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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171303
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077880
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 正助
(72)【発明者】
【氏名】大原 淳士
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆二
(72)【発明者】
【氏名】油井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【テーマコード(参考)】
5F063
【Fターム(参考)】
5F063AA05
5F063BA43
5F063BB01
5F063CB03
5F063CB07
5F063CB13
5F063CB17
5F063CB28
5F063CC49
5F063DD28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半導体装置の製造方法に関し、半導体塊を分割する際、分割面以外に半導体塊に亀裂が生じることを抑える半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、ガス流路形成工程と、変質層形成工程と、分割工程を備える。ガス流路形成工程では、窒化ガリウムを主成分とする半導体塊の表面から半導体塊の深さ方向に延びるガス流路5を形成する。変質層形成工程では、半導体塊の内部に焦点を合わせてレーザ光を走査し、ガリウムが析出しているとともに窒素がガス化している変質層6を形成する。分割工程では、変質層6に沿って半導体塊を分割する。ここで、変質層形成工程においては、変質層6がガス流路5の底5aに接しており、深さ方向に沿って見たときにガス流路5から離れた位置では変質層6がガス流路5の底5aよりも深い。ガス流路5の直下で変質層6の底面6aが盛り上がっているので、変質層6の底面6a側の半導体塊には亀裂が生じ難い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウムを主成分とする半導体塊(3)の表面から前記半導体塊の深さ方向に延びるガス流路(5)を形成するガス流路形成工程と、
前記半導体塊の内部に焦点を合わせてレーザ光を走査し、ガリウムが析出しているとともに窒素がガス化している変質層(6)を形成する変質層形成工程と、
前記変質層に沿って前記半導体塊を分割する分割工程と、
を備えており、
前記変質層形成工程において、前記変質層が前記ガス流路の底(5a)に接しており、前記深さ方向に沿って見たときに前記ガス流路から離れた位置では前記変質層が前記ガス流路の底よりも深い、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記深さ方向に沿って見たときに前記ガス流路から離れた位置では、前記ガス流路よりも深い位置に前記レーザ光の焦点を合わせ、前記ガス流路に近づくにつれて前記レーザ光の焦点位置を前記ガス流路の底に向けて浅くしていく、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面に複数の半導体素子(4a)が形成されており、前記ガス流路は、隣り合う前記半導体素子の間に形成される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ガス流路は、前記半導体素子を囲むように形成される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
レーザ光の照射により前記ガス流路を形成する、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程には、ウエハまたはインゴットを分割する工程が含まれる。特許文献1に、窒化ガリウムを主成分とするウエハまたはインゴットを分割する技術が開示されている。以下では、説明の便宜上、窒化ガリウムを主成分とするウエハとインゴットを「半導体塊」と称する。特許文献1の技術によると半導体塊の内部に焦点を合わせたレーザ光を照射し、半導体塊の内部に面状に分布する改質スポットを生成する。改質スポットではガリウムが析出するとともに窒素がガス化する。改質スポットは他の部分よりも脆弱になる。半導体塊に力を加えると、面状に分布した改質スポットに沿って半導体塊が割れる。改質スポット内の高い窒素ガス圧が、半導体塊の分割を助ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-1202520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
改質スポット内の窒素ガス圧が高すぎると改質スポットが分布している面内方向だけでなく、別の方向へも亀裂が生じるおそれがある。残った半導体塊に亀裂が残ると、亀裂が生じた範囲は使えなくなってしまい、無駄が生じる。本明細書は、分割面以外に半導体塊に亀裂が生じることを抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する製造方法は、ガス流路形成工程と、変質層形成工程と、分割工程を備える。ガス流路形成工程では、窒化ガリウムを主成分とする半導体塊の表面から半導体塊の深さ方向に延びるガス流路を形成する。変質層形成工程では、半導体塊の内部に焦点を合わせてレーザ光を走査し、ガリウムが析出しているとともに窒素がガス化している変質層を形成する。変質層は、先に述べた改質スポットに相当する。分割工程では、変質層に沿って半導体塊を分割する。ここで、変質層形成工程においては、変質層がガス流路の底に接しており、深さ方向に沿って見たときにガス流路から離れた位置では変質層がガス流路の底よりも深い。
【0006】
上記の製造方法によると、変質層に溜まった窒素ガスの一部はガス流路を通じて半導体塊の外へ放出される。変質層内のガス圧が過度に高くなることがなく、変質層以外には亀裂が生じ難くなる。
【0007】
本明細書が開示する製造方法では、ガス流路の深さ方向に沿って見たときにガス流路から離れた位置では変質層がガス流路の底よりも深い。別言すれば、ガス流路の直下では変質層の底面が盛り上がっている。変質層とガス流路の接点ではガス圧が高くなり易い。しかし、ガス流路の直下で変質層の底面が盛り上がっているので、変質層の底面側の半導体塊には亀裂が生じ難い。
【0008】
ガス流路の深さ方向に沿って見たときにガス流路から離れた位置では、ガス流路よりも深い位置にレーザ光の焦点を合わせ、ガス流路に近づくにつれてレーザ光の焦点位置をガス流路の底に向けて浅くしていくようにレーザ光を走査するとよい。ガス流路の直下にて変質層の底面が徐々に盛り上がるようになり、底面側の半導体塊にさらに亀裂が生じ難くなる。
【0009】
半導体塊の表面は平坦であり、その表面に複数の半導体素子が形成されており、ガス流路は、隣り合う半導体素子の間に形成されてもよい。半導体塊の平坦な表面に半導体素子を形成した後に、半導体素子が形成された層を半導体塊から切り出す。その場合、ガス流路は、隣り合う半導体素子の間に形成される。あるいは、半導体素子を囲むようにガス流路を形成する。ガス流路が半導体素子を切り出す際のガイドにもなる。
【0010】
変質層を生成する工程と同様に、ガス流路がレーザ光の照射により形成されてもよい。別言すれば、ガス流路は変質層と同質であってもよい。変質層を形成する工程と同様の工程でガス流路を形成することができる。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例の製造方法を説明する図である(素子形成工程)。
図2】実施例の製造方法を説明する図である(ガス流路形成工程)。
図3】複数の半導体素子が形成されたインゴットの平面図である。
図4】実施例の製造方法を説明する図である(変質層形成工程)。
図5】実施例の製造方法を説明する図である(分割工程)。
図6】実施例の製造方法を説明する図である(裏面電極形成工程)。
図7】実施例の製造方法を説明する図である(ダイシング工程)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して実施例の製造方法を説明する。実施例の製造方法は、窒化ガリウムを主成分とするインゴット3から半導体装置を製造する方法である。インゴット3は円柱形状であり、上面が平坦である。
【0014】
(素子形成工程)まず、インゴット3の平坦な上面3aに複数の半導体素子4aを形成する(図1)。半導体素子は、薄膜結晶成長、種々のイオン注入、エッチング、絶縁膜の形成など、複数の工程を経て形成される。半導体素子は、既知の工程で作られるので、詳しい説明は省略する。説明の便宜のため、インゴット3において、半導体素子4aが形成された領域を素子領域4と称する。
【0015】
(ガス流路形成工程)インゴット3の下面3bの側からレーザを照射し、ガス流路5を形成する(図2)。インゴット3の下面3bの側にレーザ照射器10を配置し、インゴット3の内部にレーザの焦点を集める。窒化ガリウムが主成分のインゴット3にレーザを当てると、焦点にてガリウムが析出するとともに、窒素がガス化する。窒素がガス化することで、インゴット3の内部に多数の空孔が生じる。多数の空孔が生成された領域はガスの流路となる。従ってガリウムが析出した層は、ガスの流路となり得る。この工程にて、レーザが照射された領域をガス流路5と称する。
【0016】
レーザの焦点をインゴット3の上面3aからインゴット3の深さ方向に変化させると、深さ方向に延びるガス流路5が得られる。ガス流路5は、上面3aに達する。ガス流路5は、上面3aから素子領域4を通り過ぎる深さまで形成される。また、レーザ照射器10を隣り合う半導体素子4aの間で移動させる。ガス流路5は、隣り合う半導体素子4aの間の境界に沿って延びる。図3に、複数の半導体素子4aが形成されたインゴット3の平面図を示す。先に述べたように、インゴット3は円柱形状であるため、平面図ではインゴット3は円となる。ガス流路形成工程では、インゴット3の上面3aを平面視したときに複数の半導体素子4aのそれぞれを囲むようにガス流路5が形成される。「インゴット3を平面視する」とは、ガス流路5の深さ方向に沿ってインゴット3を見ることと等価である。
【0017】
(変質層形成工程)続いて、インゴット3の内部に焦点を合わせつつレーザ光を走査し、ガリウムが析出しているとともに窒素がガス化している変質層6を形成する(図4)。レーザ照射器10は、インゴット3の下面3bの側に配置され、下面3bの側からレーザが照射され、上面3aに平行に走査される。変質層6は、ガス流路5の深さ方向に交差する方向に拡がるように形成される。別言すれば、変質層6は、インゴット3の上面3a(半導体素子4aが形成された表面)に平行に拡がるように形成される。
【0018】
変質層6とガス流路5は、同じレーザで生成されるので、変質層6とガス流路5は同じ組成である。ガス流路5の形成と変質層6の形成には、典型的には、波長が530[μm]程度のグリーンレーザが用いられる。
【0019】
変質層6は、ガス流路5の底よりも深い位置に形成される。より具体的には、インゴット3の深さ方向に沿って見たときにガス流路5から離れた位置では、ガス流路5よりも深い位置に焦点を合わせてレーザ光を走査する。図4の符号10aが、ガス流路5から離れた箇所に位置するレーザ照射器を示しており、符号Fc1は、そのときのレーザの焦点位置を示している。このときのレーザの焦点位置Fc1は、ガス流路5の底5a(図4の右下の拡大図参照)よりも深い。
【0020】
変質層形成工程では、レーザ光をインゴット3の上面3aに平行に走査し、ガス流路に近づくにつれてレーザ光の焦点位置をガス流路5の底5aの深さに向けて徐々に浅くする。図4の符号10が、ガス流路5の直下に位置するレーザ照射器を示している。ガス流路5の直下では、焦点位置Fc2は、ガス流路5の底5aに合致する。変質層6は、ガス流路5の底5aに接する。別言すれば、ガス流路5は、変質層6を貫通しない。
【0021】
図4の右下に、ガス流路5の底5a付近の拡大図を示す。変質層6は、ガス流路5の位置にて盛り上がる。別言すれば、変質層6の底面6aは、ガス流路5の直下で盛り上がる。
【0022】
先に述べたように、変質層6では、ガリウムが析出しているとともに、窒素がガス化している。ガリウムが析出し、窒素がガス化するため、変質層6は、その周りの物質よりも脆くなる。また、変質層6には窒素ガスが充満している。変質層6はガス流路5とつながっており、ガス流路5は、インゴット3の上面3aに達している。それゆえ、変質層6の窒素ガスの一部は、ガス流路5を通じてインゴット3の外へ放出される。
【0023】
(分割工程)変質層6よりも上の部分と、変質層6よりも下の部分に力を加え、インゴット3を分割する。インゴット3は、素子領域4と、残インゴット7に分離する(図5)。ガリウムが析出し窒素がガス化した変質層6は、他の部位と比較して脆弱である。それゆえ、変質層6の上下に力を加えると、変質層6に沿ってインゴット3が割れる。変質層6の内部の窒素ガスの圧力も、インゴット3の分割に貢献する。変質層6の内圧が高すぎると、変質層6の周囲にも亀裂が生じるおそれがある。しかし、変質層6の中の窒素ガスの一部はガス流路5を通じて外部に放出されているため、変質層6の内圧は適度な高さに保持される。変質層6のガス圧が過度に高くならないので、変質層6の周囲に亀裂が生じ難い。
【0024】
また、先に述べたように、ガス流路5は、変質層6を貫通していない。別言すれば、ガス流路5は変質層6の底面6aと交差しない。ガス流路5と底面6aが交差していると、交差ポイントに応力が集中し、底面6aに亀裂が生じ易くなる。ガス流路5は変質層6の底面6aと交差しないので、底面6aには亀裂が生じ難い。さらに、ガス流路5の直下では変質層6の底面6aが盛り上がっている。底面6aが盛り上がっていることは、底面6aの耐圧力を高くする。底面6aの盛り上がりも亀裂の抑制に貢献する。
【0025】
インゴット3の底面6aの側(残インゴット7)は、半導体装置の基板として再利用される。ガス流路5の底5aが変質層6に接していること(別言すれば、ガス流路5が変質層6を貫通していないこと)、および、変質層6の底面6aがガス流路5の直下で盛り上がっていることは、残インゴット7での亀裂発生の抑制に貢献する。残インゴット7に亀裂が残っていると、その部分を研磨しなくてはならない。すなわち、残インゴット7に無駄が生じる。実施例の製造方法では、残インゴット7に亀裂が生じ難いので、無駄なく残インゴット7を再利用することができる。
【0026】
(裏面電極生成工程とダイシング工程)素子領域4の裏面3cを平らに研磨した後に裏面電極8を形成する(図6)。最後に、複数の半導体素子4aの境界に沿って素子領域4をカットし、複数の半導体素子4a(半導体装置4a)が完成する(図7)。半導体素子4aを囲むようにガス流路5が設けられている。ガス流路5は、変質層6と同タイプであり、周囲の部位よりも脆弱である。複数の半導体素子4aを境界に沿って半導体素子4aをカットする際、脆弱なガス流路5は、隣り合う半導体素子4aを切り分ける際のガイドとして機能する。
【0027】
図5に示した残インゴット7は、上面(変質層6の底面6a)が平坦でない。残インゴット7は、上面を研磨し、上面を平坦にしてから、新たな半導体素子の形成に再利用される。
【0028】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。ガス流路5は、窒素がガス化して多数の空孔が生じた領域である。空孔を伝って窒素ガスが流れる。ガス流路は、カッターで形成した溝であってもよい。ガス流路が溝である場合、インゴット3を平面視したときに半導体素子4aの周囲に離散的なガス流路を形成するとよい。
【0029】
実施例では半導体のインゴット3を分割する方法を示したが、本明細書が開示する技術は、ウエハを分割する際にも利用することができる。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
3:インゴット 3a:上面 3b:下面 3c:裏面 4:素子領域 4a:半導体素子(半導体装置) 5:ガス流路 5a:底 6:変質層 6a:底面 7:残インゴット 8:裏面電極 10:レーザ照射器 Fc1、Fc2:焦点位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7