(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171801
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】炭素表面が有機修飾された材料の製造方法およびその材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20221104BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20221104BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20221104BHJP
【FI】
C01B32/168
C01B32/194
C01B32/28
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146708
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2020196443の分割
【原出願日】2015-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(57)【要約】
【課題】材料の炭素表面を十分な濃度で均一に有機修飾することができる方法および炭素表面が有機修飾された材料を提供する。
【解決手段】本方法は、材料の炭素表面を、酸化剤により表面酸化する表面酸化工程と、表面酸化工程の後、表面酸化された材料であって表面酸化工程で使用された溶媒及び酸化剤が除去された又は希釈された材料に、1又は2以上の官能基を有する有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)と溶媒とを加え、亜臨界水、超臨界水、又は超臨界有機溶媒を反応場として、前記表面酸化された表面を前記有機化合物により有機修飾する有機修飾工程と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の炭素表面を、酸化剤により表面酸化する表面酸化工程と、
前記表面酸化工程の後、前記表面酸化された材料に、1又は2以上の官能基を有する有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)と溶媒とを加え、亜臨界水、超臨界水、又は超臨界有機溶媒を反応場として、前記表面酸化された表面を前記有機化合物により有機修飾する有機修飾工程と、
を含む、炭素表面が有機修飾された材料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤は、過酸化水素、酸素ガス、硝酸及び硫酸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
超音波処理を行いつつ、前記表面酸化処理を行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
亜臨界水、超臨界水、又は超臨界有機溶媒を反応場として前記表面酸化処理を行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記材料が炭素材料である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機修飾工程は、前記表面酸化された表面と前記有機化合物とを反応させることにより前記表面酸化された表面を有機修飾する工程である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機修飾工程は、前記表面酸化された表面を、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合若しくはアミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介した結合、P原子を介した結合、B原子を介した結合、リン酸エステル結合、ホウ酸エステル結合、亜リン酸結合、フォスフォン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、又は亜フォスフィン酸結合により、前記有機化合物で有機修飾する工程である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応場の温度が200℃以上450℃未満である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
材料の炭素表面を、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合若しくはアミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介した結合、P原子を介した結合、リン酸エステル結合、亜リン酸結合、フォスフォン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、又は亜フォスフィン酸結合により、有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)で有機修飾して成り、
前記炭素表面を有機修飾する分子の重量割合が6wt.%以上である、炭素表面が有機修飾された材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素表面が有機修飾された材料の製造方法およびその材料に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン(Fullerene)、グラフェン(Graphene)、カーボンブラック(Carbon Black)、ナノダイヤモンド(Nanodiamond)、炭素繊維(Carbon fiber)等の炭素材料では、その機能を発現させるために、溶媒や高分子中への良好な分散が求められる。しかし、親和性の制御が容易でなく、凝集してしまうため、本来の機能を発現することができず、これらのナノ炭素材料系の応用展開が大きく阻害されている。
【0003】
このような凝集を抑制するためには、炭素材料を有機分子で修飾すればよいが、無機材料(水酸基)と異なり、炭素材料には有機分子の吸着・結合サイトが無いため、良好な修飾は必ずしも十分に行えていない。そこで、高効率で有機修飾をする方法として、従来、カーボンナノチューブと有機金属化合物とを反応させて有機修飾カーボンナノチューブ還元体を得た後、この有機修飾カーボンナノチューブ還元体と有機ケイ素ハロゲン化合物とを反応させて有機修飾カーボンナノチューブを得る方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、室温以下の温度条件の下で、カーボンナノチューブを有機溶媒中に分散させた後、有機金属化合物を溶媒に添加してカーボンナノチューブと有機金属化合物とを反応させているが、カーボンナノチューブを有機溶媒中に
分散させた段階でカーボンナノチューブが凝集してしまい、極めて低濃度での修飾となったり、凝集体上の修飾となったりするという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、材料の炭素表面を十分な濃度で均一に有機修飾することができる方法および炭素表面が有機修飾された材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、以下のような考察を経て、本発明に至った。すなわち、炭素材料を良好に修飾するためには、炭素材料表面の改質が重要であり、水酸基、アルデヒド、カルボン酸等が生成されれば、これらを起点に有機修飾を行うことができる。そこで、従来、酸化剤として酸素、オゾン、過酸化水素、硫酸、硝酸等を用いて、炭素材料の表面の酸化処理が行われている。また、その有効性を高めるために、プラズマ処理も行われている。
【0008】
しかし、気相中での酸化は、凝集体表面の酸化となるという問題があった。また、酸化物の脱離(CO、CO2)も同時に生じるために、必ずしも十分な表面酸化物濃度が得られないという問題もあった。これに対し、より低温の水中での酸化処理の場合には、炭素材料の親和性が低いため、水と相分離してしまう。また、凝集体が生じて、沈殿したり、水の表面に浮遊したりする。このため、硫酸、硝酸、過酸化水素による修飾は、凝集体や浮遊物の表面のみの処理となってしまうという問題もあった。
【0009】
このような問題に対し、本発明者は、超臨界水の誘電率が2~10程度と低く、有機溶媒としての性質も現れるため、超臨界水を利用することにより、炭素材料を良好に分散可能であることに想到した。
【0010】
一般に、炭素の酸化反応は、以下の(1)および(3)の反応の表面酸化物の生成と、(2)および(4)の反応の脱離から成っている。
(1) C+O2 = C(O)(O)
(2) C(O)(O)= CO + (O)
(3) C+H2O(CO2) =C(O)+H2 (CO)
(4) C(O)=CO
【0011】
一般に、(1)および(3)の反応の活性化エネルギーよりも、(2)および(4)の反応の活性化エネルギーが高く、特に(4)は最も高い。これらは、逐次反応であるため、低温ほど、(2)および(4)の脱離反応が律速となることが良く知られている。
【0012】
炭素の表面酸化を目的とする場合、C(O)の濃度を高くする条件に設定することが重要となる。そのためには、水蒸気による(3)および(4)の酸化反応が望ましく、特に、C(O)の濃度を高めるためには、(3)の反応を促進し、(4)が律速となる条件が望ましい。すなわち、低温で、高H2O分圧とすることが望ましい。これは、800~1000℃、数10気圧の気相反応ではあるが、実験的にも確認されている(Takao Nozaki, Tadafumi Adschiri and Kaoru Fujimoto, Energy & Fuels, 1991 5(4), pp.610-611)。
【0013】
(3)および(4)の酸化反応の機構によれば、C(O)の濃度として、
C(O)=活性点数/(1+K H2O)
K=k3/k4
(k3は(3)の反応の速度定数、k4は(4)の反応の速度定数)
が導かれる。この式から、さらに高圧にすることで、より高い濃度でのC(O)の生成が期待できる。
【0014】
一方、600~650℃、25.5~34.5MPaの超臨界状態とすることで、炭素をガス化できることが報告されており(Y. Matsumura, X, Xu and M. J. Antal, Jr, Carbon Vol.35, No.6, pp.819-824)、この条件では、(4)の反応も生じることを示している。本発明者は、(4)のC(O)の脱離を抑制するためには、低温化が望ましく、200~500℃での亜臨界または超臨界の水熱条件や、超臨界有機溶媒中での酸化処理が望ましいと考えた。
【0015】
次に、炭素材料表面の有機修飾について検討する。有機修飾を行う方法には、エーテル、エステル生成、酸・アミド反応等の脱水反応や、フリーデルクラフツ(Fridal craft)、ディールスアルダー(Diels alder)反応等がある。しかし、酸化による表面処理後の炭素材料は、親水基を有しているため、有機溶媒には分散せず、凝集体となり、その凝集体上への有機修飾となるという問題があった。また、長鎖の有機分子は、水中には分散するが、水には溶解せず、相分離してしまうという問題があった。また、脱水反応は、平衡論的にも、速度論的にも、効率よく進行させることはできないという問題もあった。
【0016】
このような問題に対し、本発明者は、超臨界水反応場や超臨界有機溶媒の反応場とすることにより、任意の有機分子とも均一相を形成可能であり、親水処理された炭素材料も良好に分散可能であることに想到した。また、このような高温反応場では、発熱的な脱水反応は進行側にシフトすることにも想到した。さらに、超臨界場や超臨界有機溶媒の反応場では、これらの有機分子や炭素材料は、良分散・均一相形成はするものの、高いケミカルポテンシャルをもっており、反応平衡が生成物側にシフトし、速度論的にも高い速度が得られることにも想到した。
【0017】
次に、酸素表面処理を行わない表面修飾方法について検討する。上記の酸化処理と有機修飾処理とを行うことにより、炭素材料が本来有する機能や物性が大きく損なわれることがある。例えば、Single WallのCNT(単層カーボンナノチューブ)や、グラフェン、フラーレンは、1層の炭素層であり、それをエッチング処理や酸化処理することにより、その発達した構造が崩れることがある。また、酸素が含有され、さらに有機修飾剤が結合することで、新たな電子状態が生まれるため、それにより炭素材料の物性が大きく変化してしまう。
【0018】
そこで、酸素表面処理を行わない表面修飾方法として、炭素-炭素結合を形成させるDiels Alder反応や、芳香族系炭素とのπ-π相互作用を考える。これらの反応に使用可能な発達した芳香族として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、有機修飾グラフェン小片がある。しかし、有機溶媒とこれらの修飾剤との親和性が高いため、有機溶媒中でこれらを吸着させても、十分な吸着量が得られないことがあるという問題があった。また、これらの修飾剤は、洗浄により、脱離することもあるという問題もあった。また、Diels Alder反応では、有機溶媒中でのナノ材料表面との反応性が、通常の分子との反応と比較して極めて低いという問題もあった。
【0019】
このような問題に対し、本発明者は、亜臨界水や超臨界水、超臨界有機溶媒は低誘電率であるため、これを溶媒とすることにより、任意の有機分子とも均一相を形成可能であり、炭素材料も良好に分散可能であることに想到した。また、超臨界場や超臨界有機溶媒の反応場では、これらの有機分子や炭素材料は高いケミカルポテンシャルをもっており、反応平衡は生成物側にシフトし、速度論的に高い速度が得られることにも想到した。また、吸着やπ-π相互作用形成だけでなく、Diels Alder反応についても、高いケミカルポテンシャルを有しており、反応は促進されることにも想到した。
【0020】
以上のような考察を経て、本発明者は本発明に至った。
すなわち、本発明に係る製造方法は、材料の炭素表面を、酸化剤により表面酸化する表面酸化工程と、前記表面酸化工程の後、前記表面酸化された材料であって前記表面酸化工程で使用された溶媒及び前記酸化剤が除去された又は希釈された材料に、1又は2以上の官能基を有する有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)と溶媒とを加え、亜臨界水、超臨界水、又は超臨界有機溶媒を反応場として、前記表面酸化された表面を前記有機化合物により有機修飾する有機修飾工程と、を含む。
また、本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、亜臨界水、超臨界水、または超臨界有機溶媒を反応場として、炭素材料の表面を、1または2以上の官能基を有する有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)により有機修飾することを特徴とする。また、本発明に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、前記有機化合物と前記炭素材料とを反応させることにより、または、前記有機化合物と前記炭素材料の表面との相互作用により、前記炭素材料の表面を有機修飾することが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法では、亜臨界水、超臨界水、または超臨界有機溶媒を反応場とすることにより、任意の有機分子が均一相を形成可能であり、炭素材料や酸化により表面処理(親水処理)された炭素材料を凝集させず、良好に分散可能である。このため、Diels Alder反応などによる炭素-炭素結合や、芳香族系炭素とのπ-π相互作用により、炭素材料の表面を十分な濃度で均一に有機修飾することができる。また、有機修飾する前に炭素材料を酸化させる場合にも、炭素材料の表面を、十分な濃度で均一に酸化することができる。さらに、酸化により表面処理された炭素材料の表面も、亜臨界水、超臨界水、または超臨界有機溶媒を反応場で、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合、アミド結合等により、十分な濃度で均一に有機修飾することができる。
【0022】
なお、超臨界有機溶媒とは、有機溶媒を臨界点以上の温度・圧力下においたものである。また、その有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、エタノール、トルエンなど、有機溶媒として使用可能なものであれば、いかなるものであってもよい。
【0023】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、前記炭素材料を酸化した後、前記有機化合物で有機修飾してもよい。また、前記反応場で、前記炭素材料を酸化するとともに、前記有機化合物で有機修飾してもよい。この場合、高い濃度でC(O)を生成後、高い反応効率で有機修飾が行われるため、高濃度で有機修飾された炭素材料を得ることができる。
【0024】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、亜臨界水または超臨界水を反応場として、前記炭素材料を、前記亜臨界水または前記超臨界水から放出された酸素により酸化してもよい。また、亜臨界水、超臨界水、または超臨界有機溶媒を反応場として、前記炭素材料を、過酸化水素、酸素ガス、硝酸および硫酸のうちの少なくとも1つを含む酸化剤により酸化してもよい。この場合、超臨界水や超臨界有機溶媒と酸素ガスとは、均一相を形成し、またガスそのもののケミカルポテンシャル(酸化活性)を極めて高く引き上げることができるため、十分な濃度で均一に炭素材料の表面を効果的に酸化することができる。特に、超臨界水中で過酸化水素を用いた場合には、ラジカルネットワークが高速に回転し、より高い酸化活性が得られる。
【0025】
なお、炭素のガス化反応は、グラフェン構造のエッジから生じることが知られている。また、H2Oによる酸化反応も、主に、エッジから生じる。ところが、炭素のガス化の基礎研究において、酸素を用いればグラフェン表面もエッチングされることも知られている。このため、超臨界水中で、酸素(あるいは過酸化水素)を用いたエッチング処理を行うことにより、超臨界水酸化処理によるC(O)濃度向上を図ることができる。また、酸素ガスや硝酸、硫酸等についても、同様の効果が得られると考えられる。これにより、炭素材料の表面を十分な濃度で効果的に酸化することができる。
【0026】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、炭素材料の表面を有機修飾した後、凍結乾燥または超臨界処理を行ってから、有機修飾された炭素材料を回収することが好ましい。亜臨界水または超臨界水を用いて有機修飾を行った場合には、有機修飾後の炭素材料は疎水化されているため、自動的に水から相分離する。このため、若干の有機溶媒を添加することにより、良好に回収することができる。しかし、有機修飾の際に有機溶媒を使用した場合には、溶媒を乾燥除去する必要があり、その乾燥工程でキャピラリー力が働き、炭素材料が凝集してしまう。そこで、凍結乾燥または超臨界処理を行うことにより、そのキャピラリー力を抑制して凝集を防ぐことができ、有機修飾された炭素材料を高効率で回収することができる。特に、超臨界二酸化炭素乾燥を行うことにより、有機溶媒の完全回収も可能となり、その再利用も可能となる。また、利用されなかった修飾剤との分離も可能となる。
【0027】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法で、前記炭素材料は、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、ナノダイヤ、ダイヤモンドライクカーボン、フラーレン、炭素繊維、ならびに、これらの材料にN、S、P、BおよびOのうち1つまたは2つ以上を含む材料のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。この場合、これらの炭素材料の表面を十分な濃度で均一に有機修飾することができる。
【0028】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法は、前記炭素材料を、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合若しくはアミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介した結合、P原子を介した結合、B原子を介した結合、リン酸エステル結合、ホウ酸エステル結合、亜リン酸結合、フォスフォン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、亜フォスフィン酸結合、炭素-炭素結合またはπ-π相互作用により、前記有機化合物で有機修飾することが好ましい。この場合、有機修飾する炭素材料の種類に応じて、最適な結合方法を選択することにより、各炭素材料の表面を効果的に有機修飾することができる。例えば、炭素材料がカーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトおよびフラーレンのうち少なくとも1つを含む場合には、π-π相互作用により、炭素材料の表面を、有機化合物として芳香族化合物で有機修飾することが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料の製造方法で、前記反応場は、温度が200℃以上450℃未満であることが好ましい。また、前記反応場は、圧力が20MPa以上、40MPa以下であることが好ましい。この場合、特に効果的に炭素材料の表面を有機修飾することができる。
【0030】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料は、炭素材料の表面を有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)で有機修飾して成り、前記炭素材料の表面を有機修飾する分子の重量割合が2wt.%以上であることを特徴とする。本実施形態に係る有機修飾炭素材料は、炭素材料の表面を、2wt.%以上の重量割合で有機修飾して成るため、溶媒や高分子中でも凝集することなく、良好に分散する。このため、炭素材料の機能を十分に発現することができる。本実施形態に係る有機修飾炭素材料は、本発明に係る有機修飾炭素材料の製造方法により好適に製造することができる。
【0031】
本実施形態に係る有機修飾炭素材料で、前記炭素材料は、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、ナノダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、フラーレン、炭素繊維、ならびに、これらの材料にN、S、P、BおよびOのうち1つまたは2つ以上を含む材料のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。また、前記炭素材料は、効果的に有機修飾されるよう、その種類に応じて、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合、アミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介した結合、P原子を介した結合、リン酸エステル結合、亜リン酸結合、フォスフォン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、亜フォスフィン酸結合、炭素-炭素結合またはπ-π相互作用により、前記有機化合物で有機修飾して成ることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、材料の炭素表面を十分な濃度で均一に有機修飾することができる方法および炭素表面が有機修飾された材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下でのナノダイヤモンドの表面酸化処理後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図2】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブを(a)3%濃度、(b)6%濃度の過酸化水素水で表面酸化処理したときのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブの表面酸化処理後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下でのグラフェンの表面酸化処理後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのへキシルアミンとの反応後の、反応温度ごとのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのへキシルアミンとの反応後の、溶媒の水のpHが(a)9.8、(b)10.6、(c)11.3のときのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、有機溶媒中での多層カーボンナノチューブのへキシルアミンとの反応後の、溶媒が(a)トルエン、(b)エタノールのときのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのへキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミンとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブの(a)へキシルアミン、(b)デシルアミン、(c)ドデシルアミンとの350℃での反応後のFTIRスペクトル、(d)へキシルアミン、(e)デシルアミン、(f)ドデシルアミンとの400℃での反応後のFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブの(a)へキシルアミン、(b)および(c)デシルアミン、(d)ドデシルアミンとの反応後の顕微鏡写真である。
【
図11】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのアスパラギン酸との反応後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトル、(c)(b)を一部拡大したFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図12】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブの1-デカノールとの反応後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図13】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、多層カーボンナノチューブのt-BuOHとの反応後の(a)反応時の水の有無による熱重量分析結果、(b)水中で反応させたときのFTIRスペクトル、(c)(b)の一部を拡大したFTIRスペクトル、(d)t-BuOHなしのときのFTIRスペクトル、(e)(d)の一部を拡大したFTIRスペクトル、(f)水なしで反応させたときのFTIRスペクトル、(g)(f)の一部を拡大したFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、酸化した多層カーボンナノチューブおよび酸化していない多層カーボンナノチューブの、t-BuOHとの反応後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図15】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、硫酸中での多層カーボンナノチューブのt-BuOHとの反応後の(a)熱重量分析結果を示すグラフ、(b)および(c)顕微鏡写真である。
【
図16】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、硫酸中での多層カーボンナノチューブのt-BuOHとの反応後、ヘキサン中に24時間および70時間浸漬させたときの(a)熱重量分析結果、(b)24時間浸漬後のFTIRスペクトル、(c)70時間浸漬後のFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図17】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下でのBMABのデシルアミンとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、(a)BMABを超臨界水中で表面酸化処理後、有機溶媒中でデシルアミンと反応させた後の熱重量分析結果、(b)BMABの超臨界水中での表面酸化処理後のFTIRスペクトル、(c)BMABのヘキサン中でのデシルアミンとの反応後のFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図19】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、BMABを硝酸により表面酸化処理後、有機溶媒中でデシルアミンと反応させた後の(a)熱重量分析結果、および(b)エタノール中、(c)ヘキサン中、(d)トルエン中で反応させたときのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図20】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのNBSとの反応後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトル、(c)さらにオレイルアミンで処理後のFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図21】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、(a)水熱条件下での多層カーボンナノチューブのNBSとの反応後、(b)未処理の多層カーボンナノチューブのEDX分析結果を示すグラフである。
【
図22】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのNBSとの(a)200℃、(b)250℃での反応後の顕微鏡写真である。
【
図23】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での(a)多層カーボンナノチューブ、(b)グラフェン、(c)単層カーボンナノチューブのDMBDとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図24】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、有機溶媒中での多層カーボンナノチューブのDMBDとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図25】
図23(a)および
図24の重量減少率の、反応時間に対する変化を示すグラフである。
【
図26】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での単層カーボンナノチューブのDMBDとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図27】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのアントラセンとの反応後の(a)熱重量分析結果、(b)FTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図28】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下および有機溶媒中での多層カーボンナノチューブのアントラセンとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図29】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのアミノアントラセンとの反応後の(a)熱重量分析結果、および反応温度が(b)200℃、(c)250℃、(d)300℃、(e)350℃のときのFTIRスペクトルを示すグラフである。
【
図30】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、有機溶媒中での多層カーボンナノチューブのアミノアントラセンとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【
図31】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのナフタレンとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
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図32】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのベンジルアルコールとの反応後の(a)熱重量分析結果、(b)重量変化率と反応温度との関係を示すグラフである。
【
図33】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下での多層カーボンナノチューブのベンジルアルコールとの反応後の(a)FTIRスペクトル、(b)(a)の一部を拡大したFTIRスペクトルを示すグラフ、(c)および(d)顕微鏡写真である。
【
図34】本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法による、水熱条件下および有機溶媒中での多層カーボンナノチューブのNDCAとの反応後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の有機修飾炭素材料の製造方法は、亜臨界水、超臨界水、または超臨界有機溶媒を反応場として、炭素材料の表面を、1または2以上の官能基を有する有機化合物(ただし、ケイ素化合物を除く)により有機修飾することができる。また、有機修飾と同時または有機修飾の前に、炭素材料の表面の酸化処理を行ってもよい。
【0035】
以下、実施例として、(1)炭素材料に表面酸化処理を行ったものを実施例1~4に、(2)炭素材料に表面酸化処理および有機修飾を行ったものを実施例5~11に、(3)炭素材料に表面酸化処理を行わず、有機修飾を行ったものを実施例12~17に示す。また、亜臨界水または超臨界水の水熱条件下で行ったものは、実施例1~17に、超臨界有機溶媒の反応場で行ったものは、実施例5、10、12~14、17に示されている。
【0036】
以下の実施例では、バッチ式(回分式)の反応器(リアクター)の内部に原料を入れ、オートクレーブ内でそれぞれの温度まで加熱して反応させ、有機修飾を行った。圧力の測定は行っていないが、経験的には概ね20~35MPaになっていると考えられる。
【実施例0037】
[表面酸化処理-ナノダイヤモンド]
亜臨界水または超臨界水の水熱条件下で、ナノダイヤモンド(Nanodiamond)の表面酸化処理を行った。実験では、反応器に水2.5mLと粉末状のナノダイヤモンド0.02gとを入れ、温度を200℃、250℃、300℃、または350℃として、10分間処理を行った。処理後、熱重量分析(TG)およびフーリエ変換型赤外分光装置(FTIR)による測定を行った。なお、熱重量分析の重量変化率の単位は、重量%(wt.%)である(以下同じ)。
【0038】
熱重量分析結果を
図1(a)に、FTIRスペクトルを、
図1(b)に示す。なお、比較のため、未処理のナノダイヤモンドの結果も示す(pure ND)。
図1(a)に示すように、熱重量分析の結果、どの温度条件でも、未処理のものと比べて、800℃までで1~3wt.%程度重量が減少していることから、水熱処理により、ナノダイヤモンドの表面が酸化されて機能が付与されていると考えられる。また、
図1(b)に示すように、処理後、1500cm
-1、2900cm
-1、3500cm
-1付近に、それぞれCO、CH
2、OHに対応する新たなピークが認められており、ナノダイヤモンドの表面が酸化されていると考えられる。