(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171369
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラス
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20221104BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20221104BHJP
G02B 1/16 20150101ALI20221104BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221104BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20221104BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20221104BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B5/22
G02B1/16
B32B27/00 M
B32B27/20 Z
B32B27/00 L
B32B7/06
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077969
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮古 強臣
(72)【発明者】
【氏名】平間 智
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA06
2H148CA13
2H148CA24
2H148CA27
2K009AA15
2K009BB11
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2K009EE03
2K009EE05
4F100AA28B
4F100AG00E
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA03
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4F100BA05
4F100BA10A
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4F100BA10E
4F100CA05B
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4F100CB05C
4F100CB05D
4F100DE01B
4F100EJ54
4F100GB07
4F100GB32
4F100JB14B
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4F100JD10B
4F100JG01B
4F100JK12B
4F100JK17
4F100JL06B
4F100JL13C
4F100JL13D
4F100JL14E
4F100JN01
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】熱線遮蔽性能に優れ且つ帯電防止性能にも優れたハードコート層付フィルムを提供する。
【解決手段】フィルム基材上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付フィルムであって、前記金属酸化物粒子の体積含有率が15~29%であり、前記金属酸化物粒子の平均粒子径が30~200nmであり、前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであり、前記フィルム基材の厚さが16~50μmであるハードコート層付フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付フィルムであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであり、
前記フィルム基材の厚さが16~50μmであるハードコート層付フィルム。
【請求項2】
前記ハードコート層の表面抵抗が1×108~1×1014Ω/スクエアである、請求項1に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項3】
日射透過率が80%以下である、請求項1又は2に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子が、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、スズ含有酸化インジウム粒子及びセシウム含有酸化タングステン粒子からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層が、紫外線吸収剤、光安定剤及びフッ素系防汚剤からなる群から選択される少なくとも一種を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項6】
前記フィルム基材のハードコート層が配置される面とは反対側に粘着層を更に有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層のフィルム基材が配置される面とは反対側に粘着層を更に有する、請求項1~5のいずれかに記載のハードコート層付フィルム。
【請求項8】
前記フィルム基材とハードコート層の間に剥離層を更に有する、請求項7に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項9】
窓ガラス上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付窓ガラスであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が、15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が、30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであるハードコート層付窓ガラス。
【請求項10】
前記ハードコート層が窓ガラスの室内側に配置される、請求項9に記載のハードコート層付窓ガラス。
【請求項11】
前記窓ガラスが曲面である、請求項9又は10に記載のハードコート層付窓ガラス。
【請求項12】
前記ハードコート層の表面抵抗が1×108~1×1014Ω/スクエアである、請求項9~11のいずれか一項に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項13】
前記窓ガラスとハードコート層の間に粘着層を更に有する、請求項9~12のいずれか一項に記載のハードコート層付フィルム。
【請求項14】
請求項8に記載のハードコート層付フィルムを前記粘着層を介して被着体に貼り付け、前記剥離層又は前記剥離層の界面で剥離することにより前記フィルム基材を取り除く工程を含む、ハードコート層の貼着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層付フィルム、ハードコート層付窓ガラス、及びハードコート層の貼着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビル、住宅等の建築物、電車、自動車等の交通機関の省エネルギー対策の一つとして、熱線遮蔽性能を有した透明材料の開発が進められている。例えば、窓から降り注ぐ太陽光線のうちの可視光線は透過するが、熱線は遮蔽し、かつ室内の熱を外部へ逃がさないための断熱機能を有した窓板用透明材料が開発されている。
【0003】
窓板用透明材料に熱線を遮蔽する機能を付与する方法としては、アルミニウム等の金属層をフィルム等の上に均一に形成する方法が広く採用されている。
【0004】
ところが、このような均一な金属層は、一般に電磁波を反射するため、屋内や車内において携帯電話や携帯テレビ等を使用することが困難になるといった問題が生じることがある。そこで、熱線は遮蔽するが、電磁波は透過させるといった機能を有したガラス板やフィルムの開発が進められてきている。
【0005】
例えば、特許文献1には、支持体の上に、平均粒径100nm以下の微粒子と空隙部分を埋める樹脂バインダーとを含有する熱線遮蔽層を有し、該熱線遮蔽層における、少なくとも2000nmの波長での反射率が少なくとも15%であり、且つ該熱線遮蔽層の表面抵抗が106Ω/□以上である熱線遮蔽シートが開示されている。また、特許文献2には、可視光線を透過するガラス基板と、このガラス基板の上に形成された平均粒径が0.01~0.05μmで粉体色が20<Y<50、0.25<x<0.3、0.25<y<0.32を満足するインジウム-錫酸化物超微粉と樹脂バインダー又は無機バインダーとからなるインジウム-錫酸化物膜とからなり、前記インジウム-錫酸化物超微粉の体積含有率が30~70vol%であることを特徴とする紫外線、近赤外線遮へいガラスが開示されている。
【0006】
さらに、窓板用透明材料としては帯電防止機能を有することも望ましく、このような帯電防止機能を有した窓板用透明材料も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6276695号公報
【特許文献2】特許第4600685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、窓板用透明材料として従来報告されているのは、熱線遮蔽性能を有するものか、帯電防止機能するもののいずれかがほとんどであり、透明材料において、熱線を十分に遮蔽しつつ、帯電防止機能も高めたいという要求も存在する。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、熱線遮蔽性能に優れ且つ帯電防止性能にも優れたハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスを提供することを課題とする。また、当該ハードコート層付フィルムを用いたハードコート層の貼着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層において、金属酸化物粒子の体積含有率及び平均粒子径、ハードコート層の膜圧、並びにフィルム基材の厚さを特定の範囲に調整することで、十分な熱線遮蔽性能と、十分な帯電防止性能とを併せ持つハードコート層を得ることができることを見出した。
【0011】
本発明は、このような検討を踏まえて、完成するに至ったものである。すなわち、本発明は以下のような構成を有するものである。
【0012】
(1)本発明のハードコート層付フィルムは、フィルム基材上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂成分とを含むハードコート層を有するハードコート層付フィルムであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであり、
前記フィルム基材の厚さが16~50μmであることを特徴とする。
(2)前記ハードコート層付フィルムのハードコート層の表面抵抗は、1×108~1×1014Ω/スクエアであることが好ましい。
(3)本発明のハードコート層付フィルムは、日射透過率が80%以下であることが好ましい。
(4)前記金属酸化物粒子は、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、スズ含有酸化インジウム粒子及びセシウム含有酸化タングステン粒子からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
(5)前記ハードコート層は、紫外線吸収剤、光安定剤及びフッ素系防汚剤からなる群から選択される少なくとも一種を更に含むことが好ましい。
(6)本発明のハードコート層付フィルムは、前記フィルム基材のハードコート層が配置される面とは反対側に粘着層を更に有することが好ましい。
(7)本発明のハードコート層付フィルムは、前記ハードコート層のフィルム基材が配置される面とは反対側に粘着層を更に有することが好ましい。
(8)本発明のハードコート層付フィルムは、前記フィルム基材とハードコート層の間に剥離層を更に有することが好ましい。
(9)本発明のハードコート層付窓ガラスは、窓ガラス上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付窓ガラスであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が、15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が、30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであることを特徴とする。
(10)前記ハードコート層は、窓ガラスの室内側に配置されることが好ましい。
(11)前記窓ガラスは、曲面であることが好ましい。
(12)前記ハードコート層付窓ガラスのハードコート層の表面抵抗は、1×108~1×1014Ω/スクエアであることが好ましい。
(13)本発明のハードコート層付窓ガラスは、前記窓ガラスとハードコート層の間に粘着層を更に有することが好ましく、前記ハードコート層の粘着層が配置される面とは反対側にフィルム基材を有することも好ましい。
(14)本発明のハードコート層の貼着方法は、(8)のハードコート層付フィルムを前記粘着層を介して被着体に貼り付け、前記剥離層又は前記剥離層の界面で剥離することにより前記フィルム基材を取り除く工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、熱線遮蔽性能に優れ且つ帯電防止性能にも優れている。さらには、本発明のハードコート層は、ハードコート性、屈曲性及び付着性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態のハードコート層付フィルムは、フィルム基材上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付フィルムであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであり、
前記フィルム基材の厚さが16~50μmであることを特徴とする。
【0016】
また、本実施形態のハードコート層付窓ガラスは、窓ガラス上に、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含むハードコート層を有するハードコート層付窓ガラスであって、
前記金属酸化物粒子の体積含有率が、15~29%であり、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が、30~200nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.1~5.0μmであることを特徴とする。
【0017】
本実施形態のハードコート層付フィルムは、前記フィルム基材のハードコート層が配置される面とは反対側に粘着層を更に有していてもよい。
【0018】
また、本実施形態のハードコート層付フィルムは、前記ハードコート層のフィルム基材が配置される面とは反対側に粘着層を更に有していてもよい。この場合、本実施形態のハードコート層付フィルムは、前記フィルム基材とハードコート層の間に剥離層を更に有していてもよい。
【0019】
本実施形態のハードコート層付窓ガラスは、前記窓ガラスとハードコート層の間に粘着層を更に有していてもよい。また、前記ハードコート層の粘着層が配置される面とは反対側にフィルム基材を更に有していてもよい。
【0020】
本明細書において、遮熱とは、熱線遮蔽性のことを意味する。
【0021】
(電磁波、可視光線、近赤外線、遠赤外線、紫外線)
本明細書において、電磁波とは、波長10mm~10km、周波数30KHz~30GHz程度の電磁波のことをいう。ラジオ放送、テレビ放送、無線通信、携帯電話、衛星通信等に使用される電磁波領域のものである。なお広義には、下記の可視光線、近赤外線、遠赤外線、紫外線等も電磁波に含まれる。
【0022】
本明細書において、可視光線とは、電磁波のうち肉眼で認識することができる光のことであり、一般に波長380~780nmの電磁波のことを指している。近赤外線とは、およそ波長800~2500nmの電磁波であり、赤色の可視光線に近い波長を有する。近赤外線は、太陽光の中に含まれており、物体を加熱する作用がある。これに対して、遠赤外線は、およそ波長5~20μm(5000~20000nm)の電磁波であり、太陽光の中には含まれず、室温付近の物体から放射される波長に近いものである。また、紫外線とは、およそ波長10~380nmの電磁波である。
【0023】
本明細書において、熱線とは、紫外線~近赤外線の領域のことを意味する。
【0024】
以下、ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスを構成する各部材について説明する。両者で共通する部材については、まとめて説明する。
【0025】
(窓ガラス)
ハードコート層付窓ガラスにおける窓ガラスは、建築物や交通車輌や船舶等の内部に外界から太陽光を取り込むための透明な板である。一般的には、いわゆる無機のガラス板や透明な有機樹脂からなる樹脂板が用いられる。無機のガラスとしては、ソーダ石灰ガラスが代表的なものである。透明な有機樹脂としては、アクリル系、スチレン系、水添環状樹脂、ポリカーボネート系、ポリエステル系など種々の樹脂を使用することができる。窓ガラスの形状としては、曲面、板状などが挙げられる。
【0026】
(フィルム基材)
フィルム基材は、ハードコート層付フィルムの形態を維持するための基材であり、ハードコート層等を保持する機能を有している。そのため、フィルム基材は、機械的強度、可視光線透過率、加工性等に優れていることが好ましい。また、フィルム基材は、可視光線を透過させるように透明樹脂から構成されている。フィルム基材として使用される透明樹脂としては、アクリル系、ポリカーボネート系、スチレン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、水添環状樹脂、フッ素系、シリコーン系、ウレタン系など種々の樹脂が使用でき、用途や目的に応じて、使い分けることができる。これらの透明樹脂の中では、加工性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系が好ましい。
【0027】
フィルム基材は、透明樹脂の機械的物性等にも因るが、ハードコート層の製膜性やラミネートにおける作業性の観点から、厚さは16~50μmであり、18~45μmであることが好ましく、25~38μmであることがより好ましい。
【0028】
(ハードコート層)
ハードコート層は、室外から照射される太陽光のうち、熱線と紫外線を主に反射によって遮蔽するとともに、室内から発せられる遠赤外線を主に反射によって遮蔽する層である。熱線、紫外線、遠赤外線の反射は、金属内の多数の自由電子が電磁波の振動電場に合わせて集団振動するために起きると考えられている。
【0029】
ハードコート層は、フィルム基材及び窓ガラスの少なくとも一方の表面に設けられた層である。ハードコート層は、窓ガラスの室内側及び室外側のいずれかに設置することができるが、窓ガラスの室内側に設置する方が、熱線の遮蔽性能の向上効果に優れているため、好ましい。ハードコート層は、窓ガラスの一方の面上に直接形成してもよいし、他のフィルム基材上に形成して、その後、窓ガラスと粘着層等によって貼合してもよい。
【0030】
ハードコート層の膜厚は、0.1~5.0μmであり、0.5~4.0μmであることが好ましく、0.9~3.0μmであることがより好ましい。膜厚が0.1~5.0μmであると、屈曲性及び付着性を向上させることができる。
【0031】
ハードコート層の表面抵抗は、1×108~1×1014Ω/スクエアであることが好ましく、1×108~1×1012Ω/スクエアであることがより好ましく、1×108~1×1010Ω/スクエアであることが特に好ましい。表面抵抗が1×108~1×1014Ω/スクエアであると、帯電防止性能及び電波透過性を向上させることができる。
【0032】
ハードコート層は、金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを含む。
【0033】
金属酸化物粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であれば特に限定されず、例えば、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ(ATO)粒子、スズ含有酸化インジウム(ITO)粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)粒子、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)粒子、セシウム含有酸化タングステン(CWO)粒子などが挙げられる。金属酸化物粒子としては、中でも、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、スズ含有酸化インジウム粒子、及びセシウム含有酸化タングステン粒子が好ましい。これらの化合物は、透明性、導電性や化学特性に優れており、塗膜にした場合にも高い光透過率と導電性を実現することができる。金属酸化物粒子は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
ハードコート層における金属酸化物粒子の体積含有率は、15~29%であり、18~27%であることが好ましく、20~26%であることが特に好ましい。体積含有率が15~29%であると、帯電防止性能及び電波透過性を向上させることができる上、付着性にも優れたものとなる。ここで、体積含有率は、特許第5337500号公報の段落0047に記載の下式により、重量含有率を用いて算出することができる。
体積含有率=重量含有率/X/(重量含有率/X+(100-重量含有率)/Y)×100(Xは金属酸化物粒子の比重、Yは樹脂の比重)
【0035】
ハードコート層における金属酸化物粒子の平均粒子径は、30~200nmであり、40~180nmであることが好ましく、50~140nmであることが特に好ましい。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定される粒度分布の平均値(メディアン径)である。
【0036】
ハードコート層には、高硬度の被膜を比較的容易に形成できることから、紫外線硬化性樹脂が使用される。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂等が挙げられるが、取扱いや加工のし易さから、アクリル系樹脂が好ましい。
【0037】
紫外線硬化性のアクリル系樹脂は、アクリル系の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーからなる硬化性組成物の重合体である。アクリル系の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーとしては、単官能のものと多官能のものがある。
【0038】
アクリル系の重合性不飽和基を有する単官能のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n-ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、アクリル系の重合性不飽和基を有する単官能のオリゴマーの具体例としては、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート等が挙げられる。
【0040】
アクリル系の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーからなる組成物が硬化性となるためには、アクリル系の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーとして、多官能(メタ)アクリル酸エステルを含有していることが好ましい。多官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの多官能アクリレートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、ハードコート層としての硬度を確保するためには、4官能以上の(メタ)アクリル酸エステルを使用することが好ましい。
【0041】
また、アクリル系の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーとして、水素の一部をフッ素で置換したフッ素含有アクリル系樹脂を用いると、耐擦傷性や防汚性がさらに向上するため好ましい。
【0042】
紫外線硬化性のウレタン系硬化性樹脂とは、ウレタンアクリレートモノマー又はオリゴマーの重合体である。ウレタンアクリレートオリゴマーは、ウレタン結合を介してポリオキシアルキレンセグメント又は飽和ポリエステルセグメントあるいはその両方が連結し、両末端にアクリロイル基を有するものである。
【0043】
紫外線硬化性樹脂とするためには、上記の重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーに、必要に応じて重合開始剤を加えて、紫外線硬化性の組成物とすることが必要である。
【0044】
紫外線重合開始剤としては、公知の各種重合開始剤を使用することができる。具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、α-ヒドロキシアセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2(ヒドロキシ-2-プロプル)ケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、プロピオフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリーブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミン安息香酸エステルなどを挙げることができる。これら紫外線重合開始剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。紫外線重合開始剤の添加量は、重合性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマーに対して、1~10質量%であることが好ましい。
【0045】
また、ハードコート層は、必要に応じて、本実施形態の効果を損なわない範囲で、上記以外の成分を含有してもよい。ハードコート層に添加可能な成分としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤(ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)など)、フッ素系防汚剤等が挙げられる。
【0046】
ハードコート層において、金属酸化物粒子の体積含有率を15~29%、金属酸化物粒子の平均粒子径を30~200nm、ハードコート層の膜厚を0.1~5.0μm、フィルム基材の厚さを16~50μmとすることで、熱線遮蔽性能に優れ且つ帯電防止性能にも優れたハードコート層とすることが可能となる。
【0047】
(粘着層)
粘着層は、ハードコート層又はフィルム基材と窓ガラスとを貼着する層である。粘着層に用いられる材料としては、一般にガラス貼着用等に使用されている接着剤や粘着剤を使用することができる。粘着層に用いられる材料としては、例えば、アクリル系、ゴム系(天然ゴム系、ポリブタジエン系等)、シリコーン系、ウレタン系、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアセタール系、エチレン-酢酸ビニル系等の各種樹脂が挙げられる。これらの中では、耐久性の観点から、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂及びシリコーン系樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0048】
(剥離層)
剥離層は、ハードコート層を窓ガラスに貼着する際に、ハードコート層をフィルム基材から剥離するための層である。剥離層に用いられる材料としては、剥離性を発揮するものであれば特に限定されず、例えば、剥離用シリコーンが挙げられる。
【0049】
(ハードコート層付フィルムの製造方法)
次に、本実施形態のハードコート層付フィルムの製造方法について説明する。
【0050】
本実施形態のハードコート層付フィルムは、フィルム基材又は窓ガラス上にハードコート層を形成することによって、製造することができる。
【0051】
ハードコート層を形成する方法について説明する。金属酸化物粒子と紫外線硬化性樹脂とを溶剤に適当量混合し、適切な粘度の溶液を調製する。その溶液をフィルム基材又は窓ガラス上にコーティングする。乾燥させた後、紫外線を用いて硬化反応をさせることによって、ハードコート層を形成することができる。
【0052】
粘着層を形成する方法について説明する。まず、接着剤又は粘着剤に溶剤を適当量混合して、適切な粘度の塗料組成物の溶液を調製する。次に得られた溶液をフィルム基材上にコーティングする。その後、溶液を乾燥させると、粘着層を形成することができる。
【0053】
また、本実施形態のハードコート層付窓ガラスは、ハードコート層上に粘着層を有するハードコート層付フィルムを使用し、当該ハードコート層付フィルムを粘着層を介して窓ガラスに貼り付けた後、剥離層又は剥離層の界面で剥離することによりフィルム基材を取り除くことによっても製造することができる。また、ハードコート層が配置される面とは反対側に粘着層を有するハードコート層付フィルムを使用し、当該ハードコート層付フィルムを粘着層を介して窓ガラスに貼り付けることによっても製造することができる。
【0054】
[ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスの性能]
以下、ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスが有する各種性能について説明する。
【0055】
(可視光線透過率)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、波長380~780nmの可視光線を透過させる。ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスの可視光線透過率は、30%以上であることが好ましい。可視光線透過率が40%以上であると、視野的に優れたものとなる。50%以上がより好ましい。
【0056】
(日射透過率)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、日射透過率が80%以下であることが好ましい。日射透過率が80%以下であると、遮熱性に優れたものとなる。日射透過率は、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0057】
(ヘイズ)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、ヘイズが2%以下であることが好ましい。ヘイズが2%以下であると、視野的により優れたものとなる。
【0058】
(電波透過性)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、電波透過性を定量化して評価するために、電磁波遮蔽率という指標を用いている。
【0059】
電磁波遮蔽率は、10dB以下であることが好ましい。電磁波遮蔽率が10dB以下であるときに、車内における携帯電話や携帯テレビ等の使用時において、支障の少ないものとすることができる。電磁波遮蔽率は、より好ましくは5dB以下であり、さらに好ましくは3dB以下である。
【0060】
(耐屈曲性)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、ハードコート層が割れない耐屈曲性が4以下であることが好ましい。耐屈曲性が4以下であると、取り扱いがし易い。
【0061】
(鉛筆硬度)
ハードコート層付フィルム及びハードコート層付窓ガラスは、ハードコート層の鉛筆硬度がHB以上であることが好ましい。鉛筆硬度がHB以上であると、取り扱いがし易く、長期使用が可能となる。
【0062】
本実施形態のハードコート層付フィルムは、熱線遮蔽性能に優れ且つ帯電防止性能にも優れていることから、建物の窓、自動車等の交通車輌の窓などにおいて、窓ガラスにハードコート層付フィルム又はハードコート層を貼り付けて利用することができる。また、ハードコート層付窓ガラスを窓ガラスとして利用することもできる。
【実施例0063】
本実施形態を下記の実施例によって、さらに具体的に説明する。
【0064】
(実施例1)
易接着PET(東洋紡「A4360」38μm)の片面に、表1に示した処方1の塗料を、メイヤーバーで乾燥後の厚さが2.0μmになるようにハードコート層を塗布し、80℃で1分間乾燥した。次いで、高圧水銀ランプ(照度400mW/cm2)で、光量が150mJ/cm2になるように、紫外線を照射して硬化させ、遮熱フィルムを作製した。
【0065】
シリコーンで処理されたセパレータシート(三菱樹脂社製、MRQ#38、38μm厚さ)のシリコーン処理面上に表2に示した処方の塗料を塗布し、100℃の熱風オーブン中で2分間乾燥させて、約15μm厚さの接着層を形成した。
【0066】
遮熱フィルムのPET面と、セパレータシートの接着層面を積層して、7日間エージングして粘着層付遮熱フィルムを作製した。セパレータシートを剥離し、ソーダライムガラス3mmに粘着剤面をラミネートしてハードコート層付ガラスを作製した。
【0067】
(実施例2)
ハードコート層の厚さを4.9μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0068】
(実施例3)
ハードコート層の厚さを1.1μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0069】
(比較例1)
ハードコート層の厚さを6.2μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0070】
(比較例2)
高圧水銀ランプ(照度400mW/cm2)で、光量が600mJ/cm2になるように、紫外線を照射して硬化させたこと以外は比較例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0071】
(実施例4)
表1に示した処方2の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0072】
(実施例5)
表1に示した処方3の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0073】
(比較例3)
表1に示した処方4の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0074】
(比較例4)
表1に示した処方5の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0075】
(実施例6)
表1に示した処方6の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0076】
(実施例7)
表1に示した処方7の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0077】
(実施例8)
表1に示した処方8の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0078】
(実施例9)
表1に示した処方9の塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付ガラスを作製した。
【0079】
【0080】
【0081】
<評価項目>
(可視光線透過率、可視光線反射率、日射透過率)
分光光度計(日立製作所社製、U-4100)を用い、300~2500nmの波長範囲で測定し、JIS S3107:2013に基づいて測定した。
【0082】
(ヘイズ)
ヘイズメーター(日本電色社製、NDH 7000)を用い、JIS K7136:2000に基づいて測定した。
【0083】
(残留帯電量)
静電気減衰測定器(シシド静電気社製、スタチックオネストメータH-0110-S4A)を用い、JIS L1094:2014に基づいて測定した。
【0084】
(表面抵抗値)
抵抗率計(日東精工アナリテック社製、ハイレスターUX)を用い、JIS K6911:1995に基づいて測定した。
【0085】
(電波透過性)
電磁波シールド効果測定装置(KEC関西電子工業振興センター社製、KEC)を用い、周波数800MHzのシールド効果(dB)を測定した。
【0086】
(耐擦傷性)
スチールウール#0000にて10往復させ、傷が入らない荷重を測定した。
【0087】
(耐屈曲性)
円筒形マンドレル屈曲試験器(TP技研社製、タイプII型)を用い、JIS K5600-5-1:2014に基づき、ハードコート層が割れない径を測定した。
【0088】
(鉛筆硬度)
鉛筆硬度試験器(安田精機製作所社製、No.553-M)を用い、JIS K5600-5-4:2014に基づき、500g荷重でハードコート層に傷が残らない鉛筆硬度を測定した。
【0089】
(付着性)
JIS K5600―5―6(2014)に基づいて密着性の評価を行った。カッターを用いて遮熱層表面を1mmの碁盤目になるように100個分切り、セロハンテープを貼り付け、剥がしたときのハードコート層の剥離状態を観察した。1個でも剥離したとき×、1個も剥離しないとき○と判定した。密着性評価が○であれば、自動車用フロントガラス用として優れているとみなせる。
【0090】
実施例1~8及び比較例1~5のハードコート層付ガラスの評価結果を表3に示した。
【0091】
【0092】
表3から、実施例が示すとおり、本発明の遮熱フィルムは、優れた帯電防止性と遮熱性を兼ね備え、更にハードコート性や屈曲性、付着性に優れた遮熱フィルムであった。なお、比較例2では遮熱フィルムを作製しようとしたが、フィルムが大きく収縮したために評価することができなかった。