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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171370
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/28 20060101AFI20221104BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20221104BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20221104BHJP
   D07B 1/02 20060101ALI20221104BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20221104BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20221104BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20221104BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
F16G1/28 E
F16G1/28 G
D02G3/28
D02G3/44
D07B1/02
D06M15/55
D06M13/395
D06M13/325
D06M15/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077970
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝良
(72)【発明者】
【氏名】関口 勇次
【テーマコード(参考)】
3B153
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
3B153AA08
3B153BB01
3B153BB15
3B153CC22
3B153CC26
3B153CC43
3B153FF12
3B153GG05
4L033AA08
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC11
4L033AC12
4L033BA08
4L033BA45
4L033BA69
4L033CA33
4L033CA49
4L036MA04
4L036MA06
4L036PA21
4L036UA08
(57)【要約】
【課題】耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適した、歯付ベルト10の提供。
【解決手段】歯付ベルト10は、熱可塑性エラストマー組成物からなる背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを有するベルト本体11、背ゴム部11aに埋設された心線13及び歯ゴム部11bを被覆する歯部被覆材14を備える。熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分はポリアミド系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性エラストマーである。背ゴム部11aの硬さは25~70である。歯ゴム部11bの硬さは、40~70であり、かつ背ゴム部11aの硬さ以上である。心線13は2以上の撚り階層を有するヤーン16を備える。ヤーン16は2本以上のストランド17を含む。それぞれのストランド17はカーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む、多数のフィラメント18を撚り合わせてなる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、
前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、
前記ベルト本体の内周側に設けられた前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、
を備え、
前記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、
前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、
前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、
前記心線は、2以上の撚り階層を有するヤーンを備え、
前記ヤーンは、2本以上のストランドを含み、
それぞれのストランドは、カーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む、多数のフィラメントを撚り合わせてなる、歯付ベルト。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)である請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記ヤーンは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有し、諸撚りで撚られている、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記ヤーンは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有し、ラング撚りで撚られている、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記ヤーンは、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有し、前記下撚りの方向と前記中撚りの方向とが同方向である、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項6】
前記ヤーンでは、各撚り階層における撚り係数の合計は、30より大きく以上120以下である、請求項1から5のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項7】
前記ヤーンの上撚りにおける撚り係数は、100以下である、請求項6に記載の歯付ベルト。
【請求項8】
前記ヤーンの上撚りにおける撚り係数は、30以上60以下である、請求項7に記載の歯付ベルト。
【請求項9】
前記ストランドは、ポリアミド繊維からなるポリアミドフィラメントを含む、請求項10~12のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項10】
前記ストランドにおける、前記カーボンフィラメントの体積と前記ポリアミドフィラメントの体積との合計に対する、前記ポリアミドフィラメントの体積の割合は、3~12体積%である、請求項9に記載の歯付ベルト。
【請求項11】
前記ストランドにおける各フィラメントは、収束剤からなる収束被覆層で被覆され、
前記収束剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上である、請求項1から10のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項12】
前記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤、又はアミン系硬化剤である、請求項11に記載の歯付ベルト。
【請求項13】
前記ストランドにおける各フィラメントは、収束剤からなる収束被覆層で被覆され、
前記収束剤は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上である、請求項1から10のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項14】
前記ヤーンは、接着剤からなる接着被覆層で被覆され、
前記接着剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上である、請求項1から13のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項15】
前記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤、又はアミン系硬化剤である、請求項14に記載の歯付ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯付ベルトとしては、ゴムベルトや注型ウレタンベルトが知られている。これらのベルトは、いずれも背ゴム部と、この背ゴム部にベルト長手方向に所定のピッチで一体に設けられた多数の歯ゴム部と、上記背ゴム部と歯ゴム部との間にベルト長手方向に延びるようにかつベルト幅方向に所定のピッチで埋設された心線とを備える。両者は、背ゴム部と歯ゴム部とを加硫ゴムで成形するか、注型ウレタンで成形するかの点で相違する。
【0003】
これらのベルトは、製造過程に加硫工程や後加硫工程が必要であるため、生産性が低い。また、これらのベルトは、加硫ゴムや注型ウレタンの性質上、ベルト成形後の形状付与等の後処理が難しく、更にはリサイクルも難しいという課題もある。
【0004】
このような課題を解消しえる歯付ベルトとして、背ゴム部及び歯ゴム部を熱可塑性エラストマーで形成した歯付ベルトも提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-27178号公報
【特許文献2】特開平10-2379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背ゴム部及び歯ゴム部の形成に熱可塑性エラストマーが用いられた歯付ベルトは、ベルトに掛る負荷が大きくなると、ベルト歯が変形しやすい、という課題があった。更に、ベルトをかけたプーリの回転速度が上がると、ベルトが発熱し、この場合もベルト歯が変形しやすい、という課題があった。
【0007】
カーボン繊維には、クリープによる変形が有機繊維に比べて生じにくい。そのため、カーボン繊維からなるヤーンを心線として採用することで、歯付ベルトは使用による張力の低下を抑制できる。この歯付ベルトには、長期に亘って使用できる見込みがある。
上述の特許文献2では、カーボン繊維からなるフィラメント(以下、カーボンフィラメント)を片撚りした、片撚りヤーンが心線として採用されている。
ヤーンの撚りを強めると、ヤーンの強度が高まる一方で、中心部のカーボンフィラメントに生じる歪よりも大きな歪みが表層部のカーボンフィラメントに生じる。
カーボンフィラメントは剛直であり、その切断伸びは小さい。そのため、上述の片撚りヤーンでは、ヤーンの強度を高めるために、撚りを強くすると、その表層部のカーボンフィラメントに切断が生じることが懸念される。カーボンフィラメントの切断はヤーンの強度を低下させる。
プーリは歯付ベルトを曲げる。これにより、心線には歪が生じる。プーリ径が小さいほど、心線に生じる歪は大きい。心線においては歪の発生と消失とが繰り返されるので、上述の片撚りヤーンを心線として用いた場合、心線において屈曲疲労による切断が生じることも懸念される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適した、歯付ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の歯付ベルトは、平帯状の背ゴム部と、前記背ゴム部の内周側に配設されて各々が前記背ゴム部に一体に設けられてベルト歯を構成する複数の歯ゴム部とを有し、前記背ゴム部及び前記歯ゴム部がともに熱可塑性エラストマー組成物からなるベルト本体と、前記背ゴム部の内周側の部分にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設された心線と、前記ベルト本体の内周側に設けられた前記複数の歯ゴム部を被覆する歯部被覆材と、を備え、前記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分がポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)であり、前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが25~70であり、前記歯ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さが40~70であり、かつ前記背ゴム部を構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上であり、前記心線は、2以上の撚り階層を有するヤーンを備え、前記ヤーンは、2本以上のストランドを含み、それぞれのストランドは、カーボン繊維からなるカーボンフィラメントを含む多数のフィラメントを撚り合わせてなる。
【0010】
上記歯付ベルトでは、背ゴム部及び歯ゴム部が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)をエラストマー成分とする組成物で構成されている。そのため、製造過程において、加硫工程や後加硫工程が必要無く、この歯付ベルトは生産性に優れる。また、上記エラストマー成分は熱に強く、ベルトを高負荷や高回転速度で駆動させた際の発熱温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、ベルト駆動時に変形が生じにくく、歯ゴム部が変形することによって生じる歯飛び等の不具合が発生しにくい。この歯付ベルトは高負荷伝動に適する。
【0011】
上記歯付ベルトではさらに、背ゴム部及び歯ゴム部を構成する熱可塑エラストマー組成物が、それぞれ特定の硬さを有する。そのため、ベルトが柔らかすぎて動力を受けた際に変形して歯が欠けたり、ベルトが硬すぎてプーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することを抑制できる。
上記歯付ベルトでは、心線を構成するヤーンはカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、歯付ベルトに高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、ベルトとプーリとの噛み合いがずれてベルトがプーリに乗り上げたり、ベルトに局所的な力が掛ってベルト歯が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメントのようなクリープ特性が無いため、歯付ベルトは非常に伸びにくく、この歯付ベルトには張力低下が発生しにくい。
さらにこのヤーンは2以上の撚り階層を有する。同じ撚りの強さであっても、単一の撚り階層で構成されたヤーンのフィラメントに比べてフィラメントに生じる歪は小さい。ヤーン表面の圧縮歪みが小さく抑えられるので、ヤーンを屈曲させてもフィラメントは折れにくい。カーボンフィラメントが切断しにくいので、屈曲疲労による心線の切断が防止される。
この歯付ベルトでは、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。
【0012】
(2)上記歯付ベルトにおいて、上記熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)であることが好ましい。TPAEは、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない点、耐薬品性に優れる点で、歯付ベルトの歯ゴム部及び背ゴム部を構成する材料として適している。
【0013】
(3)上記歯付ベルトにおいて、上記ヤーンは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有し、諸撚りで撚られていることが好ましい。この場合、心線は、縺れることなくその形状を安定に保持できる。そのため、歯付ベルトの作製において心線間隔に乱れが生じることが防止される。歯付ベルトの蛇行によるフランジとの擦れが低減される。
【0014】
(4)上記歯付ベルトにおいて、上記ヤーンは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有し、ラング撚りで撚られていることが好ましい。この場合、カーボンフィラメント同士の擦れが低減されるので、摩耗による、心線の強度低下が防止される。ヤーン表層部におけるフィラメントがベルト長さ方向に対して大きく傾くので、小プーリのように、歯付ベルトに大きな圧縮歪みが生じる用途においても、カーボンフィラメントに切断は生じにくい。
【0015】
(5)上記歯付ベルトにおいて、上記ヤーンは、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有し、上記下撚りの方向と上記中撚りの方向とが同方向であることがより好ましい。この場合、2つの撚り階層を有するヤーンに含まれるフィラメントに比べて、撚りによってフィラメントに生じる歪が小さい。カーボンフィラメントが切断しにくいので、屈曲疲労による心線の切断が防止される。
【0016】
(6)上記歯付ベルトにおいて、前記ヤーンでは、各撚り階層における撚り係数の合計は、30より大きく120以下であることが好ましい。この場合、この歯付ベルトは、撚りによってフィラメントに生じる歪の低減を図りながら、ヤーンの強度を高めることができる。カーボンフィラメントが切断しにくいので、屈曲疲労による心線の切断が防止される。
【0017】
(7)上記歯付ベルトにおいて、前記ヤーンの上撚りにおける撚り係数は、100以下であることが好ましい。この場合、上撚りにおいて撚りが強すぎることによるカーボンフィラメントの切断が防止される。そのため、屈曲疲労による心線の切断が生じにくい。
【0018】
(8)上記歯付ベルトにおいて、前記ヤーンの上撚りにおける撚り係数は、30以上60以下であることがより好ましい。この場合、心線が適度な強度を有するとともに、撚りによって生じるカーボンフィラメントの歪が適度に抑えられる。そのため、屈曲疲労による心線の切断が効果的に防止される。
【0019】
(9)上記歯付ベルトにおいて、上記ストランドは、ポリアミド繊維からなるポリアミドフィラメントを含むことが好ましい。この場合、ポリアミドフィラメントがカーボンフィラメント間のバインダーとして機能する。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0020】
(10)上記歯付ベルトにおいて、上記ストランドにおける、上記カーボンフィラメントの体積と上記ポリアミドフィラメントの体積との合計に対する、上記ポリアミドフィラメントの体積の割合は、3~12体積%であることが好ましい。この場合、ポリアミドフィラメントがカーボンフィラメント間のバインダーとして効果的に機能する。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0021】
(11)上記歯付ベルトにおいて、前記ストランドにおける各フィラメントは収束剤からなる収束被覆層で被覆され、上記収束剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上であることが好ましい。この場合、フィラメント間に収束被覆層が存在するので、フィラメント同士が直接擦れ合うことが防止される上に、フィラメントの動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0022】
(12)上記歯付ベルトにおいて、上記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤、又はアミン系硬化剤であることが好ましい。この場合、カーボンフィラメントの擦れが抑えられる。そのため、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0023】
(13)上記歯付ベルトにおいて、前記ストランドにおける各フィラメントは収束剤からなる収束被覆層で被覆され、上記収束剤は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上であることもできる。この場合においても、フィラメント間に収束被覆層が存在するので、フィラメント同士が直接擦れ合うことが防止される上に、フィラメントの動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含む溶液を収束剤として用いた場合に比べて、軟質な収束被覆層が構成されるので、この収束被覆層によってフィラメントは拘束されるものの、僅かに動くことができる。フィラメントは曲がりやすいので、この歯付ベルトはヤーンの接着処理を行いやすい。この歯付ベルトでは、ヤーンはベルト本体と強固に接着する。そのため、この歯付ベルトに高い負荷が作用しても、ヤーンはベルト本体から剥離しにくい。軟質な収束被覆層は、ヤーンに生じる歪を効果的に緩和する。そのため、プーリ径が小さいプーリにこの歯付ベルトを使用しても、心線に切断は生じにくい。
【0024】
(14)上記歯付ベルトにおいて、前記ヤーンは、接着剤からなる接着被覆層で被覆され、前記接着剤は、エポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、固形分比率が80質量%以上であることが好ましい。この場合、ストランドに含まれるフィラメントの動きだけでなく、ヤーンに含まれるストランドの動きも拘束される。そのため、カーボンフィラメントの擦れが抑えられる。この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が効果的に防止される。
【0025】
(15)上記歯付ベルトにおいて、上記接着剤の硬化剤は、イソシアネート系硬化剤、又はアミン系硬化剤であることが好ましい。この場合、カーボンフィラメントの擦れが抑えられる。そのため、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適した、歯付ベルトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る歯付ベルトの一部を模式的に示す斜視図である。
図2図1における矢視Xの正面図である。
図3図1のA-A線端面図である。
図4A】ヤーンの一例を示す断面図である。
図4B】ヤーンの変形例を示す断面図である。
図5】歯付ベルトの製造に使用するベルト成形型の部分断面図である。
図6】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図7】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図8】歯付ベルトの製造工程を説明する図である。
図9】第1の走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
図10】第2の走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
図11】第3の走行試験におけるプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る歯付ベルト10の一部を示す斜視図である。図2は、図1における矢視Xの正面図である。図3は、図1のA-A線端面図である。
【0029】
<歯付ベルト>
歯付ベルト10は、エンドレスの噛み合い伝動ベルトである。
図1には、歯付ベルト10の一部のみを示す。
歯付ベルト10は、図1に示すように、ベルト本体11、心線13及び歯部被覆材としての補強布14を備える。
【0030】
歯付ベルト10の寸法は特に限定されず、設計に応じて選択することができる。
歯付ベルト10の寸法は、例えば、ベルト周長(ベルトピッチラインBLにおけるベルト長さ)を54mm以上6600mm以下、ベルト幅を3mm以上340mm以下、ベルト最大厚さを1.3mm以上13.2mm以下とすることができる。
【0031】
歯付ベルト10の内周側には、所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯12が配設されている。ベルト歯12の歯形は、S歯形である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12の歯形はS歯形に限定されるわけではなく、S歯形以外の円弧歯形であってもよいし、台形歯形であってもよいし、その他の歯形であってもよい。
【0032】
歯付ベルト10において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して平行に延びる直歯である。
本発明の実施形態において、ベルト歯12は、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるハス歯であってもよい。
【0033】
歯付ベルト10において、ベルト歯12の歯ピッチP(図3中、P参照)は、例えば2mm以上20mm以下である。
ベルト歯12の歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯12間の歯底部15からベルト歯12の先端までの寸法(図3中、H参照)で規定され、例えば0.76mm以上8.4mm以下である。
また、歯付ベルト10は、歯数が、例えば27以上560以下、歯幅(ベルト長さ方向の寸法)が、例えば1.3mm以上15.0mm以下、PLDが、例えば0.254mm以上2.159mm以下である。
これらのベルト歯の寸法は例示であり、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0034】
<ベルト本体>
ベルト本体11は、エンドレスの平帯状の背ゴム部11aと、複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、ベルト本体11の内周側に設けられている。詳細には、複数の歯ゴム部11bは、背ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に間隔をおいて一体に設けられている。ベルト本体11では、背ゴム部11a及び歯ゴム部11bのそれぞれが熱可塑性エラストマー組成物で構成されている。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物と、歯ゴム部11bを構成する熱可塑エラストマー組成物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
本発明において、熱可塑性エラストマー組成物とは、熱可塑性のエラストマー成分を必須成分とし、上記エラストマー成分以外の各種添加剤を必要に応じて含有可能な任意成分とする組成物をいう。
上記熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマー成分のみを含有していてよい。
【0036】
ベルト本体11を構成する熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、又はポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)である。
TPAE及びTPCは、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系などの他の熱可塑性エラストマーに比べて、熱に強く、高負荷駆動時や高速回転駆動時のベルト温度でも弾性率の低下が小さい。そのため、高負荷駆動時や高速回転駆動時にベルトの発熱による歯ゴム部11bの変形が発生しにくい。
【0037】
上記エラストマー成分としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)が好ましい。
TPAEは、TPCに比べて、動的な変形に対するエネルギー損失が小さく、屈曲による発熱が少ない。そのため、駆動時のベルト温度が相対的に低く、高負荷や高速での動力伝達に適している。
また、TPAEは、耐薬品性にも優れる。そのため、薬品との接触が想定される用途、例えば、油圧装置を備えた産業用機械、二輪自動車の駆動部、乗用車の電動シートで使用する歯付ベルトとして好適である。
【0038】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)は、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル構造を採用し、ソフトセグメントとしてポリエーテル、ポリエステル、又はポリカーボネートを採用したブロック共重合体である。
【0039】
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)は、ポリアミド(ナイロン)をハードセグメントとし、ポリオールをソフトセグメントとするブロック共重合体である。
上記ポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。これらのなかでは、アミド結合の含有量が少なく、寸法変化を起こしにくい点から、ナイロン11及びナイロン12が好ましい。
【0040】
上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオ―ル及びポリエーテルポリオ―ルの、一方又は両方が採用できる。
ポリエステルポリオ―ルとポリエーテルポリオ―ルとを比較すると、可塑剤を配合しなくても常温でゴム弾性を呈しやすく、ベルトを屈曲させて際にクラックを発生しにくい点から、ポリエーテルポリオ―ルの方が好ましい。この場合、ソフトセグメントはポリエーテル構造となる。
また、TPAEのポリオール成分として、ポリエーテルポリオ―ルを採用した場合には、可塑剤を配合しなくてもよく、可塑剤を含有しない熱可塑性エラストマー組成物で歯ゴム部11bや背ゴム部11aが構成された歯付ベルト10は、可塑剤が揮発し、設備や製品に付着することがない。よって、このような歯付ベルト10は、クリーンルームで好適に使用することができる。
【0041】
上記ポリエステルポリオ―ルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
上記ポリエーテルポリオ―ルとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0042】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、それぞれ市販品を使用することもできる。
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標)シリーズが例示できる。
上記ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、アルケマ社製のPEBAX(登録商標)シリーズ、ダイセル・エボニック社製のベスタミド(登録商標)シリーズ及びダイアミド(登録商標)シリーズ、並びに、EMS社製のグリルフレックス(登録商標)シリーズが例示できる。
【0043】
背ゴム部11a及び歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物には、TPAEやTPCのエラストマー成分以外に、必要に応じて、短繊維、ウィスカー、充填剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防かび剤、固体潤滑剤、潤滑油、及びグリース等の添加剤が含まれていてもよい。
【0044】
一方、これらの添加剤を含有する場合、これらの添加剤は、背ゴム部11aや歯ゴム部11bから離脱して使用環境を汚染することがある。そのため、歯付ベルト10が、例えばクリーンルームで使用される歯付ベルトの場合は、上記熱可塑性エラストマー組成物は、上記添加剤を含有せず、エラストマー成分のみで構成されていることが好ましい。
【0045】
ベルト本体11において、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、25~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、40~70である。歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さ以上である。
【0046】
上記熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、JIS K6253-3の規定に準拠してタイプDデュロメータを用いて23℃で測定する。この硬さはショアD硬さともいう。
【0047】
以下、本明細書においては、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「背ゴム部硬さ」ともいい、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さを、単に「歯ゴム部硬さ」ともいう。
【0048】
このような構成を有する歯付ベルトでは、背ゴム部硬さが上記範囲にあり、かつ歯ゴム部硬さ以下であるため、プーリに巻き付けた際に破損したり、駆動時にベルト背面にクラックが発生したり、することが抑制される。また、歯ゴム部硬さが背ゴム部硬さ以上で、かつ上記範囲にあるため、使用時にベルト歯の摩耗しにくく、ベルト歯の変形が発生しにくい。
背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さは、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物の硬さより小さくてもよい。
【0049】
上記背ゴム部硬さと歯ゴム部硬さとの差は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。背面クラックの発生を抑制するのに、より好適である。
【0050】
歯付ベルト10においては、背ゴム部硬さが25~50であり、歯ゴム部硬さが45~65であることも好ましい。この場合、背面クラックの発生抑制と、ベルト歯の変形抑制を両立するのに好適である。
【0051】
上記背ゴム部硬さは、背ゴム部11aを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分の分子量、ハードセグメントとソフトセグメントとの比率、熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分以外の添加剤の種類や量などを調整することが制御することができる。
上記歯ゴム部硬さも同様に、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物に含まれるエラスマー成分やエラスマー成分以外の添加剤によって制御することができる。
【0052】
<補強布>
補強布14は、ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた内周側の表面を被覆するように貼設されている。従って、各ベルト歯12の歯ゴム部11bは補強布14で被覆されている。
これにより、歯ゴム部11bを構成する熱可塑性エラストマー組成物とプーリとが直接接触することが防止される。そのため、歯ゴム部11bの摩耗を抑制することができる。
補強布14の厚さは、例えば0.1mm以上2.5mm以下である。
【0053】
補強布14は、織布、編物、不織布などの繊維部材、樹脂フィルム等からなる。
上記繊維部材を形成するための糸としては、例えば、ナイロン繊維(ポリアミド繊維)、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、綿等が挙げられる。
上記樹脂フィルムの材質としては、例えば、ナイロン(ポリアミド)、ポリエステル等が挙げられる。
【0054】
これらのなかでは、ナイロン繊維を主成分として形成された繊維部材や、ナイロンフィルム(以下、両者を合わせて、ナイロン製補強布ともいう)が好ましい。
上記ナイロン製補強布は、摩擦係数が低いため、摩擦エネルギーが小さく、摩耗しにくい。
また、上記ナイロン製補強布は、融点が高いので、プーリとの接触部の温度が上がっても、ナイロン製補強布が溶融することによる急激な摩耗を生じにくい。
補強布14は、例えば、緯糸にウーリー加工等が施された織布のように伸縮性を有する物でもよい。
ここで、ナイロン繊維を主成分とするとは、全繊維中に含まれるナイロン繊維の量が50質量%以上であることを意味する。
【0055】
補強布14には、上記ベルト本体11との接着力を高めるための接着処理として、RFL水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理が施される。
補強布14は、上記接着処理の前に、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する下地処理が施されていてもよい。
【0056】
補強布14は、その表面や内部に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子、超高分子量ポリエチレン粒子(例えば、平均分子量が100万以上)等の摩耗改質剤を含有していてもよい。
補強布14が摩耗改質剤を含有すると、歯ゴム部11bの摩耗による変形がより抑制されることになる。
【0057】
上記PTFE粒子や、上記超高分子量ポリエチレン粒子は、上述したRFL水溶液に予め分散させておき、このRFL水溶液を用いた処理を行うことによって、補強布14に含有させればよい。
【0058】
また、補強布14が樹脂フィルムからなる場合は、予め樹脂フィルム中に上記PTFE粒子や、上記超高分子量ポリエチレン粒子を分散させておくことで、補強布14に上記PTFE粒子等を含有させてもよい。
【0059】
<心線>
心線13は、ベルト本体11の背ゴム部11aの内周側の部分に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されて埋設されている。
心線13の外径は、例えば0.45mm以上3.0mm以下である。
心線13のピッチ(ベルト幅方向の配設ピッチ)は、例えば0.5mm以上4.0mm以下である。
この歯付ベルトの心線13は、2本以上のストランドを含むヤーン16を備える。
【0060】
図4Aは、ヤーン16の一例を示す断面図である。このヤーン16aは、5本のストランド17aを含む。それぞれのストランド17aは多数のフィラメント18を含む。
このヤーン16の作製では、多数のフィラメント18を撚り合わせてストランド17aが形成される。5本のストランド17aを撚り合わせて、ヤーン16aが形成される。ストランド17aの形成のためにフィラメント18を撚り合わせることが下撚りであり、ヤーン16aの形成のためにストランド17aを撚り合わせることが上撚りである。この図4に示されたヤーン16aは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有する。
【0061】
図4Bは、ヤーン16の変形例を示す断面図である。このヤーン16bは、5本のストランド17bを含む。それぞれのストランド17bは3本の仮ストランド19を含む。それぞれの仮ストランド19は多数のフィラメント18を含む。
このヤーン16bの作製では、多数のフィラメント18を撚り合わせて仮ストランド19が形成される。3本の仮ストランド19を撚り合わせて、ストランド17bが形成される。5本のストランド17bを撚り合わせて、ヤーン16bが形成される。仮ストランド19の形成のためにフィラメント18を撚り合わせることが下撚りであり、ストランド17bの形成のために仮ストランド19を撚り合わせることが中撚りであり、ヤーン16bの形成のためにストランド17bを撚り合わせることが上撚りである。この図5に示されたヤーン16は、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有する。
【0062】
心線13は、2以上の撚り階層を有するヤーン16を備える。上述したように、ヤーン16は2本以上のストランド17を含み、それぞれのストランド17は多数のフィラメント18を含む。この歯付ベルト10では、ストランド17に含まれるフィラメント18の全て又は一部がカーボン繊維からなるカーボンフィラメントである。ストランド17はカーボンフィラメントを含む。ストランド17は、カーボンフィラメントを含む、多数のフィラメント18を撚り合わせてなる。
カーボンフィラメントのフィラメント径は、例えば5μm以上7μm以下である。ヤーン16に含まれるカーボンフィラメントの本数は、例えば3000本以上である。上記フィラメントの本数の上限は特に限定されず、例えば96000本である。
【0063】
カーボンフィラメントとしては、例えば、PAN系のカーボンフィラメントと、ピッチ系のカーボンフィラメントが挙げられる。柔軟である点から、カーボンフィラメントとしては、PAN系のカーボンフィラメントが好ましい。
【0064】
上述したように、心線13を構成するヤーン16はカーボンフィラメントを含む。カーボンフィラメントの弾性率は高いので、歯付ベルト10に高い負荷をかけても変形が生じにくく、プーリとの噛み合いがずれにくい。そのため、歯付ベルト10とプーリとの噛み合いがずれて歯付ベルト10がプーリに乗り上げたり、歯付ベルト10に局所的な力が掛ってベルト歯12が欠けてしまったりすることを回避することができる。加えて、カーボンフィラメントには、有機繊維からなるフィラメント18のようなクリープ特性が無いため、歯付ベルト10は非常に伸びにくく、この歯付ベルト10には張力低下が発生しにくい。
さらにヤーン16が2以上の撚り階層を有するので、同じ撚りの強さであっても、単一の撚り階層で形成されたヤーン(片撚りヤーンとも称される。)に比べてフィラメント18に生じる歪は小さい。ヤーン16表面の圧縮歪みが小さく抑えられるので、ヤーン16を屈曲させてもフィラメント18は折れにくい。カーボンフィラメントが切断しにくいので、この歯付ベルト10では、屈曲疲労による心線13の切断が防止される。
【0065】
上述したように、図4Aに示されたヤーン16bは、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有する。
ヤーン16が2つの撚り階層を有する場合、多数のフィラメント18を一方向(S撚りの方向又はZ撚りの方向)に下撚りして得られるストランド17を複数本集めて、これらを下撚りの方向と逆方向に上撚りする、いわゆる諸撚りで、ヤーン16が撚られていてもよく、多数のフィラメント18を一方向(S撚りの方向又はZ撚りの方向)に下撚りして得られるストランド17を複数本集めて、これらを下撚りの方向と同じ方向に上撚りする、いわゆるラング撚りで、ヤーン16が撚られていてもよい。
【0066】
ヤーン16が諸撚りで撚られている場合、心線13は、縺れることなくその形状を安定に保持できる。そのため、歯付ベルト10の作製において心線13の間隔に乱れが生じることが防止される。歯付ベルト10の蛇行によるフランジとの擦れが低減される。
ヤーン16がラング撚りで撚られている場合、カーボンフィラメント同士の擦れが低減されるので、摩耗による、心線13の強度低下が防止される。ヤーン16の表層部におけるフィラメント18がベルト長さ方向に対して大きく傾くので、小プーリのように、歯付ベルト10に大きな圧縮歪みが生じる用途においても、カーボンフィラメントに切断は生じにくい。
【0067】
上述したように、図4Bに示されたヤーン16bは、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有する。
ヤーン16が3つの撚り階層を有する場合、下撚りの方向と中撚りの方向とは同方向であるのが好ましい。これにより、2つの撚り階層を有するヤーン16aに含まれるフィラメント18に比べて、撚りによってフィラメント18に生じる歪が小さい。カーボンフィラメントが切断しにくいので、屈曲疲労による心線の切断が防止される。この場合、心線13が縺れることなくその形状を安定に保持でき、歯付ベルト10の作製において心線13間隔に乱れが生じることが防止できる観点から、上撚りの方向は中撚りの方向と逆方向であるのがより好ましい。
【0068】
上述したように、ヤーン16は2以上の撚り階層を有する。このヤーン16においては、各撚り階層における撚り係数の合計(例えば、図4Aに示されたヤーン16aでは、下撚りの撚り係数と上撚りの撚り係数との合計、図4Bに示されたヤーン16bでは、下撚りの撚り係数と、中撚りの撚り係数と、上撚りの撚り係数との合計)は30より大きく120以下であることが好ましい。
【0069】
撚り係数の合計が30より大きく設定されることにより、ヤーン16の強度が高められる。このヤーン16を含む心線13は適度な強度を有し、高負荷伝動に効果的に貢献できる。
撚り係数の合計が120以下に設定されることにより、撚りによってフィラメント18に生じる歪が低減される。撚りが強すぎることによるカーボンフィラメントの切断が防止される。そのため、屈曲疲労による心線13の切断が生じにくい。
【0070】
図4Aに示されたヤーン16a及び図4Bに示されたヤーン16b、すなわち、2以上の撚り階層を有するヤーン16においては、上撚りの撚り係数は100以下であることが好ましい。この場合、撚りが強すぎることによるカーボンフィラメントの切断が防止される。そのため、屈曲疲労による心線13の切断が生じにくい。この観点から、上撚りの撚り係数は60以下であることがより好ましい。心線13が適度な強度を有し、高負荷伝動に効果的に貢献できる観点から、上撚りの撚り係数は30以上であることが好ましい。
【0071】
図4Aに示されたヤーン16a、すなわち、2つの撚り階層を有するヤーン16においては、下撚りの撚り係数は上撚りの撚り係数と同じであってもよく、下撚りの撚り係数が上撚りの撚り係数と異なっていてもよい。
【0072】
図4Bに示されたヤーン16b、すなわち、3つの撚り階層を有するヤーン16においては、下撚りの撚り係数及び中撚りの撚り係数の合計(以下、下撚り及び中撚りの合計撚り係数)は上撚りの撚り係数と同じであってもよく、下撚り及び中撚りの合計撚り係数が上撚りの撚り係数と異なっていてもよい。
【0073】
この3つの撚り階層を有するヤーン16においては、撚りによりフィラメント18に生じる歪を効果的に低減できる観点から、下撚り及び中撚りの合計撚り係数に対する下撚りの撚り係数の比率は、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0074】
上記撚り係数は、撚り係数をKとし、単位長さあたりの撚り数をT(回/m)とし、撚りの対象である繊維束(仮ストランド19、ストランド17又はヤーン16)の繊度をD(dtex)としたとき、次の式(1)で表される。
K=T×√D/100 (1)
例えば、ヤーン16が2つの撚り階層を有する場合、下撚りの撚り係数Kの算出には、下撚りによって得られるストランド17の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。上撚りの撚り係数Kの算出には、上撚りによって得られるヤーン16の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。ヤーン16が3つの撚り階層を有する場合、下撚りの撚り係数Kの算出には、下撚りによって得られる仮ストランド19の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。中撚りの撚り係数Kの算出には、中撚りによって得られるストランド17の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。上撚りの撚り係数Kの算出には、上撚りによって得られるヤーン16の繊度が撚りの対象である繊維束の繊度Dとして用いられる。
【0075】
この歯付ベルト10では、図4A及び図4Bに示されるように、ヤーン16に含まれるストランド17における各フィラメントは、収束剤からなる収束被覆層20で被覆される。ストランド17は、多数のフィラメント18と、各フィラメント18を被覆する収束被覆層20とを備える。ヤーン16は、このストランド17を複数本、撚り合わせてなる。
この歯付ベルト10では、フィラメント18間に収束被覆層20が存在するので、フィラメント18同士が直接擦れ合うことが防止される上に、フィラメント18の動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
【0076】
図2に示されるように、心線13に含まれるヤーン16の表面は、接着剤からなる接着被覆層21で被覆される。この心線13は、ヤーン16と、このヤーン16を被覆する接着被覆層21とを備える。
この歯付ベルト10では、接着被覆層21がヤーン16に含まれるストランド17の動きを拘束する。ストランド17に含まれるフィラメント18の動きだけでなく、ヤーン16に含まれるストランド17の動きも抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
【0077】
収束剤及び接着剤はいずれも、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を水に分散させたエマルジョンである。この歯付ベルト10では、収束剤及び接着剤はいずれも、主剤としてエポキシ基含有化合物と硬化剤とを含有し、この主剤の固形分比率は80質量%以上であることが好ましい。
この場合、収束剤からなる収束被覆層20がストランド17に含まれるフィラメント18を十分に拘束する。さらに接着剤からなる接着被覆層21がヤーン16に含まれるストランド17を十分に拘束する。この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの擦れが抑えられる。そのため、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。
【0078】
上述の固形分比率は、収束剤又は接着剤を乾燥させて得られる固形分全質量に対する主剤、すなわち、エポキシ基含有化合物及び硬化剤の合計質量の比率で表される。
【0079】
収束剤又は接着剤がフィラメント18の動きの抑制に効果的に貢献できる観点から、硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物におけるエポキシ基1モルに対して、5~50モルであることが好ましい。
【0080】
上述の、エポキシ基含有化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0081】
硬化剤は、イソシアネート系硬化剤、又はアミン系硬化剤であることが好ましい。
これにより、収束剤からなる収束被覆層20が、ストランド17に含まれるカーボンフィラメントを効果的に拘束する。さらに接着剤からなる接着被覆層21がヤーン16に含まれるストランド17を効果的に拘束する。この歯付ベルト10では、ストランド17に含まれるフィラメント18の動きだけでなく、ヤーン16に含まれるストランド17の動きも抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0082】
この歯付ベルト10では、イソシアネート系硬化剤として、例えば、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
イソシアネート系硬化剤として、市販品を使用することもできる。イソシアネート系硬化剤の市販品としては、例えば、EMS社製の「Grilbond IL-6」が挙げられる。
【0083】
この歯付ベルト10では、アミン系硬化剤としては、例えば、ジアミン化合物、オキサゾール環を有する化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール系化合物が好ましい。
アミン系硬化剤として、市販品を使用することができる。このアミン系硬化剤の市販品としては、例えば、四国化成社製の「キュアゾール」が挙げられる。
【0084】
この歯付ベルト10は、上述の収束剤として、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含むエマルジョンに換えて、例えば、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有し、固形分比率が80質量%以上である水溶液を用いることができる。
この水溶液は、RF液とも称され、主剤の固形分比率は、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の固形分比率で表される。
RF液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルムアルデヒド(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。
収束剤として、RF液を用いても、収束被覆層20によって、フィラメント18同士が直接擦れ合うことが防止される上に、フィラメント18の動きが抑制される。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。さらにこの場合、上述の、エポキシ基含有化合物及び硬化剤を含む溶液を収束剤として用いた場合に比べて、軟質な収束被覆層20が構成される。そのため、収束被覆層20によってフィラメント18は拘束されるものの、フィラメント18は僅かに動くことができる。この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの擦れによる摩耗の発生が効果的に防止されるとともに、耐疲労屈曲性の向上が図られる。
【0085】
この歯付ベルト10では、収束剤としてのRF液は、機能を損なわない範囲で、ラテックス等の薬品を含むことができる。
このラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(VP・SBR)、スチレン・ブタジエンゴムラテックス(SBR)、天然ゴムラテックス(NR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3-ジクロロブタジエンゴムラテックス(2,3-DCB)、水素化ニトリルゴムラテックス(H-NBR)、カルボキシル化水素化ニトリルゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス(BR)、ニトリルゴムラテックス(NBR)等が挙げられる。上記収束剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。
【0086】
収束剤が、レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物と、上述のラテックスとを含む水溶液である場合、この収束剤はRFL水溶液とも称される。この場合、RFL水溶液におけるレゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の含有量と、ラテックス由来固形分の含有量とを合わせた固形分比率は、例えば10質量%以上30質量%以下である。
RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)について、レゾルシン(R)のホルムアルデヒド(F)に対するモル比(R/F)は、例えば1/3~1/0.5である。RFL水溶液中のレゾルシン(R)及びホルムアルデヒド(F)の初期縮合物(RF)のラテックス由来固形分(L)に対する質量比(RF/L)は、例えば1/10~1/0であり、好ましくは1/6前後である。
【0087】
上述したように、ストランド17はカーボンフィラメントを含む。この歯付ベルト10では、このストランド17はカーボンフィラメント以外に、ポリアミド繊維からなるポリアミドフィラメントを含むことができる。
ポリアミドフィラメントは、カーボンフィラメント間のバインダーとして機能する。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルトでは、カーボンフィラメントの摩耗による、心線の強度低下が防止される。
【0088】
この歯付ベルト10では、フィラメント18がカーボンフィラメント以外にポリアミドフィラメントを含む場合、このポリアミドフィラメントを含むストランド17又はヤーン16は加熱処理が施されるのが好ましい。
ポリアミドフィラメントをその融点以上に加熱すると、ポリアミドフィラメントは溶融する。これにより、ポリアミドフィラメントはその周囲に位置するカーボンフィラメント間に入り込む。溶融したポリアミドフィラメントは、カーボンフィラメント間のバインダーとして効果的に機能できる。溶融したポリアミドフィラメントは、フィラメント18を拘束する。カーボンフィラメントの擦れが抑えられるので、この歯付ベルト10では、カーボンフィラメントの摩耗による、心線13の強度低下が防止される。この観点から、この歯付ベルト10では、ストランド17は、カーボンフィラメント以外に、溶融したポリアミドフィラメントを含むのが好ましい。
【0089】
この歯付ベルト10では、ストランド17がカーボンフィラメント及びポリアミドフィラメントを含む場合、ポリアミドフィラメントがバインダーとして効果的に機能できる観点から、ストランド17において、カーボンフィラメントの体積とポリアミドフィラメントの体積との合計に対する、ポリアミドフィラメントの体積の割合は、3~12体積%であることが好ましい。
【0090】
ポリアミドフィラメントを構成するポリアミド(ナイロン)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1212等が挙げられる。
【0091】
この歯付ベルト10では、背ゴム部11aと歯ゴム部11bとの境界付近には、構造上、剪断歪みが生じやすい。特に、上述したように、背面クラックの発生を抑制する観点から、背ゴム部11aが軟質な熱可塑性エラストマー組成物で構成され、歯ゴム部11bが背ゴム部11aに比して硬質な熱可塑性エラストマー組成物で構成された場合には、剛性差も加味されてこの境界付近は剪断歪みの影響を受けやすい状況にある。
この歯付ベルト10の心線13は、背ゴム部11aの内周側の部分に配置される。言い換えれば、この心線13は背ゴム部11aと歯ゴム部11bとの境界付近に位置する。そのため、この心線13と背ゴム部11aとの界面は、この剪断歪みの影響を受けやすい状況にある。しかし、心線13に含まれるヤーン16は、上述したように、2以上の撚り階層を有する。このヤーン16は、上述の剪断歪みによる作用を効果的に緩和できる。そのため、心線13が背ゴム部11aに保持された状態が安定に維持される。言い換えれば、心線13の背ゴム部11aからの剥離が効果的に防止される。この歯付ベルト10では、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。
【0092】
(製造方法)
本製造方法を図5図8を参照しながら説明する。
図5は、歯付ベルトの製造方法で使用するベルト成形型の部分断面図である。図6~8は、製造方法の製造工程を説明する図である。
製造方法は、材料準備工程、積層工程、成形工程、及び仕上げ工程を有する。
【0093】
<材料準備工程>
≪エラストマーシート≫
背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとを用意する。各エラストマーシートは、例えば、エラストマー成分であるTPAE又はTPCと、必要な添加剤とを含む熱可塑性エラストマー組成物を調製し、これを押出成形等でシート状に成形することで得られる。
また、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとは、共押出で成形してもよい。この場合、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートと、歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシートとの積層体が得られる。
本工程で成形したエラストマーシートは、一旦、巻取ってもよいし、そのまま次工程に供給してもよい。
【0094】
≪補強布≫
ベルト歯の形状に対応した歯形を有する補強布(歯部被覆材)を準備する。
ベルトの歯形と同形状の凹部を有し、加熱された型に、補強布を沿わせ、当該型と反対側から軟らかい弾性体を押付けることで、補強布を歯形が付いた形状に成形する。
その後、歯形の付いた補強布は筒状に成形してもよい。必要に応じて、補強布に対しては、RFL処理のような接着処理を行うことができる。
【0095】
≪心線≫
カーボンフィラメントに所定の撚りや、接着処理等を加えて心線13を用意する。ここでは、S撚りの心線とZ撚りの心線とを一対の心線として用意することが好ましい。
フィラメント18の束を撚り合わせてストランド17を構成する。収束被覆層20で各フィラメント18を被覆する場合は、フィラメント18の束を収束剤を含む溶液中に浸漬して各フィラメント18の表面全体に収束剤を塗布した後、この束を撚り合わせてストランド17を構成する。これにより、収束剤がフィラメント18間に含侵したストランド17が得られる。その後、ストランド17を加熱し、収束剤に含まれる分散媒を揮発させ、収束剤を乾燥させる。これにより、収束剤からなる収束被覆層20(厚さ=0.05~0.35μm)で被覆されたフィラメント18を含むストランド17が得られる。収束剤処理における加熱温度としては、例えば180℃以上250℃以下に設定される。加熱時間としては、例えば3分以上10分以下に設定される。
【0096】
複数本のストランド17を撚り合わせてヤーン16を構成する。接着被覆層21でヤーン16を被覆する場合は、このヤーン16を接着剤を含む溶液中に浸漬して、ストランド17の表面全体に接着剤を塗布する。これにより、ヤーン16の表面には接着剤からなる塗布層が形成される。その後、塗布層を加熱し、塗布層に含まれる分散媒を揮発させ、この塗布層を乾燥させる。これにより、ヤーン16の表面に、接着剤からなる接着被覆層21(厚さ=0.15~0.8μm)が形成された心線13が得られる。接着剤処理における加熱温度としては、例えば180℃以上250℃以下に設定される。加熱時間としては、例えば3分以上10分以下に設定される。
【0097】
ヤーン16に含まれるフィラメント18にポリアミドフィラメントが含まれる場合、心線13に対して加熱処理が行われる。この加熱処理により、溶融したポリアミドフィラメントがカーボンフィラメント間に入り込み、溶融したポリアミドフィラメントを含む心線13が得られる。この加熱処理が、接着剤処理における乾燥において行われてもよい。この場合、乾燥時の加熱温度及び時間には、この加熱処理における加熱温度及び時間が考慮される。
【0098】
<積層工程>
図5は、ベルト成形型30の一部を示す部分断面図である。
ベルト成形型30は、円筒状であって、各々、軸方向に延びるように形成された複数の歯部形成溝31が周方向に間隔をおいて配設された外周面を有する。
【0099】
図6に示すように、ベルト成形型30の外周面上に歯形を付けた筒状の補強布14を被せ、その上から一対の心線13を螺旋状に巻き付ける。
そして、その上に歯ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム部用の熱可塑性エラストマーシート11a’とをこの順に巻き付ける。巻き付けられた各シートの層数は、作製するベルトの寸法に応じて、1層でもよいし、2層以上でもよい。
更に、必要に応じて離型紙又は離型フィルム(図示せず)を巻き付ける。
これにより、ベルト成形型30上に積層体S’を成形する。
【0100】
<成形工程>
ゴムスリーブ32を内面に持ち、スリーブ32と本体との間に密閉した空間をもつジャケットを、積層体S’に被せる。これにより、図7に示すように、ベルト成形型30上の積層体S’にゴムスリーブ32が被せられる。
積層体S’を巻いた成形型30の内部とジャケットの空間に高圧蒸気を入れて加熱・圧縮する。これにより、熱可塑性エラストマーシート11a’、11b’を構成する熱可塑性エラストマーを心線間の隙間を通過させて歯部形成溝31にして流し込み、図8に示すように、ベルト歯12を形成する。
このとき、高圧蒸気の温度は、熱可塑性エラストマーが流動する温度以上の温度とする。なお、熱可塑性エラストマーシートのエラストマー成分が、TPAEの場合には、高圧蒸気の温度を170℃以上にする。
【0101】
ベルト歯12を形成した後は、ジャケットや成形型30を水などで冷却して、エラストマーの温度を100℃以下に下げた後、ジャケットから成形型30と成形体Sを取出す。さらに、成形体Sの温度が40℃以上の場合は、さらに冷却し、成形体Sの温度が40℃より下がったら、成形体Sを成形型30から抜き取る。
【0102】
<仕上げ工程>
取出した成形体Sを規定の幅に切って分離することで、歯付ベルト10となる。
このような工程を経ることにより、ベルト本体11が熱可塑性エラストマー組成物で構成される歯付ベルト10を製造することができる。
【0103】
<その他>
なお、歯ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11b’と、背ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11a’との硬さが異なる場合には、ベルト成形型30の外周面上に、補強布14、心線13、及び歯ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11b’の積層を行った後、上述した高圧蒸気による加熱・圧縮を行ってベルト歯を形成し、一旦冷却した後、背ゴム用の熱可塑性エラストマーシート11a’を巻き付けて、再度、高圧蒸気による加熱・圧縮を行い、その後、再度冷却し、最後に仕上げ工程を行って、歯付ベルトを製造すればよい。
【実施例0104】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
ここでは、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを作製し、その性能を評価した。
各例の歯付ベルトは、既に説明した上述の製造方法を用いて作製した。
ベルト本体(背ゴム部及び歯ゴム部)を形成するための熱可塑性エラストマー組成物、心線、及び補強布は下記の通り準備した。
【0106】
(熱可塑性エラストマー組成物)
下記の熱可塑性エラストマー組成物を用意した。いずれの熱可塑性エラストマー組成物も市販品である。
【0107】
TPAE:ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物
(A1)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 4033SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは42である。
(A2)アルケマ社製のPEBAX(登録商標) 2533SP-01を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは27である。
PEBAXは、ポリオールをソフトセグメントとする。
【0108】
TPO:ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物
三菱ケミカル社製のサーモラン(登録商標) QT85KBを使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは31である。
【0109】
TPU:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー組成物
日本ミラクトラン社製のミラクトラン(登録商標) E490を使用した。この熱可塑性エラストマー組成物の硬さは43である。
【0110】
(補強布)
補強布として、RFL処理されたナイロン帆布を準備した。
ここでは、経糸が6,6-ナイロン繊維で、緯糸が6,6-ナイロン繊維のウーリー加工糸のナイロン帆布を用意した。
これとは別に、RFL水溶液(ラテックスは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス)を用意した。
【0111】
(心線)
カーボンフィラメント(帝人テナックス社製、フィラメント径7μm)、ポリアミドフィラメントとしてナイロン繊維からなるフィラメント(旭化成社製、フィラメント径19μm)及びガラス繊維からなるフィラメント(NSG社製、フィラメント径9μm)を準備し、下記の表に示される心線を準備した。
各表において、撚りのタイプの欄における「T」は諸撚りであること、「LT」はラング撚りであり、「ST」は片撚りであることを表している。
各心線に含まれるフィラメントの本数は15000本に設定された。
表のCF比率は、ヤーンに含まれる全フィラメントの体積に対する全カーボンフィラメントの体積の比率を表している。PA比率は、ヤーンに含まれる全フィラメントの体積に対する全ポリアミドフィラメントの体積の比率を表している。
次の処理液A、B及びCを準備した。各表の収束剤及び接着剤の欄に、使用した処理液を「A」、[B]又は「C」で表している。
処理液A
ナガセケムテック社製の「デナコール EX-521」と、四国化成社製の「キュアゾール 2E4MZ-CN」とを用い、エポキシ基含有化合物及びアミン系硬化剤を含む処理液Aを準備した。この処理液Aにおける、エポキシ基含有化合物及び硬化剤の固形分比率は10質量%であった。アミン系硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物におけるエポキシ基1モルに対して、10モルに設定された。
処理液B
ナガセケムテック社製の「デナコールEX-521」と、四国化成社製の「キュアゾール 2E4MZ-CN」と、EMS社製「Grilbond IL-6」とを用い、エポキシ基含有化合物、アミン系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤を含む処理液Bを準備した。この処理液Bにおける、エポキシ基含有化合物及び硬化剤の固形分比率は30質量%であった。アミン系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤からなる硬化剤の量は、エポキシ基含有化合物におけるエポキシ基1モルに対して、10モルに設定された。エポキシ基とイソシアネート基との官能基比は、モル基準で1:1に設定された。
・処理液C
処理液Cとして、RF液を準備した。レゾルシン及びホルムアルデヒドの初期縮合物の固形分比率は100質量%であった。レゾルシン(R)のホルマリン(F)に対するモル比(R/F)を1/1.5とした。
【0112】
[実施例1]
背ゴム部及び歯ゴム部に上記TPAE(A1)を使用し、補強布として上記ナイロン帆布を使用し、上記カーボンフィラメントを含む心線を使用して、上述した製造方法A(図6図9参照)で、歯型の種類がS8Mの歯付ベルトを製造した。ベルト幅は8mm、ベルト長は1200mmとした。
心線については、図4Aに示されるタイプのヤーン、具体的には、下撚り及び上撚りからなる2つの撚り階層を有する、諸撚りタイプのヤーンを準備した。
ヤーンに含まれる各ストランドに含まれるフィラメントの本数は3000本に設定した。フィラメントの全てをカーボンフィラメントで構成した。
フィラメントの束を収束剤としての処理液Aに浸漬した後、このフィラメントの束を下撚りして、ストランドを構成した。このストランドに対して、180℃の温度で5分間の加熱処理を行った。これにより、ストランドのフィラメント間を充填する収束被覆層を形成した。下撚りの撚り係数は40に設定した。
収束被覆層を形成したストランドを5本準備し、これらを上撚りして、ヤーンを構成した。上撚りの撚り係数は40に設定した。
接着剤に処理液Bを用い、ヤーンの接着剤処理を行い、ヤーンの表面に接着被覆層を形成した。この処理における加熱温度は220℃、加熱時間は10分に設定された。
【0113】
[実施例2]
ヤーンの撚りのタイプをラング撚りとした他は実施例1と同様にして、実施例2の歯付ベルトを得た。
【0114】
[実施例3]
心線のヤーンを図4Bに示された構成を有するヤーン、具体的には、下撚り、中撚り及び上撚りからなる3つの撚り階層を有する、諸撚りタイプのヤーンに変えた他は実施例1と同様にして、実施例3の歯付ベルトを得た。
この実施例3では、ヤーンに含まれる各ストランドは3本の仮ストランドで構成された。それぞれの仮ストランドに含まれるフィラメントの本数は1000本に設定した。実施例1と同様、フィラメントの全てをカーボンフィラメントで構成した。
フィラメントの束を収束剤としての処理液Aに浸漬した後、このフィラメントの束を下撚りして、仮ストランドを構成した。下撚りの撚り係数は5に設定した。
3本の仮ストランドを中撚りして、ストランドを構成した。中撚りの方向は下撚りの方向と同方向とし、中撚りの撚り係数は35に設定した。
このストランドに対して、180℃の温度で5分間の加熱処理を行った。これにより、ストランドのフィラメント間を充填する収束被覆層を形成した。
収束被覆層を形成したストランドを5本準備し、これらを上撚りして、ヤーンを構成した。上撚りの方向は中撚りの方向と逆方向とし、上撚りの撚り係数は40に設定した。
接着剤に処理液Bを用い、ヤーンの接着剤処理を行い、ヤーンの表面に接着被覆層を形成した。この処理における加熱温度は220℃、加熱時間は10分に設定された。
【0115】
[比較例1]
心線のヤーンを、15000本のフィラメントの束を片撚りして構成したヤーン(図示されず)に変えた他は実施例1と同様にして、比較例1の歯付ベルトを得た。
この比較例1では、収束剤に処理液Aを用い、ヤーンのフィラメント間を充填する収束被覆層を形成した。処理における加熱温度は180℃、加熱時間は5分に設定された。
収束被覆層を形成したヤーンについてさらに、接着剤に処理液Bを用い接着剤処理を行い、このヤーンの表面に接着被覆層を形成した。この処理における加熱温度は220℃、加熱時間は10分に設定された。
ヤーンの撚り係数は80に設定した。このヤーンの撚り階層は1である。
【0116】
[比較例2]
フィラメントに上記ガラス繊維からなるフィラメントを用いた他は実施例1と同様にして、比較例2の歯付ベルトを得た。
【0117】
[比較例3~4]
背ゴム部及び歯ゴム部の熱可塑性エラストマー組成物を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例3-4の歯付ベルトを得た。
【0118】
[実施例4-1~4-5]
上撚りの撚り係数を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4-1~4-5の歯付ベルトを得た。
【0119】
[実施例5-1~5-5]
上撚りの撚り係数を下記の表3に示される通りとした他は実施例2と同様にして、実施例5-1~5-5の歯付ベルトを得た。
【0120】
[実施例6-1~6-5]
上撚りの撚り係数を下記の表4に示される通りとした他は実施例3と同様にして、実施例6-1~6-5の歯付ベルトを得た。
【0121】
[実施例7-1]
収束剤処理を行わなかった他は実施例1と同様にして、実施例7-1の歯付ベルトを得た。
【0122】
[実施例7-2]
接着剤処理を行わなかった他は実施例1と同様にして、実施例7-2の歯付ベルトを得た。
【0123】
[実施例7-3]
収束剤に処理液Cを用い、接着剤に処理液Bを用いた他は実施例1と同様にして、実施例7-3の歯付ベルトを得た。
【0124】
[実施例8-1]
収束剤処理を行わなかった他は実施例2と同様にして、実施例8-1の歯付ベルトを得た。
【0125】
[実施例8-2]
接着剤処理を行わなかった他は実施例2と同様にして、実施例8-2の歯付ベルトを得た。
【0126】
[実施例9-1]
収束剤処理を行わなかった他は実施例3と同様にして、実施例9-1の歯付ベルトを得た。
【0127】
[実施例9-2]
接着剤処理を行わなかった他は実施例3と同様にして、実施例9-2の歯付ベルトを得た。
【0128】
[実施例10-1]
ストランドに含まれるフィラメントをカーボンフィラメントとポリアミドフィラメントとで構成し、CF比率及びPA比率を下記の表6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例10-1の歯付ベルトを得た。
【0129】
[実施例10-2~10-3]
CF比率及びPA比率を下記の表6に示される通りとした他は実施例10-1と同様にして、実施例10-2~10-3の歯付ベルトを得た。
【0130】
[実施例10-4]
ストランドに含まれるフィラメントをカーボンフィラメントとポリアミドフィラメントとで構成し、CF比率及びPA比率を下記の表6に示される通りとした他は実施例2と同様にして、実施例10-4の歯付ベルトを得た。
【0131】
[実施例11-1]
収束剤に処理液Bを用いた他は実施例1と同様にして、実施例11-1の歯付ベルトを得た。
【0132】
[実施例11-2]
収束剤に処理液Bを用いた他は実施例3と同様にして、実施例11-2の歯付ベルトを得た。
【0133】
[実施例12]
背ゴム部に上記TPAE(A2)を使用し、歯ゴム部に上記TPAE(A1)を使用した他は実施例1と同様にして、実施例12-1の歯付ベルトを得た。
【0134】
(評価方法)
実施例及び比較例で製造した歯付ベルトについて、耐久性を評価するための耐久試験1~3を行った。結果は、表1~6に示した。
【0135】
<耐久試験1>
耐久試験1は、標準的な走行条件で耐久性を評価する試験である。実施例1、7-1~7-3、8-1~8-2、9-1~9-2、10-1~10-4、11-1~11-2及び12、並びに、比較例3~4で製造した歯付ベルトについて行った。
図9は、耐久試験1で使用したベルト走行試験機80を示す。
ベルト走行試験機80は、歯数22歯、歯形8Mの駆動プーリ81と、その右側方に設けられた歯数33歯、歯形8Mの従動プーリ82とを備える。従動プーリ82は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
【0136】
実施例1、7-1~7-3、8-1~8-2、9-1~9-2、10-1~10-4、11-1~11-2及び12、並びに、比較例3~4のそれぞれで製造した歯付ベルト110について、ベルト走行試験機80の駆動プーリ81及び従動プーリ82間に巻き掛けると共に、従動プーリ82に対して右側方に608Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ82に34.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ81を1分間に4200回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して、背ゴムの背面におけるクラック、心線飛出、心線剥離等の故障の発生の有無を目視確認し、故障の発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。なお、ベルト走行時間の最長を1000時間とした。
また、故障の発生に至らなくても歯飛びが発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0137】
<耐久試験2>
耐久試験2は、高負荷条件下での耐久性を評価する試験である。実施例1、4-1~4-5、5-1~5-5、6-1~6-5及び12、並びに、比較例2で製造した歯付ベルトについて行った。
図10は、耐久試験2で使用したベルト走行試験機90を示す。
ベルト走行試験機90は、歯数24歯、歯形8Mの駆動プーリ91と、その右側方に設けられた歯数36歯、歯形8Mの従動プーリ92とを備える。従動プーリ92は、軸荷重(デッドウェイト)を負荷できるように左右に移動可能に設けられている。
【0138】
実施例1、4-1~4-5、5-1~5-5、6-1~6-5及び12、並びに、比較例2のそれぞれで製造した歯付ベルト120について、ベルト走行試験機90の駆動プーリ91及び従動プーリ92間に巻き掛けると共に、従動プーリ92に対して右側方に520Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、且つ従動プーリ92に39.2N・mの回転負荷を与え、室温下において駆動プーリ91を1分間に3000回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して、歯欠け、心線切断等の故障の発生を目視確認し、故障の発生が確認されるまでのベルト走行時間を測定した。
なお、クラックの発生に至らなくても故障が発生した場合には、その時点で試験を終了した。
【0139】
<耐久試験3>
耐久試験3は、小プーリを用いて歯付ベルトの耐屈曲疲労性を評価する試験である。実施例1~3、4-1~4-5、5-1~5-5、6-1~6-5、7-3、10-2~10-3、11-1~11-2及び12、並びに、比較例1で製造した歯付ベルトについて行った。
図11は、耐久試験3で使用したベルト走行試験機を示す。
ベルト走行試験機100は、歯数22歯、歯形8Mの駆動プーリ101と、歯数22歯、歯型8Mの3個の従動プーリ102とを備える。従動プーリ102aは、駆動プーリ101の右斜め下方に設けられる。従動プーリ102bは、従動プーリ102aの左斜め下方であって、駆動プーリ101の下方に設けられる。従動プーリ102cは、従動プーリ102bの左斜め上方であって、従動プーリ102aの左側方に設けられる。従動プーリ102bは、軸荷重(デッドウェイト)を付加できるように上下に移動可能に構成されている。このベルト走行試験機100では、歯付ベルトと駆動プーリ101との接触角が120度となるように、駆動プーリ101と3個の従動プーリ102とは配置されている。
【0140】
実施例1~3、4-1~4-5、5-1~5-5、6-1~6-5、7-3、10-2~10-3、11-1~11-2及び12、並びに、比較例1のそれぞれで製造した歯付ベルト130について、ベルト走行試験機100の駆動プーリ101及び3個の従動プーリ102に巻き掛けると共に、従動プーリ102cに対して下方に392Nの軸荷重を負荷してベルト張力を与え、室温下において駆動プーリ101を1分間に5500回の回転速度で回転させてベルト走行させた。そして、定期的にベルト走行を停止して心線の切断の有無を確認し、心線に切断が生じるまでのベルト走行時間を測定した。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
【表6】
【0147】
表1~6に示した通り、本発明の実施形態に係る歯付ベルトによれば、ベルト背面におけるクラックの発生が抑制される。さらに高負荷伝動を行った場合にも、ベルト歯の摩耗が抑制される。そして、心線に大きな圧縮歪みが作用する小プーリでの使用においても、屈曲疲労による心線の切断が防止される。
この歯付ベルトでは、高負荷伝動に適する状態が長期に亘って維持される。この歯付ベルトは、耐屈曲疲労性に優れ、高負荷伝動に適する。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、説可塑性エラストマー組成物を歯ゴム部及び背ゴム部の材料に用いた歯付ベルトの技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0149】
10、110、120、130 歯付ベルト
11 ベルト本体
11a 背ゴム部
11b 歯ゴム部
12 ベルト歯
13 心線
14 補強布(歯部被覆材)
15 歯底部
16 ヤーン
17 ストランド
18 フィラメント
19 仮ストランド
20 収束被覆層
21 接着被覆層
30 ベルト成形型
31 歯部形成溝
32 ゴムスリーブ
80、90、100 ベルト試験機
81、91、101 駆動プーリ
82、92、102 従動プーリ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11