(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171428
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】光応答性化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 207/34 20060101AFI20221104BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221104BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20221104BHJP
C07D 231/38 20060101ALI20221104BHJP
C07D 209/40 20060101ALI20221104BHJP
C07D 233/88 20060101ALI20221104BHJP
C07D 333/36 20060101ALI20221104BHJP
C07D 333/20 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C07D207/34
G03G9/097 365
G03G9/087 331
G03G9/087 325
C07D231/38 Z CSP
C07D209/40
C07D233/88
C07D333/36
C07D333/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078059
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中井 優咲子
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】中村 和明
(72)【発明者】
【氏名】芝田 豊子
【テーマコード(参考)】
2H500
4C069
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA03
2H500AA14
2H500CA03
2H500CA06
2H500FA14
4C069AC02
4C069AC04
4C069AC05
4C069AC06
4C069AC07
4C069BA01
4C069BC31
4C069CC13
(57)【要約】
【課題】光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、かつ著しい着色のない化合物であって、トナーに用いたときに定着性を向上させるとともに画像安定性および色再現性に優れる化合物を提供する。
【解決手段】光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、下記一般式(1)で表される化合物である:
式中、
Z
1およびZ
2は、CHまたはNであり、Z
1≠Z
2であり、
R
1は、Z
1に対して2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基R
aをそれぞれ有する芳香族炭化水素基であり、
R
2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、下記一般式(1)で表される化合物:
【化1】
式中、
Z
1およびZ
2は、CHまたはNであり、Z
1≠Z
2であり、
R
1は、Z
1に対して2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基R
aをそれぞれ有する芳香族炭化水素基であり、
R
2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。
【請求項2】
前記Raが、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、またはハロゲン原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記R1が、Z1に対してパラ位に、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基をさらに有するフェニル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記R2の芳香族複素環基において、前記Z2に直接結合する炭素原子に隣接して結合している少なくとも1つの炭素原子に水素原子が結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記R
2は、下記式で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物:
【化2】
式中、R
cは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基である。
【請求項6】
前記光照射における光の波長が、280nm以上480nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物を含む、トナー。
【請求項8】
結着樹脂をさらに含む、請求項7に記載のトナー。
【請求項9】
前記結着樹脂は、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載のトナー。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載のトナーからなるトナー像を記録媒体上に形成する工程と、
前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程と、
を含む、画像形成方法。
【請求項11】
前記光の波長が、280nm以上480nm以下である、請求項10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記トナー像を加圧する工程をさらに含む、請求項10または11に記載の画像形成方法。
【請求項13】
前記加圧する工程において、前記トナー像をさらに加熱する、請求項12に記載の画像形成方法。
【請求項14】
前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程において、光照射とともに前記トナー像を加熱する、請求項10~13のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物を含む、光応答性接着剤。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物を含む、光スイッチング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、光応答性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射により流動性が変化する材料として光応答性材料が知られている。例えば、特許文献1または2に記載のアゾベンゼン化合物(アゾベンゼン誘導体)は、光照射による異性化反応に伴って相変化を起こす。
【0003】
これによる分子構造変化が固体状態から流動性状態への相転移を誘起すると考えられて
いる。また、波長を変えて再光照射するか、加熱するか、或いは、暗所に室温で放置する
ことで、逆反応が起きて再び固化するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-256155号公報
【特許文献2】特開2011-256291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているアゾベンゼン誘導体は、いずれも
黄色~橙色の着色が有り、トナーや接着剤など工業製品に応用する際に所望の色を再現で
きないという問題があった。さらに、本発明者らの検討によれば、アゾベンゼン誘導体の
置換基を変化させることにより、黄色~橙色の着色につき、多少色を調整することはでき
ても、根本的に無色もしくは無色に近い状態にすることは不可能であることも分かった。
【0006】
そこで本発明は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、かつ著しい着色のない化合物であって、トナーに用いたときに定着性を向上させるとともに画像安定性および色再現性に優れる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、C=N結合の両端にそれぞれ芳香族炭化水素基および芳香族複素環基を有するアゾメチン化合物において、当該芳香族炭化水素基が、C=Nに対して2つのオルト位に特定の置換基を有する化合物とすることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、下記一般式(1)で表される化合物である:
【0009】
【0010】
式中、
Z1およびZ2は、CHまたはNであり、Z1≠Z2であり、
R1は、Z1に対して2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基Raをそれぞれ有する芳香族炭化水素基であり、
R2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光照射により流動化し、可逆的に非流動化するという光応答性を十分に担保し、トナーに用いられたときに定着性を向上させるとともに画像安定性に優れ、さらに色再現性の良好な化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。
【
図2】画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
【
図3】実施例の光応答接着試験で用いた化合物の光照射に伴う接着性の変化を測定する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0014】
<光応答性化合物>
本発明の一実施形態は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、下記一般式(1)で表される化合物である:
【0015】
【0016】
式中、
Z1およびZ2は、CHまたはNであり、Z1≠Z2であり、
R1は、Z1に対して2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基Raをそれぞれ有する芳香族炭化水素基であり、
R2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。
【0017】
ここで、上記一般式(1)を以下の具体例の一つを用いて説明する。以下の式のように、Z1(下記式ではCH)にはフェニル基のような芳香族炭化水素基R1が結合しており、Z2(下記式ではN)には置換されていてもよい芳香族複素環基R2が結合している。本実施形態においては、芳香族炭化水素基R1は、Z1に対してオルト位の2つの炭素原子の両方に特定の置換基Ra(下記式ではCH3基)を有する。
【0018】
【0019】
なお、本明細書中、本発明の化合物を「光応答性化合物」とも称する。上記のような所定の構造を有することによって、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性を十分に担保し、トナーに用いられたときに定着性を向上させるとともに画像安定性に優れ、さらに色再現性の良好な化合物を提供することができる。
【0020】
本明細書中、光照射により流動化し、可逆的に非流動化するとは、光照射によって非流動状態から流動状態へと変化し、さらに非流動状態へと戻ることを指す。すなわち、本発明の化合物は、常温、常圧下、光照射されていないときに非流動性の固体状態であり、光照射により軟化して流動状態に変化する。光照射を停止し、室温の暗所もしくは可視光照射下で放置、または加熱することで非流動性の固体状態に戻る。本明細書中、流動状態とは、少ない外力で変形する状態をいう。
【0021】
かような技術的効果を奏するメカニズムは以下のとおりと推測される。ただし本発明の技術的範囲はかかるメカニズムに限定されない。すなわち、アゾベンゼン化合物は、光を吸収し固体状態から軟化(光相転移)する材料であり、その光相転移は、シス-トランス異性化により結晶構造が崩れることで生じていると考えられる。特許文献1または2に記載のアゾベンゼン化合物は、光照射による異性化反応に伴って相変化を起こすが、これらの化合物は、可視光領域にn-π*遷移に由来する強い吸収を示し、橙色に着色しているため、工業製品に適用する際に所望の色を再現しにくいという点で問題があることが知見された。
【0022】
本発明では、所定のアゾメチン化合物を用いることで、光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、かつ著しい着色のない化合物を提供することを実現した。アゾベンゼン部位に代わりアゾメチン部位(C=Nの部分)を導入することで、アゾベンゼン化合物における強いn-π*吸収を弱めることができるため、著しい着色のない化合物を実現できる。
【0023】
また、光異性化に伴い可逆的に流動化および非流動化する化合物は、非流動性のトランス体が光照射され、シス体へ異性化するとき、多くのトランス体がシス体へと変化することで規則構造が崩れ相転移変化、すなわち流動化現象を誘起できると考えられる。また、シス体がトランス体へと戻っていくことで、再び規則構造が形成され、非流動化現象を誘起できると考えられる。したがって、流動化現象を誘起するためには、多くのトランス体がシス体へ異性化する必要があると考えられる。しかしながら、一般的にアゾメチン化合物は、アゾベンゼン化合物に比べてシス体からトランス体への異性化の速度が速いことが知られており、C=N結合の両端にそれぞれ非置換のベンゼン環を導入したアゾメチン化合物では可逆的な流動化および非流動化現象を誘起するには不利になることが予想された。
【0024】
そこで本発明では、アゾメチン化合物において、C=N結合の両端にそれぞれ芳香族炭化水素基および芳香族複素環基を有し、かつ芳香族炭化水素基の2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基Raを導入することで、光異性化反応に伴った流動化を効率的に誘起することができた。これは、芳香族炭化水素基の2つのオルト位に上記の特定の置換基Raを有することで、当該置換基を有さない場合や、1つのオルト位のみに当該置換基を有する場合と比較して、シス体が安定化し、より多くのシス体が生成したことによるものと考えられる。
【0025】
さらに、本発明の化合物をトナーに導入することで、光照射により定着可能であり、定着性に優れ、画像保存性に優れ、色再現性の高いトナーを得ることができる。芳香族炭化水素基の2つのオルト位に上記の特定の置換基Raを導入することでシス→トランス反応速度が低下し、さらにシス体が安定化され、より多くのシス体が生成しうる。これにより、流動化が誘起され溶融が進むことにより定着性、および画像保存性(画像安定性)が向上するものと考えられる。さらに、2つのオルト位に特定の置換基を有する構造により、トナーに用いたときに結着樹脂との相溶性が向上することでトナーの溶融性が向上し、画像保存性が確保できるものと考えられる。
【0026】
以下、一般式(1)で表される化合物についてさらに説明する。
【0027】
(Z1およびZ2)
本発明の一実施形態において、上述のとおり、Z1およびZ2が、NまたはCHであり、ただし、Z1≠Z2である。Z1がCHでありZ2がNであると、光溶融性により優れる傾向があり、より好ましい。
【0028】
(R1およびR2)
本発明の一実施形態において、R1は、Z1に対して2つのオルト位に、それぞれアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基Raを有する芳香族炭化水素基であり、R2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。
【0029】
本発明の一実施形態において、芳香族炭化水素基としては、Z1に対して2つのオルト位に所定の置換基Raをそれぞれ有するものであれば特に制限されないが、炭素数6~30の芳香族炭化水素基であることが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、またはビフェニル基などが挙げられる。このような化合物であれば、流動化、非流動化が効果的に生じうる。なかでも、分子間のパッキングが発現しやすく、かつトランス-シス異性化した際には高い熱運動性を示し、流動化現象を誘起しやすくなる観点から、フェニル基、ナフチル基、またはフェナントレニル基が好ましい。
【0030】
前記Raとしてのアルキル基の炭素数は特に制限されないが、例えば、炭素数1~10のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~5のアルキル基である。前記Raとしてのアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、例えば、炭素数1~10のアルコキシ基であり、好ましくは炭素数1~5のアルコキシ基である。上記範囲であれば本発明の効果がより顕著に得られうる。また、合成が容易であるため好ましい。したがって、本発明の好ましい実施形態において、Raは、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、またはハロゲン原子である。なかでも、より流動化を生じやすく、トナーに用いたときの定着性および画像安定性がより優れることから、Raは、炭素数1~5のアルキル基または炭素数1~5のアルコキシ基であることが好ましい。
【0031】
なお、Z1に対して2つのオルト位に存在する置換基Raは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される。すなわち、2つの置換基Raは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。2つの置換基Raが、いずれも炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択されることが好ましい。
【0032】
炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。炭素数1~10のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、4-メチル-2-ペンチルオキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0033】
本発明の一実施形態において、芳香族複素環基としては特に制限されないが、炭素数2~30のものが好ましい。また、電子供与性の高いものが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、前記R2は、置換もしくは非置換のチエニル基、フラニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾチエニル基、ベンズイミダゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、カルバゾリル基、またはジベンゾチエニル基でありうる。このような化合物であれば、流動化、非流動化が効果的に生じうる。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記芳香族炭化水素基は、Ra以外にも置換基を有していてもよい。すなわち、前記芳香族炭化水素基は、Z1に対する2つのオルト位以外の位置に置換基を有していてもよい。また、前記芳香族複素環基は、非置換でもよく、置換基を有していてもよい。これらの置換基としては特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0035】
上記のように、アゾメチン化合物の光相転移はアゾベンゼン化合物と同様、シス-トランス異性化により結晶構造が崩れることで生じていると考えられる。一般的にアゾメチン化合物は分子間のπ-π相互作用が強いため、光相転移は結晶構造の極最表面でしか生じない。ここで、上記一般式(1)のR1またはR2でそれぞれ表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が置換基を有すると、本発明のアゾメチン化合物は、π-π相互作用が支配的な周期構造中に、これらの置換基の熱運動によって等方的に乱れた構造が共存する特異的な結晶構造を形成する。そのため、局所的にシス-トランス異性化反応が進行しアゾメチン部位のπ-π相互作用が低減すると、系全体で連鎖的に等方的な融解を生じる。そのため、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0036】
特に、一般式(1)において、前記R1が、Z1に対してパラ位に、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基をさらに有するフェニル基であることが好ましい。このような構造とすることで、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。特にベンゼン環のパラ位にこれらの置換基を導入することで結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなり、トナーに用いたときに定着性がより高くなり、画像安定性がより向上しうる。このうち、熱運動性がより高いことから、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基であることがさらに好ましい。
【0037】
上記置換基の炭素数としては、より好ましくは、上記アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基であり、さらに好ましくは、炭素数4~12のアルキル基である。また、より好ましくは、上記アルコキシ基は、炭素数1~12のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数4~12のアルコキシ基である。また、より好ましくは、上記ジアルキルアミノ基は、炭素数2~8のジアルキルアミノ基であり、さらに好ましくは炭素数4~6のジアルキルアミノ基である。より好ましくは、上記アシル基は、炭素数2~13のアシル基であり、さらに好ましくは炭素数5~13のアシル基である。また、より好ましくは、上記アルコキシカルボニル基は、炭素数2~13のアルコキシカルボニル基であり、さらに好ましくは炭素数5~13のアルコキシカルボニル基がさらに好ましい。長鎖の置換基を導入することで結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなり、トナーに用いた場合に定着性および画像安定性がさらに向上しうる。
【0038】
炭素数1~18のアルキル基の例としては、特に制限されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、t-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、1-メチルデシル基、1-ヘキシルヘプチル基などの分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0039】
炭素数1~18のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基:1-メチルペンチルオキシ基、4-メチル-2-ペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブチルオキシ基、2-エチルブチルオキシ基、1-メチルヘキシルオキシ基、t-オクチルオキシ基、1-メチルヘプチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、2-プロピルペンチルオキシ基、2,2-ジメチルヘプチルオキシ基、2,6-ジメチル-4-ヘプチルオキシ基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシ基、1-メチルデシルオキシ基、1-ヘキシルヘプチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
【0040】
炭素数1~10のアルキルアミノ基の例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基などが挙げられる。
【0041】
炭素数2~10のジアルキルアミノ基の例としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジ-イソブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基などが挙げられる。
【0042】
炭素数2~19のアシル基の例としては、飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖のアシル基であり、例えば、アセチル基、プロパノイル基(プロピオニル基)、ブタノイル基(ブチリル基)、イソブタノイル基(イソブチリル基)、ペンタノイル基(バレリル基)、イソペンタノイル基(イソバレリル基)、sec-ペンタノイル基(2-メチルブチリル基)、t-ペンタノイル基(ピバロイル基)、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、t-オクタノイル基(2,2-ジメチルヘキサノイル基)、2-エチルヘキサノイル基、ノナノイル基、イソノナノイル基、デカノイル基、イソデカノイル基、ウンデカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘノイル基、ウンデシレノイル基およびオレオイル基等が挙げられる。
【0043】
炭素数2~19のアルコキシカルボニル基の例としては、直鎖状または分岐状であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、n-ウンデシルオキシカルボニル基、n-ドデシルオキシカルボニル基、n-トリデシルオキシカルボニル基、n-テトラデシルオキシカルボニル基、n-ペンタデシルオキシカルボニル基、n-ヘキサデシルオキシカルボニル基などの直鎖状のアルコキシカルボニル基:1-メチルペンチルオキシカルボニル基、4-メチル-2-ペンチルオキシカルボニル基、3,3-ジメチルブチルオキシカルボニル基、2-エチルブチルオキシカルボニル基、1-メチルヘキシルオキシカルボニル基、t-オクチルオキシカルボニル基、1-メチルヘプチルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、2-プロピルペンチルオキシカルボニル基、2,2-ジメチルヘプチルオキシカルボニル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチルオキシカルボニル基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシカルボニル基、1-メチルデシルオキシカルボニル基、1-ヘキシルヘプチルオキシカルボニル基などの分岐状のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記一般式(1)で表される化合物は、前記R2の芳香族複素環基において、前記Z2に直接結合する炭素原子に隣接して結合している少なくとも1つの炭素原子に水素原子が結合していることが好ましい。これにより、シス体がより安定化されるため光異性化に伴う流動化がより効果的に誘起され、本発明の効果がより顕著に得られうる。より好ましくは、前記R2の芳香族複素環基において、前記Z2に直接結合する炭素原子に隣接して結合している2つの炭素原子がいずれも水素原子に結合している。これにより、シス体において芳香族炭化水素環との間の分子内CH-π相互作用が生じる確率が高くなる。そのため、よりシス体が安定化されることによって、光異性化に伴う流動化がより一層効果的に発現し、本発明の効果がより一層顕著に得られうる。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、前記一般式(1)において、前記R2が、下記式で表される化合物である:
【0046】
【0047】
式中、Rcは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基である。これにより、本発明の所期の効果(特にトナーに用いたときの定着性向上効果および画像安定性向上の効果)を効率的に奏する。好ましくは、Rcは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基である。
【0048】
<光応答性化合物の製造方法>
本発明のアゾメチン化合物の合成方法は、特に制限されない。例えば、R1が所定の置換基Raを有するベンゼン環を含み、Z1がNであり、Z2がCHであり、R2がピラゾール環を含むアゾメチン誘導体を調製する場合、所定の置換基Raを有するアニリン誘導体と、ピラゾールカルバルデヒド誘導体とを反応させることにより合成することができる。
【0049】
また、例えば、R1が所定の置換基Raを有するベンゼン環を含み、Z1がCHであり、Z2がNであり、R2がピラゾール環を含むアゾメチン誘導体を調製する場合、所定の置換基Raを有するベンズアルデヒド誘導体と、アミノピラゾール誘導体とを反応させる。
【0050】
具体的には、一般式(1)において、Z1がCHであり、Z2がNであり、R1が2,6-ジメチル-4-ヘキシルオキシフェニル基であり、R2が1-メチル-4-ピラゾリル基である化合物を例にとれば、下記スキームにより合成できる。
【0051】
エタノール(EtOH)中、4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒドと1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミンとを加熱攪拌して反応させ、反応液をろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄し、メタノール/エタノールで再結晶すれば、目的物のアゾメチン化合物を得ることができる。加熱攪拌の際の温度は、好ましくは0℃以上100℃以下の範囲内、より好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内、さらに好ましくは、40℃以上60℃以下の範囲内である。
【0052】
【0053】
上記以外のアゾメチン化合物についても、上記スキームを参照し、適宜原料を変更することで同様の方法で合成することができる。
【0054】
本発明のアゾメチン化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0055】
なお、本発明の上記一般式(1)で表される化合物の分子量は特に制限されないが、100以上1000未満であることが好ましく、100以上800以下であることがより好ましい。なお、本発明の上記一般式(1)で表される化合物は、重合体を含まないものとする。好ましい実施形態において、上記一般式(1)で表される化合物は、繰り返し単位を含まずに構成されている。好ましい実施形態において、上記一般式(1)で表される化合物は、重合性基を含むモノマーを重合して得られるものではない。
【0056】
本発明の一実施形態は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、下記一般式(1)で表される化合物:
【0057】
【0058】
(一般式(1)中、Z1およびZ2は、CHまたはNであり、Z1≠Z2であり、R1は、Z1に対して2つのオルト位にアルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される置換基Raをそれぞれ有する芳香族炭化水素基であり、R2は、置換または非置換の芳香族複素環基である。);
ただし、以下の(1)および(2)の化合物を除く、化合物である;
(1)光照射で可逆的に流動化および非流動化する下記化学式1で表される化合物:
【0059】
【0060】
前記化学式1中、
Xは、NR10、OまたはSであり、
Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCHであり、かつZ1≠Z2であり、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基またはヒドロキシ基であり、
R3およびR4は、それぞれ独立して、前記化学式2で表される基、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基またはヒドロキシ基であり、
この際、R3およびR4のいずれか一方は、前記化学式2で表される基であり、
R10は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基またはヒドロキシ基であり、
前記化学式2中、
R5~R9は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基またはヒドロキシ基であり、
この際、R5~R9の少なくとも1つは、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~19のアシル基または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基であり、
R5およびR9は、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、およびハロゲン原子からなる群から選択される。
【0061】
(2)下記式で表される化合物。
【0062】
【0063】
<光照射による流動化および可逆的な非流動化>
光照射により本発明の化合物が流動化する際の照射光の波長は、好ましくは280nm以上480nm以下の範囲、より好ましくは300nm以上420nm以下の範囲内、さらに好ましくは330nm以上420nm以下の範囲内である。上記範囲であれば結晶が崩れやすく(光溶融性が良く)なり、定着性がよくなる。また、流動化させる際には、光照射に加え、熱や圧力を加えて流動化を促進させてもよい。上記波長の照射光を照射することにより、熱や圧力を加える場合であっても、より少ない熱や圧力で流動化させることができる。そのため、本発明の化合物をトナーに導入することで、上記波長での定着が可能となり、定着性に優れ、かつ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0064】
なお、上記波長範囲には、可視光の一部が含まれる。そのため、本発明の化合物は、太陽光(自然光)や蛍光灯などの照明による光を受けただけでは流動化せず、かつ出来るだけ照射量及び照射時間を抑えた低コスト条件でより流動化するのが望ましい。かかる観点から、上記化合物が流動化する際の照射光の照射条件としては、照射量は、好ましくは0.1J/cm2以上200J/cm2以下の範囲内、より好ましくは0.1J/cm2以上100J/cm2以下の範囲内、さらに好ましくは、0.1J/cm2以上50J/cm2以下の範囲内である。
【0065】
化合物を流動化させる際に、光照射とともに、化合物を加熱してもよい。これにより、より低い照射量で流動化させることができる。この際の加熱温度としては、例えば、20℃以上200℃以下の範囲内であり、好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0066】
一方、本発明の化合物を非流動化(再固化)する条件は、室温(25±15℃の範囲)で放置(自然環境下)が好ましい。この際は、暗所におくのが良いが、自然光や蛍光灯などの可視光を受けていてもよい。非流動化させる過程で、熱を加えるとより好ましい。また光を加えても良い。
【0067】
前記化合物を加熱して非流動化させる場合、加熱温度としては、好ましくは0℃以上200℃以下の範囲内、より好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0068】
[トナーの構成]
本発明の一実施形態は、本発明の化合物を含む、トナーである。本発明の化合物をトナーに導入することで、光照射により定着可能であり、定着性に優れ、色再現性の高いトナーを得ることができる。なお、トナーとは、トナー母体粒子またはトナー粒子の集合体をいう。トナー粒子とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものであることが好ましいが、トナー母体粒子をそのままトナー粒子として用いることもできる。なお、本発明において、トナー母体粒子、トナー粒子およびトナーを特に区別する必要がない場合、単に「トナー」ともいう。
【0069】
(結着樹脂)
本発明のトナーは、本発明の所定のアゾメチン化合物に加え、さらに結着樹脂を含むことが好ましい。トナーの製造方法として後述の乳化凝集法を利用することにより、略均一な粒径および形状を有するトナー粒子を作製できることが一般的に知られている。結着樹脂を用いずに、前記アゾメチン化合物単独または他の添加剤である着色剤や離型剤を加えるだけでもトナーの製造は可能である。前記アゾメチン化合物と結着樹脂とを併用することにより、乳化凝集法における塩析を用いて略均一な粒径および形状を有するトナー粒子の作製を行うことができる。よって、前記アゾメチン化合物および結着樹脂を含むトナーは、電子写真用トナーにより容易に適用することができる。
【0070】
結着樹脂は、一般にトナーを構成する結着樹脂として用いられている樹脂を制限なく用いることができる。結着樹脂としては、たとえば、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アミド樹脂、およびエポキシ樹脂などが用いられうる。これら結着樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0071】
これらの中でも、溶融すると低粘度になり、かつ高いシャープメルト性を有するという観点から、結着樹脂は、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。かかる実施形態であることによって画像強度を高めることができる。
【0072】
(スチレンアクリル樹脂)
本発明でいうスチレンアクリル樹脂とは、少なくとも、スチレン単量体に由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位とを含む重合体である。ここで、スチレン単量体とは、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものも含まれる。
【0073】
スチレン単量体としては、たとえば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレンなどが挙げられる。
【0074】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、エステル結合を有する官能基を側鎖に有するものである。具体的には、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル単量体の他、CH2=C(CH3)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステル単量体などのビニル系エステル化合物が含まれる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体における(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。
【0075】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0076】
スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0077】
スチレンアクリル樹脂におけるスチレン単量体に由来する構造単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、特に限定されず、結着樹脂の軟化点やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整されうる。具体的には、スチレン単量体に由来する構造単位の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する全構造単位に対して40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、全構造単位に対して5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0078】
スチレンアクリル樹脂は、必要に応じて、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。他の単量体の例としては、ビニル単量体が挙げられる。以下に、本発明でいうスチレンアクリル共重合体を形成する際に併用可能なビニル単量体を例示するが、併用可能なビニル単量体は以下に示すものに限定されるものではない。
【0079】
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレンなど
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、安息香酸ビニルなど
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど
(5)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなど
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0080】
また、多官能性ビニル単量体を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。さらに、側鎖にイオン性解離基を有するビニル単量体を使用することも可能である。イオン性解離基の具体例としては、たとえば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。以下に、これらイオン性解離基を有するビニル単量体の具体例を示す。
【0081】
カルボキシル基を有するビニル単量体の具体例としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
【0082】
本発明に使用されるスチレンアクリル樹脂を形成する場合、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は特に限定されるものではなく、結着樹脂の軟化点温度やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整することが可能である。具体的には、スチレン単量体の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する単量体全体に対し40~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する単量体全体に対し5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0083】
スチレンアクリル樹脂の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。必要に応じてたとえば、n-オクチルメルカプタンなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。油溶性の重合開始剤としては、たとえば、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤が用いられる。
【0084】
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルなどが挙げられる。
【0085】
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
【0086】
また、乳化重合法でスチレンアクリル樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0087】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、たとえば2~12時間であることが好ましい。
【0088】
乳化重合法により形成されるスチレンアクリル樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とすることもできる。この場合の製造方法としては、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段、第3段重合)する多段重合法を採用することができる。
【0089】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂である。なお、ポリエステル樹脂は、非晶性であってもよいし、結晶性であってもよい。
【0090】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数は、好ましくはそれぞれ2~3であり、より好ましくはそれぞれ2である。すなわち、多価カルボン酸成分は、ジカルボン酸成分を含むことが好ましく、多価アルコール成分は、ジオール成分を含むことが好ましい。
【0091】
ジカルボン酸成分としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸、ドデセニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-フェニレン二酢酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの不飽和芳香族ジカルボン酸;などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。ジカルボン酸成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0092】
その他、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸、およびその無水物、あるいは炭素数1~3のアルキルエステルなども用いることができる。
【0093】
ジオール成分としては、たとえば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの飽和脂肪族ジオール;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ブチン-1,4-ジオール、9-オクタデセン-7,12-ジオールなどの不飽和脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などの芳香族ジオールが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。ジオール成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0094】
ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことによりを製造することができる。
【0095】
ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物などが挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O-n-Bu)4)、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
重合温度は特に限定されるものではないが、70~250℃であることが好ましい。また、重合時間も特に限定されるものではないが、0.5~10時間であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0097】
本発明のトナーが結着樹脂を含む場合、前記アゾメチン化合物の含有量は、化合物種や樹脂種によるが、定着性と色再現性の観点から、前記アゾメチン化合物:結着樹脂=5:95~95:5(質量比)の範囲であることが好ましく、10:90~90:10(質量比)の範囲が好ましく、10:90~80:20(質量比)の範囲がより好ましく、10:90~70:30(質量比)の範囲がさらに好ましい。この範囲であれば、前記アゾメチン部位を有する化合物の光相転移が生じやすく、トナーの光照射による軟化速度が十分なものとなる。なお、2種類以上のアゾメチン化合物を用いる場合はその合計量が上記範囲となることが好ましい。2種類以上の結着樹脂を用いる場合はその合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0098】
トナーのガラス転移温度(Tg)は、定着性や耐熱保管性などの観点から、25~100℃であることが好ましく、30~80℃であることがより好ましい。トナーのガラス転移温度(Tg)は、トナーが結着樹脂を含む場合は、結着樹脂の含有量や、結着樹脂の種類、および分子量などによって調整することができる。
【0099】
なお、本発明のトナーは、単層構造を有する粒子であってもよいし、コアシェル構造を有する粒子であってもよい。コアシェル構造のコア粒子およびシェル部に用いられる結着樹脂の種類は、特に制限されない。
【0100】
<着色剤>
本発明のトナーは、着色剤をさらに含んでいてもよい。本発明の化合物は著しい着色がないため、着色剤の色再現性の高いトナーを得ることができる。着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
【0101】
黒色のトナーを得るための着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、鉄・チタン複合酸化物ブラックなどが挙げられ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックが含まれる。また、磁性体としてはフェライト、マグネタイトなどが挙げられる。
【0102】
イエローのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162などの染料;C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185などの顔料が挙げられる。
【0103】
マゼンタのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122などの染料;C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222などの顔料が挙げられる。
【0104】
シアンのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などの染料;C.I.ピグメントブルー1、同7、同15、同15:3、同60、同62、同66、同76などの顔料が挙げられる。
【0105】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0106】
着色剤の含有量は、外添剤の添加前のトナー粒子(トナー母体粒子)中0.5~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0107】
<離型剤>
本発明に係るトナーは、離型剤をさらに含んでもよい。離型剤をトナーに導入することで、光照射と共に熱定着を行う場合に、より定着性に優れ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0108】
使用される離型剤は、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができる。ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、または酸化型の低分子量ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、パラフィンワックス、合成エステルワックスなどが挙げられる。中でも、トナーの保存安定性を向上させる観点から、パラフィンワックスを用いることが好ましい。
【0109】
離型剤の含有量は、トナー母体粒子中1~30質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
【0110】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナーは、荷電制御剤を含有してもよい。使用される荷電制御剤は、摩擦帯電により正または負の帯電を与えることのできる物質であり、かつ無色のものであれば特に限定されず、公知の種々の正帯電性の荷電制御剤および負帯電性の荷電制御剤を用いることができる。
【0111】
荷電制御剤の含有量は、トナー母体粒子中0.01~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0112】
なお、トナー中の本発明の化合物は、特に制限されないが、効率的な流動化および画像強度の観点から、トナーを構成する結着樹脂、着色剤、離型剤、本発明の化合物の総量に対して、例えば5~95質量%の範囲である。
【0113】
<外添剤>
トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために、トナー母体粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤を添加して本発明に係るトナーを構成してもよい。
【0114】
外添剤としては、たとえば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子などの無機酸化物粒子、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、チタン酸亜鉛粒子などの無機チタン酸化合物粒子などの無機粒子が挙げられる。必要に応じてこれらの無機粒子は疎水化処理されていてもよい。これらは単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0115】
これらの中でも、外添剤としては、例えば、ゾルゲルシリカ粒子や、表面を疎水化処理したシリカ粒子(疎水性シリカ粒子)または酸化チタン粒子(疎水性酸化チタン粒子)が好ましく、これらのうち少なくとも2種以上の外添剤を使用することがより好ましい。
【0116】
外添剤の数平均一次粒径は、1~200nmの範囲内であることが好ましく、10~180nmであることがより好ましい。
【0117】
これら外添剤の添加量は、トナー中0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0118】
本発明の一実施形態において、これら外添剤の添加量は、トナー母体粒子に対して、05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0119】
<トナーの平均粒径>
トナーの平均粒径(およびトナー母体粒子の平均粒径)は、体積基準のメジアン径(D50)で4~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。体積基準のメジアン径(D50)が上記範囲にあると、転写効率が高くなり、ハーフトーンの画質が向上し、細線やドット等の画質が向上する。
【0120】
体積基準のメジアン径(D50)は、「コールターカウンター3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター株式会社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出することができる。
【0121】
具体的には、測定試料(トナー、またはトナー母体粒子)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、たとえば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、分散液を調製する。この分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター株式会社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。
【0122】
ここで、表示濃度を上記範囲にすることで、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を50μmにし、測定範囲である1~30μmの範囲を256分割して頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径(D50)とする。
【0123】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は特に制限されない。例えば、本発明の化合物のみでトナーとする場合は、前記化合物を、ハンマーミル、フェザーミル、カウンタージェットミルなどの装置を用いて粉砕した後、スピンエアーシーブ、クラッシール、マイクロンクラッシファイアーなどの乾式分級機を用いて所望の粒径になるように分級することを含む製造方法を用いることができる。着色剤をさらに含むトナーを製造する場合は、本発明の化合物および着色剤がともに溶解する溶媒を用いて、前記化合物および着色剤を溶解させて溶液とした後、脱溶媒し、その後上記と同様の方法で、粉砕・分級することができる。
【0124】
特には、本発明の化合物、結着樹脂および必要に応じて着色剤等の添加剤を含むトナーは、粒径および形状の制御が容易な乳化凝集法を利用した製造方法により製造することが好ましい。
【0125】
かような製造方法は、
(1A)結着樹脂粒子の分散液を調製する結着樹脂粒子分散液調製工程
(1B)本発明の化合物の粒子の分散液を調製する化合物粒子分散液調製工程
(1C)必要に応じて、着色剤粒子の分散液を調製する着色剤粒子分散液調製工程
(2)化合物粒子、結着樹脂粒子および必要に応じて着色剤粒子が存在している水系媒体中に、凝集剤を添加し、塩析を進行させると同時に凝集および融着を行い、会合粒子を形成する会合工程
(3)会合粒子の形状制御をすることによりトナー母体粒子を形成する熟成工程
(4)水系媒体からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤等を除去する濾過、洗浄工程
(5)洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程
(6)乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
の各工程を含むことが好ましい。
【0126】
以下、(1A)~(1C)の工程について説明する。
【0127】
(1A)結着樹脂粒子分散液調製工程
本工程では、従来公知の乳化重合などにより樹脂粒子を形成し、この樹脂粒子を凝集、融着させて結着樹脂粒子を形成する。一例として、結着樹脂を構成する重合性単量体を水系媒体中へ投入、分散させ、重合開始剤によりこれら重合性単量体を重合させることにより、結着樹脂粒子の分散液を作製する。
【0128】
また、結着樹脂粒子分散液を得る方法として、上記の水系媒体中で重合開始剤により重合性単量体を重合させる方法の他に、たとえば、溶媒を用いることなく、水性媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性樹脂を酢酸エチルなどの溶媒に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水性媒体中に乳化分散させた後、脱溶媒処理を行う方法などが挙げられる。
【0129】
この際、必要に応じ、結着樹脂には離型剤を予め含有させておいてもよい。また、分散のために、適宜公知の界面活性剤(たとえば、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアニオン系界面活性剤)の存在下で重合させることも好ましい。
【0130】
分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、50~300nmであることが好ましい。分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0131】
(1B)化合物粒子分散液調製工程
この化合物粒子分散液調製工程は、本発明の化合物を、水系媒体中に微粒子状に分散させて、前記化合物の粒子の分散液を調製する工程である。
【0132】
前記化合物の粒子の分散液を調製するにあたり、まず、前記化合物の乳化液を調製する。前記化合物の乳化液は、例えば有機溶媒に前記化合物を溶解させた後、得られた溶液を水系媒体中で乳化させる方法が挙げられる。
【0133】
前記化合物を有機溶媒に溶解させる方法は、特に制限されず、たとえば、前記化合物を有機溶媒に添加して、前記化合物が溶解するように攪拌混合する方法が挙げられる。前記化合物の添加量は、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは5質量部以上100質量部以下、より好ましくは10質量部以上50質量部以下である。
【0134】
次に、得られた前記化合物の溶液と水系媒体とを混合し、ホモジナイザーなどの公知の分散機を用いて攪拌する。これにより、前記化合物が液滴となって、水系媒体中に乳化され、前記化合物の乳化液が調製される。
【0135】
前記化合物の溶液の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上110質量部以下である。
【0136】
前記化合物の溶液と水系媒体との混合時における、前記化合物の溶液および水系媒体の温度は、それぞれ有機溶媒の沸点未満となる温度範囲であって、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは30℃以上75℃以下である。前記化合物の溶液と水系媒体の混合時における、前記化合物の溶液の温度と水系媒体の温度とは、互いに同一であっても異なっていてもよく、好ましくは互いに同一である。
【0137】
分散機の攪拌条件は、例えば攪拌容器の容量が1~3Lである場合、回転数は7000rpm以上20000rpm以下であることが好ましく、攪拌時間は10分以上30分以下であることが好ましい。
【0138】
前記化合物の粒子の分散液は、前記化合物の乳化液から有機溶媒を除去することによって調製される。前記化合物の乳化液から有機溶媒を除去する方法としては、たとえば、送風、加熱、減圧、またはこれらの併用など、公知の方法が挙げられる。
【0139】
一例として、前記化合物の乳化液は、たとえば、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、好ましくは25℃以上90℃以下、より好ましくは30℃以上80℃以下で、たとえば初期の有機溶媒量の80質量%以上95質量%以下が程度が除去されるまで、(例えば、20~150分)加熱されることにより、有機溶媒が除去される。これにより、水系媒体から有機溶媒が除去されて、前記化合物の粒子が水系媒体中に分散された前記化合物の粒子の分散液が調製される。
【0140】
前記化合物の粒子の分散液中の前記化合物の粒子の質量平均粒径は、90nm以上1200nm以下であることが好ましい。上記質量平均粒径は、前記化合物を有機溶媒に配合したときの粘度、前記化合物の溶液と水系媒体との配合割合、前記化合物の乳化液を調製するときの分散機の攪拌速度などを適宜調節することにより、上記範囲内に設定することができる。前記化合物の粒子の分散液中の前記化合物の粒子の質量平均粒径は、マイクロトラックUPA-150(日機装株式会社製)または電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0141】
<有機溶媒>
本工程で用いられる有機溶媒は、前記化合物を溶解させることができれば、特に制限されず使用することができる。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ヘキサン、ヘプタンなどの飽和炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0142】
このような有機溶媒は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これら有機溶媒の中でも、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、メチルエチルケトン、ジクロロメタンがより好ましい。
【0143】
<水系媒体>
本工程で用いられる水系媒体は、水、または水を主成分として、アルコール類、グリコール類などの水溶性溶媒や、界面活性剤、分散剤などの任意成分が配合されている水系媒体などが挙げられる。水系媒体は、好ましくは水と界面活性剤とを混合したものが用いられる。
【0144】
界面活性剤としては、たとえば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、たとえば、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、たとえば、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウムなどの脂肪酸石けん、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0145】
このような界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。界面活性剤の中では、好ましくはアニオン性界面活性剤、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用される。
【0146】
界面活性剤の添加量は、水系媒体100質量部に対して、固形分で、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.04質量部以上1質量部以下である。
【0147】
(1C)着色剤粒子分散液調製工程
この着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0148】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散液中の着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、10~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0149】
(2)会合工程から(6)外添剤添加工程までの工程については、従来公知の種々の方法に従って行うことができる。
【0150】
なお、(2)会合工程において使用される凝集剤は、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、たとえばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩等の一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0151】
[現像剤]
本発明に係るトナーは、たとえば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0152】
上記磁性体としては、たとえば、マグネタイト、γ-ヘマタイト、または各種フェライトなどを使用することができる。
【0153】
二成分現像剤に含まれるキャリアとしては、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができる。
【0154】
キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアであってもよいし、バインダー樹脂中に磁性体粉末を分散させた樹脂分散型キャリアであってもよい。被覆用の樹脂としては、特に限定はないが、たとえば、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂またはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリア粒子を構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、たとえば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0155】
キャリアの体積基準のメジアン径は、20~100μmであることが好ましく、25~80μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパテック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0156】
トナーの混合量は、トナーとキャリアとの合計質量を100質量%として、2~10質量%であることが好ましい。
【0157】
[画像形成方法]
本発明のトナーは、電子写真方式の公知の種々の画像形成方法において用いることができる。たとえば、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、1つの感光体とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置および感光体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法にも適用することができる。
【0158】
すなわち、本発明の一実施形態による画像形成方法は、1)記録媒体上に本発明のトナーからなるトナー像を形成する工程と、2)前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程とを含む。かかる実施形態であることによって定着性に優れ、さらに高画質となる。
【0159】
1)の工程について
本工程では、本発明のトナーからなるトナー像を、記録媒体上に形成する。
【0160】
(記録媒体)
記録媒体は、トナー画像を保持するための部材である。記録媒体の例としては、普通紙、上質紙、アート紙、コート紙などの塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用または包装材用の樹脂フィルム、および布などが挙げられる。
【0161】
記録媒体は、所定の大きさを有するシート状(枚葉状)であってもよいし、トナー像が定着された後にロール状に巻き取られる長尺状であってもよい。
【0162】
トナー像の形成は、後述するように、例えば感光体上のトナー像を記録媒体上に転写することにより行うことができる。
【0163】
2)の工程について
本工程では、形成されたトナー像に光を照射してトナー像を軟化させる。これにより記録媒体上にトナー像を接着させることができる。
【0164】
照射する光の波長は、トナー中の前記化合物による光熱変換などにより、トナー像を十分に軟化させうる程度であれば特に制限されないが、好ましくは280nm以上480nm以下である。上記範囲であればトナー像をより効率的に軟化させることができる。また、光の照射量は、同様の観点から、好ましくは0.1~200J/cm2、より好ましくは0.1~100J/cm2、さらに好ましくは0.1~50J/cm2である。
【0165】
光の照射は、後述するように、例えば発光ダイオード(LED)やレーザー光源などの光源を用いて行うことができる。また、後述のように、光照射とともに加熱をさらに行ってもよい。
【0166】
2)の工程の後、必要に応じて、3)軟化させたトナー像を加圧する工程をさらに行ってもよい。かかる実施形態であることによって定着性が向上する。
【0167】
3)の工程について
本工程では、軟化させたトナー像を加圧する。
【0168】
記録媒体上のトナー像を加圧する際の圧力は、特に限定されないが、0.01~5.0MPaであることが好ましく、0.05~1.0MPaであることがより好ましい。圧力を0.01MPa以上とすることで、トナー像の変形量を大きくしうるため、トナー像と記録用紙Sとの接触面積が増加し、画像の定着性をさらに高めやすい。また、圧力を5.0MPa以下とすることで、加圧時のショックノイズを抑制できる。
【0169】
当該加圧工程は、光照射し、トナー像を軟化させる工程(前述の2)の工程)の前または同時に行ってもよいが、光照射した後に行うほうが、あらかじめ軟化した状態のトナー像に加圧することができ、この結果、画像の定着性がより向上するため好ましい。
【0170】
また、加圧する工程において、軟化させたトナー像をさらに加熱してもよい。すなわち、加圧工程は、トナー像を加熱しながら行ってもよい。その際の温度(例えば、加圧部材の温度)は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、20℃超がさらに好ましく、30℃以上がよりさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。かかる実施形態であることによって定着性が顕著に向上する。上限としては特に制限はないが、例えば、200℃以下、150℃以下、あるいは、100℃以下である。
【0171】
トナー像の加熱温度(加熱時のトナー像の表面温度)は、トナーのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg+20)~(Tg+100)℃であることが好ましく、(Tg+25)~(Tg+80)℃であることがより好ましい。トナー像の表面温度が(Tg+20)℃以上であれば、加圧によってトナー像を変形させやすく、(Tg+100)℃以下であれば、ホットオフセットを抑制しやすい。なお、ホットオフセットとは、定着工程において、ローラーなどの加圧部材にトナーの一部が転移してしまい、トナー層が分断してしまう現象をいう。
【0172】
また、2)の工程の前に、必要に応じて4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行ってもよい。このように、2)の工程の前に4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行うことで、本発明の化合物の光に対する感受性をより高めることができる。それにより、高分子であっても光に対する感受性は損なわれにくいため、光照射によるトナー像の溶融または軟化を促進しやすい。
【0173】
本発明の画像形成方法は、例えば以下の画像形成装置を用いることにより行うことができる。
【0174】
図1は、本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。ただし、本発明に用いられる画像形成装置としては、下記の形態および図示例に限定されるものではない。
図1には、モノクロの画像形成装置100の例を示すが、カラーの画像形成装置にも本発明を適用することができる。
【0175】
画像形成装置100は、記録媒体としての記録用紙Sに画像を形成する装置であって、画像読取装置71および自動原稿送り装置72を備え、用紙搬送系7により搬送される記録用紙Sに対し画像形成部10、照射部40、および圧着部9により画像形成を行う。
【0176】
また、記録媒体として、画像形成装置100では記録用紙Sを用いているが、画像形成を行う対象とされる媒体は、用紙以外でもよい。
【0177】
自動原稿送り装置72の原稿台上に載置された原稿dは、画像読取装置71の走査露光装置の光学系により走査露光されてイメージセンサーCCDに読み込まれる。イメージセンサーCCDにより光電変換されたアナログ信号は、画像処理部20において、アナログ処理、A/D変換、シェーディング補正、画像圧縮処理等が行われた後、画像形成部10の露光器3に入力される。
【0178】
用紙搬送系7は、複数のトレイ16、複数の給紙部11、搬送ローラー12、搬送ベルト13等を備えている。トレイ16は、決められたサイズの記録用紙Sをそれぞれ収容しており、制御部90からの指示に応じて定められたトレイ16の給紙部11を作動させ、記録用紙Sを供給する。搬送ローラー12は、給紙部11によってトレイ16から送り出された記録用紙Sまたは手差し給紙部15から搬入された記録用紙Sを画像形成部10へ搬送する。
【0179】
画像形成部10は、感光体1の周りに、感光体1の回転方向に沿って、帯電器2、露光器3、現像部4、転写部5およびクリーニング部8がこの順番に配置されて構成されている。
【0180】
像担持体である感光体1は、表面に光導電層の形成された像担持体であり、図示しない駆動装置により
図1中の矢印方向に回転可能に構成されている。感光体1の近傍には、画像形成装置100内の温度や湿度を検知する温湿度計17が設けられている。
【0181】
帯電器2は、感光体1の表面に均一に電荷を与え、感光体1の表面を一様に帯電させる。露光器3は、レーザーダイオード等のビーム発光源を備え、帯電された感光体1の表面にビーム光を照射することで照射部分の電荷を消失させ、感光体1上に画像データに応じた静電潜像を形成する。現像部4は、内部に収容されるトナーを感光体1に供給して、感光体1表面上に静電潜像に基づくトナー像を作像する。
【0182】
転写部5は、記録用紙Sを介して感光体1と対向し、トナー像を記録用紙Sに転写する。クリーニング部8は、ブレード85を備える。ブレード85により、感光体1表面をクリーニングして感光体1の表面に残留した現像剤を除去する。
【0183】
トナー像が転写された記録用紙Sは、搬送ベルト13により圧着部9へ搬送される。圧着部9は、任意に設置されるものであり、トナー像が転写された記録用紙Sに対し、加圧部材91および92によって圧力のみまたは熱および圧力を加えて定着処理を施し、これにより記録用紙S上に画像を定着させる。画像が定着された記録用紙Sは、搬送ローラーによって排紙部14に搬送され、排紙部14から機外へ排出される。
【0184】
また、画像形成装置100は用紙反転部24を備えており、加熱定着処理がなされた記録用紙Sを排紙部14の手前で用紙反転部24に搬送し、表裏を反転して排出するか、または表裏を反転した記録用紙Sを再度画像形成部10に搬送し記録用紙Sの両面に画像形成を行うことを可能としている。
【0185】
<照射部>
図2は、画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
【0186】
本発明の一実施形態による画像形成装置100は、照射部40を備える。照射部40は、光源41と加熱部材93とを備える。光源41を構成する装置の例としては、発光ダイオード(LED)、レーザー光源などが挙げられる。
【0187】
光源41は、記録媒体上に形成されたトナー像に光を照射して、トナー像を軟化させる。光照射の条件は、現像剤のトナーに含まれる本発明の化合物を溶融、流動化させるものであれば特に制限されない。トナー像に照射する光の波長は、前記化合物を十分に流動化させうる程度であればよく、好ましくは280nm以上480nm以下の範囲内、より好ましくは300nm以上420nm以下の範囲内、さらに好ましくは330nm以上420nm以下の範囲内である。光源41における光の照射量も、十分に流動化させうる程度であればよく、例えば0.1J/cm2以上200J/cm2以下の範囲内、好ましくは0.1J/cm2以上100J/cm2以下の範囲内、より好ましくは、0.1J/cm2以上50J/cm2以下の範囲内である。
【0188】
光源41によりトナー像に光を照射してトナー像を軟化させる際に、光照射とともに、加熱部材93によりトナー像を加熱してもよい。これにより、より効率的にトナー像の軟化、溶融が進行しうる。この際の加熱温度としては、例えば、20℃以上200℃以下の範囲内であり、好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0189】
軟化した前記トナー像に対して、室温(25±15℃の範囲)で放置する、加熱する、または可視光照射することで、前記トナー像を固化させ記録媒体に定着させることができる。なお、後述のように、定着させる工程においては、軟化した前記トナー像を加圧する工程をさらに含むことが好ましい。前記加圧する工程では、軟化した前記トナー像をさらに加熱することが好ましい。
【0190】
光源41はトナー像を保持する記録用紙Sにおける感光体側の第1面に向かって光を照射するものであり、感光体1と転写部である転写ローラー5とにニップされた記録用紙S面に対して感光体側に配置されている。そして、記録用紙S面に対して、光源41と反対側に加熱部材93が配置されている。また、記録用紙Sの搬送方向(用紙搬送方向)に沿って、光源41および加熱部材93が配置されている。
【0191】
光源41および加熱部材93は、感光体1と転写ローラー5とのニップ位置に対して、用紙搬送方向下流側、かつ圧着部9に対して用紙搬送方向上流側に配置されている。
【0192】
本発明の一実施形態による画像形成方法によれば、帯電器2により感光体1に一様な電位を付与して帯電させた後、原画像データに基づいて露光器3により照射した光束で感光体1上を走査し、静電潜像を形成する。次に現像部4により本発明のトナーを含む現像剤を感光体1上に供給する。
【0193】
感光体1の表面に担持されたトナー像が、感光体1の回転によって転写部5の位置に至るタイミングに合わせて、トレイ16から記録用紙Sを画像形成部10に搬送すると、転写部5に印加される転写バイアスにより、感光体1上のトナー像が、転写部5と感光体1とにニップされた記録用紙S上に転写される。
【0194】
また、転写部5は、加圧部材を兼ねており、感光体1から記録用紙Sにトナー像を転写させることができながら、トナー像に含まれる前記化合物を確実に記録用紙Sに密着させることができる。
【0195】
トナー像が記録用紙Sに転写された後に、クリーニング部8のブレード85は、感光体1表面に残留する現像剤を除去する。
【0196】
トナー像が転写された記録用紙Sが搬送ベルト13により圧着部9に搬送される過程において、光源41は、記録用紙S上に転写されたトナー像に対して光を照射する。光源41により記録用紙Sの第1面上のトナー像に向かって光を照射することにより、トナー像をより確実に溶融させることができ、トナー像の記録用紙Sに対する定着性を向上させることができる。
【0197】
トナー像が保持された記録用紙Sが、搬送ベルト13により圧着部9に至ると、加圧部材91および92が、トナー像を記録用紙Sの第1面に圧着する。圧着部9により定着処理が施される前に、トナー像が光源41による光照射により軟化するため、記録用紙Sに対する画像圧着の省エネルギー化を図ることができる。さらに、トナー像を固化させ記録媒体に定着させる工程において、トナー像を加圧部材91、92により加圧することで、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより向上する。
【0198】
トナー像を加圧する際の圧力は、前述の通りである。なお、該加圧工程は、光を照射して、トナー像を軟化させる工程の前または同時に行ってもよく、後に行ってもよい。あらかじめ軟化した状態のトナー像に加圧することができ、画像強度を高めやすい観点では、加圧工程は、光照射後に行うほうが好ましい。
【0199】
また、加圧部材91は、記録用紙Sが加圧部材91および92の間を通過する際に、記録用紙S上のトナー像を加熱することができる。光照射によって軟化したトナー像は、この加熱によりさらに軟化され、その結果、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより向上する。
【0200】
トナー像の加熱温度は、前述の通りである。トナー像の加熱温度(トナー像の表面温度)は、非接触温度センサーにて測定することができる。具体的には、たとえば、加圧部材から記録媒体が排出される位置に非接触温度センサーを設置して、記録媒体上のトナー像の表面温度を測定すればよい。
【0201】
加圧部材91および92によって圧着されたトナー像は、固化されて記録用紙S上に定着される。
【0202】
本発明の一実施形態において、定着装置は、加圧部材を備える圧着部を有する。
【0203】
本発明の一実施形態において、前記加圧部材は加熱手段を有する。
【0204】
本発明の一実施形態において、前記加圧部材の温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、20℃超がさらに好ましく、30℃以上がよりさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。上限としては特に制限はないが、例えば、200℃以下、150℃以下、あるいは、100℃以下である。
【0205】
<光応答性接着剤>
本発明の化合物は光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の化合物を用いて繰り返しの利用が可能な光応答性接着剤(感光性接着剤)を作製することができる。例えば、粘度(摩擦係数)の変化に対応して、繰り返しの光脱着可能な光応答性接着剤として各種の接着技術に応用することが可能である。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の化合物を含む、光応答性接着剤である。
【0206】
本発明の光応答性接着剤は、繰り返しの利用が可能な仮止めに使えるほか、リサイクル利用にも適しているが、これらに何ら制限されるものではない。
【0207】
<光スイッチング材料>
本発明の化合物は光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の化合物を用いて光スイッチング材料を作製することができる。例えば、光異性化に伴う色や極性の変化、物質移動、配向の変化、粘度の変化、表面張力の変化を利用して光スイッチング材料を作製することができる。例えば、液晶材料などにおいて、光異性化に伴う分子の配向の変化に対応して、繰り返しの書き換えが可能なパターニング描画に応用することが可能である。また、例えば、光照射に伴う表面張力の変化やこれによる物質移動を利用して、高分子膜の表面の微細加工を行うことができる。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の化合物を含む、光スイッチング材料である。
【0208】
本発明の光スイッチング材料は、液晶ディスプレイ材料や、高分子膜の表面加工に使用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
【実施例0209】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0210】
<実施例1:化合物1の合成>
冷却管、窒素導入管、温度計を備えた100mlの4頭フラスコに、4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド(5mmol)と1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン(5mmol)とエタノール20mlを投入し、加熱攪拌した。反応液を吸引ろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄した。さらに、ヘプタンで再結晶を行い、目的物である化合物1を収率61%で得た。
【0211】
【0212】
1H NMRで化合物1の生成を確認した。1H NMR(400MHz、CDCl3);8.85ppm(s,1H,pyrazol)、8.39ppm(s,1H,CH=N)、8.02ppm(s,1H,pyrazol)、6.83ppm(s,1H,aryl)、4.11ppm(t,2H,methylene)、3.95ppm(s,3H,methyl)、2.31ppm(s,6H,methyl)、1.81ppm(m,2H,methylene)、1.26ppm(m,6H,methylene),0.89ppm(t,3H,methyl)。
【0213】
<実施例2~14、比較例1~7:化合物2~14、比較化合物1~7の合成>
化合物2~14、比較化合物1~7の合成は、化合物1の合成において、4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒドおよび1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミンをそれぞれ対応する下記の原料に変えて同様の方法で合成を行い、目的物を得た。また、同様に1H NMRでそれぞれの化合物の生成を確認した。
【0214】
化合物2の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒドおよび1-ヘキシル-1H-ピラゾール-4-アミン;
化合物3の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジエチルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン;
化合物4の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジプロピルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン;
化合物5の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメトキシベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン;
化合物6の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジフルオロベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン;
化合物7の合成:4-デシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピロール-3-アミン;
化合物8の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルアニリン、1-ヘキシル-1H-ピロール-3-カルボキシアルデヒド;
化合物9の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピロール-2-アミン;
化合物10の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、1H-インドール-6-アミン;
化合物11の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-3-アミン;
化合物12の合成:4-デシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、2-アミノイミダゾール;
化合物13の合成:4-デシルオキシ-2,6-ジメチルベンズアルデヒド、2-アミノ-5-ヘキシルチオフェン;
化合物14の合成:4-ヘキシルオキシ-2,6-ジメチルアニリン、5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒド;
比較化合物1(比較1)の合成:4-ヘキシルオキシ-2-メチルベンズアルデヒド、1-ヘキシル-1H-ピラゾール-4-アミン;
比較化合物2(比較2)の合成:4-ヘキシルオキシ-2,5-ジメチルベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピラゾール-4-アミン;
比較化合物3(比較3)の合成:4-ヘキシルオキシ-2-フルオロベンズアルデヒド、1-エチル-1H-ピラゾール-4-アミン:
比較化合物4(比較4)の合成:4-ヘキシルオキシ-2,5-ジメチルアミン、1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキシアルデヒド;
比較化合物5(比較5)の合成:4-ヘキシルオキシ-2-フルオロアミン、1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキシアルデヒド;
比較化合物6(比較6)の合成:4-ヘキシルオキシ-2-メトキシアミン、1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキシアルデヒド;
比較化合物7(比較7)の合成:4-ヘキシルオキシ-ベンズアルデヒド、1-メチル-1H-ピロール-3-アミン。
【0215】
下記表1に、化合物1~14、比較化合物1~7の構造を示す。
【0216】
<比較例8:比較化合物8の合成>
特開2014-191078号公報の段落0217~0227に記載の方法で、以下の比較化合物8(比較8、数平均分子量Mn:2870)を得た。
【0217】
【0218】
[トナーの作製]
(トナー1の作製)
<スチレンアクリル樹脂粒子分散液1の調製>
(第1段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で攪拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃とし、スチレン480質量部、n-ブチルアクリレート250質量部、メタクリル酸68.0質量部、およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート16.0質量部よりなる重合性単量体溶液を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、攪拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1a)を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)を調製した。
【0219】
(第2段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水800質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、上記で得られたスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)260質量部、スチレン245質量部、n-ブチルアクリレート120質量部、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート1.5質量部、離型剤であるパラフィンワックス「HNP-11」(日本精蝋株式会社製)67質量部を90℃にて溶解させた重合性単量体溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)により1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃にて1時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1b)を含むスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)を調製した。
【0220】
(第3段重合)
得られたスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、次いで、82℃の温度条件下で、スチレン435質量部、n-ブチルアクリレート130質量部、メタクリル酸33質量部およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート8質量部からなる重合性単量体溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却しスチレンアクリル樹脂1を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液1を得た。また、スチレンアクリル樹脂1のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、45℃であった。
【0221】
<アゾメチン化合物粒子分散液1の調製>
ジクロロメタン80質量部と、上記で作製した化合物1 20質量部とを50℃で加熱しながら混合攪拌し、化合物1を含む液を得た。この液100質量部に、50℃に温めた蒸留水99.5質量部と、20質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.5質量部との混合液を添加した。その後、シャフトジェネレーター18Fを備えるホモジナイザー(ハイドルフ社製)により16000rpmで20分間攪拌して乳化させ、アゾメチン化合物の乳化液1を得た。
【0222】
得られたアゾメチン化合物の乳化液1をセパラブルフラスコへ投入し、窒素を気相中へ送気しながら40℃で90分間加熱攪拌して有機溶媒を除去して、アゾメチン化合物粒子分散液1を得た。
【0223】
(ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)の調製)
n-ドデシル硫酸ナトリウム11.5質量部を純水160質量部に溶解し、カーボンブラック「モーガルL(キャボット社製)」25質量部を徐々に添加し、次いで、「クレアミックス(登録商標)WモーションCLM-0.8(エム・テクニック株式会社製)」を用いて分散処理することにより、ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)を調製した。ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)における着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、110nmであった。
【0224】
(凝集、融着)
上記で作製したスチレンアクリル樹脂粒子分散液1を固形分換算で504質量部、アゾメチン化合物粒子分散液1を固形分換算で216質量部、イオン交換水900質量部、およびブラック着色剤粒子分散液を固形分換算で70質量部を、攪拌装置、温度センサー、および冷却管を装着した反応装置に投入した。容器内の温度を30℃に保持して、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
【0225】
次に、塩化マグネシウム・6水和物 2質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を攪拌下、10分間かけて滴下した後、昇温を開始し、この系を60分間かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準におけるメジアン径(D50)が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。70℃で1時間攪拌した後、さらに昇温を行い、75℃の状態で加熱攪拌することにより、粒子の融着を進行させた。その後、30℃まで冷却することにより、トナー母体粒子の分散液を得た。
【0226】
上記で得られたトナー母体粒子の分散液を遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。該ウェットケーキを、前記遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー(株式会社セイシン企業製)」に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥して、トナー母体粒子を作製した。
【0227】
得られたトナー母体粒子100質量%に対して、疎水性シリカ(数平均一次粒径:12nm)1質量%、および疎水性チタニア(数平均一次粒径:20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサー(登録商標)を用いて混合することにより、トナー1を得た。
【0228】
(トナー2~18、比較例1~8のトナーの作製)
上記のトナー1の作製において、化合物1を化合物2~14、比較例1~8の化合物に変更したことを除いては、上記のトナー1の作製と同様の手順でトナー2~14、比較例1~8のトナーをそれぞれ作製した。また、上記のトナー1の作製において、化合物1とスチレンアクリル樹脂との質量比を下記表3のように変更したことを除いては同様の手順でトナー15~18をそれぞれ作製した。
【0229】
(トナー19の作製)
上記のトナー1の作製において、(凝集、融着)工程において、スチレンアクリル樹脂粒子分散液1(固形分換算で504質量部)を以下のように調製したポリエステル樹脂粒子分散液2(固形分換算で504質量部)に変更したことを除いては、上記のトナー1の作製と同様の手順でトナー19を作製した。
【0230】
<ポリエステル樹脂1を含有するポリエステル樹脂粒子分散液2の作製)
窒素導入管、脱水管、攪拌器、および熱電対を備えた容量10リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 524質量部、テレフタル酸 105質量部、フマル酸 69質量部、およびオクチル酸スズ(エステル化触媒)2質量部を投入し、温度230℃で8時間の重縮合反応を行った。さらに、8kPaで1時間重縮合反応を継続後、160℃に冷却し、ポリエステル樹脂1を得た。ポリエステル樹脂1 100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(株式会社徳寿工作所製)で粉砕し、予め作製した0.26質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液 638質量部と混合し、攪拌しながら超音波ホモジナイザー「US-150T」(株式会社日本精機製作所製)を用いて、V-LEVEL、300μAで30分間超音波分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液2を得た。また、このポリエステル樹脂1のガラス転移点Tgを測定したところ、42℃であった。
【0231】
(現像剤の作製)
上記で作製したトナー1~19、および比較例1~8のトナーについて、シクロヘキサンメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体樹脂(モノマー質量比1:1)で被覆した体積平均粒径が30μmのフェライトキャリア粒子を、トナー粒子濃度が6質量%となるように混合し、現像剤1~19および比較例1~8の現像剤を得た。混合は、V型混合機を用いて30分間行った。
【0232】
[評価:化合物の光応答接着試験]
各実施例で調製した化合物1~14および比較化合物1~8の光照射に伴う接着性の変化を
図3に示す装置を用いて、以下の光応答接着試験で評価した。
図3に示すように、18mm角のカバーガラス1に化合物4mgをガラス中心から半径6mm内に載せ、同サイズのカバーガラス2を、カバーガラス1に対して平行方向に約4mmずらした位置で、化合物をすべて覆いかぶせるように被せた。これを加熱し、試料を溶融させ、カバーガラス1とカバーガラス2とを接着させた。得られた各サンプルを下記の非流動性→流動性の試験に供し、その後、下記の流動性→非流動性(戻り)の試験に供した。
【0233】
<非流動性→流動性の試験>
図3に示す(A)部分を台にセロハンテープで固定し、(C)部分には150gのおもりを装着した長さ30cmのビニール紐をセロハンテープで固定した。(B)部分に365nmの光を照射量18J/cm
2で照射し、カバーガラス2がカバーガラス1から剥がれるかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。結果を下記表2に示す。
【0234】
-非流動性→流動性の試験の評価基準-
◎:カバーガラス2がカバーガラス1から完全に剥がれた
〇:カバーガラス2とカバーガラス1がずれた
×:カバーガラス2は動かなかった。
【0235】
<流動性→非流動性(戻り)の試験>
非流動性→流動性試験終了後、カバーガラス2が完全に剥がれた試料とずれた試料について以下の実験を行った。なお、ずれた試料については、手でカバーガラス1と2をはがした。非流動性→流動性試験の光照射終了10分(10分は、自然環境下、即ち室温暗室で放置した)後に、上記試験で使用したカバーガラス1の試料部分((B)部分)を覆いかぶせるようにカバーガラス3(カバーガラス1、2と同サイズ)をのせ、カバーガラス1とカバーガラス3とが接着するかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。結果を下記表2に示す。
【0236】
-流動性→非流動性(戻り)の試験の評価基準-
◎:接着しなかった(非流動化していた)
〇:一部接着した(一部、流動化状態が保たれていた)
×:接着した(流動化状態が保たれていた)。
【0237】
[評価:定着性試験]
定着性試験は、上記で得られた各実施例、比較例の現像剤を用いて、常温常湿環境下(温度20℃、相対湿度50%RH)で行った。具体的には、一方に現像剤、他方にCFペーパー(坪量:80g/m2)を設置した一対の平行平板(アルミ)電極間に、現像剤を磁力によって摺動させながら配置し、電極間ギャップが0.5mm、DCバイアスとACバイアスとはトナー付着量6g/m2となる条件でトナーを現像させ、上記CFペーパーの表面にトナー層を形成し、以下の各定着装置で定着させて、印刷物を得た(画像形成)。
【0238】
この印刷物の1cm角の画像を、「JKワイパー(登録商標)」(日本製紙クレシア株式会社製)で30kPaの圧力をかけて20回こすり、画像の定着率で評価した。定着率60%以上を合格とする。なお、画像の定着率とは、プリント後の画像およびこすった後の画像の濃度を反射濃度計「RD-918」(サカタインクスエンジニアリング株式会社製)で測定し、こすった後のベタ画像の反射濃度を、プリント後のベタ画像の反射濃度で除した値を百分率で表した数値である。結果を下記表3に示す。
【0239】
定着装置は、
図2に示す装置を適宜改変して構成された下記4種の定着装置を用いた:
No.1:
図2の圧着部9がなく、加熱部材93の温度が20℃であり、光源41から照射される紫外光の波長は365nmであり(光源:発光波長が365nm±10nmのLED光源)、照射量は11J/cm
2である;
No.2:
図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は20℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。光源41の波長および照射量はNo.1と同様である;
No.3:
図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は80℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。光源41の波長および照射量はNo.1と同様である;
No.4:
図2の圧着部9がなく、加熱部材93の温度が80℃であり、光源41の波長および照射量はNo.1と同様である。
【0240】
-定着性の評価基準-
◎:定着率が85%以上
○:定着率が80%以上85%未満
△:定着率が60%以上80%未満
×:定着率が60%未満。
【0241】
[耐ドキュメントオフセット性の評価]
上記で得られた現像剤1~19および比較例1~8の現像剤を用いて、常温常湿環境下(温度20℃、相対湿度50%RH)で印刷物を作製した。一方に現像剤、他方に記録媒体としての用紙(CFペーパー、坪量:80g/m2)を設置した一対の平行平板(アルミ)電極間に、現像剤を磁力によって摺動させながら配置し、電極間ギャップが0.5mm、DCバイアスとACバイアスとはトナー付着量5g/m2となる条件でトナーを現像させ、上記CFペーパーの表面にトナー層を形成し、No.1の定着装置にて定着して印刷物を10枚得た(画像形成)。照射部40から照射される紫外光の波長は365nmであり(光源:発光波長が365nm±10nmのLED光源)、照射量は12J/cm2とした。
【0242】
次いで、大理石テーブル上に、出力した10枚のプリント物をそのまま揃えて置き、重ねた部分に対して19.6kPa(200g/cm2)の圧力が加わるようにおもりを載せた。この状態で温度30℃、相対湿度60%RHの環境下に3日間放置した後、重ね合わせたプリント物を剥離し、トナー画像上における画像欠損、紙裏の非画像部への裏移りの度合いを以下に示す基準にしたがって耐ドキュメントオフセット性を評価した。ランク4以上を合格とした。評価結果を下記表3に示す。
【0243】
-耐ドキュメントオフセット性の評価基準-
5:画像部、非画像部ともに全く画像欠損や画像移行が見られない
4:画像部の画像欠損はないが、紙裏の非画像部にわずかに画像移行が見られる
3:画像部の画像欠損は殆どなく許容できるレベルであるが、紙裏の非画像部に若干の移行が見られる
2:画像部のところどころに画像欠損の白抜けが発生し、また紙裏の非画像部への移行もところどころ見られる
1:画像部の定着画像が剥がれて、画像欠損が激しく、また紙裏の非画像部へ明らかな画像の移行が見られる。
【0244】
[色再現性評価]
上記の定着性試験で得られた実施例、比較例の画像について色再現性を、10名のモニターによる目視評価により下記評価基準に従って評価した。具体的には、評価比較用サンプルとして、各実施例のトナーに対して、光応答性化合物を除いたトナーを作製した。これを用いて上記と同様に現像剤を作製し、上記の定着性試験における画像形成と同様に現像し、下記の定着装置No.5にて定着を行った:
定着装置No.5:
図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は150℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaであり、光照射は実施しない。
【0245】
10名のモニターに対して、前記評価比較用サンプルと実施例記載のサンプルを順番に見せ、2つの画像の色が明らかに異なるか質問した。下記色再現性の評価基準による判定結果を下記表3に示す。
【0246】
-色再現性の評価基準-
◎:2名以下が明らかに異なると答えた
○:3~4名が明らかに異なると答えた
△:5~7名が明らかに異なると答えた
×:8名以上が明らかに異なると答えた。
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
【0252】
表3中の「化合物」は、各実施例、比較例の化合物を指す。表3中、化合物および結着樹脂の比率は、それぞれ、トナー中の化合物と結着樹脂との合計量に対する化合物および結着樹脂の比率(質量%)である。
【0253】
上記表2から、一般式(1)で表される特定の構造を有する実施例の化合物1~14は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化することがわかった。また、上記特定の構造を有さない比較例1~6の化合物と比較して、より一層効率的に流動化することがわかった。上記特定の構造を有さない比較例7の化合物では、光照射による流動化が生じにくい。また、比較例8のアゾベンゼン化合物では流動化の後の可逆的な非流動化が確認されなかった。
【0254】
また、上記表3に示されるように、各実施例で作製した化合物を用いたトナーは、いずれも光照射により定着を行うことができ、高い定着性、高い画像安定性および優れた色再現性を示した。また、各実施例で作製した化合物を用いたトナーは、上記特定の構造を有さない比較例1~6の化合物を用いた場合と比較して、より一層高い定着性、高い画像安定性を有することがわかった。比較例7で作製した重合体を用いたトナーは定着性および画像安定性が不十分であった。また、比較例8のアゾベンゼン誘導体を用いたトナーは定着性および画像安定性が低く、色再現性が低いことがわかった。
【0255】
定着装置の比較をすると、同じトナー1を用い、同じ条件で紫外線照射し、加圧部材を用いないNo.1の定着装置よりも、加圧部材で加圧したNo.2の定着装置、更には加圧部材で加熱しつつ加圧したNo.3の定着装置を用いた方が、より高い定着性が得られることがわかった(実施例1、20、21の比較)。また、同じトナー1を用い、同じ条件で紫外線照射し、紫外線照射時に加熱を行わないNo.1の定着装置よりも、加熱部材93で加熱を行うNo.4の装置を用いたほうが、より高い定着性が得られた(実施例1、22の比較)。