51
4F100JK16A
4F100YY00A
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC01
4L002BA00
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】被水時に発生する異音を低減できる、摩擦伝動ベルトの提供。
【解決手段】この摩擦伝動ベルトは、プーリと接触することで生じる摩擦力によって前記プーリに動力を伝達するベルト本体を備える。前記ベルト本体の速度と前記プーリの速度との差である滑り速度と、摩擦係数との関係において、最大摩擦係数を示す滑り速度を第一滑り速度、前記第一滑り速度から第二滑り速度まで前記滑り速度を増加させたときの摩擦係数を参照摩擦係数とし、前記第二滑り速度と前記第一滑り速度との差が500mm/sであるとき、前記最大摩擦係数をμx、前記参照摩擦係数をμrとして、次の式(1)で示される摩擦係数の低下率Dmが、20%以下である。
Dm=(μx-μr)/μx×100 ・・・・・(1)
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリと接触することで生じる摩擦力によって前記プーリに動力を伝達するベルト本体を備える、摩擦伝動ベルトであって、
前記ベルト本体の速度と前記プーリの速度との差である滑り速度と、摩擦係数との関係において、最大摩擦係数を示す滑り速度を第一滑り速度、前記第一滑り速度から第二滑り速度まで前記滑り速度を増加させたときの摩擦係数を参照摩擦係数とし、前記第二滑り速度と前記第一滑り速度との差が500mm/sであるとき、
前記最大摩擦係数をμx、前記参照摩擦係数をμrとして、次の式(1)で示される摩擦係数の低下率Dmが、20%以下である、
摩擦伝動ベルト。
Dm=(μx-μr)/μx×100 ・・・・・(1)
【請求項2】
前記第一滑り速度から前記第二滑り速度までのゾーンをn個(nは2以上の自然数)の区間に等分し、それぞれの区間の開始の滑り速度をスタート速度、前記スタート速度における摩擦係数をスタート摩擦係数とし、前記区間の終了の滑り速度をエンド速度、前記エンド速度における摩擦係数をエンド摩擦係数としたとき、
m番目(mは1以上n以下の自然数)の区間における前記スタート摩擦係数をμsm、前記エンド摩擦係数をμemとして、次の式(2)で示される摩擦係数の低下率Dsmが、全ての前記区間において、20/n%以下である、
請求項1に記載の摩擦伝動ベルト。
Dsm=(μsm-μem)/μsm×100 ・・・・・(2)
【請求項3】
前記ベルト本体が、前記プーリと接触する圧縮ゴム層を備え、
前記圧縮ゴム層が、ゴム組成物からなるゴム層本体と、前記ゴム層本体に積層された繊維部材層とで構成される、
請求項1又は2に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
前記圧縮ゴム層の表層部における空隙率が10%以上である、
請求項3に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
前記空隙率が20%以上である、
請求項4に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
前記繊維部材層が編布で構成され、
前記編布が、主な繊維として、セルロース系繊維を含む、
請求項3から5のいずれか一項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
前記圧縮ゴム層に、内周側に垂下する複数のVリブが構成される、
請求項3から6のいずれか一項に記載の摩擦伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン、モーター等の回転動力を伝達する手段として、駆動側及び従動側のそれぞれの回転軸にプーリを固定させて設けると共に、それぞれのプーリにVリブドベルト等の摩擦伝動ベルトを掛け渡す方法が広く用いられている。
【0003】
摩擦伝動ベルト(以下、伝動ベルト)は、例えば、運転中に被水した際に、スティック・スリップと呼ばれる現象を起こすこと、そして、この現象は、異音、言い換えれば、スリップ音の発生を伴う場合があることが知られている。伝動ベルトのスリップ音は装置の噪音の原因となることから、種々の対策が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ベルト本体におけるプーリ接触側の表面を編布で被覆した摩擦伝動ベルトにおいて、摩擦伝動ベルトの幅方向に往復するように進行方向を反転しながら延び、進行方向を反転させる反転部分と、反転部分同士の間を繋いで延びる直進部分とを有する糸で編布を構成し、反転部分よりも表面側に位置する直進部分を有するようにプーリ接触側の表面をこの編布で被覆することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被水時に発生する異音を低減するために種々な手段が提案されている。しかし、現状の異音の低減効果は満足できるレベルにはなく、更なる改善が求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、被水時に発生する異音を低減できる、摩擦伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、被水時における異音の発生挙動について詳細に調べたところ、滑り速度と摩擦係数との関係において、摩擦係数が最大摩擦係数を示してから滑り速度が500mm/s増加するまでのゾーンにおける摩擦係数の低下率が異音の発生に深く関与していることを見出し、本発明を完成するに至っている。
【0009】
(1)本発明の摩擦伝動ベルトは、
プーリと接触することで生じる摩擦力によって前記プーリに動力を伝達するベルト本体を備える、摩擦伝動ベルトであって、
前記ベルト本体の速度と前記プーリの速度との差である滑り速度と、摩擦係数との関係において、最大摩擦係数を示す滑り速度を第一滑り速度、前記第一滑り速度から第二滑り速度まで前記滑り速度を増加させたときの摩擦係数を参照摩擦係数とし、前記第二滑り速度と前記第一滑り速度との差が500mm/sであるとき、
前記最大摩擦係数をμx、前記参照摩擦係数をμrとして、次の式(1)で示される摩擦係数の低下率Dmが、20%以下である。
Dm=(μx-μr)/μx×100 ・・・・・(1)
【0010】
上記摩擦伝動ベルトでは、摩擦係数が最大摩擦係数を示してから滑り速度が500mm/s増加するまでのゾーンにおいて、摩擦係数の低下が抑制される。上記摩擦伝動ベルトでは、被水によるスティック・スリップが生じにくい。そのため、被水時に発生する異音が低減される。
【0011】
(2)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記第一滑り速度から前記第二滑り速度までのゾーンをn個(nは2以上の自然数)の区間に等分し、それぞれの区間の開始の滑り速度をスタート速度、前記スタート速度における摩擦係数をスタート摩擦係数とし、前記区間の終了の滑り速度をエンド速度、前記エンド速度における摩擦係数をエンド摩擦係数としたとき、m番目(mは1以上n以下の自然数)の区間における前記スタート摩擦係数をμsm、前記エンド摩擦係数をμemとして、次の式(2)で示される摩擦係数の低下率Dsmは、全ての前記区間において、20/n%以下であることが好ましい。
Dsm=(μsm-μem)/μsm×100 ・・・・・(2)
この場合、上記ゾーンを構成する全ての区間において、摩擦係数が大幅に低下することが防止される。上記ゾーンにおいて摩擦係数は徐々に低下する。上記摩擦伝動ベルトでは、被水によるスティック・スリップの発生が効果的に抑制される。そのため、被水時において異音が発生しにくい。
【0012】
(3)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記ベルト本体は前記プーリと接触する圧縮ゴム層を備え、前記圧縮ゴム層は、ゴム組成物からなるゴム層本体と、前記ゴム層本体に積層された繊維部材層とで構成されることが好ましい。この場合、繊維部材層が水を吸収する。そのため、ベルト本体とプーリとの間に水膜は形成されにくい。上記摩擦伝動ベルトでは、摩擦係数の大幅な低下が防止される。
【0013】
(4)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記圧縮ゴム層の表層部における空隙率は10%以上であることが好ましい。この場合、表層部に構成された空隙が水の吸収に貢献する。上記摩擦伝動ベルトでは、ベルト本体とプーリとの間に水膜は形成されにくい。
【0014】
(5)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記空隙率は20%以上であることがより好ましい。この場合、表層部に構成された空隙によって水が効果的に吸収される。上記摩擦伝動ベルトでは、ベルト本体とプーリとの間に水膜は形成されにくい。
【0015】
(6)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記繊維部材層は編布で構成され、前記編布は、主な繊維として、セルロース系繊維を含むことが好ましい。セルロース系繊維は吸水性能に優れる。上記摩擦伝動ベルトでは、ベルト本体とプーリとの間に水膜は形成されにくい。
【0016】
(7)上記摩擦伝動ベルトにおいて、前記圧縮ゴム層に、内周側に垂下する複数のVリブが構成されることが好ましい。この摩擦伝動ベルトはVリブドベルトである。上記摩擦伝動ベルトでは、被水によるスティック・スリップが生じにくい。そのため、被水時に発生する異音が低減される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の摩擦伝動ベルトでは、摩擦係数が最大摩擦係数を示してから滑り速度が500mm/s増加するまでのゾーンにおいて摩擦係数の低下が抑制される。上記摩擦伝動ベルトでは、被水によるスティック・スリップが生じにくい。そのため、被水時に発生する異音が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るVリブドベルトの一部を模式的に示す図である。
【
図2】被水時動的摩擦係数の評価用ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【
図4A】空隙率の測定方法を説明するための図である。
【
図4B】空隙率の測定方法を説明するための図である。
【
図4C】空隙率の測定方法を説明するための図である。
【
図5B】
図5Aに示した架橋装置の一部分の断面拡大図である。
【
図6A】
図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
【
図6B】
図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
【
図6C】
図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
【
図7】被水時異音評価用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(摩擦伝動ベルト)
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦伝動ベルトBの一部を模式的に示す。
この摩擦伝動ベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置等に用いられる、Vリブドベルトである。このVリブドベルトBでは、例えば、ベルト周長が700mm以上3000mm以下、ベルト幅が10mm以上36mm以下、及びベルト厚さが3.5mm以上5.0mm以下である。
【0020】
このVリブドベルトBは、無端帯状のベルト本体10を備える。
このVリブドベルトBでは、ベルト本体10の内周側の表面がプーリと接触することで生じる摩擦力によって、このベルト本体10がプーリに動力を伝達する。
ベルト本体10は、ベルト内周側に位置する圧縮ゴム層11と、中間に位置する接着ゴム層12と、ベルト外周側に位置する背面補強布13とを備える。
【0021】
圧縮ゴム層11はベルト長さ方向に延びる。圧縮ゴム層11は、駆動プーリや従動プーリのようなプーリと接触する。圧縮ゴム層11は、ゴム層本体14と、繊維部材層15とで構成される。
ゴム層本体14は、圧縮ゴム層本体とも称される。ゴム層本体14の厚さは、例えば2.0mm以上3.2mm以下である。
ゴム層本体14は、架橋したゴム成分を含むゴム組成物(以下、架橋ゴム組成物)からなる。ゴム組成物は、ゴム成分に架橋剤を含む種々のゴム配合剤が配合され混練された未架橋ゴム組成物(原料組成物)が加熱及び加圧され、ゴム成分が架橋剤によって架橋した架橋物である。
【0022】
上記原料組成物に含まれるゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン-ブテンコポリマー(EDM)、エチレン-オクテンコポリマー(EOM)などのエチレン-α-オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)等が挙げられる。上記ゴム成分は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、エチレン-α-オレフィンエラストマーを用いることがより好ましく、EPDMを用いることが更に好ましい。
【0023】
上記原料組成物に含まれる架橋剤としては、硫黄及び有機過酸化物が挙げられる。
架橋剤以外のゴム配合剤としては、例えば、カーボンブラックなどの補強材、充填剤、老化防止剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、共架橋剤、短繊維等が挙げられる。
【0024】
繊維部材層15は、ゴム層本体14の内周側表面に積層される。繊維部材層15はベルト本体10の内周側表面を構成する。繊維部材層15の厚さは、例えば0.1mm以上1.5mm以下である。
このVリブドベルトBでは、繊維部材層15はゴム層本体14の内周側表面全体を被覆する。繊維部材層15が内周側表面の一部を被覆するように内周側表面に積層されてもよい。
【0025】
繊維部材層15は、織布で構成されていても、編布で構成されていても、どちらでもよい。織布の織物組織としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、及びこれらの変化組織等が挙げられる。編布の編物組織としては、例えば、よこ編みでは、平編、ゴム編、パール編、その他の変化組織等、たて編みでは、シングルデンビー編、シングルバンダイク編、その他の変化組織等が挙げられる。伸縮性に富んでゴム層本体14を均一に被覆できる観点から、繊維部材層15は編布で構成されるのが好ましい。
このVリブドベルトBでは、繊維部材層15が、短繊維を含む架橋ゴム組成物であってもよい。
【0026】
繊維部材層15が織布又は編布で構成される場合、このVリブドベルトBでは、接着処理が施された繊維部材層15が用いられてもよく、接着処理が施されていない繊維部材層15が用いられてもよい。次の(1)及び(2)の観点から、このVリブドベルトBでは、繊維部材層15が織布又は編布で構成される場合、接着処理が施されていない繊維部材層15が用いられるのが好ましい。
(1)VリブドベルトBでは、圧縮ゴム層11のゴム層本体14が架橋ゴム組成物からなるため、繊維部材層15に接着処理が施されていなくても、ゴム層本体14と繊維部材層15とは充分な接着力で接着する。
(2)また、接着処理が施されていない繊維部材層15を備えたVリブドベルトBでは、接着処理が施された繊維部材層15を備えたVリブドベルトBに比べて、被水時における異音の発生が抑制される。これは接着処理が施されていない繊維部材層15は、接着処理が施された繊維部材層15に比べて吸水特性に優れる傾向にあるためと推測される。
【0027】
本発明の摩擦伝動ベルトBにおいて、繊維部材層15に接着処理が施されていないとは、繊維部材層15を接着剤に浸漬する接着処理が施されておらず、繊維部材層15の表面に接着剤が付着していないことを意味する。
本発明において「接着剤に浸漬する接着処理」は、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する処理、RFL水溶液に浸漬して加熱する処理、及びゴム糊に浸漬して乾燥させる処理である。
【0028】
繊維部材層15が織布で構成される場合、この繊維部材層15の形成には経糸及び緯糸が用いられる。繊維部材層15が編布で構成される場合、この繊維部材層15の形成には編糸が用いられる。
繊維部材層15の形成に用いられる糸を構成する繊維としては、例えば、セルロース系繊維、羊毛、絹などの天然繊維;ポリウレタン繊維、脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン66繊維)、芳香族ポリアミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維等が挙げられる。補強布は、これらのうちの1種の繊維で形成されてもよく、2種以上の繊維で形成されてもよい。
繊維部材層15を構成する繊維としては、良好な吸水性能を有する観点から、セルロース系繊維が好ましい。
【0029】
このVリブドベルトBでは、繊維部材層15が良好な吸水特性を確保するのに好適であることから、この繊維部材層15は主な繊維としてセルロース系繊維を含むのが好ましい。上述したように、伸縮性に富んでゴム層本体14を均一に被覆できる観点から、繊維部材層15は編布で構成されるのが好ましい。したがって、このVリブドベルトBでは、繊維部材層15は編布であり、この編布が主な繊維としてセルロース系繊維を含むのがより好ましい。
【0030】
繊維部材層15が主な繊維としてセルロース系繊維を含む場合、繊維部材層15を構成する繊維に占めるセルロース系繊維の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。このセルロース系繊維の割合が100質量%であってもよい。繊維部材層15が主な繊維としてセルロース系繊維を含む場合、優れた吸水特性の確保の観点から、繊維部材層15の表面(ベルト本体10の内周面)にセルロース系繊維が露出しているのが好ましい。
【0031】
繊維部材層15が主な繊維としてセルロース系繊維を含む場合、この繊維部材層15はセルロース系繊維以外の他の繊維を含むことができる。この場合、他の繊維としては、ポリウレタン繊維及び脂肪族ポリアミド繊維が好ましい。伸縮性の確保の観点から、この他の繊維としては、ポリウレタン繊維がより好ましい。
【0032】
セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹や広葉樹の木材パルプ、竹繊維、サトウキビ繊維、綿繊維やカポックの種子毛繊維、麻やコウゾやミツマタのジン皮繊維、マニラ麻やニュージーランド麻の葉繊維などの天然植物由来のセルロース繊維;ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロース繊維;セルロースエステル繊維;レーヨンやキュプラやリヨセルなどの再生セルロース繊維等が挙げられる。
これらのなかでは、繊維材料としての実用性の観点から綿繊維が好ましい。
【0033】
接着ゴム層12は、ベルト長さ方向に延びる、断面横長矩形状の帯である。接着ゴム層12の厚さは、例えば1.0mm以上2.5mm以下である。接着ゴム層12は、接着ゴム層本体16と、この接着ゴム層本体16で覆われる心線17とで構成される。
【0034】
接着ゴム層本体16は、架橋ゴム組成物からなる。上述したように、圧縮ゴム層本体14も架橋ゴム組成物からなる。このVリブドベルトBでは、圧縮ゴム層本体14及び接着ゴム層本体16は、同一のゴム組成物で構成されてもよいし、異なるゴム組成物で構成されてもよい。
【0035】
心線17は、接着ゴム層12のベルト厚さ方向の中間部に位置する。心線17は、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように巻かれ、接着ゴム層本体16に埋設される。
【0036】
心線17は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の撚り糸で構成される。心線17の直径は、例えば0.5mm以上2.5mm以下である。接着ゴム層12の断面において相互に隣接する心線17どうしの間の最短距離は、例えば0.05mm以上0.20mm以下である。
好ましくは、心線17には、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理のうちの1種又は2種以上の接着処理が施される。
【0037】
背面補強布13は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸を用い、平織、綾織、朱子織等に製織した布材料、編布、不織布等により構成される。背面補強布13の厚さは、例えば0.4mm以上1.2mm以下である。
背面補強布13には、接着ゴム層12に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理、及び/又は、接着ゴム層12の外周面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理、が施されていてもよい。背面補強布13がゴム層(図示されず)を介して接着ゴム層12に貼り付けられてもよい。
【0038】
このVリブドベルトBでは、背面補強布13に代えて、厚さが例えば0.4mm以上0.8mm以下の背面ゴム層が用いられてもよい。この場合、背面ゴム層の表面には、背面駆動時の音発生を抑制する観点から、織布の布目が転写されるのが好ましい。ベルト背面と平プーリとの接触により粘着が生じるのを抑制する観点から、背面ゴム層は接着ゴム層本体16よりもやや硬めのゴム組成物で構成されていることが好ましい。
また、背面ゴム層を設ける場合、この背面ゴム層は、圧縮ゴム層本体14及び接着ゴム層本体16の一方又は両方と同一のゴム組成物で構成されてもよいし、圧縮ゴム層本体14及び接着ゴム層本体16のいずれとも異なるゴム組成物で構成されてもよい。
背面ゴム層が接着ゴム層本体16と異なるゴム組成物で構成される場合は、ベルト背面と平プーリとの接触により粘着が生じるのを抑制する観点から、背面ゴム層は接着ゴム層本体16よりもやや硬めのゴム組成物で構成されるのが好ましい。
【0039】
図1に示されるように、このVリブドベルトBでは、ベルト本体10の圧縮ゴム層11に、内周側に垂下する複数のVリブ18が構成される。複数のVリブ18は、ベルト長さ方向に延びる、断面略逆三角形状の突条である。複数のVリブ18はベルト幅方向に並設される。
各Vリブ18は、例えば、リブ高さが2.0mm以上3.0mm以下、及び基端間の幅が1.0mm以上3.6mm以下である。Vリブ18の個数は、例えば3個以上10個以下である(
図1では6個)。
【0040】
このVリブドベルトBでは、圧縮ゴム層11のゴム層本体14に、内周側に垂下するように複数のVリブ本体14aが構成される。複数のVリブ本体14aのそれぞれを繊維部材層15で被覆することで、Vリブ18が構成される。このVリブドベルトBでは、この繊維部材層15で被覆されたVリブ18の表面がプーリ接触面となる。
【0041】
本発明者らは、摩擦伝動ベルトBの被水時における異音の発生挙動について詳細に調べたところ、滑り速度と摩擦係数との関係において、摩擦係数が最大摩擦係数を示してから滑り速度が500mm/s増加するまでのゾーンにおける摩擦係数の低下率が異音の発生に深く関与していることを見出し、本発明を完成するに至っている。
以下に、
図1に示された摩擦伝動ベルトBの、滑り速度と摩擦係数との関係が説明されるが、その前に、この関係を得るために使用するベルト走行試験機、そしてこの関係を得るための評価方法が説明される。
【0042】
(ベルト走行試験機)
図2は、被水時動的摩擦係数の評価用ベルト走行試験機20のプーリレイアウトの一例を示す。このベルト走行試験機20(以下、試験機)は、摩擦伝動ベルトBとして、6個のVリブ18が構成されたVリブドベルトB(ベルト長さ=1080mm)の被水時動的摩擦係数を評価できるように構成されている。この試験機20では、プーリの仕様を変更することで、Vベルトや平ベルトのような他の摩擦伝動ベルトBの評価が可能である。
この試験機20は4つのプーリ21を備える。4つのプーリ21は、
(1)リブプーリである第一駆動プーリ22、
(2)第一駆動プーリ22の右方に位置し、リブプーリである第二駆動プーリ23、
(3)第二駆動プーリ23の上方に位置し、リブプーリである従動プーリ24、及び
(4)従動プーリ24の左下方に位置し、平プーリであるアイドラプーリ25
である。各プーリ21のプーリ径は50mmである。各プーリ21はSUS製である。各プーリ21における、VリブドベルトBとの接触面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は3.2μmである。
この試験機20では、VリブドベルトBのリブ側が第一駆動プーリ22、第二駆動プーリ23及び従動プーリ24に接触する。VリブドベルトBの背面側がアイドラプーリ25に接触する。
第一駆動プーリ22及び第二駆動プーリ23のそれぞれにはモーター及びトルクメータが連結される。この試験機20では、第一駆動プーリ22及び第二駆動プーリ23の回転速度のコントロールと、第一駆動プーリ22及び第二駆動プーリ23に生じたトルクの計測とが可能である。
VリブドベルトBに一定の張力がかかるように、従動プーリ24に錘が連結される。この試験機20では、1個のVリブ18あたり10kgf(98N)の張力が生じるように、死荷重DWが設定される。
下記の表1には、各プーリ21の正確な配置が示される。この表1には、第一駆動プーリ22の中心を、
図2におけるXY座標の原点(0,0)としたときの各プーリ21の中心座標が示される。例えば、従動プーリ24の中心座標(200,308.91)は、原点である第一駆動プーリ22の中心に対して右に200mm、上に308.91mmの位置を示している。
【0043】
【0044】
この試験機20では、表1に示されるように各プーリ21を配置することで、摩擦伝動ベルトB(VリブドベルトB)の第二駆動プーリ23との接触角が90度に設定される。
【0045】
(評価方法)
摩擦伝動ベルトBとしてのVリブドベルトBにおける、滑り速度と摩擦係数との関係は、次のようにして得られる。この評価方法は、18℃から28℃の雰囲気温度で実施される。
(1)
図1に示されたVリブドベルトBが各プーリ21に巻き掛けられる。
(2)従動プーリ24に錘が連結される。このVリブドベルトBは6個のVリブ18を有するので、VリブドベルトBの張力は588N(60kgf)に設定される。
(3)モーターを駆動し第一駆動プーリ22及び第二駆動プーリ23が回転させられる。
(4)VリブドベルトBの第一駆動プーリ22への進入部において、VリブドベルトBのリブ側に毎分40mlの量の水が滴下される。
(5)第一駆動プーリ22及び第二駆動プーリ23のそれぞれの回転速度を1000rpmに設定し、VリブドベルトBが定速で走行させられる。
(6)定速走行を開始してから30秒後、第二駆動プーリ23の回転速度を、30秒間で500rpmまで、一定の加速度で減速し、この減速過程における第二駆動プーリ23のトルクが計測される。
(7)計測したトルクから、第一駆動プーリ22と第二駆動プーリ23との間の張力で表される張り側張力T1(N)と、第二駆動プーリ23と従動プーリ24との間の張力で表される緩み側張力T2(N)とを求め、オイラーの式を用いて動的摩擦係数(以下、摩擦係数)が算出される。これにより、ベルト本体10の速度と第二駆動プーリ23の速度との差である滑り速度と摩擦係数との関係が得られる。
【0046】
(滑り速度と摩擦係数との関係)
図3Aは、
図2に示されたベルト走行試験機40を用いて得られる、
図1に示された摩擦伝動ベルトB(VリブドベルトB)の摩擦係数の測定結果を示す。この
図3Aには、滑り速度と摩擦係数との関係が示される。この
図3Aにおいて、横軸Vは滑り速度(mm/s)である。第二駆動プーリ23の減速開始時における滑り速度Vが0mm/sである。縦軸μは摩擦係数である。
【0047】
図3Aに示されるように、摩擦伝動ベルトBでは、第二駆動プーリ23が減速を開始し、滑り速度Vが増加すると、摩擦係数μが急激に増加する。その後、摩擦係数μの増加率は徐々に小さくなる。摩擦係数μは、最大摩擦係数を示した後、滑り速度Vの増加に伴い徐々に低下する。
図3Aにおいて、符号μxは最大摩擦係数であり、符号V1は最大摩擦係数μxを示す滑り速度、すなわち、第一滑り速度である。符号V2は第二滑り速度であり、符号μrは第一滑り速度V1から第二滑り速度V2まで滑り速度Vを増加させたときの摩擦係数、すなわち、参照摩擦係数である。
図3Aに示されるように、参照摩擦係数μrは最大摩擦係数μxよりも低い。
【0048】
この摩擦伝動ベルトBでは、滑り速度Vと摩擦係数μとの関係において、最大摩擦係数をμx、参照摩擦係数をμrとして、摩擦係数μの低下率Dmは、次の式(1)で示される。
Dm=(μx-μr)/μx×100 ・・・・・(1)
そして、この摩擦伝動ベルトBでは、第二滑り速度V2と第一滑り速度V1との差(V2-V1)が500mm/sであるとき、式(1)で示される摩擦係数μの低下率Dmは、20%以下である。
【0049】
この摩擦伝動ベルトBでは、摩擦係数μが最大摩擦係数μxを示してから滑り速度Vが500mm/s増加するまでのゾーンにおいて摩擦係数μの低下が抑制される。この摩擦伝動ベルトBでは、被水によるスティック・スリップが生じにくい。そのため、被水時に発生する異音が低減される。
【0050】
図3Bは、
図3Aに示したグラフの拡大図である。この
図3Bには、第一滑り速度V1から第二滑り速度V2までのゾーン(以下、評価対象ゾーン)における、滑り速度Vと摩擦係数μとの関係が示される。
【0051】
図3Bに示されるように、この摩擦伝動ベルトBでは、評価対象ゾーン内において摩擦係数μの変化が小さく抑えられている。そのため、この摩擦伝動ベルトBでは、被水によるスティック・スリップが生じにくく、被水時において異音は発生しにくい。しかし、上述の式(1)で示される摩擦係数μの低下率Dmが20%以下であっても、評価対象ゾーン内に、摩擦係数μが大きく低下する区間が存在するケースがあることは否めない。このような場合には、被水によるスティック・スリップが生じ、異音が発生することが懸念される。
そこで、評価対象ゾーンをn個(nは2以上の自然数)の区間に等分し、それぞれの区間の開始の滑り速度をスタート速度、このスタート速度における摩擦係数μをスタート摩擦係数とし、この区間の終了の滑り速度をエンド速度、このエンド速度における摩擦係数μをエンド摩擦係数としたとき、
m番目(mは1以上n以下の自然数)の区間Smにおけるスタート摩擦係数をμsm、エンド摩擦係数をμemとして、次の式(2)で示される摩擦係数μの低下率Dsmが、全ての区間において、20/n%以下であるのが好ましい。
Dsm=(μsm-μem)/μsm×100 ・・・・・(2)
【0052】
図3Bには、評価対象ゾーンを5個の区間に等分した場合が示される。以下に、この場合を例にして、上述の式(2)で示される摩擦係数μの低下率Dsmが、全ての区間において、20/n%以下であることについて説明する。
【0053】
図3Bにおいて、符号S1からS5で示される領域は、評価対象ゾーンを5個に等分することで構成される各区間を表す。第一滑り速度V1をスタート速度とする区間が第一区間S1であり、第二滑り速度V2をエンド速度とする区間が第五区間S5である。
評価対象ゾーンの幅が500mm/sであるので、評価対象ゾーンを5個に等分した場合、各区間Smの幅は100mm/sである。
【0054】
符号Vs1は第一区間S1のスタート速度である。符号μs1はスタート速度Vs1における摩擦係数であり、この摩擦係数μs1が第一区間S1のスタート摩擦係数である。第一区間S1は、第一滑り速度V1をスタート速度Vs1とする区間であるので、スタート摩擦係数μs1は最大摩擦係数μxでもある。符号Ve1は第一区間S1のエンド速度である。符号μe1はエンド速度Ve1における摩擦係数であり、この摩擦係数μe1がこの第一区間S1のエンド摩擦係数である。したがって、第一区間S1における摩擦係数μの低下率Ds1は、次の式(2a)で示される。
Ds1=(μs1-μe1)/μs1×100 ・・・・・(2a)
【0055】
符号Vs2は第二区間S2のスタート速度である。符号μs2はスタート速度Vs2における摩擦係数であり、この摩擦係数μs2が第二区間S2のスタート摩擦係数である。スタート速度Vs2は上述のエンド速度Ve1であるので、スタート摩擦係数μs2は上述のエンド摩擦係数μe1でもある。符号Ve2は第二区間S2のエンド速度である。符号μe2はエンド速度Ve2における摩擦係数であり、この摩擦係数μe2が第二区間S2のエンド摩擦係数である。したがって、第二区間S2における摩擦係数μの低下率Ds2は、次の式(2b)で示される。
Ds2=(μs2-μe2)/μs2×100 ・・・・・(2b)
【0056】
符号Vs3は第三区間S3のスタート速度である。符号μs3はスタート速度Vs3における摩擦係数であり、この摩擦係数μs3が第三区間S3のスタート摩擦係数である。スタート速度Vs3は上述のエンド速度Ve2であるので、スタート摩擦係数μs3は上述のエンド摩擦係数μe2でもある。符号Ve3は第三区間S3のエンド速度である。符号μe3はエンド速度Ve3における摩擦係数であり、この摩擦係数μe3が第三区間S3のエンド摩擦係数である。したがって、第三区間S3における摩擦係数μの低下率Ds3は、次の式(2c)で示される。
Ds3=(μs3-μe3)/μs3×100 ・・・・・(2c)
【0057】
符号Vs4は第四区間S4のスタート速度である。符号μs4はスタート速度Vs4における摩擦係数であり、この摩擦係数μs4が第四区間S4のスタート摩擦係数である。スタート速度Vs4は上述のエンド速度Ve3であるので、スタート摩擦係数μs4は上述のエンド摩擦係数μe3でもある。符号Ve4は第四区間S4のエンド速度である。符号μe4はエンド速度Ve4における摩擦係数であり、この摩擦係数μe4が第四区間S4のエンド摩擦係数である。したがって、第四区間S4における摩擦係数μの低下率Ds4は、次の式(2d)で示される。
Ds4=(μs4-μe4)/μs4×100 ・・・・・(2d)
【0058】
符号Vs5は第五区間S5のスタート速度である。符号μs5はスタート速度Vs5における摩擦係数であり、この摩擦係数μs5が第五区間S5のスタート摩擦係数である。スタート速度Vs5は上述のエンド速度Ve4であるので、スタート摩擦係数μs5は上述のエンド摩擦係数μe4でもある。符号Ve5は第五区間S5のエンド速度である。符号μe5はエンド速度Ve5における摩擦係数であり、この摩擦係数μe5が第五区間S5のエンド摩擦係数である。第五区間S5は、第二滑り速度V2をエンド速度Vs5とする区間であるので、エンド摩擦係数μe5は参照摩擦係数μrでもある。したがって、第五区間S5における摩擦係数μの低下率Ds5は、次の式(2e)で示される。
Ds5=(μs5-μe5)/μs5×100 ・・・・・(2e)
【0059】
この摩擦伝動ベルトBでは、好ましくは、第一区間S1における摩擦係数μの低下率Ds1、第二区間S2における摩擦係数μの低下率Ds2、第三区間S3における摩擦係数μの低下率Ds3、第四区間S4における摩擦係数μの低下率Ds4、及び、第五区間S5における摩擦係数μの低下率Ds5が4%以下である。言い換えれば、好ましくは、評価対象ゾーンを構成する全ての区間において、上述の式(2)で示される摩擦係数μの低下率Dsmが20/5%、すなわち、4%以下である。これにより、評価対象ゾーンを構成する全ての区間において、摩擦係数μが大幅に低下することが防止される。評価対象ゾーン全体において摩擦係数μは徐々に低下する。この摩擦伝動ベルトBでは、摩擦係数μの変動が小さく抑えられるので、被水によるスティック・スリップの発生が効果的に抑制される。そのため、被水時において異音が発生しにくい。
【0060】
この摩擦伝動ベルトBでは、被水時における異音の発生が効果的に抑制される観点から、評価対象ゾーンを構成する区間の個数nは、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。個数nは多いほど好ましいが、この個数nが多すぎると、滑り速度V及び摩擦係数μの測定精度に起因するノイズが増大する。被水時における異音発生の抑制効果に関する正確な見極めができる観点から、この個数nは15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0061】
この摩擦伝動ベルトBでは、被水時における異音の発生が効果的に抑制されるとともに、動力の伝達効率の向上が図れる観点から、上述の式(1)で示される、摩擦係数μの低下率Dmの上限が15%に設定されてもよい。この場合、上述の式(2)で示される、摩擦係数μの低下率Dsmが、全ての区間において、15/n%以下であるのがより好ましい。被水時における異音の発生がより効果的に抑制されるとともに、動力の伝達効率のさらなる向上が図れる観点から、上述の式(1)で示される、摩擦係数μの低下率Dmの上限が10%に設定されてもよい。この場合、上述の式(2)で示される、摩擦係数μの低下率Dsmが、全ての区間において、10/n%以下であるのがより好ましい。
【0062】
上述したように、この摩擦伝動ベルトBでは、圧縮ゴム層11は、ゴム層本体14と、繊維部材層15とで構成される。この繊維部材層15は、プーリ21と接触するベルト本体10の内周側表面を構成する。この摩擦伝動ベルトBでは、繊維部材層15が水を吸収する。そのため、ベルト本体10とプーリ21との間に水膜は形成されにくい。この摩擦伝動ベルトBでは、摩擦係数μの大幅な低下が防止される。この摩擦伝動ベルトBでは、摩擦係数μの変動が小さく抑えられるので、被水によるスティック・スリップの発生が効果的に抑制される。そのため、被水時において異音が発生しにくい。この観点から、ベルト本体10はプーリ21と接触する圧縮ゴム層11を備え、この圧縮ゴム層11がゴム層本体14と、このゴム層本体14に積層された繊維部材層15とで構成されるのが好ましい。
【0063】
この摩擦伝動ベルトBでは、圧縮ゴム層11の表面がプーリ21と接触する。
図1に示されたVリブドベルトBのように、圧縮ゴム層11の表面が繊維部材層15で構成される場合、圧縮ゴム層11の表層部には、この繊維部材層15の存在に起因して空隙が構成される。この空隙は水の吸収に貢献する。
【0064】
この摩擦伝動ベルトBでは、圧縮ゴム層11の表面から深さ方向に200μmまでの部分を表層部としたとき、この表層部における空隙率は10%以上であるのが好ましい。これにより、表層部に構成された空隙が水の吸収に貢献する。この摩擦伝動ベルトBでは、ベルト本体10とプーリ21との間に水膜は形成されにくい。この摩擦伝動ベルトBでは、摩擦係数μの大幅な低下が防止される。摩擦係数μの変動が小さく抑えられるので、被水によるスティック・スリップの発生が効果的に抑制される。そのため、被水時において異音が発生しにくい。この観点から、空隙率は20%以上がより好ましい。表層部の剛性確保の観点から、この空隙率は70%以下が好ましい。
【0065】
圧縮ゴム層11の表層部における空隙率は、例えば、コンピュータ断層撮影装置(東芝社製の「TOSCANER-30902μhd」)によって撮影される、摩擦伝動ベルトBの断面画像を用いて算出することができる。空隙率の算出では、例えば、撮影された摩擦伝動ベルトBの断面画像をトリミングすることで、表層部の三次元画像が得られる。
【0066】
図4Aには、トリミングによって得られる表層部Kの三次元画像のイメージが模式的に示される。この
図4Aにおいて、符号Tで示される長さが空隙率の算出に用いられる表層部Kの厚さである。この厚さTは、圧縮ゴム層11の表面からの深さに相当し、200μmに設定される。符号Wで示される長さは表層部Kの幅である。この幅Wは800μmに設定される。符号Lで示される長さは表層部Kの長さである。この長さLは2000μmに設定される。このトリミングによって得られる表層部Kの体積は、厚さT、幅W及び長さLの積で表される。
【0067】
表層部Kの三次元画像を得ると、Stack Histogramの二値化手法を用いて、ゴムや繊維からなる物体部の画像と、それ以外の空隙部の画像とに、この三次元画像が分けられる。これにより把握された空隙部の画像に基づいて、表層部Kにおける空隙部の体積を算出し、空隙部の体積の、表層部Kの体積に対する比率で表される、圧縮ゴム層11の表層部Kにおける空隙率が算出される。なお、
図4Bには、三次元画像の二値化処理によって得られる物体部の画像が示される。
図4Cには、三次元画像から物体部の画像を除くことで得られる空隙部の画像が示される。
【0068】
次に、以上説明したVリブドベルトBの製造方法について、図面を参照して説明する。
図5A及び
図5Bは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造で用いる架橋装置30を示す図である。
図6A、
図6B及び
図6Cは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法を説明するための図である。
【0069】
この架橋装置30は、基台31と、その上に立設された円柱状の膨張ドラム32と、その外側に設けられた円筒状の円筒金型33とを備えている。
【0070】
膨張ドラム32は、中空円柱状に形成されたドラム本体32aと、その外周に外嵌めされた円筒状のゴム製の膨張スリーブ32bとを有する。ドラム本体32aの外周部には、各々、内部に連通した多数の通気孔32cが形成されている。膨張スリーブ32bの両端部は、それぞれドラム本体32aとの間で固定リング34,35によって封止されている。架橋装置30には、ドラム本体32aの内部に高圧空気を導入して加圧する加圧手段(図示せず)が設けられている。架橋装置30は、上記加圧手段によりドラム本体32aの内部に高圧空気が導入されると、高圧空気が通気孔32cを通ってドラム本体32aと膨張スリーブ32bとの間に入って膨張スリーブ32bを径方向外向きに膨張させるように構成されている。
【0071】
円筒金型33は、基台31に脱着可能に構成されている。基台31に取り付けられた円筒金型33は、膨張ドラム32との間に間隔をおいて同心状に設けられる。円筒金型33は、内周面に、各々、周方向に延びる複数のVリブ形成溝33aが軸方向(溝幅方向)に連設されている。各Vリブ形成溝33aは、溝底側に向かうに従って幅狭に形成されており、具体的には、断面形状が、製造するVリブドベルトBのVリブ18と同一形状に形成されている。架橋装置30には、円筒金型33の加熱手段及び冷却手段(いずれも図示せず)が設けられており、これらの加熱手段及び冷却手段により円筒金型33の温度制御が可能となるように構成されている。
【0072】
実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法では、まず、ゴム成分に、架橋剤を含む各ゴム配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して圧縮ゴム層11のゴム層本体14用の未架橋ゴムシート14’を作製する。同様に、接着ゴム層12のゴム層本体16用の未架橋ゴムシート16’も作製する。また織布又は編布からなる繊維部材層15と、織布又は編布からなる背面補強布13とを準備し、必要に応じて接着処理を施す。この製造方法では、繊維部材層15は予め筒状に形成される。背面補強布13も、予め筒状に形成しておいてもよい。さらに、心線17を準備し、必要に応じて心線17に接着処理を施す。
【0073】
次いで、
図6Aに示すように、表面が平滑な円筒ドラム36上にゴムスリーブ37を被せ、その上に、背面補強布13、及び接着ゴム層本体16用の未架橋ゴムシート16’を順に巻き付けて積層し、その上から心線17を螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層本体16用の未架橋ゴムシート16’、及び圧縮ゴム層本体14用の未架橋ゴムシート14’を順に巻き付ける。最後に、未架橋ゴムシート14’の上に筒状の繊維部材層15を被せて未架橋スラブS’を成形する。
【0074】
次いで、円筒ドラム46から未架橋スラブS’を設けたゴムスリーブ37を外し、
図6Bに示すように、円筒金型33の内周面側に内嵌めした後、その未架橋スラブS’を設けた円筒金型33を、膨張ドラム32を覆うように設けて基台31に取り付ける。
【0075】
続いて、円筒金型33を加熱すると共に、
図6Cに示すように、膨張ドラム32のドラム本体32aと膨張スリーブ32bとの間に通気孔32cを介して高圧空気を注入して膨張スリーブ32bを膨張させる。このとき、未架橋スラブS’が円筒金型33に対して押し付けられ、未架橋ゴムシート14’,16’が繊維部材層15を押圧して伸張させながらVリブ形成溝33aに流入するとともに、それらのゴム成分の架橋が進行して一体化し、かつ繊維部材層15、心線17、及び背面補強布13と複合し、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。このベルトスラブSの成型温度は例えば100℃以上180℃以下、成型圧力は例えば0.5MPa以上2.0MPa以下、成型時間は例えば10分以上60分以下である。
【0076】
そして、膨張ドラム32のドラム本体32aと膨張スリーブ32bとの間から高圧空気を抜いた後、円筒金型33の内周面上に成型されたベルトスラブSを取り出し、ベルトスラブSを所定のVリブ18の個数に輪切りして表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【0077】
なお、繊維部材層15の延伸率、及び、成型圧力を調整することで、上述の、圧縮ゴム層11の表層部Kにおける空隙率がコントロールされる。繊維部材層15の延伸率は、繊維部材層15を円筒金型33の高さ方向もしくは円周方向に引き伸ばすことで調整される。この延伸率は、延伸後の繊維部材層15の幅の、延伸前の繊維部材層15の幅もしくは周長に対する比率で表される。
【0078】
ここまで、本発明の実施形態にかかる摩擦伝動ベルトとしてVリブドベルトの実施形態を説明したが、本発明の実施形態にかかる摩擦伝動ベルトは、これに限られず、Vベルト、平ベルト等であっても良い。
【実施例0079】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、実施例1~6及び比較例1のVリブドベルトを作製し、評価した。
【0080】
<繊維部材層のための材料>
繊維部材層の形成のために、接着処理を施すことなく、次に示す3種類の編布を用意した。
(編布A)綿繊維及びポリウレタン繊維からなる編糸で編んだ丸編の編布
(編布B)綿繊維、ナイロン繊維及びポリウレタン繊維からなる編糸で編んだ丸編の編布
(編布C)ナイロン繊維及びポリウレタン繊維からなる編糸で編んだ丸編の編布
繊維部材層を構成する繊維に占めるセルロース系繊維(綿繊維)の割合は、編布Aでは84%、編布Bでは47%、そして編布Cでは0%であった。
【0081】
<圧縮ゴム層本体及び接着ゴム層本体のための材料>
EPDMと、硫黄とを含むゴム配合剤を配合した未架橋ゴム組成物を混練後、カレンダーロールで圧延し、圧縮ゴム層本体用の未架橋ゴムシートと、接着ゴム層本体用の未架橋ゴムシートを作製した。
【0082】
<心線のための材料>
心線のための材料として、ポリエステル繊維の撚り糸を準備し、これをRFL水溶液に浸漬し、その後、加熱乾燥する接着処理を行ったものを用意した。
【0083】
<背面補強布のための材料>
背面補強布として、綿ポリエステル混紡糸を用いた織布をRFL水溶液に浸漬し、その後、加熱乾燥する接着処理を行ったものを用意した。
【0084】
[実施例1]
上記実施形態と同様の構成を有し、繊維部材層として編布Aを使用し、圧縮ゴム層本体材料、接着ゴム層本体材料、心線及び背面補強布として上述したものを使用したVリブドベルトを、
図5A~
図6Cを参照しながら説明した製造方法で作製し、実施例1のVリブドベルトとした。
この実施例1では、繊維部材層の延伸率は180%、成型圧力は0.7MPaに設定された。圧縮ゴム層の表層部における空隙率は38%であった。
【0085】
[実施例2~4及び比較例1]
延伸率及び成型圧力を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1のVリブドベルトを作製した。
実施例2~4及び比較例1のそれぞれにおける表層部の空隙率は、表2に示される通りであった。
【0086】
[実施例5]
繊維部材層に編布Bを用い、延伸率及び成型圧力を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5のVリブドベルトを作製した。
この実施例4では、表層部の空隙率は22%であった。
【0087】
[実施例6]
繊維部材層に編布Cを用い、延伸率及び成型圧力を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例6のVリブドベルトを作製した。
この実施例6では、表層部の空隙率は20%であった。
【0088】
<被水時動的摩擦係数の評価>
図2に示されたベルト走行試験機20を用いて、上述した評価方法にしたがって、実施例1~6及び比較例1について、滑り速度と摩擦係数との関係を得、上述の式(1)で示される摩擦係数の低下率Dmを求めた。さらに第一滑り速度V1から第二滑り速度V2までのゾーンを5個の区間に等分し、それぞれの区間について、上述の式(2)で示される摩擦係数の低下率Dsm、すなわち、低下率Ds1、Ds2、Ds3、Ds4及びDs5を求めた。その結果が下記の表2に示されている。
【0089】
<被水時異音評価>
図7は、被水時異音評価用ベルト走行試験機40のプーリレイアウトを示す。
図7中、符号BはVリブドベルトである。
【0090】
被水時異音評価用ベルト走行試験機40は、プーリ径が140mmのリブプーリである駆動プーリ41を備え、その駆動プーリ41の右方にプーリ径が75mmのリブプーリである第1従動プーリ42が設けられ、また、第1従動プーリ42の上方で駆動プーリ41の右斜め上方にプーリ径が50mmのリブプーリである第2従動プーリ43が設けられ、更に、駆動プーリ41と第2従動プーリ43との中間にプーリ径が75mmの平プーリであるアイドラプーリ44が設けられている。そして、この被水時異音評価用ベルト走行試験機40は、VリブドベルトのVリブ側がリブプーリである駆動プーリ41、第1及び第2従動プーリ42,43に接触すると共に背面側が平プーリであるアイドラプーリ44に接触して巻き掛けられるように構成されている。
【0091】
実施例1~6及び比較例1のそれぞれのVリブドベルトについて、上記被水時異音評価用ベルト走行試験機40にセットし、1リブ当たり49Nのベルト張力が負荷されるようにプーリ位置決めを行い、第2従動プーリ43にそれが取り付けられたオルタネータに60Aの電流が流れるように抵抗を与え、常温下、駆動プーリ41を800rpmの回転数で回転させ、Vリブドベルトの駆動プーリ41への進入部においてVリブドベルトのVリブ側に毎分1000mlの割合で水を滴下した。そして、ベルト走行時の異音発生状況を、「S:異音の発生が全く認められない。A:異音の発生が微かに認められる。B:異音の発生が僅かに認められる。C:異音の発生が明らかに認められる。D:激しい異音の発生が認められる。」の5段階で評価した。
【0092】
【0093】
表2に示した通り、本発明の実施形態に係るVリブドベルトによれば、摩擦係数の低下が抑制され、被水時に発生する異音の低減が達成される。
また、圧縮ゴム層の表層部における空隙率が大きいほど、摩擦係数の低下率を小さく抑えることができることも確認されている。