(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172022
(43)【公開日】2022-11-14
(54)【発明の名称】アスベスト含有層の除去方法及び除去装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/361 20140101AFI20221107BHJP
B23K 26/142 20140101ALI20221107BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20221107BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
B23K26/361
B23K26/142
B23K26/16
E04G23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078195
(22)【出願日】2021-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】520352193
【氏名又は名称】ライトウエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 正和
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝功
(72)【発明者】
【氏名】八尾 和幸
【テーマコード(参考)】
2E176
4E168
【Fターム(参考)】
2E176AA21
2E176BB36
4E168AD03
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA35
4E168DA40
4E168EA17
4E168FB05
4E168FC01
4E168FC04
(57)【要約】
【課題】構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を、遮蔽空間を設けることなくまた作業者が防護服を着用することなく従来よりも短時間で除去すること。
【解決手段】アスベスト含有層Lの除去装置Dは、レーザー照射手段1と気体噴射手段2とを有し、レーザー照射手段1はアスベスト含有層Lにレーザー光を照射してアスベスト含有層Lを溶融し、気体噴射手段2は、レーザー光の照射スポットSPに気体を噴射して構造物Sの表面から溶融物を除去する第1ノズル22と、レーザー光の光路上に噴出した溶融物を含む飛翔物を光路上から排除する第2ノズル23とを備え、レーザー光の照射スポットSPは構造物Sに対して相対移動可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去する方法であって、
前記構造物の表面の前記アスベスト含有層に対してレーザー光の照射部分を相対的に移動させながら前記アスベスト含有層を溶融するとともに、
レーザー光の照射部分に気体を噴射して前記構造物の表面から溶融物を除去する
ことを特徴とするアスベスト含有層の除去方法。
【請求項2】
前記レーザー光の照射部分の移動方向下流側から気体を噴射する請求項1記載のアスベスト含有層の除去方法。
【請求項3】
前記レーザー光の光路にも気体を噴射して前記溶融物を含む飛翔物を前記光路から排除する請求項1又は2記載のアスベスト含有層の除去方法。
【請求項4】
前記溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引する請求項1~3のいずれかに記載のアスベスト含有層の除去方法。
【請求項5】
前記レーザー光の照射部分の移動方向上流側から前記溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引する請求項4記載のアスベスト含有層の除去方法。
【請求項6】
吸引された吸引物から溶融物を分離回収する請求項3又は4記載のアスベスト含有層の除去方法。
【請求項7】
構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去する装置であって、
レーザー照射手段と気体噴射手段とを有し、
前記レーザー照射手段は、前記アスベスト含有層にレーザー光を照射してアスベスト含有層を溶融し、
前記気体噴射手段は、レーザー光の照射部分に気体を噴射して前記構造物の表面から溶融物を除去する第1ノズルを備え、
前記レーザー光の照射部分は前記構造物に対して相対移動可能である
ことを特徴とするアスベスト含有層の除去装置。
【請求項8】
前記第1ノズルは、前記レーザー光の照射部分の移動方向下流側から前記レーザー光の照射部分に気体を噴射する請求項7記載のアスベスト含有層の除去装置。
【請求項9】
前記気体噴射手段は、前記レーザー光の光路に気体を噴射して前記溶融物を含む飛翔物を前記光路から排除する第2ノズルを備える請求項7又は8記載のアスベスト含有層の除去装置。
【請求項10】
吸引手段をさらに有し、
前記吸引手段は、前記溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引する
請求項7~9のいずれかに記載のアスベスト含有層の除去装置。
【請求項11】
前記吸引手段は、吸引開口と排出開口とを有する吸引ヘッドを備え、
前記吸引ヘッドは、前記吸引開口が前記レーザー光の照射部分の移動方向上流側から前記レーザー光の照射部分に臨むように配置される請求項10記載のアスベスト含有層の除去装置。
【請求項12】
前記吸引手段は、吸引開口と排出開口とを有する吸引ヘッドを備え、
前記吸引開口は前記構造物に臨むように設けられ、
前記吸引ヘッドは、少なくとも前記レーザー光の照射部分及びその周囲を覆うように配置される請求項10記載のアスベスト含有層の除去装置。
【請求項13】
分離回収手段をさらに有し、
前記分離回収手段は、前記吸引手段によって吸引された吸引物から溶融物を分離回収する請求項10~12のいずれかに記載のアスベスト含有層の除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスベスト含有層の除去方法及び除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で、以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的でアスベストを吹き付ける作業が行われていたが、飛散・浮遊するアスベストの線維を人が吸入すると肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることから昭和50年に原則禁止された。その後も、スレート材、ブレーキライニングやブレーキパッド、防音材、断熱材、保温材などで使用されていたが、現在では、原則として製造等が禁止されている。
【0003】
また、アスベスト含有建材が使用されたビルなどの建物を解体、改修、補修する際には、事前に都道府県等に届け出を行い、アスベストの飛散を防止する対策を行うことが義務づけられている。
【0004】
建物等の構造物の天井、壁、梁、床などに吹き付けられたアスベストを除去する方法として、作業現場をシートなどで囲んで遮蔽空間とし、内部を負圧としてケレン棒などの作業工具によってアスベスト吹付層を削ぎ落とす方法(例えば特許文献1)、高圧噴流水を吹き付けてアスベスト吹付層を吹き飛ばし剥離させる方法(例えば特許文献2)、アスベスト吹付層にレーザー光を照射してアスベストを熱分解、溶融または蒸発させて無害化する方法(例えば特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-51480号公報
【特許文献2】特開平11-200639号公報
【特許文献3】特開2009-28717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー光を照射してアスベストを溶融し無害化する特許文献3に記載の方法によればアスベストの飛散対策や作業者の防護服着用などが不要になる点で作業環境等が改善されると考えられる。
【0007】
しかしながら、レーザー光の照射によってアスベストを完全に溶融し無害化するには単位面積当たり所定時間以上のレーザー光の照射が必要となるためアスベスト除去の作業時間短縮化には限界があると考えられる。
【0008】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を従来よりも短時間で除去することができる方法及び装置を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の目的は、遮蔽空間を設けることなく、また作業者が防護服を着用することなく、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去することができる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明に係るアスベスト含有層の除去方法は、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去する方法であって、前記構造物の表面の前記アスベスト含有層に対してレーザー光の照射部分を相対的に移動させながら前記アスベスト含有層を溶融するとともに、レーザー光の照射部分に気体を噴射して前記構造物の表面から溶融物を除去することを特徴とする。
【0011】
前記構成のアスベスト含有層の除去方法において、前記レーザー光の照射部分の移動方向下流側から気体を噴射するのが好ましい。
【0012】
また前記構成のアスベスト含有層の除去方法において、前記レーザー光の光路にも気体を噴射して前記溶融物を含む飛翔物を前記光路から排除するのが好ましい。
【0013】
また前記構成のアスベスト含有層の除去方法において、前記溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引するのが好ましい。
【0014】
また前記構成のアスベスト含有層の除去方法において、前記レーザー光の照射部分の移動方向上流側から溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引するのが好ましい。
【0015】
また前記構成のアスベスト含有層の除去方法において、吸引された吸引物から溶融物を分離回収するのが好ましい。
【0016】
また前記目的を達成する本発明に係るアスベスト含有層の除去装置は、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去する装置であって、レーザー照射手段と気体噴射手段とを有し、前記レーザー照射手段は、前記アスベスト含有層にレーザー光を照射してアスベスト含有層を溶融し、前記気体噴射手段は、レーザー光の照射部分に気体を噴射して前記構造物の表面から溶融物を除去する第1ノズルを備え、前記レーザー光の照射部分は前記構造物に対して相対移動可能であることを特徴とする。
【0017】
前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、前記第1ノズルは、前記レーザー光の照射部分の移動方向下流側から前記レーザー光の照射部分に気体を噴射するのが好ましい。
【0018】
前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、前記気体噴射手段は、前記レーザー光の光路に気体を噴射して前記溶融物を含む飛翔物を前記光路から排除する第2ノズルを備えるのが好ましい。
【0019】
また前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、吸引手段をさらに有し、前記吸引手段は前記溶融物を含む飛翔物を気体と共に吸引するのが好ましい。
【0020】
また前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、前記吸引手段は、吸引開口と排出開口とを有する吸引ヘッドを備え、前記吸引ヘッドは、前記吸引開口が前記レーザー光の照射部分の移動方向上流側から前記レーザー光の照射部分に臨むように配置されるのが好ましい。
【0021】
また前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、前記吸引手段は、吸引開口と排出開口とを有する吸引ヘッドを備え、前記吸引開口は前記構造物に臨むように設けられ、前記吸引ヘッドは、少なくとも前記レーザー光の照射部分及びその周囲を覆うように配置されるのが好ましい。
【0022】
また前記構成のアスベスト含有層の除去装置において、分離回収手段をさらに有し、前記分離回収手段は、前記吸引手段によって吸引された吸引物から溶融物を分離回収するのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を従来よりも短時間で除去することができる。また、作業者が防護服を着用することなく、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態の除去装置および除去方法の一例を示す概説図である。
【
図2】第1実施形態の除去装置および除去方法の一例を示す主要部の斜視図である。
【
図3】第2実施形態の除去装置および除去方法の一例を示す主要部の概説図である。
【
図4】実施例におけるアスベスト含有層の除去跡の写真である。
【
図5】移動速度7m/minのときのアスベスト含有層の除去跡およびその底面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るアスベスト含有層の除去装置および除去方法(以下、単に「除去装置」、「除去方法」と記すことがある。)を図に基づいてさらに詳しく説明するが本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0026】
(第1実施形態)
図1に、本発明に係るアスベスト含有層の除去装置の一例を示す概説図、
図2に除去装置の主要部の斜視図をそれぞれ示す。除去装置Dは、レーザー照射手段1と、気体噴射手段2と、吸引手段3とを備える。除去装置Dは構造物Sに対して相対的に移動可能であり、ビルなどの建築物の外壁や内壁のアスベスト含有層Lを除去する場合には除去装置Dが移動する。除去装置Dの相対移動速度は、実際の作業性などを考慮すれば除去幅5mm程度の場合5m/min以上であるのが望ましく、より好ましくは7m/min以上である。除去装置Dを移動させる手段としては、例えば多関節アームを有するマニピュレーターによるものであってもよいし、作業員の操作による移動であってもよい。
【0027】
(レーザー照射手段1)
レーザー照射手段1は、レーザー発信器11と、レーザー光を伝送するファイバーケーブル12と、加工ヘッド13とを有する。レーザー発信器11から出射されたレーザー光はファイバーケーブル12中を伝送されて加工ヘッド13に導光される。加工ヘッド13に至ったレーザー光は、加工ヘッド13に内蔵されたレンズ14によって集光されて所定形状の照射スポット(照射部分)SPとされる。
【0028】
レーザー照射手段1で使用するレーザー発信器11としては、固体レーザー発信器や気体レーザー発信器など従来公知のレーザー発信器を使用可能であるが、作業現場での施工性や二酸化炭素量の低減などの観点からは固体レーザー発信器である半導体レーザー発信器やファイバーレーザー発信器が好適に使用される。レーザー発信器11の出力としては現実的には数kWから数十kW程度である。
【0029】
ファイバーケーブル12は、レーザー発信器11から出射されたレーザー光を加工ヘッド13に導く働きを奏し、1個であってもよいし複数個設けてもよい。また、加工ヘッド13との間にレーザー光分岐光学装置を設けて複数個の加工ヘッドにレーザー光を伝送してもよい。
【0030】
加工ヘッド13はレーザー発信器11から出射されたレーザー光を絞って所定形状の照射スポットSPとし構造物Sの表面のアスベスト含有層Lに照射する。照射スポットSPの形状は、例えば、四角形状や円形状などいずれの形状であってもよいが、作業効率等の観点からは四角形状が好ましい。
【0031】
また照射スポットSPの面積に特に限定はなく、レーザー発信器11の出力等を考慮してアスベスト含有層Lを溶融させることが可能な面積とする。照射スポットSPの面積はレーザー光の焦点位置からの距離によって調整可能である。
【0032】
アスベスト含有層Lを確実に除去するためには、アスベスト含有層Lと構造物Sの界面までレーザーエネルギーが届くことが重要である。一方で、構造物Sにはレーザー光の照射による影響を与えないことも重要である。レーザー光の照射による付与エネルギーは、レーザー光の出力やレンズ14による焦点距離、照射角度、移動速度などで制御することができる。
【0033】
加工ヘッド13から構造物Sへのレーザー光の照射角度は、アスベスト含有層Lに対して垂直であってもよいし、所定の前進角θ1や後進角θ2を有していてもよい。後述する気体噴射手段2によって溶融物を含む飛翔物がレーザー光の光路から速やかに排除されて、レーザー光が飛翔物で吸収されず効率的にアスベスト含有層Lに到達するには、加工ヘッド13からのレーザー光の照射角度は前進角θ1を有するのが好ましい。アスベスト含有層Lをより効率的に溶融除去する等の観点からは、前進角θ1は10°以上30°以下の範囲が好ましい。
【0034】
アスベスト含有層Lを溶融させるとともに構造物Sへの影響は最小限にするには、レーザーエネルギー密度とレーザービーム走査速度の制御が重要となる。また気体噴射手段2から噴射される気体量や吸引手段3の形状・配置なども重要となる。レーザーのエネルギー密度は2kW/cm2~14kW/cm2の範囲が好ましい。レーザーの照射スポットSPの移動速度は、アスベスト含有層の単位時間当たりの除去面積が実使用上好適な5m2/h~10m2/hとなるように照射スポットSPの大きさを考慮して適宜決定すればよく、一般に、1m/min~15m/minの範囲が好ましい。
【0035】
(気体噴射手段2)
気体噴射手段2は、気体を圧縮して所定圧力の気体(アシストガス)を生成させる圧縮機21と、生成されたアシストガスを照射スポットSPに吹き付ける第1ノズル22と、レーザー光の光路上に噴出した溶融物を含む飛翔物を光路上から排除する第2ノズル23とを有する。第1ノズル22は、照射スポットSPよりも照射スポット移動方向下流側に位置し、照射スポットSPに向かってアシストガスを吹き付ける。第1ノズル22は、照射スポットSPに近いほど溶融物等を構造物Sから効果的に除去できるので、レーザー光に干渉しない範囲で照射スポットSPの近傍に取り付けるのが好ましい。第1ノズル22のアシストガスの吹付角度は、アスベスト含有層Lの溶融物等が構造物Sから効率的に除去されるよう適宜定めればよい。
【0036】
第2ノズル23は、照射スポットSPよりも照射スポット移動方向下流側で、第1ノズル22よりも構造物Sから離れたところに位置し、レーザー光の光路に向かってアシストガスを吹き付ける。第2ノズル23の具体的な取り付け位置や光路へのアシストガスの吹付角度などは、溶融物を含む飛翔物がレーザー光の光路から速やかに排除されるよう適宜定めればよい。
【0037】
第1ノズル22および第2ノズル23は、照射スポットSPの移動と共に照射スポットSPおよびレーザー光の光路との距離を保持しながら移動可能とされる。また第1ノズル22及び第2ノズル23の設置個数に限定はなく2本以上設けても構わない。
【0038】
アシストガスとしてはエアや窒素などが好適に使用される。またアシストガスの圧力及び流量は、除去するアスベスト含有層Lの厚みや材質などを考慮して適宜決定すればよいが、通常、アシストガスの圧力は0.5kPa~1.5kPaの範囲が好ましく、アシストガスの流量としては0.1m3/min~0.3m3/minの範囲が好ましい。また、第1ノズル22と第2ノズルとでアシストガスの圧力や流量が異なるようにしてもよい。
【0039】
(吸引手段3)
吸引手段3は、吸引ヘッド31と、サイクロン分離器32と、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター33と、排気ブロア34とを備える。
【0040】
吸引ヘッド31は、照射スポットSPよりも照射スポット移動方向上流側に配置され、照射スポットSPとの距離を保持しながら照射スポットSPの移動と共に移動可能とされる。
図2に示すように、吸引ヘッド31は、アスベスト含有層Lの表面に対して垂直方向から見たときに等脚台形状の箱部材であって、照射スポットSPの移動方向下流側の上底が移動方向上流側の下底よりも長く、アスベスト含有層Lの表面から離れる方向の高さは照射スポットSPの移動方向上流側から下流側に向かって高くなる形状を有している。そして、照射スポットSPの移動方向下流側の側面すなわち照射スポットSPに臨む面が吸引開口311とされ、照射スポットSPの移動方向上流側の側面に排気開口312が形成されている。吸引ヘッド31の排気開口312とサイクロン分離器32の吸気口321とは管91で接続されている。
【0041】
吸引ヘッド31の吸引開口311と照射スポットSPとの距離や吸引量は、レーザー光の照射強度や照射スポットSPの面積などを考慮して適宜決定すればよい。
【0042】
サイクロン分離器32は、分離器の上部側壁から接線方向に突出して設けられた吸気口321と、分離器の上面中央から上方に突出して設けられた排気口322と、分離器の下部に設けられた、気体から分離されたスラグが集められる集塵部323とを有する。
【0043】
HEPAフィルター33は、サイクロン分離器32の排気口322と排気ブロア34とを接続する管92の途中部に設けられている。HEPAフィルター33は、サイクロン分離器32から排出された気体から未溶融アスベストなどの微小粉塵を分離し、環境安全性に問題のない気体が排気ブロア34から排出されるようにする。HEPAフィルター33としては従来公知の物が使用できる。
【0044】
なお、除去装置Dは、アスベスト含有層Lの溶融・除去作業において、加工ヘッド13、第1ノズル22、第2ノズル23、吸引ヘッド31が互いの位置関係を固定した状態で移動可能とされ、その他の装置構成は所定位置に固定状態とされていてもよい。
【0045】
(溶融除去作業)
アスベスト含有層Lはアスベストを含有している層であって、例えば、構造物Sの外壁や内壁の表面に形成されたアスベスト含有層Lは、アスベストを含む仕上塗材層と石灰(CaO)や珪砂(SiO)を含む下地調整層の積層構造を有していることがある。本発明の除去装置および除去方法では、アスベスト含有層Lがこのような積層構造の場合には仕上塗材層と共に下地調整層もレーザー光で溶融除去する。
【0046】
アスベストには数種類があるが、構造物Sの外内壁に吹付け形成されたアスベスト含有層にはクリソタイルが主に使用されている。クリソタイルは融点が1500℃とアスベストの中で最も高い。アスベスト含有層Lに含まれる石灰の融点は2570℃、珪砂の融点は1700℃である。したがって、レーザー光の照射による加熱温度は、アスベスト含有層Lに含まれる成分の最も高い融点以上(上記場合は2570℃以上)とする必要がある。
【0047】
構造物Sとしては主としてビルなどの建造物であるがこれに限定されるものではなく、例えば船舶や車両なども含まれる。
【0048】
前記構成の除去装置Dによるアスベスト含有層Lの除去は、まず、加工ヘッド13、第1ノズル22、第2ノズル23、吸引ヘッド31が所定位置に配置される。すなわち、レーザー光が所定角度でアスベスト含有層Lに照射し、所定面積の照射スポットSPが形成されるように加工ヘッド13が配置され、照射スポットSPの移動方法下流側に第1ノズル22と第2ノズル23が位置し、移動方向上流側に吸引ヘッド31が位置するように各々が配置される。
【0049】
次にレーザー発信器11からレーザー光が出射されて、加工ヘッド13によって集光されアスベスト含有層Lに所定面積の照射スポットSPが形成される。このとき同時に圧縮機21が作動されて、第1ノズル22から照射スポットSPに向かってアシストガスが吹き付けられ、第2ノズル23からレーザー光の光路にアシストガスが吹き付けられる。また排気ブロア34も作動されて吸引ヘッド31が照射スポットSPを中心とした周り空気を吸引する。
【0050】
加工ヘッド13から照射されるレーザー光によってアスベスト含有層Lが溶融される。溶融したアスベストは石灰(CaO)、珪砂(SiO)などと混じり合ったスラグとなり無害化する。そしてスラグはアシストガスによって構造物Sの表面から吹き飛ばされ、吸引ヘッド31に吸引される。また、構造物Sとアスベスト含有層Lとの界面から大きさ0.5mm程度の微粉塵が発生する場合がある。微粉塵の発生量は除去量全体の数%以下であるが、微粉塵は未溶融のアスベストが含有されていることがある。このような微粉塵もアシストガスによって構造物Sの表面から吹き飛ばされ吸引ヘッド31に吸引される。
【0051】
吸引ヘッド31で吸引されたスラグと微粉塵とはサイクロン分離器32によって分離される。すなわち、比重の大きいスラグはサイクロン分離器32の下部の集塵部323に落下し、スラグよりも比重の小さい微粉塵は気流に乗ってサイクロン分離器32の排気口322から排出される。そして、サイクロン分離器32から排出された気流はHEPAフィルター33に送られ、ここで気流中の微粉塵が捕集される。HEPAフィルター33を通過した気体は排気ブロア34によって外部に放出される。排出される気体はスラグおよび微粉塵が取り除かれているので環境安全性が担保される。
【0052】
サイクロン分離器32によって分離されたスラグは、例えば再生骨材等に再利用される。またHEPAフィルター33で捕集された微粉塵は未溶融のアスベストを含んでいることがあるので、例えばレーザー加熱チャンバーにより溶融スラグ化されて無害化された後、再生骨材等として再利用される。
【0053】
(第2実施形態)
図3に、第2実施形態に係る除去装置の部分構成図を示す。
図3に一部が示される除去装置は、レーザー照射手段1と、気体噴射手段2と、吸引手段3とを備える点は第1実施形態の除去装置Dと同じであり、吸引手段3の吸引ヘッド35の構成が第1実施形態の除去装置と異なる。以下、吸引ヘッド35について主に説明し、第1実施形態と同じ部材については同じ符号を付しその説明を省略する。
【0054】
図3に示す吸引ヘッド35は、構造物S(またはアスベスト含有層L)に臨むように吸引開口351が形成された、逆椀形状を有するヘッド本体35aと、ヘッド本体35aの吸引開口351の周縁に設けられた、構造物S側に向かって延出した弾性を有するスカート部36とを有する。ヘッド本体35aには、外方に向かって突出形成された円筒状の排出開口352と、加工ヘッド13を嵌入可能な第1開口353と、第1ノズル22を嵌入可能な第2開口354と、第2ノズル23を嵌入可能な第3開口355とが形成されている。
【0055】
第1開口353には、構造物S(またはアスベスト含有層L)に対して所定角度で、所定面積の照射スポットSPが形成されるように加工ヘッド13が嵌入される。第2開口354には照射スポットSPに対して所定距離及び高さ位置などとなるように第1ノズル22が嵌入される。第3開口355にはレーザー光の光路に対して所定距離などとなるように第2ノズル23が嵌入される。排出開口352には、他方端がサイクロン分離器32(
図1に図示)の給気口321に接続された管91の一方端が接続される。
【0056】
スカート部36は、構造物S(またはアスベスト含有層L)と接触し、吸引ヘッド35と構造物S(またはアスベスト含有層L)との間に隙間ができないように、吸引ヘッド35と構造物S(またはアスベスト含有層L)との距離の変動を吸収する役割を果たす。
【0057】
吸引ヘッド35は、不図示の移動手段によって、加工ヘッド13、第1ノズル22及び第2ノズル23の移動に伴って移動可能である。換言すると、吸引ヘッド35の移動によって加工ヘッド13、第1ノズル22及び第2ノズル23が移動する。
【0058】
また、ヘッド本体35a内が吸引手段3によって常に負圧に保持されている場合には、スカート部36は設けなくても構わない。むしろヘッド本体35aと構造物S(またはアスベスト含有層L)との間に積極的に隙間を設けて、ヘッド本体35a内に外部から大気が流入するようにしてもよい。第1ノズル22及び第2ノズル23からの気体噴射と共に、ヘッド本体35a内に流入する外部大気の流れを利用して構造物Sの表面からスラブを一層効果的に取り除くことが可能となる。
【実施例0059】
図1に示す除去装置Dを用いて、構造物Sの表面に形成されたアスベスト含有層Lを溶融除去した。具体的には、アスベスト含有層Lは仕上塗材層(アスベスト含有)1.5mmと、下地調整層(モルタル層)1.5mmとが積層された構造とした。そして、レーザー光の照射スポットSPの移動速度を7m/min,10m/min,13m/minとしてアスベスト含有層Lの構造物S表面からの除去程度を拡大鏡を用いて目視で観察した。
図4及び
図5にアスベスト含有層Lを除去した後の構造物Sの表面の拡大写真を示す。なお、レーザー等の使用条件は下記のとおりである。
【0060】
(レーザー)
レーザー出力:6kW
照射スポットSP形状:6.5mm角の正方形状
焦点位置:-10mm(観察により変更)
照射角度:前進角20°(観察により変更)
移動速度(単位時間当たりの除去面積): 7m/min(2.94m2/h)
:10m/min(4.20m2/h)
:13m/min(5.07m2/h)
※アスベスト含有層Lの除去幅が7mm,除去深さが2.5mm~3.0mmとなるように観察により微調整
【0061】
(アシストガス)
種類:エアー
圧力:0.75~1.0MPa
流量:120~260L/min
噴射角度:70度(鉛直から)
【0062】
(吸引)
吸引量:26L/min
【0063】
図4から明らかなように、照射スポットの移動速度を7m/min,10m/min,13m/minと変化させたとき、いずれの移動速度でもアスベスト含有層はほぼ完全に除去されていた。
図5は移動速度7m/minでアスベスト含有層の除去跡および除去跡底面の拡大写真である。
図5には、アスベスト含有層除去跡の底面に、溶融してガラス化した薄層が見られ、また薄層下の構造体が透けて見える
【0064】
これらのレーザー光の照射によるアスベスト含有層の除去幅7mmと移動速度から単位時間当たりのアスベスト含有層の除去面積を算出すると、2.94m2/h,4.20m2/h,5.07m2/hとなり高い作業処理性が得られることが確認された。
以上から、レーザー出力を実使用可能な20kWとし、第1ノズル22及び第2ノズル23の配置や噴出圧力・流量などの最適化を行えば、アスベスト含有層の単位時間当たりの除去面積は最大10m2/hまで高速化可能と考えられる。
本発明の除去方法および除去装置によれば、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を従来よりも短時間で除去することができる。また、遮蔽空間を設けることなく、作業者が防護服を着用することなく、構造物の表面に形成されたアスベスト含有層を除去することができる。