(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171337
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
F16G1/28 D
F16G1/28 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077927
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝良
(72)【発明者】
【氏名】関口 勇次
(57)【要約】
【課題】低発塵性であり、高負荷伝動に適した、歯付ベルト10の提供。
【解決手段】歯付ベルト10は、背ゴム部11aと、複数の歯ゴム部11bとを有し、背ゴム部11a及び歯ゴム部11bが熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体11と、背ゴム部11aの内周側の部分に埋設された心線13と、複数の歯ゴム部11bを被覆する歯部被覆材14と、ベルト本体11の端面11sに積層され、ベルト端面10sをなす側部材22とを備え、熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がTPAE、又はTPCであり、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、心線13は、カーボンフィラメントを含み、ベルト端面10sに露出していない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、
前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、
前記ベルト本体の内周側に設けられた前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、
前記ベルト本体の端面に積層され、ベルト端面をなす側部材と
を備え、
前記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、
前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、
前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、
前記心線は、カーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含み、前記ベルト端面に露出していない、歯付ベルト。
【請求項2】
前記エラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)である請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記側部材は、ポリアミド樹脂組成物、又は、熱可塑性エラストマー組成物からなる、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記歯部被覆材は、ポリアミドフィルムからなる、請求項1から3のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記ポリアミドフィルムは、ポリアミドからなるマトリクスと、前記マトリクスに分散する粒状の摩耗改質剤とを含み、
前記粒状の摩耗改質剤がベルト内周面に露出する、請求項4に記載の歯付ベルト。
【請求項6】
前記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子の少なくとも1種である、請求項5に記載の歯付ベルト。
【請求項7】
前記エラストマー成分のソフトセグメントは、ポリエーテル構造である、請求項2~6のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項8】
前記背ゴム部又は前記歯ゴム部は、可塑剤を含有していない熱可塑性エラストマー組成物からなる、請求項1~6のいずれかに記載の歯付ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯付ベルトとしては、ゴムベルトや注型ウレタンベルトが知られている。これらのベルトは、いずれも背ゴム部と、この背ゴム部にベルト長手方向に所定のピッチで一体に設けられた多数の歯ゴム部と、上記背ゴム部と歯ゴム部との間にベルト長手方向に延びるようにかつベルト幅方向に所定のピッチで埋設された心線とを備える。両者は、背ゴム部と歯ゴム部とを加硫ゴムで成形するか、注型ウレタンで成形するかの点で相違する。
【0003】
これらのベルトは、製造過程に加硫工程や後加硫工程が必要であるため、生産性が低い。また、これらのベルトは、加硫ゴムや注型ウレタンの性質上、ベルト成形後の形状付与等の後処理が難しく、更にはリサイクルも難しいという課題もある。
【0004】
このような課題を解消しえる歯付ベルトとして、背ゴム部及び歯ゴム部を熱可塑性エラストマーで形成した歯付ベルトが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-27178号公報
【特許文献2】特開平10-2379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背ゴム部及び歯ゴム部の形成に熱可塑性エラストマーが用いられた歯付ベルトは、ベルトに掛る負荷が大きくなると、ベルト歯が変形しやすい、という課題があった。更に、ベルトをかけたプーリの回転速度が上がると、ベルトが発熱し、この場合もベルト歯が変形しやすい、という課題があった。
【0007】
上述の特許文献2では、カーボン繊維からなるフィラメント(以下、カーボンフィラメント)を片撚りした、片撚りヤーンが心線として採用されている。
カーボン繊維には、クリープによる変形が有機繊維に比べて生じにくい。そのため、カーボン繊維からなるヤーンを心線として採用することで、歯付ベルトは使用による張力の低下を抑制できる。この歯付ベルトには、長期に亘って使用できる見込みがある。
【0008】
ところで、歯付ベルトの製造では、筒状のベルトスラブが作製される。このベルトスラブを所定幅で輪切りにすることで、歯付ベルトが得られる。歯付ベルトのベルト端面は切断面からなり、このベルト端面には心線が露出する。露出した心線から繊維くずが発生し、飛散するため、この歯付ベルトは、例えば、クリーンルームのような、空気清浄度が管理されている環境では使用できない。
カーボン繊維は導電性を有する。そのため、例えば電気設備の回路に、カーボン繊維からなる繊維くずが付着すると回路が短絡し、電気設備が故障する恐れもある。
押出し製法によれば、ベルト端面に心線を露出させることなく歯付ベルトを作製できる。しかしこの製法では、所定の長さのベルトを形成し、このベルトの端部同士を接続して、歯付ベルトが得られる。そのため、高い強度を有するカーボン繊維を心線に使用したとしても、この歯付ベルトは、高負荷伝動が求められる動力伝達用のベルトとしては使用できない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低発塵性であり、高負荷伝動に適した、歯付ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の歯付ベルトは、平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、前記ベルト本体の内周側に設けられた前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、前記ベルト本体の端面に積層され、ベルト端面をなす側部材とを備え、前記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、前記心線は、カーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含み、前記ベルト端面に露出していない。
【0011】
上記歯付ベルトでは、背ゴム部及び歯ゴム部が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)をエラストマー成分とする組成物で構成されている。そのため、製造過程において、加硫工程や後加硫工程が必要無く、この歯付ベルトは生産性に優れる。また、上記エラストマー成分は熱に強く、ベルトを高負荷や高回転速度で駆動させた際の発熱温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、ベルト駆動時に変形が生じにくく、歯ゴム部が変形することによって生じる歯飛び等の不具合が発生しにくい。
【0012】
上記歯付ベルトでは、背ゴム部及び歯ゴム部を構成する熱可塑エラストマー組成物が、それぞれ特定の硬さを有する。そのため、ベルトが柔らかすぎて動力を受けた際に変形して歯が欠けたり、ベルトが硬すぎてプーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することを抑制できる。
上記歯付ベルトの心線は、カーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、歯付ベルトに高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、ベルトとプーリとの噛み合いがずれてベルトがプーリに乗り上げたり、ベルトに局所的な力が掛ってベルト歯が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメントのようなクリープ特性が無いため、歯付ベルトは非常に伸びにくく、この歯付ベルトには張力低下が発生しにくい。
上記歯付ベルトではさらに、ベルト端面に心線は露出していない。そのため、心線の露出を起因とする発塵が防止される。
上記歯付ベルトは、低発塵性であり、高負荷伝動に適する。
【0013】
(2)上記歯付ベルトにおいて、上記エラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)であることが好ましい。TPAEは、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない点、耐薬品性に優れる点で、歯付ベルトの歯ゴム部及び背ゴム部を構成する材料として適している。
【0014】
(3)上記歯付ベルトにおいて、上記側部材は、ポリアミド樹脂組成物、又は、熱可塑性エラストマー組成物からなることが好ましい。この場合、熱融着によって、ベルト本体の端面に側部材を接着することができる。この歯付ベルトは、ベルト本体の端面を側部材で容易に被覆できる。
【0015】
(4)上記歯付ベルトにおいて、上記歯部被覆材はポリアミドフィルムからなることが好ましい。この場合、歯部被覆材を起因とする発塵が防止される。
【0016】
(5)上記歯付ベルトにおいて、上記ポリアミドフィルムは、ポリアミドからなるマトリクスと、上記マトリクスに分散する粒状の摩耗改質剤とを含み、前記粒状の摩耗改質剤はベルト内周面に露出することが好ましい。この場合、粒状の摩耗改質剤がベルト内周面の摩擦係数の低減に貢献する。ベルト内周面が受ける摩擦エネルギーが低減されるので、上記歯付ベルトは摩耗の進行を抑制できる。摩擦による温度上昇が抑制されるので、歯ゴム部の剛性低下が防止される。歯ゴム部は変形しにくい。
【0017】
(6)上記歯付ベルトにおいて、上記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子の少なくとも1種であることが好ましい。この場合、粒状の摩耗改質剤がベルト内周面の摩擦係数の低減に効果的に貢献する。
【0018】
(7)上記歯付ベルトにおいて、上記エラストマー成分のソフトセグメントは、ポリエーテル構造であることが好ましい。この場合、TPAEは、常温でゴム弾性を呈しやすい。そのため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。
常温でゴム弾性を呈するために、可塑剤の配合は不要である。このソフトセグメントを有するTPAEは、歯付ベルトの低発塵性に貢献する。
【0019】
(8)上記歯付ベルトにおいて、上記背ゴム部又は上記歯ゴム部は、可塑剤を含有していない熱可塑性エラストマー組成物からなることが好ましい。この場合、この熱可塑性エラストマー組成物は、歯付ベルトの低発塵性に貢献する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低発塵性であり、高負荷伝動に適した、歯付ベルトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯付ベルトの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図4】歯付ベルトの製造に使用するベルト成形型の部分断面図である。
【
図9】走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
【
図10】発塵量試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。
図2は、
図1における矢視Xの正面図である。
図3は、
図1のA-A線端面図である。
【0023】
<歯付ベルト>
歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
図1には、歯付ベルト10の一部のみを示す。
歯付ベルト10は、
図1に示すように、ベルト本体11、心線13、歯部被覆材14及び一対の側部材22を備える。
【0024】
歯付ベルト10の寸法は特に限定されず、設計に応じて選択することができる。
歯付ベルト10の寸法は、例えば、ベルト周長(ベルトピッチラインBLにおけるベルト長さ)を54mm以上6600mm以下、ベルト幅を3mm以上340mm以下、ベルト最大厚さを1.3mm以上13.2mm以下とすることができる。
【0025】
歯付ベルト10の内周側には、所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯12が配設されている。ベルト歯12の歯形は、S歯形である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12の歯形はS歯形に限定されるわけではなく、S歯形以外の円弧歯形であってもよいし、台形歯形であってもよいし、その他の歯形であってもよい。
【0026】
歯付ベルト10において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して平行に延びる直歯である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるハス歯であってもよい。
【0027】
歯付ベルト10において、ベルト歯12の歯ピッチP(
図3中、P参照)は、例えば2mm以上20mm以下である。
ベルト歯12の歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯12間の歯底部15からベルト歯12の先端までの寸法(
図3中、H参照)で規定され、例えば0.76mm以上8.4mm以下である。
また、歯付ベルト10は、歯数が、例えば27以上560以下、歯幅(ベルト長さ方向の寸法)が、例えば1.3mm以上15.0mm以下、PLDが、例えば0.254mm以上2.159mm以下である。
これらのベルト歯の寸法は例示であり、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0028】
<ベルト本体>
ベルト本体11は、エンドレスの平帯状の背ゴム部11aと、複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、ベルト本体11の内周側に設けられている。詳細には、複数の歯ゴム部11bは、背ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に間隔をおいて一体に設けられている。ベルト本体11では、背ゴム部11a及び歯ゴム部11bのそれぞれが熱可塑性エラストマー組成物で構成されている。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物と、歯ゴム部11bを構成する熱可塑エラストマー組成物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
本発明において、熱可塑性エラストマー組成物とは、熱可塑性のエラストマー成分を必須成分とし、上記エラストマー成分以外の各種添加剤を必要に応じて含有可能な任意成分とする組成物をいう。
上記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分のみを含有していてよい。
【0030】
ベルト本体11を構成する熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)である。
TPAE及びTPCは、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系などの他の熱可塑性エラストマーに比べて、熱に強く、高負荷駆動時や高速回転駆動時のベルト温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、高負荷駆動時や高速回転駆動時にベルトの発熱による歯ゴム部11bの変形が発生しにくい。
【0031】
上記エラストマー成分としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)が好ましい。
TPAEは、TPCに比べて、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない。そのため、駆動時のベルト温度が相対的に低く、高負荷や高速での動力伝達に適している。
また、TPAEは、耐薬品性にも優れる。そのため、薬品との接触が想定される用途、例えば、油圧装置を備えた産業用機械、二輪自動車の駆動部、乗用車の電動シートで使用する歯付ベルトのエラストマー成分として好適である。
【0032】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)は、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル構造を採用し、ソフトセグメントとしてポリエーテル、ポリエステル、又はポリカーボネートを採用したブロック共重合体である。
【0033】
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)は、ポリアミド(ナイロン)をハードセグメントとし、ポリオールをソフトセグメントとするブロック共重合体である。
上記ポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。これらのなかでは、アミド結合の含有量が少なく、寸法変化を起こしにくい点から、ナイロン11及びナイロン12が好ましい。
【0034】
上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオ―ル及びポリエーテルポリオ―ルの、一方又は両方が採用できる。
ポリエステルポリオ―ルとポリエーテルポリオ―ルとを比較すると、可塑剤を配合しなくても常温でゴム弾性を呈しやすく、ベルトを屈曲させた際にクラックを発生しにくい点から、ポリエーテルポリオ―ルの方が好ましい。この場合、ソフトセグメントはポリエーテル構造となる。
また、TPAEのポリオール成分として、ポリエーテルポリオ―ルを採用した場合には、可塑剤を配合しなくてもよい。可塑剤を含有していない熱可塑性エラストマー組成物で歯ゴム部11bや背ゴム部11aが構成された歯付ベルト10は、可塑剤が揮発し、設備や製品に付着することがない。この熱可塑性エラストマー組成物は歯付ベルト10の低発塵性に貢献する。よって、このような歯付ベルト10は、クリーンルームで好適に使用することができる。
【0035】
上記ポリエステルポリオ―ルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
上記ポリエーテルポリオ―ルとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0036】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、それぞれ市販品を使用することもできる。
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標)シリーズが例示できる。
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、アルケマ社製のPEBAX(登録商標)シリーズ、ダイセル・エボニック社製のベスタミド(登録商標)シリーズ及びダイアミド(登録商標)シリーズ、並びに、EMS社製のグリルフレックス(登録商標)シリーズが例示できる。
【0037】
背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物には、TPAEやTPCのエラストマー成分以外に、必要に応じて、短繊維、ウィスカー、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤、固体潤滑剤、潤滑油、及びグリース等の添加剤が含まれていてもよい。
【0038】
一方、これらの添加剤を含有する場合、これらの添加剤は、背ゴム部11aや歯ゴム部11bから離脱して使用環境を汚染することがある。そのため、歯付ベルト10が、例えばクリーンルームで使用される歯付ベルトの場合は、上記熱可塑性エラストマー組成物は、上記添加剤を含有せず、エラストマー成分のみで構成されていることが好ましい。
【0039】
ベルト本体11において、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、25~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、40~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上である。
【0040】
上記熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、JIS K6253-3の規定に準拠してタイプDデュロメータを用いて23℃で測定される。この硬さはショアD硬さともいう。
【0041】
以下、本明細書においては、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「背ゴム部硬さ」ともいい、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「歯ゴム部硬さ」ともいう。
【0042】
このような構成を有する歯付ベルトでは、背ゴム部硬さが上記範囲にあり、かつ歯ゴム部硬さ以下であるため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。また、歯ゴム部硬さが背ゴム部硬さ以上で、かつ上記範囲にあるため、使用時にベルト歯の摩耗しにくく、ベルト歯の変形が発生しにくい。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さより小さくてもよい。
【0043】
上記背ゴム部硬さと歯ゴム部硬さとの差は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。背面クラックの発生を抑制するのに、より好適である。
【0044】
歯付ベルト10においては、背ゴム部硬さが25~50であり、歯ゴム部硬さが45~65であることも好ましい。この場合、背面クラックの発生抑制と、ベルト歯の変形抑制を両立するのに好適である。
【0045】
上記背ゴム部硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分の分子量、ハードセグメントとソフトセグメントとの比率、熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分以外の添加剤の種類や量などを調整することが制御することができる。
上記歯ゴム部硬さも同様に、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分やエラスマー成分以外の添加剤によって制御することができる。
【0046】
<心線>
心線13は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の部分に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設されている。
心線13の外径は、例えば0.45mm以上3.0mm以下である。
心線13のピッチ(ベルト幅方向の配設ピッチ)は、例えば0.5mm以上4.0mm以下である。
【0047】
心線13は、多数のフィラメントを含み、当該フィラメントが撚られたものである。
心線13の撚り方は特に限定されず、1つの撚り階層で構成される片撚りでもよいし、2つの撚り階層を有する諸撚りやラング撚りでもよいし、3つの撚り階層を有するものでもよい。
【0048】
心線13に含まれるフィラメントの全て又は一部がカーボン繊維からなるカーボンフィラメントである。
上記カーボンフィラメントのフィラメント径は、例えば5μm以上7μm以下である。心線13に含まれるカーボンフィラメントの本数は、例えば3000本以上である。上記フィラメントの本数の上限は特に限定されず、例えば96000本である。
【0049】
カーボンフィラメントとしては、例えば、PAN系のカーボンフィラメントと、ピッチ系のカーボンフィラメントが挙げられる。柔軟である点から、カーボンフィラメントとしては、PAN系のカーボンフィラメントが好ましい。
【0050】
歯付ベルト10において、心線13はカーボンフィラメント以外に他の繊維からなるフィラメントを含むことができる。他の繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、ポリケトン繊維などの有機繊維等が挙げられる。
心線13が構成材料として、カーボンフィラメントと他の繊維からなるフィラメントとを含有する場合、全フィラメントに対してカーボンフィラメントが占める割合は、50質量%以上である。上記カーボンフィラメントの占める割合は、多いほど(例えば、90質量%以上)好ましい。
【0051】
上述したように、心線13はカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、心線13を有する歯付ベルト10は、高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、歯付ベルト10とプーリとの噛み合いがずれて歯付ベルト10がプーリに乗り上げたり、歯付ベルト10に局所的な力が掛ってベルト歯12が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメントのようなクリープ特性が無いため、歯付ベルト10は非常に伸びにくく、この歯付ベルト10には張力低下が発生しにくい。
【0052】
歯付ベルト10において、心線13は、心線13に含まれる各フィラメントが収束剤からなる収束被覆層で被覆されてもよいし、複数のフィラメントが撚られたものが接着剤からなる接着被覆層で被覆されてもよい。
収束剤及び接着剤としては、例えば、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョン、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物を含む水溶液(RF液とも称される。)、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物と、ラテックスとを含む水溶液(RFL液とも称される。)等が挙げられる。
【0053】
歯付ベルト10において、心線13は、S撚り糸及びZ撚り糸の2種を用い、ベルト幅方向にそれらが交互に並ぶように二重螺旋状に設けられていてもよい。この場合、歯付ベルト10の走行時の片寄りを抑制するのに適している。
心線13は、S撚り糸のみ又はZ撚り糸のみで構成されていてもよい。
【0054】
<歯部被覆材>
歯部被覆材14は、ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた内周側の表面を被覆するように貼設されている。従って、各ベルト歯12の歯ゴム部11bは歯部被覆材14で被覆されている。
これにより、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物とプーリとが直接接触することが防止される。そのため、歯ゴム部11bの摩耗を抑制することができる。
歯部被覆材14の厚さは、例えば0.1mm以上2.5mm以下である。
【0055】
歯付ベルト10の低発塵性に貢献できる観点から、歯部被覆材14は樹脂フィルムからなることが好ましい。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル等が挙げられる。この場合、歯部被覆材14は熱融着によりベルト本体11に接着することができるので、ベルト本体11との接着力を高めるために、繊維部材からなる歯部被覆材に対して行われる接着処理が不要となる。
樹脂フィルムの中でも、ポリアミドを樹脂成分とするポリアミドフィルム(ナイロンフィルム)がより好ましい。
ポリアミドフィルムは、摩擦係数が低いため、摩擦エネルギーが小さく、摩耗しにくい。ポリアミドフィルムは、融点が高いので、プーリとの接触部の温度が上がっても、ポリアミドが溶融することによる急激な摩耗を生じにくい。そのため、ポリアミドフィルムからなる歯部被覆材14は歯付ベルト10の低発塵性に効果的に貢献できる。
【0056】
上記ポリアミドフィルムを構成するポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212、ナイロン6T等が挙げられる。
上記ポリアミドとしては、市販品を使用してもよい。上記市販品としては、例えば、旭化成社製のレオナ(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0057】
上記ポリアミドフィルムは、ポリアミドのみで構成されてもよいし、他の成分を含んでいてもよい。
ポリアミドフィルムは、特に、他の成分として、粒状の摩耗改質剤を含有していることが好ましい。ポリアミドフィルムは、ポリアミドからなるマトリクスと、このマトリクスに分散する粒状の摩耗改質剤とを含み、粒状の摩耗改質剤がベルト内周面に露出することがより好ましい。この場合、粒状の摩耗改質剤がベルト内周面の摩擦係数の低減に貢献する。ベルト内周面が受ける摩擦エネルギーが低減されるので、摩耗の進行が抑制される。摩擦による温度上昇が抑制されるので、歯ゴム部11bの剛性低下が防止される。この歯ゴム部11bは変形しにくい。
【0058】
上記粒状の摩耗改質剤の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。
これらの材質からなる粒状の摩耗改質剤は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
上記ポリアミドフィルムは、上記粒状の摩耗改質剤として、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子のうちの少なくとも一方を含有していることがより好ましい。これらの粒子は、摩耗改質剤として機能し、歯部被覆材14の摩擦係数をより低くする。
これらの粒子を含有させ、歯部被覆材14の摩擦係数(すなわち、ベルト歯の表面の摩擦係数)を低減することで、上述した効果を享受できる。
【0060】
上記超高分子量ポリエチレン粒子を構成するUHMWPEの重量平均分子量は、110万~330万が好ましい。上記UHMWPEの重量平均分子量が110万未満の場合、使用時にUHMWPE粒子が歯ゴム部11bとプーリとの摩擦熱で溶融し、消失してしまうことがある。一方、上記UHMWPEの重量平均分子量が330万を超えると、使用時に衝撃で割れてしまうUHMWPE粒子があり、充分な摩擦係数低減効果が得られないことがある。
【0061】
上記UHMWPE粒子の平均粒子径は、10~65μmが好ましい。
上記平均粒子径が10μm未満では、上記UHMWPE粒子のベルト歯12表面への露出量が少なく、ポリアミドフィルムに含有させる効果が乏しくなることがある。一方、上記平均粒子径が65μmを超えると、使用時にベルトの表面から脱落してしまうことがある。
上記UHMWPE粒子の平均粒子径は、レーザ回折式の粒子径分布測定装置で測定した値である。
上記UHMWPE粒子としては、市販品を使用してもよい。
【0062】
上記PTFE粒子の平均粒子径は、10~30μmが好ましい。
上記平均粒子径が10μm未満では、上記PTFE粒子のベルト歯12表面への露出量が少なく、ポリアミドフィルムに含有させる効果が乏しくなることがある。一方、上記平均粒子径が30μmを超えると、使用時にベルトの表面から脱落してしまうことがある。
上記PTFE粒子の平均粒子径は、レーザ回折式の粒子径分布測定装置で測定した値である。
上記PTFE粒子としては、市販品を使用してもよい。上記市販品としては、例えば、AGC社製のFluon(登録商標)PTFE L150J、FluonPTFE L169J、Solvey社製のアルゴフロン(登録商標) L100等が挙げられる。
【0063】
粒状の摩耗改質剤は、ベルト内周面を構成する歯部被覆材14の表面に合計1~15%露出している、ことが好ましい。
歯部被覆材14の表面における露出量が1%未満では、ベルト歯12の表面の摩擦係数を低くする効果が乏しい。一方、上記露出量が15%を超えると、歯部被覆材14と歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着が、両者の間に介在する粒状の摩耗改質剤によって阻害されることがある。
【0064】
歯部被覆材14の表面における粒状の摩耗改質剤の露出量(%)は、上記歯部被覆材14の表面を光学顕微鏡で観察し、歯部被覆材14の表面の面積に占める上記粒状の摩耗改質剤の面積の割合を算出したものである。
【0065】
ベルト表面(すなわち、歯部被覆材14の表面)における粒状の摩耗改質剤の露出量の調整は、歯部被覆材14をなすポリアミドフィルムに含まれる粒状の摩耗改質剤の濃度や分散状態を変更すること等で行うことができる。また、粒状の摩耗改質剤を含有するポリアミドフィルムの表面を研磨することで調整することもできる。
【0066】
歯部被覆材14としてのポリアミドフィルムは、上述の粒状の摩耗改質剤以外の他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。
【0067】
<側部材>
それぞれの側部材22は、ベルト本体11の端面11sに積層される。この側部材22は、歯付ベルト10のベルト端面10sをなす。
側部材22は、所定の厚さを有するシートで構成される。この側部材22が薄いフィルムで構成されてもよい。この側部材22の厚さは、例えば0.1mm以上2.5mm以下である。
【0068】
側部材22は、ベルト本体11の端面11sに露出する心線13を覆う。そのため、
図1に示されるように、心線13はベルト端面10sに露出していない。この歯付ベルト10では、心線13の露出を起因とする発塵が防止される。
図1においては、ベルト本体11の端面11s全体が側部材22で被覆されるが、少なくとも、ベルト本体11の端面11sに露出した心線13がこの側部材22で被覆されていればよい。
【0069】
側部材22は、ポリアミド樹脂組成物、又は、熱可塑性エラストマー組成物からなることが好ましい。ポリアミド樹脂組成物、及び、熱可塑性エラストマー組成物は熱可塑性を有する。そのため、側部材22は、ポリアミド樹脂組成物、又は、熱可塑性エラストマー組成物からなることにより、熱融着によって、ベルト本体11の端面11sに側部材22を接着することができる。この歯付ベルト10は、ベルト本体11の端面11sを側部材22で容易に被覆できる。
側部材22が熱可塑性エラストマー組成物からなる場合は、ベルト本体11の説明で例示した熱可塑性エラストマー組成物を側部材22の熱可塑性エラストマー組成物として使用できる。この場合、側部材22の熱可塑性エラストマー組成物が、上述の、背ゴム部11a又は歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物と同じであってもよく、異なっていてもよい。側部材22がベルト本体11の端面11sに強固に接着できる観点から、側部材22の熱可塑性エラストマー組成物は、上述の、背ゴム部11a又は歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物と同じであることが好ましい。この場合、低発塵性の観点から、側部材22は可塑剤を含有していない熱可塑性エラストマー組成物からなることがより好ましい。
【0070】
ポリアミド樹脂組成物はポリアミドを樹脂成分とする。ポリアミド樹脂組成物は、摩擦係数が低いため、摩擦エネルギーが小さく、摩耗しにくい。側部材22はプーリのフランジと接触することがある。そのため、側部材22をポリアミド樹脂組成物で構成することで、この側部材22が歯付ベルト10の低発塵性に効果的に貢献できる。この観点から、側部材22はポリアミド樹脂組成物からなることが好ましい。
【0071】
ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。これらのなかでは、耐摩耗性と低コストとの観点から、ナイロン6及びナイロン66が好ましい。
上記ポリアミドとしては、市販品を使用してもよい。上記市販品としては、例えば、旭化成社製のレオナ(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0072】
側部材22がポリアミド樹脂組成物からなる場合は、ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドのみで構成されてもよいし、ポリアミド以外に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。
【0073】
次に、本実施形態に係る歯付ベルト10の製造方法について、説明する。
【0074】
(製造方法)
本製造方法を
図4~
図8を参照しながら説明する。
図4は、歯付ベルト10の製造方法で使用するベルト成形型の部分断面図である。
図5~8は、製造方法の製造工程を説明する図である。
製造方法は、材料準備工程、積層工程、成形工程、及び仕上げ工程を有する。
【0075】
<材料準備工程>
≪エラストマーシート≫
背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとを用意する。各エラストマーシートは、例えば、エラストマー成分であるTPAE又はTPCと、必要な添加剤とを含む熱可塑性エラストマー組成物を調製し、これを押出成形等でシート状に成形することで得られる。
また、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとは、共押出で成形してもよい。この場合、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとの積層体が得られる。
本工程で成形したエラストマーシートは、一旦、巻取ってもよいし、そのまま次工程に供給してもよい。
【0076】
≪歯部被覆材≫
歯部被覆材14がポリアミドフィルムからなる場合を例にして、この歯部被覆材14の準備について説明する。
ポリアミドフィルムを、歯付ベルト10の歯形と同形状の凹部を有し、加熱された型に沿わせ、当該型と反対側から軟らかい弾性体を押付けることで、ポリアミドフィルムを歯形が付いた形状に成形する。
または、押出成形でポリアミドフィルムを押出した後、ベルトの歯形と同形状の歯形を有する2つのロールに通すことで、ポリアミドフィルムに歯形状を形成しながら冷却を行うことで、歯形が付いたポリアミドフィルムを作製する。
または、ポリアミドフィルムを、加熱した歯形を有する2つのロールに通すことで歯形が付いたポリアミドフィルムを作製する。
その後、歯形の付いたポリアミドフィルムは筒状に成形してもよい。
【0077】
≪心線≫
フィラメント18に所定の撚りや、接着処理等を加えて心線13を用意する。ここでは、S撚りの心線とZ撚りの心線とを一対の心線として用意することが好ましい。
【0078】
≪側部材≫
側部材22の形成用に、熱可塑性エラストマー組成物、又は、ポリアミド樹脂組成物からなるシートを用意する。
このシートを、歯付ベルト10のベルト端面の形状に打ち抜き、側部材シートを作製する。
【0079】
<積層工程>
図4は、ベルト成形型30の一部を示す部分断面図である。
ベルト成形型30は、円筒状であって、各々、軸方向に延びるように形成された複数の歯部形成溝31が周方向に間隔をおいて配設された外周面を有する。
【0080】
図5に示すように、ベルト成形型30の外周面上に歯形を付けた筒状の歯部補強剤14を被せ、その上から一対の心線13を螺旋状に巻き付ける。
そして、その上に歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11a’とをこの順に巻き付ける。巻き付けられた各シートの層数は、作製するベルトの寸法に応じて1層でもよいし、2層以上でもよい。
更に、必要に応じて離型紙又は離型フィルム(図示せず)を巻き付ける。
これにより、ベルト成形型30上に積層体S’を成形する。
【0081】
<成形工程>
ゴムスリーブ32を内面に持ち、スリーブ32と本体との間に密閉した空間をもつジャケットを、積層体S’に被せる。これにより、
図6に示すように、ベルト成形型30上の積層体S’にゴムスリーブ32が被せられる。
積層体S’を巻いた成形型30の内部とジャケットの空間とに高圧蒸気を入れて加熱・圧縮する。これにより、熱可塑性エラストマーシート11a’、11b’を構成する熱可塑性エラストマーを心線13間の隙間を通過させて歯部形成溝31にして流し込み、
図7に示すように、ベルト歯12を形成する。
このとき、高圧蒸気の温度は、熱可塑性エラストマーが流動する温度以上の温度とする。なお、熱可塑性エラストマーシートのエラストマー成分が、TPAEの場合には、高圧蒸気の温度を170℃以上にする。
【0082】
ベルト歯12を形成した後は、ジャケットや成形型30を水などで冷却して、エラストマーの温度を100℃以下に下げた後、ジャケットから成形型30と成形体Sを取出す。さらに、成形体Sの温度が40℃以上の場合は、さらに冷却し、成形体Sの温度が40℃より下がったら、成形体Sを成形型30から抜き取る。
【0083】
<仕上げ工程>
取出した成形体Sを規定の幅に切って分離することで、
図8の(a)に示される、ベルト本体11を得る。
ベルト本体11の端面11sに側部材シート22’を貼り付けた後、側部材シート22’に熱盤を押し当てる。側部材シート22’を加熱して、この側部材シート22’をベルト本体11の端面11sに溶着する。これにより、
図8の(b)に示される、歯付ベルト10を得る。
以上説明した工程を経ることにより、ベルト本体11が熱可塑性エラストマー組成物で構成され、心線13がベルト端面10sに露出していない歯付ベルト10を製造することができる。
【0084】
<その他>
なお、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’との硬さが異なる場合には、ベルト成形型30の外周面上に、歯部被覆材14、心線13、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’の積層を行った後、上述した高圧蒸気による加熱・圧縮を行ってベルト歯12を形成し、一旦冷却した後、背ゴム部用熱可塑性エラストマーシート11a’を巻き付けて、再度、高圧蒸気による加熱・圧縮を行い、その後、再度冷却し、最後に仕上げ工程を行って、歯付ベルト10を製造すればよい。
【実施例0085】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
ここでは、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを作製し、その性能を評価した。
各例の歯付ベルトは、既に説明した上述の製造方法を用いて作製した。
ベルト本体のための材料、心線、歯部被覆材のための材料及び側部材のための材料は、下記の通り準備した。
【0087】
(ベルト本体のための材料)
下記の熱可塑性エラストマー組成物(TPE)を用意した。いずれの熱可塑性エラストマー組成物も市販品である。
【0088】
<TPAE:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物>
(A1)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 4033SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
PEBAXは、ポリエーテルポリオ―ルをソフトセグメントとする。
(A2)T&K TOKA社製のTPAE-10を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは41である。
TPAE-10は、ポリエーテルエステルをソフトセグメントとする。
(A3)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 2533SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは27である。
【0089】
<TPO:ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物>
三菱ケミカル社製のサーモラン(登録商標) QT85KBを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは31である。
【0090】
<TPS:スチレン系熱可塑性エラストマー組成物>
三菱ケミカル社製のラバロン(登録商標) QE548AEを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
【0091】
<TPU:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー組成物>
日本ミラクトラン社製のミラクトラン(登録商標) E490を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは43である。
【0092】
(側部材のための材料)
下記のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物(TPAE)とポリアミド樹脂組成物(PA)を用意した。いずれも市販品であり、0.5mm厚さのシートで準備された。
<TPAE:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物>
アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 4033SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
PEBAXは、ポリエーテルをソフトセグメントとする。
<PA:ポリアミド樹脂組成物>
旭化成社製のレオナ1500を使用した。
【0093】
(心線)
カーボン心線(帝人テナックス社製 、フィラメント径7μm、フィラメント本数15000本)を使用した、S撚り糸とZ撚り糸とを準備した。この心線は1×5の諸撚り糸であり、エポキシ系接着剤による処理が施されている。
【0094】
(歯部被覆材)
歯部被覆材として、下記のポリアミドフィルムPA1~PA3を準備した。
<ポリアミドフィルムPA1>
旭化成社製の「レオナ1500」からなる厚さ0.65mmのフィルムを用意した。
<ポリアミドフィルムPA2>
所定量のUHMWPE粒子(三井化学社製の「ミペロンXM-220」)をレオナ1500に配合したポリアミド樹脂組成物を、押出成形でシート状に成形して厚さ0.65mmのフィルムを作製した。ポリアミド樹脂組成物におけるUHMWPE粒子の濃度は15質量%であった。なお、歯部被覆材PA2の作製では、押出成形後、得られたシートの表面を研磨してUHMWPE粒子の露出量を調整した。
<ポリアミドフィルムPA3>
所定量のPTFE粒子(AGC社製の「FluonPTFE L150J」)をレオナ1500に配合したポリアミド樹脂組成物を、押出成形でシート状に成形して厚さ0.65mmのフィルムを作製した。ポリアミド樹脂組成物におけるPTFE粒子の濃度は20質量%であった。なお、歯部被覆材PA3の作製では、押出成形後、得られたシートの表面を研磨してPTFE粒子の露出量を調整した。
【0095】
[実施例1]
背ゴム部及び歯ゴム部を備えるベルト本体に上記TPAE(A1)を使用し、側部材に上記TPAEを使用し、歯部被覆材に上記ポリアミドフィルムPA1を使用し、上記心線を使用して、上述した製造方法(
図5~
図9参照)で、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを製造した。実施例1は可塑剤を含有していない。耐久試験用として、ベルト幅8mm、ベルト長1200mmの歯付ベルトが準備され、発塵量評価用として、ベルト幅30mm、ベルト長1200mmの歯付ベルトが準備された。
【0096】
[実施例2]
側部材を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2の歯付ベルトを得た。実施例2は可塑剤を含有していない。
【0097】
[比較例1]
ベルト端面に心線を露出させた他は実施例1と同様にして、比較例1の歯付ベルトを得た。比較例1には、側部材は設けられていない。比較例1は可塑剤を含有していない。
【0098】
[実施例3~4]
歯部被覆材を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3~4の歯付ベルトを得た。実施例3~4は可塑剤を含有していない。実施例3では、UHMWPE粒子の露出量は10.3%であった。実施例4では、PTFE粒子の露出量は12.4%であった。
【0099】
[実施例5]
側部材及びベルト本体を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5の歯付ベルトを得た。実施例5は可塑剤を含有していない。
【0100】
[比較例2~4]
ベルト本体を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2~4の歯付ベルトを得た。比較例2~4は可塑剤を含有していない。
【0101】
[実施例6]
背ゴム部に上記TPAE(A3)を使用し、歯ゴム部に上記TPAE(A1)を使用した他は実施例1と同様にして、実施例6の歯付ベルトを得た。実施例6は可塑剤を含有していない。
【0102】
(評価方法)
実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、耐久性を評価するための耐久試験と、発塵性を評価するための発塵量評価試験とを行った。結果は、表1に示した。
【0103】
<耐久試験>
耐久試験は、標準的な走行条件で耐久性を評価する試験である。実施例1~6及び比較例2~4で製造した歯付ベルトについて行った。
図10は、耐久試験1で使用したベルト走行試験機80を示す。
ベルト走行試験機80は、歯数22歯、歯形8Mの駆動プーリ81と、その右側方に設けられた歯数33歯、歯形8Mの従動プーリ82とを備える。従動プーリ82は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
【0104】
実施例1~6及び比較例2~4のそれぞれで製造した歯付ベルト110について、ベルト走行試験機80の駆動プーリ81及び従動プーリ82間に巻き掛けると共に、従動プーリ82に対して右側方に608Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ82に34.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ81を1分間に4200回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して背ゴムの背面におけるクラック等の故障の発生の有無を目視確認し、故障の発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。なお、ベルト走行時間の最長を500時間とした。
また、故障の発生に至らなくても歯飛びが発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0105】
<発塵量評価試験>
発塵量評価試験は、ベルト走行中に発生する発塵量を評価する試験である。実施例1~6及び比較例1で製造した歯付ベルトについて行った。この評価は、JIS B9926のクリーンルームに使用する機器の運動機構からの発塵量測定方法に従っている。
図11は、発塵量評価試験で使用したベルト走行試験機90を示す。
ベルト走行試験機90は、試験体設置部91を備える。この試験体設置部91内に、歯数24歯、歯形8Mの駆動プーリ92と、その右側方に設けられた歯数24歯、歯形8Mの従動プーリ93とが設けられる。従動プーリ93は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
試験体設置部91の上流側には送風部94が設けられる。この送風部94によって、外気が取り入れられる。送風部94の下流側にエアフィルタ部95が設けられる。このエアフィルタ部95を外気が通過することで、試験体設置部91内に清浄な空気が導入される。
試験体設置部91内を通った空気は、測定部96を通って外部に放出される。この測定部96内に発塵センサ(図示されず)が設けられ、この発塵センサにおいて、発塵量が測定される。
【0106】
実施例1~6及び比較例1のそれぞれで製造した歯付ベルト120について、ベルト走行試験機90の駆動プーリ92及び従動プーリ93間に巻き掛けると共に、従動プーリ93に対して右側方に687Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、室温下において駆動プーリ92を1分間に200回の回転速度で回転させてベルト走行させた。
そして10分間歯付ベルトを走行させたときの積算発塵量の1分当たりの平均値を比較することで、発塵性を評価した。
【0107】
【0108】
【0109】
表1-2に示した通り、本発明の実施形態に係る歯付ベルトは、低発塵性であり、高負荷伝動に適する。