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特開2022-171289電動弁制御装置および電動弁制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171289
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】電動弁制御装置および電動弁制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
F16K31/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077859
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真司
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖明
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 亮直
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB05
3H062CC02
3H062HH04
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】電動弁に使用されるステッピングモータにおける脱調を検出する。
【解決手段】電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測するセンサとを有する電動弁に接続され、ステッピングモータに角度を指示する回転指示部と、センサからロータの角度を取得する回転検出部と、ロータの角度とステッピングモータに指示した角度との差が基準範囲を逸した状態のときに、脱調と判定する脱調検出部と、を備える。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を検出するセンサとを有する電動弁に接続され、
前記ステッピングモータに角度を指示する回転指示部と、
前記センサから前記ロータの前記角度を取得する回転検出部と、
前記ロータの前記角度と前記ステッピングモータに指示した前記角度との差が基準範囲を逸した状態のときに、脱調と判定する脱調検出部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記脱調検出部は、前記電動弁の作動状態に応じて前記基準範囲を変化させることを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
前記脱調検出部は、前記弁体が弁座に接していない状態のときに第1基準範囲を前記基準範囲として用い、前記弁体が前記弁座に接している状態のときに前記第1基準範囲と異なる第2基準範囲を前記基準範囲として用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁制御装置。
【請求項4】
前記第2基準範囲は、前記第1基準範囲よりも広いことを特徴とする請求項3に記載の電動弁制御装置。
【請求項5】
前記脱調検出部は、前記ステッピングモータのステップが変化している状態のときに第3基準範囲を前記基準範囲として用い、前記ステッピングモータの前記ステップが変化していない状態のときに前記第3基準範囲と異なる第4基準範囲を前記基準範囲として用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電動弁制御装置。
【請求項6】
前記第4基準範囲は、前記第3基準範囲よりも狭いことを特徴とする請求項5に記載の電動弁制御装置。
【請求項7】
前記脱調検出部は、前記ロータの前記角度を示すパラメータとして所定幅で循環する値が使用される場合に、前記基準範囲の最大値が前記所定幅の上限を超えて下限側に移り、前記基準範囲の最小値が前記所定幅の上限に至っていないために、見かけ上前記最大値が前記最小値より小さい値を示す場合に、前記基準範囲の前記最小値から前記所定幅の前記上限までの範囲と、前記所定幅の前記下限から前記基準範囲の前記最大値までの範囲とを、前記基準範囲として判断する論理演算を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電動弁制御装置。
【請求項8】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を計測するセンサとを有する電動弁に接続されたコンピュータに、
前記ステッピングモータに角度を指示する機能と、
前記センサから前記ロータの前記角度を取得する機能と、
前記ロータの前記角度と前記ステッピングモータに指示した前記角度との差が基準範囲を逸した状態のときに、脱調と判定する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特にロータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられる。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出できる。
【0004】
電動弁内において上下動する弁体には、制御の基準となる基準位置が設定される。ロータが弁閉方向への回転を続けて「原点」ともよばれる基準位置に至ったとき、ロータはストッパにより回転を規制される(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-135908号公報
【特許文献2】特開2020-204344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロータを回転させるために用いられるステッピングモータは、ときに脱調することがある。脱調とは、急な速度の変化や過負荷が原因となって、ステッピングモータにおける回転誘導が損なわれる現象のことである。脱調が生じると、正常にロータを回転させることができなくなる。したがって、電動弁としての動作を保証するためには、ステッピングモータにおける脱調を正しく検出して外部装置に通知する必要がある。
【0007】
従来技術として、ステッピングモータに印加する電流を監視して、脱調時に生じる誘導起電力の変化を検出した場合に、脱調したと判定する方法が知られている。但し、この方法では、明らかな誘導起電力の変化が生じない場合に脱調を見逃すという問題がある。また、特許文献1の場合、磁気センサで回転角度を検出することは可能であるが、その回転角度が脱調によって生じているものであるか否かは検出されない。
【0008】
本発明の主たる目的は、電動弁に使用されるステッピングモータにおける脱調を検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測するセンサとを有する電動弁に接続され、ステッピングモータに角度を指示する回転指示部と、センサからロータの角度を取得する回転検出部と、ロータの角度とステッピングモータに指示した角度との差が基準範囲を逸した状態のときに、脱調と判定する脱調検出部と、を備える。
【0010】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測するセンサとを有する電動弁に接続されたコンピュータに、ステッピングモータに角度を指示する機能と、センサからロータの角度を取得する機能と、ロータの角度とステッピングモータに指示した角度との差が基準範囲を逸した状態のときに、脱調と判定する機能と、を発揮させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電動弁に使用されるステッピングモータにおける脱調を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
図3】ロータの構成を表す図である。
図4】磁気センサとセンサマグネットおよびセンサマグネットから発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図5】センサマグネットの平面図である。
図6】センサマグネットのセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
図7】角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
図8】ロータの移動範囲の模式図である。
図9】ステップと理想的なロータ角度の関係を示すグラフである。
図10】駆動トルクの変化を示すグラフである。
図11】各シーンにおけるステップ差の基準値と機械角差の基準値を示す図である。
図12】論理演算Zの真理値表を示す図である。
図13】脱調と同調の判定例を示すグラフである。
図14】電動弁制御装置の機能ブロック図である。
図15】メイン処理過程を示すフローチャートである。
図16】メイン処理過程を示すフローチャートである。
図17】各シーンの脱調判定処理過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0015】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0016】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0017】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0018】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0019】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。
【0020】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0021】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0022】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0023】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するためのモータユニット3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0024】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」または「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0025】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0026】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。ロータマグネット104およびセンサマグネット106は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られたものであるが、その詳細については後述する。
【0027】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0028】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0029】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0030】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0031】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0032】
ロータ60の下方にはストッパ90が形成される。特許文献2に示すようにストッパ90の構成は既知である。作動ロッド32が弁閉位置に至ると、ロータ60にはスプリング116による弾性反力がかかり、弁閉が安定維持される。最終的には、ストッパ90がガイド部材36の一部として形成される図示しない突部(係止部)に当接することにより、ロータ60の弁閉方向への回転が完全に規制される。以下、ストッパ90が突部と当接したときのステップをステップの「原点」とする。また、本実施形態においてはステップの原点において弁体34が「基準位置」にあるものとする。
【0033】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。図2(A)は図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。図2(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0034】
モータユニット3が三相のモータであるため、図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0035】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では図2(A)に示すように、ロータマグネット104が雄ねじ10極に磁化されているが、その極数については適宜設定できる。
【0036】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。図3(A)は斜視図、図3(B)は正面図、図3(C)は平面図、図3(D)は図3(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、同図においては、説明の便宜上、回転軸62(図1参照)の表記を省略している。
【0037】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106を有する(図3(A),図3(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(図3(B),図3(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、平面2極着磁とされている。
【0038】
図3(D)に示したように、ロータマグネット104の内周面が環状溝140に嵌合し、センサマグネット106の下面が環状溝144に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。同様に、環状溝144は、ロータコア102からのセンサマグネット106の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0039】
以上の構成を前提として、次に、磁気センサ119がロータ60の回転角度を検出する方法について説明する。なお、以下においては、図1の上下方向を「開閉方向」または「上下方向」とよぶ。
【0040】
図4は、磁気センサ119とセンサマグネット106およびセンサマグネット106から発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図4は、磁気センサ119およびセンサマグネット106を側面から見たときの模式図である。図4に示すようにセンサマグネット106(永久磁石)のNからSに磁力線が発生する。センサマグネット106の直上に位置する磁気センサ119は、センサマグネット106から発生する磁力線を検出する既知構成のロータリーセンサである。磁気センサ119は、磁力線の方向に基づいて、センサマグネット106(ロータ60)の回転角を検出する(詳細後述)。なお、本実施形態において、磁気センサ119はセンサマグネット106の回転角を検出可能であるが、磁気センサ119により、センサマグネット106までの距離、いいかえれば、作動ロッド32の開閉方向における移動量を直接検出することはできないものとして説明する。
【0041】
図5は、センサマグネット106の平面図である。
ステータ64のコイル73に後述の方法にて駆動電流を流すことにより、ロータ60に回転駆動力が与えられる。ロータ60を閉弁方向(下方向)に回転させると(以下、「下降回転」とよぶ)、ロータ60に連動して作動ロッド32(弁体34)は閉弁方向、すなわち、図1の図面下方向に移動する。ロータ60を開弁方向に回転させると(以下、「上昇回転」とよぶ)、ロータ60と連動して作動ロッド32(弁体34)は開弁方向、すなわち、図1の図面上方に移動する。
【0042】
ロータ60の回転に連動して、センサマグネット106も回転する。センサマグネット106の回転にともなって、センサマグネット106の磁界方向MAも変化する。図5に示すようにXY座標系(図1における水平面に対応)を設定したとき、磁界方向MAがX軸となす角度をθとする。磁気センサ119は、特許文献1の角度センサに示す既知の方法にて、センサマグネット106の回転角度θを検出する。
【0043】
図6は、センサマグネット106のセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
横軸は、磁気センサ119の計測対象であるセンサマグネット106の回転角度θを示す(以下、「感知角」とよぶことがある)。縦軸は、磁気センサ119のセンサ値である。この例におけるセンサ値は、アークタンジェント値である。図6に示すように、磁気センサ119は感知角に対応してノコギリ型の波形を示すセンサ値を検出する。磁気センサ119は、アナログ信号であるセンサ値を、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)によってパルスのデューティー比に置き換えて、変調されたデジタル信号を示す電流を出力する。このとき、センサ値を「下限値DA~上限値TA」に正規化して、パルスにおけるデューティー比が定められる。下限値DA、上限値TAは任意に設定可能である。下限値DAは、0であってもよい。以下、パルスのデューティー比を「角度値」とよぶことがある。制御回路は、磁気センサ119の仕様に則って、デジタル信号のパルスから読み取られるデューティー比(角度値)に基づき、実際のロータ角度(感知角)を特定できる。
【0044】
図7は、角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
本実施形態において、弁体34を最上位点から最下位点まで移動させるとき、ロータ60は合計4回転する。詳細は後述するが、制御回路は3相のコイル73に供給する駆動電流を変化させることにより、各コイル73の磁界方向を変化させることでロータ60を回転させる。本実施形態においては、制御回路はロータ60をu1度単位で回転させる(詳細後述)。以下、この単位回転量のことを「ステップ」とよぶ。360度×4回転÷u1度=1440/u1=SM4より、制御回路は作動ロッド32の動作範囲においてロータ60に合計SM4ステップ分の回転を指示することになる。ロータ60の4回転に対応して、角度値はDA~TAの間で4回変化する。
【0045】
ステップ0が原点に相当し、ステップnは、原点から数えてn番目のステップを表す。なお、この後の説明では、ステップnを弁位置Pos(n)と表すこともある。図示したSM1は、機械角が1周したときのステップの順番を表し、SM2は、機械角が2周したときのステップの順番を表し、SM3は、機械角が3周したときのステップの順番を表し、SM4は、機械角が4周したときのステップの順番を表す。機械角は、ロータ60などの回転体の実空間における角度を指す。
【0046】
制御回路はU相コイル73aに所定レベルの駆動電流を流す。このとき、V相コイル73bおよびW相コイル73cについても同様に所定レベルの駆動電流が流される。各コイル73に駆動電流を流すことによりコイル73における磁界を変化させ、ロータ60を回転させる。U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに与える駆動電流の電流値の組み合わせを「励磁パターン」とよぶ。本実施形態における励磁パターンはN種類である。ある励磁パターンP1を1つ隣りの励磁パターンP2に変化させることが「1ステップ」の回転、いいかえれば、単位回転量分の回転指示に対応する。
【0047】
励磁パターンの変化により、いいかえれば、1ステップずつ励磁パターンを変更することにより、指示角α(理想的なロータ角度)が制御される。指示角αの変化に同期して、ロータ60が回転し、感知角θも変化する。励磁パターンを変化させたあと、磁気センサ119により検出される角度値から感知角θを算出することで、制御回路は、感知角θ(実際のロータ角度)が指示角αに追従している状態であるか否かを判定する。感知角θが指示角αに追従している状態を「同調」といい、感知角θが指示角αに追従できていない状態を「脱調」という。
【0048】
N種類の励磁パターンにはそれぞれパターンIDが付与される。パターンID=N1の励磁パターン(以下、「励磁パターン(N1)」のように表記する)におけるU相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれの駆動電流値をIU(N1)、IV(N1)、IW(N1)とする。すなわち、励磁パターン(N1)とは[IU(N1)、IV(N1)、IW(N1)]の組み合わせを意味する。駆動電流IU(N1)、IV(N1)およびIW(N1)により各コイル73に磁界を生じさせて、ロータ60を励磁パターン(N1)に応じた指示角αへ誘導する。
【0049】
N種類のパターンIDは、電気角の1周分のN個のステップに対応している。電気角は、N個のパターンIDを0~360度の範囲に均等に割り当てた理論値である。原点から最上位までの各ステップnは、循環して順次パターンIDに対応付けられる。たとえば、nをNで除した剰余としてパターンIDが定められる。また、連続するパターンIDは、連続的に変化する励磁パターンに対応する。
【0050】
制御回路が、ステップnからステップn+1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1+1)へ切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1+1)、IV(N1+1)、IW(N1+1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ上昇回転させる。反対に、制御回路が、ステップnからステップn-1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1-1)に切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1-1)、IV(N1-1)、IW(N1-1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ下降回転させる。
【0051】
図3に示した構造のロータ60の場合、ロータマグネット104がN極とS極の対を5個有するので、ロータ60の1周(機械角の360度)において電気角は5周する。つまり、電気角の1周は、機械角の72度に相当する。また、電気角の1周にはN個のステップが含まれるので、1ステップの変化で回転する機械角は、u1=72/N度となる。また、図7に関連して説明したように、弁体34を最上位点から原点まで移動させる間にロータ60を4周させる場合、全域にわたる移動で4×5×N個だけステップを進めることになる。つまり、図7に示したSM4は、4×5×Nである。同様にSM1は、5×Nであり、SM2は、2×5×Nであり、SM3は、3×5×Nである。
【0052】
本実施形態においては、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接するときのロータ60の位置を原点(基準位置)とし、制御回路はこのときの角度値および励磁パターンを「原点情報(基準情報)」として記録する。電動弁1の製造時において、電動弁1に固有の原点情報(基準情報)が回路基板118の不揮発性メモリに記録される。そして、制御回路は、原点(弁閉位置)を基準するステップnにより、作動ロッド32の移動量、すなわち、電動弁1の弁開度を調整する。
【0053】
図8は、ロータ60の移動範囲の模式図である。
図8の右方向はロータ60の開方向(上昇方向)、左方向は閉方向(下降方向)を示す。ステップ0の原点は、ストッパ90が回転規制を受け、ロータ60がそれ以上の下降回転をできなくなる限界位置である。ステップMは、ロータ60が上昇回転した弁開点である。Mの値は、所定の共通値でもよいし、電動弁1毎に異なる固有値でもよい。固有値を用いる場合には、弁開点のステップを示すMの値を回路基板118の不揮発性メモリに記憶しておく。原点から弁開点までの範囲では、スプリング116の弾性反力により弁体34が弁座24に押し付けられるため、弁閉状態は維持される。ロータ60が原点0から上昇回転を続け、弁開点Mを超えたとき弁体34は弁座24から離脱し、開弁状態となる。弁開点を超えたあともロータ60の上昇回転が続くと弁開度は徐々に拡大し、入口ポート26から出口ポート28への流量が増加する。
【0054】
原点から弁開点までの弁閉状態でも、弁開点から最上位点までの弁開状態でも、ねじ送り機構109における摩擦抵抗などによって摺動時の負荷トルクが生じる。特に、弁閉状態では、たとえば雌ねじ108と雄ねじ38の接触面における圧力が高まり摩擦抵抗が大きくなるので、弁開状態に比べて負荷トルクが大きくなる。そのため、弁閉状態では、弁開状態よりもロータ60を回転させるために必要な駆動トルクが大きくなるという電動弁1の機構的な特徴を有する。つまり、弁閉状態では、弁開状態よりも摺動しにくくなるので、指示角α(理想的なロータ角度)と感知角θ(実際のロータ角度)が乖離しやすいと言える。
【0055】
本実施形態では、制御回路において脱調を検出する。具体的には、指示角α(理想的なロータ角度)と感知角θ(実際のロータ角度)との差(以下、「機械角差」とよぶ)が所定の閾値を超えたときに、脱調したと判定する。厳密に言えば、機械角差が閾値を超えたときに、実際に脱調の現象が生じているとは限らないが、安定した同調状態を逸しているという意味で脱調と判断する。なお、機械角差は、「ロードアングル」とよばれることもある。
【0056】
この例では、LIN(Local Interconnect Network)通信により外部装置から許可設定された場合に脱調検出を行う。また、使用段階での弁移動中と弁停止時の脱調を検出対象とするが、キャリブレーションにおける脱調は検出対象としない。不揮発性メモリ(たとえば、NVRAM(Non-Volatile RAM))に保存されているステップ0位置(原点位置)のロータ角度RA_m(0)を基準とする。この基準は、製造時に検出された原点を指す。RA_m(0)は、電動弁1の固有値である。つまり、個体毎に、原点におけるロータ角度RA_m(0)は異なるものとする。
【0057】
原点からn個のステップが進んだ状態を想定すると、ステップnによって弁位置が特定される。以下では、ステップnを弁位置といい、Pos(n)と表すことがある。
【0058】
上述した指示角α(理想的なロータ角度)は、外部装置からのコマンドに応じて経時的に決定されるロータ60の目標となる角度である。以下では、指示角αを、理想的なロータ角度:RA_c(n)と表現する。たとえば、原点へ弁体34を導く場合、理想的なロータ角度RA_c(0)は、原点位置のロータ角度RA_m(0)となる。
【0059】
ステップn(=弁位置Pos(n))を大きくして行くと、ロータ60の姿勢は変わる。ロータ60が回転する角度は、n(=Pos(n))の値に比例する。機械角/ステップの比を所定値Rで示すと、相対的な増加角度は(Pos(n)×R)である。したがって、原点を基準とする累積的なロータ60の角度は(Pos(n)×R)+RA_m(0)となる。ここで、ロータ60が一周以上回転することを考慮して姿勢を示す角度(0~360度)で表現すると、理想的なロータ角度RA_c(n)は、式1によって求められる。
RA_c(n)=((Pos(n)×R)+RA_m(0))mod360 [式1]
【0060】
図9は、ステップと理想的なロータ角度の関係を示すグラフである。
図示した一点鎖線は、ロータ60が4周し、ロータ角度が累積的に1440度変化したときに、最上位点のステップSM4に至ることを示している。また、一点鎖線の勾配は、機械角/ステップの比R(たとえば、u1度)を表している。
【0061】
図示した実線は、原点位置のロータ角度RA_m(0)が180度である電動弁1におけるステップと理想的なロータ角度の関係を示している。上述のとおり、理想的なロータ角度RA_c(n)は、ロータ60の姿勢を示す0~360度の範囲に収まる。実線上の白丸は、ステップ(0.83×SM1)における理想的なロータ角度RA_c(0.83×SM1)は、((0.83×SM1×u1)+180)mod360の計算によって求められる120度であることを示している。
【0062】
図示した破線は、原点位置のロータ角度RA_m(0)が270度である電動弁1におけるステップと理想的なロータ角度の関係を示している。破線上の白丸は、ステップ(1.67×SM1)における理想的なロータ角度RA_c(1.67×SM1)は、((1.67×SM1×u1)+270)mod360の計算によって求められる150度であることを示している。
【0063】
このように、ステップn(=弁位置Pos(n))と理想的なロータ角度RA_c(n)の関係は、幾何的な理論によって定まる。これに対して、ステップn(=弁位置Pos(n))と感知角θ(実際のロータ角度)の関係は、幾何的な理論だけでは定まらない。実際のロータ角度は、摺動時の負荷トルクとロータ60にかかる駆動トルクとの力学的バランスによって決まるからである。理想的なロータ角度は、モータユニット3が励磁によって安定する状態で、幾何的に生じるロータ60の角度であり、別の言い方をすれば、ロータ60の摺動時の負荷トルクが0であると想定した場合のロータ60の角度である。一方、実際のロータ角度は、実際に生じる摺動時の負荷トルクとモータユニット3の駆動トルクが釣り合った状態でのロータ60の角度である。以下では、感知角θとして現れる実際のロータ角度をRA_m(n)と表す。
【0064】
図10は、駆動トルクの変化を示すグラフである。
モータユニット3の駆動トルクは、励磁パターンで指示した電気角(以下、「理想の電気角」とよぶ)と実際のロータ60の姿勢に相当する電気角(以下、「実際の電気角」とよぶ)の差によって定まる。この電気角差は、理想の電気角-実際の電気角と定義される。駆動トルクは、電気角差を変数とするサイン値として算出できる。したがって、図示するようなサイン曲線を描く。この図では、最大駆動トルクを1とした比率で駆動トルクを示している。
【0065】
なお、電気角差は、励磁パターンに対応するステップ(以下、「理想のステップ」とよぶ)と実際のロータ60の姿勢に相当するステップ(以下、「実際のステップ」とよぶ)の差と比例関係にある。このステップ差は、理想のステップ-実際のステップと定義される。したがって、ある状態Aにおける電気角差と別の状態Bにおける電気角差の大小関係は、状態Aにおけるステップ差と状態Bにおけるステップ差の大小関係と一致する。
【0066】
さらに、電気角差は、励磁パターンで指示した電気角に応じた理想のロータ角度と実際のロータ角度の機械角差と比例関係にある。この機械角差は、理想のロータ角度-実際のロータ角度と定義される。したがって、ある状態Aにおける電気角差と別の状態Bにおける電気角差の大小関係は、状態Aにおける機械角差と状態Bにおける機械角差の大小関係と一致する。
【0067】
電気角差が増すときにどのように駆動トルクが変化するかについて説明する。電気角差が0のときには、駆動トルクは生じない。電気角差が大きくなるにつれて、駆動トルクは増加する。そして、電気角差が90度のときに、駆動トルクが最大となる。さらに電気角差が大きくなると、駆動トルクは減少に転じる。駆動トルクが減少する段階で駆動トルクが負荷トルクを下回ると、実際に脱調の現象が生じると考えられる。
【0068】
したがって、上昇回転させるようにステップnを変化させると、駆動トルクが負荷トルクを超えるまで、ロータ60は回転しない。駆動トルクが負荷トルクを超えると、ロータ60が回転し始める。その後は、電気角差がある状態のまま、実際のロータ角度が理想のロータ角度を追従する。上述のように電気角差が増大して駆動トルクが負荷トルクを下回ることが無い限り、追従は継続する。
【0069】
ロータ60を停止させる場合には、ステップnを変化させない。その結果、実際の電気角が理想の電気角に近づき、電気角差が縮まる。ただし、電気角差が小さくなると、駆動トルクが小さくなるので、電気角差が0になることころまでは接近しない。駆動トルクが負荷トルクと均衡した段階で、ロータ60は停止する。
【0070】
電気角差が負の値であるときには、駆動トルクの向きが反転して同様の変化を示す。ロータ60も向きを逆にして同様の挙動を示す。なお、図示した各シーンの同調範囲については、後述する。
【0071】
本実施形態では、上述のふるまいを考慮して脱調検出を行う。具体的には、実際のロータ角度と理想のロータ角度の機械角差が基準値を超えた場合に、脱調したものと判定する。別の見方をすると、実際の電気角と理想の電気角の電気角差が基準値を超えた場合に、脱調したものと判定すると捉えてもよい。あるいは、実際のステップと理想のステップのステップ差が基準値を超えた場合に、脱調したものと判定すると捉えてもよい。いずれのタイプの差を用いて判定しても、理論的には同義である。
【0072】
本実施形態では、弁移動中と弁停止時において異なる基準値を用いる。ここでいう「弁移動」とは、ステップを切り替えて励磁パターンを変化させている状態を意味する。弁が開いていれば、文字通り弁が移動するが、弁が閉じられていれば、ステップを切り替えても弁は動かない。しかし、閉じられた弁が動かない状態でもステップを切り替えていれば、ここでいう弁移動中に当たるものとする。また、ここでいう「弁停止」とは、ステップを切り替えずに一定の励磁パターンを維持する状態を意味する。さらに、弁閉状態と弁開状態とでも、基準値を区別する。以下では、弁移動中と弁停止時の別及び弁閉状態と弁開状態の別を組み合わせたシーンを想定してそれぞれのシーンに応じた基準値について説明する。
【0073】
図11は、各シーンにおけるステップ差の基準値と機械角差の基準値を示す図である。
弁開点より大きいステップnでの弁移動中であるシーン(a)、弁開点より大きいステップnでの弁停止時であるシーン(b)、弁開点以下のステップnでの弁移動中であるシーン(c)、及び弁開点以下のステップnでの弁停止時であるシーン(d)に分ける。シーン(a)とシーン(b)では、弁開状態で小さい負荷トルクが生じる。シーン(c)とシーン(d)では、弁閉状態で大きい負荷トルクが生じる。
【0074】
ここでは、ステップ差の基準値の例として、ステップ差の上限数と下限数を示す。ステップ差の下限数から上限数までの範囲を、ステップ差の同調範囲という。ステップ差の同調範囲は、安定した同調状態におけるステップ差を表す。ステップ差の同調範囲は、脱調と判定する基準となる基準範囲の例である。
【0075】
また、機械角差の基準値の例として、機械角差の上限と下限を示す。機械角差の下限から上限までの範囲を、機械角差の同調範囲という。機械角差の同調範囲も、安定した同調状態における機械角差を表す。
【0076】
ステップ差が同調範囲を外れた場合、つまり機械角差が同調範囲を外れた場合に、脱調したものとみなす。同調範囲を外れても、実際に脱調の現象が生じているとは限らないが、少なくとも脱調に至るリスクが高いと言える。よって、この例で検出される脱調は、異常の一種あるいは注意や警告の一種ととらえることもできる。
【0077】
シーン(a)では、ステップ差の上限数をUaとし、下限数をLaとする。上限数Uaと下限数Laの例を図10に示す。この例で上限数Uaは、電気角差の90度に対応する。下限数Laは、電気角差の-90度に対応する。つまり、弁開状態での弁移動中は、駆動トルクの絶対値が最大値となるまでの間は、脱調していないものと判断する。なお、図示するように上限数Uaは、機械角差の上限uaに対応する。この例で機械角差の上限uaは、72/4=18度である。また、下限数Laは、機械角差の下限laに対応する。この例で機械角差の上限laは、-18度である。
【0078】
シーン(b)では、ステップ差の上限数をUbとし、下限数をLbとする。上限数Ubと下限数Lbの例を図10に示す。この例で上限数Ubは、電気角差の45度に対応する。下限数Lbは、電気角差の-45度に対応する。つまり、弁開状態での弁停止時は、駆動トルクの絶対値が最大値×sin45を超えなければ、脱調していないものと判断する。なお、図示するように上限数Ubは、機械角差の上限ubに対応する。この例で機械角差の上限ubは、72/8=9度である。また、下限数Lbは、機械角差の下限lbに対応する。この例で機械角差の下限lbは、-9度である。
【0079】
シーン(c)では、ステップ差の上限数をUcとし、下限数をLcとする。上限数Ucと下限数Lcの例を図10に示す。この例で上限数Ucは、電気角差の97.5度に対応する。下限数Lcは、電気角差の-97.5度に対応する。つまり、弁閉状態での弁移動中は、駆動トルクの絶対値が最大値を超えて最大値×sin97.5を下回らなければ、脱調していないものと判断する。なお、図示するように上限数Ucは、機械角差の上限ucに対応する。また、下限数Lcは、機械角差の下限lcに対応する。
【0080】
シーン(d)では、ステップ差の上限数をUdとし、下限数をLdとする。上限数Udと下限数Ldの例を図10に示す。この例で上限数Udは、電気角差の60度に対応する。下限数Ldは、電気角差の-60度に対応する。つまり、弁閉状態での弁停止時は、駆動トルクの絶対値が最大値×sin60を上回らなければ、脱調していないものと判断する。なお、図示するように上限数Udは、機械角差の上限udに対応する。また、下限数Ldは、機械角差の下限ldに対応する。
【0081】
この例で、各上限数については、Uc>Ua>Ud>Ubの大小関係である。同じく、各下限数については、Lc<La<Ld<Lbの大小関係である。
【0082】
弁移動中の上限数に関してUc(弁閉状態)>Ua(弁開状態)とし、さらに移動中の下限数に関してLc(弁閉状態)<La(弁開状態)とする理由は、弁閉状態では負荷トルクが大きくなり、移動中にステップ差が広がりやすいからである。また、弁停止時の上限数に関してUd(弁閉状態)>Ub(弁開状態)とし、さらに弁停止時の下限数に関してLd(弁閉状態)<Lb(弁開状態)とする理由は、弁閉状態では負荷トルクが大きいのでこれと均衡する駆動トルクも大きくなり、ステップ差が縮まり切らずに停止するからである。
【0083】
具体的な処理過程においては、これらの上限数Ua,Ub,Uc,Udと下限数La,Lb,Lc,Ldに基づいて、各シーンにおける実際のロータ角度の同調範囲を想定する。実際のロータ角度の同調範囲は、最大角と最小角によって特定される。実際のロータ角度が、この同調範囲を外れた場合に脱調したと判定する。
【0084】
シーン(a):弁開点より大きいステップnでの弁移動中の場合には、同調範囲の最大角RA_max(n)は、以下の式2または式3で求められる。
RA_max(n)=RA_c(n+Ua) [式2]
RA_c(n+Ua):ステップ(n+Ua)における理想的なロータ角度
RA_max(n)=(RA_c(n)+Ua×R)mod360 [式3]
RA_c(n):ステップnにおける理想的なロータ角度
R:機械角/ステップの比
【0085】
また、シーン(a)の場合、同調範囲の最小角RA_min(n)は、以下の式4または式5で求められる。
RA_min(n)=RA_c(n+La) [式4]
RA_c(n+La):ステップ(n+La)における理想的なロータ角度
RA_min(n)=(RA_c(n)+La×R)mod360 [式5]
【0086】
シーン(b):弁開点より大きいステップnでの弁停止時の場合には、同調範囲の最大角RA_max(n)は、以下の式6または式7で求められる。
RA_max(n)=RA_c(n+Ub) [式6]
RA_c(n+Ub):ステップ(n+Ub)における理想的なロータ角度
RA_max(n)=(RA_c(n)+Ub×R)mod360 [式7]
【0087】
また、シーン(b)の場合、同調範囲の最小角RA_min(n)は、以下の式8または式9で求められる。
RA_min(n)=RA_c(n+Lb) [式8]
RA_c(n+Lb):ステップ(n+Lb)における理想的なロータ角度
RA_min(n)=(RA_c(n)+Lb×R)mod360 [式9]
【0088】
シーン(c):弁開点以下のステップnでの弁移動中の場合には、同調範囲の最大角RA_max(n)は、以下の式10または式11で求められる。
RA_max(n)=RA_c(n+Uc) [式10]
RA_c(n+Uc):ステップ(n+Uc)における理想的なロータ角度
RA_max(n)=(RA_c(n)+Uc×R)mod360 [式11]
【0089】
また、シーン(c)の場合、同調範囲の最小角RA_min(n)は、以下の式12または式13で求められる。
RA_min(n)=RA_c(n+Lc) [式12]
RA_c(n+Lc):ステップ(n+Lc)における理想的なロータ角度
RA_min(n)=(RA_c(n)+Lc×R)mod360 [式13]
【0090】
シーン(d):弁開点以下のステップnでの弁停止時の場合には、同調範囲の最大角RA_max(n)は、以下の式14または式15で求められる。
RA_max(n)=RA_c(n+Ud) [式14]
RA_c(n+Ud):ステップ(n+Ud)における理想的なロータ角度
RA_max(n)=(RA_c(n)+Ud×R)mod360 [式15]
【0091】
また、シーン(d)の場合、同調範囲の最小角RA_min(n)は、以下の式16または式17で求められる。
RA_min(n)=RA_c(n+Ld) [式16]
RA_c(n+Ld):ステップ(n+Ld)における理想的なロータ角度
RA_min(n)=(RA_c(n)+Ld×R)mod360 [式17]
【0092】
シーン(a)からシーン(d)のいずれの場合にも、最大角RA_max(n)と最小角RA_min(n)をデューティー比に換算する。最大角に対応するデューティー比SO_max(n)は、式18で求められる。また、最小角に対応するデューティー比SO_min(n)は、式19で求められる。
SO_max(n)=定数S×RA_max(n)+定数T [式18]
SO_min(n)=定数S×RA_min(n)+定数T [式19]
定数Sは、デューティー比/機械角の比である。定数Tは、デューティー比の下限値DAである。
【0093】
図12は、論理演算Zの真理値表を示す。
本実施形態では、上述したデューティー比SO_max(n)とSO_min(n)を用いた論理演算Zによって脱調を判断する。関係Aを表す式20、関係Bを表す式21および関係Cを表す式22の成否に基づく論理演算Z(式23)を行う。
関係A:SO_max(n)>SO_min(n) [式20]
関係B:SO_max(n)≧SO_m(n) [式21]
関係C:SO_m(n)≧SO_min(n) [式22]
論理演算Z:関係A xor 関係B xor 関係C [式23]
【0094】
SO_m(n)は、磁気センサ119から受信したデジタル信号のパルスから読み取られるデューティー比(角度値)である。デューティー比SO_m(n)は、実際のロータ角度RA_m(n)に対応する。この対応関係については、図13に例示している。
【0095】
論理演算Zの結果が真(1)であれば同調しており、論理演算Zの結果が偽(0)であれば脱調したと判定する。論理的に生じ得る組み合わせは、図示したパターン1~6の6種類である。
【0096】
この例では、関係Aから関係Cについてデューティー比で大小関係を判定するが、これは実際のロータ角度における大小関係と一致する。
【0097】
図13は、脱調と同調の判定例を示すグラフである。
左側縦軸には、ロータ角RAを示し、右側縦軸には、デューティー比SOを示している。ロータ角RAとデューティー比SOは、線形関係にある。したがって、相互に変換可能である。横軸には、ステップn(=弁位置Pos(n)を示す。
【0098】
図示した実線は、同調範囲の最大角RA_max(n)とその最大角に対応するデューティー比SO_max(n)を示す。同じく一点鎖線は、理想的なロータ角度RA_c(n)とその理想的なロータ角度に対応するデューティー比SO_c(n)を示す。同じく破線は、同調範囲の最小角RA_min(n)とその最小角に対応するデューティー比SO_min(n)を示す。
【0099】
パターン1、4および5の脱調例を黒丸で示している。パターン2、3および6の同調例を白丸で示している。
例えば、パターン6の場合、SO_max(n)>SO_min(n)であり、関係Aは真(1)である。SO_max(n)≧SO_m(n)であり、関係Bは真(1)である。また、SO_m(n)≧SO_min(n)であり、関係Cは真(1)である。よって、論理演算Zは真(1)であり、判定結果は同調となる。
【0100】
例えば、パターン5の場合、図示したように、SO_max(n)>SO_min(n)であり、関係Aは真(1)である。SO_max(n)≧SO_m(n)であり、関係Bは真(1)である。また、SO_m(n)<SO_min(n)であり、関係Cは偽(0)である。よって、論理演算Zは偽(0)であり、判定結果は脱調となる。
【0101】
ステップnがP1~P2の区間では、SO_max(n)とSO_min(n)の大小関係が逆転するので、関係Aが偽(0)である。この区間におけるパターン1~3では、関係Aが真(1)である区間のパターン4~6とは異なる判定ロジックとなる。
【0102】
続いて、判定のタイミングについて説明する。
弁移動中の判定に関しては、1つステップを移動する度に、次の励磁に切替える直前に判定処理を実行する。弁停止時の判定に関しては、弁停止毎に1回ずつ行う。具体的には、保持電流の停止処理後、所定の待機時間が経過した時点で判定処理を実行する。待機時間は、電源ラインオープンでコイル3相の電流(プローブ)が収束するまでの時間を基準としてもよい。例えば、収束するまでの時間に所定の余裕時間を加えた時間長を、待機時間としてもよい。
【0103】
図14は、電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
電動弁制御装置200の各構成要素は、回路基板118上における制御回路(マイクロコンピュータ)、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェア(制御回路)と、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバおよびアプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0104】
電動弁制御装置200は、データ処理部202、通信部204、基準情報記憶部206およびロータインタフェース部208を含む。
通信部204は、接続端子81を介して外部装置に対するインタフェースとして機能する。ロータインタフェース部208は、磁気センサ119およびコイルユニット75に対するインタフェースとして機能する。基準情報記憶部206は、原点情報(基準情報)を記憶する。基準情報記憶部206は不揮発性メモリに構成される記憶領域である。データ処理部202は、基準情報および通信部204、ロータインタフェース部208から取得された各種データに基づいて各種処理を実行する。データ処理部202は、通信部204、ロータインタフェース部208および基準情報記憶部206のインタフェースとしても機能する。
【0105】
通信部204は、外部装置からデータおよびコマンドを受信する受信部210と、外部装置にデータを送信する送信部212を含む。
【0106】
ロータインタフェース部208は、回転指示部214および回転検出部216を含む。回転指示部214は、励磁パターンに応じて、U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに駆動電流を出力する。回転検出部216は、磁気センサ119から受けた電流のパルスからデューティー比(角度値)を読み取る。
【0107】
データ処理部202は、回転制御部218と脱調検出部220を含む。回転制御部218は、原点情報及び外部装置から受信したコマンドに基づいて回転指示部214を制御する。脱調検出部220は、各シーンにおける脱調判定処理を行って、脱調を検出する。
【0108】
図15図16は、メイン処理過程を示すフローチャートである。
回転制御部218は、ステップnを特定する(S10)。ステップnは、受信部210において外部装置から受信した移動コマンド(移動方向および移動速度を含む)または停止コマンドに基づいて決定される。
【0109】
脱調検出部220は、ステップnが進んだか否かを判定する(S12)。弁開方向への移動の場合には、回転制御部218が励磁パターンを上昇回転方向に切り替えるため、ステップnが1つ増加する。弁閉方向への移動の場合には、回転制御部218が励磁パターンを下降回転方向に切り替えるため、ステップnが1つ減少する。ステップnが増加した場合も、減少した場合も、ステップnが進んだと判定される。ステップnが進むタイミングは、移動速度に基づき回転制御部218により決定される。
【0110】
ステップnが進んだと判定した場合には(S12のY)、脱調検出部220は、ステップnが弁開点より大きいか否かを判定する(S14)。ステップnが弁開点より大きい場合(S14のY)、つまり弁開状態である場合には、脱調検出部220は、シーン(a)の脱調判定処理を実行する(S16)。一方、ステップnが弁開点以下である場合(S14のN)、つまり弁閉状態である場合には、脱調検出部220は、シーン(c)の脱調判定処理を実行する(S18)。各シーンの脱調判定処理については、図17に関連して後述する。脱調判定処理の後で、回転制御部218は、回転指示部214に指示する励磁パターンを切り替える(S20)。このときの励磁パターンは、S10で特定されたステップnに対応する。そして、S10に戻って上述した処理を繰り返す。
【0111】
S12の処理の説明に戻る。ステップnが進んでいないと判定した場合には(S12のN)、図16に示したS22の処理へ移る。
【0112】
回転制御部218は、回転指示部214における通電を停止させるか否かを判定する(S22)。たとえば受信部210が外部装置から停止コマンドを受信した場合に、回転制御部218は、回転指示部214における通電を停止させると判定する。
【0113】
回転制御部218が通電を停止させないと判定した場合には(S22のN)、S10に示した処理に戻る。一方、回転制御部218が通電を停止させると判定した場合には(S22のY)、回転制御部218は、回転指示部214の通電をOFFにする(S24)。
【0114】
再び移動コマンドが発せられた場合には通電を再開させる必要があるので、回転制御部218は、回転指示部214における通電を再開させるか否かを判定する(S26)。受信部210が外部装置から移動コマンドを受信していない場合に、回転制御部218は、回転指示部214における通電を再開させないと判定する。通電を再開させないと判定した場合には(S26のN)、脱調検出部220は、通電OFF時から所定の待機時間が経過したか否かを判定する(S28)。所定の待機時間は、たとえば電流の立下りに要する時間に相当する。つまり、電源ラインのオープンによってコイル3相の電流(プローブ)が収束するまでの間は、待機する。
【0115】
所定の待機時間が経過していないと判定した場合には(S28のN)、回転制御部218は、S26の処理に戻る。そして、通電を再開させると判定した場合には(S26のY)、回転制御部218は、回転指示部214の通電をONにして(S30)、S10の処理に戻る。このように、すぐに通電を再開させた場合には、弁停止時の脱調判定処理は行われない。
【0116】
一方、通電を再開させることなく、所定の待機時間が経過したと判定した場合には(S28のY)、脱調検出部220は、ステップnが弁開点より大きいか否かを判定する(S32)。ステップnが弁開点より大きい場合(S32のY)、つまり弁開状態である場合には、脱調検出部220は、シーン(b)の脱調判定処理を実行する(S34)。一方、ステップnが弁開点以下である場合(S32のN)、つまり弁閉状態である場合には、脱調検出部220は、シーン(d)の脱調判定処理を実行する(S36)。
【0117】
脱調判定処理を行った後は、通電を再開させるまでそのまま待機する。つまり、回転制御部218は、回転指示部214における通電を再開させるか否かの判定を繰り返し(S38)、通電を再開させると判定した場合に(S38のY)、回転制御部218は、回転指示部214の通電をONにして(S40)、S10の処理に戻る。つまり、受信部210が外部装置から移動コマンドを受信すれば、元の処理に復帰する。
【0118】
図17は、各シーンの脱調判定処理過程を示すフローチャートである。
まず、脱調検出部220は、上述した式1の演算を行う処理によって、理想のロータ角度RA_c(n)を算出する(S50)。
【0119】
次に、脱調検出部220は、同調範囲の最大角RA_max(n)を算出する(S52)。シーン(a)であれば、脱調検出部220は、上述した式3の演算を行う処理を実行する。シーン(b)であれば、脱調検出部220は、上述した式7の演算を行う処理を実行する。シーン(c)であれば、脱調検出部220は、上述した式11の演算を行う処理を実行する。シーン(d)であれば、脱調検出部220は、上述した式15の演算を行う処理を実行する。
【0120】
さらに、脱調検出部220は、同調範囲の最小角RA_min(n)を算出する(S54)。シーン(a)であれば、脱調検出部220は、上述した式5の演算を行う処理を実行する。シーン(b)であれば、脱調検出部220は、上述した式9の演算を行う処理を実行する。シーン(c)であれば、脱調検出部220は、上述した式13の演算を行う処理を実行する。シーン(d)であれば、脱調検出部220は、上述した式17の演算を行う処理を実行する。
【0121】
脱調検出部220は、最大角RA_max(n)に対応するデューティー比SO_max(n)を算出する(S56)。脱調検出部220は、上述した式18の演算を行う処理を実行する。
【0122】
脱調検出部220は、最小角RA_min(n)に対応するデューティー比SO_min(n)を算出する(S58)。脱調検出部220は、上述した式19の演算を行う処理を実行する。
【0123】
回転検出部216は、磁気センサ119から受信したパルスからデューティー比SO_m(n)を読み取る(S60)。
【0124】
そして、脱調検出部220は、上述の関係A(式20)の真偽、関係B(式21)の真偽、および関係C(式22)の真偽を判定し、さらにそれらの判定結果に基づいて、論理演算Z(式23)の真偽を判定する(S62)。論理演算Zの結果が真(1)であれば、脱調していないと判定し、偽(0)であれば、脱調したと判定する。
【0125】
脱調検出部220が脱調していないと判定した場合には(S64のN)、メイン処理の呼び出し元(S20又はS38)に復帰する。
【0126】
一方、脱調検出部220が脱調したと判定した場合には(S64のY)、送信部212は、脱調したことを知らせる脱調通知を外部装置へ送信する(S66)。そして、メイン処理の呼び出し元(S20又はS38)に復帰する。
【0127】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0128】
[変形例]
本実施形態においては最下位点の原点を基準位置とする例を説明した。変形例として最上位点を基準位置に設定してもよい。基準位置は作動ロッド32をロータ60で駆動するための基準となるべき位置であればよい。ストッパ90によりロータ60の回転を規制可能な位置であれば任意に基準位置を定めることができる。
【0129】
上述した関係Bに関して式21に代えて、式24を用いてもよい。
関係B:SO_max(n)>SO_m(n) [式24]
同様に、関係Cに関して式22に代えて、式25を用いてもよい。
関係C:SO_m(n)>SO_min(n) [式25]
【0130】
読み取ったデューティー比(角度値)SO_m(n)を実際のロータ角度RA_m(n)に換算して、ロータ角度の関係A~関係Cに基づいて、論理演算Zを行うようにしてもよい。その場合に、関係Aは、式26で表される。関係Bは、式27または式28で表される。関係Cは、式29または式30で表される。
関係A:RA_max(n)>RA_min(n) [式26]
関係B:RA_max(n)≧RA_m(n) [式27]
関係B:RA_max(n)>RA_m(n) [式28]
関係C:RA_m(n)≧RA_min(n) [式29]
関係C:RA_m(n)>RA_min(n) [式30]
【0131】
磁気センサ119のPWM周期に同期して判定処理を実行するようにしてもよい。つまり、PWMのパルスを受信したタイミングで、判定処理を実行してもよい。
【0132】
上記実施形態では、弁停止時に1回だけ脱調判定処理を実行する例を示したが、変形例として、弁停止時に複数回脱調判定処理を実行するようにしてもよい。
【0133】
上記実施形態では、磁気センサ119をセンサマグネット106と軸線方向に対向させる構成を例示した(図1参照)。変形例においては、センサマグネットの側方(径方向外側)に磁気センサを配置してもよい。すなわち、両者を径方向に対向させてもよい。センサマグネットの外周面に着磁してもよい。その極数については、例えば弁本体2極とするなど適宜設定できる。
【0134】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。マグネット部成形工程において、ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。センサマグネットがロータコアの外周にはみ出すことになるため、センサマグネットとロータマグネットを射出成形しやすくなる。
【0135】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0136】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。
【0137】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数も3つや6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0138】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0139】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0140】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0141】
本実施形態における1は電気自動車に限らず、各種の自動車に応用可能である。
【0142】
センサマグネット106を両面4極着磁(片面弁本体2極の両面着磁)としてもよい。上面と下面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。この場合、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【符号の説明】
【0143】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、6 第1ボディ、8 第2ボディ、10 雄ねじ、12 シール収容部、14 シールリング、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、40 大径部、42 ばね受け、44 ばね受け、46 スプリング、52 係止部、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、73a U相コイル、73b V相コイル、73c W相コイル、74 ボビン、75 コイルユニット、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、79 コネクタ部、80 シール収容部、81 接続端子、82 シールリング、90 ストッパ、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、110 縮径部、112 底部、114 ストッパ、116 スプリング、117 端子、118 回路基板、119 磁気センサ、120 スロット、122 突極、124 スリット、140 環状溝、144 環状溝、200 電動弁制御装置、202 データ処理部、204 通信部、206 基準情報記憶部、208 ロータインタフェース部、210 受信部、212 送信部、214 回転指示部、216 回転検出部、218 回転制御部、220 脱調検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17