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特開2022-171684がんの治療における使用のための免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171684
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】がんの治療における使用のための免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20221104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221104BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221104BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20221104BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P43/00 121
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/17 Z
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022132995
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2018563076の分割
【原出願日】2017-06-02
(31)【優先権主張番号】16172760.7
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】516070210
【氏名又は名称】ウルティモバックス エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ガウダーナック,グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】トルネス,アウドゥン
(57)【要約】
【課題】医薬における使用のためのポリペプチドが提供される。
【解決手段】このポリペプチドは、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与される。このポリペプチドは、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドを含む。このポリペプチドは、100アミノ酸長未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬における使用のためのポリペプチドであって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドを含み、100アミノ酸長未満である、ポリペプチド。
【請求項2】
医薬における使用のための核酸分子であって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項3】
医薬における使用のためのT細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞であって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又は前記ポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、T細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞。
【請求項4】
医薬における使用のための免疫チェックポイント阻害剤であって、
i)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドを含むポリペプチドであって、100アミノ酸長未満である、ポリペプチド、
ii)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、
iii)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又は前記ポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
iv)iii)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞
とともに同時に、別々に又は連続的に投与される、免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項5】
がんの治療又はがんに対するワクチン接種における使用のための、請求項1に記載のポリペプチド、請求項2に記載の核酸分子、請求項3に記載のT細胞若しくはT細胞受容体又は請求項4に記載の免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項6】
患者におけるがんの治療又はがんに対するワクチン接種の方法であって、
i)免疫チェックポイントを阻害するステップと、
ii)同時に、別々に又は連続的に、
a)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドであって、100アミノ酸長未満である、少なくとも1つのポリペプチド、
b)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子、
c)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又は前記ポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
d)c)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞
を投与するステップと
を含む方法。
【請求項7】
前記免疫チェックポイント阻害剤又は前記免疫チェックポイントの前記阻害と組み合わせた前記少なくとも1つのポリペプチド、前記核酸分子、前記T細胞又は前記T細胞受容体は、がんの治療又はがんに対するワクチン接種における相乗効果をもたらす、請求項5に記載の使用のためのポリペプチド、核酸分子、T細胞、T細胞受容体若しくは免疫チェックポイント阻害剤又は請求項6に記載の治療方法。
【請求項8】
がんの治療又はがんに対するワクチン接種に適した組成物又はキットであって、
i)a)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドであって、100アミノ酸長未満である、少なくとも1つのポリペプチド、
b)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子、
c)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又は前記ポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
d)c)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含み、前記免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた前記少なくとも1つのポリペプチド、前記少なくとも1つの核酸分子、前記T細胞又はT細胞受容体は、がんの治療又はがんに対するワクチン接種における相乗効果をもたらす、組成物又はキット。
【請求項9】
前記ポリペプチド又は前記少なくとも1つのポリペプチドは、自己抗原の少なくとも15、20、25若しくは30のアミノ酸の領域又は前記領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む、請求項1、5若しくは7のいずれか一項に記載の使用のためのポリペプチド、請求項2、5若しくは7のいずれか一項に記載の使用のための核酸分子、請求項3、5若しくは7のいずれか一項に記載の使用のためのT細胞若しくはT細胞受容体、請求項4、5若しくは7のいずれか一項に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項6若しくは7に記載の治療方法又は請求項8に記載の組成物若しくはキット。
【請求項10】
前記自己抗原は、ユニバーサル腫瘍抗原、好ましくはテロメラーゼ逆転写酵素、Top2α、サバイビン又はCYP1B1である、請求項1、5、7若しくは9のいずれか一項に記載の使用のためのポリペプチド、請求項2、5、7若しくは9のいずれか一項に記載の使用のための核酸分子、請求項3、5、7若しくは9のいずれか一項に記載の使用のためのT細胞若しくはT細胞受容体、請求項4、5、7若しくは9のいずれか一項に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項6、7若しくは9のいずれか一項に記載の治療方法又は請求項8若しくは9に記載の組成物若しくはキット。
【請求項11】
前記自己抗原は、テロメラーゼ逆転写酵素であり、前記ポリペプチド又は前記少なくとも1つのポリペプチドは、
i)配列番号1の配列を含むポリペプチド、
ii)少なくとも12のアミノ酸を含むi)の免疫原性断片、又は
iii)i)若しくはii)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含む、請求項1、5、7、9又は10のいずれか一項に記載の使用のためのポリペプチド、請求項2、5、7、9又は10のいずれか一項に記載の使用のための核酸分子、請求項3、5、7、9又は10のいずれか一項に記載の使用のためのT細胞又はT細胞受容体、請求項4、5、7、9又は10のいずれか一項に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項6、7、9又は10のいずれか一項に記載の治療方法、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物又はキット。
【請求項12】
がんの治療又はがんに対するワクチン接種に適した組成物又はキットであって、
i)少なくとも1つのポリペプチドであって
a)配列番号1の配列を含むポリペプチド、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含む少なくとも1つのポリペプチドと、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキット。
【請求項13】
前記ポリペプチド又は前記少なくとも1つのポリペプチドは、ポリペプチドのカクテルであり、前記ポリペプチドのカクテルは、
ポリペプチドであって、
a)配列番号2の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含むポリペプチドと、任意選択的に、
ポリペプチドであって、
a)配列番号3の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含むポリペプチドと
をさらに含む、請求項11に記載の使用のためのポリペプチド、請求項11に記載の使用のための核酸分子、請求項11に記載の使用のためのT細胞又はT細胞受容体、請求項11に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項11に記載の治療方法、請求項11又は12に記載の組成物又はキット。
【請求項14】
がんの治療又はがんに対するワクチン接種に適した組成物又はキットであって、
i)配列番号1の一次配列若しくは前記一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む前記一次配列若しくは前記二次配列の免疫原性断片をコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキット。
【請求項15】
前記少なくとも1つの核酸分子は、核酸分子のカクテルであり、前記核酸分子のカクテルは、
配列番号2の一次配列若しくは前記一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む前記一次配列若しくは前記二次配列の免疫原性断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子と、任意選択的に、
配列番号3の一次配列若しくは前記一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む前記一次配列若しくは前記二次配列の免疫原性断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子と
をさらに含む、請求項14に記載の組成物又はキット。
【請求項16】
がんの治療又はがんに対するワクチン接種に適した組成物又はキットであって、
i)少なくとも1つのT細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈する少なくとも1つのT細胞であって、
a)配列番号1の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはbに対して少なくとも80%の同一性を有する配列
からなるポリペプチドに対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、少なくとも1つのT細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈する少なくとも1つのT細胞と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキット。
【請求項17】
少なくとも1つのT細胞受容体は、T細胞受容体のカクテルであるか、又は前記少なくとも1つのT細胞は、T細胞のカクテルであり、前記カクテルは、
T細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞であって、
a)配列番号2の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
からなるポリペプチドに対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、T細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞と、任意選択的に、
T細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞であって、
a)配列番号3の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
からなるポリペプチドに対して、前記ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、T細胞受容体又は前記T細胞受容体を呈するT細胞と
をさらに含む、請求項16に記載の組成物又はキット。
【請求項18】
前記免疫チェックポイント阻害剤は、CD28CTLA-4免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーの阻害剤であり、好ましくは、前記免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤若しくはPD-L1阻害剤であるか、又は前記免疫チェックポイントの前記阻害は、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤若しくはPD-L1阻害剤の投与による、請求項1、5、7、9、10、11若しくは13のいずれか一項に記載の使用のためのポリペプチド、請求項2、5、7、9、10、11若しくは13のいずれか一項に記載の使用のための核酸分子、請求項3、5、7、9、10、11若しくは13のいずれか一項に記載の使用のためのT細胞若しくはT細胞受容体、請求項4、5、7、9、10、11若しくは13のいずれか一項に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項6、7、9、10、11若しくは13のいずれか一項に記載の治療方法又は請求項8~17のいずれか一項に記載の組成物若しくはキット。
【請求項19】
前記CTLA-4阻害剤は、抗CTLA-4抗体若しくは小分子CTLA-4拮抗剤であるか、前記PD-1阻害剤は、抗PD-1抗体若しくは小分子PD-1拮抗剤であるか、又は前記PD-L1阻害剤は、抗PD-L1抗体若しくは小分子PD-L1拮抗剤である、請求項18に記載の使用のためのポリペプチド、請求項18に記載の使用のための核酸分子、請求項18に記載の使用のためのT細胞若しくはT細胞受容体、請求項18に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項18に記載の組成物若しくはキット又は請求項18に記載の治療方法。
【請求項20】
前記抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ若しくはトレメリムマブであるか、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブ若しくはペムブロリズマブであるか、又は前記抗PD-L1抗体は、MPDL3280A若しくはBMS-936559である、請求項19に記載の使用のためのポリペプチド、請求項19に記載の使用のための核酸分子、請求項19に記載の使用のためのT細胞若しくはT細胞受容体、請求項19に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤、請求項19に記載の組成物若しくはキット又は請求項19に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬における使用のためのポリペプチド、核酸分子、T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞及び免疫チェックポイント阻害剤に関する。本発明は、患者におけるがんを治療する方法にも関する。本発明は、がんの治療に適した組成物及びキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
がんは、個体内部での新しい異常な細胞の増殖によって特徴付けられる疾患である。がんは、がん細胞、すなわち浸潤及び転移の特性を呈する細胞の発生を可能にする幾つかの突然変異事象を含む多段階プロセスを通じて発生する。
【0003】
極めて多数の手法が、がんを治療するために提起されている。1つの手法は、腫瘍関連抗原の断片を含む抗原ペプチド(すなわちペプチドに基づくがんワクチン)の使用である。かかる抗原ペプチドは、個体に投与されるとき、腫瘍関連抗原を発現する細胞に対するMHCクラスI又はクラスII制限T細胞応答を誘発する。
【0004】
かかるT細胞応答が生じるように、抗原ポリペプチドがMHC分子上に提示される必要があることが理解されるべきである。ヒト集団内でのMHC分子における可変性は、広範囲である。特に、異なる個体は、ポリペプチドのアミノ酸配列に応じて、ポリペプチドに対する様々な結合親和性を有する異なるHLA対立遺伝子を有する。したがって、1つの特定のHLA対立遺伝子を有する個体は、特定の配列のポリペプチドに結合することになるMHC分子を有し得る一方、HLA対立遺伝子が欠如した他の個体は、このポリペプチドに対して結合及び提示することができないMHC分子を有することになる(又は少なくとも、それらのMHC分子は、このポリペプチドに対して非常に低い親和性を有することから、それを比較的低いレベルで提示することになる)。したがって、ヒト集団内でのMHC分子における可変性は、ペプチドに基づくがんワクチンに広範な集団範囲を提供することが、すべての個体が所与の抗原に対する免疫応答を開始させるわけではないために問題であることを意味する。
【0005】
がんの治療に対する他の手法は、がんに対する個体の免疫応答を調節するために、免疫チェックポイントに関与するタンパク質を標的にすることである。過剰な制御されない免疫応答を阻止するため、通常、免疫系を下方制御する免疫チェックポイント機構は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)及びプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を含む。CLTA-4及びPD-1は、T細胞活性化の経路を下方制御し、がんを有する個体では、これによりがんに対する天然免疫応答が下方制御され得る。これらのチェックポイントの抗体媒介性遮断は、阻害された免疫応答の効力を解放し、生存率を改善することが予想される。例えば、抗CTLA-4抗体のイピリムマブ又はトレメリムマブを用いた臨床状況下でのCTLA-4の遮断は、転移性メラノーマを有する患者の約20%において持続的な生存利益をもたらした(McDermott et al. Ann Oncol. 2013 24(10):2694-2698)。抗CTLA-4治療は、非小細胞肺がん、膵がん、卵巣がん、リンパ腫、胃がん及び乳がんなどの他のがんでも検討されている(Postow et al., J Clin Oncol. 2015 33(17):1974-82; Kyi & Postow, FEBS Lett. 2014 588(2):368-76)。
【0006】
最良の治療のためのペプチドに基づくがんワクチンは、患者の過半数、典型的には60~80%においてがん特異的免疫応答を誘発する能力がある(Kyte et al. Clin Cancer Res. 201 1 17(13):4568-80; Brunsvig et al. Cancer Immunol Immunother. 2006 55(12):1553-64)。しかし、ペプチドワクチン接種の結果としての臨床応答は、典型的には、ごくわずかな患者に限って見られる(Reviewed in Melero et al. Nat Rev Clin Oncol. 2014 11(9):509-24)。したがって、ペプチドに基づくがんワクチンを免疫チェックポイントの阻害と組み合わせることにより、ワクチンに対する免疫応答の増強と臨床的奏効率の上昇との両方がもたらされると予想された。
【0007】
しかし、イピリムマブを9-mer gp100メラノーマペプチドワクチンと組み合わせた画期的な第III相臨床試験では、この組み合わせは、イピリムマブ単独と同等であり、ワクチン単独は、保護効果を有しなかった(Hodi et al. N Engl J Med. 2010 363(8):711-23)。Mart1、gp100及びチロシナーゼに由来する3つの9-merペプチドを含有する別のメラノーマワクチンとイピリムマブとを組み合わせた場合、ほぼ同様の結果が認められた(Sarnaik et al. Clin Cancer Res. 201 1 17(4):896-906)。
【0008】
再びイピリムマブ単独での結果と比べると、さらなる臨床的有用性がこの組み合わせに関連することはなかった。ワクチンの個別ペプチド成分に対するT細胞応答は、低く(0~20%)、臨床応答に関連しなかった。まとめると、試験は、患者722(647+75)名を含んだことから、これらのデータは、ペプチドに基づくがんワクチンと組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤、特にCTLA-4遮断薬の投与が、免疫応答を増強するか又はヒトにおけるかかるワクチンの改善された臨床的有効性をもたらさないことを強く示唆する。これは、マウスにおける実験から予想されたことに反する(Williams et al. Clin Cancer Res. 2013, 19(13) 3545-3555; Met et al. Cancer Lett. 2006 231(2):247-256)。本発明は、この課題に対する解決策を提供することを探求する。
【0009】
国際公開第2015/095811号は、新生物、より詳細には腫瘍を、複数の新生物/腫瘍に特異的な新規抗原を含む新生物ワクチンと、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤とを対象に投与することにより治療するための方法に関する。国際公開第2015/096811号は、具体的には、各患者の腫瘍内に見出される個人的突然変異によって作出される腫瘍特異的な新規抗原を含む個別化がんワクチンに関することが理解されるべきである。国際公開第2015/095811号に開示された個別化がんワクチンは、広範囲の集団を通じて好適ではないであろう。さらに、個別化がんワクチンとチェックポイント阻害剤との組み合わせに関して、がんの治療におけるこの組み合わせの有効性を支持するための実験データは、国際公開第2015/095811号に提供されていない。ペプチドに基づくがんワクチンと組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の投与が、上で説明したように、免疫応答を増強するか又はヒトにおける改善された臨床的有効性をもたらさないことを示す証拠の優勢を仮定すると、これは重要である。
【0010】
国際公開第2015/033140号は、免疫原性腫瘍抗原ペプチド由来の組成物及びその組成物を用いるがんの治療に関する。この組成物を免疫療法薬又は免疫調節薬(例えば、免疫チェックポイントを遮断するための薬剤を含む)と組み合わせるという概念は、一般的な条件において開示されている。しかし、国際公開第2015/033140号は、ペプチド由来組成物と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせに関するいかなる実験データも提供していない。ペプチドに基づくがんワクチンと組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の投与が、上で説明したように、免疫応答を増強するか又はヒトにおける改善された臨床的有効性をもたらさないことを示す証拠の優勢を仮定すると、これは重要である。したがって、がんの治療における組み合わせの実施可能な開示は、国際公開第2015/033140号に提供されていない。
【0011】
国際公開第2016/025647号は、IL-2、治療抗体又はその断片とがんワクチンとの組み合わせでがんを治療する方法に関する。国際公開第2016/025647号の実施例4は、B16F10メラノーママウスモデルにおけるMSA-IL-2+抗PD-1抗体+TA99(抗Trp-1抗体)+がんワクチン(Trp-2を標的にする両親媒性物質のがんワクチン)の4つ組の組み合わせに関する。がんワクチンは、CD8+T細胞応答を誘発することが84頁に記述されており、それが8~10のアミノ酸長であったことを意味する。ペプチドのこの長さは、イピリムマブと組み合わされるとき、ヒトにおけるさらなる臨床的有用性をもたらさなかったHodi et al. 2006及びSarnaik et al. 2011のがんワクチンに用いられる場合に等しい。
【0012】
Yuan et al. Cancer Immunol Immunother. 2011 Aug; 60(8):1137-46は、gp100 DNA、gp100209-217及びチロシナーゼ369-377ペプチドワクチン+GM-CSF DNA、又は組換えヒトNY-ESO-1タンパク質のいずれかの先行ワクチン接種を受けた(prevaccinated)イピリムマブ治療患者3名の試験について報告している。組換えヒトNY-ESO-1タンパク質の先行ワクチン接種を受けた患者IMF-11において、その後のインビトロ免疫モニタリングが20-merのNY-ESO-1重複ペプチドを用いて実施されたが、これらのペプチドは、ワクチン自体で用いられなかった。ワクチン接種からイピリムマブ治療にかけての期間は、10か月~2.5年の範囲であった。広範囲の患者を通じてヒトにおける臨床的有用性をもたらす方法及び組成物を提供する必要性が残っている。
【0013】
国際公開第2007/113648号は、がんを治療するための抗CTLA-4抗体及び少なくとも1つの治療薬を含む使用及び組成物に関する。抗CTLA-4抗体、CP-675,206及び(全)腫瘍抗原の組み合わせについて記述されているが、この組み合わせに関する実験データは存在しない。例えば、実施例15は、アカゲザルにおけるインフルエンザウイルスワクチン及びCP-675,206抗体の投与に関するが、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた自己抗原に由来するがんワクチンの投与についてのデータは提供されていない。ペプチドに基づくがんワクチンと組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の投与が、上で説明したように、免疫応答を増強するか又はヒトにおける改善された臨床的有効性をもたらさないことを示す証拠の優勢を仮定すると、これは重要である。
【0014】
Foy et al. Cancer Immunol Immunother. 2016 May; 65(5):537-49は、治療的CT26-HER-2肺転移マウスモデルにおけるMVA-BN-HER2ポックスウイルスに基づく能動免疫療法の単独使用又はCTLA-4チェックポイント遮断との併用に関する。MVA-BN-HER2は、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER-2)の修飾形態をコードする修飾されたワクシニアアンカラに基づく組換えベクターである。ヒトHER-2が自己抗原でない場合、マウスにおいてFoy et al.の試験が実施された。CTLA-4遮断と組み合わせたペプチドに基づくがんワクチンと関連して上で考察したように、マウスにおける実験は、ヒトにおける免疫応答の増強及び臨床的有効性の改善に必ずしも変換されないという懸念が存在する。
【0015】
Zanetti Nat Rev Clin Oncol. 2017 Feb; 14(2):115-128は、抗がん免疫療法におけるテロメラーゼ逆転写酵素に関する展望見解の論文である。その考察は、特に腫瘍微小環境及び治療的ワクチン接種の成功を判定する際のその役割との関連で免疫チェックポイント阻害剤を包含する(図1)。特に、(既存の)自然に獲得された免疫応答に対するブレーキを外す際の、免疫チェックポイント阻害剤の役割及び免疫チェックポイント阻害剤が消耗したT細胞の活性を回復させる能力について考察されている。しかし、上記のように、ペプチドに基づくがんワクチンと組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の投与が免疫応答を増強するか又はヒトにおける改善された臨床的有効性をもたらさないことを示す証拠の優勢を仮定すると重要である、その考察を支持するような実験データは提供されていない。
【0016】
国際公開第03/086459号は、抗CTLA-4抗体を用いて二次又は記憶免疫応答を促進又は増強する方法に関する。実施例1は、GM-CSFを発現する全細胞ワクチンがカニクイザルにおいて用いられる、CD4+及びCD8+応答を誘発するメラノーマ細胞ワクチンに関する。実施例5は、ヒトにおける2つのHLA-A0201制限gp100ペプチドのワクチン接種と併せた抗CTLA-4抗体の投与に関する。これらのペプチドは、9アミノ酸長であり、Hodi et al. 2010のがんワクチンにおいて用いられるのと同じペプチド(すなわちgp100:209-217(210M)及びgp100:280-288(288V))であり、イピリムマブと組み合わされるとき、ヒトにおいてさらなる臨床的有用性をもたらさなかった。
【0017】
国際公開第2011/101173号は、がんを治療するためのヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)からの様々なポリペプチドを開示する。免疫チェックポイント阻害剤についての開示はない。さらなる抗がん治療を提供する必要性が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上の課題の少なくとも一部を軽減することを探求し、一部の態様では、ペプチドに基づくがんワクチンを広範な集団適用範囲に提供し、チェックポイント阻害剤と組み合わされるときにがん患者における臨床的奏効率を改善することを探求する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これに関連して、MHCクラスI分子は、大部分の細胞の表面上に見出され、典型的には8~10のアミノ酸残基長であるポリペプチドに結合することが注目されるべきである。MHCクラスI分子は、CD8+T細胞応答を誘発するために、タンパク質加水分解により細胞質タンパク質から誘導されるポリペプチドをCD8+T細胞(細胞傷害性T細胞又はCTLとしても知られている)に提示する。それに対し、MHCクラスII分子は、抗原提示細胞の表面上に見出され、一般により長い、典型的には12~24のアミノ酸長であるポリペプチドに結合する。MHCクラスII分子は、CD4+T細胞応答を誘発するために、エンドサイトーシスにより内部移行され、消化されている細胞外タンパク質から誘導されるポリペプチドをCD4+T細胞(通常、ヘルパーT細胞又はTh細胞として知られている)に提示する。
【0020】
本発明者らは、Hodi et al. 2006及びSarnaik et al. 2011に記載の試験において、ペプチドに基づくがんワクチンが、HLA-A2が陽性の患者において細胞傷害性T細胞応答を誘発するように設計された短い(9-mer)ペプチドを含んだという見解に至っている。本発明は、CTLA-4阻害剤及び12アミノ酸以上(すなわち「ロング」ペプチド)である少なくとも1つのペプチドを含み、且つヘルパーT細胞応答を誘導する能力があるペプチドに基づくがんワクチンの組み合わせにより、がんの治療における相乗効果がもたらされるという驚くべき知見に基づく。この知見により、広範囲の患者においてヘルパーT細胞応答を誘発する能力がある、自己抗原の少なくとも1つのロングペプチドを含むペプチドに基づくがんワクチンを免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることにより、広範囲の集団にわたるがんの治療において、改善された免疫応答及び改善された臨床的有効性がもたらされ得るという驚くべき認識に至った。
【0021】
発明の概要
本発明の第1の態様によると、医薬における使用のためのポリペプチドであって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドを含む、ポリペプチドが提供される。
【0022】
好ましくは、このポリペプチドは、100アミノ酸長未満である。
【0023】
特に、このポリペプチドは、CD4+T細胞応答を誘発する。
【0024】
本発明の第2の態様によると、医薬における使用のための核酸分子であって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子が提供される。
【0025】
本発明の第3の態様によると、医薬における使用のためのT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞であって、免疫チェックポイント阻害剤とともに同時に、別々に又は連続的に投与され、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又はそのポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞が提供される。
【0026】
本発明の第4の態様によると、医薬における使用のための免疫チェックポイント阻害剤であって、
i)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドを含むポリペプチド、
ii)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、
iii)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又はそのポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
iv)iii)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞
とともに同時に、別々に又は連続的に投与される、免疫チェックポイント阻害剤が提供される。
【0027】
便宜上、項目i)下のポリペプチドは、100アミノ酸長未満である。
【0028】
好ましくは、本発明のポリペプチド、本発明の核酸分子、本発明のT細胞若しくはT細胞受容体又は本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、がんの治療における使用のためのものである。
【0029】
好ましくは、本発明のポリペプチド、本発明の核酸分子、本発明のT細胞若しくはT細胞受容体又は本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、がんに対するワクチン接種における使用のためのものである。
【0030】
本発明の第5の態様によると、患者におけるがんの治療の方法であって、
i)免疫チェックポイントを阻害するステップと、
ii)同時に、別々に又は連続的に、
a)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチド、
b)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子、
c)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又はそのポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
d)c)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞
を投与するステップと
を含む方法が提供される。
【0031】
有利には、項目a)下の少なくとも1つのポリペプチドは、100アミノ酸長未満である。
【0032】
便宜上、本発明の第5の態様に示されるような患者におけるがんに対するワクチン接種の方法が提供される。
【0033】
好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤又は免疫チェックポイントの阻害と組み合わせた少なくとも1つのポリペプチド、T細胞又はT細胞受容体は、がんの治療における相乗効果をもたらす。
【0034】
便宜上、免疫チェックポイント阻害剤又は免疫チェックポイントの阻害と組み合わせた少なくとも1つの核酸分子は、がんの治療における相乗効果をもたらす。
【0035】
好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた少なくとも1つのポリペプチド、少なくとも1つの核酸分子、T細胞若しくはT細胞受容体又は免疫チェックポイントの阻害は、がんに対するワクチン接種における相乗効果をもたらす。
【0036】
有利には、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせたポリペプチド、核酸分子、T細胞又はT細胞受容体は、促進されたCD4+T細胞免疫応答の生成における使用のためのものである。
【0037】
本発明の第6の態様によると、がんの治療に適した組成物又はキットであって、
i)a)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチド、
b)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子、
c)自己抗原の少なくとも12のアミノ酸からなるポリペプチド又はそのポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体、又は
d)c)に規定されるようなT細胞受容体を呈するT細胞と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含み、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた少なくとも1つのポリペプチド、T細胞又はT細胞受容体は、がんの治療における相乗効果をもたらす、組成物又はキットが提供される。
【0038】
好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた少なくとも1つの核酸分子は、がんの治療における相乗効果をもたらす。好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせた少なくとも1つのポリペプチド、少なくとも1つの核酸分子、T細胞又はT細胞受容体は、がんに対するワクチン接種における相乗効果をもたらす。
【0039】
便宜上、項目a)下の少なくとも1つのポリペプチドは、100アミノ酸長未満である。
【0040】
好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドは、自己抗原の少なくとも15、20、25若しくは30のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む。
【0041】
好ましくは、このポリペプチドは、自己抗原の少なくとも15、20、25若しくは30のアミノ酸の領域又はその領域に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含む。
【0042】
便宜上、自己抗原は、ユニバーサル腫瘍抗原、好ましくはテロメラーゼ逆転写酵素、Top2α、サバイビン又はCYP1B1である。
【0043】
有利には、自己抗原は、テロメラーゼ逆転写酵素であり、少なくとも1つのポリペプチドは、配列番号1の配列若しくはそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド又は少なくとも12のアミノ酸を含むその免疫原性断片を含む。
【0044】
便宜上、自己抗原は、テロメラーゼ逆転写酵素であり、及びポリペプチド又は少なくとも1つのポリペプチドは、
i)配列番号1の配列を含むポリペプチド、
ii)少なくとも12のアミノ酸を含むi)の免疫原性断片、又は
iii)i)若しくはii)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含む。
【0045】
本発明の第7の態様によると、がんの治療に適した組成物又はキットであって、
i)配列番号1の配列若しくはそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド又は少なくとも12のアミノ酸を含むその免疫原性断片を含む少なくとも1つのポリペプチドと、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキットが提供される。
【0046】
便宜上、項目i)下の少なくとも1つのポリペプチドは、
a)配列番号1の配列を含むポリペプチド、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含む。
【0047】
好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドは、ポリペプチドのカクテルであり、ポリペプチドのカクテルは、
配列番号2の配列若しくはそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド又は少なくとも12のアミノ酸を含むその免疫原性断片と、任意選択的に、
配列番号3の配列若しくはそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド又は少なくとも12のアミノ酸を含むその免疫原性断片と
をさらに含む。
【0048】
便宜上、ポリペプチド又は少なくとも1つのポリペプチドは、ポリペプチドのカクテルであり、ポリペプチドのカクテルは、
ポリペプチドであって、
a)配列番号2の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含むポリペプチドと、任意選択的に、
ポリペプチドであって、
a)配列番号3の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
を含むポリペプチドと
をさらに含む。
【0049】
本発明の第8の態様によると、がんの治療に適した組成物又はキットであって、
i)配列番号1の一次配列若しくは一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む一次配列若しくは二次配列の免疫原性断片をコードする核酸配列を含む少なくとも1つの核酸分子と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキットが提供される。
【0050】
有利には、少なくとも1つの核酸分子は、核酸分子のカクテルであり、核酸分子のカクテルは、
配列番号2の一次配列若しくは一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む一次配列若しくは二次配列の免疫原性断片をコードする核酸配列を含む核酸分子と、任意選択的に、
配列番号3の一次配列若しくは一次配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する二次配列を含むポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸を含む一次配列若しくは二次配列の免疫原性断片をコードする核酸配列を含む核酸分子と
をさらに含む。
【0051】
本発明の第9の態様によると、がんの治療に適した組成物又はキットであって、
i)配列番号1からなるポリペプチド又はそのポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有する配列に対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である、少なくとも1つのT細胞受容体又はT細胞受容体を呈する少なくとも1つのT細胞と、
ii)免疫チェックポイント阻害剤と
を含む組成物又はキットが提供される。
【0052】
便宜上、項目i)下のポリペプチドは、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるとき、
a)配列番号1の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
からなる。
【0053】
好ましくは、少なくとも1つのT細胞受容体は、T細胞受容体のカクテルであるか、又は少なくとも1つのT細胞は、T細胞のカクテルであり、このカクテルは、
配列番号2の配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列からなるポリペプチドに対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞と、任意選択的に、
配列番号3の配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列からなるポリペプチドに対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞と
をさらに含む。
【0054】
好ましくは、少なくとも1つのT細胞受容体は、T細胞受容体のカクテルであるか、又は少なくとも1つのT細胞は、T細胞のカクテルであり、このカクテルは、
a)配列番号2の配列、
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
からなるポリペプチドに対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞と、任意選択的に、
a)配列番号3の配列
b)少なくとも12のアミノ酸を含むa)の免疫原性断片、又は
c)a)若しくはb)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列
からなるポリペプチドに対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞と
をさらに含む。
【0055】
便宜上、本発明の第6、第7、第8又は第9の態様に記載の組成物又はキットは、がんに対するワクチン接種に適する。
【0056】
有利には、免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤又はPD-L1阻害剤であるか、又は免疫チェックポイントの阻害は、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤又はPD-L1阻害剤の投与による。
【0057】
特に、免疫チェックポイント阻害剤は、CD28CTLA-4免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーの阻害剤である。
【0058】
便宜上、CTLA-4阻害剤は、抗CTLA-4抗体若しくは小分子CTLA-4拮抗剤であるか、PD-1阻害剤は、抗PD-1抗体若しくは小分子PD-1拮抗剤であるか、又はPD-L1阻害剤は、抗PD-L1抗体若しくは小分子PD-L1拮抗剤である。
【0059】
好ましくは、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ若しくはトレメリムマブであるか、抗PD-1抗体は、ニボルマブ若しくはペムブロリズマブであるか、又は抗PD-L1抗体は、MPDL3280A若しくはBMS-936559である。
【0060】
本発明の第10の態様によると、本発明の組成物及び薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤又は賦形剤と、任意選択的に別の治療成分とを含む医薬組成物が提供される。
【0061】
便宜上、本発明のキットは、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤又は賦形剤と、任意選択的に別の治療成分とをさらに含む。
【0062】
有利には、本発明の治療方法は、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤又は賦形剤と、任意選択的に別の治療成分との投与をさらに含む。
【0063】
本発明の第11の態様によると、患者におけるがんの治療の方法であって、本発明の組成物又は本発明の医薬組成物を患者に投与することを含む方法が提供される。
【0064】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すように本明細書で交換可能に用いられる。用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、修飾残基又は天然に存在しない残基、例えば対応する天然に存在するアミノ酸の人工的化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用される。
【0065】
用語「アミノ酸」は、本明細書で用いられるとき、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸に類似した機能を有するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされたもの、並びに細胞内での翻訳後に修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γカルボキシグルタミン酸及びO-ホスホセリン)である。語句「アミノ酸類似体」は、天然に存在するアミノ酸と同じ塩基性化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基及びR基に結合されたα炭素)を有するが、修飾R基又は修飾骨格(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を有する化合物を指す。語句「アミノ酸模倣物」は、天然に存在するアミノ酸と異なる構造を有するが、それと類似した機能を有する化合物を指す。
【0066】
用語「断片」は、ポリペプチドと関連して本明細書で用いられるとき、ポリペプチドの一部を形成する連続したアミノ酸系列を意味する。ポリペプチドの「免疫原性断片」は、過去の定義によると、個体に投与されるとき、免疫応答、例えばT細胞応答を誘発する能力がある断片である。一部の実施形態では、ポリペプチドの「免疫原性断片」は、過去の定義によると、MHCクラスII制限免疫応答を誘発する能力がある断片である。
【0067】
用語「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」は、複数のヌクレオチドのポリマーを指すように本明細書で交換可能に用いられる。核酸分子は、天然に存在する核酸を含み得、又はペプチド核酸、モルホリン及びロックド核酸並びにグリコール核酸及びトレオース核酸などの人工核酸を含み得る。
【0068】
用語「ヌクレオチド」は、本明細書で用いられるとき、細胞酵素によって認識される天然に存在するヌクレオチド及び合成ヌクレオチド類似体を指す。
【0069】
用語「がん」は、本明細書で用いられるとき、個体における細胞の新しく、異常であり、及び/又は制御されない増殖によって特徴付けられる疾患群を指す。がん細胞は、隣接組織に浸潤し、及び/又は身体内の他の部位に伝播する能力を有する(すなわち、がん細胞は、転移する能力がある)。
【0070】
用語「治療」は、本明細書で用いられるとき、任意の部分的又は完全な治療を指し、疾患又は症状を阻害すること、すなわちその発生を停止させること、及び疾患又は症状を緩和すること、すなわち疾患又は症状の後退を引き起こすことを含む。
【0071】
用語「自己抗原」は、本明細書で用いられるとき、ヒト身体内の天然に存在するタンパク質に由来する抗原を指す。正常な条件下において、免疫系は、胸腺におけるT細胞の負の選択に起因して自己抗原と反応することはない。しかし、がんを有する個体では、自己抗原は、(例えば、がんが発生した組織を仮定すると、自己抗原の由来元であるタンパク質を過剰発現するか又はそれを不適切に発現するがん細胞の結果として)免疫系により外来物として認識され得、T細胞免疫応答がその自己抗原に対して開始される。一部の実施形態では、自己抗原は、「腫瘍関連抗原」、すなわち正常細胞と同様にがん細胞に関連した抗原と称され得る。自己抗原の例は、テロメラーゼ逆転写酵素である。
【0072】
用語「ユニバーサル腫瘍抗原」は、本明細書で用いられるとき、(ほぼ)すべての腫瘍において、例えばすべての腫瘍タイプの少なくとも80%、85%又は90%において発現される抗原を指す。一部の実施形態では、ユニバーサル腫瘍抗原は、腫瘍の悪性表現型に直接的に関与する。ユニバーサル腫瘍抗原の例として、テロメラーゼ逆転写酵素、Top2α、サバイビン及びCYP1B1が挙げられる。
【0073】
用語「T細胞」(「Tリンパ球」としても知られている)は、本明細書で用いられるとき、特異的抗原を認識する能力があり、且つ細胞表面T細胞受容体を含む細胞を指す。用語「T細胞」は、T細胞の異なるタイプ、例えばCD4+T細胞(ヘルパーT細胞又はTh細胞としても知られている)、CD8+T細胞(細胞傷害性T細胞又はCTLとしても知られている)、メモリーT細胞及び制御性T細胞(Treg)を含む。
【0074】
用語「T細胞受容体」は、本明細書で用いられるとき、T細胞の抗原受容体を指す。一部の実施形態では、T細胞受容体は、MHC分子によって提示されるときのポリペプチドを認識する(すなわちそれに結合する)。
【0075】
用語「T細胞受容体を呈するT細胞」は、本明細書で用いられるとき、T細胞受容体を細胞表面上に含むT細胞を指す。一部の実施形態では、T細胞受容体は、MHC分子によって提示されるときのポリペプチドを認識する(すなわちそれに結合する)ことに関与する。一部の実施形態では、T細胞受容体のMHC分子によって提示されるときのポリペプチドへの結合は、T細胞受容体を呈するT細胞の活性化をもたらす。T細胞活性化は、本明細書に記載のようなT細胞応答アッセイ及びエリスポットアッセイを用いて測定され得る。
【0076】
用語「T細胞受容体又はT細胞がポリペプチドに特異的である」は、本明細書で用いられるとき、MHC分子上に提示されるときのポリペプチドを認識する(すなわちそれに結合する)能力があるT細胞受容体又はT細胞受容体を含むT細胞を指す。一部の実施形態では、T細胞受容体(又はT細胞受容体を呈するT細胞)が特異的である対象のポリペプチドは、長さが通常であればMHC分子上に提示される場合よりも長い。これらの実施形態では、用語「T細胞受容体又はT細胞がポリペプチドに特異的である」は、本明細書で用いられるとき、MHC分子上に提示されるときのポリペプチドの免疫原性断片のT細胞受容体又はT細胞による認識を指す。一部の実施形態では、T細胞受容体又はT細胞のそれが特異的である対象のポリペプチドへの結合は、T細胞の活性化をもたらす。T細胞活性化は、本明細書に記載のようなT細胞応答アッセイ及びエリスポットアッセイを用いて測定可能である。
【0077】
用語「MHC分子」は、本明細書で用いられるとき、ポリペプチドと会合し、且つT細胞の細胞表面でポリペプチドを呈する能力があるタンパク質構造を指す。MHC分子は、主要組織適合性複合体内部の遺伝子によってコードされる。一部の実施形態では、用語「MHC分子」は、MHCクラスI分子及び/又はMHCクラスII分子を指す。
【0078】
用語「免疫チェックポイント」は、本明細書で用いられるとき、免疫応答が制限される任意のポイントを指す。免疫チェックポイントは、免疫反応を緩徐化又は停止し、免疫細胞の制御されない活性からの過剰な組織損傷を防止する阻害経路である。「免疫チェックポイント」の例として、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)チェックポイント及びプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)チェックポイントが挙げられる。
【0079】
用語「免疫チェックポイント阻害剤」は、本明細書で用いられるとき、より広範な免疫活性を可能にする免疫チェックポイントを下方制御又は遮断する能力がある任意の化合物、物質又は組成物(例えば、任意の小分子、化合物、抗体、核酸分子、ポリペプチド若しくはそれらの断片、ワクチン又はウイルスワクチン)を指す。用語「チェックポイント阻害剤」は、本明細書では「免疫チェックポイント阻害剤」と交換可能に用いられる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント経路に関与するタンパク質に特異的に結合し、それにより免疫チェックポイントの活性全体を破壊及び下方制御する抗体である。かかる免疫チェックポイント阻害剤の例として、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ、トレメリムマブ又はAGEN-1884など)及び抗PD-1抗体(ニボルマブ又はペムブロリズマブなど)が挙げられる。他の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント経路に関与するタンパク質の活性に対して干渉及び/又は阻害し、それにより免疫チェックポイントの活性全体を下方制御する小分子拮抗剤である。好ましい実施形態では、小分子拮抗剤は、CTLA-4及び/又はPD-1チェックポイントを下方制御するため、CTLA-4及び/又はPD-1タンパク質を標的にする(すなわち、小分子拮抗剤は、小分子CTLA-4拮抗剤又は小分子PD-1拮抗剤である)。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、BTLA、LAG3、ICOS、PDL1又はKIRなどのCD28CTLA4 Igスーパーファミリーの別のメンバーで標的にされる(Page et al., Annual Review of Medicine 65:27 (2014))。さらなる追加的な実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、CD40、OX40、CD137、GITR、CD27又はTIM-3などのTNFRスーパーファミリーのメンバーで標的にされる。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を標的にする。場合により、免疫チェックポイントの標的化は、阻害抗体又は類似分子を用いて達成される。他の場合、それは、標的に対する作動薬を用いて達成され、このクラスの例として、刺激性標的OX40及びGITRが挙げられる。
【0080】
好ましい実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞の調節に関与する免疫チェックポイントを標的にする。一部の実施形態では、標的にされる免疫チェックポイントは、T細胞活性の負の制御因子であり、そのため、免疫チェックポイント阻害剤の作用は、より広範なT細胞活性を可能にする。上で考察したように、一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、CD28CTLA4免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーを標的にする。免疫グロブリンスーパーファミリーにおけるタンパク質は、特徴的なβシートフォールドである免疫グロブリンドメイン(免疫グロブリンフォールドとしても知られている)を有する。CTLA-4、PD-1及びPD-L1は、CD28CTLA4 Igスーパーファミリーのメンバーの例である。
【0081】
用語「免疫チェックポイントの阻害」は、本明細書で用いられるとき、より広範な免疫活性を可能にするため、免疫チェックポイントを下方制御又は遮断することを指す。一部の実施形態では、免疫チェックポイントの阻害は、上記の免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも1つを用いて達成される。
【0082】
用語「がんの治療における相乗効果」は、本明細書で用いられるとき、対照(例えば、チェックポイント阻害剤の不在下でペプチドに基づくがんワクチンが投与されている患者、又は代替的にペプチドに基づくがんワクチンの不在下でチェックポイント阻害剤が投与されている患者)と比べた、ペプチドに基づく(又は核酸分子に基づく)がんワクチン及びチェックポイント阻害剤が投与されている患者における要素の以下の組み合わせの少なくとも1つの存在を指す。
1.ワクチンのペプチドに対する測定可能な免疫応答を開始させるための患者の免疫系により要求される期間の短縮。換言すれば、促進されたCD4+T細胞免疫応答が生成される。
2.患者によるワクチンのペプチドに対する強力な免疫応答の開始。一実施形態では、「強力な免疫応答」は、本明細書で用いられるとき、患者10名の平均を通じて、平均ピーク免疫応答が少なくとも17、好ましくは少なくとも19のSIであることを指す。
3.患者における改善された臨床成績。
【0083】
一部の実施形態では、用語「がんの治療における相乗効果」は、患者における前記要素の少なくとも2つ又は前記要素の3つすべての存在を指す。一実施形態では、追加的要素、すなわち広範な免疫応答の誘導(すなわち2つ、3つ又はより多くのワクチン成分に対する免疫応答の開始)は、がんの治療における相乗効果のさらなる証拠である。好ましい実施形態では、免疫応答は、本明細書中の材料及び方法セクションに説明の通り、患者血液試料を用いるT細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)によって測定される。特異的なT細胞応答は、ペプチド応答がバックグラウンドの少なくとも3倍である場合(刺激指標SI≧3)、陽性と考えられる。一実施形態では、患者10名の平均を通じて、ペプチドワクチンの初回投与から7週後、50%超が陽性免疫応答を示し、且つ平均ピーク免疫応答が少なくとも17、好ましくは少なくとも19のSIであるとき、相乗効果がもたらされる。一部の実施形態では、改善された臨床成績は、部分又は完全応答(部分又は完全寛解としても知られている)又は安定疾患である。完全応答は、治療に応答した身体における検出可能な腫瘍又はがんの消失を指し、部分応答は、腫瘍サイズにおける又は治療に応答した身体におけるがんの程度における減少を指し、また安定疾患は、身体における腫瘍又はがんが程度又は重症度における低減又は増加のいずれもないことを意味する。
【0084】
用語「促進されたCD4+T細胞免疫応答を生成する」は、本明細書で用いられるとき、測定可能なCD4+T細胞免疫応答を開始させるのに免疫系によって必要とされる時間における短縮を指す。一実施形態では、応答時間は、ワクチン接種の開始からワクチン特異的なCD4+T細胞の陽性ワクチン応答を規定するレベルに至る増殖までの期間を指す。この実施形態では、促進されたCD4+T細胞応答は、T2<T1(ここで、T1は、ワクチン単独の応答時間であり、T2は、ワクチン及び免疫チェックポイント阻害剤の併用治療の応答時間である)として定義される。一実施形態では、ワクチンは、本発明のポリペプチドを含み、他の実施形態では、ワクチンは、本発明の核酸分子を含む。
【0085】
ワクチンが臨床ワクチンである特定の実施形態では、T1及びT2は、治療される集団内の平均値を指す。一実施形態では、T1及びT2は、10名以上の患者を通じた平均値を指す。陽性免疫応答を規定するレベルは、用いられるアッセイに依存する。一実施形態では、それは、検出閾値に基づき、他の実施形態では、それは、予め定義された値である。特定の実施形態では、免疫応答を測定するために用いられるアッセイは、本明細書に記載のようなT細胞増殖アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)である。一実施形態では、陽性免疫応答を規定するレベルは、3の刺激指標(SI)(SI≧3)に予め定義される。このレベルが検出閾値よりも高く、特定の実施形態では、潜在的には臨床的に関連する免疫応答を表すように選択されることは理解されるべきである。他の実施形態では、SIは、3より低いか又は3より高い。一実施形態では、SIは、2又は4である。
【0086】
一実施形態では、上で定義されるようなT1は、ワクチン単独で治療された患者の50%以上が陽性免疫応答を有するときまでの週数であり、且つT2は、ワクチン及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせで治療された患者の50%以上が陽性免疫応答を有するときまでの週数である。一実施形態では、促進された免疫応答は、T1と比べたT2における60%の減少を指す(例えば、10週であるT1と比べると、T2は、4週である)。他の実施形態では、促進されたCD4+免疫応答は、T1と比べたT2における55%、50%、45%、40%、35%又は30%の減少を指す。試料は、別々の時点で収集されることから、一部の実施形態では、T1及びT2の計算には内挿が必要である。
【0087】
用語「テロメラーゼ逆転写酵素」(TERT)は、本明細書で用いられるとき、主な活性が、テロメラーゼ酵素のRNA成分内部の鋳型配列をコピーすることにより、単純な反復配列を染色体末端に付加する逆転写酵素として作用することによるテロメアの伸長である、テロメラーゼホロ酵素複合体の触媒成分を指す。一部の実施形態では、テロメラーゼという用語は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素タンパク質(hTERT)を指す。完全長hTERT配列は、ジェンバンク受入番号AF015950.1で示され、配列番号6で示される。
【0088】
本明細書では、2つの配列間の百分率「同一性」は、デフォルトパラメータを用いるBLASTPアルゴリズムバージョン2.2.2(Altschul, Stephen F., Thomas L. Madden, Alejandro A. Schaeffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller, and David J. Lipman (1997),“Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs”, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)を用いて決定される。特に、BLASTアルゴリズムは、URL http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/を用いてインターネット上でアクセス可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図の簡単な説明
図1】本発明の実施形態が免疫応答を誘発するための機構を示す概略図である。
図2A】T細胞増殖アッセイを用いて、配列番号1、2及び3の組み合わせがワクチン接種されたメラノーマ患者において検出されたT細胞応答をまとめた棒グラフである。配列番号1及び2並びに配列番号1、2及び3の組み合わせに対するCD4+T細胞応答が検出された。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みによって測定された。≧3の刺激指標は、免疫応答と考えられる。719-20は、配列番号1を指し、725は、配列番号2を指し、728は、配列番号3を指し、hTERT1混合物は、配列番号1、2及び3の組み合わせを指す。
図2B】エリスポットアッセイを用いて、配列番号1、2及び3の組み合わせがワクチン接種されたメラノーマ患者において検出されたT細胞応答をまとめた棒グラフである。配列番号1及び2並びに配列番号1、2及び3の組み合わせに対するCD4+T細胞応答が検出された。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みによって測定された。≧3の刺激指標は、免疫応答と考えられる。719-20は、配列番号1を指し、725は、配列番号2を指し、728は、配列番号3を指し、hTERT1混合物は、配列番号1、2及び3の組み合わせを指す。
図3A】配列番号1の配列を有するポリペプチド及びその断片に対する、メラノーマ患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧2の刺激指標は、免疫応答と考えられる。719-20-13~719-20-16及び719-20-2~719-20-9は、その14のアミノ酸を含む配列番号1の断片を指す。
図3B】配列番号1の配列を有するポリペプチド及びその断片に対する、メラノーマ患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧2の刺激指標は、免疫応答と考えられる。719-20-13~719-20-16及び719-20-2~719-20-9は、その14のアミノ酸を含む配列番号1の断片を指す。
図3C】配列番号1の配列を有するポリペプチド及びその断片に対する、肺がん患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧2の刺激指標は、免疫応答と考えられる。719-20-13~719-20-16及び719-20-2~719-20-9は、その14のアミノ酸を含む配列番号1の断片を指す。
図4】配列番号2の配列を有するポリペプチド及びその断片に対する、メラノーマ患者及び卵巣がん患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧2の刺激指標は、免疫応答と考えられる。725-1~725-4は、その12のアミノ酸を含む配列番号2の断片を指す。
図5】配列番号3の配列を有するポリペプチド及びその断片に対する、膵がん患者及び神経膠芽腫患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧3の刺激指標は、免疫応答と考えられる。728-1~728-4は、その12のアミノ酸を含む配列番号3の断片を指す。
図6】配列番号1、2及び3の組み合わせがワクチン接種された前立腺がんを有するがん患者において検出されたCD4+T細胞応答をまとめた棒グラフである。配列番号1からの重複14-merペプチドに対するCD4+T細胞応答がワクチン接種後に検出され、応答するT細胞がクローン化された。図6のデータは、選択されたCD4+T細胞クローンの増殖性応答を示す。ペプチド負荷PBMCに応答した増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧3の刺激指標は、免疫応答と考えられる。
図7】配列番号1、2及び3並びにGM-CSFがワクチン接種された肺及び前立腺がん患者からの試料と、イピリムマブ治療を配列番号1、2及び3並びにGM-CSFのワクチン接種と組み合わせて受けたメラノーマ患者からの試料とにおいて検出された陽性免疫応答をまとめたグラフである。T細胞増殖は、3H-チミジン取り込みにより測定された。≧3の刺激指標は、陽性免疫応答と考えられた。
【発明を実施するための形態】
【0090】
発明の詳細な説明
本発明は、がんを治療するためのキットを提供する。キットは、2つの成分を含む。第1の実施形態では、第1の成分は、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドであり、このポリペプチドは、少なくとも12のアミノ酸長である。第2の成分は、免疫チェックポイント阻害剤である。
【0091】
ポリペプチド
がんを治療するためのキットの第1の成分は、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドである。
【0092】
自己抗原は、ヒト身体内部の天然に存在するタンパク質に由来する抗原である。がん細胞が発生した組織を仮定すると、がん細胞は、特定の自己抗原を正常細胞よりも高いレベルで発現し得るか、又は自己抗原は、不適切に発現され得る。これらの自己抗原は、「腫瘍関連抗原」と見なすことができ、そのため、がん治療における有望な標的を表す。自己抗原が(ほぼ)すべてのヒト腫瘍で発現される抗原であるユニバーサル腫瘍抗原であることが好ましい。特定の腫瘍関連抗原が自己抗原とユニバーサル腫瘍抗原との両方であることは理解されるべきである。がんは、異質性疾患であり、がんの異なるタイプ間と同様に、同じタイプのがんを有する個体間に高度な多様性が存在する。ユニバーサル腫瘍抗原を標的にすることにより、がん治療の適応性は、患者集団を通じて(すなわち、がんタイプの範囲内及び間で)改善される。
【0093】
本発明の第1の実施形態では、自己抗原は、テロメラーゼ酵素のテロメラーゼ逆転写酵素サブユニット(ヒトにおける「TERT」又は「hTERT」)である。テロメラーゼ酵素は、「自己タンパク質」であり、すなわち、それは、ヒト身体における天然に存在するタンパク質である。さらに、テロメラーゼ酵素がすべてのヒト腫瘍の大部分において活性化されることが認められている。これを考慮すると、hTERTのポリペプチドは、自己抗原とユニバーサル腫瘍抗原との両方であると見なされる。
【0094】
テロメラーゼは、真核細胞内の直鎖状DNA鎖のテロメア領域の3’末端を複製する機能を有する酵素であり、なぜなら、これらの領域は、DNAポリメラーゼ酵素により、正常な方法では伸長され得ないためである。テロメラーゼ酵素は、テロメラーゼ逆転写酵素サブユニット(ヒトにおける「TERT」又は「hTERT」)及びテロメラーゼRNAを含む。テロメラーゼRNAを鋳型として用いることにより、テロメラーゼ逆転写酵素サブユニットは、DNA鎖の3’末端を伸長するように反復配列を真核細胞内の染色体の3’末端に付加する。完全長hTERT配列は、ジェンバンク受入番号AF015950.1で示され、配列番号6で示される。
【0095】
テロメラーゼは、骨髄及び胃腸管における幹細胞などの特定の正常組織内で発現される。しかし、テロメラーゼ酵素がすべてのヒト腫瘍の大部分において活性化されることが認められている(例えば、Kim et al., Science. 1994 266(5193):201 1-5; Shay & Wright, FEBS Lett. 2010 584(17):3819-25)。テロメラーゼ酵素の発現の不在下で細胞のテロメアが徐々に失われ、染色体の完全性が細胞の細胞分裂の各ラウンドとともに劣化し、最終的に細胞のアポトーシスをもたらすことから、テロメラーゼは、ヒト腫瘍の大部分において活性化されると考えられる。したがって、テロメラーゼ酵素の発現は、通常、かかる発現の不在下でプログラム細胞死が初期段階で生じることになるため、一般にがん細胞の発現にとって必要である。がんにおけるテロメラーゼ活性化の役割を考慮すると、hTERTからのポリペプチドは、ユニバーサル腫瘍抗原と見なされる。
【0096】
他の実施形態では、自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原は、hTERT以外のタンパク質に由来する。一実施形態では、自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原は、トポイソメラーゼIIα(Top2α)、サバイビン又はチトクロムP450 1B1(CYP1B1)から選択される(Park et al., Cancer Immunol Immunother. 2010(5):747-57; Soerensen et al., Cancer Biol Ther. 2008 7(12):1885-7; Wobser et al., Cancer Immunol Immunother. 2006 55(10):1294-8; Gribben et al., Clin Cancer Res. 2005 11(12):4430-6)。一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、ポリペプチドのカクテル(すなわち混合物)である。第1の実施形態では、ポリペプチドのカクテルは、hTERTタンパク質の少なくとも2つの異なるポリペプチドを含む。しかし、一部の実施形態では、ポリペプチドのカクテルは、異なる自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原のいずれか1つから選択される少なくとも2つの異なるポリペプチドを含む。一実施形態では、ポリペプチドのカクテルは、hTERT、Top2α、サバイビン又はCYP1B1のいずれか1つから選択される少なくとも2つの異なるポリペプチドを含む。
【0097】
がんを治療するためのキットの第1の成分中の自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドは、少なくとも12のアミノ酸長である。
【0098】
異なる長さのポリペプチドが異なるT細胞応答を誘発することは理解されるべきである。より詳細には、CD8+T細胞応答を誘発するため、ポリペプチドは、典型的には8~10のアミノ酸残基長であるポリペプチドにのみ結合することになるMHCクラスI分子上に提示される必要がある。他方、CD4+T細胞応答を誘発するため、ポリペプチドが一般により長いことができ、典型的には12~24のアミノ酸残基長である場合、ポリペプチドは、MHCクラスII分子上に提示される必要がある。したがって、自己抗原又はユニバーサル腫瘍抗原の少なくとも1つのポリペプチドは、より長い長さ(すなわち少なくとも12のアミノ酸長)であるため、CD4+T細胞応答(すなわちヘルパーT細胞応答)を誘発する能力がある。
【0099】
自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドが15アミノ酸長に等しいか又は少なくとも15アミノ酸長であることが好ましい。一部の実施形態では、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドは、16、17、18、19、20、25若しくは30アミノ酸長に等しいか又は少なくとも16、17、18、19、20、25若しくは30アミノ酸長である。一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、100アミノ酸長未満、好ましくは50、40又は30アミノ酸長未満である。
【0100】
自己抗原がテロメラーゼ(より具体的にはhTERT)である実施形態では、ポリペプチドが配列番号1~5の配列を含むことが好ましい。ポリペプチドが配列番号1、2又は3の配列を含むことが特に好ましい。ポリペプチドが配列番号1、2又は3の配列からなることが特に好ましい。かかるポリペプチドが、ポリペプチドの各々が少なくとも12のアミノ酸長であることから、CD4+T細胞応答(すなわちヘルパーT細胞応答)を誘発可能であることは理解されるべきである。配列番号1は、30アミノ酸長であり、配列番号2、3及び4は、15アミノ酸であり、且つ配列番号5は、16アミノ酸長である。
【0101】
他の実施形態では、配列番号1~5の少なくとも12アミノ酸を含む上記ポリペプチドの免疫原性断片が提供される。一実施形態では、免疫原性断片は、配列番号1~5の少なくとも12、13又は14アミノ酸を含む。別の実施形態では、免疫原性断片は、配列番号1の少なくとも15、16、17、18、19、20又は25アミノ酸を含む。特定の実施形態では、ポリペプチドのカクテルは、配列番号1~5の免疫原性断片を含み、免疫原性断片は、少なくとも12のアミノ酸を含む。例示的な免疫原性断片は、配列番号7~38に示されるものを含む。配列番号7~23及び24~30のポリペプチドが配列番号1のポリペプチドのすべての免疫原性断片であることは理解されるべきである。配列番号31~34のポリペプチドは、配列番号2のポリペプチドのすべての免疫原性断片である。配列番号35~38のポリペプチドは、配列番号3のポリペプチドのすべての免疫原性断片である。
【0102】
さらなる実施形態では、提供される少なくとも1つのポリペプチドは、上記ポリペプチドの1つに対して正確な配列同一性を有しない。代わりに、このポリペプチドは、上に示されるポリペプチドに対して少なくとも80%の配列同一性を有する。この配列が、上に示される配列に対して少なくとも90%、95%又は99%の配列同一性を有することが特に好ましい。アミノ酸配列の任意の付加又は置換が元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらすことも好ましい。すなわち、置換又は修飾は、「保存的」である。
【0103】
機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野で周知である。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、及び以下の官能基又は特徴:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P)、ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖(R、K、H)、及び芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)を共通に有する側鎖である。さらに、以下の8つの基の各々は、互いに対して保存的置換であるアミノ酸を有する(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照されたい:
1)アラニン(A)、グリシン(G)、
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
4)アルギニン(R)、リジン(K)、
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、
7)セリン(S)、トレオニン(T)、及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0104】
一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドの配列は、特定のHLA対立遺伝子のMHCクラスII分子へのポリペプチドの結合親和性を改変する(例えば、増強する)ために改変される。他の実施形態では、ポリペプチドは、そのN及び/又はC末端において、上に示されるアミノ酸に加えてさらなるアミノ酸を有する。ポリペプチドのMHC分子への結合親和性を改変する(例えば、増強する)ため、かかる追加的なアミノ酸も用いることができる。
【0105】
ポリペプチドが自己抗原の断片に対応する配列を有することに限定されないことは理解されるべきである。すなわち、一部の実施形態では、ポリペプチドは、自己抗原に対応する領域に加えて、N末端及び/又はC末端に追加的なアミノ酸配列を含む。しかし、自己抗原に対応する領域(すなわち上に示される場合と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である)は、少なくとも12のアミノ酸長である。
【0106】
本発明の一部のさらなる実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、他の物質に(例えば、共有結合的に)連結される一方、CD4+T細胞応答のその誘導能を保持する。かかる他の物質は、脂質、糖及び糖鎖、アセチル基、天然及び合成高分子などを含む。少なくとも1つのポリペプチドは、特定の実施形態では、グリコシル化、側鎖酸化又はリン酸化のような修飾を有する。
【0107】
一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、ポリペプチドのカクテル、例えば同じ自己抗原又は2つ以上の異なる自己抗原から得られるポリペプチドのカクテルである。一実施形態では、カクテルは、自己抗原の少なくとも2つ又は少なくとも3つの異なるポリペプチドを含む。ポリペプチドのカクテルでは、カクテル中のポリペプチドが2つ以上のHLA対立遺伝子のMHCクラスII分子によって結合され得ることが特に好ましい。一部の実施形態では、カクテルが異なる配列を有する3つ以上のポリペプチド(例えば、3、4又は5つのポリペプチド)を含むことも理解されるべきである。
【0108】
ポリペプチドのカクテルがhTERTタンパク質のポリペプチドを含むことが好ましい。カクテル中のポリペプチドが、配列番号1~5の配列を含む少なくとも2つの異なるポリペプチドからの配列を含むことが好ましい。カクテル中のポリペプチドが配列番号1、2及び3の配列を含むことが特に好ましい。カクテル中のポリペプチドが配列番号1、2及び3の配列からなることが特に好ましい。
【0109】
一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、当該技術分野で知られている通常の方法により生成される。或いは、少なくとも1つのポリペプチドは、例えば、臭化シアンを用いる切断、及びそれに続く精製により生成されるタンパク質の断片である。酵素切断も用いられ得る。さらなる実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、組換え発現ポリペプチドの形態である。例えば、(例えば、プロモーター配列に対応する制御配列の下流の)発現可能な形態でポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む好適なベクターは、調製され、好適な宿主細胞内に形質転換される。次に、宿主細胞は、培養され、目的のポリペプチドを生成する。他の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、インビトロ翻訳系を用いてインビトロで生成される。
【0110】
核酸分子
本発明の第2の実施形態では、上に示されるようなポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が提供される。
【0111】
自己抗原がテロメラーゼである実施形態では、核酸分子が、配列番号1~5の配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことが好ましい。核酸分子が、配列番号1、2又は3の配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことが特に好ましい。核酸分子が、配列番号1、2又は3の配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことが特に好ましい。
【0112】
一部の実施形態では、同じ自己抗原又は2つ以上の異なる自己抗原から得られるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子のカクテルなどの核酸分子のカクテル(すなわち混合物)が提供される。一実施形態では、カクテルは、自己抗原のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも2つ又は少なくとも3つの異なる核酸分子を含む。核酸分子のカクテルにおいて、コードポリペプチドが2つ以上のHLA対立遺伝子のMHCクラスII分子によって結合され得ることが特に好ましい。一部の実施形態では、カクテルは、異なるポリペプチド配列をコードする3つ以上の核酸分子(例えば、3、4又は5つの核酸分子)を含むことも理解されるべきである。
【0113】
核酸分子のカクテルが、hTERTタンパク質のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことが好ましい。カクテル中のコードポリペプチド配列が、配列番号1~5の配列を含む少なくとも2つの異なるポリペプチドからの配列を含むことが好ましい。カクテル中のコードポリペプチドが配列番号1、2及び3の配列を含むことが特に好ましい。カクテル中のコードポリペプチドが配列番号1、2及び3の配列からなることが特に好ましい。
【0114】
他の変形形態では、コードポリペプチドの配列は、上記の配列と同一でないばかりか、それに対して少なくとも80%、90%、95%又は99%の配列同一性を有する。いずれの場合でも、コードポリペプチドは、100アミノ酸長未満、好ましくは50、40又は30アミノ酸長未満である。
【0115】
本発明の一部のさらなる実施形態では、核酸分子又は各核酸分子は、他の物質に(例えば、共有結合的に)連結される。
【0116】
遺伝暗号の縮重のため、特定のポリペプチドをコードする核酸分子が様々なポリヌクレオチド配列を有し得ることは理解されるべきである。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCTは、すべてアミノ酸アラニンをコードする。
【0117】
核酸分子は、DNA若しくはRNA又はその誘導体のいずれかであり得る。
【0118】
T細胞受容体又はT細胞
本発明の第3の実施形態では、上に示されるようなポリペプチドに対して、そのポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞が提供される。
【0119】
上に示されるように、本発明のポリペプチドは、自己抗原の少なくとも12のアミノ酸の領域を含む。この長さのポリペプチドは、MHCクラスII分子上に提示される。したがって、T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞は、MHCクラスII分子上に提示されるときのポリペプチドを認識し、且つそれに結合する能力がある。MHCクラスII分子は、典型的には12~24アミノ酸長であるポリペプチドに結合する。T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞が、12~24アミノ酸長より長いポリペプチドに特異的であるものとして記述される実施形態では、ポリペプチドの免疫原性断片がMHC分子上に提示されることは理解されるべきである。
【0120】
自己抗原がテロメラーゼ(hTERT)である実施形態では、T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞が、配列番号1~5から選択される配列からなるポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸からなるその免疫原性断片に対して、そのポリペプチド又はその免疫原性断片がMHC分子上に提示されるときに特異的であることが好ましい。T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞が、配列番号1、2若しくは3の配列からなるポリペプチド、又は少なくとも12のアミノ酸からなるその免疫原性断片に対して、そのポリペプチド又はその免疫原性断片がMHC分子上に提示されるときに特異的であることが特に好ましい。
【0121】
一部の実施形態では、T細胞受容体のカクテル(すなわち混合物)又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルが提供される。すなわち、カクテルは、異なるT細胞受容体又は異なるT細胞受容体を呈するT細胞を含み、それらの各々は、MHC分子上に提示されるときの異なるポリペプチドに対して特異的である。
【0122】
一実施形態では、異なるT細胞受容体のカクテル又は異なるT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルは、同じ自己抗原からの異なるポリペプチドに対して、各ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であるか、又はそれ以外では、2つ以上の異なる自己抗原からの異なるポリペプチドに対して、各ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である。一実施形態では、異なるT細胞受容体のカクテル又は異なるT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルは、自己抗原の少なくとも2つ又は少なくとも3つの異なるポリペプチドに対して、各ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である。すなわち、一部の実施形態では、カクテルは、異なる配列を有する3つ以上又は4つ以上のポリペプチド(例えば、3、4又は5つのポリペプチド)に対して、各ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的である。異なるT細胞受容体のカクテル又は異なるT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルが、2つ以上のHLA対立遺伝子のMHCクラスI及び/又はクラスII分子によって結合及び提示され得るポリペプチドに対して特異的であることが特に好ましい。
【0123】
T細胞受容体のカクテル又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルが、hTERTタンパク質の異なるポリペプチドに対して、各ポリペプチドがMHC分子上に提示されるときに特異的であることが好ましい。
【0124】
T細胞受容体のカクテル又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルがMHC分子上に提示されるときに特異的である対象のポリペプチドが、配列番号1~5の配列を含む少なくとも2つの異なるポリペプチドからの配列からなることが好ましい。T細胞受容体のカクテル又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルがMHC分子上に提示されるときに特異的である対象のポリペプチドが、配列番号1、2及び3の配列からなることが特に好ましい。T細胞受容体のカクテル又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルがMHC分子上に提示されるときに特異的である対象のポリペプチドが、配列番号1、2及び3の配列からなることがとりわけ好ましい。
【0125】
一部の実施形態では、T細胞受容体のカクテル又はT細胞受容体を呈するT細胞のカクテルが特異的である対象のポリペプチドは、そのポリペプチドの免疫原性断片であり、免疫原性断片は、MHC分子上に提示される。特定の上記ポリペプチド、例えば配列番号1が、通常であればMHCクラスII分子上に提示される場合よりも長いことは理解されるべきである。したがって、T細胞受容体若しくはT細胞受容体を呈するT細胞又はそのカクテルが、配列番号1の配列を含むか又はそれからなるポリペプチドに対して特異的であるように記述される実施形態では、配列番号1の少なくとも12のアミノ酸を含む免疫原性断片がMHC分子上に提示されることは理解されるべきである
【0126】
他の変形形態では、T細胞受容体若しくは各T細胞受容体、又はT細胞受容体を呈するT細胞若しくは各T細胞がMHC分子に結合されるときに特異的である対象のポリペプチドの配列は、そのポリペプチドがやはりMHC分子によって提示され得るという条件で、上記の配列と同一でなく、代わりにそれに対して少なくとも80%、90%、95%又は99%の配列同一性を有する。
【0127】
免疫チェックポイント阻害剤
がんを治療するためのキットの第2の成分は、免疫チェックポイント阻害剤である。
【0128】
本発明では、免疫チェックポイント阻害剤は、より広範な免疫活性を可能にするための、免疫チェックポイントを下方制御又は遮断する能力がある任意の化合物、物質又は組成物(例えば、任意の小分子化合物、抗体、核酸分子、若しくはポリペプチド、又はその断片)である。免疫チェックポイント阻害剤がCTLA-4チェックポイント及び/又はPD-1チェックポイントを標的にすることが好ましい。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、BTLA、LAG3、ICOS、PDL1又はKIRなどのCD28CTLA-4 Igスーパーファミリーの別メンバーで標的にされる(Page et al., Annual Review of Medicine 65:27 (2014))。さらなる追加的な実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、CD40、OX40、CD137、GITR、CD27又はTIM-3などのTNFRスーパーファミリーのメンバーで標的にされる。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を標的にする。
【0129】
一部の実施形態では、免疫チェックポイントの標的化は、阻害抗体若しくはその抗原結合断片又は類似分子を用いて達成される。かかる好適な治療薬の例は、下の表1及び表2に示される。好ましい実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント経路に関与するタンパク質に特異的に結合し、それにより免疫チェックポイントの全活性を破壊及び下方制御する抗体である。免疫チェックポイント阻害剤が抗CTLA-4抗体又は抗PD-1抗体であることが特に好ましい。抗CTLA-4抗体がイピリムマブ又はトレメリムマブであり、且つ抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであることが特に好ましい。
【0130】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント経路に関与するタンパク質の活性に対して干渉及び/又は阻害し、それにより免疫チェックポイントの全活性を下方制御する小分子拮抗剤である。好ましい実施形態では、小分子拮抗剤は、CTLA-4及び/又はPD-1チェックポイントを下方制御するため、CTLA-4及び/又はPD-1タンパク質を標的にする(すなわち、小分子拮抗剤は、小分子CTLA-4拮抗剤又は小分子PD-1拮抗剤である)。
【0131】
さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-L1抗体(すなわちPD-1の内因性リガンドであるPD-L1に特異的に結合する抗体)である。抗PD-L1抗体がBMS-936559又はMPDL3280Aであることが好ましい。他の実施形態では、免疫チェックポイントの標的化は、標的に対する作動薬を用いて達成され、このクラスの例として、刺激標的のOX40及びGITRが挙げられる。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
本発明の第1の実施形態では、1つの免疫チェックポイント阻害剤が、がんの治療のためのキット中に提供される。免疫チェックポイント阻害剤が抗CTLA-4抗体であることが好ましい。免疫チェックポイント阻害剤がイピリムマブであることが特に好ましい。本発明の第2の実施形態では、少なくとも1つの免疫チェックポイント阻害剤が、がんの治療のためのキット中に提供される。この第2の実施形態では、第1及び第2のチェックポイント阻害剤は、異なる免疫チェックポイントを標的にするように提供される。第1の免疫チェックポイント阻害剤がCTLA-4チェックポイントを標的にし、且つ第2の免疫チェックポイント阻害剤がPD-1チェックポイントを標的にすることが好ましい。
【0135】
CTLA-4及びCTLA-4経路の阻害剤:
CD152としても知られている細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA-4)は、T細胞活性化を調節するように機能する共抑制分子である。
【0136】
CTLA-4は、後の免疫T細胞応答を弱め、自己免疫又は制御不能の炎症を阻止するための、新規免疫応答の開始又は既存の応答の刺激後まもなく上方制御されるT細胞の表面上の負の制御因子として最初に同定された。したがって、発生する免疫応答の規模は、CTLA-4の作用と密接に関連している。特定の実施形態では、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブである。
【0137】
チェックポイント阻害剤は、T細胞調節の免疫系の内因性機構を調節することにより機能する。イピリムマブ(YERVOY, Bristol-Meyers Squibb, New York, NY)は、モノクローナル抗体であり、米国食品医薬品局(FDA)によって認可されることになる最初のかかるチェックポイント阻害剤である。それは、転移性メラノーマに対する標準的治療になっている(Hodi et al., N. Engl. J. Med. 363:711-23. 2010; Robert et al., N. Engl. J. Med. 364:2517-26. 2011)。イピリムマブは、T細胞表面共阻害分子の細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)によって媒介される阻害シグナル伝達に対して結合し、それを遮断する。作用機構が1つの腫瘍タイプに特異的でなく、大量の前臨床データが複数の悪性腫瘍を通じた腫瘍免疫監視の役割を支持することから(Andre et al, Clin. Cancer Res. 19:28-33. 2013; May et al. Clin. Cancer Res. 17:5233-38. 2011)、イピリムマブは、数ある腫瘍タイプの中でも前立腺、肺、腎臓及び乳がんを有する患者のための治療として検討されつつある。イピリムマブは、CTLA-4の標的化により免疫系を活性化することによって作用する。別のCTLA-4遮断抗体として、トレメリムマブは、臨床試験において引き続き検討されており、メラノーマを有する患者における耐久性応答についても実証されている(Kirkwood et al., Clin. Cancer Res. 16:1042-48. 2010; Rihas et al. J. Clin. Oncol. 3 1:616-22, 2013)。
【0138】
PD-1及びPD-1経路の阻害剤:
CTLA-4が早期T細胞活性化を調節することに役立つ一方、プログラム死1(PD-1)シグナル伝達は、部分的には末梢組織内でのT細胞活性化を調節するように機能する。PD-1受容体は、CD28ファミリーに属する免疫抑制性受容体を指す。PD-1は、T reg、活性化B細胞、及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む幾つかの細胞型上に発現され、主に以前に活性化されたT細胞上においてインビボで発現され、2つのリガンドPD-L1及びPD-L2に結合する。PD-1の内因性リガンドのPD-L1及びPD-L2は、活性化免疫細胞及び非造血性細胞、例えば腫瘍細胞において発現される。PD-1は、本明細書で用いられるとき、ヒトPD-1(hPD-1)、変異体、アイソフォーム及びhPD-1の種相同体、並びに少なくとも1つのhPD-1と共通のエピトープを有する類似体を含むことを意味する。完全hPD-1配列は、ジェンバンク受入番号U64863下に見出すことができる。プログラム死リガンド-1(PD-L1)は、PD-1に対する2つの細胞表面糖タンパク質リガンドの1つであり(他方はPD-L2である)、PD-1への結合時にT細胞活性化の下方制御及びサイトカイン分泌をもたらす。PD-L1は、本明細書で用いられるとき、ヒトPD-L1(hPD-L1)、変異体、アイソフォーム及びhPD-L1の種相同体、並びに少なくとも1つのhPD-L1と共通のエピトープを有する類似体を含む。完全hPD-L1配列は、ジェンバンク受入番号Q9NZQ7下に見出すことができる。腫瘍は、PD-L1/L2を発現し、それによりPD-1/PD-L1,2相互作用を介して腫瘍浸潤性リンパ球を抑制することにより免疫監視を逃れることが示されている(Dong et al. Nat. Med. 8:793-800. 2002)。治療抗体とのこれらの相互作用の阻害は、T細胞応答を増強し、抗腫瘍活性を刺激することが示されている(Freeman et al. J. Exp. Med. 192: 1027-34. 2000)。
【0139】
上で考察したように、一部の実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ(CAS登録番号:946414-94-4)である。ニボルマブに代わる名称として、MDX-1 106、MDX-1 106-04、ONO-4538、BMS-936558が挙げられる。ニボルマブは、PD-1に対する完全ヒトIgG4遮断モノクローナル抗体である(Topaliam et al., N. Engl. J. Med. 366:2443-54. 2012)。ニボルマブは、PD-1を特異的に遮断し、それは免疫耐性を克服し得る。PD-1に対するリガンドは、すべての造血性細胞及び多数の非造血性組織において発現されるPD-L1(B7-H1)、並びに発現が主に樹状細胞及びマクロファージに制限されるPD-L2(B7-DC)として同定されている(Dong, H. et al. 1999. Nat. Med. 5:1365; Freeman, G. J.et al. 2000. J. Exp. Med. 192:1027; Latehman, Y. et al. 2001. Nat. Immunol 2:261; Tseng, S. Y. et al. 2001. J. Exp. Med. 193:839)。PD-L1は、多くのがんにおいて過剰発現され、予後不良に関連することが多く(Okazaki T et al, Intern. Immun. 2007 19(7):813) (Thompson RH et al, Cancer Res 2006, 66(7):3381)、腫瘍浸潤Tリンパ球の大部分は、正常組織内のTリンパ球及び末梢血Tリンパ球と異なり、主にPD-1を発現し、これは、腫瘍反応性T細胞上のPD-1の上方制御が抗腫瘍免疫応答の障害に寄与し得ることを示す(Blood 2009 1 14(8):1537)。詳細には、腫瘍細胞が免疫抑制性PD-1リガンドのPD-L1を発現することから、PD-1とPD-L1との間の相互作用の阻害により、インビトロでT細胞応答が増強され、前臨床抗腫瘍活性が媒介され得る。
【0140】
ニボルマブを含む幾つかの臨床試験(第I、II及びIII相)が実施されているか又は進行中である。例えば、第I相用量漸増試験では、ニボルマブは、安全であり、客観的応答は、腫瘍タイプを通じて16~31%であり、大部分の応答は、1年より長期間にわたって耐久性を示した(Topaliam et al., Presented at Annu. Meet. Am. Soc. Clin. Oncol., Chicago, May 31-June 4. 2013)。別の試験では、進行性メラノーマを有する患者におけるイピリムマブと組み合わせたニボルマブ(抗PD-1、BMS-936558、Q Q-4538)の安全性及び臨床活性が検討された(Woichok, J Clin Oncol 31 , 2013 (suppl; abstr 9012 2013 ASCO Annual Meeting)。
【0141】
2つの抗PD-L1阻害抗体のMPDL3280A(Genentech, South San Francisco, CA)及びBMS-936559(Bristol Meyers Squibb, New York, NY)は、臨床的検討を経ている。ニボルマブ及びMK-3475と同様に、これらの抗体は、主にPD-1/PD-L1シグナル伝達を遮断することにより機能すると考えられる。PD-1抗体と異なり、PD-L1抗体は、PD-L2とPD-1との間の潜在的な相互作用を残すが、加えてPD-L1とCD80との間の相互作用を遮断する(Park et al., 2010. Blood 3 16:1291-98)。MPDL3280Aは、複数の腫瘍タイプにおいて評価されており、そこでは、安全性及び予備有効性が、メラノーマ、腎細胞がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、及び結腸直腸がん、胃がん、及び頭頸部扁平上皮がんにおいて同定された(Herbst et al. presented at Annu. Meet Am. Soc. Clin. Oncol., Chicago, May 31-June 4. 2013)。同様に、BMS-936559は、第I相試験における複数の腫瘍タイプにわたり、安全であり且つ臨床活性があることが示された。MEDI-4736は、現在臨床開発中の別のPD-L1遮断抗体である(NCT01693562)。
【0142】
CTLA-4及びPD-1/PD-L1に加えて、極めて多数の他の免疫調節性標的が主に同定されており、多くは臨床試験において検討中の対応する治療抗体を伴う。Page et al. (Annu. Rev. Med. 2014. 65)は、図1において抗体・免疫修飾物質の標的について詳述しており、参照により本明細書中に援用される。
【0143】
追加的成分
本発明の一部の実施形態では、がんを治療するためのキット中の追加的成分が提供される。
【0144】
一実施形態では、キットは、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤又は賦形剤をさらに含む。
【0145】
典型的なアジュバントは、ポリI:C(Hiltonol)、CpG、リポソーム、微粒子、ウイルス様粒子(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、細菌性毒素(例えば、コレラ毒素及びサルモネラ毒素)を含む。さらなる典型的なアジュバントは、イミキモド又はグルコピラノシル脂質Aを含む。特に好ましいアジュバントは、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)である。典型的な希釈剤及び賦形剤は、滅菌水、生理食塩水、培養液及びリン酸緩衝液を含む。本発明のように、免疫系のT細胞アームを標的にするワクチンにおける使用のための典型的なアジュバントは、Petrovsky & Aguilar Immunol Cell Biol. 2004 82(5):488-96(参照により本明細書中に援用される)に詳述される。
【0146】
上記のようなポリペプチド又は核酸分子は、特定の実施形態では、免疫原性担体にカップリングされるか又はウイルス若しくは細菌中に組み込まれる。例示的な免疫原性担体は、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、オバルブミン、トリ免疫グロブリン及び免疫原性毒素のペプチド断片を含む。一実施形態では、核酸分子は、樹状細胞、酵母、細菌、ウイルスベクター、腫瘍溶解性ウイルス、ウイルス様粒子、リポソーム、ミセルナノ粒子又は金ナノ粒子からなる群から選択される担体にカップリングされるか又は組み込まれる。
【0147】
キットは、一部の実施形態では、さらなる治療成分を含む。例示的なさらなる治療成分は、インターロイキン-2(IL2)、インターロイキン-12(IL12)、自己抗原又は腫瘍関連抗原のさらなるポリペプチド(すなわち上で考察された以外の自己抗原又は腫瘍関連抗原のポリペプチド)、化学療法剤、鎮痛剤、抗炎症剤及び他の抗がん剤を含む。
【0148】
キットの追加的成分のさらなる詳細は、Remington’s Pharmaceutical Sciences and US Pharmacopoeia, 1984, Mack Publishing Company, Easton, PA, USAに見出され得る。
【0149】
特定の実施形態では、キットの上記成分は、がんを治療するための組成物又は医薬組成物の形態で提供される。
【0150】
一実施形態では、ワクチン(すなわちポリペプチド又は核酸分子)及び免疫チェックポイント阻害剤は、同じ注射器から局所的に注射される。この実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤が全身的に投与されるときに用いられる用量と比べて非常に低用量の免疫チェックポイント阻害剤が用いられる(Fransen et al. Clin Cancer Res. 2013 19(19):5381-9; Fransen et al. Oncoimmunology. 2013 2(11):e26493を参照されたい)。すなわち、免疫チェックポイント阻害剤は、1μg/kg~10mg/kgの範囲の低限の用量で用いられることになる。ワクチンの用量は、それが免疫チェックポイント阻害剤から別々に投与されるときと比べて不変である。
【0151】
本発明の方法
上で説明のようなキット、組成物又は医薬組成物の各成分は、使用時、治療を必要とする患者に投与される。原則的に、キットの成分の任意の投与様式、組成物又は医薬組成物が用いられ得る。
【0152】
キット、組成物又は医薬組成物がポリペプチドを含む実施形態では、ポリペプチドは、抗原提示細胞により形質膜陥入され、抗原プロセシングを受ける場合があり、次に細胞表面上のMHCクラスII分子と複合体を形成して提示される。T細胞の表面上のT細胞受容体との相互作用を通じてCD4+T細胞応答が誘発される。抗原プロセシングの結果として、キット、組成物又は医薬組成物のポリペプチドがまた、細胞表面上のMHCクラスI分子と複合体を形成して提示され、それによりCD8+T細胞応答を誘発し得ることは理解されるべきである。キット、組成物又は医薬組成物が核酸分子を含む実施形態では、核酸分子も形質膜陥入され、次に転写され(核酸分子がDNAである場合)、翻訳され、コードポリペプチドが内因性細胞経路を通じて合成される。その後、前述の通り、T細胞応答を誘発するため、コードポリペプチドは、プロセシングを受け、MHC分子上に提示される。このように、CD4+T細胞(及びCD8+T細胞)免疫を誘発するため、キット、組成物又は医薬組成物は、ワクチンとして用いられ得る。
【0153】
キット、組成物又は医薬組成物がT細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞を含む実施形態では、T細胞又はT細胞受容体は、CD4+T細胞(又はCD8+T細胞)免疫を直接的にもたらす。
【0154】
上で説明のようなキットの成分は、治療を必要とする患者に同時に、別々に又は連続的に投与され得る。すなわち、キットの成分は、異なる時刻に並びに実質的に同時の様式で投与され得る。同時にという用語は、本明細書で用いられるとき、1つ以上の薬剤の同時の投与を指す。例えば、特定の実施形態では、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチド及び免疫チェックポイント阻害剤は、同時に投与される。同時には、同時期、すなわち同じ期間中の投与を含む。特定の実施形態では、1つ以上の薬剤は、同時間以内に同時に、又は同日以内に同時に投与される。一部の実施形態では、用語「連続的に」は、キットの成分が相互に1、3、5、7、10、30又は60日以内に投与されることを指す。一部の実施形態では、用語「連続的に」は、キットの成分が相互に2、4又は6か月以内に投与されることを指す。
【0155】
上で説明の通り、キットの第2の成分(すなわち免疫チェックポイント阻害剤)は、より広範な免疫活性を可能にするため、免疫チェックポイントを下方制御又は遮断する能力がある。一部の実施形態では、キットの第1の成分に続いてキットの第2の成分を投与することが好ましい。このようにして、T細胞免疫応答として有効であるキットの第2の成分は、(一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチド又は核酸分子である)キットの第1の成分のワクチン接種に応答して開始される。ワクチン接種の開始段階中にキットの第2の成分を投与することが好ましい。一部の実施形態では、これは、キットの第1の成分の初期ワクチン接種から30、21、14、10、7、5、3又は1日以内である。本発明の実施形態に従う治療レジームに関するさらなる詳細は、以下に記載される。
【0156】
理論によって拘束されることを望まないが、キットの第1の成分に後続する、上記の時間枠内でのキットの第2の成分の投与により、一次リンパ器官におけるナイーブT細胞の集団からの、キットの第1の成分に特異的なT細胞の迅速且つ有効な増殖(すなわち迅速且つ有効な一次免疫応答)が促進されると考えられる。これは、T細胞応答として有効であるキットの第2の成分が開始されており、免疫チェックポイントにより応答が弱まることを阻止するためと考えられる。したがって、強力な新規の免疫応答が促進され、これが下記のようなより高い臨床的有用性に転換される。さらに、キットの第1の成分に後続する、上記の時間枠内でのキットの第2の成分の投与は、促進されたCD4+T細胞免疫応答の生成に寄与すると考えられる。
【0157】
キットの各成分の連続的投与又は実質的に同時の投与は、限定はされないが、皮内経路、経口経路、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、粘膜組織(例えば、経鼻、口、膣、及び直腸)を通じた直接吸収、及び眼内経路(例えば、硝子体内、眼球内など)を含む任意の適切な経路により影響され得る。キットの成分は、同じ経路により、又は異なる経路により投与され得る。キットの成分が注射により投与されることが特に好ましい。一実施形態では、キットの成分は、患者における腫瘍に直接的に注射される。治療対象のがんが患者の鼻又は口に存在する場合、一部の実施形態では、キット、組成物又は医薬組成物の成分は、噴霧剤及び吸入により投与される。
【0158】
(一部の実施形態では、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチド又はその少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸分子である)キットの第1の成分の至適用量は、100~700μgであるが、この範囲外の用量がときに要求され得る(例えば、1~1500μg)。300μgの用量が特に好ましい。一実施形態では、キットの第1の成分は、T細胞であり、10~1011個の細胞の用量が提供される。キットの第2の成分(すなわち免疫チェックポイント阻害剤)の至適用量は、3mg/kgであるが、他の用量がときに要求され得る(例えば、1μg/kg~10mg/kg)。
【0159】
一部の実施形態では、キットの第2の成分(すなわち免疫チェックポイント阻害剤)の2~5回の投与を含む治療計画が追求され、各投与は、2~5週で分割される。好ましい実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤の3回投与を含む治療計画が追求され)、各投与は、3週で分割される。
【0160】
一部の実施形態では、(一部の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチド、核酸分子、又はT細胞受容体若しくはT細胞受容体を呈するT細胞である)キットの第1の成分は、以下の治療計画に従って患者に投与される。キットの第1の成分は、(i)免疫チェックポイント阻害剤の初回投与前、(ii)免疫チェックポイント阻害剤の各再投与前、及び(iii)免疫チェックポイント阻害剤治療計画の完了後に投与される。キットの第1の成分の複数回投与が段階(i)、(ii)及び(iii)で提供されることが好ましい。
【0161】
キットの第1の成分の1~5回投与がそれぞれ段階(i)及び(ii)でチェックポイント阻害剤の初回投与前又は再投与前の7日以内に提供されることが特に好ましい。キットの第1の成分の1~3回投与が提供されることが特に好ましい。一部の実施形態では、段階(i)でのキットの第1の成分の投与は、チェックポイント阻害剤の初回投与前の1~3日に提供される。キットの第1の成分が、免疫チェックポイント阻害剤治療計画の完了後、患者に毎月投与されること(すなわち段階(iii))も好ましい。他の実施形態では、段階(iii)でのキットの第1の成分の投与は、3か月ごとである。
【0162】
一実施形態では、キットの第1の成分は、上で説明されるような追加的成分とともに投与される。キットの第1の成分がGM-CSFとともに投与されることが特に好ましい。GM-CSFの至適用量は、50~100μgである。75μgの用量が特に好ましい。
【0163】
一部の実施形態では、キットの第1及び第2の成分を用いる治療計画は、キットの第2の成分の初回投与から全部で48週間続く。他の実施形態では、治療計画は、48週よりも短いか又は長い。
【0164】
前述のように、少なくとも1つのポリペプチドは、広範囲のがんタイプに関連した自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原に属する。したがって、本発明の有効性は、任意の特定のタイプのがんに限定されない。一実施形態では、自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原がhTERTであることから、原則として、キットの成分、組成物又は医薬組成物は、テロメラーゼ遺伝子が活性化された任意のタイプのがんを患う患者に投与され得る。かかるがんは、限定はされないが、乳がん、前立腺がん、膵がん、結腸直腸がん、肺がん、膀胱がん、悪性メラノーマ、白血病、リンパ腫、卵巣がん、子宮頸がん及び胆道がんを含む。しかし、がんの大部分においてテロメラーゼ酵素が発現されることから、本発明の有効性が任意の特定のタイプのがんに限定されないことは理解されるべきである。
【0165】
がんの大部分においてテロメラーゼが発現されることは、Kim et al. Science. 1994 Dec 23; 266(5193):2011-5及びBearss et al. Oncogene. 2000 Dec 27; 19(56):6632-41(両方とも参照により本明細書中に援用される)などの試験で実証されている。
【0166】
Kim et al. 1994は、18の異なるヒト組織を表す培養細胞内において、100中98の不死集団及び22中0の死亡集団がテロメラーゼに対して陽性であったことを実証している。テロメラーゼ活性を有する不死細胞株の由来元であるヒト組織は、皮膚、結合、脂肪、乳房、肺、胃、膵臓、卵巣、頸部、腎臓、膀胱、結腸、前立腺、CNS、網膜及び血液を含んだ。したがって、本発明であれば、これらの組織に由来するがんに対する使用に適することになる。同様に、12のヒト腫瘍タイプを表す101中90の生検及び50中0の正常な体細胞組織がテロメラーゼに対して陽性であった。テロメラーゼ活性を示すヒト腫瘍タイプは、肝細胞がん、大腸がん、扁平上皮がん(頭頸部)、ウィルムス腫瘍、乳がん(乳管及び小葉、結節陽性)、乳がん(腋窩リンパ節陰性)、前立腺がん、前立腺上皮内腫瘍3型、良性前立腺肥大、神経芽細胞腫、脳腫瘍、小細胞肺がん、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血液悪性腫瘍(急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、リンパ腫(成人)を含む)を含んだ。
【0167】
Bearss et al. 2000は、広範囲のがんタイプにわたる患者から直接的に採取された腫瘍細胞におけるテロメラーゼ活性の存在をさらに実証した。これらの腫瘍タイプは、血液悪性腫瘍(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(早期)、慢性リンパ性白血病(後期)、骨髄腫、低グレードリンパ腫、高グレードリンパ腫を含む)、乳房、前立腺、肺(非小細胞及び小細胞を含む)、結腸、卵巣、頭頸部、腎臓、メラノーマ、神経芽細胞腫、神経膠芽腫、肝細胞がん、胃、及び膀胱を含んだ。
【0168】
テロメラーゼが上記のがんタイプにおいて活性化されることから、本発明がこれらのがんタイプのいずれか1つ(また当然ながら、テロメラーゼが活性化される任意のがんタイプ)に対する使用に適することは理解されるべきである。さらに、テロメラーゼの活性化は、がんタイプ間で共有される一般的特性であることから、本発明が任意の特定のタイプのがんに限定されないことは明白である。
【0169】
本発明のポリペプチドの一部(例えば、配列番号1のポリペプチド)が、通常であればMHCクラスI又はクラスII分子のいずれかにおいて収容される場合よりも長いことは着目されるべきである。例えば、HPV及び子宮頸がんワクチン接種に対してのワーキンググループにより、この長さのペプチドは、より強固な免疫応答を誘導することが示されている(Welters et al, 2008)。理論によって拘束されることを望まないが、かかるポリペプチドが、患者へのその投与後、細胞により形質膜陥入され、プロテアソームにおいてタンパク質分解性分解を受け、次にMHCクラスI又はクラスII分子上に提示されると考えられる。したがって、かかるポリペプチドは、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII制限T細胞応答を引き起こし得る。配列番号1と反応する異なるCD4+細胞クローンは、タンパク質分解切断の結果として、この30-merポリペプチドと異なるペプチド断片を認識することから、これが図6(実施例6を参照されたい)によって示されることは理解されるべきである。より長いポリペプチドが、より短いポリペプチドよりも長期間にわたって患者内部で現存を維持し、そのため、それらが免疫応答を誘発し得る期間が長くなることも理解されるべきである。これは、比較的低いMHC結合親和性を有するポリペプチドについて特に有意である。
【0170】
個体は、一般に、自己抗原のポリペプチドに対して、かかるポリペプチドと反応するT細胞が個体の胸腺においてT細胞発生中に破壊される過程を通じて、ある程度の免疫寛容を発達させていることも理解されるべきである。したがって、本発明の一部の実施形態では、比較的低いMHC結合親和性を有する本発明のポリペプチドが所望される。これは、より低いMHC結合親和性を有するポリペプチドが成熟T細胞により低い速度で曝露されていることから、そのポリペプチドと反応する個体のT細胞のすべてが個体のT細胞レパートリーから除去されている可能性がそれほど高くないためである。したがって、比較的低いMHC結合親和性を有するポリペプチドは、一部の実施形態では、免疫寛容をより容易に克服することができる。
【0171】
相乗効果
少なくとも12のアミノ酸長である自己抗原又はユニバーサル腫瘍抗原の少なくとも1つのポリペプチド及びチェックポイント阻害剤は、がんの治療における相乗効果をもたらす。他の実施形態では、本発明に従う核酸分子、T細胞受容体又はT細胞受容体を呈するT細胞、及び免疫チェックポイント阻害剤は、がんの治療における相乗効果をもたらす。
【0172】
がんの治療における相乗効果は、自己抗原又はユニバーサル腫瘍抗原の少なくとも1つのポリペプチドに対する測定可能な免疫応答を開始させるための患者の免疫系によって要求される期間の短縮、少なくとも1つのポリペプチドに対する強力な免疫応答の開始(すなわち刺激指標SI≧3)、及び改善された臨床成績(すなわち部分又は完全応答(部分又は完全寛解としても知られている)又は安定疾患)を含む。一部の実施形態では、がんの治療における相乗効果はまた、広範な免疫応答の誘導(すなわち2つ、3つ又はそれより多いワクチン成分に対する免疫応答の開始)を含む。
【0173】
理論によって拘束されることを望まないが、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドがCD4+T細胞応答を誘発する能力は、相乗効果にとって特に重要であると考えられる。図1を参照すると、本発明のポリペプチドがCD4+T細胞応答を誘発することが予想されるような機構が示される。ロングポリペプチドを用いることにより、CD4+T細胞が刺激される。これらの細胞は、腫瘍微小環境における複雑な役割を担い、腫瘍細胞及び多数の免疫エフェクターと直接的に相互作用することができ、腫瘍細胞の破壊をもたらす。死腫瘍細胞は、より多くの抗原を放出し、次いで抗原提示細胞によって取り込まれ、他の腫瘍抗原を標的化するT細胞免疫の第2の波、すなわち「エピトープ拡散」と称される現象を刺激する。
【0174】
CD4+T細胞応答を誘発する能力があるポリペプチド及び免疫チェックポイント阻害の組み合わせは、高比率の患者における免疫応答の迅速な発生及びそれ以外の患者における検出可能性が低い/ない免疫応答の効率的増強をもたらす。これは、高い臨床的奏効率(すなわち部分又は完全応答(部分又は完全寛解としても知られている)又は安定疾患を有する患者の割合をもたらす。特に、自己抗原及び/又はユニバーサル腫瘍抗原のポリペプチドは、がん特異的免疫応答をかかる応答が欠如した患者にもたらし、患者における弱い又は準最適な自然免疫応答も増強し、それにより免疫チェックポイント阻害から臨床的に利益を得る可能性がある患者の数を大幅に拡大することになる。免疫チェックポイント阻害は、T細胞増殖に対するチェックポイントの負の影響を除去し、それにより、より高比率の患者においてより迅速且つ臨床的に効率的なT細胞応答をもたらす。これは、自己抗原及び/又は腫瘍関連抗原のポリペプチドに対する負の応答を、ポリペプチドのワクチン接種の終結後に長期にわたって拡大されたクローン増殖を可能にすることにより、正の応答に転換させることを含む。
【0175】
本発明が以下の臨床状況下で特に有用であることは理解されるべきである。第1に、患者が、自然免疫応答が一般に不在である場合に腫瘍を有するような患者群(すなわち免疫チェックポイント阻害が予め臨床的有用性をもたらしていない腫瘍徴候)及び免疫チェックポイント阻害に対して応答する患者の比率が極めて低い患者群(例えば、悪性メラノーマを有する患者)である。第2に、以前のがんワクチンがロングペプチドワクチンに対して免疫応答を誘発する能力を示している患者群、及びがんワクチンが開発可能であっても、ワクチン接種後に免疫応答を誘導する能力に反して実質的な臨床的有用性をもたらすことができない患者である。一実施形態では、本発明は、免疫チェックポイント療法が現在のところ臨床的有用性をわずかに有するか又は全く有しない患者群において用いられ、本発明は、自己抗原の少なくとも1つのポリペプチドのワクチン接種後に新規の免疫応答を誘発する。
【実施例0176】
実施例
以降では、実施例を参照して本発明が具体的に説明される。しかし、これらの実施例は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0177】
材料及び方法
T細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)
末梢血単核球(PBMC)をワクチン接種の開始前及びワクチン接種後の複数の時点で得た。PBMCを前述のように単離及び凍結した(Inderberg-Suso EM et al., Oncoimmunology 2012 1(5):670-686、参照により本明細書中に援用される)。1回のインビトロでのワクチンペプチドによる前刺激後にワクチン接種前及び後のPBMCから作製したT細胞培養物を、その後、前述のような3H-チミジン取り込みを用いる標準T細胞増殖アッセイで試験した(Inderberg-Suso EM et al., Oncoimmunology 2012 1(5):670-686)。照射した自家PBMCを抗原提示細胞(APC)として用いた。T細胞(50000個)を関連抗原(例えば、配列番号1、2及び3の組み合わせ並びに配列番号1、2及び3の個別ポリペプチド)の存在下及び不在下で50000個のAPCとともにインキュベートした。T細胞培養物を3通りに試験した。平均値の標準誤差(SEM)は、通常、10%未満であった。T細胞バルクの応答は、刺激指標(SI;抗原存在下での応答を抗原不在下での応答で除したもの)が3以上であったとき(SI≧3)、抗原特異的であると考えた。
【0178】
エリスポットアッセイ
IFN-γエリスポットアッセイを本質的に前述のように実施した(Gjertsen MK et al. J Mol Med (Berl) 2003; 81:43-50)。ヒトIFN-γに対するモノクローナル抗体(Mabtech)をPBSで希釈し、最終濃度を5μg/mlにした。96ウェルのMultiScreen-HAプレート(Millipore)を、75μl/ウェルの保存液を添加することにより抗体でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを室温で1時間貯蔵し、ウェルを200μl/ウェルのPBSで6回洗浄し、余分な抗体を除去した。非特異的結合をブロッキングするため、プレートを100μl/ウェルのCellGro DC培地+10%ヒト血清(HS; Baxter)とともに37℃で1~2時間インキュベートした。解凍及び洗浄後の自家PBMCを数え上げ、プレコーティングしたウェルに5×105細胞/ウェルで添加した。レスポンダーT細胞を収集し、洗浄し、数え上げ、CellGro DC培地(CellGenix)中、自家PBMCを1×10細胞/ウェルで含有するウェルに3通りに移した。T細胞のみ及びPBMCのみを伴う陰性対照並びにT細胞+PBMC+ブドウ球菌(Staphylococcus)エンテロトキシンC3(SEC3;Toxin Technologies)を有する陽性対照を含めた。加湿インキュベーター内、5%CO下、37℃で一晩のインキュベーション後、プレートをPBSで6回洗浄した。2回洗浄と3回洗浄との間にプレートを室温で10分間インキュベートした。各ウェルに、ヒトIFN-γに対するビオチン化抗体(Mabtech)1μg/mlの保存液75μlを添加し、プレートを室温で2時間インキュベートした。6回の反復洗浄後、プレートを(PBS+1%HSAで1:1000に希釈した)保存液からの75μl/ウェルのストレプトアビジン-ALP(Mabtech)とともに1時間インキュベートした。余分な抗体を除去するため、ウェルを再びPBSで6回洗浄した。次いで、基質BCIP/NBT(Sigma-Aldrich)75μlを各ウェルに添加後、プレートを5~20分間インキュベートした。スポットの出現時に水を添加し、反応を停止させた。自動分析装置CTL IMMUNOSPOT S5 VERSA-02-9030(Cellular Technology Ltd)を用いて、スポットを数え上げた。
【0179】
実施例1:配列番号1及び2の配列並びに配列番号1、2及び3の組み合わせを有するポリペプチドは、CD4+T細胞応答を誘発する能力がある
末梢血T細胞は、配列番号1、2及び3のワクチン接種を受けていたメラノーマ患者において応答する。T細胞を配列番号1、2又は3並びに3つ全部のポリペプチドの組み合わせでインビトロ刺激した。T細胞増殖アッセイ及びエリスポットアッセイは、本明細書中に示すような材料及び方法セクションの通りに実施した。結果を図2A及び2B並びに下の表3A~3Cに提示する。719-20は、配列番号1を指し、725は、配列番号2を指し、728は、配列番号3を指し、hTERTI混合物は、配列番号1、2及び3の組み合わせを指す。刺激指標(SI)は、T細胞増殖アッセイで試験したすべてのポリペプチドについて計算した。SI≧3を陽性と考えた。
【0180】
【表3】
【0181】
【表4】
【0182】
【表5】
【0183】
図2Aを参照すると、配列番号1、2並びに配列番号1、2及び3の組み合わせは、配列番号1、2及び3の組み合わせのワクチン接種後4、7及び12週目にメラノーマ患者において強力な免疫応答を誘発したことが示される。このアッセイは、CD4+T細胞応答についての標準的アッセイである。図2Bを参照すると、配列番号1、2並びに配列番号1、2及び3の組み合わせに対する陽性免疫応答は、メラノーマ患者におけるワクチン接種後12週目にエリスポットアッセイを用いて検出されたことが示される。このアッセイは、主にCD8+T細胞応答を測定するために開発されている。
【0184】
したがって、配列番号1、2並びに配列番号1、2及び3の組み合わせは、メラノーマ患者においてCD4+T細胞応答を誘発する能力があった。
【0185】
実施例2:配列番号1の配列を有するポリペプチドのポリペプチド断片の免疫原性
CD4+T細胞をメラノーマ患者2名(患者P7及びP9)及び肺がん患者(患者P5)から作製した。患者は、以前にがんワクチンの投与を受けていなかった。CD4+T細胞を、(下の表4に示すような)配列番号1又は14のアミノ酸を含むその断片でインビトロ刺激した。T細胞増殖アッセイは、本明細書中に示すような材料及び方法セクションの通りに実施した。SI≧2を陽性と考えた。結果を図3A~Cに提示する。
【0186】
【表6】
【0187】
図3Aを参照すると、配列番号1の配列を有するペプチド並びにペプチド断片719-20-13、719-20-14、719-20-15及び719-20-16による、メラノーマ患者P7から採取したT細胞クローン(クローン28-2及び5-2)の刺激が示される。各ペプチドは、クローン28-2及び5-2からの強力な応答を誘発した。クローン28-2のSIは、例外的に高く、これらのペプチドが異常に高い活性のあるT細胞クローンをがん患者のT細胞レパートリーから選択し得ることを示す。両方のクローンがHLA-DQ6制限であったことから、これらの結果は、所与のHLAクラスII分子によって提示されたこれらのペプチドを認識するT細胞のレパートリーが複雑であることをさらに示す。
【0188】
図3Bを参照すると、配列番号1の配列を有するペプチド並びにペプチド断片719-20-2、719-20-3、719-20-4、719-20-5、719-20-6、719-20-7、719-20-8及び719-20-9による、メラノーマ患者P9から採取したT細胞クローン(クローン9及び80)の刺激が示される。メラノーマP9のT細胞クローン9の特に強力な刺激がペプチド断片719-20、719-20-3、719-20-4、719-20-5、719-20-6及び719-20-7において認められた。これらのT細胞クローンの両方がHLA-DR8制限であったことから、同じHLAクラスII分子によって提示された同じペプチドを認識するT細胞が不均一であることが再び示される。
【0189】
図3Cを参照すると、配列番号1の配列を有するペプチド並びにペプチド断片719-20-2、719-20-4、719-20-5及び719-20-6による、肺がん患者P5から採取したT細胞クローン(クローン109;HLA-DR8制限)の刺激が示される。各ペプチドは、クローン109からの強力な応答を誘発した。
【0190】
結論として、配列番号1のペプチド断片は、患者試料からのCD4+T細胞クローンを問題なく刺激した。さらに、試験した12/17のペプチド断片が、試験した5つのT細胞クローン間で認識された。
【0191】
実施例3:配列番号1のMHCクラスII結合モチーフ
配列番号1のMHCクラスII結合モチーフ及びその配列の免疫原性断片を計算したものを表5に示す。
【0192】
【表7】
【0193】
表5から明らかなように、配列番号1のポリペプチド及びその免疫原性断片は、広範囲のHLA分子に結合することができる(Thエピトープを提示するもののみを表5に示すことに留意されたい)。したがって、このポリペプチドは、非常に広範な患者集団にわたって免疫応答を生成することができる。
【0194】
実施例4:配列番号2の配列を有するポリペプチドのポリペプチド断片の免疫原性
CD4+T細胞をメラノーマ患者(患者P7)及び卵巣がん患者(患者P1)から作製した。患者は、以前にがんワクチンの投与を受けていなかった。CD4+T細胞を、(下の表6に示すような)配列番号2又は12のアミノ酸を含むその断片でインビトロ刺激した。T細胞増殖アッセイは、本明細書中に示すような材料及び方法セクションの通りに実施した。SI≧2を陽性と考えた。結果を図4に提示する。
【0195】
【表8】
【0196】
図4を参照すると、配列番号2の配列を有するポリペプチド並びにポリペプチド断片725-2及び725-4による、メラノーマ患者P7及び卵巣がんP1から採取したT細胞の刺激が示される。
【0197】
配列番号2のポリペプチド断片は、患者試料からのT細胞を問題なく刺激した。さらに、試験した2/4のポリペプチド断片が、試験したがん患者間で認識された。
【0198】
実施例5:配列番号3の配列を有するポリペプチド及びその断片は、CD4+T細胞応答を誘発する能力がある
CD4+T細胞を、がんワクチンの投与を受けていなかった膵がんを有する患者1名(患者P1)及び神経膠芽腫を有する患者1名(患者P5)から作製した。CD4+T細胞を、(下の表7に示すような)配列番号3又は12のアミノ酸を含むその断片でインビトロ刺激した。T細胞増殖アッセイは、本明細書中に示すような材料及び方法セクションの通りに実施した。SI≧3を陽性と考えた。結果を図5に提示する。
【0199】
【表9】
【0200】
図5を参照すると、配列番号3の配列を有するポリペプチド及びその断片は、非ワクチン接種膵がん及び神経膠芽腫患者においてCD4+T細胞応答を誘発したことが示される。CD4+T細胞の特に強力な刺激が膵がん患者におけるペプチド断片728-2において認められた一方、すべての断片が神経膠芽腫患者からの細胞を強力に刺激した。
【0201】
結論として、配列番号3及びその断片は、非ワクチン接種膵がん及び神経膠芽腫がん患者においてCD4+T細胞を刺激することができた。
【0202】
実施例6:配列番号1の配列を有するポリペプチドのポリペプチド断片は、CD4+T細胞応答を誘発する能力がある
配列番号1に特異的なCD4+T細胞クローンを、配列番号1、2及び3の組み合わせのワクチン接種を受けた患者から作製し、配列番号1の14-merペプチドの重複ライブラリーで刺激した。T細胞クローン増殖は、材料及び方法の通り、T細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)を用いてペプチド刺激後に測定した。データを図6に示す。
【0203】
図6を参照すると、配列番号1に特異的なCD4+T細胞クローンは、HLA制限に応じて配列番号1ポリペプチドの異なる14-mer断片を認識したことが示される。したがって、完全長配列番号1のワクチン接種は、異なるHLA制限のT細胞クローンが刺激されることから(例えば、HLA-DR及びHLA-DQ制限T細胞クローン)、広範なCD4+T細胞応答を生成する能力がある。
【0204】
結論として、配列番号1の配列を有するポリペプチドの断片は、異なるHLA制限のT細胞クローンにおけるCD4+T細胞応答を誘発する能力があった。
【0205】
実施例7:イピリムマブと組み合わせてがんワクチンを受けた切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者からの臨床応答データ
臨床試験において、抗CTLA-4遮断薬及びがんワクチン(がん特異的なヘルパーT細胞応答を誘導する能力があるロングペプチドを含む)の併用療法について検討した。試験(EudraCT番号:2013-005582-39)では、切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者において、イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3のカクテルを含むがんワクチンの組み合わせについて検討した。
【0206】
イピリムマブは、活性化T細胞のサブセット上で発現される免疫調節分子であるヒト細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4、CD152)に特異的な完全ヒトモノクローナル免疫グロブリンである。イピリムマブにおける提起された作用機構は、CTLA-4の下方調節機能の阻害をもたらす、CTLA-4と抗原提示細胞上に発現されるB7同時刺激分子(CD80又はCD86)との相互作用の破壊である。
【0207】
配列番号1、2及び3を含むがんワクチンは、幾つかのがんタイプの治療用に現在開発中の注射のための治療がんワクチンである。それは、天然に存在するタンパク質の断片、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素サブユニット(hTERT)を表し、且つがん特異的なヘルパーT細胞応答を誘導する能力がある、15及び30アミノ酸長の3つの合成ペプチドの混合物からなる。
【0208】
臨床試験
設計
これは、切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者におけるイピリムマブ/がんワクチンの組み合わせについての安全性及び耐容性を試験する第I/IIa相非盲検単一アーム介入試験であった。
【0209】
治療レジーム
患者にイピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンを顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)と一緒に投与した。イピリムマブは、全部で4用量を3週ごとに投与した。GM-CSF及びがんワクチンは、イピリムマブの初回投与の7、5及び3日前に投与した。GM-CSF及びがんワクチンの4回目投与は、イピリムマブの初回投与の11日後に施し、次いでイピリムマブの各投与の3日前、その後、4週ごとに全部で最大9回、ワクチン投与した。
【0210】
結果
この試験に登録した最初の患者14名のうちの12名が適格であり、治療した。患者は、58.7の平均年齢(48~74の範囲)を有した。女性は、5名であり、男性は、7名であった。治療開始から5~14か月のフォローアップ期間で臨床応答データを収集したものを表8に示す。表8を参照すると、患者12名中6名が臨床応答を有し、これらの3名が部分応答を有し、3名が安定疾患を有した。
【0211】
【表10】
【0212】
考察
上記の結果は、50%の疾患制御率(部分若しくは完全応答又は安定疾患を有する患者の割合)を示す。Hodi et al. 2010は、類似患者集団における第3相試験からの結果を報告しており、そこでは、イピリムマブ単独を受ける患者群における疾患制御率(最良総合効果)が28.5%であり(フォローアップ期間中央値が27.8か月であり)、且つイピリムマブ及びがんワクチンgp100を受ける患者群における疾患制御率が20.1%であった(フォローアップ期間中央値が21か月であった)(Hodi et al. N Engl J Med. 2010 363(8)711-23)。重要なことに、現行試験における部分奏効率は25%であった。Hodi et al. 2010は、イピリムマブ+Gp100群及びイピリムマブ単独群における部分奏効率がそれぞれ5.5%及び9.5%であることを報告した。Gp100は、メラノソームタンパク質、糖タンパク質100(Gp100)に由来するHLA-A0201-制限9-merペプチドを含むがんワクチンである。
【0213】
したがって、切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者が、hTERTからの3つのロングペプチドを含むがんワクチンがイピリムマブと組み合わせて投与される場合に上の臨床試験において認められる疾患制御率は、イピリムマブが、単独で又はgp100に由来するショート(9-mer)ペプチドを含むがんワクチンと組み合わせて投与されるときの類似患者集団において認められる場合よりも明らかに高かった。特に、上の臨床試験の部分奏効率は、Hodi et al. 2010によって報告された場合よりも実質的に高かった。
【0214】
実施例8:がんワクチンをイピリムマブと組み合わせて投与された、切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者からの全生存データ
導入
本実施例は、実施例7に示すような臨床試験からのさらなるデータを提供する。
【0215】
結果
この試験に登録した最初の患者14名のうちの12名が適格であり、治療した。患者は、58.7の平均年齢(48~74の範囲)を有した。女性は、5名であり、男性は、7名であった。無作為化から18か月目及び12か月目の全生存(OS)率は、75%(9/12)であった。
【0216】
全生存中央値には依然として達していなかった。しかし、18~28か月の範囲の生存における利用可能なフォローアップデータによると、全生存中央値は、少なくとも18か月であった。一般に、全生存は、臨床試験における無作為化から任意の原因による死亡までの期間の長さと定義される。
【0217】
考察
Hodi et al. 2010は、1年OS率が、イピリムマブ単独を受ける患者群において46%であり、イピリムマブ及びがんワクチンgp100を受ける患者群において44%である類似患者集団における第3相試験からの結果を報告している(Hodi et al. N Engl J Med. 2010 363(8):711-23)。Gp100は、メラノソームタンパク質、糖タンパク質100(Gp100)に由来するHLA-A0201-制限9-merペプチドを含むがんワクチンである。Hodiは、イピリムマブ単独群における10.1か月及びイピリムマブ+gp100群における10.0か月の全生存中央値を報告した。生存におけるフォローアップ期間中央値は、イピリムマブ単独を受ける患者群及びイピリムマブ+gp100を受ける患者群においてそれぞれ27.8か月及び21か月であった。
【0218】
したがって、切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者が、hTERTからの3つのロングペプチドを含むがんワクチンをイピリムマブと組み合わせて受ける、上の臨床試験における1年全生存及び全生存中央値は、イピリムマブが、単独で又はgp100に由来するショート(9-mer)ペプチドを含むがんワクチンと組み合わせて投与されるときの類似患者集団において認められる場合よりも明らかに高かった。
【0219】
実施例9:がんワクチンをイピリムマブと組み合わせて受けたメラノーマ患者と比べた、がんワクチン単独を受けた肺及び前立腺がん患者からの試料における免疫応答の誘導
配列番号1、2及び3を含む治療がんワクチンは、2つの第1/2A相臨床試験における肺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-001852-20)及び前立腺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-002411 -26)の各々において検討されている。
【0220】
抗CTLA-4抗体イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンを用いた併用療法は、メラノーマにおける臨床試験(EudraCT番号:2013-005582-39)において検討されている。
【0221】
治療レジーム
肺及び前立腺がん試験:
試験は、アンドロゲン感受性転移性前立腺がんを有する患者及び非小細胞肺がん(NSCLC)を有する患者における放射線療法及び/又は化学療法の各々の完了後の、配列番号1、2及び3を含むがんワクチンの非盲検用量漸増第I/IIa相試験であった。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFを1、3及び5日目、次いで2、3、4、6及び8週目に投与し、その後、最大6か月にわたって毎月ワクチン接種した。
【0222】
メラノーマ試験:
切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者は、イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをGM-CSFと一緒に受けた。イピリムマブは、標準的手順に従い、3週ごとに全部で4用量投与した。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFは、イピリムマブの治療前及びその間に投与し、その後、ワクチンは、4週ごとに全部で最大9用量投与した。より具体的には、配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFは、イピリムマブの初回投与の7、5及び3日前に投与した。GM-CSF及びがんワクチンの4回目用量は、イピリムマブの初回投与の11日後に投与し、次いでイピリムマブの各投与の3日前に投与し、その後、ワクチンは、4週ごとに全部で最大9用量投与した。
【0223】
免疫応答分析
免疫応答は、材料及び方法の通り、治療前、その間及びその後、収集した患者血液試料を用いてT細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)により測定した。特異的T細胞応答は、ワクチンペプチドの少なくとも1つ又はペプチドの組み合わせに対するペプチド応答がバックグラウンドの少なくとも3倍であった場合(刺激指標SI≧3)、陽性と考えた。試験中、配列番号1、2又は3のペプチドのいずれかに対して陽性の特異的T細胞応答を生じさせる任意の患者を免疫応答者と定義した。
【0224】
結果
配列番号1、2及び3を含むがんワクチンの300μgでのワクチン接種後の免疫応答データは、前立腺がん試験における患者7名及び肺がん試験における患者6名から入手可能であった。メラノーマ試験(すなわち300μgのがんワクチンとイピリムマブとの組み合わせ)における患者11名からの血液試料も免疫応答分析用に入手可能であった。データを図7にまとめる。
【0225】
図7を参照すると、ワクチン接種後の異なる時点でワクチンに対する陽性免疫応答を生じさせた患者の百分率が示される。全体として、メラノーマ試験における10/11(91%)の患者が陽性免疫応答を有した。陽性応答を有しなかった患者1名では、4週目に1つのワクチン接種後血液試料のみが入手可能であった。全体として、組み合わせた前立腺がん群及び肺がん群における患者の86%が陽性免疫応答を有した。がんワクチン及びイピリムマブの併用治療を受けた患者は、がんワクチン単独を受けた患者よりも迅速に免疫応答を生じさせた。4週目において、がんワクチン及びイピリムマブの組み合わせを受けた患者の55%が免疫応答を有した一方、がんワクチン単独を受けた患者の過半数(54%)が免疫応答を生じさせるまでに10週間かかった。メラノーマ試験における患者2名、前立腺がん試験における患者2名及び肺がん試験における患者1名は、ワクチンペプチドの1つに対する自然免疫応答を有し、すべてがワクチン接種により強化された。
【0226】
したがって、図7の結果は、がんワクチン及びイピリムマブの併用治療を受けた患者が、がんワクチン単独を受けた患者よりも迅速にワクチンのポリペプチドに対する免疫応答を開始させたことを示す。全体として、がんワクチン及びイピリムマブの併用治療を受けた患者は、がんワクチン単独を受けた患者と比べてより高い割合で試験中にワクチンのポリペプチドの1つに対して免疫応答を生じさせた。
【0227】
実施例10:がんワクチン及びイピリムマブの組み合わせは、がんの治療における相乗効果をもたらす
配列番号1、2及び3を含む治療がんワクチンは、肺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-001852-20)及び前立腺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-002411-26)の各々における2つの第1/2A相臨床試験で検討されている。
【0228】
抗CTLA-4抗体イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンを用いた併用療法は、メラノーマにおける臨床試験(EudraCT番号:2013-005582-39)で検討されている。
【0229】
治療レジーム
肺及び前立腺がん試験:
試験は、アンドロゲン感受性転移性前立腺がんを有する患者及びNSCLCを有する患者における放射線療法及び/又は化学療法の各々の完了後の、配列番号1、2及び3を含むがんワクチンの非盲検用量漸増第I/IIa相試験であった。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFを1、3及び5日目、次いで2、3、4、6、8及び10週目に投与し、その後、最大6か月にわたって毎月注射した。
【0230】
メラノーマ試験:
切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者は、イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをGM-CSFと一緒に受けた。イピリムマブは、標準的手順に従い、3週ごとに全部で4用量投与した。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFは、イピリムマブの治療前及びその間に投与し、その後、ワクチンは、4週ごとに全部で最大9用量投与した。より具体的には、配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFは、イピリムマブの初回投与の7、5及び3日前に投与した。GM-CSF及びがんワクチンの4回目用量は、イピリムマブの初回投与の11日後に投与し、次にイピリムマブの各投与の3日前に投与し、その後、ワクチンは、4週ごとに全部で最大9用量投与した。
【0231】
免疫応答分析
免疫応答は、材料及び方法に示す通り、治療前、その間及びその後、収集した患者血液試料を用いてT細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)により測定した。特異的T細胞応答は、ワクチンペプチドの少なくとも1つ又はペプチドの組み合わせに対するペプチド応答がバックグラウンドの少なくとも3倍であった場合(刺激指標SI≧3)、陽性と考えた。試験中、配列番号1、2又は3のペプチドのいずれかに対して陽性の特異的T細胞応答を生じさせる任意の患者を免疫応答者と定義した。
【0232】
結果
肺及び前立腺がん試験:
肺及び前立腺がん試験からの300μgの投与コホートについての組み合わせデータを表9Aに示す。応答患者におけるデータのみを含める。ワクチン接種患者13名のうちの応答患者11名では、がんワクチンにおける配列番号1、2又は3のペプチドの少なくとも1つに対して陽性免疫応答を得るのに1患者あたり平均7.6回(6~11回の範囲)のがんワクチン注射が必要とされた。これは、1患者あたり平均用量2.3mg(1.8~3.3mgの範囲)のがんワクチンに対応する。この患者群におけるピーク免疫応答の平均強度(SI)は、15.5(3.7~34.5の範囲)であった。
【0233】
【表11】
【0234】
メラノーマ試験:
この試験では、同じがんワクチン用量(300μg/注射)を用いた。データを表9Bに示す。この群における11名中10名の患者は、ワクチン接種後のがんワクチンに対する陽性免疫応答を開始した。患者10名において陽性免疫応答を得るために必要とされるがんワクチン注射の平均回数は、5回(3~7回の範囲)であった。これは、1患者あたり平均用量1.5mg(0.9~2.1mgの範囲)のがんワクチンに対応する。この患者群におけるピーク免疫応答の平均強度(SI)は、20.2(3.9~56.3の範囲)であった。
【0235】
【表12】
【0236】
考察
がんの治療において配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをCTLA-4遮断薬イピリムマブと組み合わせるとき、表9A及び9Bに提示したデータは、相乗効果を明示する。これは、ワクチンに対する測定可能な免疫応答を開始するための患者の免疫系によって必要とされる期間の有意な短縮(表9Cに概説される)及びその後の免疫応答の強さの両方により明示される。増加する腫瘍量を有する患者では、腫瘍の制御を得る上で期間が重要であり、早期免疫応答が必須となる。したがって、5回の注射(15日)~7.6(8)回の注射(36日)での時間差は関連性が高い。別の重要な成功パラメータは、免疫応答の強さである。強い免疫応答は、弱い応答よりも臨床効果を有する可能性が高く、そのため、組み合わせ試験において認められた20.2の平均ピークSIは、好ましくは、がんワクチンが単独投与されるときに認められた15.5の平均ピークSIに匹敵する。
【0237】
【表13】
【0238】
結論として、ロングペプチドに基づくワクチン(すなわち配列番号1、2及び3の配列を有するポリペプチドを含む)と組み合わせたCTLA-4遮断の役割の分析からのデータによると、がん患者においてCTLA-4遮断をペプチドワクチン誘導T細胞応答と組み合わせるとき、相乗効果の例が初めて提供される。この相乗効果は、患者がワクチンのペプチドに対する陽性免疫応答を開始するのにかかる期間の短縮、より強力な免疫応答、及び改善された臨床応答(すなわち実施例7によって示される通り)を含んだ。全体として、これらのデータは、がん治療における臨床像をさらに変えることが期待される、新型のがんワクチン-チェックポイント阻害剤治療にとっての強力な理論的根拠を提供する。
【0239】
実施例11:イピリムマブと組み合わせたがんワクチンを受けたメラノーマ患者からの試料における広範な免疫応答の誘導
配列番号1、2及び3を含む治療がんワクチンは、肺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-001852-20)及び前立腺がんを有する患者(EudraCT番号:2012-002411-26)の各々における2つの第1/2A相臨床試験で検討されている。
【0240】
抗CTLA-4抗体イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンを用いた併用療法は、メラノーマにおける臨床試験(EudraCT番号:2013-005582-39)で検討されている。
【0241】
治療レジーム
肺及び前立腺がん試験:
試験は、アンドロゲン感受性転移性前立腺がんを有する患者及びNSCLCを有する患者における放射線療法及び/又は化学療法の各々の完了後の、配列番号1、2及び3を含むがんワクチンの非盲検用量漸増第I/IIa相試験であった。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFを1、3及び5日目、次いで2、3、4、6、8及び10週目に投与し、その後、最大6か月にわたって毎月注射した。3つの異なる用量群におけるワクチンは、100、300及び700μgであった一方、アジュバント用量は、GM-CSFの75μgであった。
【0242】
メラノーマ試験:
切除不能又は転移性悪性メラノーマを有する患者は、イピリムマブ並びに配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをGM-CSFと一緒に受けた。イピリムマブは、標準的手順に従い、3週ごとに全部で4用量投与した。配列番号1、2及び3を含むがんワクチン並びにGM-CSFは、イピリムマブの治療前及びその間に投与し、その後、ワクチンは、4週ごとに全部で最大9用量投与した。ワクチン用量は、300μgであった一方、アジュバント用量は、GM-CSFの75μgであった。
【0243】
免疫応答分析
免疫応答は、材料及び方法に示す通り、治療前、その間及びその後、収集した患者血液試料を用いてT細胞応答アッセイ(3H-チミジン取り込みによる増殖)により測定した。特異的T細胞応答は、ペプチド応答がバックグラウンドの少なくとも3倍であった場合(刺激指標SI≧3)、陽性と考えた。免疫応答は、配列番号1、2又は3の各個別ペプチドに対して測定した。
【0244】
結果
ワクチン接種後に配列番号1、2又は3の個別ペプチドのすべてに対して陽性免疫応答を有する患者の割合を下の表10に提示する。
【0245】
【表14】
【0246】
考察
実施例9で考察のように、がんワクチン及びイピリムマブの併用治療を受けたメラノーマ患者の91%は、ワクチンのポリペプチドの1つに対する免疫応答を生じさせた。本実施例は、がんワクチン及びイピリムマブの併用治療を受けたメラノーマ患者において広範な免疫応答が生じたことをさらに示す。これは、ワクチン接種をCTLA4遮断薬イピリムマブと組み合わせたとき、配列番号1、2及び3の3つすべてのワクチン接種ペプチドに対して免疫応答を生じさせる患者の割合が、ワクチン接種を単独に施したとき(すなわち前立腺及び肺がん患者において)と比べてより大きいことにより明示される。したがって、表10に提示するデータは、がんの治療において配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをCTLA-4遮断薬イピリムマブと組み合わせるときの相乗効果をさらに示す。広範な免疫応答は、好ましい臨床成績に関連することが知られている(Kenter et al. N Engl J Med. 2009 Nov 5; 361(19):1838-47)。
【0247】
結論として、実施例11からのデータは、配列番号1、2及び3を含むがんワクチンをCTLA-4遮断薬イピリムマブと組み合わせるときのがんの治療における相乗効果に関するさらなる証拠を広範な免疫応答の誘導の形態で提供する。
【0248】
全体として、上記実施例におけるデータは、自己抗原に対するロングペプチドがんワクチンを抗CTLA-4抗体と組み合わせることで、ワクチン単独の投与と比べてワクチンに応答する患者の数が増加し(評価可能な患者の91%)、応答がより早いように見られ、より強力であり、ワクチン接種の低減を必要とし、且つワクチンの3つすべての成分に対する免疫応答(すなわち広範な免疫応答)を開始することができる患者の割合が高まるといった利点をもたらすことを示す。ワクチン応答のこの増幅は、この組み合わせを投与するとき、イピリムマブを単独投与するときと比べてより高い臨床的有用性をもたらす。
【0249】
【表15】
【0250】
【表16】
【0251】
【表17】
【0252】
【表18】
【0253】
【表19】
【0254】
【表20】
【0255】
【表21】
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022171684000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2022-09-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【外国語明細書】