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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171594
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】進退移動装置およびリッド開閉装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 83/34 20140101AFI20221104BHJP
   B60K 15/05 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
E05B83/34
B60K15/05 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070134
(22)【出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021077402
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野守 千尋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆弘
【テーマコード(参考)】
2E250
3D038
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ46
2E250KK02
2E250LL13
2E250MM03
2E250RR12
2E250RR33
3D038CA32
3D038CC16
3D038CD03
3D038CD04
(57)【要約】
【課題】ロック部材がロック位置に位置している場合でも進退部材を後退保持位置へと移動させることができ、後退保持位置でのロックを簡単に行うことができる進退移動装置の提供を目的とする。
【解決手段】進退移動装置は、進退部材と、ロック部材5とを備え、進退部材はロック部材5の被当接部5aと軸周り方向で当接可能な当接部CTを有し、ロック部材5がロック位置にあるとき、被当接部5aと当接部CTとは、進退部材が前進保持位置から後退保持位置に移動するまでは、被当接部5aが進退部材の当接部CTと当接しない位置関係、かつ、軸周り方向に回転する方向に力が作用したときに、進退部材が前進保持位置へと移動しないように、被当接部5aが当接部CTと軸周り方向で対向して進退部材の軸周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係で位置付けられている。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに対して、前記ケースから突出する前進方向、および、前記前進方向とは反対方向となる後退方向に、軸周りに回転しながら移動可能な進退部材と、
前記進退部材を前記前進方向に付勢する付勢部材と、
前記進退部材を、前記前進方向に移動した前進保持位置と、前記後退方向に移動した後退保持位置とで保持するように構成されたカム機構と、
前記進退部材が前記後退保持位置に位置するときに、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を規制するロック位置と、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を許容するアンロック位置との間で移動可能なロック部材と
を備え、
前記進退部材は、前記前進保持位置と前記後退保持位置との間を移動するときに、前記後退保持位置に対してさらに後退方向側となり、前記後退保持位置に対して軸周り方向に所定の角度回転した折り返し位置を通るように構成され、
前記進退部材は、前記進退部材に対して前記後退保持位置から前記折り返し位置に向かって前記軸周りに回転する方向に力が作用したときに、前記ロック位置にある前記ロック部材の被当接部と前記軸周り方向で当接可能な当接部を有し、
前記ロック部材が前記ロック位置にあるとき、前記被当接部と前記当接部とは、
前記進退部材が前記前進保持位置から前記折り返し位置を経由して前記後退保持位置に移動するまでは、前記被当接部が前記進退部材の前記当接部と当接しない位置関係、かつ、
前記進退部材が前記後退保持位置から前記後退方向に移動して前記軸周り方向に回転する方向に力が作用したときに、前記進退部材が前記前進保持位置へと移動しないように、前記被当接部が前記当接部と前記軸周り方向で対向して前記進退部材の前記軸周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係
で位置付けられている、
進退移動装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記前進保持位置から前記後退保持位置へと前記進退部材を移動させる際には、前記折り返し位置に前記進退部材が到達した後に、前記進退部材を前記付勢部材によって前記折り返し位置から前記後退保持位置に移動させて保持するように構成され、
前記カム機構は、前記後退保持位置から前記前進保持位置へと前記進退部材を移動させる際には、前記後退保持位置から前記折り返し位置に前記進退部材が到達した後に、前記進退部材を前記付勢部材によって前記折り返し位置から前記前進保持位置に移動させて保持するように構成されている、
請求項1に記載の進退移動装置。
【請求項3】
前記カム機構は、
前記ケースに設けられた第1カム面と、前記ケースに設けられた第2カム面と、
前記ケースに設けられ、前記進退部材の軸方向に沿って延びるガイド部と、
前記進退部材の外周に設けられ、前記第1カム面と接触する第1接触面および前記第2カム面と接触する第2接触面を有し、前記ガイド部に案内可能な被ガイド部と、
を有し、
前記第1カム面は、前記進退部材が前記後退方向に移動して前記折り返し位置に移動する際に前記被ガイド部の前記第1接触面と接触して、前記進退部材を前記軸周り方向で一方の方向に回転させるように傾斜しており、
前記第2カム面は、前記進退部材が前記前進保持位置から前記折り返し位置を経由して前記後退保持位置で保持される際に、前記進退部材が前記折り返し位置から前記前進方向に移動したときに、前記被ガイド部の前記第2接触面と接触して、前記進退部材を前記軸周り方向で前記一方の方向に回転させるように傾斜している、
請求項1に記載の進退移動装置。
【請求項4】
前記当接部が前記被ガイド部に設けられ、
前記カム機構は、前記進退部材が前記後退保持位置から前記折り返し位置を経由して前記前進保持位置へと向かう際に、前記被ガイド部を前記ガイド部へと案内する導入部を有し、
前記導入部は、前記被ガイド部の前記第2接触面と接触した状態で、前記進退部材が前記前進方向にさらに移動しようとするときに、前記進退部材が前記軸周り方向で一方の方向に回転する力が生じるように傾斜しており、
前記被ガイド部は、
前記被ガイド部の前記第1接触面が前記第1カム面に接触し、かつ、前記当接部と前記被当接部とが前記軸周り方向で当接した後、前記被ガイド部が前記付勢部材の付勢力によって前記前進方向に移動したときに、前記被ガイド部の前記第2接触面が前記導入部に案内されないように、前記導入部とは逆方向に傾斜した傾斜面を有している、請求項3に記載の進退移動装置。
【請求項5】
前記カム機構は、前記軸周り方向で、前記第2カム面と前記導入部との間に、前記被ガイド部の前記傾斜面の傾斜角度に対応した方向および角度で傾斜した案内面を有している、請求項4に記載の進退移動装置。
【請求項6】
前記ロック部材は、前記ロック位置に位置するときに前記被ガイド部の回転軌跡上に位置するように移動し、
前記進退部材が前記軸周りに回転し、前記被ガイド部に設けられた前記当接部から前記ロック部材の被当接部に、前記軸周り方向の回転力が加わったとき、前記回転力により前記ロック部材が前記進退部材に近付く方向に力が働くように、前記被当接部と前記当接部とが係合する、請求項3に記載の進退移動装置。
【請求項7】
前記被当接部は、前記被当接部と前記当接部とが当接する当接箇所と、前記進退部材の軸とを結ぶ線に沿って延びる面によって構成され、前記被当接部と前記当接部とが面接触するように構成される、請求項6に記載の進退移動装置。
【請求項8】
請求項1に記載の前記進退移動装置と、
前記進退移動装置が取り付けられ、開口部を有する基部と、
前記基部の前記開口部を開閉可能であり、前記進退部材の前進方向側の端部と係合可能なリッドと
を備えた、リッド開閉装置。
【請求項9】
前記リッドは、車両の燃料または給電用のリッドであり、
前記ロック部材は、前記進退部材に当接可能なロック本体と、前記ロック本体を前記ロック位置および前記アンロック位置に移動させる駆動部とを有し、
前記駆動部は、前記車両のドアのロック信号に応じて前記ロック本体を前記ロック位置に移動させるように制御される、請求項8に記載のリッド開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は進退移動装置およびリッド開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料補給口を覆うリッドをロックする装置など、ケースに対してロッド部材が移動する装置は、ロッド部材がケースから突出するように前進した位置と、ケースに収容されるように後退した位置との間で往復移動するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の装置は、ケースと、ケースに対して前進した位置と後退した位置との間で移動するプッシュロッド(ロッド部材)と、プッシュロッドを突出方向に付勢する付勢部材と、プッシュロッドが後退した位置で保持されているときにプッシュロッドをロックする施錠部(ロック部材)とを備えている。
【0004】
特許文献1において、プッシュロッドは、リッドの開放時に前進方向に移動した後、所定の前進保持位置で保持される。また、プッシュロッドは、リッドの閉鎖時に後退方向に移動した後、所定の後退保持位置で保持される。以下、プッシュロッドが前進保持位置にある状態から後退保持位置で保持されるまでの過程についてさらに詳しく説明する。前進保持位置にあるプッシュロッドがリッドの閉鎖時に後退方向に押圧されると、プッシュロッドは後退保持位置に到達した後、後退保持位置を越えてさらに後退方向に移動する。その後、プッシュロッドは付勢部材の付勢力によって前進方向に戻った後、後退保持位置に保持される。また、プッシュロッドは、前進保持位置に保持されるまでの過程で、後退保持位置から後退方向に移動した後、付勢部材の付勢力によって前進方向に移動して前進保持位置で保持される。
【0005】
また、特許文献1の装置は、プッシュロッドを後退保持位置でロックするための施錠部(ロック部材)を有している。施錠部は、プッシュロッドのピン状の摺動子に係合する係合部材を有しており、係合部材が、プッシュロッドの軸に対して垂直な方向に移動することで、ピン状の摺動子と係合する。具体的には、プッシュロッドが後退保持位置にあるときに、プッシュロッドの外周に設けられたピン状の摺動子に向かって施錠部の係止部材が移動する。これにより、係合部材がプッシュロッドの前進・後退方向でピン状の摺動子に係合して、プッシュロッドをロックする。一方、プッシュロッドが前進保持位置にあるときには、施錠部の係止部材がプッシュロッドに向かって移動したとしても、係合部材がピン状の摺動子の端面に当接して係合部材の移動が阻止される。これにより、プッシュロッドが前進保持位置にあるときに、係合部材はロック位置に移動せずに、プッシュロッドの誤ロックが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-173422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような装置の場合、例えば、リッドが開放している状態など、進退部材が前進保持位置にあるときに、ロック部材をロック位置に移動させる操作がされても、ロック部材はロック位置に移動しない。そのため、進退部材を前進保持位置から後退保持位置に移動させた後、再度ロック部材をロック位置に移動させる操作を行う必要がある。そのため、進退部材のロック操作が煩雑となる。また、進退部材が後退保持位置に移動した状態でユーザがロック操作を忘れた場合には、進退部材はロックされない状態となる(例えば、リッドが開放可能な状態となってしまう)。
【0008】
そこで、本発明は、進退部材の軸方向の位置にかかわらず、ロック部材をロック位置に移動させることができ、ロック部材がロック位置に位置している場合でも進退部材を後退保持位置へと移動させることができ、後退保持位置でのロックを簡単に行うことができる進退移動装置およびリッド開閉装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の進退移動装置は、ケースと、前記ケースに対して、前記ケースから突出する前進方向、および、前記前進方向とは反対方向となる後退方向に、軸周りに回転しながら移動可能な進退部材と、前記進退部材を前記前進方向に付勢する付勢部材と、前記進退部材を、前記前進方向に移動した前進保持位置と、前記後退方向に移動した後退保持位置とで保持するように構成されたカム機構と、前記進退部材が前記後退保持位置に位置するときに、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を規制するロック位置と、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を許容するアンロック位置との間で移動可能なロック部材とを備え、前記進退部材は、前記前進保持位置と前記後退保持位置との間を移動するときに、前記後退保持位置に対してさらに後退方向側となり、前記後退保持位置に対して軸周り方向に所定の角度回転した折り返し位置を通るように構成され、前記進退部材は、前記進退部材に対して前記後退保持位置から前記折り返し位置に向かって前記軸周りに回転する方向に力が作用したときに、前記ロック位置にある前記ロック部材の被当接部と前記軸周り方向で当接可能な当接部を有し、前記ロック部材が前記ロック位置にあるとき、前記被当接部と前記当接部とは、前記進退部材が前記前進保持位置から前記折り返し位置を経由して前記後退保持位置に移動するまでは、前記被当接部が前記進退部材の前記当接部と当接しない位置関係、かつ、前記進退部材が前記後退保持位置から前記後退方向に移動して前記軸周り方向に回転する方向に力が作用したときに、前記進退部材が前記前進保持位置へと移動しないように、前記被当接部が前記当接部と前記軸周り方向で対向して前記進退部材の前記軸周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係で位置付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の進退移動装置およびリッド開閉装置によれば、進退部材の軸方向の位置にかかわらず、ロック部材をロック位置に移動させることができ、ロック部材がロック位置に位置している場合でも進退部材を後退保持位置へと移動させることができ、後退保持位置でのロックを簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】進退部材が前進保持位置に保持された状態の、本発明の一実施形態の進退移動装置を示す斜視図である。
図2】進退部材が後退保持位置に保持された状態の、本発明の一実施形態の進退移動装置を示す斜視図である。
図3】進退移動装置の進退部材の係止部とフューエルリッドの操作対象側被係止部との関係を示す概略図である。
図4】進退部材が前進保持位置に位置し、ロック部材がアンロック位置に位置する、ケースの一部を切り欠いた進退移動装置の斜視図である。
図5図1の進退移動装置の分解斜視図である。
図6】ロック部材がロック位置およびアンロック位置との間で移動する状態を示す、概略側面図である。
図7】ロック部材がロック位置およびアンロック位置との間で移動する状態を示す、概略上面図である。
図8】進退部材が前進保持位置に位置し、ロック部材がアンロック位置に位置するときの、進退部材およびカム機構を平面上に展開した概略図である。
図9図8に示される状態から進退部材が後退方向に移動して、進退部材が折り返し位置に向かって移動している状態を示す概略図である。
図10図9に示される状態から進退部材が前進方向に移動して、進退部材が後退保持位置に到達した状態を示す概略図である。
図11図10に示される状態から進退部材が後退方向に移動して、進退部材が折り返し位置に向かって移動する過程を示す概略図である。
図12図11に示される状態から進退部材が前進保持位置に移動するまでの過程を示す概略図である。
図13】進退部材が前進保持位置に位置し、ロック部材がロック位置に位置するときの、進退部材およびカム機構を平面上に展開した概略図である。
図14図13に示される状態から進退部材が折り返し位置に移動した状態を示す概略図である。
図15図14に示される状態から進退部材が移動して後退保持位置に保持された状態を示す概略図である。
図16図15に示される状態から、進退部材が後退方向に移動した状態を示す概略図である。
図17】被ガイド部が台形状に形成された例を示す概略図である。
図18】被ガイド部の当接部と第2接触面との間に形成された傾斜面を説明するための概略図である。
図19】変形例の進退移動装置の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の進退移動装置を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の進退移動装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「Aに垂直」およびこれに類する表現は、Aに対して完全に垂直な方向のみを指すのではなく、Aに対して略垂直であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「Bに平行」およびこれに類する表現は、Bに対して完全に平行な方向のみを指すのではなく、Bに対して略平行であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「C形状」およびこれに類する表現は、完全なC形状のみを指すのではなく、見た目にC形状を連想させる形状(略C形状)を含んで指すものとする。
【0013】
図1に示されるように、進退移動装置1は、ケース2と、ケース2に対して、ケース2から突出する前進方向D1、および、前進方向D1とは反対方向となる後退方向D2に、軸X周りに回転しながら移動可能な進退部材3とを備えている。なお、前進方向D1および後退方向D2の両方向をまとめて軸X方向と呼ぶ。本明細書において、軸Xは、進退部材3が前進および後退(進退)する方向に沿った軸である進退軸を意味する。本実施形態では、軸Xは、進退方向に細長い軸状の部材となる進退部材3の長手方向軸に対応している。また、軸X周り方向は、軸Xを中心にして進退部材3が回転する方向をいい、軸Xを中心にして回転する方向のうちの一方向を、軸X周り方向の一方の方向D3と呼び、軸X周り方向の一方の方向D3の反対方向を、軸X周り方向の他方の方向と呼ぶ。
【0014】
進退移動装置1は、進退部材3がケース2に対して進退するときに、所定の操作対象と相互作用する。なお、進退部材3と操作対象との間の相互作用は、進退部材3が操作対象に作用するものであってもよいし、操作対象が進退部材3に作用するものであってもよい。本実施形態では、操作対象であるリッドL(図3および図4参照)が操作されることによって、進退部材3が操作されている。しかし、進退部材3と操作対象との間の相互作用は特に限定されず、進退部材3が操作対象を押圧することによって、操作対象を操作するなど、他の作用であってもよい。
【0015】
進退移動装置1の用途は、進退部材3がケース2に対して進退するときに、所定の操作対象と相互作用することができれば、特に限定されない。本実施形態では、進退移動装置1は、図4に示されるように、進退移動装置1と、進退移動装置1が取り付けられ、開口部Baを有する基部Bと、基部Bの開口部Baを開閉可能であり、進退部材3の前進方向D1側の端部(係止部31)と係合可能なリッドLとを備えた、リッド開閉装置Dに適用されている。より具体的には、リッドLは、車両の燃料または給電用のリッドであり、進退移動装置1は、車両のリッド開閉装置Dに適用され、操作対象である車両の燃料または給電用のリッドLを開閉するように構成されている。なお、車両の燃料は、軽油、ガソリンに限定されず、車両を動作させることが可能な全ての燃料をいう。
【0016】
本実施形態では、図4に示されるように、リッド開閉装置Dは、基部である車体(以下、車体Bと呼ぶ)にヒンジHを介して開閉可能に設けられたリッド(以下、フューエルリッドという場合がある)Lと、車体Bに取り付けられ、進退部材3の進退によりフューエルリッドLを係止および係止解除する進退移動装置1とを備えている。フューエルリッドLは、進退部材3の先端に設けられた係止部31が係止される操作対象側被係止部Laを有している。本実施形態では、係止部31は、矩形板状の係止片であり、操作対象側被係止部Laは係止部31が係止可能な矩形状の開口を有する係止孔である。図3の一点鎖線に示されるように、係止部31が操作対象側被係止部Laの開口から離脱できる配置となったときに、係止部31と操作対象側被係止部Laとの間の係止の解除が可能となる。一方、図3の一点鎖線の状態から実線に示される状態まで係止部31が回転して、操作対象側被係止部Laの開口から離脱できない配置となったときに、係止部31と操作対象側被係止部Laとが係止される。
【0017】
詳細は後述するが、本実施形態では、フューエルリッドLが閉鎖した状態から、フューエルリッドLが押圧されて進退移動装置1が操作されることによって、係止部31と操作対象側被係止部Laとの間の係止が解除され、フューエルリッドLが開放する。フューエルリッドLは、係止部31と操作対象側係止部Laとの間の係止が解除されたときに、フューエルリッドLが開放する方向にバネ付勢されて開放されていてもよい。あるいは、フューエルリッドLは、進退部材3によって開放方向に押されてわずかに開放した後に、手動で開放されてもよい。図4に示されるフューエルリッドLが開放した状態からフューエルリッドLを閉鎖する場合、フューエルリッドLを手動で閉鎖方向に移動させる。これにより、フューエルリッドLによって進退部材3が押圧されて、進退部材3が後退する。その際に係止部31が図3の一点鎖線で示される状態から実線で示される状態まで回転し、操作対象側被係止部Laに係止してフューエルリッドLが閉鎖した状態で維持される。
【0018】
つぎに、進退移動装置1の詳細を説明する。
【0019】
進退移動装置1は、図5および図8図16に示されるように、進退部材3を前進方向D1に付勢する付勢部材4と、進退部材3を、前進方向D1に移動した前進保持位置(図1図8および図13参照)と、後退方向D2に移動した後退保持位置(図2図10および図15参照)とで保持するように構成されたカム機構Cと、進退部材3が後退保持位置に位置するときに、進退部材3の前進保持位置への移動を規制するロック位置(図6および図7の二点鎖線参照)と、進退部材3の前進保持位置への移動を許容するアンロック位置(図6および図7の実線参照)との間で移動可能なロック部材5とを備えている。
【0020】
ケース2は、進退移動装置1の構成部材を内部に収容する。本実施形態では、ケース2は、進退部材3の一部、付勢部材4、カム機構C、ロック部材5を収容している。なお、ケース2は、進退移動装置1の各構成部材の少なくとも一部を収容していればよく、必ずしも各構成部材の全体を収容している必要はない。ケース2は、進退移動装置1の構成部材を内部に収容することができれば、その形状や構造は特に限定されない。また、ケース2は、一部材によって構成されていてもよいし、複数の部品によって構成されていてもよい。
【0021】
本実施形態では、ケース2は、図1図2および図6に示されるように、進退部材3を収容する進退部材収容部21と、ロック部材5を収容するロック部材収容部22とを有している。進退部材収容部21は、進退部材3を軸X方向に進退可能に収容する収容空間を有している。本実施形態では、進退部材収容部21は、内部空間を有する筒状体によって構成されている。より具体的には、進退部材収容部21は、後述する第2カム面Cbおよびガイド部Ccを有する、円筒体によって構成されている。ロック部材収容部22は、ロック部材5がロック位置とアンロック位置との間で移動できるように、ロック部材5を収容する。本実施形態では、ロック部材収容部22は、ロック部材5のロック本体51、駆動部52のモータ521およびネジ軸522を収容している。
【0022】
また、本実施形態では、ケース2は、図5に示されるように、進退部材3の後退方向D2側の端部に軸X方向で対向する底面2aから突出する、筒状の支持部24と、筒状の支持部24の底面2aとは反対側の端部から軸X方向に突出し、後述する第1カム面Caを有する突出部23を有している。支持部24は、本実施形態では、進退部材3の軸Xと同軸上に延びる中空の円筒状に形成され、支持部24の内側の空間に、付勢部材4の一部が収容される。突出部23は、軸X周り方向に離間して複数(本実施形態では4つ)設けられている。突出部23は、軸X方向で前進方向D1側の端部に、後述する第1カム面Caを有している。
【0023】
進退部材3は、ケース2に対して軸X方向に進退する部材である。本実施形態では、進退部材3は、カム機構Cによって、前進方向D1に移動して前進保持位置(図1参照)で保持され、前進保持位置に対して後退方向D2に移動して後退保持位置(図2参照)で保持される。進退部材3は、図8図16に示されるように、前進保持位置と後退保持位置との間を移動するときに、後退保持位置に対してさらに後退方向D2側となり、後退保持位置に対して軸X周り方向に所定の角度回転した折り返し位置(図9図11および図14参照)を通るように構成されている。進退部材3は、軸X方向で進退する際に、カム機構Cによって軸X周りに回転しながら移動する。具体的には、進退部材3は、後退保持位置と折り返し位置との間を移動する際に、カム機構Cによって軸X周りに回転するように構成されている。
【0024】
本明細書において「前進保持位置」は、進退部材3が後退保持位置に対して前進方向D1に移動して保持される、進退部材3の所定の位置である。本実施形態では、前進保持位置は、フューエルリッドLが開放した状態のときの進退部材3の位置であり、進退部材3がケース2から前進方向D1に最も突出した位置である。「後退保持位置」は、進退部材3が前進保持位置に対して後退方向D2に移動して保持される、進退部材3の所定の位置である。本実施形態では、後退保持位置は、フューエルリッドLが閉鎖した状態のときの進退部材3の位置である。後退保持位置は、本実施形態では、折り返し位置に対して、わずかに前進方向D1側となる位置である。なお、本実施形態では、進退部材3の後退保持位置は、前進保持位置に対して軸X周り方向で90°回転した位置となっている。「折り返し位置」は、後退保持位置に対してさらに後退方向D2側の位置である。また、折り返し位置は、軸X周り方向の一方の方向D3で、後退保持位置に対して所定の角度回転した位置であり、折り返し位置は、軸X周り方向で、前進保持位置と後退保持位置との間となっている。本実施形態では、折り返し位置は、カム機構Cによって進退部材3を前進保持位置から後退保持位置へと移動させる際、または、進退部材3を後退保持位置から前進保持位置へと移動させる際に、進退部材3が後退方向D2から前進方向D1へと進行方向を切り替える軸X方向の位置である。なお、進退部材3が前進保持位置から後退保持位置へと移動する際に進行方向を切り替える折り返し位置(第1の折り返し位置。図9参照)の軸X方向の位置と、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置へと移動する際に進行方向を切り替える折り返し位置(第2の折り返し位置。図11参照)の軸X方向の位置とは異なっていてもよい。
【0025】
進退部材3は、上述したように、軸X方向に進退する際に、所定の操作対象と相互作用する。本実施形態では、進退部材3が前進保持位置に移動した際にフューエルリッドLとの係合状態が解除され、フューエルリッドLを開放状態とし、後退保持位置に移動した際にフューエルリッドLと係合して、フューエルリッドLを閉鎖状態とする。進退部材3は、本実施形態では、図5に示されるように、コイルバネ等の付勢部材4によって前進方向D1に付勢されることにより、後退保持位置から前進保持位置へと移動するように構成されている。逆に、進退部材3は、付勢部材4の前進方向D1への付勢力に抗して押圧されることによって、前進保持位置から後退保持位置へと移動する。
【0026】
進退部材3は、本実施形態では、図5に示されるように、軸X方向に沿って延びる本体32と、軸X方向で本体32の一端(先端)側に設けられた係止部31とを備えている。また、進退部材3は、進退部材3の軸X周りの外周側面に被ガイド部Cdを有している。
【0027】
本体32は、本実施形態では、図5に示されるように、軸X方向に延びる筒状または柱状の部材である。より具体的には、本体32は円筒状に形成され、図6に示されるように、筒状の内部空間を有する進退部材収容部21に案内される。また、本体32は、本体32の内部に、付勢部材収容部(図示せず)を有し、付勢部材4の一部が付勢部材収容部に収容される。
【0028】
係止部31は、本体32の一端側(前進方向D1側)に設けられ、フューエルリッドLなどの操作対象と係止する。本実施形態では、係止部31は、図3に示されるように、操作対象側被係止部Laと係止する。係止部31は、カム機構Cによって進退部材3が軸X周り方向に回転することによって、操作対象側被係止部Laと係止した係止状態(図3の実線参照)と、係止が解除された係止解除状態(図3の一点鎖線参照)との間を移動する。係止部31は、本実施形態では、ケース2の外側において、本体32の前進方向D1側の端部に設けられた略矩形の板状部材である。なお、係止部31および操作対象側被係止部Laの形状や構造は、係止部31を操作対象側被係止部Laに対して係止状態および係止解除状態とすることができ、フューエルリッドLを開閉することができれば、特に限定されない。
【0029】
カム機構Cは、進退部材3を前進保持位置、折り返し位置および後退保持位置との間で移動させ、進退部材3を前進保持位置と、後退保持位置とで保持する。カム機構Cは、進退部材3を前進保持位置と後退保持位置との間で移動させるときに、進退部材3が後退保持位置に対してさらに後退方向D2側となり、後退保持位置に対して軸X周り方向に所定の角度回転した折り返し位置を通るように進退部材3を案内する。より具体的には、カム機構Cは、図8図10に示されるように、前進保持位置から後退保持位置へと進退部材3を移動させる際には、折り返し位置に進退部材3が到達した後に、進退部材3を付勢部材4によって折り返し位置から後退保持位置に移動させて保持するように構成されている。また、カム機構Cは、図10図12に示されるように、後退保持位置から前進保持位置へと進退部材3を移動させる際には、後退保持位置から折り返し位置に進退部材3が到達した後に、進退部材3を付勢部材4によって折り返し位置から前進保持位置に移動させて保持するように構成されている。なお、図8図16は、理解を容易にするために、進退部材3およびカム機構Cを平面上に展開した概略図であり、図8図16における上下方向が、軸X方向(上方向が前進方向D1、下方向が後退方向D2)であり、左方向が軸X周り方向の一方の方向D3である。
【0030】
カム機構Cは、進退部材3が前進保持位置から後退保持位置へと移動するとき、および、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置へと移動するときに、進退部材3を軸X周りに回転させる。より具体的には、進退部材3は、前進保持位置から後退保持位置へと移動する際に、カム機構Cによって軸X周りで一方の方向D3に回転し、後退保持位置から前進保持位置へと移動する際も、カム機構Cによって軸X周りで一方の方向D3(同方向)に回転する。進退部材3が前進保持位置で保持された状態から、後退保持位置で保持された状態となるまで、または、進退部材3が後退保持位置で保持された状態から、前進保持位置で保持された状態となるまでに、進退部材3が回転する角度は特に限定されない。本実施形態では、進退部材3が後退保持位置で保持された状態から、前進保持位置で保持された状態となるまでに、進退部材3は約90°回転するように構成されている。同様に、進退部材3が前進保持位置で保持された状態から、後退保持位置で保持された状態となるまでに、進退部材3は約90°回転するように構成されている。
【0031】
カム機構Cの構造は、進退部材3を前進保持位置、折り返し位置および後退保持位置との間で移動させ、進退部材3を前進保持位置と、後退保持位置とで保持することができれば、特に限定されない。本実施形態では、カム機構Cは、図8図16に示されるように、ケース2に設けられた第1カム面Caと、ケース2に設けられた第2カム面Cbと、ケース2に設けられ、進退部材3の軸X方向に沿って延びるガイド部Ccと、進退部材3の外周に設けられ、第1カム面Caと接触する第1接触面Cd1および第2カム面Cbと接触する第2接触面Cd2を有し、ガイド部Ccに案内可能な被ガイド部Cdとを有している。なお、本明細書において、ある部材・部位が「ケース2に設けられ」という場合、ある部材・部位がケース2の別の部位と一体に設けられていてもよいし、ケース2の別の部位と別体として設けられていてもよいことを意味する。ある部材・部位がケース2の別の部位と別体として設けられる場合、発明の目的を達成できれば、ケース2の別の部位に固定されていてもよいし、ケース2の別の部位に対して相対移動可能であってもよい。
【0032】
第1カム面Caは、図9および図11に示されるように、進退部材3が後退方向D2に移動して折り返し位置に移動する際に被ガイド部Cdの第1接触面Cd1と接触して、進退部材3を軸X周り方向で一方の方向D3に回転させるように傾斜している。第1カム面Caは、第1接触面Cd1と接触した状態で、進退部材3が後退方向D2に(押圧されて)さらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周りで一方の方向D3に回転する力が生じるように傾斜している。第1カム面Caの傾斜角は、第1カム面Caと第1接触面Cd1とが接触した状態で、進退部材3が後退方向D2に(押圧されて)さらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周りで一方の方向D3に回転する力が生じる傾斜角であれば、特に限定されない。
【0033】
第1カム面Caは、本実施形態では、ケース2に設けられている。より具体的には、第1カム面Caは、図5に示されるように、ケース2に設けられた突出部23の前進方向D1側の端部(上端)によって構成されている。本実施形態では、軸X周り方向に等間隔で離間して4つの突出部23が設けられ、4つの突出部23のそれぞれに第1カム面Caが設けられている。また、第1カム面Caのうちの1つは、本実施形態では、図8に示されるように、進退部材3が前進保持位置で保持されているときの被ガイド部Cdの軸X周り方向での位置と対応した位置に設けられている。また、第1カム面Caのうちの他の1つは、本実施形態では、図10に示されるように、進退部材3が後退保持位置で保持されているときの被ガイド部Cdの軸X周り方向での位置と対応した位置に設けられている。したがって、進退部材3が前進保持位置または後退保持位置から後退方向D2に移動したときに、第1カム面Caと被ガイド部Cdの第1接触面Cd1とを確実に接触させることができる。
【0034】
第2カム面Cbは、図9に示されるように、進退部材3が前進保持位置から折り返し位置を経由して後退保持位置で保持される際に、進退部材3が折り返し位置から前進方向D1に移動したときに、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2と接触して、進退部材3を軸X周り方向で一方の方向D3に回転させるように傾斜している。第2カム面Cbは、図9および図10に示されるように、第2接触面Cd2と接触した状態で、進退部材3が(付勢部材4の付勢力によって)前進方向D1にさらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する力が生じるように傾斜している。第2カム面Cbの傾斜角は、第2カム面Cbと第2接触面Cd2とが接触した状態で、進退部材3が前進方向D1にさらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する力が生じる傾斜角であれば、特に限定されない。
【0035】
第2カム面Cbは、本実施形態では、ケース2に設けられている。より具体的には、第2カム面Cbは、ケース2の進退部材収容部21に設けられている。本実施形態では、第2カム面Cbは、筒状体によって構成された進退部材収容部21に設けられた傾斜面(後退方向D2側の端部の傾斜面)によって構成されている。本実施形態では、進退部材収容部21の内周面に、軸X周り方向に離間して2つの第2カム面Cb(図8図16参照)が設けられている。第2カム面Cbは、軸X周り方向で一方の方向D3側の端部(図8において第2カム面Cbの左側の端部)側に、第2カム面Cbに沿って一方の方向D3に移動する被ガイド部Cdを所定の位置(後退保持位置)で停止させる停止部ST(図8参照)を有している。停止部STの形状および構造は、被ガイド部Cdを所定の位置(後退保持位置)で停止させることができれば、特に限定されない。本実施形態では、停止部STは、第2カム面Cbの傾斜面とは反対方向に傾斜した傾斜面(後述する案内面Gu)によって構成されている。停止部STは、第2カム面Cbの傾斜面に対して後退方向D2に延びる壁部によって構成されていてもよい(図17参照)。
【0036】
ガイド部Ccは、進退部材3の被ガイド部Cdを軸X方向に案内する。ガイド部Ccは、軸X方向に延びており、進退部材3が前進保持位置から後退方向D2に向かって移動する際、または、進退部材3が前進保持位置に向かって前進方向D1に移動する際に、被ガイド部Cdを軸X方向に案内して、進退部材3が軸X方向に円滑に移動することを補助する。
【0037】
ガイド部Ccは、本実施形態では、ケース2に設けられている。より具体的には、ガイド部Ccは、ケース2の進退部材収容部21に設けられている。本実施形態では、ガイド部Ccは、筒状体によって構成された進退部材収容部21の内周面において軸X方向に所定の幅で設けられたガイド溝によって構成されている。ガイド部Ccは、被ガイド部Cdをガイド部Cc内で案内できるように、軸X方向に延びる一対の側縁の間隔であるガイド部Ccの幅(軸X周り方向の幅)は、軸X周り方向での被ガイド部Cdの幅よりも大きくなっている。ガイド部Ccの前進方向D1側の端部は、被ガイド部Cdと当接可能な停止部ST2(図8参照)を有し、停止部ST2が被ガイド部Cdの第2接触面Cd2と接触することで、進退部材3が前進保持位置で停止して保持される。ガイド部Ccの後退方向D2側の端部は開放しており、被ガイド部Cdがガイド部Ccの内側から第1カム面Caへ向かって後退方向D2に、ガイド部Ccの後退方向D2側からガイド部Ccの内側に向かって前進方向D1に移動できるようになっている。
【0038】
また、カム機構Cは、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置を経由して前進保持位置へと向かう際に(図10図12参照)、被ガイド部Cdをガイド部Ccへと案内する導入部Ceを有している。導入部Ceは、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2と接触した状態で、進退部材3が(付勢部材4の付勢力によって)前進方向D1にさらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する力が生じるように傾斜している。導入部Ceの傾斜角は、導入部Ceと第2接触面Cd2とが接触した状態で、進退部材3が前進方向D1にさらに移動しようとするときに、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する力が生じる傾斜角であれば、特に限定されない。
【0039】
導入部Ceは、本実施形態では、ケース2に設けられている。より具体的には、導入部Ceは、ケース2の進退部材収容部21に設けられている。本実施形態では、導入部Ceは、筒状体によって構成された進退部材収容部21に設けられた傾斜面によって構成されている。本実施形態では、図8に示されるように、軸X周り方向に離間して2つの導入部Ceが設けられている。本実施形態では、導入部Ceは、軸X周り方向で停止部STを間に挟んで第2カム面Cbに隣接して設けられている。また、導入部Ceは、軸X周り方向でガイド部Ccと第2カム面Cbの間に設けられている。
【0040】
被ガイド部Cdは、進退部材3に設けられている。被ガイド部Cdは、図8図12に示されるように、第1カム面Ca、第2カム面Cb、ガイド部Cc等に案内され、これにより、進退部材3が前進保持位置、後退保持位置、折り返し位置に移動する。被ガイド部Cdは、本実施形態では、図5および図6に示されるように、進退部材3の外周に設けられている。より具体的には、被ガイド部Cdは、進退部材3の本体32の軸X周り方向に延びる側面から突出して設けられている。被ガイド部Cdは、第1カム面Caと接触する第1接触面Cd1および第2カム面Cbと接触する第2接触面Cd2を有している。また、被ガイド部Cdは、後述する当接部CTを有している。本実施形態では、被ガイド部Cdは、ガイド部Ccの一対の側縁に対向し、軸X方向に延びる一対の対向側縁を有し、軸X周り方向で一方の方向D3側の対向側縁が当接部CTを構成している。一対の対向側縁は、進退部材3の被ガイド部Cdがガイド部Ccに案内される際に、ガイド部Ccの一対の側縁に対して摺動可能となっている。また、本実施形態では、被ガイド部Cdの外周のうち前進方向D1側の端部において、軸X周り方向で第2接触面Cd2と当接部CTとの間に、傾斜面Cd3を有している。傾斜面Cd3は、後述するように、導入部Ceとは逆方向に傾斜している。本実施形態では、傾斜面Cd3は、第2接触面Cd2とは逆方向に傾斜している。傾斜面Cd3は、本実施形態では、後述する案内面Guの傾斜角度に対応した傾斜角度を有している。なお、傾斜面Cd3については後述する。本実施形態では、被ガイド部Cdの外周のうち後退方向D2側の端部において、軸X周り方向で第1接触面Cd1と当接部CTとの間に、傾斜面Cd4を有している。
【0041】
本実施形態では、被ガイド部Cdは、図8に示されるように、六角形状に形成されているが、被ガイド部Cdの形状は、被ガイド部Cdが第1カム面Ca、第2カム面Cb、ガイド部Cc等に案内されて、進退部材3が前進保持位置、後退保持位置、折り返し位置に移動することができれば、特に限定されない。
【0042】
第1接触面Cd1は、進退部材3が後退方向D2に移動したときに、第1カム面Caと接触する面である。図9に示されるように、第1接触面Cd1が第1カム面Caに接触した状態で、進退部材3がさらに後退方向D2に移動することによって、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する。第1接触面Cd1の形状および構造は、第1カム面Caに接触した状態で、進退部材3がさらに後退方向D2に移動することによって、進退部材3を軸X周り方向で一方の方向D3に回転させることができれば、特に限定されない。本実施形態では、第1接触面Cd1は、第1カム面Caの傾斜角に対応した角度で同方向に傾斜している。
【0043】
第2接触面Cd2は、進退部材3が前進保持位置から後退保持位置に移動する際に折り返し位置から前進方向D1に移動するときに、第2カム面Cbと接触する。また、本実施形態では、第2接触面Cd2は、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置に移動する際に折り返し位置から前進方向D1に移動するときに、導入部Ceと接触する。図11および図12に示されるように、第2接触面Cd2が第2カム面Cbまたは導入部Ceに接触した状態で、進退部材3がさらに前進方向D1に移動することによって、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する。第2接触面Cd2の形状および構造は、第2カム面Cbまたは導入部Ceに接触した状態で、進退部材3がさらに前進方向D1に移動することによって、進退部材3を軸X周り方向で一方の方向D3に回転させることができれば、特に限定されない。本実施形態では、第2接触面Cd2は、第2カム面Cbおよび導入部Ceの傾斜角に対応した角度で同方向に傾斜している。
【0044】
ロック部材5は、ロック位置に位置するときに、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置へと移動することを規制する(図16参照)。より具体的には、ロック部材5は、詳細は後述するが、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置に向かって軸X周り方向に回転することを規制することで、後退保持位置から前進保持位置へと移動することを規制する。
【0045】
上述したように、ロック部材5は、ロック位置(図6および図7の二点鎖線参照)とアンロック位置(図6および図7の実線参照)との間を移動する。ロック部材5のロック位置は、進退部材3が後退保持位置に位置するときに、進退部材3の前進保持位置への移動を規制することが可能な位置である。より具体的には、ロック位置は、進退部材3を後退保持位置から折り返し位置に向かって軸X周り方向で一方の方向D3に回転させる力が進退部材3に対して加わったときに、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置に到達できないように、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を遮ることができる位置である(図16参照)。なお、ロック部材5がロック位置にあるときに、ロック部材5の先端は、進退部材3の本体32の外面に対して径方向で外側に位置し、被ガイド部Cdの当接部CTと軸X周り方向で対向するように設けられている(ロック部材5の先端は、本体32の外面を貫通しておらず、進退部材3は、ロック部材5によって軸X周り方向の一方の方向D3以外の動作は規制されていない)。ロック部材5は、図7および図13図16に示されるように、進退部材3の当接部CTと当接可能な被当接部5aを有している。被当接部5aは、進退部材3の当接部CTに当接して、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を規制する。
【0046】
被当接部5aの形状および構造は、進退部材3の当接部CTに当接して、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を規制することができれば、特に限定されない。本実施形態では、被当接部5aは、当接部CTと軸X周り方向で対向する対向面として設けられている。被当接部5aは、面によって構成された当接部CTと面接触するように構成されているが、当接部CTと被当接部5aとは、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を規制することができれば、点接触または線接触するように構成されていてもよい。したがって、当接部CTおよび被当接部5aは、平面であってもよいし、曲面であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。なお、アンロック位置は、前進保持位置と後退保持位置との間での進退部材3の移動軌跡上からロック部材5が外れて、進退部材3の前進保持位置への移動を許容する位置である。
【0047】
本実施形態では、ロック部材5は、図6および図7に示されるように、軸Xに対して垂直な方向から軸Xに近付く方向に移動して、アンロック位置(図6および図7の実線参照)からロック位置(図6および図7の二点鎖線参照)へと移動している。しかし、ロック部材5の移動方向は、ロック位置とアンロック位置との間で移動可能に設けられていれば、特に限定されない。例えば、ロック部材5は、アンロック位置からロック位置へと軸X方向に移動してもよい(例えばロック部材5がアンロック位置から前進方向D1(図6において下から上)に移動してロック位置へと到達してもよい)。
【0048】
ロック部材5の形状および構造は、ロック位置とアンロック位置との間を移動することができれば、特に限定されない。本実施形態では、ロック部材5は、図6および図7に示されるように、進退部材3に当接可能なロック本体51と、ロック本体51をロック位置およびアンロック位置に移動させる駆動部52とを有している。
【0049】
ロック本体51は、ロック位置に位置するときに、進退部材3の当接部CTと当接することで、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を所定範囲に制限し、進退部材3が折り返し位置に到達することを規制する。ロック本体51は、図6および図7に示されるように、ロック位置に位置するときに、進退部材3の当接部CTと軸X周り方向で対向する被当接部5aを有している。
【0050】
ロック本体51の形状および構造は、進退部材3の当接部CTと当接することで、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を所定範囲に制限し、進退部材3が折り返し位置に到達することを規制することができれば、特に限定されない。本実施形態では、ロック本体51は、図6および図7に示されるように、駆動部52によって駆動される被駆動部511と、被駆動部511から延び、被当接部5aを有する延設部512とを有している。被駆動部511は、本実施形態では、駆動部52のネジ軸522の外周に螺合する雌ネジ部を有している。被駆動部511は、ネジ軸522が軸周りに回転した際に、ネジ軸522と共回りすることが規制されている。これにより、ネジ軸522が軸周りに回転すると、ネジ軸522の回転方向に応じて、被駆動部511を含むロック本体51がネジ軸522の軸方向に移動する。これにより、ロック本体51は、ロック位置、アンロック位置へと移動することができる。延設部512の形状は特に限定されないが、本実施形態では、被駆動部511からネジ軸522の軸方向に直線状に延びている。被当接部5aは、延設部512の先端のうち、軸X周り方向で、進退部材3の当接部CTに対向する平坦面として設けられている。なお、ロック部材5のロック位置において、ロック部材5(ロック本体51)は、図13に示されるように、導入部Ceの後退方向D2側に、導入部Ceに対して離間して位置している。ロック部材5(ロック本体51)と、導入部Ceとの間の隙間は、導入部Ceに沿って案内される被ガイド部Cdが、当該隙間を通過できない大きさに設定されている。
【0051】
駆動部52は、ロック本体51をロック位置およびアンロック位置に移動させる。駆動部52の構造は、ロック本体51をロック位置およびアンロック位置に移動させることができれば、特に限定されない。駆動部52は、本実施形態では、電動の駆動部であるが、手動の駆動部であってもよい。
【0052】
本実施形態では、駆動部52は、図6および図7に示されるように、正逆回転可能なモータ521と、モータ521の駆動力によって回転するネジ軸522とを備えている。ネジ軸522は外周に雄ネジが形成された軸部材である。ネジ軸522は、上述したように、ロック本体51の被駆動部511に設けられた雌ネジと螺合している。モータ521の駆動力によってネジ軸522が一方の方向に回転すると、ネジ軸522との共回りが規制されたロック本体51は、ネジ軸522の軸方向に沿ってロック位置に向かって(図6および図7の実線で示された位置から二点鎖線で示された位置に向かって)移動する。また、モータ521の駆動力によってネジ軸522が他方の方向に回転すると、ロック本体51は、ネジ軸522の軸方向に沿ってアンロック位置に向かって(図6および図7の二点鎖線で示された位置から実線で示された位置に向かって)移動する。これにより、ロック本体51がロック位置およびアンロック位置に移動することができる。
【0053】
次に、進退部材3をより詳細に説明する。
【0054】
進退部材3は、図5および図8図16に示されるように、進退部材3に対して後退保持位置から折り返し位置に向かって軸X周りで一方の方向D3に回転する方向に力が作用したときに、ロック位置にあるロック部材5の被当接部5aと軸X周り方向で当接可能な当接部CTを有している。当接部CTは、ロック部材5の被当接部5aと当接することによって、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を規制する。これによって、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置に移動することが規制される。
【0055】
当接部CTは、本実施形態では、図8図16に示されるように、被ガイド部Cdの軸X周り方向で一方の方向D3側の端部(対向側縁)である。当接部CTは、進退部材3が後退保持位置にあり、進退部材3が軸X周り方向で一方の方向D3に回転する方向に力が作用したときに、ロック位置に位置するロック部材5の被当接部5aと当接する(図16参照)。なお、本実施形態では、進退部材3が後退保持位置で保持されるときの、当接部CTと被当接部5aとの間の軸X周り方向の間隔G1(図15参照)は、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置に到達できない距離に設定されている。この場合、後述するように、進退部材3が折り返し位置に到達できず、進退部材3が後退保持位置から前進保持位置に移動することが確実に規制される。
【0056】
なお、当接部CTは、本実施形態では、被ガイド部Cdに設けられているが、ロック部材5の被当接部5aと軸X周り方向で当接して、進退部材3の軸X周り方向で一方の方向D3への回転を規制することができれば、被ガイド部Cd以外の部位に設けられていてもよい。例えば、進退部材3のうち、被ガイド部Cd以外の別の部位(例えば、進退部材3の下端など)に当接部を設けて、その当接部に当接可能な位置にロック部材5の被当接部5aを位置付けても構わない。
【0057】
本実施形態では、図13図15に示されるように、ロック部材5がロック位置にあるとき、被当接部5aと当接部CTとは、進退部材3が前進保持位置から折り返し位置を経由して後退保持位置に移動するまでは、被当接部5aが進退部材3の当接部CTと当接しない位置関係で位置付けられている。
【0058】
ここで、「進退部材3が前進保持位置から折り返し位置を経由して後退保持位置に移動するまでは、被当接部5aが進退部材3の当接部CTと当接しない位置関係」は、被当接部5aが当接部CTと当接せずに進退部材3が前進保持位置から折り返し位置を経由して後退保持位置に移動できる位置関係であることを意味する。したがって、本実施形態では、ロック部材5がロック位置にあったとしても、ロック部材5は、被当接部5aが当接部CTに軸X周り方向で当接するまでは、進退部材3の前進方向D1および後退方向D2への移動、および、軸X周り方向への回転を阻害しないように位置付けられている。このように、ロック部材5がロック位置にあっても、進退部材3の動作が阻害されないので、進退部材3が前進保持位置にあるときであっても、後退保持位置にあるときであっても、ロック部材5をアンロック位置からロック位置へと移動させることができる。したがって、進退部材3の軸X方向の位置にかかわらず、ロック部材5をロック位置に移動させることができる。
【0059】
また、図13に示されるように、進退部材3が前進保持位置に位置するときにロック部材5をロック位置に移動させた後、進退部材3は、ロック位置に位置するロック部材5によって後退保持位置までの移動が阻害されない。したがって、進退部材3が前進保持位置にあるときに、ロック部材5をロック位置に移動させたとしても、図13図15に示されるように、進退部材3は後退保持位置に移動することができるとともに、後退保持位置に移動した時点で、ロック部材5による進退部材3のロックが完了する。したがって、従来のように、進退部材が前進保持位置のときにロック部材によるロック動作が行うことができず、進退部材を後退保持位置に移動させてからでなければロック動作を行うことができないものとは異なり、本実施形態の進退移動装置1は、進退部材3のロックを簡単に行うことができる。
【0060】
また、ロック部材5がロック位置にあるとき、被当接部5aと当接部CTとは、図15および図16に示されるように、進退部材3が後退保持位置から後退方向D2に移動して軸X周り方向に回転する方向に力が作用したときに、進退部材3が前進保持位置へと移動しないように、被当接部5aが当接部CTと軸X周り方向で対向して進退部材3の軸X周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係で位置付けられている。ここで、「進退部材3が後退保持位置から後退方向D2に移動して軸X周り方向に回転する方向に力が作用したとき」とは、進退部材3が実際に軸X周り方向に回転するか否かを問わず、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置に向かって軸X周り方向(一方の方向D3)に回転する方向に、進退部材3に力が作用することを言う。本実施形態では、進退部材3が後退保持位置から後退方向D2に移動して、被ガイド部Cdの第1接触面Cd1が第1カム面Caに当接した状態で、さらに後退方向D2に力が加わったときに、進退部材3が軸X周り方向に回転する力が作用する。
【0061】
上述したように、ロック部材5がロック位置にあるとき、被当接部5aと当接部CTとは、進退部材3が前進保持位置へと移動しないように、被当接部5aが当接部CTと軸X周り方向で対向して進退部材3の軸X周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係で位置付けられている。これにより、ロック部材5がロック位置にあり、進退部材3が後退保持位置にあるときに、進退部材3に軸X周り方向に回転する力が作用したとしても、被当接部5aと当接部CTとが軸X周り方向で当接し、進退部材3の軸X周り方向の回転は、進退部材3が前進保持位置に移動できない所定範囲の回転に制限される。したがって、進退部材3は後退保持位置から前進保持位置に移動することができず、ロック部材5によって進退部材3を後退保持位置でロックすることができる。なお、被当接部5aと当接部CTとが当接するまでの、進退部材3の所定範囲の回転角度は、進退部材3が前進保持位置へと移動しない程度の角度であれば、特に限定されない。本実施形態では、進退部材3が後退保持位置で保持されるときの、当接部CTと被当接部5aとの間の軸X周り方向の間隔G1(図15参照)が、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置に到達できない距離に設定されている。これにより、進退部材3は折り返し位置まで回転することができず、より確実に進退部材3が前進保持位置に移動することを抑制している。
【0062】
また、ロック部材5は、ロック位置に位置するときに被ガイド部Cdの回転軌跡上に位置するように移動し(本実施形態では、進退部材3の軸Xに対して垂直な方向に移動し)、進退部材3の当接部CTから軸X周り方向の回転力を受ける(図7参照)。そのため、より確実にロック部材5によって進退部材3を後退保持位置でロックするために、ロック部材5の撓みや、ロック部材5が接続されている部材(例えば駆動部52等)との間のガタに起因して、ロック部材5が当接部CTから逃げる方向(図7における下方向、図16における左方向)への移動を抑制することが好ましい。したがって、図19に示される変形例に示されるように、進退部材3が軸X周りに回転し、被ガイド部Cdに設けられた当接部CTからロック部材5の被当接部5aに、軸X周り方向の回転力Fが加わったとき、当該回転力Fによりロック部材5が進退部材3に近付く方向に力F1が働くように、被当接部5aと当接部CTとが係合するように構成してもよい。この場合、図19に示されるように、当接部CTから被当接部5aに加わる回転力Fは、力(分力)F1、F2に分解することができる。そのため、ロック部材5には、回転力Fよりも小さい力F2が加わり、さらに、軸Xに近付く方向の力F1も加わる。そのため、ロック部材5が当接部CTから逃げる力が小さくなるうえ、ロック部材5は軸Xに引き付けられる方向の力F1を受けて、被当接部5aと当接部CTとの間の係合力が高まる。そのため、ロック部材5と被ガイド部Cdとの係合が解除される方向(図19における下方向)にロック部材5が逃げてしまって、進退部材3が軸X周りに回転してしまうことが抑制される。したがって、進退部材3は、ロック部材5によって後退保持位置でより確実にロックされる。
【0063】
なお、当接部CTから被当接部5aに回転力Fが加わったときに、ロック部材5が進退部材3に近付く方向に力F1が働くように、被当接部5aと当接部CTとが係合していれば、当接部CTおよび被当接部5aの形状および構造は、図19に示される態様に限定されない。図19に示される変形例では、被当接部5aは、被当接部5aと当接部CTとが当接する当接箇所と、進退部材3の軸Xとを結ぶ線LNに沿って延びる面によって構成され、被当接部5aと当接部CTとが面接触するように構成される。被当接部5aと当接部CTとが面接触することで、より安定して被当接部5aと当接部CTとが係合して、ロック部材5が軸Xに近付く方向に安定して引き付けられ、被当接部5aと当接部CTとの間の係合力をより高めることができる。なお、「被当接部5aと当接部CTとが当接する当接箇所と、進退部材3の軸Xとを結ぶ線LNに沿って延びる」とは、被当接部5aが線LNと同一方向に延びている状態の他、線LNに対してわずかに傾斜して延びている状態(例えば、10°以内の範囲でわずかに傾斜した状態)も含む。
【0064】
なお、被当接部5aと当接部CTとは、当接部CTから被当接部5aに回転力Fが加わったときに、ロック部材5が進退部材3に近付く方向に力F1が働くように係合していれば、点接触または線接触するように構成されていてもよい。また、当接部CTから被当接部5aに回転力Fが加わったときに、ロック部材5が進退部材3に近付く方向に力F1が働くように、被当接部5aと当接部CTとが係合していれば、被当接部5aは、上述した線LNに沿って延びている必要はなく、所定の角度で線LNに対して傾斜していてもよい。
【0065】
なお、本実施形態では、図18に示されるように、被ガイド部Cdは、被ガイド部Cdの第1接触面Cd1が第1カム面Caに接触し、かつ、当接部CTと被当接部5aとが軸X周り方向で当接した後、被ガイド部Cdが付勢部材4の付勢力によって前進方向D1に移動したときに、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2が導入部Ceに案内されないように、導入部Ceとは逆方向に傾斜した傾斜面Cd3を有している。この傾斜面Cd3が設けられている場合、図16および図18に示されるように、被ガイド部Cdが導入部Ceと軸X周り方向で重なる位置まで進退部材3が回転したとしても、進退部材3は後退保持位置に戻ることができる。したがって、図17に示されるように、進退部材3の被ガイド部Cdが導入部Ceに案内された状態で導入部Ceに引っ掛かった状態となることを抑制することができる。図17に示されるように、進退部材3が後退保持位置から後退方向D2に移動すると、被ガイド部Cdの第1接触面Cd1が第1カム面Caに接触する。さらに進退部材3が後退方向D2に力を受けると、被ガイド部Cdが導入部Ceと軸X周り方向で重なる位置まで進退部材3が回転する。その後、進退部材3への後退方向D2の力が解除されると、付勢部材4の付勢力によって進退部材3は前進方向D1に移動する。すると、図17に示されるように、導入部Ceと逆方向に傾斜した傾斜面を有していない被ガイド部Cdの場合、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2と当接部CTとの間の角部が、導入部Ceに接触した状態で引っ掛かり、進退部材3は後退保持位置に戻ることができない。このような状態となると、ロック部材5をロック位置からアンロック位置に移動させたときに、進退部材3が前進保持位置に意図せずに移動してしまう(例えば、車両のロックを解除したときなどに、リッドLを開ける必要がないときに意図せずにリッドLが開いてしまう)という不都合が生じる。一方、図18に示されるように、被ガイド部Cdが、導入部Ceとは逆方向に傾斜した傾斜面Cd3を有している場合、進退部材3が付勢部材4の付勢力によって前進方向D1に移動する際に、被ガイド部Cdが導入部Ceに引っ掛かることがなく、進退部材3は後退保持位置に戻ることができる。したがって、ロック部材5をロック位置からアンロック位置に移動させたときに、進退部材3が前進保持位置に意図せずに移動してしまうことを抑制することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、カム機構Cは、図18に示されるように、軸X周り方向で、第2カム面Cbと導入部Ceとの間に、被ガイド部Cdの傾斜面Cd3の傾斜角度に対応した方向および角度で傾斜した案内面Guを有している。この場合、傾斜面Cd3と案内面Guとが面接触しながら、進退部材3を後退保持位置に円滑に戻すことができる。なお、案内面Guは、本実施形態では、進退部材3が前進保持位置から後退保持位置に移動したときの停止部STとしても機能する。
【0067】
次に、進退移動装置1がリッド開閉装置Dに適用された例を挙げて、本実施形態の進退移動装置1の動作を説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、以下の説明によって、本発明が限定されるものではない。
【0068】
リッドL(図4参照)が閉鎖された状態は、図10および図15に示されるように、進退部材3が後退保持位置に位置した状態に対応している。図15に示される状態において、ロック部材5によって進退部材3が前進保持位置への移動が規制されているので、リッドLの開放がロックされている。この状態から、給油等を行うために、リッドLを開放する場合、まずロック部材5によるロック状態を解除する。具体的には、リモートキーなどの操作手段を用いて、図10に示されるように、ロック部材5をアンロック位置に移動させる(例えば、駆動部52にアンロック信号を送信し、駆動部52によってロック本体51がアンロック位置に移動する)。ロック部材5がアンロック位置に移動すると、リッドLを押圧することで、リッドLの開放が可能となる。
【0069】
リッドLを押圧すると、リッドLによって進退部材3が後退方向D2に押圧されて後退方向D2に移動する。進退部材3が後退保持位置から後退方向D2に移動すると、図11に示されるように、被ガイド部Cdの第1接触面Cd1が第1カム面Caに接触しながら、被ガイド部Cdが軸X周り方向の一方の方向D3に移動して、進退部材3が折り返し位置に到達する。進退部材3が折り返し位置に到達した後、リッドLの押圧操作が解除されると、前進方向D1への付勢部材4の付勢力によって進退部材3は前進方向D1に移動する。進退部材3が前進方向D1に移動すると、図11および図12に示されるように、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2が導入部Ceに接触しながら被ガイド部Cdが軸X周り方向の一方の方向D3に移動して、被ガイド部Cdがガイド部Ccに入る。被ガイド部Cdがガイド部Ccに入ると、付勢部材4の付勢力によって、進退部材3は前進方向D1に移動して、前進保持位置に到達する(図12参照)。進退部材3が前進保持位置に到達すると、図4に示されるように、リッドLが開放して給油口から給油を行うことができるようになる。なお、この状態において、車両の運転者は運転席から離れることになるため、給油中に車両が盗難されないように、ドアをロックする場合がある。ドアのロックは例えばリモートキーなどの操作手段を用いて、ドアのロック信号を送信することで行うことができる。本実施形態では、駆動部52は、車両のドアのロック信号に応じてロック本体51をロック位置に移動させるように制御されている。この場合、リッドLが開放した給油中にドアのロックを行ったときに、リッドLがロック部材5によるロックの準備状態(図13参照)となり、リッドLを閉鎖した時点でリッドLのロックを完了させることができる(図15参照)。
【0070】
リッドLが開放した状態で給油が完了すると、給油口を閉じてリッドLが閉鎖される。リッドLが閉鎖されると、リッドLによって進退部材3が後退方向D2に押圧されて前進保持位置から後退方向D2に移動する。進退部材3が前進保持位置から後退方向D2に移動すると、図13および図14に示されるように、被ガイド部Cdの第1接触面Cd1が第1カム面Caに接触しながら、被ガイド部Cdが軸X周り方向の一方の方向D3に移動して、進退部材3が折り返し位置に到達する。このとき、ロック部材5が図13および図14に示されるようにロック位置に位置している場合であっても、進退部材3が前進保持位置から折り返し位置を経由して後退保持位置に移動するまでの、被ガイド部Cdの第1移動経路には、ロック部材5は位置していないので、進退部材3は折り返し位置および後退保持位置に到達することができる。図14に示されるように、進退部材3が折り返し位置に到達した後、リッドLの押圧操作が解除されると、前進方向D1への付勢部材4の付勢力によって進退部材3は前進方向D1に移動する。進退部材3が前進方向D1に移動すると、図14に二点鎖線で示されるように、被ガイド部Cdの第2接触面Cd2が第2カム面Cbに接触しながら被ガイド部Cdが軸X周り方向の一方の方向D3に移動して、被ガイド部Cdが停止部STに接触して停止する(図15参照)。これによって、進退部材3が後退保持位置に保持される。
【0071】
図15に示されるように、進退部材3が後退保持位置に保持された状態において、進退部材3の被ガイド部Cdの当接部CTは、軸X周り方向でロック部材5の被当接部5aと対向する。このように、進退部材3が後退保持位置から折り返し位置を経由して前進保持位置に移動するまでの、被ガイド部Cdの第2移動経路において、ロック部材5は、被当接部5aが当接部CTに対向するように位置している。より具体的には、ロック部材5は、第2移動経路において、被ガイド部Cdの後退保持位置と折り返し位置との間に位置している。これにより、リッドLが押圧されたとしても、進退部材3が前進保持位置に到達できないので、リッドLが開放することが抑制される。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0073】
(1)ケースと、
前記ケースに対して、前記ケースから突出する前進方向、および、前記前進方向とは反対方向となる後退方向に、軸周りに回転しながら移動可能な進退部材と、
前記進退部材を前記前進方向に付勢する付勢部材と、
前記進退部材を、前記前進方向に移動した前進保持位置と、前記後退方向に移動した後退保持位置とで保持するように構成されたカム機構と、
前記進退部材が前記後退保持位置に位置するときに、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を規制するロック位置と、前記進退部材の前記前進保持位置への移動を許容するアンロック位置との間で移動可能なロック部材と
を備え、
前記進退部材は、前記前進保持位置と前記後退保持位置との間を移動するときに、前記後退保持位置に対してさらに後退方向側となり、前記後退保持位置に対して軸周り方向に所定の角度回転した折り返し位置を通るように構成され、
前記進退部材は、前記進退部材に対して前記後退保持位置から前記折り返し位置に向かって前記軸周りに回転する方向に力が作用したときに、前記ロック位置にある前記ロック部材の被当接部と前記軸周り方向で当接可能な当接部を有し、
前記ロック部材が前記ロック位置にあるとき、前記被当接部と前記当接部とは、
前記進退部材が前記前進保持位置から前記折り返し位置を経由して前記後退保持位置に移動するまでは、前記被当接部が前記進退部材の前記当接部と当接しない位置関係、かつ、
前記進退部材が前記後退保持位置から前記後退方向に移動して前記軸周り方向に回転する方向に力が作用したときに、前記進退部材が前記前進保持位置へと移動しないように、前記被当接部が前記当接部と前記軸周り方向で対向して前記進退部材の前記軸周り方向での回転を所定範囲に制限する位置関係
で位置付けられている、
進退移動装置。
【0074】
(2)前記カム機構は、前記前進保持位置から前記後退保持位置へと前記進退部材を移動させる際には、前記折り返し位置に前記進退部材が到達した後に、前記進退部材を前記付勢部材によって前記折り返し位置から前記後退保持位置に移動させて保持するように構成され、
前記カム機構は、前記後退保持位置から前記前進保持位置へと前記進退部材を移動させる際には、前記後退保持位置から前記折り返し位置に前記進退部材が到達した後に、前記進退部材を前記付勢部材によって前記折り返し位置から前記前進保持位置に移動させて保持するように構成されている、
(1)に記載の進退移動装置。
【0075】
(3)前記カム機構は、
前記ケースに設けられた第1カム面と、前記ケースに設けられた第2カム面と、
前記ケースに設けられ、前記進退部材の軸方向に沿って延びるガイド部と、
前記進退部材の外周に設けられ、前記第1カム面と接触する第1接触面および前記第2カム面と接触する第2接触面を有し、前記ガイド部に案内可能な被ガイド部と、
を有し、
前記第1カム面は、前記進退部材が前記後退方向に移動して前記折り返し位置に移動する際に前記被ガイド部の前記第1接触面と接触して、前記進退部材を前記軸周り方向で一方の方向に回転させるように傾斜しており、
前記第2カム面は、前記進退部材が前記前進保持位置から前記折り返し位置を経由して前記後退保持位置で保持される際に、前記進退部材が前記折り返し位置から前記前進方向に移動したときに、前記被ガイド部の前記第2接触面と接触して、前記進退部材を前記軸周り方向で前記一方の方向に回転させるように傾斜している、
(1)または(2)に記載の進退移動装置。
【0076】
(4)前記当接部が前記被ガイド部に設けられ、
前記カム機構は、前記進退部材が前記後退保持位置から前記折り返し位置を経由して前記前進保持位置へと向かう際に、前記被ガイド部を前記ガイド部へと案内する導入部を有し、
前記導入部は、前記被ガイド部の前記第2接触面と接触した状態で、前記進退部材が前記前進方向にさらに移動しようとするときに、前記進退部材が前記軸周り方向で一方の方向に回転する力が生じるように傾斜しており、
前記被ガイド部は、
前記被ガイド部の前記第1接触面が前記第1カム面に接触し、かつ、前記当接部と前記被当接部とが前記軸周り方向で当接した後、前記被ガイド部が前記付勢部材の付勢力によって前記前進方向に移動したときに、前記被ガイド部の前記第2接触面が前記導入部に案内されないように、前記導入部とは逆方向に傾斜した傾斜面を有している、(1)~(3)のいずれか1つに記載の進退移動装置。
【0077】
(5)前記カム機構は、前記軸周り方向で、前記第2カム面と前記導入部との間に、前記被ガイド部の前記傾斜面の傾斜角度に対応した方向および角度で傾斜した案内面を有している、(1)~(4)のいずれか1つに記載の進退移動装置。
【0078】
(6)前記ロック部材は、前記ロック位置に位置するときに前記被ガイド部の回転軌跡上に位置するように移動し、
前記進退部材が前記軸周りに回転し、前記被ガイド部に設けられた前記当接部から前記ロック部材の被当接部に、前記軸周り方向の回転力が加わったとき、前記回転力により前記ロック部材が前記進退部材に近付く方向に力が働くように、前記被当接部と前記当接部とが係合する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の進退移動装置。
【0079】
(7)前記被当接部は、前記被当接部と前記当接部とが当接する当接箇所と、前記進退部材の軸とを結ぶ線に沿って延びる面によって構成され、前記被当接部と前記当接部とが面接触するように構成される、(1)~(6)のいずれか1つに記載の進退移動装置。
【0080】
(8)(1)~(7)のいずれか1つに記載の前記進退移動装置と、
前記進退移動装置が取り付けられ、開口部を有する基部と、
前記基部の前記開口部を開閉可能であり、前記進退部材の前進方向側の端部と係合可能なリッドと
を備えた、リッド開閉装置。
【0081】
(9)前記リッドは、車両の燃料または給電用のリッドであり、
前記ロック部材は、前記進退部材に当接可能なロック本体と、前記ロック本体を前記ロック位置および前記アンロック位置に移動させる駆動部とを有し、
前記駆動部は、前記車両のドアのロック信号に応じて前記ロック本体を前記ロック位置に移動させるように制御される、(8)に記載のリッド開閉装置。
【符号の説明】
【0082】
1 進退移動装置
2 ケース
2a 底面
21 進退部材収容部
22 ロック部材収容部
23 突出部
24 支持部
3 進退部材
31 係止部
32 本体
4 付勢部材
5 ロック部材
5a 被当接部
51 ロック本体
511 被駆動部
512 延設部
52 駆動部
521 モータ
522 ネジ軸
B 基部(車体)
Ba 開口部
C カム機構
Ca 第1カム面
Cb 第2カム面
Cc ガイド部
Cd 被ガイド部
Cd1 第1接触面
Cd2 第2接触面
Cd3、Cd4 傾斜面
Ce 導入部
CT 当接部
D リッド開閉装置
D1 前進方向
D2 後退方向
D3 軸周り方向の一方の方向
F 回転力
F1、F2 力
G1 当接部と被当接部との間の軸周り方向の間隔
Gu 案内面
H ヒンジ
L リッド(フューエルリッド)
La 操作対象側被係止部
LN 被当接部と当接部とが当接する当接箇所と、進退部材の軸とを結ぶ線
ST、ST2 停止部
X 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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