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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172228
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20221108BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20221108BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20221108BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20221108BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20221108BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C33/66 Z
F16J15/3204 201
F16J15/3232 201
F16J15/324
F16J15/18 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135370
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2020558238の分割
【原出願日】2019-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018223142
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】山根 章平
(72)【発明者】
【氏名】宮野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】秋元 健人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】潤滑油の封止性能が高く、軸受の内部で圧力が増加または減少した場合でも、摩擦により発熱するおそれを低減することができる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置は、転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、内側部材と外側部材との間の間隙を封止する。密封装置は、外側部材の孔の内部に固定される、剛性材料から形成された環状の剛性部と、剛性部に固定された、弾性材料から形成された弾性部を有する。弾性部は、内側部材または内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のシールリップを有する。シールリップの内周面には、内側部材または内側部材に固定された部材に摺動可能に常に接触する複数の突起が形成されており、突起の周囲の部分では、シールリップと内側部材または内側部材に固定された部材の間に間隙が存在する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材の孔の内部に固定される、剛性材料から形成された環状の剛性部と、
前記剛性部に固定された、弾性材料から形成された弾性部とを有し、
前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のシールリップを有し、
前記シールリップの内周面には、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に常に接触する複数の突起が形成されており、前記突起の周囲の部分では、前記シールリップと前記内側部材または前記内側部材に固定された部材の間に間隙が存在する
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記突起の各々は、前記シールリップの内周面に平行な平行面と、前記平行面に連なり前記平行面から前記内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールリップの内周面には、凹凸が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記内周面の十点平均粗さRzが15μm以上、30μm以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のダストリップを有し、
前記ダストリップの内周面には、凹凸が形成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記ダストリップの前記内周面の十点平均粗さRzが15μm以上、30μm以下である
ことを特徴とする請求項5に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の内部を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄道車両で使用される転がり軸受が開示されている。転がり軸受においては、転動体と周囲の部品の摩擦に起因する熱によって温度が変化し、内部の圧力が変動する。転がり軸受には、内部の潤滑油を封止する密封装置が設けられており、密封装置は、回転する内輪に摺動可能に接触する。軸受内部の圧力変化に伴い、密封装置が内輪に強い力で接触して摩擦により発熱する。この発熱を抑制するため、特許文献1に開示された軸受には、空気抜きのための栓が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4-123871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術とは異なり、軸受に設けられる密封装置自体で密封装置の発熱を抑制することも考えられる。この場合には、密封装置の機能である潤滑油(グリース)の封止性能を確保することが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、潤滑油の封止性能が高く、軸受の内部で圧力が増加または減少した場合でも、摩擦により発熱するおそれを低減することができる密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る密封装置は、転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、前記外側部材の孔の内部に固定される、剛性材料から形成された環状の剛性部と、前記剛性部に固定された、弾性材料から形成された弾性部とを有する。前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のシールリップを有する。前記シールリップの内周面には、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に常に接触する複数の突起が形成されており、前記突起の周囲の部分では、前記シールリップと前記内側部材または前記内側部材に固定された部材の間に間隙が存在する。
【0007】
この態様においては、シールリップが内側部材または内側部材に固定された部材に摺動可能に接触して、軸受の内部の潤滑油を封止する。したがって、潤滑油の封止性能が高い。一方、シールリップの内周面に形成された複数の突起が、内側部材または内側部材に固定された部材に常に接触し、突起の周囲の部分では、シールリップと内側部材または内側部材に固定された部材の間に小さい間隙が存在する。小さい間隙を通じて軸受の内部と外部で空気が流通することができ、軸受の内部で圧力が増加または減少した場合でも、シールリップおよび/またはその他のリップが内側部材または内側部材に固定された部材に押し付けまたは引き付けられず、摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る密封装置の断面図である。
図2図1の密封装置の突起を示す正面図である。
図3図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図1の密封装置のシールリップにおける突起の配置を示す図である。
図5】モールドによって成形されたシールリップを示す断面図である。
図6】シールリップの一部を示す正面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る密封装置の断面図である。
図8図7の密封装置の剛体部分を示す斜視図である。
図9】転がり軸受から取り外される図7の密封装置の断面図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る密封装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面において縮尺は、必ずしも実施形態の製品を正確に表してはおらず、一部の寸法を誇張して表現している場合もある。
【0010】
第1実施形態
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置1が使用される転がり軸受2の一例である鉄道車両の車軸の軸受を示す。但し、本発明の用途は、鉄道車両の軸受には限定されず、トラック、バスなどの大型自動車の車軸の軸受にも本発明は適用可能である。また、図示の転がり軸受2は、RCT(Rotating End Cap Tapered Roller)軸受であるが、本発明の用途は、RCT軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、RCC(Rotating End Cap Cylindrical Roller)軸受、玉軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0011】
図1に示すように、転がり軸受2は、車軸4が内部に挿入される内輪(内側部材)6と、内輪6の外側に配置された外輪(外側部材)8と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数のローラー10と、車軸4が内部に挿入される油切り部材(内側部材)12と、ローラー10を定位置に保持する保持器14とを有する。外輪8が固定されている一方で、内輪6および油切り部材12は、車軸4の回転に伴って回転する。保持器14は外輪8に固定されている。
【0012】
油切り部材12は、内輪6の外径と内径とほぼ同じ外径と内径を有する円筒部12A、円筒部12Aの大気側Aの端部から外側に広がるフランジ12B、およびフランジ12Bの外端から軸受内部側Bに向けて延びる外側円筒部12Cを有する。円筒部12A、フランジ12Bおよび外側円筒部12Cによって、周溝12Dが画定されている。図1では、油切り部材12は仮想線で示されている。
【0013】
密封装置1は、相対的に回転する油切り部材12と外輪8との間に配置され、油切り部材12と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置1の作用により、転がり軸受2の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止または低減されるとともに、外部から転がり軸受2の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)および/またはダスト(鉄粉を含む))の流入が防止または低減される。図1において、矢印Dは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0014】
図1においては、車軸4に対する左側部分のみが示されているが、密封装置1および転がり軸受2は回転対称な形状を有する。図1の上側は、軸受内部側Bであり、下側は大気側Aである。但し、転がり軸受2を挟んで、密封装置1の反対側にも密封装置1と類似の密封装置が設けられる。
【0015】
密封装置1は、3つの環状のシール部材、すなわち外側シール部材16、中間シール部材18、および内側シール部材20を有する。
【0016】
外側シール部材16は、剛性材料、例えば金属から形成されている。外側シール部材16は、外輪8の孔8Aに固定される外側円筒部分16A、円環部分16B、中間円筒部分16C、円環部分16Dおよび内側円筒部分16Eを有する。円筒部分16A,16C,16Eは互いに同軸な円筒である。
【0017】
外側円筒部分16Aは、外輪8の孔8Aの内周面に締まり嵌めによって固定される。外側円筒部分16Aの軸受内部側Bの端部16Aaは、径方向外側に広がったフックとして形成されている。孔8Aには周方向に延びる突起8Bが形成されており、外側円筒部分16Aの端部16Aaには、突起8Bが嵌め込まれる周溝が形成されている。
【0018】
円環部分16Bは、外側円筒部分16Aの大気側Aの端部から径方向内側に向けて延びる。円環部分16Bは、車軸4の軸線方向に垂直な平面内に延びている。
【0019】
中間円筒部分16Cは、円環部分16Bの内端から大気側Aに向けて延びる。
【0020】
円環部分16Dは、中間円筒部分16Cの大気側Aの端部から径方向内側に向けて延びる。円環部分16Dは、車軸4の軸線方向に垂直な平面内に延びている。
【0021】
内側円筒部分16Eは、円環部分16Dの内端から大気側Aに向けて延びる。内側円筒部分16Eの内周面と、油切り部材12の外側円筒部12Cの外周面の間には、円環状の隙間が設けられている。
【0022】
中間シール部材18は、剛性材料、例えば金属から形成されている。中間シール部材18は、外側シール部材16に固定される外側円筒部分18A、円環部分18Bおよび内側円筒部分18Cを有する。円筒部分18A,18Cは互いに同軸な円筒である。
【0023】
外側円筒部分18Aは、外側シール部材16の中間円筒部分16Cの内周面に締まり嵌めによって固定される。
【0024】
円環部分18Bは、外側円筒部分18Aの軸受内部側Bの端部から径方向内側に向けて延びる。円環部分18Bは、ほぼ車軸4の軸線方向に垂直な平面内に延びているが、湾曲している。
【0025】
内側円筒部分18Cは、円環部分18Bの内端から軸受内部側Bに向けて延びる。内側円筒部分18cの内周面と、油切り部材12の円筒部12Aの外周面の間には、円環状の隙間が設けられている。
【0026】
内側シール部材20は、外側シール部材16と中間シール部材18の内側に配置され、相対的に回転する外側シール部材16と油切り部材12との間に配置され、外側シール部材16と油切り部材12との間の間隙を封止する。したがって、内側シール部材20を密封装置とみなすことができる。
【0027】
内側シール部材(密封装置)20は、剛性材料、例えば金属から形成された剛性部22と、弾性材料、例えばエラストマーから形成された弾性部24とを備える二重構造を有する。弾性部24は剛性部22に固定されており、剛性部22は弾性部24を補強する。
【0028】
内側シール部材20は、中間シール部材18に固定される取付け円筒部26、円環部28、シールリップ(グリースリップ)30、副リップ(ダストリップ)32、およびサイドリップ(ダストリップ)34を有する。
【0029】
取付け円筒部26は、剛性部22と弾性部24を有しており、中間シール部材18の外側円筒部分18Aの内周面に締まり嵌めによって固定される。
【0030】
円環部28は、剛性部22と弾性部24を有しており、取付け円筒部26から径方向内側に延びる。
【0031】
弾性部24は、リップ30,32,34を有する。
【0032】
シールリップ30は、円環部28の内端から径方向内側かつ軸受内部側Bに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。シールリップ30は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に向けて延び、シールリップ30の先端は円筒部12Aの外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。シールリップ30は、主に軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能を有する。
【0033】
副リップ32は、円環部28の内端から径方向内側かつ大気側Aに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。副リップ32は、油切り部材12の周溝12Dの内部に配置され、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に向けて延びる。この実施形態では、副リップ32の先端は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。副リップ32は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有し、軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能も有する。
【0034】
サイドリップ34は、円環部28の内端から径方向外側かつ大気側Aに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。サイドリップ34は、油切り部材12の周溝12Dの内部に配置され、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に向けて延びる。この実施形態では、サイドリップ34の先端は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に全周にわたって摺動可能に接触する。サイドリップ34は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有し、軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能も有する。
【0035】
シールリップ30の内周面には、複数の突起36が形成されている。図2および図3に示すように、各突起36は、シールリップ30の先端縁30Aに接する位置に配置されている。各突起36は、平行面36A、傾斜面36B、および垂直面36Cを有する。平行面36Aは、シールリップ30の内周面に平行な平坦面である。傾斜面36Bは、平行面36Aに連なり平行面36Aからシールリップ30の内周面に向けて高さが徐々に小さくなる。垂直面36Cは、平行面36Aおよびシールリップ30の内周面に対して垂直であり、シールリップ30の先端縁30Aと面一である。
【0036】
図4に示すように、この実施形態では、2つの突起36を有する組が3つ設けられている。これらの3つの組は、等角間隔、すなわち120度の間隔をおいて配置されている。但し、突起36の配置および数は、この実施形態には限定されない。
【0037】
これらの突起36は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に摺動可能に常に接触する。したがって、図4に示すシールリップ30の内周面において、突起36から離れた部分30Bは、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に接触するが、突起36の周囲の部分30Cでは、シールリップ30と円筒部12Aの間に間隙が存在する。
【0038】
この実施形態においては、上記の通り、シールリップ30が油切り部材12の円筒部12Aの外周面に摺動可能に接触して、転がり軸受2の内部の潤滑油を封止する。したがって、潤滑油の封止性能が高い。
【0039】
一方、シールリップ30の内周面に形成された複数の突起36が、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に常に接触し、突起36の周囲の部分30Cでは、シールリップ30と油切り部材12の円筒部12Aの外周面の間に小さい間隙が存在する。
【0040】
シールリップ30が全周にわたって円筒部12Aの外周面に接触する場合には、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとき、シールリップ30が油切り部材12の円筒部12Aの外周面に押し付けられて、摩擦により発熱するおそれがある。しかし、この実施形態では、シールリップ30と油切り部材12の円筒部12Aの外周面の間に存在する小さい間隙を通じて転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができる。このため、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、発熱のおそれを低減することができる。
【0041】
上記の通り、この実施形態では、各突起36は、シールリップ30の内周面に平行な平行面36Aと、平行面36Aからシールリップ30の内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面36Bを有する。このため、下記のように、突起36がシールリップ30の内周面に対して目標の高さを有するように、突起36を形成しやすい。
【0042】
突起36が形成されたシールリップ30を、例えばモールドを用いて成形することが可能である。モールドを用いた成形の手法としては、例えば射出成形またはプレス成形がある。図5は、モールドによって成形されたシールリップ30を示す断面図である。成形直後のシールリップ30には、弾性材料を所望の空間内に行き渡らせるためのモールド内の材料経路の痕跡である痕跡部分37が一体的に付着している。シールリップ30から延びる痕跡部分37は、突起36から延びる部分も有する。この成形品を仮想面Cで切断加工することにより、不要な痕跡部分37を除去するために、シールリップ30を(突起36と共に)仕上げ成形することができる。
【0043】
仮に、突起36の平行面36Aがシールリップ30の内周面に平行でなく、傾斜面36Bの延長面であった場合、仕上げ成形での切断位置が目標位置からずれてしまうと、シールリップ30の内周面に対する突起36の高さhは、目標の高さにならない。したがって、切断加工に細心の注意を払う必要がある。
【0044】
一方、この実施形態では、各突起36は、シールリップ30の内周面に平行な平行面36Aを有するので、切断位置が目標位置からずれたとしても、シールリップ30の内周面に対して突起36の高さh(平行面36Aとシールリップ30の内周面の間隔)は目標の高さを有する。但し、突起36の平行面36Aは必ずしも不可欠ではない。
【0045】
図6に示すように、突起36を含むシールリップ30の内周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸は、梨地処理によって不規則に形成することができる。この場合には、シールリップ30の内周面の微小な凹凸によって、シールリップ30の摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。
【0046】
また、シールリップ30の内周面の微小な凹凸によって、シールリップ30と油切り部材12の円筒部12Aの外周面の間に微小な間隙が存在する。微小な間隙を通じて、転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができ、転がり軸受2の内部で圧力が増加した場合でも、シールリップ30が油切り部材12の円筒部12Aの外周面に強く押し付けられず、摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【0047】
微小な凹凸を有するシールリップ30の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。シールリップ30の内周面の粗さが15μm未満である場合には、微小な間隙が小さく空気の流通が少ない。他方、シールリップ30の内周面の粗さが30μmより大きい場合には、微小な間隙を通じて潤滑油が転がり軸受2の内部から外部に漏出するおそれがある。シールリップ30の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下である場合には、シールリップ30による潤滑剤の封止性と、空気の流通性を両立することができる。
【0048】
図1に示すように、この実施形態に係る内側シール部材20においては、副リップ32の先端は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に摺動可能に接触する。但し、副リップ32の先端は、油切り部材12に接触しなくてもよい。この場合、副リップ32の先端と油切り部材12の間に環状の間隙が存在するが、間隙が小さい場合には、副リップ32は大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減することができる。
【0049】
また、サイドリップ34の先端は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に摺動可能に接触する。但し、サイドリップ34の先端は、油切り部材12に接触しなくてもよい。この場合、サイドリップ34の先端と油切り部材12の間に環状の間隙が存在するが、間隙が小さい場合には、サイドリップ34は大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減することができる。
【0050】
副リップ32の先端が、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に摺動可能に接触する実施形態では、副リップ32の内周面にも、複数の突起38が形成されている。これらの突起38は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に摺動可能に常に接触する。したがって、副リップ32の内周面において、突起38から離れた部分は、油切り部材12の円筒部12Aの外周面に接触するが、突起38の周囲の部分では、副リップ32と円筒部12Aの間に間隙が存在する。このため、副リップ32は、潤滑油の封止性能が高い一方、転がり軸受2の内部で圧力が減少したとしても、円筒部12Aの外周面に強く引き付けられず、発熱のおそれを低減することができる。
【0051】
突起36と同様に、2つの突起38を有する組を3つ設け、これらの3つの組は、等角間隔、すなわち120度の間隔をおいて配置することができる。但し、突起38の配置および数は、この実施形態には限定されない。
【0052】
この実施形態では、各突起38は、突起36の平行面36Aに相当する平行面を有しておらず、副リップ32の内周面に対して傾斜した面のみを有する。しかし、各突起38を、副リップ32の先端縁に接する位置に配置して、突起36の平行面36Aに相当する平行面を各突起38に設けてもよい。この場合には、突起38が副リップ32の内周面に対して目標の高さを有するように、突起38を形成しやすい。
【0053】
シールリップ30の内周面と同様に、突起38を有する副リップ32の内周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸は、梨地処理によって不規則に形成することができる。この場合には、副リップ32の内周面の微小な凹凸によって、副リップ32の摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。また、微小な凹凸に起因する微小な間隙を通じて、空気が流通することができ、転がり軸受2の内部で圧力が減少した場合でも、副リップ32が油切り部材12の円筒部12Aの外周面に引き付けられず、摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【0054】
微小な凹凸を有する副リップ32の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。副リップ32の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下である場合には、副リップ32による潤滑剤の封止性と、空気の流通性を両立することができる。
【0055】
サイドリップ34の先端が、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に摺動可能に接触する実施形態では、サイドリップ34の外周面にも、複数の突起40が形成されている。これらの突起40は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に摺動可能に常に接触する。したがって、サイドリップ34の外周面において、突起40から離れた部分は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に接触するが、突起40の周囲の部分では、サイドリップ34と外側円筒部12Cの間に間隙が存在する。このため、突起40を有するサイドリップ34は、潤滑油の封止性能が高い一方、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、外側円筒部12Cの内周面に強く押し付けられず、発熱のおそれを低減することができる。
【0056】
突起36と同様に、2つの突起40を有する組を3つ設けることができ、これらの3つの組は、等角間隔、すなわち120度の間隔をおいて配置することができる。但し、突起40の配置および数は、この実施形態には限定されない。
【0057】
この実施形態では、各突起40は、突起36の平行面36Aに相当する平行面を有しておらず、サイドリップ34の外周面に対して傾斜した面のみを有する。しかし、各突起40を、サイドリップ34の先端縁に接する位置に配置して、突起36の平行面36Aに相当する平行面を各突起40に設けてもよい。この場合には、突起40がサイドリップ34の外周面に対して目標の高さを有するように、突起40を形成しやすい。
【0058】
シールリップ30の内周面と同様に、突起40を有するサイドリップ34の外周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸は、梨地処理によって不規則に形成することができる。この場合には、サイドリップ34の外周面の微小な凹凸によって、サイドリップ34の摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。また、微小な凹凸に起因する微小な間隙を通じて、空気が流通することができ、転がり軸受2の内部で圧力が増加した場合でも、サイドリップ34が油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に押し付けられず、摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【0059】
微小な凹凸を有するサイドリップ34の外周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。サイドリップ34の外周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下である場合には、サイドリップ34による潤滑剤の封止性と、空気の流通性を両立することができる。
【0060】
第2実施形態
【0061】
図7は、本発明の第2実施形態に係る密封装置40を示す。図7以降の図面において、すでに説明した構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0062】
密封装置40は、相対的に回転する内輪6と外輪8との間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置40の作用により、転がり軸受2の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止または低減されるとともに、外部から転がり軸受2の内部への異物の流入が防止または低減される。図7において、矢印Dは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0063】
図7においては、車軸4に対する左側部分のみが示されているが、密封装置40および転がり軸受2は回転対称な形状を有する。図7の上側は、軸受内部側Bであり、下側は大気側Aである。但し、転がり軸受2を挟んで、密封装置40の反対側にも密封装置40と類似の密封装置が設けられる。
【0064】
密封装置40は、環状の内側シール部材41と、環状の外側シール部材50とを備える。内側シール部材41は、内輪6に固定される。外側シール部材50は、外輪8の孔8Aの内面に固定され、外側シール部材50には内側シール部材41が摺動可能に接触する。
【0065】
内側シール部材41は、剛性材料、例えば金属から形成されている。内側シール部材41は、スリーブ42と、フランジ44と、外側スリーブ46とを備える。スリーブ42は内輪6に固定される。固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。フランジ44は、スリーブ42の大気側の端部から径方向外側に広がる。外側スリーブ46は、フランジ44の外端縁から軸受内部側Bに向けて内側シール部材41の軸線方向に延びる。
【0066】
外側シール部材50は、相対的に回転する外輪8と内側シール部材41との間に配置され、外輪8と内側シール部材41との間の間隙を封止する。したがって、外側シール部材50を密封装置とみなすことができる。
【0067】
外側シール部材(密封装置)50は、剛性材料、例えば金属から形成された剛性部52と、弾性材料、例えばエラストマーから形成された弾性部54とを備える二重構造を有する。弾性部54は剛性部52に固定されており、剛性部52は弾性部54を補強する。
【0068】
剛性部52は、外輪8の孔8Aの内面に固定される円筒部分55と、円環部分56と、複数の軸線方向突出部分57と、複数の内側延長部分58とを有する。
【0069】
円筒部分55は、外輪8の孔8Aの内面に締まり嵌めによって嵌め込まれる。円筒部分55の軸受内部側Bの端部55aは、径方向外側に広がったフックとして形成されている。孔8Aには周溝すなわち凹部8Cが形成されており、円筒部分55の端部55aは、凹部8Cに嵌め込まれる。
【0070】
円環部分56は、円筒部分55の大気側Aの端部から径方向内側に向けて延びる。円環部分56は、外側シール部材50の軸線方向に垂直な平面内に延びている。
【0071】
複数の軸線方向突出部分57は、円環部分56から大気側Aに向けて外側シール部材50の軸線方向に突出する。図8に示すように、複数の軸線方向突出部分57は、円環部分56のうち周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所が折り曲げられた形状を有する。また、円環部分56のうち複数の軸線方向突出部分57が形成されていない複数の箇所は、円環部分56から径方向内側に向けて延びた複数の内側延長部分58に連続している。好ましくは、軸線方向突出部分57は等角間隔をおいて配置され、内側延長部分58も等角間隔をおいて配置されるが、これらの角間隔が等しくなくてもよい。この実施形態では、8つの軸線方向突出部分57および8つの内側延長部分58が設けられているが、軸線方向突出部分57の個数および内側延長部分58の個数は、2以上の限定されない数であってよい。
【0072】
図7に戻り、各軸線方向突出部分57の径方向外側の面には、径方向内側に向けて延びる凹部59が形成されている。この実施形態では、凹部59は貫通孔であるが、凹部59は軸線方向突出部分57を貫通していなくてもよい。
【0073】
弾性部54は、剛性部52に支持された環状の基部60と、シールリップ(グリースリップ)62と、ダストリップ(サイドリップ)64と、径方向突起66と、筒壁部分68とを有する。
【0074】
弾性部54の基部60は、剛性部52の複数の軸線方向突出部分57の径方向内側に配置された円環状の部分であり、剛性部52の複数の内側延長部分58に固定されている。周方向に連続する円環状の基部60には、周方向に間欠的に配置された複数の内側延長部分58の全体が埋設されており、内側延長部分58は基部60を補強する。
【0075】
シールリップ62は、基部60から延びて、内側シール部材41のスリーブ42の外周面に摺動可能に接触する板状の環である。シールリップ62は、主に軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能を有する。シールリップ62は、基部60から大気側Aかつ径方向内側に向けて延びる円錐台環状の基端部分62aと、基端部分62aから軸受内部側Bかつ径方向内側に向けて斜めに延びる円錐台環状の先端部分62bを有する。先端部分62bの先端は内側シール部材41のスリーブ42の外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。基端部分62aの厚さは、先端部分62bの厚さよりも大きい。
【0076】
ダストリップ64は、基部60から延びて、内側シール部材41のフランジ44の軸受内部側B側の側面に向けて延びる板状の環である。ダストリップ64は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有する。ダストリップ64は、基部60から大気側Aかつ径方向内側に向けて延びる基端部分64aと、基端部分64aから大気側Aかつ径方向外側に向けて延びる先端部分64bとを有しており、先端部分64bが内側シール部材41のフランジ44の軸受内部側B側の側面に向けて延びる。基端部分64aの厚さは、先端部分64bの厚さよりも大きい。
【0077】
径方向突起66は、基部60の内端縁から径方向内側に向けて突出する。径方向突起66は、径方向外側が広く、内側が狭い台形の断面を有する。径方向突起66は、内側シール部材41とは接触せず、径方向突起66と内側シール部材41のスリーブ42との間には、円環状の小さい間隙69が設けられる。間隙69は、軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の流れを阻害し、シールリップ62に到達する潤滑油の量を低減することによって、シールリップ62の封止性能を補助する。
【0078】
筒壁部分68は、基部60の外端縁から内側シール部材41のフランジ44に向けて延びる円筒状の部分であり、剛性部52の複数の軸線方向突出部分57に固定されている。周方向に連続する円筒状の筒壁部分68には、周方向に間欠的に配置された複数の軸線方向突出部分57の全体が埋設されており、軸線方向突出部分57は筒壁部分68を補強する。
【0079】
弾性部54には、剛性部52の内側延長部分58だけでなく、円環部分56の一部および複数の軸線方向突出部分57の全体も埋設されている。具体的には、円環部分56の大気側Aの面の一部は、弾性部54の一部分70で覆われ、円環部分56の軸受内部側Bの面の一部は、弾性部54の一部分72で覆われ、軸線方向突出部分57は、弾性部54の筒壁部分68で覆われている。但し、円環部分56は、弾性材料で覆われていなくてもよい。
【0080】
外側シール部材50の剛性部52に間欠的に設けられた複数の軸線方向突出部分57および弾性部54の筒壁部分68は、内側シール部材41のフランジ44に向けて延びている。筒壁部分68は、フランジ44には接触せず、筒壁部分68とフランジ44との間には円環状の間隙74が設けられている。
【0081】
内側シール部材41の外側スリーブ46は、筒壁部分68の外側に配置されている。筒壁部分68は、外側スリーブ46には接触せず、筒壁部分68と外側スリーブ46との間には円環状の間隙76が設けられている。
【0082】
この実施形態では、軸線方向突出部分57が弾性部54の筒壁部分68で覆われていることにより、弾性部54は、軸線方向突出部分57に形成された凹部59を塞いでいる。弾性部54の筒壁部分68の各軸線方向突出部分57の径方向外側の面を覆う部分において、弾性部54の凹部59を塞ぐ部分72は凹んでいる。密封装置40の製造において、弾性部54の材料が凹部59の付近で大きく収縮することにより、部分72を凹ませることができる。あるいは、密封装置40の製造後に、部分72を凹ませる作業を行ってもよい。
【0083】
転がり軸受2の補修に伴って、密封装置40を交換する必要性がある。図9を参照して、密封装置40の取り外し作業を説明する。
【0084】
まず、複数の治具80を準備する。治具80は、長尺なハンドル部80aと、ハンドル部80aに対して屈曲した先端部80bとを有する。作業者はハンドル部80aを握る。
【0085】
そして、各治具80の先端部80bを、密封装置40の外側シール部材50の剛性部52の軸線方向突出部分57に形成された凹部59に挿入することにより、治具80で凹部59を捕捉する。この実施形態のように、凹部59が弾性部54の部分で塞がれている場合には、その部分を先端部80bで大きく圧縮する。その部分が破損してもよい。
【0086】
この状態で、治具80により、外側シール部材50に対して径方向内側に向かう力Fを与えて、外側シール部材50の弾性部54ひいては剛性部52を径方向に圧縮することによって、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材50の剛性部52の円筒部分55を部分的に離す。
【0087】
次に、凹部59に先端部80bが挿入された治具80を力Sで引くことにより、外側シール部材50を軸線方向に移動させて、外側シール部材50を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。一旦、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材50の剛性部52の円環部分56を部分的に離せば、外側シール部材50の弾性変形を利用して、外側シール部材50を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すのは容易である。外側シール部材50を抜き出すことに伴い、外側シール部材50の筒壁部分68にフランジ44が押されて、内輪6に固定された内側シール部材41も外側シール部材50と一緒に抜き出すことができる。このようにして、密封装置40を容易に取り外すことが可能である。但し、外側シール部材50と内側シール部材41を同時に取り外すことは必須ではなく、内側シール部材41を内輪6から引き抜いた後に、外側シール部材50を外輪8から引き抜いてもよい。
【0088】
この取り外し作業は、複数の治具80を用いるが、治具80の代わりに、作業者の手を用いてもよい。また、複数の治具80を用いる場合であっても、治具80は、外側シール部材50に力Sを与えて外側シール部材50を外輪8の孔8Aから抜き出すことだけに使用してもよい。すなわち、作業者の手または他の治具を用いて、外側シール部材50に径方向内側に向かう力Fを与えて外側シール部材50を径方向に圧縮してもよい。
【0089】
図8に示すように、治具80が挿入される凹部59は、周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所に配置されている。各凹部59は弾性部54の部分72で塞がれている。治具80または作業者の手を凹部59に挿入するには、容易に凹部59の位置を探り当てることができるのが望ましい。
【0090】
そこで、この実施形態では、図7および図9に示すように、円環部分56の大気側Aの面に固定された弾性部54の一部分70に複数の目印82が形成されている。これらの目印82は、径方向において凹部59に重なる複数の位置に配置されている。作業者は、視覚または触覚で目印82を認識し、目印82に対応する凹部59に治具80または手を容易に挿入することができる。この実施形態では、各目印82は半球状の突起であるが、目印82の形状はこれに限定されず、他の形状の突起でもよいし、凹部または刻印でもよい。あるいは、目印82は、三次元形状に限定されず、視覚で認識可能な平面上に着色された目印または模様を持つ目印でもよい。
【0091】
第1実施形態のシールリップ30に形成された突起36と同様に、この実施形態におけるシールリップ62の先端部分62bに複数の突起84が形成されている。これらの突起84は、内側シール部材41のスリーブ42の外周面に摺動可能に常に接触する。したがって、シールリップ62の先端部分62bの内周面において、突起84から離れた部分は、スリーブ42の外周面に接触するが、突起84の周囲の部分では、シールリップ62の先端部分62bとスリーブ42の間に間隙が存在する。
【0092】
上記の通り、シールリップ62がスリーブ42の外周面に摺動可能に接触して、転がり軸受2の内部の潤滑油を封止する。したがって、潤滑油の封止性能が高い。一方、シールリップ62の内周面に形成された複数の突起84が、スリーブ42の外周面に常に接触し、突起84の周囲の部分では、シールリップ62とスリーブ42の外周面の間に小さい間隙が存在する。シールリップ62とスリーブ42の外周面の間に存在する小さい間隙を通じて転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができる。このため、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、発熱のおそれを低減することができる。
【0093】
第1実施形態のシールリップ30に形成された突起36と同様に、好ましくは、各突起84は、シールリップ62の先端部分62bの内周面に平行な平行面84Aと、平行面84Aからシールリップ62の先端部分62bの内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面84Bを有する。この場合には、突起84がシールリップ62の内周面に対して目標の高さを有するように、突起84を形成しやすい。
【0094】
また、第1実施形態のシールリップ30と同様に、好ましくは、突起84を含むシールリップ62の先端部分62bの内周面には、微小な凹凸(図示せず)が形成されている。微小な凹凸を有するシールリップ62の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【0095】
この実施形態では、ダストリップ64の先端部分64bは内側シール部材41のフランジ44に接触せず、先端部分64bとフランジ44の間には環状の間隙が設けられている。但し、ダストリップ64の先端部分64bは内側シール部材41のフランジ44に接触していてもよい。この場合には、好ましくは、ダストリップ64の先端部分64bの内周面に、フランジ44に摺動可能に常に接触する複数の突起(図示せず)が形成される。この場合、ダストリップ64の先端部分64bの内周面において、突起から離れた部分は、フランジ44に接触するが、突起の周囲の部分では、ダストリップ64の先端部分64bとフランジ44の間に小さい間隙が存在する。小さい間隙を通じて転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができる。好ましくは、各突起は、ダストリップ64の先端部分64bの内周面に平行な平行面と、平行面からダストリップ64の先端部分64bの内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面を有する。また、好ましくは、突起を含むダストリップ64の先端部分64bの内周面には、微小な凹凸が形成されている。微小な凹凸を有するシールリップ62の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【0096】
第3実施形態
【0097】
図10は、本発明の第3実施形態に係る密封装置90を示す。
【0098】
密封装置90は、相対的に回転する内輪6と外輪8との間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置90の作用により、転がり軸受2の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止または低減されるとともに、外部から転がり軸受2の内部への異物の流入が防止または低減される。図10において、矢印Dは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0099】
図10においては、車軸4に対する左側部分のみが示されているが、密封装置90および転がり軸受2は回転対称な形状を有する。図10の上側は、軸受内部側Bであり、下側は大気側Aである。但し、転がり軸受2を挟んで、密封装置90の反対側にも密封装置90と類似の密封装置が設けられる。
【0100】
密封装置90は、4つの環状のシール部材、すなわち外側シール部材16、中間シール部材18、内側シール部材91、およびスリンガー110を有する。
【0101】
この実施形態の外側シール部材16および中間シール部材18は、第1実施形態の外側シール部材16および中間シール部材18とほぼ同じである。但し、この実施形態の外側シール部材16の円環部分16Dは、傾斜しており、円錐台状である。
【0102】
スリンガー110は、剛性材料、例えば金属から形成されている。スリンガー110は、スリーブ112と、フランジ114と、外側スリーブ116とを備える。スリーブ112は内輪6に固定される。固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。フランジ114は、スリーブ112の大気側の端部から径方向外側に広がる。外側スリーブ116は、フランジ114の外端縁から軸受内部側Bに向けてスリンガー110の軸線方向に延びる。
【0103】
外側スリーブ116と外側シール部材16の内側円筒部分16Eの間には環状の間隙117が設けられ、スリーブ112の軸受内部側Bの端部と中間シール部材18の内側円筒部分18Cの間には環状の間隙118が設けられている。
【0104】
内側シール部材91は、外側シール部材16と中間シール部材18の内側に配置され、相対的に回転する外側シール部材16とスリンガー110との間に配置され、外側シール部材16とスリンガー110との間の間隙を封止する。したがって、内側シール部材91を密封装置とみなすことができる。
【0105】
内側シール部材(密封装置)91は、剛性材料、例えば金属から形成された剛性部92と、弾性材料、例えばエラストマーから形成された弾性部93とを備える二重構造を有する。弾性部93は剛性部92に固定されており、剛性部92は弾性部93を補強する。
【0106】
内側シール部材91は、中間シール部材18に固定される取付け円筒部94、円環部95、シールリップ(グリースリップ)96、副リップ(ダストリップ)97、およびサイドリップ(ダストリップ)98を有する。
【0107】
取付け円筒部94は、剛性部92と弾性部93を有しており、中間シール部材18の外側円筒部分18Aの内周面に締まり嵌めによって固定される。
【0108】
円環部95は、剛性部92と弾性部93を有しており、取付け円筒部94から径方向内側に延びる。
【0109】
弾性部93は、リップ96,97,98を有する。
【0110】
シールリップ96は、円環部95の内端から径方向内側かつ軸受内部側Bに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。シールリップ96は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に向けて延び、シールリップ96の先端はスリーブ112の外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。シールリップ96は、主に軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能を有する。
【0111】
副リップ97は、円環部95の内端から径方向内側かつ大気側Aに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。副リップ97は、スリンガー110の外側スリーブ116の内部に配置され、スリンガー110のスリーブ112の外周面に向けて延びる。この実施形態では、副リップ97の先端は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。副リップ97は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有し、軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能も有する。
【0112】
サイドリップ98は、円環部95から径方向外側かつ大気側Aに向けて斜めに延びる円錐台環状のラジアルリップである。サイドリップ98は、スリンガー110の外側スリーブ116の内部に配置され、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に向けて延びる。この実施形態では、サイドリップ98の先端は、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に全周にわたって摺動可能に接触する。サイドリップ98は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有し、軸受内部側Bから大気側Aへの潤滑油の漏れを防止または低減する機能も有する。
【0113】
第1実施形態のシールリップ30に形成された突起36と同様に、この実施形態におけるシールリップ96の内周面には、複数の突起100が形成されている。これらの突起100は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に摺動可能に常に接触する。したがって、シールリップ96の内周面において、突起100から離れた部分は、スリーブ112の外周面に接触するが、突起100の周囲の部分では、シールリップ96とスリーブ112の間に間隙が存在する。
【0114】
上記の通り、シールリップ96がスリーブ112の外周面に摺動可能に接触して、転がり軸受2の内部の潤滑油を封止する。したがって、潤滑油の封止性能が高い。一方、シールリップ96の内周面に形成された複数の突起100が、スリーブ112の外周面に常に接触し、突起100の周囲の部分では、シールリップ96とスリーブ112の外周面の間に小さい間隙が存在する。シールリップ96とスリーブ112の外周面の間に存在する小さい間隙を通じて転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができる。このため、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、発熱のおそれを低減することができる。
【0115】
第1実施形態のシールリップ30に形成された突起36と同様に、好ましくは、各突起100は、シールリップ96の内周面に平行な平行面100Aと、平行面100Aからシールリップ96の内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面100Bを有する。この場合には、突起100がシールリップ96の内周面に対して目標の高さを有するように、突起100を形成しやすい。
【0116】
また、第1実施形態のシールリップ30と同様に、好ましくは、突起100を含むシールリップ96の内周面には、微小な凹凸(図示せず)が形成されている。微小な凹凸を有するシールリップ96の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【0117】
この実施形態に係る内側シール部材91においては、副リップ97の先端は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に摺動可能に接触する。但し、副リップ97の先端は、スリンガー110に接触しなくてもよい。この場合、副リップ97の先端とスリンガー110の間に環状の間隙が存在するが、間隙が小さい場合には、副リップ97は大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減することができる。
【0118】
また、サイドリップ98の先端は、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に摺動可能に接触する。但し、サイドリップ98の先端は、スリンガー110に接触しなくてもよい。この場合、サイドリップ98の先端とスリンガー110の間に環状の間隙が存在するが、間隙が小さい場合には、サイドリップ98は大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減することができる。
【0119】
副リップ97の先端が、スリンガー110のスリーブ112の外周面に摺動可能に接触する実施形態では、副リップ97の内周面にも、複数の突起102が形成されている。これらの突起102は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に摺動可能に常に接触する。したがって、副リップ97の内周面において、突起102から離れた部分は、スリンガー110のスリーブ112の外周面に接触するが、突起102の周囲の部分では、副リップ97と円筒部12Aの間に間隙が存在する。このため、副リップ97は、潤滑油の封止性能が高い一方、転がり軸受2の内部で圧力が減少したとしても、スリーブ112の外周面に強く引き付けられず、発熱のおそれを低減することができる。
【0120】
この実施形態では、各突起102は、突起100の平行面100Aに相当する平行面を有しておらず、副リップ97の内周面に対して傾斜した面のみを有する。しかし、各突起102を、副リップ97の先端縁に接する位置に配置して、突起100の平行面100Aに相当する平行面を各突起102に設けてもよい。この場合には、突起102が副リップ97の内周面に対して目標の高さを有するように、突起102を形成しやすい。
【0121】
シールリップ96の内周面と同様に、突起102を有する副リップ97の内周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸を有する副リップ97の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【0122】
サイドリップ98の先端が、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に摺動可能に接触する実施形態では、サイドリップ98の外周面にも、複数の突起104が形成されている。これらの突起104は、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に摺動可能に常に接触する。したがって、サイドリップ98の外周面において、突起104から離れた部分は、スリンガー110の外側スリーブ116の内周面に接触するが、突起104の周囲の部分では、サイドリップ98と外側スリーブ116の間に間隙が存在する。このため、サイドリップ98は、潤滑油の封止性能が高い一方、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、外側スリーブ116の内周面に強く押し付けられず、発熱のおそれを低減することができる。
【0123】
この実施形態では、各突起104は、突起36の平行面36Aに相当する平行面を有しておらず、サイドリップ98の外周面に対して傾斜した面のみを有する。しかし、各突起104を、サイドリップ98の先端縁に接する位置に配置して、突起36の平行面36Aに相当する平行面を各突起104に設けてもよい。この場合には、突起104がサイドリップ98の外周面に対して目標の高さを有するように、突起104を形成しやすい。
【0124】
シールリップ96の内周面と同様に、突起104を有するサイドリップ98の外周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸を有するサイドリップ98の外周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【0125】
他の変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0126】
例えば、密封装置のリップの形状および数は、上記のものに限定されない。
【0127】
上記の実施の形態では、内側部材である内輪6および油切り部材12が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。
【0128】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0129】
条項1. 転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材の孔の内部に固定される、剛性材料から形成された環状の剛性部と、
前記剛性部に固定された、弾性材料から形成された弾性部とを有し、
前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のシールリップを有し、
前記シールリップの内周面には、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に常に接触する複数の突起が形成されており、前記突起の周囲の部分では、前記シールリップと前記内側部材または前記内側部材に固定された部材の間に間隙が存在する
ことを特徴とする密封装置。
【0130】
条項2. 前記突起の各々は、前記シールリップの内周面に平行な平行面と、前記平行面に連なり前記平行面から前記内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面を有する
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0131】
この場合、突起が形成されたシールリップを例えばモールドで成形した後に、切断加工でシールリップを(突起と共に)仕上げ成形する際、突起はシールリップの内周面に平行な平行面を有するので、切断位置が目標位置からずれたとしても、突起の高さ(平行面と内周面の間隔)は目標の高さを有する。
【0132】
条項3. 前記シールリップの内周面には、凹凸が形成されている
ことを特徴とする条項1または2に記載の密封装置。
【0133】
この場合には、シールリップの内周面の微小な凹凸によって、シールリップの摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。また、シールリップの内周面の微小な凹凸によって、シールリップと内側部材または内側部材に固定された部材の間に微小な間隙が存在する。微小な間隙を通じて、軸受の内部と外部で空気が流通することができ、軸受の内部で圧力が増加または減少した場合でも、シールリップおよび/またはその他のリップが内側部材または内側部材に固定された部材に押し付けまたは引き付けられて摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【0134】
条項4. 前記内周面の十点平均粗さRzが15μm以上、30μm以下である
ことを特徴とする条項3に記載の密封装置。
【0135】
この場合には、微小な凹凸による内周面の粗さが適切であり、シールリップによる潤滑剤の封止性と、空気の流通性を両立することができる。
【0136】
条項5. 前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のダストリップを有し、
前記ダストリップの内周面には、凹凸が形成されている
ことを特徴とする条項1から4のいずれか1項に記載の密封装置。
【0137】
この場合には、ダストリップの内周面の微小な凹凸によって、ダストリップの摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。また、ダストリップの内周面の微小な凹凸によって、ダストリップと内側部材または内側部材に固定された部材の間に微小な間隙が存在する。微小な間隙を通じて、軸受の内部と外部で空気が流通することができ、軸受の内部で圧力が減少した場合でも、ダストリップが内側部材または内側部材に固定された部材に引き付けられて摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【0138】
条項6. 前記ダストリップの前記内周面の十点平均粗さRzが15μm以上、30μm以下である
ことを特徴とする条項5に記載の密封装置。
【0139】
この場合には、微小な凹凸による内周面の粗さが適切であり、ダストリップによる潤滑剤の封止性と、空気の流通性を両立することができる。
【符号の説明】
【0140】
1 密封装置
2 転がり軸受
4 車軸
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
8A 孔
12 油切り部材(内側部材)
16 外側シール部材
18 中間シール部材
20 内側シール部材
20 内側シール部材(密封装置)
22 剛性部
24 弾性部
26 取付け円筒部
28 円環部
30 シールリップ(グリースリップ)
32 副リップ(ダストリップ)
34 サイドリップ(ダストリップ)
36 突起
36A 平行面
36B 傾斜面
38 突起
40 密封装置
41 内側シール部材
50 外側シール部材(密封装置)
52 剛性部
54 弾性部
55 円筒部分
56 円環部分
62 シールリップ(グリースリップ)
64 ダストリップ(サイドリップ)
84 突起
84A 平行面
84B 傾斜面
90 密封装置
91 内側シール部材(密封装置)
92 剛性部
93 弾性部
94 取付け円筒部
95 円環部
96 シールリップ(グリースリップ)
97 副リップ(ダストリップ)
98 サイドリップ(ダストリップ)
100 突起
100A 平行面
100B 傾斜面
102 突起
104 突起
110 スリンガー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-08-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材の孔の内部に固定される、剛性材料から形成された環状の剛性部と、
前記剛性部に固定された、弾性材料から形成された弾性部とを有し、
前記弾性部は、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のシールリップと、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する円錐台環状のダストリップとを有し、
前記シールリップの内周面には、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に常に接触する複数の突起が形成されており、前記突起の周囲の部分では、前記シールリップと前記内側部材または前記内側部材に固定された部材の間に間隙が存在し、
前記突起は、前記シールリップの先端縁に接する位置に配置されており、
前記ダストリップの内周面には、前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に摺動可能に接触する第2の突起が形成されている
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記第2の突起が複数設けられており、前記第2の突起の周囲の部分では、前記ダストリップと前記内側部材または前記内側部材に固定された部材の間に間隙が存在する
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記第2の突起が前記内側部材または前記内側部材に固定された部材に常に接触する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記第2の突起は、前記ダストリップの先端縁に接する位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記内側部材または前記内側部材に固定された部材は、円筒部、前記円筒部から径方向外側に広がるフランジ、および前記フランジに連結された外側円筒部を有し、
前記弾性部は、円錐台環状の第2のダストリップを有し、前記第2のダストリップは前記外側円筒部の内周面に摺動可能に接触する外周面を有し、
前記第2のダストリップの外周面には、前記外側円筒部の内周面に摺動可能に常に接触する複数の第3の突起が形成されており、前記第3の突起の周囲の部分では、前記第2のダストリップと前記外側円筒部の内周面の間に間隙が存在する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記第3の突起は、前記第2のダストリップの先端縁に接する位置に配置されている
ことを特徴とする請求項5に記載の密封装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
一方、この実施形態では、各突起36は、シールリップ30の内周面に平行な平行面36Aを有するので、切断位置が目標位置からずれたとしても、シールリップ30の内周面に対して突起36の高さh(平行面36Aとシールリップ30の内周面の間隔)は目標の高さになる。但し、突起36の平行面36Aは必ずしも不可欠ではない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
サイドリップ34の先端が、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に摺動可能に接触する実施形態では、サイドリップ34の外周面にも、複数の突起39が形成されている。これらの突起39は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に摺動可能に常に接触する。したがって、サイドリップ34の外周面において、突起39から離れた部分は、油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に接触するが、突起39の周囲の部分では、サイドリップ34と外側円筒部12Cの間に間隙が存在する。このため、突起39を有するサイドリップ34は、潤滑油の封止性能が高い一方、転がり軸受2の内部で圧力が増加したとしても、外側円筒部12Cの内周面に強く押し付けられず、発熱のおそれを低減することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
突起36と同様に、2つの突起39を有する組を3つ設けることができ、これらの3つの組は、等角間隔、すなわち120度の間隔をおいて配置することができる。但し、突起39の配置および数は、この実施形態には限定されない。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
この実施形態では、各突起39は、突起36の平行面36Aに相当する平行面を有しておらず、サイドリップ34の外周面に対して傾斜した面のみを有する。しかし、各突起39を、サイドリップ34の先端縁に接する位置に配置して、突起36の平行面36Aに相当する平行面を各突起39に設けてもよい。この場合には、突起39がサイドリップ34の外周面に対して目標の高さを有するように、突起39を形成しやすい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
シールリップ30の内周面と同様に、突起39を有するサイドリップ34の外周面には、微小な凹凸が形成されていると好ましい。微小な凹凸は、梨地処理によって不規則に形成することができる。この場合には、サイドリップ34の外周面の微小な凹凸によって、サイドリップ34の摩擦抵抗が低減し、発熱およびトルクが抑制される。また、微小な凹凸に起因する微小な間隙を通じて、空気が流通することができ、転がり軸受2の内部で圧力が増加した場合でも、サイドリップ34が油切り部材12の外側円筒部12Cの内周面に押し付けられず、摩擦により発熱するおそれを低減することができる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0089
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0089】
図8に示すように、治具80が挿入される凹部59は、周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所に配置されている。各凹部59は弾性部54の部分72で塞がれている。治具80または作業者のを凹部59に挿入するには、容易に凹部59の位置を探り当てることができるのが望ましい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
そこで、この実施形態では、図7および図9に示すように、円環部分56の大気側Aの面に固定された弾性部54の一部分70に複数の目印82が形成されている。これらの目印82は、径方向において凹部59に重なる複数の位置に配置されている。作業者は、視覚または触覚で目印82を認識し、目印82に対応する凹部59に治具80またはを容易に挿入することができる。この実施形態では、各目印82は半球状の突起であるが、目印82の形状はこれに限定されず、他の形状の突起でもよいし、凹部または刻印でもよい。あるいは、目印82は、三次元形状に限定されず、視覚で認識可能な平面上に着色された目印または模様を持つ目印でもよい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
この実施形態では、ダストリップ64の先端部分64bは内側シール部材41のフランジ44に接触せず、先端部分64bとフランジ44の間には環状の間隙が設けられている。但し、ダストリップ64の先端部分64bは内側シール部材41のフランジ44に接触していてもよい。この場合には、好ましくは、ダストリップ64の先端部分64bの内周面に、フランジ44に摺動可能に常に接触する複数の突起(図示せず)が形成される。この場合、ダストリップ64の先端部分64bの内周面において、突起から離れた部分は、フランジ44に接触するが、突起の周囲の部分では、ダストリップ64の先端部分64bとフランジ44の間に小さい間隙が存在する。小さい間隙を通じて転がり軸受2の内部と外部(軸受内部側Bと大気側A)で空気が流通することができる。好ましくは、各突起は、ダストリップ64の先端部分64bの内周面に平行な平行面と、平行面からダストリップ64の先端部分64bの内周面に向けて高さが徐々に小さくなる傾斜面を有する。また、好ましくは、突起を含むダストリップ64の先端部分64bの内周面には、微小な凹凸が形成されている。微小な凹凸を有するダストリップ64の内周面の十点平均粗さRzは15μm以上、30μm以下であると好ましい。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0131
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0131】
この場合、突起が形成されたシールリップを例えばモールドで成形した後に、切断加工でシールリップを(突起と共に)仕上げ成形する際、突起はシールリップの内周面に平行な平行面を有するので、切断位置が目標位置からずれたとしても、突起の高さ(平行面と内周面の間隔)は目標の高さになる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1