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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171894
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】積層コイル型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20221104BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149364
(22)【出願日】2022-09-20
(62)【分割の表示】P 2017252185の分割
【原出願日】2017-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英和
(72)【発明者】
【氏名】永井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】川崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】石間 雄也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聖樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴志
(57)【要約】
【課題】インダクタンスL、Qおよび強度を向上させた積層コイル型電子部品を提供する。
【解決手段】コイル導体と磁性素体とが積層された素子を有する積層コイル型電子部品である。磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含む。樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填される。軟磁性金属粒子は軟磁性金属粒子本体および軟磁性金属粒子本体を被覆する酸化被膜を有する。磁性素体は、コイル導体が埋設されている中央部と、中央部の積層方向の上下に存在しコイル導体が埋設されていない表面部と、を有し、中央部には、積層方向におけるコイル導体同士の中間部である層間部が含まれる。層間部における隙間スペースの面積比率が10.0%以上35.0%以下であり、表面部における隙間スペースの面積比率が層間部よりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体と磁性素体とが積層された素子を有する積層コイル型電子部品であって、
前記磁性素体は、軟磁性金属粒子および樹脂を含み、
前記樹脂は、前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填され、
前記軟磁性金属粒子は、軟磁性金属粒子本体、および、前記軟磁性金属粒子本体を被覆する酸化被膜からなり、
前記磁性素体は、前記コイル導体が埋設されている中央部と、前記中央部の積層方向の上下に存在し前記コイル導体が埋設されていない表面部と、を有し、
前記中央部は、積層方向における前記コイル導体同士の中間部である層間部を含み、
前記層間部の断面をSEMで観察することで得られるSEM観察画像において、
前記層間部における前記隙間スペースの面積比率が、前記SEM観察画像全体に対して、10.0%以上35.0%以下であり、
前記表面部における前記隙間スペースの面積比率が、前記層間部における前記隙間スペースの前記面積比率よりも大きい積層コイル型電子部品。
【請求項2】
コイル導体と磁性素体とが積層された素子を有する積層コイル型電子部品であって、
前記磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含み、
前記樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填され、
前記軟磁性金属粒子の本体部におけるFeの含有量とSiの含有量の合計を100質量%として、前記軟磁性金属粒子の前記本体部は、92.5質量%以上97.0質量%以下のFeと、3.0質量%以上7.5質量%以下のSiと、0.011質量%以上0.065質量%以下のPと、を含み、Crを実質的に含有しておらず、
前記磁性素体は、前記コイル導体が埋設されている中央部と、前記中央部の積層方向の上下に存在し前記コイル導体が埋設されていない表面部と、を有し、
前記中央部は、積層方向における前記コイル導体同士の中間部である層間部を含み、
前記層間部の断面をSEMで観察することで得られるSEM観察画像において、
前記層間部における前記隙間スペースの面積比率が、前記SEM観察画像全体に対して、10.0%以上35.0%以下であり、
前記表面部における前記隙間スペースの面積比率が、前記層間部における前記隙間スペースの前記面積比率よりも大きい積層コイル型電子部品。
【請求項3】
前記表面部における前記隙間スペースの前記面積比率が、15%以上40%以下である請求項1または2に記載の積層コイル型電子部品。
【請求項4】
前記樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂である請求項1または2に記載の積層コイル型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コイル型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器等の各種電子機器の電源回路に用いられる電子部品として、トランス、チョークコイル、インダクタ等のコイル型電子部品が知られている。
【0003】
このようなコイル型電子部品は、所定の磁気特性を発揮する磁性体の周囲に、電気伝導体であるコイルが配置されている構成を有している。磁性体としては、所望の特性に応じて、様々な材料を用いることができる。
【0004】
近年、コイル型電子部品のさらなる小型化、低損失化、高周波数化に対応するため、軟磁性金属材料を磁性体として用いることが試みられている。
【0005】
ここで、コイル型電子部品の磁性体として軟磁性金属材料を用いる場合、軟磁性金属材料の絶縁性が問題となる。特に、積層コイル型電子部品の場合、磁性体とコイル導体とが直接接触するため、軟磁性金属材料の絶縁性が低いと電圧印加時にショートしてしまう。
【0006】
さらに、電源用チョークコイル等の磁心として絶縁性が低い軟磁性金属材料を用いると、軟磁性金属粒子に渦電流が発生し、渦電流による損失が発生してしまう。
【0007】
特許文献1には、積層インダクタに関する発明が記載されており、磁性体において、Fe-Si-Cr合金粒子同士の間の空隙に樹脂を含浸させることを特徴としている。しかし、樹脂を含浸させる前のFe-Si-Cr合金粒子間にはSiの酸化物が存在しているため、樹脂を含浸させる前の空隙が少ない。したがって、さらに樹脂を含浸させようとしても樹脂の含浸量が少なく、樹脂を含浸させる効果が小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-238840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、インダクタンスL、Qおよび強度を向上させた積層コイル型電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る積層コイル型電子部品は、コイル導体と磁性素体とが積層された素子を有する積層コイル型電子部品であって、
前記磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含み、
前記樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填され、
前記軟磁性金属粒子は軟磁性金属粒子本体および前記軟磁性金属粒子本体を被覆する酸化被膜からなり、
前記酸化被膜のうち前記軟磁性金属粒子本体と接する層がSiを含む酸化物からなることを特徴とする。
【0011】
第1の発明に係る積層コイル型電子部品は、上記の特徴を有することにより、インダクタンスL、Qおよび強度が全て優れたコイル型電子部品となる。
【0012】
第1の発明に係る積層コイル型電子部品は、前記酸化被膜の平均厚みが5nm以上60nm以下であってもよい。
【0013】
前記Siを含む酸化物が実質的に前記酸化被膜のみに含まれていてもよい。
【0014】
第2の発明に係る積層コイル型電子部品は、コイル導体と磁性素体とが積層された素子を有する積層コイル型電子部品であって、
前記磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含み、
前記樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填され、
前記軟磁性金属粒子におけるFeの含有量が92.5質量%以上97.0質量%以下、Siの含有量が3.0質量%以上7.5質量%以下であり、Crを実質的に含有しないことを特徴とする。
【0015】
第2の発明に係る積層コイル型電子部品は、上記の特徴を有することにより、インダクタンスL、Qおよび強度が全て優れたコイル型電子部品となる。
【0016】
以下の記載は第1の発明および第2の発明に共通する内容である。
【0017】
前記積層コイル型電子部品の層間部の断面をSEMで観察することで得られるSEM観察画像において、
前記隙間スペースの面積比率が前記SEM観察画像全体に対して10.0%以上35.0%以下であってもよい。
【0018】
前記積層コイル型電子部品の層間部において、前記軟磁性金属粒子のD50-D10が2.5μm以下であり、D90-D50が4.5μm以下であってもよい。
【0019】
前記軟磁性金属粒子がFe-Si合金粒子であってもよい。
【0020】
前記樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂であってもよい。
【0021】
前記コイル導体と前記磁性素体との合計質量に対する前記樹脂の質量比率が0.5質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の一実施形態に係る積層インダクタである。
図2図2図1の積層インダクタにおける磁性素体の断面模式図である。
図3図3は実施例1において樹脂を充填する前の層間部の断面SEM画像である。
図4図4は実施例1において樹脂を充填した後の層間部の断面SEM画像である。
図5図5は実施例1においてめっきした後の層間部の断面SEM画像である。
図6図6は比較例1においてめっきした後の層間部の断面SEM画像である。
図7図7は比較例2において樹脂を充填した後の層間部の断面SEM画像である。
図8図8は比較例2においてめっきした後の層間部の断面SEM画像である。
図9図9は実施例1における層間部のBF像である。
図10図10は実施例1における層間部のHADDF像である。
図11図11は実施例1における層間部の拡大模式図である
図12図12は実施例1のGC-MS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態では、積層コイル型電子部品として、図1に示す積層インダクタが例示される。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る積層インダクタ1は、素子2と端子電極3とを有する。素子2は、磁性素体4の内部にコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に埋設された構成を有している。素子2の両端には、端子電極3が形成されており、この端子電極3は、引出電極5a、5bを介してコイル導体5と接続されている。また、素子2はコイル導体5が埋設されている中央部2bおよび中央部2bの積層方向(z軸方向)上下に存在しコイル導体5が埋設されていない表面部2aからなる。また、本実施形態では、磁性素体4のうち、積層方向におけるコイル導体5同士の中間部を層間部4aとする。
【0026】
素子2の形状は任意であるが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。例えば、0.2~2.5mm×0.1~2.0mm×0.1~1.2mmとすることができる。
【0027】
端子電極3の材質は、電気伝導体であれば、任意の材質とすることができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが安価で低抵抗のため好ましい。端子電極3はガラスフリットを含有していてもよい。また、端子電極3は表面にめっきを施してもよい。たとえば、Cu、NiめっきおよびSnめっき、またはNiめっきおよびSnめっきを順番に施してもよい。
【0028】
コイル導体5および引出電極5a、5bの材質は、電気伝導体であれば、任意の材質とすることができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが安価で低抵抗のため好ましい。
【0029】
磁性素体4は、図2に示すように軟磁性金属粒子11および樹脂13からなる。図2は磁性素体4の断面模式図である。また、磁性素体4のうち軟磁性金属粒子11以外の部分を隙間スペース12とする。そして隙間スペース12に樹脂13が充填され、樹脂13が充填されていない部分が空隙14となる。また、樹脂を充填する前の段階では、隙間スペース12は全て空隙14である。
【0030】
後述する図11に示すように、軟磁性金属粒子11は軟磁性金属粒子本体11aおよび軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bからなる。
【0031】
軟磁性金属粒子本体11aの材質には特に制限はない。軟磁性金属粒子本体11aの材質は、例えば、FeおよびSiを主に含むFe-Si系合金、または、Fe、Ni、SiおよびCoを主に含むパーマロイであってもよい。軟磁性金属粒子本体11aはFe-Si系合金であることが好ましい。
【0032】
軟磁性金属粒子本体11aがFe-Si系合金である場合、Feの含有量およびSiの含有量の合計を100質量%として、Siの含有量は、Si換算で7.5質量%以下であることが好ましい。すなわち、Feの含有量は、Fe換算で、92.5質量%以上であることが好ましい。
【0033】
Siの含有量が多すぎる場合、軟磁性金属粉末を用いて成形する際の成形性が悪化し、その結果、焼成後の焼成体密度が低下する傾向にある。さらに、熱処理後の合金焼成粒子の酸化状態を適切に維持できず、特に透磁率が低下する傾向にある。
【0034】
また、Feの含有量およびSiの含有量の合計を100質量%とした場合、Siの含有量は、Si換算で、3.0質量%以上であることが好ましい。すなわち、Feの含有量は、Fe換算で、97.0質量%以下であることが好ましい。
【0035】
Siの含有量が少なすぎる場合、成形性は向上するものの、焼結後の軟磁性金属粒子の酸化状態を適切に維持できず、比抵抗が低下する傾向にある。
【0036】
本実施形態に係るFe-Si系合金は、Feの含有量とSiの含有量との合計を100質量%とした場合、その他の元素の含有量は、Oを除き、最大でも0.15質量%以下である。さらに、Crを実質的に含有しない。Crを実質的に含有しないとは、Crの含有量が0.03質量%以下であることを指す。すなわち、本実施形態では、Fe-Si系合金は、Fe-Si-Cr合金を含まない。
【0037】
また、本実施形態に係る軟磁性金属合金はPを有していてもよい。軟磁性金属合金がFe-Si系合金である場合、Pは、Feの含有量とSiの含有量との合計100質量%に対して、110~650ppm含有されていることが好ましい。軟磁性金属合金がPを有することで、高い比抵抗と所定の磁気特性とを両立可能な積層インダクタを得ることができる。さらに、Pを上記の範囲で含有していることにより、磁性素体4においてショートが生じない程度の高い比抵抗、たとえば、1.0×105Ω・cm以上の比抵抗を示すことができる。さらに、所定の磁気特性を発揮することができる。
【0038】
本実施形態に係る積層インダクタ1が上述した特性を有する理由については、例えば以下のような推測が成り立つ。すなわち、Fe-Si合金がリンを所定量含有した状態で熱処理されることにより、熱処理後の磁性素体4を構成する軟磁性金属粒子11の酸化状態、すなわち酸化被膜11bの被覆率や厚み等が適切に制御されると考えられる。その結果、熱処理後の磁性素体4は、高い比抵抗を示し、しかも所定の磁気特性を発揮できる。したがって、本実施形態に係る磁性素体4は、コイル導体5と直接接触する磁性素体として好適である。
【0039】
なお、軟磁性金属粒子本体がパーマロイである場合には、Fe、Ni、SiおよびCoの含有量の合計を100質量%として、Feの含有量が45~60質量%、Niの含有量が33~48質量%、Siの含有量が1~6質量%、Coの含有量が1~6質量%であることが好ましい。さらに、当該パーマロイはCrを実質的に含有しない。すなわち、Fe、Ni、SiおよびCoの合計含有量を100質量%とした場合にCrの含有量が0.06質量%(600ppm)以下である。さらに、Pなどのその他の元素の含有量は、Oを除き、最大でも0.15質量%(1500ppm)以下である。
【0040】
さらに、本実施形態に係る軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bはSiを含む酸化物からなる層を含むことが好ましく、軟磁性金属粒子本体11aとSiを含む酸化物からなる層とが接していることが好ましい。軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むことにより、軟磁性金属粒子11同士の間の絶縁性が高くなることでQが向上する。また、軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む化合物からなる層を含むことで、Feの酸化物が形成されることを防止することもできる。
【0041】
樹脂13の種類は任意である。具体的には、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂であることが好ましい。樹脂13がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂である場合には、特に隙間スペース12に充填されやすい。また、樹脂13はフェノール樹脂であることが安価で取り扱いが容易のため好ましい。
【0042】
樹脂13が隙間スペース12に充填されることで、積層インダクタ1の強度(特に抗折強度)が高くなる。また、軟磁性金属粒子11同士の間の絶縁性がさらに高くなることでQがさらに向上する。さらに、信頼性および耐熱性が向上する。
【0043】
ここで、積層インダクタ1の素子2のうち、樹脂13が隙間スペース12に最も充填されにくい部分は層間部4aである。したがって、層間部4aの隙間スペース12に樹脂13が充填されていれば、積層インダクタ1の素子2全体に十分に樹脂13が充填されているといえる。
【0044】
軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むか否か、および、樹脂13が隙間スペース12に充填されているか否かを確認する方法には特に制限はない。例えば、SEM-EDS測定およびSTEM-EDS測定を行い、目視にて軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むか否か、および、樹脂13が隙間スペース12に充填されているか否かを確認することができる。
【0045】
ここで、図3図5は後述する実施例1の層間部におけるSEM画像(倍率10000倍)である。図3は樹脂を充填する前のSEM画像、図4は樹脂を充填した後のSEM画像、図5は樹脂充填後に端子電極にめっきを施した後のSEM画像である。図4および図5より、軟磁性金属粒子以外に樹脂が存在し、隙間スペースを充填していることが分かる。これに対し、図6図8は後述する比較例1および比較例2の層間部におけるSEM画像(倍率10000倍)である。いずれの図面においても、樹脂が隙間スペースを充填していないことが分かる。
【0046】
さらに、図9および図10は後述する実施例1のめっき品における層間部のSTEM-EDS測定画像(倍率20000倍)である。図11は後述する実施例1のメッキ品における層間部をさらに拡大して観察した場合の拡大模式図である。なお、図9および図10は表面を紙やすり研磨した後の画像である。
【0047】
図9はSTEMによる明視野像(BF像)である。図10はSTEMによる暗視野像(HAADF像)である。
【0048】
図9および図10より、樹脂13が層間部の隙間スペース12に充填され、硬化されていることがわかる。さらに、画像解析およびSTEM-EDSによる元素分析により、Siが実質的に軟磁性金属粒子11のみに存在し、Cが実質的に隙間スペース12のみに存在していることがわかる。また、軟磁性金属粒子11以外の部分でCが存在している部分の面積を観察範囲全体に対する隙間スペース12全体の面積としてもよい。
【0049】
また、図11に示すように、軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bが存在する。酸化被膜11bはSi酸化物層を含む。さらに画像解析したところ、Siは実質的に軟磁性金属粒子本体11aおよび酸化被膜11bのみに存在する。また、Siの酸化物は実質的に酸化被膜11bのみに存在する。なお、Si酸化物層11bは主にSiの酸化物からなる層である。
【0050】
また、酸化被膜11bの厚みは任意である。Si酸化物層が軟磁性金属粒子本体11aと接すること以外は任意の構造とすることができる。例えば、酸化被膜11bがSi酸化物層のみからなっていてもよい。し、Si酸化物層と別の酸化物層の多層構造としてもよい。軟磁性金属粒子本体11aと接しているSi酸化物層は実質的にSiの酸化物のみからなっていてもよい。酸化被膜11bの厚みおよび各層の厚みはSTEM-EDS測定画像を用いて測定することができる。本実施形態では、酸化被膜11b全体の平均厚みが5nm以上60nm以下となっていることが好ましい。なお、上記の平均厚みは、少なくとも50個以上の軟磁性金属粒子11について酸化被膜11bの厚みを測定した場合の厚みの平均とする。なお、酸化被膜11bの形成方法は任意である。例えば軟磁性金属粉を焼成することにより形成できる。また、酸化被膜11bの厚みおよび各酸化物層の厚みは焼成温度や時間等の焼成条件やアニール条件等により制御できる。なお、酸化被膜11bが厚くなるほど隙間スペース12が小さくなり樹脂13の充填量が低下する。なお、Siの酸化物は実質的に酸化被膜11bのみに含まれ、酸化被膜11bよりも外側の二つの軟磁性金属粒子11の間に挟まれた部分(隙間スペース12)にはほとんど存在しないことが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る積層インダクタ1では、磁性素体4を構成する軟磁性材料(軟磁性金属粒子11)の比抵抗が高い。これは、軟磁性金属粒子本体11aが酸化被膜11bにより被覆されているためである。さらに、隙間スペース12に樹脂13が充填されている。したがって、めっき液が隙間スペース12に侵入しにくい。そのため、めっき後においてもショートせずに高いインダクタンスLを有する。さらに、積層インダクタ1の強度(特に抗折強度)も向上するなど、所定の性能を発揮することができる。
【0052】
軟磁性金属粒子11の平均粒径(D50)には特に制限はない。また、表面部2aと中央部2bで異なる粒径としてもよい。中央部2bにおける軟磁性金属粒子11のD50を表面部2aにおける軟磁性金属粒子11のD50よりも小さくすることが信頼性向上のため好ましい。例えば、中央部2bにおける軟磁性金属粒子11のD50は1.0~10μmが好ましく、表面部2aにおける軟磁性金属粒子11のD50は2.0~18μmとすることが好ましい。
【0053】
また、軟磁性金属粒子11の粒径のばらつきは小さい方が隙間スペース12が大きくなり、樹脂の充填量を増やせるため好ましい。ばらつきが小さいとは、具体的には、D50-D10およびD90-D50が小さいことを指す。例えば、中央部2bにおけるD50-D10を0.5μm以上3.0μm以下としてもよく、D90-D50を1.5μm以上4.5μm以下としてもよい。また、表面部2aにおけるD50-D10を4.0μm以上6.0μm以下としてもよく、D90-D50を7.0μm以上12.0μm以下としてもよい。なお、上記D50-D10の下限およびD90-D50の下限は、例示である。さらにD50-D10およびD90-D50の小さい軟磁性金属粒子11を準備する場合には、ばらつきを小さくすることによる効果が小さくなる一方、コストが増大する。
【0054】
D10、D50およびD90の算出方法には特に制限はない。例えば、断面をSEM観察して、画像解析により軟磁性金属粒子11の面積を算出し、その面積に相当する円の直径(円相当径)として算出した値を粒子径とする。そして、各測定箇所について100個以上の軟磁性金属粒子11の粒子径を算出し、D10、D50およびD90を算出する。なお、軟磁性金属粒子11の形状は特に制限されない。
【0055】
また、層間部4a(中央部2b)の断面における隙間スペース12の面積比率がSEM観察画像全体に対して10.0%以上35.0%以下であることが好ましい。隙間スペース12の面積比率は軟磁性金属粒子の粒径分布により制御できるほか、グリーンチップでのバインダ樹脂の樹脂量、グリーンチップを形成するときの成形圧力、焼成条件、アニール条件などを制御することでも制御することができる。また、軟磁性金属粒子の粒径分布が同程度であれば、隙間スペースが大きく、充填される樹脂の量が多くなるほどインダクタンスLが小さくなるが、Q及び抗折強度が大きくなる傾向にある。
【0056】
続いて、上記の積層インダクタの製造方法の一例について説明する。まず、磁性素体を構成する軟磁性金属粒子の原料となる軟磁性金属粉末を作製する方法について説明する。本実施形態では、軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の作製方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて作製することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粉末が得られやすいという観点から、水アトマイズ法を用いることが好ましい。さらに、軟磁性金属粉末の粒径を制御することで、最終的に得られる軟磁性金属粒子のD10、D50およびD90を制御することができる。
【0057】
水アトマイズ法では、溶融した原料(溶湯)をルツボ底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体として供給し、供給された溶湯に高圧の水を吹き付けて、溶湯を液滴化するとともに、急冷して微細な粉末を得る。
【0058】
本実施形態ではFeの原料およびSiの原料を溶融し、さらにPを添加したものを、水アトマイズ法により微粉化することにより、本実施形態に係る軟磁性金属粉末を製造することができる。また、原料中、たとえば、Feの原料中にPが含まれている場合、Feの原料中のPの含有量と、添加するPの量との合計量を制御することで、最終的に得られる軟磁性金属粒子に含まれるPの量を制御することができる。溶融物を水アトマイズ法により微粉化してもよい。あるいは、Pの含有量が異なる複数のFeの原料を用いて、軟磁性金属粉末におけるPの含有量が上記の範囲内となるように調整された溶融物を水アトマイズ法により微粉化してもよい。
【0059】
続いて、このようにして得られた軟磁性金属粉末を用いて、積層インダクタを製造する。積層インダクタを製造する方法については制限されず、公知の方法を採用することができる。以下では、シート法を用いて積層インダクタを製造する方法について説明する。
【0060】
得られた軟磁性金属粉末を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いて、焼成後に磁性素体となるグリーンシートを形成する。この際に、表面部用のグリーンシートと中央部用のグリーンシートとで粒径の異なる軟磁性金属粉末を用いてもよい。次いで、形成された中央部用グリーンシートの上に、コイル導体ペーストを塗布してコイル導体パターンを形成する。コイル導体ペーストは、コイル導体となる金属(Ag等)を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化して作製する。続いて、コイル導体パターンが形成されたグリーンシートを複数積層した後に、各コイル導体パターンを接合することで、コイル導体が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーン積層体が得られる。
【0061】
得られた積層体に対し、熱処理(脱バインダ工程および焼成工程)を行うことにより、バインダを除去し、軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子が軟磁性金属焼成粒子となる。そして、軟磁性金属焼成粒子同士が互いに接続されて固定された(一体化した)焼成体としての積層体を得る。脱バインダ工程における保持温度(脱バインダ温度)は、バインダが分解してガスとして除去できる温度であれば、特に制限されないが、本実施形態では、300~450℃であることが好ましい。また、脱バインダ工程における保持時間(脱バインダ時間)も特に制限されないが、本実施形態では、0.5~2.0時間であることが好ましい。
【0062】
焼成工程における保持温度(焼成温度)は、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子が互いに接続される温度であれば、特に制限されないが、本実施形態では、550~850℃であることが好ましい。また、焼成工程における保持時間(焼成時間)も特に制限されないが、本実施形態では、0.5~3.0時間であることが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態では、脱バインダおよび焼成における雰囲気を調整することが好ましい。具体的には、脱バインダおよび焼成を、大気中のような酸化雰囲気で行ってもよいが、大気雰囲気よりも酸化力の弱い雰囲気下、例えば窒素雰囲気下や窒素及び水素の混合雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることで、軟磁性金属粒子の比抵抗を高く維持しながら、磁性素体の密度を向上させ、さらに透磁率(μ)等を向上させることができる。また、軟磁性金属粒子の表面にSi酸化被膜を形成させやすくなり、Feの酸化物を形成させにくくなる。この結果、Feの酸化によるインダクタンスLの低下を防止することができる。
【0064】
焼成後にアニール処理を行ってもよい。アニール処理を行う場合の条件は任意であるが、例えば500~800℃で0.5~2.0時間行ってもよい。また、アニール後の雰囲気も任意である。
【0065】
なお、上記の熱処理後の軟磁性金属粒子の組成は、上記の熱処理前の軟磁性金属粉末の組成と実質的に一致する。
【0066】
続いて、素子に端子電極を形成する。端子電極を形成する方法には特に制限はなく、通常は端子電極となる金属(Ag等)を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化して作製する。
【0067】
次に、素子に対して樹脂を含浸させることで、隙間スペースに樹脂を充填する。樹脂を含浸させる方法は任意である。例えば、真空含浸による方法が挙げられる。
【0068】
真空含浸は、上記の積層インダクタを樹脂中に浸漬させ、気圧制御を行うことにより行われる。樹脂は気圧を低下させることにより磁性素体内部に侵入する。そして、磁性素体の表面から内部には隙間スペースが存在するため、隙間スペースを介して毛細管現象の原理により樹脂が磁性素体内部、特に最も侵入しづらい層間部にまで侵入することで、隙間スペースに樹脂が充填される。さらに、加熱により樹脂を硬化させる。加熱条件は樹脂の種類により異なる。
【0069】
樹脂の種類は任意であるが、最終的に隙間スペースに樹脂が充填されることが必要である。例えば、シリコーン樹脂を用いる場合には、樹脂が特に表面部における軟磁性金属粒子の表面に膜状に存在する状態となり、磁性素体内部(特に層間部)の隙間スペースまで樹脂が十分に侵入しにくい。さらに、300℃以上で加熱すると樹脂が分解してしまうため、耐熱性も低い。これに対し、特にフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を用いる場合には、磁性素体内部(特に層間部)の隙間スペースまで樹脂が十分に侵入し、硬化後にも十分に隙間スペースに充填されやすい。さらに加熱しても容易に分解されないため耐熱性も高い。
【0070】
最終的に得られる積層インダクタの磁性素体における樹脂の含有量は0.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。樹脂が少なくなるほどLが大きくなるが、Qが小さくなり抗折強度が低下する傾向にある。なお、樹脂の含有量は例えば含侵時の樹脂溶液濃度、浸漬時間、浸漬回数等を変化させることにより制御することができる。
【0071】
本実施形態では、樹脂の充填後に端子電極に電解めっきを施すことができる。樹脂が隙間スペースに充填されているため、積層インダクタをめっき液に投入してもめっき液が磁性素体内部に侵入しにくい。そのためにめっき後においても積層インダクタ内部でショートが発生せず、インダクタンスが高く保たれる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0073】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実験例1)
まず、原料として、Fe単体およびSi単体をそれぞれ準備した。次に、それらを混合して、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。続いて、不活性雰囲気下において、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して溶湯を得た。なお、リンの含有量の調整は、軟磁性金属粉末の原料を溶融、混合する際に、Fe単体の原料に含まれるリンの量を調整することで行った。
【0075】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、線状の連続的な流体を形成するように供給された溶湯に、高圧(50MPa)の水流を衝突させ、液滴化すると同時に急冷し、脱水、乾燥、分級することにより、Fe-Si系合金粒子からなる軟磁性金属粉末を作製した。この際に、互いに粒径分布の異なる表面部用の軟磁性金属粉末と中央部用の軟磁性金属粉末との二種類の軟磁性金属粉末を作製した。なお、表1に示す粒径分布となるように、製造条件、分級条件等を適宜制御した。
【0076】
得られた軟磁性金属粉末を、ICP分析法により組成分析した結果、全ての実施例および比較例で用いられる軟磁性金属粉末が、Fe:94mass%、Si:6mass%であり、P含有量が350ppmとなっていることを確認した。さらに、Fe、SiおよびP以外の元素、例えばCr等は実質的に含有していないことを確認した。
【0077】
上記の軟磁性金属粉末を、溶媒、バインダ等の添加物と共にスラリー化し、ペーストを作製した。そして、このペーストを用いて焼成後に磁性素体となるグリーンシートを形成した。このグリーンシート上に所定パターンのAg導体(コイル導体)を形成し、積層することにより、厚さ0.8mmのグリーンの積層体を作製した。
【0078】
得られたグリーン積層体を2.0mm×1.2mm形状に切断して、グリーン積層インダクタを得た。得られた積層インダクタに対して、不活性雰囲気下、400℃で脱バインダ処理を行った。その後、還元性雰囲気下750℃-1hの条件で焼成して焼成体を得た。なお、不活性雰囲気とはN2ガス中のことであり、還元性雰囲気とはN2とH2ガスとの混合ガスで、水素濃度1.0%の雰囲気のことである。得られた焼成体の両側端面に、端子電極用ペーストを塗布、乾燥し、650℃で0.5時間、焼付処理を行い、端子電極を形成して積層インダクタ(焼付品)を得た。
【0079】
次に、全ての実施例および比較例1以外の比較例について、得られた焼付品に対して樹脂原料の混合物を真空含浸し、その後加熱して樹脂を硬化させることで積層インダクタの隙間スペースに樹脂を充填した。樹脂の硬化は150℃で2.0時間、加熱することで行った。なお、樹脂を硬化させる際に樹脂混合物に含まれる溶剤等が蒸発した。真空含浸に用いる樹脂原料の混合物の種類を下表1に示す。なお、表1におけるフェノール樹脂A混合物は約50重量%のフェノール類(C78O.CH2O.C410O)x、約38重量%のエチレングリコールモノブチルエーテル、約11重量%の1-ブタノール、約0.20重量%のホルムアルデヒドおよび約0.1%のm-クレゾールを混合した混合物であり、硬化してフェノール樹脂Aが得られる。フェノール樹脂B混合物は約50重量%のフェノール類(C66O.CH2O)x、約1.7重量%のホルムアルデヒド、約0.3重量%未満のメタノールおよび約44重量%の1-ブタノールを混合した混合物であり、硬化してフェノール樹脂Bが得られる。フェノール樹脂C混合物は約63重量%のフェノール類(C66O.CH2O)x、約5.5重量%のフェノール、約0.60重量%のホルムアルデヒドおよび約30重量%のメタノールを混合した混合物であり、硬化してフェノール樹脂Cが得られる。エポキシ樹脂混合物はナフタレン型エポキシ樹脂、硬化剤、溶剤(トルエン)等を混合した混合物であり、硬化してエポキシ樹脂が得られる。シリコーン樹脂混合物はオルガノポリシロキサン、溶剤トルエン等を混合した混合物であり、硬化してシリコーン樹脂が得られる。
【0080】
そして、電解めっきを施し、端子電極上にNiめっき層およびSnめっき層を形成した。なお、比較例1では端子電極形成後、ただちに電解めっきを施してNiめっき層およびSnめっき層を形成した。
【0081】
各実施例及び比較例における真空含浸後に樹脂を硬化させた含浸品およびめっき後のめっき品について、コイル導体と磁性素体の合計質量に対する樹脂の質量比率をTG-DTAを用いて測定した。結果を表2に示す。なお、全ての実施例および比較例について、含浸品とめっき品とで樹脂の質量比率には実質的に変化が無かった。さらに、磁性素体の組成についてICP分析法を用いて確認し、原料である軟磁性金属粉末の組成と実質的に一致することを確認した。
【0082】
各実施例および比較例の含浸品およびめっき品について、層間部の隙間スペースへの樹脂充填の有無を確認した。具体的には、SEMを用いて倍率10000倍で13μm×10μmのサイズで層間部の断面写真を撮影し、観察することで確認した。結果を表2に示す。なお、添付の図3図5がそれぞれ実施例1の焼付品、含浸品およびめっき品における層間部のSEM画像である。図6が比較例1のめっき品、図7が比較例2の含浸品、図8が比較例2のめっき品のSEM画像である。
【0083】
各実施例および比較例の層間部および表面部について、隙間スペースの面積比率を測定した。具体的には、各実施例および比較例の含浸品について研磨用の埋め込み樹脂を埋め込んだ後にSEM-EDSを用いて倍率2000倍で62μm×44μmのサイズで観察し、Fe,Si,O,Cの合計を100%としてCの存在する部分が隙間スペースであるとして面積比率を測定した。結果を表1に示す。なお、表1に記載した隙間スペースの面積比率は各実施例および比較例のそれぞれについて30個の積層インダクタの面積比率を測定した平均値である。
【0084】
なお、図9が実施例1のBF像、図10が実施例1のHADDF像である。
【0085】
さらに、STEM-EDSを用いて上記の測定よりも高倍率な倍率20000倍で7μm×7μmのサイズで観察し、Siが実質的に酸化被膜以外には存在しないことを確認した。また、全ての実施例において軟磁性金属粒子本体、および、軟磁性金属粒子本体に接するSi酸化物層が存在していることを確認した。
【0086】
各実施例および比較例の積層インダクタについて、LCRメータ(HEWLETT PACKARD社製:4285A)を用いて、f=2MHz、I=0.1AでLおよびQを測定した。結果を表2に示す。なお、表2に記載したLおよびQは各実施例および比較例のそれぞれについて30個の積層インダクタのLおよびQを測定した平均値である。本実施例では、Lが0.30μH以上である場合を良好とし、0.40μH以上である場合を更に良好とした。また、Qが30以上である場合を良好とし、40以上である場合を更に良好とした。
【0087】
各実施例および比較例の積層インダクタについて、ショート数を測定した。ショート数は各実施例および比較例の含浸品およびめっき品(各30個)に対してLCRメータを用いて測定を行い、30個のうち、いくつの積層インダクタがショートしたかを測定した。結果を表2に示す。本実施例ではショート数が0の場合を良好とした。
【0088】
各実施例および比較例の積層インダクタについて、抗折強度を測定した。抗折強度は固着強度試験機アイコーエンジニアリング社製 CPU GAUGE 9500SERIES)を用いて10mm/minで測定した。結果を表2に示す。なお、表2に記載した結果は各10個の積層インダクタについて抗折強度を測定した平均値である。本実施例では、抗折強度が30.0Nを超える場合を良好とし、45.0Nを超える場合をさらに良好とした。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1および表2より、樹脂としてフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を用いた実施例1~9では、最も樹脂が充填されにくい層間部の隙間スペースへも樹脂が充填された。その結果、めっきを行った後にもショートが発生せず、LおよびQも高く維持された。さらに、抗折強度も高くなった。
【0092】
これに対し、樹脂を用いなかった比較例1のめっき品は全てショートが発生した。さらに、LおよびQも著しく低く、抗折強度も低かった。さらに、シリコーン樹脂含浸を行った比較例2では、樹脂が十分に充填されず、特に層間部のSEM写真では隙間スペースへ樹脂が充填されていることが全く確認できなかった。その結果、めっき品は隙間スペースにめっき液が侵入してショートが発生した。そして、LおよびQもめっき品は含浸品と比べて著しく低下した。さらに、樹脂が十分に充填されなかったことで抗折強度も著しく低い結果となった。
【0093】
さらに、高温負荷試験および耐湿負荷試験を行った。高温負荷試験は、各実施例および比較例の積層インダクタ(めっき品)について、85℃で電流を2.1A印加して2000時間おいた後にL及びQの低下が10%以下であるか否かを確認した。耐湿負荷試験は、各実施例および比較例の積層インダクタに対して、85℃、湿度85%で電流を2.1A印加して2000時間おいた後にL及びQの低下が10%以下であるか否かを確認した。全ての実施例では高温負荷試験および耐湿負荷試験の結果が良好であった。
【0094】
(実験例2)
実験例2では、実施例1~3および3aの積層インダクタ(めっき品)について、220~340℃で5分間熱処理を行った。そして、実験例1と同様にしてショート数、L、Qおよび抗折強度を評価した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
フェノール樹脂で含浸した実施例1~3の積層インダクタ(めっき品)およびエポキシ樹脂で含浸した実施例3aの積層インダクタ(めっき品)は熱処理後もショートが発生せず、LおよびQが良好であった。また、抗折強度については、熱処理温度が300℃を超える場合には300℃以下の場合と比較して低下したものの、上記の良好範囲内の抗折強度は維持した。なお、熱処理温度が300℃を超えると抗折強度が低下する理由は樹脂の一部が気化してしまうためであると考えられる。
【0097】
なお、図12にはフェノール樹脂A混合物を積層インダクタに含浸させた後にフェノール樹脂A混合物を硬化させて得られた実施例に含まれるフェノール樹脂AのGC-MS分析結果、およびフェノール樹脂A混合物のみを硬化させて得られたフェノール樹脂AのGC-MS分析結果を記載した。
【0098】
積層インダクタに含浸させた後に硬化させて得られたフェノール樹脂AをGC-MS分析する場合には、具体的には、積層インダクタをナイフで半分に割り、エコカップ(金属容器)に入れ、600℃で6秒間、熱分解を行うことで行った。フェノール樹脂AのみをGC-MS分析する場合には、具体的には、最初にフェノール樹脂A混合物のみを硬化させてフェノール樹脂Aを得た。その後にフェノール樹脂Aをのみエコカップ(金属容器)に入れ、600℃で6秒間、熱分解を行うことで行った。なお、装置:島津製作所製GCMS-QP2010、熱分解ユニット:Double Shot Pyrolyzer(Flontier Lab Py2020iD)、GC:キャリアガスがHe、スプリット比が20:1(50kPa、全流量24mL/min、使用カラム:Ultra Alloy-5(0.25mm*30m)、温度プロファイル:40℃(3min)-10℃/min-300℃(15min)、MS:Scanモード、m/z=33-500、検出器電圧1.1VでGC-MS分析を行った。図12の上のグラフは、フェノール樹脂A混合物を2回含浸し、150℃で2時間硬化した点以外は実施例1と同条件で作製した積層インダクタに含まれるフェノール樹脂AをGC-MS分析した結果である。図12の下のグラフはフェノール樹脂A混合物のみを150℃で2時間硬化した後にGC-MS分析した結果である。下表4にはフェノール樹脂Aおよびフェノール樹脂A混合物の溶媒に含まれる各推定化合物のピーク(文献値)を記載する。図12および表4より、実施例1の積層インダクタにはフェノール類Aが含まれていることが分かる。
【0099】
【表4】
【符号の説明】
【0100】
1… 積層インダクタ
2… 素子
2a…表面部
2b…中央部
3… 端子電極
4… 磁性素体
4a… 層間部
5… コイル導体
5a,5b…引出電極
11…軟磁性金属粒子
11a…軟磁性金属粒子本体
11b…酸化被膜
12…隙間スペース
13…樹脂
14…空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12