(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172488
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
E04B1/94 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078256
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】梅森 浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 正寿
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA12
2E001GA52
2E001GA65
2E001GA66
2E001HC01
2E001LA01
2E001LA12
(57)【要約】
【課題】 構造が簡単かつ施工費用が安価であり、所定の耐火性能を発揮させることが可能となる耐火被覆構造を提供する。
【解決手段】 鉄骨柱10(鋼製部材)の周囲を、複数の木製被覆材20(木製部材)で被覆しており、隣接する木製被覆材20の端面(木口面21a)同士を突き合わせて当接させることにより接合目地部27が形成されており、接合目地部27の鉄骨柱10の側に、接合目地部27を閉塞するための裏当板23(閉塞部材)が設けられている耐火被覆構造Tとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材の周囲を、複数の木製部材で被覆した耐火被覆構造において、
各々の前記木製部材は、少なくとも一端面が平坦に形成されている平板形状であり、
少なくとも一か所において、隣接する前記木製部材における平坦に形成されている前記端面同士を突き合わせて当接させることにより接合目地部が形成されており、
前記接合目地部の前記鋼製部材側に、前記接合目地部を閉塞するための閉塞部材が設けられていることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
鋼製部材の周囲を、複数の木製部材で被覆した耐火被覆構造において、
各々の前記木製部材は、少なくとも一端面が平坦に形成されている平板形状であり、
少なくとも一か所において、一方の前記木製部材における平坦に形成されている前記端面と、他方の前記木製部材の裏面の端縁部を当接させることにより接合目地部が形成されているとともに、
前記接合目地部の前記鋼製部材側に、前記接合目地部を閉塞するための閉塞部材が設けられていることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項3】
前記閉塞部材は木製であり、前記木製部材に留付具により取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火被覆構造。
【請求項4】
前記閉塞部材は、前記木製部材の所定位置に予め取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製部材の耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物に使用される鋼製部材は、高温下において強度低下してしまう。そのため、火災によって鉄骨造構造物が損傷又は倒壊することを防止するために、断熱性能を有する耐火被覆材により、鉄骨部材の表面を覆う対策が講じられている。従来は、使用される耐火被覆として、モルタル塗被覆、ケイ酸カルシウム板張被覆、石綿スレート板張り被覆、コンクリート被覆及び吹付石綿被覆等の不燃・難燃材料が採用され、所定時間の耐火性能が確保されていた。
一方、近時、施工性の向上、軽量化及び環境対策等の観点から、木製部材を使用した技術が開発されている。例えば、鋼製部材の表面を耐火被覆材で被覆し、当該耐火被覆材の表面に木質材を積層した耐火構造が存在している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長期許容荷重が作用する鋼製部材の許容温度は約500℃~550℃以下に制限される。そのため、以前は、木製部材は温度上昇に伴い炭化及び自重等により脱落する恐れもあるため、耐火被覆材には適さないと考えられていた。
ところが、通常、木製部材の炭化速度は、0.6mm/分~1.0mm/分程度であり、木製部材が一定の厚さを備えており、要求される加熱時間まで残存していれば、鋼製部材の温度を抑制でき、耐火被覆材として使用可能となることが明らかとなり、従来技術が開発されるに至った。
【0005】
しかし、板状の耐火被覆材で被覆する従来の耐火構造では、耐火被覆材同士が接する目地部に隙間が形成されてしまう。そのため、目地部から熱が侵入する弱部になってしまい、所定の耐火性能を発揮させることができない場合があり、その対応が求められていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、構造が簡単かつ施工費用が安価であり、所定の耐火性能を発揮させることが可能となる耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の耐火被覆構造(以下、「本耐火被覆構造」という場合がある。)は、鋼製部材の耐火被覆部材として、木製部材を使用し、耐火性能上、弱部になる目地部を所定の部材により閉塞し、耐火性能を高めたことに特徴を有している。
【0008】
すなわち、本耐火被覆構造は、鋼製部材の周囲を、複数の木製部材で被覆した耐火被覆構造において、各々の上記木製部材は、少なくとも一端面が平坦に形成されている平板形状であり、少なくとも一か所において、隣接する上記木製部材における平坦に形成されている上記端面同士を突き合わせて当接させることにより接合目地部が形成されており、上記接合目地部の上記鋼製部材側に、上記接合目地部を閉塞するための閉塞部材が設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本耐火被覆構造は、鋼製部材の周囲を、複数の木製部材で被覆した耐火被覆構造において、各々の上記木製部材は、少なくとも一端面が平坦に形成されている平板形状であり、少なくとも一か所において、一方の上記木製部材における平坦に形成されている上記端面と、他方の上記木製部材の裏面の端縁部を当接させることにより接合目地部が形成されているとともに、上記接合目地部の上記鋼製部材側に、上記接合目地部を閉塞するための閉塞部材が設けられていることを特徴としている。
【0010】
ここで、平板形状である木製部材の端面とは、木口面(短辺側の側面)及び木端面(木側面)(長辺側の側面)をいい、隣接する木製部材の少なくとも一端面同士が平坦に形成されているものであればよい。
また、被覆の対象となる鋼製部材は、H型鋼、角型鋼管及び円型鋼管などの鉄骨部材等、その種類を問うものではなく、柱部材、梁部材等、その使用態様を問うものでもない。
また、各々の木製部材は、少なくとも一な端面(木口面又は木端面)が平坦に形成されている平板形状であればよく、その寸法等は、実施態様に応じて適切に定めることが可能である。
また、被覆部材は接合目地部を閉塞することができるのであれば、板材、角材等を問わず、その形状、寸法等は、実施態様に応じて適切に定めることが可能である。
【0011】
さらに、本耐火被覆構造では、鋼製部材の周囲を複数の木製部材で被覆している。この場合に、鋼製部材が火炎等に晒されることがないように、全外周を囲繞する必要があるが、囲繞領域における木製部材の横断面の形状、枚数、設置態様及び接合目地部の数等の詳細は、実施態様に応じて適切に定めることが可能である。
特に、囲繞領域における木製部材の横断面の形状は、矩形形状及びその他の多角形形状等、鋼製部材の形状及びその装飾を考慮して定めることができるとともに、設置態様に関して、水平方向又は高さ方向において、複数枚の木製部材を並設することもできる。
【0012】
本耐火被覆構造によれば、木製部材同士の接合目地部における鋼製部材側に、当該接合目地部を閉塞するための閉塞部材が設けられている。そのため、火災が進行して、接合目地部に間隙が形成された場合でも、当該間隙からの熱の侵入を防止することができ、耐火被覆材料として木材を使用した場合であっても、効果的に耐火効果を発揮させることが可能となる。
【0013】
また、本耐火被覆構造において、上記閉塞部材は木製であり、上記木製部材に留付具により取り付けられていることが好適である。
ここで、留付具には、ビス、ネジ、釘等の金属製の金具を用いることができる。
【0014】
本耐火被覆構造によれば、閉塞部材は木製であり、木製部材に留付具により取り付けられていることから、木製部材と一体となって耐火被覆材の効果を奏させることが可能となる。また、容易に木製部材に取り付けることが可能となるため、施工性を向上させることができる。
【0015】
さらに、本耐火被覆構造において、上記閉塞部材は、上記木製部材の所定位置に予め取り付けられていることとすれば、より一層、施工性を高め、工期短縮及び低コストとすることができるため好適である。
【0016】
なお、木製部材が、ひび割れや、節部を有している場合でも、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂等の各種補修材を、該当部分に充填させることにより、容易に補修可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造が簡単かつ施工費用が安価であり、所定の耐火性能を発揮させることが可能となる木製部材による耐火被覆構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の耐火被覆構造を示す、一部の木製被覆材を取り外した斜視図である。
【
図3】本発明の耐火被覆構造を示す、一部の木製被覆材を取り外した側面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態の耐火被覆構造を示す、一部の木製被覆材を取り外した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本耐火被覆構造Tの実施形態の一例について、鋼製部材として鉄骨柱10を使用するとともに、木製部材として、木製被覆材20,20’,30’を使用した場合を例として、詳細に説明する。なお、図面に基づく説明では、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態の本耐火被覆構造]
第1実施形態の本耐火被覆構造Tは、角型鋼管の鉄骨柱10の周囲を、複数枚の木製被覆材20を用いて被覆している。木製被覆材20は、同一形状である4枚の木製被覆材20を一組として、当該4枚一組の木製被覆材20を、鉛直方向(高さ方向)に2段(合計8枚)となるように設置している(
図1~
図3)。
【0021】
鉄骨柱10の各面における表面には、所定間隔を空けて、鉛直方向に平行となるように2本の細長の野縁11が、矩形小片である下地材12を介して延設されている。野縁11は、上部の木製被覆材20の位置に設けられる上部の野縁11と、下部の木製被覆材20の位置に設けられる下部の野縁(図示せず)が、所定間隔で離間して設けられており、上下の野縁11の間に下記裏当材23が取り付けられることになる。
なお、下地材12は、鉄骨柱10の表面の適宜位置に溶接されている。
【0022】
木製被覆材20は、平板21(木製部材)と裏当角材22(閉塞部材)とから形成されている。平板21は矩形形状であり、四周の木口面21a及び木端面21bが平坦となるように形成されている。
裏当角材22B(22)は、平板21B(21)の鉛直方向における一方の端縁の近傍において、当該端縁から、接合される木製被覆材20A(20)の平板21Aにおける木端面21Ab(以下、単に「木端面」という場合がある。)の幅の間隔をあけた状態で、当該平板21B(22)の裏面(配置した場合に鉄骨柱10に面する側となる面)に、予めビス29(留付具)により垂設されている(以下、説明の便宜上、
図1において、各木製被覆材20に関し、必要となる要素にのみ符号A,B,Xを付して区別する)。
【0023】
木製被覆材20は、鉄骨柱10の各面における野縁11の所定位置に、外面側(鉄骨柱10に面しない側、以下同様)からビス29により取り付けられている。そして、隣接する木製被覆材20の裏面の端縁部に、木製被覆材20の木端面21Abの全面が、隙間の生じることがないように当接され、接合されている。このような構造により、隅角部には、鉛直方向に接合目地部26が配置されるようになり、当該裏当角材22Bが、隅角部の接合目地部26を閉塞することができるようになっている。
【0024】
また、高さ方向に隣接する木製被覆材20は、上部の木製被覆材20A(20)における平板21A(21)の下側の木口面21Aa(21a)(以下、単に「木口面」という場合がある。)と、下部の木製被覆材20X(20)の上側の木口面21Xa(21a)とを全面で突き合わせて、隙間の生じることがないように当接させることにより、水平方向に接合目地部27A(27)が形成されている。そして、接合目地部27A(27)の鉄骨柱10側の面には、当該接合目地部27A(27)の長さ方向の全体にわたり、接合目地部27A(27)の間隙を閉塞するように裏当板23A(23)(閉塞部材)が、外面側からビス29により取り付けられている。
なお、裏当材23Aは、予め、一方の木製被覆材20に取り付けられているものであってもよい。
【0025】
[本耐火被覆構造の作用効果]
本耐火被覆構造Tによれば、木製被覆材20の接合目地部26,27における鉄骨柱10の側に、当該接合目地部26,27を閉塞するための裏当角材22及び裏当板23が設けられている。そのため、火災の進行により、接合目地部26,27に間隙が形成された場合であっても、当該隙間からの熱の侵入を防止することができ、耐火被覆材料として木材を使用した場合であっても、効果的に耐火効果を発揮させることが可能となる。
【0026】
また、本耐火被覆構造Tによれば、木製の裏当角材22及び裏当板23が、ビス29により木製被覆材20に取り付けられていることから、当該裏当角材22及び裏当板23が木製被覆材20と一体となって、耐火被覆効果を奏することとなる。加えて、裏当角材22及び裏当板23を、容易に木製被覆材20に取り付けることができるため、施工性を向上させることが可能となる。
特に、裏当角材22は、木製被覆材20の裏面に予めビス29により取り付けられているため、施工性を高め、工期短縮及び低コストとすることができる。
【0027】
このように、本耐火被覆構造Tによれば、耐火被覆材料として木材を積極的に活用することができる。それに伴う付随的効果として、二酸化炭素の削減効果を発揮させることにより、環境に配慮した構造物とすることができる。また、優れた意匠性、質感及び視覚効果、並びに触感の確保等の効果を備えるとともに、香りによるリラックス効果、調湿及び消臭効果、殺菌効果及び免疫力の向上効果等の各種効果を発揮させることができる。
【0028】
[第2実施形態の本耐火被覆構造]
第1実施形態の本耐火被覆構造Tは、同一形状である4枚の木製被覆材20を一組として、当該4枚一組の木製被覆材20を、鉛直方向(高さ方向)に2段(合計8枚)となるように設置している。
一方、第2実施形態の本耐火被覆構造T’は、鉄骨柱10’の各面に対して、各2枚の木製被覆材20’,30’を水平方向に並設して設置する構造である(
図4、
図5)。なお、第2実施形態の本耐火構造T’と第1実施形態の本耐火構造Tとは、木製被覆材20、30’のみが異なるため(鉄骨柱10’、野縁11’及び下地材12’は寸法のみが異なっている)。以下に、相違点についてのみ説明する。
【0029】
第2実施形態の本耐火被覆構造T’では、対向する面には、各々2枚の同一の木製被覆材20’,30’(2種類×4枚)が使用されている(なお、以下の説明において、一方の木製被覆材を第1木製被覆材20’、他方の木製被覆材を第2木製被覆材30’という)。
【0030】
第1木製被覆材20’は、平板21’と裏当角材22’を備えている。平板21’は矩形形状であり、四周の木口面及び木端面が平坦となるように形成されている。各裏当角材22’は、平板21’の鉛直方向における一方の端縁の近傍において、第1木製被覆材20’の平板21’の裏面に、当該端縁から、接合される第2木製被覆材30’における木端面30b’の幅の間隔を有した状態で、予めビス29’により垂設されている。
また、第2本木製被覆材30’は、木口面及び木端面21b’が平坦となるように形成されている平板である。
【0031】
第1木製被覆材20’は、鉄骨柱10’の対向する2面において、各面に関し、左右対称となるように、野縁11’における所定位置に、外面側からビス29’により取り付けられている。左右方向に隣接する第1木製被覆材20’は、平板21’の対向する木端面21b’を全面で突き合わせて、隙間の生じることがないように当接させることにより、鉛直方向に接合目地部27’が形成されている。そして、接合目地部27’の鉄骨柱10’側の面には、当該接合目地部27’の長さ方向の全体にわたり、接合目地部27’の間隙を閉塞するように裏当板23’が、第1木製被覆材20’の外面側からビス29’により取り付けられている。
【0032】
また、他の対向する2面において、接合される第1木製被覆材20’の裏面の端縁部に、第2木製被覆材30’の左右の木端面30b’の全面が、隙間の生じることがないように当接され、接合されている。このような構造により、隅角部には、鉛直方向に接合目地部26’が形成されている。
一方、隅角部の接合目地部26’の鉄骨柱10’側には、裏当角材22’が設けられており、当該裏当角材22’が、隅角部の接合目地部26’を閉塞することができるようになっている。
【0033】
また、左右方向に隣接する第2木製被覆材30’は、対向する木端面30b’を全面で突き合わせて、隙間の生じることがないように当接させることにより、鉛直方向に接合目地部37’が形成されている。そして、接合目地部37’の鉄骨柱10’側の面には、当該接合目地部37’の長さ方向の全体にわたり、接合目地部37’の間隙を閉塞するように裏当板23’が、第2木製被覆材30’の外面側からビス29’により取り付けられている。
なお、各裏当板23’は、並設されている2本の野縁11’の間に形成されている空間部に設けられることになる。
【0034】
上記第2実施形態の本耐火被覆構造T’によっても、接合目地部26’,27’,37’に設けられている、裏当角材22’及び裏当板23’の存在により、第1実施形態と同様の作用効果を奏させることが可能となる。
【0035】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各要素に関して、適宜設計変更が可能である。
【0036】
上記のとおり、木製部材及び閉塞部材に関する各種態様に制限はなく、最適な構成要素を採用することができる。また、耐火被覆構造に関しては、必要最小限の構成要素を例示したものであり、本発明の作用効果を阻害しない限り、必要となる他の構成要素を付加するものであってもよい。
特に、木製部材及び閉塞部材の形状、接合目地部の位置、形状、数等は、実施態様に応じて適切に定めることが可能である。
【実施例0037】
[本耐火被覆構造の効果検証]
本耐火被覆構造の効果を検証するために載荷加熱実験を行った。
(1)試験体
試験体は、第1実施形態の本耐火被覆構造とし、寸法の異なる2種類の鉄骨柱を木製被覆材により被覆した試験体を用いた。なお、各試験体は、結果のばらつきを考慮して2体ずつ用意し、合計4体に関して試験を行った。
【0038】
第1試験体の鉄骨柱は、300mm×300mm×9mmの角型鋼管(STKR490)であり、長さ3000mmとした。
木製被覆材は、各面における上下に2枚ずつを配置した。第1試験体の鉄骨柱に用いられる木製被覆材の平板は、456mm×1500mm×36mmとするとともに、裏当角材は、32mm×32mm、長さ1500mmとした。
また、上下の木製被覆材の接合目地部に設けられる裏当材には、456mm×120mm×30mmの平板材を使用した。
【0039】
第2試験体の鉄骨柱は、650mm×650mm×16mmの角型鋼管(STKR490)であり、長さ3000mmとした。
木製被覆材は、各面における上下に2枚ずつを配置した。第2試験体の鉄骨柱に用いられる木製被覆材の平板は、平面部を806mm×1500mm×36mmとするとともに、裏当角材は、32mm×32mm、長さ1500mmとした。
また、上下の木製被覆材の接合目地部に設けられる裏当材には、806mm×120mm×30mmの平板材を使用した。
なお、木製被覆材、裏当角材及び裏当板には、スギ材を使用した。
【0040】
(2)実験方法及び実験結果
載荷加熱実験は、加熱炉の中央部に各試験体を設置し、所定の載荷荷重(第1試験体 2072kN、第2試験体 8378kN)を作用させた状態で、ISO834に準拠した標準加熱曲線に従って加熱を行い、所定箇所における鉄骨柱の温度、鉄骨柱の崩壊時間、鉄骨柱の崩壊変位等を測定することにより行った。
【0041】
[第1試験体]
一体目の試験体の実験結果によれば、加熱から約43分後に上側の木製被覆材が剥がれ落ち、鋼管柱が外部に露出する状況となった。その後、鋼管柱の一部が火炎に直接晒されたため鋼材温度が上昇し、当該鋼管柱の上部の平均温度が約800℃に達した際に局部座屈して、加熱から約54分後に崩壊した。崩壊時の鉛直膨張変位は、-9.07mmであった。
なお、二体目の試験体も、ほぼ同様の実験結果となった。
【0042】
[第2試験体]
一体目の試験体の実験結果によれば、加熱から約36分後、上側の木製被覆材が剥がれ落ち、鋼管柱が外部に露出する状況となった。その後、鋼管柱の一部が火炎に直接晒されたため鋼材温度が上昇し、当該鋼管柱の上部の平均温度が約700℃に達した際に局部座屈して、加熱から約49分後に崩壊した。崩壊時の鉛直膨張変位は、-6.71mmであった。
なお、二体目の試験体も、ほぼ同様の実験結果となった。
【0043】
上記実験結果によれば、鉄骨柱の寸法及び載荷荷重により、実験結果が異なることとなったが、少なくとも、防火被覆に求められる30分及び鉄骨柱の準耐火構造に求められる45分加熱に対して、有効な防火被覆効果が得られることが確認された。本実験結果により、木製被覆材の材質及び形状を改善することにより、更なる耐火性能を向上させることが可能となることが実証された。