(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171485
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20221104BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221104BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221104BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221104BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221104BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221104BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
A61K47/68
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61K39/395 T
A61K39/395 E
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078160
(22)【出願日】2021-04-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的がん医療実用化研究事業」「CD19陽性悪性リンパ腫に対するpiggyBacトランスポゾン法によるキメラ抗原受容体遺伝子改変自己T細胞の安全性及び有効性に関する第I/II相医師主導治験」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 信博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義行
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB23
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】CAR-T細胞の調製において、CAR遺伝子導入にトランスポゾン法を採用しつつ、より確実により高い生細胞率を達成するための技術を提供すること。
【解決手段】以下のステップ(i)~(iv)を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法: (i)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ; (ii)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団より、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得るステップ; (iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ; (iv)培養後の細胞を回収するステップ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(i)~(iv)を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法:
(i)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ;
(ii)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団より、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得るステップ;
(iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ;
(iv)培養後の細胞を回収するステップ。
【請求項2】
ステップ(iii)とステップ(iv)の間に、共培養後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップを行う、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
ステップ(iii)の共培養の期間が1日間~21日間である、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
ステップ(iii)を、T細胞増殖因子の存在下で行う、請求項1~3のいずれかに記載の調製方法。
【請求項5】
T細胞増殖因子がIL-15を含む、請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
T細胞増殖因子がIL-15及びIL-7を含む、請求項4又は5に記載の調製方法。
【請求項7】
ステップ(iii)の共培養の途中で、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を追加する、請求項1~6のいずれかに記載の調製方法。
【請求項8】
ステップ(iii)の共培養の途中で追加される前記非増殖性細胞が、単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる細胞である、請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
ステップ(iii)の共培養の培養液が血清を含有する、請求項1~8のいずれかに記載の調製方法。
【請求項10】
ステップ(iii)の共培養の培養液の血清濃度が1~10%(v/v)である、請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
ステップ(ii)の遺伝子導入から24時間以内にステップ(iii)を開始する、請求項1~10のいずれかに記載の調製方法。
【請求項12】
T細胞含有細胞集団が末梢血単核細胞(PBMCs)である、請求項1~12のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】
T細胞含有細胞集団が、前記遺伝子改変T細胞の投与を受ける患者由来のものである、請求項1~13のいずれかに記載の調製方法。
【請求項14】
増殖能を喪失させる処理が放射線照射である、請求項1~13のいずれかに記載の調製方法。
【請求項15】
トランスポゾン法がPiggyBacトランスポゾン法である、請求項1~14のいずれかに記載の調製方法。
【請求項16】
標的抗原がCD19、CD22、GD2、B7H3、BCMA又はIGF受容体である、請求項1~15のいずれかに記載の調製方法。
【請求項17】
非増殖性細胞と、遺伝子改変T細胞が同一の個体に由来する、請求項1~16のいずれかに記載の調製方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞。
【請求項19】
請求項18に記載の遺伝子改変T細胞を治療上有効量含む、細胞製剤。
【請求項20】
請求項18に記載の遺伝子改変T細胞を、治療上有効量、がん患者に投与するステップを含む、がんの治療法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor。以下、「CAR」とも呼ぶ)を用いた遺伝子改変T細胞療法(CAR療法)が臨床応用されつつある。CARは、典型的には、抗体の単鎖可変領域を細胞外ドメインとし、それに膜貫通領域、CD3ζ及び共刺激シグナルを伝える分子の細胞内ドメインをつないだ構造を備える。抗体の特異性に従って抗原に結合することによりCAR-T細胞は活性化し、標的細胞(がん細胞など)を傷害する。CAR療法は、細胞の調製が比較的容易であること、高い細胞傷害活性を示すこと、持続的な効果を期待できることなどの利点を有し、特に、難治性や従来の治療法に抵抗性の症例に対する新たな治療手段として期待されている。実際、化学療法抵抗性急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)患者に対して、細胞表面に発現するCD19抗原に対するCARを、患者から採取した末梢血T細胞に遺伝子導入し、培養して輸注する臨床試験が欧米で行われ、寛解率80~90%の良好な成績が報告されている(非特許文献1~3)。CAR療法は、米国では難治性がんに対して最も将来有望な治療法の1つとして注目されている。
【0003】
従来、CAR療法に用いる細胞(CAR-T細胞)はウイルスベクターを用いて調製されてきた。しかしながら、一般に使用されるレトロウイルスは、がん原遺伝子への挿入変異の頻度が高く(造血幹細胞を用いた遺伝子治療では白血病が多発している)、安全性が問題となる。また、ウイルスベクターを使用する際には専用細胞培養設備が必要となるため、治療費が非常に高額となるという、経済性の問題もある(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Grupp SA, Kalos M, Barrett D, Aplenc R, Porter DL, Rheingold SR, Teachey DT, Chew A, Hauck B, Wright JF, Milone MC, Levine BL, June CH. Chimeric antigen receptor-modified T cells for acute lymphoid leukemia. N Engl J Med, 368(16):1509-18. 2013
【非特許文献2】Maude SL, Frey N, Shaw PA, Aplenc R, Barrett DM, Bunin NJ, Chew A, Gonzalez VE, Zheng Z, Lacey SF, Mahnke YD, Melenhorst JJ, Rheingold SR, Shen A, Teachey DT, Levine BL, June CH, Porter DL, Grupp SA. Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia. N Engl J Med, 371(16):1507-17. 2014
【非特許文献3】Lee DW, Kochenderfer JN, Stetler-Stevenson M, Cui YK, Delbrook C, Feldman SA, Fry TJ, Orentas R, Sabatino M, Shah NN, Steinberg SM, Stroncek D, Tschernia N, Yuan C, Zhang H, Zhang L, Rosenberg SA, Wayne AS, Mackall CL. T cells expressing CD19 chimeric antigen receptors for acute lymphoblastic leukaemia in children and young adults: a phase 1 dose-escalation trial. Lancet. 2014
【非特許文献4】Morgan RA. Faster, cheaper, safer, T-cell engineering. J Immunother, 36(1):1-2. 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウイルスベクターを利用した従来のCAR療法における問題点を解決するために、非ウイルスベクターを用いた遺伝子改変技術の一つであるトランスポゾン法の利用が検討されている。トランスポゾン法は、ウイルスベクター法と同様に永続的な遺伝子導入を可能にするものの、ウイルスベクター法と比較して遺伝子導入効率が低く、また、遺伝子導入操作(エレクトロポレーション及びその改良法など)に伴い細胞が傷害を受け、細胞生存率や細胞増殖率が低下するといった問題を抱える。特許文献1では、これらの問題を、遺伝子導入操作後のT細胞(遺伝子改変T細胞)を、ウイルスペプチドを保持させた活性化T細胞と共培養することによって、解決している。しかし、本発明者が研究を進める中で、当該技術を適用しても、培養後の生細胞率が著しく低いケースがあることが分かった。
【0007】
そこで、本発明は、CAR-T細胞の調製において、CAR遺伝子導入にトランスポゾン法を採用しつつ、より確実により高い生細胞率を達成するための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下のステップ(i)~(iv)を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法: (i)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ; (ii)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団より、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得るステップ; (iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ; (iv)培養後の細胞を回収するステップ、であれば、上記課題を解決できることが分かった。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 以下のステップ(i)~(iv)を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法:
(i)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ;
(ii)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団より、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得るステップ;
(iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ;
(iv)培養後の細胞を回収するステップ。
【0010】
項2. ステップ(iii)とステップ(iv)の間に、共培養後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップを行う、項1に記載の調製方法。
【0011】
項3. ステップ(iii)の共培養の期間が1日間~21日間である、項1又は2に記載の調製方法。
【0012】
項4. ステップ(iii)を、T細胞増殖因子の存在下で行う、項1~3のいずれかに記載の調製方法。
【0013】
項5. T細胞増殖因子がIL-15を含む、項4に記載の調製方法。
【0014】
項6. T細胞増殖因子がIL-15及びIL-7を含む、項4又は5に記載の調製方法。
【0015】
項7. ステップ(iii)の共培養の途中で、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を追加する、項1~6のいずれかに記載の調製方法。
【0016】
項8. ステップ(iii)の共培養の途中で追加される前記非増殖性細胞が、単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる細胞である、項7に記載の調製方法。
【0017】
項9. ステップ(iii)の共培養の培養液が血清を含有する、項1~8のいずれかに記載の調製方法。
【0018】
項10. ステップ(iii)の共培養の培養液の血清濃度が1~10%(v/v)である、項9に記載の調製方法。
【0019】
項11. ステップ(ii)の遺伝子導入から24時間以内にステップ(iii)を開始する、項1~10のいずれかに記載の調製方法。
【0020】
項12. T細胞含有細胞集団が末梢血単核細胞(PBMCs)である、項1~12のいずれかに記載の調製方法。
【0021】
項13. T細胞含有細胞集団が、前記遺伝子改変T細胞の投与を受ける患者由来のものである、項1~13のいずれかに記載の調製方法。
【0022】
項14. 増殖能を喪失させる処理が放射線照射である、項1~13のいずれかに記載の調製方法。
【0023】
項15. トランスポゾン法がPiggyBacトランスポゾン法である、項1~14のいずれかに記載の調製方法。
【0024】
項16. 標的抗原がCD19、CD22、GD2、B7H3、BCMA又はIGF受容体である、項1~15のいずれかに記載の調製方法。
【0025】
項17. 非増殖性細胞と、遺伝子改変T細胞が同一の個体に由来する、項1~16のいずれかに記載の調製方法。
【0026】
項18. 項1~17のいずれかに記載の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞。
【0027】
項19. 項18に記載の遺伝子改変T細胞を治療上有効量含む、細胞製剤。
【0028】
項20. 項18に記載の遺伝子改変T細胞を、治療上有効量、がん患者に投与するステップを含む、がんの治療法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、CAR-T細胞の調製において、CAR遺伝子導入にトランスポゾン法を採用しつつ、より確実により高い生細胞率を達成するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】pIRII-CAR.CD19.28zベクター(配列番号1)の構成。CD19CAR遺伝子が5'逆向き反復配列(5'IR)と3'逆向き反復配列(3'IR)に挟まれた構造を備える。CD19CARは、リーダー配列(配列番号2)、軽鎖可変領域(VL)(配列番号3)、重鎖可変領域(VH)(配列番号4)、Fc領域(CH2、CH3)(配列番号5)、CD28の膜貫通領域及び細胞内ドメイン(配列番号6)及びCD3ζ(配列番号7)を含む。
【
図2】pCMV-piggyBacベクター(配列番号8)の構成。CMV最初期プロモーター(CMV immediate ear1y promoter)の制御下にpiggyBacトランスポザーゼ遺伝子が配置されている。
【
図3】最適化したCAR遺伝子導入用ベクターであるpIRII-CAR.CD19_optimizedベクター(配列番号9)の構成。pIRII-CAR.CD19.28zベクターの構造と比較して、Fc領域(CH2、CH3)が削除されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、その下位概念である「実質的にからなる」又は「のみからなる」なる表現に置き換えることができる。
【0032】
1.キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法
本発明は、その一態様において、以下のステップ(i)~(iv)を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞の調製方法: (i)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ; (ii)単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団より、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得るステップ; (iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ; (iv)培養後の細胞を回収するステップ、に関する。
【0033】
当該方法は、ウイルス特異的なキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(以下、「ウイルス特異的CAR-T細胞」と呼ぶ)を調製する方法に関する。ウイルス特異的CAR-T細胞は、自家移植に利用する場合にはウイルスT細胞受容体からの刺激による体内持続性の向上が望めること、同種移植に利用する場合には更に同種免疫反応(GVHD)の軽減により移植ドナーからのCAR-T作製が可能になり、しかも第3者ドナーからのCAR-T細胞を製剤化できる可能性があることなど、臨床応用上、重要な利点を有する。実際、ウイルス特異的CAR-T細胞がより長期に体内に持続することが報告されている(Pule MA, et al. Nat Med. 2008 Nov;14(11):1264-70.)。また、第3者由来EBV特異的CTL臨床研究の報告(Annual Review血液2015、2015年1月発行、中外医学社)により、ウイルス特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の安全性が高いことが裏づけられている。
【0034】
本発明で使用される単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団は、T細胞含有細胞集団を単球低減化処理することにより得ることができる。T細胞含有細胞集団としては、好ましくは末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)を用いることができる。また、末梢血からアフェレーシスによって採取した単核球等を、ここでの「T細胞を含む細胞集団」として用いることも可能である。T細胞含有細胞集団は、本発明の調製方法で得られるキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞の投与を受ける患者由来のものであることが好ましい。単球低減化処理は、T細胞含有細胞集団における単球割合(単球細胞数/全細胞数)を低減させることができる処理である限り特に制限されず、公知の方法を採用することができる。単球低減化処理としては、例えば遠心分離によりフラスコに単球を接着させる接着法、エルトリエーション法等を採用することができる。本発明の一態様において、単球低減化処理後の単球割合を、単球低減化処理前の単球割合に対して、例えば1/2以下、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/4以下、さらに好ましくは1/5以下である。本発明の一態様において、単球低減化処理後の単球割合は、例えば8%未満、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。本発明の一態様において、単球低減化する必要のある症例としては、例えば単球割合が50%以上である症例、好ましくは30%以上である症例、さらに好ましくは20%以上である症例、よりさらに好ましくは15%以上、とりわけ好ましくは10%以上である症例が挙げられる。
【0035】
なお、ステップ(i)及び(ii)を含む各ステップにおいて単球低減化処理されたPBMCを利用する場合、1回の採血で得た末梢血から分離したPBMCの単球低減化処理物の一部を用いてステップ(i)を行うとともに、他の一部を用いてステップ(ii)を行うこと(2段階目の共培養を行う場合は、さらに、他の一部を用いて、当該共培養に使用するウイルスペプチド保持非増殖性細胞を調製すること)にすれば、本発明の実施に伴う採血回数を低減することができ、臨床応用上、患者負担等の観点から、極めて大きな利点となる。
【0036】
本発明の一態様においては、単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団をウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理に供する前に(ステップ(i)の前に)、当該T細胞含有細胞集団を抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激して活性化することができる。ただ、当該刺激を行わなくとも本発明の効果を得ることができるので、簡便性の観点からは、当該刺激を行わないことが好ましい。当該刺激は、例えば、抗CD3抗体と抗CD28抗体で培養面をコートした培養容器(例えば培養皿)で、例えば8時間~14日間、好ましくは1日間~10日間、更に好ましくは3日間~7日間、培養することによって、細胞集団内のT細胞に対して抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えることができる。抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激培養においては、T細胞増殖因子の存在下で培養することにすることが好ましい。この培養によって、刺激処理後の細胞の活性が高められる。培養期間が短すぎると十分な活性化を望めず、培養期間が長すぎると共刺激分子減弱のおそれがある。なお、培養後の細胞を一旦、凍結保存することにすることができる。この場合には、使用時に細胞を融解し、そのままステップ(i)に供することもできるし、再度、抗CD3抗体及びCD28抗体による刺激(条件は上記に準ずる)を行った後にステップ(i)に供することもできる。抗CD3抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD3pure抗体を用いることができる)と抗CD28抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD28pure抗体を用いることができる)は市販もされており、容易に入手可能である。抗CD3抗体と抗CD28抗体がコートされた磁気ビーズ(例えば、VERITAS社が提供するDynabeads T-Activator CD3/CD28)を利用してステップ刺激を行うことも可能である。尚、抗CD3抗体として「OKT3」クローンを用いることが好ましい。
【0037】
ステップ(i)において、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理に供することによって、「ウイルスペプチド抗原を(細胞表面に)保持した非増殖性細胞」(以下、「ウイルスペプチド保持非増殖性細胞」と呼ぶ)が得られる。ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理と、増殖能を喪失させる処理の順序は特に限定されない。従って、ウイルスペプチド抗原存在下で培養した後に増殖能を喪失させても、或いは増殖能を喪失させた後にウイルスペプチド抗原存在下で培養することにしてもよい。好ましくは、増殖能を喪失する前の方がウイルスペプチド抗原の取り込みがより良好であろうという期待から前者の順序を採用することができる。ウイルスペプチド抗原存在下で培養するためには、例えば、ウイルスペプチド抗原が添加された培地を用いればよい。或いは、培養中にウイルスペプチド抗原を培地に添加すればよい。ウイルスペプチド抗原の添加濃度は例えば0.5μg/ml~1μg/mlとすることができる。培養期間は例えば10分間~5時間、好ましくは20分間~3時間とすることができる。本明細書における「ウイルスペプチド抗原」とは、特定のウイルスに特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導しうるエピトープペプチドまたはエピトープを含むロングペプチドをいう。ウイルスペプチド抗原としては、これらに限定されるものではないが、例えばアデノウイルス(AdV)の抗原ペプチド(例えば、WO 2007015540 A1を参照)、サイトメガロウイルス(CMV)の抗原ペプチド(例えば、特開2002-255997号公報、特開2004-242599号公報、特開2012-87126号公報を参照)、エプスタインバールウイル(EBV)の抗原ペプチド(例えば、WO 2007049737 A1、特願2011-177487号公報、特開2006-188513号公報を参照)、等を用いることができる。ウイルスペプチド抗原は配列情報に基づき常法(例えば液相合成法、固相合成法)で調製することができる。また、ウイルスペプチド抗原の中には市販されているものもある(例えば株式会社医学生物学研究所、タカラバイオ、ミルテニーバイオテックなどが提供する。)
1種類の抗原ペプチドを用いることも可能であるが、通常は2種類以上の抗原ペプチド(抗原ペプチド混合物)を使用する。例えば、AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物又はEBV抗原ペプチド混合物、或いはこれら抗原ペプチド混合物の中の二つ以上を組み合わせたもの(例えば、AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物及びEBV抗原ペプチド混合物を混合したもの)を用いる。2種類以上の抗原ペプチドを併用することにより、標的(抗原ペプチド)が異なる複数のT細胞を得ることができ、本発明の調製方法で得られるCAR-T細胞が有効な治療対象(患者)の増大(カバー率の向上)を望める。いずれのウイルスに由来する抗原ペプチドを使用するかを決定するにあたっては、本発明の調製方法で得られるCAR-T細胞の用途、具体的には治療対象となる疾患や患者の病態を考慮するとよい。例えば、造血幹細胞移植後の再発性白血病の治療を目的とする場合には、EBVウイルスの抗原ペプチド混合物を単独で又は他のウイルスの抗原ペプチド混合物との併用で用いるとよい。AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物、EBV抗原ペプチド混合物については市販もされており(例えば、ミルテニーバイオテク社が提供する、PepTivator(登録商標) AdV5 Hexon、PepTivator(登録商標) CMV pp65、PepTivator(登録商標) EBV EBNA-1、PepTivator(登録商標) EBV BZLF1、JPT Peptide Technologies社が提供するPepMixTM Collection HCMV、PepMixTM EBV (EBNA1)等)、容易に入手することができる。
【0038】
「増殖能を喪失させる処理」を経ることによって、増殖能を喪失したT細胞(非増殖性細胞)が得られる。増殖能を喪失させる処理は、典型的には放射線照射であるが、UV照射や薬剤を用いることにしてもよい。放射線照射の条件の一例を示すと、ガンマ線を用い、25Gy~50Gyの強度で15~30分間の処理である。
【0039】
ステップ(i)で作製したウイルスペプチド保持非増殖性細胞は、例えば、培養液等の溶液中で保持しておき、ステップ(iii)に使用することができる。また、作製したウイルスペプチド保持非増殖性細胞は、凍結保存しておいて、ステップ(iii)の共培養において途中で追加するウイルスペプチド保持非増殖性細胞として、解凍して使用することも可能である。
【0040】
ステップ(ii)では、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子が導入された遺伝子改変T細胞を得る。すなわち、ステップ(ii)では、単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、トランスポゾン法によって、標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を導入し、これにより遺伝子改変T細胞を得る。トランスポゾン法とは、非ウイルス遺伝子導入法の一つである。トランスポゾンは、進化の過程で保存されてきた、遺伝子転位を引き起こす短い遺伝子配列の総称である。遺伝子酵素(トランスポザーゼ)とその特異認識配列のペアで遺伝子転位を引き起こす。トランスポゾン法として、例えば、PiggyBacトランスポゾン法を用いることができる。PiggyBacトランスポゾン法は、昆虫から単離されたトランスポゾンを利用するものであり(Fraser MJ et al., Insect Mol Biol. 1996 May;5(2):141-51.; Wilson MH et al., Mol Ther. 2007 Jan;15(1):139-45.)、哺乳類染色体への高効率な組込みを可能にする。PiggyBacトランスポゾン法は実際にCAR遺伝子の導入に利用されている(例えばNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009;Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013等を参照)。本発明に適用可能なトランスポゾン法はPiggyBacを利用したものに限定されるものではなく、例えば、Sleeping Beauty(Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.)、Frog Prince(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.)、Tol1(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H. Mol Gen Genet. 1995 Dec 10;249(4):400-5.;Koga A, Shimada A, Kuroki T, Hori H, Kusumi J, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S. J Hum Genet. 2007;52(7):628-35. Epub 2007 Jun 7.)、Tol2(Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.;Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.;Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.)等のトランスポゾンを利用した方法を採用することにしてもよい。
【0041】
トランスポゾン法による導入操作は常法で行えばよく、過去の文献(例えばPiggyBacトランスポゾン法については上掲のNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009、Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013、或いはSaha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235)が参考になる。本発明の好ましい一態様では、PiggyBacトランスポゾン法が採用される。典型的には、PiggyBacトランスポゾン法ではPiggyBacトランスポザーゼをコードする遺伝子を保持したベクター(トランスポザーゼプラスミド)と、目的のタンパク質をコードする遺伝子(CAR遺伝子)がpiggyBac逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるベクター(トランスポゾンプラスミド)を用意し、これら二つのベクターを標的細胞に導入(トランスフェクション)する。トランスフェクションには、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法など、各種手法を利用できる。
【0042】
CAR遺伝子を導入する細胞(標的細胞)として、CD4陽性CD8陰性T細胞、CD4陰性CD8陽性T細胞、iPS細胞から調製されたT細胞、αβ-T細胞、γδ-T細胞を挙げることができる。上記の如きT細胞又は前駆細胞を含むものであれば、様々な細胞集団を用いることができる。末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)は好ましい標的細胞の一つである。即ち、好ましい一態様では、単球低減化処理されたPBMCに対して遺伝子導入操作を行う。PBMCは常法で調製すればよい。尚、PBMCの調製方法については、例えば、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235を参照することができる。
【0043】
遺伝子導入操作を経た細胞はステップ(iii)の共培養に供されるが、ステップ(iii)の前に、遺伝子導入操作後の細胞をT細胞増殖因子(例えばIL-15やIL-7)の存在下で培養することにしてもよい。ただ、遺伝子導入操作による細胞ダメージを回復させるという観点から、ステップ(ii)の遺伝子導入から早期にステップ(iii)を開始することが好ましい。具体的には、例えばステップ(ii)の遺伝子導入から24時間以内(より好ましくは12時間以内、6時間以内、3時間以内、1時間以内、45分間以内、30分間以内)にステップ(iii)を開始することが好ましい。なお、同様の観点から、ステップ(i)をステップ(ii)よりも前に行うことが好ましい。これにより、ステップ(ii)の遺伝子導入の後、速やかにステップ(iii)を開始することができる。
【0044】
CAR遺伝子は、特定の標的抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)をコードする。CARは、標的に特異的な細胞外ドメインと、膜貫通ドメイン、及び免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインを含む構造体である。以下、各ドメインについて説明する。
【0045】
(a)細胞外ドメイン
細胞外ドメインは標的に特異的な結合性を示す。例えば、細胞外ドメインは、抗標的モノクローナル抗体のscFv断片を含む。ここでのモノクローナル抗体として、例えば、齧歯類(マウス、ラット、ウサギなど)の抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体等が用いられる。ヒト化モノクローナル抗体は、他の動物種(例えばマウスやラット)のモノクローナル抗体の構造をヒトの抗体の構造に類似させた抗体であり、抗体の定常領域のみをヒト抗体のものに置換したヒト型キメラ抗体、及び定常領域及び可変領域に存在するCDR(相補性決定領域)以外の部分をヒト抗体のものに置換したヒト型CDR移植(CDR-grafted)抗体(P.T.Johons et al., Nature 321,522(1986))を含む。ヒト型CDR移植抗体の抗原結合活性を高めるため、マウス抗体と相同性の高いヒト抗体フレームワーク(FR)を選択する方法、相同性の高いヒト型化抗体を作製する方法、ヒト抗体にマウスCDRを移植した後さらにFR領域のアミノ酸を置換する方法の改良技術もすでに開発され(米国特許第5585089号、米国特許第5693761号、米国特許第5693762号、米国特許第6180370号、欧州特許第451216号、欧州特許第682040号、特許第2828340号などを参照)、ヒト化抗体の作製に利用することもできる。
【0046】
scFv断片とは、免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)がリンカーを介して連結された構造体であり、抗原との結合能を保持している。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。GGSリンカー及びGSリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が5~25個のリンカーを用いることができる。リンカーの長さは好ましくは8~25、更に好ましくは15~20である。
【0047】
標的には、典型的には、腫瘍細胞に特異的な発現が認められる抗原が用いられる。ここでの「特異的な発現」とは、腫瘍以外の細胞に比較して有意ないし顕著な発現が認められることをいい、腫瘍以外の細胞において全く発現がないものに限定する意図はない。標的抗原の例として、CD19抗原、CD20抗原、GD2抗原、CD22抗原、CD30抗原、CD33抗原、CD44variant7/8抗原、CEA抗原、Her2/neu抗原、MUC1抗原、MUC4抗原、MUC6抗原、IL-13 receptor-alpha2、イムノグロブリン軽鎖、PSMA抗、VEGF receptor2、BCMA、B7-H3などを挙げることができる。
【0048】
(b)膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと細胞内シグナルドメインの間に介在する。膜貫通ドメインとしては、CD28、CD3ε、CD8α、CD3、CD4又は4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。人工的に構築したポリペプチドからなる膜貫通ドメインを用いることにしてもよい。
【0049】
(c)細胞内シグナルドメイン
細胞内シグナルドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。即ち、細胞外ドメインが標的の抗原と結合した際、免疫細胞の活性化に必要なシグナルを伝達することが可能な細胞内シグナルドメインが用いられる。細胞内シグナルドメインには、TCR複合体を介したシグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第1ドメイン」と呼ぶ)と、共刺激シグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第2ドメイン」と呼ぶ)が含まれる。第1ドメインとして、CD3ζの他、FcεRIγ等の細胞内ドメインを用いることができる。好ましくは、CD3ζが用いられる。また、第2ドメインとしては共刺激分子の細胞内ドメインが用いられる。共刺激分子としてCD28、4-1BB(CD137)、CD2、CD4、CD5、CD134、OX-40又はICOSを例示することができる。好ましくは、CD28又は4-1BBの細胞内ドメインを採用する。
【0050】
第1ドメインと第2ドメインの連結態様は特に限定されないが、好ましくは、過去の事例においてCD3ζを遠位につないだ場合に共刺激が強く伝わったことが知られていることから、膜貫通ドメイン側に第2ドメインを配置する。同一又は異種の複数の細胞内ドメインをタンデム状に連結して第1ドメインを構成してもよい。第2ドメインについても同様である。
【0051】
第1ドメインと第2ドメインは、これらを直接連結しても、これらの間にリンカーを介在させてもよい。リンカーとしては例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの構造、特徴等は前述の通りである。但し、ここでのリンカーとしては、グリシンのみから構成されるものを用いてもよい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が2~15個のリンカーを用いることができる。
【0052】
(d)その他の要素
CARの分泌を促すために、リーダー配列(シグナルペプチド)が用いられる。例えば、GM-CSFレセプターのリーダー配列を用いることができる。また、細胞外ドメインと膜貫通ドメインがスペーサードメインを介して連結した構造にするとよい場合がある。スペーサードメインは、CARと標的抗原との結合を促進させるために用いられる。例えば、ヒトIgG(例えばヒトIgG1、ヒトIgG4)のFc断片をスペーサードメインとして用いることがきる。その他、CD28の細胞外ドメインの一部やCD8αの細胞外ドメインの一部等をスペーサードメインとして用いることもできる。尚、膜貫通ドメインと細胞内シグナルドメインの間にもスペーサードメインを設けることもできる。
【0053】
尚、これまでにCARを利用した実験、臨床研究などの報告がいくつかあり(例えばRossig C, et al. Mol Ther 10:5-18, 2004; Dotti G, et al. Hum Gene Ther 20:1229-1239, 2009; Ngo MC, et al. Hum Mol Genet 20 (R1):R93-99, 2011; Ahmed N, et al. Mol Ther 17:1779-1787, 2009; Pule MA, et al. Nat Med 14:1264-1270, 2008; Louis CU, et al. Blood 118:6050-6056, 2011; Kochenderfer JN, et al. Blood 116:4099-4102, 2010; Kochenderfer JN, et al. Blood 119 :2709-2720, 2012; Porter DL, et al. N Engl J Med 365:725-733, 2011; Kalos M, et al. Sci Transl Med 3:95ra73,2011; Brentjens RJ, et al. Blood 118:4817-4828, 2011; Brentjens RJ, et al. Sci Transl Med 5:177 ra38, 2013)、これらの報告を参考にして本発明のCARを構築することができる。
【0054】
トランスポゾンプラスミド内において、CAR遺伝子の下流にはポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。
【0055】
トランスポゾンプラスミドに検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることにしてもよい。検出用遺伝子は、発現カセットの導入の成否や効率の判定、CAR遺伝子の発現の検出又は発現効率の判定、CAR遺伝子が発現した細胞の選択や分取、等に利用される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella、EMBO J. 2(1983)、987-995)やnptII遺伝子(Messing & Vierra.Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al.,EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59~72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子)、細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介してCAR遺伝子に連結している。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)であるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。
【0056】
ステップ(iii)では、ステップ(i)で用意した非増殖性細胞(ウイルスペプチド保持非増殖性細胞)と、ステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養する。これによって、非増殖性細胞による共刺激分子及びウイルス抗原ペプチドを介した刺激が加わり、ウイルス抗原特異的な遺伝子改変T細胞が活性化するとともに、その生存・増殖が促される。
【0057】
共培養に使用する非増殖性細胞の数と、ステップ(ii)で遺伝子改変T細胞を得るために使用した、単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団中の細胞の数の比率(非増殖性細胞の数/遺伝子改変T細胞の作製に使用した細胞の数)は特に限定されないが、例えば、0.025~2とする。当該比率は、好ましくは0.05~1、より好ましくは0.05~0.5、さらに好ましくは0.07~0.2である。
【0058】
このステップは、ウイルス特異的CAR-T細胞を選択的に増殖させるため、強力な刺激を避けてT細胞の疲弊/疲労を防ぐため、等の理由から、原則として、抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えない。一方、細胞の生存率/増殖率を高めるために、共培養の際、T細胞増殖因子が添加された培養液を使用するとよい。T細胞増殖因子としてはIL-15が好適である。好ましくは、IL-15に加えIL-7が添加された培養液を用いる。IL-15の添加量は例えば5ng/ml~10ng/mlとする。同様にIL-7の添加量は例えば5ng/ml~10ng/mlとする。IL-15、IL-7等のT細胞増殖因子は常法に従って調製することができる。また、市販品を利用することもできる。ヒト以外の動物種のT細胞増殖因子の使用を排除するものではないが、通常、T細胞増殖因子はヒト由来のもの(組換え体であってもよい)を用いる。ヒトIL-15、ヒトIL-7等の増殖因子は用意に入手することができる(例えばミルテニーバイオテク社、R&Dシステムズ社等が提供する)。
【0059】
血清(ヒト血清、ウシ胎仔血清など)を添加した培地を用いてもよいが、無血清培地を採用することにより、臨床応用する際の安全性が高く、且つ血清ロット間の差による培養効率の違いが出にくいという利点を有する細胞を調製することが可能になる。T細胞用の無血清培地の具体例はTexMACS(ミルテニーバイオテク社)、AIM V(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)である。なお、CAR-T細胞の増殖等の観点からは、ステップ(iii)の共培養の培養液が血清を含有することが好ましい。この場合、共培養の培養液の血清濃度は、例えば0.5~10、好ましくは1~10、より好ましくは1~7%(v/v)、さらに好ましくは1~6%(v/v)、よりさらに好ましくは1.5~5%(v/v)、とりわけ好ましくは1.5~3%(v/v)である。血清を用いる場合には、自己血清、即ち、ステップ(ii)で得られる遺伝子改変T細胞の由来である個体(典型的には本発明の調製方法で得られるキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞の投与を受ける患者)から採取した血清を用いるとよい。基本培地にはT細胞の培養に適したものを用いればよく、具体例を挙げれば、上掲のTexMACS、AIM V(登録症商標)である。その他の培養条件は、T細胞の生存、増殖に適したものであればよく、一般的なものを採用すればよい。例えば、37℃に設定したCO2インキュベーター(CO2濃度5%)内で培養すればよい。
【0060】
ステップ(iii)における共培養の期間は、例えば1日間~21日間、好ましくは5日間~18日間、更に好ましくは10日間~14日間である。培養期間が短すぎると十分な効果を望めず、培養期間が長すぎると細胞の活性(生命力)の低下、細胞の疲弊/疲労等のおそれがある。
【0061】
ウイルスペプチド保持非増殖性細胞をステップ(iii)の途中で追加してもよい。具体的には、例えば共培養の培養液にウイルスペプチド保持非増殖性細胞を添加する方法、共培養後の細胞を回収し、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞と混合した後に再度、共培養を行う方法等が挙げられる。これらの操作を2回以上繰り返すことにしてもよい。このように、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞を利用した刺激ないし活性化を複数回行うことにすれば、ウイルス特異的CAR-T細胞の誘導率の向上、ウイルス特異的CAR-T細胞数の増加を望める。尚、改めて用意したもの、又はステップ(i)で用意した細胞の一部を保存しておいたものを、ここでのウイルスペプチド保持非増殖性細胞として使用する。ウイルスペプチド保持非増殖性細胞は、好ましくは単球低減化処理されたT細胞含有細胞集団に対して、ウイルスペプチド抗原存在下での培養処理及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる細胞である。ウイルスペプチド保持非増殖性細胞をステップ(iii)の途中で追加する場合、そのタイミング(複数回追加する場合は、初回のタイミング)は、共培養開始から、例えば1~12日間、好ましくは2~10日間、より好ましくは3~9日間である。また、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞をステップ(iii)の途中で追加する場合、追加する非増殖性細胞の数と、共培養中の細胞の数の比率(追加する非増殖性細胞の数/共培養中の細胞の数)は特に限定されないが、例えば、0.025~2とする。当該比率は、好ましくは0.1~2、より好ましくは0.2~2、さらに好ましくは0.5~1.5である。
【0062】
ステップ(iv)では、培養後の細胞を回収する。回収操作は常法で行えばよい。例えば、ピペッティング、遠心処理等によって回収する。
【0063】
好ましい一態様では、ステップ(iii)とステップ(iv)の間に、共培養後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップを行う。このステップによれば、効率的な拡大培養が可能になり、また、細胞の生存率を高める利点もある。この拡大培養に際してウイルスペプチド保持非増殖性細胞を追加したり、或いは拡大培養の途中でウイルスペプチド保持非増殖性細胞を追加したりすることにしてもよい。
【0064】
T細胞増殖因子としてはIL-15、IL-7等を用いることができる。好ましくは、ステップ(iii)と同様に、IL-15とIL-7を添加した培地で培養する。培養期間は例えば1日間~21日間、好ましくは5日間~18日間、更に好ましくは10日間~14日間である。培養期間が短すぎると細胞数の十分な増加を望めず、培養期間が長すぎると細胞の活性(生命力)の低下、細胞の疲弊/疲労等のおそれがある。培養の途中で継代してもよい。また、培養中は必要に応じて培地交換をする。例えば3日に1回の頻度で培養液の1/3~2/3程度を新しい培地に交換する。
【0065】
2.キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞及びその用途
本発明の更なる局面は、本発明の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞(以下、「本発明のCAR-T細胞」と呼ぶ)及びその用途に関する。本発明のCAR-T細胞はCAR療法が有効と考えられる各種疾患(以下、「標的疾患」と呼ぶ)の治療、予防又は改善に利用され得る。標的疾患の代表はがんであるが、これに限定されるものではない。標的疾患の例を挙げると、各種B細胞リンパ腫(濾胞性悪性リンパ腫、びまん性悪性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫、血管内B細胞性リンパ腫、CD20陽性ホジキンリンパ腫など)、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(CMML,JMML,CML,MDS/MPN-UC)、骨髄異形成症候群、急性骨髄生白血病、神経芽腫、脳腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、網膜芽細胞腫、肺小細胞腫、メラノーマ、卵巣がん、横紋筋肉腫、腎臓がん、膵臓がん、悪性中皮腫、前立腺がん等である。「治療」とは、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。「予防」とは、疾病(障害)又はその症状の発症/発現を防止又は遅延すること、或いは発症/発現の危険性を低下させることをいう。一方、「改善」とは、疾病(障害)又はその症状が緩和(軽症化)、好転、寛解、又は治癒(部分的な治癒を含む)することをいう。
【0066】
本発明のCAR-T細胞を細胞製剤の形態で提供することもできる。本発明の細胞製剤には、本発明のCAR-T細胞が治療上有効量含有される。例えば1回の投与用として、104個~1010個の細胞を含有させる。細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を細胞製剤に含有させてもよい。
【0067】
本発明のCAR-T細胞又は細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。
【実施例0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
(1)材料
(1-1)抗体
抗CD3抗体(ミルテニーバイオテク社)
抗CD28抗体(ミルテニーバイオテク社)
(1-2)培養液
TexMACS(無血清培地)(ミルテニーバイオテク社)
(1-3)サイトカイン
リコンビナントヒトIL-7(ミルテニーバイオテク社)
リコンビナントヒトIL-15(ミルテニーバイオテク社)
(1-4)ウイルスペプチドミックス
PepTivator(登録商標)CMV pp65-premium grade, ヒト(ミルテニーバイオテク社社)
PepTivator(登録商標)AdV5 Hexon-premium grade, ヒト(ミルテニーバイオテク社)
PepTivator(登録商標)EBV EBNA-1-premium grade, ヒト(ミルテニーバイオテク社)
PepTivator(登録商標)EBV BZLF1-premium grade, ヒト(ミルテニーバイオテク社)
(1-5)プラスミド
pIRII-CAR.CD19.28zベクター(
図1:CARを発現する)
pIRII-CAR.CD19_optimizedベクター(
図3:pIRII-CAR.CD19.28zベクターの構造と比較して、Fc領域(CH2、CH3)が削除されている。)
pCMV-piggyBacベクター(
図2:piggyBacトランスポサーゼを発現する)
(1-6)細胞培養容器
24ウェル非コート組織培養プレート(Falcon)
24ウェル組織培養プレート(Falcon)
G-Rex10 (Wilson Wolf)。
【0070】
(2)末梢血単核球の調製
(2-1)単球低減化処理されていない末梢血単核球の調製
B細胞性急性リンパ性白血病患者2名(患者1、患者2)それぞれから末梢血単核球を調製した。具体的には次のとおりである。患者から末梢血を採取し、PBSで希釈して50ml遠心管に分注し、Ficoll-Paque Premiumを下層に重層後、遠心分離(540~960g、20~30分、22℃)した。単核球層を50ml遠心管に移してPBSで希釈した後、PBSを用いて3回細胞洗浄を行い、単球低減化処理されていない末梢血単核球(以下、「末梢血単核球(2-1)」と示すこともある。)を得た。得られた末梢血単核球中の単球割合(=(単球細胞数/全細胞数)×100)をフローサイトメトリー法で測定(単球マーカーとしてCD14を使用)したところ、患者1由来の末梢血単核球中の単球割合は12%であり、患者2由来の末梢血単核球中の単球割合は11.1%であった。
【0071】
(2-2)単球低減化処理されてた末梢血単核球の調製
上記(2-1)で得られた末梢血単核球を培養液に浮遊させ、培養器(セルスタック培養器)に移し、CO2インキュベーター内で30分間静置した。細胞浮遊液を回収し、遠心分離(340g、10分、22℃)した後、上清を捨て、ペレットになった細胞をPBSに浮遊させて、単球低減化処理された末梢血単核球(以下、「末梢血単核球(2-2)」と示すこともある。)を得た。得られた末梢血単核球中の単球割合(=(単球細胞数/全細胞数)×100)をフローサイトメトリー法で測定(単球マーカーとしてCD14を使用)したところ、患者1由来の末梢血単核球中の単球割合は1.17%であり、患者2由来の末梢血単核球中の単球割合は2.2%であった。
【0072】
(3)自己血清の調製
患者1及び患者2それぞれから末梢血を採取し、血清用採血管に回収した。遠心分離(2150g、5分、22℃)して、血清(遠心上清)を回収した。
【0073】
(4)活性化リンパ球の調製
抗CD3抗体及び抗CD28抗体を含むPBS希釈液(抗CD3抗体1μg/mL、抗CD28抗体1μg/mL)を24ウェル組織培養プレートに分注し、CO2インキュベーター内に約2時間静置した。末梢血単核球(2-1)及び末梢血単核球(2-2)それぞれを、自己血清を添加(2%(v/v))した培養液に懸濁し、PBSでウェルを洗浄した上記プレートに播種した。CO2インキュベータ(温度37℃、CO25%)で培養を開始した。培養1日目にIL-15を添加(5ng/mL)した。培養4日目に、培養ウェルを分割し、自己血清とIL-15を添加した培養液を追加した。培養6日目に培養液の1/2を交換した。培養7日目に培養細胞を回収し、得られた細胞を活性化リンパ球として以下の試験で使用した。
【0074】
(5)ウイルスペプチド添加活性化T細胞添加法によるCAR-Tの作製及び培養(実施例:末梢血単核球(2-2)を使用)
<0日目>
末梢血単核球(2-2)をPBSに懸濁し細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液にウイルスペプチド(PepTivator CMV pp65、PepTivator AdV5 Hexon、PepTivator EBV EBNA-1及びPepTivator EBV BZLF1、それぞれ0.6nmol)を添加し、37℃で30分インキュベートした。PBSで洗浄後、PBSに懸濁し分離バッグに移し、RAD-SURE 25Gyを貼付して、放射線照射を行った。RAD-SURE 25Gyで放射線照射を確認後、分離バッグから50ml遠心管に移した。細胞を遠心分離後、上清を捨てた。IL-7及びIL-15を添加した培養液(IL-7:10ng/mL、IL-15:5ng/mL)に懸濁し、24ウェルプレートに播種した。
【0075】
一方で、Nucleofector溶液(P3溶液)にpIRII-CAR.CD19_optimizedベクターとpCMV-piggyBacベクターを混和してP3-DNA溶液(pIRII-CAR.CD19_optimizedベクター:5μg/100μL、pCMV-piggyBacベクター:5μg/100μL)を調製した。15mL遠心管に末梢血単核球(2-2)を2.0x107個ずつ分注し、PBSで希釈して遠心後、上清を捨ててペレットにした。末梢血単核球のペレットをP3-DNA溶液100μLに浮遊し、キュベットに移し、遺伝子導入機(4D-Nucleofector)で遺伝子導入した。
【0076】
遺伝子導入後、20分間以内に、遺伝子導入した末梢血単核球を、放射線照射済みの上記細胞の培養容器に添加して両細胞を混合(遺伝子導入に使用した末梢血単核球(2-2)の数:放射線照射済みの細胞数=10:1になるように混合)し、培養液に自己血清を添加(2%(v/v))して、CO2インキュベータ(温度37℃、CO25%)で共培養を開始した。
【0077】
<4日目>
共培養の培養液を1/2交換し、自己血清、IL-7、及びIL-15を添加した(自己血清:2%(v/v)、IL-7:10ng/mL、IL-15:5ng/mL)。
【0078】
<6日目>
共培養の培養液を1/2交換し、自己血清、IL-7、及びIL-15を添加した(自己血清:2%(v/v)、IL-7:10ng/mL、IL-15:5ng/mL)。
【0079】
<7日目>
末梢血単核球(2-2)から調製された活性化リンパ球(上記(4))をPBSに懸濁し細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液にウイルスペプチド(PepTivator CMV pp65、PepTivator AdV5 Hexon、PepTivator EBV EBNA-1及びPepTivator EBV BZLF1、それぞれ0.6nmol)を添加し、37℃で30分インキュベートした。PBSで洗浄後、PBSに懸濁し分離バッグに移し、RAD-SURE 25Gyを貼付して、放射線照射を行った。RAD-SURE 25Gyで放射線照射を確認後、分離バッグから50ml遠心管に移した。細胞を遠心分離後、上清を捨てた。得られた細胞を培養液に懸濁し、G-Rexに播種した。
【0080】
一方で、上記共培養の培養液から細胞を回収し、培養液に浮遊させ、上記放射線照射済み細胞が播種された培養容器に添加して両細胞を混合し(上記共培養の培養液から回収した細胞数:放射線照射済みの細胞数=1:1)、培養液に自己血清、IL-7、及びIL-15を添加(自己血清:2%(v/v)、IL-7:10ng/mL、IL-15:5ng/mL)して、CO2インキュベータ(温度37℃、CO25%)で共培養を開始した。
【0081】
<10日目>
共培養の培養液を1/2交換し、自己血清、IL-7、及びIL-15を添加した(自己血清:2%(v/v)、IL-7:10ng/mL、IL-15:5ng/mL)。以後、培養液の色の変化に応じて同様に行った。
【0082】
<14日目>
共培養の培養液から細胞を回収し、生細胞率(=(生細胞数/全細胞数)×100)及び遺伝子導入効率(CAR陽性細胞数/全細胞数)をフローサイトメトリー法で測定した。
【0083】
(6)ウイルスペプチド添加活性化T細胞添加法によるCAR-Tの作製及び培養(比較例:末梢血単核球(2-1)を使用)
末梢血単核球(2-2)に代えて末梢血単核球(2-1)を使用し、且つ末梢血単核球(2-2)から調製された活性化リンパ球(上記(4))に代えて末梢血単核球(2-1)から調製された活性化リンパ球(上記(4))を使用する以外は、上記(5)と同様にして行った。14日目に共培養の培養液から細胞を回収し、生細胞率(=(生細胞数/全細胞数)×100)及び遺伝子導入効率(CAR陽性細胞数/全細胞数)をフローサイトメトリー法で測定した。
【0084】
(7)結果
単球低減化処理されていない末梢血単核球(末梢血単核球(2-1))を使用した場合(上記(6):比較例)に比べて、単球低減化処理された末梢血単核球(末梢血単核球(2-2))を使用した場合(上記(5):実施例)では、生細胞率が大幅に向上した(患者1:1.39%(比較例)→56.6%(実施例)、患者2:2.97%(比較例)→85.7%(実施例))。また、遺伝子効率については、患者1については8.39%(比較例)→24.6%(実施例)であり、患者2についても比較例に比べて実施例で向上した。