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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171376
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】減速機付モータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077980
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 和樹
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA14
3J027FA37
3J027FB01
3J027GA01
3J027GA03
3J027GA05
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD13
3J027GE01
3J027GE07
(57)【要約】
【課題】公転するギヤに設けられた突起と公転するギヤの自転を制限する部材との接触状態を安定させる。
【解決手段】減速機付モータは、モータと、ヘリカルギヤと、偏心軸と、伝達用ギヤと、出力ギヤ体30と、スライダプレート60と、を備えている。偏心軸は、ヘリカルギヤと結合されており、支持部を有している。伝達用ギヤは、支持部に支持されていると共にヘリカルギヤ側へ向けて突出する制限突起部を備え、ヘリカルギヤが偏心軸と共に回転することで、ヘリカルギヤの回転軸の周りを公転する。スライダプレート60は、制限突起部が当接及び摺動することで、伝達用ギヤの自転を制限する。スライダプレート60と伝達用ギヤとの間には、干渉回避突起部60Aが設けられている。干渉回避突起部60Aが設けられていることで、スライダプレート60の角部分64と制限突起部の突出方向基端側との干渉が回避される。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(12A)を有するモータ(12)と、
前記回転軸の回転力が伝達されることで回転する第1ギヤ(20)と、
前記第1ギヤと結合され、前記第1ギヤの回転軸に対して径方向にオフセットされた支持部(22B)を有する偏心軸(22)と、
前記支持部に支持されていると共に前記第1ギヤ側へ向けて突出する制限突起部(24E)を備え、前記第1ギヤが前記偏心軸と共に回転することで、前記第1ギヤの回転軸の周りを公転する伝達用ギヤ(24)と、
前記伝達用ギヤが公転することで回転する出力部(30)と、
前記制限突起部が当接及び摺動することで、前記伝達用ギヤの自転を制限する自転制限部材(52、60)と、
前記自転制限部材と前記伝達用ギヤとの間に設けられ、前記自転制限部材において前記制限突起部側に位置している角部分と前記制限突起部の突出方向基端側との干渉を回避する干渉回避部(60A、66、68)と、
を備えた減速機付モータ(10)。
【請求項2】
前記干渉回避部は、前記伝達用ギヤ側へ向けて突出すると共に前記自転制限部材と一体に形成された干渉回避突起部(60A)とされている請求項1に記載の減速機付モータ。
【請求項3】
前記伝達用ギヤは、一対の前記制限突起部を備えており、
前記自転制限部材が、一対の前記制限突起部の間に配置されている請求項1又は請求項2に記載の減速機付モータ。
【請求項4】
前記自転制限部材は、矩形ブロック状に形成されており、
前記偏心軸の回転軸方向から見て、前記干渉回避突起部が前記自転制限部材の四隅に形成されている請求項2又は請求項2を引用する請求項3に記載の減速機付モータ。
【請求項5】
前記自転制限部材は、前記制限突起部と前記偏心軸の回転径方向にそれぞれ対向して配置される被係合面(52B)を備えており、
前記被係合面において前記制限突起部が摺動する範囲を摺動範囲(60D)とし、
前記偏心軸の回転径方向から見て、前記干渉回避突起部が前記摺動範囲とオフセットした位置に配置されている請求項4に記載の減速機付モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速機付モータに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、モータの回転を減速する減速機を備えた減速機付モータが開示されている。この文献に記載された減速機は、モータの回転軸に固定されたウォームと、ウォームと噛合うウォームホイールと、ウォームホイールが回転することで自転が制限された状態で公転するギヤと、公転するギヤの公転に伴う回転力が伝達されることで回転する出力シャフトと、を備えている。また、ウォームホイールと公転するギヤとの間には、公転するギヤの自転を制限する部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第104638830号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載された減速機付モータの減速機では、公転するギヤに設けられた突起が当該公転するギヤの自転を制限する部材に係合することで、公転するギヤの自転が制限される構成となっている。この構成では、耐久性を確保することや異音の発生を抑制すること等の観点で、公転するギヤに設けられた突起と公転するギヤの自転を制限する部材との接触状態を安定させることができることが望ましい。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、公転するギヤに設けられた突起と公転するギヤの自転を制限する部材との接触状態を安定させることができる減速機付モータを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する減速機付モータ(10)は、回転軸(12A)を有するモータ(12)と、前記回転軸の回転力が伝達されることで回転する第1ギヤ(20)と、前記第1ギヤと結合され、前記第1ギヤの回転軸に対して径方向にオフセットされた支持部(22B)を有する偏心軸(22)と、前記支持部に支持されていると共に前記第1ギヤ側へ向けて突出する制限突起部(24E)を備え、前記第1ギヤが前記偏心軸と共に回転することで、前記第1ギヤの回転軸の周りを公転する伝達用ギヤ(24)と、前記伝達用ギヤが公転することで回転する出力部(30)と、前記制限突起部が当接及び摺動することで、前記伝達用ギヤの自転を制限する自転制限部材(52、60)と、前記自転制限部材と前記伝達用ギヤとの間に設けられ、前記自転制限部材において前記制限突起部側に位置している角部分と前記制限突起部の突出方向基端側との干渉を回避する干渉回避部(60A、66、68)と、を備えている。
【0007】
この様に構成することで、公転するギヤに設けられた突起と公転するギヤの自転を制限する部材との接触状態を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】減速機付モータを分解して示す分解斜視図である。
図2】減速機付モータを分解して示す分解斜視図であり、図1とは反対側から見た図を示している。
図3】減速機の一部を構成する偏心軸、固定ギヤ、伝達用ギヤ及び出力ギヤ体を示す分解斜視図である。
図4】減速機の一部を構成する偏心軸、固定ギヤ、伝達用ギヤ及び出力ギヤ体を出力ギヤ体の回転軸方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
図5】固定ギヤ、スライダプレート及び伝達用ギヤを模式的に示す正面図である。
図6】比較例に係るスライダプレートを示す斜視図である。
図7】制限突起部とスライダプレートとの接触部を拡大して示す拡大断面図である。
図8】制限突起部とスライダプレートとの接触部を拡大して示す拡大断面図であり、制限突起部が変形した状態を示している。
図9】制限突起部とスライダプレートとの接触部を拡大して示す拡大断面図であり、制限突起部が図8に示された状態よりも変形した状態を示している。
図10】干渉回避突起部を有するスライダプレートを示す斜視図である。
図11】制限突起部と干渉回避突起部を有するスライダプレートとの接触部を拡大して示す拡大断面図である。
図12】伝達用ギヤ、ワッシャ、及びスライダプレートを示す分解斜視図である。
図13】伝達用ギヤ、ワッシャ、及びスライダプレートを軸方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
図14】伝達用ギヤ、球状部材、及びスライダプレートを軸方向に沿って切断した断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図4を用いて本開示の実施形態に係る減速機付モータ10について説明する。
【0010】
なお、図中に適宜示す矢印Z方向、矢印R方向及び矢印C方向は、出力ギヤであるピニオンギヤ30Cの回転軸方向一方側、回転径方向外側及び回転周方向一方側をそれぞれ示すものとする。また、矢印Z方向とは反対側、矢印R方向とは反対側及び矢印C方向とは反対側は、出力ギヤであるピニオンギヤ30Cの回転軸方向他方側、回転径方向内側及び回転周方向他方側をそれぞれ示すものとする。さらに、単に軸方向、径方向、周方向を示す場合は、特に断りのない限り、ピニオンギヤ30Cの回転軸方向、回転径方向、回転周方向を示すものとする。
【0011】
図1図2及び図3に示されるように、本実施形態の減速機付モータ10は、車両用シートのシートクッションをシート上下方向に移動させるためのパワーシート用モータである。この減速機付モータ10は、直流モータであるモータ12を備えている。また、減速機付モータ10は、モータ12の回転軸12Aの回転を出力部としての出力ギヤ体30に減速して伝達させるための減速機14を備えている。さらに、減速機付モータ10は、モータ12が取付けられていると共にその内部に減速機14が設けられたハウジング16を備えている。
【0012】
減速機14は、モータ12の回転軸12Aに固定されたウォームギヤ18と、ウォームギヤ18と噛み合う第1ギヤとしてのヘリカルギヤ20と、ヘリカルギヤ20と一体に設けられた偏心軸22と、を備えている。
【0013】
また、減速機14は、偏心軸22に支持された伝達用ギヤ24及びロック用ギヤ26と、ロック用ギヤ26と噛合う固定ギヤ28と、を備えている。さらに、減速機14は、固定ギヤ28に支持される自転制限部材としてのスライダプレート52を備えている。伝達用ギヤ24がスライダプレート52に係合することで、当該伝達用ギヤ24の自転が制限されるようになっている。また、減速機14は、伝達用ギヤ24と噛合うと共にピニオンギヤ30Cを有する出力ギヤ体30を備えている。この出力ギヤ体30は、その軸方向がヘリカルギヤ20、伝達用ギヤ24及びロック用ギヤ26の軸方向と同じ方向(矢印Z方向及び矢印Z方向とは反対方向)に向けられていると共にヘリカルギヤ20と同軸上に配置されている。
【0014】
また、減速機付モータ10は、偏心軸22及びヘリカルギヤ20等の軸方向へのガタ付きを抑制するためのスプリング32を備えている。また、減速機付モータ10は、ハウジング16に固定されることで、減速機14がハウジング16内に収容されるカバープレート34を備えている。
【0015】
図1及び図2に示されるように、ハウジング16は、樹脂材料を用いて形成されている。このハウジング16は、モータ12の回転軸12Aが軸方向(矢印Z方向)と直交する方向に向けられた状態で固定されるモータ固定部16Aを備えている。また、ハウジング16は、減速機14が収容される減速機収容凹部16Cを備えている。この減速機収容凹部16Cは、軸方向一方側(矢印Z方向側)が開放された凹状に形成されている。
【0016】
図1に示されるように、減速機収容凹部16Cは、当該減速機収容凹部16Cの底を形成する底壁部と、底壁部の外周部から軸方向一方側へ延びると共に内周面が略円筒面状に形成された側壁部16Eと、を含んで構成されている。減速機収容凹部16Cの底壁部の中央部には、後述する回転中心軸40の軸方向他方側の端部がクリアランスを有して挿入される円筒状のボス部が立設されている。また、底壁部におけるボス部のまわりには、スプリング32が配置されている。なお、底壁部とスプリング32との間には、ワッシャ36が介在している。
【0017】
減速機収容凹部16Cの側壁部16Eの内周部には、後述する固定ギヤ28の一部が嵌合されることで、当該固定ギヤ28の周方向への回転変位を制限する3つの固定ギヤ係合部16Gが形成されている。3つの固定ギヤ係合部16Gには、円柱状の柱部16Iが設けられている。
【0018】
カバープレート34は、鋼板材等を用いて形成されている。このカバープレート34には、ピニオンギヤ30Cをハウジング16の減速機収容凹部16Cの外側へ露出させるための露出開口34Aが形成されている。また、カバープレート34における露出開口34Aの周縁部には、軸方向一方側へ向けて屈曲された環状のリブ34Bが形成されている。
【0019】
ウォームギヤ18の外周部には螺旋状の歯部が形成されている。このウォームギヤ18が回転軸12Aに固定された状態のモータ12が、ハウジング16に固定されることで、ウォームギヤ18がハウジング16の減速機収容凹部16Cの底壁部側かつ側壁部16Eの内周面側に配置される。
【0020】
図1及び図2に示されるように、ヘリカルギヤ20は、樹脂材料を用いて形成されている。このヘリカルギヤ20の外周部には、ウォームギヤ18の歯部と噛み合う複数の外歯が形成されている。また、ヘリカルギヤ20の軸心部には、後述する偏心軸22がインサート成形により固定されている。そして、ヘリカルギヤ20は、偏心軸22及び回転中心軸40を介してハウジング16に回転可能に支持されている。
【0021】
図2及び図3に示されるように、偏心軸22は、金属材料を用いて形成されていると共にその一部がヘリカルギヤ20にインサートされることで当該ヘリカルギヤ20と一体回転可能となっている。具体的には、偏心軸22は、軸方向を厚み方向として径方向に延在する円板状に形成された円板部22Aを備えている。この円板部22Aの外周部は、周方向に沿って凹凸状に形成されている。また、円板部22Aの軸中心とヘリカルギヤ20の回転中心とが一致した状態で、円板部22Aがヘリカルギヤ20の内周部に固定されている。
【0022】
また、図1及び図3に示されるように、偏心軸22は、円板部22Aの中心部から軸方向一方側へ向けて突出する支持部22Bを備えている。支持部22Bにおける軸方向一方側は、後述する伝達用ギヤ24が回転可能に支持される第1支持部22B1とされている。また、支持部22Bにおける軸方向他方側は、第1支持部22B1よりも大径に設定されていると共に後述するロック用ギヤ26が回転可能に支持される第2支持部22B2とされている。第1支持部22B1の軸中心は、円板部22Aの軸中心に対して径方向外側の一方向へオフセットされていると共に、第2支持部22B2の軸中心は、円板部22Aの軸中心に対して径方向外側の一方向へオフセットされている。
【0023】
また、図2図3及び図4に示されるように、偏心軸22には、円板部22A、第1支持部22B1及び第2支持部22B2を軸方向に貫通する回転中心軸挿通孔22Cが形成されている。この回転中心軸挿通孔22Cには、回転中心軸40が挿通される。また、回転中心軸挿通孔22Cの軸中心(回転中心軸挿通孔22Cに挿通された回転中心軸40の軸中心)は、円板部22Aの軸中心と一致している。
【0024】
図2及び図4に示されるように、出力ギヤ体30は、金属材料を用いて形成されている。この出力ギヤ体30は、伝達用ギヤ24と係合する伝達用ギヤ係合部30Bを備えている。図2に示されるように、伝達用ギヤ係合部30Bには、伝達用ギヤ24側(軸方向他方側)が開放されていると共に当該伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dが内部に配置される収容凹部30Eが形成されている。この収容凹部30Eの径方向外側の内周部には、伝達用ギヤ24の外歯24Aと噛み合う複数の内歯30Fが形成されている。
【0025】
また、出力ギヤ体30は、伝達用ギヤ係合部30Bに対して軸方向一方側において当該伝達用ギヤ係合部30Bと同軸上に配置されていると共に複数の外歯が外周部に形成されたピニオンギヤ30Cを備えている。また、出力ギヤ体30における伝達用ギヤ係合部30Bとピニオンギヤ30Cとの間の中間部は、カバープレート34に形成されたリブ34Bに支持される被軸支部30Dとされている。なお、リブ34Bの内周面には、樹脂材料等を用いて形成された軸受ブッシュ42が係合されている。これにより、出力ギヤ体30の被軸支部30Dとカバープレート34のリブ34Bとの金属同士の接触が防止又は抑制されている。また、出力ギヤ体30の軸心部には、金属材料を用いて棒状に形成された回転中心軸40が圧入等により固定されている。
【0026】
図1及び図2に示されるように、固定ギヤ28は、金属材料にプレス加工等が施されることにより形成されている。この固定ギヤ28は、軸方向視で環状に形成された固定ギヤ本体部28Aを備えている。また、固定ギヤ28は、固定ギヤ本体部28Aから径方向外側へ向けて突出する3つ係合突起部28Bを備えている。そして、係合突起部28Bがハウジング16の固定ギヤ係合部16Gに係合された状態で、図示しないプッシュナットが柱部16Iに係合される。これにより、固定ギヤ28がハウジング16に固定される。
【0027】
また、固定ギヤ本体部28Aの内周部には、後述するロック用ギヤ26が噛合う複数の内歯28Dが形成されている。
【0028】
さらに、固定ギヤ28は、固定ギヤ本体部28Aから軸方向他方側へ向けて突出する第2制限部28Eを備えている。この第2制限部28Eは、固定ギヤ本体部28Aにおける周方向の一部分から軸方向他方側へ突出している。
【0029】
また、固定ギヤ28の固定ギヤ本体部28Aにおいて内歯28Dが形成されている部分の軸方向一方側の軸芯部には、スライダプレート係合孔28Fが形成されている。スライダプレート係合孔28Fは、軸方向視で縁部が矩形状(長方形状)に形成されている。また、スライダプレート係合孔28Fの内部には、スライダプレート52が配置される。スライダプレート係合孔28Fの縁部において、後述するスライダプレート52の一対の第1スライダ面52Cとそれぞれ径方向に対向して配置される面は、第2スライダ面28Gとされている。そして、第1スライダ面52Cと第2スライダ面28Gとが対向してかつ近接して配置されることで、スライダプレート52の固定ギヤ28に対する回転が制限されている。また、第1スライダ面52Cが第2スライダ面28G上を摺動することで、スライダプレート52及び伝達用ギヤ24の径方向の一方向R1への変位が許容されるようになっている。これにより、偏心軸22が回転した際に、当該偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24の自転が制限された状態で、当該伝達用ギヤ24が回転中心軸40の軸中心回りに公転するようになっている。
【0030】
図1図2図3及び図4に示されるように、伝達用ギヤ24は、金属材料にプレス加工等が施されることにより略円板状に形成されている。この伝達用ギヤ24は、その外周部に複数の外歯24Aが形成された伝達用ギヤ本体部24Dを備えている。伝達用ギヤ本体部24Dの中心部には、偏心軸22の第1支持部22B1に支持される支持孔24Bが形成されている。また、伝達用ギヤ24は、伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面から軸方向他方側へ向けて突出する2つの制限突起部24Eを備えている。この2つの制限突起部24Eは周方向に沿って等間隔に(180度のピッチで)配置されている。そして、2つの制限突起部24Eが後述するスライダプレート52に係合されることで、伝達用ギヤ24の偏心軸22の第1支持部22B1まわりへの回転(自転)が制限されるようになっている。
【0031】
図1及び図3に示されるように、スライダプレート52は、金属製の板材を用いて形成されており、軸方向視で矩形状(長方形状)に形成されている。このスライダプレート52は、固定ギヤ28に形成されたスライダプレート係合孔28Fの内部において伝達用ギヤ24の2つの制限突起部24Eの間に配置される。また、スライダプレート52の外周部において2つの制限突起部24Eとそれぞれ径方向に対向して配置される面は被係合面52Bとされている。そして、スライダプレート52が伝達用ギヤ24の2つの制限突起部24Eの間に配置された状態では、被係合面52Bと制限突起部24Eとが対向する方向(径方向の一方向R1)への伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する変位が制限されると共に伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する回転(自転)が制限されるようになっている。また、制限突起部24Eが被係合面52B上を摺動することで、被係合面52Bと制限突起部24Eとが摺動する方向(径方向の一方向R1と直交する径方向の他方向R2)への伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する変位が許容されるようになっている。また、スライダプレート52の外周部においてスライダプレート係合孔28Fの第2スライダ面28Gと対向してかつ近接してそれぞれ配置される一対の面は第1スライダ面52Cとされている。なお、スライダプレート52の軸芯部には、偏心軸22の第1支持部22B1が挿通される長孔状(径方向の他方向R2を長手方向とする長孔状)の挿通孔52Aが形成されている。また、本実施形態では、スライダプレート52の一対の被係合面52B間の間隔が、一対の第1スライダ面52C間の間隔よりも小さな寸法に設定されている。これにより、スライダプレート52が、軸方向視で一対の被係合面52Bが長辺となると共に一対の第1スライダ面52Cが短辺となる矩形状となっている。
【0032】
図1及び図2に示されるように、ロック用ギヤ26は、伝達用ギヤ24と同様に金属材料にプレス加工等が施されることにより円板状に形成されている。このロック用ギヤ26の外周部には、固定ギヤ28の内歯28Dと噛合う外歯26Aが全周にわたって形成されている。また、ロック用ギヤ26の中心部には、偏心軸22の第2支持部22B2に支持される支持孔26Bが形成されている。さらに、ロック用ギヤ26は、径方向外側へ向けて突出すると共に軸方向から見て扇状に形成された第1制限部26Cを備えている。この第1制限部26Cは、ロック用ギヤ26の周方向の一部分に設けられている。また、ロック用ギヤ26の外歯26Aが固定ギヤ28の内歯28Dと噛合った状態では、第1制限部26Cが固定ギヤ28の固定ギヤ本体部28Aの軸方向他方側の面に沿って配置される。
【0033】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0034】
図1及び図2に示されるように、本実施形態の減速機付モータ10によれば、モータ12の回転軸12Aが回転するとウォームギヤ18が回転する。また、ウォームギヤ18が回転すると、当該ウォームギヤ18と噛み合うヘリカルギヤ20が偏心軸22と共に回転する。
【0035】
さらに、偏心軸22が回転すると、偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24が回転中心軸40の周りを公転する。詳述すると、図5に示されるように、偏心軸22が回転すると、伝達用ギヤ24の制限突起部24Eがスライダプレート52の被係合面52B上を摺動しながら径方向(矢印R2及びR2とは反対方向)へ移動する。また、スライダプレート52の第1スライダ面52Cが固定ギヤ28の第2スライダ面28G上を摺動しながら、スライダプレート52及び伝達用ギヤ24が径方向(矢印R1及びR1とは反対方向)へ移動する。これにより、偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24の自転が制限された状態で、当該伝達用ギヤ24が回転中心軸40の軸中心回りに公転する。
【0036】
図1及び図2に示されるように、伝達用ギヤ24が公転すると、この公転に伴う回転力が伝達用ギヤ24の外歯24Aから出力ギヤ体30の内歯30Fを介して当該出力ギヤ体30に伝達される。これにより、出力ギヤ体30が回転し、出力ギヤ体30のピニオンギヤ30Cと噛み合うギヤを介して車両のパワーシートを作動させることができる。
【0037】
また、偏心軸22が回転すると、偏心軸22の第2支持部22B2に支持されたロック用ギヤ26が固定ギヤ28と噛合ったまま回転中心軸40の周りを公転及び自転する。そして、ロック用ギヤ26の第1制限部26Cが固定ギヤ28の第2制限部28Eに当接すると、ロック用ギヤ26の公転及び自転が制限される。これにより、偏心軸22及びヘリカルギヤ20の回転が停止され、出力ギヤ体30の回転が停止する(回転が制限される)。その結果、減速機付モータ10から車両用シートへ過大な力が入力されることを防止又は抑制することができる。
【0038】
なお、以上説明した減速機付モータ10の一部を構成する減速機14は、所謂遊星歯車機構が適用された減速機である。そのため、減速機14に要求される減速比等を考慮して、回転が制限されるギヤを適宜選択すればよい。すなわち、減速機14に要求される減速比等を考慮して、2K-H型遊星歯車機構や3K型遊星歯車機構などプラネタリ型、ソーラ型、スター型のいずれかの構成を採るかを適宜選択すればよい。
【0039】
(スライダプレート60と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態を安定させる構成)
次に、スライダプレート60と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態を安定させる構成について詳細に説明する。先ず、比較例に係るスライダプレート62の構成と、当該スライダプレート62を含んで構成された減速機付モータで生じることがある制限突起部24Eの変形について説明する。次に、比較例に係るスライダプレート62を含んで構成された減速機付モータで生じることがある制限突起部24Eの変形を抑制する本開示のスライダプレート60の構成について説明する。
【0040】
図6に示されるように、比較例に係るスライダプレート62の基本的な構成は、前述のスライダプレート52の構成とほぼ同様の構成となっている。そのため、比較例に係るスライダプレート62において前述のスライダプレート52と対応する部分には、前述のスライダプレート52と対応する部分と同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0041】
図6及び図7に示されるように、比較例に係るスライダプレート62における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側(軸方向一方側)の角部分64には、C面取りがなされている。なお、スライダプレート62においてC面取りがなされている部分を面取部62Aと呼ぶ。面取部62Aの寸法は、制限突起部24Eとスライダプレート62の被係合面52Bとが接触している状態で角部分64と制限突起部24Eの突出方向基端側(軸方向一方側)のR部分24Fとが干渉しない寸法に設定されている。
【0042】
この比較例に係るスライダプレート62では、制限突起部24Eとスライダプレート62の被係合面52Bとの接触圧力が高まると、図8に示されるように、スライダプレート62が、面取部62Aの傾斜に沿って制限突起部24Eに食い込んで、制限突起部24E側が変形することが考えられる。なお、制限突起部24Eにおいて変形された部分を変形部24Gと呼ぶことにする。この状態で、比較例に係るスライダプレート62を含んで構成された減速機付モータの使用を継続すると、図9に示されるように、スライダプレート62が面取部62Aの傾斜に沿ってさらに食い込んで、制限突起部24E側がさらに変形する(変形部24Gの変形が進展する)。このように、スライダプレート62と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態が変化していき、両者の接触状態が安定しない。
【0043】
そこで、このような事象の発生を抑制するために、図10及び図11に示されるように、本開示の構成が適用されたスライダプレート60は、伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側(軸方向一方側)へ向けて突出する干渉回避部としての4つの干渉回避突起部60Aを備えている。この4つの干渉回避突起部60Aは、スライダプレート60が鍛造で形成される際に当該スライダプレート60と一体に形成される。また、4つの干渉回避突起部60Aは、スライダプレート60を軸方向一方側から見て当該スライダプレート60の四隅に形成されている。なお、スライダプレート60の軸方向他方側において4つの干渉回避突起部60Aと対応する部位には、4つの窪み60Bがそれぞれ形成されている。なお、スライダプレート60において前述のスライダプレート52と対応する部分には、前述のスライダプレート52と対応する部分と同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0044】
また、干渉回避突起部60Aの突出方向の先端側の面60Cは、伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面に当接する平面状に形成されている。また、干渉回避突起部60Aの突出方向(軸方向)への寸法Hは、4つの干渉回避突起部60Aの突出方向の先端側の面60Cが伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面に当接した状態で、かつ、制限突起部24Eとスライダプレート60の被係合面52Bとが接触している状態で、スライダプレート60における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側の角部分64が制限突起部24Eの突出方向基端側のR部分24Fと干渉しない寸法に設定されている。
【0045】
ここで、スライダプレート60の一対の被係合面52Bにおいて一対の制限突起部24Eがそれぞれ摺動する範囲を摺動範囲60Dとする。そして、本開示のスライダプレート60では、被係合面52Bと対向する径方向外側から見て、4つの干渉回避突起部60Aが摺動範囲60Dとオフセットした位置に配置されている。詳述すると、一方の被係合面52B側から見て、当該一方の被係合面52B側の2つの干渉回避突起部60Aが摺動範囲60Dに対して矢印R1方向側及び矢印R1とは反対方向側にそれぞれオフセットして配置されている。また、他方の被係合面52B側から見て、当該他方の被係合面52B側の2つの干渉回避突起部60Aが摺動範囲60Dに対して矢印R1方向側及び矢印R1とは反対方向側にそれぞれオフセットして配置されている。また、本開示のスライダプレート60では、当該スライダプレート60における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側(軸方向一方側)の角部分64に比較例に係るスライダプレート62のような面取部62Aは形成されていない構成となっている。
【0046】
以上説明した本開示のスライダプレート60を前述の減速機付モータ10に適用すると、スライダプレート60の4つの干渉回避突起部60Aが、伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面に当接する。この状態で減速機付モータ10が作動すると、スライダプレート60における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側の角部分64は、制限突起部24Eの突出方向基端側のR部分24Fと干渉しない。これに加えて、本開示のスライダプレート60の角部分64には、比較例に係るスライダプレート62のような面取部62Aは形成されていない。これにより、本開示のスライダプレート60が適用された減速機付モータ10では、減速機付モータ10の作動中に、スライダプレート60の角部分64が制限突起部24Eに食い込むことによる当該制限突起部24Eの変形が発生しない又は発生し難い。その結果、スライダプレート60と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態を安定させることができる。
【0047】
また、本開示のスライダプレート60では、4つの干渉回避突起部60Aがスライダプレート60と一体に形成されている。これにより、減速機付モータ10の部品点数が増加することを抑制することができる。また、本開示のスライダプレート60では、比較例に係るスライダプレート62のような面取部62Aを形成するための機械加工を不要にすることができる。
【0048】
さらに、本開示のスライダプレート60では、4つの干渉回避突起部60Aが、スライダプレート60を軸方向一方側から見て当該スライダプレート60の四隅に形成されている。これにより、4つの干渉回避突起部60Aが伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面に当接した状態から、スライダプレート60が伝達用ギヤ24に対して傾くことを抑制することができる。
【0049】
また、本開示のスライダプレート60では、被係合面52Bと対向する径方向外側から見て、4つの干渉回避突起部60Aが摺動範囲60Dとオフセットした位置に配置されている。これにより、伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとスライダプレート60との位置関係がどの位置関係にあったとしても、スライダプレート60の角部分64と制限突起部24EのR部分24Fとの干渉を回避することができる。
【0050】
(第2実施形態の減速機付モータ)
次に、図12及び図13を用いて、第2実施形態の減速機付モータについて説明する。
【0051】
図12及び図13に示されるように、第2実施形態の減速機付モータは、前述の減速機付モータ10と同様の構成の伝達用ギヤ24及びスライダプレート52を備えている。また、第2実施形態の減速機付モータは、伝達用ギヤ24とスライダプレート52との間に配置された干渉回避部としてのワッシャ66を備えている。このワッシャ66の外径は、スライダプレート52の一対の被係合面52Bの間隔よりも小さな寸法に設定されている。また、ワッシャ66の内径は、伝達用ギヤ24の支持孔24Bの内径よりも大きくかつスライダプレート52の挿通孔52Aの短手方向への内径とほぼ同じ寸法に設定されている。さらに、ワッシャ66の厚み寸法は、ワッシャ66が伝達用ギヤ24とスライダプレート52との間で挟まれた状態で、かつ、制限突起部24Eとスライダプレート60の被係合面52Bとが接触している状態で、スライダプレート52における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側の角部分64が制限突起部24Eの突出方向基端側のR部分24Fと干渉しない寸法に設定されている。
【0052】
以上説明した第2実施形態の減速機付モータにおいても、前述のスライダプレート60を備えた減速機付モータと同様に、スライダプレート52と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態を安定させることができる。
【0053】
(第3実施形態の減速機付モータ)
次に、図14を用いて、第3実施形態の減速機付モータについて説明する。
【0054】
図14に示されるように、第3実施形態の減速機付モータは、前述の減速機付モータ10と同様の構成の伝達用ギヤ24及びスライダプレート52を備えている。また、第3実施形態の減速機付モータは、伝達用ギヤ24とスライダプレート52との間に配置された干渉回避部としての複数の球状部材68を備えている。なお、本実施形態では、4つの球状部材68が設けられている。また、スライダプレート52を軸方向から見て、当該スライダプレート52の四隅には、4つの球状部材68の一部がそれぞれ嵌まり込む4つの嵌合孔70が形成されている。
【0055】
球状部材68のスライダプレート52からの突出量は、当該球状部材68が伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面に接触した状態で、かつ、制限突起部24Eとスライダプレート60の被係合面52Bとが接触している状態で、スライダプレート52における伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24D側の角部分64が制限突起部24Eの突出方向基端側のR部分24Fと干渉しない寸法に設定されている。
【0056】
以上説明した第3実施形態の減速機付モータにおいても、前述のスライダプレート60を備えた減速機付モータや第2実施形態の減速機付モータと同様に、スライダプレート52と伝達用ギヤ24の制限突起部24Eとの接触状態を安定させることができる。
【0057】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
10 減速機付モータ、12A 回転軸、12 モータ、20 ヘリカルギヤ(第1ギヤ)、22 偏心軸、22B 支持部、24 伝達用ギヤ、24E 制限突起部、30 出力ギヤ体(出力部)、52 スライダプレート(自転制限部材)、52B 被係合面、60 スライダプレート(自転制限部材)、60A 干渉回避突起部(干渉回避部)、60D 摺動範囲、66 ワッシャ(干渉回避部)、68 球状部材(干渉回避部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14