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特開2022-171358消火性部材及び消火性部材を製造する方法
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  • 特開-消火性部材及び消火性部材を製造する方法 図1
  • 特開-消火性部材及び消火性部材を製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171358
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】消火性部材及び消火性部材を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/06 20060101AFI20221104BHJP
   A62C 35/02 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A62D1/06
A62C35/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077953
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100190931
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 祥平
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】池田 武司
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】堤 明正
【テーマコード(参考)】
2E189
2E191
【Fターム(参考)】
2E189BA01
2E191AB01
2E191AC08
(57)【要約】
【課題】凹凸等の複雑な形状を有する被着体であっても、優れた消火効果を発揮するエアロゾル消火薬剤を該被着体に形成し、火災発生時の初期消火を促すことで火災の拡大を抑制できる消火性部材と、これを効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層と、を備え、前記消火剤含有層が、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む、消火性部材の製造方法であって、前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、前記消火剤含有層上に、前記保護層を形成する工程と、を備え、前記消火剤含有層を形成する工程又は前記保護層を形成する工程の少なくとも一方は、ウェットコーティング法により行われる方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層と、を備え、前記消火剤含有層が、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む、消火性部材の製造方法であって、
前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、
前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、
前記消火剤含有層上に、前記保護層を形成する工程と、を備え、
前記消火剤含有層を形成する工程又は前記保護層を形成する工程の少なくとも一方は、ウェットコーティング法により行われる方法。
【請求項2】
前記消火剤含有層を形成する工程又は前記保護層を形成する工程の少なくとも一方は、スプレーコーティング法又はディップコーティング法により行われる方法。
【請求項3】
凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層と、を備え、前記消火剤含有層が、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む、消火性部材。
【請求項4】
前記被着体が、射出成形体又はプレス成形体である、請求項3に記載の消火性部材。
【請求項5】
前記保護層の材質が、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3又は4に記載の消火性部材。
【請求項6】
前記保護層の水蒸気透過度が2×10g/m/day以下である、請求項3~5のいずれか一項に記載の消火性部材。
【請求項7】
前記保護層の鉛筆硬度が、B以上である、請求項3~6のいずれか一項に記載の消火性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火性部材及び消火性部材を製造する方法に関する。本発明は、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材などの産業部材で用いられる部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている。一方、その快適性を生むための大量のエネルギーが必要となり、それを高密度に充填し蓄える、移動する、使用する等、各々のシーンで高い安全性が必要となる。
【0003】
自動車を例にとると、ガソリンに代表される化石燃料を採掘するシーン、化石燃料からガソリンに精製するシーン、運搬するシーン等で、発火や火災の危険が潜んでいる。またエレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に備える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0004】
このような問題に際し、特許文献1では、断熱材料、不燃性材料、難燃性材料を構成部材とした対策が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5317785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、断熱材料、不燃性材料、難燃性材料を構成部材とした場合、周辺に存在する非焼対策部材は延焼が進んでしまい、また発火時に爆発を伴う場合は、材料は破れ、やはり延焼は広がる。対象物としては、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池用の回収BOXの各部材などが挙げられる。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、凹凸等の複雑な形状を有する被着体であっても、優れた消火効果を発揮するエアロゾル消火薬剤を該被着体に形成し、火災発生時の初期消火を促すことで火災の拡大を抑制できる消火性部材と、これを効率的に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、凹凸形状の被処理面を有する被着体と、被処理面上に設けられた消火剤含有層と、消火剤含有層の表面上に設けられた保護層と、を備え、消火剤含有層が、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む、消火性部材の製造方法であって、凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、被処理面上に、消火剤含有層を形成する工程と、消火剤含有層上に、保護層を形成する工程と、を備え、消火剤含有層を形成する工程又は保護層を形成する工程の少なくとも一方は、ウェットコーティング法により行われる方法を提供する。
【0009】
消火剤含有層を形成する工程又は保護層を形成する工程の少なくとも一方は、スプレーコーティング法又はディップコーティング法により行われる方法であってよい。
【0010】
また、本発明は凹凸形状の被処理面を有する被着体と、被処理面上に設けられた消火剤含有層と、消火剤含有層の表面上に設けられた保護層と、を備え、消火剤含有層が、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む、消火性部材を提供する。
【0011】
被着体は、射出成形体又はプレス成形体であってよい。
【0012】
保護層の材質は、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0013】
保護層の水蒸気透過度は、2×10g/m/day以下であってよい。
【0014】
保護層の鉛筆硬度は、B以上であってよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、凹凸等の複雑な形状を有する被着体であっても、優れた消火効果を発揮するエアロゾル消火薬剤を該被着体に形成し、火災発生時の初期消火を促すことで火災の拡大を抑制できる消火性部材と、これを効率的に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)及び(b)は、一実施形態に係る消火性部材の模式断面図である。
図2】一実施形態に係る凹凸形状を示す模式断面図であり、(a)は凹凸形状の最大高さを示す図であり、(b)は凹凸形状の最大高さと底面の最小幅の比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<消火性部材>
図1は、一実施形態に係る消火性部材の模式断面図である。消火性部材10は、凹凸形状の被処理面を有する被着体1と、被処理面上に設けられた消火剤含有層2と、消火剤含有層の表面上に設けられた保護層3と、を備える。図1(a)に示されるように、保護層3は、消火剤含有層2の表面上の一部に設けられていてもよく、(b)に示されるように、保護層3は、消火剤含有層2の表面全体に設けられていてもよい。
【0019】
(被着体)
被着体1の材質は特に制限されず、例えば建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等に用いられる被着体を用いることができる。このような被着体1としては、樹脂基材や、金属、不燃紙やガラスクロス等であってもよい。
【0020】
樹脂基材としては、例えばポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。これらのうち、水蒸気透過度が低く、消火剤成分の劣化を抑制しやすい観点から、樹脂基材としては、LLDPE、PP、COP、CPP、PET、PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE、PVC及びPCからなる少なくとも一種を含んでいてもよい。また、透明性の高い材質を用いることで、消火性部材10の外観検査や交換時期の確認がしやすくなる。
【0021】
金属としては、アルミニウム、鉄、銅、それら合金のステンレス、ジュラルミン、亜鉛メッキ鋼板等が挙げられる。
【0022】
また、被着体1は、上記に加えて、例えば有機リン化合物(FR)、エポキシ化合物、アラミド化合物、アミド化合物、ケイ素化合物、炭素、アラミド化合物、アミド化合物、ケイ素化合物、炭素の繊維等を含んでいてもよい。
【0023】
被着体1は凹凸形状の被処理面を有する。凹凸形状を有する被処理面とは、例えば、凸部と凹部の高さの差が一定以上の被処理面、例えば凹凸形状の最大高さが0.1mm以上の被処理面であってよい。あるいは、被処理面において、底面(第一の面)と斜面(第二の面)のなす角(図2(a)のA参照)は90°以上であってよく、90°未満であってもよい。被処理面において、底面と斜面のなすコーナーRは3mm以下であってよく、凹凸形状の最大高さと底面の最小幅の比(図2(b)のB/C参照)は3以下又は1以下であってよい。被処理面における凹凸形状の数は1以上、又は3以上であってよい。
【0024】
このような被処理面を有する被着体1であっても、後述する消火剤含有層をウェットコーティング法によって被着体1に綺麗に設けることができ、優れた消火効果を発揮するエアロゾル消火薬剤を該被着体1に形成することができる。
【0025】
被着体1の厚さは、出火時の熱量、衝撃、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば厚い被着体1であれば、水蒸気透過を抑制しやすく、強度や剛性が得られ、ハンドリングが容易となる。一方薄い被着体1であれば狭いスペースに消火性部材を設けることができる。被着体1の厚さは、例えば0.05~20mmとすることができ、0.1~5mmであってもよい。被着体1は、複数の被着体の積層体であってもよい。
【0026】
被着体1は、射出成形体又はプレス成形体であってよい。射出成型法又はプレス成型法により形成された被着体1は、複雑な凹凸形状を、大量に生産できる為、好ましい。被着体は筐体そのものであってもよいし、筐体の内面に設けられていてもよい。
【0027】
(消火剤含有層)
消火剤含有層2は、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分と、を含む。消火剤成分は、例えば、無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含む。ラジカル発生剤は、燃焼ラジカルを安定化して燃焼の連鎖反応を抑制する作用(負触媒作用)を有する。
【0028】
消火剤含有層2の厚さは、消火性部材10の消火対象や設置場所、配合すべき消火剤成分の量に応じて適宜設定すればよい。消火剤含有層2の厚さは、例えば、1mm以下であればよく、30~1000μmとすることができ、120~500μmであってもよい。
【0029】
消火剤含有層2における消火剤成分の含有率(消火剤含有層2の質量基準)は、例えば、70~97質量%であり、好ましくは80~95質量%であり、より好ましくは85~92質量%である。消火剤成分の含有率が70質量%以上であることで、優れた消火性能を達成することができ、他方、97質量%以下であると、被着体1と安定した密着が得られ、かつ消火剤の滑落なく安定した塗膜を達成できる。消火剤成分の単位面積当たりの量は、消火すべき対象に応じて設定すればよい。
【0030】
[消火剤成分]
消火剤成分は、上述のとおり燃焼によってエアロゾルを発生する。消火剤成分は、例えば、無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含む。以下、これらの成分について説明する。
【0031】
無機酸化剤(以下、場合により「(A)成分」という。)は、バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する成分である。無機酸化剤として、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム及び過塩素酸カリウムが挙げられる。これらは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0032】
ラジカル発生剤(以下、場合により「(B)成分」という。)は、バインダー樹脂及び無機酸化物の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(ラジカル)を発生させるための成分である。ラジカル発生剤として、分解開始温度が90~260°の範囲のものを使用することが好ましい。ラジカル発生剤として、カリウム塩及びナトリウム塩が挙げられる。カリウム塩として、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム及び重炭酸カリウムが挙げられる。ナトリウム塩として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。これらは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
(A)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、10~60質量部であり、好ましくは20~50質量部であり、より好ましくは35~45質量部である。(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、45~90質量部であり、好ましくは50~80質量部であり、より好ましくは55~65質量部である。
【0034】
消火剤含有層2に配合する消火剤成分として、市販品を使用してもよい。市販の消火剤成分として、K-1(商品名、ヤマトプロテック株式会社製)、STAT-X(商品名、日本工機株式会社製)が挙げられる。
【0035】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂には、硬化剤成分が含まれていてよい。
【0036】
エポキシ樹脂は、消火剤成分との相溶性に優れるとともに、後述のアルコール溶媒に可溶であり且つ安定性が高い点で、バインダー樹脂に適している。エポキシ樹脂は、カリウム塩及びナトリウム塩(ラジカル発生剤)と相溶性に優れるため、厚さが均一の消火剤含有層が得られやすい。これに加え、エポキシ樹脂は湿熱による加水分解及び脆化が生じないため、エポキシ樹脂をバインダー樹脂として含む消火剤含有層は優れた安定性を有する。また、消火剤含有層の燃焼時には約260~350℃で熱分解が始まり、消火性能を損なうことなく、エアロゾルを発生することができる。
【0037】
バインダー樹脂として、水蒸気バリア性を有するものを使用することが好ましい。バインダー樹脂は、バインダー樹脂からなる単層フィルムを作製したとき、好ましくは5g・mm/m/day以下、より好ましくは1g・mm/m/day以下の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を達成できるものが好ましい。かかるバインダー樹脂の市販品として、マクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
【0038】
消火剤含有層2の全量を基準とするバインダー樹脂の含有量は、例えば、3~30質量%であり、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは8~15質量%である。バインダー樹脂の含有率が3質量%以上であることで、優れた成形性を達成でき、他方、30質量%以下であることで、優れた消火性能を達成できる。
【0039】
[その他の成分]
消火剤含有層2には、上述した以外にその他の成分が配合されてもよい。その他の成分として、水等の分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材及び粘着剤が挙げられる。これらの成分は消火剤含有層2の組成及びバインダー樹脂の種類によって適宜選択すればよい。消火剤含有層2におけるその他の成分の含有率(消火剤含有層の質量基準)は、例えば10質量%以下である。
【0040】
(保護層)
保護層3の材質は特に制限されず、例えば建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等に用いられる保護層を用いることができる。消火剤含有層の表面上に保護層3を設けることで、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、消火剤含有層が潮解してアルカリ水によって周辺金属が腐食することを抑えることができる。また、消火速度を維持することができる。
【0041】
保護層3の材質としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物、酸窒化物等が挙げられる。
【0042】
保護層3は、水蒸気透過度が2×10g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度が2×10g/m/day以下であると、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、消火剤含有層が潮解してアルカリ水によって周辺金属が腐食することを更に抑えることができる。また、消火速度を維持することができる。このような観点から、保護層3の水蒸気透過度は、2×10g/m/day以下であることが好ましい。なお、保護層3の水蒸気透過度は、JIS K 7129に準拠して、40℃/90%RH条件下で測定した値をいう。
【0043】
保護層3は、鉛筆硬度がB以上であってよい。鉛筆硬度がB以上であると、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、保護層の割れ、引っ掻きによる消火剤含有層が露出し、消火剤含有層が潮解するのを防ぐことができる。このような観点から、保護層3の鉛筆硬度はF以上であることが好ましい。なお、保護層3の鉛筆硬度は、JIS K 5600に準拠して、引っ掻き硬度(鉛筆法)を測定した値をいう。
【0044】
保護層3の厚さは、特に制限されるものではなく、消火性部材10の消火対象や設置場所、配合すべき消火剤成分の量に応じて適宜設定すればよい。保護層3の厚さは、例えば、1~1000μmであってよく、20~300μmであってもよい。
【0045】
<消火性部材の製造方法>
消火性部材10の製造方法は、凹凸形状の被処理面を有する被着体1を準備する工程と、被処理面上に、消火剤含有層2を形成する工程と、消火剤含有層2上に、保護層3を形成する工程と、を備え、消火剤含有層2を形成する工程又は保護層3を形成する工程の少なくとも一方は、ウェットコーティング法により行われる方法を備える。
【0046】
上記ウェットコーティング法は、例えば、バインダー樹脂と、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分とを含む塗液を準備し、被着体の被処理面上に膜を形成させる方法、又は保護層を構成する材質を含む塗液を準備し、消火剤含有層2上に膜を形成させる方法が挙げられる。塗液には、例えばアルコール溶媒等が含まれていてもよい。ウェットコーティング法としては、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、刷毛による塗装等が挙げられる。これらの中でもスプレーコーティング法、ディップコーティング法が好ましい。
【0047】
スプレーコーティング法とは、スプレーコーターを用いて、塗液を霧状に塗布する方法である。スプレー方式、ノズルの仕様は、被着体の被処理面や、消火剤含有層上の凹凸形状、塗液に含まれる溶媒、タクトタイム、設備にかけられるコストに応じて適宜選択されることが好ましい。ノズルの仕様は、例えば、一流体ノズル(スプレーパターン(フラット、直進硫、フルコーン、ホローコーン、微細スプレー、楕円形、四角形)と、スプレー角度(0°~170°)に対応しているため、対象範囲を確実にカバーできる)、二流体スプレー(圧搾空気などの高速気流で液体を粉砕し微粒化するスプレーノズルで、微細ミスト、霧など必要な用途や条件に最適なノズルの幅広い調整が可能となる)等が挙げられる。また、スプレー方式としては、例えば、円形前面に中粒子から大粒子で構成するパターンを生成するためには、フルコーンスプレー方式が好ましく、広い流量範囲で微細噴霧を行うことができるため、緻密な膜が形成可能な二流体エアーアトマイジングスプレー方式を用いることが好ましい。特に溶媒がアルコール系である場合、被着体1や消火剤含有層2は、耐溶媒性や防爆仕様を満たす材質が好ましい。消火対象物に応じて所望の厚みを設計し、その厚みと消火剤含有層又は保護層の安定性の観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。固形分は例えば、15~60%とすることができる。固形分、粘度が高いと、一回の噴霧で大きな厚みを得ることができるが、必要な圧力が高く、また目詰まりのリスクが高まる。また一度に大きな厚みを得ると、乾燥時に突沸が生じ、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は30~50%とすることが好ましい。
【0048】
ディップコーティング法は、液(塗液)中に被着体又は被着体と消火剤含有層を垂直に浸漬し、液の粘性力、表面張力及び重量による力と速度を調整して引き上げる方法であり、引き上げ速度は、液中の粘性と被着体又は消火剤含有層に付着する塗液の流下する重力との関係性から制御する。消火対象物に応じて所望の厚みを設計し、その厚みの観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。固形分は例えば、15~60質量%とすることができる。固形分、粘度が高いと、大きな厚みを得ることができるが、増粘が起きやすく、乾燥時に突沸が起きやすくなり、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は20~50質量%、30~50質量%とすることが好ましい。
【0049】
このような本実施形態に係る製造方法によれば、凹凸等の複雑な形状を有する被着体、或いは凹凸等の複雑な形状を有する被着体又は消火剤含有層であっても、優れた消火効果を発揮するエアロゾル消火薬剤を形成し、火災発生時の初期消火を促すことができる。
【実施例0050】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1~24、比較例1~4]
被着体としてPC-FR(40)(出光興産社製、AK3020 厚み100μm)を準備した。この被着体に対し、凹凸形状を設けた。凹凸形状の詳細は、表1~表4に示す。
【0052】
一方、消火剤含有層のスラリーとして、エアロゾル消火剤(商品名:K-1、エタノールスラリー、ヤマトプロテック株式会社製)とバインダー樹脂(商品名:AD393とCAT-EP5、東洋インキ製)をイソプロプルアルコールに加えたものを準備し、バインダー樹脂とエアロゾル消火剤との質量比(バインダー樹脂/エアロゾル消火剤=10)に調整した。
【0053】
上記で準備した被着体に消火剤含有層のスラリーを、表1~表4に示す方式で塗布し、総固形分が42.5質量%となるように、乾燥温度90℃、1分間で塗布し、消火剤含有層の総厚み200μmとなるように塗布した。続いて、保護層のスラリーを表1~表4に示す方式で塗布、乾燥させ、表1~表4に示す消火性部材を作製した。保護層の塗布液は、それぞれ以下を用いた。
保護層の塗布液1:M-100(三菱ガス化学社製)8.4質量%、C-93(東洋インキ社製)26.9質量%、メタノール20.2%、酢酸エチル44.5質量%
保護層の塗布液2:KBE-04(信越化学社製、TEOS)12.53質量%、PVA124(クラレ株式会社製、PVA)0.95質量%、KBM-9659(信越化学社製)0.50質量%、塩酸(0.1N)50.47質量%、水22.85質量%、メタノール7.95質量%、IPA4.75質量%
保護層の塗布液3:HP120(横浜ゴム社製)12.5質量%、トルエン87.5質量%
【0054】
[消火性部材の評価]
得られたサンプルに対し、以下の評価を行った。結果を表5~表8に示す。
【0055】
<サンプル作製後の評価>
被着体と消火剤含有層間の浮きを目視により観察した。表5~表8では、浮きが認められなかったものを「無し」、浮きが認められたものを「有り」とした。
【0056】
<保護層鉛筆硬度の評価>
テスター産業製、HA-301を用いて各硬度を持った鉛筆を、サンプル表面に対して角度45°、荷重750g、となるよう設置し、鉛筆の先端が塗膜上に載った後、直ちに装置を操作者から1mm/sの速度で離れるよう、距離10mm走査した。
【0057】
<消火試験>
[ろうそく消火性]
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。ろうそくの炎に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるか否かを観察、また消火に要する時間を測定した。
[固形燃料1g消火性]
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。アルミニウム製容器の内部に設置したパンの中に固形燃料1gを置いた後、固形燃料に火をつけて火炎を生じさせた。火炎している固形燃料に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるかどうかを観察、また消火に要する時間を測定した。
【0058】
<信頼性の評価>
上記で作製したサンプルを85℃、85%RHの条件下におき、500時間後、及び1000時間後の潮解性及び消火試験を行った。潮解性の試験方法は以下のように行った。
【0059】
[潮解性]
サンプル表面に、アサダ製pH試験紙を接触させ、pHを測定した。潮解していれば消火剤が水溶液となり、pH9以上のアルカリ性を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
消火剤無しの場合は消火できず、ヤマトプロテックの材料は消火できるものの保護層がない場合は、比較例4に示されるように、信頼性で著しく消火時間が増加した。
【符号の説明】
【0069】
1…被着体、2…消火剤含有層、3…保護層、10…消火性部材。
図1
図2