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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171340
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】減菌評価方法及び簡易減菌評価器具
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221104BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077930
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】尾上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 寿枝
(72)【発明者】
【氏名】今津 龍也
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB02
4B029BB06
4B029BB13
4B029CC02
4B029CC07
4B029FA09
4B029GA08
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ10
4B063QR75
4B063QR76
4B063QR79
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】簡易かつ安価に環境空間の減菌効果を正確に評価することができる、減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するための方法;及び該方法のためのキットを提供すること。
【解決手段】プレート上に形成された、複数の有機物パッドの表面上に微生物を付着させる工程;所定時間、前記微生物に減菌性物質を接触させる工程;前記微生物を培養する工程;及び前記培養した微生物を計数する工程を含む、減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するための方法;及び該方法のためのキット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート上に形成された、複数の有機物パッドの表面上に微生物を付着させる工程;
所定時間、前記微生物に減菌性物質を接触させる工程;
前記微生物を培養する工程;及び
前記培養した微生物を計数する工程
を含む、減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するための方法。
【請求項2】
前記複数の有機物パッドの各々は、100~1000mmの暴露面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減菌性物質は、気体及び液体からなる群から選択される、少なくとも1つ以上の形態を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物は、ウィルス、細菌、又は真菌のいずれかである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機物パッドは、寒天、ゼラチン、アガロース、及びコラーゲンからなる群から選択されるゲル形成剤を含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機物パッドは、前記微生物の培養のための栄養を含有する寒天である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記微生物を培養する工程前に、該微生物の培養のために栄養を付与する工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するためのキットであって、
前記キットは、
その表面に複数の穴部を有するプレート;及び
前記穴部に収容された栄養が付与された有機物パッドであって、各々が100~1000mmの暴露面積を有する、有機物パッド
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減菌評価方法及び簡易減菌評価器具に関する。
【背景技術】
【0002】
環境空間の減菌効果を評価する方法として、BI(バイオロジカルインジケータ)が使用されている。
【0003】
BIでは、ろ紙、ガラス、プラスチック、及びステンレス等の担体上に対象となる減菌処理に対して高い抵抗性を示す微生物(指標菌)が担持されており、かかる試験片を減菌処理した後、別途培養して微生物(指標菌)の生残を確認する。試験片と培地を封入したアンプルとが一体となったアンプル型のものも市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-245962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来から使用されているBIは、性能要求が厳しく、高価である。試験片はグラシン紙(一次包装)、又はアンプルとともに容器に収納されているため、気体以外の減菌性物質での処理には適さない。担体に接種された微生物(指標菌)が凝縮して減菌効果にばらつきが生じることもある。
【0006】
他方、個別に用意した平板培地上に微生物(指標菌)を均一塗布した後、減菌処理を行う方法も考えられるが、培地の特徴によっては微生物(指標菌)の培養工程に問題が生じ、環境空間の減菌効果を正確に評価することができない。また、個々の培地ごとに処理を行っていたのでは、操作も煩雑となり、手軽さに欠ける。
【0007】
したがって、簡易かつ安価に環境空間の減菌効果を正確に評価することができる方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、簡易かつ安価に環境空間の減菌効果を正確に評価することができる方法を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の局面において、
プレート上に形成された、複数の有機物パッドの表面上に微生物を付着させる工程;
所定時間、前記微生物に減菌性物質を接触させる工程;
前記微生物を培養する工程;及び
前記培養した微生物を計数する工程
を含む、減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するための方法、
を提供する。
【0010】
ある一形態においては、複数の有機物パッドの各々は、100~1000mmの暴露面積を有する。
【0011】
ある一形態においては、前記減菌性物質は、気体及び液体からなる群から選択される、少なくとも1つ以上の形態を含む。
【0012】
ある一形態においては、前記微生物は、ウィルス、細菌、又は真菌のいずれかである。
【0013】
ある一形態においては、前記有機物パッドは、寒天、ゼラチン、アガロース、及びコラーゲンからなる群から選択されるゲル形成剤を含んでなる。
【0014】
ある一形態においては、前記有機物パッドは、前記微生物の培養のための栄養を含有する寒天である。
【0015】
ある一形態においては、前記微生物を培養する工程前に、該微生物の培養のために栄養を付与する工程を更に含む。
【0016】
また、本発明は、第2の局面において、
減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するためのキットであって、
前記キットは、
その表面に複数の穴部を有するプレート;及び
前記穴部に収容された栄養が付与された有機物パッドであって、各々が100~1000mmの暴露面積を有する、有機物パッド
を含む、キット、
を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易かつ安価に環境空間の減菌効果を正確に評価することができる、減菌性物質処理の減菌効果を定量的に評価するための方法;及び該方法のためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の方法の工程図である。
図2図2は、本発明のキットの概略図である。
図3図3は、本発明の方法の実施形態に係る微生物数の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法は、
プレート上に形成された、複数の有機物パッドの表面上に微生物を付着させる工程;
所定時間、前記微生物に減菌性物質を接触させる工程;
前記微生物を培養する工程;及び
前記培養した微生物を計数する工程
を含む。
【0020】
本発明において、「減菌」とは、微生物を特に限定せずその量を減少させることをいう。本発明において、減菌効果の評価対象は、微生物である。以下、詳細に説明する。
【0021】
(第1の工程)
本発明の方法は、第1の工程において、プレート上に形成された、複数の有機物パッドの表面上に微生物を付着させる。
【0022】
<有機物パッド>
本発明の実施形態に係る有機物パッドは、ゲル形成剤を含んでなる。有機物パッドのゲル形成剤は、有機物パッドがプレート上で長時間その形状を保持することができ、かつ、微生物に水分を供し、微生物の生存維持及び培養に資するものであれば、特に限定されない。有機物パッドのゲル形成剤としては、例えば寒天、ゼラチン、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、及びセルロース等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
有機物パッドの含水量は、5.0~99.99重量%であることが好ましい。有機物パッドの含水量が上記範囲にあることで、有機物パッドはプレート上で長時間形状を保持することができ、かつ、本発明の方法の各工程にわたり、付着された微生物に十分な水分を供し、微生物を生存維持させることができる。有機物パッドの含水量が5.0重量%より小さい場合には、含水量が乏しいため、付着された微生物に十分な水分を提供することができず、微生物が減少又は死滅して正確な評価できなくなる。有機物パッドの含水量が99.99重量%より大きい場合には、水分過多であり、有機物パッドの形状は維持し難くなる。有機物パッドの含水量は、有機物パッドのゲル形成剤が寒天である場合には、90.0~99.9重量%であることが好ましく、97.0~99.9重量%であることが更に好ましい。有機物パッドの含水量は、有機物パッドのゲル形成剤がゼラチンである場合には、90.0~99.9重量%であることが好ましく、95.0~99.0重量%であることが更に好ましい。有機物パッドの含水量は、有機物パッドが寒天であり、かつ、後述する栄養が付与されている場合には、94.0~99.9重量%であることが好ましく、94.0~97.0重量%であることが更に好ましい。有機物パッドの含水量は、ゲル形成剤の種類及び濃度に応じて、本発明の目的を達成することができる範囲内で適宜変更することができる。
【0024】
有機物パッドは、微生物の培養のための栄養が付与されていてもよい。栄養についての詳細は後述する。有機物パッドに含まれる栄養の濃度は、例えば、Trypton 1重量%、酵母エキス0.5重量%、塩化ナトリウム1重量%;Trypton 1重量%、酵母エキス0.5重量%、塩化ナトリウム0.5重量%;及びTrypton 1重量%、酵母エキス0.5重量%、塩化ナトリウム0.05重量%である。塩化ナトリウムの濃度は、0.05~1重量%であることが好ましい。有機物パッドに含まれる栄養の濃度が上記範囲である場合、種々の微生物を培養することができる。
【0025】
有機物パッドの各々は、100~1000mmの面積を有する。本発明において、複数の有機物パッドの各々の表面は減菌性物質に暴露される。このように、個々の有機物パッドにおいて減菌性物質に暴露される面積を、単に「暴露面積」と称することがある。有機物パッドの面積が上記範囲にあることで、培養工程で有機物パッド上に形成される微生物のコロニーが視認上判別し易くなり、減菌効果の評価の精度を向上させることができる。有機物パッドの面積が100mmより小さい場合には、外部環境由来の他の微生物による汚染の影響を回避し難く、また、微生物が増えすぎた場合にコロニーの視認上の判別も困難となり、減菌効果の評価の精度が低下する。有機物パッドの面積が1000mmより大きい場合には、コスト的にも空間経済的にも好ましくない。有機物パッドの面積は100~1000mmであることが好ましい。
【0026】
有機物パッドの高さは、有機物パッドの面積が上記好ましい範囲にあることを条件として、有機物パッドの体積が1.5~3.0mLとなる範囲で適宜選択することができる。有機物パッドの体積がこれらの範囲にあることで、微生物を十分に培養することができる。
【0027】
有機物パッドは、対象となる微生物の培養態様に応じて、平板状、斜面状、又は半斜面状等、種々の形状を選択することができる。有機物パッドは、特に後述のプレートの穴部に配置される場合、プレートの穴部による支持を得て種々の形状を確保することができる。本発明の有機物パッドは、プレート上に複数で配置され、有機物パッドごとに付着させる微生物の種類及び量、及び減菌性物質処理の種類及び程度を目的に応じて適宜変更することができるため、複数の試験対象を一括して処理できる等、評価方法の精度の向上と効率化を図ることができる。
【0028】
<プレート>
本発明の実施形態に係るプレートは、本発明の目的を達成することができる限り、特に限定されない。プレートの材質としては、例えばアクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ガラス、シリコーン、及びセラミクス等が挙げられ、減菌性物質処理に耐え得る等の条件の下、これらの中から適宜選択することができる。プレートは、単独の材質からなるものでも、複数の材質からなるものであってもよい。また、プレートは、単一層からなるものでも、複数層からなるものでもよい。プレートの大きさは、特に制限されないが、市販のものでは、通常長さ100~150mm;幅70~90mm;及び厚さ10mm~20mmの範囲である。
【0029】
プレートは、その表面に穴部を2個以上有する。穴部を有することで、有機物パッドを穴部に配置して固定することができ、また、微生物を効率よく付着させることができる。プレート上に形成された複数の穴部は、等間隔に規則正しく配置されていてよく、ランダムに配置されていてもよい。穴部は複数形成されているので、複数の有機物パッドをプレート上に形成することができる。各穴部は、本発明の目的に照らし、互いに独立した方式で形成されていることが好ましい。かかる独立形式にあることで微生物同士の相互汚染を回避することができる。プレートの穴部の開口部の平面形状は、本発明の目的を達成することができる限り、特に限定されず、略円形、略楕円形若しくは略長方形、略正方形、又は略三角形等の多角形の形状であり得る。プレートの穴部の縦断面形状は、略長方形、略正方形、若しくは略逆三角形等の多角形、又は上底が下底よりも長い略逆台形であり得る。すなわち、穴部の立体形状は、略円柱、略楕円柱、略角柱、略逆円錐台、又は略逆角錐台であり得る。
【0030】
プレートの穴部の開口部の面積は、穴部に配置される有機物パッドの暴露面積が100~1000mmの範囲となる限り、特に限定されないが、有機物パッドに所望の暴露面積を付与し得る点で、100~1000mmであることが好ましい。プレートの穴部の開口部の面積が100mmより小さい場合には、有機物パッドに所望の暴露面積を付与することができなくなる。プレートの穴部の開口部の面積が1000mmより大きい場合には、プレート表面に形成できる穴部の個数が減少するので、有機物パッドの個数や総暴露面積が制限されてしまうことがある。プレートの穴部の底部の面積は、穴部内において有機物パッドの暴露面積を100~1000mmの範囲とすることができる限り、特に限定されない。プレートの穴部の底部の面積は、プレートの穴部の開口部の面積よりも小さいことが好ましく、有機物パッドの暴露面積よりも小さいことが好ましい。プレートの穴部の高さは、穴部の開口部の面積が上記好ましい範囲であることを条件として、穴部の体積が1.5~3.0mLとなる範囲で適宜選択することができる。穴部の体積がこれらの範囲にあることで、有機物パッドを穴部に収容した場合、微生物を十分に培養することができる。プレートの穴部の個数は、例えば6個、12個、24個、48個、及び96個である。
【0031】
プレートは、プレート全体につき又は穴部ごとに蓋部を有していてもよい。蓋部を有することで、減菌性物質処理において、減菌性物質が対象に接触する時間をプレート全体につき又は穴部ごとに制御することができる。
【0032】
<微生物>
前記のように、本発明の減菌効果の評価対象は、微生物である。本明細書において、「微生物」とは、ウィルス、細菌、又は真菌をいう。ウィルスとしては、例えばバクテリオファージが挙げられる。細菌としては、例えば大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌、モラクセラ菌、レジオネラ菌等のグラム陰性菌;黄色ブドウ球菌、クロストリジウム属細菌等のグラム陽性菌が挙げられる。真菌としては、例えばカンジダ菌、ロドトルラ、パン酵母等の酵母類;赤カビ、黒カビ等のカビ類が挙げられる。有機物パッドへの微生物の付着方法は、本発明の目的を達成することができる限り、特に限定されない。微生物は、微生物を含む液を、白金耳又はコンラージ棒等を使用して塗抹して有機物パッド上に付着させてもよく、液を噴霧して有機物パッド上に付着させてもよい。しかしながら、本発明の目的から、有機物パッドの表面に可能な限り均一に付着させることが好ましい。付着させる微生物の数は、1.0×10~1011cfu(colony forming unit:コロニー形成単位)であることが好ましい。
【0033】
(第2の工程)
本発明の方法は、第2の工程において、前記微生物に所定時間、減菌性物質を接触させる。
【0034】
<減菌性物質>
本発明の実施形態に係る減菌性物質は、化学物質である。紫外線等の無体物は含まない。「減菌」とは、前記のように、微生物を特に限定せずその量を減少させることをいう。減菌性物質の形態は、本発明の目的を達成することができる限り、特に限定されず、気体であってもよく、液体であってもよく、また、固体であってもよい。気体の減菌性物質としては、例えばオゾン;酸化エチレン(エチレンオキシド);酸化プロピレン;ホルムアルデヒド;二酸化塩素;及び過酸化水素(プラズマ)等が挙げられる。液体の減菌性物質としては、例えばエタノール、イソプロパノール等のアルコール;グルタラール、フタラール、ホルマリン等のアルデヒド;ポビドンヨード、ヨードチンキ等のヨウ素系化合物;フェノール;クレゾール;次亜塩素酸ナトリウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の第4級アンモニウム塩;塩化アルキルジアミノエチルグリシン;クロルヘキシジン;過酢酸、オキシドールの酸化剤;カテキン等を用いることができる。固体の減菌性物質としては、例えば塩化水銀(II)、オキシシアン化水銀等の水銀化合物;硝酸銀;ヨウ素、ヨードホルム等のヨウ素化合物;ホウ酸;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化銀等の金属酸化物等がある。これらは、単独で使用してよく、2種類以上を組み合わせて(例えば固体と液体又は気体とのゾル(オルガノゾル、エアロゾル等)を)使用してもよい。減菌性物質の微生物への接触手段としては、気体状の場合は空間を介して、液体状又は固体状の場合は直接、又は霧状(ミスト)又は微細な粉末状にして空間内に拡散させることで、接触させることができる。
【0035】
減菌性物質の接触時間は、減菌性物質の性質及び形態(気体、液体等)により異なるが、通常5秒~24時間の範囲である。例えば、減菌性物質が液体である場合には5秒~5時間であり、減菌性物質が気体である場合には5分~24時間である。
【0036】
(第3の工程)
本発明の方法は、減菌性物質で処理した後、第3の工程において、前記微生物を培養する。なお、微生物の培養のためには栄養を要するが、微生物を付着させた有機物パッドが栄養を含有しない場合、培養工程前に栄養を付与する工程を更に含むことができる。
【0037】
<栄養>
上記のとおり、微生物の培養のためには栄養が必要である。本発明の実施形態に係る栄養は、対象となる微生物の培養に好適である限り、特に限定されない。栄養としては、例えば、カゼインペプトン(例えばTryptone)、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、大豆ペプトン等のペプトン類;肉エキス、酵母エキス、心臓浸出液(ハートインフュージョン)、麦芽エキス、ポテトエキス、トマトジュース等のエキス類;塩化ナトリウム;グルコース等が挙げられる。これらは、単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。微生物へ栄養を付与する工程においては、これらの任意の組み合わせと前記有機物パッドとからなる市販品(例えばTSA(トリプトソイ寒天)培地、TSB(トリプトソイブイヨン)培地)を使用してもよい。例えば、大腸菌の培養には、TSB(トリプトソイブイヨン)培地が好ましく、黄色ブドウ球菌の培養には、マンニット食塩寒天培地が好ましく、緑膿菌の培養には、NAC寒天培地が好ましい。なお、上記培地は、既知の方法に従って、すなわち、前記栄養を蒸留水に溶解し、さらにゲル形成剤を加え、所定の温度で加熱することで作製することができる。作製した培地は、オートクレーブ滅菌等によりあらかじめ滅菌処理することで評価対象以外の微生物の混入を防止する。
【0038】
微生物は、有機物パッド上で培養される。微生物の培養温度は、微生物、有機物パッド、及び付与される栄養の種類により異なるが、通常ウィルスで20~40℃、細菌で30~40℃、真菌で25~30℃である。培養温度が20℃より低い場合には、微生物の培養速度が遅く、減菌効果の評価に不十分なものとなり、45℃より高い場合には微生物の培養速度が速く、有機物パッドからあふれたり、微生物が死滅したりして、減菌効果の評価に適さないものとなる。また、微生物の培養時間は通常24時間~8週間である。ウィルスでは24時間~1週間、細菌では24~48時間、真菌では7日間以上である。例えば、嫌気性菌では48~72時間以上、結核菌を含む抗酸菌細菌種は8週間程度である。
【0039】
(第4の工程)
本発明の方法は、第4の工程において、上記培養された微生物を計数する。培養された微生物のコロニー数を計数し、減菌処理をしていないものとの比較を行うことで、減菌効果を定量的に評価することができる。定量評価は、以下の式1を用いて行うことができる。算出した減菌効果より減菌率を更に算出することもできる(式2)。なお、以降、減菌処理を施した試験対象を「減菌処理区」、減菌処理を施していない試験対象を「対照区」と称することがある。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
<キット>
本発明は、本発明の方法を実行するためのキットをまた含む。
【0043】
本発明のキットは、
その表面に複数の穴部を有するプレート;及び
前記穴部に収容された栄養が付与された有機物パッドであって、各々が100~1000mmの暴露面積を有する、有機物パッド
を含む。プレート及び有機物パッドは、前記本発明の方法に例示したものと同様のものを用いることができる。
【0044】
本発明のキットは、微生物及び減菌性物質のうちの1つ以上を更に含むことができる。キットは、他の減菌処理手段と接続して、さらなる別のキットを構成することもできる。本発明のキットを使用することで、減菌性物質処理の減菌効果を簡易かつ安価に正確に評価することができる。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は下記実施例にのみ限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
6つの穴部(各開口部の面積:961mm2)を有するプレートの各穴部に、微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天(含水量95重量%)を各々1.5mL加えた。該寒天上に、菌数(大腸菌)が1.0×10cfu/mLとなるよう、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であらかじめ調製した菌原液につきPBSで10~10倍に希釈した希釈液を塗布した。次に、減菌性物質(オゾンガス(4.0ppm))を4時間、前記各寒天上に塗布した菌液に作用させた。その後、プレートを恒温槽に移し、37℃で一晩培養した後、コロニー数を計数した。比較のため、対照区についてもコロニー数を計数した。
【0047】
[実施例2]
プレートの各穴部に、微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天の代わりに、寒天(含水量98重量%)を加え、培養工程前に微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天1.5mLを寒天上に付与した以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0048】
[実施例3]
プレートの各穴部に、微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天の代わりに、ゼラチン(含水量99重量%)を加え、培養工程前に微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天1.5mLをゼラチン上に付与した以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0049】
[実施例4]
減菌性物質(オゾン)の濃度を1.5ppmとした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0050】
[比較例1]
96の穴部(各開口部の面積:40mm2)を有するプレートの各穴部に、微生物の培養のための栄養としてのTSB(トリプトソイブイヨン)培地が付与された寒天(含水量95重量%)を各々200μL加えた。該寒天上に、菌数(大腸菌)が1.0×10cfu/mLとなるよう、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であらかじめ調製した菌原液につきPBSで10~10倍に希釈した希釈液を塗布した。次に、プレートを恒温槽に移し、37℃で一晩培養した後、コロニー数の計数を試みた。
【0051】
<減菌効果の定量評価>
前記実施例1~4で計数したコロニー数を基に、減菌性物質処理の減菌効果の定量評価を行った。また、併せて減菌率も算出した。減菌効果及び減菌率は、前記式1及び2より算出した。
【0052】
減菌効果の評価基準は次のとおりである。
評価A:減菌効果が4より大きい(減菌率99.99%より大)
評価B:減菌効果が1~4(減菌率90~99.99%)
評価C:減菌効果が1より小さい(減菌率90%未満)
【0053】
実施例1の場合、減菌効果は3(減菌率90~99.99%)、評価Bであった。実施例2の場合、減菌効果は4(減菌率90~99.99%)、評価Bであった。実施例3の場合、減菌効果は4.1(減菌率99.99%より大)、評価Aであった。実施例4の場合、減菌効果は4(減菌率90~99.99%)、評価Bであった。他方、比較例1では、プレートの各穴部の面積と比較してコロニーの大きさが大きく、コロニー数の計数が困難であった。また、この場合、穴部同士の間隔も狭く、異なる希釈系列の穴部の大腸菌が他の希釈系列の穴部に入り込み、また、穴部において真菌類による汚染も認められた。
【0054】
以上、説明したとおり、有機物パッドの暴露面積を各々100~1000mmとすることで、オゾンガスの大腸菌に対する減菌効果を正確に定量的に評価することができた。本発明の方法は、オゾンガスのみならず、他の様々な減菌性物質処理においても、有用である。
【符号の説明】
【0055】
1…有機物パッド、2…プレート、3…穴部、10…キット。
図1
図2
図3