(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171648
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】床スリーブ
(51)【国際特許分類】
E04B 5/48 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
E04B5/48 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103194
(22)【出願日】2022-06-28
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】596022927
【氏名又は名称】寿産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンクリートを打設してもスリーブ本体を支持固定したスリーブ配置穴の隙間からのノロの漏れ出しを確実に防止可能とする。
【解決手段】床スリーブ10は配管を挿通する円筒状のスリーブ本体12の下端側の所定の外周位置にリング状の鍔部材16を設けており、コンクリート板部材24のスリーブ配置穴26に床スリーブ10のスリーブ本体12を嵌め入れた場合、鍔部材16によってスリーブ配置穴26に対する嵌め込み位置が決まり、また鍔部材16の下側となるスリーブ本体12の下端外周に設けられた嵌合ブレード部材18によりセンタリングした状態で支持固定される。また鍔部材16によってスリーブ本体12とスリーブ配置穴26との間の隙間28が塞がれ、コンクリート30を打設しても下側にノロが漏れ出すことがない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を構築する床の下面位置に配置するコンクリート板部材に形成したスリーブ配置穴に嵌め込み固定され、前記コンクリート板部材の上側に対するコンクリートの打設で形成する前記床を貫通して配置する床スリーブであって、
配管を挿通する円筒状のスリーブ本体の所定の外周位置に設けられ、前記スリーブ本体の前記スリーブ配置穴に対する嵌め込み位置を決めるとともに前記スリーブ本体と前記スリーブ配置穴との間の隙間を塞ぐリング状の鍔部材と、
前記鍔部材の下側となる前記スリーブ本体の外周の複数箇所に設けられ、前記スリーブ配置穴に嵌め込まれて前記鍔部材により位置決めされた前記スリーブ本体をセンタリングした状態で支持固定する複数の嵌合ブレード部材と、
が設けられたことを特徴とする床スリーブ。
【請求項2】
請求項1記載の床スリーブに於いて、
前記嵌合ブレード部材は、バネ性を有する板バネ部材であり、当該板バネ部材の下部側を前記鍔部材の下側となる前記スリーブ本体の下端外周に固定されるとともに、前記板バネ部材の上部側を山形に屈曲して先端が前記スリーブ本体の外周に押圧接触される形状を備えたことを特徴とする床スリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に構築する床の下面位置に配置するコンクリート板部材のスリーブ配置穴に嵌め込み固定され、コンクリートの打設で構築する床を貫通して配置する床スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルやマンション等の建築構造物に設置される水回りの配管設備にあっては、鉄筋構造物に対し床を構築する仮枠を設置して鉄筋を配筋し、仮枠の所定位置に必要な数の床スリーブを固定し、この状態でコンクリートを打設し、コンクリートが固まった後に、床スリーブに配管を通し、床スリーブの床面開口部にアングル材を使用した配管固定部を現場作業により設けて配管を支持固定している。
【0003】
このような床スリーブとして、
図5に示すように、電動工具を必要とすることなく、コンクリート板部材に対する嵌め込み固定の現場作業を簡単且つ容易に行うことを可能とする床スリーブが提案されている。
【0004】
建物の床を構築する場合の床スリーブ100の取付けは、まず、
図5(A)に示すように、コンクリート板部材124のスリーブ配置穴126に対し、床スリーブ100のスリーブ本体112における下側の嵌合ブレード部材118を設けた部分を、位置決め部材116がコンクリート板部材124の上面に当って止まるまで押し込んで支持固定する。続いて
図5(B)に示すように、コンクリート板部材124の上にコンクリート128を打ち込んで建物の床を形成し、コンクリート128が固まった後に、スリーブ本体112の中に配管を通して支持固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3201881号公報
【特許文献2】特開平07-317318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の床スリーブにあっては、
図5(A)に示すように、スリーブ配置穴126に床スリーブ100を支持固定した状態でコンクリート板部材124の上にコンクリート128を打ち込んで建物の床を形成する場合、スリーブ本体112とスリーブ配置穴126との間に隙間が残っており、この隙間を通って打設したコンクリートがノロ(水に溶けたコンクリート)となって下側に漏れ出し、下の階を汚損する問題がある。
【0007】
本発明は、コンクリートを打設してもスリーブ本体を支持固定したスリーブ配置穴の隙間からのノロの漏れ出しを確実に防止可能とする床スリーブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(床スリーブ)
本発明は、建物に構築する床の下面位置に配置するコンクリート板部材に形成したスリーブ配置穴に嵌め込み固定され、コンクリート板部材の上側に対するコンクリートの打設で形成する床を貫通して配置する床スリーブであって、
配管を挿通する円筒状のスリーブ本体の所定の外周位置に設けられ、スリーブ本体のスリーブ配置穴に対する嵌め込み位置を決めるとともにスリーブ本体とスリーブ配置穴との間の隙間を塞ぐリング状の鍔部材と、
鍔部材の下側となるスリーブ本体の外周の複数箇所に設けられ、スリーブ配置穴に嵌め込まれて鍔部材により位置決めされたスリーブ本体をセンタリングした状態で支持固定する嵌合ブレード部材と
が設けられたことを特徴とする。
【0009】
(嵌合ブレード部材)
床スリーブの嵌合ブレード部材は、バネ性を有する板バネ部材であり、当該板バネ部材の下部側を鍔部材の下側となるスリーブ本体の下端外周に固定されるとともに、板バネ部材の上部側を山形に屈曲して先端がスリーブ本体の外周に押圧接触させる形状とする。
【発明の効果】
【0010】
(基本的な効果)
本発明の床スリーブによれば、スリーブ本体をコンクリート板部材のスリーブ配置穴に嵌め込むと、鍔部材がスリーブ本体とスリーブ配置穴との間に形成されているリング状の隙間を塞ぐこととなり、コンクリートの打設が行われてもスリーブ配置穴との隙間に対するコンクリートの流れ込みが防止され、スリーブ配置穴との隙間から下側にノロが漏れ出して起きる汚損を確実に防止し、コンクリート打設による床構造の仕上がり具合を良好なものとし、作業品質を高めることを可能とする。
【0011】
また、床スリーブをコンクリート板部材のスリーブ配置穴に嵌め込むと、スリーブ本体の外周に設けられた鍔部材がスリーブ配置穴を形成している上面に当接して嵌め込み位置が一義的に決まり、どの程度押し込みにより嵌め入れるかを判断することなく、鍔部材が当たるまで嵌め入れればよく、コンクリート板部材に対する床スリーブの嵌め込み固定を簡単且つ確実に行うことを可能とする。
【0012】
(嵌合ブレード部材による効果)
また、嵌合ブレード部材は、ばね性を備えたバネ板部材であり、スリーブ本体とスリーブ配置穴との間に形成されるリング状の隙間に対し、嵌合ブレード部材の山形部分が押し込みにより押し潰されて入り込み、押し潰された山形部分のばね性による反力で十分な嵌合強度が得られ、確実な支持固定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による床スリーブの実施形態を示した説明図である。
【
図2】鍔部材及び嵌合ブレード部材を設けた床スリーブの部分を取り出して示した説明図である。
【
図3】コンクリート板部材に床スリーブを嵌め込み固定した状態及びコンクリートを打設した状態を示した説明図である。
【
図4】コンクリート板部材のスリーブ配置穴に対する鍔部材および嵌合ブレード部材による床スリーブの嵌込固定の状態を示した説明図である。
【
図5】従来のコンクリート板部材に対する床スリーブの固定とコンクリート打設による床の構築を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る床スリーブの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0015】
[実施形態の基本的な概念]
まず、実施形態の基本的概念について説明する。実施形態は、概略的に、建物の構築に使用される床スリーブに関するものである。ここで、「床スリーブ」とは、建物を構築する床の下面位置に配置するコンクリート板部材に形成したスリーブ配置穴に嵌め込み固定され、コンクリート板部材の上側に対するコンクリートの打設で形成する床を貫通して配管を配置する建築資材である。
【0016】
また、「建物」とは、床スリーブが使用される建築構造物であり、その種類や構造は任意であるが、例えば、ビルやマンションなどの高さ方向に床構造で仕切られる階層構造物を含む概念である。
【0017】
また、「コンクリート板部材」とは、建物の床構造を構成する一部材であり、鉄筋入りにより強化されたコンクリート製の板部材であり、その構造や種類は任意であるが、PC板(プレストレス・コンクリート板)として知られたものであり、その種類として、公知のFR板、オムニア板、KH板などを含む概念である。
【0018】
本実施形態の床スリーブは、スリーブ本体、鍔部材及び嵌合ブレード部材で構成されるものである。ここで、「スリーブ本体」とは、配管を挿通する板金加工で製造される円筒状の部材であり、挿通する配管とコンクリート打ちする床の厚さに応じた様々な外径と長さを有するものである。
【0019】
また、「鍔部材」とは、スリーブ本体の所定の外周位置に設けられるリング状の板部材であり、フランジ部材、リング部材、円環部材などの概念を含むものであり、スリーブ本体をスリーブ配置穴に嵌め込む場合に、嵌め込み位置を決める機能と、スリーブ本体とスリーブ配置穴との間の隙間を塞ぐ機能とを備えるものである。
【0020】
また、「嵌合ブレード部材」とは、鍔部材の下側となるスリーブ本体の外周の複数箇所に設けられ、スリーブ配置穴に嵌め込まれて鍔部材により位置決めされたスリーブ本体をセンタリングした状態で支持固定するものである。嵌合ブレード部材の構造や形状は任意であるが、例えば、バネ性を有する板バネ部材であり、当該板バネ部材の下部側が鍔部材の下側となるスリーブ本体の下端外周に固定されるとともに、板バネ部材の上部側を山形に屈曲して先端がスリーブ本体の外周に押圧接触される形状を備えるものである。以下、具体的な実施形態を説明する。
【0021】
[実施形態の具体的内容]
床スリーブの実施形態について、より詳細に説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.床スリーブの構成
b.スリーブ本体
c.鍔部材
d.嵌合ブレード部材
e.床スリーブの取付け固定
f.本発明の変形例
【0022】
[a.床スリーブの構成]
図1は本発明による床スリーブの実施形態を示した説明図であり、
図1(A)は平面を示し、
図1(B)は正面を示し、
図1(C)は底面を示す。また、
図2は鍔部材および嵌合ブレード部材を設けた床スリーブの部分を取り出して示している。
【0023】
本実施形態の床スリーブ10について、より詳細に説明する。
図1に示すように、床スリーブ10は、スリーブ本体12、鍔部材16及び嵌合ブレード部材18で構成される。
【0024】
[b.スリーブ本体]
スリーブ本体12について、より詳細に説明する。スリーブ本体12は、配管を挿通する円筒状の部材であり、板金加工により形成された金属製の円筒体である。スリーブ本体12のサイズは、挿通する配管によりスリーブ径が決まっており、例えば、スリーブ径として、75φ、100φ、125φ、150φ、200φ、250φなどが準備され、また、床スリーブ10を設置する床の厚さによりスリーブ長が任意に決まっている。
【0025】
[c.鍔部材]
スリーブ本体12に設けられた鍔部材16について、より詳細に説明する。
図1に示すように、鍔部材16は、スリーブ本体12の下側外周の所定位置に設けられている。例えば、鍔部材16は、3箇所に配置されたL形の固定部材17の溶接によってスリーブ本体12の外周に固定されている。
【0026】
ここで、
図2に示すように、スリーブ本体12の下端面から鍔部材16の下面までの高さHは、床スリーブ10を嵌め込むコンクリート板部材の厚さに対応している。また、鍔部材16の外径は、コンクリート板部材に形成されたスリーブ配置穴の穴径を十分に超える寸法としている。例えば、スリーブ本体12の外径が例えば250φであったとすると、スリーブ配置穴の穴径は数ミリ程度大きい例えば256φ程度としている。また、スリーブ本体12の下端面から鍔部材16までの高さHは、後述するコンクリート板部材に設けたスリーブ配置穴の深さ、即ちコンクリート板部材の厚さに相当し、例えばH=35ミリメートル程度となる。
【0027】
[d.嵌合ブレード部材]
スリーブ本体16に設けられた嵌合ブレード部材18について、より詳細に説明する。
図1に示すように、嵌合ブレード部材18は、鍔部材16の下側となるスリーブ本体12の下端部外周の3箇所に設けられている。
【0028】
嵌合ブレード部材18は、バネ性を有するバネ板部材であり、例えば、短冊形状のばね性をもつ例えばステンレス製の板ばね部材であり、
図2に示すように、上部側で頂角が120°~150°程度となる山形に屈曲し、下部を溶接等によりスリーブ本体12の下端に合わせて固着し、山形に屈曲した上部の先端を、スリーブ本体12の外周面に押圧接触させている。
【0029】
[e.床スリーブの取付け固定]
図3はコンクリート板部材に床スリーブを嵌め込み固定した状態及びコンクリートを打設した状態を示した説明図、
図4はコンクリート板部材のスリーブ配置穴に対する嵌合ブレード部材による床スリーブの嵌込固定の状態を底面から示した説明図である。
【0030】
建物の床を構築する場合の本発明の床スリーブ10の取付けは、
図3(A)に示すように、構築する床の下面となる位置に、スリーブ配置穴26を形成したコンクリート板部材24を仮組みにより設置されていることから、コンクリート板部材24のスリーブ配置穴26に対し、床スリーブ10のスリーブ本体12における下側の嵌合ブレード部材18及び鍔部材16を設けた部分を上から押込み、この押込みをスリーブ本体12の外側に固定した鍔部材16がコンクリート板部材24の上面に当って止まるまで行う。
【0031】
ここで、
図2に示したように、スリーブ本体12の下端面から鍔部材16の下面までの高さHは、コンクリート板部材24の厚みと同じにしており、このため鍔部材16がコンクリート板部材24の上面に当るまで押し込むと、スリーブ下端はコンクリート位置部材24におけるスリーブ配置穴26の下面に面一となるように嵌合できる。
【0032】
また、スリーブ配置穴26と嵌合したスリーブ本体12との間に例えば3mm程度の間隔を持ったリング状の隙間28が形成されているが、鍔部材16がコンクリート板部材24の上面に当るまで押し込むことで、隙間28の上側が鍔部材16によって閉じられた状態となる。
【0033】
また、
図3(A)に示すように、床スリーブ12をスリーブ配置穴26に、スリーブ本体12の下側の嵌合ブレード部材18を押し込むと、
図4に示すように、スリーブ配置穴26とスリーブ本体12と間の隙間に、嵌合ブレード部材18の山形の部分が押し潰されながら嵌り込み、嵌合ブレード部材18のばね性による反力で山形の登頂部分がスリーブ配置穴26の内壁に強く押し当てられ、これによりスリーブ配置穴26に対する3箇所での嵌合ブレード部材18の介在により、センタリングされた状態(芯出しされた状態)で強固に支持固定することができる。
【0034】
ここで、嵌合ブレード部材18を嵌め入れるスリーブ配置穴26とスリーブ本体12との間に形成されるリング状の隙間28の幅は、例えば3mm程度となり、押し込み前の嵌合ブレード部材18の山形の高さは例えば5ミリメートルであることから、これが押し込みにより3ミリメートルに押し潰されることで、強い反力を生じてスリーブ配置穴26の内壁に強く押し当てられ、強固に支持固定することができる。
【0035】
続いて、
図3(B)に示すように、スリーブ本体12の上部開口に蓋部材14を装着して閉鎖した状態で、コンクリート板部材24の上にコンクリート30を打ち込み建物の床を形成する。このときスリーブ配置穴26とスリーブ本体12との間のリング状の隙間28は、鍔部材16の当接により塞がれており、打設されたコンクリート30が隙間28を通って下側にノロとして漏れ出すことが確実に防止される。続いて、コンクリート30が固まった後に、蓋部材14を外し、スリーブ本体12の中に配管を通して支持固定する。
【0036】
[f.本発明の変形例]
本発明による床スリーブの変形例について、より詳細に説明する。本発明の床スリーブは、上記の実施形態以外に、以下の変形を含むものである。
【0037】
(鍔部材)
本実施形態は、スリーブ本体に設ける鍔部材を円形のリング形状としているが、これに限定されず、楕円形や四角以上の多角形状としてもよい。
【0038】
(嵌合ブレード部材)
また、上記の実施形態は、スリーブ本体12の下端部外周の3箇所に嵌合ブレード部材18を設けているが、これに限定されず、3箇所を超える複数箇所に設けるようにしても良い。
【0039】
(その他)
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0040】
10:床スリーブ
12:スリーブ本体
14:蓋部材
16:鍔部材
18:嵌合ブレード部材
20:嵌合部材
24:コンクリート板部材
26:スリーブ配置穴
28:隙間
30:コンクリート