(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171602
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法及び凍結乾燥ヒドロゲル組成物
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20221104BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20221104BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20221104BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20221104BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221104BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20221104BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20221104BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20221104BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C12M3/00
C12N5/071
C12N5/10
C12N1/14 A
C12N1/20
C12N1/16
C12N7/01
C12N7/00
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022071937
(22)【出願日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】21171449.8
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17/245,445
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ユリペルットゥラ マルヨ
(72)【発明者】
【氏名】メリヴァーラ アルト
(72)【発明者】
【氏名】コルホネン オッシ
(72)【発明者】
【氏名】ジニ ヤコポ
(72)【発明者】
【氏名】コイヴノトゥコ エレ
(72)【発明者】
【氏名】チネッロ リサ
(72)【発明者】
【氏名】スカピン ギウリア
(72)【発明者】
【氏名】メリルオト アンネ
(72)【発明者】
【氏名】パーソネン ラウリ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA21
4B029BB02
4B029BB06
4B029BB07
4B029BB11
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4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
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4B065AC14
4B065BA02
4B065BC46
4B065CA44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法、凍結乾燥ヒドロゲル組成物、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法及び再構成ヒドロゲル組成物を提供する。
【解決手段】ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法は、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む前記ヒドロゲル組成物を提供するステップと、前記ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させることにより、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を得るステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法であって、
セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む前記ヒドロゲル組成物を提供するステップと、
前記ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させることにより、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を得るステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲル組成物は、細胞培養培地を含み、前記方法は、前記ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させる前に、前記ヒドロゲル組成物から前記細胞培養培地を少なくとも部分的に除去し、かつ前記細胞培養培地を、前記少なくとも1つの糖類及び前記少なくとも1つのアミノ酸を含む溶液に置換するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凍結乾燥前の前記ヒドロゲル組成物中の前記少なくとも1つの糖類の含有量は、100~1000mM又は150~500mMの範囲にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記凍結乾燥前の前記ヒドロゲル組成物中の前記少なくとも1つのアミノ酸の含有量は、50~700mM又は100~500mMの範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む凍結乾燥ヒドロゲル組成物であって、前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、5wt%以下である、凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアミノ酸は、グリシン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせを含むか、又はグリシン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの糖類は、二糖類、三糖類、オリゴ糖、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含むか、又は二糖類、三糖類、オリゴ糖、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項1~4又は6のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5若しくは6に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの糖類は、スクロース、トレハロース、ラクトース、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含むか、又はスクロース、トレハロース、ラクトース、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項1~4、6又は7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項9】
前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の前記少なくとも1つの糖類の含有量は、15~80mol%の範囲又は30~70mol%の範囲にある、請求項1~4又は6~8のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~8のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項10】
前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の前記少なくとも1つのアミノ酸の含有量は、15~60mol%の範囲にある、請求項1~4又は6~9のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~9のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項11】
前記ヒドロゲル組成物及び/又は前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の前記少なくとも1つの糖類の含有量と前記少なくとも1つのアミノ酸の含有量との比率は、10:1~1:5の範囲又は6:1~1:4の範囲にある、請求項1~4又は6~10のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~10のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項12】
前記生物製剤は、スフェロイドなどの細胞、組織若しくはその一部、オルガノイド、微小器官、細胞成分、エクソソームなどの細胞外小胞、ウイルス粒子、及び/又は脂質ナノ粒子若しくはリポソームなどの脂質ベースの輸送手段を含むか、又はスフェロイドなどの細胞、組織若しくはその一部、オルガノイド、微小器官、細胞成分、エクソソームなどの細胞外小胞、ウイルス粒子、及び/又は脂質ナノ粒子若しくはリポソームなどの脂質ベースの輸送手段である、請求項1~4又は6~11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~11のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項13】
前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、4wt%以下、2wt%以下、1wt%以下、0.2~3wt%、又は0.5~2wt%である、請求項1~4又は6~12のいずれか一項に記載の方法、又は請求項5~12のいずれか一項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル組成物。
【請求項14】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法であって、請求項5~13のいずれか一項に記載の前記凍結乾燥ヒドロゲル組成物に水又は水溶液を添加するステップを含む、方法。
【請求項15】
前記水溶液は、緩衝液、生理食塩水、細胞培養培地、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含むか、又は緩衝液、生理食塩水、細胞培養培地、それらの混合物又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つであり、前記細胞培養培地が任意に希釈される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ナノフィブリル及び/又はナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む再構成ヒドロゲル組成物であって、任意に、請求項14又は15に記載の方法によって得る、再構成ヒドロゲル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法、凍結乾燥ヒドロゲル組成物、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法及び再構成ヒドロゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノフィブリル及びそこから得られるヒドロゲルは、独特の特性を有する。例えば、細胞は、細胞がスフェロイドとして成長する可能性がある三次元培養におけるセルロースナノフィブリルマトリックス中で培養されてもよい。
【0003】
セルロースナノフィブリルヒドロゲル、例えばそこで培養された細胞を含む、を脱水し乾燥させることができることが望ましい場合がある。しかしながら、セルロースナノフィブリルとそこから得られるヒドロゲルの取り扱いには課題がある可能性があり、例えば、セルロースナノフィブリルヒドロゲルは、容易に脱水又は凍結乾燥されない可能性があり、ヒドロゲルに含まれる生物学的物質は、プロセスに耐えられない可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法が開示されている。該方法は、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含むヒドロゲル組成物を提供するステップと、ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させることにより、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を得るステップと、を含む。
【0005】
セルロースナノフィブリル及び/又はナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む凍結乾燥ヒドロゲル組成物が開示されている。凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、5wt%以下であってもよい。
【0006】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法が開示されている。該方法は、本明細書に記載されている1つ以上の実施形態に係る、凍結乾燥ヒドロゲル組成物に水又は水溶液を添加するステップを含んでもよい。
【0007】
ナノフィブリル及び/又はナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含む再構成ヒドロゲル組成物が開示されている。
【0008】
実施形態のさらなる理解を提供し、本明細書の一部を構成するために含まれる添付の図面は、様々な実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】賦形剤(左)を含まないが、300mMのスクロース(左中央)、300mMのトレハロース(右中央)、150mMのトレハロース及び333mMのグリシン(右)を含む、凍結乾燥NFC製剤のSEM画像を示す。同じ製剤のズーム画像は下に示される。矢印は、トレハロース又はスクロースのみを含む製剤で観察された個々の繊維状リボンの例を示す。略語:suc=スクロース、tre=トレハロース、gly=グリシン。
【
図2】300mMのスクロース(A)、150mMのトレハロース及び333mMのグリシン(B)、300mMのトレハロース(B)を含み、生体分子(対照物、D)(平均±S.D.、n=3)を含まないNFC製剤からの凍結乾燥ケーキの凍結乾燥前と再構成後の剪断速度粘度を示す。略語:FD=凍結乾燥。
【
図3】nNFC(天然NFC)ヒドロゲルFDed製剤の粘度及びその再構成を示す。
【
図4】nNFCヒドロゲル製剤のFDing及びnNFCの酵素分解後のPC3細胞株由来のEVのサイズ分布を示す。
【
図5】nNFC製剤のFDing、nNFCの再構成及び酵素分解、並びにnNFCヒドロゲル製剤を含まないEVのFDing後のPNT2細胞株由来のEVの量を示す。
【
図6】
図6Aは、トレハロースを含むFDed NFCの白色固体ケーキを示す。
図6Bは、トレハロース及びグリシンを含むFDed NFCの白色固体ケーキを示す。
図6Cは、トレハロース、グリシン及びDMSOを含むFDed NFCの白色固体ケーキを示す。
図6Dは、FDed NFCの白色固体ケーキの全体像を示す。
図6Eは、トレハロースを賦形剤として使用した場合のNFCの多孔質エアロゲル構造を示すSEM顕微鏡写真を示す。
図6Fは、トレハロースを賦形剤として使用した場合の規則構造のナノファイバーを示すSEM顕微鏡写真である。
【
図7】グリシン分子がある場合とない場合の分子モデリング系で研究された全ての糖の結合自由エネルギーを示す。
【
図8A】セルロースに対する誘引自由エネルギーに関するシミュレーション結果を示す。
【
図8B】セルロースに対する誘引自由エネルギーに関するシミュレーション結果を示す。
【
図9A】糖-セルロース水素結合がアミノ酸とともに増加したように見えることを示す。
【
図9B】糖-セルロース水素結合がアミノ酸とともに増加したように見えることを示す。
【
図10】新しいFDed PC3由来のEVのFTIRスペクトルを示す。
【
図11】生/死二重染色キットで染色されたFDed及び再構成3D細胞スフェロイドを示す。酵素活性が部分的に保存されているが(緑)、細胞膜が損傷しており、細胞は完全に生存していない(赤)。
【
図12】A)とB)は、3D細胞スフェロイドを有するFDed NFCエアロゲルの規則的な、多孔質の、構造、C)は、保存された3D構造及び形態を有するNFCエアロゲルにカプセル化された3D細胞スフェロイド、D)は、無傷細胞膜を有するNFCエアロゲルにカプセル化された3D細胞スフェロイドを示す、走査型電子顕微鏡(SEM)による顕微鏡写真である。NFCエアロゲルの非常に多孔質で相互接続された細孔がはっきりと見える。
【
図13】陽性対照物(左)とFDed及び再構成3D細胞スフェロイド(右)の細胞骨格、F-アクチン(緑)及び細胞核(青)を示す。
【
図14】細胞で使用される凍結乾燥サイクルの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ヒドロゲル組成物の凍結乾燥方法が開示されている。該方法は、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含むヒドロゲル組成物を提供するステップと、ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させることにより、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を得るステップと、を含む。
【0011】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物も開示されている。凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含んでもよい。ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、5wt%以下であってもよい。
【0012】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法は、本明細書に記載されている1つ以上の実施形態に係る、凍結乾燥ヒドロゲル組成物に水又は水溶液を添加するステップを含む。したがって、再構成ヒドロゲル組成物を得てもよい。
【0013】
再構成ヒドロゲル組成物も開示されている。再構成ヒドロゲルは、ナノフィブリル及び/又はナノ結晶、少なくとも1つの糖類、少なくとも1つのアミノ酸及び生物製剤を含んでもよい。再構成ヒドロゲル組成物は、本明細書に記載されている1つ以上の実施形態に係る、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成方法によって得られてもよい。
【0014】
凍結乾燥方法により、ヒドロゲル組成物及びそれに含まれる生物製剤を首尾よく乾燥させ、続いて再構成してもよい。低い残留水分含有量を達成してもよく、ヒドロゲル組成物の規則的な繊維マトリックス構造を得てもよい。凍結乾燥中の氷晶の形成を減少させるか、又は回避してもよい。更に、凍結乾燥及び再構成中に、ヒドロゲル組成物に含まれる生物製剤を十分に保存してもよい。例えば、凍結乾燥及び再構成中に、細胞膜、エクソソームの膜、又は他の脂質二重層などの脂質構造を安定したままであってもよい。さらなる例として、凍結乾燥及び再構成中に、細胞骨格を少なくとも部分的に無傷のままにしてもよい。細胞膜とその骨格が損傷されないとき、細胞は、生存し続け、増殖してもよい。
【0015】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、例えば、安定した長期保管及び/又は輸送に適してもよい。凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、例えば、室温での保管に適してもよい。
【0016】
理論に拘束されないが、少なくとも1つの糖類が水とセルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶の界面に集中することにより、凍結乾燥中及び凍結乾燥後のヒドロゲルの構造を保存するのを助ける可能性がある。少なくとも1つのアミノ酸は、少なくとも1つの糖類とセルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶との結合を増加させてもよい。したがって、少なくとも1つの糖類及び少なくとも1つのアミノ酸は、ヒドロゲル構造及びおそらく該構造に含まれる生物製剤の凍結保護剤として相乗的に機能してもよい。
【0017】
セルロースナノフィブリルを含むヒドロゲル組成物は、ナノフィブリル化セルロースヒドロゲルと呼ばれてもよい。
【0018】
本明細書の文脈では、「再構成する(reconstitute)」又は「再構成(reconstitution)」という用語は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の(残留)水分含有量が増加するか、又は凍結乾燥前の元の状態に戻るように、水及び/又は水溶液を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加することを指すと理解されてもよい。再構成すると、凍結乾燥ヒドロゲル組成物、例えば、エアロゲルは、(再び)ヒドロゲルを形成してもよい。
【0019】
本明細書の文脈では、「セルロースナノフィブリル」という用語は、ナノフィブリル化セルロースを指すと理解されてもよい。これらの用語は、交換可能に使用される。
【0020】
セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、植物由来のセルロース原料から調製されてもよい。原料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原料はまた、特定の細菌発酵プロセスから得られてもよい。一実施形態では、植物材料は、木材である。木材は、スプルース、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、ヘムロックなどの針葉樹、又は白樺、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナ、アカシアなどの広葉樹、又は針葉樹と広葉樹の混合物からのものである可能性がある。一実施形態では、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、木材パルプから得られる。一実施形態では、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、広葉樹パルプから得られる。一例では、広葉樹は、白樺である。一実施形態では、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、針葉樹パルプから得られる。
【0021】
セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、植物材料で製造されてもよい。一例では、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶は、二次細胞壁から得られてもよい。このようなセルロースフィブリルの1つの豊富な供給源は、木質繊維である。木材などの植物由来のセルロースパルプの最小のセルロース主体は、セルロース分子、エレメンタリーフィブリル及びミクロフィブリルを含む。ミクロフィブリルユニットは、表面の自由エネルギーを減少させるメカニズムとして、物理的に調整された合体によって引き起こされるエレメンタリーフィブリルの束である。
【0022】
セルロースナノフィブリルは、木材由来の繊維原料を均質化することにより製造されてもよく、化学パルプでもよい。セルロース繊維を機械的に分解してnm範囲の直径、200nm以下、又は50nm以下であってもよく、例えば、1~200nm又は1~100nmである直径を有するフィブリルを製造し、フィブリルを水中に分散させてもよい。セルロースナノフィブリルは、I型セルロースであってもよい。フィブリルは、ほとんどのフィブリルの直径が2~20nmの範囲にあるサイズに縮小されてもよい。二次細胞壁に由来するフィブリルは、本質的に、少なくとも55%の結晶化度を有する結晶性であってもよい。このようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる特性を有してもよく、例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水は、より困難であってもよい。
【0023】
本明細書の文脈では、「セルロースナノフィブリル」という用語は、セルロース系繊維原料から分離されたセルロースフィブリル又はフィブリル束を指してもよい。これらのフィブリルは、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、ここで、長さが1μmを超えてもよく、直径が一般に200nm未満のままである。最小のフィブリルは、いわゆるエレメンタリーフィブリル(elementary fibril)のスケールであり、それらの直径が一般に2~12nmの範囲にある。フィブリルの寸法とサイズ分布は、精製方法と効率に依存してもよい。セルロースナノフィブリルは、セルロース系材料として特徴付けられ、ここで、粒子(フィブリル又はフィブリル束)の長さの中央値が50μm以下、例えば1~50μmの範囲内にあり、粒径が1μm未満、例えば2~500nmの範囲内にある。天然セルロースナノフィブリルの場合、一実施形態では、フィブリルの平均直径は、5~100nmの範囲、例えば、10~50nmの範囲にある。無傷の、フィブリル化されていないミクロフィブリルユニットは、ナノフィブリル又はヒドロゲル組成物中に存在してもよい。本明細書の文脈では、「セルロースナノフィブリル」という用語は、非線維性の棒状のセルロースナノ結晶又はウィスカーを包含することを意味するものではない。
【0024】
「セルロースナノ結晶」という用語は、本明細書の文脈では、非線維性の棒状のセルロースナノ結晶を指すと理解されてもよい。セルロースナノ結晶は、高結晶性材料であり、セルロースナノ結晶(CNC)、セルロースのナノ結晶(NCC)又はセルロースナノウィスカー(CNW)と呼ばれてもよい。ナノ結晶は、棒状で硬く、サイズ分布が狭く、ナノフィブリルよりも短い。ナノ結晶はまた、低い粘度と降伏強度を有し、典型的に、ナノフィブリル化セルロースのように良好な保水性を有していない。セルロースナノ結晶は、約2~30nmの幅を有してもよい。セルロースナノ結晶は、約100nm~数マイクロメートル、又は例えば100~250nmの長さを有してもよい。それら晶は、セルロース繊維の酸加水分解によって得ることができるか、又は得られてもよく。これにより、セルロース繊維の非結晶領域を選択的に分解してもよい。加水分解の初期段階では、酸をセルロース繊維の非結晶部分に拡散して、グリコシド結合を加水分解してもよい。これらの後、セルロース繊維中のより容易にアクセス可能なグリコシド結合を加水分解してもよい。最後に、加水分解は、還元末端基とナノ結晶の表面で起こってもよい。
【0025】
セルロースナノフィブリルに関連する命名法は、現在均一ではなく、用語は、文献で一貫して使用されていない可能性がある。例えば、セルロースナノファイバー(CNF)、ナノフィブリルセルロース、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、ナノセルロース、ナノスケールフィブリル化セルロース、ミクロフィブリルセルロース、セルロースミクロフィブリル、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)及びフィブリルセルロースという用語は、セルロースナノフィブリル及び/又はナノフィブリル化セルロースの同義語として使用されてもよい。
【0026】
したがって、セルロースナノフィブリルを含むヒドロゲルは、例えば本明細書ではナノフィブリル化セルロース(NFC)ヒドロゲルを指してもよい。
【0027】
セルロースナノフィブリルは、大きな比表面積と水素結合を形成する強力な能力によって特徴付けられる。水分散体では、セルロースナノフィブリルは典型的に、軽いか又は濁ったゲル状の材料として現れる。繊維原料に応じて、セルロースナノフィブリルは、ヘミセルロース又はリグニンなどの他の木材成分を少量含んでもよい。量は、植物供給源に依存する。
【0028】
セルロースナノフィブリルの異なるグレードは、(i)サイズ分布、長さ、直径、(ii)化学組成及び(iii)レオロジー特性という3つの主要な特性に基づいて分類されてもよい。グレードを完全に説明するために、特性を並行して使用してもよい。異なるグレードの例としては、天然(又は非修飾)セルロースナノフィブリル、酸化セルロースナノフィブリル(高粘度)、酸化セルロースナノフィブリル(低粘度)及びカルボキシメチル化セルロースナノフィブリルが挙げられる。これらのメイングレード内には、サブグレード、例えば、非常によくフィブリル化することと中程度にフィブリル化すること、高置換度と低置換度、低粘度と高粘度も存在してもよい。フィブリル化技術と化学的前修飾は、フィブリルサイズ分布に影響を与えてもよい。典型的に、非イオン性グレードは、広いフィブリル径(例えば、10~100nm又は10~50nmの範囲)を有してもよく、化学修飾グレードは、細いフィブリル径(例えば、2~20nmの範囲)を有してもよい。修飾グレードについて、フィブリルの寸法の分布は、狭くなってもよい。特定の修飾、特にTEMPO酸化により、より短いフィブリルを得てもよい。
【0029】
広葉樹(HW)パルプと針葉樹(SW)パルプなどの原料供給源に応じて、最終的なナノフィブリル化製品に異なる多糖類組成物が存在してもよい。一般に、非イオン性グレードは、漂白された白樺パルプで調製され、高いキシレン含有量(25wt%)をもたらしてもよい。修飾グレードは、HW又はSWパルプのいずれかから調製されてもよい。このような修飾グレードでは、ヘミセルロースもセルロースドメインと一緒に修飾されてもよい。修飾は、不均質であってもよく、つまり、一部が他の部分よりも大幅に修飾されてもよい。したがって、詳細な化学分析は可能でなくてもよく-修飾物は、典型的に、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0030】
水性環境では、セルロースナノフィブリルの分散体は、粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成してもよい。ゲルは、比較的低濃度、例えば、0.05~0.2%(w/w)で分散及び水和した絡み合ったフィブリルを形成されてもよい。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば、動的振動レオロジー測定によって特徴付けられてもよい。セルロースナノフィブリルヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示してもよい。例えば、これらは、剪断減粘性又は擬塑性(shear-thinning or pseudoplastic)材料であり、これは、それらの粘度が、材料が変形する速度(又は力)に依存することを意味する。回転式レオメータ(rheometer)で粘度を測定する場合、剪断減粘性挙動は、剪断速度の増加に伴う粘度の低下として見られる。ヒドロゲルは、塑性挙動を示し、これは、材料が容易に流れ始まる前に、特定の剪断応力(力)を必要とすることを意味する。この臨界剪断応力は、降伏応力と呼ばれることが多い。降伏応力は、応力制御レオメータで測定された定常状態の流動曲線により決定することができる。粘度を加えられた剪断応力の関数としてプロットする場合、臨界剪断応力を超えた後、粘度の劇的な低下が見られる。ゼロ剪断粘度と降伏応力は、材料の懸濁力を説明するための最も重要なレオロジーパラメータであってもよい。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に区別してもよいため、グレードを分類してもよい。
【0031】
フィブリル又はフィブリル束の寸法は、原料及び分解方法に依存してもよい。セルロース原料の機械的分解は、リファイナー、グラインダー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイド、摩擦グラインダー、ピンミル、ロータ-ロータ分散機、超音波処理器、マイクロフルイダイザー及びマクロフルイダイザー又はフルイダイザー型ホモジナイザーなどのフルイダイザーなどの任意の適切な装置を使用して実施してもよい。分解処理は、繊維間の結合の形成を防止するために水が十分に存在する条件で実行してもよい。
【0032】
一例では、分解は、ロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、又は同様の可動機械部材を有する分散機を使用することによって実施される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0033】
分解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミルなどのピンミルである。そのような装置の一例は、US6202946B1に記載されている。
【0034】
一実施形態では、分解は、ホモジナイザーを使用することによって実施される。
【0035】
本明細書の文脈では、「フィブリル化」という用語は、一般に、粒子に施された作業によって繊維材料を機械的に分解することにより、セルロースフィブリルが繊維又は繊維断片から分離されることを指してもよい。該作業は、粉砕、破砕又は剪断、又はこれらの組み合わせ、又は粒子サイズを縮小する別の対応する動作などの様々な効果に基づいてもよい。精製作業にかかるエネルギーは、一般に、処理される原料の量あたりのエネルギーで、例えば、kWh/kg、MWh/トン、又はこれらに比例する単位で表される。「分解」又は「分解処理」という表現は、「フィブリル化」と交換可能に使用されてもよい。フィブリル化を受ける繊維材料分散体は、繊維材料と水(又は水溶液)との混合物であってもよく、本明細書では「パルプ」とも呼ばれる。繊維材料の分散体は、一般に、繊維全体、それらから分離された部分(断片)、フィブリル束、又は水と混合されたフィブリルを指してもよく、典型的に、水性繊維材料分散体は、そのような要素の混合物であり、成分間の比率が、処理程度又は処理段階、例えば、同じバッチの繊維材料の処理を実行するか又は「通過」する回数に依存する。
【0036】
分解された繊維状セルロース原料は、修飾されたか又は修飾されていない繊維原料であってもよい。修飾された繊維原料とは、繊維が修飾処理の影響を受けて、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に分離できる原料を意味する。修飾は、液体中の懸濁液、例えば、パルプとして存在する繊維状セルロース原料に対して実行されてもよい。
【0037】
繊維への修飾処理は、化学的処理又は物理的処理であってもよい。化学修飾では、セルロース分子の化学構造は、化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変化して、例えば、セルロース分子の長さが影響を受けないが、官能基がポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に付加される。セルロースの化学修飾は、反応物の投与量と反応条件に依存する特定の変換度で起こってもよく、多くの場合、完全ではないため、セルロースがフィブリルとして固体の形で留まり、水に溶解しない。物理的修飾では、アニオン、カチオン、又は非イオン性物質、又はこれらの任意の組み合わせは、セルロース表面に物理的に吸着されてもよい。修飾処理はまた、酵素的処理であってもよい。セルロースのイオン電荷が繊維の内部結合を弱め、後でセルロースナノフィブリルへの分解を促進してもよいため、繊維中のセルロースは、修飾後に特にイオン的に帯電してもよい。イオン電荷は、セルロースの化学的又は物理的修飾によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比較して、修飾後に高いアニオン又はカチオン電荷を有してもよい。アニオン電荷を生成するために一般的に使用される化学修飾法は、ヒドロキシル基がアルデヒド及びカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化及びカルボキシメチル化を含む。次に、カチオン電荷は、第四級アンモニウム基などのカチオン基をセルロースに結合させることによるカチオン化によって化学的に生成されてもよい。
【0038】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化では、セルロースの一級ヒドロキシル基は、複素環ニトロキシル化合物、例えば、一般に「TEMPO」と呼ばれる2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって触媒的に酸化されてもよい。少なくともいくつかのセルロース系β-D-グルコピラノース単位の一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、選択的に酸化されてカルボキシル基になってもよい。いくつかのアルデヒド基はまた、一級ヒドロキシル基で形成されてもよい。セルロースは、導電率滴定によって決定される、酸化セルロース中のカルボン酸含有量が0.6~1.4mmolのCOOH/gパルプ、又は0.8~1.2mmolのCOOH/gパルプの範囲、例えば1.0~1.2mmolのCOOH/gであるレベルまで酸化されてもよい。このようにして得られた酸化セルロースの繊維は、水中で分解すると、例えば、幅が3~5nmであり得る、個別化されたセルロースフィブリルの安定した透明な分散体を提供してもよい。
【0039】
セルロースナノフィブリルはまた、平均直径(若しくは幅)によって、又はブルックフィールド粘度若しくはゼロ剪断粘度などの粘度と平均直径によって特徴付けられてもよい。一実施形態では、上記セルロースナノフィブリルは、1~100nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。一実施形態では、セルロースナノフィブリルは、1~50nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。一実施形態では、セルロースナノフィブリルは、TEMPO酸化ナノフィブリル化セルロースのように、2~15nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。1つ以上のフィブリルの直径は、顕微鏡による検査などのいくつかの技術を使用して決定されてもよい。フィブリルの厚さ及び幅の分布は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、極低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般に、AFM及びTEMは、フィブリルの直径分布が狭いセルロースナノフィブリルグレードに適する。
【0040】
セルロースナノフィブリル又はヒドロゲル組成物の粘度は、レオメータで測定されてもよい。一例では、ナノフィブリル化セルロース分散体のレオメータによる粘度は、直径30mmの円筒形のサンプルカップ内に狭いギャップのベーン(直径28mm及び長さ42mmを有するベーン)形状を備えた応力制御回転式レオメータ(AR-G2、TA Instruments、UK)を用いて22℃で測定される。サンプルをレオメータに入れた後、測定を開始する前にそれらのサンプルを5分間静置する。定常状態の粘度は、(加えられたトルクに比例する)徐々に増加させる剪断応力及び(角速度に比例する)剪断速度を測定することにより測定される。特定の剪断応力で報告された粘度(=剪断応力/剪断速度)は、一定の剪断速度に達した後、又は最大2分後に記録される。1000s-1の剪断速度を超えると、測定が停止する。この方法は、ゼロ剪断粘度を決定するために使用されてもよい。
【0041】
一例では、セルロースナノフィブリルは、水に分散される場合、水性媒体中の0.5wt%(w/w)の濃度(コンシステンシー(consistency))で回転式レオメータによって決定された、1000~100000Pa・sの範囲、例えば、5000~50000Pa・sの範囲のゼロ剪断粘度(小さな剪断応力で一定粘度の「プラトー」)と、1~50Paの範囲、例えば、3~15Paの範囲の降伏応力(剪断減粘が始まる剪断応力)とを提供する。
【0042】
セルロースナノフィブリルは、水中で0.5w%の濃度に分散される場合、0.3~50Paの範囲の貯蔵弾性率を有してもよい。例えば、貯蔵弾性率は、水中で0.5w%の濃度に分散される場合、1~20Paの範囲、又は2~10Paの範囲にあってもよい。
【0043】
濁度は、肉眼で一般に見えない個々の粒子(完全に懸濁又は溶解した固体)によって引き起こされる流体の濁り又は曇りである。濁度を測定する実際的な方法はいくつかあるが、最も直接的な方法は、サンプルの水柱を通過する際の光の減衰(つまり、強度の低下)の測定である。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット又はJTU)は、本質的に、水柱を通して見たキャンドルの炎を完全に隠すために必要な水柱の長さの逆測度である。
【0044】
濁度は、光学濁度測定器を用いて定量的に測定してもよい。濁度を定量的に測定するために利用できるいくつかの市販の濁度計がある。この場合、比濁法(nephelometry)に基づく方法が使用される。校正された比濁計からの濁度の単位は、比濁法濁度単位(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)は、標準の校正サンプルで校正され制御され、続いて希釈されたNFCサンプルの濁度を測定する。濁度測定法では、ナノフィブリル化セルロースサンプルを水中でナノフィブリル化セルロースのゲル化点以下の濃度に希釈し、希釈したサンプルの濁度を測定してもよい。セルロースナノフィブリルサンプルの濁度が測定される濃度は、0.1%であってもよい。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計を濁度測定に使用してもよい。セルロースナノフィブリルサンプルの乾かした物を測定し、乾かした物として計算した0.5gのサンプルを測定容器に入れてもよく、該測定容器に500gの水道水を入れ、約30秒間振とうして激しく混合してもよい。遅滞なく、濁度計に挿入されてもよい5つの測定容器に水性混合物を分割してもよい。各容器に対して3回の測定を実施してもよい。得られた結果から平均値と標準偏差を計算し、最終結果をNTU単位で求めてもよい。
【0045】
セルロースナノフィブリル又はそれらを含むヒドロゲルを特徴づける1つの方法は、粘度と濁度の両方を定義することである。小さなフィブリルの光の散乱が不十分であるため、低濁度は、フィブリルの小さいサイズ、例えば、小径と相関してもよい。一般に、フィブリル化度が増加すると、粘度が増加すると同時に濁度が低下する。しかしながら、これは、特定の時点まで発生してもよい。フィブリル化が更に続くと、フィブリルは、最終的に壊れ始め、強力なネットワークを形成できなくなる可能性がある。したがって、この時点以降、濁度と粘度の両方が低下し始める可能性がある。
【0046】
一例では、アニオンセルロースナノフィブリル又はそれらを含むヒドロゲルの濁度は、90NTU未満、例えば3~90NTU、例えば5~60、例えば8~40であり、水性媒体中で0.1%(w/w)の濃度で測定され、かつ比濁法で測定される。一例では、天然セルロースナノフィブリル又はそれらを含むヒドロゲルの濁度は、200NTUを超え、例えば10~220NTU、例えば20~200、例えば50~200であり、水性媒体中で0.1%(w/w)の濃度で測定され、かつ比濁法で測定されてもよい。セルロースナノフィブリル又はそれらを含むヒドロゲルを特徴づけるために、これらの濁度範囲は、セルロースナノフィブリル又はそれらを含むヒドロゲルの粘度範囲と組み合わせてもよい。
【0047】
ヒドロゲル組成物は、例えば、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶を含むヒドロゲルを、少なくとも1つの糖類及び少なくとも1つのアミノ酸を含む溶液と混合することによって提供されてもよい。生物製剤は、ヒドロゲル及び溶液と混合されてもよいか、又は、例えば、ヒドロゲルに含まれてもよい(例えば、生物製剤をヒドロゲル内で培養した結果)。
【0048】
ヒドロゲル組成物(すなわち、凍結乾燥前のヒドロゲル組成物)は、細胞培養培地を含んでもよい。この方法は、ヒドロゲル組成物を凍結乾燥させる前に、ヒドロゲル組成物から細胞培養培地を少なくとも部分的に除去し、かつ細胞培養培地を少なくとも1つの糖類及び少なくとも1つのアミノ酸を含む溶液に置換するステップを更に含んでもよい。
【0049】
ヒドロゲル組成物(凍結乾燥前)中の少なくとも1つの糖類の含有量又は濃度は、100~1000mMの範囲にあってもよい。上記含有量又は濃度は、代替的又は追加的に、150~500mMの範囲にあってもよい。少なくとも1つの糖類が2つ以上の糖類を含む実施形態では、2つ以上の糖類の総(すなわち、組み合わされた)含有量又は濃度は、100~1000mM又は150~500mMの範囲にあってもよい。
【0050】
ヒドロゲル組成物(凍結乾燥前)中の少なくとも1つのアミノ酸の含有量又は濃度は、50~700mMの範囲にあってもよい。上記含有量又は濃度は、代替的又は追加的に、100~500mMの範囲にあってもよい。少なくとも1つのアミノ酸が2つ以上のアミノ酸を含む実施形態では、2つ以上のアミノ酸の総(すなわち、組み合わされた)含有量又は濃度は、50~700mM又は100~500mMの範囲にあってもよい。
【0051】
ヒドロゲル組成物の濃度、コンシステンシー(concentration、consistency)は、例えば、2wt%以下、1wt%以下、又は0.2~2wt%であってもよい。
【0052】
セルロースナノフィブリルは、天然、すなわち未修飾のセルロースナノフィブリルを含むか、又はそれらであってもよい。
【0053】
一実施形態では、セルロースナノフィブリルは、陰イオン的に修飾されたセルロースナノフィブリルなどの化学的に修飾されたセルロースナノフィブリルを含む。一実施形態では、セルロースナノフィブリルは、陰イオン的に(anionically)修飾されたセルロースナノフィブリルである。一実施形態では、陰イオン的に修飾されたセルロースナノフィブリルは、酸化セルロースナノフィブリルである。一実施形態では、陰イオン的に修飾されたセルロースナノフィブリルは、スルホン化セルロースナノフィブリルである。一実施形態では、陰イオン的に修飾されたセルロースナノフィブリルは、カルボキシメチル化セルロースナノフィブリルである。
【0054】
凍結乾燥は、例えば熱敏感性生物学的製品の乾燥に適した保存方法である。凍結乾燥は、タンパク質医薬品、ワクチン及びその他の生物製剤の保存に広く使用される。凍結乾燥プロセスでは、まず、ヒドロゲル組成物を凍結乾燥チャンバ内でそのガラス転移(Tg’)温度以下に凍結してもよく、これは、凍結段階と呼ばれてもよい。次に、水の三重点の下で凍結乾燥チャンバ内の圧力を低下させてもよく、これは、一次乾燥段階と呼ばれてもよい。一次乾燥は、ヒドロゲル組成物に含まれる凍結水の昇華をもたらすことができる。一次乾燥後、ヒドロゲル組成物を加熱し、温度をゆっくりと上昇させて、凍結していない結合水を更に昇華させてもよく、これは、二次乾燥段階と呼ばれてもよい。換言すれば、凍結乾燥は、ヒドロゲル組成物の凍結、一次乾燥段階及び二次乾燥段階を含んでもよい。このプロセスの製品は、室温で冷蔵庫に保管され、水又は適切な水溶液を添加することによって再構成されることができる乾燥固体製剤であってもよい
【0055】
例えば、ヒドロゲル組成物がそのガラス転移温度より低い温度に達するまで、ヒドロゲル組成物が保持される温度を0.5~2℃/分で低下させることによってヒドロゲル組成物を凍結してもよく、一次乾燥段階では、圧力を約30~100mTorrに低下させ、温度を約-40~-60℃に上昇させてもよく、二次乾燥段階では、ヒドロゲル組成物が室温(例えば、約20~25℃)に達するまで、ヒドロゲル組成物が保持される温度を0.5~2℃/分で上昇させる。
【0056】
さらなる例として、ヒドロゲル組成物が約-55℃に達するまで、ヒドロゲル組成物が保持される温度を1℃/分で低下させることによってヒドロゲル組成物を凍結してもよく、一次乾燥段階では、圧力を約100mTorrに低下させ、温度を約-40~-50℃に上昇させてもよく、二次乾燥段階では、ヒドロゲル組成物が室温(例えば、約20~25℃)に達するまで、ヒドロゲル組成物が保持される温度を1℃/分で上昇させる。
【0057】
凍結乾燥は、ヒドロゲル組成物の温度がヒドロゲル組成物の崩壊温度より低く維持されるように、残留水分含有量を監視することによって、及び/又は温度勾配で温度の低下を制御することによって実行されてもよい。崩壊温度よりも高い温度での凍結乾燥は、ヒドロゲル組成物の崩壊をもたらすことができる一方、より低い温度での凍結乾燥は、より長い凍結乾燥サイクルをもたらすことにより、より高価な凍結乾燥サイクルをもたらすことができる。
【0058】
凍結乾燥前にヒドロゲル組成物のガラス転移温度を測定してもよく、かつ測定されたガラス転移温度に基づいて凍結乾燥サイクルを調整してもよい。次に、ヒドロゲル組成物の温度をヒドロゲル組成物のガラス転移温度より低く維持してもよい。
【0059】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量が比較的低くでもよいため、少なくともいくつかの実施形態では、凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、エアロゲル又はエアロゲル組成物であると考えられてもよい。
【0060】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、例えば、4wt%以下、2wt%以下、1wt%以下、0.2~3wt%、又は0.5~2wt%であってもよい。残留水分含有量は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の生物製剤の残留水分含有量を含んでもよい。換言すれば、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の残留水分含有量は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の全ての成分の総残留水分含有量であってもよい。したがって、残留水分含有量は、例えば、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の生物製剤の(相対的)量及び/又は生物製剤の特性に依存してもよい。例えば、細胞は、例えば、凍結乾燥ヒドロゲル組成物のヒドロゲル部分と比較して、より高い残留水分含有量を含んでもよい。残留水分含有量はまた、例えば、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の少なくとも1つの糖類の含有量及び/又は少なくとも1つのアミノ酸の含有量に依存してもよい。
【0061】
残留水分含有量は、水の量、例えば、凍結乾燥の二次乾燥段階中及び/又は後に凍結乾燥ヒドロゲル組成物中に残留する、凍結乾燥ヒドロゲル組成物に結合された水の量を指すと理解されてもよい。残留水分含有量は、例えば実施例に記載されるように、滴定によって決定されてもよい。凍結乾燥中に水が除去されるため、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成には、残留水分の量が重要である可能性があるが、氷の結晶の形成によって生物製剤に損傷を与えるような大量の水が存在するべきではないことが好ましい。
【0062】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、凍結乾燥エアロゲル又は凍結乾燥エアロゲル組成物であってもよい。
【0063】
少なくとも1つのアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸及び/又はタンパク質を構成するアミノ酸などの、任意の適切なアミノ酸を含んでもよいか、又は任意の適切なアミノ酸であってもよい。少なくとも1つのアミノ酸は、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セレノシステイン、プロリン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、バリン、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0064】
少なくとも1つのアミノ酸は、正に帯電した側鎖を有する、アルギニン、ヒスチジン、リジン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0065】
少なくとも1つのアミノ酸は、負に帯電した側鎖を有する、アスパラギン酸、グルタミン酸、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0066】
少なくとも1つのアミノ酸は、帯電していない側鎖を有する、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0067】
少なくとも1つのアミノ酸は、グリシン、システイン、セレノシステイン、プロリン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0068】
少なくとも1つのアミノ酸は、疎水性側鎖を有する、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのアミノ酸のうちの1つ以上を含んでもよいか、又はそれらのうちの1つ以上であってもよい。
【0069】
本明細書に記載されている任意のアミノ酸は、上記アミノ酸のL-立体異性体であってもよい。
【0070】
少なくとも1つのアミノ酸は、グリシン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせを含んでもよいか、又はそれらであってもよい。
【0071】
少なくとも1つのアミノ酸は、グリシンを含むか、又はそれであってもよい。
【0072】
少なくとも1つのアミノ酸は、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、及び/又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせを含んでもよいか、又はそれらであってもよい。
【0073】
少なくとも1つの糖類は、二糖類、三糖類、オリゴ糖、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよいか、又はそれらのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0074】
少なくとも1つの糖類は、二糖類、三糖類、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよいか、又はそれらのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0075】
本明細書の文脈では、「オリゴ糖」という用語は、少なくともいくつかの実施形態では、3~10又は3~6個の単糖単位(残基)を含む糖類を指すと理解されてもよい。
【0076】
二糖類の例としては、例えば、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース、トレハロース、メリビオース及びゲンチオビオースが挙げられる。
【0077】
少なくとも1つの糖類は、スクロース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、グルコース、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよいか、又ははそれらのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0078】
少なくとも1つの糖類は、スクロース、トレハロース、ラクトース、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよいか、又はそれらのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0079】
少なくとも1つの糖類は、少なくとも1つの非還元性糖類であってもよいか、又は少なくとも1つの非還元性糖類を含んでもよい。しかしながら、糖類の減少も考慮されてもよい。
【0080】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の少なくとも1つの糖類の含有量は、15~80mol%又は30~70mol%の範囲にあってもよい。
【0081】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の少なくとも1つのアミノ酸の含有量は、15~60mol%の範囲にあってもよい。
【0082】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の少なくとも1つの糖類及び/又は少なくとも1つのアミノ酸のモル百分率(mol%)は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の全ての分子(水を含む)に対するモル百分率、すなわち、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の全ての成分(分子)の総量で除される少なくとも1つの糖類及び/又は少なくとも1つのアミノ酸(モル)の量として理解されてもよい。
【0083】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物中の少なくとも1つの糖類及び/又は少なくとも1つのアミノ酸のモル百分率(mol%)は、例えば、凍結乾燥ヒドロゲル組成物中のセルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶のmol%に依存してもよい。
【0084】
凍結乾燥ヒドロゲル組成物及び/又はヒドロゲル組成物中の少なくとも1つの糖類の含有量と少なくとも1つのアミノ酸の含有量との比率は、10:1~1:5の範囲にあってもよい。追加的又は代替的に、少なくとも1つの糖類の含有量と少なくとも1つのアミノ酸の含有量との比率は、6:1~1:4の範囲にあってもよい。
【0085】
凍結乾燥前にpH、オスモル濃度(osmolarity)、及び/又はイオン強度などのヒドロゲル組成物の様々な物理化学的特性を制御してもよい。例えば、ヒドロゲル組成物のオスモル濃度を調整又は制御して、再構成に適したヒドロゲル組成物のオスモル濃度を提供し、例えば、脂質構造の安定性を高めるか、又はその他、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の特性を最適化してもよい。例えば、HEPES、他の適切な緩衝剤又は他の適切な成分は、ヒドロゲル組成物のオスモル濃度が再構成に適しているような濃度でヒドロゲル組成物に含まれてもよい。したがって、浸透圧の結果としての細胞膜などの脂質構造の破壊を回避又は低減することができる。オスモル濃度が適切であれば、水(淡水、オスモル濃度に影響する追加の成分を含まない)を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加して、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を再構成してもよい。
【0086】
「生物製剤」という用語は、本明細書の文脈では、生物源から製造、抽出又は半合成された医薬製品又は生物学的製剤を指すと理解されてもよい。生物製剤は、ワクチン、全血、血液成分、アレルギー剤、体細胞、遺伝子治療用の材料、組織、組換え治療用タンパク質及び/又は細胞治療用の生薬を含んでもよい。生物製剤は、糖、タンパク質、核酸又はこれらの物質の組み合わせを含んでもよい。生物製剤は、代替的又は追加的に、生細胞又は組織を含んでもよい。生物製剤(又はそれらの前駆体又は成分)は、生物源(例えば、ヒト、動物、植物、真菌又は微生物源)から単離されてもよい。
【0087】
生物製剤は、脂質を含んでもよいか、又は脂質を更に含んでもよい。例えば、生物製剤は、脂質膜及び/又は脂質二重層を含んでもよい。
【0088】
生物製剤は、スフェロイドなどの細胞、組織若しくはその一部、オルガノイド、微小器官、細胞成分、エクソソームなどの細胞外小胞、ウイルス粒子、及び/又は脂質ナノ粒子及び/又はリポソームなどの脂質ベースの輸送手段を含んでもよいか、又はそれらであってもよい。
【0089】
細胞は、例えば、3D細胞スフェロイドであってもよい。しかしながら、様々なタイプの細胞は、ヒドロゲル組成物に培養され、含まれてもよい。細胞は、細菌細胞などの原核細胞であってもよいか、又は真核細胞であってもよい。真核細胞は、植物細胞、酵母細胞又は動物細胞であってもよい。真核細胞の例としては、幹細胞などの移植可能な細胞が挙げられる。細胞は、動物細胞又はヒト細胞であってもよい。細胞は、培養細胞であってもよい。真核細胞の例としては、幹細胞などの移植可能な細胞、例えば、全能性、多能性、多分化能性、少能性又は単能性細胞が挙げられる。
【0090】
細胞の特定の例としては、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、完全に分化した細胞及び/又はそれらの組み合わせが挙げられる。幹細胞は、未分化細胞又は部分的に分化した細胞であり、細胞分裂を通して自身を再生することができ、多系統細胞に分化することができる。これらの細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、造血幹細胞(HSC)及び成体幹細胞に分類されてもよく、組織特異的又は体性幹細胞と呼ばれてもよい。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、沈着した細胞株からのものであってもよいか、又は未受精卵、すなわち「単為生殖」卵から、又は単為生殖的に活性化された卵子から産生されてもよいため、ヒト胚が破壊されない。細胞は、細胞の外で発生する動物又はヒトベースの化学物質なしで、ヒドロゲル上又はヒドロゲル内に維持し増殖することができる。細胞は、ヒドロゲル上又はヒドロゲル内に均一に分散されてもよい。したがって、細胞の例としては、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、完全に分化した細胞及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、細胞は、角膜実質細胞、角化細胞、線維芽細胞、上皮細胞及びそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞型を含む。いくつかの例では、細胞は、幹細胞、始原細胞、前駆細胞、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、平滑筋細胞、間質細胞、間葉系細胞、免疫系細胞、造血細胞、肝細胞、樹状細胞、毛包細胞及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。細胞は、腫瘍若しくは癌細胞、トランスジェニック細胞、シスジェニック細胞若しくはノックアウト細胞などの遺伝的に修飾された細胞、又は病原性細胞であってもよい。このような細胞は、例えば、医薬品研究又は治療に使用されてもよい。特に、幹細胞は、例えば患者に提供される治療用途に使用されてもよい。しかしながら、他の様々なタイプの細胞も考慮されてもよい。
【0091】
組織は、例えば、生検タイプの組織片であってもよい。
【0092】
細胞外小胞(EV)は、様々な生理学的イベントで機能する細胞によって生成される小胞である。細胞外小胞は、リン脂質二重層を含み、細胞質ゾルとして小胞内に様々な化合物を含んでもよい。EVは、例えば、微小胞(細胞膜から分泌され、直径100~1000nm)、エクソソーム(細胞の内部から形成され、直径が50~120nm)、及び/又はアポトーシス小体(直径50~5000nm、アポトーシスを受けている細胞から分泌される)を含んでもよい。EVは、生物学的タスクに応じて、構造(表面タンパク質など)と積荷(RNA、タンパク質、gDNAなど)の両方の点で異なってもよい。
【0093】
脂質ナノ粒子は、脂質を含むナノ粒子である。脂質ナノ粒子は、球状であってもよい。脂質ナノ粒子の平均直径は、約10~1000nmである。脂質ナノ粒子は、乳化剤によって安定化されてもよい固体脂質コアマトリックスを含んでもよい。
【0094】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を有する球形の小胞である。リポソームは、例えば、mRNAワクチン及びDNAワクチン中の脂質ナノ粒子などの栄養素及び医薬品を投与するための輸送手段として使用することができる。リポソームは、(超音波処理などの手法で)生体膜を破壊することによって調製することができる。リポソームは、リン脂質、特にホスファチジルコリンを含んでもよいが、卵黄ホスファチジルエタノールアミンなどの他の脂質も含んでもよい。主要なタイプのリポソームは、多層小胞(いくつかのラメラ相の脂質二重層を含むMLV)、小型単層小胞(1つの脂質二重層を含むSUV)、大型単層小胞(LUV)、渦巻型小胞及び多小胞リポソーム(1つの小胞が1つ以上のより小さな小胞を含む)を含んでもよい。
【0095】
脂質ナノ粒子及び/又はリポソーム、又は細胞外小胞などの脂質ベースの輸送手段は、他の成分を更に含んでもよい。例えば、脂質ベースの輸送手段は、抗体などのタンパク質、DNA及び/又はRNAを含んでもよい。しかしながら、他の様々な成分も考慮されてもよい。
【0096】
水溶液は、例えば、緩衝液、生理食塩水、細胞培養培地、又はそれらの混合物若しくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよいか、又はそれらのうちの少なくとも1つであってもよい。細胞培養培地は、希釈されてもよい。この文脈では、「希釈される」という用語は、細胞の培養にすぐに使用できる濃度(1倍の濃度と考えられてもよい)よりも更に希釈された細胞培養培地を指すと考えられてもよい。水溶液は、生体適合性、すなわち、生物製剤との適合性があってもよい。
【0097】
例えば、まず、水を凍結乾燥ヒドロゲル組成物に添加し、続いて、細胞培養培地又は希釈された細胞培養培地などの水溶液を添加してもよい。
【0098】
水及び/又は水溶液を添加するとき及び/又は添加した後に、凍結乾燥ヒドロゲル組成物を機械的に振とうし、例えば、撹拌してもよい。しかしながら、機械的振とうは、比較的穏やかであり得る。凍結乾燥ヒドロゲル組成物は、水及び/又は水溶液を非常に容易に吸収してもよく、比較的容易に再構成されてもよい。したがって、再構成は、細胞に対して比較的穏やかであり得る。
【0099】
生物製剤が細胞、組織又はその一部である実施形態では、オルガノイド、微小器官又はウイルス粒子、例えば、少なくとも5%の細胞又はウイルス粒子は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成後に生存可能であってもよい。様々な要因に応じて、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%の細胞又はウイルス粒子は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成後に生存可能であってもよい。
【0100】
生物製剤が例えば細胞外小胞である実施形態では、例えば、少なくとも5%の細胞外小胞は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成後に機能的及び/又は構造的に保存されてもよい。様々な要因に応じて、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%の細胞外小胞は、凍結乾燥ヒドロゲル組成物の再構成後に機能的及び/又は構造的に保存されてもよい。細胞外小胞の機能性は、例えば細胞生存率アッセイを使用して決定されてもよい。
【0101】
生物製剤は、再構成ヒドロゲル組成物から収集されてもよい。収集は、例えば、セルロースナノフィブリル及び/又はセルロースナノ結晶を酵素分解することと、再構成ヒドロゲル組成物から放出される生物製剤を収集することとによって実行されてもよい。
【0102】
ヒドロゲル組成物、凍結乾燥ヒドロゲル組成物及び/又は再構成ヒドロゲル組成物は、例えば、細胞板フォーマットで又は別の固相担体上に提供されてもよい。
【0103】
したがって、ヒドロゲル組成物、凍結乾燥ヒドロゲル組成物及び/又は再構成ヒドロゲル組成物を含む固相担体も開示されている。固相担体は、例えば、24、48、96、384又は1536ウェルプレートなどのウェルプレートであってもよい。固相担体は、使用目的に応じて、例えば、バッグ、ボトル、カラム、注射器又はガラスバイアルであってもよい。そのような固相担体は、スフェロイドなどの細胞などの適切な生物製剤、組織若しくはその一部、オルガノイド、微小器官、細胞成分、エクソソームなどの細胞外小胞、及び/又はウイルス粒子を含んでもよい。そのような固相担体は、細胞モデルとして、細胞培養、医薬品及び/又は毒性試験のために、又は他の適切な目的ですぐに使用できる可能性がある。
【0104】
様々な実施形態を詳細に参照する。
【0105】
以下の説明は、当業者が本開示に基づく実施形態を利用できるような詳細で、いくつかの実施形態を開示する。この明細書に基づいて当業者にとって多くのステップ又は特徴が明らかであるため、実施形態の全てのステップ又は特徴が詳細に説明されていない。任意の例は、説明のためのものに過ぎず、限定として解釈されるものではない。
【0106】
実施例1
スクロースなどの賦形剤を含むnNFC(天然ナノフィブリル化セルロース、すなわち天然ナノフィブリルセルロース)ヒドロゲル、及び凍結乾燥(FDed)nNFC製剤中の残留水分の量を制御するためのそれらの役割を再構成した。使用した製剤は次のとおりである。
1.300mMのトレハロース
2.300mMのスクロース
3.150mMのトレハロース+333mMのグリシン
4.対照物=1.6%のNFCヒドロゲル
【0107】
【0108】
図1は、賦形剤(左)を含まず、300mMのスクロース(左中央)、300mMのトレハロース(右中央)、150mMのトレハロース及び333mMのグリシン(右)を含む凍結乾燥NFC製剤のSEM画像を示す。同じ製剤のズーム画像は下に示される。矢印は、トレハロース又はスクロースのみを含む製剤で観察された個々の繊維状リボンの例を示す。略語:suc=スクロース、tre=トレハロース、gly=グリシン。
【0109】
【0110】
図2は、300mMのスクロース(A)、150mMのトレハロース及び333mMのグリシン(B)、300mMのトレハロース(B)を含み、生体分子(対照物、D)(平均±S.D.、n=3)を含まないNFC製剤からの凍結乾燥ケーキの凍結乾燥前と再構成後の剪断速度粘度を示す。略語:FD=凍結乾燥。
【0111】
実施例2:NFCマトリックスでの長期保管用のPC3及びPNT2細胞株由来のEVの凍結乾燥
PC3及びPNT2からのEVのFDingに使用された製剤は、次のとおりである。
形態1:200mMのTre(トレハロース)、75mMのGLY(グリシン)、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ水
形態2:275mMのTRE、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態3:200mMのSUC、75mMのGLY、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態4:275mMのSUC、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態5:200mMのTre、75mMのGLY、25mMのHEPES、MQ
形態6:275mMのTRE、25mMのHEPES、MQ
形態7:200mMのSUC、75mMのGLY、25mMのHEPES、MQ
形態8:275mMのSUC、25mMのHEPES、MQ
形態9:0.8%のNFC+300mMのHEPES
形態10:300mMのHEPES
【0112】
EVを含むnNFCヒドロゲルの再構成を最初に研究した。得られたデータを
図3に示す。
【0113】
図3は、nNFCヒドロゲルFDed製剤の粘度及びその再構成を示す。示された製剤は、次のとおりである。
形態1:200mMのTre、75mMのGLY、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態2:275mMのTRE、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態3:200mMのSUC、75mMのGLY、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態4:275mMのSUC、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
【0114】
酵素分解後のFDed EVのサイズ分布を
図4に示す。
【0115】
図4は、nNFCヒドロゲル製剤のFDing及びnNFCの酵素分解後のPC3細胞株由来のEVのサイズ分布を示す。使用したnNFCヒドロゲル製剤は、次のとおりである。
形態2:275mMのTRE、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態4:275mMのSUC、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態6:275mMのTRE、25mMのHEPES、MQ
形態8:275mMのSUC、25mMのHEPES、MQ
参考例は、FDingが実行されずに+4℃で保管された、使用された保存PC3由来のEVである。
【0116】
図5は、nNFCヒドロゲル製剤のFDing及び再構成、並びにnNFCの酵素分解後の粒子の量を示す。
【0117】
図5は、nNFC製剤のFDing及び再構成、並びにnNFCの酵素分解、並びにnNFCヒドロゲル製剤を含まないEVのFDing後のPNT2細胞株由来のEVの量を示す。使用した製剤は、次のとおりである。
形態1:200mMのTre、75mMのGLY、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態2:275mMのTRE、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態3:200mMのSUC、75mMのGLY、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態4:275mMのSUC、25mMのHEPES、0.8%のNFC、MQ
形態5:200mMのTre、75mMのGLY、25mMのHEPES、MQ
形態6:275mMのTRE、25mMのHEPES、MQ
形態7:200mMのSUC、75mMのGLY、25mMのHEPES、MQ
形態8:275mMのSUC、25mMのHEPES、MQ
形態9:0.8%のNFC+300mMのHEPES
形態10:300mMのHEPES
【0118】
データに基づくと、EVを含むnNFC製剤のFDingは、残留水分含有量が1%未満の場合に成功したと考えられた。
【0119】
ナノ粒子追跡分析計(NTA)による分析は、nNFCの凍結乾燥前、凍結乾燥、再構成及び酵素分解後に実行された。
【0120】
賦形剤を含むNFCマトリックスは、首尾よく凍結乾燥され(FDed)、製剤は、固体の白色ケーキを形成した(
図6A~D)。正しい賦形剤が製剤に使用された場合、FDedケーキは、MQ-水で首尾よく再構成された。トレハロースを含むサンプル又はトレハロース及びグリシンを含むサンプルは、固体の白色ケーキを形成したが、DMSO又はグリセロールを含むサンプルは、崩壊した。トレハロースを含むFDed NFCサンプルは、高度に多孔性の連続したエアロゲル構造を形成し(
図6E)、更に拡大すると、規則的な繊維構造が見られた(
図6F)。賦形剤を含まないFDed NFCサンプルは、不規則な繊維構造を有し、多孔質構造が存在しなかった。
【0121】
製剤及びその残留水分含有量を表1に示す。残留水分含有量は、賦形剤製剤を調整することで制御することができる。これは、EV、単一細胞及び3D細胞スフェロイドのFDingの適用を考慮する場合に重要になる可能性があり、文献に示されているように、生物学的サンプルは、再構成可能なために一定量の水を必要としてもよい。
【0122】
【0123】
実施例3:FDed NFCのモデリング
分子動力学(MD)シミュレーションで水と、賦形剤と、NFCとの間の相互作用を研究した。MDシミュレーションを実行して、系の動的挙動を研究し、特定のメカニズムの洞察を得た。
【0124】
シミュレーション系を調査して、例えば、二糖類系と比較した場合の単糖類の場合で、糖とNFCとの間の結合強度が異なるかどうかを確認した。グリシン分子の導入が糖とNFC表面との相互作用を増加させるかどうかも調査された。NFCでシミュレートされた分子は、トレハロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、サッカロース及びキシリトールを含む。非晶質ナノセルロース鎖モデルで全ての糖分子をシミュレートした。
【0125】
1つが疎水性表面でありもう1つが親水性表面である結合自由エネルギーを決定するための結晶形態のセルロース、及び水浸透に対する生体分子の影響を決定するための非晶質形態のセルロースという3つの平面状シミュレーション系を開発した。水分子の数に応じた濃度で、平衡化された水系へ水相のランダムな位置に賦形剤を添加した。
【0126】
賦形剤とセルロース層との間の自由エネルギーの差、非晶質系での水浸透、及び可視化中に注目される結晶系での糖の鎖剥離効果という3つの特性は、特に興味深いものであった。賦形剤の部分密度からgmx密度を介して平均力ポテンシャルを生成することによって自由エネルギーの差を決定した。セルロース面のより安定した側を使用して、自由エネルギーの差を定量化した。gmx selectを使用して、セルロースの重心によって形成されるx軸とy軸に沿った平面の1nm以内の水分子の平均数で水浸透を計算した。同じ領域内のグルコースの平均数は、炭素分子を使用してそれを6で割ることを除いて、同じ方法で決定された。最後に、gmx rmsを両方の結晶セルロース層の上部と下部にある8本の鎖で使用して、これらの個々の鎖のRMSDを決定することにより、時間の関数としての鎖の剥離に関するメトリックが得られた。NFCの表面への賦形剤の結合の結果は、異なるセルロース面の間で一致した。
【0127】
全ての場合において、表面結合と鎖剥離に対する2つの異なるグリシン濃度の影響を調査した。つまり、各糖について、300、225及び200mMの異なる糖濃度で3つの異なるシミュレーションを実行した。これらの系では、グリシン濃度をそれぞれ0、75又は100mMに設定した。したがって、全ての賦形剤の総濃度は、各シミュレーションで300mMであった。
【0128】
図7の結果は、全ての糖分子がNFC-水界面に集中することを好むことを示す。しかしながら、結合強度は、系間で異なった。最高の結合自由エネルギーは、サッカロースとラクトース(グリシンなし)の場合で記録された。フルクトース、グルコース及びキシリトールの場合、わずかに低い表面相互作用が見られた。結果として生じる標準偏差が糖間で重複するため、系間の明確な差を推定することは困難である。しかしながら、グリシンの添加後に、系間に同じ結合強度の傾向が存在し、ラクトース、サッカロース及びトレハロースの場合で最も強い表面結合を示す。グリシンの添加は、グルコースの結合強度を増加させなかった。しかしながら、他の全ての場合で、グリシンの添加により結合を増加させなかった。結果に基づくと、グリシンによって促進されるより強い結合は、非常に一般的な結果であると考えられる。グリシンなしで、キシリトールの場合での-0.87kJ/molの結合自由エネルギーが最低で、サッカロースの場合での結合自由エネルギー(-1.37kJ/mol)が最高であった。界面でのキシリトールとサッカロースのモル%を次の式ΔG=RTln K
Dに基づいて推定すると、59mol%と64%の値が得られる。これは、系に存在する59~64mol%の糖が常にNFC表面に結合されていることを意味する。グリシンをサッカロース系(100mM)に添加する場合、mol%は、68に増加する。したがって、個々の糖の結合が熱エネルギーによって簡単に元に戻すことができるが、NFCの表面に適度に密度の高い糖層を生成するのに十分な強度があり、凍結乾燥後のNFCの適切な機械的及び形態的特性を維持するのに役立つ可能性がある。
【0129】
糖の結合自由エネルギーとその複雑さとの間には強い相関関係がある。糖とNFC表面との間に形成された水素結合(HB)の数を計算した。HBの数は、ラクトース、サッカロース、トレハロースの場合で最も多く、NFC表面に結合する能力だけでなく、水素結合を形成できる化学基の数とも相関する。
【0130】
図8A及び8Bは、セルロースに対する誘引自由エネルギーに関するシミュレーション結果を示す。テストされた様々なアミノ酸(グリシン、ロイシン、トリプトファン及びグルタミン)は、サッカロースのセルロースへの吸着力を改善した。
図8Bは、トリプトファンと比較するための
図8Aと同じ結果を示す。トリプトファンは、サッカロースよりも有意に高い吸着力を有する。
【0131】
図9A及び9Bに示すように、糖-セルロース水素結合が(グリシンではなく)アミノ酸とともに増加したように見える。グルタミンがセルロースに吸着されないが、トリプトファンとグルタミンがセルロースと多数の水素結合を共有した。
【0132】
実施例4:NFCマトリックスでの長期保管用のFDingEV
予備的な結果は、トレハロース、グリシン及びスクロースを含むFDed EVが、凍結乾燥すること(FDing)によって引き起こされた損傷から保護されたことを示した。FTIRスペクトル(
図10)は、トレハロース、スクロース及びグリシンを凍結保護剤として使用した場合、FDed EVのタンパク質構造にわずかな変化のみがあったことを示す。
【0133】
実施例5:NFCマトリックスでの長期保管用のFDing 3D細胞スフェロイド
【表2】
【0134】
第三に、単一細胞と3D細胞スフェロイドをNFCと賦形剤製剤で凍結乾燥させ、細胞の生存率と形態を研究した。完全に生存可能な細胞が回収されなかったが、FDed 3D細胞スフェロイドの酵素活性は、部分的に保存された(
図11)。更に、FDed細胞スフェロイドの3D構造が保存され(
図12)、最も重要なことは、トレハロースとグリシンを賦形剤として使用した場合、FDingと再構成(
図13)後に細胞スフェロイドの細胞骨格が保存されたことである。
【0135】
図11は、生/死二重染色キットで染色されたFDed及び再構成3D細胞スフェロイドを示す。酵素活性が部分的に保存されているが(緑)、細胞膜が損傷しており、細胞は完全に生存していない(赤)。
【0136】
図12は、A)&B)3D細胞スフェロイドを有するFDed NFCエアロゲルの規則的な多孔質構造、C)保存された3D構造と形態を有するNFCエアロゲルにカプセル化された3D細胞スフェロイド、D)無傷細胞膜を有するNFCエアロゲルにカプセル化された3D細胞スフェロイドを示す、走査型電子顕微鏡(SEM)による顕微鏡写真を示す。NFCエアロゲルの非常に多孔性で相互接続された細孔がはっきりと見える。
【0137】
図13は、陽性対照物(左)とFDed及び再構成3D細胞スフェロイド(右)の細胞骨格、F-アクチン(緑)及び細胞核(青)を示す。FDed細胞スフェロイドの骨格(F-アクチン)構造は、製剤1で保存された。
【0138】
実施例6:実施例で使用されている材料及び方法
使用した方法
LyoStarII(SP Scientific)でFDingを実行した。示差走査熱量測定(DSC、TA機器)でガラス転移温度と融点を分析した。Osmomat 3000(Gonotec)でNFC製剤のオスモル濃度を分析した。粘度計(Thermo Scientific)で粘度、損失弾性率、貯蔵弾性率を研究した。カールフィッシャー滴定装置(Mettler Toledo)で残留水分含有量を測定した。MDシミュレーションを実行して、系の動的挙動を研究し、特定のメカニズムの洞察を得た。走査型電子顕微鏡(SEM、FEI Company)でFDed NFCサンプル及び3D細胞スフェロイドの形態を分析した。生/死二重染色キットで細胞を染色し、共焦点顕微鏡(Leica)でサンプルを分析することによって3D細胞スフェロイドの生存率を分析した。アクチンをファロイジン-Alexa 488で染色し、細胞核をDAPIで染色し、3D細胞スフェロイドを共焦点顕微鏡(Leica)で画像化することによって3D細胞スフェロイドの骨格を研究した。AlamarBlueアッセイとVarioskanLux(Thermo Scientific)で3D細胞スフェロイドの代謝活性を評価した。ナノ粒子追跡分析(NTA、Malvern)でFDed EVの数と濃度を研究した。FT-IR(Mettler Toledo)でEVのタンパク質の保存とタンパク質/脂質の比率を評価した。細胞生存率アッセイでFDed EVの機能性を研究した。
【0139】
実施例7:nNFCヒドロゲルの凍結乾燥プロトコルの最適化
研究は、26種類の異なるNFC製剤で開始し、前の実験の結果に基づいて、最後のレオロジー測定の前に、対照物を使用して数を2に減少した。全ての26種類の製剤のTg’温度を測定し、対照物を含めてTg’において-50℃を超えるものに対して凍結乾燥を行った。ケーキの外観を分析し、崩壊したものを除去した。凍結乾燥前及び再構成後の浸透圧が450mOsmol/kgを超える製剤を廃棄した。レオロジー測定のために3つの製剤を選択し、3つの製剤について、最適な特性を有する最後の2つの製剤と対照物に対して損失弾性率と貯蔵弾性率を分析した。
【0140】
PC3プロトコル:10%FBSが添加された、PC3細胞濃度が800.000cells/ml(80.000cell/well)のF-12K培地で、GrowDex1.5%を1.0%に希釈した。100μlのGrowDex-media-cell懸濁液を低接着性ウェルプレートに接種し、10%FBSが添加された100μlの新鮮なF12K培地をヒドロゲル混合物の上にピペットで移した。細胞を37℃で5%CO2とともにインキュベートした。
【0141】
凍結乾燥プロトコル:FDingでは、まず、サンプルを1℃/分で-55℃まで凍結し、-55℃で2時間保持した。次に、FDingチャンバの圧力を100mTorrに低下させ、EVの温度を-40℃に上昇させ、NFCマトリックスと細胞サンプルの温度を-50℃に上昇させた(一次乾燥)。一次乾燥後、二次乾燥を開始した。棚の温度を-40℃/-50℃から室温まで1℃/分で上昇させることによって二次乾燥を実行した。バイアルを減圧下及び乾燥窒素雰囲気下で閉じた。FDingサイクルは、EVでは約20時間継続し、NFCマトリックスと細胞では約48時間継続した。FDingサイクルの例を
図14に示す。
【0142】
当業者には、技術の進歩に伴い、基本概念を様々な方法で実施してもよいことが明らかである。したがって、実施形態は、上述の例に限定されず、代わりに、それらは、特許請求の範囲内で変更してもよい。
【0143】
前述の実施形態は、互いに任意の組み合わせで使用されてもよい。いくつかの実施形態を共に組み合わせて、さらなる実施形態を形成してもよい。本明細書に開示される方法、製品又は使用は、前述の少なくとも1つの実施形態を含んでもよい。上記効果及び利点は、1つの実施形態に関連し得るか、又はいくつかの実施形態に関連し得ることが理解されるであろう。実施形態は、記載された問題のいずれか又は全てを解決するもの、又は記載された効果及び利点のいずれか又は全てを有するものに限定されない。更に、「an」の付いたアイテムへの言及は、それらのアイテムのうちの1つ以上を指すことが理解されるであろう。「含む」という用語は、本明細書において、1つ以上の追加の特徴又は行為の存在を除外することなく、その後に続く特徴又は行為を含むことを意味するために使用される。
【外国語明細書】