(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172378
(43)【公開日】2022-11-15
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20221108BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20221108BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221108BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B41J2/17 101
B41J2/165 101
B41J2/165 211
B41J2/01 401
B41J2/01 303
B41J2/175 119
B41J2/165 401
B41J2/165 207
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145147
(22)【出願日】2022-09-13
(62)【分割の表示】P 2021110572の分割
【原出願日】2015-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 敏郎
(57)【要約】
【課題】ヘッドユニット内に残存する保存液を低減すること。
【解決手段】液体吐出装置は、ノズル、及び、ノズルと連通し、且つ、タンクに貯留された吐出液をノズルに供給するための液体流路を有するヘッドユニットと、液体流路内に存在する、吐出液、及び吐出液とは異なる保存液の少なくとも何れかである液体を液体流路外に排出させるための排出部と、液体流路内の液体を撹拌するための撹拌部と、制御部とを備える。制御部は、排出部を制御して、液体流路内の保存液を少なくとも液体流路外に排出させて、タンクから液体流路内に吐出液を導入する導入処理と、導入処理の後に、撹拌部を制御して、液体流路内の液体を撹拌する撹拌処理と、撹拌処理の後に、排出部を制御して、液体流路内の撹拌部が撹拌した液体を液体流路外に排出する排出処理とを実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出液および前記吐出液とは異なる保存液の少なくとも何れかの液体を吐出可能なノズルと前記ノズルに連通しタンクに貯留された前記吐出液を前記ノズルに供給するための液体流路とを有するヘッドユニットと、
前記ノズルを覆うよう前記ヘッドユニットに接する位置と前記ヘッドユニットから離間する位置とに移動可能なキャップ部と、
前記キャップ部が前記ヘッドユニットに接する位置にある時に、前記キャップ部及び前記ヘッドユニットにて区画されたキャップ内部と前記液体流路との間に圧力差を発生させる圧力発生部と、
前記ノズルが前記キャップに対向する位置と前記ノズルが前記キャップに対向しない位置との間で前記ヘッドユニットを往復移動させる移動部と、
制御部とを備え、
前記制御部は、
前記キャップ部が前記ヘッドユニットに接する位置にある状態にて前記圧力発生部を動作させ、前記タンクから前記液体流路内に前記吐出液を導入し、かつ、前記液体流路内の前記保存液を前記液体流路外に排出させる第1排出処理と、
前記キャップ部を前記ヘッドユニットに接する位置に位置させ、前記圧力発生部を動作させ、前記液体流路内の前記液体を前記液体流路外に排出させる第2排出処理と、
前記第1排出処理の後であって、前記第2排出処理の前に、前記移動部にて前記ヘッドユニットを複数回前記往復移動させる移動処理と、を実行することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記タンクはカートリッジであり、
前記移動部は、前記ヘッドユニット及び前記カートリッジが配置されたキャリッジを有する請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記タンクは第1カートリッジと第2カートリッジとを含み、
前記液体流路は、前記第1カートリッジに貯留された前記吐出液を前記ノズルに供給するための第1液体流路と、前記第2カートリッジに貯留された前記吐出液を前記ノズルに供給するための第2液体流路とを含み、
制御部は、前記第1カートリッジと前記第2カートリッジとが装着された後に前記第1排出処理を開始する請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
制御部は、
前記第1排出処理の後であって前記第2排出処理の前に、前記ノズルから吐出液及び前記吐出液とは異なる保存液の少なくとも何れかを吐出させる吐出処理を実行する請求項1から請求項3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記移動処理は第1往復移動と第2往復移動を含み、
制御部は、
前記第1往復移動と前記第2往復移動の間に前記吐出処理を実行させる請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
制御部は、
前記第1排出処理の後であって前記第2排出処理の前に、前記吐出処理を複数回行う請求項4または請求項5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
制御部は、
前記ヘッドユニットが前記キャップに対向する位置にて前記吐出処理を行わせる請求項4から請求項6のいずれかに記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置の一例として、特許文献1に記載されたインクジェットプリンタにおいては、工場から出荷されるときに、インクジェットヘッドの機能保全を目的として、インクジェットヘッドやインクジェットヘッドにインクを供給するインク流路を含むヘッドユニット内にインクとは異なる充填液(保存液)が充填されている。そして、このインクジェットプリンタでは、初回の印刷を行う前(初回使用前)において、ヘッドユニット内に充填された充填液をノズルから排出しつつ、インクカートリッジからインクジェットヘッドにインクを導入する初期パージを行うことで、ヘッドユニット内に充填された充填液をインクに置換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、インクジェットプリンタの使用時においてヘッドユニット内に保存液が残存していると、保存液が混ざった状態のインクがヘッドユニットから吐出されることになるため、印刷品質が劣化する。このため、印刷品質を確保するためには、初回の印刷を行う前において、ヘッドユニット内の保存液を充分に排出する必要がある。しかしながら、本願発明者は、初回の印刷を行う前に上記初期パージを単に行ったとしても、ヘッドユニット内に保存液が多く残存する場合があることを知見した。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ヘッドユニット内に残存する保存液を低減することが可能な液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、第1の発明の液体吐出装置は、吐出液を吐出可能なノズル、及び、前記ノズルと連通し、且つ、タンクに貯留された前記吐出液を前記ノズルに供給するための液体流路を有するヘッドユニットと、前記液体流路内に存在する、前記吐出液、及び前記吐出液とは異なる保存液の少なくとも何れかである液体を前記液体流路外に排出させるための排出部と、前記液体流路内の液体を撹拌するための撹拌部と、前記排出部及び前記撹拌部を制御するための制御部とを備える。前記制御部は、前記液体流路内に前記保存液が存在するときに、前記排出部を制御して、前記液体流路内の前記保存液を少なくとも前記液体流路外に排出させて、前記タンクから前記液体流路内に前記吐出液を導入する導入処理と、前記導入処理の後に、前記撹拌部を制御して、前記液体流路内の液体を撹拌する撹拌処理と、前記撹拌処理の後に、前記排出部を制御して、前記液体流路内の前記撹拌部が撹拌した液体を前記液体流路外に排出する排出処理とを実行する。
【0007】
上記の構成によれば、液体流路内に存在する保存液は、吐出液と撹拌された後に排出されることになるため、排出部の制御だけでは排出し難い流路部分に存在する保存液も液体流路外に排出することが可能となる。その結果として、ヘッドユニット内に残存する保存液を低減することができる。
【0008】
第2の発明の液体吐出装置は、前記第1の発明において、前記制御部は、前記導入処理において、前記液体流路における前記導入処理開始前に前記保存液が存在する流路の、所定流路部分にエアが留まるように前記排出部を制御する。上記の構成によれば、撹拌処理のときには、液体流路内の所定流路部分に存在するエアにより、この所定流路部分において保存液と吐出液とを効率よく撹拌することができる。
【0009】
第3の発明の液体吐出装置は、前記第2の発明において、前記タンクは、前記吐出液を貯留する貯留室と、前記貯留室から前記タンクの外部に前記吐出液を供給する供給部とを有し、前記タンクが着脱可能に装着され、前記タンクが装着されたときに前記タンクの前記供給部と接続して吐出液を流通する被接続部を有するタンク装着部をさらに備え、前記液体流路は、前記被接続部と接続されるものであり、前記制御部は、前記導入処理において、前記タンクの前記供給部と前記タンク装着部の前記被接続部とが接続されたときに前記液体流路内に入り込むエアの少なくとも一部を前記液体流路の前記所定流路部分まで移動させるために、前記液体流路内から前記液体流路外に排出させる液体の総排出量が、前記液体流路における前記被接続部との接続位置から前記所定流路部分までの容積に相当する量となるように、前記排出部を制御する。上記の構成によれば、所定流路部分に確実にエアを留まらせることができる。
【0010】
第4の発明の液体吐出装置は、前記第2又は第3の発明において、前記ヘッドユニットは、前記ノズルを有し、前記吐出液を前記ノズルから吐出するためのヘッド本体と、前記ヘッド本体に前記吐出液を供給するための液体供給部材とを含み、前記液体流路は、前記ヘッド本体に形成され、前記液体供給部材から前記吐出液が供給される供給口を有するヘッド流路と、前記液体供給部材に形成され、前記供給口と前記タンクとを連通させる供給流路とを含み、前記供給流路は、前記供給流路は、前記ヘッド流路の前記供給口に接続され、前記供給口から上方に延在する第1流路と、前記第1流路の前記タンク側の端部に接続され、前記第1流路の延在方向と交差する方向に延在する第2流路とを含み、前記第1流路と前記第2流路との接続角部が、前記第1流路及び前記第2流路において最も上方に位置しており、前記制御部は、前記導入処理において、前記所定流路部分を前記接続角部として、前記液体流路内のエアが当該接続角部に留まるように前記排出部を制御する。上記の構成によれば、供給流路の第1流路は、ヘッド本体におけるヘッド流路の供給口から上方に延在する流路であるため、供給流路内に存在するエアがヘッド本体に移動し難く、その結果として、ヘッド本体にエアが混入することでヘッド本体の吐出特性が悪化することを抑制することができる。また、第1流路と第2流路との接続位置では保存液が滞留しやすい流路部分ではあるが、撹拌処理によりこの接続位置に存在する保存液を、保存液が滞留しにくい流路部分に移動させることができるため、排出処理後においてこの接続位置に残存する保存液を低減することができる。
【0011】
第5の発明の液体吐出装置は、前記第2又は第3の発明において、前記ヘッドユニットは、前記ノズルを有し、前記吐出液を前記ノズルから吐出するためのヘッド本体と、前記ヘッド本体に前記吐出液を供給するための液体供給部材とを含み、前記液体流路は、前記ヘッド本体に形成され、前記液体供給部材から前記吐出液が供給される供給口を有するヘッド流路と、前記液体供給部材に形成され、前記供給口と前記タンクとを連通させる供給流路とを含み、前記供給流路は、前記ヘッド本体に供給される液体の圧力変動を抑制するためのダンパー室を含み、前記制御部は、前記導入処理において、前記所定流路部分を前記ダンパー室として、前記液体流路内のエアが前記ダンパー室に留まるように前記排出部を制御する。上記の構成によれば、ダンパー室には保存液が滞留しやすい流路部分が存在するが、撹拌処理によりダンパー室に存在する保存液を滞留しにくい流路部分に移動させることができる。このため、排出処理後においてこのダンパー室に残存する保存液を低減することができる。
【0012】
第6の発明の液体吐出装置は、前記第2~第5の何れかの発明において、前記液体流路に接続し、エアを排出するための排気流路と、前記排気流路を開放する状態と閉塞する状態とに切り替える切替手段と、をさらに備え、前記排出部は、前記切替手段により開放された状態の前記排気流路に接続可能であり、前記制御部は、前記排出処理の後に、前記排出部と前記切替手段を制御して、前記液体流路内のエアを、前記排気流路を介して排気する排気処理をさらに実行する。上記の構成によれば、液体流路内に存在するエアにより、ヘッドユニットの吐出液の吐出特性が悪化することを抑制することができる。
【0013】
第7の発明の液体吐出装置は、前記第2~第5の何れかの発明において、前記排出部は、前記ノズルを覆うように前記ヘッドユニットに装着可能なキャップと、前記キャップに接続された吸引ポンプとを有し、前記キャップが前記ヘッドユニットに装着した状態で前記吸引ポンプを駆動させて前記キャップ内を吸引することで、前記ノズルから前記液体流路内の液体及びエアを排出させるためのパージユニットを備え、前記制御部は、前記排出処理において、前記パージユニットを制御して、前記ノズルから前記液体流路内の液体を排出させるパージを実行するものであり、且つ、前記排出処理の後において、前記パージユニットを制御して、前記液体流路内のエアを前記ノズルを介して排気させるパージを行う排気処理をさらに実行し、前記排気処理の前記パージにおいて、前記ノズルから前記液体流路内のエアを排出させるために、前記吸引ポンプの吸引力を、前記排出処理の前記パージのときの前記吸引ポンプの吸引力よりも強くする。上記の構成によれば、排出処理の後に排気処理が行われるため、排出処理では液体流路内に存在するエアを排出する必要がない。その結果として、排出処理のパージでは強い吸引力で吸引ポンプを駆動する必要がないため、排出処理時において過剰に吐出液が排出されることを抑制することができる。
【0014】
第8の発明の液体吐出装置は、前記第2~第5の何れかの発明において、前記ヘッドユニットは、前記排出部として、前記液体流路内の液体に、前記ノズルから吐出させるためのエネルギーを付与するエネルギー付与部を備え、さらに、前記排出部は、前記ノズルを覆うように前記ヘッドユニットに装着可能なキャップと、前記キャップに接続された吸引ポンプとを有し、前記キャップが前記ヘッドユニットに装着した状態で前記吸引ポンプを駆動させて前記キャップ内を吸引することで、前記ノズルから前記液体流路内の液体及びエアを排出させるためのパージユニットを備えており、前記制御部は、前記排出処理において、前記エネルギー付与部を制御して、前記ノズルから前記液体流路内の液体を吐出させて排出するフラッシングを実行し、且つ、前記排出処理の後において、前記パージユニットを制御して、前記ノズルから前記液体流路内のエアを排出させるパージを行う排気処理をさらに実行する。上記の構成によれば、排出処理の後に排気処理が行われるため、排出処理では液体流路内に存在するエアを排出する必要がない。その結果として、排出処理では、パージよりも液体の排出量が少ないフラッシングにより液体流路内の液体を液体流路外に排出することができるため、排出処理時において過剰に吐出液が排出されることを抑制することができる。
【0015】
第9の発明の液体吐出装置は、前記第6~第8の何れかの発明において、前記制御部は、前記撹拌処理及び前記排出処理を組として複数回繰り返し実行する。上記の構成によれば、撹拌処理と排出処理とを複数回実行することで、ヘッドユニットに残存する保存液を確実に低減することができる。また、排出処理では排気処理よりも弱い力で液体が液体流路外に排出されるため、液体流路の所定流路部分にエアを留まらせることができる。その結果として、撹拌処理の各々を行う際には所定流路部分にはエアが留まった状態であるため、この所定流路部分において保存液と吐出液とを効率よく撹拌することができる。
【0016】
第10の発明の液体吐出装置は、前記第1~第9の何れかの発明において、前記撹拌部は、前記ヘッドユニットを搭載して、前記ヘッドユニットとともに所定の走査方向に往復移動するキャリッジを含み、前記制御部は、
前記撹拌処理において、前記キャリッジを制御して、前記液体流路内の液体が撹拌するように前記ヘッドユニットを前記走査方向に往復移動させる。上記の構成によれば、撹拌部の構成を簡易化することができる。
【0017】
第11の発明の液体吐出装置は、前記第10の発明において、前記撹拌部は、前記ヘッドユニットを前記走査方向とは異なる方向に移動させる移動機構をさらに含み、前記制御部は、前記撹拌処理において、前記ヘッドユニットが前記走査方向に往復移動する際に、前記移動機構を制御して、前記ヘッドユニットを前記走査方向とは異なる方向に移動させる。上記の構成によれば、保存液と吐出液との撹拌効率をより向上させることができる。
【0018】
第12の発明の液体吐出装置は、前記第10又は第11の発明において、前記ヘッドユニットの前記走査方向の移動範囲の一部の範囲に配置され、前記ヘッドユニットの前記ノズルから排出される液体を受けるための液体受けをさらに備えており、前記制御部は、前記撹拌処理と前記排出処理とを組として複数回繰り返し実行するものであり、前記撹拌処理の各々において、前記撹拌部を制御して、前記液体受けを原点位置として、前記ヘッドユニットを前記原点位置から前記走査方向に往動させた後に、前記ヘッドユニットを前記原点位置に復動させ、前記排出処理の各々において、前記排出部を制御して、前記ヘッドユニットの前記ノズルから前記液体受けに向けて前記液体流路内の液体を排出する。上記の構成によれば、ヘッドユニットの往復移動が、排出処理において液体流路内の液体が排出される液体受けを原点位置として行われるため、撹拌処理及び排出処理に要する処理時間を短縮することができる。
【0019】
第13の発明の液体吐出装置は、前記第1~第12の何れかの発明において、前記ヘッドユニットは、前記排出部として、前記液体流路内の液体に、前記ノズルから吐出させるためのエネルギーを付与するエネルギー付与部を備え、前記制御部は、前記撹拌処理と前記排出処理とを組として複数回繰り返し実行するものであり、前記排出処理の各々においては、前記エネルギー付与部を制御して、前記ノズルから前記液体流路内の液体を吐出させて排出するフラッシングを実行する。上記の構成によれば、撹拌処理と排出処理とを組として複数回繰り返し実行することで、ヘッドユニットに残存する保存液を確実に低減することができる。また、各排出処理では、液体の排出量の調整がし易いフラッシングにより液体を排出するため、各排出処理において余分な吐出液が排出されるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ヘッドユニット内に残存する保存液を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【
図2】インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】(a)及び(b)は、
図3のIV-IV線鉛直断面図である。
【
図5】インクジェットヘッドのヘッド本体の平面図である。
【
図6】(a)は
図5のA部拡大図、(b)は(a)のB-B線断面図である。
【
図7】(a)及び(b)は撹拌処理について説明する平面図であり、(c)はキャリッジの移動速度と位置との関係を示す図である。
【
図8】インクジェットプリンタの処理動作について説明するフローチャートである。
【
図9】(a)及び(b)は、移動機構について説明する平面図である。
【
図10】変形例に係る、インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な実施形態に係るインクジェットプリンタ1(液体吐出装置)の概略構成について説明する。
図1に示すように、プリンタ1は、プラテン2、キャリッジ3、インクジェットヘッド5(以下、単にヘッド5とも称す)、ホルダ6、給紙ローラ7、排紙ローラ8、キャップユニット9、切り換え装置10、吸引ポンプ11、廃液タンク12、フラッシング受け30、ディスプレイ99(
図2参照)、及び制御装置100(
図2参照)などを備えている。尚、以下では、
図1の紙面手前側をプリンタ1の「上方」、紙面向こう側をプリンタ1の「下方」と定義する。また、
図1に示す前後方向及び左右方向を、プリンタ1の「前後方向」及び「左右方向」と定義する。以下、前後、左右、上下の各方向語を適宜使用して説明する。
【0023】
プラテン2の上面には、記録媒体である用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール15,16が設けられる。
【0024】
キャリッジ3は、2本のガイドレール15,16に取り付けられ、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール15,16に沿って走査方向に移動可能である。また、キャリッジ3には、駆動ベルト17が取り付けられている。駆動ベルト17は、2つのプーリ18,19に巻き掛けられた無端状のベルトである。一方のプーリ18はキャリッジ駆動モータ20(
図2参照)に連結されている。キャリッジ駆動モータ20によってプーリ18が回転駆動されることで駆動ベルト17が走行し、これにより、キャリッジ3が走査方向に往復移動する。また、このとき、キャリッジ3上に搭載されたヘッド5は、このキャリッジ3とともに走査方向に往復移動することになる。
【0025】
ホルダ6は、4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクカートリッジ42(タンクに相当)がそれぞれ着脱可能に装着される、4つのカートリッジ装着部41を備えている。各インクカートリッジ42は、インクを貯留する貯留室42aと、貯留室42aに接続された排出管42b(供給部に相当)とを備えている。排出管42bは、貯留室42aに貯留されたインクを、インクカートリッジ42外に供給するための流路を画定している。カートリッジ装着部41は、インクカートリッジ42が装着されたときに、排出管42bと接続してインクを流通するニードル41a(被接続部に相当)を備えている。また、カートリッジ装着部41には、インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されているか否かを検出するためのセンサ41b(
図2参照)が設けられている。
【0026】
ヘッド5は、先に触れたように、キャリッジ3に対して、着脱可能に装着されている。
このヘッド5は、ヘッド本体13とサブタンク14(液体供給部材に相当)とを含む。サブタンク14の上面には、チューブジョイント21が設けられており、当該チューブジョイント21には4本のインク供給チューブ22それぞれの一端が着脱可能に接続されている。4本のインク供給チューブ22それぞれの他端は、ホルダ6の4つのカートリッジ装着部41のニードル41aそれぞれに接続されている。カートリッジ装着部41に装着された4つのインクカートリッジ42内のインクは、この4本のインク供給チューブ22を介して、サブタンク14にそれぞれ供給される。
【0027】
また、サブタンク14には、その内部のインク流路に存在するエアを、ヘッド本体13へ移動する前に排気するための排気部23が4色のインクに対応して4つ設けられている。4つの排気部23のそれぞれの内部には、外部との連通/閉止を切り換える弁(図示省略)が設置されている。
【0028】
ヘッド本体13は、サブタンク14の下部に取り付けられている。ヘッド本体13は、その下面に複数のノズル44を備え、サブタンク14から供給されたインクを吐出する。
複数のノズル44は、4色のインクにそれぞれ対応して配列されて、4列のノズル列を構成している。ヘッド本体13の内部の流路構造については、後で詳述する。
【0029】
給紙ローラ7と排紙ローラ8は、搬送モータ29(
図2参照)によってそれぞれ同期して回転駆動される。給紙ローラ7と排紙ローラ8は協働して、プラテン2に載置された用紙Pを
図1に示す搬送方向に搬送する。
【0030】
そして、プリンタ1は、給紙ローラ7と排紙ローラ8によって用紙Pを搬送方向に搬送しつつ、キャリッジ3とともにヘッド5を走査方向に移動させながらインクを吐出させることにより、用紙Pに所望の画像等を記録する。即ち、本実施形態のプリンタ1は、シリアル式のインクジェットプリンタである。
【0031】
キャップユニット9は、プラテン2よりも走査方向一方側(
図1の右側)の位置に配置されており、キャリッジ3がプラテン2よりも右側に移動したときにはこのキャップユニット9と上下に対向する。また、キャップユニット9は、キャップ駆動モータ24(
図2参照)により駆動されて、上下方向に昇降可能である。このキャップユニット9は、ヘッド5に装着可能な、ノズルキャップ25及び排気キャップ26を備えている。
【0032】
キャリッジ3がキャップユニット9と対向した状態では、ノズルキャップ25がヘッド本体13の下面と対向し、排気キャップ26がサブタンク14の4つの排気部23の下面と対向する。そして、キャリッジ3とキャップユニット9とが対向した状態でキャップユニット9が上昇すると、キャップユニット9がヘッド本体13及びサブタンク14に装着される。このとき、ノズルキャップ25により、4列のノズル列に属する全てのノズル44が共通に覆われるとともに、排気キャップ26が4つの排気部23に接続される。排気キャップ26には、4つの排気部23内の弁をそれぞれ開閉する4本の棒状の開閉部材27が取り付けられている。詳細な説明は省略するが、排気キャップ26が4つの排気部23に接続された状態で、4本の棒状の開閉部材27は、排気モータ28(
図2参照)によって上下に駆動され、下方から排気部23内に挿入されることによって内部の弁を駆動する。
【0033】
ノズルキャップ25、及び排気キャップ26は、切り換え装置10を介して吸引ポンプ11に接続されている。切り換え装置10は、吸引ポンプ11の連通先を、ノズルキャップ25と、排気キャップ26との間で選択的に切り換える。また、吸引ポンプ11は廃液タンク12に接続されている。この切り換え装置10の連通先を切り換えることにより、4列のノズル列に属する全てのノズル44からインクを強制的に排出させる吸引パージと、サブタンク14内のインク流路からエアを排気する排気パージとを、選択的に実行できる。
【0034】
吸引パージでは、ノズルキャップ25がヘッド本体13に装着されて複数のノズル44を覆った状態で、切り換え装置10により吸引ポンプ11をノズルキャップ25に連通させてから、吸引ポンプ11を駆動し、ノズルキャップ25内を減圧(吸引)してヘッド5の複数のノズル44からそれぞれインクを吸引して排出させる。これにより、ヘッド5内の異物、気泡、乾燥により高粘度化したインク等をノズル44から排出させて、ノズル44の吐出特性を回復させることができる。
【0035】
排気パージでは、排気キャップ26が排気部23に接続され、且つ、開閉部材27により排気部23内の弁が開放された状態で、切り換え装置10により吸引ポンプ11を排気キャップ26に連通させてから吸引ポンプ11を駆動し、排気部23に負圧を作用させる。これにより、サブタンク14のインク流路内で成長した気泡等のエアを、ヘッド本体13に移動してしまう前に排気部23から排気することができる。
【0036】
尚、吸引パージや排気パージによって、ヘッド5から排出されたインクや保存液は、吸引ポンプ11に接続された廃液タンク12に送られる。
【0037】
また、本実施形態では、ヘッド5は、適宜のタイミングで、複数のノズル44からそれぞれインクを吐出させる、フラッシングを行う。このフラッシングの目的は様々であるが、例えば、ノズル44内のインクの乾燥を防止するため、あるいは、吸引パージ後のノズル44内のメニスカスを整えるため等である。
【0038】
そして、フラッシング受け30は、このフラッシングの際に、複数のノズル44から吐出されたインク等を受けるための部材である。フラッシング受け30は、ヘッド5の走査方向における移動範囲内の左端位置(以下、原点位置ともいう)に配置されている。即ち、フラッシング受け30は、プラテン2よりも走査方向他方側の位置に配置されている。
【0039】
フラッシングを行うために、ヘッド5が原点位置に移動すると(
図7(a)参照)、ヘッド5がフラッシング受け30と上下に対向する。この状態で、フラッシングが行われると、ヘッド5の複数のノズル44から吐出されたインクが、フラッシング受け30で受け止められる。
【0040】
制御装置100は、
図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、制御回路104、バス105等を含む。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータ(画像データ等)が一時的に記憶される。制御回路104には、ヘッド5のドライバIC53、キャリッジ駆動モータ20、キャップユニット9を昇降させるキャップ駆動モータ24等、プリンタ1の様々な装置あるいは駆動部と接続されている。また、制御回路104は、PC等の外部装置31と接続されている。CPU101は、外部装置31から送信された記録指令に基づいて、ヘッド5やキャリッジ駆動モータ20等を、制御回路104を介して制御して、用紙Pに画像等を記録させる。また、CPU101は、切り換え装置10や吸引ポンプ11等を、制御回路104を介して制御して、前述した吸引パージや排気パージを実行する。
なお、本実施形態では、制御装置100は、単一のCPUにより各処理を実行するように構成されているが、複数のCPU、単一のASIC(application specific integrated circuit)、複数のASIC、あるいは、CPUと特定のASICの組み合わせにより各処理を実行するように構成されていてもよい。
【0041】
次に、ヘッド5について、
図3~
図6を参照しつつ説明する。尚、
図3では、サブタンク14の、排気部23を開閉させる開閉部材27も二点鎖線で示されている。また、
図4では、ヘッド本体13については断面図とせず、側面図で示している。
【0042】
図5、
図6に示すように、ヘッド5のヘッド本体13は、流路ユニット33と、圧電アクチュエータ34(エネルギー付与部に相当)とを備えている。
図6(b)に示すように、流路ユニット33は、5枚のプレート35~39が積層された構造を有する。5枚のプレート35~39のうちの最下層のプレート39は、複数のノズル44が形成されたノズルプレート39である。一方、上側の残り4枚のプレート35~38には、複数のノズル44に連通するマニホールド46や圧力室47等の流路が形成されている。
【0043】
図5に示すように、流路ユニット33の上面には、4つのインク供給孔45が走査方向に並んで形成されている。4つのインク供給孔45はサブタンク14と接続されており、サブタンク14から4色のインクがそれぞれ供給される。また、流路ユニット33は、その内部に、それぞれ搬送方向に延在する4本のマニホールド46を有する。4本のマニホールド46は、4つのインク供給孔45に接続されている。
【0044】
図4に示すように、4つのインク供給孔45の上面には、供給流路62から供給されるインク内の塵等が除去するためのフィルタ49が張設されている。また、このフィルタ49により、供給流路62内のエアはヘッド本体13に流れ込み難くなる。
【0045】
さらに、流路ユニット33は、その下面に開口した複数のノズル44と、これら複数のノズル44にそれぞれ連通する複数の圧力室47とを有する。
図5に示すように、平面視で、複数のノズル44は、4本のマニホールド46にそれぞれ対応して4列に配列されている。複数の圧力室47も、複数のノズル44と同様に、4本のマニホールド46に対応して4列に配列されている。
図6(b)に示すように、各圧力室47は対応するマニホールド46に連通している。以上の構成より、
図6(b)に矢印で示すように、流路ユニット33内には、各マニホールド46から分岐して、圧力室47を経てノズル44に至る個別流路が複数形成されている。以下において、流路ユニット33内に形成された、マニホールド46、圧力室47、ノズル44等のインク流路を、ヘッド流路48(
図4参照)と総称する。
【0046】
図5、
図6に示すように、圧電アクチュエータ34は、振動板50と、圧電層54,55と、複数の個別電極52と、共通電極56とを備えている。振動板50は、複数の圧力室47を覆った状態で流路ユニット33の上面に接合されている。2枚の圧電層54,55は、振動板50の上面に積層されている。複数の個別電極52は、上層の圧電層55の上面において、複数の圧力室47とそれぞれ対向するように配置されている。共通電極56は、2枚の圧電層54,55の間において、複数の圧力室47に跨って配置されている。
【0047】
制御装置100からの信号を受けて、ドライバIC53から圧電アクチュエータ34の個別電極52に対して駆動信号が供給されると、上層の圧電層55の圧力室47と対向する部分に圧電歪が生じることで、振動板50が撓むように変形する。このとき、圧力室47の容積が変化することによって、個別流路内のインクに圧力(エネルギー)が付与されてノズル44からインクが吐出される。
【0048】
次に、サブタンク14について詳細に説明する。サブタンク14は、合成樹脂で成形された部材であり、
図3及び
図4に示すように水平面に沿って延在する板状の本体部分60と、この本体部分60の一端部から鉛直下方に延びる連結部分61とを有する。
【0049】
サブタンク14には、ヘッド本体13に4色のインクをそれぞれ供給する4つの供給流路62が形成されている。本体部分60には、4色のインクにそれぞれ対応して、4つのインク導入部64が形成されている。この4色のインク導入部64に4つの供給流路62がそれぞれ接続されている。4つのインク導入部64は、平板状の本体部分60の上面に設けられている。なお、
図3には、ある1色のインクに対応する供給流路62の接続構成のみが示されている。サブタンク14の4つのインク導入部64から導入された4色のインクは、この供給流路62を経由して、ヘッド本体13のヘッド流路48に流れ込むことになる。
【0050】
本体部分60の上面には、チューブジョイント21が取り付けられる。チューブジョイント21には、それぞれインクカートリッジ42(
図1参照)に接続された4本のインク供給チューブ22が接続され、その内部には、4本のインク供給チューブ22と4つのインク導入部64とをそれぞれ連通させる4つのジョイント内流路21aが形成されている。
【0051】
各供給流路62は、本体部分60に形成された本体流路70(第2流路に相当)と、連結部分61に形成された連結流路75(第1流路に相当)とを有する。本体流路70は、
図4に示すように、水平面に沿って延在している。一方で、連結流路75は、本体流路70の一端部に接続されており、この一端部から鉛直下方に延在している。これにより、本体流路70と連結流路75との接続部分には、90度をなす接続角部90が形成されている。この接続角部90は、本体流路70の各位置と同じく、本体流路70及び連結流路75において最も上方となる位置である。変形例として、本体流路70の連結流路75側の少なくとも一部の流路(例えば、後述する流路73)が、連結流路75との接続部分から下方に延在していてもよい。
【0052】
本体流路70は、ダンパー室71、及び、ダンパー室71の前後に配置された流路72,73を有する。ダンパー室71は、本体部分60の表面に形成された凹部であり、4色のインクにそれぞれ対応した4つのダンパー室71が、本体部分60の上面側と下面側に2つずつ設けられている。また、
図4に示すように、上面側のダンパー室71と下面側のダンパー室71とが背中合わせとなるように配置されている。また、本体部分60の上面に形成されたインク導入部64とダンパー室71とが、同じく本体部分60の上面に形成された溝状の流路72によって接続されている。
【0053】
さらに、ダンパー室71は、本体部分60の上面に形成された流路73によって、連結部分61に形成された連結流路75に接続されている。尚、図面の簡単のため、
図3では図示を省略しているが、他の色のインクについても、インク導入部64、ダンパー室71、及び、連結流路75が、本体部分60の上面又は下面に形成された流路によって接続されることによって、供給流路62が構成されている。
【0054】
本体部分60には、4つの連結流路75と4つの排気部23とをそれぞれ接続する溝状の4つの排気流路74も形成されている。尚、この排気流路74についても、図面の簡単のため、本体部分60の上面に形成された1つの排気流路74のみを図示しており、他の図示は省略されている。
【0055】
図3、及び
図4に示すように、本体部分60の上面と下面には、樹脂材料からなる可撓性を有するフィルム78,79がそれぞれ溶着されている。これにより、本体部分60に形成された、供給流路62の凹状のダンパー室71及び溝状の流路72,73、及び、同じく溝状の排気流路74が、フィルム78,79によって上方又は下方から覆われた構成となっている。
【0056】
凹状のダンパー室71とその前後の流路72,73は、深さはほぼ同じであるが、ダンパー室71の流路幅は溝状の流路72,73よりもかなり大きくなっている。これにより、供給流路62は、ダンパー室71において局部的に容積が大きくなった流路形状を有する。ヘッド本体13でインクが消費されると、ヘッド本体13内のインクの圧力が減少するため、それに応じて、インクカートリッジ42からサブタンク14内の供給流路62にインクが供給される。その際に、供給流路62内のインクに大きな圧力変動が生じると、それがヘッド本体13まで伝わってインクの吐出に悪影響を及ぼす。しかし、供給流路62に、容積が大きく、且つ、可撓性のフィルム78,79で覆われたダンパー室71が設けられることによって、供給流路62内のインクに生じる圧力変動がダンパー室71で吸収される。
【0057】
連結部分61に形成された4つの連結流路75は、フィルム78,79によって上端を塞がれた上で、下端においてヘッド5の4つのインク供給孔45に接続されている。先に触れたように、この連結流路75は上下方向に延在しており、且つ連結流路75と本体流路70との接続角部90はこれら流路70,75において最も上方となる位置であるため、供給流路62内に存在するエアは、ヘッド本体13に流れ込まずに、この連結流路75の上端で留まり易い。その結果として、供給流路62内に存在するエアがヘッド本体13に流れ込むことに起因して、ヘッド5の吐出特性が悪化することを抑制することができる。また、
図4に示すように、この連結流路75は、流路断面積(流路幅)が大きい上側流路76と、流路断面積が小さい下側流路77とから構成されている。
【0058】
尚、以下では、説明の便宜上、供給流路62と、ヘッド流路48とからなる流路をヘッド内流路80と称する。また、このヘッド内流路80と、インク供給チューブ22と、ジョイント内流路21aとからなる、インク供給チューブ22のインクカートリッジ42との接続位置から複数のノズル44に至る流路全体を全インク流路85(
図1参照)と称する。この全インク流路85が本発明の「液体流路」に相当する。また、ヘッド5、チューブジョイント21、及びインク供給チューブ22からなるユニットが、本発明の「ヘッドユニット」に相当する。
【0059】
以上説明したヘッド5において、
図4(a)に示すように、工場からヘッド5を出荷する前に、ヘッド5の機能保全を図る目的で、全インク流路85のヘッド内流路80等に、保存液が充填される。ここで、保存液として、例えば、顔料系のインクを用いると、下記の点で問題となる。顔料系のインクに用いられる色材は、経時により凝集することがある。このため、ヘッド5のヘッド内流路80内に、顔料系のインクを長期間充填しておくと、吐出不良を招く可能性がある。
【0060】
そこで、本実施形態において、保存液として、インクと比べて染料又は顔料の色材の量が少ない、又は含まない液体を用いる。この保存液は、インクと比べて色材が少ない分、インクよりもかなり安価である。また、保存液は、ヘッド内流路80内への充填時において、ヘッド内流路80の細部まで導入しやすくなるように、界面活性剤が添加されてインクよりも表面張力が低くなっている。
【0061】
そして、出荷後に、ユーザによって、当該購入したヘッド5が搭載されたプリンタ1の電源が初めて投入されたときに、制御装置100は、ヘッド5のヘッド内流路80に充填された保存液を、インクカートリッジ42から導入されたインクで置換する置換処理を実行する。
【0062】
ここで、制御装置100が、吸引パージやフラッシングなど、ヘッド内流路80内の液体をヘッド内流路80外に排出させる排出処理を行った場合、その液体の排出量だけインクカートリッジ42からヘッド内流路80内にインクが導入されることになる。従って、制御装置100が、置換処理において、この排出処理を実行することで、ヘッド内流路80内の液体をインクで置換することは可能である。しかしながら、本願発明者は、この排出処理を行っただけでは、ヘッド内流路80内に保存液が多く残存することを知見した。
以下、その理由を説明する。なお、以下では、置換処理開始時(後述する導入処理開始前)において、全インク流路85に保存液が充填されているものとする。
【0063】
上述したように、ダンパー室71は、当該ダンパー室71の前後の流路72,73よりも流路断面積の大きい、局所的に膨らんだ流路部分であるために、その内部に液体が滞留しやすい淀み部分が存在する。また、本体流路70と連結流路75との接続角部90は、液体の流れの向きが下方に変化する流路部分であるため、液体の流れが相対的に遅くなる箇所が生じ易く、液体が滞留しやすい。このような液体が滞留しやすい流路部分に存在する保存液は、フラッシングや吸引パージにより、インクカートリッジ42からノズル44に向かう液体の流れを全インク流路85内に生じさせたとしてもノズル44から排出させ難い。その結果として、排出処理を単に行うだけでは、ヘッド内流路80内の液体が滞留しやすい所定流路部分に多くの保存液が残存する。このように、ヘッド内流路80内に保存液が残留した状態で使用すると、保存液が混じったインクがノズル44から吐出されるため、用紙Pに記録される画像の品質が悪化する問題がある。
【0064】
そこで、本実施形態では、制御装置100は、置換処理において、上記排出処理に加えて、ヘッド内流路80内にインクを導入する導入処理、及び、ヘッド内流路80内の液体を撹拌する撹拌処理を排出処理の前に実行する。なお、制御装置100は、撹拌処理及び排出処理については、これら組としてN回(Nは2以上の整数:本実施形態では85回)繰り返して実行する。また、制御装置100は、置換処理において、これら撹拌処理及び排出処理が繰り返し実行した後に、ヘッド内流路80内のエアを排気する排気処理を実行する。以下、置換処理の一連の流れについて詳細に説明する。
【0065】
制御装置100は、まず、キャップユニット9及び吸引ポンプ11を制御して、ヘッド内流路80内の保存液の少なくとも一部をヘッド内流路80外に排出させて、インクカートリッジ42から全インク流路85内にインクを導入する導入処理を実行する。詳細には、導入処理において、制御装置100は、供給流路62内に過剰に存在するエアを排気すべく排気パージを実行する。この後、制御装置100は、インクカートリッジ42のインクが、供給流路62内の本体流路70と連結流路75との接続角部90まで到達するように吸引パージを実行する。
【0066】
また、この導入処理の際には、制御装置100は、後の撹拌処理のときの液体の撹拌効率向上を目的として、ヘッド内流路80における、導入処理開始前に保存液が存在し、且つ、液体が滞留しやすい所定流路部分に、全インク流路85内のエアの少なくとも一部が留まるように吸引ポンプ11を制御する。本実施形態では、制御装置100は、本体流路70と連結流路75との接続角部90にエアが留まるように、吸引ポンプ11の吸引力や駆動時間を制御する。具体的には、制御装置100は、排気パージ及び吸引パージの際に供給流路62から供給流路62外に排出させる液体の総排出量が、全インク流路85におけるニードル41aとの接続位置から、接続角部90までの容積に相当する量となるように吸引ポンプ11を制御する。これにより、インクカートリッジ42をカートリッジ装着部41に装着してインクカートリッジ42を全インク流路85と接続したときに、全インク流路85内に入り込むエア(噛み込みエアなど)の少なくとも一部を、本体流路70と連結流路75との接続角部90に移動させることができる。なお、この「総排出量」は、導入処理において排気パージ等で排出されるエアについても液体とみなして換算される排出量である。従って、この総排出量は、排出されるエアの分だけ実際に排出される液体の量と異なる場合がある。また、本実施形態では、この導入処理のときの吸引パージでは、吸引ポンプ11の回転速度(吸引力)は、ノズル44の吐出特性の回復を目的とした通常の吸引パージのときの回転速度と同じである。
【0067】
なお、供給流路62内の液体は、経時により水分が蒸発することがある。このように、水分が蒸発すると、供給流路62内には、蒸発した水分だけエアが生成される。従って、導入処理開始前において、供給流路62内にエアが既に存在している場合がある。加えて、撹拌処理のときの液体の撹拌効率は、供給流路62内(接続角部90)に留まるエアの量が多いほど向上する。従って、制御装置100が、この導入処理において、撹拌処理のときの液体の撹拌効率の向上を目的として、噛み込みエアに加えて、供給流路62内に既に存在するエアについても、この接続角部90に留まるように吸引ポンプ11を制御してもよい。具体的には、制御装置100は、この導入処理においては、接続角部90にエアが留まるように、通常の吸引パージと比べて吸引ポンプ11の回転速度を遅く(吸引力を弱く)する。ただし、このように吸引ポンプ11の回転速度を遅くすると、上記総排出量の液体を供給流路62外に排出させるのに必要な処理時間が長くなる。従って、この導入処理において、導入処理の処理時間を短くしたい場合には通常の吸引パージと同じ回転速度で吸引ポンプ11を駆動させ、撹拌処理のときの液体の撹拌効率を向上させたい場合には通常の吸引パージよりも遅い回転速度で吸引ポンプ11を駆動させることが好ましい。
【0068】
この導入処理を終了すると、制御装置100は、撹拌処理、及び、排出処理を組としてN回繰り返し実行する。
【0069】
撹拌処理では、制御装置100は、先ず、キャリッジ駆動モータ20を制御して、
図7(a)に示すように、ヘッド5を、フラッシング受け30に上下で対向する原点位置に移動させる。その後、制御装置100は、キャリッジ駆動モータ20を制御して、キャリッジ3とともにヘッド5を走査方向に往復移動させる(
図7(a)及び
図7(b)参照)。
これにより、ヘッド内流路80内の液体に力(エネルギー)が与えられて液体の流動が生じ、ヘッド内流路80内の液体が撹拌される。
【0070】
ここで、キャリッジ3の走査方向の移動動作は、キャリッジ3の移動速度に関連して、加速動作、定速動作、及び減速動作の3つに分けられる。定速動作は、キャリッジ3を一定速度で移動させる動作であり、例えば、ヘッド5から用紙Pに向けてインクを吐出する画像記録時に採用される。一方で、加速動作は、例えば、停止しているキャリッジ3を所定速度まで加速するときに採用される動作であり、減速動作は、例えば、所定速度で走行するキャリッジ3を停止するときに採用される動作である。
【0071】
そして、ヘッド内流路80内の液体に大きな力(エネルギー)を与えられるのは、キャリッジ3を加速させる加速動作又は減速させる減速動作のときである。そこで、本実施形態では、往動時においては、
図7(c)に示すように、キャリッジ3を原点位置から所定速度(本実施形態ではキャリッジ3の最大速度)まで加速する加速動作を行い、その直後に、キャリッジ3を折返位置(
図7(b)参照)に停止させるための減速動作を行う。復動時についても、同様に、キャリッジ3を折返位置から上記所定速度まで加速する加速動作を行いその直後に減速動作を行い、キャリッジ3を原点位置に復帰させる。以上のようにキャリッジ3を動作させることで、キャリッジ3の往動のときの移動距離、及びキャリッジ3の復動のときの移動距離を同じにすることができるので、復動終了時のヘッド5の位置を原点位置に一致させることができる。また、後で説明するが、各撹拌処理の後に実行される排出処理は、フラッシング受け30に向けてヘッド5の複数のノズル44からインクを吐出させるフラッシングである。従って、各撹拌処理の終了時のヘッド5の位置を、ヘッド5がフラッシング受け30と対向する原点位置とすることで、置換処理に要する処理時間を短くすることができる。以上のように、本実施形態では、プリンタ1の既存の構成であるキャリッジ3の制御のみでヘッド内流路80内の液体を撹拌することができる。なお、
図7(a)及び
図7(b)では、説明の便宜上、撹拌処理に関連しないプリンタ1の構成については省略して図示している。
【0072】
撹拌処理を終了すると、制御装置100は、ヘッド内流路80内の撹拌処理により撹拌した液体をノズル44から排出する排出処理を実行する。この排出処理のとき、上記撹拌処理によりヘッド内流路80内の液体は撹拌された状態であるため、撹拌処理の前において、排出処理だけでは排出し難い流路部分に存在した保存液についても排出することが可能となる。
【0073】
ところで、各撹拌処理の際に、ヘッド内流路80内の所定流路部分にエアが留まっていると、このエアの存在により、エアが存在しない場合と比べて所定流路部分付近で液体が流動し易くなる。その結果、所定流路部分にエアが存在する場合にはヘッド内流路80内の液体の撹拌が進むことになる。上述したように1回目の撹拌処理の際には、導入処理によって、ヘッド内流路80における液体が滞留しやすい所定流路部分である、本体流路70と連結流路75との接続角部90にエアが留まっているため、この接続角部90付近における液体の撹拌効率は高い。また、2回目以降の撹拌処理についても、撹拌効率を考慮すると、この接続角部90にエアが留まっている方が好ましい。加えて、撹拌処理及び排出処理をN回繰り返した後には、ヘッド内流路80内のエアを排気する排気処理が実行されるため、排出処理によってヘッド内流路80内に存在するエアを排気する必要性もない。そこで、本実施形態では、制御装置100は、各排出処理において、圧電アクチュエータ34を制御して、ヘッド内流路80内の液体をノズル44から排出するフラッシングを実行する。
【0074】
このように各排出処理を、ヘッド内流路80内に生じる液体の流動が比較的小さいフラッシングで行うことによって、2回目以降の撹拌処理の際においても、このヘッド内流路80の所定流路部分にエアを留めることが可能となる。その結果として、各撹拌処理の際のヘッド内流路80内の液体の撹拌効率を向上させることができる。加えて、フラッシングは吸引パージよりも液体の排出量を制御(調整)しやすいため、各排出処理において、設定された設定排出量よりも多い液体がヘッド内流路80から排出することを抑制することができる。その結果として、排出処理の際に消費されるインクの量を低減することができる。
【0075】
また、本実施形態において、各排出処理において設定された上記設定排出量は、連結流路75における下側流路77の容積に相当する液体量である。この下側流路77は、上側流路76と比べて流路断面積が小さく、且つエアが滞留しにくい流路である。このため、下側流路77では、上側流路76と比較して撹拌処理において液体の撹拌が進まず、下側流路77内に存在する保存液は、主に排出処理の際の流路内の液体の流動によって排出されることになる。従って、各排出処理における設定排出量を下側流路77の容積に相当する液体量とすることで、下側流路77に存在する多くの保存液を下側流路77外に排出することができる。その結果として、置換処理において排出されるインクの量を低減しつつ、置換処理後において、ヘッド内流路80内に残存する保存液を効率よく低減することができる。
【0076】
以上のように、撹拌処理及び排出処理をN回繰り返しことで、ヘッド内流路80内に存在する保存液の量(濃度)を徐々に下げていくことができるため、置換処理終了時においてヘッド内流路80内に残存する保存液を確実に低減することができる。なお、この撹拌処理及び排出処理の繰返し回数Nは、インクカートリッジ42に貯留されているインクと、インクジェットヘッド5のノズル44から吐出される液体との色差を所定値未満にするのに必要な回数であり、実験やシミュレーション等により予め設定されている。
【0077】
この撹拌処理及び排出処理をN回繰り返し実行した後、制御装置100は、キャップユニット9及び吸引ポンプ11を制御して、ヘッド内流路80内のエアをヘッド内流路80外に排気する、排気処理を実行する。詳細には、排気処理において、制御装置100は、上記吸引パージを実行する。この排気処理における吸引パージでは、導入処理における吸引パージよりも、吸引ポンプ11の吸引力を強くすることで、ヘッド内流路80内に存在するエアを液体とともにノズル44から強制的に排出する。即ち、供給流路62内のエアについても、フィルタ49を通過してノズル44から排出されるように、吸引ポンプ11の吸引力を強くする。これにより、ヘッド内流路80内に存在するエアにより、ヘッド5のインクの吐出特性が悪化することを抑制することができる。
【0078】
(インクジェットプリンタの動作)
次に、ユーザによってプリンタ1の電源が投入されたときのプリンタ1の処理動作の一例について、
図8を参照しつつ説明する。
【0079】
ユーザによってプリンタ1の電源が投入される(S1)と、CPU101は、センサ41bからの検出結果に基づいて、インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されているか否かを判断する(S2)。インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されていないと判断した場合(S2:NO)には、CPU101は、カートリッジ装着部41へのインクカートリッジ42の装着を促す画面をディスプレイ99に表示させて(S3)、S2の処理に戻る。
【0080】
一方で、インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されていると判断した場合(S2:YES)には、CPU101は、RAM103を参照して、キャリッジ3に搭載されているヘッド5のヘッド内流路80にインクが導入されているか否か(ヘッドが新品か否か)を判断する(S4)。詳細には、RAM103には、ヘッド内流路80内にインクを導入したか否かを示す導入フラグが記憶されている。CPU101は、この導入フラグがオンのときにはヘッド内流路80内にインクが導入されており、ヘッド内流路80内に保存液が存在していないと判断する。一方で、導入フラグがオフのときにはヘッド内流路80内にインクが導入されておらず(未導入)、ヘッド内流路80に保存液が存在すると判断する。
【0081】
そして、ヘッド5のヘッド内流路80にインクが未導入である(保存液が存在する)と判断した場合(S5:YES)には、CPU101は、置換処理を実行すると判断し、まず、キャップユニット9及び吸引ポンプ11を制御して、ヘッド内流路80内の保存液の少なくとも一部をヘッド内流路80外に排出させることで、インクカートリッジ42のインクを全インク流路85内に導入する導入処理を実行する(S6)。
【0082】
次に、CPU101は、キャリッジ3を制御して、ヘッド5を走査方向に移動させることで、ヘッド内流路80内の液体を撹拌する撹拌処理を実行する(S7)。次に、CPU101は、圧電アクチュエータ34を制御して、フラッシングを行うことで、ヘッド内流路80内の撹拌処理により撹拌された液体をノズル44から排出する排出処理を実行する(S8)。
【0083】
次に、CPU101は、撹拌処理及び排出処理の繰返し回数がN回に到達したか否かを判断する(S9)。N回に到達していないと判断した場合(S9:NO)には、S7の処理に戻る。一方で、N回に到達したと判断した場合(S9:YES)には、CPU101は、キャップユニット9及び吸引ポンプ11を制御して、吸引パージを行うことで、ヘッド内流路80内のエアをノズル44から強制的に排出させる排気処理を実行し(S10)する。その後、CPU101は、RAM103に記憶されている導入フラグをオフからオンに切り替えて(S11)、本処理動作を終了する。
【0084】
一方、S4の処理において、ヘッド5のヘッド内流路80にインクが導入されていると判断した場合(S5:NO)には、CPU101は、排気パージ及び吸引パージをこの順で実行する(S12)。この排気パージ及び吸引パージにより、ヘッド内流路80内に存在するエアを低減させつつ、ヘッド5内の異物、気泡、乾燥により高粘度化したインク等をノズル44から排出させることで、ノズル44の吐出特性が回復される。以上、プリンタ1の動作について説明した。
【0085】
以上、本実施形態によると、置換処理において、ヘッド内流路80内に存在する保存液はインクと撹拌された後に排出されることになるため、吸引パージやフラッシングだけでは排出し難い流路部分に存在する保存液もヘッド内流路80外に排出することが可能となる。その結果として、ヘッド内流路80内に残存する保存液を低減することができる。また、本実施形態では、置換処理において効率よく保存液を排出できるため、置換処理で消費されるインクの量を少なくできる。その結果として、プリンタ1に装着したインクカートリッジ42により、画像記録可能な用紙Pの枚数も増やすことができる。また、置換処理では、撹拌処理及び前記排出処理を組として複数回繰り返し実行されるため、ヘッド内流路80に存在する保存液を確実に低減することができる。
【0086】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態では、排出処理をフラッシングで行っていたが、吸引パージで行うように構成されていてもよい。この場合、制御装置100は、排出処理及び排気処理各々で実行される吸引パージの制御内容を互いに異ならせる。詳細には、上述したように、排出処理では、ヘッド内流路80内に存在するエアを排気する必要がないため、吸引ポンプ11の吸引力を弱くする。これにより、排出処理において、ヘッド内流路80内の液体が過剰に排出されることを抑制することができる。一方で、排気処理では、吸引ポンプ11の吸引力を排出処理のときよりも強くする。これにより、ヘッド内流路80内に存在するエアを確実に排気することが可能となる。
【0087】
また、上述の実施形態では、制御装置100は、導入処理において、本体流路70と連結流路75との接続角部90に全インク流路85内のエアの少なくとも一部が留まるように吸引ポンプ11を制御していたが、エアを留める流路部分はこれに限定されない。例えば、制御装置100は、導入処理において、同じく液体が滞留しやすいダンパー室71にエアが留まるように吸引ポンプ11を制御してもよい。
【0088】
また、導入処理のときに所定流路部分にエアを留めるための制御装置100の制御は必須ではない。この場合、撹拌処理の際にヘッド内流路80の所定流路部分にエアが留められておらず、ヘッド内流路80内の撹拌が進まない可能性があるため、撹拌処理及び排出処理の繰返し回数を増加させる、あるいは、各排出処理時においてヘッド内流路80外に排出する液体の排出量を増加させる必要がある。また、この場合において、導入処理の際の排気パージにより、ヘッド内流路80内のエアが吐出不良に影響を与えない程度まで低減されている場合には、置換処理において排気処理を実行する必要はない。また、排気処理を、供給流路62内のエアを排気流路74を介して排気部23から排出させる上記排気パージにより実行してもよい。この場合、吸引パージにより供給流路62内のエアをノズル44から排出させる場合と比べて、弱い吸引力でエアを供給流路62外に排出させることができる。
【0089】
上述の実施形態では、制御装置100は、置換処理において、撹拌処理及び排出処理については、これらを組として複数回繰り返し実行するように構成されていたが、繰り返し実行せずにそれぞれの処理が1回だけ実行するように構成されていてもよい。
【0090】
また、
図9に示すように、キャリッジ3上に、ヘッド5に加えて、ヘッド5を走査方向とは異なる方向に移動させる移動機構4が設けられていてもよい。この移動機構4は、2本のガイドレール91,92、2つのプーリ93,94、駆動ベルト95、及びヘッド移動モータ96(
図10参照)を備えている。ガイドレール91,92は、キャリッジ3上に設けられており、前後方向にそれぞれ延在している。ヘッド5は、この2本のガイドレール91,92に着脱可能に装着されており、ガイドレール91,92に沿って前後方向に移動可能である。
【0091】
2つのプーリ93,94は、キャリッジ3上において、前後方向において互いに離間して配置されている。また、プーリ93はヘッド移動モータ96に連結されている。駆動ベルト95は、この2つのプーリ93,94に巻き掛けられた無端状のベルトである。ヘッド移動モータ96によってプーリ93が回転駆動されると、駆動ベルト95が走行し、これにより、ヘッド5が前後方向に往復移動することになる。以上のように、本変形例では、ヘッド5は、キャリッジ駆動モータ20が駆動されることでキャリッジ3とともに走査方向に往復移動し、ヘッド移動モータ96が駆動されることで前後方向に往復移動する。
【0092】
そして、制御装置100は、撹拌処理において、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、ヘッド5が走査方向に往復移動する際に、移動機構4を制御して、ヘッド5を走査方向とは異なる前後方向に移動させる。このヘッド5の前後方向の移動は、ヘッド5が走査方向に移動しているときでもよく、ヘッド5が走査方向に移動した直後でもよく、ヘッド5の走査方向の移動によりヘッド内流路80内の液体が運動しているときであればよい。
このように、ヘッド5を、走査方向のみならず、前後方向にも移動させることで、ヘッド内流路80内の液体の撹拌効率をさらに向上させることができる。なお、移動機構4によるヘッド5の移動方向は前後方向に限定されず、左右方向(走査方向)とは異なる方向であればよい。
【0093】
また、上述の実施形態では、ヘッド内流路80内の液体の撹拌は、ヘッド5を移動させることで行っていたが、特にこれに限定されるものではない。例えば、ヘッド内流路80内に撹拌翼を配置し、この撹拌翼をモータにより回転駆動することでヘッド内流路80内に液体の流動を生じさせて液体を撹拌するように構成されていてもよい。
【0094】
また、フラッシング受け30は必須ではなく、フラッシングの際にノズル44から排出される液体を、ノズルキャップ25により受け止めるように構成されていてもよい。また、出荷時において、ヘッド内流路80の全流路に保存液が充填されている必要はなく、例えば、ダンパー室71及びこのダンパー室71よりもインクカートリッジ42側の流路に保存液が充填されていなくてもよい。
【0095】
また、排気パージを行うための排気流路74は必須ではない。但し、排気流路74がない場合は、置換処理の際には、ダンパー室71等に存在するエアを全て、吸引パージのみによって、ヘッド内流路80の末端のノズル44から抜く必要がある。
【0096】
上述の実施形態では、ヘッド5のヘッド内流路80に導入される吐出液はインクであったが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、用紙Pに記録される画像の品質を向上させる処理液であってもよい。処理液としては、例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液が挙げられる。
【0097】
また、上述の実施形態では、全インク流路85に対しては、カートリッジ装着部41に着脱可能に装着されたインクカートリッジ42からインクの供給を行っていたが、全インク流路85に対してプリンタ1に備え付けのタンクが接続されており、このタンクからインクの供給を行うように構成されていてもよい。タンク内のインクが切れた場合には、ユーザは、インクの入ったボトルをタンクに形成された補充孔に挿し込んで、ボトルからタンクにインクを補充することになる。
また、インクカートリッジが装着されるカートリッジ装着部がキャリッジに搭載された、いわゆるオンキャリッジタイプのプリンタにも適用することができる。
加えて、上述の実施形態では、インクの供給源であるタンクは、インクカートリッジであったが、これに限定されるものではなく、例えば、可撓性を有する樹脂からなるパウチ式のインク収容袋であってもよい。このインク収容袋には、インク供給チューブ22を接続可能なキャップが設けられており、インク供給チューブ22をこのキャップに接続したときにインク収容袋内のインクがインク供給チューブ22に流通可能となる。なお、インク供給チューブ22をこのキャップに接続するときには、インク供給チューブ22内にエアが入り込むことになるため、置換処理の導入処理において、制御装置100が、このエアを接続角部90等に留めるように制御することで撹拌処理における液体の撹拌効率を向上させることができる。
【0098】
また、本発明は、インクジェットヘッドを固定した状態で、搬送機構により搬送される用紙に画像を記録する、所謂ライン式のインクジェットプリンタにも適用されうる。また、上述の実施形態は、本発明を、用紙にインクを吐出して画像等を記録するインクジェットプリンタに適用したものであるが、画像記録以外の様々な用途で使用される液体吐出装置においても本発明は適用されうる。例えば、基板に導電性の液体を吐出して、基板表面に導電パターンを形成する液体吐出装置にも、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 インクジェットプリンタ(液体吐出装置の一例)
5 インクジェットヘッド
34 圧電アクチュエータ(エネルギー付与部)
42 インクカートリッジ(タンクの一例)
44 ノズル
100 制御装置(制御部)
【手続補正書】
【提出日】2022-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するタンクと、
走査方向に移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搭載され、前記タンクから供給される前記インクを吐出するノズルを有するヘッドと、
前記キャリッジが前記走査方向におけるキャップ位置に位置するときに前記ノズルと対向し、前記ノズルを覆うように前記ヘッドに接する接触位置と前記ヘッドから離間する離間位置とに移動可能なキャップと、
前記キャップに接続する吸引ポンプと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記キャップが前記接触位置に位置する状態にて、前記吸引ポンプを動作させ前記ヘッド内の保存液の少なくとも一部を前記ヘッド外に排出させ、前記タンクの前記インクを前記ヘッドに導入する導入処理と、
前記導入処理の後に、前記走査方向において前記キャップ位置を通過しないように前記キャリッジに複数回の往復移動をさせる往復移動処理と、
前記往復移動処理の後に、前記キャップが前記接触位置に位置する状態にて、前記吸引ポンプを動作させ前記ヘッド内の液体を前記ヘッド外に排出させる排出処理と、を実行する液体吐出装置。
【請求項2】
前記走査方向において前記キャップ位置とは異なる位置に配置され、前記ノズルから吐出された前記インクを受けるインク受けを更に備え、
前記制御部は、
前記往復移動処理では、前記インク受けと対向する位置を前記キャリッジが通過するように前記往復移動させることを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記走査方向において前記キャップおよび前記インク受けとは異なる位置に記録媒体を載置するプラテンを更に備え、
前記制御部は、
前記往復移動処理において、前記インク受けと対向する位置と、前記プラテンと対向する位置と、を前記キャリッジが通過するように前記キャリッジを前記往復移動させることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記往復移動処理において、前記インク受けと対向する位置にて前記キャリッジが折り返すように前記キャリッジを前記往復移動させることを特徴とする、請求項2および請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記往復移動処理において、前記キャリッジの往動時と復動時との両方で前記キャリッジが所定速度まで加速した後に減速するように前記キャリッジを前記往復移動させることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記往復移動処理において、前記キャリッジの往動時と復動時との両方で、前記所定速度までの加速動作および前記所定速度からの減速動作が同様になるように、前記キャリッジを前記往復移動させることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記往復移動処理において、前記キャリッジの往動時と復動時との移動距離が同じになるように、前記キャリッジを前記往復移動させることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記タンクを着脱可能に装着する装着部と、
前記装着部に前記タンクが装着されたか否かを検出するためのセンサと、
を更に備え、
前記制御部は、
ユーザによって前記液体吐出装置の電源が投入された後であって、前記タンクが前記装着部に装着されたことを前記センサにより検出した後に、前記導入処理と前記往復処理と前記排出処理とのそれぞれを実行させ、その後に初回の印刷を行うことができるよう制御することを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
以 上