(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171776
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】がんの相乗的治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/112 20060101AFI20221104BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221104BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221104BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20221104BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20221104BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20221104BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20221104BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61K39/112
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/706
A61K31/282
A61K33/24
A61K31/675
A61K31/704
A61K31/513
A61K31/7068
A61K38/20
A61K48/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022143644
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2019531255の分割
【原出願日】2017-12-06
(31)【優先権主張番号】62/430,962
(32)【優先日】2016-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521056375
【氏名又は名称】サルスペラ,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エー.ソルツマン
(57)【要約】
【課題】弱毒化ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)を用いるがんの治療方法を提供する。
【解決手段】一用量の化学療法薬を一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる組成物と併用投与することを含むがんの治療方法。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。この組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物なしで投与した場合に比べて腫瘍量を相乗的に減少させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療方法であって、
一用量の化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる組成物の組み合わせを投与することを含み、
前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少なく、
前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させ、
前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い、
方法。
【請求項2】
前記化学療法薬の用量は約1.25mg/kg以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学療法薬の用量は前記化学療法薬および前記組み合わせの最大有効量の25%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
弱毒化ネズミチフス菌の前記用量は約2×106コロニー形成単位である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記弱毒化ネズミチフス菌は静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1の用量の前記化学療法薬と前記用量の弱毒化ネズミチフス菌が第1の日に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第2の用量の前記化学療法薬が前記第1の日の1週間後の第2の日に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第3の用量の前記化学療法薬が前記第2の日の1週間後の第3の日に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
複数の用量の前記化学療法薬と複数の用量の前記弱毒化ネズミチフス菌が前記第1の日の後の複数の日に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記化学療法薬は、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
がんの治療方法であって、
一用量の化学療法薬と一用量の切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有するプラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の組み合わせを投与することを含み、前記切断型ヒトインターロイキン2は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、
前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少なく、
前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させ、かつ
前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い、
方法。
【請求項12】
前記化学療法薬の用量は1.25mg/kg以下である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学療法薬の用量は前記化学療法薬の最大有効量の25%である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の前記用量は約1×109コロニー形成単位である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌は経口投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
第1の用量の前記化学療法薬と前記用量の切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌が第1の日に投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
第2の用量の前記化学療法薬が前記第1の日の1週間後の第2の日に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第3の用量の前記化学療法薬が前記第2の日の1週間後の第3の日に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
複数の用量の前記化学療法薬と複数の用量の前記弱毒化ネズミチフス菌が前記第1の日の後の複数の日に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記化学療法薬は、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビンからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
がんの治療方法で使用するための、一用量の化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる組成物の組み合わせを含む、がんの治療方法で使用するための抗腫瘍薬であって、前記方法は、
一用量の前記化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物の前記組み合わせを投与することを含み、
前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少なく、
前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させ、かつ
前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い、
抗腫瘍薬。
【請求項22】
前記化学療法薬の用量は約1.25mg/kg以下である、請求項21に記載の抗腫瘍薬。
【請求項23】
前記化学療法薬の用量は前記化学療法薬の最大有効量の25%である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記弱毒化ネズミチフス菌の前記用量は約2×106コロニー形成単位である、請求項21に記載の抗腫瘍薬。
【請求項25】
前記弱毒化ネズミチフス菌は静脈内投与される、請求項21に記載の抗腫瘍薬。
【請求項26】
第1の用量の前記化学療法薬と前記用量の前記弱毒化ネズミチフス菌が第1の日に投与される、請求項21に記載の抗腫瘍薬。
【請求項27】
第2の用量の前記化学療法薬が前記第1の日の1週間後の第2の日に投与される、請求項26に記載の抗腫瘍薬。
【請求項28】
第3の用量の前記化学療法薬が前記第2の日の1週間後の第3の日に投与される、請求項27に記載の抗腫瘍薬。
【請求項29】
複数の用量の前記化学療法薬と複数の用量の前記弱毒化ネズミチフス菌が前記第1の日の後の複数の日に投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記化学療法薬は、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビンからなる群から選択される、請求項21に記載の抗腫瘍薬。
【請求項31】
がんの治療方法で使用するための抗腫瘍薬であって、一用量の化学療法薬と一用量の切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有するプラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の組み合わせを含み、前記切断型ヒトインターロイキン2は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、前記方法は、
一用量の前記化学療法薬と一用量の前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌の前記組み合わせを投与することを含み、
前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少なく、
前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有するプラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させ、かつ
前記組み合わせの毒性は最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い、
抗腫瘍薬。
【請求項32】
前記化学療法薬の用量は約1.25mg/kg以下である、請求項31に記載の抗腫瘍薬。
【請求項33】
前記化学療法薬の用量は前記化学療法薬の最大有効量の25%である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の前記用量は約1×109コロニー形成単位である、請求項31に記載の抗腫瘍薬。
【請求項35】
前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌は経口投与される、請求項31に記載の抗腫瘍薬。
【請求項36】
第1の用量の前記化学療法薬と前記用量の前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌が第1の日に投与される、請求項31に記載の抗腫瘍薬。
【請求項37】
第2の用量の前記化学療法薬が前記第1の日の1週間後の第2の日に投与される、請求項36に記載の抗腫瘍薬。
【請求項38】
第3の用量の前記化学療法薬が前記第2の日の1週間後の第3の日に投与される、請求項37に記載の抗腫瘍薬。
【請求項39】
複数の用量の前記化学療法薬と複数の用量の前記弱毒化ネズミチフス菌が前記第1の日の後の複数の日に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記化学療法薬は、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビンからなる群から選択される、請求項31に記載の抗腫瘍薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年12月7日出願の米国特許出願第62/430,962号に対する優先権を主張する。同出願の全内容は本明細書中に援用される。
【0002】
本開示は、がんの治療方法に関し、より詳細には、弱毒化ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)を用いるがんの治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
がんを撃退する努力が続けられているにもかかわらず、米国では未だに約60万件のがん関連死が毎年起きており、世界では800万件を超えるがん関連死が起きている。このように、世界保健機関によれば、がんは引き続き世界の病的状態および死亡の主要因である。また、年間のがんの症例は2012年の1400万件から20年以内には2200万件に増加すると予想されている。がん治療の要は化学療法であり、この疾患を治癒または管理するために最大耐量(MTD)(副作用が許容範囲である最大の用量)の薬物を用いる。副作用を減らすために採られる方針としては、たとえば、抗腫瘍薬の組み合わせを変えること、メトロノーム型投与、化学療法薬を罹患臓器に直接送達することなどが挙げられる。この数年で、がん治療のための免疫療法は進歩し、多くの免疫薬が当分野で有望性を示している。しかし、有意な毒性と腫瘍抵抗性によってこの治療方針は制限されている。
【発明の概要】
【0004】
一般に、本開示はネズミチフス菌によるがんの治療方法に関する。一用量の化学療法薬を一用量の弱毒化ネズミチフス菌と併用投与する。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。弱毒化ネズミチフス菌は、切断型インターロイキン2遺伝子を含んでいてもよい。この併用は相乗効果をもたらし、同用量の前記化学療法薬を単独投与するよりも腫瘍量の減少に優れている。その結果、より低用量かつより毒性の低い用量の化学療法薬を使用できるため、化学療法薬の毒性によって引き起こされる副作用を最小にしつつ有効な治療が得られる。
【0005】
一態様では、がんの治療方法は、一用量の化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる組成物の組み合わせを投与することを含む。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させる。前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い。
【0006】
別の態様では、がんの治療方法は、一用量の化学療法薬と一用量の切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有するプラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の組み合わせを投与することを含む。前記切断型ヒトインターロイキン2は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させる。前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い。
【0007】
別の態様では、がんの治療方法で使用するための抗腫瘍薬は、一用量の化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる組成物の組み合わせを含む。前記方法は、一用量の前記化学療法薬と一用量の弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物の前記組み合わせを投与することを含む。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を弱毒化ネズミチフス菌から本質的になる前記組成物なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させる。前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い。
【0008】
別の態様では、がんの治療方法で使用するための抗腫瘍薬は、一用量の化学療法薬と一用量の切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有するプラスミドを含む弱毒化ネズミチフス菌の組み合わせを含む。前記切断型ヒトインターロイキン2は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる。前記方法は、一用量の前記化学療法薬を一用量の前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌と併用投与することを含む。前記化学療法薬の用量は、前記化学療法薬の最大有効量よりも少ない。前記組み合わせは、同用量の前記化学療法薬を前記切断型ヒトインターロイキン2をコードするコード配列を有する前記プラスミドを含む前記弱毒化ネズミチフス菌なしで投与した場合の腫瘍量の減少に比べて腫瘍量を相乗的に減少させる。前記組み合わせの毒性は、最大有効量の前記化学療法薬の毒性よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、ヒトインターロイキン2タンパク質をコードするコード配列を含むpILプラスミド(IL-2遺伝子をもつ弱毒化ネズミチフス菌SalpIL2の構築に使用)を示す。
【0010】
【
図1B】
図1Bは、ヒトインターロイキン2タンパク質をコードするコード配列を含まないpNG.1プラスミド(IL-2遺伝子をもたない弱毒化ネズミチフス菌SalpNG.1の構築に使用)を示す。
【0011】
【
図2】
図2は、様々な態様による弱毒化ネズミチフス菌と化学療法薬の組み合わせを用いたがんの治療方法の流れ図である。
【0012】
【
図3】
図3は、弱毒化ネズミチフス菌とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。
【0013】
【
図4】
図4は、SalpIL2とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。
【0014】
【
図5】
図5は、SalpNG.1とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。
【0015】
【
図6】
図6は、弱毒化ネズミチフス菌とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する体重変化率(パーセント)を対照群と比較した折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の発明を実施するための形態は例示的であり、いかなる形でも本開示の範囲、利用可能性、または構成を限定することを意図するものではない。別段に定義のない限り、本明細書で用いられるすべての専門用語および科学用語は本発明の属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味をもつ。本発明または試験には本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を用いてもよいが、好適な方法および材料を本明細書に記載する。それらの材料、方法、および実施例は例示的なものに過ぎず、限定を意図するものではない。当業者であれば認識するように、記載された実施例の多くには様々な好適な代替案がある。本明細書に記載の分析化学、合成有機化学、医薬品化学に関連して用いられる用語や実験法および技術は、当技術分野で周知であり一般に用いられるものである。化学合成、化学分析、医薬品の製剤、処方および送達、ならびに患者の治療には標準的な技術を用いてもよい。
【0017】
本明細書の記載および後述の特許請求の範囲全体で用いられる場合、「a」、「an」、「the」の意味は、他の意味であると文脈が明確に定めない限り、複数形での言及を含む。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「弱毒化」は、疾患を引き起こす能力を大きく低減するよう選択または改変されながらも腸管関連リンパ組織にコロニー形成する能力を保持できる細菌を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「コード配列」および「コード領域」は互換的に用いられ、タンパク質をコードし、適切な制御配列の制御下に置かれるとそのコードされたタンパク質を発現するポリヌクレオチドを指す。コード領域の境界は一般に、その5’末端にある翻訳開始コドンと3’末端にある翻訳終止コドンによって決定される。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「IL-2」はタンパク質ヒトインターロイキン2を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「NK」または「NK細胞」は、ナチュラルキラー細胞を意味する。
【0022】
本明細書で用いられる場合、「作動可能に連結された」は、そのように記載された成分が意図された形で機能できる関係で並列されていることを指す。制御配列をコード領域の発現が制御配列に適合する条件のもとで行われるように結合した場合、制御配列はコード領域と作動可能に連結されている。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「制御配列」は、作動可能に連結されたコード領域の発現を制御するヌクレオチド配列を指す。制御配列の非限定的な例としては、転写開始配列、転写開始点、翻訳開始点、翻訳終止点および転写終結配列が挙げられる。
【0024】
弱毒化ネズミチフス菌は、治療薬を腫瘍へ送達するためのベクターとして開発されてきた。ネズミチフス菌の可能性は、報告されている、健常組織の場合の1000倍を超える濃度で腫瘍に蓄積する傾向によるところが大きい。また、ネズミチフス菌の遺伝子操作性によって外来性の組み換え型タンパク質を発現させることができるため、これらの細菌は全身投与した場合に有毒であるかもしれないタンパク質のための有効な送達系となる。
【0025】
インターロイキン2(IL-2)は人体によって天然に産生されるタンパク質であり、リンパ球増殖を促進し、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の細胞溶解機能を増強する。すなわち、インターロイキン2は免疫系を刺激し、がんを破壊する白血球細胞を産生することができる。特定の種類のがんでIL-2に基づく免疫療法が何年も研究されてきたが、成功例は限られている。配列番号4(通常のヒトIL-2をコードするDNA配列)によってコードされる通常のヒトIL-2タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)は、米国特許出願第13/524,503号(現在は米国特許第8,647,618号)の
図3に示されている。同出願は、米国特許出願第12/425,927号(2009年4月17日出願、現在は米国特許第8,221,739号)の継続出願であり、その出願は米国特許出願第第10/834,587号(2004年4月29日出願、現在は放棄されている)の一部継続出願であり、その優先権を主張している。これらの出願の全内容は本明細書に援用される。
【0026】
IL-2は人体によって天然に産生されるが、その最大の有効性を得るには、より高い濃度と、疾患部位へのより特異的な送達ベクターが必要である。しかし、高用量のIL-2は多くの患者に深刻な毒性をもたらすことがわかっている。この問題に対する解決策は、疾患を引き起こす能力を大きく低減するよう弱毒化されたネズミチフス菌の生きた菌株を用いることである。ネズミチフス菌は腸管関連リンパ組織(GALT)、肝臓、脾臓にコロニー形成する生来の能力をもっていることから用いられる。弱毒化ネズミチフス菌による肝臓でのコロニー形成は、この細菌に対する全身性細胞応答をさらに開始させ、すなわち保菌状態として持続することができる。本開示で用いるネズミチフス菌のχ4550株は、Tn10のトランスポゾン変異の後にフサル酸耐性について選抜することによって構築された遺伝子欠失を有する。この遺伝子改変方法によってTn10および近接するDNA配列の欠失が起こり、それによってアスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素(asd)の欠失が生じる。この変異により、ジアミノピメリン酸の必要性が強いられる。これらの細菌のasd酵素の欠失によって安定な細胞壁を構成できなくなるため、ネズミチフス菌の致死的溶解が起きる。したがって、所望のタンパク質の安定な発現を保証するため、asd遺伝子を有するプラスミド(pYA292)を構築した。
【0027】
図1Aは、ヒトインターロイキン2タンパク質をコードするコード配列を含むpILプラスミド(IL-2遺伝子をもつ弱毒化ネズミチフス菌SalpIL2の構築に使用)を示す。ネズミチフス菌株の弱毒性を保証するため、マウスに病原性をもつネズミチフス菌SR-11株χ3306の標準的なP22ファージ形質導入を採用し、アデニル酸シクラーゼおよびcAMP受容体タンパク質(CRP)の合成能を欠失したχ4550株を構築した。環状AMPおよびcAMP受容体タンパク質は、異化産物の輸送・分解に関する多くの遺伝子やオペロンの転写に必要である。cAMPは哺乳類の組織に見られ、理論上は上記細菌によって使用され病原性に関する能力を高める可能性があるが、cAMP受容体タンパク質の欠失は、これらの変異型細菌がcAMPを取り込むことによって起こり得るいかなる利益をも無効にするはずである。
【0028】
切断型ヒトIL-2タンパク質をコードする合成cDNA(配列番号5)を大腸菌(Escherichia Coli)での発現に最適化し、周知の方法でプラスミドpYA292に挿入した。切断型cDNA(配列番号1)はこの合成IL-2ヌクレオチド配列(配列番号5)の一部である。この配列は、全長の成熟型ヒトIL-2タンパク質をコードすることを意図された配列よりも1ヌクレオチド分短い。本明細書で用いる場合、「成熟型」は最初の(N末端の)20アミノ酸のシグナル配列(分子がヒトの細胞から分泌されるときに切断される)を欠失したタンパク質を意味する。起こった変異は、272位の「a」と273位の「g」の間の「t」ヌクレオチドの欠失である。これによりインフレームのtaa終止コドンが274に生じ、結果として得られるIL-2タンパク質を切断した。得られたDNAヌクレオチド配列は配列番号1であり、発現したタンパク質は配列番号2である。
【0029】
アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素(asd+)ベクターと合成切断型ヒトIL-2cDNAをいずれも制限酵素EcoRI(Promega(ウィスコンシン州マディソン))およびHindIII(New England Biolabs(マサチューセッツ州ビバリー))で完全に消化した。pYA292の直線化されたベクター断片(約3.4kb)とIL-2遺伝子のEcoRI-HindIII断片を、PrepaGene Kit(BioRad(カリフォルニア州ハーキュリーズ))を用いてアガロースゲル電気泳動によって単離した。このIL-2遺伝子断片を、T4 DNA ligase(Promega(ウィスコンシン州マディソン))を用いてpYA292ベクターに、挿入物を3:1のモル過剰量とし16℃で4時間インキュベートして、結紮した。この結紮混合物を次いで弱毒化ネズミチフス菌のχ4550株に電気穿孔した。ネズミチフス菌(cya-1、crp-1、asdA1を欠失しているχ4550株)を、50mg/mlのジアミノピメリン酸(DAP)を含むルリア培地(Sigma(ミズーリ州セントルイス))で培養した。
【0030】
培養物をOD600の吸光度が0.200(培地1mlあたり約108コロニー形成単位(cfu))になるまで培養し、細胞を電気穿孔用に調製した。プラスミドベクターpYA292および結紮混合物を、電気穿孔装置(BioRad)と0.2cmの使い捨てキュベットを用いてχ4550に電気穿孔した。パルスコントローラを200オームに設定し、2.5kV、25μFで細胞にパルス印加した。次いでこの細胞をDAPを含まないルリア寒天に播種し、Magic Mini-Prep DNA Purification System (Promega)、EcoRIおよびHindIIIを用いた制限酵素消化、ならびに1.2アガロースを用いたゲル電気泳動を利用し、組み換えクローンを同定した。制限酵素マッピングにより、pYA292のうちIL-2断片の挿入物について予想されるものに対応するプラスミドが明らかになり、このプラスミドをpIL2と新たに命名した。この新しい形質転換体をχ4550(pIL2)と新たに命名した(本明細書では「SalpIL2」ともいう)。
【0031】
このプラスミド(pIL2)でasd欠失株を形質転換することにより、IL-2を安定に発現できる。上述のとおり、このベクターの安定性は維持される。というのも、ここで用いる特定のネズミチフス菌株(χ4550)はアスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素(asd)を欠失しているが、反対にIL-2遺伝子を含むプラスミド(pIL2)はこれを含んでいるからである。asdを欠失している細菌は、細菌細胞壁の必須成分であるジアミノピメリン酸(DAP)を作ることができないため、長く生存しないと考えられる。したがって、仮に弱毒化ネズミチフス菌が野生型株に戻ろうとしてプラスミドを失った場合、「DAPがないことによる」死で死ぬことになる。IL-2を含むプラスミドを失うことはプラスミドがコードしたasdも失うことになるため、IL-2遺伝子の安定発現が達成される。
【0032】
図1Bは、ヒトインターロイキン2タンパク質をコードするコード配列を含まないpNG.1プラスミド(IL-2遺伝子をもたない弱毒化ネズミチフス菌SalpNG.1の構築に使用)を示す。χ4550をpNG.1で形質転換することにより、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードするcDNAを含むプラスミドSalpNG.1を構築し、χ4550のジアミノピメリン酸の必要性を補った。プラスミドpNG.1を構築するため、プラスミドpYA292をEcoRIおよびHindIIIで切断し、末端を平滑化し(fill in)、プラスミドを再環状化することによってLacZ(α)コード配列を除去した。SalpNG.1の培養液を溶原性培地(LB)で一晩培養し、15%グリセリンを含むLB中、液体窒素で急速冷凍し、-80℃で保存した。治療前に細菌を37℃で解凍し、通常のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で適切に希釈した。SalpNG.1とSalpIL2との違いは、切断型ヒトIL-2遺伝子の存在である。
【0033】
図2は方法200の流れ図である。方法200は、様々な態様による弱毒化ネズミチフス菌と化学療法薬の組み合わせを用いたがんの治療方法である。方法200は、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第1の用量の化学療法薬を投与すること(201)と、第2の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること(202)と、第2の用量の化学療法薬を投与すること(203)と、第3の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること(204)と、第3の用量の化学療法薬を投与すること(205)を含む。方法200は
図2に示されている工程をすべて含む必要はない。たとえば、態様によっては、方法120は第2の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与する工程(202)と第3の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与する工程(204)を除外してもよい。さらに、方法200は、第4の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること、および/または第4の用量の化学療法薬を投与することなどの追加の工程を含むことができる。方法200の弱毒化ネズミチフス菌および化学療法薬の用量の数は、治療を受ける生物やがんの種類に応じて変更可能である。
【0034】
一態様では、方法200は、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第1の用量の化学療法薬を第1の日に投与すること(201)と、第2の用量の化学療法薬を第1の日の1週間後の第2の日に投与すること(203)と、第3の用量の化学療法薬を第2の日の1週間後の第3の日に投与すること(205)を含む。この態様では、治療期間全体で単一の用量の弱毒化ネズミチフス菌が投与される。別の態様では、方法200は、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第1の用量の化学療法薬を第1の日に投与すること(201)と、第2の用量の弱毒化ネズミチフス菌を第1の日の1週間後の第2の日に投与すること(202)と、第2の用量の化学療法薬を第1の日の1週間後の第2の日に投与すること(203)と、第3の用量の化学療法薬を第2の日の1週間後の第3の日に投与すること(205)を含む。この態様では、治療期間全体で2つの用量の弱毒化ネズミチフス菌が投与される。
【0035】
別の態様では、方法200は第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第1の用量の化学療法薬を第1の日に投与すること(201)と、第2の用量の弱毒化ネズミチフス菌を第1の日の3週間後の第2の日に投与すること(202)と、第2の用量の化学療法薬を第1の日の3週間後の第2の日に投与すること(203)と、第3の用量の弱毒化ネズミチフス菌を第2の日の3週間後の第3の日に投与すること(204)と、第3の用量の化学療法薬を第2の日の3週間後の第3の日に投与すること(205)を含む。この態様は、第4の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第4の用量の化学療法薬を第3の日の3週間後の第4の日に投与することと、第5の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第5の用量の化学療法薬を第4の日の3週間後の第5の日に投与することと、第6の用量の弱毒化ネズミチフス菌と第6の用量の化学療法薬を第5の日の3週間後の第6の日に投与することをさらに含む。この態様では、治療期間全体で6つの用量の弱毒化ネズミチフス菌が投与される。
【0036】
態様によっては、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること(201)は、弱毒化ネズミチフス菌を経口投与または静脈内投与することを含む。一態様では、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること(201)は、SalpIL2の経口用量を投与することを含む。態様によっては、前記用量は約1×109cfuである。別の態様では、第1の用量の弱毒化ネズミチフス菌を投与すること(201)は、SalpNG.1の静脈内(IV)用量を投与することを含む。態様によっては、前記用量は約2×106cfuである。
【0037】
態様によっては、第1の用量の化学療法薬を投与すること(201)は、IV用量のドキソルビシンを投与することを含む。一態様では、ドキソルビシンの前記用量は1.25mg/kgである。別の態様では、ドキソルビシンの前記用量は2.5mg/kgである。他の態様では、前記化学療法薬は、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、または他の任意の適切な化学療法薬であってもよい。
【0038】
方法200は有益である。というのもこの併用は相乗効果をもたらし、化学療法薬を単独投与するよりも腫瘍量の減少に優れているからである。その結果、より低用量かつより毒性の低い用量の化学療法薬を使用できるため、化学療法薬の毒性によって引き起こされる副作用を最小にしつつ有効な治療が得られる。
【実施例0039】
(BALB-neuT腫瘍治療モデル)
BALB-neuTモデルは遺伝子改変マウスモデルで、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2の恒常活性化したラット相同体を発現させることによって乳房腫瘍を発症させられている。このモデルでは自発性腫瘍が数か月の間に発症し、約16週齢の雌のマウスの乳房組織で触知できる。この腫瘍は、ヒト患者に見られるHer2により発生した悪性度の高いがんによく似ている。
【0040】
BALB-neuTマウスを特定病原体を除去した条件に維持し、標準的なマウス固形飼料(Harlan)を与えた。動物の世話はUniversity of MinnesotaのResearch Animal Resourcesが行い、動物の使用はすべて同大学のInstitutional Animal Care and Use Facilityによって承認された。neu導入遺伝子の遺伝子型決定はTransnetyxによって雌雄の仔マウスに対して行われた。繁殖ペアはヘテロ接合の雄とホモ接合の陰性の雌で構成された。neu導入遺伝子について陽性だった雌のマウスを腫瘍発生について監視した。
(方法)
【0041】
雌のBALB-neu-Tマウスは16週齢頃に触知できる乳房脂肪体腫瘍(約50~60mm3)を自然に発症した。この時点(0日目)で、典型的には、マウスは触知できる腫瘍を1~3個有していた。各実験のため、個々の腫瘍をノギスで測定し、その体積を計算した。個々の腫瘍体積を球状体として計算し(L×W2×0.52)、組み合わせて各マウスの総腫瘍量測定値とした。腫瘍量データを0~35日目まで毎週集めた。また、各マウスの体重変化率(パーセント)データを0~35日目まで毎週集めた。体重変化率(パーセント)は各マウスの基準時体重に基づき計算された。
【0042】
図2に関して先に述べた方法200の様々な態様を用い、弱毒化ネズミチフス菌と化学療法薬ドキソルビシンの組み合わせを用いてBALB-neuTモデルの腫瘍を治療した。1cfu当たりの規定量の適切なネズミチフス菌株(SalpIL2またはSalpNG.1)を100μLのPBSに入れ、静脈内注射または強制経口投与により投与した。ドキソルビシンを尾静脈から静脈内投与した。さらに、同じ投与方法を使用して、複数の対照群にPBS単独、ドキソルビシン単独、SalpIL2単独、またはSalpNG.1単独を投与した。
【0043】
1つの対照群(301)にPBSを単独投与した。この対照群ではマウスの腫瘍は経時的に拡大し、新しい腫瘍が残りの脂肪体に現れ、たいていの場合は各乳房組織が腫瘍を発症した。治療せずに置いた場合、マウス1匹あたりの平均総腫瘍量は35日目までに5.66cm3に達した。その時点でマウスは瀕死状態から安楽死させた。
【0044】
3つの対照群にドキソルビシンを単独投与した。第1の対照群(302)には、静脈内(IV)投与の最大耐量(MTD)5mg/kgのドキソルビシンを0日目、7日目、14日目に投与した。第2の対照群(303)には、2.5mg/kg(MTDより50%減)のドキソルビシンを0日目、7日目、14日目にIV投与した。第3の対照群(304)は、1.25mg/kg(MTDより75%減)のドキソルビシンを0日目、7日目、14日目にIV投与した。
【0045】
マウスの1つの対照群(305)にはSalpIL2を単独投与した。この対照群には、1×109cfuのSalpIL2を0日目に経口投与し、追加のSalpIL2またはドキソルビシン治療を行わなかった。別の対照群(306)にはSalpNG.1を単独投与した。この対照群には、2×106cfuのSalpNG.1を0日目にIV投与し、追加のSalpNG.1またはドキソルビシン治療を行わなかった。
【0046】
SalpIL2による併用療法処置については、1つのマウス群(307)には、0日目に1×109cfuのSalpIL2を経口投与し、1.25mg/kgのドキソルビシンをIV投与した。IV用量1.25mg/kgのドキソルビシンを2回、7日目と14日目に追加投与した。SalpNG.1による併用療法処置については、第1のマウス群(308)には0日目に2×106cfuのSalpNG.1をIV投与し、1.25mg/kgのドキソルビシンをIV投与した。IV用量1.25mg/kgのドキソルビシンを2回、7日目と14日目に追加投与した。第2のマウス群(309)には0日目に2×106cfuのSalpNG.1をIV投与し、2.5mg/kgのドキソルビシンをIV投与した。IV用量2.5mg/kgのドキソルビシンを2回、7日目と14日目に追加投与した。
(結果)
【0047】
図3~6は、弱毒化ネズミチフス菌と化学療法薬ドキソルビシンの組み合わせを用いたBALB-neuTモデルの腫瘍治療の結果を、PBS単独、ドキソルビシン単独、SalpIL2単独、またはSalpNG.1単独を投与した複数の対照群と比較して示す。示されたデータは、第1の治療を行った0日目、第2の治療を行った14日目、および第3の治療を行った21日目を含む。治療後の28日目および35日目にその後のデータ点を取った。
【0048】
図3は、弱毒化ネズミチフス菌とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。PBS対照群(301)では、マウスは30日目または35日目までに死亡したか、瀕死の状態から安楽死させた。MTD(5mg/kg)のドキソルビシンを投与した群(302)では腫瘍量は最も低く、35日目には約100mm
3残っていた。MTDの25%(すなわち1.25mg/kg)のドキソルビシンを投与した群(304)では、21日目までには腫瘍量はMTDのドキソルビシンを投与した群(302)の約2倍、35日目までには約5倍にまでなった。SalpIL2を単回経口投与した群(305)とSalpNG.1を単回IV投与した群(306)は、1.25mg/kgのドキソルビシンを投与した群(304)と同様の傾向を示した。
【0049】
SalpIL2(経口)と1.25mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを投与した群(307)とSalpNG.1(IV)と1.25mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを投与した群(308)は、意外にも腫瘍治療に相乗効果を示した。統計的に有意な腫瘍量減少が示されている。21日目までに腫瘍量はMTDのドキソルビシンを投与した群(302)の2倍未満、35日目までには2倍をわずかに超えているにすぎない。予想外にも、SalpIL2(経口)との併用治療とSalpNG.1(IV)との併用治療の間には差はなかった。したがって、1.25mg/kgのドキソルビシンとSalpIL2またはSalpNG.1の併用治療はMTDのドキソルビシン単独による治療と概ね同程度に有効であり、1.25mg/kgのドキソルビシン単独による治療よりも有意に有効である。この併用治療におけるドキソルビシンの用量はMTDのわずか25%であり、ドキソルビシンの有毒な作用を有意に低減する(後に
図6に関連してより詳細に説明する)。
【0050】
図4は、SalpIL2とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。
図3に関して先に説明したように、PBS対照群(301)ではマウスは30日目または35日目までに死亡したか、瀕死の状態から安楽死させた。SalpIL2の単回経口投与と1.25mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを与えた群(307)では、SalpIL2の単回経口投与のみを与えた群に比べて統計的に有意な腫瘍量減少が示されている。35日目までに、SalpIL2を単回経口投与した対照群(305)の腫瘍量はSalpIL2と1.25mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを与えた群(307)の2倍であった。このことはさらに、SalpIL2(経口)と1.25mg/kgのドキソルビシンの併用治療の相乗効果を示している。
【0051】
図5は、SalpNG.1とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する単一腫瘍量を対照群と比較した折れ線グラフである。
図3に関して先に説明したように、PBS対照群(301)ではマウスは30日目または35日目までに死亡したか、瀕死の状態から安楽死させた。MTD(5mg/kg)のドキソルビシンを投与した対照群(302)では腫瘍量は最も低く、35日目には約100mm
3残っていた。MTDの25%(すなわち1.25mg/kg)のドキソルビシンを投与した対照群(304)では、21日目までには腫瘍量はMTDのドキソルビシンを投与した群(302)の約2倍、35日目までには約5倍にまでなった。MTDの50%(すなわち2.5mg/kg)のドキソルビシンを投与した対照群(303)では、予想どおり、腫瘍量はMTDのドキソルビシンを投与した対照群(302)と1.25mg/kgのドキソルビシンを投与した群(304)の中間であった。
【0052】
SalpNG.1(IV)と1.25mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを投与した群(308)は腫瘍治療に相乗効果を示した。統計的に有意な腫瘍量減少が示されている。21日目までに腫瘍量はMTDのドキソルビシンを投与した群(302)の2倍未満、35日目までには2倍をわずかに超えているにすぎない。SalpNG.1(IV)と2.5mg/kgのドキソルビシンの組み合わせを投与した群(309)も腫瘍治療に相乗効果を示した。この群でも統計的に有意な腫瘍量減少が示されている。21日目までに腫瘍量はSalpNG.1と1.25mg/kgの組み合わせを投与した群の腫瘍量よりもさらに低く、35日目までにはMTDのドキソルビシンを投与した群(302)の腫瘍量の2倍弱であった。
【0053】
したがって、SalpNG.1と1.25mg/kgのドキソルビシンまたは2.5mg/kgのドキソルビシンの併用治療はMTDのドキソルビシン単独による治療と概ね同程度に有効であり、1.25mg/kgのドキソルビシン単独または2.5mg/kgのドキソルビシン単独による治療よりも有意に有効である。このことはさらに、SalpNG.1(IV)と1.25mg/kgのドキソルビシンの併用治療の相乗効果を示しており、同様にSalpNG.1(IV)と2.5mg/kgのドキソルビシンの併用治療の相乗効果を示している。
【0054】
図6は、弱毒化ネズミチフス菌とドキソルビシンの組み合わせで治療したマウスの治療後の日数に対する体重変化率(パーセント)を対照群と比較した折れ線グラフである。マウスの体重変化は、化学療法薬の毒性の程度の正確な尺度である。有意な体重減少は有意な毒性に言い換えられる。PBSを与えた対照群(301)は30日目までに25%を超える体重増加を示したが、この群のマウスは腫瘍成長によって死亡したか、瀕死の状態から安楽死させた。MTD(5mg/kg)のドキソルビシンを投与した対照群(302)は有意な体重減少を示し、14日目までには20%を超える減少、35日目までには約10%の減少があった。このことはMTDの用量のドキソルビシンには有意な毒性があることを示している。MTDの用量の25%のドキソルビシン(すなわち1.25mg/kgのドキソルビシン)を投与した群(304)は14日目までにまったく体重減少を示さず、35日目までに10%未満の体重増加を示したことから、毒性はないと考えられる。SalpIL2を単回経口投与した群(305)は14日目までにわずかな体重増加を示し、35日目までに約15%の体重増加を示した。SalpNG.1を単回IV投与した群(306)は14日目までに体重減少を示さず、35日目までに約10%の体重増加を示した。
【0055】
SalpIL2(経口)と1.25mg/kgのドキソルビシンの併用治療を行った群(307)は14日目までにまったく体重減少を示さず、35日目までに約10%の体重増加を示した。SalpNG.1(IV)と1.25mg/kgのドキソルビシンの併用治療を行った群(308)は14日目までにわずかな体重減少を示し、35日目までに5%を超える体重増加を示した。このデータはドキソルビシンと弱毒化ネズミチフス菌の併用治療が最小限の毒性で、あるいは毒性なく、相乗効果を示すことをさらに裏付けている。
【0056】
図3~5に関連して説明したように、1.25mg/kgのドキソルビシンとSalpIL2(経口)またはSalpNG.1(IV)の併用治療は、MTDのドキソルビシン単独による治療と概ね同程度に有効であり、1.25mg/kgのドキソルビシン単独による治療よりも有意に有効である。この併用治療におけるドキソルビシンの用量はMTDのわずか25%であり、ドキソルビシンの有毒な作用を有意に低減する。このことは
図6に示す体重減少が統計的に有意に低減されていることによって裏付けられる。したがって、有意に毒性の低い用量のドキソルビシンと適切な弱毒化ネズミチフス菌株との併用治療の相乗効果によって、化学療法薬の有害な副作用(体重減少など)を最小にしつつ有効な腫瘍治療が得られる。