(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172209
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4704 20060101AFI20221108BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221108BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221108BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221108BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221108BHJP
A61J 1/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/32
A61P27/02
A61J1/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133402
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2020184690の分割
【原出願日】2015-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2015084977
(32)【優先日】2015-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 温子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、光によるレバミピドの分解を抑制できる医薬製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤。
【請求項2】
前記容器の波長270~280nmの光線の平均光透過率が、15%以下である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記容器の波長400~700nmの光線の最大光透過率が、60%以上である、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記容器が、さらに波長300~310nmの光線を遮断する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記容器が、前記水性医薬組成物と接触する面の一部又は全面にポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、又はスチレン系樹脂を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記水性医薬組成物が、さらに(B)ビニル系増粘剤を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記水性医薬組成物が、さらに(C)界面活性剤を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
眼粘膜適用医薬製剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の、光による分解を抑制する方法であって、該(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容する工程を含む光分解抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レバミピド[2-(4-クロロベンゾイルアミノ)-3-(2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-4-イル)プロピオン酸]は、胃粘膜プロスタグランジンE2増加作用、胃粘液量増加作用、胃粘膜細胞新生能賦活作用等を有し、主に、経口投与で用いられ、胃潰瘍や、急性胃炎及び慢性胃炎急性憎悪期に現れる胃粘膜病変に対して優れた改善効果を示す薬物である。
【0003】
近年レバミピドは、点眼剤の形態で眼にも適用され、ゴブレット細胞の増加、ムチン産生の促進効果を奏することによって、ドライアイ、すなわち、眼球乾燥症候群に治療剤として使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「胃炎・胃潰瘍治療剤 日本薬局方 レバミピド錠 ムコスタ(登録商標)錠100mg」、医薬品インタビューフォーム、2013年7月(改定第11版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種(以下、単に「(A)成分」とも表記する)を含有する水性医薬組成物の安定性については、これまで十分に検討されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、(A)成分を含有する水性医薬組成物が光に晒された場合に分解が生じ易いことを確認している。このような水性医薬組成物を含有する医薬製剤において、水性医薬組成物における含有成分の光分解は、品質の低下や、商品価値の低下を招来し、さらには、含有成分が本来有する性能の維持が困難になることから、光安定性を向上させることは極めて重要な課題である。
【0008】
本発明は、光によるレバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の分解を抑制できる医薬製剤を提供することを目的とする。また、本発明は、レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の光による分解を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、水性医薬組成物中の(A)成分が、他の特定の成分と共存することにより(A)成分の光による分解が促進される場合があることを本発明者らが新たに見出したため、そのような状態においても、(A)成分の光による分解を顕著に抑制することができる医薬製剤を提供することである。
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物に対して、波長270~280nmの光線を遮断することによって、光によるレバミピドの分解を抑制できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤に関する。
【0012】
上記容器の波長270~280nmの光線の平均光透過率は、15%以下であり得る。
【0013】
上記容器の波長400~700nmの光線の最大光透過率は、60%以上であり得る。
【0014】
上記容器は、さらに波長300~310nmの光線を遮断する容器であり得る。
【0015】
上記容器は、前記水性医薬組成物と接触する面の一部又は全面にポリエステル系樹脂を含有し得る。
【0016】
上記水性医薬組成物は、さらに(B)ビニル系増粘剤を含有し得る。
【0017】
上記水性医薬組成物は、さらに(C)界面活性剤を含有し得る。
【0018】
上記医薬製剤は、眼粘膜適用医薬製剤であり得る。
【0019】
また本発明は、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の、光による分解を抑制する方法であって、レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容する工程を含む光分解抑制方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、(A)成分を含有する水性医薬組成物が容器に収容された医薬製剤において、光暴露により引き起こされる(A)成分の光分解を顕著に抑制することができ、
(A)成分を含有する水性医薬組成物の保存安定性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、含有量の単位「w/v%」は、「g/100mL」と同義である。
【0022】
本明細書において、含有量の単位「w/w%」は、「g/100g」の重量%と同義である。
【0023】
本発明の医薬製剤は、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物が、270~280nmの光線を遮断する容器に収容されているものである。(A)成分を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容することによって、水性医薬組成物における(A)成分の光分解を抑制することができ、また、水性医薬組成物の着色又は変色及び析出等を抑制することができる。本明細書において、「遮断」とは、光線の一部または全部の透過を遮ることを意味する。
【0024】
本明細書において、水性医薬組成物とは、水を組成物全体の1重量%以上含有するものをいう。水性医薬組成物は、水を組成物全体の好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上含有する。水性医薬組成物に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第十六改正日本薬局方に基づく。
【0025】
本明細書において、水性医薬組成物は、(A)成分として、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
【0026】
本明細書において、(A)成分のレバミピドは、2-(4-クロロベンゾイルアミノ)-3-(2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-4-イル)プロピオン酸((2RS)-2-(4-Chlorobenzoylamino)-3-(2-oxo-1,2-dihydroquinolin-4-yl)propanoic acid(IUPAC))とも称される化合物である。レバミピドは、公知の方法により合成して使用しても、市販の薬剤を入手して使用してもよい。
【0027】
レバミピド誘導体としては、例えば、レバミピドのエステル化誘導体、エーテル化誘導体、アミド化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体、ニトロソ化誘導体、ハロゲン化誘導体等を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、誘導体は、エステル化誘導体及び/又はエーテル化誘導体であり、より好ましくはエステル化誘導体である。
【0028】
本発明で使用される(A)成分の内、レバミピド又はレバミピド誘導体の塩としては、医薬上、薬理学的に又は生理学的に許容される塩であれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩、無機酸塩、有機塩基、又は無機塩基が挙げられる。有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等のモノカルボン酸塩;フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等の多価カルボン酸塩;乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等のオキシカルボン酸塩;メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等の有機スルホン酸塩が例示される。無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩が例示される。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン、エチレンジアミン等の有機アミンとの塩が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アンモニウム塩;ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属、カルシウム又はマグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の金属との塩等の各種の塩が挙げられる。これらのレバミピドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。「薬学的に又は生理学的に許容される塩」には、塩の溶媒和物又は水和物を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、水性医薬組成物には、(A)成分として、レバミピド、レバミピドの塩、レバミピド誘導体、又はレバミピド誘導体の塩の中から、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくはレバミピドが用いられる。
【0030】
本明細書において、水性医薬組成物総量に対する(A)成分の総含有量は、他の配合成分の種類及びそれらの含有量、又は水性医薬組成物の製剤形態等に応じて適宜設定される。水性医薬組成物の総量に対して、(A)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%以上であり、より好ましくは0.001w/v%以上、さらに好ましくは0.01w/v%以上、特に好ましくは0.05w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、(A)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは10w/v%以下であり、より好ましくは5w/v%以下、さらに好ましくは3w/v%以下、特に好ましくは2w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、(A)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%~10w/v%、より好ましくは0.001w/v%~5w/v%、さらに好ましくは0.01w/v%~3w/v%、特に好ましくは0.05w/v%~2w/v%である。
【0031】
本明細書において、水性医薬組成物は、可溶化状態であることが好ましく、成分の結晶等の析出が抑制され、光照射条件下で長期間に亘って保存した場合であっても、良好な状態が保持されることが好ましい。
【0032】
本明細書において、水性医薬組成物は、(A)成分を含有し、澄明であることが好ましい。本明細書において、「澄明」とは、透き通っていることをいう。本明細書において、水性医薬組成物が「澄明」である場合には、無色澄明であることに限定されず、有色且つ澄明であることも含まれる。水性医薬組成物の中でも特に、点眼剤、洗眼剤、注射剤等の医薬製剤においては、異物検査が必要とされるため、水性医薬組成物の澄明性が高いことが好ましい。澄明性の指標として、光の吸光度が使用される。本明細書において、水性医薬組成物の光の吸光度としては、例えば、波長660nmの光の吸光度が0.5以下であってもよく、0.3以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.12以下であることが更に好ましく、0.1以下であることが更により好ましく、0.07以下であることが更に中でも好ましく、0.04以下であることが更に中でもより好ましく、0.01以下であることが特に好ましく、0.005以下であること更に特に好ましく、0.001以下であることが最も好ましい。(A)成分の光による分解をより効果的に抑制するという観点から、より透明性が高く、澄明である水性医薬組成物であることが好ましい。
【0033】
本発明において、水性医薬組成物は、更に(B)ビニル系増粘剤を含有してもよい。(A)成分と(B)成分とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合においても、顕著な安定化効果を奏することが出来る。
【0034】
(B)成分として使用されるビニル系増粘剤については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されない。このようなビニル系増粘剤として、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン(K17、K25、K30、K90など)、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。上記ビニル系増粘剤の塩としては、例えば、無機塩基との塩が挙げられ、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、さらに好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩又はマグネシウム塩であり、特にナトリウム塩が好ましい。
【0035】
(B)成分の中でも、(A)成分と(B)成分とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合においても、特定の容器に収容されることで、顕著な安定化効果を奏する観点から、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーが更に好ましく、ポリビニルピロリドンが更により好ましく、K値が40以下のポリビニルピロリドンが特に好ましく、ポリビニルピロリドンK17、25、30が最も好ましい。
【0036】
(A)成分を含有する医薬製剤の粘度安定性を向上させる観点から、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーが更に好ましく、ポリビニルピロリドンが更により好ましく、K値が40以下のポリビニルピロリドンが特に好ましく、ポリビニルピロリドンK17、25、30が最も好ましい。本明細書において、ポリビニルピロリドンのK値とは、第十六改正日本薬局方に基づいて求めたものである。
【0037】
具体的には、ポリビニルピロリドンのK値は、毛細管粘度計によって測定される相対粘度値(25℃)を下記の式(1)に適用して算出される粘性特性値である。
【0038】
(数1)
K=(1.5logηrel-1)/(0.15+0.003c)+[300clogηrel +(c+1.5clogηrel)2]1/2/(0.15c+0.003c2) ……(1)
ηrel:ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度
c:ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)
【0039】
これらの(B)成分は、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の医薬製剤において、水性医薬組成物に(B)成分を含有させる場合、(B)成分の含有量については、(B)成分の種類、他の成分の種類や量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物総量に対する(B)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.001w/v%以上であり、より好ましくは0.01w/v%以上、さらに好ましくは0.1w/v%以上、特に好ましくは0.5w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、(B)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは10w/v%以下であり、より好ましくは7w/v%以下、さらに好ましくは5w/v%以下、特に好ましくは3w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、(B)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.001w/v%~10w/v%、より好ましくは0.01w/v%~7w/v%、さらに好ましくは0.1w/v%~5w/v%、特に好ましくは0.5w/v%~3w/v%である。
【0041】
また、(A)成分に対する(B)成分の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、(B)成分の総含有量が1~50000重量部とすることが好ましく、5~10000重量部とすることがより好ましく、25~6000重量部とすることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、水性医薬組成物は、更に(C)界面活性剤を含有することが好ましい。(A)成分と(C)成分とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合においても、顕著な安定化効果を奏することが出来る。
【0043】
(C)成分として含有され得る界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り特に制限されず、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤のいずれも用いることができる。
【0044】
非イオン界面活性剤として、具体的には、ポリオキシエチレン(以下、POEともいう。)-ポリオキシプロピレン(以下、POPともいう。)グリコール(例えば、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188等のポロクサマー類);ポロキサミンなどのエチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物;モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60)、POEソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(5)硬化ヒマシ油、POE(10)硬化ヒマシ油、POE(20)硬化ヒマシ油、POE(40)硬化ヒマシ油、POE(50)硬化ヒマシ油、POE(60)硬化ヒマシ油、POE(100)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油;POE(3)ヒマシ油、POE(10)ヒマシ油、POE(35)ヒマシ油などのPOEヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類;ステアリン酸ポリオキシル40などのモノステアリン酸ポリエチレングリコール類などが挙げられる。なお、括弧内の数字はPOP又はPOEの平均付加モル数を示す。
【0045】
両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型、イミダゾリン型等の界面活性剤が例示される。
【0046】
陽イオン界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の水性医薬組成物に配合可能な陰イオン界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族a-スルホメチルエステル、a-オレフィンスルホン酸等が例示される。
【0047】
これらの界面活性剤の中でも、(A)成分と界面活性剤とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合においても、特定の容器に収容されることで顕著な安定化効果を奏することが出来る観点から、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤が好ましく、非イオン界面活性剤が更に好ましく、POE-POPグリコール、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール類が特に好ましく、ポロクサマー407、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)、POE(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)、POE(3)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油3)、POE(10)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油10)、POE(35)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油35)、ステアリン酸ポリオキシル40が最も好ましく、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン、POE(60)硬化ヒマシ油が特に好ましい。
【0048】
これらの界面活性剤は、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の医薬製剤において、水性医薬組成物に界面活性剤を含有させる場合、界面活性剤の含有量については、界面活性剤の種類、他の成分の種類や量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物総量に対する界面活性剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%以上であり、より好ましくは0.0005w/v%以上、さらに好ましくは0.001w/v%以上、特に好ましくは0.005w/v%以上であり、最も好ましくは0.01w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、界面活性剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは10w/v%以下であり、より好ましくは5w/v%以下、さらに好ましくは1w/v%以下、特に好ましくは0.5w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、界面活性剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%~10w/v%、より好ましくは0.0005w/v%~5w/v%、さらに好ましくは0.001w/v%~1w/v%、特に好ましくは0.005w/v%~0.5w/v%であり、最も好ましくは0.01w/v%~0.5w/v%である。
【0050】
また、(A)成分に対する界面活性剤の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、界面活性剤の総含有量が0.05~10000重量部とすることが好ましく、0.1~5000重量部とすることがより好ましく、0.5~1000重量部とすることが特に好ましい。
【0051】
本発明において、水性医薬組成物は、更に(D)塩基性物質を含有してもよい。(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合において、(D)成分は、(A)成分の光安定性を高めるか、又は影響を与えない成分である。
【0052】
(D)成分としては、塩基性アミノ酸類、無機塩基等が挙げられるが、これらに限定されない。塩基性アミノ酸類としては、トロメタモール(2-Amino-2-hydroxymethyl-propane-1,3-diol)、モノエタノールアミン(2-アミノエタノール)、ジエタノールアミン(2,2´-イミノジエタノール)、トリエタノールアミン(2,2´,2"-ニトリロトリエタノール)等のアルカノールアミン、HEPES、1,4-ビス(2-スルホエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-スルホプロピル)ピペラジン、1,4-ビス(4-スルホブチル)ピペラジン等のスルホアルキルピペラジン、N,N’-ビス(3-スルホプロピル)エチレンジアミン等のスルホアルキルアルキレンジアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、メグルミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の有機アミン、尿素及びクレアチニン等が挙げられる。無機塩基類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
【0053】
(D)成分としては、本発明の効果を顕著に奏する観点から、アルカノールアミン、有機アミン、無機塩基類が好ましく、トロメタモール、モノエタノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、メグルミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、アルギニン、水酸化ナトリウムが更に好ましく、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムが更により好ましく、モノエタノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムが特に好ましく、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムが最も好ましい。(A)成分を含有する医薬製剤の粘度安定性を向上させる観点から、(D)成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタモール、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムが好ましく、モノエタノールアミン、イプシロンアミノカプロン酸、水酸化ナトリウムがより好ましく、モノエタノールアミンが更に好ましい。
【0054】
これらの(D)成分は、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。(D)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の医薬製剤において、水性医薬組成物に(D)成分を含有させる場合、(D)成分の含有量については、(D)成分の種類、他の成分の種類や量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物総量に対する(D)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%以上であり、より好ましくは0.001w/v%以上、さらに好ましくは0.01w/v%以上、更により好ましくは0.05w/v%以上、特に好ましくは0.1w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、(D)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは10w/v%以下であり、より好ましくは8w/v%以下、さらに好ましくは5w/v%以下、更により好ましくは3w/v%以下、特に好ましくは1w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、(D)成分の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%~10w/v%、より好ましくは0.001w/v%~8w/v%、さらに好ましくは0.01w/v%~5w/v%、更により好ましくは、0.05w/v%~3w/v%、特に好ましくは0.1w/v%~1w/v%である。
【0056】
また、(A)成分に対する(D)成分の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、(D)成分の総含有量が、0.1~50000重量部とすることが好ましく、0.5~10000重量部とすることがより好ましく1~5000重量部とすることが特に好ましい。
【0057】
本発明の効果をより顕著に奏する観点から、本発明の水性医薬組成物は、さらに多価アルコールを含有していてもよい。(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分とが共存することによって(A)成分の光による分解が促進した場合において、多価アルコールは、(A)成分の光安定性を高めるか、又は影響を与えない成分である。多価アルコールとしては、その分子内に水酸基を2個以上有するアルコール類を示し、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り特に制限されず、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(400、4000、6000)等の直鎖アルコール又はラクトース、マルトース、フルクトース、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、トレハロース等の糖アルコールなどが挙げられる。
【0058】
これらの多価アルコールの中でも、直鎖アルコールが好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールがより好ましく、グリセリン、プロピレングリコールが更に好ましく、グリセリンが特に好ましい。
【0059】
これらの多価アルコールは、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。多価アルコールは単独で又は二種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0060】
本発明の医薬製剤において、水性医薬組成物に多価アルコールを含有させる場合、多価アルコールの含有量については、多価アルコールの種類、他の成分の種類や量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物総量に対する多価アルコールの総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.001w/v%以上であり、より好ましくは0.005w/v%以上、さらに好ましくは0.01w/v%以上、更により好ましくは0.05w/v%以上、特に好ましくは0.1w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、多価アルコールの総含有量は、限定はされないが、好ましくは15w/v%以下であり、より好ましくは6w/v%以下、さらに好ましくは5w/v%以下、更により好ましくは2.5w/v%以下であり、特に好ましくは1w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、多価アルコールの総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.001w/v%~15w/v%、より好ましくは0.005w/v%~6w/v%、さらに好ましくは0.01w/v%~5w/v%、更により好ましくは0.05w/v%~2.5w/v%、特に好ましくは0.1w/v%~1w/v%である。
【0061】
また、(A)成分に対する多価アルコールの配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、多価アルコールの総含有量が0.1~50000重量部とすることが好ましく、1~5000重量部とすることがより好ましく、5~2000重量部とすることが特に好ましい。
【0062】
本発明において、水性医薬組成物は、さらに多糖類を含有していてもよい。
【0063】
多糖類として、具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、カルボキシメチルセルロース及びその塩、カルボキシエチルセルロース及びその塩等のセルロース系高分子化合物、ヒアルロン酸及びその塩並びにコンドロイチン硫酸及びその塩等のグリコサミノグリカン、デキストラン、ジェランガム、アルギン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。ここで、その塩とは、特に限定はされないが、ナトリウム塩が好ましい。(A)成分と共に含有されることにより医薬製剤の粘度安定性が向上される観点から、グリコサミノグリカン、セルロース系高分子が好ましく、グルコサミノグリカンがより好ましく、ヒアルロン酸及びその塩がより好ましく、ヒアルロン酸ナトリウムが更に好ましい。多糖類は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
また、(A)成分と共に含有されることにより医薬製剤の粘度安定性が向上される観点から、(A)成分と、(D)成分とを組み合わせて、ヒアルロン酸及びその塩並びにコンドロイチン硫酸及びその塩等のグリコサミノグリカンを含有する水性医薬組成物に配合することが好ましい。このような(D)成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタモール、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムが好ましく、モノエタノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、水酸化ナトリウムがより好ましく、モノエタノールアミンが更に好ましい。
【0065】
水性医薬組成物に多糖類を配合する場合、多糖類の総含有量は、使用する多糖類の種類、他の配合成分の種類や配合量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。水性医薬組成物の総量に対して、多糖類の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%以上であり、より好ましくは0.0005w/v%以上、さらに好ましくは0.001w/v%以上、さらにより好ましくは0.01w/v%以上、最も好ましくは0.05w/v%以上である。また、水性医薬組成物の総量に対して、多糖類の総含有量は、限定はされないが、好ましくは5w/v%以下であり、より好ましくは3w/v%以下、さらに好ましくは1w/v%以下、更により好ましくは0.5w/v%以下、最も好ましくは0.3w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、多糖類の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.0001w/v%~5w/v%、より好ましくは、0.0005w/v%~3w/v%、さらに好ましくは0.001~1w/v%、さらにより好ましくは、0.001~0.5w/v%、特に好ましくは、0.01w/v%~0.5w/v%、最も好ましくは0.05~0.3w/v%である。
【0066】
中でも、水性医薬組成物にヒアルロン酸及びその塩を配合する場合には、水性医薬組成物の総量に対して、ヒアルロン酸及びその塩の総含有量は、好ましくは0.00001w/v%~1w/v%、より好ましくは、0.0001w/v%~0.5w/v%、さらに好ましくは0.0001~0.1w/v%、さらにより好ましくは、0.0001w/v%~0.02w/v%、最も好ましくは0.0001~0.005w/v%である。
また、(A)成分と共に含有されることにより医薬製剤の粘度安定性が向上される観点から、好ましくは0.00001w/v%~1w/v%、より好ましくは、0.0001w/v%~0.5w/v%、さらに好ましくは0.0001~0.1w/v%、更により好ましくは0.001~0.1w/v%、最も好ましくは0.01~0.1w/v%であるである。
【0067】
(A)成分に対する多糖類の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、多糖類の総含有量が0.1~10000重量部とすることが好ましく、1~5000重量部とすることがより好ましく、5~1000重量部とすることが特に好ましい。
【0068】
中でも、水性組成物にヒアルロン酸及びその塩を配合する場合には、(A)成分に対するヒアルロン酸及びその塩の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(A)成分の総含有量100重量部に対して、ヒアルロン酸及びその塩の総含有量が0.005~100重量部とすることが好ましく、0.01~50重量部とすることがより好ましく、0.05~10重量部とすることが特に好ましい。
【0069】
また、(D)成分に対する多糖類の配合量の比率は、特に制限されるものではないが、一例として、(D)成分の総含有量100重量部に対して、多糖類の総含有量が0.1~10000重量部とすることが好ましく、1~1000重量部とすることがより好ましく、5~300重量部とすることが特に好ましい。
【0070】
多糖類がヒアルロン酸及びその塩である場合には、(D)成分の総含有量100重量部に対して、多糖類の総含有量が0.001~1000重量部とすることが好ましく、0.01~500重量部とすることがより好ましく、0.005~100重量部とすることが更に好ましく、0.01~50重量部とすることが特に好ましい。
【0071】
本発明において、水性医薬組成物は、(A)成分の他に更に緩衝剤を含有していてもよい。水性医薬組成物に配合可能な緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤が好ましい。
【0072】
ホウ酸緩衝剤としては、例えば、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、例えば、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、例えば、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、例えば、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、緩衝剤としては、各塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、限定はされないが、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物等)が例示できる。
【0073】
緩衝剤の中でも、特にホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤が好ましく、ホウ酸緩衝剤が更に好ましい。ホウ酸緩衝剤の好適な具体例として、ホウ酸、ホウ酸とその塩との組み合わせ(例えばホウ酸とホウ砂)が挙げられ、好ましくはホウ酸、ホウ酸とホウ砂の組み合わせ、更に好ましくはホウ酸が例示される。
【0074】
これらの緩衝剤は、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。これらの緩衝剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0075】
本発明において、水性医薬組成物に緩衝剤を含有させる場合、緩衝剤の含有量については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や配合量、水性医薬組成物の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物の総量に対する緩衝剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.01w/v%以上、より好ましくは0.05w/v%以上、さらに好ましくは0.1w/v%以上、特に好ましくは0.3w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対する緩衝剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは10w/v%以下、より好ましくは5w/v%以下、さらに好ましくは3w/v%以下、特に好ましくは2w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対する緩衝剤の総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.01w/v%~10w/v%、より好ましくは0.05w/v%~5w/v%、さらに好ましくは0.1w/v%~3w/v%、特に好ましくは0.3w/v%~2w/v%である。
【0076】
本発明において、水性医薬組成物は、(A)成分の他に更にテルペノイドを含有してもよい。本明細書において、テルペノイドとは、イソプレンユニットを構成単位とする構造を有し、清涼化剤として汎用されている公知の化合物である。
【0077】
本発明において、水性医薬組成物に配合可能なテルペノイドとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されない。テルペノイドとして、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、チモール、シメン、テルピネオール、ピネン、カンフェン、イソボルネオール、フェンチェン、ネロール、ミルセン、ミルセノール、酢酸リナロール、ラバンジュロール、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、例えば、エステル化誘導体、エーテル化誘導体、アミド化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体、ニトロソ化誘導体、ハロゲン化誘導体等を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、エステル化誘導体及び/又はエーテル化誘導体であり、より好ましくはエステル化誘導体である。エステル化誘導体の例としては、吉草酸、酪酸、酢酸、プロピオン酸及び/又はフランカルボン酸等の有機酸でエステル化した誘導体を挙げることができ、これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0078】
テルペノイドとして、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油、チョウジ油等が挙げられる。
【0079】
これらのテルペノイドの中でも、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、及びゲラニオールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール及びカンフル、より好ましくはl-メントール、dl-メントール、d-カンフル、及びdl-カンフルからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、特に好ましくはl-メントール及び/又はd-カンフルが挙げられ、最も好ましくはl-メントールであり、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0080】
これらのテルペノイドは、公知の方法により合成して使用しても、市販品を入手して使用してもよい。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0081】
水性医薬組成物にテルペノイドを配合する場合、テルペノイドの総含有量は、使用するテルペノイドの種類、他の配合成分の種類や配合量、医薬製剤の用途等に応じて適宜設定できる。一例として、水性医薬組成物の総量に対して、テルペノイドの総含有量は、限定はされないが、水性医薬組成物の安定性を高める観点から、好ましくは0.00001w/v%以上であり、より好ましくは0.0001w/v%以上、さらに好ましくは0.0002w/v%以上、特に好ましくは0.001w/v%以上である。水性医薬組成物の総量に対して、テルペノイドの総含有量は、限定はされないが、好ましくは1w/v%以下であり、より好ましくは0.5w/v%以下、さらに好ましくは0.1w/v%以下、特に好ましくは0.08w/v%以下である。水性医薬組成物の総量に対して、テルペノイドの総含有量は、限定はされないが、好ましくは0.00001w/v%~1w/v%、より好ましくは、0.0001w/v%~0.5w/v%、より好ましくは0.0002w/v%~0.1w/v%、さらに好ましくは、0.001w/v%~0.08w/v%である。
【0082】
本明細書において、水性医薬組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例としては、水性医薬組成物の安定性を高める観点から、pHが4.0~9.5、好ましくは5.0~9.0、より好ましくは、6.0~8.5、更に好ましくは6.5~8.5、更により好ましくは7.0~8.5、特に好ましくは7.2~8.4、最も好ましくは7.4~8.3となる範囲が挙げられる。
【0083】
本明細書において、水性医薬組成物は、さらに必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、通常0.5~5.0、より好ましくは0.6~3.0、更に好ましくは0.7~2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十六改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)に従って測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0084】
本明細書において、水性医薬組成物の粘度は、生理学的又は薬学的に許容される範囲内であれば、配合成分の種類及び含有量、該水性医薬組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。回転粘度計(RE550型粘度計、東産業社製、ローター;1°34‘×R24)で測定した20℃における粘度が0.01~10000mPa・sとすることが好ましく、0.05~8000mPa・sとすることがより好ましく、0.5~1000mPa・sとすることがさらに好ましく、1~600mPa・sとすることが更により好ましく、2~100mPa・sとすることが特に好ましく、2~50mPa・sとすることが更に特に好ましく、2~25mPa・sとすることが最も好ましい。
【0085】
本明細書において、水性医薬組成物には、(A)成分の他に、通常水性医薬組成物に用いることができる任意の成分を含有させることができる。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造販売承認基準2012年版(一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会)に記載された有効成分が例示できる。具体的には次のような成分が挙げられる。
【0086】
抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ペミロラストカリウム、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、トラニラスト、塩酸レボカバスチン、塩酸オロパタジン等。
【0087】
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニレフリン等。
【0088】
眼筋調節薬剤:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピン等。
【0089】
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸トコフェロール等。
【0090】
アミノ酸類:例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)等。
【0091】
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アズレンスルホン酸、アズレンスルホン酸ナトリウム、アラントイン、トラネキサム酸、ベルベリン、リゾチーム、塩化リゾチーム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、インドメタシン、プラノプロフェン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ケトプロフェン、フェルビナク、ベンダザック、ピロキシカム、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル等。
【0092】
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
【0093】
その他:例えば、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0094】
さらに、本明細書において、水性医薬組成物には、担体、pH調整剤、一般的な糖類、一般的な等張化剤、キレート剤、安定化剤、防腐剤等の添加剤を選択し、少なくとも1種を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0095】
担体:含水エタノール等の水性担体。
【0096】
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
【0097】
等張化剤:亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等。
【0098】
pH調節剤:例えば、塩酸、硫酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン等。
【0099】
安定化剤:例えば、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、シクロデキストリン等。
【0100】
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム等。
【0101】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド等)、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、安息香酸ナトリウム、エタノール、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、グローキル(ローディア社製 商品名)、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化亜鉛等。
【0102】
油類:ゴマ油、ヒマシ油、ダイズ油、オリーブ油等の植物油、スクワラン、ラノリン等の動物油、流動パラフィン、ワセリン等の鉱物油等。
【0103】
その他:リピジュア-PMB(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体)、リピジュア-HM等。
【0104】
本発明において、「生理学的又は薬学的に許容される塩」とは、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機塩基等との塩が例示され、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、又はジエタノールアミン、エチレンジアミン等との塩が挙げられる。これらの塩は、たとえば、その物質に存在する硫酸基やカルボキシル基を公知の方法により塩に変換することで得られる。さらには、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、L-グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ-ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。また、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩なども挙げられる。
【0105】
本発明でいう「生理学的又は薬学的に許容される塩」には、塩の溶媒和物又は水和物を含んでいてもよい。
【0106】
本発明において、水性医薬組成物は、所望量の上記(A)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。水性医薬組成物は、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明の水性医薬組成物の製剤形態として、液剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。好ましくは液剤である。
【0107】
上記水性医薬組成物を収容する容器について以下説明する。上記容器は、波長270~280nmの光線を遮断する容器である。
【0108】
上記容器は、主として上記水性医薬組成物を直接収容する容器(一次容器)を意味するが、水性医薬組成物を収容した一次容器を更に収容し、水性医薬組成物を二重又はそれ以上に包装するための容器(包装体ともいう、二次容器)をも含む。また、容器は、容器本体部のみを備えていてもよく、容器本体部と蓋部及び/又は抽出口部を備えていてもよい。
【0109】
二次容器を有する医薬製剤の場合であれば、一次容器と二次容器の中のいずれか少なくとも一つの容器が、上記光線を遮断すればよい。流通時及び保管時だけでなく、使用時においても、容器中の(A)成分の分解を抑制するという観点から、一次容器が上記光線を遮断するものであることが望ましい。
【0110】
上記容器の形態は、上記水性医薬組成物を収容できるものであれば特に制限されず、収容する水性医薬組成物の形態及び用途、一次容器又は二次容器の別等に応じて適宜選択できる。当該容器の形態の一例は、一次容器としては、チューブ状容器、ボトル状容器、点眼剤容器等が挙げられ、二次容器としては、ピロー包装、包装袋等が挙げられる。
【0111】
点眼剤、洗眼剤、注射剤等の医薬製剤では、品質管理において異物確認試験が薬事法上
(日本薬局方で)規定されており、医薬製剤の容器は内部を観察できる透明の容器であることが要求されている。また、使用者にとっては、残存量の確認のためにも内部を肉眼で観察できる程度の透明性を備えている容器が望ましいといえる。よって、容器は、品質管理における異物確認試験の観点から、内部を肉眼で観察可能な程度の内部視認性(透明性)を有する容器であることが好ましい。内部視認性(透明性)を有する容器は、特に、品質管理において異物確認試験が薬事法上(日本薬局方で)規定されている、点眼剤、洗眼剤、注射剤等に適している。一方、残存量の確認の観点からも、全ての種類の水性医薬組成物において、内部視認性(透明性)を有する容器に収容されていることが好ましい。
【0112】
本明細書において、容器における「透明」とは、無色透明及び有色透明の双方が含まれる。本明細書において、水性医薬組成物は、透明容器に収容されることによって、異物検査等が目視で容易に実施できる。
【0113】
内部視認性(透明性)を有する容器としては、具体的に、400~700nmの可視光領域での光透過率の最大値(以下、「最大光透過率」ともいう)が、50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、更により好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上である容器を例示できる。なお、本発明において、光透過率の測定方法は、実施例に記載の方法に準じる。また、400~700nmの可視光領域における最大光透過率は、例えば、400~700nmの間で10nm毎に光透過率を測定し、得られる各光透過率から求めることができる。
【0114】
なお、容器が視認性を有する容器である場合、少なくとも容器の一部分に上記の内部視認性(透明性)が確保されていれば、容器内の製剤を視認可能であるので、容器の内部視認性(透明性)については必ずしも容器の全面において確保されている必要はない。例えば、収容する水性医薬組成物が点眼剤又は注射剤である場合、日本薬局方における点眼剤の製剤総則の規定、及び注射剤の不溶性異物検査法を実施するという観点からは、容器の総面積の少なくとも20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上において、透明部分が占めていればよい。また、例えば、流通段階であれば、使用する容器は、容器表面に成分及び商品名を表示するためのラベルが施されることより容器の内部視認性(透明性)が損なわれることを妨げるものではないが、該容器において、内部視認性(透明性)を有する部分が、使用者にとって容器内部の製剤の量を確認できる程度に確保されていることが望ましい。また、医薬製剤が二重以上に包装されたものである場合、全ての容器が上述の透明性を有することが好ましい。
【0115】
本明細書において、「波長270~280nmの光線を遮断する」とは、波長270~280nmの光線を遮ることにより、波長270~280nmの光線の光透過率の平均(以下、「平均光透過率」ともいう)を減少させることをいう。限定はされないが、波長270~280nmの全範囲の平均光透過率が15%以下とすることが好ましい。ここで、波長270~280nmの光線の光透過率は、波長400~700nmの可視光領域における最大光透過率の場合と同様、本願実施例に規定の方法に準じて測定できる。また、波長270~280nmの光線の平均光透過率は、例えば、波長270~280nmの波長領域の間で、10nm毎に光透過率を測定し(例えば、270nmと280nm)、得られた各光透過率からそれらの平均値を算出することによって求めることができる。
【0116】
(A)成分の光による分解をより効果的に抑制するという観点からは、容器の波長270~280nmの光線の平均光透過率は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、更により好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、更に特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0117】
(A)成分を含有する水性医薬組成物に、特により一層優れた(A)成分の光分解抑制作用を備えさせるためには、容器が波長270~280nmの光線を遮断できることに加えて、更に波長300nm~310nmの光線も遮断できるものであることが好ましい。すなわち、容器が波長270~280nmの光線を遮断できることに加えて、波長300~310nmの光透過率の平均(平均光透過率)が、例えば、40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは5%以下、更に特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下であることが、更に好適である。ここで、波長300~310nmの光線の平均光透過率の測定方法については、波長270~280nmの光線の平均光透過率の測定方法と同様である。
【0118】
(A)成分を含有する水性医薬組成物に、特により一層優れた(A)成分の光分解抑制作用を備えさせるためには、容器が波長270~280nmの光線を遮断できることに加えて、更に波長340nm~350nmの光線も遮断できるものであることが好ましい。すなわち、容器が波長270~280nmの光線を遮断できることに加えて、波長340~350nmの光線の光透過率の平均(平均光透過率)が、例えば、40%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下、更により好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下、更に特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下であることが、更に好適である。ここで、波長340~350nmの光線の平均光透過率の測定方法については、波長270~280nmの光線の平均光透過率の測定方法と同様である。
【0119】
上述のように光線270~280nmの光線を遮断する手段については、特に制限されないが、例えば、波長270~280nmの光線を遮断する材質で形成された容器を用いる方法、容器を構成する材料中に波長270~280nmの光線を遮断する物質を練り込む方法、容器に波長270~280nmの光線を遮断する物質を塗布する方法、波長270~280nmの光線を遮断する物質を練り込んだフィルムを容器に装着する方法等が挙げられ、これらの方法の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適用できる。上記フィルムを容器に装着する方法として、具体的には、波長270~280nmの光線を遮断する熱収縮性フィルム(シュリンクフィルム)を容器に被せ、これを加熱することにより該フィルムを容器に密着被覆させる方法を例示できる。
【0120】
本発明において、使用される容器は、本発明の効果を奏する限りにおいて、その材質については制限されず、ガラス製、プラスチック製、セルロース製、パルプ製、ゴム製等のいずれであってもよい。本願効果をより顕著に奏する観点、並びにスクイズ性及び耐久性の観点からは、プラスチック製の容器が好ましい。
【0121】
プラスチック製容器に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン(PE)(低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)を含む)、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)等)などが例示できる。好ましい樹脂は、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂又はスチレン系樹脂であり、好ましくはポリプロピレン、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂又はスチレン系樹脂である。(A)成分の光による分解をより効果的に抑制するという観点から更に好ましい樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂又はスチレン系樹脂であり、特に好ましい樹脂は、ポリエステル系樹脂である。限定はされないが、これらの樹脂は、合成樹脂を用いることができ、複数の合成樹脂を組み合わせる場合は、その方法は限定されず、これらの合成樹脂の共重合体でもよく、これらの合成樹脂を単に混合してもよく、また共重合体を混合してもよい。共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれでもよい。
【0122】
ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分(フタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分など)とジオール成分とを含む成分を用いて得られた樹脂が使用できる。具体的には、芳香族ポリエステル系樹脂、例えば、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリC2-4アルキレンテレフタレートなど)、ポリアルキレンナフタレート(ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート等のポリC2-4アルキレンナフタレートなど)、ポリシクロアルキレンテレフタレート(ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(PCT)等)、ポリアリレート類(ビスフェノール類[ビスフェノール-A等]とフタル酸類[フタル酸、テレフタル酸]とで構成された樹脂など)のホモポリエステルなどが挙げられる。また、ポリエステル系樹脂には、前記ホモポリエステル単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステル、前記ホモポリエステルの共重合体(PETとPCTとの共重合体など)なども含まれる。ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノール類(ビスフェノール-Aなど)をベースとする芳香族ポリカーボネートである。
【0123】
本発明において、プラスチック製容器は、強度、光透過性、ガス又は水蒸気バリア性(透湿性)等に悪影響を及ぼさない限り、ポリマーアロイ(ポリマーブレンドなど)を含んでいてもよい。好ましいポリマーアロイには、複数の合成樹脂のポリマーブレンド(例えば、PETとPENとのポリマーブレンドなど)が含まれる。容器の材質がポリマーアロイである場合は、上記ポリエステル系樹脂を主成分として含む(例えば、50%以上)ことが好ましい。容器を構成する樹脂は、スクイズ性が良好で、繰り返しの押圧に対して耐久性を有する容器とすることができるものであることが好ましい。
【0124】
(A)成分の光による分解をより効果的に抑制するという観点から、容器の材質は、ポリエステル系樹脂の中でも、好ましくはポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレート、又はポリアルキレンサクシネートであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、又はポリブチレンサクシネート(PBS)である。容器の材質は、これらを含むホモポリエステル又はコポリエステルであってもよく、該ホモポリエステル又はコポリエステルを含有するポリマーアロイであってもよい。
【0125】
水性医薬組成物を収容する容器が樹脂製容器の場合、該当樹脂を含有していればよく、容器の構成材質全体の重量に対する、該当樹脂の合計重量は特に限定されないが、好ましくは容器の構成材質全体の重量に対し、該当樹脂の合計重量が30w/w%以上であり、より好ましくは50w/w%以上であり、更に好ましくは65w/w%以上であり、特に好ましくは80w/w以上%である。より好ましくは、該当樹脂のいずれか一つの合成樹脂の重量が、容器の構成材質全体の重量に対し、30w/w%以上、50w/w%以上、65w/w%以上又は80w/w%以上である。
【0126】
容器は、特定の波長の光線を遮断することができる紫外線遮断剤を添加した材質を用いたものであってもよく、そのような紫外線遮断剤をコーティングしたものであってもよい。例えば、ガラス又は合成樹脂などに紫外線遮断剤を添加した後に成型した容器、合成樹脂などをシート状に加工してから紫外線遮断剤をコーティングし、その後成型した容器、ガラス又は合成樹脂などを最終容器形状に成型した後に紫外線遮断剤をコーティングした容器などが挙げられる。また、紫外線遮断剤を添加又はコーティングしたシート状合成樹脂などを、成型後の容器にシュリンク包装したものであってもよい。
【0127】
紫外線遮断剤としては、酸化亜鉛、酸化チタン、トリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、置換アクリロニトリル系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、ニッケル錯体系化合物、商品名チヌビン(登録商標)328、チヌビン(R)384-2、チヌビン(R)400、チヌビン(R)400-2、チヌビン(R)900、チヌビン(R)928、チヌビン(R)1130等のベンゾトリアゾール系化合物;ジイソプロピルケイ皮酸メチル、シノキサート、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ケイ皮酸ベンジル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;オキシベンゾン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノンジスルホン酸ナトリウム、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸エチル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、4-[N,N-ジ(2-ヒドロキシプロピル)アミノ]安息香酸エチル等の安息香酸エステル系紫外線吸収剤;サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸オクチル、サリチル酸ジプロピレングリコール、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸メチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤、グアイアズレン、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル、2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン、パラヒドロキシアニソール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸ヘキシルなどが挙げられる。また、リボフラビン、アントラキノン系色素(1-アミノ-4-メチルアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、アントラキノン系イエローなど)、フタロシアニン系色素(フタロシアニンブルー(C.I.Pigment Blue15;C.I.74160;青色404号)、フタロシアニングリーン(C.I.Pigment Green7)など)などが挙げられる。
【0128】
紫外線遮断剤は、限定はされないが、(A)成分の光による分解をより効果的に抑制するという観点から、好ましくは酸化亜鉛、酸化チタン、チヌビン(登録商標)328、チヌビン(R)384-2、チヌビン(R)400、チヌビン(R)400-2、チヌビン
(R)900、チヌビン(R)928、チヌビン(R)1130、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸ヘキシル、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシルが挙げられ、特に好ましくは酸化亜鉛、酸化チタン、チヌビン(R)328、チヌビン(R)384-2、チヌビン(R)400、チヌビン(R)400-2、チヌビン(R)900、チヌビン(R)928、チヌビン(R)1130である。酸化亜鉛、酸化チタンは、更にシリカ、シリコン、ケイ酸亜鉛などで被覆されていてもよい。
【0129】
容器を構成する材料に紫外線遮断剤を添加する場合、添加する紫外線遮断剤の割合は、例えば、材料全量に対して0.05~5.0重量%、好ましくは0.1~3.0重量%である。紫外線遮断剤をコーティングした容器は、例えば、紫外線吸収剤を含有するコーティング塗料を成型後の容器又は合成樹脂シートなどに塗布することで製造することができる。ここで、コーティング塗料としては、ラジカル重合系のアクリル型(例えば、ポリエステルポリアクリレート、ウレタンポリアクリレート、エポキシポリアクリレート、ポリエーテルポリアクリレート、側鎖アクリロイル型アクリル樹脂等)、チオールエン型(例えば、ポリチオールアクリル型オリゴマー、ポリチオールスピロアセタール型等)、不飽和ポリエステル又はカチオン重合系のエポキシ樹脂等を用いることができる。また、容器を構成する素材をフィルム状に展延し、このフィルムを接着積層したシートから成型したものであってもよい。
【0130】
本明細書において、容器は着色剤を添加又はコーティングした材質であってもよい。着色剤としては、無機顔料、レーキ顔料、有機顔料等を使用することができる。
【0131】
上述のように、波長270~280nmの光線を遮断する容器は、(A)成分の光による分解を抑制することができる。よって、本発明は更に、(A)成分を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容する工程を含む、(A)成分の光分解抑制方法を提供する。
【0132】
本明細書において、(A)成分の光による分解を抑制するとは、水性医薬組成物を容器に収容した直後における(A)成分の含量と比較して、一定期間の使用又は保管後も、(A)成分の含量の変化が少ないことをいう。例えば、実施例で示すように、D65蛍光ランプを光源として、室温25℃の下、0.5万lxの光を照射することにより、積算照射量30万lx・hの光を曝光した後の(A)成分の残存量が、水性医薬組成物を容器に収容した直後と比較して、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であることをいう。
【0133】
上記方法において、使用する(A)成分の種類、水性医薬組成物中の含有割合、水性医薬組成物に配合される他の成分、水性医薬組成物の形態、波長270~280nmの光線を遮断する容器等については、上記医薬製剤に関して詳述したものと同様の態様を適用することができる。
【0134】
本発明において、水性医薬組成物は、光安定性に優れているので、複数回に亘り投与する形態で包装され、かつ使用者が継続的に使用するマルチドーズ型容器に収容されたものが有用であるが、ユニットドーズの点眼剤とすることもできる。ここで、マルチドーズとは、複数回にわたり服用または使用することを目的とし、キャップなどの開封、再封を自由に行うことができる包装形態のことを指す。本発明の医薬製剤は、特に好適な例として、マルチドーズ型点眼剤とすることができる。本発明において、水性医薬組成物が、疲れ目改善用、かすみ目改善用及び/又は目のかわき改善用組成物として提供される場合には、1日の点眼回数が多く、また、長期間にわたって継続的に使用される傾向にあるため、マルチドーズ型容器に収容されることが好ましい。また、本願発明の医薬製剤は、容器が可視性、水性医薬組成物の澄明性に優れているため、使用中の異物の混入や、液性の変化等を認知できることから、一定期間にわたって何度も繰り返し使用されうる形態であるマルチドーズ型容器に収容されることが好ましい。
【0135】
本発明において、上記水性医薬組成物は、注射薬、坐薬、内服薬、吸入用製剤等であってもよく、また、患者に適用した際に光に曝露されやすい局所適用される水性医薬組成物であってもよい。また、皮膚適用のみならず、刺激を感じやすい粘膜(角膜及び結膜等の眼粘膜、歯茎、舌、口唇、口腔粘膜、鼻腔粘膜、咽頭部粘膜等)へ適用される水性医薬組成物であってもよい。例えば、上記水性医薬組成物の一例として、皮膚外用剤(外皮用軟膏、外皮用クリーム、外皮用液剤等)、眼粘膜適用組成物(点眼薬(点眼剤)、洗眼薬(洗眼剤)、眼軟膏薬、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ用剤(洗浄液、保存液、消毒液、マルチパーパスソリューションなど)など)、鼻粘膜適用組成物(点鼻薬(点鼻剤)、鼻洗浄液など)、口腔粘膜適用組成物(口腔咽頭薬、含嗽薬など)、耳粘膜適用組成物(点耳薬など)が挙げられる。なお、本明細書において、コンタクトレンズとは、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ、非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの双方を包含する)などのあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する。これらの中で、好ましくは眼粘膜適用組成物、鼻粘膜適用組成物、口腔粘膜適用組成物が挙げられ、更に好ましくは、眼粘膜適用組成物が挙げられる。
【0136】
水性医薬組成物が点眼剤や点鼻剤などの局所粘膜適用剤用途に供される場合、容器の形状、内部に収容できる容量は特に限定はされないが、例えば、内容量を0.1mL以上1000mL以下、好ましくは1mL以上100mL以下、より好ましくは2mL以上50mL以下、更に好ましくは4mL以上50mL以下、特に好ましくは5mL以上30mL以下、最も好ましくは、6mL以上20mL以下収容できる容器であり得る。
【0137】
特に、容器が視認性を有する容器である場合、外部から容器内の水性医薬組成物を肉眼で観察して異物の有無の検査が可能であり、日本薬局方における点眼剤の製剤総則の規定や注射剤の不溶性異物検査法を好適に実施できるという観点から、好ましい水性医薬組成物として、例えば、点眼剤、洗眼剤、注射剤等を挙げることができる。また、複数回の投与量を含む製剤では、使用毎に使用者が製剤の残存量を視認できるので、好適である。複数回の投与量を含む製剤の具体例としては、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、皮膚外用剤、点鼻剤、口腔粘膜適用剤、及びコンタクトレンズ用剤を例示できる。
【0138】
本発明において、水性医薬組成物が眼粘膜適用組成物である場合には、(A)成分に基づいて、目のかわきに対してドライアイ作用を発揮できるので、ドライアイ疾患の治療乃至予防に、鼻粘膜適用組成物である場合にはドライノーズ作用を発揮できるのでドライノーズ疾患の治療乃至予防に、口腔粘膜適用組成物である場合にはドライマウス作用を発揮できるのでドライマウス疾患の治療乃至予防に効果を発揮する。
【0139】
また、本発明において、水性医薬組成物は、疲れ目改善用、かすみ目改善用及び/又は目のかわき改善用組成物として提供され得る。
【0140】
ここで、疲れ目は、読書、注視作業、観察作業などの目の酷使や精神的緊張を原因とするもの、パーソナルコンピューターの普及に伴い急激に増加してきたVDT(Visual Display Terminal)作業を原因とするものがあるが、症状として、例えば、目の奥の痛み、肩こり、頭重などの症状も併発する場合が多い。さらには、目の疲れが甚だしい時には、悪心、吐気を伴う場合がある。これらの症状は毛様体筋が長時間の注視作業などにより過度の緊張状態に陥り、目の調節機能が低下することが要因となって起こると指摘されている。
【0141】
かすみ目は、目のピント機能が低下して視界がぼやけて見えたり、近くを見て遠くを見た時などにピントが合うのに時間がかかったりする症状を指す。かすみ眼は、目を酷使すること、白内障や結膜炎などの炎症、加齢に伴って起こる老眼などの原因により起こり得る。
【0142】
本発明の医薬製剤は、全成分を含む1剤型の水性医薬組成物を単独の容器に収容したものであってもよく、2剤型又は3剤型などに分かれたキットであってもよい。キットとしては、限定はされないが、例えば、(A)成分を含有する組成物と、(A)成分以外の成分を含有する組成物を別々に備えるキットなどが挙げられる。キットである場合は、各組成物は別容器に収容されていてもよく、又は用時混合できる容器に収容されている用時調製型組成物であってもよい。
【0143】
本明細書において、医薬製剤は、本願の効果をより顕著に奏する観点から、1滴あたりの滴下量が、通常5~60μL、好ましくは10~50μL、より好ましくは15~45μL、更に好ましくは、15~42μL、特に好ましくは20~35μLとなるように設計されることが好ましい。
【0144】
本発明は、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤であるが、特に以下の形態が好ましい。但し、これらの形態に限定はされない。
【0145】
一つの実施形態では、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)ビニル系増粘剤を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤であり得る。
【0146】
一つの実施形態では、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(C)界面活性剤を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤であり得る。
【0147】
一つの実施形態では、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、並びに(D)塩基性物質を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されていることを特徴とする、医薬製剤であり得る。
【0148】
一つの実施形態では、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、並びに多糖類を含有する水性医薬組成物が、波長270~280nmの光線を遮断する容器(特にポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂)に収容されていることを特徴とする、医薬製剤であり得る。
【0149】
上記(A)成分の含有量は、0.0001w/v%~10w/v%とすることができる。
【0150】
上記容器の波長270~280nmの光線の平均光透過率は、15%以下であり得る。
【0151】
上記容器の波長400~700nmの光線の最大光透過率は、60%以上であり得る。
【0152】
上記容器は、さらに波長300~310nmの光線を遮断する容器であり得る。
【0153】
上記容器の波長300~310nmの光線の平均光透過率は、40%以下であり得る。
【0154】
上記容器は、さらに波長340~350nmの光線を遮断する容器であり得る。
【0155】
上記容器の波長340~350nmの光線の平均光透過率は、40%以下であり得る。
【0156】
上記水性医薬組成物は、澄明であり得る。
【0157】
上記水性医薬組成物の波長660nmの光の吸光度は、0.15以下であり得る。
【0158】
上記水性医薬組成物は、さらに(B)ビニル系増粘剤を含有し得る。
【0159】
上記(B)成分は、ポリビニルピロリドン及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0160】
上記(B)成分の含有量は、0.0001w/v%~10w/v%であり得る。
【0161】
上記水性医薬組成物は、さらに(C)界面活性剤を含有し得る。
【0162】
上記(C)成分における界面活性剤は、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び陽イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0163】
上記(C)成分における界面活性剤の含有量は、0.0001w/v%~10w/v%であり得る。
【0164】
上記(C)成分は、POE-POPグリコール、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油およびモノステアリン酸ポリエチレングリコール類からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤であり得る。
【0165】
上記水性医薬組成物は、さらに(D)塩基性物質を含有し得る。
【0166】
上記(D)成分は、アルカノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、メグルミン、アルギニン及び無機塩基類からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0167】
上記(D)成分の含有量は、0.0001w/v%~10w/v%であり得る。
【0168】
上記水性医薬組成物は、さらに多価アルコールを含有し得る。
【0169】
上記水性医薬組成物は、さらに緩衝剤を含有し得る。
【0170】
上記水性医薬組成物は、さらに多糖類を含有し得る。
【0171】
上記多糖類は、セルロース系高分子化合物又はグリコサミノグリカンであり得る。
【0172】
上記水性医薬組成物のpHは、4.0~9.5であり得る。
【0173】
上記容器は、前記水性医薬組成物と接触する面の一部又は全面にポリエステル系樹脂、又はスチレン系樹脂を含有し得る。
【0174】
上記医薬製剤は、眼粘膜適用医薬製剤とすることができ、特には、点眼剤であることが好ましい。
【0175】
本発明の医薬製剤が点眼剤である場合は、疲れ目改善用に用いられ得る。
【0176】
本発明の医薬製剤が点眼剤である場合は、かすみ目改善用に用いられ得る。
【0177】
本発明の医薬製剤が点眼剤である場合は、目のかわき改善用又は涙液の補助用に用いられ得る。
【0178】
本発明の医薬製剤が点眼剤である場合は、(A)成分を有する観点から、ドライアイの予防、改善、治療に用いられ得る。
【0179】
上記容器は、マルチドーズ型容器であり得る。
【0180】
一つの実施形態では、(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有し、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されるための水性医薬組成物であり得る。
【0181】
本発明の医薬製剤は、(A)成分を含有する水性医薬組成物が波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容されているため、光暴露により引き起こされる(A)成分の光分解を抑制することができる。したがって、本発明の一つの実施形態では、(A)成分を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器に収容することを特徴とする、該水性医薬組成物中の(A)成分を安定化する作用を付与する方法が提供される。
【0182】
本発明者らは、多糖類を含有する水性医薬組成物において、経時的に粘度が低下する課題に対して、さらに(A)成分を含有し、波長270~280nmの光線を遮断する容器(特に、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂)に収容した場合には、多糖類の経時的な粘度の低下を抑制することができるとの知見を得た。
【0183】
そこで別の実施形態では(A)レバミピド、レバミピド誘導体、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、並びに、多糖類を含有する水性医薬組成物を、波長270~280nmの光線を遮断する容器(特にポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂)に収容する工程を含む、(A)成分を含有する該水性医薬組成物に粘度低下抑制作用を付与する方法を提供することも可能である。
【0184】
上記水性医薬組成物は、さらに(D)塩基性物質を含有し得る。
【0185】
上記(D)成分は、アルカノールアミン、イプシロン-アミノカプロン酸、メグルミン、アルギニン及び無機塩基類からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0186】
上記実施形態における、(A)成分の種類及び含有量等、その他の成分の種類及び含有量等、水性医薬組成物の製剤形態及び用途等については、上記医薬製剤の説明に準ずる。
【実施例0187】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、実施例に記載の表全てに共通して、各成分の割合は水性医薬組成物全量を基準とし、単位はw/v%である。
【0188】
(実施例1)
表1に示す組成の水性医薬組成物を常法に従って調製した。具体的には、各成分を100mL容量ビーカーに量り取り、必要量の蒸留水を添加した。加温しながら攪拌し、pHを調節して均一な製剤を得た。ここで、レバミピドとしては、日本薬局方適合のレバミピドを用いた。調製直後の実施例1について、660nmにおける吸光度を測定した(U-3300 Spectrophotometer HITACHI)。
【0189】
【0190】
[試験例1-1:レバミピドの光安定性試験]
表1の実施例1に示すレバミピド含有水性医薬組成物(点眼剤)を調製後、すぐに表2に示す各種容器に5mLずつ収容し、密閉して医薬製剤とした。容器としては、表2に示す通り、無色の、ポリエチレンテレフタレート(PET)製容器、ポリブチレンサクシネート(PBS)製容器、ポリスチレン(PS)製容器、ポリプロピレン(PP)製容器、低密度ポリエチレン(LDPE)製容器又はガラス製容器を用いた。このように得られた各種容器入りレバミピド含有医薬製剤に、光安定性試験装置(「Light-Tron LT-120 D3CJ型」、ナガノ科学株式会社製)を用いて、D65蛍光ランプを光源として、室温25℃の下、0.5万lxの光を20時間又は60時間連続照射することにより、それぞれ積算照射量10万lx・h又は30万lx・hの光を曝光した。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、光照射前後のレバミピドの濃度を定量した。定量したレバミピドの濃度から、下記(式2)に従ってレバミピド残存率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0191】
<HPLC測定条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:内径4.6mm,長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする.
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/酢酸(100)混液(70:30:1)
流量:レバミピドの保持時間が約8分になるように調整する.
注入量:5μL
【0192】
(式2)
レバミピド残存率(%)=光照射後のレバミピド濃度/光照射前のレバミピド濃度×100
【0193】
試験に使用した容器の光透過性を評価するために、各容器の側面を平面状に切り取り、これを検体として、マイクロプレートリーダー(「SH-9000」、コロナ電気株式会社製)により波長200~700nmの波長領域で10nm毎に光透過率を測定し、容器の所定の波長における平均光透過率及び波長400~700nmにおける最大光透過率を求めた。尚、測定部分にラベル等があり測定の障害となる場合には、それらを剥がした後に測定した。
【0194】
試験に使用した容器の内部視認性について、下記評価基準に基づいて評価した。結果を表3に示す。
<評価基準>
◎ 内部の水性医薬組成物の量及び異物を明瞭に視認できる
○ 内部の水性医薬組成物の量及び異物を視認できる
△ 内部の水性医薬組成物の量については視認できるが、異物については視認しにくい
× 内部の水性医薬組成物の量及び異物を視認できない
【0195】
【0196】
【0197】
試験に使用した各種容器の内、波長400~700nmの光線の最大光透過率が50%以上のものは、医薬製剤の内部に収容した水性医薬組成物を外部から視認することができ、透明性を備えていた。
【0198】
光照射後のレバミピドの残存率は、波長270~280nmの光線が遮断されている容器に収容したレバミピド含有水性医薬組成物では顕著に高い値を示した。
【0199】
光照射後のレバミピドの残存率は、さらに波長300~310nmの光線が遮断されている容器に収容したレバミピド含有水性医薬組成物では顕著に高い値を示した。
【0200】
以上の結果から、レバミピドの光暴露による分解には、波長270~280nmの光線が関与していることが明らかとなり、上記波長領域の光線を遮断することによって、レバミピドの光暴露による分解を抑制できることが確認された。また、レバミピドの光暴露による分解には、さらに波長300~310nmの光線が関与していることが明らかとなり、さらに上記波長領域の光線を遮断することによって、レバミピドの光暴露による分解を抑制できることが確認された。さらに、レバミピド含有水性医薬組成物を収容する容器の波長400~700nmの光線の最大光透過率が50%以上であれば、内部の視認性を確保できることが確認された。
【0201】
[試験例1-2:レバミピドの光安定性試験]
表1に示す実施例1に従ってレバミピド含有水性医薬組成物(点眼剤)を調製後、すぐに表4に示す点眼容器2-1、2-2又は2-3に5mLずつ収容し、密栓して医薬製剤とした。得られた各種容器入りレバミピド含有医薬製剤について、上述の試験例1-1と同様の方法で、光照射(積算照射量10万lx・h)、及び光照射前後のレバミピド濃度の定量を行い、レバミピド残存率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0202】
【0203】
光照射後のレバミピドの残存率は、波長270~280nmの光線が高度に遮断されている容器に収容したレバミピド含有水性医薬組成物では顕著に高い値を示した。
【0204】
光照射後のレバミピドの残存率は、さらに波長300~310nmの光線が高度に遮断されている容器に収容したレバミピド含有水性医薬組成物では、より顕著に高い値を示した。
【0205】
また、光照射後のレバミピドの残存率は、さらに波長340~350nmの光線が遮断されている容器に収容したレバミピド含有水性医薬組成物では、より顕著に高い値を示した。
【0206】
以上の結果から、レバミピドの光暴露による分解には、さらに波長340~350nmの光線が関与していることが明らかとなり、上記波長領域の光線を遮断することによって、レバミピドの光暴露による分解を抑制できることが確認された。さらに、レバミピド含有水性医薬組成物を収容する容器の波長400~700nmの光線の最大光透過率が50%以上であれば、内部の良好な視認性を確保できることが確認された。表4の結果から、特定の波長領域の光線を遮断し、波長400~700nmの光線の最大光透過率を50%以上とすることによって、容器の着色の有無にかかわらず、レバミピドの光暴露による分解を高度に抑制できることが確認された。
【0207】
[試験例2 レバミピドの吸着性試験]
表1に示す実施例1に従ってレバミピド含有水性医薬組成物(点眼剤)を調製後、すぐに表2に示す容器1-1に5mL収容し、密栓して医薬製剤とした。
これを正立静置させた状態で、60℃で1週間保存した。
その後、上述の試験例1-1と同様の方法で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、保存前後のレバミピドの濃度を定量し、下記式(式3)に従ってレバミピド残存率(%)を算出した。
【0208】
(式3)
レバミピド残存率(%)=保存後のレバミピド濃度/保存前のレバミピド濃度×100
【0209】
その結果、60℃で1週間保存後のレバミピド残存率(%)は、容器からの透湿を差し引くとほぼ100%であり、容器への吸着はほぼないことが確認された。
【0210】
(参考試験例1)
表5の参考例1~4に示すレバミピド含有水性医薬組成物(点眼剤)を調製した。参考例1は、実施例1から(B)成分を除いた組成であり、参考例2は、実施例1の(B)成分を2倍量含有する組成であり、参考例3は、(C)成分を除いた組成であり、参考例4は、実施例1の(C)成分を2倍量含有する組成である。実施例1及びこれらの参考例1~4の水性医薬組成物を、調製後すぐにガラス製容器にそれぞれ5mLずつ収容し、試験例1-1と同様に光照射(積算照射量30万lx・h)、及び曝光後のレバミピド残存濃度定量を行い、光照射前のレバミピド濃度に対する残存率(%)を算出した。実施例1の残存率に対する参考例1~4の残存率の割合(%)を算出し、結果を表5に示す。
【0211】
【0212】
(B)成分または(C)成分の有無や配合量が、(A)成分の安定性に影響を与えることが明らかとなった。
【0213】
[試験例3 粘度安定性試験]
表7の実施例3-1、比較例3-1に示す水性医薬組成物(点眼剤)を、表6に示す各種容器に5mLずつ収容し、密閉して医薬製剤とした。容器としては、表6に示す通り、無色の、ポリエチレンテレフタレート(PET)製容器、ポリプロピレン(PP)製容器、低密度ポリエチレン(LDPE)製容器又はガラス製容器を用いた。このように得られた各種容器入りレバミピド含有医薬製剤を、遮光下60℃にて3日間保存した。保存前後の各溶液について、回転粘度計(TOKIMEC TV-20 VISCOMETER SN1109)を使用して粘度を測定し、その前後の値を用いて、粘度保持率を算出した。その後、下記式(式4)を用いて、比較例3-1に対する粘度保持率の上昇率を算出した。算出した結果を表7に示す。
【0214】
(式4)
粘度保持率の上昇率(%)={(実施例3-1の粘度保持率-比較例3-1の粘度保持率)/比較例3-1の粘度保持率}×100
【0215】
【0216】
【0217】
表7に示す通り、水性医薬組成物を、ポリエチレンテレフタレート製、ポリプロピレン製又はポリエチレン製の容器に充填した場合には、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する水性医薬組成物にさらにレバミピドを配合することで、粘度安定性が顕著に向上することが確認された。
【0218】
一方、容器がガラスの場合には、粘度安定化効果は全く発揮されないことが確認された。
【0219】
(製剤例)
下記表8、9に記載の処方で、点眼剤(処方例1~19)、洗眼剤(処方例20、21)、装着液 (処方例22)が調製され、以下に記載の容器に収容される。表8、9の処方例中、塩酸及び水酸化ナトリウムはpH調整に用いられ、水性医薬組成物が表8、9に記載のpHとなるように加えられる。精製水は各液剤の全量が100mLとなるよう加えられる。
【0220】
処方例1~22を容器2-1に収容しLDPE製ノズルを装着したものを製剤例1~22、処方例1~22を容器2-2に収容し、LDPE製ノズルを装着したものを製剤例23~44、処方例1~22を容器2-3に収容しLDPE製ノズルを装着したものを製剤例45~66、処方例1~22を容器2-3に収容しPBT製ノズルを装着したものを製剤例67~88、処方例1~22をPP製容器に収容し、LDPE製ノズルを装着したものを製剤例89~110とした。また、処方例20、21を、PET製容器に収容し、PP製ノズルを装着したものを製剤例111、112とした。
【0221】
【0222】
【0223】
(製剤例)
下記表10に記載の処方で、点眼剤(処方例23~38)が調製され、以下に記載の容器に収容される。表10の処方例中、塩酸及び水酸化ナトリウムはpH調整に用いられ、水性医薬組成物が表10に記載のpHとなるように加えられる。精製水は各液剤の全量が100mLとなるよう加えられる。
【0224】
処方例23~38を容器2-1に収容しLDPE製ノズルを装着したものを製剤例113~128、処方例23~38を容器2-2に収容し、LDPE製ノズルを装着したものを製剤例129~144、処方例23~38を容器2-3に収容しLDPE製ノズルを装着したものを製剤例145~160、処方例23~38を容器2-3に収容しPBT製ノズルを装着したものを製剤例161~176、処方例23~38をPP製容器に収容し、LDPE製ノズルを装着したものを製剤例177~192とした。
【0225】