(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171245
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】振動計および振動測定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/16 20060101AFI20221104BHJP
G01P 15/18 20130101ALI20221104BHJP
【FI】
G01V1/16
G01P15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077792
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】592041982
【氏名又は名称】国陽電興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川満 逸雄
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博之
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105BB05
2G105EE04
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】設置姿勢に拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを測定できる振動計および振動測定方法を提供する。
【解決手段】振動計は、三軸加速度センサによって構成された加速度センサと、地磁気センサと、制御部とを含む。制御部は、第1の演算処理工程(S22)において、重力加速度Gの方向がZ軸に一致するように、加速度センサの三方向出力値を、センサ三軸の座標系から第2の直交座標系に変換する。また、制御部は、第2の演算処理工程において、加速度センサのセンサ軸(y´)が北(磁北)を向くように、変換後の加速度値を、第1の直交座標系に変換する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三軸加速度センサによって構成された加速度センサと、
前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、鉛直方向の加速度の大きさを算出する第1の演算処理部と、
前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、水平二方向の加速度の大きさを算出する第2の演算処理部と、を含む、振動計。
【請求項2】
前記振動計の水平方向の方位を検出する地磁気センサをさらに含み、
前記第2の演算処理部は、前記振動計の前記水平方向の前記方位にさらに基づいて、所定の第1の水平方向および所定の第2の水平方向の加速度の大きさを算出する、請求項1に記載の振動計。
【請求項3】
前記加速度センサ、前記第1の演算処理部および前記第2の演算処理部を収容する筐体をさらに含む、請求項1または2に記載の振動計。
【請求項4】
三軸加速度センサによって構成された加速度センサを用いてセンサ軸三方向の各加速度を測定する振動測定方法であって、
前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、鉛直方向の加速度の大きさを算出する第1の演算処理工程と、
前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、水平二方向の加速度の大きさを算出する第2の演算処理工程と、を含む、振動測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動計および振動測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加速度センサを備えた振動計が知られている。
下記特許文献1,2には、加速度センサが搭載された地震動計測装置が開示されている。
下記特許文献3には、加速度センサおよび地磁気センサという複数の種類のセンサを備えた地震計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-181915号公報
【特許文献2】特開2014-215128号公報
【特許文献3】特開2009-30990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動計(地震動計測装置、地震計)では、南北方向、東西方向および鉛直方向の三方向の加速度の大きさが計測(測定)される。各方向の加速度の大きさを正確に測定するには、振動計の設置状態において、加速度センサの三軸が、それぞれ、南北方向(水平方向の一つ)、東西方向(水平方向の一つ)および鉛直方向の各方向に沿っていなければならない。
【0005】
そのため、振動計を設置する際に、加速度センサのz´軸が鉛直方向を向く姿勢(水平姿勢)、かつ加速度センサのx´軸またはy´軸が北方向を向く姿勢(北姿勢)に、振動計の姿勢を調整する必要がある。この調整には極めて高度な技術が必要であり、専門業者でないと、このような調整を行えなかった。すなわち、専門業者でなければ、振動計を設置することができなかった。
【0006】
一方、振動計を広く普及させるためには、誰でも設置可能な振動計が望まれている。
そのため、設置姿勢によらずに(設置姿勢が水平姿勢や北姿勢でなくても)、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを正確に測定できる振動計が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、設置姿勢に拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを測定できる振動計および振動測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一実施形態は、三軸加速度センサによって構成された加速度センサと、前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、鉛直方向の加速度の大きさを算出する第1の演算処理部と、前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、水平二方向の加速度の大きさを算出する第2の演算処理部と、を含む、振動計を提供する。
【0008】
この明細書において、南北方向、東西方向および鉛直方向(上下方向)にそれぞれ延びる三つの座標軸からなる空間の直交座標系を、「第1の直交座標系」という。また、互いに直交する2つの水平方向、および鉛直方向にそれぞれ延びる三つの座標軸からなる空間の直交座標系を、「第2の直交座標系」という。
この構成によれば、加速度センサが三軸加速度センサによって構成されている。加速度センサが重力加速度を加速度として含めて測定するので、加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値に基づき、振動計が、当該加速度センサの傾きを把握可能である。
【0009】
そして、加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値を、当該加速度センサの傾きに応じて補正(変換)する。これにより、加速度センサの傾きに拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを算出できる。
ゆえに、振動計の設置姿勢に拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを測定できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記振動計が、前記振動計の水平方向の方位を検出する地磁気センサをさらに含む。そして、前記第2の演算処理部は、前記振動計の前記水平方向の前記方位さらに基づいて、所定の第1の水平方向および所定の第2の水平方向の加速度の大きさを算出する。
この構成によれば、振動計が地磁気センサを備えている。そのため、振動計が、振動計の水平方向の方位を把握可能である。
【0011】
そして、第2の演算処理部によって算出された水平二方向の加速度の大きさを、振動計の水平方向の方位に応じて補正(変換)する。これにより、振動計の水平方向の方位に拘わりなく、第1の水平方向および第2の水平方向の加速度の大きさを算出できる。
そのため、振動計の設置姿勢に拘わりなく、第1の水平方向、第2の水平方向および鉛直方向の加速度の大きさを正確に算出できる。
【0012】
第1の水平方向を、南北方向および東西方向の一方とし、第2の水平方向を、南北方向および東西方向の他方とすることができる。この場合、振動計を設置する際に、第1の直交座標系の座標軸(南北方向軸、東西方向軸および鉛直方向軸)にセンサ軸三方向が沿うように、振動計の姿勢を調整する必要がない。そのため、誰でも設置可能な振動計を提供できる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記振動計が、前記加速度センサ、前記第1の演算処理部および前記第2の演算処理部を収容する筐体をさらに含む。
この構成によれば、加速度センサ、第1の演算処理部および第2の演算処理部が、1つの筐体に収容されるので、これらの部材を1つのユニットとして取り扱うことができる。
この発明の一実施形態は、三軸加速度センサによって構成された加速度センサを用いてセンサ軸三方向の各加速度を測定する振動測定方法であって、前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、鉛直方向の加速度の大きさを算出する第1の演算処理工程と、前記加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値、および当該加速度センサの傾きに基づいて、水平二方向の加速度の大きさを算出する第2の演算処理工程と、を含む、振動測定方法を提供する。
【0014】
この方法によれば、加速度センサが三軸加速度センサによって構成されている。加速度センサが重力加速度を加速度として含めて測定するので、加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度値に基づき、振動計が、当該加速度センサの傾きを把握可能である。
そして、加速度センサによって出力されたセンサ軸三方向の加速度の大きさを、当該加速度センサの傾きに応じて補正(変換)する。これにより、加速度センサの傾きに拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを算出できる。
【0015】
ゆえに、振動計の設置姿勢に拘わりなく、水平二方向および鉛直方向の加速度の大きさを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の振動計を含む振動測定システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、振動計の筐体および加速度センサの構成を示す斜視図である。
【
図3A-3C】
図3A-3Cは、加速度センサの姿勢を説明するための図である。
【
図4A-4B】
図4A-4Bは、加速度センサのセンサ軸三方向と、第2の直交座標系(X,Y,Z)の座標軸との関係を説明するための図である。
【
図5】
図5は、第2の直交座標系(X,Y,Z)の座標軸と第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸との関係を説明するための図である。
【
図6】
図6は、前記振動計を用いた振動測定の流れ図である(その1)。
【
図7】
図7は、前記振動計を用いた振動測定の流れ図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の振動計1を含む振動測定システム100の構成を示す図である。振動測定システム100は、所定の測定地点において振動計1を用いて振動を測定し、測定された振動を管理するためのシステムである。振動システム100は、測定地点の常時微動を測定等することを目的とするシステムであってもよいし、測定地点における地震動を測定等することを目的とするシステムであってもよい。また、振動システム100は、測定地点における常時微動および地震動の双方を測定等することを目的とするシステムであってもよい。
【0018】
振動測定システム100は、測定地点に配置される振動計1と、所定の施設P内に配置された振動管理サーバー2と、を含む。振動測定システム100は、作業者が保持する携帯端末3をさらに含む。振動計1は、測定地点における地盤や床に配置され、当該地盤や床の振動を測定する。
図1に示すように、振動計1が複数の測定地点に配置されていてもよい。
【0019】
振動管理サーバー2は、一または複数の振動計1から送られてくる測定データを記憶する。振動管理サーバー2は、振動測定システム100における上位装置であって、パソコン等によって構成される。
振動計1を、地震動を測定する地震動測定装置(地震計)として使用する場合、すなわち、振動測定システム100を地震動測定システムとして使用する場合、振動管理サーバー2が配置される施設は、振動計(地震計)設置者の事務所などである。なお、振動管理サーバー2が、施設P内に配置されたサーバーとは別のサーバー(たとえばクラウドサーバ)であって、振動管理サーバー2との間で測定データをやり取り可能なサーバーであってもよい。
【0020】
振動管理サーバー2は、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む制御部と、不揮発性メモリやハードディスクドライブといった記憶デバイスによって構成された記憶部と、通信I/F部とを含む。振動管理サーバー2の記憶部には、複数の振動計1から送られてきた振動データ(振動波形)が記憶されている。
【0021】
振動管理サーバー2の制御部は、通信I/F部および公衆回線Nを介して、携帯端末3と外部通信できる。
携帯端末3は、管理者が所持するスマートフォンやタブレット端末である。携帯端末3は、制御部と、表示操作部と、記憶部と、通信I/F部とを含む。制御部には、表示操作部、記憶部および通信I/F部のそれぞれが電気的に接続されている。
【0022】
振動計1において、測定結果に基づく三次元の測定データ(各方向の振動波形)が作成される。振動計1の操作は、管理者が携帯端末3を操作することにより遠隔で行う。振動計1からの測定データは、携帯端末3における管理者の操作に基づき、携帯端末3を介して振動管理サーバー2に付与される。
振動測定システム100において、複数の測定地点の振動が複数の振動計1によって同時に測定されてもよい。振動計1を地震計として使用する場合(振動測定システム100を地震動測定システムとして使用する場合)、複数の測定地点の地震動を、同時に測定することができる。
【0023】
振動計1は、制御部(第1の演算処理部、第2の演算処理部)11と、記憶部12と、加速度センサ13と、地磁気センサ14と、GPSセンサ15と、電源部16と、通信部17と、箱状の筐体18と、を含む。
制御部11には、記憶部12と、加速度センサ13と、地磁気センサ14と、GPSセンサ15と、電源部16と、通信部17とのそれぞれが電気的に接続されている。制御部11は、マイクロコンピューターによって構成されている。より具体的には、制御部11は、プロセッサ等の演算ユニット19、記憶ユニット20、タイマー等を含む。プロセッサは、GPU(Graphic Processing Unit)およびCPU(Central Processing Unit)などを含む。記憶ユニット20は、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む。
【0024】
記憶部12は、不揮発性メモリやハードディスクドライブといった記憶デバイスによって構成されている。記憶部12は、様々な情報を記憶する。記憶部12には、制御部11のプロセッサによって実行可能なプログラムが記憶されている。記憶部12は、制御部11によって作成された三次元の測定データ(各方向の振動波形)が記憶されている。この三次元の測定データは、テーブル23(
図8参照)の形で記憶されている。
【0025】
加速度センサ13は、センサ軸三方向の加速度の大きさを検出する三軸加速度センサによって構成されている。加速度センサ13は、重力加速度を加速度として含めて測定するタイプの加速度センサである。加速度センサ13のセンサ軸は、x´,y´,z´の三軸である。加速度センサ13は、センサ軸三方向の加速度の大きさをデジタル値で出力するデジタル加速度センサである。また、加速度センサ13は、たとえば、圧電素子に水晶が使用されたクオーツ型加速度センサである。クオーツ型加速度センサ(デジタル加速度センサ)では、重力加速度を含む絶対加速度が出力される。そのため、重力方向加速度の算出から、重力方向を算出できる。したがって、加速度センサ13の出力に基づき、振動計1が、当該加速度センサ13の傾き(たとえば、鉛直方向に対する当該加速度センサ13の傾き)を把握可能である。加速度センサ13の出力は常時変動するので、加速度センサ13の出力は振動波形として検出される。加速度センサ13の出力、すなわち、加速度センサ13のセンサ軸三方向の加速度値は、制御部11の演算ユニット19に付与される。
【0026】
また、加速度センサ13としてデジタル式加速度センサが用いられるので、アナログ値からデジタル値に変換するA/D変換装置を設ける必要がない。
なお、加速度センサ13としてデジタル加速度センサを例に挙げて説明したが、重力加速度も加速度として含めて測定するタイプの加速度センサであれば、アナログ式の加速度センサであってもよい。
【0027】
地磁気センサ14は、方位を測定するセンサである。地磁気センサ14は、たとえば三軸地磁気センサで構成されている。この実施形態では、北方向(磁北方向)を検出するだけでよいので、地磁気センサ14が、二軸地磁気センサで構成されていてもよい。地磁気センサ14は、磁場(磁界)の向きを測定することにより方位を求める。振動計1に地磁気センサ14を配置することにより、地磁気センサ14の向き、加速度センサ13の向き、および振動計1の方位を求めることができる。
【0028】
GPSセンサ15は、GPS(Global Positioning System)用の人工衛星からの電波を受信し、振動計1の絶対位置の位置情報(緯度、経度)と、現在の時刻とを検出するセンサである。GPSセンサ15による振動計1の絶対位置検出は定期的に行われる。
電源部16は、常時は、コンセントプラグ21を介して、商用電源(AC電源)から電力を受ける。電源部16には電池22が接続されており、停電時には、電池22からの電力が電源部16に与えられる。そのため、突然の停電があっても、電源部16からの電力供給が途絶えないので、振動計1による測定を続行できる。電池22は、充電式の電池であってもよい。
【0029】
通信部17は、制御部11が、振動計1以外の他の装置と通信するためのインターフェース部である。通信部17は、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)などのプロトコルで、公衆回線Nに接続されている。通信部17として、NIC(Network Interface Card)またはWi-Fi用の通信装置が設けられる。制御部11は、通信部17および公衆回線Nを介して、携帯端末3や振動管理サーバー2と外部通信できる。
【0030】
筐体18は、箱状をなしている(
図2参照)。筐体18の内部には、制御部11と、記憶部12と、加速度センサ13と、地磁気センサ14と、GPSセンサ15と、電源部16とが収容されている。制御部11、記憶部12、加速度センサ13、地磁気センサ14、GPSセンサ15および電源部16が1つの筐体18に収容されるので、これらの部材を1つのユニットとして取り扱うことができる。
【0031】
振動計1は、測定地点のたとえば地表面に設置される。振動計1は、測定地点の常時微動のみを測定してもよいし、測定地点における常時微動および地震動の双方を測定してもよい。
図2は、振動計1の筐体18および加速度センサ13の構成を示す斜視図である。
加速度センサ13は、筐体18内に収容されている。加速度センサ13のハウジングは、たとえば直方体形状である。加速度センサ13の3つのセンサ軸(x´,y´,z´)のうちz´軸は、加速度センサ13のハウジングの上下主面に直交する方向に延びている。加速度センサ13の3つのセンサ軸(x´,y´,z´)のうちx´軸は、加速度センサ13の長手方向および幅方向の一方(
図2の例では長手方向)に沿って延びている。加速度センサ13の3つのセンサ軸(x´,y´,z´)のうちy´軸は、加速度センサ13の長手方向および幅方向の他方(
図2の例では幅方向)に沿って延びている。x´軸、y´軸およびz´軸は、互いに直交している。
【0032】
筐体18は、たとえば直方体の箱状である。加速度センサ13は、振動計1の箱状の筐体18の上下面に対し、平行に配置されている。そのため、筐体18の上下方向は、センサ軸のうちz´軸の延びる方向に一致している。また、筐体18の左右方向は、センサ軸のうちx´軸の延びる方向に一致している。筐体18の前後方向は、センサ軸のうちy´軸の延びる方向に一致している。なお、筐体18の左右方向および前後方向のそれぞれが、x´軸の延びる方向およびy´軸の延びる方向ではなく、y´軸の延びる方向およびx´軸の延びる方向に一致していてもよい。
【0033】
この実施形態では、第1の直交座標系のME軸(東西方向軸)およびMN軸(南北方向軸)のそれぞれが、センサ三軸のx´軸およびy´軸にそれぞれ対応する、として説明する。この場合、ME方向(磁東方向)およびMN方向(磁北方向)のそれぞれが、センサ軸三方向のx´方向およびy´方向に対応する。
振動計1では、南北方向、東西方向および鉛直方向の三方向の加速度大きさが測定される。センサ軸(x´,y´,z´)の三方向(以下、単に「センサ軸三方向」という場合がある)が、それぞれ第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸に沿っている場合には、加速度センサ13から出力されるセンサ軸三方向の加速度値(以下、単に「加速度センサ13の三方向出力値」という場合がある)が、第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸における加速度の大きさに一致する。この場合、加速度センサ13の三方向出力値を、東西方向の加速度大きさ、南北方向の加速度大きさおよび鉛直方向の加速度大きさとすることができる。
【0034】
一方、センサ軸三方向が第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸に沿っていない場合には、加速度センサ13の三方向出力値が、第1の直交座標系(ME,MN,Z)加速度の大きさに一致しない。この場合、加速度センサ13の三方向出力値が、それぞれ南北方向の加速度大きさ、東西方向の加速度大きさおよび鉛直方向の加速度大きさと異なる。
【0035】
図3A-3Cは、加速度センサ13の姿勢を説明するための図である。
図3A,3Bに示すように、振動計1が水平面に対して傾斜する傾斜姿勢をなす場合、加速度センサ13のz´軸が、第1の直交座標系のZ軸に対して傾斜する。この場合、加速度センサ13のz´軸の出力が、第1の直交座標系のZ軸の加速度の大きさに一致しない。
【0036】
また、
図3Cに示すように、設置状態にある振動計1の方位が、加速度センサ13のx´軸またはy´軸に対して傾斜する場合、加速度センサ13のx´軸およびy´軸が、第1の直交座標系のME軸(東西方向軸、第1の水平方向、互いに直交する水平二方向のうちの一つ)およびMN軸(南北方向軸、第2の水平方向、互いに直交する水平二方向のうちの一つ)のそれぞれに対して傾斜する。この場合、加速度センサ13のx´軸およびy´軸の出力が、それぞれ第1の直交座標系のME軸およびMN軸の加速度の大きさに一致しない。
【0037】
本発明の振動計1では、加速度センサ13から出力されるセンサ軸三方向の加速度値を、加速度センサ13の傾きや向きに応じて第1の直交座標系(ME,MN,Z)における加速度の大きさに変換し、変換後の加速度の大きさを測定データとして外部機器に出力する。そのため、振動計1では、振動計1の傾きや方位に拘わりなく、振動計1を水平姿勢(加速度センサ13のz´軸が鉛直方向を向く姿勢(水平姿勢))かつ北姿勢(加速度センサ13のx´軸またはy´軸(この実施形態では、y´軸)が北方向を向く姿勢)に設置した場合の加速度センサ13のセンサ軸三方向の加速度値と同じ大きさの加速度値を出力できる。すなわち、振動計1の傾きや方位に拘わりなく、南北方向、東西方向および鉛直方向の三方向の加速度大きさを測定できる。なお、
図3Cにおいて、「MN」および「ME」とあるのは、それぞれ「磁北」および「磁東」の意味である。
図5においても同じである。
【0038】
図4Aおよび
図4Bは、加速度センサ13のセンサ軸三方向と、第2の直交座標系(X,Y,Z)の座標軸との関係を説明するための図である。
図4Bは、
図4Aを、z´軸側から見た図である。
振動計1では、加速度センサ13の三方向出力値を2回変換する。
1回目の変換において、加速度センサ13から出力されるセンサ軸三方向の加速度値を、第2の直交座標系(X,Y,Z)に変換する。そして、2回目の変換において、第2の直交座標系(X,Y,Z)の加速度値を、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換する。すなわち、2回目の変換において、X方向およびY方向の加速度値を、それぞれME方向およびMN方向の加速度値に変換する。
【0039】
1回目の変換では、重力加速度Gの方向がZ軸に一致するように、センサ三軸の座標系(x´,y´,z´)を第2の直交座標系(X,Y,Z)に変換する。
重力加速度Gの方向とz´軸とのなす角度を傾きγ(
図4A参照)とする。重力加速度Gのベクトルとz´軸との双方を含む平面(x´-y´平面)を、平面Qとする。また、O´点を通り、平面Qに直交する軸をp-p´とする。x´軸と平面Qとのなす角度を傾きθ(
図4B参照)とする。加速度センサ13から出力されたx´軸方向の加速度値、y´軸方向の加速度値およびz´軸方向の加速度値を、それぞれA
x´、A
y´およびA
z´とする。第2の直交座標系(X,Y,Z)に変換後のX軸方向の加速度値、Y軸方向の加速度値およびZ軸方向の加速度値を、それぞれA
X、A
YおよびA
Zとする。
【0040】
このとき、1回目の変換には、次の式(1)~式(3)の3つの変換式が用いられる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
図5は、第2の直交座標系(X,Y,Z)の座標軸と第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸との関係を説明するための図である。
2回目の変換は、加速度センサ13のセンサ軸(y´)が、地磁気センサ14によって求まる磁北を向くように、すなわち、Y軸およびX軸がそれぞれMN軸およびME軸に一致するように、第2の直交座標系(X,Y,Z)を第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換する。MN方向とy´軸とのなす角度を傾きα(
図5参照)とする。変換後のMN方向の加速度値およびME方向の加速度値を、それぞれA
MNおよびA
MEとする。
【0045】
このとき、2回目の変換には、次の式(4)および式(5)の2つの変換式が用いられる。
A
ME=A
Xcosα-A
Ysinα ・・・(4)
A
MN=A
Xsinα+A
Ycosα ・・・(5)
図6および
図7は、振動計1を用いた振動測定の流れ図である。
図6および
図7を参照しながら、振動計1を用いた振動測定について説明する。
【0046】
振動計1を測定地点に設置した後、振動計1を用いて測定地点の常時微動を測定する。振動計1は、加速度センサ13による常時微動の検出出力に基づいて、重力加速度Gの大きさおよび重力加速度Gの向き(傾きγ、傾きθ)を算出する。重力加速度Gの向きは、鉛直方向に対する重力加速度Gの傾き、すなわち、加速度センサ13の傾きである。
常時微動の測定(
図6のS10)では、制御部11は、加速度センサ13の三方向出力値を読み取り、それを記憶ユニット20に記憶する。
【0047】
制御部11は、まず、重力加速度Gの大きさを求める。制御部11は、常時微動の乱れの少ない区間のそれぞれにおける、加速度センサ13の三方向出力値の平均値(A
vx,A
vy,A
vz)を算出する(
図6のS11)。そして、制御部11は、各方向の加速度値の平均値を用いて、重力加速度Gの大きさを算出し、それを記憶ユニット20に記憶する(
図6のS12)。重力加速度Gの大きさの算出には、次の式(6)が用いられる。
【0048】
【数4】
次に、制御部11は、重力加速度Gの向きを求める。
制御部11は、鉛直方向の加速度と、振動計1のセンサ軸のz´軸方向の加速度とから、振動計1のz´軸と鉛直方向(Z方向)との傾き(角度)γを求める。具体的には、制御部11は、次の式(7)を用いて、重力加速度Gの方向のz´軸に対する傾きγ(
図4A参照)を算出し、それを記憶ユニット20に記憶する(
図6のS13)。
【0049】
【数5】
また、制御部11は、重力加速度Gを、センサ軸の平面Q(x´-y´平面)に投影した鉛直方向の傾き(角度)θを求める。具体的には、制御部11は、次の式(8)を用いて、x´軸に対する平面Qの傾きθ(
図4B参照)を算出し、それを記憶ユニット20に記憶する(
図6のS14)。
【0050】
【数6】
図6のS13,S14によって傾きγおよび傾きθが算出されることにより、重力加速度Gの向きが求められる。
次に、制御部11は、地磁気センサ14の検出出力に基づいて、y´軸に対するMN方向の傾きα(
図5参照)を算出し、それを記憶ユニット20に記憶する(
図6のS15)。
【0051】
前述のように、振動計1は、測定地点の常時微動のみを測定してもよいし、測定地点における常時微動および地震動の双方を測定してもよい。
振動計1を用いて地震動を測定する場合には、重力加速度Gの大きさおよび重力加速度Gの向き(傾きγ、傾きθ)の算出および記憶が行われた後、特段の操作なく、そのままの状態で待機させられる。そして、地震発生時に、振動計1を用いて地震動が測定される。このとき、振動計1は、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換後の加速度値を測定する。
【0052】
制御部11は、加速度センサ13の検出出力を監視する。加速度センサ13の三方向出力値(A
x´,A
y´,A
z´)が制御部11に取得される(
図7のS21)。
制御部(第1の演算処理部、第2の演算処理部)11は、第1の変換処理工程(
図7のS22、第1の演算処理工程、第2の演算処理工程)を実行する。第1の変換処理工程(S22)では、上記の1回目の変換が行われる。すなわち、制御部11は、重力加速度Gの方向がZ軸に一致するように、加速度センサ13から出力されるセンサ軸三方向の加速度値を、センサ三軸の座標系(x´,y´,z´)から第2の直交座標系(X,Y,Z)に変換する。さらに換言すると、常時微動の乱れの少ない区間における加速度センサ13の検出出力に基づき算出された重力加速度Gの値によって、鉛直方向(Z方向)の加速度が算出される。
【0053】
センサ三軸の座標系(x´,y´,z´)から第2の直交座標系(X,Y,Z)への変換には、上記の式(1)~式(3)が用いられる。
次いで、制御部(第1の演算処理部)11は、第2の変換処理工程(
図7のS23、第2の演算処理工程)を実行する。第2の変換処理工程(S23)では、上記の2回目の変換が行われる。すなわち、加速度センサ13のセンサ軸(y´)が、地磁気センサ14によって求まるMN(磁北)を向くように、変換後の加速度値を、第1の直交座標系(ME,MN,Z)の座標軸に変換する。
【0054】
第2の直交座標系(X,Y,Z)から第1の直交座標系(ME,MN,Z)への変換には、上記の式(4)および式(5)が用いられる。
これにより、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換された加速度値(AX,AY,Z)加速度値が算出される。
制御部11は、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換された後の加速度値を記憶部12に記憶する。具体的には、これらの加速度値を含む測定結果についてテーブル23が作成される。
【0055】
図8は、テーブル23の一例を示す図である。
テーブル23には、振動計1を用いた振動測定の測定結果が記憶されている。テーブル23には、個々の測定結果に対し、加速度値A
MN、加速度値A
MEおよび加速度値A
Zが記憶されている。
図8では、テーブル23の内容のうち、1つの測定結果に関連する内容を例示している。
【0056】
個々の測定結果には、振動計1の位置情報(GPSセンサ15によって検出された、振動計1の絶対位置の位置情報)、および測定時の時刻情報(GPSセンサ15によって検出された時刻情報)が紐付けて、加速度値A
MN、加速度値A
MEおよび加速度値A
Zが記憶されている。測定時の時刻情報は、測定開始日時と、測定開始時刻からの経過時間とを含む。
図8の例では、開始日時からの経過時間(sec)に応じて加速度値が記憶されている。加速度値A
MN、加速度値A
MEおよび加速度値A
Zは、たとえば0.01(sec)の微小単位で記憶されている。このように、加速度値A
MN、加速度値A
MEおよび加速度値A
Zが0.01(sec)の微小単位で記憶されているので、これらの記憶値に基づいて振動波形を得ることができる。
【0057】
テーブル23に記憶されている測定結果は、振動管理サーバー2に送られ、振動管理サーバー2において管理される。
また、振動計1を用いて常時微動を測定する場合、携帯端末3の操作によって、測定が開始される。そして、
図7のS21~S24に示す工程が実行される。
以上によりこの実施形態によれば、加速度センサ13が三軸加速度センサによって構成されている。加速度センサ13が重力加速度を加速度として含めて測定するので、加速度センサ13によって出力されたセンサ軸三方向の加速度値に基づき、振動計1が、加速度センサ13の傾きを把握可能である。また、振動計1が、地磁気センサ14を含む。そのため、振動計1が、振動計1の水平方向の方位を把握可能である。
【0058】
そして、第1の変換処理工程(S22)および第2の変換処理工程(S23)において、加速度センサ13から出力されるセンサ軸三方向の座標系(x´,y´,z´)の加速度値を、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換する。
これにより、振動計1の傾きや方位(加速度センサ13の傾きや向き)に拘わりなく、振動計1に作用する、南北方向、東西方向および鉛直方向の三方向の加速度大きさを測定できる。
【0059】
したがって、振動計1を設置する際に、センサ軸三方向の座標系(x´,y´,z´)がそれぞれ第1の直交座標系(ME,MN,Z)に一致するように、振動計1の姿勢を調整する必要がない。そのため、設置が極めて簡単な振動計1を提供できる。
振動計1の設置が容易に行えるため、振動計1の設置箇所を頻繁に変えることもできる。とくに、常時微動のみを測定する際には、振動計1を測定地点に必ずしも固定的に配置する必要はない。そのため、振動計1の設置箇所を変えることにより、1台の振動計1で多数の測定地点の振動を測定することができる。
【0060】
従来と比べて、振動計1の設置に専門的な知識が不要になるので、振動計1の設置に要する費用を大幅に削減できる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態において、第2の直交座標系(X,Y,Z)の加速度値を、第1の直交座標系(ME,MN,Z)に変換する(2回目の変換)を省略してもよい。この場合、第2の直交座標系(X,Y,Z)に変換後の加速度値を、記憶部12に記憶したり、振動管理サーバー2等の外部装置に出力したりしてもよい。
【0061】
また、第1の直交座標系において、MN軸(南北方向軸)およびME軸(東西方向軸)のそれぞれが、センサ三軸のx´軸およびy´軸に対応していてもよい。この場合、MN方向(磁北方向)およびME方向(磁東方向)のそれぞれが、センサ軸三方向のx´方向の逆向き方向およびy´方向に対応する。
この発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 :振動計
11 :制御部(第1の演算処理部、第2の演算処理部)
13 :加速度センサ
14 :地磁気センサ
18 :筐体