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  • 特開-咀嚼機能を測定する方法 図1
  • 特開-咀嚼機能を測定する方法 図2
  • 特開-咀嚼機能を測定する方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171276
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】咀嚼機能を測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077836
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】岡田 よし子
(72)【発明者】
【氏名】曽野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】安田 多賀子
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA26
2G045DA63
2G045DB30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】咀嚼機能を測定する方法を提供する。
【解決手段】血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することを含む、酸化HDL量の反映値を指標として血液試料を採取した対象の咀嚼機能を測定する方法。酸化HDL量の反映値の測定が、(1)血液試料と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む方法により行われる、方法。酸化HDL量の反映値の測定が、さらに、(2)工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含む方法により行われる、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することを含む、当該酸化HDL量の反映値を指標として当該血液試料を採取した対象の咀嚼機能を測定する方法。
【請求項2】
前記酸化HDL量の反映値の測定が、
(1)血液試料と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む方法により行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化HDL量の反映値の測定が、
さらに、
(2)前記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含む方法により行われる、
請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、咀嚼機能を測定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢になると20本以上歯を保有する人が減少し、何でも噛んで食べることができる人の割合も減少することが知られている。しかしながら、職域の世代において、歯の本数が多くても、何でも噛んで食べることが難しいと回答する人も存在しており、噛んで食べることには歯の本数以外の因子も関連していると考えられる。
【0003】
咀嚼機能が低下すると、栄養を適切に取れない、唾液の分泌量が減る、硬いものが食べづらく、軟らかい食べ物に偏りやすい、といった直接的な問題に加えて、高齢者においては、咀嚼による脳への刺激が減ることによる脳血流量が低下し、職域の世代においては、咀嚼機能が影響した偏った食事内容による肥満、メタボリックシンドロームなど、間接的にも様々な問題が生じうることから、簡便に咀嚼機能を測定できる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6779776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、咀嚼機能を測定する方法を提供することを課題とする。また、歯科健診なしに、咀嚼機能を測定する方法を提供することも課題の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、食事を噛んで食べる時に、噛みにくいことがある場合には、何でも噛むことが出来る場合と比較して、血液試料の酸化HDL量の反映値が高いことを見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することを含む、当該酸化HDL量の反映値を指標として当該血液試料を採取した対象の咀嚼機能を測定する方法。
項2.
前記酸化HDL量の反映値の測定が、
(1)血液試料と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む方法により行われる、
項1に記載の方法。
項3.
前記酸化HDL量の反映値の測定が、
さらに、
(2)前記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含む方法により行われる、
項2に記載の方法。
項4.
前記酸化HDL量の反映値が、単位時間あたりの吸光度変化である、項1~3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
咀嚼機能を測定する方法が提供される。また、歯科健診なしに、咀嚼機能を測定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】歯の番号及び名称を示す図である。
図2】何でも噛むことが出来る群及び噛みにくいことがある群における、各対象の血液試料の酸化HDL量の反映値(oxHDL)をプロットした結果を示す。
図3】何でも噛むことが出来る群及び噛みにくいことがある群において、現在歯数が24本以上の群及び24本未満の群における血液試料の酸化HDL量の反映値(oxHDL)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示は、対象の咀嚼機能を測定する方法を包含する。本明細書において、当該方法を、「本開示の測定方法」と表記することがある。
【0011】
本開示の測定方法は、血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することを含む。
【0012】
対象としては、ヒトであってもよく、非ヒト哺乳動物であってもよい。
ヒトとしては、例えば、健常者であってもよく、歯周病に罹患したヒト(歯周病患者)であってもよく、歯周病の罹患が疑われるヒトであってもよい。また、対象としては、HbA1cが5.6%未満のヒト、空腹時血糖が110mg/dL未満のヒト、BMIが30未満のヒト、あるいはこれらの特徴を2種以上併せ持つヒトなどが挙げられる。また、対象は、歯の本数が、24本以上であってもよく、24本未満であってもよい。
非ヒト哺乳動物としては特に限定されず、例えば、ペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物が例示される。例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0013】
血液試料としては、対象から採取された血液由来の試料であれば特に限定されず、例えば、全血であってもよいし、あるいは血液の分離物(例えば血清、血漿等)であってもよい。なお、対象から採取した血液試料を保存する方法、条件等については特に限定されず、常法に従って行うことができる。
【0014】
対象から血液試料を採取する方法としては特に限定されず、常法に従って行えばよい。なお、血液試料として血清又は血漿を用いる場合には、取り扱い易さ、感染防止等の観点から、血清又は血漿分離剤を含む真空採血管などを用いることが好ましい。
また、採取した血液試料は、そのまま用いてもよく、凍結乾燥等して保存した後、当該凍結乾燥物を後述する適当な溶媒に溶解して用いてもよく、また、採取した血液試料を、そのまま冷凍保存した後、あるいは後述する適当な溶媒に溶解する等して冷凍保存した後、使用時に解凍して用いてもよい。
【0015】
酸化HDL量の反映値としては、血液試料に含まれる酸化HDL量を反映する値をいい、例えば酸化HDLの重量(質量)、濃度等が挙げられる。また、例えば、血液試料に含まれる酸化HDL量を反映する測定値であってもよく、例えば吸光度、蛍光強度、等を用いることができる。当該測定値は、測定補助試薬を用いて測定された値であってもよい。当該測定補助試薬としては、例えば蛍光色素、酸化HDL特異的認識分子(例えば抗体若しくはその断片)、あるいはそれらの2以上組み合わせ等が挙げられる。
【0016】
血液試料の酸化HDL量の反映値を測定する方法としては、特に限定的ではなく、常法に従って行うことができる。例えば、ELISA法を使用して酸化HDL(マロンジアルデヒド修飾HDL)を測定する方法や、質量分析機により、HDLを構成する蛋白質のApo-A1のニトロ化やクロロ化を測定する方法、特許第6779776号公報(特許文献1)に記載の、(1)血液試料と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む方法などが挙げられる。中でも、(1)血液試料と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む方法により測定することが好ましい。本明細書において、当該工程を「工程(1)」と記載する場合がある。さらに、(2)前記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含む方法により測定することが、より好ましい。本明細書において、当該工程を「工程(2)」と記載する場合がある。
【0017】
血液試料の酸化HDL量の反映値を測定する方法としては、血液試料からHDLを分離する工程が含まれていてもよい。本明細書において、当該工程を「工程(0)」と記載する場合がある。工程(0)により分離されたHDLを工程(1)において血液試料として用いることができる。血液試料からHDLを分離する方法としては、特に限定的ではなく、常法に従って行うことができる。例えば、デキストラン硫酸とマグネシウムイオンを用いたデキストラン硫酸法などの方法が挙げられる。
【0018】
遷移金属化合物は、混合液中で電離して金属イオンになり得るものであり、かつヒドロキシペルオキシド(R-OOH)と反応してフリーラジカルを産生し得るものであれば特に限定的ではなく、例えば、銅(II)化合物、鉄(II)化合物、(2価の鉄化合物)、鉄(III)化合物(3価の鉄化合物)などが挙げられる。これらの中でも、鉄(II)化合物、鉄(III)化合物などの鉄化合物が好ましい。鉄化合物としては、例えば、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物、塩化鉄(III)六水和物などが挙げられる。工程(1)において遷移金属化合物を用いることにより、1)ヒドロキシペルオキシドと反応する遷移金属イオンが十分量存在することにより少量の血液サンプルで酸化HDLの測定が可能となる、2)血液に含まれる鉄分の量に影響されることなく酸化HDLの測定が可能となる、などの有利な効果が奏される。
【0019】
なお、酸化HDL量の反映値は、3価の鉄化合物にくらべ、2価の鉄化合物を含む溶液で大きくなる。換言すると、3価の鉄化合物よりも2価の鉄化合物を用いた測定法は、高い感度で酸化HDLを測定できる。従って、上記した鉄化合物の中でも、2価の鉄化合物が特に好ましい。
【0020】
混合液中における遷移金属化合物の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.1~150μM程度、好ましくは、1~100μMとすることができる。
【0021】
酸性緩衝液としては、pHが酸性であり、かつ緩衝作用を有するものであれば特に限定されず、公知の緩衝液を用いることができる。例えば、酢酸緩衝液などが挙げられる。
【0022】
酸性緩衝液のpHは、酸性であれば特に限定的ではなく、2~6.9程度であることが好ましく、3~6.5程度であることがより好ましく、4.5~6であることがさらに好ましい。なお、後述する工程(2)において、フリーラジカルを測定する方法として、発色法を採用する場合には、酸性緩衝液のpHは3~6.9程度であることが特に好ましい。
【0023】
酸性緩衝液の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.005~0.5M、好ましくは、0.01~0.2Mである。
【0024】
工程(1)における反応温度としては、特に限定的ではなく、例えば、20~40℃程度とすることができる。
【0025】
上記の通り、工程(1)では、血液試料に含まれる酸化HDLにおけるヒドロペルオキシド(R-OOH)と遷移金属イオンとが反応することによってペルオキシラジカル(R-OO)やアルコキシラジカル(R-O)等のフリーラジカルが産生される。工程(1)において産生されたフリーラジカルを測定することにより、酸化HDLを測定することができる。
【0026】
従って、酸化HDL量の反映値の測定方法としては、さらに(2)上記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含むことが好ましい。
【0027】
フリーラジカルを測定する方法としては、特に限定的ではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、発色法、化学発光法、電子スピン共鳴法(ESR法)などが挙げられる。
【0028】
発色法は、フリーラジカルと反応して発色する作用を有する物質(発色性物質)を用い、発色した物質の吸光度を分光光度計などを用いて測定する方法である。
【0029】
発色性物質としては、フリーラジカルやアルコキシラジカルと反応して呈色する作用を有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩などが挙げられる。
【0030】
【化1】
【0031】
上記一般式(1)中、各Rは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル、又はエチルを示す。特に、各Rの少なくとも2つがメチル又はエチルであることが好ましく、同一の窒素原子に置換するRが共にメチル又はエチルであることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される化合物としては、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン(DMPD)、N,N-ジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)が好ましい。
【0033】
一般式(1)で表される化合物の塩としては、例えば、硫酸塩、シュウ酸塩、二酢酸塩などが挙げられる。
【0034】
反応工程において用いる一般式(1)で表される化合物又はその塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、一般式(1)で表される化合物は、必要に応じて、溶媒に溶解して使用することもできる。溶媒としては、特に限定的ではなく、例えば、純水、緩衝液、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。溶液とする場合の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.1~50mM程度、好ましくは1~20mM程度とすることができる。
【0036】
発色した物質の吸光度を測定する方法としては、特に限定的ではなく、常法により行うことができる。例えば、フリーラジカルと発色性物質とが反応することによって赤紫色を呈するラジカル陽イオンが生成されることから、公知の機器を用いて吸光度を測定することによってラジカル陽イオンを測定することができる。吸光度を測定する際の波長としては、例えば、460~570nm、好ましくは、500~560nmとすることができる。
【0037】
また、吸光度の測定を行う際、定量的に測定するために、測定開始時間と測定終了時間との間の吸光度の時間経過を測定することが好ましい。例えば、フリーラジカルと発色性物質との反応開始時点から3分経過時点を始点とし、反応開始時点から6分経過時点を終点として、吸光度の上昇速度(単位時間あたりの吸光度変化)を測定してもよい。
【0038】
化学発光法は、フリーラジカルと反応して発光する作用を有する物質(発光性物質)を用い、励起した物質が基底状態に戻る際に放出する光を発光光度計などを用いて測定する方法である。
【0039】
発光物質としては、フリーラジカルと反応して発光する作用を有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、ルミノール、Dansyl-TEMPO、ルシゲニンル、2-methyl-6-p-methoxyphenylethynylimidazopyrazinone(MPEC)、Hydroxyphenyl Fluorescein(HPF)、Aminophenyl Fluorescein(APF)、ウミホタル・ルシフェリン誘導体(MCLA)などが挙げられる。
【0040】
発光した物質の光を測定する方法としては、特に限定的ではなく、用いる発光性物質の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0041】
電子スピン共鳴法(ESR法)は、不対電子が磁場中に置かれた際に生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。電子スピン共鳴法としては、特に限定的ではなく、公知の方法及び機器を用いて行うことができ、フリーラジカルを直接測定する直接法、スピントラップ剤とフリーラジカルとを反応させて行う間接法のいずれであってもよい。間接法を採用する場合、スピントラップ剤としては特に限定されず、公知のスピントラップ剤を用いることができる。スピントラップ剤としては、例えば、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N―オキシド(DMPO)、2,5,5-トリエチル-1-ピロリン-N-オキシド(MPO)、3,3,5,5-テトラメチル-1-ピロリン-N-オキシド(TMPO)、N-tert-α-フェニルニトロン(PBN)などのニトロン系スピントラップ剤;2-メチル-2-ニトロソプロパン(MNP)、ニトロソデュレン(ND)などのニトロソ系スピントラップ剤などが挙げられる。
【0042】
後述する実施例に示す通り、血液試料の酸化HDL量の反映値が高い場合には、食事を噛んで食べる時の状態として「噛みにくいことがある」可能性があり、咀嚼機能が低いと考えられる。このため、本開示の測定方法によれば、血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することによって、当該酸化HDL量の反映値を指標として、当該血液試料を採取した対象の咀嚼機能を測定することができる。
【0043】
後述する実施例に示す通り、血液試料の酸化HDL量の反映値が高い場合には、歯の本数にかかわらず、食事を噛んで食べる時の状態として「噛みにくいことがある」可能性がある。このため、本開示の測定方法によれば、血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することによって、歯の本数に関わらず、当該酸化HDL量の反映値を指標として、当該血液試料を採取した対象の咀嚼機能を測定することができる。
【0044】
本明細書において、咀嚼機能とは、食物を粉砕できる機能を意味する。
【0045】
本開示の測定方法によれば、例えば、対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値が基準値以上の場合、基準値未満の場合と比較して、咀嚼機能が低いと予測(判定)することができる。
【0046】
対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値と比較する基準値としては、例えば、血液試料の酸化HDL量の反映値が、フリーラジカルと発色性物質との反応開始時点から3分経過時点を始点とし、反応開始時点から6分経過時点を終点として、吸光度の上昇速度(単位時間あたりの吸光度変化)として、32.0mOD/min等とすることができる。当該基準値は高感度に咀嚼能力を予測できる可能性が高く、本開示の試験例において「噛みにくいことがある」群に分類された対象の7割以上(14名中10名)を陽性に予測できる。
【0047】
また、対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値と比較する基準値としては、例えば、咀嚼機能の正常な対象、グミゼリーを用いた咀嚼機能評価などで正常値の対象または、食事を噛んで食べる時に、何でも噛むことが出来る対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値とすることができる。当該値は、過去に得られたデータから標準化されたものであってもよい。
【0048】
また、対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値と比較する基準値としては、例えば、複数の対象からなる集団における、血液試料の酸化HDL量の反映値の平均値、中央値、25パーセンタイル値、75パーセンタイル値、又は最頻値等を基準値とすることもできる。
【0049】
また、本開示の測定方法によれば、同一対象の経時的な咀嚼機能の変動を測定することもできる。例えば、対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値が経時的に増加した場合には、咀嚼機能が低下した可能性があると予測(判定)することができる。例えば、対象から採取した血液試料の酸化HDL量の反映値が経時的に減少した場合には、咀嚼機能が向上した可能性があると予測(判定)することができる。
【0050】
本開示の測定方法によれば、血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することによって、歯科専門家が不在の場合や歯科健診実施していない場合であっても、例えば、健康診断等における血液検査等の結果をもとに、咀嚼機能を測定することができる。
【0051】
本開示は、対象の咀嚼機能を判定することを補助する方法をも包含する。本明細書において、当該方法を、「本開示の補助方法」と表記することがある。
【0052】
本開示の補助方法は、血液試料の酸化HDL量の反映値を測定することを含む。
【0053】
血液試料の酸化HDL量の反映値等については、前述した「本開示の測定方法」についての記載を援用することができる。
【0054】
本開示の補助方法によれば、対象の咀嚼機能を判定することを補助することができる。
【0055】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせで全て包含する。
【0056】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0057】
本開示の内容を以下の試験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。
【0058】
対象
BMIが30以上の対象を除外した男性219名を対象とした(年齢は、平均53.0歳、標準偏差6.8)。
また、親知らずを含めた32本中、現在保有している歯の数を現在歯数として確認した。
【0059】
試験例1 血液試料の酸化HDL量の反映値(oxHDL)の算出
(1)血液試料の調製
真空採血管を用いて対象の静脈から血液を採取した後、1時間、室温に放置後、一般的な血清分離条件にて遠心分離を行い、上清(血清)を血液試料として得た後、-80℃で保存した。
【0060】
(2)酸化HDL(oxHDL)量の反映値の測定
0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)と100μM硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物との混合液をマイクロプレートの各wellに加え、37℃に保温した。次いで、各wellにN,N-ジエチル-p-フェニレンジアミン硫酸塩溶液(溶媒:DMSO)を加えた後、上記(1)で得られた血清を加えた。37℃に設定したマイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い、波長505nmの吸光度を測定した。なお、吸光度の測定は、Kineticsに設定し、10秒毎に計48回(合計8分間)測定し、測定開始3分後から6分後の各値から単位時間あたりの吸光度変化(単位:mOD/min)を算出することにより行った。
【0061】
対象のoxHDLは、平均30.7mOD/min、標準偏差4.9であった。
【0062】
試験例2 食事を噛んで食べる時の状態
対象に対し問診を実施し、食事を噛んで食べる時の状態として「何でも噛むことが出来る」、「口腔の気になる部分があり、噛みにくいことがある」若しくは「ほとんど噛むことが出来ない」かを確認した。
【0063】
対象を「何でも噛むことが出来る」群若しくは「噛みにくいことがある」群に分類し、各群におけるoxHDLをプロットした結果を図2に示す。尚、「口腔の気になる部分があり、噛みにくいことがある」及び「ほとんど噛むことが出来ない」をまとめて「噛みにくいことがある」群とした。図2中、カラムから上方に伸びた髭の先端は最大値、あるいは四分位範囲に1.5を乗じ、75パーセンタイル値に加えた値を示し、カラムの上端は75パーセンタイル値を示し、カラム中の横線は50パーセンタイル値(中央値)を示し、カラムの下端は25パーセンタイル値を示し、カラムから下方に伸びた髭の先端は最小値、あるいは四分位範囲に1.5を乗じ、25パーセンタイル値から減じた値を示す。
【0064】
図2に示すように、噛みにくいことがある群のoxHDLは、何でも噛むことが出来る群のoxHDLに対して、有意に高いことが確認された。このことから、oxHDLが高い場合には、食事を噛んで食べる時の状態として「噛みにくいことがある」可能性があることが示唆された。つまり、oxHDLにより、咀嚼機能を測定できることが示唆された。なお、当該データは、男性のみを対象として解析を行った結果であるが、対象に女性を含めて解析を行った場合にも、同様の結果が得られた。
【0065】
対象を、現在歯数が「24本以上」の群、又は「24本未満」の群に分類し、各群におけるoxHDLをプロットした結果を図3に示す。図3中、カラムから上方に伸びた髭の先端は最大値、あるいは四分位範囲に1.5を乗じ、75パーセンタイル値に加えた値を示し、カラムの上端は75パーセンタイル値を示し、カラム中の横線は50パーセンタイル値(中央値)を示し、カラムの下端は25パーセンタイル値を示し、カラムから下方に伸びた髭の先端は最小値、あるいは四分位範囲に1.5を乗じ、25パーセンタイル値から減じた値を示す。
【0066】
図3に示すように、歯の本数に関わらず(歯の本数が多い(24本以上)場合であっても、歯の本数が少ない(24本未満)場合であっても)、噛みにくいことがある群のoxHDLは、何でも噛むことが出来る群のoxHDLに対して、高値であることが確認された。このことから、oxHDLが高い場合には、歯の本数に関わらず、食事を噛んで食べる時の状態として「噛みにくいことがある」可能性があることが示唆された。なお、当該データは、男性のみを対象として解析を行った結果であるが、対象に女性を含めて解析を行った場合にも、同様の結果が得られた。
図1
図2
図3