(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171326
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】鉄道車両の安全評価システム、鉄道車両の安全評価方法、及び鉄道車両の安全評価プログラム
(51)【国際特許分類】
B61K 13/00 20060101AFI20221104BHJP
B61F 5/08 20060101ALI20221104BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20221104BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B61K13/00 Z
B61F5/08
B61L23/00 Z
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077909
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】角南 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】喜多 成充
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM04
5H161MM12
5H161NN20
5H161PP01
5H161PP11
(57)【要約】
【課題】任意の地点で横風による鉄道車両の走行への影響を把握できる鉄道車両の安全評価システムを提供する。
【解決手段】本開示は、走行中の鉄道車両における台車の情報を検知するように構成された検知部と、検知部が検知した情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出するように構成された算出部と、を備える鉄道車両の安全評価システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の鉄道車両における台車の情報を検知するように構成された検知部と、
前記検知部が検知した前記情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、前記輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出するように構成された算出部と、
を備える、鉄道車両の安全評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の安全評価システムであって、
前記検知部は、前記鉄道車両の車体と台車との間に配置された複数の空気ばねの圧力を検知するように構成され、
前記算出部は、前記複数の空気ばねの圧力のバランスから前記輪重減少率を算出するように構成される、鉄道車両の安全評価システム。
【請求項3】
請求項1に記載の鉄道車両の安全評価システムであって、
前記検知部は、前記鉄道車両の車体と台車との間に配置された空気ばねの圧力を検知するように構成され、
前記算出部は、前記空気ばねの圧力の変動量から前記輪重減少率を算出するように構成される、鉄道車両の安全評価システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉄道車両の安全評価システムであって、
前記算出部が算出した前記転覆危険率に基づいて、前記鉄道車両が走行する路線における横風警戒領域を抽出するように構成された抽出部をさらに備える、鉄道車両の安全評価システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉄道車両の安全評価システムであって、
前記算出部が算出した前記転覆危険率と、前記鉄道車両の路線に設置された風速計が測定した風速から理論式によって求められる予測転覆危険率とを比較することで、前記鉄道車両の走行安全性又は前記風速計の測定環境を評価するように構成された評価部をさらに備える、鉄道車両の安全評価システム。
【請求項6】
走行中の鉄道車両における台車の情報を検知する工程と、
検知した前記情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、前記輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出する工程と、
を備える、鉄道車両の安全評価方法。
【請求項7】
走行中の鉄道車両から検知された台車の情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、前記輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出することをコンピュータに実行させる、鉄道車両の安全評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の安全評価システム、鉄道車両の安全評価方法、及び鉄道車両の安全評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の安全管理の分野において、路線に沿って設置された風速計によって風速を測定し、測定結果に基づいて運転規制を行うことで鉄道車両の横風による転覆又は脱線を防ぐ方法が公知である(特許文献1参照)。
【0003】
また、気象データを用いたシミュレーション解析により、路線上の強風の発生個所を抽出する方法も提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】荒木、他3名、「数値解析手法を用いた鉄道沿線における強風箇所の抽出方法」、鉄道総研報告、2010年5月、第24巻、第5号、p.29-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の風速計を用いる方法では、風速計が設置されていない区間の風速を詳細に評価することができない。また、上述の気象データを用いる方法では、使用可能なデータが過去の一定期間のデータに限定されること、及び線路近傍に観測点が必ずしも存在しないことから、強風発生個所の推定が困難な場合がある。
【0007】
本開示の一局面は、任意の地点で横風による鉄道車両の走行への影響を把握できる鉄道車両の安全評価システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、走行中の鉄道車両における台車の情報を検知するように構成された検知部と、検知部が検知した情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出するように構成された算出部と、を備える鉄道車両の安全評価システムである。
【0009】
このような構成によれば、走行中の鉄道車両における台車の情報から輪重減少率を算出し、さらに曲路における超過遠心力の影響を除去することで、横風による転覆危険率を算出することができる。そのため、路線上の任意の地点で横風による鉄道車両の走行への影響を把握できる。また、盛土や高架橋などの鉄道構造物、線路周辺の建物等による影響を考慮した評価を行うことができる。
【0010】
本開示の一態様では、検知部は、鉄道車両の車体と台車との間に配置された複数の空気ばねの圧力を検知するように構成されてもよい。算出部は、複数の空気ばねの圧力のバランスから輪重減少率を算出するように構成されてもよい。このような構成によれば、ブレーキ制御のために検知される空気ばねの圧力を利用して転覆危険率を算出することができるため、評価に必要な設備を低減できる。
【0011】
本開示の一態様では、検知部は、鉄道車両の車体と台車との間に配置された空気ばねの圧力を検知するように構成されてもよい。算出部は、空気ばねの圧力の変動量から輪重減少率を算出するように構成されてもよい。このような構成によっても、ブレーキ制御のために検知される空気ばねの圧力を利用して転覆危険率を算出することができるため、評価に必要な設備を低減できる。
【0012】
本開示の一態様は、算出部が算出した転覆危険率に基づいて、鉄道車両が走行する路線における横風警戒領域を抽出するように構成された抽出部をさらに備えてもよい。このような構成によれば、最新の走行情報に基づいて横風警戒領域を更新できる。
【0013】
本開示の一態様は、算出部が算出した転覆危険率と、鉄道車両の路線に設置された風速計が測定した風速から理論式によって求められる予測転覆危険率とを比較することで、鉄道車両の走行安全性又は風速計の測定環境を評価するように構成された評価部をさらに備えてもよい。このような構成によれば、鉄道車両の走行安全性を高めることができる。また、風速計を安全走行評価に適した位置に配置することができる。
【0014】
本開示の別の態様は、走行中の鉄道車両における台車の情報を検知する工程と、検知した情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出する工程と、を備える鉄道車両の安全評価方法である。
【0015】
本開示の別の態様は、走行中の鉄道車両から検知された台車の情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出することをコンピュータに実行させる、鉄道車両の安全評価プログラムである。
【0016】
これらのような構成によれば、路線上の任意の地点で横風による鉄道車両の走行への影響を把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1Aは、実施形態における鉄道車両の安全評価システムの構成を概略的に示すブロック図であり、
図1Bは、鉄道車両の模式的な正面図であり、
図1Cは、鉄道車両の台車及び空気ばねを示す模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、横風警戒領域の抽出の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、鉄道車両の走行安全性の評価の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態における鉄道車両の安全評価方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.鉄道車両の安全評価システム]
図1Aに示す鉄道車両の安全評価システム1(以下、単に「安全評価システム1」ともいう。)は、
図1Bに示す鉄道車両100の横風に対する安全性を評価する。安全評価システム1は、検知部2と、演算装置3とを備える。
【0019】
<鉄道車両>
鉄道車両100は、
図1B及び
図1Cに示すように、車体10と、台車11と、輪軸12と、第1空気ばね21と、第2空気ばね22と、第3空気ばね23と、第4空気ばね24とを有する。
【0020】
第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24は、それぞれ、車体10と台車11との間に配置される。空気ばね21,22,23,24は、鉛直方向に伸縮可能に構成されており、台車11上において車体10を鉛直方向に支持している。
【0021】
第1空気ばね21及び第3空気ばね23は、鉄道車両100の進行方向右側に配置されている。第2空気ばね22及び第4空気ばね24は、鉄道車両100の進行方向左側に配置されている。第1空気ばね21及び第2空気ばね22は、レール幅方向に並んで、かつ離れて配置されている。また、第3空気ばね23及び第4空気ばね24は、レール幅方向に並んで、かつ離れて配置されている。
【0022】
台車11は、台車枠、車高調整装置等から構成されている。台車11の上面には、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24が取り付けられている。台車11の下面には、輪軸12が取り付けられている。
【0023】
車体10が遠心力、横風等によるレール幅方向の荷重を受けて台車11に対して傾斜すると、第1空気ばね21と第2空気ばね22との圧力の差(つまり、圧力のアンバランス)及び/又は第3空気ばね23と第4空気ばね24との圧力の差が大きくなる。
【0024】
<検知部>
検知部2は、走行中の鉄道車両100における台車11の情報を検知するように構成されている。
【0025】
本実施形態では、検知部2は、台車11の情報として、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24それぞれの圧力を検知する。検知部2は、車体10又は台車11に取り付けられた公知の圧力センサによって構成される。
【0026】
<演算装置>
演算装置3は、検知部2によって検知された圧力に基づき、鉄道車両100における横風の影響を演算する。
【0027】
演算装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリ等の記憶部と、キーボード、ディスプレイ等の入出力部とを有するコンピュータによって構成される。
【0028】
コンピュータは、鉄道車両の安全評価プログラムによって、走行中の鉄道車両100から検知された台車11の情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出することを少なくとも実行する。
【0029】
演算装置3は、地上設備に配置され、例えば無線通信によって検知部2が検知した空気ばね21,22,23,24の圧力等の情報を受信する。演算装置3は、算出部4と、抽出部5と、評価部6とを有する。
【0030】
なお、演算装置3の一部は、鉄道車両100に設置されていてもよい。例えば、算出部4が鉄道車両100に設置され、転覆危険率Dw及び転覆危険率Dwと紐づけられた位置情報が、鉄道車両100から地上設備に配置された抽出部5及び評価部6に送信さてもよい。
【0031】
(算出部)
算出部4は、検知部2が検知した複数の空気ばね21,22,23,24の圧力のバランスから輪重減少率Dを算出すると共に、輪重減少率Dから超過遠心力を減じた転覆危険率Dwを算出するように構成されている。
【0032】
輪重減少率Dとは、静止時における輪重からの減少割合である。なお、輪重はレールから車輪に作用する力の垂直方向の成分である。超過遠心力とは、遠心力からカントによる向心力を減じた差である。
【0033】
輪重減少率Dは、例えば、下記式(1)によって算出される。式(1)中のDASは、式(2-1)、式(2-2)及び式(2-3)のいずれかによって算出される。
【0034】
【0035】
上記式(1)中、Vは、鉄道車両100の走行速度である。Rは、鉄道車両100が走行している路線の曲率半径である。Θは、地表面A1に対する軌道面A2の傾斜角(つまりカント角)である。
【0036】
S1、S2、及びS3は、それぞれ係数であり、鉄道車両100の諸元に起因する。これらの係数は、例えば、式(1)によって算出される輪重減少率Dと、他の方法によって算出される輪重減少率とを比較することによって設定される。
【0037】
上記式(2-1)、式(2-2)及び式(2-3)中、p21は、検知部2が検知した第1空気ばね21の圧力、p22は、検知部2が検知した第2空気ばね22の圧力、p23は、検知部2が検知した第3空気ばね23の圧力、p24は、検知部2が検知した第4空気ばね24の圧力、p20は、第1空気ばね21、第2空気ばね22、第3空気ばね23及び第4空気ばね24の圧力の平均である。
【0038】
式(2-1)は、レール幅方向に並んで配置された2つの空気ばねにおける圧力のアンバランスを利用する式である。式(2-1)において、第1空気ばね21の圧力及び第2空気ばね22の圧力に替えて、第3空気ばね23の圧力及び第4空気ばね24の圧力が用いられてもよい。
【0039】
式(2-2)は、4つの空気ばねにおける圧力のアンバランスを利用する式である。
式(2-3)は、4つの空気ばねの平均に対する1つの空気ばねの圧力のアンバランスを利用する式である。式(2-3)において、第1空気ばね21の圧力に替えて、第2空気ばね22の圧力、第3空気ばね23の圧力又は第4空気ばね24の圧力が用いられてもよい。
【0040】
算出部4は、複数の空気ばね21,22,23,24のうち、いずれか1つの空気ばねの圧力の変動量から輪重減少率Dを算出してもよい。圧力の変動量とは、1つの空気ばねの基準圧力に対する、検知部2が検知した同じ空気ばねの圧力のずれである。
【0041】
基準圧力は、鉄道車両100が横風、超過遠心力等の外的影響を受けない区間において予め測定された1つの空気ばねの圧力の平均値である。圧力の変動量は、例えば、基準圧力と検知部2が検知した空気ばねの圧力との差を、基準圧力で除することで求められる。
【0042】
転覆危険率Dwは、例えば、下記式(3)によって算出される。
Dw=D-E ・・・(3)
【0043】
上記式中、Eは、超過遠心力による影響であり、下記式(4)(いわゆる「国枝の式」)の右辺の第1項である。
【0044】
【0045】
式(4)中、hG
*は、鉄道車両100の重心の有効高さであり、例えば鉄道車両100の軌道面A2からの重心高さを1.25倍した値とされる。bは、車輪とレールとの接触点間距離の1/2であり、αuは、超過遠心加速度、gは重力加速度である。超過遠心力による影響Eは、hG
*をbで除した比と、αuをgで除した比とを掛け合わせて得られる。
【0046】
また、式(4)中、mBは、半車体(つまり車体10の半分)の重量、mTは、台車11の重量、hGTは、台車11の軌道面A2からの重心高さ、αyは、車体左右振動加速度である。
【0047】
hBC
*は、風圧中心の有効高さであり、例えば軌道面A2からの風圧中心高さを1.25倍した値とされる。FSは、FS=1/2・Csρu2Sで表される空気力である。Csは、空気力係数、ρは、空気密度、uは、風速、Sは、半車体側面積である。
【0048】
輪重減少率Dには、超過遠心力による影響Eのほかに、乗客や搭載品の偏りによる車両固有のアンバランスと振動による影響とが含まれる。しかし、これらの数値は、超過遠心力による影響及び横風の影響に比較して十分に小さい。
【0049】
そのため、転覆危険率Dwにアンバランス及び振動による影響が含まれても安全評価への影響は小さい。ただし、例えば、直線状かつトンネル内の路線(つまり超過遠心力による影響及び横風の影響が存在しない状況)において算出される輪重減少率を車両固有のアンバランス値とし、このアンバランス値を転覆危険率Dwの算出時に輪重減少率Dから減じてもよい。
【0050】
転覆危険率Dwは、横風による鉄道車両100の転覆の可能性の大きさを示す。転覆危険率Dwの最大値は1である。
算出部4は、鉄道車両100の走行中、一定時間経過するか、又は一定距離走行するごとに、転覆危険率Dwを算出する。
【0051】
算出部4は、算出した転覆危険率Dwを、空気ばね21,22,23,24の圧力を検知した走行位置と紐づけて記憶又は出力する。さらに、算出部4は、空気ばね21,22,23,24の圧力を検知した走行地点を監視する風速計が測定した風速を、転覆危険率Dwに紐づける。
【0052】
(抽出部)
抽出部5は、算出部4が算出した転覆危険率Dwに基づいて鉄道車両100が走行する路線における横風警戒領域を抽出するように構成されている。
【0053】
具体的には、
図2に示すように、抽出部5は、走行位置Xと、転覆危険率Dwとの関係を2次元グラフにプロットする。値が大きい転覆危険率Dwが存在する位置は、鉄道車両100の運転に警戒が必要な横風警戒領域と判断される。
【0054】
(評価部)
評価部6は、算出部4が算出した転覆危険率Dwと、
図3に示す鉄道車両100の路線200に設置された風速計300が測定した風速から理論式によって求められる予測転覆危険率Deとを比較することで、鉄道車両100の走行安全性を評価するように構成されている。
【0055】
予測転覆危険率Deを求める理論式は、鉄道車両100の設計時に用いられる理論式であり、例えば、式(4)を使用することができる。式(4)におけるF
Sは、風速の2乗に比例するため、
図4に示すように、理論式によって得られる予測転覆危険率Deは、風速Wが大きくなるにしたがって2次関数的に増大する。
【0056】
評価部6は、この理論式のグラフに重ねて、車両が風速計設置地点を通過した際に算出部4が算出した転覆危険率Dwを、空気ばね21,22,23,24の圧力検知時又は風速計設置地点の通過時の風速Wごとにプロットする。転覆危険率Dwが予測転覆危険率Deを超えることがない場合、鉄道車両100の走行安全性に問題がないと評価できる。
【0057】
転覆危険率Dwが予測転覆危険率Deを超える場合、風速が適切に取得できていない可能性、鉄道車両100の台車11等に異常が発生している可能性などに基づいて、鉄道車両100の運行に関する警告を出すことができる。
【0058】
また、評価部6は、転覆危険率Dwと予測転覆危険率Deとを比較することで、風速計300の測定環境(つまり、風速計300が測定した風速の妥当性)を評価するように構成されている。風速計300の測定環境には、風速計300の設置位置、及び風速計300の周辺環境(例えば、風を遮る障害物の有無)が含まれる。
【0059】
具体的には、評価部6は、まず、1つの風速計300が測定を担う測定範囲Am(
図3参照)において発生した最大の転覆危険率Dwを監視危険率とする。次に、評価部6は、この測定範囲Amにおいて、監視危険率が発生した時刻から前後一定時間(例えば10分)内の期間における最大測定風速を確認する。
【0060】
評価部6は、他の風速計300に対し同じ風速での転覆危険率Dwの相対的なずれが大きい風速計300が存在すると、この風速計300が適切な風速を捉えられておらず、測定環境が適切でないと判断する。
【0061】
評価部6の評価に基づいて風速計300の設置位置又は周辺環境の修正(例えば、風速計300の位置変更、障害物の除去等)により、風速計300が適切な風速を捉えられるようになる。これにより、鉄道車両100に問題がない場合において、風速が適切に取得できない不具合の発生を抑制できる。
【0062】
[1-2.鉄道車両の安全評価方法]
図5に示す鉄道車両の安全評価方法は、検知工程S10と、算出工程S20と、抽出及び評価工程S30とを備える。
【0063】
<検知工程>
本工程では、例えば
図1Aの検知部2を用い、走行中の鉄道車両100における台車11の情報を検知する。
【0064】
<算出工程>
本工程では、例えば
図1Aの算出部4を用い、検知した台車11の情報に基づいて輪重減少率を算出すると共に、輪重減少率から超過遠心力による影響を減じた転覆危険率を算出する。
【0065】
<抽出及び評価工程>
本工程では、例えば
図1Aの抽出部5を用い、転覆危険率に基づいて、鉄道車両100が走行する路線における横風警戒領域を抽出する。
【0066】
また、本工程では、例えば
図1Aの評価部6を用い、転覆危険率と、鉄道車両100の路線に設置された風速計300が測定した風速から理論式によって求められる予測転覆危険率とを比較することで、鉄道車両100の走行安全性又は風速計300の測定環境を評価する。
【0067】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)走行中の鉄道車両100における台車11の情報から輪重減少率を算出し、さらに曲路における超過遠心力の影響を除去することで、横風による転覆危険率を算出することができる。そのため、路線上の任意の地点で横風による鉄道車両100の走行への影響を把握できる。また、盛土や高架橋などの鉄道構造物、線路周辺の建物等による影響を考慮した評価を行うことができる。
【0068】
(1b)ブレーキ制御のために検知される空気ばね21,22,23,24の圧力を利用して転覆危険率を算出することができるため、評価に必要な設備を低減できる。
(1c)算出部4が算出した転覆危険率に基づいて横風警戒領域が抽出されるので、最新の走行情報に基づいて横風警戒領域を更新できる。
【0069】
(1d)風速計300が測定した風速と理論式とを用いて評価を行うことで、鉄道車両100の走行安全性を高めることができる。また、風速計300を安全走行評価に適した位置に配置することができる。
【0070】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0071】
(2a)上記実施形態の鉄道車両の安全評価システム及び安全評価方法において、輪重減少率は、必ずしも空気ばねの圧力から算出されなくてもよい。例えば、台車の輪重を直接検知し、検知した輪重から輪重減少率を算出してもよい。
【0072】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0073】
1…鉄道車両の安全評価システム、2…検知部、3…演算装置、4…算出部、
5…抽出部、6…評価部、10…車体、11…台車、12…輪軸、
21…第1空気ばね、22…第2空気ばね、23…第3空気ばね、
24…第4空気ばね、100…鉄道車両、200…路線、300…風速計。