(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171639
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】金属担持材料の製造方法、及びその利用
(51)【国際特許分類】
D06M 14/18 20060101AFI20221104BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221104BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20221104BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20221104BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20221104BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
D06M14/18
B01J20/30
B01J20/26 E
D06M11/83
D06M15/263
C08F2/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075334
(22)【出願日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2021078062
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】508273599
【氏名又は名称】株式会社ERHテクノリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】保科 宏行
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 牧克
【テーマコード(参考)】
4G066
4J011
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4G066AB07A
4G066AB13A
4G066AB19A
4G066AB23A
4G066AC33B
4G066AC35B
4G066BA16
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4G066FA31
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4G066GA11
4J011AA01
4J011AA10
4J011AC04
4J011CA01
4J011CA03
4J011CA08
4J011CC02
4J011CC07
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4J011QA27
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4L031AA14
4L031AB34
4L031BA04
4L031CB08
4L031DA12
4L033AB07
4L033AC10
4L033CA18
(57)【要約】
【課題】廃液の量を低減でき、金属担持量を首尾よく制御できる、新規な金属担持材料の製造方法、及びその関連技術を提供する。
【解決手段】金属担持材料の製造方法は、有機酸化合物が有するオキソ酸基、又はオキソ酸エステル基、若しくは、有機アミン化合物が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、前記金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、前記有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機酸化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸化合物が有するオキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、有機アミン化合物が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、
前記金属が配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、
前記有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機酸化合物、又は有機アミン化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含する、金属担持材料の製造方法。
【請求項2】
前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、アミノ基に前記金属を配位させる工程では、1mol当りの前記金属に、0.1mol以上、5.0mol以下の前記有機酸化合物を配位させる、請求項1に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸化合物、又は有機アミン化合物を前記基材に含浸するときに、少なくとも1つの不飽和二重結合を有している補助架橋剤を前記基材に含浸させる、請求項2に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸化合物が、リン酸エステル化合物であり、
当該リン酸エステル化合物は、少なくとも1つの不飽和二重結合を有している、請求項2に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸エステル化合物が、下記式(1)で表され;、
【化1】
ここで、nは、1又は2の整数であり、Rは、下記式(1')に示す構造を有し、
【化2】
ここで、mは1~6の整数であり、m個のR
1はそれぞれ独立して、炭素数が1~6である直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
2は、(メタ)アクリロイル基、又はアリル基である、請求項4に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸エステル化合物が、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートからなる群から選択される、請求項4に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項7】
前記有機酸化合物が、リン酸エステル化合物であり、
当該リン酸エステル化合物は、脂肪族リン酸エステル化合物、及び芳香族リン酸エステル化合物からなる群から選択される、請求項3に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項8】
前記金属が、銀(Ag)である、請求項1~7の何れか一項に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項9】
前記金属が、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)からなる群から選択される金属である、請求項1~7の何れか一項に記載の金属担持材料の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の金属担持材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、
前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含する、金属吸着材料の製造方法。
【請求項11】
前記金属が、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)からなる群から選択され、
前記有機酸化合物が備えるオキソ酸基又はオキソ酸エステル基は、リン酸基、又はリン酸エステル基である、請求項10に記載の金属吸着材料の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の金属吸着材料の製造方法を行ない、金属吸着材料を製造する工程と、
前記金属吸着材料に、金属を吸着させる工程を包含する、金属の吸着方法。
【請求項13】
オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造、又は、アミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、アミノ基が金属に配位し、前記有機酸構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、
1mol当りの前記金属に、0.1mol以上、5.0mol以下の前記有機酸化合物が配位してなる、金属担持材料。
【請求項14】
前記有機酸構造、又は有機アミン構造と前記基材とを互いに架橋する架橋構造を備え、
当該架橋構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造であり、
当該補助架橋剤は、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している、請求項13に記載の金属担持材料。
【請求項15】
リン酸基又はリン酸エステル基が金属に配位し、リン酸エステル構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、
前記リン酸エステル構造は、下記式(1)に示すリン酸エステル化合物;
【化3】
ここで、nは1又は2の整数であり、Rは、下記式(1')に示す構造を有し、
【化4】
ここで、mは1~6の整数であり、m個のR
1はそれぞれ独立して、炭素数が1~6である直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
2は、(メタ)アクリロイル基、又はアリル基であるリン酸エステル化合物;に由来する構造である、請求項13に記載の金属担持材料。
【請求項16】
前記リン酸エステル構造は、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートから選択されるリン酸エステル化合物に由来する構造である、請求項15に記載の金属担持材料。
【請求項17】
前記有機酸構造が、リン酸エステル構造であり、
当該リン酸エステル構造は、脂肪族リン酸エステル化合物、芳香族リン酸エステル化合物から選択される、リン酸エステル化合物に由来する、請求項14に記載の金属担持材料。
【請求項18】
前記金属の担持量が、1重量%以上である、請求項13~17の何れか一項に記載の金属担持材料。
【請求項19】
前記金属が、銀(Ag)である、請求項13に記載の金属担持材料。
【請求項20】
前記金属が、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)からなる群から選択される金属である、請求項13に記載の金属担持材料。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の金属担持材料を備えた、抗ウイルス性材料。
【請求項22】
金属を吸着するための金属吸着材料であって、
オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造、若しくは、アミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、
前記有機酸構造が基材に化学結合してなり、
0.1mol当量以上、5.0mol当量以下の前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、アミノ基が、1mol当りの前記金属に対して配位するように、前記有機酸構造が前記基材に固定されている、金属吸着材料。
【請求項23】
前記有機酸構造、又は有機アミン構造と前記基材とを互いに架橋する架橋構造を備え、
当該架橋構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造であり、
当該補助架橋剤は、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している、請求項22に記載の金属吸着材料。
【請求項24】
亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)からなる群から選択される金属を吸着してなり、前記有機酸構造が備えるオキソ酸基又はオキソ酸エステル基は、リン酸基、又はリン酸エステル基である、請求項22に記載の金属吸着材料。
【請求項25】
基材に放射線を照射する第1照射工程と、
前記放射線を照射した基材にグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを含浸することで、前記(メタ)アクリレートか前記基材に化学結合した(メタ)アクリレートに由来する有機構造を形成する工程と、
前記有機構造が有する前記グリシジル基に、アミン化合物、又は酸化合物を反応さて、オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基を有する有機酸構造、若しくはアミノ基を有する有機アミン構造を形成する工程と、
前記有機酸構造が有する前記オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基、若しくは前記有機アミン構造が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、
前記金属を配位した前記有機酸構造又は有機アミン構造を備える前記基材に放射線を照射することで、前記オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基を有する有機酸構造同士、若しくはアミノ基を有する有機アミン構造同士を互いに化学結合させる、第2照射工程を包含する、金属担持材料の製造方法。
【請求項26】
請求項25に記載の金属担持材料の製造方法を行なう、製造工程と、
行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含する、金属吸着材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持材料の製造方法、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年の年初頃から予期せず発生した新型コロナウイルス(Covid-19)感染症の世界的な感染拡大もあり、高い抗ウイルス性を有する材料は、医療現場のみならず、広く一般的にも求められている。
【0003】
また、金属に由来する高い機能性が付加された機能性材料は、医療分野のみならず、広く他分野においても有用であると期待されている。
【0004】
これについて、基材に機能性を付加するため、当該基材に金属を吸着させた材料は広く知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ヨウ素を吸着除去する高分子素材の主鎖上に、銀を担持させることのできる官能基を有する重合体側鎖を有し、該官能基に銀が担持されている、高分子素材を具備するヨウ素除去フィルタが記載されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、有機高分子繊維シートに放射線グラフト重合法によりカチオン交換基を有する重合性単量体等をグラフト重合した消臭シートが記載されている。
【0007】
例えば、非特許文献1には、銀を不織布に担持し、当該銀が徐放性を有する、抗バクテリア材料が記載されており、当該銀は、グリシジル(メタ)アクリレートを不織布にグラフト重合させ、グラフト重合で導入されたグリシジル基とイミノ二酢酸を反応させ、当該イミノ二酢酸に由来するカルボキシル基及びアミノ基を介して銀を担持していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-254446号公報
【特許文献2】実用新案登録第3181534号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takuya Shibata et al. "Evaluation of Antibacterial Effect by Using a Fibrous Grafted Material Loaded Ag Ligand" International Journal of Organic Chemistry, 2015, 5, 100-107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載の製造方法は、基材に金属を担持するためのオキソ酸基を導入するために、次のような工程が取られている。まず、工程(i)として、基材に放射線を照射し、次に、当該基材にグリシジルメタクリレート(GMA)を化学結合(グラフト重合)させている。次に、工程(ii)として、基材にグラフト重合により導入されたグリシジル基と、リン酸又はイミノ二酢酸等の無機酸、又は有機酸を反応させてこれら酸に由来するオキソ酸基を基材に導入している。続いて、工程(iii)として、形成されたオキソ酸基に金属を配位させている。
【0011】
このような従来の方法では、工程(i)後、工程(ii)前において、洗浄により未反応のグリシジルメタクリレート(GMA)の基材からの除去が行われ得る。また、工程(ii)後、工程(iii)前において、洗浄により未反応の酸の除去が行われ得る。
【0012】
また、グリシジルメタクリレート(GMA)が有するグリシジル基と反応した酸には銀等の金属をイオン交換反応により担持できるように、アルカリ処理及び酸処理が行なわれ得る。従って、複数の工程の間において行われる洗浄、及び酸、アルカリ処理により、廃液が多くなるという問題があった。
【0013】
また、上述のように、工程(i)~(iii)を行なう従来の方法では、金属を担持するための構造を基材に導入するために複数の工程を行なう。このため、金属の担持量の制御が容易でないという問題があった。
【0014】
また、特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載されているような材料よりも、廃液の量を低減でき、製造工程を簡略化できながらも、金属の担持量が安定化された新規な材料は、その金属に由来する安定した機能を発揮できると期待される。
【0015】
また、特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載されているような材料は、上述のようなコロナウイルスの感染拡大に伴う、高い抗ウイルス性を有する材料への需要の高まりに応えるためには、その製法や効果には改善の余地がある。
【0016】
また、例えば、化学結合(グラフト重合)により基材表面に導入した官能基によって、貴金属及び希土類を吸着する金属吸着材料の需要について、貴金属及び希土類を回収する対象である、土壌、海水等には、他の金属も存在し得る。よって、特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載されているような材料の製造方法よりも、貴金属や希土類の種類を選択的に吸着できる金属吸着材料が求められている。
【0017】
(i)本発明の一態様は、廃液の量を低減でき、製造工程を簡略化でき、金属担持量を首尾よく制御できる、新規な金属担持材料の製造方法、及び新規な金属吸着材料の製造方法、並びにそれらの関連技術を提供することを目的とする。(ii)本発明の一態様は、金属担持量を首尾よく制御できる、新規な金属担持材料の製造方法、及び新規な金属吸着材料の製造方法、並びにそれらの関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を備えている。
【0019】
〔1〕有機酸化合物が有するオキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、有機アミン化合物が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、前記金属が配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、前記有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機酸化合物、又は有機アミン化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含する、金属担持材料の製造方法。
〔2〕前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は、アミノ基に前記金属を配位させる工程では、1mol当りの前記金属に、0.1mol以上、5.0mol以下の前記有機酸化合物を配位させる、〔1〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔3〕前記有機酸化合物、又は有機アミン化合物を前記基材に含浸するときに、少なくとも1つの不飽和二重結合を有している補助架橋剤を前記基材に含浸させる、〔2〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔4〕前記有機酸化合物が、リン酸エステル化合物であり、当該リン酸エステル化合物は、少なくとも1つの不飽和二重結合を有している、〔2〕又は〔3〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔5〕前記リン酸エステル化合物が、下記式(1)で表され;、
【化1】
ここで、nは、1又は2の整数であり、Rは、下記式(1')に示す構造を有し、
【化2】
ここで、mは1~6の整数であり、m個のR
1はそれぞれ独立して、炭素数が1~6である直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
2は、(メタ)アクリロイル基、又はアリル基である、〔4〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔6〕前記リン酸エステル化合物が、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートからなる群から選択される、〔4〕又は〔5〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔7〕前記有機酸化合物が、リン酸エステル化合物であり、当該リン酸エステル化合物は、脂肪族リン酸エステル化合物、及び芳香族リン酸エステル化合物からなる群から選択される、〔3〕に記載の金属担持材料の製造方法。
〔8〕前記金属が、銀(Ag)である、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の金属担持材料の製造方法。
〔9〕前記金属が、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)からなる群から選択される金属である、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の金属担持材料の製造方法。
〔10〕〔2〕~〔7〕の何れかに記載の金属担持材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含する、金属吸着材料の製造方法。
〔11〕前記金属が、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)からなる群から選択され、前記有機酸化合物が備えるオキソ酸基又はオキソ酸エステル基は、リン酸基、又はリン酸エステル基である、〔10〕に記載の金属吸着材料の製造方法。
〔12〕〔10〕又は〔11〕に記載の金属吸着材料の製造方法を行ない、金属吸着材料を製造する工程と、前記金属吸着材料に、金属を吸着させる工程を包含する、金属の吸着方法。
〔13〕オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造、又は、アミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又はアミノ基が金属に配位し、前記有機酸構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、1mol当りの前記金属に、0.1mol以上、5.0mol以下の前記有機酸化合物が配位してなる、金属担持材料。
〔14〕前記有機酸構造、又は有機アミン構造と前記基材とを互いに架橋する架橋構造を備え、当該架橋構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造であり、当該補助架橋剤は、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している、〔13〕に記載の金属担持材料。
〔15〕リン酸基又はリン酸エステル基が金属に配位し、リン酸エステル構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、前記リン酸エステル構造は、下記式(1)に示すリン酸エステル化合物;
【化3】
ここで、nは1又は2の整数であり、Rは、下記式(1')に示す構造を有し、
【化4】
ここで、mは1~6の整数であり、m個のR
1はそれぞれ独立して、炭素数が1~6である直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
2は、(メタ)アクリロイル基、又はアリル基であるリン酸エステル化合物;に由来する構造である、〔13〕又は〔14〕に記載の金属担持材料。
〔16〕前記リン酸エステル構造は、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートから選択されるリン酸エステル化合物に由来する構造である、〔15〕に記載の金属担持材料。
〔17〕前記有機酸構造が、リン酸エステル構造であり、当該リン酸エステル構造は、脂肪族リン酸エステル化合物、芳香族リン酸エステル化合物から選択される、リン酸エステル化合物に由来する、〔14〕に記載の金属担持材料。
〔18〕前記金属の担持量が、1重量%以上である、〔13〕~〔17〕の何れかに記載の金属担持材料。
〔19〕前記金属が、銀(Ag)である、〔13〕~〔18〕の何れかに記載の金属担持材料。
〔20〕前記金属が、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)からなる群から選択される金属である、〔13〕~〔18〕の何れかに記載の金属担持材料。
〔21〕〔19〕又は〔20〕に記載の金属担持材料を備えた、抗ウイルス性材料。
〔22〕金属を吸着するための金属吸着材料であって、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造、又はアミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、前記有機酸構造が基材に化学結合してなり、0.1mol当量以上、5.0mol当量以下の前記オキソ酸基又はオキソ酸エステル基、若しくはアミノ基が、1mol当りの前記金属に対して配位するように、前記有機酸構造が前記基材に固定されている、金属吸着材料。
〔23〕前記有機酸構造と前記基材とを互いに架橋する架橋構造を備え、当該架橋構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造であり、当該補助架橋剤は、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している、〔22〕に記載の金属吸着材料。
〔24〕亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)からなる群から選択される金属を吸着してなり、前記有機酸構造が備えるオキソ酸基又はオキソ酸エステル基は、リン酸基、又はリン酸エステル基である、〔22〕又は〔23〕に記載の金属吸着材料。
〔25〕基材に放射線を照射する第1照射工程と、前記放射線を照射した基材にグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを含浸することで、前記(メタ)アクリレートか前記基材に化学結合した(メタ)アクリレートに由来する有機構造を形成する工程と、前記有機構造が有する前記グリシジル基に、アミン化合物、又は酸化合物を反応さて、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸構造、又はアミノ基を有する有機アミン構造を形成する工程と、前記有機酸構造が有する前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は前記有機アミン構造が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、前記金属を配位した前記有機酸構造又は有機アミン構造を備える前記基材に放射線を照射することで、前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸構造同士、又はアミノ基を有する有機アミン構造同士を互いに化学結合させる、第2照射工程を包含する、金属担持材料の製造方法。
〔26〕〔25〕に記載の金属担持材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含する、金属吸着材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
(i)本発明の一態様によれば、廃液の量を低減でき、製造工程を簡略化でき、金属担持量を首尾よく制御できる、新規な金属担持材料の製造方法、及び新規な金属吸着材料の製造方法、並びにそれらの関連技術を提供することができる。(ii)本発明の一態様によれば、金属担持量を首尾よく制御できる、新規な金属担持材料の製造方法、及び新規な金属吸着材料の製造方法、並びにそれらの関連技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、SEM-EDXにより求められた実施例1の銀担持不織布における銀の元素マッピングである。
【
図2】
図2は、実施例1の銀担持不織布から切り出した繊維の断面をSEM-EDXを用いて解析した銀の元素マッピングである。
【
図3】
図3は、SEM-EDXにより求められた比較例1の銀担持不織布における銀の元素マッピングである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る金属吸着材料が対象金属を脱離し、再吸着する操作を説明するための概念図である。
【
図5】
図5は、実施例2の吸着材料(金属吸着材料)における電子線の照射線量と、ジスプロシウム(Dy)及びテルビウム(Tb)の吸着量の比との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3の吸着材料(金属吸着材料)における電子線の照射線量と、銅(Cu)及び鉛(Pb)の吸着量の比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の何れか一方又は両方を意味する。同様に「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の何れか一方又は両方を意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の何れか一方又は両方を意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、「アクリルアミド」及び「メタクリルアミド」の何れか一方又は両方を意味する。
【0023】
また、本明細書中、便宜上、特に説明がない限り、「オキソ酸基又はオキソ酸エステル基」は「オキソ酸基」と略記されることがあり、その下位概念である、例えば、「リン酸基又はリン酸エステル基」は、「リン酸基」として略記されることがある。
【0024】
本明細書において、「化学結合を介して基材に結合する」とは、「有機酸化合物」、若しくは「有機アミン化合物」又は、「グリシジル基を有する(メタ)アクリレート」と「補助架橋剤」との何れか又は全てが基材の表面を構成する化学構造に対し、熱重合、架橋重合により共有結合することを指し、好ましくは「化学結合」は不飽和二重結合基のグラフト重合によりもたらされる共有結合であり得る。
【0025】
また、本明細書において、「架橋構造」とは、「化学結合を介して基材に結合する」とは、「有機酸化合物」若しくは「有機アミン化合物」又は「グリシジル基を有する(メタ)アクリレート」と「補助架橋剤」との架橋構造、「補助架橋剤」と「基材」との架橋構造のみならず、放射線照射によりもたらされる有機酸化合物同士の架橋構造、有機アミン化合物同士の架橋構造、及び補助架橋剤同士の架橋構造も含意し、これら架橋構造は、共有結合であり得る。
【0026】
その他、本明細書では、「金属担持材料」が担持する対象は、遷移金属等の「金属」に限定されず、「希土類」が含まれる。同様に、「金属吸着材料」が吸着する対象は、遷移金属等の「金属」に限定されず、「希土類」が含まれる。
【0027】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0028】
<金属担持材料の製造方法(第1実施形態)>
本発明の一実施形態に係る金属担持材料の製造方法は、金属に有機酸化合物を配位させる工程と、前記金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、前記有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機酸化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含している。
【0029】
第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法では、有機酸化合物として、オキソ酸基又はオキソ酸エステル基と、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している有機酸化合物を用いるとよい。
【0030】
本願発明者らは、金属に有機酸化合物を配位させて、前記有機酸化合物と前記基材とを化学結合させることで、製造時における洗浄などの工程を減少させることができ、これにより、廃液の量を低減できることを見出した。また、基材に有機酸化合物を化学結合させる前において、目的の機能を得るために必要な金属の量及び有機酸化合物の量を決定したうえで、予め金属に有機酸化合物を配位させることができる。このため、前記基材に担持する金属の量を目的に応じて好適に制御でき、これにより、金属による機能、例えば、抗ウイルス性を効率良く付与できることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
(1)金属に有機酸化合物を配位させる工程
本実施形態に係る製造方法は、有機酸化合物が有するオキソ酸基に金属を配位させる工程を包含している。以下では、当該工程を、便宜上「金属に有機酸化合物を配位させる工程」と称する。金属に有機酸化合物を配位させる工程では、まず、金属イオンの水溶液、又は金属コロイド粒子の分散液を準備するとよい。次いで、金属イオンの水溶液、又は金属コロイド粒子の分散液に有機酸化合物を添加することにより、金属に有機酸化合物を配位させるとよい。
【0032】
(1-1)金属
本発明の一実施形態に係る金属担持材料において担持されるべき金属は、金属イオン、及び金属コロイドの何れか一方又は両方として準備され得る。金属は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、及びチタン(Ti)などが挙げられる。
【0033】
これら金属は、金属イオンの水溶液又は金属コロイド粒子の分散液として準備され、金属に有機酸化合物を配位させる工程に供されてよいが、金属は、金属イオンの水溶液として金属に有機酸化合物を配位させる工程に供されることがより好ましい。
【0034】
金属がコロイド粒子の分散液として使用される場合、金属コロイド粒子の平均粒子径は、5~50nmの範囲内であることが好ましい。当該範囲内の平均粒子径を有する金属コロイド粒子であれば、有機酸化合物を介して好適に、基材の表面に定着させることができる。ここで、金属コロイド粒子の平均粒子径は、ゼータ電位や光散乱により測定するとよい。
【0035】
以下では、便宜上、特に説明がない限り、「金属イオンの水溶液及び金属コロイド粒子の分散液」を「金属の水溶液」として、一実施形態に係る金属担持材料の製造方法を説明する。また、「金属」とは、イオン状及び/又はコロイド状の金属を指し、金属塩と区別される。
【0036】
金属の水溶液は、金属塩から準備すればよく、当該金属塩には、例えば、金属酸塩も含まれ得る。当該金属塩には、例えば、金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられる。このような、金属塩には、例えば、硫酸銀、硝酸銀、硫酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅等が挙げられる。また、金属酸塩には、例えば、塩化白金酸カリウム、塩化金酸カリウム等の金属酸塩が挙げられる。
【0037】
金属の水溶液を調製するための金属塩の濃度は、基材に担持すべき、金属の量に応じて決定するとよく、例えば、0.01mol/L以上、5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以下であることがより好ましい。ここで、金属の水溶液を準備するための水には、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いることができ、超純水であることが好ましい。
【0038】
例えば、金属の水溶液は、後述する有機酸化合物を金属に好適に配位させるためpHを調整してもよい。金属塩の水溶液におけるpHは、有機酸化合物の種類に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、pHは、1~9の範囲内であることが好ましく、5~9の範囲内であることがより好ましい。金属塩の水溶液におけるpHは、金属塩の種類に応じ設計すればよく、限定されるものではないが、pHは、1~9の範囲内においてより低くすることが金属塩の水への溶解性を高め、金属イオンを安定化させるために好ましく、1~9の範囲内においてより高くすることが、金属に対し、オキソ酸基をイオン結合でなく、配位結合させるという観点からより好ましい。これにより水溶液に含まれる金属イオンを安定化させることができ、当該金属イオンに有機酸化合物が備えるオキソ酸基を配位させることができる。
【0039】
また、水溶液に含まれる金属に種類に応じ適宜設計すればよく、限定されるものでは、ないが、金属の水溶液には、例えば、アスコルビン酸等の還元剤を添加してもよい。例えば、金属が、上述の金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、及びガリウム(Ga)、チタン(Ti)などの場合、還元剤を用いることがより好ましい。
【0040】
その他、金属塩の水溶液には、例えば、pH緩衝剤、界面活性剤、分散剤等を添加してもよい。界面活性剤には、ノニオン系活性剤が挙げられ、例えば、Tween(登録商標)20に例示されるTween(登録商標)シリーズ、Span(登録商標)シリーズ等が挙げられる。また、分散剤には、例えば、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系分散剤、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0041】
(1-2)有機酸化合物
有機酸化合物は、金属に配位するオキソ酸基、又はオキソ酸エステキル基を有し、放射線照射によって基材の表面に化学結合できる化合物であればよい。有機酸化合物は、例えば、リン酸エステル化合物、カルボン酸化合物、有機硫酸化合物が挙げられ、リン酸エステル化合物であることが好ましい。すなわち、有機酸化合物は、オキソ酸基として、オキソ酸基を有しているか、オキソ酸エステル基を有し、ここで、オキソ酸基は、リン酸基、カルボン酸基、及びスルホン酸基であり得る。これらオキソ酸基は、例えば、アルキル基、又はフェニル基等の芳香族基によりエステル化されたオキソ酸エステル基であってもよい。オキソ酸基は、当該オキソ酸基が備えるオキソ基(=O)及びヒドロキシル基(-OH)の何れか一方又は両方によって、少なくとも1つの金属に配位し得、オキソ酸エステル基はオキソ基(=O)により少なくとも1つの金属に配位し得る。ここで、有機酸化合物が、例えば、カルボン酸エステル基と、リン酸エステル基又はスルホン酸エステル基とを有している場合、当該有機酸化合物においては、リン酸エステル基又はスルホン酸エステル基に金属が配位され得る。
【0042】
一実施形態に係る製造方法において、金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物は、ヒドロキシル基を残すリン酸エステル構造と、不飽和二重結合との両方を備えるリン酸エステル化合物であってよい。これにより、リン酸エステル化合物は、放射線照射によって、不飽和二重結合を基材に化学結合(グラフト重合)させることができる。よって、本実施形態に係る製造方法では、基材に金属を担持させるためのグリシジル(メタ)アクリレートを基材にグラフト重合させておく必要がない。
【0043】
リン酸エステル化合物は、以下の式(1)にて表され得る。
【0044】
【化5】
ここで、nは、1又は2の整数であり、Rは、以下に示す、式(1')で表され、
【化6】
ここで、mは1~6の整数であり、m個のR
1は、それぞれ独立して炭素数が1~6である直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
2は、アリル基であるか、以下の式(1'')に示す、R
3が水素又はメチル基である、(メタ)アクリロイル基である。
【0045】
【化7】
リン酸エステル化合物は、上記式(1)に示す、リン酸基を金属に配位させることができ、(メタ)アクリロイル基、又はアリル基により、基材にグラフト重合することができる。
【0046】
上記式(1)に示すリン酸エステル化合物として、より具体的には、例えば、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
リン酸エステル化合物がジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートのように、1つの分子構造内において、少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有している場合、少なくとも1つのリン酸基を、1つの金属に配位させつつ、後述するように、放射線照射することで、2つのメタクリルレート残基を、基材の表面にグラフト重合(化学結合)させることができる。このため、例えば、(メタ)アクリロイル基を1つしか有していないような有機酸化合物よりも、基材の表面に対し、より強固に金属を担持させることができる。
【0048】
その他、リン酸エステル化合物には、例えば、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル等が挙げられる。
【0049】
また、有機酸化合物が、有機硫酸化合物である場合、有機硫酸化合物には、例えば、ビニルスルホン酸、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)1-プロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0050】
また、有機酸化合物が、カルボン酸化合物である場合、当該化合物には、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキサン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。その他、有機酸化合物が、カルボン酸化合物である場合、当該有機酸化合物は、後述する補助架橋剤として使用される単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び多官能ウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0051】
以下では、より好ましい実施形態である、リン酸エステル化合物を用いて第1実施形態に係る製造方法を説明するが、リン酸エステル化合物の添加量、1mol当りの金属に添加する有機酸化合物のmol量、並びに金属に配位させるための時間、温度等の条件は、リン酸エステル化合物以外の有機酸化合物においても適用され、使用される有機酸化合物において適宜調整するとよい。また、以下に記載されるリン酸基の機能・特性等は、同じくオキソ酸基である、カルボン酸基、スルホン酸基、及びこれらオキソ酸基に由来するエステル基においても同様に適用される。
【0052】
金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物の添加量は、金属の水溶液を100重量%として、0.1~30.0重量%の範囲内であることが好ましく、0.5~10.0重量%の範囲内であることがより好ましい。このように、基材にリン酸エステル化合物をグラフト重合させる前に、水溶液中において、金属の量とリン酸エステル化合物の量とを制御することが容易であることも利点の1つである。これにより、基材に担持させる金属の量を安定に制御でき、かつ金属の担持量を制御することも首尾よく行うことができる。
【0053】
また、別の観点から、金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物の添加量は、金属の水溶液に含まれる金属の量に応じて決定するとよい。例えば、水溶液に溶解する1molの金属に対し、リン酸エステル化合物の添加量は、例えば、5.0mol以下であるとよく、3.0mol以下であることが好ましく、1.0mol以下であることがより好ましく、0.5mol以下がさらにより好ましく、0.33mol以下であることが最も好ましい。
【0054】
1molの金属に対し、リン酸エステル化合物の添加量が5.0molの範囲内においてより少ないことにより、リン酸エステル化合物に対して配位すべき金属の量を多くすることができ、これによりリン酸エステル化合物による基材への金属の導入密度を高くすることができる。また、リン酸エステル化合物の量を少なくすることで、放射線照射量を低くしても、リン酸エステル化合物のグラフト率を制御ができ、これにより金属担持量も制御可能となる。
【0055】
1molの金属に対するリン酸エステル化合物の量は、上述する5.0molの範囲及び後述する0.1mol以上の範囲を参照し、金属がカチオン化したときの価数に応じて換算し得る。より具体的には、金属が1価のカチオンである場合、金属量と同等かそれ以下、2価の場合は金属のmol量の2分の1倍量かそれ以下、3価の場合は金属のmol量の3分の1倍量かそれ以下に換算してもよい。このように、水溶液に含まれる金属の量に対して、リン酸エステル化合物の量を決定することで、1つの金属に配位させるべきリン酸基の量を調整することができる。また、水溶液に溶解する1molの金属に対するリン酸エステル化合物の添加量を、0.1mol以上とすればよく、0.3mol以上とすることが好ましく、1.3mol以上とすることがさらに好ましく、水溶液に溶解する1molの金属に対するリン酸エステル化合物の添加量が多くなる程、1mol当りの金属に対し、リン酸エステル化合物を多く配位させることができ、金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料を製造できる。また、好ましくは1.3mol以上とすることで、基材表面に金属が安定に担持することができる金属担持材料を製造することができる。
【0056】
また、さらに別の観点から金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物の添加量は、1molの金属に対し、2.0mol以上、より好ましくは3.0mol以上にすることで、1つの金属に配位するリン酸エステル化合物の量を2つ以上、より好ましくは3つ以上にすることができる。これにより、より安定に基材表面に金属を担持させることができ、金属が徐放されることを好適に抑制しつつ、さらに2つ以上のリン酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該リン酸エステル化合物を配位させることができる。
【0057】
また、1つの金属に配位するリン酸エステル化合物の量は、当該金属がカチオン化したときに価数に応じ、換算することができる。より具体的には、例えば、金属が1価のカチオンである場合、当該金属に配位するリン酸エステル化合物の量は1つであり得、2価の場合はその量の2倍量、3価の場合は、その量の3倍量と換算できる。
【0058】
リン酸エステル化合物を添加した金属の水溶液は、例えば、5分~24時間、10~60℃の範囲内の温度で加温することで、リン酸エステル化合物のリン酸基を十分に金属に配位させることが好ましい。
【0059】
その他、本実施形態に係る金属担持材料の製造方法では、リン酸エステル化合物とともに、金属塩の水溶液に補助架橋剤を添加してもよい。補助架橋剤については、第2の実施形態において詳細に説明される。
【0060】
(2)金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程
金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程では、リン酸エステル化合物が配位した金属の水溶液に基材を含浸すればよい。
【0061】
金属に配位したリン酸エステル化合物の基材に含浸するときの温度は、10℃~60℃の範囲内の温度で行うことが好ましく、20℃~40℃の範囲内の温度で行うことがより好ましい。
【0062】
また、基材を含浸する時間は、金属に配位した有機酸化合物と、基材とのに親和性に応じて決定すればよく、限定されるものではないが、例えば、5分~24時間の範囲内であることが好ましく、30分~1時間の範囲内の時間であることがより好ましい。
【0063】
なお、金属の水溶液に含浸する前において、例えば、コロナ放電処理などにより、基材の表面処理を行ってもよい。
【0064】
また、金属に配位したリン酸エステル化合物の基材への含浸は、限定されるものではないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下において行うことがより好ましい。
【0065】
(2-1)基材
基材は、有機酸化合物が化学結合できる基材であれば限定されず、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のオレフィン製の単繊維、織布及び不織布であってもよく、セルロース繊維などの天然繊維であってもよく、再生セルロース等の繊維、レーヨン、ポリエステル繊維等の合成繊維、若しくは化学繊維であってもよい。また、これら繊維に限定されず、ガラス繊維、及び金属繊維等の繊維であってもよい。さらには、基材は放射線によって、有機酸化合物を当該基材に化学結合させることができれば、限定されず、例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のオレフィン製やフッ素系樹脂等の樹脂製フィルムやシート等であってもよく、例えば、活性炭、ゼオライト、フィラー等の粉末材料であってもよい。なかでも、基材は、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のオレフィン製の単繊維、織布及び不織布であることがより好ましい。
【0066】
また、基材は、金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程を行なう前に、例えば、1~200kGyの条件で電子線を照射しておいてもよく、このような放射線照射を行う工程を第1照射工程と称することもある。
【0067】
(3)放射線を照射する工程
放射線を照射する工程では、リン酸エステル化合物が配位した金属の水溶液から取り出した基材に放射線を照射する。これにより、金属が配位したリン酸エステル化合物における不飽和二重結合基を、基材の表面にグラフト重合させることができる。
【0068】
金属が配位したリン酸エステル化合物を含浸した基材は、乾燥させてから、放射線を照射する工程に供してもよく、乾燥させずに放射線を照射する工程に供してもよいが、乾燥させずに湿潤状態で、放射線を照射する工程に供することよりが好ましい。
【0069】
放射線を照射する工程において用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができ、より好ましくはγ線、電子線が挙げられる。
【0070】
放射線として電子線を採用する場合、例えば、1~200kGyの条件で電子線を照射すればよく、10~50kGyの条件で電子線照射することがより好ましい。本発明の一態様に係る金属担持材料は、低い電子線照射量であっても、金属を配位したリン酸エステル化合物を均質に基材に表面にグラフト重合させることができ、金属に由来する、例えば、抗ウイルス性等の機能を高めることができることが利点の1つである。
【0071】
また、金属を配位した有機酸化合物同士の高密度な架橋構造を導入し、細密なネットワークを形成するという観点からは、10~200kGyの条件で電子線照射することが好ましく、1~500kGyの条件で電子線を照射してもよい。1~500kGyの線量の範囲内において、より線量が高い程、有機酸化合物同士の高密度な架橋構造を形成することができる。
【0072】
金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程を行なう前に、基材に予め電子線等の放射線を照射し、金属に配位した有機酸化合物から有機酸構造を形成し、その後、放射線を照射する工程を、上述第1照射工程に対し、第2照射工程と称することもある。
【0073】
放射線を照射する工程は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、又は、減圧環境下において行うことがより好ましく、不活性ガス雰囲気下において行うことがより好ましい。
【0074】
また、放射線を照射することで金属担持材料を得えることができる。得られた金属担持材料は、例えば、アルコール等の有機溶媒を用いて洗浄し、乾燥させるとよい。
【0075】
<金属担持材料(第1実施形態)>
本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る金属担持材料は、オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造を備え、前記オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基が金属に配位し、前記有機酸構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、1mol当りの前記金属に、有機酸化合物が有する、5.0mol当量以下、好ましくは、3.0mol当量以下、より好ましくは1.0mol当量以下、さらに好ましくは0.5mol当量以下、最も好ましくは0.33mol当量以下であるオキソ酸基又はオキソ酸エステル基が配位してなることが好ましい。一実施形態に係る金属担持材料は、1mol当りの金属に対する、有機酸化合物が有するオキソ酸基が配位する量が、5.0mol当量以下の範囲内においてより少ないことで、基材への金属の導入密度が高められた金属吸着材料であり得、これにより、一実施形態に係る金属担持材料は、金属の担持量が高められた金属担持材料であり得る。また、一実施形態に係る金属担持材料は、1mol当りの前記金属に、有機酸化合物が有するオキソ酸基が0.1mol当量以上、より好ましくは0.3mol当量以上、さらに好ましくは1.3mol当量以上配位していることで、金属と基材とを、基材表面に金属が安定に担持された金属担持材料であり得、これにより有機酸化合物から当該金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料であり得る。
【0076】
また、別の観点から金属担持材料は、オキソ酸基又はオキソ酸エステル基を有する有機酸化合物に由来する有機酸構造を備え、前記オキソ酸基又はオキソ酸エステルが金属に配位し、前記有機酸構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、1mol当りの金属に、2.0mol以上、より好ましくは3.0mol以上の有機酸化合物が配位してなる。これにより、金属が徐放されることを好適に抑制できるのみならず、さらに2つ以上のオキソ酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該有機酸化合物が配位した金属担持材料である。
【0077】
これら金属担持材料が備える有機酸化合物に由来する有機酸構造は、抗ウイルス性材料として用いるという観点からは、より好ましくは、上述のリン酸エステル化合物に由来するリン酸エステル構造であり得る。当該構成は、リン酸エステル化合物であるジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート((2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレートホスフェート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロゲンホスフェート等とも称される)に由来する構造によってより好適に達成され得る。これによって、金属を少なくとも2つのグラフト重合を介して強固に基材に担持させることができる。
【0078】
また、別の観点から第1実施形態に係る金属担持材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機酸構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属担持材料であり得る。
【0079】
第1実施形態に係る金属担持材料は、第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法によって好適に製造できる。このため、基材に対する金属の担持量を高めることができ、例えば、第1実施形態に係る金属担持材料において、金属の担持量は、1重量%以上であり得る。
【0080】
金属担持材料が担持する金属は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)等からなる群から選択される金属であり得る。これらの金属を担持する金属担持材料は、例えば、後述するように抗ウイルス性材料として使用することができる。
【0081】
<一変形例(第1変形例)に係る金属担持材料、及びその製造方法>
一実施形態に係る金属担持材料の製造方法は、上述の第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法に限定されない。例えば、一変形例(第1変形例)に係る金属担持材料の製造方法は、上述の第1実施形態に係る金属担持材料、及びその製造方法において、有機酸化合物に代えて、有機アミン化合物が有するアミノ基を金属に配位させてもよい。
【0082】
本第1変形例に係る金属担持材料の製造方法は、金属に有機アミン化合物を配位させる工程と、前記金属に配位した前記有機アミン化合物を基材に含浸する工程と、前記有機アミン化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機アミン化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含している。
【0083】
本第1変形例に係る製造方法に用いられる有機アミン化合物は、金属に配位するアミノ基を有し、放射線照射によって基材の表面に化学結合できる化合物であればよい。本変形例に係る製造方法において、金属の水溶液に添加する有機アミン化合物は、アミノ基と、少なくとも1つの不飽和二重結合との両方を備える有機アミン化合物であってよい。これにより、有機アミン化合物は、放射線照射によって、不飽和二重結合を基材に化学結合(グラフト重合)させることができる。有機アミン化合物が有するアミノ基は、1級、2級、及び3級アミンの何れであってもよい。
【0084】
アミノ基と、不飽和二重結合との両方を備える有機アミン化合物には、より具体的には、例えば、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにビニルピリジン、ビニルイミダゾール、及び2-メチルビニルイミダゾール等のアミノ基とビニル基とを有する有機アミン化合物であってよい。
【0085】
本第1変形例に係る金属担持材料の製造方法おいて、金属担持材料が担持する金属、及び有機アミン化合物を化学結合させる基材は、第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0086】
金属に有機アミン化合物を配位させる工程における金属の水溶液の調整、金属の水溶液に添加する有機アミン化合物の添加量、すなわち、金属にアミノ基を配位させるための有機アミン化合物と金属とのモル比等の条件、上述の第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法が包含する金属に有機酸化合物を配位させる工程におけるリン酸エステル化合物の添加量、モル比に準じているのでその説明を省略する。
【0087】
本第1変形例に係る金属担持材料は、アミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、前記アミノ基が金属に配位し、前記有機酸構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、1mol当りの前記金属に、有機アミン化合物が有する、5.0mol当量以下、好ましくは、3.0mol当量以下、より好ましくは1.0mol当量以下、さらに好ましくは0.5mol当量以下、最も好ましくは0.33mol当量以下であるアミノ基が配位してなることが好ましい。また、一変形例に係る金属担持材料は、1mol当りの前記金属に、有機アミン化合物が有するアミノ基が0.1mol当量以上、より好ましくは0.3mol当量以上、さらに好ましくは1.3mol当量以上配位していることで、金属と基材とを、基材表面に金属が安定に担持された金属担持材料であり得、これにより有機酸化合物から当該金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料であり得る。
【0088】
また、別の観点から金属担持材料は、アミノ基を有する有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を備え、前記アミノ基が金属に配位し、前記有機アミン構造が基材に化学結合してなる、金属担持材料であって、1mol当りの金属に、2.0mol以上、より好ましくは3.0mol以上の有機アミン化合物が配位してなる。これにより、金属が徐放されることを好適に抑制できるのみならず、さらに2つ以上のオキソ酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該有機酸化合物が配位した金属担持材料であり得る。
【0089】
また、別の観点から第1変形例に係る金属担持材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機アミン構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属担持材料であり得る。
【0090】
第1変形例に係る金属担持材料は、第1変形例に係る金属担持材料の製造方法によって好適に製造できる。このため、基材に対する金属の担持量を高めることができ、例えば、第1変形例に係る金属担持材料においても、金属の担持量は、1重量%以上であり得る。
【0091】
本第1変形例に係る金属担持材料が担持する金属は、第1実施形態に係る金属担持材料が担持する金属と同じであるためその説明は省略する。
【0092】
<金属担持材料の製造方法(第2実施形態)>
本発明の一実施形態に係る金属担持材料の製造方法は上記の実施形態に限定されない。例えば、一実施形態(第2実施形態)に係る金属担持材料の製造方法は、金属に有機酸化合物を配位させる工程と、前記金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、前記有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含し、前記金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸するときにおいて、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している補助架橋剤を前記基材に含浸させるとよい。
【0093】
上記の構成によっても、製造時における洗浄などの工程を減少させることができる。また、予め金属に有機酸化合物を配位させて、その後、前記有機酸化合物と前記基材とを化学結合させるため、前記基材に担持する金属の量を好適に制御できる。また、有機酸化合物を、補助架橋剤を介して互いに架橋させることができるため、有機酸構造が有するオキソ酸基に金属を配した状態で、当該有機酸構造を基材に固定することができる。
【0094】
(1)金属に有機酸化合物を配位させる工程
本実施形態に係る製造方法において、補助架橋剤は、金属の水溶液を準備するときに、当該水溶液に添加すればよい。補助架橋剤は、金属に有機酸化合物を配位さる前に、金属の水溶液に添加してもよく、金属に有機酸化合物を配位させた後に、金属の水溶液に添加してもよい。
【0095】
(1-1)補助架橋剤
補助架橋剤は、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有する架橋補剤である。金属を配位した有機酸化合物とともに補助架橋剤に放射線照射することにより、補助架橋剤同士が、当該少なくとも1つの不飽和二重結合基を互いに重合させつつ、少なくとも1つの有機酸化合物及び/又は基材とグラフト重合させることができる。補助架橋剤が有する不飽和二重結合基は、より好ましくはビニル基である。不飽和二重結合基がビニル基であることにより、補助架橋剤をより効果的に基材表面にグラフト重合させることができることが利点の1つである。また、補助架橋剤は、例えば、オキソ酸基又はオキソ酸エステル基を備えているが、不飽和二重結合基を備えていない有機酸化合物に金属を配位させ、当該有機酸化合物を基材に化学結合させるときに有用である。
【0096】
補助架橋剤には、例えば、単官能モノマー、多官能(メタ)アクリレート、及び多官能ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは併用してもよい。なお、補助架橋剤が、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び多官能ウレタン(メタ)アクリレート等である場合、これら補助架橋剤の一部を構成するカルボン酸エステル基は、オキソ酸エステル基として金属に配位し得る。
【0097】
単官能モノマーとして、例えば、単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。当該単官能(メタ)アクリレートには、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。その他、単官能モノマーには、例えば、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0098】
多官能(メタ)アクリレートは、多価アルコール又はポリオールと、(メタ)アクリル酸とのエステルであり得る。ここで、多価アルコールには、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール;、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール;、並びに、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等であってよい。また、ポリオールには、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリオールは、例えば、グリセリン、及びトリメチロールプロパンにより分岐鎖を有していてもよい。また、多官能(メタ)アクリレートは、少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有していれば、多価アルコール及びポリオールの全ての水酸基がエステル化されていなくてもよい。
【0099】
多官能(メタ)アクリレートの具体例には、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。多官能(メタ)アクリレートはその他、エポキシ(メタ)アクリレートであってもよい。
【0100】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレートと、上述の多価アルコール又はポリオールが、ポリイソシアネート化合物によってウレタン結合した化合物であり得る。ここで、ポリイソシアネート化合物には、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、NKエステル(新中村化学工業社製)などの市販品を用いることができる。
【0101】
その他、多官能型の補助架橋剤には、例えば、ジビニルベンゼン、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)などが挙げられる。
【0102】
金属の水溶液に添加する補助架橋剤の添加量は、金属の水溶液を100重量%として、0.01~10.00重量%の範囲内であることが好ましく、0.05~5.00重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0103】
また、別の観点から、金属の水溶液に添加する架橋剤の添加量は、金属の水溶液に添加した有機酸化合物の量に応じて決定するとよい。例えば、水溶液に添加した1molの有機酸化合物に対し、補助架橋剤の添加量は、補助架橋剤が有する不飽和二重結合基の数に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが例えば、0.01~10molであるとよく、0.01~1.00molの範囲内、0.05~0.10molの範囲内であってもよい。これにより、放射線照射することで、補助架橋剤を、不飽和二重結合基を有していない有機酸化合物と架橋させることができ、複数の当該有機酸化合物に由来する有機酸構造を、架橋構造を介して化学結合させることができる。また、有機酸化合物と補助架橋剤とを含浸させた基材に放射線照射することで、有機酸化合物に由来する有機酸構造と、基材の表面とを補助架橋剤に由来する架橋構造を介してグラフト重合させることができる。
【0104】
(1-2)金属
本実施形態に係る金属担持材料において担持されるべき金属は、第1実施形態で説明した、金属であってよく、金属、及び金属の水溶液の準備方法の説明を省略する。
【0105】
(1-3)有機酸化合物
前記有機酸化合物は、例えば、放射線照射によって基材の表面に化学結合できる有機化合物であればよく、リン酸エステル化合物、カルボン酸化合物、有機硫酸化合物であってよく、リン酸エステル化合物は、第1実施形態において説明したリン酸エステル化合物を始めとする有機酸化合物であってもよい。
【0106】
有機酸化合物は、リン酸エステル化合物であることが好ましく、当該リン酸エステル化合物には、脂肪族リン酸エステル化合物、芳香族リン酸エステル化合物が挙げられる。ここで、脂肪族リン酸エステル化合物には、直鎖状、分岐状、又は環状の炭素数1~20のアルキル基を有するリン酸エステル化合物が挙げられ、ここで当該リン酸エステル化合物は、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルであってよい。リン酸エステル化合物は、より具体的には、例えば、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシホスフェート(リン酸トリブチル)、トリブトキシエチルホスフェート、リンモノエチルエステル、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル、リン酸ジエチル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸ジラウリルエステル等が挙げられる。また、芳香族リン酸エステル化合物は、少なくとも1つの芳香族基を有するリン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルであり得、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルである場合、直鎖状、分岐状、又は環状の炭素数1~20のアルキル基を有していてもよい。また、芳香族基を有するリン酸モノエステル化合物の芳香族基は、好ましくはフェニル基であり、当該フェニル基は、メチル基等のアルキル基、水酸基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。芳香族基を有するリン酸モノエステル化合物には、例えば、トリフェニルホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート、リン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。
【0107】
また、有機酸化合物が、カルボン酸化合物である場合、例えば、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、オクチル酸、ラウリル酸、及び安息香酸等が挙げられる。また、有機酸化合物が、有機硫酸化合物である場合、例えば、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0108】
以下では、より好ましい実施形態である、リン酸エステル化合物を用いて第2実施形態に係る製造方法を説明するが、リン酸エステル化合物の添加量、1.0mol当りの金属に添加する有機酸化合物のmol量、並びに金属に配位させるための時間、温度等の条件は、リン酸エステル化合物以外の有機酸化合物においても適用され、使用される有機酸化合物において適宜調整するとよい。
【0109】
本第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法においても、第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じく、金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物の添加量は、金属の水溶液に含まれる金属の量に応じて決定するとよい。すなわち、水溶液に溶解する1molの金属に対し、リン酸エステル化合物の添加量は、例えば、5.0mol以下であるとよく、3.0mol以下であることが好ましく、1.0mol以下であることがより好ましく、0.5mol以下がさらにより好ましく、0.33mol以下であることが最も好ましい。これにより、リン酸エステル化合物に対して配位すべき金属の量を多くすることができ、これによりリン酸エステル化合物による基材への金属の導入密度を高くすることができる。また、リン酸エステル化合物の量を少なくし、補助架橋剤を使用することで、放射線照射量を低くしても、リン酸エステル化合物のグラフト率を制御ができ、これにより金属担持量も制御可能となる。また、水溶液に溶解する1molの金属に対するリン酸エステル化合物の添加量を、上述の0.1mol以上、より好ましくは、0.3mol以上、さらに好ましくは、1.3mol以上においてより多くすることで、1mol当りの金属に対し、リン酸エステル化合物を多く配位させることができ、金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料を、第2実施形態においても製造できる。
【0110】
また、別の観点から本第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法においても、第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じく、金属の水溶液に添加するリン酸エステル化合物の添加量は、1molの金属に対し、2.0mol以上、より好ましくは3.0mol以上にすることで、1つの金属に配位するリン酸エステル化合物の量を2つ以上、より好ましくは3つ以上にすることができる。これにより、金属が徐放されることを好適に抑制しつつ、さらに2つ以上のリン酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該リン酸エステル化合物を配位させることができる。
【0111】
(2)金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程
例えば、リン酸エステル化合物及び補助架橋剤を添加した金属の水溶液は、例えば、10分~24時間、20~60℃の範囲内の温度で加温することで、リン酸エステル化合物のリン酸基を十分に金属に配位させることが好ましい。当該時間及び温度条件は、本第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法に用いられる有機酸化合物にも適用され、使用される有機酸化合物において適宜調整するとよい。
【0112】
その他、基材、及び基材の処理等は、第1実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0113】
(3)放射線を照射する工程
放射線を照射する工程では、金属を配位したリン酸エステル化合物と、補助架橋剤とを含む水溶液から取り出した基材に放射線を照射する。これにより、金属が配位した2つのリン酸エステル化合物を、補助架橋剤に由来する架橋構造を介して互いに架橋させ、リン酸エステル化合物に由来するリン酸エステル構造と基材とを、補助架橋剤が有する不飽和二重結合基を介してグラフト重合させることができる。
【0114】
金属が配位したリン酸エステル化合物、及び補助架橋剤を含浸した基材は、乾燥させてから、放射線を照射する工程に供してもよく、乾燥させずに放射線を照射する工程に供してもよいが、乾燥させずに湿潤状態で、放射線を照射する工程に供することよりが好ましい。
【0115】
放射線を照射する工程において用いることのできる放射線としては、第1実施形態と同じく、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができ、より好ましくはγ線、電子線が挙げられ、放射線として電子線を採用する場合、例えば、1~200kGyの条件で電子線を照射すればよく、10~50kGyの条件で電子線照射することがより好ましい。
【0116】
また、金属を配位した有機酸化合物同士、さらには補助架橋剤同士の高密度な架橋構造を導入し、細密なネットワークを形成するという観点からは、10~200kGyの条件で電子線照射することが好ましく、1~500kGyの条件で電子線を照射してもよい。1~500kGyの線量の範囲内において、より線量が高い程、有機酸化合物同士の高密度な架橋構造を形成することができる。
【0117】
また、金属に配位した有機酸化合物、及び補助架橋剤を基材に含浸する工程を行なう前の基材に予め電子線を照射し(第1照射工程)、金属配位した有機酸化合物及び補助架橋剤に含浸した基材に放射線を照射する工程(第2照射工程)を行なってもよい。
【0118】
<金属担持材料(第2実施形態)>
本発明の一実施形態(第2実施形態)に係る金属担持材料は、有機酸構造を基材と架橋する架橋構造を備え、当該架橋構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造であり、当該補助架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート等の多官能型の補助架橋剤、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、単官能モノマーからなる群から選択される。
【0119】
本第2実施形態に係る金属担持材料は、第1実施形態に係る金属担持材料と同じく、1molの金属に対して配位するオキソ酸基が5.0mol当量以下であるとよく、1.0mol当量以下であることがより好ましく、0.5当量mol以下がさらにより好ましく、0.33mol当量以下であることが最も好ましい。これにより、有機酸化合物に由来する有機酸構造を配位させることで、基材への金属の導入密度が高められた金属吸着材料であり得、金属の担持量が高められた金属担持材料であり得る。また、例えば、本第2実施形態に係る金属担持材料は、1mol当りの金属に対し、有機酸化合物が有するオキソ酸基が0.1mol当量以上配位するとよく、0.3mol当量以上とすることが好ましく、1.0mol当量以上とすることがさらに好ましく、1.3mol当量以上配位していることで、金属と基材とを、基材表面に金属が安定に担持された金属担材料であり得、これにより有機酸化合物から当該金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料であり得る。
【0120】
また、別の観点から第2実施形態に係る金属担持材料は、1mol当りの金属に、2.0mol当量以上、より好ましくは3.0mol当量以上の有機酸化合物に由来する、少なくとも2つの有機酸構造が金属に配位しており、当該有機酸構造が補助架橋剤に由来する架橋構造を介して互いに固定され得る。このため、少なくとも2つのオキソ酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該有機酸構造が固定された金属担持材料でもあり得る。
【0121】
これら金属担持材料が備える有機酸化合物に由来する有機酸構造は、抗ウイルス性材料として用いるという観点からは、より好ましくは、リン酸エステル化合物に由来するリン酸エステル構造であり、脂肪族リン酸エステル化合物、及び芳香族リン酸エステル化合物に由来するリン酸エステル構造が、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、単官能モノマーに由来する架橋構造を介して互いに固定され、架橋構造を介し基材にも架橋されることでより好適に達成され得る。
【0122】
また、別の観点から第2実施形態に係る金属担持材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機酸構造同士、さらには補助架橋剤に由来する架橋構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属担持材料であり得る。
【0123】
第2実施形態に係る金属担持材料は、第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法によって好適に製造できる。このため、基材に対する金属の担持量を高めることができ、例えば、第2実施形態に係る金属担持材料においても、金属の担持量は、1重量%以上であり得る。
【0124】
<一変形例(第2変形例)に係る金属担持材料、及びその製造方法>
一実施形態に係る金属担持材料の製造方法は、上述の第1及び第2実施形態、並びに第1変形例に係る金属担持材料の製造方法に限定されない。例えば、一変形例(第2変形例)に係る金属担持材料の製造方法は、上述の第2実施形態に係る金属担持材料、及びその製造方法において、有機酸化合物に代えて、有機アミン化合物が有するアミノ基を金属に配位させてもよい。
【0125】
一変形例(第2変形例)に係る金属担持材料の製造方法は、金属に有機アミン化合物を配位させる工程と、前記金属に配位した前記有機アミン化合物を基材に含浸する工程と、前記有機アミン化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機アミン化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含し、前記金属に配位した前記有機アミン化合物を基材に含浸するときにおいて、少なくとも1つの不飽和二重結合基を有している補助架橋剤を前記基材に含浸させるとよい。
【0126】
本2変形例に係る製造方法に用いられる有機アミン化合物は、金属に配位するアミノ基を有し、放射線照射によって基材の表面に化学結合できる有機化合物であればよい。
【0127】
有機アミン化合物は、例えば、芳香族アミン化合物であってもよく、脂肪族アミンであってもよい。脂肪族アミンには、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミンが挙げられる。
【0128】
また、補助架橋剤は、上述の第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法において使用さる補助架橋剤を用いればよいため、その説明を省略する。
【0129】
本第2変形例に係る金属担持材料の製造方法おいて、金属担持材料が担持する金属、及び有機アミン化合物を化学結合させる基材は、第1及び第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0130】
金属に有機アミン化合物を配位させる工程における金属の水溶液の調整、金属の水溶液に添加する有機アミン化合物の添加量、すなわち、金属にアミノ基を配位させるための有機アミン化合物と金属とのモル比等の条件、上述の第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法が包含する金属に有機酸化合物を配位させる工程におけるリン酸エステル化合物の添加量、モル比に準じているのでその説明を省略する。
【0131】
本第2変形例に係る金属担持材料の製造方法が包含する、放射線を照射する工程における放射線の照射条件は、第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0132】
本第2変形に係る金属担持材料は、第2実施形態に係る金属担持材料と同じく、1molの金属に対して配位するアミノ基が5.0mol当量以下であるとよく、1.0mol当量以下であることがより好ましく、0.5当量mol以下がさらにより好ましく、0.33mol当量以下であることが最も好ましい。これにより、有機アミン化合物に由来する有機アミン構造を配位させることで、基材への金属の導入密度が高められた金属吸着材料であり得、金属の担持量が高められた金属担持材料であり得る。また、例えば、本第2変形例に係る金属担持材料は、1mol当りの金属に対し、有機アミン化合物が有するアミノ基が0.1mol当量以上配位するとよく、0.3mol当量以上とすることが好ましく、1.0mol当量以上とすることがさらに好ましく、1.3mol当量以上配位していることで、金属と基材とを、基材表面に金属が安定に担持された金属担材料であり得、これにより有機アミン化合物から当該金属が徐放されることを好適に抑制できる金属担持材料であり得る。
【0133】
また、別の観点から第2変形例に係る金属担持材料は、1mol当りの金属に、2.0mol当量以上、より好ましくは3.0mol当量以上の有機アミン化合物に由来する、少なくとも2つの有機アミン構造が金属に配位しており、当該有機アミン構造が補助架橋剤に由来する架橋構造を介して互いに固定され得る。このため、少なくとも2つのオキソ酸基によって、金属のサイズを特定できるように当該有機アミン構造が固定された金属担持材料でもあり得る。
【0134】
また、別の観点から第2変形例に係る金属担持材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機アミン構造同士、さらには補助架橋剤に由来する架橋構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属担持材料であり得る。
【0135】
第2変形例に係る金属担持材料は、第2変形例に係る金属担持材料の製造方法によって好適に製造できる。このため、基材に対する金属の担持量を高めることができ、例えば、第2実施形態に係る金属担持材料においても、金属の担持量は、1重量%以上であり得る。
【0136】
本第2変形例に係る金属担持材料が担持する金属は、第2実施形態に係る金属担持材料が担持する金属と同じであるためその説明は省略する。
【0137】
<抗ウイルス性材料>
本発明の一実施形態(第1及び第2実施形態)に係る金属担持材料は、いずれも、高い金属の担持量を達成することができ、当該金属の徐放性を抑制し、金属が有する機能を長期に持続させることができると期待される。また、上述したように金属担持材料において、金属の担持量は、1重量%以上であり得る。ここで、これらの金属による機能の1つとして、高い抗ウイルス性、抗菌性が挙げられる。金属担持材料は、高い抗ウイルス性を有する抗ウイルス性材料として、好適に使用することができる。
【0138】
例えば、複数のリン酸エステル化合物に由来する構造で金属を配位している場合、当該金属担持材料は、リン酸基によって銀を始めとする金属を配位したホスミシンなどの抗生物質に類似する構造を基材の表面に化学的に結合させることができる。このため、有機・無機の抗菌性を併せ持つハイブリッドな抗菌・抗ウイルス材としての用途が期待される。
【0139】
抗ウイルス性材料は、例えば、マスク、ガーゼ、医療用防護服、シーツ、枕カバー、壁紙、スプレーの原料、及びゲル加工品などの材料として好適に使用することができる。
【0140】
<金属吸着材料の製造方法(第3実施形態)>
一実施形態(第3実施形態)に係る金属吸着材料の製造方法は、本発明の一実施形態(第2実施形態)に係る金属担持材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含している。すなわち、金属担持材料を製造する工程において、金属に有機酸化合物を配位させる工程と、金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸する工程と、有機酸化合物が含浸された前記基材に放射線を照射することで、前記有機化合物と前記基材とを化学結合させる工程とを包含し、金属に配位した前記有機酸化合物を基材に含浸するときにおいて、少なくとも1つの不飽和二重結合を有している補助架橋剤を前記基材に含浸させる。
【0141】
(1)金属に有機酸化合物を配位させる工程
金属吸着材料の製造方法において、金属に有機酸化合物を配位させる工程は、1molの金属に対して配位させるオキソ酸基が5.0mol当量以下であるとよく、1.0mol当量以下であることがより好ましく、0.5当量mol以下がさらにより好ましく、0.33mol当量以下であることが最も好ましい。1molの金属に対し、5.0mol当量以下おいてより多くのオキソ酸基を配位させるように、金属の水溶液を調製するとよい。これにより、より多くの金属を担持できるように、オキソ酸基を配位させた状態で基材表面にグラフト重合しつつ、オキソ酸基を固定した有機酸構造を形成することができる。また、1molの金属に対し、0.3mol当量以上、より好ましくは1.3mol当量以上、さらに好ましくは2.0mol当量以上のオキソ酸基を配位させることで、より精度の高い金属の選択性を備えた金属吸着材料を得ることができる。金属吸着材料の製造方法では、限定されるものではないが、吸着すべき金属の種類に応じ、当該金属1molに対し、5.0mol当量以下の範囲内において、オキソ酸基を配位させればよい。
【0142】
(1-1)金属
金属吸着材料の製造方法おいて、金属吸着材料が吸着する金属は、第1及び第2実施形態に係る金属担持材料と同じく、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)からなる群から選択されてもよい。
【0143】
金属が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)である場合、金属の水溶液は、第1及び2実施形態に係る金属担持材料の製造方法における金属の水溶液の準備方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0144】
金属が、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)である場合、塩化亜鉛、塩化鉛、硝酸鉛等の金属塩の水溶液として準備すればよい。
【0145】
また、金属が、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等の希土類である場合、当該希土類の水溶液は、当該希土類の酸溶液、又はアルカリ溶液として準備され得る。
【0146】
希土類の水溶液に含まれる希土類の濃度は、基材に吸着させるべき、希土類の量に応じて決定するとよく、例えば、0.01mol/L以上、5.00mol/L以下であることが好ましく、0.50mol/L以下であることがより好ましい。ここで、金属の水溶液を準備するための水には、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いることができ、超純水であることが好ましい。
【0147】
例えば、希土類の水溶液は、有機酸化合物に好適に配位させるためpHを調整していてもよい。希土類の水溶液におけるpHは、有機酸化合物の種類に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、pHは、1~9の範囲内であることが好ましく、5~9の範囲内であることがより好ましい。希土類の水溶液におけるpHは、金属塩の種類に応じ設計すればよく、限定されるものではないが、pHは、1~9の範囲内においてより低くすることが希土類の水への溶解性を高め、希土類イオンを安定化させるために好ましく、1~9の範囲内においてより高くすることが、希土類に対し、オキソ酸基をイオン結合でなく、配位結合させるという観点からより好ましい。これにより水溶液に含まれる希土類のイオンを安定化させることができ、当該希土類のイオンに有機酸化合物が備えるオキソ酸基を配位させることができる。
【0148】
また、水溶液に含まれる希土類に種類に応じ適宜設計すればよく、限定されるものでは、ないが、希土類の水溶液には、例えば、アスコルビン酸等の還元剤を添加してもよい。
【0149】
その他、希土類の水溶液には、例えば、第1実施形態にてすでに説明したpH緩衝剤、界面活性剤、分散剤等を添加してもよい。
【0150】
(1-2)有機酸化合物及び補助架橋剤
有機酸化合物は、例えば、第1実施形態及び第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法においてすでに説明したリン酸エステル化合物を始めとする有機酸化合物であってもよい。なかでも、有機酸化合物は、リン酸エステル化合物であることが好ましく、当該リン酸エステル化合物は、第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法において、説明した脂肪族リン酸エステル化合物、芳香族リン酸エステル化合物が挙げられる。ここで、脂肪族リン酸エステル化合物は、具体的には、例えば、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル、トリブトキシホスフェート(リン酸トリブチル)、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート等が挙げられる。
【0151】
補助架橋剤には、第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じく、例えば、多官能(メタ)アクリレート、及び多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び単官能モノマー等が挙げられ、これらは併用してもよい。
【0152】
なかでも、多官能(メタ)アクリレートは、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、他の架橋剤には例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0153】
また、補助架橋剤として、単官能モノマーには、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0154】
その他、多官能型の補助架橋剤には、例えば、ジビニルベンゼン、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)などが挙げられる。
【0155】
金属の水溶液に添加する補助架橋剤の添加量は、金属の水溶液を100重量%として、0.01~10.00重量%の範囲内であることが好ましく、0.05~5.00重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0156】
また、別の観点から、金属の水溶液に添加する補助架橋剤の添加量は、金属の水溶液に添加した有機酸化合物の量に応じて決定するとよい。例えば、水溶液に添加した1molの有機酸化合物に対し、補助架橋剤の添加量は、例えば、0.01~1.00molの範囲内であることが好ましく、0.05~0.50molの範囲内であることがより好ましい。これにより、放射線照射することで、補助架橋剤を、有機酸化合物と架橋させることができ、例えば、2つの有機酸化合物に由来する有機酸構造を、架橋構造を介して架橋させることができる。また、有機酸化合物と補助架橋剤とを含浸させた基材に放射線照射することで、有機酸化合物に由来する有機酸構造と、基材の表面とを補助架橋剤に由来する架橋構造を介してグラフト重合させることができる。
【0157】
(2)金属に配位した有機酸化合物を基材に含浸する工程
例えば、リン酸エステル化合物及び補助架橋剤を添加した金属の水溶液は、例えば、10分~24時間、20~60℃の範囲内の温度で加温することで、リン酸エステル化合物のリン酸基を十分に金属に配位させることが好ましい。当該時間及び温度条件は、本第3実施形態に係る金属吸着材料の製造方法に用いられる有機酸化合物にも適用され、使用される有機酸化合物において適宜調整するとよい。
【0158】
その他、基材、及び基材の処理等は、第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0159】
(3)放射線を照射する工程
放射線を照射する工程では、金属を配位した有機酸化合物と、有機酸化合物とを含む水溶液から取り出した基材に放射線を照射する。これにより、有機酸化合物に由来する有機酸構造を補助架橋剤に由来する架橋構造を介して基材にグラフト重合させる。ここで、有機酸構造は、補助架橋剤に由来する架橋構造を介して基材とも架橋し得る。
【0160】
放射線を照射する工程において用いることのできる放射線としては、第2実施形態と同じく、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができ、より好ましくはγ線、電子線が挙げられ、放射線として電子線を採用する場合、例えば、1~200kGyの条件で電子線を照射すればよく、10~50kGyの条件で電子線照射することがより好ましい。
【0161】
また、金属を配位した有機酸化合物同士の高密度な架橋構造を導入し、細密なネットワークを形成するという観点からは、10~200kGyの条件で電子線照射することが好ましく、1~500kGyの条件で電子線を照射してもよい。1~500kGyの線量の範囲内において、より線量が高い程、有機酸化合物同士の高密度な架橋構造を形成することができる。
【0162】
(4)金属を脱離させる工程
金属を脱離させる工程では、放射線を照射する工程によって、有機酸化合物に由来する有機酸構造と基材とが架橋構造を介して結合した有機酸構造から、当該有機酸構造に配位された金属を脱離する。
【0163】
金属を脱離する工程において、放射線を照射された基材は酸又はアルカリ水溶液に浸漬することで処理するとよい。これにより、有機酸構造に配位された金属を溶解させることができ、当該有機酸構造から首尾よく金属を脱離することができる。
【0164】
金属を脱離する工程において使用する酸は、塩酸、酢酸、硫酸等の種々の酸であってよく、塩酸であることがより好ましい。酸の濃度は、脱離させるべき金属の種類に応じて選択すればよく、例えば、0.01~5.00mol/L程度の濃度であればよい。また、アルカリ処理する場合、当該アルカリには、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0165】
有機酸化合物に由来する有機酸構造は、0.3mol当量以上、より好ましくは1.3mol以上、さらに好ましくは、2.0mol以上のオキソ酸基により金属を配位した状態において架橋構造を介して互いに固定されていたため、当該金属を脱離しても、当該脱離した金属と同じサイズの金属を配位できるように固定されている。このため、金属を脱離させる工程で得られた、金属吸着材料は、すでに脱離した金属と同じサイズの金属を選択的に、再吸着できるような位置に2つ以上のオキソ酸基が固定されている。
【0166】
<一変形例(第3変形例)に係る金属吸着材料>
一実施形態に係る金属吸着材料の製造方法は、上述の第3実施形態に係る金属吸着材料の製造方法に限定されない。例えば、一変形例(第3変形例)に係る金属吸着材料の製造方法は、上述の第3実施形態に係る金属吸着材料、及びその製造方法において、有機酸化合物に代えて、有機アミン化合物が有するアミノ基を金属に配位させてもよい。
【0167】
一変形例(第3変形例)に係る金属吸着材料の製造方法は、本発明の一変形例(第1又は第2変形例)に係る金属担持材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含している。
【0168】
本第3変形例に係る金属吸着材料の製造方法おいて、有機アミン化合物、及び補助架橋剤は、第1及び第2変形例に係る金属担持材料の製造方法と同じであるため、その説明を省略する。
【0169】
本第3変形例に係る金属吸着材料の製造方法おいて、金属吸着材料が吸着する金属、及び有機アミン化合物を化学結合させる基材は、第1及び第2変形例に係る金属担持材料と同じであるため、その説明を省略する。
【0170】
金属に有機アミン化合物を配位させる工程における金属の水溶液の調整、金属の水溶液に添加する有機アミン化合物の添加量、すなわち、金属にアミノ基を配位させるための有機アミン化合物と金属とのモル比等の条件、上述の第2変形例に係る金属担持材料の製造方法が包含する金属に有機アミン化合物を配位させる工程における有機アミン化合物の添加量、モル比と同じであるのでその説明を省略する。
【0171】
また、金属を脱離させる工程は、上述の第3の実施形態に係る金属吸着材料の製造方法が包含する、金属を脱離させる工程と同じであるため、その説明を省略する。
【0172】
<金属吸着材料(第3実施形態)>
本発明の一実施形態(第3実施形態)に係る金属吸着材料は、すでに説明したように、0.3~5.0mol当量の範囲内のオキソ酸基が、有機酸構造と架橋構造とより基材表面に固定されており、ここで、オキソ酸基は金属を担持していた位置に固定されている。よって、金属吸着材料は、固定されたオキソ酸基により、再度、同じ金属を担持させることができる。ここで、金属吸着材料は、1molの金属に対し、0.3~5.0mol当量の範囲内において、より多く、例えば2.0mol当量以上のオキソ酸基を配位させて、より精度の高い金属の選択性を備えた金属吸着材料を得ることができる。
【0173】
位置が固定された複数のオキソ酸基を備えた基材は、例えば、金属吸着材料に酸又はアルカリ処理を行うことで金属を放出すると、位置が固定された状態で複数のリン酸基は基材の表面に残る。ここで、位置が固定された状態で金属を放出した複数のオキソ酸基は、放出した金属と同じサイズの金属を選択的に再吸着させることが金型として利用できると期待される。
【0174】
図4に示す、金属吸着材料が再吸着する対象金属は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)であってもよく、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ウラン(U)、トリウム(Th)及び、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等の希土類元素であってもよい。すなわち、
図4に示すように、金属吸着材料は、その製造工程において脱離した金属を、共存するサイズの異なる共存金属が存在する中においても選択的に吸着することができる。よって、本発明の一実施形態(第3実施形態)に係る金属吸着材料を用いて金属を再吸着する金属の吸着方法も、本発明の範疇である。すなわち、本発明の一実施形態(第3実施形態)に係る金属吸着材料を用いて金属を再吸着する吸着方法は、貴金属や希土類等を含む、廃水からこれら貴金属や希土類等を回収するために使用することかできる。
【0175】
また、別の観点から第3実施形態に係る金属吸着材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機酸構造同士、さらには補助架橋剤に由来する架橋構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属吸着材料であり得、これにより、対象とする金属を選択的に吸着できるように、オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基が、基材の表面に固定され得る。
【0176】
また、金属吸着材料は、吸着基(複数のオキソ酸基)近傍に有機酸化合物の架橋構造を導入して強固に固定し鋳型構造を形成することで、抽出剤が持つ優れた吸着選択性に加え、サイズ認識能を併せ持つ吸着材料として使用し得る。このような吸着材料は、例えば、金属担持型有機触媒材料、光集積センサー等に使用することができる。
【0177】
<一変形例(第3変形例)に係る金属吸着材料>
一変形例(第3変形例)に係る金属吸着材料は、すでに説明したように、0.3~5.0mol当量の範囲内のアミノ基が、有機アミノ構造と架橋構造とより基材表面に固定されており、ここで、アミノ基は金属を担持していた位置に固定されている。よって、金属吸着材料は、固定されたアミノ基により、再度、同じ金属を担持させることができる。ここで、金属吸着材料は、1molの金属に対し、0.3~5.0mol当量の範囲内において、より多く、例えば2.0mol当量以上のアミノ基を配位させて、より精度の高い金属の選択性を備えた金属吸着材料を得ることができる。位置が固定された複数のアミノ基を備えた基材は、例えば、金属吸着材料に酸又はアルカリ処理を行うことで金属を放出すると、位置が固定された状態で複数のアミノ基が基材の表面に残る。ここで、位置が固定された状態で金属を放出した複数のアミノ基は、放出した金属と同じサイズの金属を選択的に再吸着させることが金型として利用できると期待される。
【0178】
また、別の観点から第3変形例に係る金属吸着材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機アミン構造同士、さらには補助架橋剤に由来する架橋構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属吸着材料であり得、これにより、対象とする金属を選択的に吸着できるように、アミノ基が、基材の表面に固定され得る。
【0179】
<金属担持材料、及びその製造方法(第4実施形態)>
本発明の一実施形態に係る金属担持材料の製造方法は上記の第1及び第2実施形態、並びに第1及び第2変形例に限定されない。例えば、一実施形態(第4実施形態)に係る金属担持材料の製造方法は、基材に放射線を照射する第1照射工程と、前記放射線を照射した基材にグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを含浸することで、前記(メタ)アクリレートか前記基材に化学結合した(メタ)アクリレートに由来する有機構造を形成する工程と、前記有機構造が有する前記グリシジル基に、アミン化合物、又は酸化合物を反応さて、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸構造、又はアミノ基を有する有機アミン構造を形成する工程と、前記有機酸構造が有する前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は前記有機アミン構造が有するアミノ基に金属を配位させる工程と、前記金属を配位した前記有機酸構造又は有機アミン構造を備える前記基材に放射線を照射することで、前記オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸構造同士、又はアミノ基を有する有機アミン構造同士を互いに化学結合させる、第2照射工程を包含している。
【0180】
上記の構成によっても、金属に有機酸化合物又は有機アミン化合物を配位させて、その後、前記有機酸化合物又は有機アミン化合物と前記基材とに高密度な架橋構造を導入でき、細密なネットワークを構築できる。よって、前記基材に担持する金属の量を好適に制御できる。また、有機酸化合物又は有機アミン化合物を、補助架橋剤を介して互いに架橋させることができるため、有機酸構造が有するオキソ酸基、又は有機アミン構造が有するアミノ基に金属を配した状態で、当該有機酸構造又は有機アミン構造を基材に固定することができる。
【0181】
本第5実施形態に係る金属担持材料の製造方法おいて、金属担持材料が担持する金属、及び、有機酸構造、又は有機アミン構造を形成する基材は、第1及び第2実施形態、並びに第1及び第2変形例に係る金属担持材料と同じであるため、その説明を省略する。
【0182】
(1)第1照射工程
第1照射工程は、有機酸化合物を含む溶液に含浸させる前の基材に放射線を照射する工程である。第1照射工程において用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができ、より好ましくはγ線、電子線が挙げられる。放射線として電子線を採用する場合、例えば、1~200kGyの条件で電子線を照射すればよく、10~50kGyの条件で電子線照射することがより好ましい。これにより、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機構造、又はアミノ基を有する有機アミン構造を形成するためのグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを基材の表面に均質にグラフト重合させることができる。
【0183】
(2)グリシジル基を有する有機構造を形成する工程
有機構造を形成する工程を形成する工程は、放射線を照射した基材にグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを含浸することで、基材に化学結合した(メタ)アクリレートに由来する、グリシジル基を有する有機構造を形成する。
【0184】
グリシジル基を有する(メタ)アクリレートは、水溶液として調製すればよく、当該水溶液におけるグリシジル基を有する(メタ)アクリレートの濃度は、0.1~50.0質量%であればよい。これにより、放射線を照射した基材に十分な量の(メタ)アクリレートに由来する有機構造を導入することができる。グリシジル基を有する(メタ)アクリレート水溶液における水は、金属の水溶液を準備するための水と同じく、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いることができ、超純水であることが好ましい。
【0185】
グリシジル基を有する有機構造を形成する工程では、限定されるものではないが、放射線を照射した後の基材を、20~80℃の範囲内の温度条件で、5分間~48時間、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートに含浸し、これにより、当該基材の表面にグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを化学結合させ、グリシジル基を有する有機構造を形成すればよい。
【0186】
グリシジル基を有する有機構造を形成する工程では、基材の表面にグリシジル基を有する有機構造を形成した後、例えば、洗浄により基材の表面に残留する未反応のグリシジル基を有する(メタ)アクリレートを除去してもよい。グリシジル基を有する有機構造を形成した基材は、乾燥させてもよく、乾燥させなくてもよい。
【0187】
(3)有機酸構造、又は有機アミン構造を形成する工程
有機酸構造、又は有機アミン構造を形成する工程では、アミン化合物、又は酸化合物を反応さて、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基を有する有機酸構造、又はアミノ基を有する有機アミン構造を形成する。
【0188】
オキソ酸基、又はオキソ酸エステル基を有する有機酸構造を形成するための、酸化合物には、例えば、リン酸、及び硫酸が挙げられる。
【0189】
アミノ基を有する有機アミン構造を形成するためのアミン化合物には、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリメチルアミン、アニリン、アミノベンジルアミン、ポリエーテルアミン等のアミンが挙げられ、これらアミン化合物は、濃度5~50%程度に希釈されていることが好ましい。
【0190】
酸化合物、及びアミン化合物は、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等で希釈してもよい。
【0191】
有機酸構造、又は有機アミン構造を形成する工程では、基材の表面にオキソ酸基又はオキソ酸エステル基を有する有機酸構造、若しくは、アミノ基を有する有機アミン構造を形成した後、例えば、洗浄により基材の表面に残留する未反応の酸化合物、又はアミン化合物を除去してもよい。有機酸構造、又は有機アミン構造を形成した基材は、乾燥させてもよく、乾燥させなくてもよい。
【0192】
(4)金属を配位させる工程
金属を配位させる工程では、基材の表面に形成した、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル有機酸構造が有する、又は有機アミン構造を有するアミノ基に金属を配位させる。
【0193】
金属を配位させる工程では、金属の水溶液を調製し、当該金属の水溶液に有機酸構造又は有機アミン構造が形成された基材を含浸すればよい。金属の水溶液を調製するための金属塩の濃度は、第1及び第2実施形態に係る金属担持材料の製造方法における金属塩の濃度に準じているためその説明を省略する。
【0194】
(2)第2照射工程
本第5実施形態に係る金属担持材料の製造方法は、第2照射工程を行なうことにより、有機酸化合物に由来する有機酸構造、又は、有機酸化合物と補助架橋剤とに由来する架橋構造、若しくは有機アミン化合物に由来する有機アミン構造、又は、有機アミン化合物と補助架橋剤とに由来する架橋構造を介して基材により強固に重合させることができる。
【0195】
第2照射工程における放射線を照射する条件は、第2実施形態、及び第2変形例に係る金属担持材料の製造方法における放射線を照射する工程と同じであるため、その説明を省略する。
【0196】
<一変形例(第4変形例)に係る金属吸着材料、及びその製造方法>
一実施形態に係る金属吸着材料の製造方法は、上述の第4実施形態に係る金属担持材料の製造方法に限定されない。例えば、一変形例(第5変形例)に係る金属吸着材料の製造方法は、上述の第5実施形態に係る金属吸着材料の製造方法を行なうことで、金属担持材料を製造する工程と、前記金属を担持した金属担持材料から、前記金属を脱離させる工程を包含している。
【0197】
金属を脱離させる工程は、上述の第4実施形態に係る金属吸着材料の製造方法が包含している、金属を脱離させる工程と同じであるため、その説明を省略する。
【0198】
一変形例(第4変形例)に係る金属吸着材料は、すでに説明したように、0.3~5.0mol当量の範囲内のアミノ基が、有機アミノ構造と架橋構造とより基材表面に固定されており、ここで、アミノ基は金属を担持していた位置に固定されている。よって、金属吸着材料は、固定されたアミノ基により、再度、同じ金属を担持させることができる。ここで、金属吸着材料は、1molの金属に対し、0.3~5.0mol当量の範囲内において、より多く、例えば2.0mol当量以上のアミノ基を配位させて、より精度の高い金属の選択性を備えた金属吸着材料を得ることができる。
【0199】
また、別の観点から第4変形例に係る金属吸着材料は、金属を配位し、基材の表面に化学結合した有機酸構造同士、又は有機アミン構造同士さらには補助架橋剤に由来する架橋構造同士の直接的な架橋も含む、高密度な架橋構造、つまり細密なネットワークが形成された金属吸着材料であり得、これにより、対象とする金属を選択的に吸着できるように、オキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又はアミノ基が、基材の表面に固定され得る。
【0200】
位置が固定された複数のオキソ酸基若しくはオキソ酸エステル基、又は複数のアミノ基を備えた基材は、例えば、金属吸着材料に酸又はアルカリ処理を行うことで金属を放出すると、位置が固定された状態でオキソ酸基又はオキソ酸エステル基、若しくは複数のアミノ基が基材の表面に残る。ここで、位置が固定された状態で金属を放出した複数のアミノ基は、放出した金属と同じサイズの金属を選択的に再吸着させることが金型として利用できると期待される。
【0201】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0202】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0203】
〔実施例1〕
まず、銀の濃度が0.1mol/Lになるように硫酸銀を溶解した銀水溶液を準備した。次いで、当該銀溶液に、リン酸モノマーとして、2-ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェートの濃度が5重量%及びアスコルビン酸を0.02重量%になるよう添加した。続いて、リン酸モノマーを添加した銀溶液を24時間攪拌することで、当該リン酸モノマーに銀を担持させた銀担持リン酸モノマー液を得た。得られた銀担持リン酸モノマーはAgが一価であることから、1molのAgに対し、およそ1molの2-ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェートが配位し、かつ過剰の2-ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェートを含むと推定される。
【0204】
次いで、マスクの素材として利用されているポリオレフィン系の不織布(エリエール製マスク)を5cm×5cmに切り出し、銀担持リン酸モノマー液に浸漬した。同様に、白十字社製ガーゼ(綿)を5cm×5cmで切り出し、銀担持リン酸モノマー液に浸漬した。
【0205】
不織布を当該銀担持リン酸モノマー液から取り出し、該銀担持リン酸モノマー液を十分に含ませた状態のまま、20kGyの条件で電子線を照射した。これにより、銀担持リン酸モノマーを不織布にグラフト重合させた。次いで、基材をメタノールで洗浄することで、未反応の銀担持リン酸モノマーを除去し、その後、当該基材を真空乾燥機で乾燥させた。これにより、リン酸モノマーのグラフト重合を介して銀を担持した、実施例1の銀担持不織布を得た。同様に、銀担持リン酸モノマー液に浸漬した。
【0206】
グラフト重合前後の不織布の重量差から銀担持リン酸モノマーの導入量を算出した結果、銀担持リン酸モノマーの導入量は基材重量に対して50%程度だった。
【0207】
〔比較例1〕
比較例1として、ポリオレフィン系の不織布(ユニチャームサージカルマスク)を5cm×5cmに切り出し、減圧環境下、40℃で1日乾燥させた。次いで、窒素ガス雰囲気下において、100kGyの条件で電子線を照射した。
【0208】
続いて、電子線を照射した不織布を、濃度が5重量%であるグリシジルメタクリレート(GMA)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に40℃の温度条件にて、3時間浸漬することで、不織布にグリシジルメタクリレートをグラフト重合させた。グリシジルメタクリレートをグラフト重合させたDMSO溶液から取り出し、まず、ジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄し、次いで、メタノールで洗浄することにより、未反応のグリシジルメタクリレートを除去し、乾燥させることでグリシジルメタクリレートをグラフト重合させた不織布を得た。
【0209】
続いて、グリシジルメタクリレートをグラフト重合させた不織布を、85重量%のリン酸に80℃の温度条件にて、24時間浸漬することで、グリシジル基と、リン酸とを反応させた。これにより、リン酸基を、グリシジル(メタ)アクリロイル基を介して導入した不織布を得た。当該リン酸基を導入した不織布を水により洗浄し、濃度が1mol/Lである水酸化ナトリウム水溶液に一晩浸漬した。次いで、1mol/Lの塩酸に1日浸漬し、水洗後、40℃で減圧乾燥することで、未反応のリン酸およびホモポリマーを除去した。
【0210】
続いて、0.5mol/Lの銀を含む銀水溶液を準備し、リン酸基を導入した不織布を当該銀水溶液に浸漬することで、リン酸基に銀を担持させた。その後、当該不織布を水洗することで、比較例1の銀担持不織布を得た。
【0211】
〔SEM-EDXによる分析〕
実施例1の銀担持不織布、及び比較例1の銀担持不織布のそれぞれをSEM-EDX(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて解析した。
図1に、SEM-EDXにより求められた実施例1の銀担持不織布における銀の元素マッピングを示す。また、
図2に、実施例1の銀担持不織布から切り出した繊維の断面をSEM-EDXを用いて解析した銀の元素マッピングを示す。
【0212】
図1の銀の元素マッピングに映る黒色箇所が不織布上において銀元素が検出された箇所に相当する。
図1の元素マッピングから、不織布全体に均一に銀が担持されていることが確認できた。また、
図2の元素マッピングでは、白色箇所が、銀元素が検出された箇所に相当する。
図2に示すように、実施例1の銀担持不織布は、不織布繊維の表面に均一に銀が担持されていることが確認できた。
【0213】
これに対し、
図3の元素マッピングにおいて、比較例1の銀担持不織布は、銀元素が検出された箇所に相当する黒色箇所が少なく、このことから実施例1の銀担持不織布よりも銀の担持量がすくないと判断された。
【0214】
また、表1に示すように、SEM-EDXによる元素分析の結果から、実施例1の銀担持不織布では、銀の含有量が2.3%という高い値が示された。
【0215】
【0216】
〔銀担持材料の抗ウイルス性評価〕
実施例1と同じ条件にて、ガーゼ基材に銀水溶液を用いて銀を担持させることで、銀担持ガーゼ(銀含有量1.5質量%)を準備した。ガーゼ基材と銀担持ガーゼとを、それぞれ直径1cmの円形に切り出した後、SARS COV2 Virus 50μLを加え、試料とした。0分、30分、1時間、2時間、及び4時間の保管時間毎に、試料を950μLの培地(MEM)に加えた混合液を10倍希釈し、100μl/wellを細胞プレートに入れて2日間培養し、フォーカスフォーミングアッセイによりウイルスを測定した。
【0217】
また、ガーゼ基材をポリオレフィン系不織布に変更した以外は、ガーゼ基材の場合と同じ条件で、ポリオレフィン系不織布に銀を担持させた銀担持不織布(銀含有量1.2質量%)を準備し、同様の方法で評価を行った。結果を表2に示す。
【0218】
表2に示すように、SARS COV2 Virusをガーゼ基材に1時間接触さてもウイルス力価の減少が認められなかったが、銀担持ガーゼにウイルスを30分接触させることでウイルス力価が99.9%以上低減した。また、ポリオレフィン系の不織布にウイルスを30分接触させてもウイルス力価の減少は認められず、1時間の接触で33%の低減が認められた。一方、銀を担持させたポリオレフィン系不織布にウイルスを30分間接触させることで、ウイルス力価が97.5%減少し、1時間の接触で99.9%以上低減した。
【0219】
【0220】
〔実施例2〕
Tbの濃度が1000mg/Lのテルビウム標準溶液(硝酸テルビウム(III)六水和物の1mol/L硝酸溶液)を準備した。次いで、当該テルビウム標準溶液500mLに対し、3.0mol/Lの(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(EHEP)を3mL添加し、EHEPに十分にTbを吸着させた。その後、テルビウムに対し、EHEPを配位したEHEPの相(EHEP-Tbともいう)を分取した。分取したEHEP-Tbは、Tbが三価であることから、1molのTbに対し、およそ3molのEHEPが配位し、かつ過剰のEHEPを含むと推定される。EHEP-Tbと架橋剤トリアリルイソシアヌレート(TAIC)とを1:1の重量比で混合した後、ポリエチレン製不織布基材に含浸させた。その後、線量10~200kGyの条件にて電子線で照射し、EHEP-Tbを基材にグラフト重合させ、テルビウム(Tb)を担持したテルビウム担持材料を得た。その後、1mol/LのHClを用いて、EHEP-Tbをグラフト重合させた基材から溶離し、鋳型構造を導入した吸着材を作製した。上述のテルビウム標準溶液を希釈し、濃度5mg/Lのテルビウム標準溶液を準備した。次いでDyの濃度が5mg/Lとなるジスプロシウム標準溶液(硝酸ジスプロシウム(III)六水和物の1mol/L硝酸溶液)を準備した。濃度5mg/Lのジスプロシウム(Dy)標準溶液と濃度5mg/Lのテルビウム(Tb)標準溶液とを混合し、それぞれの濃度が5mg/Lとなる混合溶液をpH2に調整した。当該混合溶液に吸着材を浸漬させて20時間攪拌し、これにより、吸着材の吸着選択性を評価した。吸着選択性はDyの吸着量とTbの吸着量との比(Dy/Tb)を算出して評価した。
【0221】
図5は、実施例2の吸着材料における電子線の照射線量と、ジスプロシウム(Dy)及びテルビウム(Tb)の吸着量の比との関係を示すグラフである。ジスプロシウム(Dy)及びテルビウム(Tb)の吸着量は、照射線量の条件毎に吸着前後における混合溶液中のDy、及びTb濃度の差をICP発光分析装置で測定することで求めた。
図5に示すように、線量10kGyにおいてはDy/Tbは1.3であり、Dyの吸着選択性が高かったが、線量の増加に伴いDy/Tbが減少し、200kGyで1となった。線量が高くなることで、高密度な架橋構造が導入され、細密なネットワークを形成したため、Tbの選択性が高くなったことが確認できた。また、Tbの選択性の高まりに伴い1molのTbに対し、およそ3molのリン酸基が配位しつつ、固定されていると推定される。
【0222】
〔実施例3〕
ポリエチレン製不織布基材(0.1g)に線量30kGyの条件にて電子線照射した後、5%の4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(4HBAGE)と0.5%の界面活性剤(Span(登録商標)20)とのエマルション溶液中でグラフト重合を行い、基材と同重量の4HBAGEを導入したグラフト重合材を得た。次いで、転化反応によりエチレンジアミン(EDA)を導入して吸着材料を作製した。得られた吸着材料を1000mg/Lの硝酸銅溶液に浸漬させて十分にCuを吸着させた。その後、Cu塩溶液から取り出した吸着材料を、Cuを吸着させた状態で電子線を200kGy照射し、これによりCuを担持した銅担持材料を得た。得られた銅担持材料は、後述するように電子線照射により選択性が高まる。この選択性の高まりに伴い、1molの二価のCuに対し、およそ2molのアミノ基が配位しつつ、固定されていると推定される。
【0223】
得られた銅担持材料について、1mol/LのHClを用いて銅を溶離し、これにより、鋳型構造を有する吸着材料を得た。得られた吸着材材料を、硝酸Cu塩と硝酸Pb塩とのそれぞれの濃度が10mg/Lの混合溶液に浸漬させて24時間攪拌し吸着特性を評価した。
【0224】
図6は、実施例3の吸着材料(金属吸着材料)における電子線の照射線量と、銅(Cu)及び鉛(Pb)の吸着量の比との関係を示すグラフである。銅(Cu)及び鉛(Pb)の吸着量は、照射線量の条件毎に吸着前後における混合液中の銅(Cu)及び鉛(Pb)濃度の差をICP発光分析装置で測定することで求めた。
【0225】
図6に示すように、鋳型構造を導入していない未照射の吸着材はCuとPbの吸着率がそれぞれ62%、65%であったのに対して、鋳型構造を有する吸着材のCu、Pbの吸着材は92%、36%となり、Cuの吸着選択性が向上した。