(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171323
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】食品用日持ち向上剤、ならびにそれを用いた食品、食品の製造方法および食品の日持ち向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3472 20060101AFI20221104BHJP
A23L 3/3535 20060101ALI20221104BHJP
A23L 3/3544 20060101ALI20221104BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20221104BHJP
A23L 27/00 20160101ALN20221104BHJP
A23L 27/10 20160101ALN20221104BHJP
A23L 27/20 20160101ALN20221104BHJP
【FI】
A23L3/3472
A23L3/3535
A23L3/3544
A23L29/00
A23L27/00 D
A23L27/10 C
A23L27/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077905
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】井上 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
【テーマコード(参考)】
4B021
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B021LA33
4B021LW07
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK05
4B021MK18
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4B021MK25
4B021MP01
4B035LC05
4B035LE03
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4B035LP21
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4B047LG20
4B047LG37
4B047LG65
4B047LP02
4B047LP14
(57)【要約】
【課題】 得られる食品の風味を損なうことなく、種々の微生物に対して優れた制菌効果を発揮し得る食品用日持ち向上剤、ならびにそれを用いた食品、食品の製造方法および食品の日持ち向上方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の食品用日持ち向上剤は、プテロカルプス抽出物を含有する。また、チアミンラウリル硫酸塩を併用することにより優れた制菌性能を発揮し得る。本発明は、例えば枯草菌、食品変性乳酸菌、酵母などの食品腐敗・変敗菌に対する制菌作用を有する点で食品加工分野において有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プテロカルプス抽出物を含有する、食品用日持ち向上剤。
【請求項2】
さらにチアミンラウリル硫酸塩を含有する、請求項1に記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項3】
前記プテロカルプス抽出物と前記チアミンラウリル硫酸塩との質量比が、該プテロカルプス抽出物が乾燥体である場合に基づいて、1/100~100/1である、請求項2に記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項4】
さらにエタノールを含有する、請求項1から3のいずれかに記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項5】
プテロカルプス抽出物およびチアミンラウリル硫酸塩を含有する、制菌剤。
【請求項6】
食品素材と請求項1から4のいずれかに記載の食品用日持ち向上剤とを含有する、食品。
【請求項7】
食品素材と請求項1から4のいずれかに記載の食品用日持ち向上剤とを混合する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項8】
食品素材に請求項1から4のいずれかに記載の食品用日持ち向上剤を作用させて食品を得る工程を含む、食品の日持ち向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用日持ち向上剤、ならびにそれを用いた食品、食品の製造方法および食品の日持ち向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工食品における生菌の増殖を抑制するために種々の制菌剤が用いられている。例えば、食品中のナトリウム分を低減するために、酢酸などの有機酸溶液製剤(特許文献1)や、粉末酢酸を硬化油脂でコーティングしてなるコート酢酸(特許文献2)を制菌剤の構成成分として使用することが提案されている。これらの成分はその優れた制菌性能により日持ち向上剤として有用である。しかし、固有の酢酸臭を呈する点で、必ずしも加工食品全般に使用され得るものとはいえない。
【0003】
一方、ビタミン製剤の1種でもあるチアミンラウリル硫酸塩もまた、優れた制菌効果を有することが知られている。チアミンラウリル硫酸塩はグラム陽性菌に対して少量でその効果を発揮し得るが、特有のビタミン臭を有する。そのため、添加量を多くするかまたは食品素材の種類によっては、得られる食品の風味を損なうことがあり、汎用性の点で制約を受けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-270820号公報
【特許文献2】特開2013-081386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、得られる食品の風味を損なうことなく、種々の微生物に対して優れた制菌効果を発揮し得る食品用日持ち向上剤、ならびにそれを用いた食品、食品の製造方法および食品の日持ち向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プテロカルプス抽出物を含有する、食品用日持ち向上剤である。
【0007】
1つの実施形態では、本発明の食品用日持ち向上剤は、さらにチアミンラウリル硫酸塩を含有する。
【0008】
さらなる実施形態では、上記プテロカルプス抽出物と上記チアミンラウリル硫酸塩との質量比は、該プテロカルプス抽出物が乾燥体である場合に基づいて、1/100~100/1である。
【0009】
1つの実施形態では、本発明の食品用日持ち向上剤は、さらにエタノールを含有する。
【0010】
本発明はまた、プテロカルプス抽出物およびチアミンラウリル硫酸塩を含有する、制菌剤である。
【0011】
本発明はまた、食品素材と上記食品用日持ち向上剤とを含有する、食品である。
【0012】
本発明はまた、食品素材と上記食品用日持ち向上剤とを混合する工程を含む、食品の製造方法である。
【0013】
本発明はまた、食品素材に上記食品用日持ち向上剤を作用させて食品を得る工程を含む、食品の日持ち向上方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、種々の微生物に対して優れた制菌性を発揮することができる。これにより、本発明の食品用日持ち向上剤を含む食品の保存期間を延長することも可能となる。さらに、このような食品は、保存期間の延長により製造拠点から遠隔の販売地への輸送も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で行った種々の細菌類および真菌類に対してプテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩とを併用して作用させた際の、当該プテロカルプス抽出物の濃度に対するチアミンラウリル硫酸塩の最小発育阻止濃度の変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1で行った細菌類(ラクトバチルス・プランタルム)に対してプテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩とを併用して作用させた際の、当該プテロカルプス抽出物の濃度に対するチアミンラウリル硫酸塩の最小発育阻止濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
【0017】
(食品用日持ち向上剤)
本発明の食品用日持ち向上剤は、プテロカルプス抽出物を含有する。
【0018】
プテロカルプスはマメ科の常緑高木であり、例えばインドやスリランカを原産地とするプテロカルプス・マルスピウム(Pterocarpus Marsupium;インドキノキ);および日本国、中華人民共和国、東南アジア、インドなどを原産地とするプテロカルプス・インディクス(Pterocarpus Indicus);がある。食品用の日持ち向上剤として優れた効果を発揮し得るという理由から、プテロカルプス抽出物は、プテロカルプス・マルスピウムを由来とする抽出物であることが好ましい。
【0019】
本発明を構成するプテロカルプス抽出物は、例えば、上記プテロカルプスの心材から得られたものである。1つの実施形態では、プテロカルプス抽出物は、当該心材をエタノールまたは所定濃度に調製されたエタノール水溶液で抽出し、乾燥および粉末化することにより得ることができる。
【0020】
本発明を構成するプテロカルプス抽出物は、フィトケミカルとして、例えば、プテロスチルベン、イソリキリチゲニン、リキリチゲニン、カルプシン、プロプテロール-B、プロプテロール、オレアノール酸、アルカロイド、樹脂5,4’-ジメトキシ-8-メチルイソフラボンなどの多種の化合物を含有し得る。プテロカルプス抽出物は、例えば株式会社サビンサジャパンコーポレーションより市販されている。
【0021】
プテロカルプス抽出物は、例えば、食品加工の際に混入や増殖が懸念されるような種々の微生物に対して優れた制菌性を発揮することができる。ここで、本明細書中に用いられる「制菌」または「制菌性」とは、微生物の増殖および生育を制御し得る性質、好ましくは当該微生物の数を減少させ得る性質をいう。例えば、制菌性を有する製剤(制菌剤)を含有する食品は、これを含有しない場合の食品と比較して、例えば、当該食品の腐敗または発酵を防止または遅延させ、その品質の維持を一定期間延長することができる。延長され得る期間は、食品の種類に依存するため特に限定されないが、例えば、数日間~数ヶ月、好ましくは1日間~3ヶ月間、より好ましくは2日間~1ヶ月間である。このような制菌性を有する製剤(制菌剤)を食品用途に用いる場合、これを「食品用日持ち向上剤」ともいう。
【0022】
プテロカルプス抽出物が制菌性を発揮し得る微生物としては、特に限定されず、例えば、細菌類(耐熱菌、大腸菌群など)や真菌類(酵母、カビなど)が挙げられ、より具体的な例としては、バシラス属(Bacillus)(例えば、バシラス・スブチリス(Bacillus subtilis)、およびバシラス・セレウス(Bacillus cereus))、ラクトコッカス属(Lactococcus)(例えば、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis))、ラクトバチルス属(Lactobacillus)(例えば、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum))、ロイコノストック属(例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesennteroides))、エスケリキア属(Escherichia)(例えば、大腸菌(Escherichia coli))、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))、キャンディダ属(Candida)(例えば、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans))、サッカロマイセス属(Saccharomyces)(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))などの細菌類;およびウィッカーハモマイセス属(Wickerhamomyces)(例えば、ウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)、アスペルギルス属(Aspergillus)(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))、ペニシリウム属(Penicillium)(例えば、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum))などの真菌類;が挙げられる。
【0023】
上記プテロカルプス抽出物を含有することにより、本発明の食品用日持ち向上剤は上記微生物に対して優れた制菌性を有する。
【0024】
本発明の食品用日持ち向上剤はまた、上記プテロカルプス抽出物以外にチアミンラウリル硫酸塩(例えばチアミンラウリル硫酸ナトリウム)を含有していてもよい。
【0025】
チアミンラウリル硫酸塩は、ビタミンB1または略称としてチアミンとも呼ばれ、それ単独でも例えば上記微生物に対して制菌性を有しており、それ自体が食品添加物としても使用されている。
【0026】
本発明の食品用日持ち向上剤は、食品の日持ち効果を向上させるために、上記プテロカルプス抽出物(PC)とチアミンラウリル硫酸塩(TL)とを所定の質量比で混合されていることが好ましい。プテロカルプス抽出物(PC)とチアミンラウリル硫酸塩(TL)との質量比(PC/TL)は、当該プテロカルプス抽出物が乾燥体である場合を基準にして、好ましくは1/100~100/1であり、より好ましくは1/80~40/1である。プテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩とがこのような質量比の範囲内で併用されていることにより、上述した、細菌類、真菌類などの様々な微生物に対する制菌性を、いずれか単独で使用する場合と比較して飛躍的に向上させることができる。
【0027】
なお、プテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩とを併用して含有することにより、得られる製剤は、食品用日持ち向上剤だけでなく、例えば、種々の日用品に配合され得る制菌剤としても使用できる。日用品の例としては、特に限定されないが、衛生用品、洗剤、家庭日用品、オーラルケア用品、トイレタリー用品、化粧品、家庭用化学製品などが挙げられる。
【0028】
本発明の食品用日持ち向上剤はまた、エタノールを含有していてもよい。
【0029】
エタノールは、プテロカルプス抽出物を溶解することができる。これにより、本発明の食品用日持ち向上剤は流動性に優れた液体の形態に保持することができる。食品用日持ち向上剤が液体であると、例えば後述する食品素材に対してプテロカルプス抽出物をより均一に分散させることができ、得られる食品に対して均質な制菌性を提供し得る。
【0030】
食品用日持ち向上剤に含有されていてもよいエタノールの量は、特に限定されないが、全体質量を基準として、好ましくは20質量%~99.99質量%であり、より好ましくは50質量%~98質量%である。エタノール量が20質量%を下回ると、エタノール中にプテロカルプス抽出物が完全に溶解することが困難となることがある。エタノール量が99.99質量%を上回ると、エタノール中に含まれるプテロカルプス抽出物の濃度が低すぎて、種々の微生物に対して所望の制菌性を十分に発揮できないことがある。
【0031】
本発明において、エタノールは、いわゆる食品添加物規格を満たすアルコール(エタノール)であることが好ましい。
【0032】
本発明の食品用日持ち向上剤は、上記プテロカルプス抽出物、チアミンラウリル硫酸塩およびエタノール以外に他の成分を含有していてもよい。このような他の成分の例としては、有機酸またはその塩、無機酸またはその塩、アミノ酸またはその塩、保存料および賦形剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、ギ酸、クエン酸、コハク酸、アジピン酸、グルコン酸、DL-酒石酸、L-酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、DL-リンゴ酸、イタコン酸、およびフィチン酸が挙げられる。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、炭酸、塩酸が挙げられる。アミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸が挙げられる。有機酸の塩、無機酸の塩、およびアミノ酸の塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、およびアンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
保存料としては、特に限定されないが、例えば、安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、ピロ亜硫酸、およびそれらの塩、白子タンパク質抽出物、ペクチン分解物、ε-ポリリシンならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、糖質および糖アルコールならびにガム類が挙げられる。糖質としては特に限定されないが、例えば、単糖類、オリゴ糖類、多糖類が挙げられる。単糖類としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、およびフルクトースが挙げられる。オリゴ糖類としては、特に限定されないが、例えば、乳糖、ショ糖、および麦芽糖が挙げられる。多糖類としては、特に限定されないが、例えば、デンプン、ペクチン、およびデキストリンが挙げられる。糖アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、およびキシリトールが挙げられる。ガム類としては、特に限定されないが、例えば、グアーガムおよびキサンタンガムが挙げられる。
本発明の食品用日持ち向上剤において、これら他の成分の含有量は、当業者により、任意の量が設定され得る。
【0036】
(食品およびその製造方法)
本発明の食品は、食品素材と上記食品用日持ち向上剤とを含有する。
【0037】
このような食品の例としては、タレ、めんつゆ、ソース、醤油などの調味料;おでん、煮物などの煮炊きを伴う総菜食品;ゼリー、生クリームのような菓子類;漬物;味噌;かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの練り物;コロッケ、とんかつ、魚フライ、唐揚げなどの揚げ物;ハンバーグ、肉団子、餃子、ソーセージなどの肉製品;等が挙げられる。
【0038】
食品素材は、上記食品を構成する当該食品の完成前の材料や調理途中のものを包含し、例えば、醤油、白だし等の液体調味料、調味液、ピックル液、バッター液、加熱前のハンバーグパテ、肉団子、餃子の餡等が挙げられる。
【0039】
食品素材と上記食品用日持ち向上剤との含有比(質量比)は、特に限定されず、使用する食品素材や目的の食品の種類、要求される保存期間等の様々な条件に基づいて適切な比が当業者によって設定され得る。
【0040】
本発明の食品は、食品素材と上記食品用日持ち向上剤との混合を通じて製造される。食品素材と食品用日持ち向上剤と合わせた後、必要に応じて、さらなる調理(例えば、加熱、焼成、揚げ、煮炊き、蒸し、および切断、ならびにそれらの組み合わせ)、盛り付け、容器への収容等が行われてもよい。
【0041】
このようにして本発明の食品を製造することができる。
【0042】
上記により得られた食品において、本発明の食品用日持ち向上剤は、種々の微生物に対して優れた制菌性を発揮することができる。その結果、本発明の食品用日持ち向上剤を含む食品自体の保存期間を延長することが可能である。こうした保存期間の延長は、当該食品の消費期限を延長できることに加え、従来では困難であった製造拠点からより遠隔の販売地への当該食品の輸送も可能とする。これにより、食品の廃棄ロスを低減することができ、一層効率的な物流が可能となる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実験例1:プテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩との併用効果)
プテロカルプス抽出物(株式会社サビンサジャパンコーポレーション製シルビノール5%)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、25質量%のDMSO溶液(P)を調製した。一方、チアミンラウリル硫酸塩を滅菌水に溶解させ、25質量%の水溶液(T)を調製した。
【0045】
細菌用として標準寒天培地または真菌用としてPDA寒天培地を含む複数のシャーレを用意し、これにDMSO溶液(P)および水溶液(T)の各溶液を各シャーレに分注して混釈し、各シャーレに含まれる内容物の全量が20mLであり、かつプテロカルプス抽出物およびチアミンラウリル硫酸塩の各々の濃度が0、50、100、200、500、1000、2000、5000、または10000ppmのいずれかとなるように調製して、細菌類用平板培地および真菌類用平板培地を作製した。
【0046】
これらの細菌類用平板培地および真菌類用平板培地のそれぞれに、表1に示すいずれかの供試菌を含む104CFU/mLの菌液10μLを供給し、細菌類は35℃にて2日間、真菌類は25℃で2日間培養した。
【0047】
【0048】
その後シャーレ上の培地に現れた供試菌のコロニーの有無を目視にて確認し、この目視による結果を通じてプロテカルプス抽出物に濃度(0ppm~10000ppm)に対する各供試菌のチアミンラウリル硫酸塩の最小発育阻止濃度(MIC)を得た。得られた結果を
図1および
図2に示す。
【0049】
図1および
図2に示すように、上記プテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩との組み合わせは、表1に示す細菌類および真菌類のいずれに対してもその発育を阻止することができた。特に、
図1および
図2のいずれにおいても、プロテカルプス抽出物なし(濃度0ppm)から、徐々にその濃度を上昇させると、所定濃度のプロテカルプス抽出物に対して得られるチアミンラウリル硫酸塩の最小発育阻止濃度の変化曲線は、当該プロテカルプス抽出物の制菌作用とチアミンラウリル硫酸塩の制菌作用との相加効果を示す一次曲線(負の傾きを有する直線)とはならず、反比例曲線に類似した曲線を示していた。これにより、プロテカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩との併用によって、各供試菌への制菌性が相加効果(一次曲線)として表れているのではなく、当該併用による相乗効果(反比例曲線)として表れていたことがわかる。また、
図1に示すように、こうした併用による相乗効果は、真菌類(カンジダ・アルビカンスおよびサッカロマイセス・セレビシエ)よりも細菌類(バチルス・サブチリス、ラクトコッカス・ラクティスおよびラクトバチルス・プランタルム)に対して、プテロカルプス抽出物およびチアミンラウリル硫酸塩のいずれもが少ない濃度で効率良く達成できていたこともわかる。
【0050】
(実施例2:めんつゆ用製剤の作製と評価)
プテロカルプス抽出物(株式会社サビンサジャパンコーポレーション製シルビノール90%)5.7質量部と、チアミンラウリル硫酸塩19.4質量部とをエタノール119質量部に溶解させて、めんつゆ用製剤(E1)を得た。
【0051】
市販のめんつゆ(4倍濃縮品)を滅菌水で4倍に希釈し、これから20mLを分取して2種類の遠沈管にそれぞれ添加した。次いで、各遠沈管に、上記で得られためんつゆ用製剤(E1)を、プテロカルプス抽出物、チアミンラウリル硫酸塩およびエタノールの各添加濃度が5.7ppm、19.4ppmおよび119ppmとなるように添加し、一方の遠沈管には、供試菌としてロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides/NBRC番号:100496)を約10CFU/mLとなるように植菌した。他方の遠沈管には、供試菌としてウィッカーハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus/NBRC番号:10213)を約10CFU/mLとなるように植菌した。これらの遠沈管を20℃で保存した。
【0052】
これらの遠沈管に含まれる菌数の経時的な変化を確認するために、保存2日目、保存5日目および保存8日目の遠沈管中のめんつゆを滅菌水で1000倍に希釈し、得られた希釈液、および原液1mLをシャーレ中の寒天培地と混釈した。その後、ロイコノストック・メセンテロイデスを含む寒天培地を35℃にて48時間、ウィッカーハモマイセス・アノマルスを含む寒天培地を25℃で48時間培養し、それぞれに現れたコロニーを計測し、菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例3:めんつゆ用製剤の作製と評価)
チアミンラウリル硫酸塩を含有させなかったこと以外は実施例2と同様にして、めんつゆ用製剤(E2)を作製した。次いで、めんつゆ用製剤(E1)の代わりに、めんつゆ用製剤(E2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、保存2日目、保存5日目および保存8日目のめんつゆ中に含まれるロイコノストック・メセンテロイデスまたはウィッカーハモマイセス・アノマルスの菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例1:めんつゆ用製剤の作製と評価)
プテロカルプス抽出物を含有させなかったこと以外は実施例2と同様にして、めんつゆ用製剤(C1)を作製した。次いで、めんつゆ用製剤(E1)の代わりに、めんつゆ用製剤(C1)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、保存2日目、保存5日目および保存8日目のめんつゆ中に含まれるロイコノストック・メセンテロイデスまたはウィッカーハモマイセス・アノマルスの菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0055】
(比較例2:めんつゆ用製剤の作製と評価)
プテロカルプス抽出物およびチアミンラウリル硫酸塩のいずれも含有させなかったこと以外は実施例2と同様にして、めんつゆ用製剤(C2)を作製した。次いで、めんつゆ用製剤(E1)の代わりに、めんつゆ用製剤(C2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、保存2日目、保存5日目および保存8日目のめんつゆ中に含まれるロイコノストック・メセンテロイデスまたはウィッカーハモマイセス・アノマルスの菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2に示すように、実施例2および3で得られた製剤(E1)および(E2)は、比較例1および2の製剤(C1)および(C2)と比較して、ロイコノストック・メセンテロイデスおよびウィッカーハモマイセス・アノマルスのいずれに対しても、少なくとも保存2日目までのめんつゆ中の菌数を効果的に抑制することができた。特に、プテロカルプス抽出物とチアミンラウリル硫酸塩とを併用した実施例2の製剤(E1)では、保存8日目においても各菌数を0に抑えることができており、めんつゆ用の日持ち向上剤として著しく優れた性能を発揮できていたことがわかる。
【0058】
(実施例4:おでん用製剤の作製と評価)
プテロカルプス抽出物(株式会社サビンサジャパンコーポレーション製シルビノール90%)2.0質量部と、チアミンラウリル硫酸塩9.5質量部とをエタノール58.3質量部と水30.2質量部とに溶解させて、おでん用製剤(E3)を得た。
【0059】
おでん用調味液を2つに分け、一方の調味液に上記で得られたおでん用製剤(E3)を0.05質量%の濃度となるように添加して調味液(A)を作製した。他方の調味液には上記で得られたおでん用製剤(E3)を0.08質量%の濃度となるように添加して調味液(B)を作製した。
【0060】
2つの真空パック容器に、調味液Aと、おでん用に切り分けた大根と、予め殻をむいたゆでタマゴとを仕込み(調味液Aと大根およびタマゴとの質量比が1:1となるように混合した)、真空下で密封した後、90℃で60分間加熱して調理した(この操作を行った真空パック容器を真空パック容器(A1)および(A2)という)。同様に、別の2つの真空パック容器、調味液Bと、おでん用に切り分けた大根と、予め殻をむいたゆでタマゴとを仕込み(調味液Bと大根およびタマゴとの質量比が1:1となるように混合した)、真空下で密封した後、90℃で60分間加熱して調理した(この操作を行った真空パック容器を真空パック容器(B1)および(B2)という)。
【0061】
次いで、上記で得られた真空パック容器(A1)を30℃の恒温槽中に保存した。
【0062】
上記で得られた真空パック容器(A2)について、一旦開封し、これにバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis/NBRC番号:3134)を約10CFU/mLとなるように接種し、その後真空下で密封して25℃の恒温槽中に保存した。
【0063】
上記で得られた真空パック容器(B1)について、一旦開封し、これにラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis/NBRC番号:12007)を約10CFU/mLとなるように接種し、その後真空下で密封して15℃の恒温槽中に保存した。
【0064】
上記で得られた真空パック容器(B2)について、一旦開封し、これにロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides/NBRC番号:100496)を約10CFU/mLとなるように接種し、その後真空下で密封して10℃の恒温槽中に保存した。
【0065】
これらの真空パック容器に含まれる菌数の経時的な変化を確認するために、保存開始(保存0日目)から所定日数が経過するまでの当該真空パック容器中の検体(調味液、大根およびタマゴ)を、以下の混釈法または塗抹法により菌数を計測した。具体的には、バチルス・サブチリスについては塗抹法により菌数を計測し、バチルス・サブチリス以外のものについては保存3日目までは混釈法により菌数を測定し、それ以降は塗抹法により菌数を測定した。結果を表3~14に示す。
【0066】
(混釈法)
検体をストマッカーポリ袋にとり、滅菌生理食塩水を検体の重量に対して10倍量を加えてストマッカーにてストマッキングし、懸濁させ10倍液試料を調製する。次いで、滅菌したガラスピペットでこの10倍液試料1mLを浅型滅菌シャーレに分注し、120℃で15分間滅菌した寒天培地を注ぎ、よく混釈して培地が凝固するまで静置させ、一般生菌または乳酸菌接種した検体の保存試験では35℃で48時間インキュベートする。また、酵母を接種した検体の保存試験では25℃で48時間インキュベートする。
【0067】
(塗抹法(スパイラル・プレイティング法))
121℃で15分間滅菌した寒天培地を浅型滅菌シャーレに20mLずつ分注して平板培地を作製する。次いで、検体をストマッカーポリ袋にとり、滅菌生理食塩水を検体の重量に対して10倍量加えてストマッカーでストマッキングし、懸濁させ、10倍液試料を調製する。制菌測定用定量塗抹装置を用い、この10倍液試料を中心から外側に濃度勾配をつけながら、らせん状に塗抹を行う。塗抹した平板培地を、一般生菌または乳酸菌を接種した検体の保存試験では35℃で48時間インキュベートする。また、酵母を接種した検体の保存試験では25℃で48時間インキュベーとする。
【0068】
(比較例3:おでん用製剤の作製と評価)
プテロカルプス抽出物を含有させることなく、チアミンラウリル硫酸塩9.7質量部をエタノール59.5質量部および水30.8質量部に溶解させて、おでん用製剤(C3)を得た。
【0069】
実施例4のおでん用製剤(E3)の代わりに、このおでん用製剤(C3)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、真空パック(A1)、(A2)、(B1)および(B2)に含まれる一般生菌または供試菌の菌数の経時的な変化を計測した。結果を表3~14に示す。
【0070】
(比較例4:対照用おでんの作製と評価)
実施例4のおでん用製剤(E3)を添加しなかったこと以外は、実施例4と同様にして、真空パック(A1)、(A2)、(B1)および(B2)に含まれる一般生菌または供試菌の菌数の経時的な変化を計測した。結果を表3~14に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表3~14に示すように、実施例4で作製されたおでん用製剤(E3)は、比較例2の製剤(C3)または無添加(比較例3)の場合と比較して、一般生菌、バチルス・サブチリス、ラクトコッカス・ラクティス、およびロイコノストック・メセンテロイデスのいずれに対しても、おでん調味液またはその具材中の菌数を効果的に抑制することができたことがわかる。