(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171348
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
F16G1/28 G
F16G1/28 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077939
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝良
(72)【発明者】
【氏名】関口 勇次
(57)【要約】
【課題】 ベルト歯に摩耗や変形が生じにくい。また、高負荷伝動での使用にも適している歯付ベルトを提供する。
【解決手段】 平帯状の背ゴム部と、背ゴム部の内周側に配設された複数の歯ゴム部とを有し、背ゴム部及び歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、カーボンフィラメントを含む心線と、前記歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、を備え、前記熱可塑性エラストマー組成物は、エラスマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、かつ所定の硬さを有し、前記歯部被覆材が、(a)バインダーで処理された織物であって、前記バインダーが、前記織物の内部に充填されるとともに、ベルト表面を構成する前記織物の表面も被覆している織物、又は、(b)ポリアミドフィルム、である歯付ベルト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられて歯部を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、
前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された、カーボンフィラメントを含む心線と、
前記ベルト本体の内周側に設けられた、前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、
を備え、
前記熱可塑性エラストマー組成物は、エラスマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、
前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、
前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、
前記歯部被覆材は、
(a)バインダーで処理された織物であって、前記バインダーが、前記織物の内部に充填されるとともに、ベルト表面を構成する前記織物の表面も被覆している織物、又は、
(b)ポリアミドフィルム、
である歯付ベルト。
【請求項2】
前記エラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)である請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記歯部被覆材は、前記(a)の織物であり、
前記織物は、平織り、綾織り、又は朱子織である請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記織物は、少なくともベルトの長手方向の糸として、伸縮性を有する糸又は捲縮加工が施された糸が用いられている請求項3に記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記歯部被覆材は、前記(a)の織物であり、
前記バインダーは、粒状の摩耗改質剤を含有している請求項1~4のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項6】
前記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子のうちの少なくとも1種である請求項5に記載の歯付ベルト。
【請求項7】
前記粒状の摩耗改質剤は、ベルト表面を構成する前記織物の表面に合計1~15%露出している、請求項5又は6に記載の歯付ベルト。
【請求項8】
前記歯部被覆材は、前記(b)のポリアミドフィルムであり、
ベルト表面を構成する前記ポリアミドフィルムの表面、又は当該表面を含む内部に粒状の摩耗改質剤を含有している請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項9】
前記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子のうちの少なくとも1種である請求項8に記載の歯付ベルト。
【請求項10】
前記粒状の摩耗改質剤は、ベルト表面を構成する前記ポリアミドフィルムの表面に合計1~15%露出している、請求項8又は9に記載の歯付ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯付ベルトとしては、ゴムベルトや注型ウレタンベルトが知られている。これらのベルトは、いずれも背ゴム部と、この背ゴム部にベルト長手方向に所定のピッチで一体に設けられた多数の歯ゴム部と、上記背ゴム部と歯ゴム部との間にベルト長手方向に延びるようにかつベルト幅方向に所定のピッチで埋設された心線とを備えている。両者は、背ゴム部と歯ゴム部とを加硫ゴムで成形するか、注型ウレタンで成形するかの点で相違する。
【0003】
これらのベルトは、製造過程に加硫工程や後加硫工程が必要であるため、生産性が低い。また、これらのベルトは、加硫ゴムや注型ウレタンの性質上、ベルト成形後の形状付与等の後処理が難しく、更にはリサイクルも難しいという課題もある。
【0004】
このような課題を解消しえる歯付ベルトとして、背ゴム部及び歯ゴム部を熱可塑性エラストマーで形成した歯付ベルトも提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-27178号公報
【特許文献2】特開平10-2379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背ゴム部及び歯ゴム部の形成に熱可塑性エラストマーが用いられた歯付ベルトは、ベルトに掛る負荷が大きくなると、ベルト歯が変形しやすい、という課題があった。更に、ベルトをかけたプーリの回転速度が上がると、ベルトが発熱し、この場合もベルト歯が変形しやすい、という課題があった。
また、背ゴム部及び歯ゴム部の形成に熱可塑性エラストマーが用いられた歯付ベルトは、歯部被覆材がないと摩耗しやすく、歯部被覆材を備えていてもその種類によっては摩耗しやすい、という課題もあった。
そして、歯ゴム部の変形や摩耗は、ベルト歯の欠けを引き起こし、歯飛びの原因になることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、プーリの回転速度を上げても、ベルト歯に摩耗や変形が生じにくく、高負荷伝動が可能な歯付ベルトを提供することを目的とする。
【0008】
(1)本発明の歯付ベルトは、平帯状の背ゴム部と、上記背ゴム部の内周側に配設されて各々が上記背ゴム部に一体に設けられて歯部を構成する複数の歯ゴム部とを有し、上記背ゴム部及び上記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、
上記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された、カーボンフィラメントを含む心線と、
上記ベルト本体の内周側に設けられた、上記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、
を備え、
上記熱可塑性エラストマー組成物は、エラスマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、
上記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、
上記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ上記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、
上記歯部被覆材は、
(a)バインダーで処理された織物であって、上記バインダーが、上記織物の内部に充填されるとともに、ベルト表面を構成する上記織物の表面も被覆している織物、又は、
(b)ポリアミドフィルム、
である。
【0009】
上記歯付ベルトは、背ゴム部及び歯ゴム部が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)をエラストマー成分とする組成物で構成されている。そのため、製造過程において、加硫工程や後加硫工程が必要無く、生産性に優れる。また、上記エラストマー成分は熱に強く、ベルトを高負荷や高回転速度で駆動させた際の発熱温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、ベルト駆動時に変形が生じにくく、歯ゴム部が変形することによって生じる歯飛び等の不具合が発生しにくい。
【0010】
また、上記歯付ベルトは、背ゴム部及び歯ゴム部を構成する熱可塑エラストマー組成物が、それぞれ特定の硬さを有している。そのため、ベルトが柔らかすぎて動力を受けた際に変形して歯が欠けたり、ベルトが硬すぎてプーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することを抑制できる。よって、上記歯付ベルトは、ベルト寿命が長い。
【0011】
また、上記歯付ベルトは心線として、カーボンフィラメントを含む心線を備えている。
カーボンフィラメントを含む心線は、弾性率が高いため、歯付ベルトに高負荷をかけても変形しにくく、プーリとの噛合いがずれにくい。そのため、ベルトとプーリとの噛合いがずれてベルトがプーリに乗り上げたり、ベルトに局所的な力が掛ってベルト歯が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントを含む心線は、有機繊維のようなクリープ特性が無いため、非常に伸びにくく、ベルトの張力低下が発生しにくい。
【0012】
更に、上記歯付ベルトは、バインダーで処理された織物、又はポリアミドフィルムからなる歯部被覆材を備えている。このような歯部被覆材によって、歯ゴム部を構成する熱可塑エラストマー組成物を拘束してベルト歯の剛性を高めることができる。そのため、高負荷伝動であってもベルト歯が変形しにくく、動力伝達を行うことができる。
また、上記歯部被覆材は、熱可塑性エラストマー組成物に比べて摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れるため、高負荷伝動時に歯の表面に高い面圧や滑りが生じても、急激な摩耗が生じることを回避することができる。
【0013】
(2)上記歯付ベルトにおいて、上記エラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)である、ことが好ましい。
TPAEは、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない点、耐薬品性に優れる点で、他の熱可塑性エラストマーよりも歯付ベルトの歯ゴム部及び背ゴム部を構成する材料として適している。
【0014】
(3)上記歯付ベルトにおいて、上記歯部被覆材は、上記(a)の織物であり、上記織物は、平織り、綾織り、又は朱子織であることが好ましい。
これらの織物は、摩擦係数が小さく、摩耗紛に潤滑性があるため摩耗しにくい。また、衝撃を吸収しやすいため静音性を有する。そのため、これらの織物は、本発明の歯付ベルトが備える歯部被覆材として好適である。
【0015】
(4)上記歯付ベルトにおいて、上記織物は、少なくともベルトの長手方向の糸として、伸縮性を有する糸又は捲縮加工が施された糸が用いられていることが好ましい。
この場合、歯付ベルトの内周面の形状に沿った歯部被覆材を設けるのに適している。
【0016】
(5)上記歯付ベルトにおいて、上記歯部被覆材は、上記(a)の織物であり、上記バインダーは、粒状の摩耗改質剤を含有していることが好ましい。
この場合、粒状の摩耗改質剤により、ベルト歯の表面の摩擦係数が低くなり、ベルト駆動時にベルト歯の表面に受ける摩擦エネルギーを小さくすることができる。そのため、上記歯付ベルトは、摩耗速度が低減されるとともに、摩擦による発熱を低減することができ、ベルトの発熱を抑えることができるため、ベルト歯の剛性の低下を抑制することができる。従って、上記歯付ベルトは、ベルト歯に欠けが生じることを回避するのにより適している。
【0017】
(6)上記歯付ベルトにおいて、上記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これらの粒状の摩耗改質剤は、本発明の歯付ベルトにおいて、ベルト歯の表面の摩擦係数を低くする粒子として、特に好適である。
【0018】
(7)上記粒状の摩耗改質剤は、ベルト表面を構成する上記織物の表面に合計1~15%露出している、ことが好ましい。
この場合、ベルト歯の摩耗低減効果を確保しつつ、歯部被覆材と歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着を阻害しない構成として、より好適である。
【0019】
(8)上記歯付ベルトにおいて、上記歯部被覆材は、上記(b)のポリアミドフィルムであり、ベルト表面を構成する上記ポリアミドフィルムの表面、又は当該表面を含む内部に粒状の摩耗改質剤を含有していることが好ましい。
この場合、粒状の摩耗改質剤によってベルト歯の表面の摩擦係数が低くなり、ベルト駆動時にベルト歯の表面に受ける摩擦エネルギーを小さくすることができる。そのため、上記歯付ベルトは、摩耗速度が低減されるとともに、摩擦による発熱を低減することができ、ベルトの発熱を抑えることができるため、ベルト歯の剛性の低下を抑制することができる。従って、上記歯付ベルトは、ベルト歯に欠けが生じることを回避するのにより適している。
【0020】
(9)上記歯付ベルトにおいて、上記粒状の摩耗改質剤は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これらの粒状の摩耗改質剤は、本発明の歯付ベルトにおいて、ベルト歯の表面の摩擦係数を低くする粒子として、特に好適である。
【0021】
(10)上記歯付ベルトにおいて、上記粒状の摩耗改質剤は、ベルト表面を構成する上記ポリアミドフィルムの表面に合計1~15%露出している、ことが好ましい。
この場合、ベルト歯の摩耗低減効果を確保しつつ、歯部被覆材と歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着を阻害しない構成として、より好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ベルト歯に摩耗や変形が生じにくく、高負荷伝動が可能な歯付ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルトの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図4】歯付ベルトの製造に使用するベルト成形型の部分断面図である。
【
図8】耐久試験1におけるプーリレイアウトを示す図である。
【
図9】耐久試験2におけるプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。
図2は、
図1における矢視Xの正面図である。
図3は、
図1のA-A線端面図である。
【0025】
<歯付ベルト>
歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
図1には、歯付ベルト10の一部のみを示す。
歯付ベルト10は、
図1に示すように、ベルト本体11、心線13、及び歯部被覆材としての補強布14を備えている。
【0026】
歯付ベルト10の寸法は特に限定されず、設計に応じて選択することができる。
歯付ベルト10の寸法は、例えば、ベルト周長(ベルトピッチラインBLにおけるベルト長さ)を54mm以上6600mm以下、ベルト幅を3mm以上340mm以下、ベルト最大厚さを1.3mm以上13.2mm以下とすることができる。
【0027】
歯付ベルト10は、内周側に所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯12が配設されている。ベルト歯12の歯形は、S歯形である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12の歯形はS歯形に限定されるわけではなく、S歯形以外の円弧歯形であってもよいし、台形歯形であってもよいし、その他の歯形であってもよい。
【0028】
歯付ベルト10において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して平行に延びる直歯である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるハス歯であってもよい。
【0029】
歯付ベルト10において、ベルト歯12の歯ピッチP(
図3中、P参照)は、例えば2mm以上20mm以下である。
ベルト歯12の歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯12間の歯底部15からベルト歯12の先端までの寸法(
図3中、H参照)で規定され、例えば0.76mm以上8.4mm以下である。
また、歯付ベルト10は、歯数が、例えば27以上560以下、歯幅(ベルト長さ方向の寸法)が、例えば1.3mm以上15.0mm以下、PLDが、例えば0.254mm以上2.159mm以下である。
これらのベルト歯の寸法は例示であり、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0030】
<ベルト本体>
ベルト本体11は、エンドレスの平帯状の背ゴム部11aと複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、背ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に間隔をおいて一体に設けられている。ベルト本体11は、背ゴム部11a及び歯ゴム部11bのそれぞれが熱可塑性エラストマー組成物で構成されている。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物と、歯ゴム部11bを構成する熱可塑エラストマー組成物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
本発明において、熱可塑性エラストマー組成物とは、熱可塑性のエラストマー成分を必須成分とし、上記エラストマー成分以外の各種添加剤を必要に応じて含有可能な任意成分とする組成物をいう。
上記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分のみを含有していてよい。
【0032】
ベルト本体11を構成する熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)である。
TPAE及びTPCは、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系などの他の熱可塑性エラストマーに比べて、熱に強く、高負荷駆動時や高速回転駆動時のベルト温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、高負荷駆動時や高速回転駆動時にベルトの発熱による歯ゴム部の変形が発生しにくい。
【0033】
上記エラストマー成分としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)が好ましい。
TPAEは、TPCに比べて、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない。そのため、駆動時のベルト温度が相対的に低く、高負荷や高速での動力伝達に適している。
また、TPAEは、耐薬品性にも優れる。そのため、薬品との接触が想定される用途、例えば、油圧装置を備えた産業用機械、二輪自動車の駆動部、乗用車の電動シートで使用する歯付ベルトとして好適である。
【0034】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)は、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル構造を採用し、ソフトセグメントとしてポリエーテル、ポリエステル、又はポリカーボネートを採用したブロック共重合体である。
【0035】
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)は、ポリアミド(ナイロン)をハードセグメントとし、ポリオールをソフトセグメントとするブロック共重合体である。
上記ポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。
これらのなかでは、アミド結合の含有量が少なく、寸法変化を起こしにくい点から、ナイロン11及びナイロン12が好ましい。
【0036】
上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオ―ル及びポリエーテルポリオ―ルの、一方又は両方が採用できる。
ポリエステルポリオ―ルとポリエーテルポリオ―ルとを比較すると、可塑剤を配合しなくても常温でゴム弾性を呈しやすく、ベルトを屈曲させて際にクラックを発生しにくい点から、ポリエーテルポリオ―ルの方が好ましい。
また、TPAEのポリオール成分として、ポリエーテルポリオ―ルを採用した場合には、可塑剤を配合しなくてもよく、可塑剤を含有しない熱可塑性エラストマー組成物で歯ゴム部や背ゴム部が構成された歯付ベルトは、可塑剤が揮発し、設備や製品に付着することがない。よって、このような歯付ベルトは、クリーンルームで好適に使用することができる。
【0037】
上記ポリエステルポリオ―ルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
上記ポリエーテルポリオ―ルとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0038】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、それぞれ市販品を使用することもできる。
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標)シリーズが例示できる。
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、アルケマ社製のPEBAX(登録商標)シリーズ、ダイセル・エボニック社製のベスタミド(登録商標)シリーズ及びダイアミド(登録商標)シリーズ、並びに、EMS社製のグリルフレックス(登録商標)シリーズが例示できる。
【0039】
背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物には、TPAEやTPCのエラストマー成分以外に、必要に応じて、短繊維、ウィスカー、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤、固体潤滑剤、潤滑油、及びグリース等の添加剤が含まれていてもよい。
【0040】
一方、これらの添加剤を含有する場合、これらの添加剤は、背ゴム部11aや歯ゴム部11bから離脱して使用環境を汚染することがある。そのため、歯付ベルト10が、例えばクリーンルームで使用される歯付ベルトの場合は、上記熱可塑性エラストマー組成物は、上記添加剤を含有せず、エラストマー成分のみで構成されていることが好ましい。
【0041】
ベルト本体11において、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは25~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは40~70である。また、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以下である。
【0042】
以下、本明細書においては、背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「背ゴム部硬さ」ともいい、歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「歯ゴム部硬さ」ともいう)。
【0043】
このような構成を有する歯付ベルトでは、背ゴム部硬さが上記範囲にあり、かつ歯ゴム部硬さ以下であるため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したりすることが抑制される。また、歯ゴム部硬さが背ゴム部硬さ以上で、かつ上記範囲にあるため、使用時にベルト歯の摩耗しにくく、ベルト歯の変形が発生しにくい。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さより小さくてもよい。
【0044】
上記熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、JIS K6253-3の規定に準拠してタイプDデュロメータを用いて23℃で測定する。この硬さは、ショアD硬さともいう。
【0045】
上記背ゴム部硬さと歯ゴム部硬さとの差は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。背面クラックの発生を抑制するのに、より好適である。
【0046】
上記背ゴム部硬さは、背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分の分子量、ハードセグメントとソフトセグメントとの比率、熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分以外の添加剤の種類や量などを調整することで制御することができる。
上記歯ゴム部硬さも同様に、歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分やエラスマー成分以外の添加剤によって制御することができる。
【0047】
<心線>
心線13は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の部分に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設されている。
心線13の外径は、例えば0.45mm以上3.0mm以下である。
心線13のピッチ(ベルト幅方向の配設ピッチ)は、例えば0.5mm以上4.0mm以下である。
【0048】
心線13は、多数のフィラメントを含み、当該フィラメントが撚られたものである。
心線13の撚り方は特に限定されず、1つの撚り階層で構成される片撚りでもよいし、2つの撚り階層を有する諸撚りやラング撚りでもよいし、3つの撚り階層を有するものでもよい。
【0049】
心線13に含まれるフィラメントの全て又は一部がカーボン繊維からなるカーボンフィラメントである。
上記カーボンフィラメントのフィラメント径は、例えば5μm以上7μm以下である。心線13に含まれるカーボンフィラメントの本数は、例えば3000本以上である。上記フィラメントの本数の上限は特に限定されず、例えば96000本である。
【0050】
カーボンフィラメントとしては、例えば、PAN系のカーボンフィラメントと、ピッチ系のカーボンフィラメントが挙げられる。柔軟である点から、カーボンフィラメントとしては、PAN系のカーボンフィラメントが好ましい。
【0051】
歯付ベルト10において、心線13はカーボンフィラメント以外に他の繊維からなるフィラメントを含むことができる。他の繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、ポリケトン繊維などの有機繊維等が挙げられる。
心線13が構成材料として、カーボンフィラメントと他の繊維からなるフィラメントとを含有する場合、全フィラメントに対してカーボンフィラメントが占める割合は、50質量%以上である。上記カーボンフィラメントの占める割合は、多いほど(例えば、90質量%以上)好ましい。
【0052】
上述したように、心線13はカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、心線13を有する歯付ベルト10は、高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、歯付ベルト10とプーリとの噛み合いがずれて歯付ベルト10がプーリに乗り上げたり、歯付ベルト10に局所的な力が掛ってベルト歯12が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメントのようなクリープ特性が無いため、歯付ベルト10は非常に伸びにくく、この歯付ベルト10には張力低下が発生しにくい。
【0053】
歯付ベルト10において、心線13は、心線13に含まれる各フィラメントが収束剤からなる収束被覆層で被覆されてもよいし、複数のフィラメントが撚られたものが接着剤からなる接着被覆層で被覆されてもよい。
収束剤及び接着剤としては、例えば、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョン、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物を含む水溶液(RF液とも称される。)、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物と、ラテックスとを含む水溶液(RFL液とも称される。)等が挙げられる。
【0054】
歯付ベルト10において、心線13は、S撚り糸及びZ撚り糸の2種を用い、ベルト幅方向にそれらが交互に並ぶように二重螺旋状に設けられていてもよい。この場合、歯付ベルト10の走行時の片寄りを抑制するのに適している。
心線13は、S撚り糸のみ又はZ撚り糸のみで構成されていてもよい。
【0055】
<補強布>
補強布14は、ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた内周側の表面を被覆するように貼設されている。従って、各ベルト歯12は、歯ゴム部11bが補強布14で被覆されている。
これにより、歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物と、プーリとが直接接触することを防止することができる。
【0056】
補強布14は、バインダーで処理された織物である。上記織物の織り方(組織)は、例えば、平織り、綾織り、朱子織等である。
上記織物は、ベルトの長手方向に沿った糸を有し、少なくともベルトの長手方向の糸として、伸縮性を有する糸、又は捲縮加工が施された糸が用いられていることが好ましい。
この場合、歯付ベルト内周面の歯ゴム部の形状に歯部被覆材を沿わせるのに適している。
補強布14の厚さは、例えば0.1mm以上2.5mm以下である。
【0057】
上記伸縮性を有する糸としては、例えば、ポリウレタン弾性糸や、ポリウレタン弾性糸を芯糸としてカバーリング糸でカバーリングした糸等が挙げられる。
上記捲縮加工が施された糸としては、例えば、ポリアミド繊維(ナイロン繊維)、ポリエステル繊維等を仮撚加工(ウーリー加工)して得られる糸等が挙げられる。
【0058】
上記バインダーは、補強布14と歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着性を高めるための処理剤である。上記バインダーとしては、例えば、RF水溶液、RFL水溶液、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョン、ゴム用接着剤等が挙げられる。上記ゴム用接着剤としては、例えば、ロード社製、ケムロック(登録商標)等が挙げられる。
【0059】
上記RF水溶液は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の水溶液である。RF水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。
【0060】
上記RFL水溶液は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物と、ラテックスとを混合した水溶液である。
上記ラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(VP・SBR)、スチレン・ブタジエンゴムラテックス(SBR)、天然ゴムラテックス(NR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3-ジクロロブタジエンゴムラテックス(2,3-DCB)、水素化ニトリルゴムラテックス(H-NBR)、カルボキシル化水素化ニトリルゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス(BR)、ニトリルゴムラテックス(NBR)等が挙げられる。上記ラテックスは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0061】
RFL水溶液におけるレゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の含有量と、ラテックス由来固形分の含有量とを合わせた固形分濃度は、例えば10質量%以上30質量%以下である。
RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)のラテックス由来固形分(L)に対する質量比(RF/L)は、例えば1/20~1/0であり、好ましくは1/15前後である。
【0062】
上記バインダーがRF水溶液、又はRFL水溶液の場合、当該バインダーによる処理は、織物をRF水溶液やRFL水溶液に浸漬し、その後加熱すればよい。
上記織物は、RF水溶液やRFL水溶液による処理の前に、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する下地処理が施されていてもよい。
上記バインダーで処理された織物は、当該バインダーが、上記織物の内部に充填されるとともに、上記織物の表面も被覆している。
【0063】
上記バインダーが上記織物の内部に充填されるとともに、ベルト表面を構成する上記織物の表面も被覆している補強布14は、例えば、上記織物を上記RF水溶液や上記RFL水溶液に浸漬することにより形成することができる。
【0064】
上記バインダーは、粒状の摩耗改質剤を含有していることが好ましい。上記粒状の摩耗改質剤を含有させることにより、補強布14の摩擦係数をより低くする。
上記粒状の摩耗改質剤の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。
これらの材質からなる粒状の摩耗改質剤は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
上記バインダーは、上記粒状の摩耗改質剤として、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子のうちの少なくとも一方を含有していることがより好ましい。これらの粒子は、摩耗改質剤として機能し、補強布14の摩擦係数をより低くする。
これらの粒子を含有させ、補強布14の摩擦係数を低減することで、上述した効果を享受できる。
【0066】
上記超高分子量ポリエチレン粒子を構成するUHMWPEの重量平均分子量は、110万~330万が好ましい。上記UHMWPEの重量平均分子量が110万未満の場合、使用時にUHMWPE粒子が歯ゴム部とプーリとの摩擦熱で溶融し、消失してしまうことある。一方、上記UHMWPEの重量平均分子量が330万を超えると、使用時に衝撃で割れてしまうUHMWPE粒子があり、充分な摩擦係数低減効果が得られないことがある。
【0067】
上記UHMWPE粒子の平均粒子径は、10~65μmが好ましい。
上記平均粒子径が10μm未満では、上記UHMWPE粒子のベルト歯表面への露出量が少なく、バインダーを織物の表面に付着させる効果が乏しくなることがある。一方、上記平均粒子径が65μmを超えると、使用時にベルトの表面から脱落してしまうことがある。
上記UHMWPE粒子の平均粒子径は、レーザ回折式の粒子径分布測定装置で測定した値である。
上記UHMWPE粒子としては、市販品を使用してもよい。
【0068】
上記PTFE粒子の平均粒子径は、10~30μmが好ましい。
上記平均粒子径が10μm未満では、上記PTFE粒子のベルト歯表面への露出量が少なく、バインダーを織物の表面に付着させる効果に乏しくなることがある。一方、上記平均粒子径が30μmを超えると、使用時にベルトの表面から脱落してしまうことがある。
上記PTFE粒子の平均粒子径は、レーザ回折式の粒子径分布測定装置で測定した値である。
上記PTFE粒子としては、市販品を使用してもよい。上記市販品としては、例えば、AGC社製のFluon(登録商標)PTFE L150J、FluonPTFE L169J、Solvey社製、アルゴフロン(登録商標) L100等が挙げられる。
【0069】
上記粒状の摩耗改質剤は、ベルト表面を構成する上記織物の表面に合計1~15%露出している、ことが好ましい。
ベルト表面における露出量が1%未満では、ベルト歯の表面の摩擦係数を低くする効果が乏しい。一方、上記露出量が15%を超えると、歯部被覆材と歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着が、両者の間に介在する粒状の摩耗改質剤によって阻害されることがある。
【0070】
ベルト表面における粒状の摩耗改質剤の露出量(%)は、上記織物の表面を光学顕微鏡で観察し、上記織物の表面の面積に対する上記粒状の摩耗改質剤が占める面積の割合を算出したものである。
【0071】
ベルト表面における粒状の摩耗改質剤の露出量の調整は、バインダーに含まれる粒状の摩耗改質剤の濃度、織物を処理する際のバインダーの粘度を変更すること等で行うことができる。また、バインダーで処理した後、ベルト表面を構成する上記織物の表面を研磨することで調整することもできる。
【0072】
(第2実施形態)
本実施形態に係る歯付ベルトは、補強布の構成が第1実施形態の歯付ベルトとは異なる。
本実施形態の歯付ベルトが備える補強布は、ポリアミドフィルム(ナイロンフィルム)である。
ポリアミドフィルムからなる補強布も、摩擦係数が低いため、摩擦エネルギーが小さく、ベルト歯を摩耗させにくい。
また、ポリアミドフィルムは、融点が高いので、プーリとの接触部の温度が上がっても、ポリアミドフィルムが溶融することによる急激な摩耗を生じにくい。
【0073】
上記ポリアミドフィルムを構成するポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212、ナイロン6T等が挙げられる。
【0074】
上記ポリアミドフィルムは、ポリアミドのみで構成されていてもよいが、他の成分を含んでいてもよい。
特に、他の成分として、粒状の摩耗改質剤を含有していることが好ましい。上記粒状の摩耗改質剤を含有させることにより、上記補強布の摩擦係数をより低くすることができる。
上記粒状の摩耗改質剤の材質の具体例は、第1実施形態の説明で例示した通りである。上記粒状の摩耗改質剤は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0075】
上記ポリアミドフィルムは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子のうちの少なくとも一方を含有していることが好ましい。これらの粒子は、ポリアミドフィルムの摩擦係数を低くするのに特に好適である。
これらの粒子を含有させ、上記補強布の摩擦係数(ベルト歯の表面の摩擦係数)を低減することで、上述した効果を享受できる。
【0076】
上記補強布としてのポリアミドフィルムがUHMWPE粒子を含有する場合、この粒子の好適例(重量平均分子量及び平均粒子径)としては、第1実施形態の歯付ベルトにおいて、バインダーに含有されうるUHMWPE粒子と同様のものが挙げられる。
【0077】
上記補強布としてのポリアミドフィルムがPTFE粒子を含有する場合、この粒子の好適例(平均粒子径)としては、第1実施形態の歯付ベルトにおいて、バインダーに含有されうるPTFE粒子と同様のものが挙げられる。
【0078】
上記ポリアミドフィルムが粒状の摩耗改質剤を含有する場合、上記粒状の摩耗改質剤は上記ポリアミドフィルム全体に分散しているか、又はポリアミドフィルムの表面に粒状の摩耗改質剤の層が形成されていることが好ましい。後者の場合、当該粒状の摩耗改質剤の層は、例えば、粒状の摩耗改質剤を含む分散液をスプレー塗布し、その後分散媒を除去することで形成すればよい。また、金型表面に予め粒状の摩耗改質剤を塗布しておき、ベルト成型時に転写することで上記粒状の摩耗改質剤の層を形成してもよい。
【0079】
更に、上記ポリアミドフィルムが含有する上記粒状の摩耗改質剤の量は、ベルト表面を構成する上記ポリアミドフィルムの表面に、上記粒状の摩耗改質剤が合計1~15%露出する量であることが好ましい。
ベルト表面における露出量が1%未満では、ベルト歯の表面の摩擦係数を低くする効果が乏しい。一方、上記露出量が15%を超えると、上記粒状の摩耗改質剤が上記ポリアミドフィルム全体に分散している場合に、歯部被覆材と歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物との接着が両者の間に介在する粒状の摩耗改質剤によって阻害されることがある。
【0080】
ベルト表面における粒状の摩耗改質剤の露出量の算出方法は、補強布が織物からなる場合と同様である。
【0081】
上記ポリアミドフィルムの表面における粒状の摩耗改質剤の露出量の調整は、粒状の摩耗改質剤の濃度や分散状態を変更すること等で行うことができる。また、上記樹脂フィルムの表面を研磨することで調整することもできる。
【0082】
上記ポリアミドフィルムは、粒状の摩耗改質剤以外の他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。
【0083】
次に、本実施形態に係る歯付ベルトの製造方法の一例について説明する。第1実施形態の歯付ベルト及び第2実施形態の歯付ベルトは、使用する補強布が異なる以外は、同様の方法で製造できる。
【0084】
ここでは、製造方法の一例について
図4~
図7を参照しながら説明する。
図4は、歯付ベルトの製造方法で使用するベルト成形型の部分断面図である。
図5~
図7は、製造方法の製造工程を説明する図である。
製造方法は、材料準備工程、積層工程、成形工程、及び仕上げ工程を有する。
【0085】
<材料準備工程>
≪エラストマーシート≫
背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとを用意する。各エラストマーシートは、例えば、エラストマー成分であるTPAE又はTPCと、必要な添加剤とを含む熱可塑性エラストマー組成物を調製し、これを押出成形等でシート状に成形することで得られる。
また、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとは、共押出で成形してもよい。この場合、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとの積層体が得られる。
本工程で成形したエラストマーシートは、一旦、巻取ってもよいし、そのまま次工程に供給してもよい。
【0086】
≪補強布≫
ベルト歯の形状に対応した歯形を有する補強布(歯部被覆材)を準備する。
(1)補強布14が、バインダーで処理された織物の場合
まず、織物にバインダー処理を施し、バインダーを織物の内部に充填させるとともに、ベルト表面を構成する織物の表面もバインダーで被覆する。
次に、バインダーで処理された織物を、ベルトの歯形と同形状の凹部を有し、加熱された型に沿わせ、当該型と反対側から軟らかい弾性体を押付けることで、織物を歯形が付いた形状に成形する。
その後、歯形の付いた織物は筒状に成形してもよい。
【0087】
(2)補強布14が、ポリアミドフィルムの場合
ポリアミドフィルムを、ベルトの歯形と同形状の凹部を有し、加熱された型に沿わせ、当該型と反対側から軟らかい弾性体を押付けることで、ポリアミドフィルムを歯形が付いた形状に成形する。
または、押出成形でポリアミドフィルムを押出した後、ベルトの歯形と同形状の歯形を有する2つのロールに通すことで、ポリアミドフィルムに歯形状を形成しながら冷却を行うことで、歯形が付いたポリアミドフィルムを作製する。
または、ポリアミドフィルムを、加熱した歯形を有する2つのロールに通すことで歯形が付いたポリアミドフィルムを作製する。
その後、歯形の付いたポリアミドフィルムは筒状に成形してもよい。
【0088】
≪心線≫
カーボンフィラメントに所定の撚りや、接着処理等を加えて心線13を用意する。ここでは、S撚りの心線とZ撚りの心線とを一対の心線として用意することが好ましい。
【0089】
<積層工程>
図4は、ベルト成形型30の一部を示す部分断面図である。
ベルト成形型30は、円筒状であって、各々、軸方向に延びるように形成された複数の歯部形成溝31が周方向に間隔をおいて配設された外周面を有する。
【0090】
図5に示すように、ベルト成形型30の外周面上に歯形を付けた筒状の補強布14を被せ、その上から一対の心線13を螺旋状に巻き付ける。
そして、その上に歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’とをこの順に巻き付ける。巻き付けられた各シートの層数は、作製するベルトの寸法に応じて1層でもよいし、2層以上でもよい。
更に、必要に応じて離型紙又は離型フィルム(図示せず)を巻き付ける。
これにより、ベルト成形型30上に積層体S’を成形する。
【0091】
<成形工程>
ゴムスリーブ32を内面に持ち、ゴムスリーブ32と本体との間に密閉した空間をもつジャケットを、積層体S’に被せる。これにより、
図6に示すように、ベルト成形型30上の積層体S’にゴムスリーブ32が被せられる。
積層体S’を巻いた成形型30の内部とジャケットの空間に高圧蒸気を入れて加熱・圧縮する。これにより、熱可塑性エラストマーシート11a’、11b’を構成する熱可塑性エラストマーを心線間の隙間を通過させて歯部形成溝31にして流し込み、
図7に示すように、ベルト歯12を形成する。
このとき、高圧蒸気の温度は、熱可塑性エラストマーが流動する温度以上の温度とする。なお、熱可塑性エラストマーシートのエラストマー成分が、TPAEの場合には、高圧蒸気の温度を170℃以上にする。
【0092】
ベルト歯12を形成した後は、ジャケットや成形型30を水などで冷却して、エラストマーの温度を100℃以下に下げた後、ジャケットから成形型30と成形体Sを取出す。さらに、成形体Sの温度が40℃以上の場合は、さらに冷却し、成形体Sの温度が40℃より下がったら、成形体Sを成形型30から抜き取る。
【0093】
<仕上げ工程>
取出した成形体を規定の幅に切って分離することで、歯付ベルトとなる。
このような工程を経ることにより、歯付ベルト10を製造することができる。
【0094】
<その他>
なお、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’との硬さが異なる場合には、ベルト成形型30の外周面上に、補強布14、心線13、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’の積層を行った後、上述した高圧蒸気による加熱・圧縮を行ってベルト歯を形成し、一旦冷却した後、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’を巻き付けて、再度、高圧蒸気による加熱・圧縮を行い、その後、再度冷却し、最後に仕上げ工程を行って、歯付ベルトを製造すればよい。
【実施例0095】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<実施例及び比較例>
ここでは、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを作製し、その性能を評価した。
各歯付ベルトは、既に説明した上述の製造方法を用いて作製した。
ベルト本体(背ゴム部及び歯ゴム部)を形成するための熱可塑性エラストマー組成物、心線、及び補強布は下記の通り準備した。
【0097】
(熱可塑性エラストマー組成物)
下記の熱可塑性エラストマー組成物を用意した。いずれの熱可塑性エラストマー組成物も市販品である。
【0098】
TPAE1:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物
アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 4033SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
【0099】
TPAE2:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物
アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 5533SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは54である。
PEBAXは、ポリオールをソフトセグメントとする。
【0100】
TPC:ポリエステル系熱可塑性エラストマー
東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標) 5557を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは53である。
ハイトレルは、ポリオールをソフトセグメントとする。
【0101】
TPO:ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー
三菱ケミカル社製のサーモラン(登録商標) QT85KBを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは31である。
【0102】
TPS:ポリスチレン系熱可塑性エラストマー
三菱ケミカル社製のラバロン(登録商標) QE548AEを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
【0103】
TPU:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー
日本ミラクトラン社製のミラクトラン(登録商標) E490を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは43である。
【0104】
(心線)
カーボン心線(帝人テナックス社製 、フィラメント径7μm、フィラメント本数12000本)を使用した、S撚り糸とZ撚り糸とを準備した。この心線は、心線径が0.95mmの片撚り糸であり、接着剤処理が施されている。
【0105】
(補強布)
歯部被覆材として、織物からなる補強布A0~A11、及び樹脂フィルムからなる補強布B0~B9を用意した。詳細は下記の通りである。
【0106】
補強布A0:バインダー処理していない織物
経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸で、組織が2/2綾織りの織物。
【0107】
補強布A1:バインダー処理された織物
経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸で、組織が2/2綾織りの織物を用意した。
これとは別に、RFL水溶液(ラテックスは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス)を用意した。このRFL水溶液は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の含有量と、ラテックス由来固形分の含有量とを合わせた固形分濃度を10質量%とした。また、上記RFL水溶液は、レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)を1/1.2とし、レゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)のラテックス由来固形分(L)に対する質量比(RF/L)を1/15とした。
上記織物を、上記RFL水溶液に浸漬し、引き上げた後、加熱処理を施した。ここで、浸漬時間は20秒間、加熱温度は150度、加熱時間は5分間とした。
【0108】
補強布A2~A5:バインダー処理された織物
RFL水溶液として、所定量のUHMWPE粒子(三井化学社製、ミペロンXM-220)を含有したRFL水溶液を使用した以外は、補強布A1の作製と同様にして、補強布A2~A5を作製した。ここで、各補強布A2~A5を作製したRFL水溶液におけるUHMWPE粒子の濃度は以下の通りである。
補強布A2:5質量%
補強布A3:15質量%
補強布A4:60質量%
補強布A5:80質量%
【0109】
補強布A6~A9:バインダー処理された織物
RFL水溶液として、所定量のPTFE粒子(AGC社製、FluonPTFE L150J)を含有したRFL水溶液を使用した以外は、補強布A1の作製と同様にして、補強布A6~A9を作製した。ここで、各補強布A6~A9を作製したRFL水溶液におけるPTFE粒子の濃度は以下の通りである。
補強布A6:5質量%
補強布A7:15質量%
補強布A8:60質量%
補強布A9:80質量%
【0110】
補強布A10:バインダー処理された織物
織物として、経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸で、組織が2/2平織りの織物を使用した以外は、補強布A1の作製と同様にして、補強布A10を作製した。
【0111】
補強布A11:バインダー処理された織物
織物として、経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸で、組織が5枚朱子織の織物を使用した以外は、補強布A1の作製と同様にして、補強布A11を作製した。
【0112】
補強布B0:低密度ポリエチレンフィルム
LLDPE(Linear Low Density Polyethylene)製のフィルム(厚さ:0.75mm)を用意した。
【0113】
補強布B1:ポリアミドフィルム
ポリアミドフィルムとして、旭化成社製、レオナ1500からなる厚さ0.65mmのフィルムを用意した。
【0114】
補強布B2~B5:ポリアミドフィルム
ポリアミドフィルムとして、所定量のUHMWPE粒子(ミペロンXM-220)をレオナ1500に配合したポリアミド樹脂組成物を、押出成形でシート状に成形して厚さ0.65mmのフィルムを作製した。ここで、各補強布B2~B5の作製に使用したポリアミド樹脂組成物におけるUHMWPE粒子の濃度(質量%)は以下の通りである。なお、補強布B4、及び補強布B5の作製では、押出成形後、得られたシートの表面を研磨してUHMWPE粒子の露出量を調整した。
補強布B2:5質量%
補強布B3:15質量%
補強布B4:20質量%
補強布B5:30質量%
【0115】
補強布B6~B9:ポリアミドフィルム
ポリアミドフィルムとして、所定量のPTFE粒子(FluonPTFE L150J)をレオナ 1500に配合したポリアミド樹脂組成物を、押出成形でシート状に成形して厚さ0.65mmのフィルムを作製した。ここで、各補強布B6~B9の作製に使用したポリアミド樹脂組成物におけるPTFE粒子の濃度(質量%)は以下の通りである。なお、補強布B8、及び補強布B9の作製では、押出成形後、得られたシートの表面を研磨してPTFE粒子の露出量を調整した。
補強布B6:5質量%
補強布B7:15質量%
補強布B8:20質量%
補強布B9:30質量%
【0116】
(実施例1-1)
背ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として上記TPAE1を使用し、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として上記TPAE2を使用し、心線として上記カーボン心線を使用し、補強布として上記補強布A1を使用して、上述した製造方法(
図4~
図7参照)で、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを製造した。ベルト幅は8mm、ベルト長は1200mmとした。
ここで、補強布A1は緯糸の向きがベルトの長手方向に沿うよう使用した。
【0117】
(実施例1-2)
背ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として、上記TPCを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0118】
(実施例1-3)
補強布として上記補強布A10を使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0119】
(実施例1-4)
補強布として上記補強布A11を使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0120】
(実施例2)
補強布として上記補強布B1を使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0121】
(比較例1)
補強布として上記補強布A0を使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0122】
(比較例2)
補強布として上記補強布B0を使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0123】
(比較例3)
補強布を使用しなかった以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0124】
(比較例4)
背ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として、上記TPOを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0125】
(比較例5)
背ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として、上記TPSを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0126】
(比較例6)
背ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物、及び歯ゴム部用の熱可塑性エラストマー組成物として、上記TPUを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0127】
(実施例3-1~3-4)
補強布として上記補強布A2~A5のそれぞれを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
本実施例で作製した歯付ベルトにおいて、ベルト表面(補強布の表面)におけるUHMWPE粒子の露出量は、上述した方法で測定した。結果を表2に示した。
【0128】
(実施例4-1~4-4)
補強布として上記補強布A6~A9のそれぞれを使用した以外は、実施例1-1と同様にして歯付ベルトを製造した。
本実施例で作製した歯付ベルトにおいて、ベルト表面(補強布の表面)におけるPTFE粒子の露出量は、上述した方法で測定した。結果を表2に示した。
【0129】
(実施例5-1~5-4)
補強布として上記補強布B2~B5のそれぞれを使用した以外は、実施例2と同様にして歯付ベルトを製造した。
本実施例で作製した歯付ベルトにおいて、ベルト表面(補強布の表面)におけるUHMWPE粒子の露出量は、上述した方法で測定した。結果を表3に示した。
【0130】
(実施例6-1~6-4)
補強布として上記補強布B6~B9のそれぞれを使用した以外は、実施例2と同様にして歯付ベルトを製造した。
本実施例で作製した歯付ベルトにおいて、ベルト表面(補強布の表面)におけるPTFE粒子の露出量は、上述した方法で測定した。結果を表3に示した。
【0131】
(評価方法)
実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、耐久性を評価するための耐久試験1及び2を行った。結果は表に示した。
【0132】
<耐久試験1>
耐久試験1は、標準的な走行条件で耐久性を評価する試験である。実施例1-1~1-4、及び実施例2、並びに比較例1~6で製造した歯付ベルトについて行った。
図8は、耐久試験1で使用したベルト走行試験機80を示す。
ベルト走行試験機80は、歯数22歯、歯形8Mの駆動プーリ81と、その右側方に設けられた歯数33歯、歯形8Mの従動プーリ82とを備える。従動プーリ82は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に可動に設けられている。
【0133】
特定の実施例及び比較例で製造した歯付ベルト110について、ベルト走行試験機80の駆動プーリ81及び従動プーリ82間に巻き掛けると共に、従動プーリ82に対して右側方に608Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ82に34.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ81を4200min-1の回転数で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して背ゴムの背面におけるクラックの発生の有無を目視確認し、クラックの発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。なお、ベルト走行時間の最長を1000時間とした。
また、クラックの発生に至らなくても歯欠け又は歯飛びが発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0134】
<耐久試験2>
耐久試験2は、高負荷条件下での耐久性を評価する試験である。実施例1-1、2、3-1~3-4、4-1~4-4、5-1~5-4及び6-1~6-4で製造した歯付ベルトについて行った。
図9は、耐久試験2で使用したベルト走行試験機90を示す。
ベルト走行試験機90は、歯数24歯、歯形8Mの駆動プーリ91と、その右側方に設けられた歯数36歯、歯形8Mの従動プーリ92とを備える。従動プーリ92は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に可動に設けられている。
【0135】
特定の実施例で製造した歯付ベルト120について、ベルト走行試験機90の駆動プーリ91及び従動プーリ92間に巻き掛けると共に、従動プーリ92に対して右側方に980Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ92に39.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ81を3000min-1の回転数で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して歯欠けの有無を目視確認し、歯欠けの発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。
なお、この耐久試験2では、摩耗による歯欠けと、粘着による歯欠けとが観察された。前者はベルト歯の一部が摩滅して発生する歯欠けであり、後者は、UHMWPE粒子、又はPTFE粒子が熱によって溶融した状態でベルト歯の表面に粘着し、この粘着した粒子の塊に乗り上げて発生する歯欠けである。
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
表1~3の結果から明らかな通り、本発明の実施形態に係る歯付ベルトによれば、ベルト歯に摩耗や変形が生じにくい。また、高負荷伝動での使用にも適している。