(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171312
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インキ組成物およびそれを収容したボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20221104BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20221104BHJP
B43K 7/10 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
B43K7/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077894
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 将太
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 眞子
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KA01
2C350NA07
4J039BE02
4J039BE22
4J039CA03
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ペン先からのインキ吐出性を良好とし、筆跡カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を長期に亘って形成可能とするボールペン用水性インキ組成物とそれを収容したボールペンを提供する。
【解決手段】金属製のボールペンチップを備えてなるボールペンに収容されるインキであって、着色材と、リン酸エステル系界面活性剤と、下式(1)に示される物質及び/又はその塩と、水を含有する、ボールペン用水性インキ組成物とする。
式中、XとYは-H、-R、-OH、-OR、-NH
2、-NHRおよび-NR
2から選ばれる官能基であり、Rはアルキル基である。ただし、X、Y双方が水素である場合を除く。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のボールペンチップを備えてなるボールペンに収容されるインキであって、着色材と、リン酸エステル系界面活性剤と、下式(1)に示される物質及び/又はその塩と、水を含有する、ボールペン用水性インキ組成物。
【化1】
式中、XとYは-H、-R、-OH、-OR、-NH
2、-NHRおよび-NR
2から選ばれる官能基であり、Rはアルキル基である。ただし、X、Y双方が水素である場合を除く。
【請求項2】
前記XとYは、-H、-OHおよび-NH2から選ばれる官能基である(ただし、X、Y双方が水素である場合を除く)、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項3】
インキ組成物全質量に対して、前記リン酸エステル系界面活性剤の含有量が0.1~3質量%であり、式(1)に示される物質及び/又はその塩の含有量が0.05~2質量%である、請求項1または請求項2に記載の水性インキ組成物。
【請求項4】
リン酸エステル系界面活性剤の含有量Aと、式(1)に示される物質及び/又はその塩の含有量Bとの関係が、0.01≦B/A≦1を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項5】
前記着色材が染料である。請求項1~4のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項6】
前記染料の含有量が、水性インキ組成物全質量を基準として2質量%以下である、請求項5に記載の水性インキ組成物。
【請求項7】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項8】
金属製のボールペンチップを備え、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性インキ組成物が収容されてなるボールペン。
【請求項9】
多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備えてなる、請求項8に記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン用水性インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より金属製のボールペンチップを備えるボールペンにおいては、ペン先からのインキ吐出性を良好とし、筆跡カスレや線トビのない鮮明な筆跡を形成させる検討が行われており、インキにリン酸エステル系界面活性剤等の潤滑剤を添加してボールを円滑に回転させる手法が広く利用されている。しかしながら、このような添加剤を用いた場合でも良好なインキ吐出を持続させることは容易ではないため、さらなる検討が行われている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
特許文献1には、架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドまたは架橋型ポリアクリル酸またはその塩とアルキルベンゼンスルホン酸を用いた水性インキ組成物が記載されている。このインキは、スムーズなボール回転によって良好なインキ吐出が発現し、筆跡のカスレや線トビが抑制可能とされたものである。
【0004】
しかしながら、前記従来技術のインキにおいても良好なインキ吐出を持続させることは容易ではなく、経時的にインキ吐出性が低下することがあるため改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属製のボールペンチップを備えるボールペンに収容されるインキであって、ペン先からの良好なインキ吐出性を持続的に発現させ、筆跡カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を長期に亘って形成可能とするボールペン用水性インキ組成物とそれを収容したボールペンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
「1.金属製のボールペンチップを備えてなるボールペンに収容されるインキであって、着色材と、リン酸エステル系界面活性剤と、下式(1)に示される物質及び/又はその塩と、水を含有する、ボールペン用水性インキ組成物。
【化1】
式中、XとYは-H、-R、-OH、-OR、-NH
2、-NHRおよび-NR
2から選ばれる官能基であり、Rはアルキル基である。ただし、X、Y双方が水素である場合を除く。
2. 前記XとYは、-H、-OHおよび-NH
2から選ばれる官能基である(ただし、X、Y双方が水素である場合を除く)、第1項に記載の水性インキ組成物。
3.インキ組成物全質量に対して、前記リン酸エステル系界面活性剤の含有量が0.1~3質量%であり、式(1)に示される物質及び/又はその塩の含有量が0.05~2質量%である、第1項または第2項に記載の水性インキ組成物。
4.リン酸エステル系界面活性剤の含有量Aと、式(1)に示される物質及び/又はその塩の含有量Bとの関係が、0.01≦B/A≦1を満たす、第1項~第3項のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
5.前記着色材が染料である。第1項~第4項に記載の水性インキ組成物。
6.前記染料の含有量が、水性インキ組成物全質量を基準として2質量%以下である、第5項に記載の水性インキ組成物。
7.ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物を含む、第1項~第6項のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
8.金属製のボールペンチップを備え、第1項~第7項のいずれか1項に記載の水性インキ組成物が収容されてなるボールペン。
9.多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備えてなる、第8項に記載のボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属製のボールペンチップを備えるボールペンに収容されるインキであって、ペン先からの良好なインキ吐出性を持続的に発現させ、筆跡カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を長期に亘って形成可能とするボールペン用水性インキ組成物とそれを収容したボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0010】
本発明によるボールペン用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」、「インキ組成物」、または「組成物」と表すことがある。)は、着色剤と、リン酸エステル系界面活性剤と、式(1)に示す物質及び/又はその塩と、水とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
(着色剤)
本発明のボールペン用水性インキ組成物は、従来からの着色剤を用いることができる。
顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物または金属塩などの無機顔料、有機色素顔料またはレーキ顔料などの有機顔料、ならびにアルミニウム顔料などの光沢のある光輝性顔料、および蛍光顔料が挙げられ、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。
着色材の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1~30質量%の範囲で適用される。
【0012】
さらに、インキ組成物に適用できる着色材としては、摩擦熱により変色する着色材も例示できる。
【0013】
前記摩擦熱により変色する着色材としては、筆跡を摩擦体等で擦過して加温することによって、筆跡が変色(色相変化や透明化や消色)するものが、可逆、不可逆を問わず選択的に適用できる。尚、着色材自身が色相変化するものの他、透明化(消色)するものと、前記した染料、顔料等の汎用の着色材を併用することで、色相が変化する構成とすることもできる。
前記加熱変色する着色材としては、例えば、引用文献として例示した、特開2012-219160号公報、特開2014-5422号公報等に開示される可逆タイプや、特開2010-229332号公報等に開示される不可逆タイプのものが適用可能である。
特に、前記筆跡の変化は、熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させることで、組成変化を生じることなく長期間安定して発現できるものとなるため好適である。前記マイクロカプセル顔料に内包される熱変色性組成物としては、繰り返しの使用性、温度変化の正確性等の点から、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適である。
【0014】
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、筆記具インキに適用される、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0015】
前記熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0016】
着色材が染料であって、染料の含有量がインキ組成物全質量に対して2質量%以下である水性インキは、理由は定かではないが、筆記を繰り返すことでインキ吐出性が低下しやすい傾向にある。本発明のインキ組成物は、このような染料濃度であってもペン先からの良好なインキ吐出性を持続的に発現させ、筆跡カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を長期に亘って形成することができる。
【0017】
(リン酸エステル系界面活性剤)
インキ組成物は、リン酸エステル系界面活性剤を含有する。
リン酸エステル系界面活性剤は、筆記時のボールの回転を円滑にし、インキ吐出性を良好とする。
【0018】
インキ組成物に適用できるリン酸エステル系界面活性剤としては公知のものが適用できる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステルを例示でき、前記ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸エステルとしては、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンナフチルエーテルリン酸エステルを例示でき、いずれも好ましく用いられる。リン酸エステル系界面活性剤はナトリウム塩またはモノアルカノールアミン塩、ジアルカノールアミン塩、トリアルカノールアミン塩等のアルカノールアミン塩であっても良い。市販品では、例えば、プライサーフシリーズ(第一工業製薬社製)として、プライサーフA212C、A215C、A208F、M208F、A208N、A208B、A219B、DB-01、A210D、ALが挙げられ、フォスファノールシリーズ(東邦化学社製)として、フォスファノール2P、ML-200、GF-185、BH-650、ED-200、RA-600、ML-220、ML-240、RD-510Y、RS-410、RS-610、RS-710、RL-210、RL-310、RB-410、RD-710、RP-710、LF-200、RM-410、RM-510、SP-212、CP-120、720、SC-6103、RD-720.LP -700、LP-500、LB-400が挙げられ、アンステックスシリーズ(東邦化学社製)として、アンステックスAK-25、AK-25B、SM-172、GF-339、GF-199、ML-200、GF-185等が挙げられる。インキ組成物に適用できるリン酸エステル系界面活性剤はこれらに限られるものではない。
リン酸エステル系界面活性剤は単一種を用いても良く、複数種を併用しても良い。
【0019】
インキ組成物中のリン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1~3質量%とすることが好ましく、0.5~2質量%とすることがより好ましい。インキ組成物中のリン酸エステル系界面活性剤の含有率を前記範囲内とすることで、リン酸エステル系界面活性剤の溶解安定性を良好としつつ、筆記時のボール回転を円滑としやすい。
【0020】
水性インキ組成物は、下記式(1)に示す物質又はその塩を含有する。
【化1】
式中、XとYは-H、-R、-OH、-OR、-NH
2、-NHR、-NR
2から選ばれる官能基であり、Rはアルキル基である。ただし、X、Y双方が水素である場合を除く。
前記した式(1)に示す物質の塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩が挙げられる。
式(1)に示す物質およびその塩は、前記したリン酸エステル系界面活性剤とともに適用されて筆記時の良好なインキ吐出性を持続的に発現させ、筆跡カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を長期に亘って形成可能とする。
これは以下のメカニズムによるものと推測される。
ボールや、ボール受け座等のボール抱持室内面にインキ組成物が触れると、まずリン酸エステル系界面活性剤がボール表面やボール抱持室内面に速やかに吸着して筆記時にボールを滑らかに回転させることができる潤滑層を形成する。このリン酸エステル系界面活性剤のみからなる潤滑層はボールの回転によって生じる、ボールとボール接触部との摩擦が繰り返されることで失われやすいものの、この潤滑層に式(1)に示す物質やその塩が取り込まれることで、ボールの回転で容易に失われない強固な潤滑層が形成され、円滑なボールの回転が持続可能となる。
式(1)に示される物質とその塩は併用しても良い。
【0021】
さらに、式(1)に示す物質およびその塩は、後述する、ボールペンのインキ供給機構を形成する部材の濡れ性を高め、インキ貯蔵部からペン先へのインキ供給性を良好とすることもできる。
【0022】
筆記時における良好なインキ吐出性を持続させることを考慮すると、式(1)のXとYは、-H、-OH、および-NH2から選ばれる官能基である(ただし、XとYの双方が-Hである場合を除く)ことが好ましく、XとYは、-OHおよび-NH2から選ばれる官能基であることがより好ましく、XとYは、一方が-OHであり、他方が-NH2であることがさらに好ましい。
【0023】
式(1)に示される物質及び/又はその塩の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.05~2質量%とすることが好ましく、0.1~1.5質量%とすることがより好ましく、0.1~1質量%とすることが一層好ましい。含有量が0.05質量%以上であるとインキ吐出性を良好とする効果が十分奏され、2質量%を超えると式(1)の物質やその塩による色濃度が高くなるため、特に淡色や白色のインキに適用した場合、インキの色合いが変化することがある。
【0024】
また、前記リン酸エステル系界面活性剤の含有量Aと、式(1)に示す物質及び/又はその塩の含有量Bとの関係は、0.01≦B/A≦1を満たすことが好ましく、0.05≦B/A≦0.7であることがより好ましい。含有量比が前記範囲内であると、良好なインキ吐出性が持続しやすい。
【0025】
インキ組成物は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物を含むことが好ましい。
前記縮合物は筆跡カスレや線トビを一層抑制し、経時後の初筆性を良好とすることができる。
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物と式(1)で示される物質及びその塩は、共通してナフタレン環を有することから親和性が高く、ボール表面やボール座等のボール抱持室内面に形成された、リン酸エステル系界面活性剤と、式(1)の物質及び/又はその塩とからなる潤滑層に前記縮合物がさらに取り込まれ、潤滑層を一層強固なものにすると推測される。
前記縮合物は、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩であっても良い。
【0026】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の含有量は、経時後の初筆性を良好とすることを考慮すると、インキ組成物全質量に対し0.5~5質量%とすることが好ましく、1~3質量%とすることがより好ましく、1~2質量%とすることがさらに好ましい。
【0027】
(増粘剤)
水性インキ組成物には、増粘剤を用いることが出来る。
増粘剤としては従来公知の物質を用いることが可能であるが、好ましくは、インキ組成物にせん断減粘性を付与できる物質(せん断減粘性付与剤)である。せん断減粘性付与剤は、静置時においてはインキの高粘度を維持しつつ、ボールからインキに剪断力が加わったときにインキ組成物を容易に低粘度化させることができるため、静置時におけるインキ中での顔料の沈降、凝集を抑制しつつ、筆記時におけるペン先からのインキ吐出性を良好とすることができる。
【0028】
せん断減粘性付与剤の具体例としては、トラガントガム、プルラン、サイクロデキストリン、サクシノグリカン、キサンタンガム、ウェランガム、λ-カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、グルコマンナン、カラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ポリN-ビニル-カルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、スメクタイトおよびラポナイト等の無機質微粒子等を例示できる。
【0029】
インキ組成物には、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることもできる。水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用することもでき、インキ組成物中2~60重量%、好ましくは5~35質量%の範囲で用いられる。
【0030】
更に、インキ組成物の特性に合わせ、所望のpHに調整するためにpH調整剤を用いることもできる。
pH調整剤としては、従来公知の酸性物質、塩基性物質が適用でき、酸性物質としては例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、塩基性物質としては例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ、或いは炭酸ナトリウム、アンモニア、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等の弱アルカリが挙げられる。また、塩基性物質としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類も適用可能である。
【0031】
その他、必要に応じて、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2-ベンズチアゾリン3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を使用してもよい。さらに前記した塩基性物質を、式(1)に示される物質の中和剤として用いることもできる。
更に、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、N-アシルアミノ酸系界面活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β-アラニン型界面活性剤、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α-リポ酸、N-アシル-L-グルタミン酸とL-リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
また、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピペリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0032】
さらに、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を一種又は二種以上添加したり、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を一種又は二種以上添加することもできる。
【0033】
(水性インキ組成物の物性)
水性インキ組成物の粘度は、せん断速度384sec-1における測定粘度(20℃)を、1~100mPa・sとすることが好ましく、2~70mPa・sとすることがより好ましい。インキ組成物の粘度測定はレオメーター(TAインスツルメント社製、DISCOVERY HR-2、コーンプレート40mm、角度1°)を用いて行うことができる。水性インキ組成物の粘度が上記数値範囲内であれば、インキ吐出性を適度に良好とするので、筆跡カスレや線トビのない鮮明な筆跡を形成することが容易となる。
【0034】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0035】
(ボールペン)
本発明の水性インキ組成物が充填されるボールペンについて説明する。ボールペンは、ペン先、インキ充填機構、インキ供給機構等を備えてなる。
【0036】
ペン先は、ボールペンチップ本体のボールハウス(ボール抱持室)にボールを回転自在に抱持してなる、金属製のボールペンチップが用いられる。
【0037】
ボールハウスは、例えば、金属を切削加工して内部にボール受け座とインキ導出部を形成したもの、金属製パイプの先端近傍の内面に複数の内方突出部を外面からの押圧変形により設け、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成したもの等を適用でき、特に押圧変形により内方突出部を設けたボールハウスは、ボール後端との接触面積が比較的小であり、低筆記圧でのスムーズな筆記感を与えることができる。
【0038】
ボールやボールハウスの材質は、強度や耐摩耗性に優れ、リン酸エステル系界面活性剤が表面に吸着して、ボールの回転を円滑にしやすいことから、ステンレス、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金等が好ましく用いられる。
【0039】
前記ボールハウスに抱持されるボールは、外径0.1~2.0mmのボールが適用できる。
尚、前記ボールペンチップには、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配して、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することもでき、不使用時のインキ漏れを抑制できる。
前記弾発部材は、金属細線のスプリング、前記スプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたものを例示でき、5~40gの弾発力により、押圧可能に構成して適用される。
【0040】
インキ充填機構は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
ボールペンが水性インキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
また、インキ充填機構はインキ組成物を直に充填可能なカートリッジであっても良い。
【0041】
また、インキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(2)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、前記インキ誘導溝を通じてペン先へインキ組成物を供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構、(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
ペン先を具備したインキ収容体としては、前記ボールペンチップをインキ収容管の先端に直接またはホルダーを介して具備し、インキ後端にグリース等の粘調液体からなるインキ逆流防止体が充填されてなるインキレフィルであっても良い。
【0042】
前記(3)の機構は、インキ貯蔵部からボールペンチップへのインキ供給を安定的に良好とし、ボールペンチップからのインキ吐出性を向上させることができるため好ましいインキ供給機構である。さらに、本発明のインキ組成物は、前記した通り、式(1)に示す物質やその塩によりインキ供給機構を構成する部材の濡れ性が高められているため、(3)のインキ供給機構が奏する良好なインキ供給の安定性を一層高めることができる。
【0043】
ボールペンは、ペン先出没機構を具備していても良い。ペン先出没機構としては、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0044】
本発明の組成物を収容するボールペンは、前記したペン先、インキ充填機構、インキ供給機構、およびペン先出没機構の中から機構を適宜選択して構成することが可能である。
【0045】
本発明の実施例は以下の通りである。
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用水性インキ組成物を得た。
・着色材 0.4質量%
(青色染料、製品名:ウォーターブルー105、オリヱント化学工業社製)
・リン酸エステル系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、製品名:プライサーフAL、第一工業製薬社製) 1.5質量%
・式(1)に示す化合物(X:-OH、Y:-NH2) 0.1質量%
・ベンゾイソチアゾリン-3-オン(防腐剤、製品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン社製) 0.3質量%
・ジエチレングリコール 8質量%
・尿素 5質量%
・トリエタノールアミン 2質量%
・水 82.7質量%
【0046】
(実施例2~9、比較例1~4)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1に示したとおりに変更して、実施例2~9、比較例1~4のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
(1)青色染料(製品名:ウォーターブルー105、オリヱント化学工業社製)
(2)黄色染料(製品名:キノリンイエローWS300%、ダイワ化成社製)
(3)青色顔料(製品名:サンダイスーパーブルーGLL(E)、山陽色素社製、顔料25質量%分散体)
(4)リン酸エステル系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、製品名:プライサーフAL、第一工業製薬社製)
(5)式(1)に示す化合物(X=-OH、Y=-NH2)
(6)式(1)に示す化合物(X、Yともに-OH)
(7)ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物(製品名:デモールN、花王社製)
(8)防腐剤(ベンゾイソチアゾリン-3-オン、製品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン社製)
【0047】
【0048】
調製した水性インキ組成物について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表2に記載したとおりであった。
また、評価試験で用いるボールペンは、以下のようなボールペンを作成し用いた。
ボールペン:外径が0.7mmの超硬合金製ボールを回転自在に抱持する金属製のボールペンチップ(ボール抱持室の材質:ステンレス)と、インキ組成物を直詰め可能なインキ充填機構と、前記ボールペンチップと前記インキ充填機構との間に介在し、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をボールペンチップへ誘導するインキ供給機構とを備えてなるボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製、製品名:Hi-TecpointV7)に実施例および比較例で得られたインキ2gを収容した。
【0049】
(1)インキ吐出安定性の評価
上記ボールペンにより試験紙に連丸筆記を行い、筆跡の観察および評価を行った。なお、丸1個の直径は3cmであり、筆記条件を、筆記距離1000m、筆記荷重100g、筆記角度62.5°、および筆記速度4m/分に設定した。試験紙には、商品名:NPiフォーム<55>(日本製紙株式会社製)を用いた。評価基準は、SとAを合格とし、Bを不合格とした。
S:筆跡カスレや線トビが確認されない。
A:わずかに筆跡カスレや線トビが確認されたが、実用上問題なし。
B:筆跡カスレや線トビが顕著であり、実用上問題がある。
(2)経時安定性の評価1:初筆性
キャップを装着したボールペンを50℃下に60日間保管し、保管後のボールペンを常温に戻したのち、連丸(直径:3cm)を12個筆記して筆跡を観察した。尚、筆記時の条件は、筆記荷重:100g、筆記角度:70°、筆記速度:12個の丸を4秒で筆記する速度とし、試験紙には「インキ吐出安定性の評価」で使用した試験紙と同種の紙を用いた。評価基準は、SとAを合格とし、Bを不合格とした。
S:筆跡カスレや線トビが確認されない。
A:わずかに筆跡カスレや線トビが確認されたが、実用上問題なし。
B:筆跡カスレや線トビが顕著であり、実用上問題がある。
(3)経時安定性の評価2:インキ吐出安定性
「経時安定性の評価1」で評価したボールペンを用いて試験紙に筆記し、筆跡を観察した。尚、筆記時の条件、試験紙は「インキ吐出安定性の評価」と同じとした。評価基準は、SとAを合格とし、Bを不合格とした。
S:筆跡カスレや線トビが確認されない。
A:わずかに筆跡カスレや線トビが確認されたが、実用上問題なし。
B:筆跡カスレや線トビが顕著であり、実用上問題がある。
【0050】
試験結果を以下の表2に記す。
【0051】