(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171702
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】短距離輸送後の牛の枝肉成績向上方法及び増体方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20221104BHJP
A23K 40/35 20160101ALI20221104BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20221104BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K40/35
A23K20/142
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137699
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2021077174の分割
【原出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武本 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】平野 和夫
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005BA02
2B150AA02
2B150AB03
2B150AB20
2B150AE16
2B150DA49
2B150DJ01
2B150DJ03
(57)【要約】
【課題】短距離輸送後の牛の枝肉成績を向上させる方法及び短距離輸送後の牛の体重を増加させる方法を提供すること。
【解決手段】短距離輸送された牛から得られる枝肉の成績を向上させる方法及び短距離輸送後の牛の体重を増加させる方法は、バイパス加工したメチオニンを短距離輸送された牛に給与することを含む。
【効果】短距離輸送後の牛を肥育後に該牛から得られる枝肉の成績を向上させることができる。また、短距離輸送後の牛の体重の増え方を大きくすることができることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを給与することを含む、該牛から得られる枝肉の成績を向上させる方法。
【請求項2】
短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを給与することを含む、該牛の体重を増加させる方法。
【請求項3】
枝肉の歩留基準値の向上方法である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記短距離輸送が、8時間以内の輸送である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記短距離輸送が、絶食、絶水条件下で行われる請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
バイパス加工したメチオニンの給与量が、メチオニン換算で1日当り8g~85gである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
バイパス加工したメチオニンを、少なくとも輸送前1日から輸送後7日まで給与する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短距離輸送後の牛から得られる枝肉の成績を向上させる方法及び短距離輸送後の牛の体重を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、素牛の商業的な輸送が常態化し、輸送に伴うストレスの増大が素牛の体重を減耗させることが経験的に知られている。輸送条件も多様であり、本州-九州もしくは北海道間を輸送する長距離型、各地域の農家、公共牧場および家畜市場の間を輸送する短距離型等がある。輸送は絶食および絶水で行われることが多い。絶食および絶水を伴う輸送により体重の低下や生理学的変化が生じるが、部分的に輸送距離により生じる変化が異なる。例えば、(1)輸送は甲状腺と副腎機能の活性化を引き起こし、この活性化は短距離輸送よりも長距離輸送のほうが大きい、(2)短距離輸送のほうが長距離輸送よりもストレスと関連しているホルモンであるコルチゾールの血液中濃度が増加する、などがある。
【0003】
一方、反すう動物のルーメン(第一胃)で吸収されないように、ルーメンをバイパスする加工(バイパス加工)を施した飼料添加物が種々利用されている。メチオニンをバイパス加工したものも牛の飼料添加物として公知であり、乳牛に給与して牛乳の生産量を高める方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
短距離輸送後の牛は、短距離輸送していない牛と比較して、枝肉成績が劣り、また、同じだけ同じ餌を与えても一時的な体重の増え方が少ないという問題が見出された。本願発明の目的は、短距離輸送後の牛の枝肉成績を向上させる方法を提供することである。また、短距離輸送後の牛の体重を増加させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、短距離輸送後の牛にバイパス加工したメチオニンを給与することにより、該牛から得られる枝肉の成績を向上させることができ、また、短距離輸送後の牛の体重の増え方を大きくすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1) 短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを給与することを含む、該牛から得られる枝肉の成績を向上させる方法。
(2) 短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを給与することを含む、該牛の体重を増加させる方法。
(3) 枝肉の歩留基準値の向上方法である、(1)記載の方法。
(4) 前記短距離輸送が、8時間以内の輸送である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 前記短距離輸送が、絶食、絶水条件下で行われる(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) バイパス加工したメチオニンの給与量が、メチオニン換算で1日当り8g~85gである、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) バイパス加工したメチオニンを、少なくとも輸送前1日から輸送後7日まで給与する、 (1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、短距離輸送後の牛を肥育後に該牛から得られる枝肉の成績を向上させることができる。また、本発明によれば、短距離輸送後の牛の体重の増え方を大きくすることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】下記実施例で行った、対照区及びメチオニン区の平均体重の増減の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「短距離輸送」とは、輸送時間が8時間以内の輸送を意味する。本発明は、短距離輸送が、絶食、絶水条件下で行われる場合に特に威力を発揮するが、必ずしも絶食、絶水条件下で行われなくてもよい。なお、短距離輸送は、通常、2時間以上である。
【0011】
本発明の方法(本明細書において、単に「本発明の方法」という場合には、特に断りがない場合及び文脈上明らかな場合を除き、枝肉成績を向上させる方法と体重を増加させる方法の両者を包含する)が適用される牛は、特に限定されず、肉牛でも乳牛でもよく、雄でも雌でもよく、月齢も特に限定されない。
【0012】
本発明の方法では、バイパス加工したメチオニンが給与される。ルーメンをバイパスするバイパス加工自体は、この分野において周知である。例えば、バイパス加工は、硬化油などのバイパス加工に使用される原料を加工する原料に対してスプレーコーティングやパンコーティングをすることにより行うことができる。バイパス加工したメチオニン(以下、「バイパスメチオニン」)は市販されているので、市販のバイパスメチオニンを好ましく給与することができる。
【0013】
本発明の方法では、バイパスメチオニンの給与量は特に限定されないが、通常、メチオニン換算で1日当り8g~85g、好ましくは17g~51gである。
【0014】
本発明の方法では、バイパスメチオニンを給与する期間は、特に限定されないが、好ましくは少なくとも輸送前1日~輸送後7日までであり、さらに好ましくは輸送前3日から輸送後14日まであり、さらに好ましくは輸送前7日から輸送後21日までである。
【0015】
バイパスメチオニンは、飼料又は飲料水に添加して給与することができる。
【0016】
短距離輸送後の牛にバイパスメチオニンを給与することにより、該牛から得られる枝肉の成績が向上する。具体的には、下記実施例に具体的に記載されるとおり、ロース芯面積が増大し、歩留基準値が向上する。なお、歩留基準値とは、枝肉重量に対する部分肉重量の割合を意味する。また、下記実施例に具体的に記載されるように、短距離輸送後の牛にバイパスメチオニンを給与することにより、給与しない場合に比べて体重の増え方が大きくなる。
【0017】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1 枝肉成績試験
平均月齢7.8ヶ月の黒毛和種去勢育成牛10頭(各区5頭)を試験に供した。各区とも、絶食、絶水条件下で、約5時間(約275km)の短距離輸送(陸路を車両で)を行った。輸送前日の17:00に給餌し、輸送当日の15:00まで絶食であった。対照区は、短距離輸送の前後とも、通常の給与体系で飼育した。メチオニン区は、短距離輸送の前1日~短距離輸送後7日まで、バイパスメチオニンを原物40g/頭/日(メチオニン換算で34g/頭/日)給与した。短距離輸送前は、バイパスメチオニンを飲料水に添加して給与した。短距離輸送後は、飼料にトップドレスで添加した。
【0019】
短距離輸送から平均675日後に屠殺し、枝肉成績を調べた。統計処理は、Student t-testにより行った。結果を下記表1に示す。
【0020】
【0021】
表1に示されるように、バイパスメチオニンを投与することにより、枝肉重量は同等であったが、ロース芯面積及び歩留基準値は統計学的に有意(ロース芯面積はp<0.10、歩留基準値はp<0.01)に増大した。
【0022】
実施例2 体重増加
月齢約7.8ヶ月の黒毛和種去勢育成牛10頭(各区5頭)を試験に供した。各区とも、絶食、絶水条件下で、5時間(約275km)の短距離輸送(陸路を車両で)を行った。輸送前日の17:00に給餌し、輸送当日の15:00まで絶食であった。対照区は、短距離輸送の前後とも、通常の給与体系で飼育した。メチオニン区は、短距離輸送の前1日~短距離輸送後7日まで、バイパスメチオニンを原物40g/頭/日(メチオニン換算で34g/頭/日)で給与した。短距離輸送前は、バイパスメチオニンを飲料水に添加して給与した。短距離輸送後は、飼料にトップドレスで添加した。体重は、輸送前(-1日)、輸送直後(0日)、3日後(3日)、7日後(7日)、14日後(14日)、30日後(30日)測定した。結果を
図1に示す。なお、
図1中、各期間の結果を示す棒において、左側が対照区の結果、右側がメチオニン区の結果を示す。
【0023】
図1に示されるように、短距離輸送前日から短距離輸送後30日までの体重増加は、メチオニン区の方が統計学的に有意に大きかった。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを、少なくとも輸送前1日から輸送後7日まで給与することを含む、該牛から得られる枝肉の歩留基準値を向上させる方法であって、バイパス加工したメチオニンの給与量が、メチオニン換算で1日当り8g~85gである、方法。
【請求項2】
前記短距離輸送が、8時間以内の輸送である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記短距離輸送が、絶食、絶水条件下で行われる請求項1又は2記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) 短距離輸送された牛に、バイパス加工したメチオニンを、少なくとも輸送前1日から輸送後7日まで給与することを含む、該牛から得られる枝肉の歩留基準値を向上させる方法であって、バイパス加工したメチオニンの給与量が、メチオニン換算で1日当り8g~85gである、方法。
(2) 前記短距離輸送が、8時間以内の輸送である、(1)記載の方法。
(3) 前記短距離輸送が、絶食、絶水条件下で行われる(1)又は(2)記載の方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明の方法が適用される牛は、特に限定されず、肉牛でも乳牛でもよく、雄でも雌でもよく、月齢も特に限定されない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
参考例 体重増加
月齢約7.8ヶ月の黒毛和種去勢育成牛10頭(各区5頭)を試験に供した。各区とも、絶食、絶水条件下で、5時間(約275km)の短距離輸送(陸路を車両で)を行った。輸送前日の17:00に給餌し、輸送当日の15:00まで絶食であった。対照区は、短距離輸送の前後とも、通常の給与体系で飼育した。メチオニン区は、短距離輸送の前1日~短距離輸送後7日まで、バイパスメチオニンを原物40g/頭/日(メチオニン換算で34g/頭/日)で給与した。短距離輸送前は、バイパスメチオニンを飲料水に添加して給与した。短距離輸送後は、飼料にトップドレスで添加した。体重は、輸送前(-1日)、輸送直後(0日)、3日後(3日)、7日後(7日)、14日後(14日)、30日後(30日)測定した。結果を
図1に示す。なお、
図1中、各期間の結果を示す棒において、左側が対照区の結果、右側がメチオニン区の結果を示す。