(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171363
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】金属部材の接合装置、接合方法および接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077960
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】西口 勝也
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕二郎
(72)【発明者】
【氏名】深堀 貢
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡子
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA07
4E167AA13
4E167BG03
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG26
4E167DA10
(57)【要約】
【課題】金属部材の接合を十分な強度で簡便に達成することができる金属部材の接合装置を提供すること。
【解決手段】2つの金属部材11,12を接合するための金属部材の接合装置であって、前記2つの金属部材のうち第1金属部材11に対して押圧力を付与する押圧部材16;前記2つの金属部材のうち第2金属部材12を直接的に支持する受け部材17;および前記押圧部材および前記受け部材を相互に近接させるように駆動させる駆動制御装置を含む、金属部材の接合装置であって、前記受け部材16は、前記押圧部材との対向面部の外周において、凹部172を有している、金属部材の接合装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの金属部材を接合するための金属部材の接合装置であって、
前記2つの金属部材のうち第1金属部材に対して押圧力を付与する押圧部材;
前記2つの金属部材のうち第2金属部材を直接的に支持する受け部材;および
前記押圧部材および前記受け部材を相互に近接させるように駆動させる駆動制御装置
を含む、金属部材の接合装置であって、
前記受け部材は、前記押圧部材との対向面部の外周において、凹部を有している、金属部材の接合装置。
【請求項2】
前記押圧部材は、自身の回転による金属部材との摩擦により熱を発生させる回転ツールであり、
前記回転ツールは、先端側に、該回転ツールの円形の先端面を含むショルダ部、および該回転ツールの円形の先端面から外方に突設された、前記ショルダ部よりも小径の円柱状のピン部を有し、
前記凹部の内周寸法E1は、前記ショルダ部の直径D1(mm)および前記ピン部の直径D2(mm)に対して、D2(mm)以上D1(mm)以下であり、
前記凹部の外周寸法E2は、前記ショルダ部の直径D1(mm)に対して、D1(mm)超である、請求項1に記載の金属部材の接合装置。
【請求項3】
前記凹部の深さ寸法kは、前記第2金属部材の厚みT2に対して、0.10×T2(mm)以上である、請求項1または2に記載の金属部材の製造装置。
【請求項4】
前記凹部は、断面視において、すり鉢状に傾斜した傾斜面を有する、請求項1~3のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項5】
前記ピン部の突出長さhは、前記第1金属部材の厚みT1に対して、1.00×T1(mm)以上0.95×(T1+T2)(mm)以下である、請求項1~4のいずれかに記載の金属部材の製造装置。
【請求項6】
前記第1金属部材の厚みT1は1.0mm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項7】
前記駆動制御装置は、前記押圧部材の進入量d1が、前記第1金属部材の厚みT1に対して、0.80×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下になるように、前記押圧部材および前記受け部材の駆動を制御する、請求項1~6のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項8】
前記受け部材は、平面視において前記凹部の内周側に配置された内周部に凸部を有し、
前記凸部の幅寸法E4は、前記凹部の内周寸法E1に対して、0.40×E1(mm)以上1.00×E1(mm)以下であり、
前記凸部の高さ寸法mは、前記第2金属部材の厚みT2に対して、0.10×T2(mm)以上1.00×T2(mm)以下である、請求項1~7のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項9】
前記駆動制御装置は、前記押圧部材の進入量d1および前記受け部材の進入量d2の合計進入量が、前記第1金属部材の厚みT1に対して、0.80×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下になるように、前記押圧部材および前記受け部材の駆動を制御する、請求項8に記載の金属部材の接合装置。
【請求項10】
前記第1金属部材および前記第2金属部材は、それぞれ独立して、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている、請求項1~9のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項11】
前記接合装置は摩擦撹拌点接合装置である、請求項1~10のいずれかに記載の金属部材の接合装置。
【請求項12】
押圧部材と受け部材との間で、第1金属部材および第2金属部材を重ね合わせ、前記押圧部材による第1金属部材側からの押圧により前記第2金属部材に圧力を付与するとともに、熱を付与して前記第1金属部材および前記第2金属部材をそれらの界面で相互に塑性流動させて接合を行う熱圧式接合方法による金属部材の接合方法であって、
前記受け部材は、前記押圧部材との対向面部の外周において、凹部を有し、
前記押圧部材および前記受け部材を相互に近接させ、前記凹部に第2金属部材の一部を塑性流動させる、金属部材の接合方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の金属部材の接合装置を用いる、請求項12に記載の金属部材の接合方法。
【請求項14】
前記熱圧式接合方法が、
第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせる第1ステップ;および
押圧部材として回転ツールを回転させつつ、第1金属部材に押圧して摩擦熱を発生させ、該摩擦熱により第1金属部材および第2金属部材をそれらの界面で相互に塑性流動させて第1金属部材と第2金属部材とを接合する第2ステップ
を含む摩擦撹拌点接合方法である、請求項12または13に記載の金属部材の接合方法。
【請求項15】
前記第2ステップにおいて圧力制御方式を採用し、
回転ツールの第1金属部材への加圧力および加圧時間および回転数を制御する、請求項14に記載の金属部材の接合方法。
【請求項16】
前記第2ステップにおいて位置制御方式を採用し、
回転ツールの座標位置、特定位置での保持時間および回転数を制御する、請求項14に記載の金属部材の接合方法。
【請求項17】
前記第2ステップが、
前記回転ツールを第1金属部材側から押し込んで、第1金属部材と第2金属部材との境界面に達する深さまで進入させる押込み撹拌工程を含み、
前記押込み撹拌工程では前記回転ツールを、前記押圧部材の進入量d1が、前記第1金属部材の厚みをT1としたとき、1.10×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下になるまで、第1金属部材および第2金属部材に進入させる、請求項14~16のいずれかに記載の金属部材の接合方法。
【請求項18】
前記受け部材は、平面視において前記凹部の内周側に配置された内周部に凸部を有し、
前記第2ステップが、
前記回転ツールを第1金属部材側から押し込んで、第1金属部材と第2金属部材との境界面に達する深さまで進入させる押込み撹拌工程を含み、
前記押込み撹拌工程では前記回転ツールを、前記押圧部材の進入量d1および前記受け部材の進入量d2の合計進入量が、前記第1金属部材の厚みをT1としたとき、1.10×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下になるまで、第1金属部材および第2金属部材に進入させる、請求項14~16のいずれかに記載の金属部材の接合方法。
【請求項19】
第1金属部材と第2金属部材とが、それらの重なり部分において前記第1金属部材側からの押込み痕を有しながら、該押込み痕の周囲におけるそれらの界面で接合された接合体であって、
前記第2金属部材における前記第1金属部材側とは反対側の表面に前記第2金属部材の塑性流動による盛り上がり部を有している、金属部材の接合体。
【請求項20】
断面視において、前記第1金属部材の残厚Tzは、前記第1金属部材の厚みをT1(mm)としたとき、0.50×T1(mm)以上1.25×T1(mm)以下である、請求項19に記載の金属部材の接合体。
【請求項21】
請求項12~18のいずれかに記載の金属部材の接合方法により接合された、請求項19または20に記載の金属部材の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材(特に2つの金属部材)の接合装置、接合方法および接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車、鉄道車両、航空機等の分野では、生産性の向上の観点から、金属部材と金属部材との接合方法として、いわゆる摩擦撹拌点接合(FSSW:friction stir spot welding)方法が提案されている。摩擦撹拌点接合方法とは、回転ツールと受け部材との間で、第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせ、回転ツールを回転させつつ、第1金属部材側から押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱で第1金属部材および第2金属部材を相互に塑性流動(または溶融および固化)させて第1金属部材と第2金属部材とを接合する方法である。
【0003】
このような摩擦撹拌点接合方法を用いた接合装置においては、回転ツール側の面が平面である受け部材が用いられ、当該平面で第2金属部材を直接的に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等は、従来の装置により金属部材の接合を行った場合、十分な接合強度が得られないことを見出した。詳しくは、回転ツール側の面(すなわち第2金属部材の支持面)が平面である受け部材を用いると、
図6Aに示すように、押込み痕520近傍において、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)が起こり、第1金属部材511の残厚Tzが減少するため、十分に大きな接合強度が得られなかった。そこで、押圧部材の進入量を低減すると、
図6Bに示すように、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)が抑制され、第1金属部材511の残厚Tzの減少を抑制できるものの、略水平方向Qにおける第1金属部材と第2金属部材との接合が十分に行われないため、結果として十分に大きな接合強度が得られなかった。他方、押圧部材16の進入量を増大すると、
図6Cおよび
図6Dに示すように、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)がより一層起こり、第1金属部材511の残厚Tzがより一層減少するため、十分に大きな接合強度が得られなかった。
図6A~
図6Dはそれぞれ、従来技術の接合装置および接合方法(凹部を有さない受け部材を用いた接合装置および接合方法)で得られた接合体の一例の概略断面図であって、押込み痕近傍の拡大図である。特に
図6Bは、
図6Aの接合時よりも、より小さな回転ツール進入量にて得られた接合体における押込み痕近傍の拡大図である。
図6Cは、
図6Aの接合時よりも、より大きな回転ツール進入量にて得られた接合体における押込み痕近傍の拡大図である。
図6Dは、
図6Cの接合時よりも、より大きな回転ツール進入量にて得られた接合体における押込み痕近傍の拡大図である。
【0006】
一方、
図9に示すように、回転ツール516の交換をすることなく、様々な厚みの金属部材511,512を接合することを目的として、受け部材517における回転ツール側の面(すなわち第2金属部材の支持面)の中央部に凹部518を設ける技術が開示されている(特許文献1)。しかしながら、このような受け部材517を用いると、接合時において、凹部518の存在により、第1金属部材511および第2金属部材512における回転ツール516の直下部分は下がるので、第1金属部材511の残厚Tzがやはり減少し、十分に大きな接合強度が得られなかった。
図9は、従来技術における金属部材の接合装置(凹部を中央部に有する受け部材を用いた接合装置)を説明するための概略断面図である。
【0007】
本発明は、金属部材の接合を十分な強度で簡便に達成することができる金属部材の接合装置および接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
2つの金属部材を接合するための金属部材の接合装置であって、
前記2つの金属部材のうち第1金属部材に対して押圧力を付与する押圧部材;
前記2つの金属部材のうち第2金属部材を直接的に支持する受け部材;および
前記押圧部材および前記受け部材を相互に近接させるように駆動させる駆動制御装置
を含む、金属部材の接合装置であって、
前記受け部材は、前記押圧部材との対向面部の外周において、凹部を有している、金属部材の接合装置に関する。
【0009】
本発明はまた、
押圧部材と受け部材との間で、第1金属部材および第2金属部材を重ね合わせ、前記押圧部材による第1金属部材側からの押圧により前記第2金属部材に圧力を付与するとともに、熱を付与して前記第1金属部材および前記第2金属部材をそれらの界面で相互に塑性流動させて接合を行う熱圧式接合方法による金属部材の接合方法であって、
前記受け部材は、前記押圧部材との対向面部の外周において、凹部を有し、
前記押圧部材および前記受け部材を相互に近接させ、前記凹部に第2金属部材の一部を塑性流動させる、金属部材の接合方法に関する。
【0010】
本発明はまた、
第1金属部材と第2金属部材とが、それらの重なり部分において前記第1金属部材側からの押込み痕を有しながら、該押込み痕の周囲におけるそれらの界面で接合された接合体であって、
前記第2金属部材における前記第1金属部材側とは反対側の表面に前記第2金属部材の塑性流動による盛り上がり部を有している、金属部材の接合体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接合装置および接合方法によれば、金属部材の接合を十分な強度で簡便に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明にかかる金属部材の接合装置の一実施態様としての摩擦撹拌点接合装置の一部の一例を示す模式図である。
【
図2A】本発明の接合装置に使用される押圧部材(特に回転ツール)の一例の先端部の拡大図である。
【
図2B】本発明の接合装置に使用される押圧部材(特に回転ツール)の別の一例の先端部の拡大図である。
【
図3A】本発明の接合装置に使用される第1実施態様に係る押圧部材(特に回転ツール)および受け部材の概略断面図である。
【
図3B】本発明の接合装置に使用される第2実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
【
図3C】本発明の接合装置に使用される第3実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
【
図3D】本発明の接合装置に使用される第4実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
【
図3E】本発明の接合装置に使用される第5実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
【
図4A】本発明の接合装置および接合方法における押込み撹拌工程および撹拌維持工程の一例を説明するための概略断面図である。
【
図4B】本発明の接合装置および接合方法における押込み撹拌工程および撹拌維持工程の別の一例を説明するための概略断面図である。
【
図5A】本発明の接合装置および接合方法で得られた接合体の一例の概略断面図である。
【
図5B】本発明の接合装置および接合方法において、
図5Aの接合時よりも、より大きな回転ツール進入量にて得られた接合体の一例の概略断面図である。
【
図6A】従来技術の接合装置および接合方法(凹部を有さない受け部材を用いた接合装置および接合方法)で得られた接合体の一例の概略断面図であって、押込み痕近傍の拡大図である。
【
図6B】従来技術の接合装置および接合方法(凹部を有さない受け部材を用いた接合装置および接合方法)で得られた接合体の別の一例の概略断面図であって、押込み痕近傍の拡大図である。
【
図6C】従来技術の接合装置および接合方法(凹部を有さない受け部材を用いた接合装置および接合方法)で得られた接合体の別の一例の概略断面図であって、押込み痕近傍の拡大図である。
【
図6D】従来技術の接合装置および接合方法(凹部を有さない受け部材を用いた接合装置および接合方法)で得られた接合体の別の一例の概略断面図であって、押込み痕近傍の拡大図である。
【
図7】実施例における接合強度の測定方法を説明するための概略図である。
【
図8】実施例および比較例で得られた接合体の接合強度(最大引張せん断荷重)とツール挿入量との関係を示すグラフである。
【
図9】従来技術における金属部材の接合装置を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の接合装置および接合方法はそれぞれ、2つの金属部材を接合するための接合装置および接合方法である。詳しくは、本発明の接合装置および接合方法は、第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせ、押圧部材による第1金属部材側からの押圧により第2金属部材に圧力を付与するとともに、熱を付与して第1金属部材および第2金属部材をそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)させて第1金属部材と第2金属部材とを接合する熱圧式接合方法を採用する。熱および圧力は好ましくは局所的に付与される。本発明で採用される熱圧式接合方法は、押圧部材により圧力を付与しつつ、押圧部材または別の手段により熱を付与する方法である。好ましくは押圧部材により熱および圧力を第1金属部材側から局所的に付与する方法であり、より好ましくは摩擦撹拌点接合方法が採用される。
【0014】
摩擦撹拌点接合方法とは、後で詳述するように、第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせ、押圧部材としての回転ツールを回転させつつ、第1金属部材に押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により第1金属部材および第2金属部材をそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)させて第1金属部材と第2金属部材とを接合する方法である。
【0015】
以下、摩擦撹拌点接合方法を採用した本発明の接合装置および接合方法について、図面を用いて詳しく説明する。図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。尚、本明細書で直接的または間接的に用いる「上下方向」は、図中における上下方向に対応した方向に相当する。また特記しない限り、これらの図において、共通する符号は同じ部材、部位、寸法または領域を示すものとする。
【0016】
本明細書でいう「断面視」とは、後述する受け部材17の軸Y方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態に基づいており、断面図を包含する。特に「断面視」は、受け部材17の軸Y方向に平行な面であって、当該軸Yを通る面で切り取った場合の形態に基づいていてもよい。「平面視」とは、受け部材17の軸Y方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいており、平面図(上面図および下面図)を包含する。
【0017】
[摩擦撹拌点接合方法による金属部材の接合装置]
本発明の接合装置(摩擦撹拌点接合装置)について図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の摩擦撹拌点接合装置の一部の一例を模式的に示す図である。
図1に示される摩擦撹拌点接合装置1は、第1金属部材11と第2金属部材12とを摩擦撹拌点接合する装置として構成されており、第1金属部材に対して押圧力を付与する押圧部材として、円柱状の回転ツール16を具備している。
【0018】
回転ツール16は、第1金属部材11に押圧力を付与するとともに、自身の回転による第1金属部材11との摩擦により熱を発生させる部材である。回転ツール16は、詳しくは、図示したように、第1金属部材11が上、第2金属部材12が下になるように重ね合わされたワーク10に対し、図外の駆動源により、矢印A1のように該回転ツール16の中心軸線X(
図2A参照)回りに回転しつつ、矢印A2のように下方に向けて移動する。このとき、回転ツール16は第1金属部材11表面における押圧領域P(押圧予定領域)において圧力を付与する。この回転ツール16の押圧により摩擦熱が発生し、この摩擦熱が第2金属部材12に伝導して、第1金属部材11および第2金属部材12がそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)する。その結果、第1金属部材と第2金属部材とが接合される。
【0019】
図2Aは、回転ツール16の一例の先端部の拡大図である。
図2Aにおいて、右半分は回転ツール16の外観を示し、左半分は断面を示している。
図2Aに示すように、円柱状の回転ツール16は、金属部材と接触する先端部(または先端側)(
図2Aでは下端部または下端側)にピン部16a及び該ピン部を支持するショルダ部16bを有している。ショルダ部16bは、回転ツール16の円形の先端面を含む回転ツール16の先端の部分である。ピン部16aは、回転ツール16の中心軸線X上において、回転ツール16の円形の先端面から外方(
図2Aでは下方)に突設された、ショルダ部16bよりも小径の円柱状の部分である。ピン部16aは、回転している回転ツール16をワーク10に最初に接触させて押圧するときに回転ツール16を位置決めすることができる。回転ツール16は、詳しくは、先端側(特に受け部材17側の先端側)に、当該回転ツールの円形の先端面を含むショルダ部16b、および該回転ツールの円形の先端面から外方に突設された、ショルダ部よりも小径の円柱状のピン部16を有している。
【0020】
回転ツール16の素材及び各部の寸法は、主として、回転ツール16が押圧する第1金属部材11(または第1金属部材11および第2金属部材12)の金属の種類に応じて設定される。例えば、第1金属部材11がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる場合、回転ツール16は工具鋼(例えばSKD61等)で作製される。また、例えば、第1金属部材11がスチールよりなる場合、回転ツール16は窒化珪素やPCBN(立方晶窒化ホウ素焼結体)等で作製される。これらの場合、ショルダ部16bの直径D1は通常、5~20mmであり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは8~15mm、より好ましくは8~12mm(特に10mm)に設定される。ピン部16aの直径D2は通常、ショルダ部16bの直径D1に対して、0.2×D1(mm)以上0.8×D1(mm)以下であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.4×D1(mm)以上0.6×D1(mm)以下に設定される。ピン部16aの突出長さhは通常、第1金属部材11の厚みT1および第2金属部材の厚みT2に対して、1.00×T1(mm)以上0.95×(T1+T2)(mm)以下であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.10×T1(mm)以上0.95×(T1+T2)(mm)以下、より好ましくは1.20×T1(mm)以上0.95×(T1+T2)(mm)以下、さらに好ましくは1.30×T1(mm)以上0.95×(T1+T2)(mm)以下である。
【0021】
図2Bに示す回転ツール16’を用いてもよい。
図2Bは、回転ツールの別の一例の先端部の拡大図である。
図2Bにおいて、回転ツール16’はショルダ部16bがすり鉢状(円錐状)に窪んだ傾斜面16cを有すること以外、
図2Aの回転ツール16と同様である。
図2Bにおいて、ショルダ部16bの外周からピン部16aに近づくほど当該窪みの深さは深くなっている。これにより、回転ツール16’のショルダ部16bは、接合時において、外周部から第1金属部材と接触するようになるので、面方向(例えば水平面方向)での熱伝導が促進され、接合強度のさらなる向上を達成できる。傾斜面16cの傾斜角θは通常、15°以下であり、好ましくは1~15°、より好ましくは5~15°である。
【0022】
回転ツール16の下方には、
図1および
図3Aに示すように、回転ツール16と同径又は回転ツール16よりも大径の円柱状の受け部材17が回転ツール16と同軸に配置されている。例えば
図3Aに示すように、回転ツール16の軸Xと受け部材17の軸Yとが同一直線(例えば同一鉛直線)上に配置されるように、回転ツール16および受け部材17は設置されている。受け部材17は、第2金属部材12を直接的に支持する部材であり、上記ワーク10に対し、図外の駆動源により、矢印A3のように上方に移動される。受け部材17は、遅くとも回転ツール16がワーク10(特に第1金属部材11)の押圧を開始するまでに、上端面がワーク10(特に第2金属部材12)の下面に当接する。そして、受け部材17は、回転ツール16との間にワーク10を挟んで、回転ツール16による押圧期間中、つまり摩擦撹拌点接合中、上記押圧力に抗してワーク10を下方から支持する。なお、受け部材17は必ずしも矢印A3方向へ移動させる必要はなく、受け部材17にワーク10を載せた後に回転ツール16を矢印A2の方向に移動させる方法を採用することもできる。
図3Aは、本発明の接合装置に使用される第1実施態様に係る押圧部材(特に回転ツール)および受け部材の概略断面図である。
【0023】
受け部材17は、
図3Aに示すように、押圧部材(特に回転ツール)16との対向面部171の外周において、凹部172を有している。受け部材17における押圧部材16との対向面部とは、受け部材17における押圧部材16との対向面170(上面)において、押圧部材16と対向している部分(またはその領域)171のことである。詳しくは、当該対向面部171は、対向面170において、平面視により押圧部材16と重なる部分(またはその領域)のことである。対向面170は、仮に凹部172が形成されなかった場合において、ワーク10を支持する受け部材17の上面(特に平面)のことである。
【0024】
受け部材17は、このような対向面部171の外周部に、凹部を有している。詳しくは、受け部材17は、
図3Aに示すように、平面視において、対向面部171の外周(特にその輪郭線)1711が凹部172領域の範囲内に配置されるように、凹部172を有している。このような受け部材17の対向面170における凹部172の内側(または内周側)を特に内周部173と称するものとする。
【0025】
凹部172は、受け部材17の対向面170において、平面視で環状(特に円環状)に形成されている(例えば
図1参照)。このため、凹部172は「ドーナツ状溝」とも称され得る掘り込み溝の形態を有していてもよい。
【0026】
押圧部材16と受け部材17との相互の近接による第1金属部材11と第2金属部材12との接合時において、第2金属部材12の一部は、
図4Aに示すように、凹部172に移動(または塑性流動)する。このため、接合により得られる接合体においては、
図5Aおよび
図5Bに示すように、押込み痕20近傍において、第2金属部材の第1金属部材側への移動(または塑性流動)が抑制される。その結果、第1金属部材の残厚Tzを比較的大きく確保できるため、十分に大きな接合強度が得られるものと考えられる。押込み痕20近傍における第2金属部材の第1金属部材側への移動(または塑性流動)は「巻き上げ」とも称される。「塑性流動」とは、一定限度をこえる応力(または圧力)を受けた材料(または物質)に生じる不可逆的変形(または不可逆的流動)のことである。
図4Aは、本発明の接合装置および接合方法における押込み撹拌工程および撹拌維持工程の一例を説明するための概略断面図である。
図5Aは本発明の接合装置および接合方法で得られた接合体の一例の概略断面図である。
図5Bは、本発明の接合装置および接合方法において、
図5Aの接合時よりも、より大きな回転ツール進入量にて得られた接合体の一例の概略断面図である。
【0027】
受け部材17が対向面部171(
図3A参照)の外周に凹部172を有さない場合、十分に大きな接合強度が得られない。詳しくは、受け部材が対向面部の外周に凹部を有さない場合、
図6Aに示すように、押込み痕520近傍において、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)が起こり、第1金属部材511の残厚Tzが減少するため、十分に大きな接合強度が得られない。そこで、押圧部材16の進入量を低減すると、
図6Bに示すように、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)が抑制され、第1金属部材511の残厚Tzの減少を抑制できるものの、略水平方向Qにおける第1金属部材と第2金属部材との接合が十分に行われないため、結果として十分に大きな接合強度が得られない。他方、押圧部材16の進入量を増大すると、
図6Cおよび
図6Dに示すように、第2金属部材512の第1金属部材511側への移動(または塑性流動)がより一層起こり、第1金属部材511の残厚Tzがより一層減少するため、十分に大きな接合強度が得られない。受け部材が対向面部に凹部を有していても、
図9に示すように、凹部518が対向面部の外周ではなく、その内周側(または内周部もしくは中央部)に形成される場合、凹部518の存在により、第1金属部材511および第2金属部材512における回転ツール516の直下部分は全体として下がる。このため、第1金属部材511の残厚Tzがやはり減少し、十分に大きな接合強度が得られない。
【0028】
断面視における凹部172の内周寸法(または内径寸法)E1(
図3A参照)は、ショルダ部16bの直径D1(mm)およびピン部16aの直径D2(mm)(D2<D1)に対して、D2(mm)以上D1(mm)以下(特にD2超D1未満)であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.00×D2(mm)以上1.50×D2(mm)以下、より好ましくは1.10×D2(mm)以上1.40×D2(mm)以下、さらに好ましくは1.15×D2(mm)以上1.35×D2(mm)以下である。
【0029】
断面視における凹部172の外周寸法(または外径寸法)E2は、ショルダ部16bの直径D1(mm)に対して、D1(mm)超(例えば1.05×D1(mm)以上2.00×D1(mm)以下)であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.10×D1(mm)以上1.40×D1(mm)以下、より好ましくは1.10×D1(mm)以上1.20×D1(mm)以下、さらに好ましくは1.10×D1(mm)以上1.15×D1(mm)以下である。
【0030】
断面視における凹部172の幅寸法wは、第2金属部材12の凹部172への移動(または塑性流動)が起こる限り特に限定されず、例えば、ショルダ部16bの直径D1(mm)に対して、0.10×D1(mm)以上(特に0.10×D1(mm)以上2.00×D1(mm)以下)であってもよく、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.20×D1(mm)以上1.00×D1(mm)以下、より好ましくは0.30×D1(mm)以上0.70×D1(mm)以下、さらに好ましくは0.40×D1(mm)以上0.60×D1(mm)以下である。
【0031】
断面視における凹部172の深さ寸法kは、第2金属部材12の凹部172への移動(または塑性流動)が起こる限り特に限定されず、例えば、第2金属部材の厚みT2に対して、0.10×T2(mm)以上(特に0.10×T2(mm)以上2.00×T2(mm)以下)であってもよく、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.20×T2(mm)以上1.00×T2(mm)以下、より好ましくは0.30×T2(mm)以上0.70×T2(mm)以下、さらに好ましくは0.40×T2(mm)以上0.60×T2(mm)以下である。
【0032】
断面視において、凹部172は、
図3Aに示すように略方形状を有しているが、これに限定されず、例えば、
図3Bに示すように、断面視においてすり鉢状に傾斜した傾斜面1720を有していてもよい。凹部172は、接合強度のさらなる向上の観点から、断面視において、
図3Bに示すようにすり鉢状に傾斜した傾斜面1720を有していることが好ましい。傾斜面1720の傾斜角αは通常、80°以下であり、好ましくは1~45°、より好ましくは10~45°であり、さらに好ましくは20~40°である。
図3Bは、本発明の接合装置に使用される第2実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
図3Bに示される受け部材17は、凹部172に傾斜面1720を有すること以外、
図3Aに示される受け部材と同様である。
【0033】
断面視における受け部材17の外周寸法(または外径寸法)E3は、凹部172の外周寸法E2超である限り特に限定されない。断面視における受け部材17の外周寸法E3は、具体的には、凹部172の外周寸法E2に対して、E2(mm)超(例えば1.05×E2(mm)以上2.00×E2(mm)以下)であり、特に1.10×E2(mm)以上1.40×E2(mm)以下であってもよい。
【0034】
受け部材17は、
図3Cに示すように、平面視において凹部172の内周側に配置された内周部173に凸部1730を有してもよい。これにより、
図4Bに示すように、比較的少ない進入量(d1+d2)であっても、第2金属部材12の第1金属部材側への移動(または塑性流動)を抑制できる。このため、第1金属部材11の残厚Tzを比較的大きく確保でき、結果として、良好なエネルギー効率で、十分に大きな接合強度が得られる。
図3Cは、本発明の接合装置に使用される第3実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
図3Cに示される受け部材17は、内周部173に凸部1730を有すること以外、
図3Aに示される受け部材と同様である。
【0035】
凸部1730は通常、円柱形状、三角柱形状もしくは四角柱形状等の柱形状、または円錐台形状、三角錐形状もしくは四角錐形状等の錐台形状を有している。凸部1730は、エネルギー効率および接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは円柱形状または円錐台形状を有し、より好ましくは円錐台形状を有する。
【0036】
凸部1730の幅寸法E4(断面視)は通常、凹部の内周寸法E1に対して、0.40×E1(mm)以上1.00×E1(mm)以下であり、エネルギー効率および接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.60×E1(mm)以上1.00×E1(mm)以下、より好ましくは0.70×E1(mm)以上0.90×E1(mm)以下、さらに好ましくは0.75×E1(mm)以上0.95×E1(mm)以下である。
【0037】
凸部1730の高さ寸法m(断面視)は、第2金属部材の厚みT2に対して、0.10×T2(mm)以上1.00×T2(mm)以下であり、エネルギー効率および接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.20×T2(mm)以上0.90×T2(mm)以下、より好ましくは0.30×T2(mm)以上0.70×T2(mm)以下、さらに好ましくは0.40×T2(mm)以上0.60×T2(mm)以下である。
【0038】
断面視において凸部1730が有する側面の傾斜角β(
図3C参照)は通常、80°以下(特に0℃以上80℃以下)であり、エネルギー効率および接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0~45°、より好ましくは20~40°であり、さらに好ましくは25~35°である。
【0039】
受け部材17は、エネルギー効率および接合強度のさらなる向上の観点から、
図3Dに示すように、凹部172に傾斜面1720を有し、かつ内周部173に凸部1730を有することが好ましい。
図3Dは、本発明の接合装置に使用される第4実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
図3Dに示される受け部材17は、凹部172に傾斜面1720を有し、かつ内周部173に凸部1730を有すること以外、
図3Aに示される受け部材と同様である。
【0040】
受け部材17は、凹部172の深さを可変設定可能に構成されていることが好ましい。例えば、
図3Aに示す受け部材17は、
図3Eに示すように、第1筒状部材17a(特に第1円筒状部材)、当該第1筒状部材17aの内径に等しい外径を有する第2筒状部材17b(特に第2円筒状部材)、および当該第2筒状部材17bの内径に等しい外径を有する第3中実部材(特に第3円柱状部材)から構成されている分割嵌合型受け部材17’であることが好ましい。第1筒状部材17a(特に第1円筒状部材)はその内周面で第2筒状部材17b(特に第2円筒状部材)(特にその外周面)と嵌合し、第2筒状部材17b(特に第2円筒状部材)はその内周面で第3中実部材(特に第3円柱状部材)(特にその外周面)と嵌合している。このような受け部材17’を用いることにより、凹部172の深さ寸法を容易に変更することができるため、受け部材を頻繁に交換しなくても、第1金属部材および第2金属部材の様々な材質および寸法に対応することができる。
図3Eは、本発明の接合装置に使用される第5実施態様に係る受け部材の概略断面図である。
図3Eに示される受け部材17’は、第1筒状部材17a、第2筒状部材17bおよび第3中実部材17cに分割されて構成されていること以外、
図3Aに示される受け部材と同様である。
【0041】
摩擦撹拌点接合装置1は通常、押圧部材(特に回転ツール)16および受け部材17を相互に近接させるように駆動させる駆動制御装置(図示せず)を含む。駆動制御装置は、押圧部材(特に回転ツール)の駆動(特に押圧駆動および/または回転駆動、好ましくは押圧駆動および回転駆動)ならびに受け部材17の駆動(特に上下移動のための上下駆動)を制御する。
【0042】
受け部材17が内周部173に凸部を有さない場合、駆動制御装置は、押圧部材(特に回転ツール)16の進入量d1を制御することができる。この場合、押圧部材(特に回転ツール)16の進入量d1(mm)は、第2金属部材12の凹部172への移動(または塑性流動)が起こる限り特に限定されず、通常は、第1金属部材の厚みT1に対して、0.80×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下(特に1.10×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下)であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.30×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下、より好ましくは1.40×T1(mm)以上1.85×T1(mm)以下、さらに好ましくは1.50×T1(mm)以上1.80×T1(mm)以下である。なお、この場合、駆動制御装置は、回転ツールが接合体を貫通することがないように、d1<T1+T2(特にd1<T1+T2-0.5)を満たすように制御する。
【0043】
受け部材17が内周部173に凸部を有する場合、駆動制御装置は、押圧部材(特に回転ツール)16の進入量d1および受け部材17(特に凸部1730)の進入量d2の合計進入量を制御することができる。この場合、押圧部材(特に回転ツール)16の進入量d1および受け部材17(特に凸部1730)の進入量d2の合計進入量(mm)は、第2金属部材12の凹部172への移動(または塑性流動)が起こる限り特に限定されず、通常は、第1金属部材の厚みT1に対して、0.80×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下(特に1.10×T1(mm)以上1.90×T1(mm)以下)であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.10×T1(mm)以上1.70×T1(mm)以下、より好ましくは1.20×T1(mm)以上1.50×T1(mm)以下であり、さらに好ましくは1.30×T1(mm)以上1.50×T1(mm)以下である。なお、この場合、駆動制御装置は、回転ツールが接合体を貫通することがないように、d1+d2<T1+T2(特にd1+d2<T1+T2-0.5)を満たすように制御する。
【0044】
駆動制御装置は、後で詳述するように、回転ツールの金属部材への加圧力および加圧時間および回転数を制御する圧力制御方式を採用してもよいし、または回転ツールの座標位置、特定位置での保持時間および回転数を制御する位置制御方式を採用してもよい。
【0045】
なお、
図1には図示を省略したが、摩擦撹拌点接合装置1は、予めワーク10を固定し、また回転ツール16を押圧したときの金属部材11の浮き上がりを防止するためのスペーサやクランプ等の治具を備えていてもよい。
【0046】
第1金属部材11および第2金属部材12の各々は、
図1等において、全体形状として略平板形状を有しているが、これに限定されるものではない。第1金属部材11および第2金属部材12の各々は少なくとも相互に重ね合わせる部分が略平板形状を有する限り、いかなる形状を有していてもよい。第1金属部材11および第2金属部材12の各々において相互に重ね合わせる部分は両面ともに通常、平面から構成されている。
【0047】
第1金属部材11および第2金属部材12の各々を構成する金属としては、特に限定されず、あらゆる金属が使用可能である。中でも、自動車の分野で使用されている以下の金属および合金が好ましく使用される:
アルミニウム;
5000系、6000系などのアルミニウム合金;
スチール;
マグネシウムおよびその合金;
チタンおよびその合金。
【0048】
第1金属部材11および第2金属部材12の各々を構成する金属はそれぞれ独立して、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくはアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、より好ましくはアルミニウム合金である。
【0049】
第1金属部材11の厚みT1(
図4A参照)は通常、1mm以上であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは1.5mm以上(特に1.5~10mm)であり、より好ましくは1.8~5mm、さらに好ましくは1.8~3mm、最も好ましくは1.9~2.5mmである。第1金属部材11の上記厚みT1は、第1金属部材11において第2金属部材12と重ね合わせる略平板形状部分の厚み(接合処理前の厚み)であってもよい。
【0050】
第2金属部材12の厚みT2(
図4A参照)は通常、第1金属部材の厚みT1に対して、0.50×T1(mm)以上(特に0.90×T1(mm)以上5.00×T1(mm)以下)であり、1.00×T1(mm)以上2.00×T1(mm)以下であってもよい。第2金属部材12の上記厚みT2は、第2金属部材12において第1金属部材11と重ね合わせる略平板形状部分の厚みT2(接合処理前の厚み)であってもよい。
【0051】
[摩擦撹拌点接合方法による金属部材の接合方法および接合体]
本発明の金属部材の接合方法は、上記した本発明の金属部材の接合装置を用いる。詳しくは、熱圧式接合方法において、例えば
図4Aおよび
図4Bに示すように、押圧部材16(16’)と受け部材17との間で、第1金属部材11および第2金属部材12を重ね合わせ、押圧部材16(16’)による第1金属部材側からの押圧により第2金属部材12に圧力を付与するとともに、熱を付与して第1金属部材11および第2金属部材12をそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)させて接合を行う。このとき、受け部材17は、押圧部材16(16’)との対向面部の外周において凹部172を有するため、押圧部材16(16’)および受け部材17を相互に近接させると、凹部172に第2金属部材12の一部が塑性流動する。
【0052】
本発明の接合方法により接合された接合体は、
図5Aおよび
図5Bに示すように、第1金属部材11と第2金属部材12とが、それらの重なり部分において第1金属部材側からの押込み痕20を有しながら、当該押込み痕20の周囲におけるそれらの界面で接合されている。押込み痕20とは、押圧部材(特に回転ツール)16による押込み痕であり、第1金属部材11表面から第1金属部材を貫通して、第2金属部材12に達している押込み窪みのことである。接合は、押込み痕20の周囲における第1金属部材11と第2金属部材12との界面で達成されており、詳しくは第1金属部材11および第2金属部材12がそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)することにより達成されている。このような接合体は、第2金属部材12における第1金属部材11側とは反対側の表面に第2金属部材12の塑性流動による盛り上がり部121を有している。盛り上がり部121が形成されることにより、押込み痕20近傍における第2金属部材の第1金属部材側への移動(または塑性流動)が抑制される。その結果、第1金属部材の残厚Tzを比較的大きく確保できるため、十分に大きな接合強度が得られるものと考えられる。
【0053】
接合体における第1金属部材の残厚Tz(断面視)は通常、第1金属部材の厚みをT1(mm)としたとき、0.50×T1(mm)以上1.25×T1(mm)以下(特に0.50×T1(mm)以上0.90×T1(mm)以下)であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.60×T1(mm)以上0.90×T1(mm)、より好ましくは0.65×T1(mm)以上0.85×T1(mm)である。
【0054】
第1金属部材11の残厚Tzは、接合体の断面視における押込み痕20近傍の第1金属部材11の厚みのことである。本発明における第1金属部材11の残厚Tzは、断面視において盛り上がり部121の最大高さを規定する頂点M(
図5Aおよび
図5B参照)を通る厚み方向(すなわち押圧部材16の軸X方向または受け部材17の軸方向Y)での第1金属部材11の厚みを用いている。本発明における第1金属部材11の残厚Tzは、任意の10枚の断面視における第1金属部材11の厚みの平均値を用いている。第1金属部材11および第2金属部材12における押込み痕20近傍では相互の塑性流動(または溶融および固化)が起こっているが、それらの界面(または境界)は観察することができる。
【0055】
盛り上がり部121は、後述する接合方法において、押圧部材(特に回転ツール)16および受け部材17が相互に近接することで、第2金属部材の一部が受け部材17の凹部172内に塑性流動することにより形成される。よって、盛り上がり部121は受け部材17の凹部172に対応する位置に配置されている。接合体における押込み痕20より押圧部材(特に回転ツール)16の寸法D1およびD2を特定することができ、また押込み痕20の間隔および寸法から受け部材17の寸法E1、E2およびwを特定することができる。このため、盛り上がり部121の配置は、受け部材17の凹部172の配置と同様の規定により表すことができる。
【0056】
盛り上がり部121の高さnは通常、第2金属部材12の厚みをT2(mm)としたとき、0.10×T2(mm)以上0.90×T2(mm)以下であり、接合強度のさらなる向上の観点から、好ましくは0.20×T2(mm)以上0.80×T2(mm)以下であり、より好ましくは0.40×T2(mm)以上0.60×T2(mm)以下である。
【0057】
本発明に係る摩擦撹拌点接合方法による金属部材の接合方法は少なくとも以下のステップ:
第1金属部材11と第2金属部材12とを重ね合わせる第1ステップ;および
回転ツール16を回転させつつ、第1金属部材11に押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により第1金属部材11および第2金属部材12をそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融および固化)させて第1金属部材11と第2金属部材12とを接合する第2ステップ:
を含むものである。
【0058】
第1ステップにおいては、
図1に示すように、第1金属部材11と第2金属部材12とを所望の接合部位で重ね合わせる。
【0059】
第2ステップにおいては、第1金属部材11および第2金属部材12が回転ツール近傍においてそれらの界面で相互に塑性流動(または溶融)するように、回転ツールの駆動を制御する。第2ステップにおいては、上記したように、回転ツールの加圧力、加圧時間および回転数を制御する圧力制御方式、または回転ツールの座標位置、特定位置での保持時間および回転数を制御する位置制御方式を採用する。以下、圧力制御方式を採用する第2ステップを第1実施態様として説明し、位置制御方式を採用する第2ステップを第2実施態様として説明する。
【0060】
<第1実施態様:圧力制御方式>
本実施態様の第2ステップにおいては、回転ツール16を第1金属部材11側から押し込んで、第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さまで進入させる押込み撹拌工程C2を少なくとも行うことが好ましい。
【0061】
本実施態様の第2ステップにおいては、前記押込み撹拌工程の前に、回転ツール16の先端部を第1金属部材11の表面部に接触させた状態で上記回転ツール16を回転させる予熱工程C1を行うことが好ましいが、必ずしも行わなければならないというわけではない。
【0062】
前記押込撹拌工程の後に、回転ツール16を前記押込み撹拌工程で進入させた位置で、回転ツール16の回転動作を継続させる撹拌維持工程C3を行うことが好ましいが、当該工程も必ずしも行わなければならないというわけではない。
【0063】
以下、本実施態様におけるこれらの工程について詳しく説明する。
【0064】
(予熱工程C1)
予熱工程C1は、回転ツール16と受け部材17とを相互に近接させることにより、回転ツール16の先端部(または「ピン部16a」もしくは「ピン部16aおよびショルダ部16b」)を第1金属部材11の表面に接触させた状態で回転ツール16を回転させる工程である。予熱工程C1では、回転ツール16を、第1の加圧力で、第1の加圧時間だけ、所定回転数で回転させる。
【0065】
具体的には、予熱工程C1では、回転ツール16の押圧により第1金属部材11の表面部で摩擦熱が発生する。摩擦熱は第1金属部材11の内部に伝わり、第1金属部材11の押圧領域P(回転ツール16による押圧領域)の範囲及び押圧領域Pの近傍の範囲が予熱される。これにより、次の押込み撹拌工程C2で、回転ツール16を金属部材11に押込み易くなる。
【0066】
予熱工程C1の第1の加圧力及び第1の加圧時間は、回転ツール16の押込み易さの観点及び第2金属部材12の塑性流動のし易さの他、生産性の観点から設定され、その値は、例えば回転ツール16の回転数、第1金属部材11および第2金属部材12の厚みおよび素材の種類等に依存して変化する。例えば、1.5mm以上3mm以下の厚みを有し、かつアルミニウム合金から構成される第1金属部材11および第2金属部材12を使用する場合、予熱工程C1における第1の加圧力は、600N以上1300N未満が好ましい。第1の加圧時間は、0.5秒以上2.0秒以下が好ましい。回転ツールの回転数は2000rpm以上4000rpm以下が好ましい。
【0067】
本工程における入熱量は、第1の加圧力の大きさ、第1の加圧時間の長さ、および回転ツールの回転数の大きさによって決まる。
【0068】
(押込み撹拌工程C2)
押込み撹拌工程C2では、回転ツール16と受け部材17とを相互に近接させることにより、
図4Aおよび
図4Bに示すように、回転ツール16を第1金属部材11および第2金属部材12に押し込む。押込み撹拌工程C2を予熱工程C1に次いで行う場合には、回転ツール16と受け部材17とをさらに相互に近接させることにより、
図4Aおよび
図4Bに示すように、回転ツール16を第1金属部材11および第2金属部材12に押し込む。これにより、回転ツール16を第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さまで進入させる。このとき、詳しくは、回転ツール16(特にピン部)を、
図4Aおよび
図4Bに示すように、第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さであって、第2金属部材12の底面まで達しない深さまで進入させることが好ましい。これにより、受け部材17の凹部172への第2金属部材12の塑性流動を促進させることができる。
【0069】
回転ツール(特にそのピン部)の押込みは、駆動制御装置により行われる。第2金属部材12との境界面に達する深さであって、第2金属部材12の底面まで達しない深さとは、以下の進入量のことである;
・受け部材17が内周部173に凸部を有さない場合における、上記した押圧部材(特に回転ツール)16の進入量(d1);および
・受け部材17が内周部173に凸部を有する場合における、上記した押圧部材(特に回転ツール)16の進入量d1および受け部材17(特に凸部1730)の進入量d2の合計進入量(d1+d2)。
【0070】
押込み撹拌工程C2では、回転ツール16を、第1の加圧力より大きい第2の加圧力で、第1の加圧時間より短い第2の加圧時間だけ、所定回転数で回転させる。
【0071】
押込み撹拌工程C2では、加圧力が予熱工程C1よりも大きくなることにより、回転ツール16が第1金属部材11および第2金属部材12に押し込まれる。すなわち、回転ツール16が第1金属部材11の内部に深く進入し、第2金属部材12に達する。好ましくは、この回転ツール16の押込みにより、受け部材17の凹部172への第2金属部材12の塑性流動を促進させる。回転ツール16の押込みは、回転ツール16が第1金属部材11および第2金属部材12を貫通することがないように行う。回転ツール16が第1金属部材11および第2金属部材12を貫通すると、接合体は回転ツール16が通過した孔が開いた孔開き状態となり、接合不良が起きる。
【0072】
押込み撹拌工程C2の第2の加圧力及び第2の加圧時間は、上記のような接合体の孔開き回避の観点及び回転ツール16をできるだけ第2金属部材12の底面に近接させる観点から設定され、その値は、例えば回転ツール16の回転数、第1金属部材11および第2金属部材12の厚みおよび素材の種類等に依存して変化する。例えば、1.5mm以上3mm以下の厚みを有し、かつアルミニウム合金から構成される第1金属部材11および第2金属部材12を使用する場合、押込み撹拌工程C2における第2の加圧力は、1300N以上2200N未満が好ましい。第2の加圧時間は、0.5秒以上10.0秒以下が好ましい。回転ツールの回転数は2000rpm以上4000rpm以下が好ましい。
【0073】
本工程における入熱量は、第2の加圧力の大きさ、第2の加圧時間の長さ、および回転ツールの回転数の大きさによって決まる。
【0074】
(撹拌維持工程C3)
撹拌維持工程C3は、回転ツール16と受け部材17との相互近接を停止することにより、同じく
図4Aおよび
図4Bに示すように、上記した深さまで進入させた位置(これを「基準位置」という)で回転ツール16の回転動作を継続させる工程である。撹拌維持工程C3では、回転ツール16を、第1の加圧力より小さい第3の加圧力で、第1の加圧時間より長い第3の加圧時間だけ、所定回転数で回転させる。
【0075】
撹拌維持工程C3では、加圧力が予熱工程C1よりも小さくなることにより(もちろん押込み撹拌工程C2よりも小さくなることにより)、回転ツール16が上記基準位置にほぼ維持される。この基準位置で回転ツール16の回転動作が継続されるため、多量の摩擦熱が発生し、発生した摩擦熱の大部分が第2金属部材12に移動する。そのため、第2金属部材12の凹部172への塑性流動がより一層促進される。
【0076】
撹拌維持工程C3の第3の加圧力及び第3の加圧時間は、より一層促進される第2金属部材12の凹部172への塑性流動および生産性の観点から設定され、その値は、例えば回転ツール16の回転数、第1金属部材11および第2金属部材12の厚みおよび素材の種類等に依存して変化する。例えば、1.5mm以上3mm以下の厚みを有し、かつアルミニウム合金から構成される第1金属部材11および第2金属部材12を使用する場合、撹拌維持工程C3における第3の加圧力は、100N以上1200N未満が好ましい。第3の加圧時間は、1.0秒以上10.0秒以下が好ましい。回転ツールの回転数は2000rpm以上4000rpm以下が好ましい。
【0077】
本工程における入熱量は、第3の加圧力の大きさ、第3の加圧時間の長さ、および回転ツールの回転数の大きさによって決まる。
【0078】
本実施態様において撹拌維持工程C3を行った後は、通常、押圧部材16を接合体から離間させ、放置冷却する。外部から強制的に冷却してもよい。
【0079】
<第2実施態様:位置制御方式>
本実施態様の第2ステップにおいても、回転ツール16を第1金属部材11および第2金属部材12に押し込んで、第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さまで進入させる押込み撹拌工程C2を少なくとも行うことが好ましい。
【0080】
本実施態様の第2ステップにおいては、前記押込み撹拌工程の前に、回転ツール16の先端部のみを金属部材11の表面部に接触させた状態で上記回転ツール16を回転させる予熱工程C1を行ってもよいが、位置制御方式を採用するため、行わなくてもよい。
【0081】
前記押込撹拌工程の後に、回転ツール16を前記押込み撹拌工程で進入させた位置で、回転ツール16の回転動作を継続させる撹拌維持工程C3を行うことが好ましいが、当該工程も必ずしも行わなければならないというわけではない。
【0082】
以下、本実施態様におけるこれらの工程について詳しく説明する。
【0083】
(押込み撹拌工程C2)
本実施態様の押込み撹拌工程C2は、位置制御方式を採用すること以外、第1実施態様の押込み撹拌工程C2と同様である。詳しくは、本実施態様の押込み撹拌工程C2では、
図4Aおよび
図4Bに示すように、回転ツール16を、所定回転数で回転させつつ、所定の深さまで進入させる。押込み撹拌工程C2では、回転ツール16を所定の深さまで進入させることにより、第2金属部材12の一部を受け部材17の凹部172に塑性流動させる。
【0084】
所定の深さとは、圧力制御方式の押込み撹拌工程C2における「第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さ」と同様の深さであり、好ましくは「第1金属部材11と第2金属部材12との境界面に達する深さであって、第2金属部材12の底面まで達しない深さ」と同様の深さである。
【0085】
本実施態様においても、回転ツール16の押込みは、回転ツール16が第1金属部材11および第2金属部材12を貫通することがないように行う。回転ツール16が第1金属部材11および第2金属部材12を貫通すると、接合体は回転ツール16が通過した孔が開いた孔開き状態となり、接合不良が起きる。
【0086】
回転ツール16が所定の深さまで進入した時点で、回転ツール16の押込み移動を停止する。
【0087】
回転ツールの回転数は2000rpm以上4000rpm以下が好ましい。
【0088】
本工程における入熱量は、回転ツールの進入時間および回転ツールの回転数によって決まり、当該回転ツールの進入時間は回転ツールの進入量及び進入速度で決まる。
【0089】
本工程において回転ツールの進入速度は特に限定されず、例えば、10~100mm/分、特に20~50mm/分が好ましい。
【0090】
(撹拌維持工程C3)
本実施態様の撹拌維持工程C3は、位置制御方式を採用するため第1金属部材11および第2金属部材12に対して圧力を付与しないこと以外、第1実施態様の撹拌維持工程C3と同様である。回転ツール16により第1金属部材11および第2金属部材12に対して圧力を付与することなく、
図4Aおよび
図4Bに示すように、回転ツール16を前記押込み撹拌工程C2で進入させた位置で回転ツール16の回転動作を継続させる。これにより、多量の摩擦熱が発生し、発生した摩擦熱の大部分が第2金属部材12に移動する。そのため、第2金属部材12の凹部172への塑性流動がより一層促進される。
【0091】
撹拌維持工程C3では、回転ツール16を上記所定の位置で所定の時間だけ保持しつつ、所定回転数で回転させる。
【0092】
撹拌維持工程C3の保持時間は、より一層促進される第2金属部材12の凹部172への塑性流動および生産性の観点から設定され、その値は、例えば回転ツール16の回転数、第1金属部材11および第2金属部材12の厚みおよび素材の種類等に依存して変化する。例えば、1.5mm以上3mm以下の厚みを有し、かつアルミニウム合金から構成される第1金属部材11および第2金属部材12を使用する場合、撹拌維持工程C3における保持時間は、0秒以上10.0秒未満が好ましい。回転ツールの回転数は2000rpm以上4000rpm以下が好ましい。保持時間が0秒であることは、本実施態様において撹拌維持工程C3は行わなくてもよいことを意味する。上記押込み撹拌工程C2における回転ツールの進入時間だけでも、入熱量を調整できるためである。特に、上記押込み撹拌工程C2において回転ツールの進入量、進入速度および回転数が上記範囲内であるとき、本撹拌維持工程C3における保持時間は通常、0秒以上5.0秒未満である。
【0093】
本工程における入熱量は、保持時間の長さ、および回転ツールの回転数の大きさによって決まる。
特に、上記保持時間は上記範囲内で長いほど、第2金属部材12の塑性流動はより一層促進される。
【0094】
本実施態様においても撹拌維持工程C3を行った後は、通常、押圧部材16を接合体から離間させ、放置冷却する。外部から強制的に冷却してもよい。
【実施例0095】
[金属部材]
第1金属部材および第2金属部材として、6000系のアルミニウム合金製の平板状部材(縦100mm×横30mm×厚さ2.0mm(=T1=T2))を用いた。
【0096】
[回転ツール]
図2Bに示す回転ツール16’(D1=10mm、D2=5mm(=0.5×D1)、h=2.8mm(=1.40×T1)、θ=14°;工具鋼製)を用いた。
【0097】
[受け部材]
以下の3種類の受け部材を用いた。
(1)
図3Bに示す受け部材17(E1=6.3mm、E2=11.3mm、E3=16.0mm、w=2.5mm、k=1.0mm、α=30°;工具鋼製)を用いた。
(2)
図3Dに示す受け部材17(E1=6.3mm、E2=11.3mm、E3=16.0mm、E4=5.0mm(=0.79×E1)、w=2.5mm、k=m=1.0mm(=0.50×T2)、α=β=30°;工具鋼製)を用いた。
(3)凹部172を有さないこと以外、
図3Aに示す受け部材17と同様の受け部材を用いた。当該受け部材における回転ツール側の面(上面)は平面であった。以下、このような受け部材を「平面受け部材」という。
【0098】
[実施例A1](位置制御方式)
図2Bに示す回転ツール16’および
図3Bに示す受け部材17を用いて、以下の方法により、第1金属部材11と第2金属部材12との接合体を製造した。
第1ステップ:
第1金属部材11の端部と第2金属部材12の端部とを
図1に示すように重ね合わせた。
【0099】
第2ステップ:
まず、
図4Aに示すように、回転ツール16’の進入量(d1)が3.15mm(d1=1.58×T1)となるように、進入速度30mm/分にて、回転ツール16’を第1金属部材11および第2金属部材12に押し込んだ(押込み撹拌工程C2:ツール回転数3000rpm)。d2=0mm。
その後、回転ツール16’を第1金属部材11および第2金属部材12から離間させ、放置冷却を行い、接合体を得た。盛り上がり部121の高さnおよび断面視における第1金属部材11の残厚Tzをそれぞれ任意の10箇所で測定し、平均値を求めた。
実施例A1;n=0.9mm、Tz=1.7mm
【0100】
[実施例A2~A3]
押込み撹拌工程C2において、回転ツール16’の進入量(d1)が3.35mm(=1.68×T1)または3.50mm(=1.75×T1)となるように、回転ツール16’を押し込んだこと以外、実施例A1と同様の方法により、第1金属部材と第2金属部材との接合体を得た。盛り上がり部121の高さnおよび断面視における第1金属部材11の残厚Tzをそれぞれ任意の10箇所で測定し、平均値を求めた。
実施例A2;n=1.0mm、Tz=1.5mm
実施例A3;n=1.0mm、Tz=1.3mm
【0101】
[実施例B1](位置制御方式)
図2Bに示す回転ツール16’および
図3Dに示す受け部材17を用いたこと、および押込み撹拌工程C2において、
図4Bに示すように、回転ツール16’および受け部材の合計進入量(d1+d2)が2.75mm(=1.38×T1)となるように、回転ツール16’を押し込んだこと以外、実施例A1と同様の方法により、第1金属部材と第2金属部材との接合体を得た。盛り上がり部121の高さnおよび断面視における第1金属部材11の残厚Tzをそれぞれ任意の10箇所で測定し、平均値を求めた。
実施例B1;n=0.5mm、Tz=1.5mm
【0102】
[比較例C1~C5](位置制御方式)
図2Bに示す回転ツール16’および平面受け部材を用いたこと、および押込み撹拌工程C2において、回転ツール16’の進入量(d1)が2.50mm、2.65mm、2.80mm、3.00mmまたは3.10mmとなるように、回転ツール16’を押し込んだこと以外、実施例A1と同様の方法により、第1金属部材と第2金属部材との接合体を得た。盛り上がり部の高さnおよび断面視における第1金属部材11の残厚Tzをそれぞれ任意の10箇所で測定し、平均値を求めた。
比較例C1;n=0mm、Tz=1.5mm
比較例C2;n=0mm、Tz=1.3mm
比較例C3;n=0mm、Tz=1.2mm
比較例C4;n=0mm、Tz=1.0mm
比較例C5;n=0mm、Tz=0.9mm
【0103】
[接合強度]
図7に示すように、第1金属部材11と第2金属部材12との接合体を治具100内に配置した。治具100は、該治具100を下方へ引っ張ることにより第2金属部材12の上端部に下方への力が働くように構成されたものである。治具100を固定し、かつ第1金属部材11を上方へ引っ張ることにより、第2金属部材12の上端部に下方への力が働き、第2金属部材12の母材強度に影響を受けることなく接合部の剪断強度S(最大引張せん断荷重)を測定した。
測定値とツール進入量との関係を
図8のグラフに示した。
【0104】
本発明の接合装置および接合方法を用いて得られた実施例A1~A3およびB1の接合体は、凹部を有さない平面受け部材を用いて得られた比較例C1~C5の接合体よりも、十分に向上した接合強度を示した。
凹部を有し、かつその内側の内周部に凸部を有する実施例B1の接合体は、凹部を有するが、その内側の内周部に凸部を有さない実施例A1~A3の接合体よりも、少ないツール挿入量で略同等の接合強度を示した。これは以下のメカニズムに基づくものと考えられる。受け部材が内周部に凸部を有することにより、第2金属部材の凹部への塑性流動が促進される。このため、より少ないツール挿入量で略同等の残厚Tzが確保され、結果として略同等の接合強度を示す。