(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172040
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】発泡成形体、及びその利用
(51)【国際特許分類】
C08J 9/18 20060101AFI20221108BHJP
B65D 81/02 20060101ALI20221108BHJP
B65D 81/38 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C08J9/18 CES
B65D81/02
B65D81/38 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019171763
(22)【出願日】2019-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】水野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 慎悟
【テーマコード(参考)】
3E066
3E067
4F074
【Fターム(参考)】
3E066LA07
3E066NA01
3E066NA21
3E066NA41
3E066NA47
3E066NA51
3E067AB01
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3E067AB41
3E067AB51
3E067AB64
3E067CA05
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3E067GA11
3E067GD03
4F074AA20D
4F074AA20K
4F074BA37
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4F074DA34
4F074DA35
4F074DA36
(57)【要約】
【課題】濡れにくい発泡成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】 ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の発泡粒子から構成された発泡成形体であり、前記発泡成形体の表面欠陥が100個/25cm
2以下であることを特徴とする発泡成形体により上記課題を解決する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の発泡粒子から構成された発泡成形体であり、前記発泡成形体の表面欠陥が100個/25cm2以下であることを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
前記発泡成形体の表面の吸水量が0.20g/100cm2以下である請求項1に記載の発泡成形体。
【請求項3】
前記発泡粒子が、炭化水素系の発泡剤で発泡させることで得られる請求項1又は2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
前記複合樹脂のポリスチレン系樹脂の比率が65重量%以上100重量%未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項5】
前記複合樹脂のポリスチレン系樹脂の比率が80重量%以上90重量%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡成形体から構成される断熱材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡成形体から構成される緩衝材。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡成形体から構成される搬送容器。
【請求項9】
前記搬送容器が、液晶パネル部材搬送用である請求項8に記載の搬送容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の発泡粒子から構成される発泡成形体、及びその利用に関する。本発明の発泡成形体は、断熱材、緩衝材及び搬送容器に好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやパーソナルコンピューター等の電子機器は、液晶パネルや基板等が製造された工場で全ての製品の組み立てが行われることは少なく、それぞれの液晶パネルや基板等のパーツは梱包され、組み立て工場まで運ばれる(特開2004-149188号公報:特許文献1)。この際、発泡粒子の融着体から形成される発泡成形体は、搬送容器として広く一般に用いられている。
【0003】
発泡成形体は、軽いことに加え、加工性及び形状保持性がよく、比較的強度も強いため、食品トレーや自動車用部材を始め、建材、土木資材、照明器具、断熱材、緩衝材、搬送容器等のさまざまな分野で使用されている。特に耐熱性が要求されない場合にはポリスチレン系樹脂製の発泡成形体が用いられ、緩衝特性、回復性、柔軟性等が必要な場合にはポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂製の発泡成形体が用いられる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板等の電子部品や液晶パネル等は、輸送中に外気中の湿度等によって吸湿すると、歩留まりや品質劣化の原因となることがあった。そのため、輸送時に水分が含まれにくい発泡成形体が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、発泡成形体の表面欠陥(ピンホール)が少ない発泡成形体が濡れにくい発泡成形体となることを見いだし、更に、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の発泡粒子から構成される発泡成形体が、ピンホールの少ない発泡成形体を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
かくして本発明によれば、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の発泡粒子から構成された発泡成形体であり、前記発泡成形体の表面欠陥が100個/25cm2以下であることを特徴とする発泡成形体が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記発泡成形体から構成される断熱材が提供される。
更に、本発明によれば、上記発泡成形体から構成される緩衝材が提供される。
また更に、本発明によれば、上記発泡成形体から構成される搬送容器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面欠陥の少ない発泡成形体を提供できる。
以下のいずれかの場合、より表面欠陥の少ない発泡成形体を提供できる。
(1)発泡成形体の表面の吸水量が0.20g/100cm2以下である。
(2)発泡粒子が、炭化水素系の発泡剤で発泡させることで得られる。
(3)複合樹脂のポリスチレン系樹脂の比率が65重量%以上100重量%未満である。
(4)複合樹脂のポリスチレン系樹脂の比率が80重量%以上90重量%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】発泡成形体に対する成形後濡れ試験での表面の濡れ部分の例である。
【
図2】発泡成形体に対する吸水試験で、発泡成形体を水面に浮かべた例である。
【
図3】発泡成形体に対する吸水試験で、発泡成形体についた水滴を払い落とす例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂から構成される。
【0012】
(複合樹脂)
複合樹脂は、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む。なお、「複合」とは、粒子中にポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが存在することを意味する。
【0013】
(1)ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単独重合体、又はスチレン系単量体を主成分とし、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体成分との共重合体等が挙げられる。ここで、主成分とは、スチレン系単量体が全単量体成分100重量部中に50重量部以上、好ましくは60重量部以上、より好ましくは70重量部以上を占めることを意味する。
【0014】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、t-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0015】
ポリスチレン系樹脂中に含まれる共重合体成分を与える他の単量体としては、所望の物性に影響を与えない限り、公知の単量体を使用できる。具体的には、環状オレフィン系単量体、ジエン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸及びメチルスチレンのようなビニル系単量体を挙げることができる。また、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
複合樹脂中のポリスチレン系樹脂の比率は65重量%以上100重量%未満であることが好ましく、80重量%以上90重量%以下であることがより好ましい。複合樹脂中のポリスチレン系樹脂の比率が65重量%未満であると、発泡成形体の機械強度が低下することがある。
【0017】
(2)ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルのエステル成分は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等が挙げられる。
【0018】
複合樹脂中のポリオレフィン系樹脂の比率は35重量%以下であることが好ましく、10重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。複合樹脂中のポリオレフィン系樹脂の比率が10重量%以上であると成形加工性を向上でき、ピンホールの発生を抑制することができる。また、複合樹脂中のポリオレフィン系樹脂の比率が35重量%を超えると発泡成形体の機械強度が低下することがある。
【0019】
(3)他の成分
複合樹脂には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系以外の樹脂、気泡調整剤、被覆剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤及び帯電防止剤を挙げることができる。
【0020】
複合樹脂には、アクリル酸ブチル由来の単位が含まれていても良い。含有されるアクリル酸ブチル由来の単位量は、5重量%以下が好ましく、2重量%以下が更に好ましい。アクリル酸ブチル由来の単位が樹脂に含まれると成形加工性が上昇するが、含有されるアクリル酸ブチル由来の単位量が5重量%を超えると成形品の変形、および、発泡成形体の機械強度が低下する虞れがある。
【0021】
(表面欠陥(ピンホール))
本発明における表面欠陥(ピンホール)とは、発泡成形体の表面を顕微鏡等により観察した際に、複数の発泡粒子間の非接着部分により構成される空隙(孔)であって、同一孔上で隣り合う発泡粒子同士の接着部分と非接着部分との境界となる点を頂点とする多角形の最も長くなる対角線が0.3mm以上となる孔をピンホールとする。
発泡成形体のピンホールは、発泡成形体25cm2中に100個以下であれば、濡れにくい発泡成形体を得ることができる。発泡成形体のピンホールは、発泡成形体25cm2中に50個以下であることが好ましく、30個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましく、5個以下であることが更により好ましい。
【0022】
(その他の物性)
本発明の発泡成形体は、発泡成形体の吸水量が0.20g/100cm2以下であることが好ましい。ここでいう吸水量とは、実施例に記載する吸水試験によって測定された発泡成形体の吸水量のことを指す。発泡成形体の吸水量は、0.10g/100cm2以下であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の発泡成形体の密度は、20~100kg/m3であることが好ましく、30~50kg/m3であることがより好ましい。発泡成形体の密度が100kg/m3より大きい場合、発泡成形体の軽量性が低下することがある。発泡成形体の密度が20kg/m3未満の場合、発泡成形体の断熱性能及び機械的強度が低下することがある。
【0024】
ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂の粒子(以下、複合樹脂粒子ともいう)から発泡性粒子を製造し、発泡性粒子から発泡粒子が製造される。この発泡粒子から発泡成形体が製造される。
【0025】
(複合樹脂粒子の製造方法)
複合樹脂粒子の製造方法は、複合樹脂粒子を得ることさえできれば、特に限定されない。一例として、以下の製造方法により複合樹脂粒子を得ることができる。
ポリオレフィン系樹脂を含む種粒子に含浸させたスチレン系モノマーを重合することにより複合樹脂粒子を得ることができる。この方法は、所謂、シード重合法である。シード重合法によれば、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系重合体とが粒子表面に偏在した複合樹脂粒子を得ることができる。
【0026】
より具体的な複合樹脂粒子の製造方法の一例を下記する。
まず、水性懸濁液中に、ポリオレフィン系樹脂を含む種粒子と、スチレン系単量体と、重合開始剤とを分散させる。なお、スチレン系単量体と重合開始剤とを予め混合して用いてもよい。
種粒子は、公知の方法により得ることができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂を、必要に応じて添加剤(例えば、無機核剤)と共に、押出機中で溶融混練して押出すことでストランドを得、得られたストランドを、空気中でカット、水中でカット、加熱しつつカットすることで、造粒する方法が挙げられる。
【0027】
重合開始剤としては、一般にスチレン系単量体の懸濁重合用の開始剤として用いられているものを使用できる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルパーオキシヘキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチル-パーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等の有機化過酸化物である。これらの重合開始剤は1種又は2種以上を使用できる。
【0028】
水性懸濁液を構成する水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコー
ル)との混合媒体が挙げられる。
【0029】
重合開始剤の使用量は、スチレン系単量体100重量部に対して、0.1~0.9重量部が好ましく、0.2~0.5重量部がより好ましい。重合開始剤の使用量が0.1重量部未満ではスチレン系単量体の重合に時間がかかり過ぎることがある。重合開始剤の使用量が0.9重量部を超えると、ポリスチレン系樹脂の分子量が低くなることがある。
【0030】
水性懸濁液には、必要に応じて分散剤を添加してもよい。分散剤としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用できる。具体的には、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸ナトリウム、酸化マグネシウム等の難溶性無機物が挙げられる。
更に、ドデシルベンゼンスルホン酸のような界面活性剤を使用してもよい。
【0031】
次に、得られた分散液をスチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱してスチレン系単量体を種粒子に含浸させる。種粒子内部にスチレン系単量体を含浸させる時間は、30分~2時間が適当である。十分に含浸させる前に重合が進行するとポリスチレン系樹脂の重合体粉末を生成してしまうことがある。単量体が実質的に重合しない温度とは、高い方が含浸速度を速めるには有利であるが、重合開始剤の分解温度を考慮して決定する必要がある。
【0032】
次いで、スチレン系単量体の重合を行う。重合条件は、特に限定されないが、115~140℃で、1.5~5時間行うことが好ましい。重合は、通常、加圧可能な密閉容器中で行われる。なお、スチレン系単量体の含浸と重合を複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けることで、スチレン系樹脂の重合体粉末の発生を極力少なくできる。また、重合開始剤の分解温度を考慮して、ポリスチレン系単量体を種粒子に含浸させてからではなく、スチレン系単量体を含浸させながら重合を行ってもよい。
上記方法により複合樹脂粒子を得ることができる。
【0033】
(発泡性粒子の製造方法)
発泡性粒子の製造方法としては、密閉し得る容器中で、発泡剤を複合樹脂粒子に気相含浸させる方法が挙げられる。含浸は、それ自体公知の方法により行うことができる。例えば、重合中での含浸は、重合反応を密閉式の容器中で行い、容器中に発泡剤を圧入することにより行うことができる。重合終了後の含浸は、密閉式の容器中で、発泡剤を圧入することにより行われる。
【0034】
発泡剤としては、プロパン、ブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の炭化水素、ジメチルエーテルのようなエーテル類、塩化メチル、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン、モノクロロジフルオロメタン等のフロン、二酸化炭素、窒素等の無機ガスが挙げられる。発泡剤は炭化水素ガスであることが好ましく、ブタンであることが特に好ましい。なお、発泡剤は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。
【0035】
(発泡粒子の製造方法)
発泡粒子は、発泡性粒子を公知の方法で所定の密度に発泡させることで得ることができる粒子である。発泡は、好ましくは0.01~0.20MPa、より好ましくは0.02~0.15MPaの圧力(ゲージ圧)の加熱蒸気を使用して発泡性粒子を発泡させることにより得ることができる。
発泡粒子は、上記のような炭化水素系の発泡剤で発泡させて得られることが好ましい。
【0036】
発泡粒子は、複数の気泡と、それを区画する気泡壁とから構成される。発泡粒子の形状は、特に限定されず、真球状、楕円球状(卵状)、円柱状、角柱状、ペレット状又はグラニュラー状等が挙げられる。発泡工程では、発泡性粒子を発泡させて、発泡粒子を得ることができれば発泡温度、加熱媒体は特に限定されない。
【0037】
発泡粒子中の発泡剤の含有量(ガス量)は、複合樹脂に対して、好ましくは0.5~8重量%、より好ましくは1.0~3重量%である。発泡剤の含有量が0.5重量%より低い場合、発泡剤量が不足し、成形品にピンホールが発生しやすくなり成形品の含水量が増えることがある。他方、発泡剤の含有量が8重量%より多い場合、発泡剤量が過剰となり成形品の変形や成形サイクルが長くなることがある。
【0038】
(発泡成形体の製造方法)
発泡成形体の製造方法は、発泡粒子を金型のキャビティ内に充填し、キャビティ内に加熱媒体を供給して、発泡粒子を加熱して再発泡させ、再発泡させた発泡粒子同士をこれらの発泡圧力によって互いに熱融着一体化させることによって発泡成形体を得る方法が挙げられる。加熱媒体としては、例えば、水蒸気、熱風、温水等が挙げられ、水蒸気が好ましい。水蒸気の圧力は、ゲージ圧にて0.05~0.8MPaであることが好ましく。0.05~0.2MPaであることが特に好ましい。また、加熱時間は、5~600秒であることが好ましい。600秒を超えると発泡粒子に収縮や融着不良が生じることがある。
作製された発泡成形体は、水によって冷却される。水冷時間は特に限定されないが、10~500秒であることが好ましく、20~400秒が特に好ましい。
各製造工程における工程温度、工程圧力及び工程時間のようなその他の製造条件は、使用する製造設備、原料等に従って適宜設定される。
【0039】
発泡粒子を、発泡成形機の成形金型のキャビティ内に充填する方法は、特に限定されない。発泡成形機としては、ポリスチレン系樹脂製の発泡粒子から発泡成形体を製造する際に用いられるEPS成形機やポリプロピレン系樹脂製の発泡粒子から発泡成形体を製造する際に用いられる高圧仕様の成形機等を用いることができる。
【0040】
発泡成形体は、10~50倍の倍数を有することが好ましい。倍数が10倍より小さい場合、発泡成形体の重量が増えるため発泡の利点が小さくなることがある。倍数が50倍より大きい場合、機械的物性が不十分となることがある。倍数は、15~45倍がより好ましく、20~40倍が特に好ましい。
【0041】
(用途)
本発明によって製造された発泡成形体は、各種緩衝材に使用できる。例えば、車両、鉄道、航空機、船舶等の輸送機用の緩衝材や食品の緩衝材、ヘルメットの緩衝材等に好適に使用できる。
【0042】
本発明によって製造された発泡成形体は、各種断熱材に使用できる。例えば、保温保冷容器の断熱材や家屋の断熱材、車両の断熱材として好適に用いることができる。
【0043】
本発明によって製造された発泡成形体は、各種搬送容器に使用できる。特に、本発明の発泡成形体は、吸水性が低いため、水分によって歩留まりや不良品が発生する電子機器や液晶パネル部材の搬送容器として好適に使用できる。
発泡成形体は、特に限定されず、用途に応じて種々の形状をとり得る。
【実施例0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(発泡粒子のガス量の測定)
発泡粒子中のガス量は以下のようにして測定した。
袋状のアルミホイルの中に2gの発泡粒子を入れて重量を量り(重量1)、それを135℃のオーブンの中に90分置いた。その後に袋を取り出して、デシケーターの中に24時間入れて常温まで冷却してから再度重量を量った(重量2)。重量1と重量2の差異を2gで割り返してガス量とした。
【0046】
(発泡成形体の密度・倍数)
発泡成形体の密度は、発泡成形体を成形後、50℃で4時間以上乾燥させたものから切り出した試験片(例75mm×300mm×35mm)の重量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(a)/(b)により発泡成形体の密度(kg/m3)を求めた。
倍数は密度の逆数に1000を積算した値とした。
【0047】
(発泡成形体の曲げ試験)
発泡成形体の曲げ応力をJIS K 7221-1:2006「硬質発泡プラスチック」に記載の方法に準拠して測定した。
発泡成形体から縦25mm×横130mm×厚さ20mm(片面スキン下側)の直方体形状の試験片を5個切り出し、23℃±2℃、湿度50%±5%の条件で24時間放置した。この試験片を万能試験機(SHIMADZU製、型式:AG-100kNXplus+750mm型)を用いて、下記の測定条件下で曲げ応力を測定した。
【0048】
(測定条件)
試験速度:10mm/分
支点間距離:100mm
たわみ量:50mm
加圧くさび:5R
支持台:5R
【0049】
(発泡成形体の圧縮強度)
圧縮強度は、JIS K7220:2006「硬質発泡プラスチック-圧縮特性の求め方」記載の方法により測定した。すなわち、テンシロン万能試験機UCT-10T(オリエンテック社製)を用いて、50mm×50mm×25mmのサイズの試験体について、圧縮速度10mm/分としての圧縮強度を測定した。
【0050】
(発泡成形体の濡れ評価試験)
発泡成形体の濡れ評価は以下のように行った。
発泡成形体を成形後、成形体を3時間常温で自然乾燥させた。自然乾燥させた成形体を重ね合わせ、その状態で24時間常温で静置した。静置後の発泡成形体の重ね合わせ部分を確認し、重ね合わせた部分が濡れているかを確認した。濡れの評価は、下記の評価基準に基づいて評価した:
◎:濡れなし
○:湿り気あり
×:水滴発生
濡れた状態の例を
図1に示す。成形体の表面の丸部分には水滴がついていることが分かる。
【0051】
(発泡成形体の吸水試験)
発泡成形体から10cm(縦)×10cm(横)×0.1~0.3cm(高さ)になるように成形体を切り出し、切り出した縦横の面を測定用のスキン面とした。この切り出した成形体の重量を測定し、重量1とした。切り出した成形体よりも大きな容器を用意し、これに水を十分量入れた。スキン面をこの容器中の水面に置き、一分間浮かべて水を吸収させた(発泡成形体を水面に浮かべた例を
図2に示す)。この成形体を取り出して、成形体を左右に10回振って表面の水滴を払い落とした(発泡成形体についた水滴を払い落とす例を
図3に示す)。この成形体の重量を測定して(重量2)、重量2と重量1の差を水分吸収量とした。重量2の測定は、水面から成形体を取り出してから1分以内に行った。
【0052】
(発泡成形体の表面欠陥(ピンホール)測定試験)
発泡成形体の表面欠陥(ピンホール)の計測は、作製した発泡成形体を顕微鏡で15倍に拡大し、表面を観察することで行った。発泡成形体の表面に見える、複数の発泡粒子間の非接着部分により構成される空隙(孔)のうち、同一孔上で隣り合う発泡粒同士の接着部分と非接着部分との境界となる点を頂点とする多角形の最も長くなる対角線が0.3mm以上となる孔をピンホールとした。発泡成形体25cm2の広さの表面を観察し、見られるピンホールの数を計測した。
【0053】
(実施例1)
ポリエチレン系樹脂(日本ポリエチレン社製NF366)100重量部を押出機に供給して温度170~260℃で溶融混練し、水中カット方式により造粒して楕円球状(卵状)に切断し、種粒子を得た。
【0054】
攪拌機付の100リットルのオートクレーブに、ピロリン酸マグネシウム900g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム6gを純水34kgに分散させて分散用媒体を得た。分散用媒体に60℃で種粒子4.5kgを分散させて30分間保持して懸濁液を得た。更に、この懸濁液に、重合開始剤としてジクミルパーオキサイドを6g溶解させたスチレン2.25kgを30分かけて滴下した。滴下後、135℃に75分(1℃/分)かけて昇温し、この温度で、2時間重合(第1重合)させた。
【0055】
次に、90℃に下げた懸濁液中に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム44gを純水1000gに分散させ10分かけて滴下した後、t-ブチルパーオキシベンゾエートを77g溶解させたスチレン23.25kgを4時間40分かけて滴下した。その後、気泡調整剤としてエチレンビスステアリン酸アミド45gを純水2000gに分散させて作製した分散媒体を30分かけて滴下し、滴下後、90℃で1時間保持することで、種粒子中にスチレン及び気泡調整剤を含浸させた。含浸後、140℃に昇温し、この温度で2時間保持して重合(第2重合)させた。この重合の結果、複合樹脂粒子を得ることができた(種粒子とポリスチレンとの重量比15/85)。
【0056】
次いで、30℃以下まで冷却し、オートクレーブから複合樹脂粒子を取り出した。複合樹脂粒子2kgを7.5リットルのオートクレーブに入れた。更に、発泡剤としてブタン(n-ブタン:i-ブタン=7:3)13重量部260g(450mL)をオートクレーブに入れた。
この後、65℃に昇温し、2時間攪拌を続けることで発泡性粒子を得ることができた。その後、30℃以下まで冷却して、発泡性粒子をオートクレーブから取り出した。
【0057】
次いで、得られた発泡性粒子を嵩密度0.030kg/m3に予備発泡させることで、発泡粒子を得た。得られた発泡粒子を27℃条件下において30日間静置した後、成形、および、発泡粒子のガス量の測定を行った。その発泡粒子を300mm×400mm×30mmの大きさの成形用金型に入れ、その後、発泡成形体倍率が30倍になるようにゲージ圧0.11MPaの水蒸気を30秒間導入して加熱し、次いで、発泡成形体の最高面圧が0.01MPaに低下するまで300秒間冷却することで、密度0.033g/cm3の発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体について、圧縮応力及び水分吸収量を測定し、成形後濡れ試験を行い、表面欠陥(ピンホール)について観察した。
【0058】
(実施例2)
第1重合の工程で種粒子を9kg、ジクミルパーオキサイドを5g溶解させたスチレンを1.96kg、第2重合の工程でt-ブチルパーオキシベンゾエート69gとアクリル酸ブチルを0.45kg溶解させたスチレン18.59kgとする以外は実施例1と同様に重合させて複合樹脂粒子を得た(種粒子とアクリル酸ブチルとポリスチレンとの重量比30/1.5/68.5)。
【0059】
発泡剤としてブタンを13重量部加えて発泡させた後、得られた発泡粒子を27℃条件下において2日間静置した後、発泡粒子を成形用金型に入れ、ゲージ圧を0.07MPaとしたこと以外は実施例1と同様に実験を行い、発泡成形体を作製した。得られた発泡成形体の諸性質を実施例1と同様に測定した。
【0060】
(実施例3)
第1重合の工程で種粒子を6kg、ジクミルパーオキサイドを5g溶解させたスチレンを1.96kg、第2重合の工程でt-ブチルパーオキシベンゾエート72gとアクリル酸ブチルを1.5kg溶解させたスチレン20.54kgとする以外は実施例1と同様に重合させて複合樹脂粒子を得た(種粒子とアクリル酸ブチルとポリスチレンとの重量比20/5/75)。
【0061】
発泡剤として炭酸ガス13重量部加えて得られた発泡性粒子を嵩密度0.048kg/m3に予備発泡させることで、発泡粒子を得たことと、その発泡粒子から得られる発泡成形体の密度を0.050g/cm3としたこと以外は実施例1と同様に実験を行い、発泡成形体を作製した。得られた発泡成形体の諸性質を実施例1と同様に測定した。
【0062】
(比較例1)
得られた発泡粒子を27℃条件下において30日間静置したこと以外は実施例2と同様に実験を行い、発泡成形体を作製した。得られた発泡成形体の諸性質を実施例1と同様に測定した。
【0063】
(比較例2)
ポリエチレン系樹脂を用いず、発泡剤としてペンタンを13重量部加えて発泡させた後、得られた発泡粒子を27℃条件下において2日間静置したこと以外は実施例1と同様に実験を行い、発泡成形体を作製した。得られた発泡成形体の諸性質を実施例1と同様に測定した。
【0064】
実施例1の発泡成形体表面構造を
図4に、比較例2の発泡成形体表面構造を
図5に示す。画像は15倍に拡大して観察している。
図4では粒子間が良好に密着しているのに対し、
図5ではピンホールがあることが分かる。
表1に実施例及び比較例の発泡成形体の成形条件並びに測定結果を示す。濡れ評価において◎は濡れなし、○は湿り気あり、×は水滴発生を示す。
【0065】
【0066】
表1より、実施例の条件では成形体の濡れが無い、あるいは湿り気程度で水滴は発生せず、表面欠陥(ピンホール)の少ない発泡成形体を提供できていることが分かる。また、実施例1や実施例3の条件では、発泡経日が経っていても発泡粒子が十分なガス量を保持することができ、発泡経日が経っていても表面欠陥(ピンホール)の少ない発泡成形体を提供できていることが分かる。