(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172036
(43)【公開日】2022-11-14
(54)【発明の名称】複合酸化物ターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221107BHJP
C04B 35/053 20060101ALI20221107BHJP
C04B 35/46 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/053
C04B35/46
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117535
(22)【出願日】2021-07-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】110115003
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】502294194
【氏名又は名称】光洋應用材料科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔡 登安
(72)【発明者】
【氏名】陳 衍任
(72)【発明者】
【氏名】鄭 惠文
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029DC05
4K029DC09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】MgO凝集を抑制及び/又は緩和した複合酸化物ターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ターゲットは、MgO及びTiOを含む。MgOの全原子数は5at%~90at%であり、TiOの全原子数は10at%~95at%である。複合酸化物ターゲット中のMgOを含有する黒色相の平均粒度は2μm以下であり、その分散は0.2未満である。この方法は、5μm以下のMgO粉末及び10μm以下のTiO粉末を準備するステップ、粉末を混合して粉末化混合物を得るステップ、粉末化混合物を48時間超にわたって粉砕して、微細粉末化混合物を得るステップ、微細粉末化混合物を予備成形して、圧粉体とするステップ、圧粉体を900℃~1400℃の範囲の温度で焼結して、複合酸化物ターゲットを得るステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム及び酸化チタン(II)を含む、複合酸化物ターゲットであって、
前記複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、前記酸化マグネシウムの全原子数が5原子パーセント以上90原子パーセント以下であり、及び前記酸化チタン(II)の全原子数が10原子パーセント以上95原子パーセント以下であり、並びに
前記複合酸化物ターゲットが、前記酸化マグネシウムを含む複数の黒色相を含み、前記黒色相の平均粒度が2マイクロメートル以下であり、及び前記黒色相の粒度の分散が0.2未満である、複合酸化物ターゲット。
【請求項2】
添加剤を含み、前記添加剤が、第1の添加剤、第2の添加剤又はその組み合わせであり、前記第1の添加剤が、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、酸化クロム(III)、二酸化ケイ素及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、並びに前記第2の添加剤が、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素及びその任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項3】
前記添加剤の全原子数が、前記複合酸化物ターゲットの全原子数に対して1原子パーセント以上6原子パーセント以下である、請求項2に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項4】
前記複合酸化物ターゲットの曲げ強度が、1億パスカルを超える、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項5】
前記複合酸化物ターゲットの熱伝導率が、10ワット毎メートル毎ケルビンを超える、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項6】
複合酸化物ターゲットの製造方法であって、
酸化マグネシウム粉末及び酸化チタン(II)粉末を準備するステップであって、前記酸化マグネシウム粉末の粒径が5マイクロメートル以下であり、前記酸化チタン(II)粉末の粒径が10マイクロメートル以下である、ステップ、
前記酸化マグネシウム粉末と前記酸化チタン(II)粉末とを混合して粉末化混合物を得るステップであって、前記粉末化混合物の全原子数に対して、前記酸化マグネシウム粉末の全原子数が、5原子パーセント以上90原子パーセント以下であり、及び前記酸化チタン(II)粉末の全原子数が、10原子パーセント以上95原子パーセント以下である、ステップ、
前記粉末化混合物を48時間以上粉砕して、微細粉末化混合物を得るステップ、
前記微細粉末化混合物を予備成形して、圧粉体とするステップ、並びに
前記圧粉体を900℃~1400℃の範囲の温度で焼結して、複合酸化物ターゲットを得るステップ
を含む方法。
【請求項7】
前記方法が、前記粉末化混合物を48時間以上粉砕して前記微細粉末化混合物を得るステップの後に、前記粉末化混合物をふるいでふるい分けするステップを含み、前記ふるいのメッシュサイズが400メッシュ~600メッシュである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧粉体が、300キログラム/平方センチメートル~510キログラム/平方センチメートルの範囲の圧力下で1.5時間~5時間焼結される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が粉末化添加剤を供給して、前記酸化マグネシウム粉末、前記酸化チタン(II)粉末及び前記粉末化添加剤を混合して、前記粉末化混合物を得るステップを含み、前記粉末化添加剤が、第1の粉末化添加剤、第2の粉末化添加剤又はその組み合わせを含み、前記第1の粉末化添加剤が、酸化アルミニウム粉末、二酸化ジルコニウム粉末、酸化クロム(III)粉末、二酸化ケイ素粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、前記第1の粉末化添加剤の粒径が、3マイクロメートル以下であり、前記第2の粉末化添加剤が、アルミニウム粉末、ジルコニウム粉末、クロム粉末、ケイ素粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、前記第2の粉末化添加剤の粒径が、50マイクロメートル以下であり、前記粉末化混合物の全原子数に対して、前記粉末化添加剤の全原子数が、1原子パーセント以上6原子パーセント以下である、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粉末化混合物を48時間以上120時間以下にわたって粉砕する、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物ターゲット及びその製造方法に関し、特に熱アシスト磁気記録方式(HAMR)媒体のバリア層用複合酸化物ターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ内のすべてのデータは、ディスクプラッタのトラックに磁気的に記録されている。従来、データは、水平磁気記録方式の媒体を使用してプラッタの表面に対して平行に保存されていた。しかし、近年、ハードディスクのより高い記憶能力を達成するために、データをディスクに対して垂直に配置する、垂直磁気記録方式の媒体が使用されている。しかし、熱安定性、書き込み性及び信号対雑音比の制限下で、垂直磁気記録方式媒体は理論記憶容量の最大限界に近づいている。膨大な量のデータを記憶するという要求を満たすようにハードディスクの記憶容量を増加させ続けるために、熱アシスト磁気記録方式(HAMR)が上記の重要な問題を解決するように開発された。
【0003】
HAMR媒体への書き込みのために、磁気記録領域は集束レーザビームによって加熱され、その磁性複合材料は、磁性複合材料の保磁力を一時的に低下させるようにキュリー温度を超えて加熱される。データ書き込み後、レーザ光はもはや磁気記録層に集光しないため、磁気記録層が冷却されて記録されたデータを安定化させる。
【0004】
HAMR媒体の積層構造は、下から上へ、基板、下地層、軟磁性層、結晶配向制御層、放熱層、バリア層、磁気記録層、潤滑層及びオーバーコート層を含む。磁気記録層は、集光されたレーザ光からの熱に耐えるために、FePt合金などの高安定性磁性複合材料を必要とする。FePt合金は高温下で磁気記録層の下の層に拡散しやすいため、FePt合金の拡散を緩和又は抑制するように、磁気記録層の下にバリア層を配置することが必須である。
【0005】
HAMR媒体のバリア層は、通常、酸化マグネシウム(MgO)などの耐熱性材料から作られる。MgOは導電性ではないため、通常、高周波(RF)マグネトロンスパッタリングによりMgOターゲットをスパッタリングして成膜する。しかし、RFマグネトロンスパッタリングは、成膜レートが低く、収率が低いという欠点がある。現在、酸化チタン(II)(TiO)をMgOターゲットに添加して導電性を向上させることができ、そのためバリア層は直流(DC)マグネトロンスパッタリングによって製造できることが既知である。それにもかかわらず、MgO粉末及びTiO粉末からなる現在の複合酸化物ターゲットは、焼結後に必然的にMgO凝集体を含むため、複合酸化物ターゲットの特性が低下する。加えて、スパッタリング中に多くの粒子が生成されるため、現在の複合酸化物ターゲットから製造された、得られたフィルムの特性及び収率に影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
先行技術の欠点を克服するために、本発明の目的の1つは、複合酸化物ターゲットにおけるMgO凝集を抑制及び/又は緩和することである。
【0008】
本発明の別の目的は、複合酸化物ターゲットのスパッタリング中に、粒子生成を効果的に抑制し、及び/又は生成される脱落粒子の数を減少させることである。
【0009】
本発明の別の目的は、複合酸化物ターゲットの曲げ強度及び熱伝導率を改善することである。
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明は、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化チタン(II)(TiO)を含む複合酸化物ターゲットを提供する。複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、酸化マグネシウムの全原子数は、5原子パーセント(at%)以上90at%以下であり得て、酸化チタン(II)の全原子数は、10at%以上95at%以下であり得る。複合酸化物ターゲットは、酸化マグネシウムを含む複数の黒色相を含み、黒色相の平均粒度は2マイクロメートル(μm)以下であり得て、黒色相の粒度の分散は0.2未満であり得る。
【0011】
複合酸化物ターゲットの組成、並びに複合酸化物ターゲットの金属組織微細構造の黒色相の平均粒度及び粒度の分散を制御することにより、本発明の複合酸化物ターゲットにおけるMgOの凝集を抑制及び/又は緩和して、複合酸化物ターゲットのスパッタリング中の粒子生成を効果的に抑制し、及び/又は生成した脱落粒子の数を低減することができる。また、複合酸化物ターゲットの曲げ強度及び熱伝導率が向上する。
【0012】
一実施形態において、複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度は、0.05μm以上2μm以下であり得る。別の実施形態において、複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度は、0.3μm以上2μm以下であり得る。
【0013】
一実施形態において、複合酸化物ターゲットの黒色相の粒度の分散は、1.00×10-5以上0.2未満であり得る。別の実施形態において、複合酸化物ターゲットの黒色相の粒度の分散は、5.00×10-5以上0.2未満であり得る。
【0014】
一実施形態において、複合酸化物ターゲットは、添加剤をさらに含み得て、添加剤は、第1の添加剤、第2の添加剤又はその組み合わせであり得る。具体的には、第1の添加剤は、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化クロム(III)(Cr2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)及びその任意の組み合わせからなる群から選択され得る。第2の添加剤は、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)及びその任意の組み合わせからなる群から選択され得る。本発明により、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を添加することによって、複合酸化物ターゲットの黒色相の成長を抑制し、複合酸化物ターゲットの黒色相の粒度の分散を制御することができる。
【0015】
本明細書において、添加剤の総量とは、第1の添加剤の総量、第2の添加剤の総量又は第1の添加剤及び第2の添加剤の総量の合計を示す。
【0016】
第1の添加剤がAl2O3、ZrO2、Cr2O3及びSiO2を含む場合、「第1の添加剤の総量」という用語は、Al2O3、ZrO2、Cr2O3及びSiO2のそれぞれの量の合計を示す。第1の添加剤がAl2O3、ZrO2、Cr2O3又はSiO2である場合、「第1の添加剤の総量」という用語は、Al2O3のそれぞれの量、ZrO2のそれぞれの量、Cr2O3のそれぞれの量又はSiO2のそれぞれの量を示す。
【0017】
第2の添加剤がAl、Zr、Cr及びSiを含む場合、「第2の添加剤の総量」とは、Al、Zr、Cr及びSiのそれぞれの量の合計を示す。第2の添加剤がAl、Zr、Cr又はSiである場合、「第2の添加剤の総量」という用語は、Alのそれぞれの量、Zrのそれぞれの量、Crのそれぞれの量又はSiのそれぞれの量を示す。
【0018】
一実施形態において、複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、添加剤の全原子数は、1at%以上6at%以下であり得る。別の実施形態において、複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、添加剤の全原子数は、3at%以上6at%以下であり得る。ここで、本発明の複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度及び粒度の分散がより低下され得る。
【0019】
本発明により、複合酸化物ターゲットは、RFマグネトロンスパッタリングプロセス及びDCマグネトロンスパッタリングプロセスなどのマグネトロンスパッタリングプロセスに好適であり得る。複合酸化物ターゲットにおけるMgOの凝集を抑制及び/又は緩和することにより、複合酸化物ターゲットのスパッタリング中の脱落粒子数が50個未満とされ得る。好ましくは、複合酸化物ターゲットのDCマグネトロンスパッタリング中の脱落粒子の数が、40個未満、30個未満、20個未満、さらには10個未満とされ得る。したがって、複合酸化物ターゲットからスパッタリングされる膜は、特性及び収率が改善されているため、HAMR媒体のバリア層に好適である。
【0020】
本明細書において、「曲げ強度」という用語は、ターゲットに単位面積当たりの曲げ荷重を加えたときに、ターゲットが受ける破断時の応力を示し、その単位は100万パスカル(MPa)である。本発明により、複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、100MPa以上であり得る。具体的には、複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、100MPa以上200MPa以下であり得る。好ましくは、複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、110MPa以上180MPa以下であり得る。より好ましくは、複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、120MPa以上170MPa以下であり得る。さらに好ましくは、複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、130MPa以上170MPa以下であり得る。
【0021】
本発明において、複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、10ワット毎メートル毎ケルビン(W/m・K)以上であり得る。具体的には、複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、10W/m・K以上30W/m・K以下であり得る。好ましくは、複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、15W/m・K以上30W/m・K以下であり得る。より好ましくは、複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、20W/m・K以上25W/m・K以下であり得る。
【0022】
さらに、本発明は、複合酸化物ターゲットの製造方法であって、
酸化マグネシウム粉末(MgO粉末)及び酸化チタン(II)粉末(TiO粉末)を準備するステップであって、MgO粉末の粒径が5μm以下であり得て、TiO粉末の粒径が10μm以下であり得る、ステップ、
MgO粉末とTiO粉末を混合して粉末化混合物を得るステップであって、前記粉末化混合物の全原子数に対して、MgO粉末の全原子数が5at%以上90at%以下であり、TiO粉末の全原子数が10at%以上95at%以下であり得る、ステップ、
粉末化混合物を48時間以上粉砕して、微細粉末化混合物を得るステップ、
微細粉末化混合物を予備成形して圧粉体とするステップ、並びに
圧粉体を900℃~1400℃の範囲の温度で焼結して、複合酸化物ターゲットを得るステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0023】
本発明により、原料粉末の粒径や及び混合比、粉砕時間並びに焼結温度を制御することにより、本発明の方法で製造された複合酸化物ターゲットでは、その金属組織微細構造における黒色相の平均粒度を小さくし、黒色相の粒度の分散を小さくすることができる。即ち、本発明の方法により、複合酸化物ターゲットにおけるMgOの凝集を抑制及び/又は緩和して、複合酸化物ターゲットのスパッタリング中に粒子生成を効果的に抑制及び/又は脱落粒子の数を低減することができる。また、複合酸化物ターゲットの曲げ強度及び熱伝導率を向上させることができる。
【0024】
上述の方法の一実施形態において、MgO粉末の粒径は、0.5μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、0.5μm以上10.0μm以下であり得る。好ましくは、MgO粉末の粒径は1.0μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は1.0μm以上10.0μm以下であり得る。より好ましくは、MgO粉末の粒径は2.0μm以上5.0μm以下であり、TiO粉末の粒径は2.0μm以上10.0μm以下であり得る。
【0025】
又は、上述の方法は、粉末化添加剤を供給して、MgO粉末、TiO粉末及び粉末化添加剤を混合し、粉末化混合物を得ることをさらに含む。粉末化添加剤は、第1の粉末化添加剤、第2の粉末化添加剤又はその組み合わせを含む。第1の粉末化添加剤は、Al2O3粉末、ZrO2粉末、Cr2O3粉末、SiO2粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され得て、第1の粉末化添加剤の粒径は3μm以下であり得る。第2の粉末化添加剤は、Al粉末、Zr粉末、Cr粉末、Si粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され得て、第2の粉末化添加剤の粒径は50μm以下であり得る。粉末化混合物の全原子数に対して、粉末化添加剤の全原子数は、1at%以上6at%以下であり得る。具体的には、第1の粉末化添加剤の粒径は、0.1μm以上3μm以下であり得て、第2の粉末化添加剤の粒径は、1μm以上50μm以下であり得る。好ましくは、第1の粉末化添加剤の粒径は、0.1μm以上1μm以下であり得て、前記第2の粉末化添加剤の粒径は、10μm以上50μm以下であり得る。
【0026】
上述の方法の一実施形態において、MgO粉末の粒径は、0.5μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、0.5μm以上10.0μm以下であり得て、ZrO2粉末の粒径は、0.1μm以上1.0μm以下であり得る。好ましくは、MgO粉末の粒径は、1.0μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、1.0μm以上10.0μm以下であり得て、ZrO2粉末の粒径は、0.2μm以上0.8μm以下であり得る。より好ましくは、MgO粉末の粒径は、2.0μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、2.0μm以上10.0μm以下であり得て、ZrO2粉末の粒径は、0.3μm以上0.6μm以下であり得る。
【0027】
上述の方法の一実施形態において、MgO粉末の粒径は、0.5μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、0.5μm以上10.0μm以下であり得て、Al粉末の粒径は、10μm以上70μm以下であり得る。好ましくは、MgO粉末の粒径は、1.0μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は、1.0μm以上10.0μm以下であり得て、Al粉末の粒径は、20μm以上60μm以下であり得る。より好ましくは、MgO粉末の粒径は、2.0μm以上5.0μm以下であり得て、TiO粉末の粒径は2.0μm以上10.0μm以下であり得て、Al粉末の粒径は30μm以上50μm以下であり得る。
【0028】
好ましくは、上述の方法において、粉砕時間は、48時間以上120時間以下であり得る。上述の方法のいくつかの実施形態において、粉砕時間は、60時間以上120時間以下であり得る。
【0029】
又は、上述の方法において、粉末化混合物は、48時間以上粉砕され、さらにふるいでふるい分けされて、微細粉末化混合物が得られてよく、ふるいのメッシュサイズは400メッシュ~600メッシュであり得る。
【0030】
微細粉末化混合物は、予備成形して圧粉体とすることができる限り、様々な条件下で予備成形され得ることが理解される。一実施形態において、微細粉末化混合物は、金型に均一に充填され、次いで50キログラム/平方センチメートル(kg/cm2)~100kg/cm2の圧力下で予備成形して、圧粉体とされ得る。
【0031】
好ましくは、上述の方法では、焼結温度は1000℃~1300℃であり得る。
【0032】
本発明により、上述の方法において、焼結時間は、1.5時間以上5時間以下であり得る。好ましくは、焼結時間は、1.5時間~4時間であり得る。より好ましくは、焼結時間は、1.5時間~3時間であり得る。
【0033】
本発明により、上述の方法において、焼結圧力は、300kg/cm2~510kg/cm2であり得る。好ましくは、焼結圧力は、300kg/cm2~400kg/cm2であり得る。
【0034】
本発明により、圧粉体は、熱間加圧(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方圧加圧(HIP)又はその任意の組み合わせによって焼結され得る。一実施形態において、HPプロセスの焼結温度は1000℃~1300℃であり得て、HPプロセスの焼結圧力は300kg/cm2~450kg/cm2であり得る。別の実施形態において、SPSプロセスの焼結温度は、950℃~1150℃であり得て、SPSプロセスの焼結圧力は、400kg/cm2~510kg/cm2であり得る。さらに別の実施形態において、HIPプロセスの焼結温度は1050℃~1150℃であり得て、HIPプロセスの焼結圧力は350kg/cm2~510kg/cm2であり得る。
【0035】
本発明の他の目的、利点及び新規特徴は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】実施例1の複合酸化物ターゲットの白色相及び黒色相の組成を同定するために、エネルギー分散型X線分光器(EDS又はEDX)によって分析される、2つの選択されたスポットを示し、これらの選択された2つのスポットは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された金属組織画像に表示されている。
【
図2A】実施例1の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図2B】画像解析ソフトImageJで処理した、
図2Aの高解像度画像である。
【
図3A】実施例8の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図3B】画像解析ソフトImageJで処理した
図3Aの高解像度画像である。
【
図4A】実施例10の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図4B】画像解析ソフトImageJで処理した
図4Aの高解像度画像である。
【
図5A】実施例17の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図5B】画像解析ソフトImageJで処理した
図5Aの高解像度画像である。
【
図6A】比較例1の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図6B】画像解析ソフトImageJで処理した
図6Aの高解像度画像である。
【
図7A】比較例9の複合酸化物ターゲットの金属組織構造を示すSEM画像である。
【
図7B】画像解析ソフトImageJで処理した
図7Aの高解像度画像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下にいくつかの複合酸化物ターゲットを例示して、本発明の技術的手段が、複合酸化物ターゲットの特性を改善し、複合酸化物ターゲットのスパッタリング中の粒子生成を効果的に抑制し、及び/又は生成される脱落粒子の数を低減するように、複合酸化物ターゲット中の黒色相の凝集を抑制及び/又は緩和し、黒色相の粒度を縮小し、黒色相の粒度の分散を低減できることを実証する。当業者は、本明細書の内容に従って、本発明の利点及び効果を容易に実現することができる。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明を実施又は適用するために、様々な修正及び変形を行うことができる。
実施例1~23(E1~E23):複合酸化物ターゲット
【0038】
実験の説明を簡潔にするために、E1を一例としてステップを説明する。E2~E23の複合酸化物ターゲットを、以下に述べるのと同様の方法によって製造した。
【0039】
まず、E1~E23の複合酸化物ターゲットを調製するための原料として、純度99.99%及び粒径3.0μm~4.5μmのMgO粉末、純度99.9%及び粒径7.0μm~9.5μmのTiO粉末、純度99.9%及び粒径0.5μmのZrO2粉末並びに純度99.5%及び粒径45μmのAl粉末を適量供給し、ZrO2粉末を第1の粉末化添加剤として使用し、Al粉末を第2の粉末化添加剤として使用した。E1~E23それぞれについて、すべての原料粉末の量及びその粒径を以下の表1に示す。
【0040】
続いて、E1に使用したMgO粉末、TiO粉末並びに第1及び第2の粉末化添加剤を含む原料粉末を混合して、粉末化混合物を得た。表1において、各原料粉末の量を、粉末化混合物の全原子数に基づいて決定し、その単位はat%である。
【0041】
粉末化混合物を表1の粉砕時間に従って少なくとも48時間粉砕し、次いで400メッシュのふるいでふるい分けして、微細粉末化混合物を得た。他の実施形態において、ふるい分けは、実際の必要に基づいて省略可能であり、即ち、粉末化混合物を単に粉砕することによって、微細粉末化混合物を得た。
【0042】
その後、選択した金型に微細粉末化混合物を均一に充填し、次いで油圧プレスで70.31kg/cm2の圧力で予備成形を行い、圧粉体を得た。
【0043】
最後に、圧粉体を焼結温度1000℃~1300℃、焼結圧力400kg/cm2にて2時間焼結し、HP、SPS、HIPによるE1の複合酸化物ターゲットを得た。
【0044】
E2~E23の複合酸化物ターゲットを表1及び上記同様の方法に従って製造した。
【0045】
表1に示す原料粉末の量は、上述した方法によって製造した複合酸化物ターゲットの組成の量と実質的に同じ又は同様であることが理解される。E1を一例とすると、その原料粉末の量に応じて、E1の複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、E1の複合酸化物ターゲットのMgOの全原子数は50at%であり、E1の複合酸化物ターゲットのTiOの全原子数は50at%である。
比較例1~9(CE1~CE9):複合酸化物ターゲット
【0046】
実験の説明を簡潔にするために、CE1を一例としてステップを説明する。CE2~CE9の複合酸化物ターゲットを、以下に述べるのと同様の方法によって製造した。
【0047】
まず、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットを調製するための原料として、純度99.99%及び粒径12.5μm~14.0μmのMgO粉末、純度99.9%及び粒径29.5μm~38.5μmのTiO粉末、純度99.9%及び粒径1.2μmのZrO2粉末並びに純度99.5%及び粒径60μmのAl粉末を適量供給し、ZrO2粉末を第1の粉末化添加剤として使用し、Al粉末を第2の粉末化添加剤として使用した。CE1~CE9それぞれについて、すべての原料粉末の量及びその粒径を以下の表1に示す。
【0048】
続いて、CE1に用いた原料粉末を混合し、粉末化混合物を得た。表1において、各原料粉末の量を、粉末化混合物の全原子数に基づいて決定し、その単位はat%である。
【0049】
粉末化混合物を表1の粉砕時間に従って24時間~36時間粉砕して、微細粉末化混合物を得た。
【0050】
その後、選択した金型に微細粉末化混合物を均一に充填し、次いで油圧プレスで70.31kg/cm2の圧力で予備成形を行い、圧粉体を得た。
【0051】
最後に、圧粉体を焼結温度1000℃~1300℃、焼結圧力400kg/cm2にて2時間焼結し、HP、SPS、HIPによるCE1の複合酸化物ターゲットを得た。
【0052】
CE2~CE9の複合酸化物ターゲットを表1及び上記同様の方法に従って作製した。
【0053】
表1:E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの原料粉末の量及びその粒径、プロセスパラメータ、複合酸化物ターゲットの特性、並びにE1~E23及びCE1~CE9のスパッタリング中の脱落粒子数。
【表1】
【0054】
試験例1:黒色相の平均粒度及び粒度の分散
この試験例では、まず、E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの金属組織をSEMで観察した。金属組織微細構造の黒色相及び白色相の組成をEDXによって分析して、黒色相の粒度を画像解析ソフトで解析した。
【0055】
E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットを、ウォータージェット切断及び研削によって直径152ミリメートル(mm)及び厚さ6mmの円板形状の複合酸化物ターゲットに機械加工した。次いで円板形状の各複合酸化物ターゲットから、ワイヤカットにより、その半値半径(r/2)にて10mm×10mmのサンプルを採取した。
【0056】
ここでは、E1の10mm×10mmのサンプルを一例として、E1の複合酸化物ターゲットの黒色相の組成並びにE1の黒色相の平均粒度及び粒度の分散の計算について説明した。E2~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度及び粒度の分散も同様の方法で算出した。
【0057】
まず、E1のサンプルの金属組織微細構造をSEM(製造者:日立;機種:S-3400N)下、倍率2000倍で観察した。続いて、金属組織微細構造の白色相と黒色相の組成をEDXで分析した。
図1に示すように、一方に「A」と記した1つのスポットは黒色相にあり、「B」と記した他方のスポットは白色相にあり、金属組織微細構造の両スポットをEDXで分析して組成を同定した。結果を以下の表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示すように、E1の複合酸化物ターゲットは、黒色相の組成がMgOであり、白色相の組成がTiOである。EDXの結果に基づいて、黒色相の平均粒度及び粒度の分散を画像解析ソフトで解析し、E1の複合酸化物ターゲットにおけるMgOの凝集を評価した。
【0060】
具体的には、E1の10mm×10mmサンプルをSEM下で観察し、サンプルの5つの異なる領域にて5枚の金属組織画像をランダムに撮影した。5枚の金属組織画像を、画像解析ソフトウェアImageJの内蔵機能「Color Threshold」によって処理して、5枚の高解像度画像とした。
図2A及び
図2B、
図3A及び
図3B、
図4A及び
図4B、
図5A及び
図5B、
図6A及び
図6B、
図7A及び
図7Bは、E1、E8、E10、E17、CE1及びCE9の複合酸化物ターゲットのSEM金属組織画像及び対応する高解像度画像である。
図2B、
図3B、
図4B及び
図5Bの高解像度画像を
図6B及び
図7Bの高解像度画像と比較すると、E1、E8、E10及びE17の複合酸化物ターゲットでは、粒度がより小さく、黒色相がより均一であることが理解される。
【0061】
E1の複合酸化物ターゲット中のMgOの凝集を客観的に評価するために、ImageJの内蔵機能「Analyze Particles」によって5つのSEM金属組織画像のそれぞれにおける黒色相の粒度の平均を分析し、5つの平均値(1.16μm、1.10μm、1.61μm、1.02μm、及び1.49μm)を得た。上記の5つの平均値を平均して、即ち5つの平均値の和を5で除算して、E1の複合酸化物ターゲットの黒色相の平均(即ち、平均粒度)として1.28μmを得た。結果を上の表1に示す。
【0062】
続いて、E1の複合酸化物ターゲットの黒色相の粒度の分散を、以下の式を用いて算出した。
【数1】
【0063】
【0064】
E1の複合酸化物ターゲットの黒色相の粒度の分散の結果を表1に示す。同様に、E2~E23及びCE1~CE9の結果を同様の方法で得て、表1に示した。
【0065】
表1に示すように、E1~E23の複合酸化物ターゲットは、特定の粒径の原料粉末を適量混合し、好適な粉砕時間並びに焼結温度を制御することによって製造されたため、特定の組成を有し、その黒色相の平均粒度は2μm以下であり、黒色相の粒度の分散は0.2未満である。
【0066】
これに対して、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットの製造にかかる粉砕時間は適正に制御されず、CE1~CE9で使用した原料粉末の粒径はより大きかった。したがって、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットでは、黒色相の平均粒度は3μmを超え、黒色相の粒度の分散は0.2を超える。
【0067】
以上の実験結果から、本発明の方法によって製造した複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度はより小さく、黒色相の粒度の分散は比較的小さい。
【0068】
さらに、第1の添加剤又は第2の添加剤を必要に応じて添加した実施例(例えば、E15~E17及びE18~E20)より、添加剤の総量が増加するにつれ、複合酸化物ターゲットの黒色相の平均粒度が小さくなり、黒色相の粒度の分散も小さくなることが認められる。
【0069】
試験例2:曲げ強度
E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットを、ウォータージェット切断及び研削によって直径152mm及び厚さ6mmの円板形状の複合酸化物ターゲットに機械加工した。次に、円板形状の複合酸化物ターゲットから、長さ50mm、幅3mm、高さ4mmのサンプルを、ワイヤカットによりその半値半径(r/2)にて3個採取した。
【0070】
ここで、E1の3つのサンプルを使用して、E1の複合酸化物ターゲットの曲げ強度を分析する方法を示した。E2~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの曲げ強度を、同様の方法によって求めた。
【0071】
E1の3つのサンプルの曲げ強度を万能試験機(製造者:インストロン;機種:3365シリーズ;加圧速度:0.008ミリメートル毎秒(mm/s))で測定し、3つの値を得た。3つの値の平均を使用して、E1の複合酸化物ターゲットの機械的強度を評価した。E1の複合酸化物ターゲットの曲げ強度の結果を表1に示し、その単位はMPaである。同様に、E2~E23及びCE1~CE9の結果を同様の方法で得て、表1に示した。
【0072】
表1に示すように、E1~E23の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は110MPa超である。好ましくは、E1~E5、E8~E14、E17、E20、E22及びE23の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は、130MPa超である。より好ましくは、E10、E13及びE23の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は150MPa超である。
【0073】
これに対して、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は100MPa未満である。特に、CE1~CE4、CE7及びCE8の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は90MPa未満である。より詳細には、CE2の複合酸化物ターゲットの曲げ強度は80MPa未満でさえある。
【0074】
以上の実験結果から、本発明の方法によって製造した複合酸化物ターゲットの曲げ強度は優れている。
【0075】
試験例3:熱伝導率
E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットを、ウォータージェット切断及び研削によって直径152mm及び厚さ6mmの円板形状の複合酸化物ターゲットに機械加工した。ここでは、E1の円板形状の複合酸化物ターゲットを一例として、E1の複合酸化物ターゲットの熱伝導率の算出方法を示した。E2~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの熱伝導率を、同様の方法で求めた。
【0076】
まず、E1の円板形状の複合酸化物ターゲットから、長さ15mm、幅15mm、高さ5mmのサンプルを、ワイヤカットによりその半値半径(r/2)にて採取した。空気中及び液体中のサンプルの重量をアルキメデスの原理に基づいて測定した。次いで、E1の複合酸化物ターゲットの実際の密度(記号:ρ;単位:キログラム/立方メートル(kg/m
3))を、以下の式を使用して算出した。
【数3】
【0077】
続いて、E1の円板形状の複合酸化物ターゲットから、直径12.7mm及び高さ2mmのパイ形状サンプルを、ワイヤカットにより半値半径(r/2)にて採取した。次いで、レーザフラッシュ法により、熱拡散率(記号:α;単位:平方メートル/秒(m2/s))を求めた。示差走査熱量測定(DSC)により、比熱容量(記号:cp;単位:ジュール毎キログラム毎ケルビン(J/kg・K))を求めた。
【0078】
最後に、E1の複合酸化物ターゲットの熱伝導率(記号:k;単位:W/m・K)を、熱拡散率(α)、実密度(ρ)及び比熱容量(cp)の値を以下の式に代入することによって算出した。
【数4】
結果を表1に示す。
【0079】
E2~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットの熱伝導率を同様の方法で求め、表1に示した。
【0080】
表1に示すように、E1~E23の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、10W/m・Kを超えている。好ましくは、E1~E7、E14及びE18~E22の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、15W/m・Kを超えている。より好ましくは、E5、E6及びE21の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、20W/m・Kを超えている。
【0081】
これに対して、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は10W/m・K未満である。特に、CE1、CE2、CE5、CE6、CE8及びCE9の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、9W/m・K未満である。より詳細には、CE2及びCE5の複合酸化物ターゲットの熱伝導率は、8W/m・K未満でさえある。
【0082】
以上の結果に示すように、本発明の方法によって製造した複合酸化物ターゲットの熱伝導率は優れている。
【0083】
さらに、MgO及びTiOのみを含有する実施例(E1~E14、E21~E23など)から、MgOの総量が増加するにつれて、複合酸化物ターゲットの熱伝導率も増加することが認められる。また、必要に応じて第2の添加剤を添加したE18~E20から、第2の添加剤の総量が増加するにつれて、複合酸化物ターゲットの熱伝導率も増加することが認められる。
【0084】
試験例4:スパッタ中の脱落粒子数
E1~E23及びCE1~CE9の複合酸化物ターゲットを、ウォータージェット切断及び研削によって直径5.08センチメートル(cm)及び厚さ4mmの円板形状の複合酸化物ターゲットに機械加工した。E1~E23及びCE1~CE9の円板形状複合酸化物ターゲットをそれぞれマグネトロンスパッタリング装置に投入し、プレスパッタリング法により各円板表面の汚れを除去した。2cm×2cmのウェハ上に複合酸化物膜をDCスパッタリングにより成膜し、ここで加工圧力は10-3トル~10-7トル、スパッタ電力は250ワット/兵法センチメートル(W/cm2)、スパッタ時間は300秒とした。E1~E23及びCE1~CE9の円板形状複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の、「粒子収率」とも呼ばれる、生じた脱落粒子の数をそれぞれ記録し、表1に示した。
【0085】
表1に示すように、E1~E23の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数は、それぞれ50個未満である。好ましくは、E1~E4、E9~E14、E17~E20及びE23の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数は、それぞれ30個未満である。より好ましくは、E11~E14及びE23の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数は、それぞれ20個未満である。さらに好ましくは、E12の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子の数は、10個未満である。
【0086】
これに対して、CE1~CE9の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数は、それぞれ70個以上である。特にCE1~CE4、CE7の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数は、それぞれ90個を超える。より詳細には、CE1~CE3の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子の数は、それぞれ100個を超える。CE3による脱落粒子の数は150個さえ超え、これはE1~E23によって生じた粒子それぞれの少なくとも3倍であることに留意されたい。
【0087】
以上の結果から、本発明の複合酸化物ターゲットのDCスパッタリング中の脱落粒子数が著しく減少するため、本発明の複合酸化物ターゲットからスパッタリングされた膜の特性が向上し、膜の収率も向上する。
【0088】
上述の結果に基づいて、原料粉末の粒径及び混合比並びに粉砕時間及び焼結温度を制御することにより、複合酸化物ターゲットの金属組織微細構造の黒色相の平均粒度は2μm以下であり、黒色相の粒度の分散は0.2未満である。したがって、スパッタリング中の粒子生成が効果的に抑制され、及び/又はスパッタリング中の脱落粒子数が50未満に減少する。さらに、複合酸化物ターゲットの曲げ強度が100MPaを超え、複合酸化物ターゲットの熱伝導率が10W/m・K以上である。
【0089】
本発明の多くの特性及び利点について、本発明の構造及び特徴の詳細と共に、前述の説明で述べてきたが、本開示は例示にすぎない。添付の特許請求の範囲に表された用語の広範かつ一般的な意味により示される最大限まで、本発明の本質の範囲内で、特にサイズに関して、変更が詳細に行われ得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム及び酸化チタン(II)で構成される、複合酸化物ターゲットであって、
前記複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、前記酸化マグネシウムの含有量が5原子パーセント以上90原子パーセント以下であり、及び前記酸化チタン(II)の含有量が10原子パーセント以上95原子パーセント以下であり、並びに
前記複合酸化物ターゲットが、前記酸化マグネシウムを含む複数の黒色相を含み、前記黒色相の平均粒度が2マイクロメートル以下であり、及び前記黒色相の粒度の分散が0.2未満である、複合酸化物ターゲット。
【請求項2】
酸化マグネシウム、酸化チタン(II)、および添加剤を含み、
前記複合酸化物ターゲットの全原子数に対して、前記酸化マグネシウムの含有量が47原子パーセント以上50原子パーセント以下であり、及び前記酸化チタン(II)の含有量が47原子パーセント以上49原子パーセント以下であり、並びに
前記複合酸化物ターゲットが、前記酸化マグネシウムを含む複数の黒色相を含み、前記黒色相の平均粒度が2マイクロメートル以下であり、及び前記黒色相の粒度の分散が0.2未満であり、
前記添加剤が、第1の添加剤、第2の添加剤又はその組み合わせであり、前記第1の添加剤が、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、酸化クロム(III)、二酸化ケイ素及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、並びに前記第2の添加剤が、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記添加剤の含有量が、前記複合酸化物ターゲットの全原子数に対して1原子パーセント以上6原子パーセント以下である、複合酸化物ターゲット。
【請求項3】
前記複合酸化物ターゲットの曲げ強度が、1億パスカルを超える、請求項1又は2に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項4】
前記複合酸化物ターゲットの熱伝導率が、10ワット毎メートル毎ケルビンを超える、請求項1又は2に記載の複合酸化物ターゲット。
【請求項5】
酸化マグネシウム及び酸化チタン(II)で構成される、複合酸化物ターゲットの製造方法であって、
酸化マグネシウム粉末及び酸化チタン(II)粉末を準備するステップであって、前記酸化マグネシウム粉末の粒径が2マイクロメートル以上5マイクロメートル以下であり、前記酸化チタン(II)粉末の粒径が2マイクロメートル以上10マイクロメートル以下である、ステップ、
前記酸化マグネシウム粉末と前記酸化チタン(II)粉末とを混合して粉末化混合物を得るステップであって、前記粉末化混合物の全原子数に対して、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が、5原子パーセント以上90原子パーセント以下であり、及び前記酸化チタン(II)粉末の含有量が、10原子パーセント以上95原子パーセント以下である、ステップ、
前記粉末化混合物を48時間以上粉砕して、微細粉末化混合物を得るステップ、
前記微細粉末化混合物を予備成形して、圧粉体とするステップ、並びに
前記圧粉体を900℃~1400℃の範囲の温度で焼結して、複合酸化物ターゲットを得るステップ
を含む方法。
【請求項6】
前記方法が、前記粉末化混合物を48時間以上粉砕して前記微細粉末化混合物を得るステップの後に、前記粉末化混合物をふるいでふるい分けするステップを含み、前記ふるいのメッシュサイズが400メッシュ~600メッシュである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記圧粉体が、300キログラム/平方センチメートル~510キログラム/平方センチメートルの範囲の圧力下で1.5時間~5時間焼結される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
複合酸化物ターゲットの製造方法であって、
酸化マグネシウム粉末、酸化チタン(II)粉末、及び粉末化添加剤を準備するステップであって、前記酸化マグネシウム粉末の粒径が5マイクロメートル以下であり、前記酸化チタン(II)粉末の粒径が10マイクロメートル以下である、ステップ、
前記酸化マグネシウム粉末、前記酸化チタン(II)粉末、及び前記粉末化添加剤を混合して粉末化混合物を得るステップであって、前記粉末化混合物の全原子数に対して、前記酸化マグネシウム粉末の含有量が、47原子パーセント以上50原子パーセント以下であり、前記酸化チタン(II)粉末の含有量が、47原子パーセント以上49原子パーセント以下である、ステップ、
前記粉末化混合物を48時間以上粉砕して、微細粉末化混合物を得るステップ、
前記微細粉末化混合物を予備成形して、圧粉体とするステップ、並びに
前記圧粉体を900℃~1400℃の範囲の温度で焼結して、複合酸化物ターゲットを得るステップ、を含み、
前記粉末化添加剤が、第1の粉末化添加剤、第2の粉末化添加剤又はその組み合わせを含み、前記第1の粉末化添加剤が、酸化アルミニウム粉末、二酸化ジルコニウム粉末、酸化クロム(III)粉末、二酸化ケイ素粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、前記第1の粉末化添加剤の粒径が、3マイクロメートル以下であり、前記第2の粉末化添加剤が、アルミニウム粉末、ジルコニウム粉末、クロム粉末、ケイ素粉末及びその任意の組み合わせからなる群から選択され、前記第2の粉末化添加剤の粒径が、50マイクロメートル以下であり、前記粉末化混合物の全原子数に対して、前記粉末化添加剤の含有量が、1原子パーセント以上6原子パーセント以下である、方法。
【請求項9】
前記粉末化混合物を48時間以上120時間以下にわたって粉砕する、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。