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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171847
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】角膜内皮細胞接着促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221104BHJP
   A61K 31/4409 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20221104BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20221104BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221104BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221104BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221104BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221104BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/4409
A61K31/496
A61P27/02
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K35/30
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148111
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2021025578の分割
【原出願日】2008-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2007223141
(32)【優先日】2007-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2008016088
(32)【優先日】2008-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503076858
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小泉 範子
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】上野 盛夫
(57)【要約】
【課題】角膜内皮細胞を効率的に増殖可能な手段および角膜内皮製剤の安定的供給手段の提供。
【解決手段】Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜内皮細胞の接着促進剤、Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜内皮細胞の培養液、Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜保存液、前記培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮製剤の製造方法、Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜内皮保護剤。本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤は、角膜内皮細胞の接着を促進し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜内皮細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜内皮細胞接着促進剤に関し、角膜内皮細胞の接着、維持または保存のために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
視覚情報は、眼球の最前面の透明な組織である角膜から取り入れられた光が、網膜に達して網膜の神経細胞を興奮させ、発生した電気信号が視神経を経由して大脳の視覚野に伝達することで認識される。良好な視力を得るためには、角膜が透明であることが必要である。角膜の透明性は、角膜内皮細胞のポンプ機能とバリア機能により、含水率が一定に保たれることにより保持される。
【0003】
ヒトの角膜内皮細胞は、出生時には1平方ミリメートル当たり約3000個の密度で存在しているが、一度障害を受けると再生する能力を持たない。角膜内皮変性症や種々の原因による角膜内皮の機能不全によって生じる水疱性角膜症では、角膜が浮腫と混濁を生じ、著しい視力低下をきたす。現在、水疱性角膜症に対しては、角膜の上皮、実質および内皮の3層構造のすべてを移植する全層角膜移植術が行われている。しかし、日本での角膜提供は不足しており、角膜移植の待機患者約5500人に対し、年間に国内で行われている角膜移植件数は2700件程度である。
【0004】
近年、拒絶反応や術後合併症のリスクを軽減し、よりよい視機能を得る目的から、障害を受けた組織のみを移植する「パーツ移植」の考えが注目されている。角膜移植の中でも、角膜上皮のみを移植する上皮移植術、口腔粘膜を角膜上皮の代わりに移植する培養口腔粘膜上皮移植術、実質組織の移植である深層表層角膜移植術などが行われるようになっている。角膜内皮のみを移植する方法も検討されている。角膜内皮の移植用として、コラーゲン層上に培養された角膜内皮層からなる角膜内皮様シートが知られている(特許文献1および2を参照)。しかし、角膜内皮細胞、特にヒト由来の角膜内皮細胞は、角膜の提供者が限られているとともに、試験管内での培養が難しく、移植に必要な数の培養細胞を得るには時間と費用を要するものであった。
【0005】
ヒト胚性幹(ES)細胞は、高い自己複製能と多分化能を併せもち、医学応用の観点から注目されているが、培養過程で細胞を分散する操作によって容易に細胞死を起こすため、細胞数が著しく損なわれてしまうという実用面での問題点を抱えていた。近年、ヒトES細胞を培養した際に起こる細胞死はRhoキナーゼ(ROCK)の活性化により引き起こされていること、およびROCKの阻害により細胞死が大きく抑制されることが見出され、ROCK阻害剤であるY-27632等を用いたヒトES細胞の大量培養や大脳細胞の産生が可能となることが報告された(非特許文献1)。
【0006】
Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤は、様々な作用を有することが知られている。例えば、特許文献3には、Rhoキナーゼ阻害剤が角膜神経突起形成を促進すること、およびRhoキナーゼ阻害剤が角膜知覚回復剤として用いられることが開示されている。また、特許文献4には、Rhoキナーゼ阻害剤が網膜神経節細胞の軸索伸展促進作用を有すること、および視覚機能障害の治療に用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-24852号公報
【特許文献2】特開2005-229869号公報
【特許文献3】WO2005/118582号パンフレット
【特許文献4】WO2002/083175号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nat Biotechnol. 2007, 25, 681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、角膜内皮細胞を効率的に接着可能な手段および角膜内皮製剤の安定的供給手段の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、Rhoキナーゼ阻害剤の存在下に角膜内皮細胞を培養することにより、当該細胞の培養基材への接着が飛躍的に促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0011】
〔1〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜内皮細胞の接着促進剤。
〔2〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔1〕記載の促進剤。
〔3〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔1〕記載の促進剤。
〔4〕角膜内皮障害の予防または治療用製剤である前記〔1〕~〔3〕いずれか記載の促進剤。
〔5〕前房内注射液または眼灌流液の形態である前記〔4〕記載の促進剤。
〔6〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜内皮細胞の培養液。
〔7〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔6〕記載の培養液。
〔8〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔6〕記載の培養液。
〔9〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜保存液。
〔10〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔9〕記載の保存液。
〔11〕角膜がヒト由来である前記〔9〕記載の保存液。
〔12〕前記〔6〕~〔8〕いずれかに記載の培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮製剤の製造方法。
〔13〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔12〕記載の製造方法。
〔14〕角膜内皮細胞の接着促進剤を製造するための、Rhoキナーゼ阻害剤の使用。
〔15〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔14〕記載の使用。
〔16〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔14〕記載の使用。
〔17〕角膜内皮細胞の接着促進剤が角膜内皮障害の予防または治療用製剤である前記〔14〕~〔16〕いずれかに記載の使用。
〔18〕角膜内皮細胞の接着促進剤が前房内注射液または眼灌流液の形態である前記〔1
7〕記載の使用。
〔19〕角膜内皮細胞の培養液を製造するための、Rhoキナーゼ阻害剤の使用。
〔20〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔19〕記載の使用。
〔21〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔19〕記載の使用。
〔22〕角膜保存液を製造するための、Rhoキナーゼ阻害剤の使用。
〔23〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔22〕記載の使用。
〔24〕角膜がヒト由来である前記〔22〕記載の使用。
〔25〕角膜内皮細胞の接着の促進を必要とする対象または角膜内皮細胞に、Rhoキナーゼ阻害剤の有効量を接触させることを含む、角膜内皮細胞の接着を促進させる方法。
〔26〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔25〕記載の促進方法。
〔27〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔25〕記載の促進方法。
〔28〕角膜内皮障害の予防または治療を目的とする前記〔25〕記載の促進方法。
〔29〕Rhoキナーゼ阻害剤の有効量を前房内注射液または眼灌流液の形態で投与する前記〔25〕記載の促進方法。
〔30〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮細胞の培養方法。
〔31〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔30〕記載の培養方法。
〔32〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔30〕記載の培養方法。
〔33〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる角膜保護液中に角膜片または角膜内皮細胞を保持する工程を含む、角膜を保護する方法。
〔34〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔33〕記載の保護方法。
〔35〕角膜がヒト由来である前記〔33〕記載の保護方法。
〔36〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮製剤の製造方法。
〔37〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔36〕記載の製造方法。
〔38〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔36〕記載の製造方法。
〔39〕Rhoキナーゼ阻害剤を含有してなる培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程、および
前記培養工程により得られた角膜内皮製剤を、角膜内皮の移植を必要とする対象に移植する工程
を含む、水疱性角膜症、角膜浮腫または角膜白斑の治療方法。
〔40〕Rhoキナーゼ阻害剤が(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(
4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記〔39〕記載の治療方法。
〔41〕角膜内皮細胞がヒト由来である前記〔39〕記載の治療方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤は、Rhoキナーゼ阻害剤を有効成分として含有するものである。本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤は、角膜内皮細胞の接着を促進し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とする。これにより、角膜内皮障害を伴う疾患、例えば、水疱性角膜症、角膜内皮炎の治療剤または予防剤として有用である。本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤は、角膜内皮障害を伴う疾患の治療または予防における角膜内皮保護剤として有用である。さらに、本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤によると、白内障手術や硝子体手術などの内眼手術に伴う角膜内皮障害、眼圧の上昇(特に緑内障発作)によって引き起こされる角膜内皮障害、またはコンタクトレンズ装用による酸素不足によって引き起こされる角膜内皮障害の治療または予防における角膜内皮保護剤として利用可能である。本発明の培養液または角膜保存液によると、Rhoキナーゼ阻害剤を含有するものであることから、角膜内皮細胞を良好に培養、維持または保存することができ、角膜内皮製剤の安定的な供給、維持または保存が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、初代培養ウサギ角膜内皮細胞の位相差顕微鏡写真(培養開始24時間後、倍率は、100倍である)である。
図2図2は、MTSアッセイによる初代培養ウサギ角膜内皮細胞の増殖を調べたグラフである。縦軸は、Day1のRock inhibitor (-)群の吸光度に対する相対値を表す。
図3図3は、培養開始24時間後の初代培養ウサギ角膜内皮細胞の接着を調べたグラフである。縦軸は、培養開始24時間後のRock inhibitor (-)群の吸光度に対する相対値を表す。
図4図4は、培養開始後3日目の初代培養サル角膜内皮細胞の位相差顕微鏡写真である。倍率は、100倍である。
図5図5は、初代培養ヒト角膜内皮細胞の位相差顕微鏡写真(7日目、倍率は、100倍である)である。
図6図6は、初代培養サル角膜内皮細胞の写真(A:ROCK inhibitor(-)、B:ROCK inhibitor(+)、倍率は、20倍である)および培養細胞の総面積を示すグラフ(C)である。
図7図7は、初代培養サル角膜内皮細胞の生細胞数を示すグラフである。
図8図8は、サル角膜内皮細胞の継代培養に及ぼすY-27632の影響を調べたグラフである。
図9図9は、サル角膜内皮細胞の継代培養時の細胞形態に及ぼすY-27632の影響を調べた位相差顕微鏡写真(倍率は、100倍である)である。
図10図10は、サル角膜内皮細胞の継代培養時の細胞形態に及ぼすY-27632の影響を調べた顕微鏡写真(ファロイジン蛍光染色、倍率は、200倍である)である。
図11図11は、サル角膜内皮細胞の細胞周期に及ぼすY-27632の影響を調べた顕微鏡写真(抗Ki67抗体染色、倍率は、200倍である)である。
図12図12は、サル角膜内皮細胞の細胞周期に及ぼすY-27632の影響を調べたフローサイトメトリーの結果である。図12AはROCK inhibitor(-)群の継代培養1日目を、BはROCK inhibitor(-)群の継代培養2日目を、CはROCK inhibitor(+)群の継代培養1日目を、DはROCK inhibitor(+)群の継代培養2日目を示す。
図13図13は、図12のフローサイトメトリーの結果を抗Ki67抗体陽性細胞率により示したグラフである。
図14図14は、サル角膜内皮細胞のアポトーシスに及ぼすY-27632の影響を示すグラフである。
図15図15は、サル角膜内皮細胞のアポトーシスに及ぼすY-27632の影響を死細胞数により示したグラフである。
図16図16は、培養サル角膜内皮細胞の密度に及ぼすY-27632の影響を示すグラフである。
図17図17は、継代培養から24時間後の培養サル角膜内皮細胞の接着を調べたグラフである。縦軸は、継代培養開始24時間後のコントロール群の発光度に対するファスジル群の相対値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の角膜内皮細胞の接着促進剤(以下、「本発明の接着促進剤」と省略する場合がある)は、Rhoキナーゼ阻害剤を有効成分として含有するものである。
【0015】
本発明において、Rhoキナーゼとは、Rhoの活性化に伴い活性化されるセリン/スレオニンキナーゼを意味する。例えば、ROKα(ROCKII:Leung, T. ら, J. Biol.Chem., 270, 29051-29054, 1995)、p160ROCK(ROKβ、ROCK-I
:Ishizaki, T.ら, The EMBO J., 15(8), 1885-1893, 1996)およびその他のセリン/スレオニンキナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0016】
本発明においては、1種類のRhoキナーゼ阻害剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0017】
Rhoキナーゼ阻害剤としては、下記文献:
US4678783、特許3421217、WO99/20620、WO99/61403、WO02/076976、WO02/076977、WO02/100833、WO03/059913、WO03/062227、WO2004/009555、WO2004/022541、WO2004/108724、WO2005/003101、WO2005/039564、WO2005/034866、WO2005/037197、WO2005/037198、WO2005/035501、WO2005/035503、WO2005/035506、WO2005/080394、WO2005/103050、WO2006/057270、WO2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができる。一具体例として、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン(ファスジル)、(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン(Y-27632)などがあげられ、これらの化合物は、市販品を好適に用いることもできる。
【0018】
中でも、(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬理学的に許容される塩は、角膜内皮細胞の接着促進に特に優れているため、好ましく用いられる。該化合物の塩としては、製薬上許容される酸付加塩が好ましく、それらの酸とは塩酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸等の有機酸があげられる。(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン・2塩酸塩、および1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン塩酸塩がより好ましい。
【0019】
本発明において、「角膜内皮細胞の接着促進」としては、例えば、角膜内皮の細胞同士の接着促進、および角膜内皮細胞と培養基材との接着促進の両方があげられる。
【0020】
本発明の接着促進剤は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)由来の角膜組織から分離された角膜内皮細胞または分離され継代した角膜内皮細胞に対して接着促進作用を奏する。本発明の接着促進剤は、特に培養および継代が困難とされるヒト由来の角膜内皮細胞の接着促進作用に優れていることから、ヒト由来の角膜内皮細胞を対象にすることが好ましい。
【0021】
角膜内皮細胞は角膜の透明度を維持する役割を担っている。この内皮細胞の密度がある限度を超えて少なくなると角膜にむくみが発生し、角膜の透明性が維持できなくなり、角膜内皮障害が引き起こされる。本発明の接着促進剤は、角膜内皮細胞の接着を促進し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とし、さらには角膜内皮細胞に対してアポトーシス抑制作用を有するため、角膜内皮障害を伴う疾患、例えば、水疱性角膜症、角膜内皮炎の治療剤または予防剤として有用である。また、本発明の接着促進剤は、白内障手術や硝子体手術などの内眼手術に伴う角膜内皮障害、眼圧の上昇(特に緑内障発作)によって引き起こされる角膜内皮障害、またはコンタクトレンズ装用による酸素不足によって引き起こされる角膜内皮障害の治療剤または予防剤として有用である。
【0022】
本発明の接着促進剤は、眼局所投与に適した剤型であれば特に限定されないが、前房内注射液または眼灌流液の形態に製剤化されることが好ましい。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用い、調製することができる。前房内注射液または眼灌流液の形態で眼局所投与した場合、Rhoキナーゼ阻害剤と角膜内皮細胞とが生体内で接触し、角膜内皮細胞の接着が促進される。
【0023】
例えば、本発明の接着促進剤を前房内注射液または眼灌流液として用いる場合、安定剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、溶解補助剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)、懸濁化剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなど)、乳化剤(例えば、ポリビニルピロリドン、大豆レシチン、卵黄レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80など)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸、イプシロンアミノカプロン酸など)、粘稠剤(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなど)、保存剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル類、エデト酸ナトリウム、ホウ酸など)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ブドウ糖、プロピレングリコールなど)、pH調整剤(例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸など)、清涼化剤(例えば、l-メントール、d-カンフル、d-ボルネオール、ハッカ油など)などを添加剤として加えることができる。これら添加剤の添加量は、添加剤の種類、用途などによって異なるが、添加剤の目的を達成し得る濃度を添加すればよい。
【0024】
本発明の接着促進剤における有効成分の量は、通常0.00001~1w/v%、好ましくは0.00001~0.1w/v%、より好ましくは0.0001~0.01w/v%である。投与量、投与回数は、症状、年齢、体重、投与形態により異なるが、通常成人
に対し、例えば前房内注射液として使用する場合には、有効成分を0.0001~0.1w/v%、好ましくは0.0001~0.01w/v%含有する製剤を、1日あたり数回、好ましくは1~2回、より好ましくは1回、1回当たり0.01~0.1mL投与することができる。
【0025】
本発明の接着促進剤は、角膜内皮細胞を試験管内で培養する場合に、培養液に添加することもできる。Rhoキナーゼ阻害剤を当該培養液に添加して培養を続けることにより、Rhoキナーゼ阻害剤と角膜内皮細胞とが生体外で接触し、角膜内皮細胞の接着が促進される。
【0026】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜内皮細胞の培養液を提供する。本発明の培養液に含まれるRhoキナーゼ阻害剤は、前記した通りである。
【0027】
本発明の培養液には、内皮細胞の培養に通常用いられる培地(例、DMEM(GIBCO BRL社)、血清(例、ウシ胎仔血清(FBS))、成長因子(例、b-FGF)、抗生物質
(例、ペニシリン、ストレプトマイシン)などを含むことができる。
【0028】
本発明の培養液中のRhoキナーゼ阻害剤の濃度は、通常1~100μM、好ましくは5~20μM、より好ましくは10μMである。
【0029】
本発明の培養液は、角膜内皮細胞の接着を亢進することによって細胞の脱落を防止し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とするため、後述する本発明の角膜内皮製剤の製造方法に好適に用いられる。また、本発明の培養液は、角膜内皮細胞を維持するためにも用いられる。
【0030】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜保存液を提供する。本発明の角膜保存液に含まれるRhoキナーゼ阻害剤は、前記した通りである。角膜保存液とは、ドナーから摘出した角膜片を、レシピエントに移植するまでの期間において保存するための液剤である。
【0031】
本発明の角膜保存液としては、角膜移植時に通常用いられる保存液(強角膜片保存液(Optisol GS:登録商標)、角膜移植用眼球保存液(EPII:登録商標))、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などにRhoキナーゼ阻害剤を含有させたものがあげられる。
【0032】
本発明の角膜保存液中のRhoキナーゼ阻害剤の濃度は、通常1~100μM、好ましくは5~20μM、より好ましくは10μMである。
【0033】
本発明の角膜保存液は、角膜内皮細胞の接着を亢進することによって細胞の脱落を防止し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とするため、臓器移植などに用いられる角膜の保存液として用いられる。また、本発明の保存液は、角膜内皮細胞を凍結保存するための保存液としても用いられる。凍結保存のためには、本発明の保存液にグリセロール、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、アセトアミド等をさらに添加してもよい。
【0034】
本発明は、本発明の培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮製剤の製造方法を提供する。
【0035】
角膜内皮製剤は、基材と、当該基材上の試験管内で培養した角膜内皮細胞層とを含有することを特徴とするものである。
【0036】
本発明において、基材とは、培養角膜内皮細胞層を担持し、移植後少なくとも3日間は生体内でもその形状を維持しうるものであれば特に限定されるものではない。また、当該基材は、角膜内皮細胞を試験管内で培養する場合のスキャフォールドとしての役割を有するものであってもよく、培養後の角膜内皮細胞層を担持させる役割のみを有するものであってもよい。好ましくは、当該基材は、角膜内皮細胞の培養に用いられ、培養完了後にそのまま移植に供することが可能なスキャフォールドとしての役割を有するものである。
【0037】
前記基材としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、セルロース等の天然物由来の高分子材料、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)等の合成高分子材料、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の生分解性高分子材料、ハイドロキシアパタイト、羊膜などがあげられる。
【0038】
前記基材の形状は、角膜内皮細胞層を担持し、移植に適する形状であれば特に限定されるものではないが、シート状であることが好ましい。本発明の製剤がシート状の場合、移植時に適用部位に合わせた大きさに切断して用いることができる。また、シートを小さく丸めた後、創口から挿入することも可能である。好ましい具体例として、障害した角膜内皮の面積の約8割を覆う円形の形状が例示される。また、適用部位に密着可能なように、前記円形の周辺部に切り込みを入れることも好ましい。
【0039】
好ましい態様において、前記基材はコラーゲンである。コラーゲンとしては、特開2004-24852号公報に記載のコラーゲンシートが好適に使用できる。かかるコラーゲンシートは、前記特開2004-24852号公報に記載の方法に従って、例えば羊膜から調製することができる。
【0040】
前記角膜内皮細胞層は、以下の特徴を少なくとも1つ備えるものであることが好ましい。より好ましくは、以下の特徴を2つ以上、さらにより好ましくは全て備えるものである。
(1)細胞層が単層構造である。これは生体の角膜内皮細胞層が備える特徴の一つである。
(2)細胞層における細胞密度は約1,000~約4,000細胞/mmである。特に、成人をレシピエント(移植者)とする場合には約2,000~約3,000細胞/mmであることが好ましい。
(3)細胞層を構成する細胞の平面視形状が略六角形である。これは生体における角膜内皮細胞層を構成する細胞が備える特徴の一つである。本発明の製剤は生体の角膜内皮細胞層に類似し、生来の角膜内皮細胞層と同様の機能を発揮するとともに、生体内で増殖能も発揮することができる。
(4)細胞層において細胞が規則正しく整列している。生体の角膜内皮細胞層においてはそれを構成する細胞は規則正しく整列しており、これによって角膜内皮細胞の正常な機能と高い透明性が維持され、また角膜の水分調整機能が適切に発揮されると考えられている。したがって、このような形態的な特徴を備えることにより、本発明の製剤は、生体における角膜内皮細胞層と同様の機能を発揮することが期待される。
【0041】
本発明の製造方法は、本発明の培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含み、例えば以下の方法により実施され得る。
<1>角膜内皮細胞の採取および試験管内での培養
角膜内皮細胞はレシピエント自身または適当なドナーの角膜から常法で採取される。本発明における移植条件を考慮すれば、同種由来の角膜内皮細胞を準備すればよい。例えば、角膜組織のデスメ膜と内皮細胞層を角膜実質から剥離した後、培養皿に移し、ディスパーゼなどで処理する。これによって角膜内皮細胞はデスメ膜より脱落する。デスメ膜に残
存している角膜内皮細胞はピペッティングなどによって脱落させることができる。デスメ膜を除去した後、本発明の培養液中で角膜内皮細胞を培養する。培養液としては例えば市販のDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)にFBS(ウシ胎仔血清)、b-FGF(basic-fibloblast growth factor)、およびペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質を適宜添加し、さらにY-27632またはファスジルを添加したものを使用することができる。培養容器(培養皿)にはその表面にI型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンまたはウシ角膜内皮細胞の細胞外マトリックスなどをコーティングしてあるものを使用することが好ましい。あるいは、通常の培養容器をFNC coating mix(登録商標)等の市販のコーティング剤で処理したものを用いてもよい。かかるコーティングと本発明の培養液とを併用することにより、角膜内皮細胞の培養容器表面への接着が促され、良好な増殖が行われるからである。
【0042】
角膜内皮細胞を培養する際の温度条件は、角膜内皮細胞が生育する限りにおいて特に限定されないが、例えば約25~約45℃、増殖効率を考慮すれば好ましくは約30~約40℃、さらに好ましくは約37℃である。培養方法は、通常の細胞培養用インキュベーター内で、加湿下、約5~10%のCO濃度の環境下で行われる。
【0043】
<2>継代培養
培養に供された角膜内皮細胞が増殖した後に継代培養を行うことができる。好ましくはサブコンフルエントないしコンフルエントになった時点で継代培養を行う。継代培養は次のように行うことができる。まずtrypsin-EDTA等で処理することによって細胞を培養容器表面から剥がし、次いで細胞を回収する。回収した細胞に本発明の培養液を加えて細胞浮遊液とする。細胞を回収する際、あるいは回収後に遠心処理を行うことが好ましい。かかる遠心処理によって細胞密度の高い細胞浮遊液を調製することができる。好ましい細胞密度は、約1~2×10個/mLである。尚、ここでの遠心処理の条件としては、例えば、500rpm(30g)~1000rpm(70g)、1~10分を挙げることができる。
【0044】
細胞浮遊液は上記の初期培養と同様に培養容器に播種され、培養に供される。継代時の希釈倍率は細胞の状態によっても異なるが、約1:2~1:4、好ましくは約1:3である。継代培養は上記の初期培養と同様の培養条件で行うことができる。培養時間は使用する細胞の状態などによっても異なるが、例えば7~30日間である。以上の継代培養は必要に応じて複数回行うことができる。本発明の培養液を用いれば、培養初期の細胞接着を亢進させることにより、培養期間の短縮が可能となる。
【0045】
<3>角膜内皮細胞層の調製
細胞浮遊液は、コラーゲンシート等の基材上に播種され、培養に供される。この際、最終的に製造される角膜内皮製剤において所望の細胞密度の細胞層が形成されるように播種する細胞数が調整される。具体的には細胞密度が約1,000~約4,000細胞/mmの細胞層が形成されるように細胞を播種する。培養は上記の初期培養などと同様の条件で行うことができる。培養時間は使用する細胞の状態などによっても異なるが、例えば3~30日間である。
【0046】
以上のようにして培養を行うことにより、基材上に試験管内で培養した角膜内皮細胞層が形成された角膜内皮製剤が得られる。
【0047】
本発明において、角膜内皮製剤は、角膜内皮細胞を維持するために、本発明の培養液を含んでもよい。また、角膜内皮製剤は、移植に供されるまでに本発明の角膜保存液を含んでもよい。本発明は、角膜内皮製剤と本発明の培養液または保存液との組合せも提供する
【0048】
本発明の製造方法により得られた角膜内皮製剤は、角膜内皮の移植が必要な疾患、例えば水疱性角膜症、角膜浮腫、角膜白斑、特に、角膜ジストロフィー、外傷または内眼手術に起因する角膜内皮障害によって生じる水疱性角膜症の治療における移植片として用いることができる。
【0049】
本発明の接着促進剤および角膜内皮製剤の投与対象は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)があげられる。
【実施例0050】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。実験動物の使用にあたっては、動物を用いる生物医学研究に関する原則(International Guiding Principles for Biomedical Research involving Animals)なら
びに、動物の愛護及び管理に関する法律、実験動物の飼養及び保管等に関する基準に従った。また、本実験はGuidelines of the Association for Research in Vision and Ophthalmology on the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って行った。
【0051】
実施例1
ROCK阻害剤がウサギ角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
安楽死後ただちに摘出したウサギ角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とと
もに37℃、5%COの条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、ROCK inhibitor(+)群は10μMのY-27632を添加した角膜内皮用培地を用い、ROCK
inhibitor(-)群はY-27632を添加しない角膜内皮用培地を用いて同じ濃度に
なるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。角膜内皮用培地として、1%ウシ胎児血清および2mg/ml bFGF (Gibco Invitrogen)を添加した培養液(DMEM、Gibco Invitrogen)を用いた。プレートにはあらかじめ、FNC coating mix(Athena ES)で10分間の前処理を施した。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+
)群、ROCK inhibitor(-)群ともにY-27632を添加しない通常の角膜内皮用培
地を用いて5日目まで培養した。培養開始24時間後の初代培養ウサギ角膜内皮細胞の位相差顕微鏡写真を図1に示す。培養開始後1日目から3日目まで、24時間毎に、CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation(Promega)を用い
たMTS([3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium]アッセイにより細胞数を測定した(図2)。
【0052】
ROCK inhibitor(+)群(図1B)では、ROCK inhibitor(-)群(図1A)に比べて細胞播種後24時間(day 1)での細胞接着は約2.8倍と有意に亢進していた(図2
、3)。コンフルエントに到達した3日目時点では両群間で有意差を認めず(図2)、このことからY-27632は初代培養のウサギ角膜内皮細胞において、継代後早期の細胞接着を亢進させる作用があることが明らかとなった。また継代培養したウサギ角膜内皮細胞を用いた検討でも同様の結果が得られており、初代培養および継代培養において、Y-27632は継代後早期の細胞接着に作用すると考えられた。
【0053】
実施例2
Y-27632がサル角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
別の目的で安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着
したデスメ膜を分離した。ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μMのY-2
7632を添加した角膜内皮用培地に入れて37℃、5%COの条件下で10分間インキュベートした。ROCK inhibitor(-)群では、Y-27632を添加しない角膜内皮
用培地に入れて同じ条件で10分間インキュベートした。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%COの条件下で45分間イ
ンキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y-27632(+)およびY-27632(-)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約20000個の密度で12ウェルプレートに播種した。プレートにはあらかじめ、FNC coating mix(Athena ES)で10分間の前処理を施した。 培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群、ROCK inhibitor(-)群ともにY-27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を用いて培養した。
【0054】
図4より、培養開始後24時間のカニクイザル初代培養角膜内皮細胞において、ROCK inhibitor(+)(図4B)ではROCK inhibitor(-)(図4A)に比べて明らかに多くの細胞がプレート上に接着していた。コンフルエントに達するまでの日数は、ROCK inhibitor(+)では3日であったのに対し、ROCK inhibitor(-)では7日であった。このことから、ウサギに比べて生体外での細胞培養が困難であると考えられるサル角膜内皮細胞においても、Y-27632は培養開始後早期の細胞接着を亢進し、細胞培養を可能にする有用な薬剤であることが示された。
【0055】
実施例3
Y-27632がヒト角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
米国アイバンクから入手したヒト角膜組織のうち、中心部の直径7mm部分を角膜移植に用いた残りの周辺部角膜組織を用いた。角膜内皮細胞が接着したデスメ膜を分離し、ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μMのY-27632を添加した角膜内皮
用培地に入れて10分間37℃、5%COの条件下でインキュベートした。ROCK inhibitor(-)群では、Y-27632を添加しない角膜内皮用培地に入れて同じ条件で1
0分間インキュベートした。角膜内皮用培地としては、実施例1と同じ培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%COの条件下で45分間インキュベートした後、ピペッテ
ィング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y-27632(+)およびY-27632(-)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、あらかじめFNC coating mix(Athena ES)で前処理を施した48ウェルプレートに1ウェルあたり約10000個の密度で播種した。周辺部角膜組織から得られるヒト角膜内皮細胞は、きわめて細胞数が少ないために、1眼のドナー角膜から1ウェルの細胞培養を行った。本検討で使用したドナー角膜は、ROCK inhibitor(+)群が年齢69歳、ドナー死亡後培養開始まで6日間、ROCK inhibitor (-)群が年齢51歳、ドナー死亡後培養開始まで7日間のものを使用した。年齢およびドナー死亡後細胞培養までに経過した時間が、細胞培養に与える影響はほぼ等しいと考えられる。
培養開始後72時間に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)
群、ROCK inhibitor(-)群ともにY-27632を添加しない通常の角膜内皮用培地
を用いて培養した。培養開始後の早期の細胞接着および細胞形態に与える影響を検討するために、培養開始後に位相差顕微鏡による細胞観察およびデジタルカメラによる写真撮影を行った(図5)。
【0056】
図5より、培養開始後7日目には、ROCK inhibitor(+)群では均一な多角形細胞か
らなる、正常な角膜内皮細胞に類似した細胞からなるコンフルエントな高密度の単層細胞層が形成されていた(図5B)のに対し、ROCK inhibitor(-)群では細胞密度の低い
線維芽細胞様に伸展した形態の内皮細胞が島状に生着していたのみであった(図5A)。本結果から、培養が非常に困難なことが知られているヒト角膜内皮初代培養において、培養開始後早期の細胞接着を亢進する作用のあるY-27632を培養液に添加することにより、良好な細胞形態、高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層を形成することが可能であると考えられた。
【0057】
製剤例1
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する前房内注射液
常法により下に示す前房内注射液を調製する。
Y-27632 10mg
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100mL
(pH7)
Y-27632は和光純薬工業製を用いる。
【0058】
製剤例2
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する眼灌流液
常法により下に示す眼灌流液を調製する。
Y-27632 1.0mg
オペガードMA 適量
全量 100mL
オペガードMAは千寿製薬製、Y-27632は和光純薬工業製を用いる。
【0059】
製剤例3
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜内皮シート調製用培養液
常法により下に示す培養液を調製する。
Y-27632 0.5mg
FBS 10mL
ペニシリン-ストレプトマイシン溶液 1mL
FGF basic 200ng
DMEM 適量
全量 100mL
FBSはインビトロジェン製、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液はナカライテスク製(ペニシリン 5000u/mL,ストレプトマイシン 5000μg/mL含有)、FGF basicはインビトロジェン製、Y-27632は和光純薬工業製、DMEMはインビトロジェン製を用いる。
【0060】
製剤例4
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜保存液
常法により下に示す保存液を調製する。
Y-27632 0.2mg
Optisol-GS 適量
全量 100mL
Optisol-GSはボシュ・ロム製、Y-27632は和光純薬工業製を用いる。
【0061】
実施例4
Y-27632がサル角膜内皮細胞の初代培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。実施例2と同様に、ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μM
のY-27632を添加した角膜内皮用培地に入れて37℃、5%COの条件下で10分間インキュベートした。ROCK inhibitor(-)群では、Y-27632を添加しない
角膜内皮用培地に入れて同じ条件で10分間インキュベートした。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%COの条件下で4
5分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y-27632(+)およびY-27632(-)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群、ROCK inhibitor(-)群ともにY-27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を用いて培養した。培養10日目に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて10分間室温で固定後、トルイジンブルーを用いて染色した(図6A、B)。細胞の総面積をImage J(アメリカ国立衛生研究所)を用いて測定して解析を行った(図6C)。
培養開始後10日目のカニクイザル初代培養角膜内皮細胞において、ROCK inhibitor
(-)(図6A)に比べてROCK inhibitor(+)(図6B)は、培養初期における接着
を促進することによって、培養細胞の総面積を約1.6倍に有意に増加させた(図6C)。このことから、生体外での細胞培養が困難であると考えられるサル角膜内皮細胞において、Y-27632は初代培養に有用な薬剤であることが示された。
【0062】
実施例5
Y-27632のサル角膜内皮細胞に対する至適濃度の検討
実施例2と同様に回収したサル角膜内皮細胞(初代培養)を、それぞれ1、10、33、100μMのY-27632を添加した角膜内皮用培地と、Y-27632を含まない角膜内皮用培地に入れて同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始後24時間目にCellTiter-Glo(登録商標
)(Promega)を用いて生細胞数を測定した(図7)。
培養開始後24時間の角膜内皮細胞において、10μMのY-27632を含む培地で細胞培養を行った場合は、Y-27632を含まない角膜内皮用培地やその他の濃度のY-27632を含む角膜内皮用培地で細胞培養を行った場合と比べて、プレート上に接着した細胞数が有意に多かった(図7)。このことから、サル角膜内皮細胞において、10μMの濃度のY-27632が最も有効であることが示された。
【0063】
実施例6
Y-27632がサル角膜内皮細胞の継代培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%COの条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地に播種した。コンフルエントに達した角膜内皮細胞を、0.05%トリプシンにて37℃、5%COの条件下で10分間インキュベートし、継代培養を行った。4-6回の継代を行った後に、角膜内皮細胞を1/2、1/6、1/8の希釈になるように96ウェルプレートに入れ、ROCK inhibitor(+)群では10μMのY-27632
を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(-)群ではY-27632を添加しな
い角膜内皮用培地を用いて継代培養を続けた。継代後24時間目に、実施例5と同様にCellTiter-Glo(登録商標)(Promega)を用いて細胞数を測定した(図8)。
継代後24時間のカニクイザル培養角膜内皮細胞において、Y-27632を含む培地で継代培養を行った場合は、Y-27632を含まない角膜内皮用培地と比べて、プレー
ト上に接着した細胞数が有意に多かった(図8)。このことから、初代培養に加えてサル角膜内皮細胞の継代培養においても、Y-27632が有効であることが示された。
【0064】
実施例7
Y-27632がサル角膜内皮細胞の継代培養時に細胞形態に与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を、1/4の希釈になるようにスライドガラス上に継代した。継代培養24時間目に、位相差顕微鏡にて細胞形態を観察した(図9A、B)。さらにスライドガラス上の角膜内皮細胞を4%パラホルムアルデヒドにて室温10分間の固定後、ファロイジン蛍光染色にてアクチンファイバーの染色を行った(図10A、B)。
継代後24時間のカニクイザル培養角膜内皮細胞において、Y-27632を含まない角膜内皮用培地と比べて(図9A)、Y-27632を含む培地で継代培養を行った際には(図9B)、細胞のスライドガラスへの接着が亢進しており、角膜内皮細胞様への扁平化が促進されており、細胞同士の集まりも亢進していた。また、ファロイジン蛍光染色では、Y-27632を含まない角膜内皮用培地と比べて(図10A)、Y-27632を含む培地で継代培養を行った際には(図10B)、アクチンストレスファイバーが明瞭に認められ、Y-27632が細胞骨格形成を促進することがわかった。
【0065】
実施例8
Y-27632がサル角膜内皮細胞の細胞周期に与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるようにスライドガラス上に継代した。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY-276
32を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(-)群では、Y-27632を添
加しない角膜内皮用培地を用いた。継代培養1、2、14日目に、スライドガラス上の角膜内皮細胞を4%パラホルムアルデヒドにて室温10分間の固定後、抗Ki67抗体を用いて免疫染色を行った(図11)。また、同様にカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるようにROCK inhibitor(+)とROCK inhibitor(-)群それぞれで継代培養し、継代培養1、2日目に0.05%トリプシンを用いて回収後、抗Ki67抗体を用いてフローサイトメトリーを行い細胞周期の検討を行った(図12、13)。
ROCK inhibitor(-)群に比べてROCK inhibitor(+)群では継代培養1日目、2日目ともにKi67陽性細胞が多かった一方、14日目にほぼコンフルエントに達すると、ROCK inhibitor(+)群の陽性細胞はROCK inhibitor(-)群に比べて少なかった(図11)。フローサイトメトリーにおいても、ROCK inhibitor(-)群に比べてROCK inhibitor(+)群では継代培養1日目、2日目ともにKi67陽性細胞が多く認められた(図12、13)。 Ki67抗原は細胞増殖周期のG1、さらにSからM期までの細胞の核内に見出されることから、Y-27632は、カニクイザル角膜内皮細胞の継代培養後早期に、細胞周期を促進させる働きがあり、細胞培養を効率的に行うために有用な薬剤であることが示された。
【0066】
実施例9
Y-27632がサル角膜内皮細胞のアポトーシスに与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるように継代した。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY-27632を添加した角膜
内皮用培地を、ROCK inhibitor(-)群ではY-27632を添加しない角膜内皮用培
地を用いた。継代培養1日目に0.05%トリプシンを用いて培地中の細胞を含めて全ての細胞を回収後、Annexin VとPI(Propidium Iodide)を用いてフローサイトメトリー
を行い、アポトーシスの検討を行った(図14、15)。
ROCK inhibitor(-)群に比べてROCK inhibitor(+)群では、継代培養1日目の全細胞におけるアポトーシス細胞率の有意な減少を認めた(図14)。さらに、1×104
細胞あたりのアポトーシス細胞数を比較するとROCK inhibitor(-)群に比べてROCK i
nhibitor(+)群では有意な減少を認めた(図15)。 このことから、Y-27632はカニクイザル角膜内皮細胞の継代培養時に、アポトーシスを抑制する働きがあることが示された。
【0067】
実施例10
Y-27632が培養サル角膜内皮細胞の密度に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%COの条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地に播種した。コンフルエントに達した角膜内皮細胞を、0.05%トリプシンにて37℃、5%COの条件下で10分間インキュベートし、継代培養を行った。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY-27632を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(-)群では、Y-27632を添加しない角膜内皮用培地を用いた。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群
、ROCK inhibitor(-)群ともにY-27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を
用いて培養した。毎回継代時には位相差顕微鏡を用いて細胞の写真を撮影し、細胞密度を測定してY-27632が培養サル角膜内皮細胞の密度に与える影響を検討した。
継代を7回繰り返したところ、継代培養を行った全期間においてROCK inhibitor(-
)群に比べてROCK inhibitor(+)群では高い細胞密度が認められた(図16)。この
ことから、Y-27632を用いることで高い密度の角膜内皮細胞の培養が可能となり、将来的に培養角膜内皮シート移植といった再生医療を行う上でも有用であると考えられた。
【0068】
実施例11
ファスジルがサル角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%COの条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地で継代培養した。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用
いた。継代培養時に0.05%トリプシン処理により回収した培養サル角膜内皮細胞を分離し遠心分離の後、ファスジル群は10μMのファスジル(SIGMA-ALDRICH)を添加した
角膜内皮用培地を用い、コントロール群はファスジルを添加しない角膜内皮用培地を用いて同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始24時間後にCellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay (Promega)を用いて接着細胞数を測定した(図17)。ROCK inhibitorであるファスジルにおいても角膜内皮細胞の細胞接着を促進する効果が認められた。
【0069】
製剤例5
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する前房内注射液
常法により下に示す前房内注射液を調製する。
ファスジル 10mg
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100mL
(pH7)
【0070】
製剤例6
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜内皮シート調製用培養液
常法により下に示す培養液を調製する。
ファスジル 0.5mg
FBS 10mL
ペニシリン-ストレプトマイシン溶液 1mL
FGF basic 200ng
DMEM 適量
全量 100mL
FBSはインビトロジェン製、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液はナカライテスク製(ペニシリン 5000u/mL,ストレプトマイシン 5000μg/mL含有)、FGF basicはインビトロジェン製、DMEMはインビトロジェン製を用いる。
【0071】
本出願は、日本で出願された特願2007-223141(出願日:2007年8月29日)および特願2008-016088(出願日:2008年1月28日)を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
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図17