IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バンドー化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-歯付ベルト 図1
  • 特開-歯付ベルト 図2
  • 特開-歯付ベルト 図3
  • 特開-歯付ベルト 図4
  • 特開-歯付ベルト 図5
  • 特開-歯付ベルト 図6
  • 特開-歯付ベルト 図7
  • 特開-歯付ベルト 図8
  • 特開-歯付ベルト 図9
  • 特開-歯付ベルト 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171350
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/28 20060101AFI20221104BHJP
   B32B 25/02 20060101ALI20221104BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
F16G1/28 E
F16G1/28 G
B32B25/02
B32B25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077941
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝良
(72)【発明者】
【氏名】関口 勇次
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37A
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK46
4F100AK46A
4F100AK46B
4F100AK48
4F100AK53
4F100AK53A
4F100AK54
4F100AK54A
4F100AK54B
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100AN00
4F100AN00A
4F100AN00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02
4F100CA02A
4F100CB00
4F100CB00A
4F100CB00B
4F100DG01
4F100DG01A
4F100EJ42
4F100GB51
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JK12
4F100JK12A
4F100JK12B
(57)【要約】
【課題】耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適した、歯付ベルト10の提供。
【解決手段】歯付ベルト10は、熱可塑性エラストマー組成物からなる背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを有するベルト本体11及び背ゴム部11aに埋設された心線13を備える。熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分はポリアミド系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性エラストマーである。背ゴム部11aの硬さは25~70である。歯ゴム部11bの硬さは、40~70であり、かつ背ゴム部11aの硬さ以上である。心線13は、接着剤からなる接着被覆層21で被覆されるヤーン16を備える。ヤーン16は多数のフィラメント18を含み、多数のフィラメント18はカーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、
前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、
前記ベルト本体の内周側に設けられた前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、
を備え、
前記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、
前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、
前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、
前記心線は、接着剤からなる接着被覆層で被覆されるヤーンを備え、
前記ヤーンは多数のフィラメントを含み、前記多数のフィラメントはカーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む、歯付ベルト。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)である請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記接着剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記硬化剤は、ラジカル開始剤である、請求項3に記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記接着剤は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項6】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)のソフトセグメントは、ポリエーテル構造である、請求項1から5のいずれかに記載の歯付ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯付ベルトとしては、ゴムベルトや注型ウレタンベルトが知られている。これらのベルトは、いずれも背ゴム部と、この背ゴム部にベルト長手方向に所定のピッチで一体に設けられた多数の歯ゴム部と、上記背ゴム部と歯ゴム部との間にベルト長手方向に延びるようにかつベルト幅方向に所定のピッチで埋設された心線とを備える。両者は、背ゴム部と歯ゴム部とを加硫ゴムで成形するか、注型ウレタンで成形するかの点で相違する。
【0003】
これらのベルトは、製造過程に加硫工程や後加硫工程が必要であるため、生産性が低い。また、これらのベルトは、加硫ゴムや注型ウレタンの性質上、ベルト成形後の形状付与等の後処理が難しく、更にはリサイクルも難しいという課題もある。
【0004】
このような課題を解消しえる歯付ベルトとして、背ゴム部及び歯ゴム部を熱可塑性エラストマーで形成した歯付ベルトも提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-27178号公報
【特許文献2】特開平10-2379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背ゴム部及び歯ゴム部の形成に熱可塑性エラストマーが用いられた歯付ベルトは、ベルトに掛る負荷が大きくなると、ベルト歯が変形しやすい、という課題があった。更に、ベルトをかけたプーリの回転速度が上がると、ベルトが発熱し、この場合もベルト歯が変形しやすい、という課題があった。
【0007】
カーボン繊維には、クリープによる変形が有機繊維に比べて生じにくい。そのため、カーボン繊維からなるヤーンを心線として採用することで、歯付ベルトは使用による張力の低下を抑制できる。この歯付ベルトには、長期に亘って使用できる見込みがある。
上述の特許文献2では、カーボン繊維からなるフィラメント(以下、カーボンフィラメント)を含むヤーンが心線として採用されている。
この特許文献2では、撚りが施される前に、ヤーンに含まれるフィラメントに対して、背ゴム部及び歯ゴム部と同じ熱可塑性エラストマーで接着処理が施されるが、ヤーンに対して接着処理は施されない。そのため、ヤーンがベルト本体から剥離し、長期に亘って高負荷伝動に適する状態を歯付ベルトが維持できない恐れがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高負荷伝動に適した、歯付ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の歯付ベルトは、平帯状の背ゴム部と、上記背ゴム部の内周側に配設されて各々が上記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、上記背ゴム部及び上記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、上記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、上記ベルト本体の内周側に設けられた上記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、を備え、上記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、上記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、上記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ上記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、上記心線は、接着剤からなる接着被覆層で被覆されるヤーンを備え、上記ヤーンは多数のフィラメントを含み、上記多数のフィラメントはカーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む。
【0010】
上記歯付ベルトでは、背ゴム部及び歯ゴム部が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)をエラストマー成分とする組成物で構成されている。そのため、製造過程において、加硫工程や後加硫工程が必要無く、この歯付ベルトは生産性に優れる。また、上記エラストマー成分は熱に強く、ベルトを高負荷や高回転速度で駆動させた際の発熱温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、ベルト駆動時に変形が生じにくく、歯ゴム部が変形することによって生じる歯飛び等の不具合が発生しにくい。この歯付ベルトは高負荷伝動に適する。
【0011】
上記歯付ベルトではさらに、背ゴム部及び歯ゴム部を構成する熱可塑エラストマー組成物が、それぞれ特定の硬さを有する。そのため、ベルトが柔らかすぎて動力を受けた際に変形して歯が欠けたり、ベルトが硬すぎてプーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。
上記歯付ベルトでは、心線を構成するヤーンはカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、歯付ベルトに高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、ベルトとプーリとの噛み合いがずれてベルトがプーリに乗り上げたり、ベルトに局所的な力が掛ってベルト歯が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメントのようなクリープ特性が無いため、歯付ベルトは非常に伸びにくく、この歯付ベルトには張力低下が発生しにくい。
ヤーンは、接着被覆層で被覆されるので、この接着被覆層を介して背ゴム部及び歯ゴム部(すなわち、ベルト本体)と強固に接着する。ベルト駆動時にヤーンとベルト本体との境界部分に歪が生じても、ヤーンがベルト本体から剥離することが防止される。
接着被覆層はヤーンに含まれるフィラメントを拘束するので、フィラメントの動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
この歯付ベルトでは、長期に亘って高負荷伝動に適する状態が維持される。
【0012】
(2)上記歯付ベルトにおいて、上記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)であることが好ましい。TPAEは、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない点、耐薬品性に優れる点で、歯付ベルトの歯ゴム部及び背ゴム部を構成する材料として適している。
【0013】
(3)上記歯付ベルトにおいて、上記接着剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上であることが好ましい。この場合、ヤーンが接着被覆層を介してベルト本体と強固に接着するので、ヤーンの、ベルト本体からの剥離が防止される。フィラメントの動きが抑制されるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0014】
(4)上記歯付ベルトにおいて、上記硬化剤はラジカル開始剤であることが好ましい。この場合、硬化剤が、ヤーンとベルト本体との接着性を高める。特に、熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がTPAEである場合、カーボンフィラメントとTPAEとの反応が促され、ヤーンとベルト本体との接着強度が飛躍的に向上する。この歯付ベルトでは、ヤーンの、ベルト本体からの剥離が防止される。フィラメントの動きが抑制されるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0015】
(5)上記歯付ベルトにおいて、上記接着剤は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上であることもできる。この場合においても、ヤーンが接着被覆層を介してベルト本体と強固に接着するので、ヤーンの、ベルト本体からの剥離が防止される。フィラメントの動きが抑制されるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含む溶液を接着剤として用いた場合に比べて、軟質な接着被覆層が構成されるので、心線は曲がりやすい。そのため、大きな歪が心線に生じる、プーリ径が小さいプーリに、この歯付ベルトを使用しても、心線に切断は生じにくい。
【0016】
(6)上記歯付ベルトにおいて、前記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)のソフトセグメントは、ポリエーテル構造であることが好ましい。この場合、このTPAEは、常温でゴム弾性を呈しやすい。そのため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。
この歯付ベルトでは、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高負荷伝動に適した、歯付ベルトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る歯付ベルトの一部を模式的に示す斜視図である。
図2図1における矢視Xの正面図である。
図3図1のA-A線端面図である。
図4】ヤーンの一例を示す断面図である。
図5】歯付ベルトの製造に使用するベルト成形型の部分断面図である。
図6】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図7】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図8】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図9】第1の走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
図10】第2の走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。図2は、図1における矢視Xの正面図である。図3は、図1のA-A線端面図である。
【0020】
<歯付ベルト>
歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
図1には、歯付ベルト10の一部を示す。
歯付ベルト10は、図1に示すように、ベルト本体11、心線13及び歯部被覆材としての補強布14を備える。
【0021】
歯付ベルト10の寸法は特に限定されず、設計に応じて選択することができる。
歯付ベルト10の寸法は、例えば、ベルト周長(ベルトピッチラインBLにおけるベルト長さ)を54mm以上6600mm以下、ベルト幅を3mm以上340mm以下、ベルト最大厚さを1.3mm以上13.2mm以下とすることができる。
【0022】
歯付ベルト10の内周側には、所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯12が配設されている。ベルト歯12の歯形は、S歯形である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12の歯形はS歯形に限定されるわけではなく、S歯形以外の円弧歯形であってもよいし、台形歯形であってもよいし、その他の歯形であってもよい。
【0023】
歯付ベルト10において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して平行に延びる直歯である。本発明の実施形態において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるハス歯であってもよい。
【0024】
歯付ベルト10において、ベルト歯12の歯ピッチP(図3中、P参照)は、例えば2mm以上20mm以下である。
ベルト歯12の歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯12間の歯底部15からベルト歯12の先端までの寸法(図3中、H参照)で規定され、例えば0.76mm以上8.4mm以下である。
また、歯付ベルト10は、歯数が、例えば27以上560以下、歯幅(ベルト長さ方向の寸法)が、例えば1.3mm以上15.0mm以下、PLDが、例えば0.254mm以上2.159mm以下である。
これらのベルト歯の寸法は例示であり、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0025】
<ベルト本体>
ベルト本体11は、エンドレスの平帯状の背ゴム部11aと、複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、ベルト本体11の内周側に設けられている。詳細には、複数の歯ゴム部11bは、背ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に 間隔をおいて一体に設けられている。
ベルト本体11では、背ゴム部11a及び歯ゴム部11bのそれぞれが熱可塑性エラストマー組成物で構成されている。背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物と、歯ゴム部11bを構成する熱可塑エラストマー組成物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
本発明において、熱可塑性エラストマー組成物とは、熱可塑性のエラストマー成分を必須成分とし、上記エラストマー成分以外の各種添加剤を必要に応じて含有可能な任意成分とする組成物をいう。
上記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分のみを含有していてよい。
【0027】
ベルト本体11を構成する熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)である。
TPAE及びTPCは、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系などの他の熱可塑性エラストマーに比べて、熱に強く、高負荷駆動時や高速回転駆動時のベルト温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、高負荷駆動時や高速回転駆動時にベルトの発熱による歯ゴム部11bの変形が発生しにくい。
【0028】
上記エラストマー成分としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)が好ましい。
TPAEは、TPCに比べて、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない。そのため、駆動時のベルト温度が相対的に低く、高負荷や高速での動力伝達に適している。
また、TPAEは、耐薬品性にも優れる。そのため、薬品との接触が想定される用途、例えば、油圧装置を備えた産業用機械、二輪自動車の駆動部、乗用車の電動シートで使用する歯付ベルト用として好適である。
【0029】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)は、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル構造を採用し、ソフトセグメントとしてポリエーテル、ポリエステル、又はポリカーボネートを採用したブロック共重合体である。
【0030】
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)は、ポリアミド(ナイロン)をハードセグメントとし、ポリオールをソフトセグメントとするブロック共重合体である。
上記ポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。これらのなかでは、アミド結合の含有量が少なく、寸法変化を起こしにくい点から、ナイロン11及びナイロン12が好ましい。
【0031】
上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオ―ル及びポリエーテルポリオ―ルの、一方又は両方が採用できる。
ポリエステルポリオ―ルとポリエーテルポリオ―ルとを比較すると、可塑剤を配合しなくても常温でゴム弾性を呈しやすく、ベルトを屈曲させて際にクラックを発生しにくい点から、ポリエーテルポリオ―ルの方が好ましい。この場合、ソフトセグメントはポリエーテル構造となる。
また、TPAEのポリオール成分として、ポリエーテルポリオ―ルを採用した場合には、可塑剤を配合しなくてもよく、可塑剤を含有しない熱可塑性エラストマー組成物で歯ゴム部11bや背ゴム部11aが構成された歯付ベルト10は、可塑剤が揮発し、設備や製品に付着することがない。よって、このような歯付ベルト10は、クリーンルームで好適に使用することができる。
【0032】
上記ポリエステルポリオ―ルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
上記ポリエーテルポリオ―ルとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0033】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、それぞれ市販品を使用することもできる。
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標)シリーズが例示できる。
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、アルケマ社製のPEBAX(登録商標)シリーズ、ダイセル・エボニック社製のベスタミド(登録商標)シリーズ及びダイアミド(登録商標)シリーズ、並びに、EMS社製のグリルフレックス(登録商標)シリーズが例示できる。
【0034】
背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物には、TPAEやTPCのエラストマー成分以外に、必要に応じて、短繊維、ウィスカー、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤、固体潤滑剤、潤滑油、及びグリース等の添加剤が含まれていてもよい。
【0035】
一方、これらの添加剤を含有する場合、これらの添加剤は、背ゴム部11aや歯ゴム部11bから離脱して使用環境を汚染することがある。そのため、歯付ベルト10が、例えばクリーンルームで使用される歯付ベルトの場合は、上記熱可塑性エラストマー組成物は、上記添加剤を含有せず、エラストマー成分のみで構成されていることが好ましい。
【0036】
ベルト本体11において、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、25~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、40~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上である。
【0037】
上記熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、JIS K6253-3の規定に準拠してタイプDデュロメータを用いて23℃で測定する。この硬さはショアD硬さともいう。
【0038】
以下、本明細書においては、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「背ゴム部硬さ」ともいい、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「歯ゴム部硬さ」ともいう。
【0039】
このような構成を有する歯付ベルトでは、背ゴム部硬さが上記範囲にあり、かつ歯ゴム部硬さ以下であるため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。また、歯ゴム部硬さが背ゴム部硬さ以上で、かつ上記範囲にあるため、使用時にベルト歯の摩耗しにくく、ベルト歯の変形が発生しにくい。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さより小さくてもよい。
【0040】
上記歯ゴム部硬さと背ゴム部硬さとの差は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。背面クラックの発生を抑制するのに、より好適である。
【0041】
歯付ベルト10においては、背ゴム部硬さが25~50であり、歯ゴム部硬さが45~65であることも好ましい。この場合、背面クラックの発生抑制と、ベルト歯の変形抑制を両立するのに好適である。
【0042】
上記背ゴム部硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分の分子量、ハードセグメントとソフトセグメントとの比率、熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分以外の添加剤の種類や量などを調整することが制御することができる。
上記歯ゴム部硬さも同様に、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分やエラスマー成分以外の添加剤によって制御することができる。
【0043】
<補強布>
補強布14は、ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた内周側の表面を被覆するように貼設されている。従って、各ベルト歯12の歯ゴム部11bは補強布14で被覆されている。
これにより、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物とプーリとが直接接触することが防止される。そのため、歯ゴム部11bの摩耗を抑制することができる。
補強布14の厚さは、例えば0.1mm以上2.5mm以下である。
【0044】
補強布14は、織布、編物、不織布などの繊維部材、樹脂フィルム等からなる。
上記繊維部材を形成するための糸としては、例えば、ナイロン繊維(ポリアミド繊維)、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、綿等が挙げられる。
上記樹脂フィルムの材質としては、例えば、ナイロン(ポリアミド)、ポリエステル等が挙げられる。
【0045】
これらのなかでは、ナイロン繊維を主成分として形成された繊維部材や、ナイロンフィルム(以下、両者を合わせて、ナイロン製補強布ともいう)が好ましい。
ここで、ナイロン繊維を主成分とするとは、全繊維中に含まれるナイロン繊維の量が50質量%以上であることを意味する。
上記ナイロン製補強布は、摩擦係数が低いため、摩擦エネルギーが小さく、摩耗しにくい。
また、上記ナイロン製補強布は、融点が高いので、プーリとの接触部の温度が上がっても、ナイロン製補強布が溶融することによる急激な摩耗を生じにくい。
補強布14は、例えば、緯糸にウーリー加工等が施された織布のように伸縮性を有する物でもよい。
【0046】
補強布14には、上記ベルト本体11との接着力を高めるための接着処理として、例えば、RFL水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理が施される。
補強布14は、上記接着処理の前に、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する下地処理が施されていてもよい。
【0047】
補強布14は、その表面や内部に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子、超高分子量ポリエチレン粒子(例えば、平均分子量が100万以上)等の、粒状の摩耗改質剤を含有していてもよい。
補強布14が摩耗改質剤を含有すると、歯ゴム部11bの摩耗による変形がより抑制されることになる。
【0048】
上記摩耗改質剤は、上述したRFL水溶液に予め分散させておき、このRFL水溶液を用いた処理を行うことによって、補強布14に含有させればよい。
【0049】
また、補強布14が樹脂フィルムからなる場合は、予め樹脂フィルム中に上記摩耗改質剤を分散させておくことで、補強布14に上記摩耗改質剤を含有させてもよい。
【0050】
<心線>
心線13は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の部分に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設されている。
心線13の外径は、例えば0.45mm以上3.0mm以下である。
心線13のピッチ(ベルト幅方向の配設ピッチ)は、例えば0.5mm以上4.0mm以下である。
この歯付ベルト10の心線13はヤーン16を備える。
【0051】
図4は、ヤーン16の一例を示す断面図である。ヤーン16は多数のフィラメント18を含む。この歯付ベルト10では、ヤーン18に含まれるフィラメント18の全て又は一部がカーボン繊維からなるカーボンフィラメントである。ヤーン18を構成する多数のフィラメント18は、カーボンフィラメントを含む。
カーボンフィラメントのフィラメント径は、例えば5μm以上7μm以下である。ヤーン16に含まれるカーボンフィラメントの本数は、例えば3000本以上である。上記フィラメントの本数の上限は特に限定されず、例えば96000本である。
【0052】
カーボンフィラメントとしては、例えば、PAN系のカーボンフィラメントと、ピッチ系のカーボンフィラメントとが挙げられる。柔軟である点から、カーボンフィラメントとしては、PAN系のカーボンフィラメントが好ましい。
【0053】
上述したように、心線13を構成するヤーン16はカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、歯付ベルト10に高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、歯付ベルト10とプーリとの噛み合いがずれて歯付ベルト10がプーリに乗り上げたり、歯付ベルト10に局所的な力が掛ってベルト歯12が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメント18のようなクリープ特性が無いため、歯付ベルト10は非常に伸びにくく、この歯付ベルト10には張力低下が発生しにくい。
【0054】
図4に示されたヤーン16は、5本のストランド17を含み、それぞれのストランド17は多数のフィラメント18を含む。このヤーン16では、ストランド17に含まれるフィラメント18の全て又は一部がカーボンフィラメントである。
このヤーン16の作製では、多数のフィラメント18を撚り合わせてストランド17が形成される。5本のストランド17を撚り合わせて、ヤーン16が形成される。このヤーン16は、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有する。
図示されないが、ヤーン16が、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有するように構成されてもよい。このヤーン16が、多数のフィラメント18を片撚りして得られる、片撚りヤーンであってもよい。
【0055】
この歯付ベルト10では、心線13は、2以上の撚り階層を有するヤーン16を備えることができる。この場合、ヤーン16が2以上の撚り階層を有するので、同じ撚りの強さであっても、上述の、単一の撚り階層を有する片撚りヤーンに比べてフィラメント18に生じる歪は小さい。ヤーン16表面の圧縮歪みが小さく抑えられるので、ヤーン16を屈曲させてもフィラメント18は折れにくい。カーボンフィラメントが切断しにくいので、この歯付ベルト10では、屈曲疲労による心線13の切断が防止される。この観点から、心線13は、2以上の撚り階層を有するヤーン16を備えることが好ましい。
【0056】
ヤーン16が2つの撚り階層を有する場合、多数のフィラメント18を一方向(S撚りの方向又はZ撚りの方向)に下撚りして得られるストランド17を複数本集めて、これらを下撚りの方向と逆方向に上撚りする、いわゆる諸撚りで、ヤーン16が撚られていてもよく、多数のフィラメント18を一方向(S撚りの方向又はZ撚りの方向)に下撚りして得られるストランド17を複数本集めて、これらを下撚りの方向と同じ方向に上撚りする、いわゆるラング撚りで、ヤーン16が撚られていてもよい。
【0057】
ヤーン16が2以上の撚り階層を有する場合、ヤーン16においては、各撚り階層における撚り係数の合計(例えば、図4に示されたヤーン16aでは、下撚りの撚り係数と上撚りの撚り係数との合計)は、30より大きく120以下であることが好ましい。ヤーン16が片撚りヤーンである場合は、その撚り係数が30以上120以下であることが好ましい。
【0058】
撚り係数の合計が30より大きく設定されることにより、ヤーン16の強度が高められる。このヤーン16を含む心線13は適度な強度を有し、高負荷伝動に効果的に貢献できる。
撚り係数の合計が120以下に設定されることにより、撚りによってフィラメント18に生じる歪が低減される。撚りが強すぎることによるカーボンフィラメントの切断が防止される。そのため、屈曲疲労による心線13の切断が生じにくい。
【0059】
2つ以上の撚り階層を有するヤーン16においては、上撚りの撚り係数は100以下であることが好ましい。この場合、撚りが強すぎることによるカーボンフィラメントの切断が防止される。そのため、屈曲疲労による心線13の切断が生じにくい。この観点から、上撚りの撚り係数は60以下であることがより好ましい。心線13が適度な強度を有し、高負荷伝動に効果的に貢献できる観点から、上撚りの撚り係数は30以上であることが好ましい。
【0060】
図4に示されるように、ヤーン16が2つの撚り階層を有する場合は、下撚りの撚り係数は上撚りの撚り係数と同じであってもよく、下撚りの撚り係数が上撚りの撚り係数と異なっていてもよい。
【0061】
ヤーン16が3つの撚り階層を有する場合は、下撚りの撚り係数及び中撚りの撚り係数の合計(以下、下撚り及び中撚りの合計撚り係数)が上撚りの撚り係数と同じであってもよく、下撚り及び中撚りの合計撚り係数が上撚りの撚り係数と異なっていてもよい。
この3つの撚り階層を有するヤーン16においては、撚りによりフィラメント18に生じる歪を効果的に低減できる観点から、下撚り及び中撚りの合計撚り係数に対する下撚りの撚り係数の比率は、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0062】
上記撚り係数は、撚り係数をKとし、単位長さあたりの撚り数をT(回/m)とし、撚りの対象である繊維束(ヤーン16又はストランド17)の繊度をD(dtex)としたとき、次の式(1)で表される。
K=T×√D/100 (1)
例えば、ヤーン16が2つの撚り階層を有する場合、下撚りの撚り係数Kの算出には、下撚りによって得られるストランド17の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。上撚りの撚り係数Kの算出には、上撚りによって得られるヤーン16の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。
【0063】
この歯付ベルト10では、図2に示されるように、心線13に含まれるヤーン16の表面は、接着剤からなる接着被覆層21で被覆される。この心線13は、ヤーン16と、このヤーン16を被覆する接着被覆層21とを備える。
【0064】
ヤーン16は接着被覆層21で被覆される。このヤーン16は、接着被覆層21を介して背ゴム部11a及び歯ゴム部11b(すなわち、ベルト本体10)と強固に接着する。そのため、ベルト駆動時にヤーン16とベルト本体10との境界部分に歪が生じても、ヤーン16がベルト本体10から剥離することが防止される。
接着被覆層21がヤーン16に含まれるフィラメント18を拘束するので、フィラメント18の動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
この歯付ベルト10では、長期に亘って高負荷伝動に適する状態が維持される。
【0065】
この歯付ベルト10では、接着被覆層21のための接着剤として、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョンを用いることができる。
【0066】
この歯付ベルト10では、接着被覆層21のための接着剤は、主剤として、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、この主剤の固形分比率は80質量%以上であることが好ましい。これにより、ヤーン16が接着被覆層21を介してベルト本体10と強固に接着するので、ヤーン16の、ベルト本体10からの剥離が防止される。フィラメント18の動きが抑えられるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。なお、主剤の固形分比率は、接着剤を乾燥させて得られる固形分全質量に対する主剤の質量の比率で表される。後で説明する収束剤における主剤の固形分比率も同様である。
【0067】
エポキシ基含有化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0068】
硬化剤としては、例えば、ラジカル開始剤、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤等が挙げられる。
ラジカル開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(V-40)等のアゾニトリル化合物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061)等のアゾアミジン化合物、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(VAm-110)等のアゾアミド化合物、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ基を含むアゾ重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキシネオへプタノエート、t-ヘキシルパーオキシネオへプタノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等の有機過酸化物;有機過酸化物に亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤等が挙げられる。
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、ジアミン化合物、オキサゾール環を有する化合物等が挙げられる。
【0069】
この歯付ベルト10では、接着剤の硬化剤はラジカル開始剤であることが好ましい。この場合、硬化剤が、ヤーン16(詳細には、フィラメント18)とベルト本体11との接着性を高める。特に、熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分がTPAEである場合、カーボンフィラメントとTPAEとの反応が促され、ヤーン16とベルト本体10との接着強度が飛躍的に向上する。この歯付ベルト10では、ヤーン16の、ベルト本体11からの剥離が防止される。フィラメント18の動きが抑制されるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
【0070】
接着被覆層21を介してベルト本体11とヤーン16とが強固に接着される観点から、硬化剤は、ラジカル開始剤の中でもアゾ重合開始剤であることがより好ましい。この場合、接着性とフィラメント18の拘束とに接着被覆層21が効果的に貢献できる観点から、硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0071】
この歯付ベルト10は、上述の接着剤として、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含むエマルジョンに換えて、例えば、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上である水溶液を用いることができる。
この水溶液は、RF液とも称され、主剤の固形分比率は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の固形分比率で表される。
RF液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルムアルデヒド(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。
接着剤として、RF液を用いても、ヤーン16は接着被覆層21を介してベルト本体10と強固に接着するので、ヤーン16の、ベルト本体10からの剥離が防止される。フィラメント18の動きが抑制されるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。さらにこの場合、上述の、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含む溶液を接着剤として用いた場合に比べて、軟質な接着被覆層21が構成される。心線13が曲がりやすいので、大きな歪が心線13に生じる、プーリ径が小さいプーリに、この歯付ベルト10を使用しても、心線13に切断は生じにくい。
【0072】
この歯付ベルト10では、接着剤としてのRF液は、機能を損なわない範囲で、ラテックス等の薬品を含むことができる。
このラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(VP・SBR)、スチレン・ブタジエンゴムラテックス(SBR)、天然ゴムラテックス(NR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3-ジクロロブタジエンゴムラテックス(2,3-DCB)、水素化ニトリルゴムラテックス(H-NBR)、カルボキシル化水素化ニトリルゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス(BR)、ニトリルゴムラテックス(NBR)等が挙げられる。上記接着剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。
【0073】
接着剤が、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物と、上述のラテックスとを含む水溶液である場合、この収束剤はRFL水溶液とも称される。この場合、RFL水溶液におけるレゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の含有量と、ラテックス由来固形分の含有量とを合わせた固形分比率は、例えば10質量%以上30質量%以下である。
RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルムアルデヒド(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)のラテックス由来固形分(L)に対する質量比(RF/L)は、例えば1/10~1/0であり、好ましくは1/6前後である。
【0074】
この歯付ベルト10では、図4に示されるように、ストランド17に含まれる各フィラメント18は収束剤からなる収束被覆層20で被覆される。ストランド17は多数のフィラメント18を撚り合わせてなる。この歯付ベルト10では、フィラメント18間に収束被覆層20が存在する。このストランド17を含むヤーン16は、多数のフィラメント18と、各フィラメント18を被覆する収束被覆層20とを備える。
【0075】
この歯付ベルト10では、フィラメント18間に収束被覆層20が存在するので、フィラメント18同士が直接擦れ合うことが防止される。収束被覆層20及び接着被覆層21によってフィラメント18がベルト本体11(詳細には、背ゴム部11a)と強固に接着する。ベルト駆動時にヤーン16とベルト本体10との境界部分に歪が生じても、ヤーン16がベルト本体10から剥離することが防止される。
この歯付ベルト10では、収束被覆層20及び接着被覆層21がフィラメント18を効果的に拘束するので、フィラメント18の動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
この歯付ベルト10では、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。この観点から、この歯付ベルト10では、ヤーン16に含まれる各フィラメント18は、収束剤からなる収束被覆層20で被覆されることが好ましい。ヤーンが2本以上のストランド17を含み、それぞれのストランド17が多数のフィラメント18を撚り合わせてなる場合は、このストランド17における各フィラメント18が、収束剤からなる収束被覆層20で被覆されることが好ましい。
【0076】
この歯付ベルト10では、収束被覆材20のための収束剤として、例えば、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョンを用いることができる。この場合、歯付ベルト10において収束被覆層20が高負荷伝動に適する状態の維持に効果的に貢献できる観点から、収束剤は、主剤として、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、この主剤の固形分比率が80質量%以上であるエマルジョンであることが好ましい。
この収束剤に含まれるエポキシ基含有化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましい。
硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤等が挙げられる。この歯付ベルト10では、これらのうちのいずれかが単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
イソシアネート系硬化剤として、例えば、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
イソシアネート系硬化剤として、市販品を使用することもできる。イソシアネート系硬化剤の市販品としては、例えば、EMS社製の「Grilbond IL-6」が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、ジアミン化合物、オキサゾール環を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール系化合物が好ましい。
アミン系硬化剤として、市販品を使用することができる。このアミン系硬化剤の市販品としては、例えば、四国化成社製の「キュアゾール」が挙げられる。
【0077】
この歯付ベルト10は、収束剤として、上述のRF液も用いることができる。この場合、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含むエマルジョンを収束剤として用いた場合に得られる収束被覆層20よりも、軟質な収束被覆層20が得られる。軟質な収束被覆層20はフィラメント18の動きを拘束するものの、フィラメント18は僅かに動くことができる。フィラメント18が曲がりやすいので、この歯付ベルト10はヤーン16の接着剤処理を行いやすい。この歯付ベルト10では、ヤーン16はベルト本体11と強固に接着する。そのため、この歯付ベルト10に高い負荷が作用しても、ヤーン16はベルト本体11から剥離しにくい。軟質な収束被覆層20はヤーン16に生じる歪を効果的に緩和する。そのため、プーリ径が小さいプーリにこの歯付ベルト10を使用しても、心線13に切断は生じにくい。
この歯付ベルト10では、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。この観点から、RF液を収束剤として用いることが好ましい。
【0078】
この歯付ベルト10では、収束剤は、その機能を損なわない範囲で、ラテックス等の薬品を含むことができる。
このラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(VP・SBR)、スチレン・ブタジエンゴムラテックス(SBR)、天然ゴムラテックス(NR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3-ジクロロブタジエンゴムラテックス(2,3-DCB)、水素化ニトリルゴムラテックス(H-NBR)、カルボキシル化水素化ニトリルゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス(BR)、ニトリルゴムラテックス(NBR)等が挙げられる。上記収束剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。
【0079】
この歯付ベルト10では、背ゴム部11aと歯ゴム部11bとの境界付近には、構造上、剪断歪みが生じやすい。特に、上述したように、背面クラックの発生を抑制する観点から、背ゴム部11aが軟質な熱可塑性エラストマー組成物で構成され、歯ゴム部11bが背ゴム部11aに比して硬質な熱可塑性エラストマー組成物で構成された場合には、剛性差も加味されてこの境界付近は剪断歪みの影響を受けやすい状況にある。
この歯付ベルト10の心線13は、背ゴム部11aの内周側の部分に配置される。言い換えれば、この心線13は背ゴム部11aと歯ゴム部11bとの境界付近に位置する。そのため、この心線13と背ゴム部11aとの界面は、この剪断歪みの影響を受けやすい状況にある。しかし、心線13に含まれるヤーン16は、上述した接着剤からなる接着被覆層21で被覆される。このヤーン16に含まれるフィラメント18は、好ましくは、上述した収束剤からなる収束被覆層で被覆される。この心線13は、上述の剪断歪みによる作用を効果的に緩和できる。この歯付ベルト10では、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。
【0080】
(製造方法)
本製造方法を図5図8を参照しながら説明する。
図5は、歯付ベルトの製造方法で使用するベルト成形型の部分断面図である。図6~8は、製造方法の製造工程を説明する図である。
製造方法は、材料準備工程、積層工程、成形工程、及び仕上げ工程を有する。
【0081】
<材料準備工程>
≪エラストマーシート≫
背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとを用意する。各エラストマーシートは、例えば、エラストマー成分であるTPAE又はTPCと、必要な添加剤とを含む熱可塑性エラストマー組成物を調製し、これを押出成形等でシート状に成形することで得られる。
また、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとは、共押出で成形してもよい。この場合、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとの積層体が得られる。
本工程で成形したエラストマーシートは、一旦、巻取ってもよいし、そのまま次工程に供給してもよい。
【0082】
≪補強布≫
ベルト歯12の形状に対応した歯形を有する補強布(歯部被覆材)を準備する。
ベルトの歯形と同形状の凹部を有し、加熱された型に、補強布を沿わせ、当該型と反対側から軟らかい弾性体を押付けることで、補強布を歯形が付いた形状に成形する。
その後、歯形の付いた補強布は筒状に成形してもよい。必要に応じて、補強布に対しては、RFL処理のような接着処理を行うことができる。
【0083】
≪心線≫
カーボンフィラメントに所定の撚りや、接着処理等を加えて心線13を用意する。ここでは、S撚りの心線とZ撚りの心線とを一対の心線として用意することが好ましい。
フィラメント18の束を撚り合わせてストランド17を構成する。収束被覆層20で各フィラメント18を被覆する場合は、フィラメント18の束を収束剤を含む溶液中に浸漬して各フィラメント18の表面全体に収束剤を塗布した後、この束を撚り合わせてストランド17を構成する。これにより、収束剤がフィラメント18間に含侵したストランド17が得られる。その後、ストランド17を加熱し、収束剤に含まれる分散媒を揮発させ、収束剤を乾燥させる。これにより、収束剤からなる収束被覆層20(厚さ=0.05~0.35μm)で被覆されたフィラメント18を含むストランド17が得られる。収束剤処理における加熱温度としては、例えば180℃以上250℃以下に設定される。加熱時間としては、例えば3分以上10分以下に設定される。
【0084】
複数本のストランド17を撚り合わせてヤーン16を構成する。接着被覆層21でヤーン16を被覆する場合は、このヤーン16を接着剤を含む溶液中に浸漬して、ストランド17の表面全体に接着剤を塗布する。これにより、ヤーン16の表面には接着剤からなる塗布層が形成される。その後、塗布層を加熱し、塗布層に含まれる分散媒を揮発させ、この塗布層を乾燥させる。これにより、ヤーン16の表面に、接着剤からなる接着被覆層21(厚さ=0.15~0.8μm)が形成された心線13が得られる。接着剤処理における加熱温度としては、例えば180℃以上250℃以下に設定される。加熱時間としては、例えば3分以上10分以下に設定される。
【0085】
ヤーン16に含まれるフィラメント18にポリアミドフィラメントが含まれる場合、心線13に対して加熱処理が行われる。この加熱処理により、溶融したポリアミドフィラメントがカーボンフィラメント間に入り込み、溶融したポリアミドフィラメントを含む心線13が得られる。この加熱処理が、接着剤処理における乾燥において行われてもよい。この場合、乾燥時の加熱温度及び時間には、この加熱処理における加熱温度及び時間が考慮される。
【0086】
<積層工程>
図5は、ベルト成形型30の一部を示す部分断面図である。
ベルト成形型30は、円筒状であって、各々、軸方向に延びるように形成された複数の歯部形成溝31が周方向に間隔をおいて配設された外周面を有する。
【0087】
図6に示すように、ベルト成形型30の外周面上に歯形を付けた筒状の補強布14を被せ、その上から一対の心線13を螺旋状に巻き付ける。
そして、その上に歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’とをこの順に巻き付ける。巻き付けられた各シートの層数は、作製するベルトの寸法に応じて、1層でもよいし、2層以上でもよい。
更に、必要に応じて離型紙又は離型フィルム(図示せず)を巻き付ける。
これにより、ベルト成形型30上に積層体S’を成形する。
【0088】
<成形工程>
ゴムスリーブ32を内面に持ち、スリーブ32と本体との間に密閉した空間をもつジャケットを、積層体S’に被せる。これにより、図7に示すように、ベルト成形型30上の積層体S’にゴムスリーブ32が被せられる。
積層体S’を巻いた成形型30の内部とジャケットの空間に高圧蒸気を入れて加熱・圧縮する。これにより、熱可塑性エラストマーシート11a’、11b’を構成する熱可塑性エラストマーを心線間の隙間を通過させて歯部形成溝31にして流し込み、図8に示すように、ベルト歯12を形成する。
このとき、高圧蒸気の温度は、熱可塑性エラストマーが流動する温度以上の温度とする。なお、熱可塑性エラストマーシートのエラストマー成分が、TPAEの場合には、高圧蒸気の温度を170℃以上にする。
【0089】
ベルト歯12を形成した後は、ジャケットや成形型30を水などで冷却して、エラストマーの温度を100℃以下に下げた後、ジャケットから成形型30と成形体Sを取出す。さらに、成形体Sの温度が40℃以上の場合は、さらに冷却し、成形体Sの温度が40℃より下がったら、成形体Sを成形型30から抜き取る。
【0090】
<仕上げ工程>
取出した成形体Sを規定の幅に切って分離することで、歯付ベルト10となる。
このような工程を経ることにより、ベルト本体11が熱可塑性エラストマー組成物で構成される歯付ベルト10を製造することができる。
【0091】
<その他>
なお、歯ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11a’との硬さが異なる場合には、ベルト成形型30の外周面上に、補強布14、心線13、及び歯ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11b’の積層を行った後、上述した高圧蒸気による加熱・圧縮を行ってベルト歯を形成し、一旦冷却した後、背ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11a’を巻き付けて、再度、高圧蒸気による加熱・圧縮を行い、その後、再度冷却し、最後に仕上げ工程を行って、歯付ベルトを製造すればよい。
【実施例0092】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
ここでは、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを作製し、その性能を評価した。
各例の歯付ベルトは、既に説明した上述の製造方法を用いて作製した。
ベルト本体(背ゴム部及び歯ゴム部)を形成するための熱可塑性エラストマー組成物、心線、及び補強布は下記の通り準備した。
【0094】
(熱可塑性エラストマー組成物)
下記の熱可塑性エラストマー組成物(TPE)を用意した。いずれの熱可塑性エラストマー組成物も市販品である。
【0095】
TPAE:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物
(A1)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 4033SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
PEBAXは、ポリエーテルをソフトセグメントとする。
(A2)T&K TOKA社製のTPAE-10を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは41である。
TPAE-10は、ポリエーテルエステルをソフトセグメントとする。
(A3)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 2533SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは27である。
【0096】
TPO:ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物
JSR社製のEXCELINK(登録商標) 1303Bを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは38である。この硬さは、タイプDデュロメータでなく、タイプAデュロメータにて測定される。
【0097】
TPU:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー組成物
日本ミラクトラン社製のミラクトラン(登録商標) E590を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
【0098】
(補強布)
補強布として、RFL処理されたナイロン帆布を準備した。
ここでは、経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸のナイロン帆布を用意した。
【0099】
(心線)
カーボンフィラメント(帝人テナックス社製、フィラメント径7μm)を用いて、図4に示された構成(1×5)を有する、諸撚りタイプのヤーンを含む心線を準備した。ストランドに含まれるカーボンフィラメントの本数は3000本に設定された。
【0100】
(収束剤及び接着剤)
収束被覆層及び接着被覆層形成のために、次のA~Gの処理液を準備した。
・処理液A
ナガセケムテック社製の「デナコール EX-521」を用い、主剤としてエポキシ基含有化合物を含む処理液Aを準備した。この処理液Aにおける、主剤の固形分比率は100質量%であった。
・処理液B
ナガセケムテック社製の「デナコール EX-521」と、四国化成社製の「キュアゾール 2E4MZ-CN」とを用い、主剤として、エポキシ基含有化合物及びアミン系硬化剤を含む処理液Bを準備した。この処理液Bにおける、主剤の固形分比率は100質量%であった。アミン系硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物100質量部に対して、9.5質量部であった。
・処理液C
ナガセケムテック社製の「デナコール EX-521」と、四国化成社製の「キュアゾール 2E4MZ-CN」と、JSR社製の「VPラテックス 0650」とを用い、主剤として、主剤としてのエポキシ基含有化合物及びアミン系硬化剤と、不純物としてのラテックスとを含む処理液Cを準備した。この処理液Cにおける、主剤の固形分比率は70質量%であった。アミン系硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物100質量部に対して、9.5質量部であった。
・処理液D
ナガセケムテック社製の「デナコールEX-521」と、和光純薬社製の「水溶性アゾ重合開始剤 VA-086」とを用い、主剤として、エポキシ基含有化合物及びラジカル開始剤を含む処理液Dを準備した。この処理液Dにおける、主剤の固形分比率は100質量%であった。ラジカル開始剤の量は、エポキシ基含有化合物100質量部に対して、5質量部であった。
・処理液E
ナガセケムテック社製の「デナコールEX-521」と、和光純薬社製の「水溶性アゾ重合開始剤 VA-086」と、JSR社製の「VPラテックス 0650」とを用い、主剤としてのエポキシ基含有化合物及びラジカル開始剤と、不純物としてのラテックスとを含む処理液Eを準備した。この処理液Eにおける、主剤の固形分比率は70質量%であった。ラジカル開始剤の量は、エポキシ基含有化合物100質量部に対して、5質量部であった。
・処理液F
処理液Fとして、RF液を準備した。レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の固形分比率は100質量%であった。レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)を1/1.5とした。
・処理液G
処理液Gとして、RFL水溶液(ラテックスは、JSR社製の「VPラテックス 0650」)を用意した。このRFL水溶液は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の固形分比率は70質量%であった。レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)を1/1.5とし、レゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)のラテックス由来固形分(L)に対する質量比(RF/L)を1/6とした。
【0101】
[実施例1]
背ゴム部及び歯ゴム部に上記TPAE(A1)を使用し、補強布として上記ナイロン帆布を使用し、上記カーボンフィラメントを含む心線を使用して、上述した製造方法(図6図9参照)で、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを製造した。ベルト幅は8mm、ベルト長は1200mmとした。
心線については、図4に示されるタイプのヤーン、具体的には、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有する、諸撚りタイプのヤーンを準備した。
ヤーンに含まれる各ストランドに含まれるフィラメントの本数は3000本に設定した。フィラメントの全てをカーボンフィラメントで構成した。
フィラメントの束を収束剤としての処理液Fに浸漬した後、このフィラメントの束を下撚りして、ストランドを構成した。このストランドに対して、180℃の温度で5分間の加熱処理を行った。これにより、ストランドのフィラメント間を充填する収束被覆層を形成した。下撚りの撚り係数は40に設定した。
収束被覆層を形成したストランドを5本準備し、これらを上撚りして、ヤーンを構成した。上撚りの撚り係数は40に設定した。
接着剤に処理液Fを用い、ヤーンの接着剤処理を行い、ヤーンの表面に接着被覆層を形成した。この処理における加熱温度は220℃、加熱時間は10分に設定された。
【0102】
[比較例1]
収束被覆層及び接着被覆層を形成しなかった他は実施例1と同様にして、比較例1の歯付ベルトを得た。
【0103】
[比較例2~3]
背ゴム部及び歯ゴム部の熱可塑性エラストマー組成物を下記の表1に示される通りとし、収束剤に処理液Aを用い、接着剤に処理液Dを用いた他は実施例1と同様にして、比較例1の歯付ベルトを得た。
【0104】
[実施例2]
接着剤に処理液Dを用いた他は実施例1と同様にして、実施例2の歯付ベルトを得た。
【0105】
[実施例3]
背ゴム部及び歯ゴム部の熱可塑性エラストマー組成物に上記TPAE(A2)を用い、収束剤に処理液Bを用い、接着剤に処理液Dを用いた他は実施例1と同様にして、実施例3の歯付ベルトを得た。
【0106】
[実施例4~6]
収束剤及び接着剤を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4~6の歯付ベルトを得た。
【0107】
[実施例7]
背ゴム部に上記TPAE(A3)を使用し、歯ゴム部に上記TPAE(A1)を使用した他は実施例1と同様にして、実施例7の歯付ベルトを得た。
【0108】
(評価方法)
実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、耐久性を評価するための耐久試験1~2を行った。結果は、表1に示した。
【0109】
<耐久試験1>
耐久試験1は、標準的な走行条件で耐久性を評価する試験である。実施例1~7及び比較例1~3で製造した歯付ベルトについて行った。
図9は、耐久試験1で使用したベルト走行試験機80を示す。
ベルト走行試験機80は、歯数22歯、歯形8Mの駆動プーリ81と、その右側方に設けられた歯数33歯、歯形8Mの従動プーリ82とを備える。従動プーリ82は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
【0110】
実施例1~7及び比較例1~3のそれぞれで製造した歯付ベルト110について、ベルト走行試験機80の駆動プーリ81及び従動プーリ82間に巻き掛けると共に、従動プーリ82に対して右側方に608Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ82に34.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ81を1分間に4200回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して背ゴムの背面におけるクラック、心線切断、心線飛出等の故障の発生の有無を目視確認し、故障の発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。なお、ベルト走行時間の最長を1000時間とした。
また、故障の発生に至らなくても歯飛びが発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0111】
<耐久試験2>
耐久試験2は、高負荷条件下での耐久性を評価する試験である。実施例1及び3、並びに、比較例1~3で製造した歯付ベルトについて行った。
図10は、耐久試験2で使用したベルト走行試験機90を示す。
ベルト走行試験機90は、歯数24歯、歯形8Mの駆動プーリ91と、その右側方に設けられた歯数36歯、歯形8Mの従動プーリ92とを備える。従動プーリ92は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
【0112】
実施例1及び3、並びに、比較例1~3のそれぞれで製造した歯付ベルト120について、ベルト走行試験機90の駆動プーリ91及び従動プーリ92間に巻き掛けると共に、従動プーリ92に対して右側方に520Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ92に39.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ91を1分間に3000回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して歯欠け、心線切断、心線飛出し等の故障の有無を目視確認し、故障の発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。
なお、クラックの発生に至らなくても歯飛びが発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
表1-2に示した通り、本発明の実施形態に係る歯付ベルトによれば、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。この歯付ベルトは、耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適する。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、説可塑性エラストマー組成物を歯ゴム部及び背ゴム部の材料に用いた歯付ベルトの技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0117】
10、110、120 歯付ベルト
11 ベルト本体
11a 背ゴム部
11b 歯ゴム部
12 ベルト歯
13 心線
14 補強布(歯部被覆材)
15 歯底部
16 ヤーン
17 ストランド
18 フィラメント
19 仮ストランド
20 収束被覆層
21 接着被覆層
30 ベルト成形型
31 歯部形成溝
32 ゴムスリーブ
80、90 ベルト試験機
81、91 駆動プーリ
82、92 従動プーリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10