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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171327
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
B60R21/264
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077911
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智也
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054DD11
3D054DD15
3D054DD17
3D054DD19
3D054DD28
3D054FF01
(57)【要約】
【課題】排出される燃焼ガスの温度を制御する。
【解決手段】ガス発生器は、ハウジングと、ハウジングの一端側に取り付けられた点火装置と、燃焼室と、他端側に形成されるカップ状のディフューザ部であって、一方の端部に形成された閉塞端と、閉塞端の反対側に形成された開放端と、閉塞端および開放端との間に位置する側壁とを含み、フィルタを収容する収容空間が形成され、複数のガス排出孔を有するディフューザ部と、複数のガス排出孔と対向するように少なくとも一部が収容空間に収容されたフィルタであって、ディフューザ部における開放端の側から閉塞端の側に向かって延在すると共にガス発生剤の燃焼ガスを冷却する中実状の冷却部を有するフィルタとを備える。また、複数のガス排出孔は、燃焼室からの距離が近い第1ガス排出孔と、燃焼室からの距離が遠い第2ガス排出孔とを含み、第1ガス排出孔の総開口面積と第2ガス排出孔の総開口面積とが異なっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻容器を形成するハウジングと、
前記ハウジングの一端側に取り付けられた点火装置と、
前記ハウジングの内部に形成され、ガス発生剤を収容する燃焼室と、
前記ハウジングにおける他端側に形成されるカップ状のディフューザ部であって、一方の端部に形成された閉塞端と、前記閉塞端の反対側に形成された開放端と、前記閉塞端および前記開放端との間に位置する側壁とを含み、前記開放端が前記燃焼室に臨むように配置されると共に内側にフィルタを収容する収容空間が形成され、複数のガス排出孔を有するディフューザ部と、
前記複数のガス排出孔と対向するように少なくとも一部が前記収容空間に収容されたフィルタであって、前記ディフューザ部における前記開放端の側から前記閉塞端の側に向かって延在すると共に前記ガス発生剤の燃焼ガスを冷却する中実状の冷却部を有する、フィルタと、
を備え、
前記複数のガス排出孔は、前記燃焼室からの距離が相対的に近い1又は複数の第1ガス排出孔と、前記燃焼室からの距離が前記第1又は複数の第1ガス排出孔よりも相対的に遠い1又は複数の第2ガス排出孔と、を含み、前記1又は複数の第1ガス排出孔の総開口面積と前記1又は複数の第2ガス排出孔の総開口面積とが異なっている、
ガス発生器。
【請求項2】
前記1又は複数の第1ガス排出孔及び前記1又は複数の第2ガス排出孔は、前記ディフューザ部の前記側壁に設けられ、
前記フィルタは、前記ディフューザ部の前記側壁との間に間隙なく配置される
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記1又は複数の第1ガス排出孔及び前記1又は複数の第2ガス排出孔は、前記ディフューザ部の前記側壁に設けられ、
前記フィルタには、前記ディフューザ部における前記開放端の側から前記閉塞端の側に向かって縮径するテーパが形成され、前記フィルタと前記ディフューザ部の前記側壁との間に環状の間隙を有する
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記1又は複数の第1ガス排出孔の総開口面積よりも、前記1又は複数の第2ガス排出孔の総開口面積の方が大きい
請求項1から3のいずれか一項に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記1又は複数の第1ガス排出孔及び前記複数の第2ガス排出孔のそれぞれは、径が同一であり、前記1又は複数の第1ガス排出孔の数よりも、前記複数の第2ガス排出孔の数の方が多い
請求項4に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記1又は複数の第1ガス排出孔の数は、前記1又は複数の第2ガス排出孔の数と同一であり、前記1又は複数の第1ガス排出孔のそれぞれの開口面積よりも、前記1又は複数の第2ガス排出孔のそれぞれの開口面積の方が大きい
請求項4に記載のガス発生器。
【請求項7】
前記フィルタは、前記ディフューザ部における前記開放端から、前記ハウジングの内部に形成された前記燃焼室に向けて突出すると共に、前記フィルタと前記ハウジングとの間に環状の間隙を有する
請求項1から6のいずれか一項に記載のガス発生器。
【請求項8】
前記フィルタは、金属製の線材又は多孔板によって形成される
請求項1から7のいずれか一項に記載のガス発生器。
【請求項9】
前記フィルタは、前記ディフューザ部における前記開放端の側から前記閉塞端の側に向かって延在する貫通孔を有する
請求項1から8のいずれか一項に記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内部の空間を燃焼室とガス通路室とフィルタ室とに区画する区画部材および仕切り部を備えるガス発生器が提案されていた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-22929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス発生器において、複数のガス排出孔と対向してフィルタが配置され、フィルタの一端から導入される燃焼ガスが、当該一端からの距離が異なる複数のガス排出孔から排出される場合、ガス排出孔の各々から排出される燃焼ガスは、フィルタを通過した距離に応じて温度が異なる。
【0005】
本開示の技術は、冷却フィルタを備えるガス発生器において、排出される燃焼ガスの温度を制御するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のガス発生器は、外殻容器を形成するハウジングと、ハウジングの一端側に取り付けられた点火装置と、ハウジングの内部に形成され、ガス発生剤を収容する燃焼室と、ハウジングにおける他端側に形成されるカップ状のディフューザ部であって、一方の端部に形成された閉塞端と、閉塞端の反対側に形成された開放端と、閉塞端および開放端との間に位置する側壁とを含み、開放端が燃焼室に臨むように配置されると共に内側にフィルタを収容する収容空間が形成され、複数のガス排出孔を有するディフューザ部と、複数のガス排出孔と対向するように少なくとも一部が収容空間に収容されたフィルタであって、ディフューザ部における開放端の側から閉塞端の側に向かって延在すると共にガス発生剤の燃焼ガスを冷却する中実状の冷却部を有する、フィルタとを備える。また、複数のガス排出孔は、燃焼室からの距離が相対的に近い1又は複数の第1ガス排出孔と、燃焼室からの距離が前記第1又は複数の第1ガス排出孔よりも相対的に遠い1又は複数の第2ガス排出孔とを含み、1又は複数の第1ガス排出孔の総開口面積と1又は複数の第2ガス排出孔の総開口面積とが異なっている。
【0007】
ガス発生器が複数のガス排出孔を有する場合、ガス排出孔の各々から排出される単位時間当たりの燃焼ガスの量には、ガス排出孔の面積に応じて差が生じる。上述のガス発生器においては、燃焼室からガス排出孔までの距離に応じて燃焼ガスがフィルタの冷却部を通過する距離が変わるため、これに伴いガス排出孔の各々から排出される燃焼ガスの温度も変わる。したがって、第1ガス排出孔の総開口面積と第2ガス排出孔の総開口面積とを異ならせることで、両者から排出される燃焼ガスの量の比を変更し、これらを混合した燃焼ガスの温度を制御できるようになる。
【0008】
また、1又は複数の第1ガス排出孔及び1又は複数の第2ガス排出孔は、ディフューザ部の側壁に設けられ、フィルタは、ディフューザ部の側壁との間に間隙なく配置されるようにしてもよい。このようなフィルタは、嵩がより大きくなり、燃焼ガスの冷却効果を高
めることができる。
【0009】
また、1又は複数の第1ガス排出孔及び1又は複数の第2ガス排出孔は、ディフューザ部の側壁に設けられ、フィルタには、ディフューザ部における開放端の側から閉塞端の側に向かって縮径するテーパが形成され、フィルタとディフューザ部の側壁との間に環状の間隙を有するようにしてもよい。このようにすれば、フィルタのうちガス排出孔と対向する部分に燃焼ガスの流れを集中させることがなくなり、当該部分への負荷を低減できる。
【0010】
また、1又は複数の第1ガス排出孔の総開口面積よりも、1又は複数の第2ガス排出孔の総開口面積の方が大きいものとしてもよい。燃焼室からの距離が第1ガス排出孔よりも
相対的に遠い第2ガス排出孔から排出される燃焼ガスは、フィルタを通過する距離が第1
ガス排出孔から排出される燃焼ガスよりも相対的に長い。第2ガス排出孔の総開口面積を大きくすることで、フィルタのうち、より多くの部分を冷却部として利用することができ、排出される燃焼ガスの温度を下げることができる。
【0011】
また、1又は複数の第1ガス排出孔及び複数の第2ガス排出孔のそれぞれは、径が同一であり、1又は複数の第1ガス排出孔の数よりも、複数の第2ガス排出孔の数の方が多いものであってもよい。また、1又は複数の第1ガス排出孔の数は、1又は複数の第2ガス排出孔の数と同一であり、1又は複数の第1ガス排出孔のそれぞれの開口面積よりも、1又は複数の第2ガス排出孔のそれぞれの開口面積の方が大きいものであってもよい。このような構成によって、第1ガス排出孔の総開口面積よりも、第2ガス排出孔の総開口面積を大きくすることができる。
【0012】
また、フィルタは、ディフューザ部における開放端から、ハウジングの内部に形成された燃焼室に向けて突出すると共に、フィルタとハウジングとの間に環状の間隙を有するようにしてもよい。このようにすれば、フィルタのうち燃焼室への突出方向の端部だけでなく、ハウジングとの間に形成される間隙からも燃焼ガスがフィルタへ流入する。このように、流入箇所を広く分散させることにより、フィルタのうちより広い領域を効率よく冷却部として利用できるようになる。
【0013】
また、フィルタは、金属製の線材又は多孔板によって形成されるものであってもよい。このような材料により、燃焼ガスを冷却する冷却部を形成することができる。
【0014】
また、フィルタは、ディフューザ部における開放端の側から閉塞端の側に向かって延在する貫通孔を有するものであってもよい。フィルタは、冷却部のほかにこのような貫通孔を有していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、冷却フィルタを備えるガス発生器において、排出される燃焼ガスの温度を制御するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、第1の実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の概略断面図である。
図2図2は、中心に孔を有するフィルタの横断面の一例を示す図である。
図3図3は、ガス排出孔の大きさと排出される燃焼ガスの温度との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図4図4は、第2の実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。
図5図5は、第3の実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。
図6図6は、第4の実施形態に係るガス発生器の一例を示す部分的な側面図である。
図7図7は、フィルタの変形例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。
図8図8は、比較例に係るフィルタ内における燃焼ガスの流れを模式的に示す図である。
図9図9は、上述した変形例に係るフィルタ内における燃焼ガスの流れを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0018】
<実施形態1>
図1は、本実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の概略断面図である。ガス発生器1は、例えばエアバッグを膨張させるためのガス発生装置として利用できる。図1のガス発生器1は、筒状のハウジング2と、ハウジング2の軸方向の一端側に取り付けられる点火装置3と、ハウジング2の他端側に形成されるディフューザ部4とを備える。
【0019】
点火装置3は、点火電流により着火する装置であり、公知のガス発生器において用いられるものと同じである。例えば、点火装置3は、点火薬を収容して封止された金属製のカップ体31と、外部から電流の供給を受けるための一対の通電ピン32、32とを有し、これらが金属製の点火器保持部33に樹脂部材34で固定されたものである。また、点火装置3の点火器保持部33は、ハウジング2の軸方向の一端側の開口部に例えば全周溶接により取り付けられる。
【0020】
ハウジング2は、例えば内径及び外径がそれぞれほぼ均一な筒状の部材であり、ガス発生器1の外殻容器を形成する。ハウジング2の材質は、例えば金属である。ハウジング2の内部には点火装置3から所定の距離を離間させて、カップ状の隔壁5が配設されている。
【0021】
隔壁5は、換言すれば有底筒状の部材であり、側部は径の大きな大径部51と径の小さな小径部52とを含む。隔壁5の大径部51の外径はハウジング2の内径と略同一である。よって、底部53がディフューザ部4側に位置するように、ハウジング2は、隔壁5を収容することができる。なお、ハウジング2と大径部51の外周とは溶接されていてもよいし、ハウジング2の内周及び大径部51の外周に設けられた、互いに係合する凹凸等の係合部(図示せず)によって接続されていてもよい。また、隔壁5の底部53には、所定の形状の貫通孔54が1以上形成されている。貫通孔54は、後述するガス発生剤の燃焼生成物を通過させる。なお、隔壁5の小径部52における側部にも、貫通孔を設けてもよい。また、隔壁5は、ハウジング2の内部空間を、点火装置3と隔壁5との間に形成される第1燃焼室21(「エンハンサ室」とも呼ぶものとする)と、隔壁5とディフューザ部との間に形成される第2燃焼室22とに区画する。なお、隔壁5と点火装置3とが当接する程度に、隔壁5の側部(大径部51又は小径部52)を延伸し、隔壁5と点火装置3とで第1燃焼室21を形成してもよい。
【0022】
第1燃焼室21は、第1ガス発生剤61(「伝火薬」又は「エンハンサ剤」とも呼ぶものとする)を収容する。第2燃焼室22は、第2ガス発生剤62を収容する。ガス発生剤(第1ガス発生剤61及び第2ガス発生剤62)は、例えば、硝酸グアニジン(41重量
%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物によって形成される。ガス発生剤の個々の形状は、単孔円柱状のものを用いることができる。但し、ガス発生剤は、上記のものに限定されない。また、第1ガス発生剤61及び第2ガス発生剤62は、同種類、同形状、同寸法のガス発生剤であってもよいし、別種類、別形状、別寸法のガス発生剤であってもよい。
【0023】
ディフューザ部4は、ハウジング2の他端側を閉塞するように取り付けられるカップ状の部材であり、その内部にフィルタ7を収容する。ディフューザ部4は、換言すれば有底筒状であり、開放端が第2燃焼室22に臨むように配置されている。すなわち、ディフューザ部4は、側壁41と閉塞端42とを有し、側壁41のうち閉塞端42とは反対側である開放端側がハウジング2と接続されている。図1の例では、側壁41の外径はハウジング2の内径と略同一であり、側壁41の開放端側の一部はハウジング2内に収容される。側壁41の開放端側は、ハウジング2に対しかしめで固定されていてもよいし、ディフューザ部4とハウジング2とは溶接されていてもよい。なお、例えば絞り加工等により、ディフューザ部4はハウジング2と一体に形成されていてもよい。
【0024】
図1に示すように、ディフューザ部4の側壁41には、1以上のガス排出孔43が形成されている。ガス排出孔43は、第1ガス排出孔431(「第1ガス排出孔群」とも呼ぶ)と、第2ガス排出孔432(「第2ガス排出孔群」とも呼ぶ)とを含む。なお、第2ガス排出孔432は、側壁41でなく閉塞端42に設けられていてもよい。図1の例では、第1ガス排出孔431よりも、第2ガス排出孔432の方が、個々の開口面積は大きい。また、第1ガス排出孔431の数と、第2ガス排出孔432の数とはそれぞれ1以上であり、本実施形態においては、第1ガス排出孔431と第2ガス排出孔432とが複数、それぞれディフューザ部4の周方向に均等間隔に形成されており、両者の数が等しい。したがって、本実施形態では、第1ガス排出孔431の総開口面積よりも、第2ガス排出孔432の総開口面積の方が大きい。ここで、「総開口面積」とは、1又は複数のガス排出孔43の開口面積の合計(すなわち、第1ガス排出孔群に含まれるガス排出孔の開口面積の合計、及び第2ガス排出孔群に含まれるガス排出孔の開口面積の合計)をそれぞれ指している。また、第1ガス排出孔431と第2ガス排出孔432とは、第2燃焼室22からの距離が異なる位置に設けられる。図1の例では、第1ガス排出孔431よりも、第2ガス排出孔432の方が、第2燃焼室22から遠い。
【0025】
また、カップ状であるディフューザ部4の内部には、フィルタ7を収容する収容空間が形成されている。そして、フィルタ7の少なくとも一部は、ディフューザ部4の収容空間に収容される。ガス発生剤61、62が生成する燃焼ガスがフィルタ7を通過する際には、フィルタ7は、燃焼ガスを冷却する冷却部として機能すると共に、燃焼ガスの燃焼残渣を捕集することで燃焼ガスを濾過する。
【0026】
フィルタ7は円柱状であり、ディフューザ部4の開放端の側から閉塞端42の側に向かって延在すると共に、開放端の側は、第2燃焼室22内に突出している。また、フィルタ7の表面は、ディフューザ部4のガス排出孔43と対向するように収容される。なお、ディフューザ部4の閉塞端42にガス排出孔43が設けられる場合は、フィルタ7の閉塞端42側の端面がガス排出孔43と対向する。また、燃焼ガスがフィルタ7を通過するように、フィルタ7の側面はディフューザ部4の側壁41の内周と接している。
【0027】
例えば、フィルタ7は、金属製の線材を平編みしたものを成形型に収容し、円柱形状に圧縮成形したものであってもよい。また、フィルタ7は、金属製の線材を棒状の芯材に複数層をなすように巻き付け、線材同士が交差することにより網目を有する柱状に形成したものであってもよい。また、フィルタ7は、エキスパンドメタル、パンチングメタル、メタルラス、平織金網、畳織金網等のようなシート状の多孔板を円柱状に巻き上げたもので
あってもよい。
【0028】
以上のように、フィルタ7は、柱状に形成された中実状の冷却部を有する金属製のフィルタである。なお、金属は、ステンレスや鉄等であり、銅やニッケル等でメッキ又はコーティングされていてもよい。また、「中実状」とは、燃焼ガスの燃焼残渣を捕集すると共に、燃焼ガスを冷却するために、所定の密度で金属材料が含まれていることをいうものとする。そのため密度が全体にわたってほぼ均等に形成されているフィルタを使用できるが、燃焼ガスによるフィルタの通過距離に差が生じて燃焼ガスの温度の調整ができるようであれば、内部が完全な中実ではなくフィルタの何れかの部分に空隙を含んでいてもよく、あるいはフィルタの端面に窪みが形成されていてもよい。
【0029】
フィルタ7は、ディフューザ部4から第2燃焼室22へ突出している。そして、フィルタ7とハウジング2との間には、環状の間隙23が形成されている。したがって、フィルタ7のうち第2燃焼室22への突出方向の端面71だけでなく、ハウジング2との間に形成される間隙23側から(後述するテーパ部72から)も燃焼ガスがフィルタ7へ流入する。フィルタ7を第2燃焼室22側へ大きく突出させることで、冷却部として利用できる体積を大きくすることができると共に、流入箇所を広く分散させることにより、フィルタ7のうち広い領域を効率よく冷却部として利用できるようになる。
【0030】
なお、フィルタ7には第2燃焼室22への突出方向に向けて縮径するテーパが付けられていてもよい。図1の例では、横断面の断面積は第2燃焼室22の方向の端部である端面71に向かって縮径されており、端面71の周囲には、軸方向に対して斜めに形成されたテーパ部72が設けられている。燃焼ガスの流れ方向に対して角度が付けられたテーパ部72により、燃焼ガスはフィルタ7へ流入し易くなる。一方、間隙23に面する側面(図1の例では、テーパ部72)から流入する燃焼ガスは、端面71から流入する燃焼ガスよりもフィルタ7の内部を通過する距離が短くなり、流入箇所によって冷却やろ過の程度にむらが生じるおそれもある。これらのバランスをとり、端面71からの燃焼ガスの流入量を十分にするためには、フィルタ7のうち間隙23に面する表面積(図1の例ではテーパ部72の表面積)が、フィルタ7の端面71の表面積よりも小さくなるように構成することが好ましい。
【0031】
またフィルタ7は、例えば軸方向に垂直な横断面に、軸方向に沿って一端面から他端面に貫通する所定の直径以下の孔を有していてもよい。図2は、中心に孔を有するフィルタの横断面の一例を示す図である。図2の例では、フィルタ7は軸方向に沿って貫通孔73を備えると共に、貫通孔73の周囲に横断面が環状のフィルタ本体74を備える。貫通孔73は、例えば上述した芯材をフィルタ7の形成後に抜き取り、形成されたものである。この場合、フィルタ本体74が、中実状の冷却部として機能する。フィルタ7が、燃焼ガスをろ過すると共に冷却部として十分に機能するためには、断面積が以下の式を満たすことが望ましい。
(フィルタ本体74の断面積/(フィルタ本体74の断面積+貫通孔73の断面積))×100>50
右辺の「50」は、フィルタ本体74及び貫通孔73の断面積の和に対する、フィルタ本体74の断面積の割合が超えるべき基準値を百分率で表すものといえる。すなわち、フィルタ本体74の断面積が貫通孔73の断面積よりも大きいことが望ましい。なおフィルタの端面のうちガスが流れ込む側がテーパになっている場合(例えば図1のような形状)、
テーパ部分もガスが入り込む面になることから、フィルタ本体の断面積は、ガスが流入する面におけるフィルタ本体74の最大径で示される部分の断面積とする。また、上記基準値は、より好ましくは「60」であり、さらに好ましくは「75」である。すなわち、フィルタ本体74の断面積は、フィルタ本体74及び貫通孔73の断面積の和のうち60%を超える大きさであることがより好ましく、75%を超える大きさであることがさらに好
ましい。
【0032】
また、第2燃焼室22には、ディフューザ部4側であってフィルタ7の近傍に、オリフィスプレート8が設けられている。オリフィスプレート8は、1以上の貫通孔81を有する円板状の部材である。また、貫通孔81は、シールテープ82で閉塞されており、燃焼ガスにより第2燃焼室22の内圧が所定以上になると開口する。このようなオリフィスプレート8は、ハウジング2に対して例えば全周溶接により接続することで、作動前の燃焼室21、22の気密性を維持することができる。なお、本実施例ではガス排出孔43は閉塞されていない。オリフィスプレート8に形成される貫通孔81の総開口面積は、第1ガス排出孔431及び第2ガス排出孔432の開口面積の合計よりも小さくすると、燃焼ガスのチョークができ、流量を調整できるため好ましい。なお、オリフィスプレート8及びシールテープ82に代えて、例えばアルミニウム等の金属膜で形成されるキャニスタやその他の構成によってガス発生剤を気密に保持するようにしてもよい。
【0033】
<動作>
ガス発生器1が例えば自動車のエアバッグ等に組み付けられた状態では、コネクタ(図示せず)が一対の通電ピン32、32と接続されており、点火装置3に対して給電可能になっている。この状態で、自動車等に搭載されたセンサ(図示せず)が衝撃を感知すると、点火装置3は、一対の通電ピン32、32に供給される着火電流により作動する。点火装置3は、カップ体31内の点火薬を燃焼させ、その燃焼生成物をカップ体31の外部に放出させる。また、点火薬の燃焼生成物である火炎やガスにより、第1ガス発生剤61が着火する。また、第1ガス発生剤61は、燃焼生成物として燃焼ガスを生成し、燃焼ガスは隔壁5の貫通孔54を通過して第2燃焼室22の第2ガス発生剤62を着火させる。また、第2ガス発生剤62も、燃焼生成物として燃焼ガスを生成する。第2燃焼室22の燃焼ガスの圧力によりオリフィスプレート8のシールテープ82が開裂すると、燃焼ガスは貫通孔81及びフィルタ7を通過してろ過および冷却され、ディフューザ部4のガス排出孔43から排出される。
【0034】
<効果>
ガス発生器1の内圧が十分に高い場合、第1ガス排出孔431から排出される燃焼ガスの量と、第2ガス排出孔432から排出される燃焼ガスの単位時間当たりの量との比は、第1ガス排出孔431の面積と、第2ガス排出孔の面積との比に応じたものになる。また、第1ガス排出孔431から排出される燃焼ガスの温度と、第2ガス排出孔432から排出される燃焼ガスの温度とは、第2燃焼室22から各ガス排出孔までの距離(すなわち、燃焼ガスがフィルタ7を通過する距離)に応じて冷却されたものになる。したがって、ガス発生器1から排出される燃焼ガスは、第1ガス排出孔431から排出された燃焼ガスと第2ガス排出孔432から排出された燃焼ガスとを混合した温度を有し、その温度は第1ガス排出孔431の大きさ及び第2ガス排出孔の大きさによって調整することができる。
【0035】
図3は、ガス排出孔の大きさと排出される燃焼ガスの温度との関係のシミュレーション結果を示す図である。図3の横軸は、上流側である第1ガス排出孔431の直径を示す。なお、下流側である第2ガス排出孔432の直径は、第1ガス排出孔431の直径に応じて変更し、第1ガス排出孔431及び第2ガス排出孔432の総開口面積を等しくした。図3の縦軸は、排出される燃焼ガスの温度を示す。グラフにプロットされた点は、第1ガス排出孔431から排出される燃焼ガスの温度、及び第2ガス排出孔432から排出される燃焼ガスの温度を合わせたときの温度を示している。図3からわかるように、上流側の第1ガス排出孔431を小さくするほど(すなわち、下流側の第2ガス排出孔432を大きくするほど)、排出される燃焼ガスの温度は下がる。なお、図3に直線で示すモデル式の決定係数Rは、0.7791であった。以上のように、下流側の第2ガス排出孔432を大きくすると、フィルタ7のうちディフューザ部4の閉塞端42側の部分を通過する
燃焼ガスの量が増えるため、燃焼ガスは相対的にフィルタ内の長い距離を通過する割合が多くなる。つまりフィルタ7が十分に冷却部として機能することができるようになる。一方、上流側の第1ガス排出孔431を大きくすることで、燃焼ガスは相対的にフィルタ内の短い距離を通過する割合が多くなる。そのため燃焼ガスの温度を高めることもできる。
【0036】
<実施形態2>
図4は、第2の実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。本実施形態においては、ディフューザ部4が図1の実施例と異なっている。そして
上述した第1の実施形態と同一の構成要素には対応する符号を付し、又は図示を省略する。
【0037】
図4のディフューザ部4は、第2燃焼室22から近い第1ガス排出孔431の面積が、第2燃焼室22から遠い第2ガス排出孔432の面積よりも大きくなっている。このような構成であれば、フィルタ7を通過する距離が短い燃焼ガスの割合が多くなり、温度が高い燃焼ガスを排出し、例えばガス発生器1がエアバッグに組み付けられる場合には、エアバッグの早期展開や出力向上を促進することができる。
【0038】
<実施形態3>
図5は、第3の実施形態に係るガス発生器の一例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。本実施形態においても、ディフューザ部4のみが図1の実施例と異なっており、上
述した実施形態と同一の構成要素には対応する符号を付し、又は図示を省略する。
【0039】
図5のディフューザ部4は、第2燃焼室22からの距離が異なる3つのガス排出孔431~433(3つのガス排出孔群)を備えている。図5の例では、燃焼ガスの流れる方向の上流側から下流側に向けて、順に開口面積が大きくなっている。本実施形態においても、それぞれのガス排出孔群に含まれるガス排出孔の数は、等しいものとする。なお、燃焼ガスの流れる方向の上流側から下流側に向けて、順に開口面積が小さくなるようにしてもよい。以上のように、第2燃焼室22からの距離及び開口面積は、3段階以上に差を付けられていてもよい。このような例であっても、第2燃焼室22に近い任意の第1ガス排出孔と、第2燃焼室22から遠い任意の第2ガス排出孔とが、それぞれの総開口面積について所定の大小関係とすることで、ガス発生器1から排出される燃焼ガス全体の温度を調整することができる。図5の例では、ガス排出孔431及びガス排出孔432の組合せ、ガス排出孔432及びガス排出孔433の組合せ、並びにガス排出孔431及びガス排出孔433の組合せが、本開示に係る「第1ガス排出孔」及び「第2ガス排出孔」の組合せに相当し、総開口面積について所定の大小関係を有する。
【0040】
<実施形態4>
図6は、第4の実施形態に係るガス発生器の一例を示す部分的な側面図である。本実施形態においてもディフューザ部4のみが図1の実施例と異なっており、上述した実施形態
と同一の構成要素には対応する符号を付し、又は図示を省略する。
【0041】
図6のディフューザ部4は、第2燃焼室22からの距離が異なる2つのガス排出孔431、432(ガス排出孔群)を備えている。しかしながら、個々のガス排出孔の大きさは同一であり、第1ガス排出孔431の数は、第2ガス排出孔432の数よりも少なくなっている。換言すれば、第1ガス排出孔群に属するガス排出孔の数は、第2ガス排出孔群に属するガス排出孔の数よりも少ない。本実施形態の場合も、第1ガス排出孔431の総開口面積は、第2ガス排出孔432の総開口面積よりも小さくなっている。なお、総開口面積の大小関係は逆にしてもよい。このような例であっても、ガス発生器1から排出される燃焼ガスの温度を調整することができる。
【0042】
<フィルタの変形例>
図7は、フィルタの変形例を示す軸方向の部分的な概略断面図である。本実施形態においてもディフューザ部4とフィルタ7が図1の実施例と異なっており、上述した実施形態
と同一の構成要素には対応する符号を付し、又は図示を省略する。
【0043】
図7の例では、フィルタ7のうち閉塞端42の側にはテーパが付けられ、横断面の断面積は閉塞端に向かって小さくなっている。すなわち、図7の例では、ディフューザ部4とフィルタ7との間に環状の間隙44が形成されている。なお、燃焼ガスがフィルタ7を通過するように、フィルタ7の側面は、少なくとも開放端側において、ディフューザ部4の側壁41の内周と接している。また、フィルタ7の側面には、さらに開放端の側にもテーパが付けられていてもよい。図7のフィルタ7も、ガス排出孔43と対向するようにディフューザ部4の収容空間に収容されている。すなわち、ディフューザ部4の開放端から閉塞端42までフィルタ7が延在しており、フィルタ7はガス排出孔43の各々を向く面を有している。したがって、本実施形態においても燃焼ガスはフィルタ7を通過した距離に応じて冷却され、ガス排出孔43から排出される。
【0044】
図8は、比較例に係るフィルタ内における燃焼ガスの流れを模式的に示す図である。フィルタ7に導入された燃焼ガスは、ガス排出孔43に向かって最短距離を流れる傾向がある。よって、図8のようにフィルタ7とディフューザ部4との間に空間がない場合、フィルタ7のうちガス排出孔43と対向していない部分は燃焼ガスが流れにくい。図8の例では、三角形で示す箇所は、冷却機能を十分に果たしていない。
【0045】
図9は、上述した変形例に係るフィルタ内における燃焼ガスの流れを模式的に示す図である。環状の間隙44が形成されている場合、図9に示すように、フィルタ7から環状の間隙44は燃焼ガスがスムーズに流出する。したがって、図8の比較例と比べると、フィルタ7の嵩や重量は小さくなるが、燃焼ガスの流れが生じにくいために冷却機能を十分に果たしていない領域は減っている。
【0046】
また、例えばフィルタ7が線材によって形成される場合は、フィルタ7を通過して燃焼ガスが排出される際に、フィルタ7の外周に線材のほつれが生じ、線材の破片がガス排出孔43から放出されることがある。特に、図1等に示すようにフィルタ7の側面の多くがディフューザ部4の側壁41と接するときは、フィルタ7の側面のうちガス排出孔43と対向する部分に燃焼ガスの流れが集中し、部分的に線材のほつれが生じ易くなる。一方、図7に示すようにディフューザ部4とフィルタ7との間に環状の間隙44が形成されている場合は、燃焼ガスが流れる部分を分散させることができ、ほつれの発生を低減させることができる。
【0047】
一方、図8のように、フィルタ7を、ディフューザ部4の側壁41との間に間隙なく配置すれば、フィルタ7の嵩がより大きくなり、燃焼ガスの冷却効果を高めることができる。
【0048】
<その他>
以上、本開示に係るガス発生装置の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他の特徴と組み合わせることができる。また、ガス発生器1は、エアバッグ以外の装置に組み込んでもよい。
【0049】
なお、図1図4図7図9には、燃焼ガスの流れる方向の上流側から下流側に向けて、ガス排出孔43の個々の開口面積が単調増加若しくは単調減少し、又は、上流側から下流側に向けて、ガス排出孔43の数が単調増加若しくは単調減少する例を示したが、このような例には限定されない。すなわち、フィルタの軸方向にガスが流れるガス発生器に
おいて、フィルタの上流側のみを流れて排出されるガス量と、下流側まで流れて排出されるガス量とに差をつけて冷却度を調整することができる構成であればよい。例えば、ディフューザ部の表面積に対するガス排出孔の開口率が、燃焼ガスの流れる方向の上流側と下流側とで異なっていればよい。この場合も、上流側に設けられた第1ガス排出孔の総開口面積と、下流側に設けられた第2ガス排出孔の総開口面積とが異なるといえる。またガス排出口43の形状も円に限らず、例えばディフューザ部4の側壁41において、円周方向に長い孔、あるいはハウジング2の軸方向に長い孔であってもよく、正方形や長方形などの円形、楕円形以外の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:ガス発生器
2:ハウジング
21:第1燃焼室
22:第2燃焼室
23:間隙
3:点火装置
31:カップ体
32:通電ピン
33:点火器保持部
34:樹脂部材
4:ディフューザ部
41:側壁
42:閉塞端
43:ガス排出孔
431:第1ガス排出孔
432:第2ガス排出孔
44:間隙
5:隔壁
51:大径部
52:小径部
53:底部
54:貫通孔
61:第1ガス発生剤
62:第2ガス発生剤
7:フィルタ
71:端面
72:テーパ部
73:貫通孔
8:オリフィスプレート
81:貫通孔
82:シールテープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9