(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172374
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】能動型騒音制御装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
G10K11/178 100
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144990
(22)【出願日】2022-09-13
(62)【分割の表示】P 2020211692の分割
【原出願日】2015-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】野原 学
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ロードノイズなどのランダムノイズを効果的に消音することができ、車室内などでの使用に適した非密閉型の能動型騒音制御装置を提供する。
【解決手段】非密閉型の騒音制御装置10は、加算器11と、スピーカ12と、マイク13と、シェルフフィルタ14と、ローブーストフィルタ15と、を備えるフィードバック回路として構成され、ローブーストフィルタ15により、低域のゲイン不足を補うとともに、位相を遅らせることによって位相の進みを補正し、低域におけるキャンセル効果を確保する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非密閉型の構造を有し、フィードバック制御を行う能動型騒音制御装置において、
ノイズを検出する検出手段と、
検出されたノイズの信号の低周波帯域におけるゲインを増加させる補正手段と、
補正されたノイズの信号に基づいて、前記ノイズを低減させるノイズ低減音を出力する出力手段と、
を有することを特徴とする能動型騒音制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能動型騒音制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
外部の騒音を、スピーカから出力する音で打ち消すことにより消音するアクティブノイズコントロール技術が知られている。例えば、特許文献1は、フィードフォワード方式のアクティブノイズコントロールにより車室内騒音を低減する、開放型の車室内騒音低減装置を記載している。また、特許文献2は、フィードバック方式によりスピーカからノイズキャンセル用の信号を出力することでノイズレベルを低減する、密閉型のヘッドホン用ノイズキャンセル装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-288489号公報
【特許文献2】特開2007-259246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車室内においては、車のロードノイズなどのランダムノイズを消音することが求められる。特許文献1の手法は、フィードフォワード制御を行っているため、参照信号を必要とする。しかし、フィードフォワード制御では、参照信号とロードノイズなどのランダムノイズとの相関が低い、因果性を満たさないなどの理由から十分な消音効果を得ることが難しい。よって、ロードノイズを消音するためには、参照信号を必要としないフィードバック制御を行うことが望ましい。
【0005】
この点、特許文献2の手法はフィードバック制御を行っているため、ランダムノイズの消音効果は高い。しかしながら、特許文献2の装置は密閉型のヘッドフォンタイプであるため耳への圧迫感があり、また、外部の音が聞こえなくなるため車室内の使用には適さない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のものが例として挙げられる。本発明は、ロードノイズなどのランダムノイズを効果的に消音することができ、車室内などでの使用に適した非密閉型の能動型騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、非密閉型の構造を有し、フィードバック制御を行う能動型騒音制御装置において、ノイズを検出する検出手段と、検出されたノイズの信号の低周波帯域におけるゲインを増加させる補正手段と、補正されたノイズの信号に基づいて、前記ノイズを低減させるノイズ低減音を出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】密閉型及び非密閉型の能動型騒音制御装置の構成を模式的に示す。
【
図2】密閉型及び非密閉型の騒音制御装置による騒音のキャンセル効果を示す。
【
図3】密閉型の騒音制御装置の構成、及び、シェルフフィルタの特性を示す。
【
図4】密閉型及び単純開放型の騒音制御装置の特性を示す。
【
図5】単純開放型の騒音制御装置の特性及び騒音のキャンセル効果を示す。
【
図6】実施例に係る非密閉型の騒音制御装置の構成を示す。
【0009】
【
図8】実施例に係る騒音制御装置の特性及び騒音のキャンセル効果を示す。
【
図9】実施例に係る騒音制御装置による騒音制御処理のフローチャートである。
【
図10】単純開放型及び非密閉型の騒音制御装置による騒音のキャンセル効果を示す。
【
図11】実施例に係る騒音制御装置を車両に搭載した例を示す平面図である。
【
図13】実施例に係る騒音制御装置の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態では、非密閉型の構造を有し、フィードバック制御を行う能動型騒音制御装置は、ノイズを検出する検出手段と、検出されたノイズの信号の低周波帯域における位相を遅延させる補正手段と、補正されたノイズの信号に基づいて、前記ノイズを低減させるノイズ低減音を出力する出力手段と、を有する。
【0011】
上記の能動型騒音制御装置は、ノイズを検出し、検出されたノイズの信号の低周波帯域における位相を遅延させる。非密閉型の騒音制御装置では、低周波帯域におけるノイズの信号の位相が進む現象が起きるので、補正手段により位相を遅延させて相殺する補正を行う。そして、位相が補正されたノイズの信号に基づいて、ノイズ低減音を出力することにより、ノイズを低減する。好適な例では、上記の能動型騒音制御装置は、車室内に備えられる。
【0012】
上記の能動型騒音制御装置の一態様では、前記補正手段は、低周波帯域において、周波数が低くなるほど位相を遅延させつつ、ゲインを上げていく特性を有するフィルタで補正する。これにより、低周波帯域における位相を適切に補正することができる。
【0013】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様では、前記出力手段はキャビネットを有するスピーカであり、前記スピーカが備えられるキャビネットの容量に応じて、騒音制御が可能な低周波帯域を変化させる。
【0014】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様では、前記出力手段の振動板のサイズまたは重量に応じて、騒音制御が可能な低周波帯域を変化させる。
【0015】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様では、前記検出手段と前記出力手段とが設置される距離は、可能な限り近くすることが好ましい。これにより、ノイズ低減効果が得られる制御帯域を広げることが可能となる。好適には、前記検出手段と前記出力手段とが設置される距離は、前記出力手段の振動板の最大振幅時に前記検出手段が前記出力手段に接触しない範囲で最小とする。
【0016】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様では、前記検出手段の指向特性のゲインが高い方向が、前記出力手段の方向に向いている。これにより、ノイズ低減効果が得られる制御帯域を広げることができる。
【0017】
好適な例では、前記検出手段と前記出力手段は、ユーザの左右の耳の位置にそれぞれ1つずつ設置される。
【0018】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様は、前記出力手段と前記検出手段の距離を保った状態で、聞き手の状態に応じた位置に三次元的に配置することを可能とする。これにより、ユーザの状態に応じて能動型騒音制御装置の位置が変化した場合でも、出力手段と検出手段の距離を保ち、ノイズ低減効果を維持することができる。
【0019】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様は、前記出力手段と保護材との間に前記検出手段が設けられる。これにより、ユーザの耳などが検出手段に直接接触することが防止できる。
【0020】
上記の能動型騒音制御装置の他の一態様は、一部密閉型の構造を有する。これにより、ノイズの信号の低周波帯域における位相の進みを抑制することができ、ノイズ低減効果が得られる制御帯域を広げることができる。
【0021】
本発明の他の好適な実施形態は、非密閉型の構造を有し、フィードバック制御を行う能動型騒音制御装置によって実行される能動型騒音制御方法であって、ノイズを検出する検出工程と、検出されたノイズの信号の低周波帯域における位相を遅延させる補正工程と、補正されたノイズの信号に基づいて、前記ノイズを低減させるノイズ低減音を出力する出力工程と、を有する。この方法においても、非密閉型の構造に起因して低周波帯域でノイズの信号の位相が進む分を、補正手段により位相を遅延させて相殺する。そして、補正されたノイズの信号に基づいて、ノイズ低減音を出力することにより、ノイズを低減する。
【0022】
本発明の他の好適な実施形態では、非密閉型の構造を有し、コンピュータを備え、フィードバック制御を行う能動型騒音制御装置によって実行されるプログラムは、ノイズを検出する検出手段、検出されたノイズの信号の低周波帯域における位相を遅延させる補正手段、補正されたノイズの信号に基づいて、前記ノイズを低減させるノイズ低減音を出力する出力手段、として前記コンピュータを機能させる。このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記の能動型騒音制御装置を実現することができる。このプログラムは、記憶媒体に記憶して取り扱うことができる。
【実施例0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0024】
[1]密閉型及び単純開放型の騒音制御装置
図1(A)は、密閉型の能動型騒音制御装置(以下、単に「騒音制御装置」とも呼ぶ。)の構成を模式的に示す。密閉型の騒音制御装置3は、ヘッドホン型の筐体5を有し、ユーザ1の耳2を覆うように装着される。騒音制御装置3は、筐体5の内部にスピーカ、マイク、フィルタ部などの内部ユニット4が設けられる。内部ユニット4は、フィードバック方式のアクティブノイズコントロールを行うように構成される。しかし、このような密閉型の騒音制御装置3では、ユーザ1の耳2が筐体5により覆われるため、車室内で運転者などが装着するには適さない。
【0025】
図1(B)は、非密閉型(開放型)の騒音制御装置の構成を模式的に示す。具体的に、
図1(B)に示す非密閉型の騒音制御装置6は、
図1(A)に示す密閉型の騒音制御装置3の筐体5を除去し、内部ユニット4のみで構成したものである。なお、後述する実施例に係る非密閉型の騒音制御装置と区別するため、この非密閉型(開放型)の騒音制御装置を「単純開放型」の騒音制御装置6と呼ぶ。単純開放型の騒音制御装置6は、ユーザ1の耳2を覆う筐体が無いため、装着したユーザ1は外部の音を支障なく聞くことができ、車室内などでの使用に適している。
【0026】
しかしながら、密閉型の騒音制御装置3から筐体5を除去して単純開放型の騒音制御装置6を構成した場合、低域で消音効果が低下してしまうという問題が、必ず発生することがわかった。
図2は、密閉型及び単純開放型の騒音制御装置による騒音のキャンセル効果(単に「キャンセル効果」又は「消音効果」とも呼ぶ。)を示すグラフである。具体的に、
図2(A)は、
図1(A)に示す密閉型の騒音制御装置3によるキャンセル効果を示し、
図2(B)は、
図1(B)に示す単純開放型の騒音制御装置6によるキャンセル効果を示す。
図2(A)、2(B)において、横軸は周波数を示し、縦軸はキャンセル効果を示す。なお、キャンセル効果は図中の下に行くほど大きく、上に行くほど小さいものとする。即ち、縦軸の値がマイナスの場合は消音となり、プラスの場合は増音となる。
【0027】
図2(A)に示すように、密閉型の騒音制御装置3では、全帯域において騒音のキャンセル効果が得られている。これに対して、
図2(B)に示すように、単純開放型の騒音制御装置6では、低域の破線70で示す帯域において、騒音のキャンセル効果が低下し、増音している。この原因について説明する。
【0028】
図3(A)は、
図1(A)に示す密閉型の騒音制御装置3の回路構成を示す。密閉型の騒音制御装置3は、加算器11と、スピーカ12と、マイク13と、シェルフフィルタ(Shelf Filter)14とを備えるフィードバック回路として構成される。なお、スピーカ12からマイク13までの伝達関数を「C」とする。また、矢印80で示すスピーカ12からシェルフフィルタ14までの特性を「一巡伝達関数」と呼ぶ。
【0029】
図3(B)は、
図3(A)に示すシェルフフィルタ14の周波数特性及び位相特性を示す。シェルフフィルタ14は、破線90に示すように高域でゲイン(パワー)を低下させるとともに、破線91に示すように位相を0度(°)付近に維持して位相遅れを生じさせないようにする。
【0030】
図4(A)は、
図3(A)のように構成された密閉型の騒音制御装置3の周波数特性及び位相特性を示す。密閉型の騒音制御装置3の場合、周波数特性はほぼフラットであり、位相特性も低域から中域にわたって位相の変動がない。これにより、密閉型の騒音制御装置3では所望の消音効果が得られる。
【0031】
一方、
図3(A)に示す回路構成のままで、密閉型の騒音制御装置3から筐体5を除去してなる単純開放型の騒音制御装置6を考える。単純開放型の騒音制御装置6の周波数特性及び位相特性は
図4(B)のようになる。単純開放型の騒音制御装置6では、
図4(B)の破線71に示すように低域のゲインが低下し、これに伴って破線72に示すように低域で位相が進む。これが原因で、
図2(B)に示すように、単純開放型の騒音制御装置6では低域でキャンセル効果が低下する。
【0032】
この点について詳しく説明する。
図5は、単純開放型の騒音制御装置6の一巡伝達関数の周波数特性及び位相特性、並びに、キャンセル効果を示す。なお、一巡伝達特性は、
図3(A)の矢印80で示すものである。また、キャンセル効果は、マイク13の位置での音圧を示している。
【0033】
フィードバック制御理論に基づけば、
図3(A)のフィードバック回路において騒音をキャンセルするための条件は、一巡伝達関数において、
(条件1)位相が±90度以内であること、及び
(条件2)ゲインが大きいこと、
となる。条件1を満たさない場合は増音してしまう。また、条件1を満たさない場合、ゲインが大きいほど増音量は大きくなる。この点について検討すると、
図5に示す一巡伝達関数の位相特性においては、破線74で示すように、低域において位相が±90度を超えてしまっており、条件1を満たさないため増音してしまう。また、周波数特性においては、破線73で示すように、同じ帯域において条件1を満たさずゲインが0dB付近となっているために増音し発振に近い状態となっている(条件1を満たさずゲインが0dBより大きくなると発振の危険性が高くなる。)その結果、キャンセル効果のグラフにおいて破線75に示すように、低域でキャンセル効果がなく、10dB程度増音してしまっている。
【0034】
[2]実施例に係る非密閉型の騒音制御装置
(構成)
以上より、本実施例では、上記のキャンセル効果の低下を防止すべく、フィードバック制御回路にフィルタを追加する。
図6は、実施例に係る非密閉型の騒音制御装置10の構成を示す。なお、実施例に係る騒音制御装置10を「非密閉型」と呼び、前述の単純開放型の騒音制御装置6と区別する。
【0035】
非密閉型の騒音制御装置10は、
図3(A)に示す密閉型の騒音制御装置3の構成に加えて、ローブーストフィルタ(Low Boost Filter)15を備える。
図7(A)は、ローブーストフィルタ15の周波数特性及び位相特性を示す。周波数特性に示すように、ローブーストフィルタ15は低域のゲインを増加させる。より具体的には、周波数が低くなるほど、ゲインを増大させる。また、位相特性の破線76に示すように、ローブーストフィルタ15は、位相を遅らせる。なお、
図6において、シェルフフィルタ14とローブーストフィルタ15の位置を入れ替えても構わない。
【0036】
なお、上記の構成において、スピーカは本発明の出力手段の一例であり、マイク13は本発明の検出手段の一例であり、ローブーストフィルタ15は本発明の補正手段の一例である。
【0037】
図8は、非密閉型の騒音制御装置10の一巡伝達関数の周波数特性及び位相特性、並びに、キャンセル効果を示す。なお、この一巡伝達関数は、
図6における矢印81で示されるものである。周波数特性においては、破線77に示すように、低域でゲインが増大され、0dB以上となっている。これは、前述のように、ローブーストフィルタ15が低域のゲインを増大させる特性を有するからである。また、位相特性においては、破線78に示すように、低域で位相が補正され、位相が理想的な0度の状態となっている。これは、前述のように、ローブーストフィルタ15が位相を遅らせる特性を有するからである。即ち、ローブーストフィルタ15を挿入することにより、
図5に示す単純開放型の騒音制御装置6の特性において、破線73に示す周波数特性における低域のゲイン不足を補うとともに、位相を遅らせることによって破線74に示す位相特性における位相の進みを相殺する。こうして、ローブーストフィルタ15により、位相が±90度以内となり、かつ、ゲインが0dB以上となるため、前述の条件1及び条件2が満足される。その結果、
図8の破線79に示すように、低域におけるキャンセル効果が確保される。
【0038】
なお、ローブーストフィルタ15は、例えば、
図7(B)に示す1次フィルタを4個直列接続したフィルタとして構成される。この場合、ローブーストフィルタ15の個数は、単純開放型の騒音制御装置6において発生する位相進みを相殺するために必要な位相遅れを実現するように決定される。
【0039】
(動作)
次に、実施例に係る非密閉型の騒音制御装置10の動作について説明する。
図9は、騒音制御装置10による騒音制御処理のフローチャートである。この処理は、
図6に示す騒音制御装置10の構成要素により実行される。
【0040】
まず、マイク13が周囲のノイズを集音する(ステップS10)。集音された信号はローブーストフィルタ15に供給され、ローブーストフィルタ15は前述のように信号の低域の位相及びゲインを補正する(ステップS11)。次に、シェルフフィルタ14は、信号の高域のゲインを下げつつ、位相遅延を抑える(ステップS12)。シェルフフィルタ14の出力は加算器11に入力され、加算器は目標値0との差分を演算することにより、ノイズと逆位相のキャンセル信号を生成してスピーカ12に供給する。そして、スピーカ12は、キャンセル信号に基づいて、ノイズと逆位相であるノイズ低減音(「キャンセル音」とも呼ぶ。)を出力する。これにより、ノイズがキャンセルされる。
【0041】
なお、
図6では、騒音制御装置10の回路をアナログ回路として示しているが、これをデジタル回路として構成してもよい。具体的には、マイク13の出力側にA/D変換器を設け、スピーカ12の入力側にD/A変換器を設け、加算器11、シェルフフィルタ14及びローブーストフィルタ15をデジタル回路として構成する。また、スピーカ12とマイク13以外の部分をDSPなどのコンピュータにより構成してもよい。
【0042】
(騒音のキャンセル効果)
図10(A)は、ローブーストフィルタを有しない単純開放型の騒音制御装置6のキャンセル効果を示し、
図10(B)は、ローブーストフィルタを有する非密閉型の騒音制御装置10のキャンセル効果を示す。
図10(A)の破線83に示すように、ローブーストフィルタを設けない場合には低域でキャンセル効果が低下し、増音している。これに対し、
図10(B)の破線84に示すように、ローブーストフィルタを設けることにより低域のキャンセル効果が確保されている。
【0043】
(設置例)
次に、実施例に係る非密閉型の騒音制御装置10の設置例を説明する。
図11は、騒音制御装置10を車両20に搭載した例を示す。この例では、騒音制御装置10は車両の運転席側に設置されている。具体的に、左右の一対のスピーカ12及びマイク13が運転席のシートに取り付けられている。例えば、スピーカ12及びマイク13は、運転席のシートのヘッドレストの左右に設けられる。これにより、スピーカ12及びマイク13は、運転席に座ったユーザの左右の耳の近傍に位置することになる。
【0044】
また、騒音制御装置10は、スピーカ21に供給される信号を増幅するためのスピーカアンプ21と、フィルタ部22と、マイク13の出力信号を増幅するマイクアンプ23と、を備える。フィルタ部22は、
図6に示すフィードバック制御回路におけるシェルフフィルタ14、ローブーストフィルタ15、加算器11などを含む。
【0045】
車両を走行させるとロードノイズなどのランダムノイズが発生するが、このように非密閉型の騒音制御装置10を車室内に設置することにより、運転者の耳元でロードノイズなどのランダムノイズをキャンセルし、運転者に聞こえなくすることができる。
【0046】
スピーカ12は、通常、キャビネットを有するスピーカ、いわゆる箱型スピーカとして構成される。この場合、スピーカを構成するキャビネットの容量(容積)を大きくすることにより、騒音制御装置10によりキャンセル効果が得られる周波数帯域(以下、「制御帯域」と呼ぶ。)の低域側を広げることが可能となる。また、スピーカ12に設けられる振動板を大きくする、又は、軽くすることによっても、制御帯域の低域側を広げることが可能となる。
【0047】
次に、スピーカ12とマイク13との距離について説明する。スピーカ12とマイク13との距離が近いほど、一巡伝達関数の位相特性において、位相が回転し始める周波数を高域側に移動させることが可能となる。よって、スピーカ12とマイク13の距離を可能な限り近づけることにより、制御帯域を高域側に広げることができる。実際には、スピーカ12の駆動時に振動板とマイク13とが接触してはいけないので、スピーカ12とマイク13は、スピーカ12の振動板の最大振幅時にスピーカ12とマイクとが接触しない範囲で最小の距離に設置されることが好ましい。
【0048】
実際の乗車時には、ユーザは座高の高さや耳の位置に合わせた角度などに応じて、シートやヘッドレストの位置を前後方向、左右方向及び上下方向に3次元的に調整する。このとき、騒音制御装置10は、スピーカ12とマイク13の距離を維持したまま、ユーザの状態に応じた位置に3次元的に位置調整が可能なように構成されることが好ましい。即ち、スピーカ12とマイク13との距離を保ったまま、ユーザがシートやヘッドレストなどを3次元的に調整できるように、スピーカ12及びマイク13をシートやヘッドレストなどに取り付けることが好ましい。
【0049】
次に、スピーカ12とマイク13の向きについて説明する。
図12(A)は、ノイズとスピーカ12の方向との関係の一例を示す。ノードノイズなどのノイズの波面W1が
図12(A)に示すように移動する場合、スピーカ12の前方の領域85でノイズがキャンセルされる。この場合、スピーカ12から出力されるキャンセル音の波面W2が、ノイズの波面W1の方向と一致する場合、消音制御空間を広くすることができる。
【0050】
そこで、通常のマイク13は指向特性を有するので、
図12(B)に示すように、マイク13の指向特性のゲインが高い方向86が、スピーカ12の方向に向くように、スピーカ12とマイク13を相対的に配置する。その結果、マイクがスピーカの背後のノイズの音をより多く拾うことになり、消音制御空間を広くすることができる。
【0051】
図13(A)は、騒音制御装置10の変形例として、保護材を設けた騒音制御装置10aを模式的に示す。通常、スピーカ12の振動板の前方には網状の保護材が設けられる。本例では、スピーカ12の振動板の前方を覆う網状の保護材25とスピーカ12との間にマイク13を配置する。即ち、スピーカ12とマイク13とが網状の保護材25の内部に配置される。これにより、ユーザの耳などが直接的にマイク13と接触することを防止できる。
【0052】
図13(B)は、騒音制御装置10の他の変形例として、一部密閉型の騒音制御装置10bを模式的に示す。この例では、騒音制御装置10bは、上側が開放した筐体9を有し、その内部にスピーカ12、マイク13などが収容される。このように、一部密閉型とすることにより、単純開放型の騒音制御装置6と比較して、低域での位相の進み度合いを抑制することができるので、制御帯域を広げることが可能となる。
【0053】
[3]変形例
上記の実施例では、非密閉型の騒音制御装置10を車両に搭載しているが、その代わりに、飛行機、電車などの移動体に搭載し、周囲の騒音を低減することも可能である。