(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171601
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ヒドロゲルの凍結乾燥の制御
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20221104BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20221104BHJP
C08B 1/00 20060101ALI20221104BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221104BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221104BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221104BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08L1/02
C12M3/00 A
C08B1/00
A61K9/06
A61K47/26
A61K47/38
C08K5/1545
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022071931
(22)【出願日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】21171457.1
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17/245,368
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】マルヨ イリパーテュラ
(72)【発明者】
【氏名】アルト メリヴァアラ
(72)【発明者】
【氏名】エレ コイヴノトゥコ
(72)【発明者】
【氏名】カッレ マンニネン
(72)【発明者】
【氏名】サミ ヴァルコネン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ヌオッポネン
(72)【発明者】
【氏名】ラウリ パアソネン
【テーマコード(参考)】
4B029
4C076
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB09
4C076AA09
4C076DD51
4C076DD51A
4C076DD67
4C076DD67A
4C076EE31
4C076EE31F
4C076FF11
4C090AA03
4C090BA24
4C090BD19
4C090CA07
4C090CA19
4C090DA11
4C090DA22
4C090DA40
4J002AB011
4J002EL086
4J002FD206
4J002GB01
4J002HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥および再構成を制御する方法を提供する。
【解決手段】ヒドロゲルの凍結乾燥を制御する方法であって、凍結乾燥ヒドロゲルの残留水分を調整することを含む方法である。また、ヒドロゲルを凍結乾燥する前に生体分子をヒドロゲルに添加すること、および/または例えばヒドロゲルおよび生体分子を含む混合物のTg’(最大凍結濃縮サンプルのガラス転移温度)を考慮することによって凍結乾燥サイクルを最適化することを含む。さらに、細胞培養のための凍結乾燥ヒドロゲル組成物の使用、細胞培養の足場、および再構成されたヒドロゲルを製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥を制御する方法であって、当該方法が、凍結乾燥ヒドロゲルの残留水分を調整することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
凍結乾燥が、凍結工程、一次乾燥および二次乾燥を含み、並びに残留水分が、二次乾燥中に放出されない、凍結乾燥ヒドロゲル中に残っている水であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノスケールセルロースが、ナノフィブリルセルロースおよび/またはナノ結晶から、好ましくは天然ナノフィブリルセルロースおよび/またはナノ結晶から選択され、より好ましくはナノスケールセルロースが、ナノフィブリルセルロース、最も好ましくは天然ナノフィブリルセルロースであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
当該方法が、以下の工程
a)ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルを提供する工程;
b)オリゴ糖または二糖から選択される少なくとも1つの生体分子を提供する工程;
c)工程a)のヒドロゲルを工程b)の生体分子と混合して混合物を得る工程;および
d)工程c)の混合物を凍結乾燥して、ナノスケールセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲルを得る工程
を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
生体分子が、二糖、より好ましくは非還元二糖またはラクトース、最も好ましくはラクトース、トレハロースまたはスクロースであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生体分子の量が、混合物の全濃度の100mM~700mM、好ましくは150mM~500mM、より好ましくは150mM~300mMであることを特徴とする、請求項4~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分が、0.2%(w/w)~2%(w/w)未満、好ましくは0.2%~1.9%、より好ましくは0.3%~1.6%、最も好ましくは0.5%~1.3%であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物であって、当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物が、ナノスケールセルロース、並びにオリゴ糖および二糖から選択される生体分子を含み、並びに当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分が、0.2%(w/w)~2%(w/w)未満、好ましくは0.2%~1.9%、より好ましくは0.3%~1.6%、最も好ましくは0.5%~1.3%であることを特徴とする、凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項9】
当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物が、個々の繊維リボンを含むことを特徴とする、請求項8の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項10】
当該組成物が、支持体、好ましくはバッグ、ボトル、カラム、注射器またはウェルプレート上で、より好ましくはガラスバイアル、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレートまたは1536ウェルプレート上で凍結乾燥されていることを特徴とする、請求項8~9のいずれかの凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項11】
残留水のモル分率が、当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物の5%~25%、好ましくは6%~20%、より好ましくは9%~15%であることを特徴とする、請求項8~10のいずれかの凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項12】
生体分子のモル分率が、当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物の50%~90%、好ましくは55%~85%、より好ましくは60%~80%であることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項13】
ナノスケールセルロースのモル分率が、当該凍結乾燥ヒドロゲル組成物の3~40%、好ましくは10%~35%、より好ましくは15%~30%であり、好ましくはナノスケールセルロースが、ナノフィブリルセルロースであることを特徴とする、請求項8~12のいずれかの凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項14】
請求項1~7のいずれかの方法によって得ることができる凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項15】
細胞培養のための;ヒドロゲルマイクロビーズを製造するための;水和シートまたは膜を製造するための;事前に充填されたマイクロチップを製造するための;または医薬品有効成分との混合物中の分散剤としての、請求項8~13のいずれかの凍結乾燥ヒドロゲル組成物の使用。
【請求項16】
凍結乾燥ヒドロゲルが、水;水および細胞培地;細胞培地;細胞培地および細胞;または水、細胞培地および細胞で再構成されることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
細胞が、原核細胞または真核細胞、好ましくは分化または未分化の真核細胞、より好ましくは全能の、多能性の、多分化能の、オリゴ能性の、または単能性の幹細胞であることを特徴とする、請求項15~16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
請求項8~13のいずれかの再構成された凍結乾燥ヒドロゲル組成物を含むことを特徴とする、細胞培養の足場。
【請求項19】
再構成されたヒドロゲルを製造する方法であって、当該方法が、以下の工程
a)請求項8~13のいずれかに記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物を提供する工程;
b)水、細胞培地またはそれらの混合物を含む再構成培地を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加して再構成されたヒドロゲルを得ることによって、再構成されたヒドロゲルを得る工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項20】
再構成されたヒドロゲルが、細胞培養のために使用されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
細胞培地が、細胞を含むことを特徴とする、請求項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥を制御する方法であって、当該方法が凍結乾燥ヒドロゲルの残留水分を調整することを含む方法、およびナノスケールセルロースと、オリゴ糖および二糖から選択される少なくとも1つの生体分子と、好ましい残留水分とを含む凍結乾燥ヒドロゲル組成物に関する。本開示はさらに、細胞培養のための凍結乾燥ヒドロゲル組成物の使用、細胞培養の足場(scaffold)、および再構成されたヒドロゲルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
近年、生分解性および生体適合性の特徴を備えたセルロース系ヒドロゲルナノ材料が、異なるバイオ医薬品用途への関心を集めている。セルロース系ヒドロゲルナノ材料は、それらの固有の特性および生理学的マトリックスとの類似性に基づいて特に興味深い。
【0003】
材料のより適した輸送実現性を可能にし、室温での貯蔵特性を改善するために、例えば、木材系の天然ナノフィブリルセルロース(nanofibrillar cellulose)(NFC)ヒドロゲルの乾燥が研究されてきた。
【0004】
熱に敏感な製品の貯蔵寿命および取り扱いを改善するために広く使用されている乾燥方法である凍結乾燥は、熱に敏感な物質を保存するための1つの方法である。しかし、ナノセルロースのフィブリルの親水性、および乾燥プロセス中に凝集するそれらの傾向は、NFCヒドロゲルの乾燥の試みに障害を生じさせる。さらに、凍結乾燥は、ときおり製品を損傷し、さらに長期貯蔵中に製品の特性が変化し得る。
【0005】
セルロース系ヒドロゲルナノ材料の保存における進行中の研究および開発にもかかわらず、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの保存のための改善された方法を提供する必要性がなお存在する。
【発明の概要】
【0006】
開示の簡単な説明
本開示の目的は、凍結乾燥ヒドロゲルの残留水分を調整することによって、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥および再構成を制御する方法を提供することである。本開示のいくつかの実施形態では、当該方法は、ヒドロゲルを凍結乾燥する前に生体分子をヒドロゲルに添加すること、および/または例えばヒドロゲルおよび生体分子を含む混合物のTg’(最大凍結濃縮サンプルのガラス転移温度)を考慮することによって凍結乾燥サイクルを最適化することを含む。典型的には、ヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースと、オリゴ糖または二糖から選択される少なくとも1つの生体分子とを含む。
【0007】
本開示は、例えば、凍結乾燥ヒドロゲルの上首尾の再構成を確保するために、および凍結乾燥中の水との分子レベルの相互作用を理解するために、ヒドロゲルの凍結乾燥を制御および操縦する方法を特定するという願望のアイデアに基づくものである。
【0008】
本開示の方法および凍結乾燥ヒドロゲル組成物の利点は、凍結乾燥ヒドロゲルを、室温(20~25℃)で1年をも超える長期間保存できること、および凍結乾燥に使用されるヒドロゲルの特性を維持しながら再構成できることである。凍結乾燥ヒドロゲルは、好ましい形状、濃度、および/またはコンシステンシーに再構成することができる。
【0009】
本開示の凍結乾燥ヒドロゲル組成物のさらなる利点は、それが細胞培養のために、および細胞培養の足場を製造する方法に使用できることである。細胞培養のために最適化されたヒドロゲル濃度は、異なる細胞に対して異なるため、異なる濃度のヒドロゲルを凍結乾燥に使用し得ること、および凍結乾燥ヒドロゲルを元の濃度または異なる濃度に再構成できることは有利である。
【0010】
さらなる利点は、本開示の方法によって、一次乾燥の温度をかなり上昇させ得ることである。凍結乾燥中にサンプルが既に1℃上昇すると、一次乾燥に必要な時間が大幅に短縮され得るため、これは、時間の消費および経済的な観点から大きな影響を及ぼす。
【0011】
本開示の方法は、天然ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースを含むヒドロゲルが、例えば細胞培養における使用のために凍結乾燥される場合に、特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
以下、本開示は、添付の図面を参照して、好ましい実施形態によってより詳細に説明される。
【0013】
【
図1】
図1は、生体分子を含まない(コントロール、A)、300mMのスクロースを含む(B)、150mMのトレハロースおよび333mMのグリシンを含む(C)、並びに300mMのトレハロースを含む(D)、ナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲル組成物からの凍結乾燥ケーキの、凍結乾燥(FD)前および再構成後の、せん断速度粘度(shear rate viscosity)を示す(平均±S.D.、n=3);
【
図2】
図2は、生体分子を含まない(コントロール、A)、300mMのスクロースを含む(B)、および300mMのトレハロースを含む(C)、ナノフィブリルセルロース(NFC)組成物からの、凍結乾燥前および再構成後の、貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を示す(平均±S.D.、n=3);
【
図3】
図3は、再構成された凍結乾燥(FD)ヒドロゲルおよび生の(fresh)非凍結乾燥ヒドロゲル(Cntrl)中で培養されたHepG2細胞スフェロイド(A)およびPC3細胞スフェロイド(B)の3D生存率(3D viability)を示す;
【
図4】
図4は、グリシン分子有りおよびグリシン分子無しで研究された異なる単糖および二糖の結合自由エネルギーを示す;
【
図5】
図5は、300mMのスクロースを含む、300mMのトレハロースを含む、並びに150mMのトレハロースおよび333mMのグリシンを含む、ナノフィブリルセルロースのアモルファスセルロース面の水分子の浸透を示す;並びに
【
図6】
図6は、賦形剤を含まない(NFC)、300mMのスクロースを含む(NFC+SUC)、300mMのトレハロースを含む(NFC+TRE)、凍結乾燥ナノフィブリルセルロース(NFC)製剤のSEM画像、および同じ組成物の拡大画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
開示の詳細な説明
細胞培養の足場に特に適した凍結乾燥ヒドロゲルの、室温での保存および上首尾の再構成を可能にするために、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥を制御する方法が提供される。
【0015】
驚くべきことに、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分を調整することによって、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルの凍結乾燥および/または再構成を制御し得ることが見出された。例えば、ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースを含むヒドロゲルを凍結乾燥するときに抗凍結剤または凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)として生体分子を使用することによって、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分を調整し、そうして凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成を改善および制御し得ることが見出された。典型的には、生体分子は、三糖または二糖などのオリゴ糖の1つまたはそれ以上であり、調整は、組成物に添加される生体分子の量を最適化することによって行われる。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態によれば、当該方法は、ヒドロゲルを凍結乾燥する前に、ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルに生体分子を添加することを含む。典型的には、生体分子は、オリゴ糖または二糖、好ましくは二糖またはいくつかの二糖の混合物、より好ましくは二糖、最も好ましくはラクトース(4-O-β-D-ガラクトピラノシル-D-グルコピラノース)、トレハロース(α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシド)またはスクロース(β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシド)から選択される。トレハロースおよびスクロースは、典型的には両方とも、高いガラス転移温度および水素結合の能力を有する。グリシンなどのアミノ酸を、例えば、セルロースへの多糖または二糖の引力を改善するために添加することができる。典型的には、アミノ酸は;アルギニン、リシン、アスパラギン酸、若しくはグルタミン酸などの荷電アミノ酸;グルタミン、アスパラギン、セリン、トレオニン、チロシン、ヒスチジン、若しくはシステインなどの極性アミノ酸;トリプトファン、チロシン、若しくはメチオニンなどの両親媒性アミノ酸;またはグリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、若しくはメチオニンなどの疎水性アミノ酸であり、好ましくはグリシン、トリプトファン、ロイシンおよび/またはグルタミンの1つである。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本開示のヒドロゲルの凍結乾燥は、ヒドロゲルおよび生体分子を含む混合物のTg’(最大凍結濃縮サンプルのガラス転移温度)を考慮して、温度が最大凍結濃縮サンプルのガラス転移温度(Tg)を超えないように確保することによって、凍結乾燥サイクルを利用することによって制御することができる。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲において、以下の用語は、以下で定義される意味を有する。
【0019】
ナノスケールセルロースという用語は、ナノフィブリルセルロースおよび/またはナノ結晶を指す。本明細書で使用される場合、ナノフィブリルセルロース、ナノフィブリルまたはナノフィブリル化セルロースまたはNFCという用語は、セルロース系繊維材料またはセルロースパルプから遊離したフィブリルおよびフィブリル束を含む植物由来のナノフィブリル構造物を包含すると理解される。セルロース系繊維原料から遊離したナノフィブリル構造物は、高アスペクト比(長さ/直径)によって特徴づけられ:それらの長さは1μmを超える場合があり、一方、その直径は、典型的には200nm未満のままである。最小のナノフィブリルは、基本フィブリルのスケールであり、その直径は、典型的には2~12nmの範囲である。フィブリルの寸法とサイズ分布は、その崩壊方法および効率、並びに前処理に依存する。典型的には、NFC中のフィブリルまたはフィブリル束のメジアン長さ(median length)は、100μm以下、例えば1~50μmの範囲であり、フィブリルまたはフィブリル束の数平均直径(number average diameter)は、200nm未満、適切には2~100nmの範囲である。無傷の、フィブリル化されていないマイクロフィブリルユニットは、ナノフィブリルセルロースに存在し得るが、ささいな量でしか存在しない。ナノフィブリルセルロースに関連する命名法は均一ではなく、文献では一貫性のない用語が使用されている。例えば、次の用語がナノフィブリルセルロースの同義語として使用されている:セルロースナノファイバー、ナノフィブリルセルロース(nanofibril cellulose)(CNF)、ナノフィブリルセルロース(nanofibrillar cellulose)、ナノスケールフィブリル化セルロース、マイクロフィブリルセルロース、セルロースマイクロフィブリル、マイクロフィブリル化セルロース(MFC)、およびフィブリルセルロース。本明細書で使用される場合、ナノフィブリルセルロースは、非フィブリルの棒状セルロースナノ結晶またはウィスカーを包含することを意味するものではない。ナノ結晶は、セルロースナノ結晶(CNC)、セルロースのナノ結晶(NCC)、またはセルロースナノウィスカー(CNW)と呼ばれる高結晶性材料である。ナノ結晶は、棒状で硬く、狭いサイズ分布を有し、ナノフィブリルよりも短い。ナノ結晶はまた、より低い粘度および降伏強度を有し、ナノフィブリルセルロースと同程度には水の保持が良好ではない。
【0020】
生体分子(biomolecule)という用語は、生物学的分子(biological molecule)とも呼ばれ、細胞および生物によって生成される物質である。生体分子は、幅広いサイズおよび構造、並びに様々な機能を有する。生体分子の4つの主要なタイプは、炭水化物、脂質、核酸、およびタンパク質である。本明細書で使用される場合、特に関連する生体分子は、炭水化物、好ましくは三糖および二糖などのオリゴ糖である。二糖は、ラクトース、マルトースおよびセロビオースなどの還元糖、またはトレハロースおよびスクロースなどの非還元二糖であることができ、好ましくは二糖は、非還元二糖である。
【0021】
また、アミノ酸を、オリゴ糖および/または二糖と共に生体分子として使用し得る。アミノ酸は;アルギニン、リシン、アスパラギン酸、若しくはグルタミン酸などの荷電アミノ酸;グルタミン、アスパラギン、セリン、トレオニン、チロシン、ヒスチジン、若しくはシステインなどの極性アミノ酸;トリプトファン、チロシン、若しくはメチオニンなどの両親媒性アミノ酸;またはグリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、若しくはメチオニンなどの疎水性アミノ酸であり得る。
【0022】
典型的には、凍結乾燥プロセスは、3つの主要な工程:1)凍結(サンプルの固化)、2)一次乾燥(凍結水の昇華)、および3)二次乾燥(未凍結水の除去)に分けられる。
【0023】
凍結工程という用語は、組成物の温度をその凝固点より低くしてサンプルを固化させる凍結乾燥の最初の工程を指す。水溶液の凍結または一般的な結晶化は、2つの工程:1)核形成、および2)巨視的結晶への核の成長からなる。核形成の推進力は、主に過冷却によって定められる。温度が溶液の凝固点を下回ると、氷の結晶化の核として機能する熱力学的に望ましい氷のクラスターを形成する蓋然性が増大する。
【0024】
一次乾燥という用語は、乾燥の主要な工程を指し、通常、凍結乾燥プロセスの中で最も長い段階である。一次乾燥工程中に、凍結した固体の水(氷)を減圧下で昇華させる。昇華の推進力は、凍結した水と凝縮器表面との間の蒸気圧差(温度差)である。
【0025】
二次乾燥という用語は、サンプルにまだ存在する、あらゆる未凍結の水が除去される、凍結乾燥の最後の部分を指す。一次乾燥中に氷が除去され、そうして溶融または崩壊のリスクが最小限に抑えられるので、二次乾燥を高温で行うことができる。特にアモルファス材料について温度上昇は、好ましくは崩壊を避けるために、遅いランプ(約1℃/min)で行われる。
【0026】
乾燥度、即ち凍結乾燥生成物の含水量(または残留含水量)は、典型的には、重量分析によって決定される。水の量は、初期重量から乾燥重量を引くことによって決定される。次に、含水量は、報告方法に応じて、乾燥重量または総重量で割った水の量として計算される。乾燥度を記載する別の方法は、乾燥物質(dry substance)の含有量(DS含有量)であり、乾物(dry matter)の含有量とも呼ばれる。DSは、物質の混合物中の固形分のパーセンテージであり、DS含有量の単位は重量%である。この割合が高いほど、混合物は乾燥している。
【0027】
残留水という用語は、二次乾燥中に放出されない凍結乾燥組成物の水、即ち、ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲル組成物の中/上に残っている残留水を指す。ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分は、カールフィッシャー滴定によって測定することができる。一次乾燥中に組成物から放出されないが、二次乾燥中に除去される水は、結合水と呼ばれる。
【0028】
最大凍結濃縮サンプルのガラス転移温度(Tg’)という用語は、組成物がガラス転移を経た温度、即ち、溶質の凍結濃縮が、もはや固体の氷が形成できなくなるまで溶液の粘度を上昇させた温度を指す。
【0029】
再構成という用語は、再構成培地、例えば水および/または細胞培地をそれに加えることによって、乾燥したものを元の状態に戻すプロセスを指す。再構成は、元の状態にすることができるか、または、例えば放出された水よりも少ない再構成媒地を添加するによって、異なる濃度または剛性にすることができる。
【0030】
本開示の実施形態によれば、ナノスケールセルロースは、ナノフィブリルセルロースおよび/またはナノ結晶から、好ましくは天然ナノフィブリルセルロースおよび/またはナノ結晶から選択され、より好ましくはナノスケールセルロースは、ナノフィブリルセルロース、最も好ましくは天然ナノフィブリルセルロースである。ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルでは、総繊維含有量は、典型的には0.5%~5%、好ましくは0.7%~3%、より好ましくは0.8%~2.5%、最も好ましくは約0.8%または2%(m/v)である。
【0031】
典型的には、本開示の実施形態において、当該方法の凍結乾燥は、凍結工程、一次乾燥および二次乾燥を含む。本開示のいくつかの実施形態によれば、凍結乾燥は、
温度を0.5~2℃/min、好ましくは約1℃/minで徐々に下げた後に、好ましくは-40℃および-60℃の間の温度で、1~5時間、ATMの圧力で行われる凍結工程、
温度を0.5~2℃/min、好ましくは約1℃/minで-40℃および-50℃の間の温度に上昇させ、圧力を、30mTorrおよび100mTorrの間、好ましくは約50mTorrの圧力に低下させ、その後に該温度を2~120時間、好ましくは10~100時間、より好ましくは50~100時間維持する一次乾燥、および/または
温度を0.5~2℃/min、好ましくは約1℃/minで-40℃および-50℃の間の温度から室温(+20℃~25℃)まで徐々に上昇させ、および該温度を0.5~5時間、好ましくは1~2時間維持する二次乾燥
を含む。一次乾燥は、静電容量マノメーター(絶対圧、CM)およびピラニゴーシュ(pirani gauche)(相対減圧)を使用する比較圧力測定で決定することができる。
【0032】
典型的には、本開示の実施形態において、ヒドロゲル組成物は、異なる濃度の生体分子を、超純水、例えばMQ水などの水と混合することによって調製され、次にこれは、望まれる総繊維含有量(m/v)まで、ナノフィブリルセルロースなどのナノスケールセルロースを含むヒドロゲルと組み合わされる。代わりに、生体分子は、凍結乾燥の前に、ナノフィブリルセルロースの製造方法の一部として添加される。好ましくは、ヒドロゲル組成物は、従来技術、例えばボルテックスを用いてそれらを混合することによって、または注射器技術を用いたより高濃度の組成物のために、均質化される。ヒドロゲル組成物中の生体分子の全濃度は、混合物の全濃度の、典型的には100mM~700mM、好ましくは150mM~500mM、より好ましくは150mM~300mMの間の量から選択され、該量は、次の100mM、125mM、150mM、175mM、200mM、225mM、250mM、275mM、300mM、325mM、350mM、375mM、400mM、425mM、450mM、475mM、500mM、550mM、600mM、650mMおよび700mMの2つの間の範囲から選択されることを含む。
【0033】
本開示の方法は、典型的には、以下の工程
a)ナノスケールセルロースを含むヒドロゲルを提供する工程;
b)オリゴ糖、二糖、またはそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1つの生体分子を提供する工程;
c)工程a)のヒドロゲルを工程b)の生体分子と混合して混合物を得る工程;および
d)工程c)の混合物を凍結乾燥して、ナノスケールセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲルを得る工程
を含む。
【0034】
本開示の方法を利用することによって、ヒドロゲルの凍結乾燥が制御される。凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、典型的には、ナノスケールセルロースおよび生体分子を含むヒドロゲルを含む。凍結乾燥ヒドロゲルの再構成を制御するために、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分を調整できることが示されている。あらゆる説明のモデルに拘束されることなく、予備的な観察は、生体分子は、ナノスケールセルロースに侵入し、そうして水分子がセルロース構造により容易に結合および/または浸透できる表面積を増やすことによって、ナノスケールセルロース上でより多くの空間を配置する一方で、凍結乾燥前のナノスケールセルロースへの生体分子の添加は、水をそれら自身に結合することに加えて、剥離効果をもたらすことを示唆する。生体分子のアモルファスNFCへの引力が高いほど、系内を通過する水が多くなる。
【0035】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物も提供され、凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、ナノスケールセルロースと、オリゴ糖および二糖から選択される少なくとも1つの生体分子とを含み、並びに凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分は、0.2%(w/w)~2%(w/w)未満、好ましくは0.2%~1.9%、より好ましくは0.3%~1.6%、最も好ましくは0.5%~1.3%である。典型的には、本開示の実施形態において、凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、個々の繊維リボン(fibrous ribbon)を含む。凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、意図する用途に応じて、典型的には支持体上で、好ましくはバッグ、ボトル、カラム、注射器またはウェルプレート中またはその上で、より好ましくはガラスバイアル、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレートまたは1536ウェルプレート上で凍結乾燥される。貯蔵は、湿気のない密封パッケージ中で行われる。目的の用途に応じて、実質的に乾燥した凍結乾燥ヒドロゲル組成物の粉末、即ち本開示の方法、プロセスおよび生成物によるエアロゲルを保存または貯蔵することは、湿ったヒドロゲルの貯蔵および保存と比較して、いくつかの利点を提供する。エアロゲルは、再水和するとヒドロゲルになる。本開示の一実施形態では、ウェル中に様々な量の凍結乾燥ナノセルロースが存在する。同量の水または細胞培地を各ウェルに添加すると、異なる細胞培養濃度を有するテストパネルが提供される。
【0036】
マイクロビーズに再構成し得る凍結乾燥ヒドロゲル微粒子または凍結乾燥ヒドロゲル液滴を提供するために;例えばシートとしてまたは型内で凍結乾燥され、湿潤され得る、即ち、ヒドロゲル足場または軟質膜に再構成することができる、凍結乾燥ヒドロゲル膜、即ちエアロゲル膜を提供するために;または使用前に湿らせ、或いは濃度勾配を形成して様々な細胞培養条件を可能する、凍結乾燥ヒドロゲルを含む事前に充填されたマイクロチップを提供するために、本開示の方法および生成物を使用することもできる。本開示のヒドロゲル足場の1つのタイプは、より高い固形分、典型的には3%~5%、好ましくは3%~4%(m/v)のナノフィブリルセルロース含有量で再構成された堅い膜である。ヒドロゲル足場は、例えば、足場の間の上部に細胞を有する共培養システムを構成するために積み重ねることができる。さらに、凍結乾燥ヒドロゲルは、湿ったときにナノセルロースを分散剤として使用して、医薬品有効成分の粉末(API)と混合することができる。
【0037】
本開示の実施形態によれば、残留水のモル分率は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の5%~25%、好ましくは6%~20%、より好ましくは9%~15%であり;生体分子のモル分率は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の50%~90%、好ましくは55%~85%、より好ましくは60%~80%であり;および/またはナノスケールセルロースのモル分率は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の3~40%、好ましくは10%~35%、より好ましくは15%~30%であり、好ましくはナノスケールセルロースは、ナノフィブリルセルロースである。
【0038】
さらに、本開示の方法によって得ることができる凍結乾燥ヒドロゲル組成物が提供される。
【0039】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成は、再構成培地を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加することを含む。再構成培地は、典型的には、水および/または細胞培地またはそれらの混合物である。それは、他の物質または他の要素、例えば;細胞;リン酸緩衝食塩水(PBS)などの緩衝剤;補強材;カバー材;活性剤;および/またはNaClなどの塩の添加も含み得る。再構成培地の体積は、所望のヒドロゲル濃度に依存する。典型的には、該体積は、凍結乾燥中に失われる水の体積に対応するが、例えば特定の細胞型に最適になるように調整することもできる。
【0040】
本開示の凍結乾燥ヒドロゲル組成物の好ましい使用は、細胞培養のためのものである。本開示の実施形態において、細胞は、典型的には、原核細胞または真核細胞、好ましくは分化または未分化の真核細胞、より好ましくは全能の、多能性の(pluripotent)、多分化能の(multipotent)、オリゴ能性の(oligopotent)、または単能性の幹細胞である。細胞は、例えば、肝細胞癌細胞株(HepG2)、前立腺癌細胞株(PC3)、またはヒト脂肪/間質細胞(hASC)であり得る。典型的には細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、細菌細胞または酵母細胞などの微生物細胞が含まれ得る。真核細胞は、植物細胞または動物細胞であり得る。細胞は、培養細胞であり得る。真核細胞の例には、幹細胞などの移植可能な細胞、例えば、全能の、多能性の、多分化能の、オリゴ能性の、または単能性の細胞が含まれる。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、沈着した細胞株からのものであり得るか、または未受精卵、即ち「単為生殖生物」卵から、若しくは単為生殖的に活性化された卵子から作られ、そうしてヒト胚が破壊されないものであり得る。細胞を、細胞外で発生する動物またはヒト系の化学物質無しで、ヒドロゲル上またはその中で維持および増殖させ得る。細胞は、ヒドロゲル上またはその中で均一に分散し得る。従って、細胞の例には、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、および完全に分化した細胞、およびそれらの組合せが含まれる。いくつかの例では、細胞は、角膜実質細胞(keratocyte)、ケラチノサイト(keratinocyte)、線維芽細胞、上皮細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される細胞型を含む。いくつかの例では、細胞は、幹細胞、前駆細胞(progenitor cell)、前駆体細胞(precursor cell)、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、間質細胞、間葉細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞、血小板、赤血球、単核細胞、網膜色素細胞、肝細胞癌細胞およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0041】
さらに、細胞培養の足場が提供され、当該細胞培養の足場は、本開示の再構成された凍結乾燥ヒドロゲル組成物を含む。典型的には、細胞培養の足場は、さらに水および/または細胞培地またはそれらの組合せを、任意に細胞と共に含む。
【0042】
細胞培養の足場などの再構成されたヒドロゲルを製造する方法も提供され、当該方法は以下の工程
a)本開示の凍結乾燥ヒドロゲル組成物を提供する工程;
b)水、細胞培地またはそれらの混合物を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加して再構成されたヒドロゲルを得ることによって、再構成ヒドロゲルを得る工程
を含む。
【0043】
本開示の実施形態によれば、細胞培地は細胞を含み得るか、または細胞は、細胞培養の足場中またはその上に、後で添加され得る。当該方法は、足場中またはその上部上に、他の物質または他の要素、例えばNaClなどの緩衝剤または塩を添加すること、または足場の上部上に細胞培地および/または細胞を添加することをさらに含み得る。
【実施例0044】
実施例
実施例で使用した天然ナノフィブリル化セルロース(NFC)ヒドロゲルは、フィンランドの UPM, Kymmene により提供された。NFCの濃度は1.5%(m/v)であった(GrowDex(商標))。
【0045】
実施例で使用した分析法
レオロジー測定
粘度、損失弾性率(G”)および貯蔵弾性率(G’)の測定は、HAAKE Viscotester iQ Rheometer(Thermo Scientific、カールスルーエ、ドイツ)を用いて、選択したNFCヒドロゲル組成物に対して3回行った。機器は温度制御用のペルチェシステムを含み、全ての測定は24℃で行った。レオロジー測定からのデータを、HAAKE RheoWin 4.0 ソフトウェア(Thermo Fischer Scientific)で分析した。再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物は、測定前に室温で静置した。
【0046】
せん断粘度の測定のために、全ての選択した組成物に対して、平行な直径35mmの鋼を用いたプレート-オン-プレート形状を使用した。せん断速度を0.1から1000 1/sまで上昇させ、結果を16個の時点で観察した。振動周波数掃引分析を、平行な直径25mmの鋼を用いたダブルキャップ形状で行った。測定前に一定の振幅掃引を、線形粘弾性領域を決定するために行った。1*10-4~500Paの間の振動応力での一定の角周波数ω=1Hzを使用した。線形粘弾性領域に基づいて、選択された振動応力は、全ての選択されたNFCヒドロゲル組成物に対してτ=1.5Paであり、角周波数の範囲は0.6~125.7rad s-1であった。モジュラス(moduli)からの結果は、37個の時点で観察した。
【0047】
凍結乾燥プロトコル
凍結乾燥は、実験室スケールの凍結乾燥機 Lyostar II((SP Scientific Inc.、USA)で行った。異なるNFCヒドロゲル組成物のTg’温度に基づいて、異なる凍結乾燥サイクルを使用した。
【0048】
凍結乾燥ヒドロゲルの再構成の評価
凍結乾燥後、形成されたケーキのエレガンスを評価し、凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物を、バイアルのキャップを開けた直後の開始体積まで超純水で再構成した。乾燥組成物のヒドロゲルへの再構成の速度、および組成物の均一性の維持を評価した。再構成されたヒドロゲル中に形成された気泡を、1分の遠心分離(1000rpm)で除去した。
【0049】
残留水分
凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の残留水分を、自動比色分析カールフィッシャー滴定装置(Metrohm、899 Coulometer、スイス)で測定した。ハイドラナール(Hydranal)(Coulomat AG、Fluca)を測定の溶媒として使用した。凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物を1mlのメタノールで希釈し、0.8mlの体積の注射器中に吸引し、これを、カールフィッシャー滴定装置のバスフラスコに注入した。結果を、マイクログラムの水で示し、メタノールの水分を、計算においてブランクとみなした。凍結乾燥組成物中の残留水分の質量パーセントおよびモル分率を手入力で計算した。全ての測定は3回行った。
【0050】
走査型電子顕微鏡(SEM)
凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の形態を、走査型電子顕微鏡 Quanta FEG250(SEM、FEI Company、USA)で研究した。サンプル調製は、サンプルの内部構造の検出および表面分析のためにピンセットでサンプルを切断することによって手動で行った。サンプルを、銀のペイントが付いた両面カーボンテープに配置した。撮像前に、サンプルを Agar のスパッタ装置(Agar Scientific Ltd.、UK)で白金で25秒間スパッタした。再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の均一性は、光学顕微鏡(Leica microsystems、ドイツ)で評価した。
【0051】
実施例1 異なるヒドロゲル組成物の評価、凍結乾燥ヒドロゲルのレオロジーおよび物理化学的特性の最適化
繊維含有量が1.5%(m/v)である天然ナノフィブリル化セルロース(NFC)ヒドロゲルは、フィンランドの UPM, Kymmene により提供された(GrowDex(商標))。この研究で使用した全ての化学物質、D-(+)-トレハロース二水和物、スクロースおよびグリシン(99%)は、USAの Sigma Aldrich から購入した。
【0052】
研究した全てのNFCヒドロゲル組成物を、異なる濃度のトレハロース、スクロース、またはこれら生体分子の組合せを、超純水(MQ水)と混合し、次に0.8%(m/v)の総繊維含有量までNFCヒドロゲルと組み合わせることによって調製した。NFCヒドロゲル組成物中の生体分子の全濃度は50mM~1000mMの間であった。次に、NFCヒドロゲル組成物をボルテックスで混合することによって均質化し、600mMよりも高い濃度の生体分子の組成物を、Paukkonen H. et al.(“Nanofibrillar cellulose hydrogels and reconstructed hydrogels as matrices for controlled drug release”, International journal of pharmaceutics 532 (2017) 269-280)からのプロトコルに基づく注射器技術で混合した。生体分子または有機溶媒を含まない、繊維含有量が0.8%(m/v)であるNFCヒドロゲルをコントロールとして使用した。
【0053】
NFCヒドロゲル組成物の物理化学的特性を、浸透圧およびpHを測定することによって評価した。再構成された凍結乾燥組成物の浸透圧を、手動の凝固点浸透圧計(Osmomat 3000、Gonotech)で測定した。浸透圧計は、超純水で0mOsmol/kgに較正し、較正標準(NaCl、Gonotech)で100~850mOsmol/kgに較正した。測定のために、サンプルをピペットで測定容器(Gonotech)に入れ、次に機器の上部プローブに配置した。全ての再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物からのpHを、pH紙(Macherey-Nagel、ドイツ)で測定した。凍結乾燥および再構成後、測定を繰り返した。
【0054】
凍結乾燥温度を最適化するために、全てのNFCヒドロゲル組成物およびコントロールのガラス転移温度(Tg’)を示差走査熱量測定(DSC)(TA instruments)で測定した。NFCヒドロゲル組成物を、密閉した T-Zero パン(40μl)にピペットで移した。まず温度を+40℃から-80℃に下げ、次に50ml/minのセルパージガスフロー(N2)と共に10℃/minで+20℃に加熱することによって、測定を行った。温度およびヒートフローを、インジウムで較正した。ガラス転移温度の測定を3回行い、結果を、TRIOS ソフトウェア(TA Instruments)で分析した。150mMのトレハロース、333mMのグリシンおよび700mMのDMSOまたはグリセロールを含み、Tg’が-50℃より低い2つのNFCヒドロゲル組成物を除外した。
【0055】
凍結乾燥を、実験室スケールの凍結乾燥機 Lyostar II(SP Scientific Inc.、USA)で行った。異なるNFCヒドロゲル組成物のTg’温度に基づいて、2つの異なる凍結乾燥サイクルを使用した。凍結工程を、-55℃/-47℃(1℃/min)で2時間行い、その後温度を1℃/minで-50℃/-42℃まで上昇させ、圧力を100mTorr/50mTorrに低下させた。一次乾燥を、静電容量マノメーター(絶対圧、CM)およびピラニゴーシュ(相対減圧)を使用する比較圧力測定で決定した。次に凍結乾燥を二次乾燥まで続け、そこで温度を-50℃/-47℃から+20℃まで1℃/分で徐々に上昇させた。第1の凍結乾燥サイクルの全長は54時間であり、第2については143時間であった。サンプル量は、目的の実験に応じて0.2mlまたは1.75mlであった。NFCヒドロゲル組成物を、サンプルサイズに応じて、2mlまたは6mlの体積の Schott Toplyo(商標)注射バイアル(Adelphi)で凍結乾燥した。バイアルを、ゴム製の Daikyo D Sigma 凍結乾燥ストッパー(Adelphi)で閉じた。凍結乾燥後、All-Aluminium Crimp シール(West Pharmaceutical Sevices)をバイアルに配置した。 凍結乾燥サンプルを、さらなる実験の前に+4℃で貯蔵した。
【0056】
150mMのトレハロースおよび666mMのグリシンを含む凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物のケーキは崩壊し、750mM~1000mMのトレハロースを含むものは収縮を示した。形成されたケーキのわずかな亀裂が、凍結乾燥コントロールおよび50mM~250mMのスクロースまたはトレハロースを含む凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物で観察された。300mMのスクロースおよび/またはトレハロースを含む凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物、並びに150mMのトレハロースおよび333mMのグリシンを含むものを用いて、エレガントで白色の固体ケーキが得られた。
【0057】
凍結乾燥(FD)NFCヒドロゲル組成物を、バイアルのキャップを開けた直後に開始体積まで超純水(MQ水)で再構成した。乾燥組成物のヒドロゲルへの再構成の速度およびNFC組成物の均一性の維持を評価した。
【0058】
元の体積の超純水を加えたときに、崩壊および縮小したケーキの溶解に失敗したことが、それらを除外した理由である。さらに、凍結乾燥コントロールは、再構成後に凝集体を形成し、これを均質化することはできなかった。
【0059】
上首尾のケーキの外観を有する凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の再構成後、ケーキの色は直ぐに透明に変化し、2分の穏やかな手動撹拌後にヒドロゲルが形成された。再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の内部に形成された気泡を除去するために、サンプルを、1分、遠心分離(1000rpm)し、その後、それらが、凍結乾燥前のNFCヒドロゲル組成物に対応した。
【0060】
物理化学的特性を、異なる濃度のトレハロース、スクロース、およびグリシンを含む再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の浸透圧およびpHを測定することによって評価した。浸透圧は、生体分子濃度の増加とともに増加し、50mM~300mMの間のトレハロースまたはスクロースの濃度を有する組成物は、50mOsmol/kg~300mOsmol/kgの間の対応する浸透圧を有していた。全てのNFCヒドロゲル組成物の凍結乾燥および再構成の後、浸透圧にわずかな低下が観察できた。
【0061】
光学顕微鏡画像は、生体分子を含む再構成された凍結乾燥NFC組成物と、凍結乾燥前の生体分子を含むNFC組成物との間で同様の均質性を示した。凍結乾燥プロセス後の光学顕微鏡画像は、組織化されていない結晶化した特徴を示したため、再構成された凍結乾燥コントロールからは均質性を観察できなかった。
【0062】
300mMのトレハロースおよびスクロースの両方を含む再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物は、較正範囲0~850mOsmol/kgより高い浸透圧を有し、その後の実験から除外した。全ての組成物のpHは6~7の間であり、凍結乾燥および再構成の後も同じままであった。
【0063】
凍結乾燥プロセスの最適化の後、凍結乾燥NFC組成物のヒドロゲルおよび再構成したものの保持された特性は、確保されなければならなかった。
【0064】
凍結乾燥後のケーキの組織化された多孔質構造に基づいて、粘度測定を、300mMのスクロースまたはトレハロースを含む3つの異なる再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物、および150mMのトレハロースおよび333mMのグリシンを含むものについて行った。振動周波数掃引分析を、粘度測定、および-40℃を超えるより適切なTg’温度に基づいて、300mMのスクロースまたはトレハロースのみを含む最後の2つの組成物に対して行った。
【0065】
生体分子の添加は、凍結乾燥前のNFCヒドロゲル組成物の粘度特性に有意な影響を与えず、これは、せん断速度が増加すると直線的に減少した。
図1Aの再構成された凍結乾燥コントロールの場合とは異なり、
図1B~Dから観察されるように、再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル製剤中の生体分子の存在により、せん断粘度が保持された。
図1A)のスクロース含む組成物、または
図1Bのグリシンおよびトレハロースの組合せを含む組成物は、凍結乾燥の前後で等しい粘度特性を示した。
【0066】
300mMのスクロースまたはトレハロースを含む最後の2つの再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の粘弾性特性、およびコントロールのものを研究した。
図2A~Cに示すように、凍結乾燥前のG’は、生体分子を含むNFCヒドロゲル組成物および生体分子を含まないNFCヒドロゲル組成物の間で等しく、それらはG”を上回っていた。
図2Aに示すように、凍結乾燥および再構成の後、コントロールのモジュラスは互いに交差し、凍結乾燥前のものとは有意に異なった。
図2Bに示すように、300mMのスクロースを含む再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物は、凍結乾燥前のものと等しいG’モジュラスを有した。
図2Cに示すように、300mMのトレハロースを含む再構成された凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物のG’は、凍結乾燥プロセス前の同じ組成物と比較して、わずかに減少した。
【0067】
残りの組成物が正しく凍結乾燥されたことを確保するために、凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物中の残留水分の質量パーセントを測定した。コントロールを除いて、全ての組成物は3%(w/w)未満の残留水を含有していた。
【0068】
凍結乾燥されたものの水の割合をより詳細に説明するために、残留水分のモル分率を計算した。結果を表1に示す。NFCの分子量を、計算ではグルコースモノマーの分子量であると見なし、水のモル分率は、凍結乾燥前の全てのNFCヒドロゲル組成物において99%を超えると、理論的に計算した。凍結乾燥後、凍結乾燥コントロール中の残留水分のモル分率は約35%であると測定された。全ての凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物は、残留水分のモル分率が30%未満であることを示した。
【0069】
【0070】
結果から分かるように、生体分子の量は、残留水分および残留水のモル分率に影響を与える。従って、再構成し得る凍結乾燥ヒドロゲルを得るために、その凍結乾燥前に、異なる生体分子および生体分子量をヒドロゲルに添加することによって、残留水分を最適化することが可能である。
【0071】
これらの結果に基づいて、NFCヒドロゲルを含むヒドロゲルの凍結乾燥は、生体分子として300mMのスクロースを含むNFCヒドロゲル組成物で特に上首尾であった。NFCヒドロゲルと共に、唯一の凍結保護化合物としてスクロースを有することは、他の研究された生体分子と比較して多くの利点がある。例えば、グリシンを含むNFCヒドロゲル組成物と比較して、一次乾燥温度を-50℃から-42℃に上昇させることができた。さらに、スクロースを含むNFCヒドロゲル組成物の、多孔質で組織化された形態、並びに等浸透圧溶液(iso-osmotic solution)、pH中性環境、および非毒性などの物理化学的特性は、異なる用途のために有益である。
【0072】
実施例2 細胞培養のためのNFC組成物の調製
凍結乾燥ヒドロゲルを、300mMのスクロースおよび1.5%のナノフィブリルセルロース(NFC)を使用して調製した。スクロースをNFCヒドロゲル中に混合し、サンプルを低接着性の96ウェルプレート上で凍結乾燥した(LyoStar II、SP Scientific)。
【0073】
ナノフィブリルセルロースは、フィンランドの UPM, Kymmene により提供された、繊維含有量が1.5%(m/v)である天然NFCヒドロゲルであり(GrowDex(商標))、スクロースはUSAの Sigma Aldrich から購入した。
【0074】
凍結乾燥サイクルは以下の通りであった。-47℃の温度に達するまで温度を1℃/minで下げることによって、凍結を行った。凍結をATMで3時間続けた。一次乾燥は、-42℃の温度および50mTorr(6.67Pa)の圧力で94時間行った。二次乾燥中、温度を徐々に上昇させ、1℃/minで温度を-42℃から20℃に上昇させることによって行った。圧力は50mTorr(6.67Pa)であり、二次乾燥を1.5時間続けた。
凍結乾燥ヒドロゲルを、包装し、空気の湿気から密封し、室温で数ヶ月間貯蔵した。
【0075】
実施例3 凍結乾燥および再構成されたNFCヒドロゲル中での3D細胞スフェロイドの培養
実施例2の凍結乾燥および再構成されたNFCヒドロゲルの3D細胞培養への適性を研究した。研究した細胞は、肝細胞癌細胞株(HepG2)、前立腺癌細胞株(PC3)、およびヒト脂肪/間質細胞(hASC)であった。
【0076】
凍結乾燥した1.5%のNFCヒドロゲルサンプルを、異なるNFC濃度に直接再構成した。サンプルを、MQ水、NaCl、細胞培地および/または細胞の混合物で再構成した。Phを、生理学的範囲内であるように制御した。細胞培地は、ウシ胎児血清を含む重炭酸塩で緩衝された栄養素混合物であった。MQ水のみで再構成された、再構成凍結乾燥ヒドロゲルの場合、使用した体積は、凍結乾燥で失われた水の体積であった。MQ水および細胞培地の混合物の場合、MQ水の量は、凍結乾燥で失われた水の体積であり、細胞培地の場合、希釈に必要な量であった。
【0077】
MQ水、細胞培地および細胞を含む再構成されたヒドロゲルのNFCヒドロゲル濃度を、選択された細胞型に最適なヒドロゲル剛性に調整した。使用した濃度は、HepG2、PC3、およびhASC細胞に対して、それぞれ0.8%、1.0%、および0.125%であった。再構成された組成物の貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を、Viscotester(Thermo Scientific)で測定し、生のヒドロゲルのものと比較した。モル浸透圧濃度を、Osmomat 3000(Gonotec)で測定し、再構成培地の組成を変更することによって、細胞培養(280~320mOsmol/kg)に適したものに最適化した。再構成されたNFCヒドロゲル組成物のモル浸透圧濃度、pH、貯蔵弾性率および損失弾性率は、凍結乾燥および再構成の後も変化しないままであると結論付けられた。凍結乾燥後の異なる天然NFC濃度への天然NFCの再構成は、天然NFCの開始濃度とは無関係に可能であった。
【0078】
再構成されたNFCヒドロゲル、培地、および細胞を、ピペッティングによって混合し、ヒドロゲル-細胞-懸濁液の上部にリザーバー培地を添加した。3D細胞スフェロイドを、(Bhattacharya et al., “Nanofibrillar cellulose hydrogel promotes three-dimensional liver cell culture”, Journal of controlled release:official journal of the Controlled Release Society. 164 (2012) 291-8 に記載されているような)以前に確立されたプロトコルで、37℃でCO
2で培養し、同じプロトコルを、再構成されたヒドロゲル、およびコントロールとして使用した非凍結乾燥ヒドロゲルの両方に使用した。細胞スフェロイドの生存率を7日間、即ち、1、3、5、7日目に alamarBlue 細胞生存率アッセイで調べた。細胞スフェロイドのサイズを、7日間の研究期間にわたって顕微鏡で評価した。生存率テストの結果を、HepG2細胞スフェロイドについては
図3Aに、PC3細胞スフェロイドについては
図3Bに示す。左の列は凍結乾燥NFCの結果を示し、右の列はコントロールである。
【0079】
試験は、凍結乾燥ヒドロゲルが異なる濃度で再構成できること、および再構成された凍結乾燥ヒドロゲルが、生の非凍結乾燥ヒドロゲルと同様に、細胞培養に適していることを示した。HepG2細胞およびPC3細胞の両方が、凍結乾燥および再構成された天然NFCヒドロゲルで7日間、首尾よく培養された。
【0080】
実施例4 分子動力学シミュレーション
水、賦形剤、およびNFC間の相互作用を、分子動力学(MD)シミュレーションで研究した。MDシミュレーションを、システムの動的挙動を研究し、特定メカニズムの洞察を得るために実行した。
【0081】
3つの面状シミュレーションシステム(plane-like simulation system)が開発された:1つは疎水性表面を有し、および1つは親水性表面を有する、結合自由エネルギーを決定するための結晶形態のセルロース、並びに水の浸透に対する生体分子の影響を決定するためのアモルファス形態のセルロース。
【0082】
平衡化された水のシステムに、水分子の数による濃度で水相のランダムな位置に賦形剤を添加した。そうして、次の濃度の生体分子を含む各システムから3つの新しいシステムが生成された:300mMのトレハロース、333mMのグリシンを伴う150mMのトレハロース、および300mMのショ糖。追加のシミュレーションシステムは、次の濃度の生体分子を伴う、異なる単糖および二糖に対して生成された:300mMのフルクトース、グルコース、ラクトース、スクロース(ショ糖)、トレハロースおよびキシリトール、75mMのグリシンと組み合わせた225mMの各糖類、並びに100mMのグリシンと組み合わせた200mMの各糖類。
【0083】
3つの特性が特に興味深かった:賦形剤およびセルロース層の間の自由エネルギーの差、アモルファスシステム中への水の浸透、並びに可視化中に気づいた結晶システム中での糖の鎖剥離効果。自由エネルギーの差を、賦形剤の部分密度からgmx密度を介して平均力のポテンシャルを生成することによって決定した。セルロース面のより安定な側を使用して、自由エネルギーの差を定量化した。水の浸透は、gmx選択(gmx select)を使用して、セルロースの質量の中心によって形成されるx軸およびy軸に沿った面から1nm以内の水分子の平均数で計算した。炭素分子を使用してそれを6で割ることを除いて、同じ領域内のグルコースの平均数を同じ方法で決定した。最後にgmx rmsを、両方の結晶セルロース層の上面および底面上の8つの鎖に対して使用して、それらの個々の鎖のRMSDを決定し、これは、時間の関数としての鎖の剥離に関する計量を与えた。
【0084】
NFC表面への賦形剤の結合の結果は、異なるセルロース面間で一貫していた。異なる単糖および二糖を用いた追加のシミュレーションの結果は、全ての糖類分子がNFC-水界面に集中することを好むことを示す。しかし、結合強度はシステム間で異なる。
図4で見られるように、ショ糖およびラクトースで最も高い結合自由エネルギーが記録された。フルクトース、グルコース、およびキシリトールの場合、低い表面相互作用が見られた。全ての糖類の左の列は300mMの糖類の結果を示し、中央の列は75mMのグリシンと組み合わせた225mMの各糖類の結果を示し、右の列は100mMのグリシンと組み合わせた200mMの各糖類の結果を示す。
【0085】
グリシンはNFC表面に対して引力を有さないことが示された。300mMの濃度システムでは、スクロースはトレハロースよりもセルロース面への高い引力を有することが証明された。疎水性セルロース面では、自由エネルギー間の差は0.54kJ/molであった。同様に、半分の濃度のトレハロースおよび333mMのグリシンを含むシステムでは、トレハロースの引力が、わずかだが有意に増加し、自由エネルギー間の差は0.56kJ/molであった。親水性面とのそれぞれの差は、0.38kJ/molおよび0.20kJ/molであった。300mMのスクロース、および100mMのグリシン、ロイシン、トリプトファンまたはグルタミンの1つと一緒の200nMのスクロースを比較する追加試験は、一般にアミノ酸が、セルロースへのスクロースの引力を改善することを示した。トリプトファンおよびグルタミンの両方がセルロース面に浸透したが、グルタミンは引力を示さなかった。トリプトファンは、ショ糖よりも有意に高い引力を示した。また、糖-セルロースの水素結合は、アミノ酸(グリシンを除く)を添加すると増加するようである。
【0086】
生体分子は、残留水分に対して異なる効果を有した。
図5に示すように、水分子は、それらの引力にもかかわらず、糖とは異なり、アモルファスセルロース面に容易に浸透した。賦形剤を含まない場合、平均263(±13SD)個の水分子がアモルファスセルロースの2nmスライス内に存在した。添加されたショ糖を含む場合、水の浸透は、274(±15SD)個に増加した。しかし、追加されたトレハロースは、効果を有さなかった(262±16SD個)。グリシンを伴う削減した量のトレハロースは、水の浸透をわずかに267(±12SD)個に上昇させた。同じ領域内のグルコース分子の平均数を決定することによって、水:グルコースの次の比率が得られた:純水で1.385、300mMのショ糖で1.424、300mMのトレハロースで1.378、および333mMのグリシンを伴う150mMのトレハロースで1.400。これは、ナノセルロースシステムに対する生体分子の異なる引力によって説明し得る;生体分子のアモルファスNFCへの引力が高いほど、システム内を通過する水が多くなった。この理由は、水分子がアモルファスNFCの内部にアクセスするためのより多くの空間を、よりきつい引力が与えることであろう。例えばトレハロースよりもスクロースを含むアモルファスNFC内により多く浸透する水の能力は、凍結乾燥NFCヒドロゲル組成物の再構成において有利であり得る。
【0087】
可視化中に、結晶システムにおける鎖剥離効果が発見された。セルロース鎖は周期的なイメージ間でつながっていないため、接合部の鎖の端は自由に水中に移動できる。この効果は、純水システムでは有意ではなかった。しかし、添加された糖、特にトレハロースは、これらの鎖の端をさらに水相に剥離することができた。さらに、結晶構造から鎖を引き離した後、糖は、形成された裂け目に移動することができ、鎖が戻ることを防いだ。この効果を定量化するために、表面鎖の平均二乗偏差(root mean square deviation)(RMSD)を時間の関数として決定した。鎖の端が、構造化された結晶構造から無秩序な水相に引っ張られるにつれて、そのRMSDは増加する。疎水性システムでは、結晶構造から引き離される鎖のカットオフは~0.15nmであり、親水性システムでは~0.35nmであった。親水性面の表面鎖は、それらの親水性のために、より動きやすい。結果は、トレハロースおよびスクロース分子が、賦形剤を含まないシステムと比べて、NFC表面での鎖の剥離を促進できることを示す。
【0088】
倍率を上げると、凍結乾燥コントロールのSEM画像から約15nmの幅の繊維構造が際立っていた。個々の繊維リボンは、スクロースまたはトレハロースを含む凍結乾燥組成物からも観察できた。
図6は、賦形剤を含まない、300mMのスクロースおよび300mMのトレハロースを含む、凍結乾燥NFC組成物のSEM画像、並びに同じ組成物の拡大画像を示す。矢印は、組成物で観察された個々の繊維リボンの例を示す。これは、結晶性NFCのシミュレーションで証明されているように、これらの生体分子の、鎖を剥がす能力によって引き起こされ得る。
【0089】
本シミュレーション結果に照らして、トレハロースおよびスクロース分子がNFC表面と相互作用し、表面鎖の剥離を促進することによってNFCの構造を変化させ得ることは明らかであり、これは、FD後のNFCの形態における実験的に記録された違いを部分的に説明する。グリシンはNFC表面に対する引力を有さないが、シミュレーションは、NFC表面の結合トレハロースに対するグリシンの効果を強調した。即ち、グリシンおよびトレハロースのハイブリッドシステムでは、NFC表面へのトレハロースの結合はわずかにより強く、グリシンの無いスクロースと比べたとき、同じ結合自由エネルギー値に達した。さらに、シミュレーション結果は、グリシンを含む結晶性および疎水性のNFC表面で、NFCの鎖剥離が起こらなかったことを示唆し、これは、凍結乾燥の前後の水性環境におけるNFCマトリックスの、より保持された安定性および構造をもたらし得る。