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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171726
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】新規化合物および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/84 20060101AFI20221104BHJP
   C07C 211/65 20060101ALI20221104BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20221104BHJP
   C23C 16/06 20060101ALI20221104BHJP
   C07F 15/06 20060101ALN20221104BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C07C209/84
C07C211/65
C23C16/455
C23C16/06
C07F15/06 CSP
C07F15/02
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139567
(22)【出願日】2022-09-01
(62)【分割の表示】P 2019081378の分割
【原出願日】2019-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】509182010
【氏名又は名称】気相成長株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】町田 英明
(72)【発明者】
【氏名】石川 真人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 弘
(57)【要約】
【課題】新規化合物を提供することである。
【解決手段】25℃(1気圧)において液体であって、[i-CNC(n-C)N-i-CM(MはCo又はFe)で表される化合物である新規化合物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃(1気圧)において液体の[i-CNC(n-C)N-i-CM(MはCo又はFe)の製造方法であって、
i-C-N=C=N-i-Cとn-CLiとの反応が行われるX工程と、
前記X工程における反応生成物[i-CNC(n-C)N-i-C]と金属M(MはCo又はFe)塩化物との反応が行われるY工程と、
前記Y工程の後で蒸留が行われる精製工程
とを具備する製造方法。
【請求項2】
25℃(1気圧)において液体であって、[i-CNC(n-C)N-i-CM(MはCo又はFe)で表される化合物である
新規化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
Co(金属コバルト(例えば、膜))は半導体の分野で求められている。前記Coは電気抵抗が低い。従って、半導体回路の銅配線の拡散防止膜として、又、半導体回路の銅配線のライナーとしての期待が大きい。更に、半導体回路の配線自体にCoを採用することが検討されている。
【0003】
前記Co及びFe(金属鉄(例えば、膜))は、磁性材料である。従って、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の分野で求められている。前記Co,Feは、例えば次世代メモリ(例えば、MRAM)の材料に不可欠である。
【0004】
FeSi合金膜は光吸収係数が非常に高い(単結晶Siの約100倍)。従って、FeSi合金が太陽電池に応用されると、薄膜化が可能になる。FeSi合金膜の理論的な光電変換効率は16~23%と謂われている。このようなことから、FeSi合金は薄膜太陽電池の材料として注目されている。
【0005】
化学気相成長方法(CVD法)又は原子層制御成長方法(ALD法)によって、Co,Fe系膜(例えば、Co膜、酸化コバルト膜、Fe膜、酸化鉄膜など)が形成される。この場合、原料物質として、例えばβ-ジケトナートコバルト錯体、β-ジケトナート鉄錯体、シクロペンタジエニル系コバルト錯体、シクロペンタジエニル系鉄錯体が提案されている。
【0006】
原料化合物にβ-ジケトナート錯体(この化合物はO(酸素原子)を持つ。)が用いられた場合、形成された膜の内部にOが入り込んでいる。この為、膜が酸化コバルト膜または酸化鉄膜の場合には、大きな問題が起きないと思われる。しかし、目的とする膜が、本来、酸素(O)を持たない膜である場合には、問題が懸念される。
【0007】
シクロペンタジエニル系錯体(例えば、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト;CpCo)はO(酸素原子)を持たない。従って、前記錯体が用いられた場合、Oが、基本的には、膜の内部に入り込まないと思われる。しかしながら、シクロペンタジエニル系コバルト錯体は、分解温度が高い。従って、C(炭素原子)が膜の内部に入り込むことが懸念される。ビス(シクロペンタジエニル)鉄(CpFe)を原料として用いた場合も同様である。
【0008】
Co錯体(O(酸素原子)を持たない。)やFe錯体(O(酸素原子)を持たない。)として、(N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)コバルト{Co[i-CNC(C)N-i-C}が提案されている。(N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)鉄{Fe[i-CNC(C)N-i-C}が提案されている。前記提案の錯体を用いてCVD法(又はALD法)による成膜が行われると、高純度なCo膜やFe膜が形成される。前記(N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)コバルトは固体(融点が約38℃)である。前記(N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)鉄は固体(融点が約33℃)である。室温で固体の前記化合物は加熱融解させられると、その蒸気は成膜反応室に輸送される。この時、配管(蒸気輸送用の配管)も加熱される必要が有る。配管が加熱されない場合、配管内に前記化合物が固化・堆積してしまう。配管が閉塞されてしまう。前記の如きの融点(33℃、38℃)の場合、研究室レベル(小規模)での成膜では余り問題が起きない。しかし、工場での量産レベルでは問題が大きくなる。例えば、前記配管に冷えた個所が在るだけで、その個所では固化閉塞が起きる。製造ラインがストップする。量産レベルでは一連の工程を経ていることから、多くのウエハが無駄になる。損失は大きくなる。近年の半導体量産工場では、原料化合物は大量に反応室に送り込まれる。ダイレクト・リキッド・インジェクションというシステムが採用されている。この方法は、原料が気化室に液体として直接送り込まれる。前記気化室で気化した化合物(ガス)は成膜反応室に送られる。この場合、当然、室温で液体である必要がある。前記固体(融点(38℃,33℃))の場合、加熱すれば、液体になる。しかし、熱エネルギーが必要となる。配管内の固化閉塞も懸念される。
【0009】
更に、半導体工場向けには高純度品が必要である。高純度品を得る為には蒸留が不可欠である。室温で固体の化合物を蒸留する場合、気体が冷却部(コンデンサー)で固化する。この為、蒸留操作が厄介である。冷却の温度を融点以上にする事により、固化を防ぐことは可能である。しかし、温度管理が大変である。熱エネルギーの損失も有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2013/051670A1
【特許文献2】特開2016-172894
【特許文献3】WO2004/046417A1
【特許文献4】特開2011-63848
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】(Zhengwen Li, Don Kuen Lee, Michael Coulter, Leonard N. J. Rodriguez and Roy G. Gordon, Dalton Trans., 2008, 2592-2597)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記背景技術の欄で説明された通り、蒸留が可能な液体(25℃(1気圧)下で液体)の金属錯体(前記金属M=Co,Fe)が求められている。現在では、金属M(M=Co,Fe)を得ることが出来る蒸留可能な液体(25℃(1気圧)下で液体)で、かつ、異性体が存在しない金属錯体(前記金属M=Co,Fe)は提案されていない。
【0013】
従って、本発明は前記課題を解決することである。例えば、高品質なM(M=Co,Fe)材(例えば、膜)を簡単に提供できる技術を提供することである。例えば、液体(25℃(1気圧)下で液体)で、かつ、異性体が存在しないCo錯体を提供することである。例えば、液体(25℃(1気圧)下で液体)で、かつ、異性体が存在しないFe錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決する為の検討が、鋭意、推し進められて行った。
【0015】
その結果、Co[i-CNC(n-C)N-i-C,Co[i-CNC(i-C)N-i-C,Fe[i-CNC(n-C)N-i-C,Fe[i-CNC(i-C)N-i-Cは、液体(25℃(1気圧)下で液体)である事が判った。前記化合物は、蒸留操作によって、高純度品が得られた。前記化合物が用いられた場合、CVD法(又はALD法)によって、高品質な膜が得られることを理解できる。
【0016】
上記知見に基づいて本発明が達成された。
【0017】
本発明は、
25℃(1気圧)下で液体のM[i-CNC(R)N-i-C(但し、M=Co又はFe。Rはn-C又はi-C)で表される化合物
を提案する。
【0018】
例えば、25℃(1気圧)下で液体のCo[i-CNC(n-C)N-i-Cを提案する。
【0019】
例えば、25℃(1気圧)下で液体のCo[i-CNC(i-C)N-i-Cを提案する。
【0020】
例えば、25℃(1気圧)下で液体のFe[i-CNC(n-C)N-i-Cを提案する。
【0021】
前記化合物は新規化合物である。
【0022】
前記化合物は構造異性体が無い。
【0023】
前記化合物の官能基は不斉炭素原子を持たない。
【0024】
前記化合物は光学異性体が無い。
【0025】
本発明は、
M(M=Co,Feの群の中から選ばれる一種または二種)系材を形成する為の材料であって、
M[i-CNC(R)N-i-C(但し、M=Co又はFe。Rはn-C又はi-C)で表される化合物を有する
形成材料を提案する。
【0026】
本発明は、
M(M=Co,Feの群の中から選ばれる一種または二種)系材が形成される方法であって、
M[i-CNC(R)N-i-C(但し、M=Co又はFe。Rはn-C又はi-C)で表される化合物が室に輸送され、前記室に輸送された前記化合物が分解して基板上にM系材が形成される
方法を提案する。
【発明の効果】
【0027】
前記化合物は液体(25℃(1気圧)下で液体)である。
【0028】
前記化合物は、液体である事から、簡単な蒸留操作で高純度品が得られた。
【0029】
前記化合物は気化し易い(蒸気圧が高い)。前記化合物のガス輸送は安定している。従って、CVD法(又はALD法)によって、高品質な材(例えば、膜)が低廉なコストで得られた。成膜効率が良い。例えば、高品質な金属M(M=Co,Fe)膜が効率良く形成された。或いは、高品質なM(M=Co,Fe)合金膜が効率良く形成された。
【0030】
前記化合物はO(酸素原子)を持っていない。従って、形成された膜にOが含まれていない(実質上、含まれていない)。形成された膜にOが含まれる事になっても、O含有量は少ない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】CVD装置の概略図
図2】CVD装置の概略図
図3】蒸気圧線図
【発明を実施するための形態】
【0032】
第1の本発明は新規化合物である。前記化合物はM[i-CNC(R)N-i-C(M=Co又はFe。Rはn-C又はi-C)である。前記化合物は下記の[式1][式2][式3][式4]で表される。例えば、Co[i-CNC(n-C)N-i-C(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト:ビス(N,N’-ジイソプロピルブタナアミジネート)コバルト)である。例えば、Co[i-CNC(i-C)N-i-C(ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルト)である。例えば、Fe[i-CNC(n-C)N-i-C(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄:ビス(N,N’-ジイソプロピルブタナアミジネート)鉄)である。前記化合物(錯体)は液体(25℃(1気圧)下で液体)である。従って、蒸留操作によって、前記化合物の高純度品が簡単に得られた。前記化合物の官能基は不斉炭素原子を持たない。前記化合物は光学異性体が無い。異性体の不存在が大事である点は次の通りである。近年の半導体分野では微細化・複雑化が進んでいる。例えば、微細な穴または溝(開口部の幅が数十nm。深さが、開口部の10~200倍、更には200倍以上)に対して、成膜が行われる場合が有る。このような成膜の場合には、ALD法が不可決と謂われている。このような場合、成膜原料分子が基体終端基(例えば、-OH基、-NH基)に化学吸着する必要が有る。この化学吸着には、原料分子の向きや配列が秩序正しいことが好ましい。前記原料分子が左右非対称である場合、光学活性(光学異性体)である場合には、秩序正しい配列の化学吸着が困難であった。このような状態で成膜された膜は、緻密さが劣り、比抵抗が高くなってしまう。従って、異性体が無い事が好ましい。異性体が無い場合は、精製が簡単である。後述の参考例で示される化合物は、異性体が存在する。従って、成膜原料としては好ましくなかった。単離(分離・精製)が極めて困難(現時点では不可能)である。前記本発明の化合物は蒸気圧が高い。CVD或いはALDによる成膜が容易であった。
【0033】
[式1]
[式2]
[式3]
[式4]
【0034】
第2の本発明は形成材料である。M(M=Co,Feの群の中から選ばれる一種または二種)系材を形成する為の材料である。前記M系材は、例えばCo系膜である。例えば、Co金属膜である。例えば、Co合金膜である。例えば、CoX(Xは非金属元素(例えば、N,B等(特に、O以外の元素))又は半導体元素)膜である。例えば、Fe系膜である。例えば、Fe金属膜である。例えば、FeCo系合金膜である。例えば、Fe合金膜である。例えば、FeX(Xは非金属元素(例えば、N,B等(特に、O以外の元素))又は半導体元素)膜である。例えば、FeCoX(Xは非金属元素(例えば、N,B等(特に、O以外の元素))又は半導体元素)膜である。前記材は膜には限られない。膜の概念より厚いものでも良い。前記材料は前記化合物(錯体:Co[i-CNC(n-C)N-i-C,Co[i-CNC(i-C)N-i-C,Fe[i-CNC(n-C)N-i-C,Fe[i-CNC(i-C)N-i-Cの群の中から選ばれる一種または二種以上)を有する。前記材料は、例えば溶媒中に溶けている前記化合物である。前記化合物が用いられた場合、CVD法(又はALD法)によって、高品質な膜が効率良く得られた。
【0035】
第3の本発明は方法である。前記方法は形成方法である。前記方法は、前記化合物(錯体:Co[i-CNC(n-C)N-i-C,Co[i-CNC(i-C)N-i-C,Fe[i-CNC(n-C)N-i-C,Fe[i-CNC(i-C)N-i-Cの群の中から選ばれる一種または二種以上)が室に輸送され、前記輸送された前記化合物(錯体)が分解して基板上に前記M系材が設けられる方法である。前記方法は、例えば前記化合物(錯体)が室に輸送される工程を具備する。前記方法は、前記室に輸送された前記化合物(錯体)の分解により基板上に前記M系材が設けられる工程を具備する。前記方法は、例えばCVD法が採用される。例えば、ALD法が採用される。前記室は、例えば成膜室(分解室または反応室とも称される)である。
【0036】
上記のようにして得られた前記M系材(例えば、膜)は、O,C(不純物成分)量が極めて少ないものであった。すなわち、純度が高かった。
【0037】
成膜過程においては、支障が起き難いものであった。例えば、前記化合物(原料(x(g))の気化・分解により、成膜が行われた。前記原料の0.7x(g)が消費された後、成膜作業が停止された。原料容器と成膜室とを連結する配管の内部が観察された。前記配管の内部の閉塞(前記原料の固化による閉塞)は認められなかった。
【0038】
以下、具体的な実施例が挙げられる。但し、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【0039】
[実施例1]
〔ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト〕
反応は不活性ガス雰囲気下で行われた。0.285molのN,N’-ジイソプロピルカルボジイミドが、0.284molのノルマルプロピルリチウムを含有するジエチルエーテル溶液280mlに、ゆっくり、滴下された。この後、室温で4時間の撹拌が行われた。この反応混合液が、0.142molの塩化コバルト(CoCl)が100mlのテトラヒドロフランに懸濁した溶液に、徐々に、滴下された。この後、24時間の撹拌が行われた。溶媒留去後、500mlのノルマルヘキサンが加えられた。不溶物が濾過された。溶媒留去後、減圧(0.1torr)蒸留が行われた。ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが収率89%で得られた。
【0040】
得られた300gのビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトの減圧蒸留精製が行われた。気化したビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト(蒸気)は、空冷管を通る間に液化し、受け器に捕集された。この時、空冷管は、特別な冷却も加熱も無く、室温のままで、放冷されていた。98%の回収率であった。
【0041】
前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト)が、冷却により、結晶化した。結晶化したビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが徐々に温められた。15℃~16℃で融解した。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトは、液体(25℃(1気圧)の条件下)であった。油回転式真空ポンプによる減圧蒸留において、沸点は102℃であった。
【0042】
前記精製品の純度は高かった。金属不純物分析(ICP-MS)による分析値(単位はwt.ppm)は、次の通りであった。Na<0.1,Mg<0.1,Fe=0.4,Zn=0.3,Ti<0.1,Cu=0.1,Cd<0.1,Mn<0.1,Ni=1.1,Pb<0.1
【0043】
図1の成膜装装置が用いられて成膜作業が行われた。図1は成膜装置の概略図である。図1中、1は原料容器である。2は基板加熱器(基板を保持して加熱)である。3は成膜チャンバー(分解反応炉)である。4は基板である。5は流量制御器である。6はシャワーヘッドである。7はキャリアガス(Ar,又はNなど不活性ガス)である。10は、成膜時に成膜チャンバー3内に導入される添加ガス(例えば、Ar,Nなどの不活性ガス、及びH,NHなどの還元性ガス)である。
【0044】
前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーター(図示せず)により、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10が、成膜チャンバー3内に供給された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。ポンプ(図示せず)により、成膜チャンバー3内は真空に排気された。成膜チャンバー3とポンプとの間に設けられた圧力調整弁(図示せず)により、成膜チャンバー3内は所望の圧力(例えば、1kPa)に調整されている。基板4は、基板加熱器2により、加熱(280℃)されている。10分後に基板4上に膜(金属Co薄膜)が形成された。
【0045】
上記のようにして形成された膜は面内均一性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は4at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.4at%以下であった。膜の比抵抗は19μΩcmであった。
【0046】
図1の装置が用いられて成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーターにより、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、5秒間に亘って、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10が、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、供給された。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。再び、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、導かれた。このサイクルが100回繰り返された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。基板加熱器2により、基板4は加熱(150~200℃)されている。基板4上に膜(金属Co薄膜)が形成された。
【0047】
上記のようにして形成された膜は穴(開口部100nm、深さ1μm)の内壁に均一に施されていた。段差被覆性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は2at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.2at%以下であった。平坦部における膜の比抵抗は20μΩcmであった。
【0048】
図2の成膜装装置が用いられて成膜作業が行われた。図2は成膜装置の概略図である。図2中、1は原料容器である。2は基板加熱器である。3は成膜チャンバー(分解反応炉)である。4は基板である。5は流量制御器である。6はシャワーヘッドである。8は気化器である。9は、原料圧送用ガス(例えば、He,Arなどの不活性ガス。原料容器1から気化器8に原料を圧送)である。10は、成膜時に成膜チャンバー3内に導入される添加ガス(例えば、Ar,N等の不活性ガス、及びH,NH等の還元性ガス)である。11は、原料圧送用ガス9の圧力制御器である。12は液体流量制御器(気化器8への原料液体の圧送流量を制御)である。
【0049】
図2の装置が用いられて成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルト)が原料容器1内に入れられた。原料圧送用ガス9としてNガスが用いられた。前記圧力制御器11により、0.1MPaに調整された。液体流量制御器12により、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが圧送(圧送量は0.1mg/minに調整)された。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが気化器8に送り込まれた。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが通る配管は室温のままである。気化器8に送り込まれたビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトは、50sccmのArガス(キャリアガス)と共に、成膜チャンバー3内に導かれた。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10も成膜チャンバー3内に供給された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。ポンプ(図示せず)により、成膜チャンバー3内は真空に排気された。圧力調整弁(図示せず。成膜チャンバー3とポンプとの間)により、所望の圧力(例えば、1kPa)に調整されている。基板4は基板加熱器2により加熱(290℃)されている。基板4上に膜(金属Co薄膜)が形成された。
【0050】
上記のようにして形成された膜は面内均一性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は3at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.4at%以下であった。膜の比抵抗は19μΩcmであった。
【0051】
[実施例2]
〔ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルト〕
反応は不活性ガス雰囲気下で行われた。0.21molのN,N’-ジイソプロピルカルボジイミドが、0.21molのイソプロピルリチウムを含有するペンタン溶液300mlに、ゆっくり、滴下された。この後、室温で4時間の撹拌が行われた。この反応混合液が、0.1molの塩化コバルト(CoCl)が200mlのテトラヒドロフランに懸濁した溶液に、徐々に、滴下された。この後、24時間の撹拌が行われた。溶媒留去後、500mlのノルマルヘキサンが加えられた。不溶物が濾過された。溶媒留去後、減圧(0.1torr)蒸留が行われた。ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトが収率70%で得られた。
【0052】
得られた300gのビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトの減圧蒸留精製が行われた。揮発したビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトは、空冷管を通る間に液化し、受け器に捕集された。この時、空冷管は、特別な冷却も加熱も無く、室温のままで、放冷されていた。95%の回収率であった。
【0053】
前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルト)が、冷却により、結晶化した。結晶化したビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトが徐々に温められた。11℃~12℃で融解した。前記ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトは、液体(25℃で1気圧の条件下)であった。油回転式真空ポンプによる減圧蒸留において、沸点は110℃であった。
【0054】
前記精製品の純度は高かった。金属不純物分析(ICP-MS)による分析値(単位はwt.ppm)は、次の通りであった。Na<0.1,Mg<0.1,Fe=0.4,Zn=0.3,Ti<0.1,Cu=0.1,Cd<0.1,Mn<0.1,Ni=1.1,Pb<0.1
【0055】
図1の成膜装装置が用いられて実施例1と同様に成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルト)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーターにより、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、前記ビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトが、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10が、成膜チャンバー3内に供給された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温されている。ポンプにより、成膜チャンバー3内は真空に排気された。成膜チャンバー3とポンプとの間に設けられた圧力調整弁により、成膜チャンバー3内は所望の圧力(例えば、1kPa)に調整されている。基板4は加熱されている。基板4上に膜(金属Co薄膜)が形成された。
【0056】
上記のようにして形成された膜は面内均一性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は4at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.4at%以下であった。膜の比抵抗は20μΩcmであった。
【0057】
本実施例2のビス(N,N’-ジイソプロピル-2-メチルプロピオンアミジネート)コバルトと、前記実施例1のビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトとを対比すると、次の通りである。前記実施例1の化合物の沸点(102℃/油回転式真空ポンプによる減圧蒸留において)に比べて、本実施例2の化合物の沸点(110℃/油回転式真空ポンプによる減圧蒸留において)は高い。同じ温度の場合、前記実施例1の化合物の蒸気圧に比べて、本実施例2の化合物の蒸気圧は低い。この事は、成膜に際して、前記実施例1の化合物の方が好ましい事を意味する。前記実施例1の化合物の合成に際しての収率(89%)に比べて、本実施例2の化合物の合成に際しての収率(70%)が低い。本実施例2の化合物の合成に用いる試薬「イソプロピルリチウム」は高価である。この事から、前記実施例1の化合物の方が低廉である。前記実施例1の化合物は、コスト面からも、好ましい。
【0058】
[実施例3]
〔ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄〕
反応は不活性ガス雰囲気下で行われた。0.22molのN,N’-ジイソプロピルカルボジイミドが、0.21molのノルマルプロピルリチウムを含有するジエチルエーテル溶液210mlに、ゆっくり、滴下された。この後、室温で4時間の撹拌が行われた。この反応混合液が、0.1molの塩化鉄(FeCl)が80mlのテトラヒドロフランに懸濁した溶液に、徐々に、滴下された。この後、24時間の撹拌が行われた。溶媒留去後、400mlのノルマルヘキサンが加えられた。不溶物が濾過された。溶媒留去後、減圧(0.1torr)蒸留が行われた。ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が収率91%で得られた。
【0059】
得られた300gのビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄の減圧蒸留精製が行われた。気化したビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄(蒸気)は、空冷管を通る間に液化し、受け器に捕集された。この時、空冷管は、特別な冷却も加熱も無く、室温のままで、放冷されていた。97%の回収率であった。
【0060】
前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄)が、冷却により、結晶化した。結晶化したビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が徐々に温められた。12℃で融解した。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄は、液体(25℃で1気圧の条件下)であった。油回転式真空ポンプによる減圧蒸留において、沸点は99℃であった。
【0061】
前記精製品の純度は高かった。金属不純物分析(ICP-MS)による分析値(単位はwt.ppm)は、次の通りであった。Na<0.1,Mg<0.1,Zn=0.3,Ti<0.1,Cu=0.1,Co=0.4,Cd<0.1,Mn<0.1,Ni=1.1,Pb<0.1
【0062】
図1の装置が用いられて成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーターにより、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)が成膜チャンバー3内に供給された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。ポンプにより、成膜チャンバー3内は真空に排気された。圧力調整弁により、成膜チャンバー3内は所望の圧力(例えば、1kPa)に調整されている。基板4は、基板加熱器2により、加熱(280℃)されている。10分後に基板4上に膜(金属Fe薄膜)が形成された。
【0063】
上記のようにして形成された膜は面内均一性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は2at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.4at%以下であった。
【0064】
図1の装置が用いられて成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーターにより、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、5秒間に亘って、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)が、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、供給された。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。再び、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、導かれた。このサイクルが50回繰り返された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。基板加熱器2により、基板4は加熱(150~200℃)されている。基板4上に膜(金属Fe薄膜)が形成された。
【0065】
上記のようにして形成された膜は穴(開口部50nm、深さ1μm)の内壁に均一に施されていた。段差被覆性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は2at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.2at%以下であった。
【0066】
図2の成膜装装置が用いられて成膜作業が行われた。前記精製品(ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄)が原料容器1内に入れられた。原料圧送用ガス9としてNガスが用いられた。圧力制御器11により、0.1MPaに調整された。液体流量制御器12により、前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が圧送(圧送量は0.1mg/minに調整)された。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が気化器8に送り込まれた。前記ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄が通る配管は室温のままである。気化器8に送り込まれたビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)鉄は、50sccmのArガス(キャリアガス)と共に、成膜チャンバー3内に導かれた。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10が、成膜チャンバー3内に供給された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。ポンプにより、成膜チャンバー3内は真空に排気された。圧力調整弁により、所望の圧力(例えば、1kPa)に調整されている。基板4は基板加熱器2により加熱(290℃)されている。基板4上に膜(金属Fe薄膜)が形成された。
【0067】
上記のようにして形成された膜は面内均一性に優れていた。前記膜がXPSで調べられた。膜中のC量は4at%以下であった。膜中のO量は1at%以下であった。膜中のN量は0.3at%以下であった。
【0068】
[参考例1(特表2006-511716(WO2004/046417A1))〕
特表2006-511716は下記式で表される化合物を開示している。
但し、R,R,R,R,R,Rは、水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、トリアルキルシリル基もしくはフルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基である。Mは、Co,Fe,Ni,Mn,Ru,Zn,Ti,V,Cr,Eu,Mg,Caの群より選ばれる金属元素である。
特表2006-511716(WO2004/046417A1)には、具体例として下記の化合物が挙げられている。
コバルトビス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Co(iPr-AMD)]):上記式において、M=Co,R=R=CH,R=R=R=R=i-Pr:固体(融点は72℃)。40℃(50mTorr)で昇華。
コバルトビス(N,N'-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)([Co(iBu-AMD)]):上記式において、M=Co,R=R=CH,R=R=R=R=i-Bu:固体(融点は90℃)。45℃(50mTorr)で昇華。
コバルトビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジネート)([Co(sec-Bu-AMD)]):上記式において、M=Co,R=R=CH,R=R=R=R=sec-Bu:沸点は55℃(60mTorr)。尚、本化合物が液体であるか固体であるかの明記が、特表2006-511716には無い。すなわち、前記特表2006-511716には、記載「反応混合物を一晩攪拌し、次いで揮発物を室温下、真空中で取り除いた。当該固体を乾燥ヘキサンに溶解し、濾過して、真空中、室温下で濾液からヘキサンを除いたところ、粗収率82%のコバルトビス(N,N'-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)を得た。この液体を蒸留(60ミリトール下で55℃)により精製した。」がある。しかし、反応混合物からヘキサン不溶物(ここでは塩化リチウム)を、濾過によって取り除き、その後ヘキサンを濃縮除去した。この物は粗品である。純粋なものではない。目的物が固体であっても、この時点(即ち、不純物状態(混合物の形態))では、液体の表記は十分に有り得る。目的物が液体か固体かは、精製後で無ければ、判らない。同じ温度の場合、本化合物の蒸気圧は、参考例2(特開2011-63848)の化合物(ビス(N-ターシャリブチル-N′-エチル-プロピオンアミジネート)コバルト)より低い。同じ減圧度において、コバルトビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジネート)は、ビス(N-ターシャリブチル-N′-エチル-プロピオンアミジネート)コバルトよりも、沸点が15℃も高い。
コバルトビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジネート)は、現在の技術では、分離が出来ない。単離が出来ていない。セカンダリーブチル基は不斉炭素を有する。S体とR体とが存在する。本化合物は、下記に示される通り、7種の異性体が存在する。7種類もの混合物では結晶化が起き難い。
鉄ビス(N,N'-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)([Fe(tBu-AMD)]):上記式において、M=Fe,R=R=CH,R=R=R=R=i-Bu:固体(融点は107℃)。55℃(60mTorr)で昇華。
鉄ビス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Fe(iPr-AMD)]):固体(融点は110℃)。70℃(50mTorr)で昇華。
銅(N,N’-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Cu(iPr-AMD)]):固体、。70℃(50mTorr)で昇華。
ランタントリス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([La(iPr-AMD)]):固体。80℃(40mTorr)で昇華。
ランタントリス(N,N'-ジイソプロピル-2-t-ブチルアミジネート)([La(iPr-iBuAMD)]:固体(融点は140℃)。120℃(50mTorr)で昇華。
ニッケルビス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Ni(iPr-AMD)]):固体(融点は55℃)。35℃(70mTorr)で昇華。
マンガンビス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Mn(iPr-AMD)]):固体。65℃(50mTorr)で昇華。
マンガンビス(N,N'-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)([Mn(iBu-AMD)]):固体(融点は100℃)。55℃(60mTorr)で昇華。
チタントリス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Ti(iPr-AMD)3]):固体。70℃(50mTorr)で昇華。
バナジウムトリス(N,N'-ジイソプロピルアセトアミジネート)([V(iPr-AMD)]):固体。70℃(45mTorr)で昇華。
銀(N,N'-ジ-イソプロピルアセトアミジネート)([Ag(iPr-AMD)]x(x=2とx=3との1:1の混合物):固体(融点は95℃)。80℃(40mTorr)で昇華。
マグネシウムビス(N,N’-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)([Mg(iBu-AMD)]):
リチウムN,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジネート:
銅(I)N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジネート二量体([Cu(sec-Bu-AMD)]):固体(融点は77℃)。55℃(50mTorr)で昇華。
ビスマストリス(N,N’-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)二量体([Bi(iBu-AMD)]):固体(融点は95℃)。70℃(80mTorr)で昇華。
ストロンチウムビス(N,N’-ジ-t-ブチルアセトアミジネート)([St(iBu-AMD)]):固体。130℃(90mTorr)で昇華。
ルテニウムトリス(N,N’-ジイソプロピルアセトアミジネート)([Ru(iPr-AMD)]):
【0069】
[参考例2(特開2011-63848)〕
特開2011-63848号公報は下記化合物を開示している。
ビス(N-ターシャリブチル-N’-エチル-プロピオンアミジネート)コバルト(II)(Co(tBu-Et-Et-AMD)):
本化合物は液体(25℃(1気圧)下)である。
しかし、上記式で表される化合物は異性体の混合物(下記参照)である。現在では分離(単離)・精製できていない。仮に、一方の異性体のみが取り出されたとしても、コバルトのアミジネート錯体は配位子を交換する。この為、元の混合物に戻ってしまう。混合物であることから、モル融点降下によって、見掛上、液体になっているようである。
本化合物は、液体であるものの、高粘度であった。この為、上記実施例の如きの方法では、成膜作業が困難であった。
参考例1(特表2006-511716)には次の記載が有る。
「比較例2. 実施例18(この例での化合物はコバルトビス(N,N’-ジイソプロピルアセト)アミジネート)を、コバルト先駆物質のみを用い、かつ水素を用いないで繰り返した。基板表面に析出された薄膜は全く観察されなかった。」
ビス(N-ターシャリブチル-N′-エチル-プロピオンアミジネート)コバルトが用いられた場合であって、特表2006-511716の比較例2の場合と同様に、水素のみが用いられた場合には、金属コバルトが殆ど堆積しなかった。但し、水素とアンモニアとが併用された場合には、金属コバルトが堆積した。アンモニアだけの場合は、窒化コバルトが混入した。ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが用いられた場合は、水素とアンモニアとの併用によって、純度が高い金属コバルトが堆積した。アンモニアのみが用いられた場合でも、純度が高い金属コバルトが堆積した。この事は、ビス(N-ターシャリブチル-N′-エチル-プロピオンアミジネート)コバルトが用いられた場合、成膜作業の自由度が小さい事を意味する。すなわち、ビス(N,N’-ジイソプロピルブタンアミジネート)コバルトが用いられる方が好ましい。
ビス(N,N′-ジターシャリブチル-アセトアミジネート)ニッケル(II)(Ni(tBu-AMD)2):固体(融点は87℃)。
【0070】
[参考例3(WO2013/051670A1)〕
WO2013/051670A1は下記式で表される化合物を開示している。
コバルトビス(N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)(Co[i-CNC(C)N-i-C):上記式において、M=Co,R=R=C,R=R=R=R=i-Pr:固体(融点は38℃)。
【0071】
[参考例4(特開2016-172894)〕
特開2016-172894は下記式で表される化合物を開示している。
[R-N-C(R)=N-RFe
[[R-N-C(R)=N-RFe]
(Rは炭素数が2~6のアルキル基、R,Rは炭素数が3~6のアルキル基である。RとRとは全てが同じでも異なっていても良い。)
N,N’-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)鉄(Fe[iso-CNC(C)N-iso-C):固体(融点は約33℃)
【0072】
〔比較例1〕
図1の装置が用いられて成膜作業が行われた。前記参考例2の化合物(Co(tBu-Et-Et-AMD)が原料容器1内に入れられた。原料容器1に取り付けられたヒーターにより、原料容器1が90℃に加熱された。窒素ガス(キャリアガス)が20ml/分の割合で供給され、バブリングが行われた。これにより、5秒間に亘って、前記Co(tBu-Et-Et-AMD)が、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に導かれた。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。所定量の添加ガス(Arガス40sccm、NHガス20sccm、Hガス80sccm)10が、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、供給された。ポンプにより、12秒間に亘って、成膜チャンバー3内が排気された。再び、前記Co(tBu-Et-Et-AMD)が、窒素ガスと共に、成膜チャンバー3内に、5秒間に亘って、導かれた。このサイクルが100回繰り返された。成膜チャンバー3の壁、シャワーヘッド6、及び原料容器1からシャワーヘッド6までの配管は、加温(100℃)されている。基板加熱器2により、基板4は加熱(150~200℃)されている。基板4上に膜(金属Co薄膜)が形成された。
上記のようにして形成された平坦部における膜の比抵抗は60μΩcmであった。
【0073】
〔比較例2〕
前記参考例1の化合物([Co(sec-Bu-AMD)])が用いられ、前記比較例1に準じて行われた。
このようにして形成された平坦部における膜の比抵抗は75μΩcmであった。
【符号の説明】
【0074】
1 原料容器
2 基板加熱器
3 成膜チャンバー
4 基板
5 流量制御器
6 シャワーヘッド
7 キャリアガス
8 気化器
9 原料圧送用ガス
10 成膜時添加ガス
11 原料圧送用ガス圧力制御器
12 液体流量制御器

図1
図2
図3