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特開2022-171833カヌレ生地、カヌレ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171833
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】カヌレ生地、カヌレ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20221104BHJP
   A21D 13/40 20170101ALI20221104BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20221104BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D13/40
A23L29/219
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022147650
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金澤 枝里子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 義一
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、焼成前のねかし工程を必要とせず、短時間で製造することができ、かつ焼成後の外観及び食感が良好なカヌレ生地、カヌレ及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】生地中の澱粉質原料の一部をα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉に置き換え、かつ生地粘度を1800mPa・s以上7700mPa・s以下に調整することにより、焼成前のねかし工程を必要とせず、短時間で製造することができ、かつ焼成後の外観及び食感が良好なカヌレ生地、カヌレ及びその製造方法を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉を含み、かつ粘度が1800mPa・s以上7700mPa・s以下であるカヌレ生地。
【請求項2】
請求項1に記載の生地を焼成してなる、カヌレ。
【請求項3】
α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉を配合し、かつ生地粘度が1800mPa・s以上7700mPa・s以下となるように生地を調製する工程を含む、カヌレの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成前のねかし工程が不要となるカヌレ生地、当該カヌレ生地を焼成して得られるカヌレ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カヌレとはフランス語で“溝つきの”、“波形の”を意味し、縦に12本の溝が入った縦長の型を用いて焼成するフランスのボルドー地方の銘菓である。この溝のついた外観のほか、食感は、外側には厚みと硬さがあり、内側には弾力があってもっちりとしていることがカヌレの特徴である。
【0003】
カヌレは一般的に小麦粉、卵、牛乳などの原料を混合した生地を、冷蔵庫で8時間以上ねかせた後、縦長のカヌレ型に充填し、高温で長時間焼成して得られる。原料混合後に生地をねかせる工程は必須とされており、これを省略すると、焼成時に生地が型からあふれたり、焼成生地が型から浮いたりして、カヌレ特有の外観が損なわれ、商品価値が低下する(非特許文献1)。
【0004】
カヌレは、230℃程度の高温で焼成されるため、まず初めに外側にグルテンによる骨格が形成され、内側は熱が対流しながら徐々に火が入る。その際、グルテンによる粘弾性が高い状態で焼成すると、外側の骨格は柔軟性を失い内側の熱の対流に耐え切れなくなって、生地が型からあふれたり、爆発したりする。また、カヌレ生地は、一般的な焼菓子と比較して、小麦粉等の粉体原料に対する液体原料の含有量がはるかに多いため、生地比重が小さく、焼成時に浮きが生じやすい。カヌレと同様に生地比重の小さい焼菓子には、クレープやたい焼きがあるが、クレープは生地を薄く伸ばした状態で焼成されるため、熱の対流や焼成時の浮きが生じにくい。また、たい焼きは焼成温度が170℃程度とそれほど高温でなく、かつ焼成時間が短いため、内部の熱の対流が生じにくく、さらに、あんこ等の具材を生地の上にのせたり、焼成時に反転させたりする工程があるため、焼成時の浮きが生じることが少ない。
【0005】
つまり、上記のような課題はカヌレ特有のものであり、その解決策として、一般的には焼成前の生地を8時間以上ねかすことにより、混合時に形成されたグルテンを落ち着かせる方法が知られている。この方法は、時間を要するため効率が悪く、大量生産には不向きである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】河田勝彦著、「おいしい顔のお菓子たち」、扶桑社、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、焼成前のねかし工程を必要とせず、短時間で製造することができ、かつ焼成後の外観及び食感が良好なカヌレ生地、カヌレ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、生地中の澱粉質原料の一部をα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉に置き換え生地粘度を1800mPa・s以上7700mPa・s以下とすることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の[1]~[3]から構成される。
[1]α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉を含み、かつ粘度が1800mPa・s以上7700mPa・s以下であるカヌレ生地。
[2]上記[1]記載の生地を焼成してなる、カヌレ。
[3]α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉を配合し、かつ生地粘度が1800mPa・s以上7700mPa・s以下となるように生地を調製する工程を含む、カヌレの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明品によれば、焼成後の外観及び食感が良好なカヌレを、焼成前のねかし工程を要さず、短時間で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にいう「カヌレ」は、主成分である澱粉質原料、乳成分、卵、糖類、油脂のほか、必要に応じてラム酒やバニラビーンズなどの副原料を混合したバッター生地を、溝付のカヌレ型に充填し、230~260℃で30~60分間焼成して得られる焼菓子である。
【0012】
本発明で用いる「澱粉質原料」は、小麦粉に限定されず、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などを併用してもよい。小麦粉を使用する場合、その種類に特に制限はなく、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、全粒粉などが使用できるが、好ましくは薄力粉である。なお、これらを組み合わせて用いることもでき、例えば、薄力粉:強力粉=100~50:0~50とすることもできる。また、上記の澱粉には、後述するα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉以外の加工澱粉やそれらのα化澱粉が含まれ、加工澱粉の具体例は、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉)、エステル化澱粉(例えば、酢酸澱粉)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0013】
本発明の生地は、上述の「澱粉質原料」に対し、α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉を必須成分として含む。本発明にいうα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉とは、ヒドロキシプロピル化架橋澱粉をα化処理したものをいい、ヒドロキシプロピル化架橋澱粉とは、一般に、プロピレンオキサイドを定法により作用させた澱粉、及び当該ヒドロキシプロピル化処理と同時又は異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどを定法により作用させて架橋した澱粉をいう。α化処理とは、澱粉に水分を含有させて加熱糊化することをいい、α化澱粉として一般に流通するものは、これをさらに乾燥させたものである。α化アセチル化架橋澱粉とは、アセチル化架橋澱粉をα化処理したものをいい、アセチル化架橋澱粉とは、一般に、酢酸ビニルや無水酢酸を定法により作用させた澱粉、及び当該アセチル化処理と同時又は異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン又はアジピン酸などを定法により作用させて架橋した澱粉をいう。
【0014】
本発明の必須成分である上述のα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉は、カヌレの製造原料として用いればよく、ミックス粉の調製時、又はバッター生地の調製時に配合すればよい。α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉の添加量は、特に限定されないが、例えば、上記澱粉質原料とα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉及び/又はα化アセチル化架橋澱粉(以降、あわせて「粉体原料」とよぶ。)の100質量部に対して10~35質量部、好ましくは10~25質量部、より好ましくは10~20質量部を目安として添加するのがよい。
【0015】
本発明のカヌレ生地は、粉体原料の100質量部に対して液体原料を300質量部以上、好ましくは400質量部以上、より好ましくは500質量部以上含む生地である。ここにいう液体原料とは、常温で液体の原料をいい、例えば、牛乳(脱脂乳など調整乳含む)、水、卵(全卵か卵黄かなど問わない)、ラム酒などが挙げられる。
【0016】
本発明のカヌレ生地の粘度は、1800mPa・s以上7700mPa・s以下であり、好ましくは3300mPa・s以上7700mPa・s以下、さらに好ましくは4000mPa・s以上7700mPa・s以下である。なお、ここでいう粘度は、BL型粘度計(東機産業社製)、22℃、ローターNo.3、6rpm、30秒で測定したときの値をいう。
【0017】
本発明におけるカヌレ生地は、粘度が上記の粘度範囲となるのであれば、上述の粉体原料と液体原料のほかに副原料を含むことができる。副原料としては、例えば、糖類、油脂、粉乳などが挙げられ、「糖類」は、ブドウ糖、果糖などの単糖類、砂糖、麦芽糖、乳糖などの二糖類のほか、異性化糖、水飴、還元水飴、糖アルコール、希少糖などである。「糖類」は、液状より固体状のものが好ましく、グラニュー糖(砂糖)がもっとも好ましい。また、「油脂」は、固形脂(バター、ショートニング、マーガリン、乳化油脂など)、植物油などであるが、固形脂が好ましい。また、風味付けのためにラム酒、バニラエッセンス、バニラビーンズ、抹茶、ココア、チョコレート、キャラメル、果汁などを用いることもできる。
【0018】
本発明のカヌレ生地は、焼成前のねかし工程を省略できるため、生地調製後すぐにカヌレ型に充填して焼成することができる。ここでいうカヌレ型とは、縦長かつ溝のついたカヌレ用の焼型をいい、銅、スズ、アルミ合金などの金属やステンレス、シリコンなどいずれの材質の焼型を用いてもよい。焼成にはオーブン、電気炉、ガスコンベクション、焼き窯等を用いることができる。焼成温度は230~260℃であればよく、焼成時間はカヌレ型の大きさや材質、充填する生地の量によって異なるが、30~60分であればよい。
【0019】
本発明によれば、一般に、カヌレ生地は焼成前冷蔵庫等で8時間以上のねかし工程が必要となるところ、このねかし工程を省略することができるため、製造に要する時間の大幅な短縮が可能となる。
【0020】
以下、実施例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を表す。
【実施例0021】
(使用したα化澱粉)
以降の試験検討に使用したα化澱粉を[表1]に示す。
【表1】
【0022】
(カヌレの評価方法)
カヌレの外観及び食感の評価は、急速冷凍したカヌレを室温にて解凍し、25℃としてから行った。外観の評価は、まず、「腰折れ」、「体積」及び「高さ」の3つの指標についてそれぞれ評価し、それら各評価をもとに総合評価することにより行った。なお、「腰折れ」は、[表2]に示す基準による目視評価(○△×)、「体積」及び「高さ」は、レーザー体積計(ASTEX社製「3D Laser Volume Measurement Selnac-WinVM2100」)による測定値を[表2]の基準にあてはめた評価である。
【表2】
【0023】
<試験1:ねかし工程の有無による効果の確認>
下の[表3]の配合に従い、以下の手順に沿ってカヌレを作製した:まず、[表3]に記載のグラニュー糖の半量、全卵及び卵黄を混合し、予め沸騰させた牛乳及び残りのグラニュー糖をさらに加えて混合した。そこへ粉体原料、ラム酒及び予め溶かしたバターを加えて混合しカヌレ生地とした。カヌレ生地を4℃で17時間ねかせる(対照例1)又はねかせないで(対照例2)、該生地27gを溝付のステンレス製カヌレ型(直径3.5cm×高さ4cm)に流し入れ、上下230℃の電子炉で30分間焼成した。焼成後、カヌレ型から焼成生地(カヌレ)を離型させ、-40℃で急速冷凍した。
【表3】
【表4】
【0024】
一般的な方法である、ねかし工程を経たカヌレ(対照例1)は、外観及び食感ともに優れていた。一方、ねかし工程を省略したカヌレ(対照例2)は体積が小さく、高さも低く、外観が悪かった。食感は、対照例1と比較して弾力が弱く、やや好ましくなかった。
【0025】
<試験2:α化澱粉の効果及び配合量の検討>
粉体原料として薄力粉及びα化澱粉1を下の[表5]に従い配合し、試験1と同様の方法(但し、ねかし工程なし)でカヌレを作製し、その外観及び食感を評価した。また、焼成前のカヌレ生地について、BL型粘度計を用い、22℃、ローターNo.3、6rpm、30秒の条件で粘度を測定した。
【表5】
【0026】
[表5]より、粉体原料中にα化澱粉1を10~20%配合した場合、ねかし工程を省略したにもかかわらず、外観及び食感ともに良好なカヌレが得られた(実施例1~3)。また、α化澱粉1の配合量の増加に伴い生地粘度は上昇し、粘度が15200mPa・s以上となると、腰折れが発生し、外観が悪くなった。
【0027】
<試験3:生地粘度の検討>
試験2より、焼成前の生地粘度がカヌレの外観及び食感に影響する可能性が示唆されたため、α化澱粉1と同じ加工のα化澱粉2~5を用いて検討を行った。粉体原料として薄力粉及びα化澱粉1~5を[表6]に従い配合し、試験1と同様の方法(但し、ねかし工程なし)でカヌレを作製し、その外観及び食感を評価した。また、焼成前の生地粘度については、試験2と同様の方法で測定した。
【表6】
【0028】
[表6]より、焼成前の生地粘度が3300mPa・s以上の場合、外観及び食感ともに良好なカヌレが得られた(実施例3~5)。一方、生地粘度が1200mPa・s以下の場合、体積が小さく、かつ高さが低くなるなど外観が悪くなり(比較例3、4)、また食感も好ましくなかった(比較例3)。[表5]及び[表6]の結果から、焼成前の生地粘度が1800mPa・s~7700mPa・sの際に、外観及び食感が良好なカヌレを得られることがわかった。
【0029】
<試験4:α化澱粉の種類の検討>
次に、α化澱粉の種類について、試験1~3で用いたα化澱粉と異なる加工のα化澱粉を使用して検討を行った。粉体原料として薄力粉及びα化澱粉1、6~9を[表7]に従い配合し、試験1と同様の方法(但し、ねかし工程なし)でカヌレを作製し、外観及び食感を評価した。各種α化澱粉の配合量は、焼成前の生地粘度が1800mPa・s~7700mPa・sとなるように各々調整した。生地粘度については、試験2と同様の方法で測定した。
【表7】
【0030】
[表7]より、焼成前の生地粘度が1800mPa・s~7700mPa・sの範囲内であっても、α化澱粉の種類によって外観及び食感に差が生じることがわかった。具体的には、α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉(実施例3)及びα化アセチル化架橋澱粉(実施例6)を配合したカヌレは外観及び食感ともに優れていたが、α化架橋澱粉(比較例5)、α化ヒドロキシプロピル化澱粉(比較例6)又はα化以外の加工処理が施されていない澱粉(比較例7)を配合したものは、外観が悪かった。また、比較例6及び7については、食感も好ましくなかった。