(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171314
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】持ち運び可能な移動補助具
(51)【国際特許分類】
A61G 5/14 20060101AFI20221104BHJP
A61G 5/12 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61G5/14 711
A61G5/12 701
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077896
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】521139704
【氏名又は名称】株式会社ヴァイス
(74)【代理人】
【識別番号】110002011
【氏名又は名称】特許業務法人井澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】柏木 勝人
(57)【要約】
【課題】 人の姿勢変更や移動を援助する生活用品あるいは介護福祉用品のか改良。
【解決手段】長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2)、スライド機構(3)を有し、上記座面(2)が上記スライド機構(3)を介して上記本体(1)の長さ方向に移動することができる、持ち運び可能な移動補助具。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2)、スライド機構(3)を有し、上記座面(2)が上記スライド機構(3)を介して上記本体(1)の長さ方向に移動することができる、持ち運び可能な移動補助具。
【請求項2】
上記スライド機構が、上記本体(1)に設けられた軌道(31)と上記座面(2)に設けられた摺動体(32)とを含む、
請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項3】
上記軌道(31)の形状が、上記本体(1)の長さ方向に延長する溝および/又はスリットであり、
上記摺動体(32)は上記軌道(31)に対してスライド移動でき、上記摺動体(32)の一部の外法寸法が上記軌道(31)の幅方向の寸法よりも大きい、
請求項2に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項4】
上記座面(2)の下面(22)が、本体(1)に対して低摩擦性の材料からなる平板であって、上記スライド機構(3)に含まれる、請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項5】
上記座面(2)が上記本体(1)に垂直な軸回りに回転することができる、請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項6】
上記本体(1)に持ち手(13)が配置されている、請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項7】
上記本体(1)が、上記座面に沿う平面に対して湾曲し、及び/又は、長さ方向に湾曲している、請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【請求項8】
上記座面(2)が、離れた2地点間に差し渡された上記本体(1)の長手方向にスライド移動することによって、上記座面(2)に着座するユーザーが上記2地点間を移動することができる、
請求項1に記載の持ち運び可能な移動補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持ち運び可能な移動補助具に関する。本発明は、具体的には、ある場所から別の場所への人の移動を容易にするための装置に関する。 より具体的には、本発明は、ベッドと車椅子などの2つの近接した場所の間で患者を移動させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢の筋力が低下している人が、ある場所から別の場所に移動するのが難しいことがある。 多くの場合、これらの人々は目的の場所に移動する手段として車椅子を用いるが、目的の場所に着くと、車椅子の座席地点からベッド、浴槽、または便器などの目的の地点に移動するために、特別な支援を必要とする。
【0003】
これまでに、このような支援を行う様々な装置が提案されている。特許文献1には、車椅子から車両の座席に移動するための装置が記載されている。特許文献2には、車椅子とベッドとの間の移動を補助する装置が記載されている。これらの装置は車椅子から移動する地点として車両のシートあるいはベッドといった特定の地点を想定している。このため、これらの装置は他の目的物、例えば、浴槽や便器、家庭のソファ、テラスのベンチなどには用いることが難しい。また、これらの装置を利用する際には、取り付けや搬送に複雑な動作や力を必要とすることが多く、移動するユーザーの身体的負担が大きい。このため、移動するユーザー以外に複数の介助者を必要とすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-005817号公報
【特許文献2】特開2014-000167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、移動するユーザーの身体的負担を減らし、他からの介助の量を減らすことができ、様々な場面で使用できる、移動補助手段を実現することにある。特に、移動するユーザーの回転や上下移動の動作を最小限にすることが、移動の負担を軽減するために求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、単純で比較的小型の2つの部材の滑り運動を利用することによって、汎用性が高く簡単に取り扱うことができる移動補助手段を実現した。すなわち本発明は以下のものである。
【0007】
(発明1)長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2)、スライド機構(3)を有し、上記座面(2)が上記スライド機構(3)を介して上記本体(1)の長さ方向に移動することができる、持ち運び可能な移動補助具。
(発明2)
上記スライド機構が、上記本体(1)に設けられた軌道(31)と上記座面(2)に設けられた摺動体(32)とを含む、発明1の持ち運び可能な移動補助具。
(発明3)
上記軌道(31)の形状が、上記本体(1)の長さ方向に延長する溝および/又はスリットであり、
上記摺動体(32)は上記軌道(31)に対してスライド移動でき、上記摺動体(32)の一部の外法寸法が上記軌道(31)の幅方向の寸法よりも大きい、
発明2の持ち運び可能な移動補助具。
(発明4)
上記座面(2)の下面(22)が、本体(1)に対して低摩擦性の材料からなる平板であって、上記スライド機構(3)に含まれる、発明1の持ち運び可能な移動補助具。
(発明5)
上記座面(2)が上記本体(1)に垂直な軸回りに回転することができる、発明1の持ち運び可能な移動補助具。
(発明6)
上記本体(1)に持ち手(13)が配置されている、発明1の持ち運び可能な移動補助具。
(発明7)
上記本体(1)が、上記座面に沿う平面に対して湾曲し、及び/又は、長さ方向に湾曲している、発明1の持ち運び可能な移動補助具。
(発明8)
上記座面(2)が、離れた2地点間に差し渡された上記本体(1)の長手方向にスライド移動することによって、上記座面(2)に着座するユーザーが上記2地点間を移動することができる、
発明1の持ち運び可能な移動補助具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の移動補助具は、持ち運び可能である点で、従来の器具に比べて利便性が高い。本発明の移動補助具を使用すると、ユーザーは座面に座ったまま、目的の地点への移動と体の左右向きの回転との両方を、楽に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の移動補助具に用いる本体(1)の例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら本発明を詳述する。図面は、持ち運び可能な移動補助具と、本発明の持ち運び可能な移動補助具の構成要素である長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2)、スライド機構(3)などの位置関係を理解するための参考図であって、略図である。本発明品は図面に示された形状に限定されない。図面では細部が誇張あるいは省略されている。
【0011】
本発明の持ち運び可能な移動補助具は、長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2)、スライド機構(3)を有する。長尺板状の本体(1)と平板状の座面(2)の各部の寸法は、上記本体(1)と上記座面(2)とが連結された状態で持ち運びでき、使用者の体重や押圧力などの使用時の外力に耐える強度を発揮できる限り、特に制限されない。本発明では、上記座面(2)が上記スライド機構(3)を介して上記本体(1)の長さ方向に移動することができる。上記スライド機構は、一般的には、本体(1)及び/又は座面(2)に設けられたレール、溝、スリットを含む。本発明では、好ましくは、上記本体(1)に設けられたレール、溝、スリットなどからなる軌道(31)と上記座面(2)に設けられた摺動体(32)とを含む。
【0012】
図1に、本発明の持ち運び可能な移動補助具の本体(1)を構成する、上面(11)と下面(12)の例を示す。この例では、上面(11)と下面(12)はほぼ同形の帯状であり、長さ方向に細長い開口部を有する。この開口部は後述の軌道(31)を形成する。下面(12)には、窓状の開口部を有する。この開口部は後述の持ち手(13)を形成する。上面(11)と下面(12)の材質は、本体(1)の強度を維持できる限り制限されず、プラスチック、金属、木材などのいずれも使用することができる。一般的には、薄型・軽量で高強度の本体(1)を得るために、上面(11)と下面(12)の材料としては硬質プラスチックと強化フィラーを主体とするプラスチック材料が用いられる。本体(1)は、一般的には、別々に成形した上面(11)と下面(12)とが接合されたものである。接合手段として接着剤、溶着、ネジ止めなどの一般的な方法が制限無く採用される。
【0013】
図2に、本発明の持ち運び可能な移動補助具の1例(100)を座面の上から見た様子を示す。
図2では、理解しやすいように上から視認できる本体(1)の内面を黒く表示しているが、実際の本体の内面と外面との色分けは必須ではない。移動補助具(100)は長尺板状の本体(1)、平板状の座面(2),スライド機構(3)を有する。この例では、本体(1)は帯板状であり、座面(2)の上面(21)は角の取れた正方形である。この例では、スライド機構(3)は本体(1)の上面(11)に設けられたスリット状の軌道(31)と、座面(2)の下部に付属する摺動体(32)である。スリット状の軌道(31)は本体の上面(11)を貫通する。
図2では摺動体(32)は見えない。座面(2)は軌道(31)に沿って、すなわち本体(1)の長さ方向(矢印の向き)に往復移動することができる。
【0014】
図3に、移動補助具(100)を裏から見た様子を示す。本体(1)の下面(12)には持ち手(13)として用いられる3つの窓状の開口部が設けられている。持ち手(13)の本体(1)の幅方向の寸法は軌道(31)の本体(1)の幅方向の寸法より小さい。この例では、持ち手(31)の奥に、左面(2)の下面(22)に付属する摺動体(32)と軌道(31)を視認できる。持ち手(13)に指を入れて本体(1)の下面(12)を握ることによって、移動補助具(100)を持ち運ぶことができる。
【0015】
本発明の移動補助具に上記持ち手(13)は必須ではないが、本発明の移動補助具を誰もが簡単に持ち運ぶために、上記持ち手(13)は有効である。上記持ち手(13)の構造、形状、配置は、本発明の移動補助具を簡便に、好ましくは人が片手で、持ち運びできる限り、かつ、本発明の移動補助具を使用する地点に設置したときに本体(1)の姿勢が安定する限り、制限されない。上記持ち手(13)は、例えばフラップ状であってもよく、ノブ状であってもよい。
【0016】
図1,
図2,
図3に示すように、移動補助具(100)の場合には、本体(1)の表面の一部が軌道(31)と持ち手(13)として開口している。本体(1)全体の強度を維持するために、本体(1)の上面(11)及び/又は下面(12)にリブ構造を配置することができる。
【0017】
図4に、移動補助具(100)を横から見た様子を示す。座面(2)は平板状の本体(1)に設けられた軌道(31)に沿って、矢印方向にスライド移動する。
【0018】
図5に、
図1と
図3の点線における移動補助具(100)の断面を示す。軌道(31)は本体(1)の上面(11)を貫通する。座面(2)は上面(21)と下面(22)を含む。座面(2)は本体(1)に垂直な軸回りに(
図5の矢印向き)回転する。座面(2)及び/又は本体(1)には、座面(2)が押圧された時、あるいは、座面(2)が本体(1)の長さ方向に移動する特に、座面(2)が滑らかに移動し、かつ、座面(2)に座った状態で移動するユーザーの不快感を低減させるための緩衝手段を設けることが好ましい。座面(2)の上面(21)には滑り止めのための被覆、塗装、表面加工を施すことができる。
【0019】
図5に示す例では、上面(21)と下面(22)とが接続部材(23)を介して接続する。人が座面(2)に座ると上面(21)は下面(22)に接近する。接続部材(23)は、バネや軟質ウレタンフォームなどの弾性体からなる弾性部材を含むことができる。このような接続部材(23)は、ユーザーが座面(2)に座った時に座面(2)に適度なクッション性を与えるため、ユーザーは安全にかつ快適に座面(2)に体重をかけることができる。座面(2)には摺動体(32)が付属する。
【0020】
摺動体(32)が本体(1)の表面上を滑りながら軌道(31)に沿って移動することにより、座面(2)が本体(1)に対して移動する。摺動体(32)の軸部(321)が座面(2)に連結する。軸部(321)は円柱状の部材である。軸部(321)には連結部(323)を介して先端部(322)が付属する。先端部(322)の形状は、本体(1)の下面(12)に対する良好な滑り性が得られる限り制限されないが、
図5に示す例では、先端部(322)は円盤状の板材からなる。連結部(323)は、それ自体が弾性を有していても良い。先端部(322)の外法寸法は、軌道(31)の幅方向の寸法よりも大きい。
【0021】
図5には、各部位の関係を理解し易いように、軸部(321)と本体(1)、先端部(322)と本体(1)とが離れた状態を示す。座面(2)が下に向かって押圧された時、あるいは、座面(2)が本体(1)に対してスライド移動する際には、先端部(322)は本体(1)の下面(12)に接触する。この場合は、軸部(321)の外表面の一部分が軌道(31)を形成する本体(1)の端部に接触することがある。軸部(321)は軌道(31)の幅に対して細く、先端部(322)の上下厚みは本体(1)の上面(11)と下面(12)との間隔よりも短い。このため、軌道(31)において、軸部(321)、先端部(322)、連結部(323)からなる摺動体(32)は本体(1)に対して「遊び」を有した状態で配置されている。
【0022】
摺動体(32)のうち少なくとも軸部(321)と先端部(322)は、本体(1)と低摩擦力で接することが望ましい。このため、摺動体(32)のうち少なくとも軸部(321)と先端部(322)の表面粗さができるだけ小さくなるように、軸部(321)と先端部(322)の材質と成形方法が選択される。また、本体(1)の軌道(31)が形成された部分や、本体(1)の内表面に滑り加工をすることもできる。このような滑り加工は、平滑性に優れたシート材による被覆、滑り剤の塗布等を含む。軌道(31)の長さ方向の両端部には、軸部(321)との衝突に備えてストッパーや補強材、緩衝材を配置することもできる。
【0023】
このような軌道(31)と摺動体(32)が、移動補助具(100)のスライド機構(3)として働く。座面(2)が様々な向きで押圧されると、軸部(321)は軌道(31)の幅内でずれたり滑ったりして、本体(1)の長さ方向に移動し、先端部(322)は軸部(321)に従って本体(1)の内面に接触しながら移動する。
【0024】
座面(2)が本体(1)に対して更に滑らかに移動するためには、
図5,
図6に示す座面(2)の下面(22)と本体(1)の上面(11)との接触時に摩擦力を極力発生させないことが、好ましい。座面(22)の上面(11)と下面(22)の材質は、本体(1)と同様にプラスチック、金属、木質材料などのいずれでもよいが、下面(22)は本体(1)に対して滑り性の大きい材料からなることが望ましい。本発明では座面(2)の下面(22)を、好ましくは表面の平滑性が高い強化プラスチック類、さらに好ましくは、滑剤が配合されている、あるいはフッ素あるいはシリコン系の表面処理剤を塗布した樹脂材料で形成した平板とする。この場合、座面(2)の下面(22)もスライド機構(3)の要素の一つとして機能する。この場合は、座面(2)の下面(22)を「スライド板」と呼ぶことができる。
【0025】
図6に、摺動体(32)の先端部(322)として回転ボールを用いた例を示す。この例では、回転ボール(322)が本体内面に沿って回転しながら移動する。
【0026】
図7~
図12に、本発明の移動補助具の他の例(200,300,400,500,600)を示す。
図7に示す移動補助具の他の例(200)は円盤状の座面(2)を有する。このような座面(2)は、矢印の向きに座面(2)を回転したときに安定しやすく有利である。
図8と
図9に示すように、本発明の移動補助具の本体(1)は長さ方向に湾曲していてもよい。
図10は
図9に示す移動補助具(400)を裏から見た様子を示す。
図10に示すように、移動補助具(400)の本体(1)に1つの窓状の持ち手(13)が設けられている。
図11に示す移動補助具(500)の本体(1)は長さ方向に2つの屈曲部を有し、全体としてS字形をなす。
図12に示すように、本発明の移動補助具の本体(1)は座面(2)に沿う平面(
図12では点線に並行な平面)に対して湾曲してもよい。
図12に示す移動補助具(600)では、軌道(31)の両端に座面(2)からの衝撃を吸収するストッパー(41,42)が配置されている。
【実施例0027】
[例1]
図13,
図14,
図15に、ユーザーが本発明の移動補助具(700)を使って車椅子(5)から車両(6)の座席(61)に移動する様子を示す。
図13,
図14,
図15には移動補助具(700)を上から見た様子を示す。ユーザーの姿は省略し、ユーザーの体の向きを足型(71)で示す。足型(71)はユーザーが正面を向いた状態で足を下ろした時に想定される足の位置である。ユーザーが移動補助具(700)の一端は車椅子(5)の座面(51)に置かれる。移動補助具(700)の他の端は座席(61)に置かれる。
【0028】
図13に示すように、まず、ユーザーは、ドアが空いた状態の車両(6)に車椅子(5)を停止させる。ユーザーのお尻と座面(51)と間に、移動補助具(700)の端が挿入され、移動補助具(700)の一方の端が車両(6)の座席(61)の目的地点に置かれる。座面(2)はレコード盤のように回転することができるから、ユーザーは座面(2)に座ったまま力をかけずに全身の向きを変えることができる。こうして、ユーザーと目的地点が移動補助具(700)で橋渡しされた状態となる。
【0029】
次に、
図14に示すように、座面(2)を車両(6)に向かって移動させる。この時、ユーザー自身が下肢や腕を使って体重移動をすることにより、座面(2)を簡単にスライド移動することができる。ユーザーの上体は車両(6)内に移動する。座面(2)はユーザーの後ろから前に膨らむ弧を描いて移動する。座面(2)が移動する間、座面(2)に座ったユーザーは軽く前にかがむか、軽く足を踏み変えるだけで体のバランスをとることができる。
【0030】
図15に、座面(2)が移動補助具(700)の他方の端に到達し、ユーザーの体全体が車両(6)内に移動した状態を示す。ユーザーの足を、自身により、あるいは介助者によって、車両(6)の床に入れると、ユーザーは移動補助具(700)を敷いて座席(61)の背にもたれることができる。その後、ユーザーの体の下から移動補助具(700)を取り出す。こうして、ユーザーは僅かな運動や介助で車椅子(5)から車両(6)に乗り込むことができる。移動補助具(700)は薄型・軽量で持ち運びできるので、ユーザーあるいは介助者が車椅子と一緒に携行することができる。
【0031】
[例2]
図16,
図17,
図18,
図19に、ユーザーが本発明の移動補助具(800)を使ってベッド(8)から車椅子(5)に移動する様子を示す。この例は、介護の現場で重労働の一つとして知られている体の無着替え(被介護者の姿勢回転)を、本発明の移動補助具を使って簡単に行うことができる様子を示す。
【0032】
図16,
図17,
図18,
図19は移動補助具(800)を上から見た様子を示す。ユーザーの姿は省略し、ユーザーの体の向きを足型(72)で示す。足型(72)は、ユーザーが正面を向いた状態で足を下ろした時に想定される足の位置であり、実際にユーザーが足で床を押圧しているか否かは考慮しない。移動補助具(800)の一端はベッド(8)の上に置かれる。移動補助具(800)の他の端は車椅子(5)の座面(51)に置かれる。椅子(5)の構造上、車椅子(5)はベッド(8)に斜めに向かい合った状態で停止する。
【0033】
図16には、ユーザーが座面(2)に座り、足を床に下ろした状態を示す。車矢印はユーザーの体の向き(正面を見た時の視線の向き)を示す。この状態からユーザーは座面(2)に座ったまま車椅子に向かって移動を開始する。
【0034】
図17に示すようにユーザーがベッドから離れると、通常は、ユーザーあるいは介助者が座面(2)を回転させて、ユーザーの上半身を回転させる。ユーザーの状態が安定しない場合には、ユーザーの腰回りをベルトで支えながら座面(2)をスライドと座面(2)の回転を行う。座面(2)の移動と回転によって、ユーザーの体全体の向き(視線の向き)が
図17の足型(72)に付けた矢印の向きに変わる。このようなユーザーの体の回転において、ユーザーが座面から離れる必要はない。またこのようなユーザーの体の回転において、ユーザーが座面(1)あるいは本体(1)の上で滑り動く必要は無い。
【0035】
この後、ユーザーが車椅子(5)にさらに近づくと、同様に、ユーザーあるいは介助者が座面(2)を更に回転させて、ユーザーの上半身を回転させる。するとユーザーの体全体の向き(視線体の向き)が
図18の矢印の向きに変わる。
【0036】
さらにこの後、座面(2)が軌道(31)の端に到達してユーザーが車椅子(5)の目的位置に来ると、同様に、ユーザーあるいは介助者が座面(2)を回転させて、ユーザーの上半身を回転させる。するとユーザーの体全体の向き(視線体の向き)が
図19の矢印の向きに変わる。
【0037】
図16に示す状態から
図19に示す状態まで、上述の時点以外にも座面(2)を回転することができる。座面(2)のスライド運動と並行して座面(2)自体を回転させてもよい。
【0038】
図16に示す状態から
図19に示す状態までのユーザーの体の回転を、移動補助具(800)無しで行う場合には、介助者がユーザーを抱えて持ち上げる必要があり、多大な労力を要する。しかし、移動補助具(800)を用いると、介助者の負担は格段に軽減される。この例で示す移動補助具(800)の使用法は、特に高体重の被介護者が移動する際に役立つ。
【0039】
[例3]
本発明の移動補助具は、介護や治療の場面だけで活用されるものではない。
図20に、本発明の移動補助具の他の例(900)を示す。この例でも、座面(2)は本体(1)の長さ方向に滑らかにスライドでき、座面(2)自体が水平方向に(紙面に沿う平面に沿って)滑らかに回転することができる。移動補助具(900)を、ソファや車の後部座席などで、左右に座り位置を移動する場合に利用することができる。移動補助具(900)は、体重がある人、筋力が弱い人、体が沈み込むソファや座席に座っている人の移動を援助することができる。またバードウォッチングや写真撮影の際に、姿勢を大きく変えること無く、静かに移動する際にも、移動補助具(900)を利用することができる。
本発明の移動補助具は、簡易な構造でありながら人の動作を効率的に援助する器具である。本発明の移動補助具を、椅子、杖、歩行器、車椅子と同様に、様々な場所や場面で活用することができる。したがって、本発明の移動補助具は、屋内外で使用する生活用品、レジャー用品として、あるいは介護機器として、あるいは治療用補助器具として、利用価値が高い。