(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172527
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】グランドパッキン
(51)【国際特許分類】
F16J 15/22 20060101AFI20221110BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F16J15/22
F16J15/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078338
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 広大
(72)【発明者】
【氏名】高山 剛
(72)【発明者】
【氏名】林 洋樹
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA02
3J043CA09
3J043CA12
3J043CB18
3J043CB24
3J043DA01
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性が低下するのを抑制することができるグランドパッキンを提供する。
【解決手段】グランドパッキン3は、テープ部材10を渦巻状に巻回して構成されている。テープ部材10は、グランドパッキン3の少なくとも最内周に配置された第1テープ部11を備えている。第1テープ部11は、膨張黒鉛材13と、多数の孔14aが形成された第1多孔質材14とが混合された混合テープからなり、第1テープ部11における第1多孔質材14の孔14aに潤滑剤15が保持されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ部材を渦巻状に巻回して構成されたグランドパッキンであって、
前記テープ部材は、前記グランドパッキンの少なくとも最内周に配置された第1テープ部を備え、
前記第1テープ部は、膨張黒鉛材と、多数の孔が形成された第1多孔質材とが混合された混合テープからなり、
前記第1テープ部における前記第1多孔質材の孔に潤滑剤が保持されている、グランドパッキン。
【請求項2】
前記テープ部材は、前記第1テープ部よりも外周側に配置された第2テープ部をさらに備え、
前記第2テープ部は、潤滑剤が含浸されていない膨張黒鉛テープからなる、請求項1に記載のグランドパッキン。
【請求項3】
前記第1テープ部は、前記グランドパッキンの最内周を含む内周領域に配置されている、請求項1又は請求項2に記載のグランドパッキン。
【請求項4】
前記グランドパッキンの最内周を含む内周領域における前記テープ部材の巻回間に、多数の孔が形成された第2多孔質材からなる粉末が介在し、
前記第2多孔質材の孔に、潤滑剤が保持されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のグランドパッキン。
【請求項5】
前記第1多孔質材は、前記グランドパッキンの最内周に対する相手材の摺動を阻害しない材料からなる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のグランドパッキン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グランドパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
バルブやポンプなどの流体機器に装備される軸封装置として、例えば特許文献1に記載されたグランドパッキンが知られている。このグランドパッキンは、膨張黒鉛テープを渦巻き状に巻回して構成されており、その巻回された膨張黒鉛テープには潤滑剤が含浸されている。膨張黒鉛テープに含浸された潤滑剤は、グランドパッキンの締付時にグランドパッキンの内周面と、当該内周面と対向する相手材の摺動面との間に染み出る。その染み出た潤滑剤によって、グランドパッキンの内周面の摺動抵抗を低減して耐摩耗性を向上させるとともに、グランドパッキンだけではシールしきれない被密封流体の漏れを抑制してシール特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記グランドパッキンに潤滑剤を含浸させたときには、グランドパッキンの内周面側を含む外表面側に多くの潤滑剤が存在する。このため、グランドパッキンの使用時に潤滑剤の温度が高くなって潤滑剤の流動性が高まると、グランドパッキンの内周面側に存在する潤滑剤が外周側へ移動する。このように潤滑剤が外周側へ移動すると、グランドパッキンの内周面と摺動面との間で潤滑剤が枯渇し、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性が低下するのを抑制することができるグランドパッキンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明のグランドパッキンは、テープ部材を渦巻状に巻回して構成されたグランドパッキンであって、前記テープ部材は、前記グランドパッキンの少なくとも最内周に配置された第1テープ部を備え、前記第1テープ部は、膨張黒鉛材と、多数の孔が形成された第1多孔質材とが混合された混合テープからなり、前記第1テープ部における前記第1多孔質材の孔に潤滑剤が保持されている。
【0007】
このグランドパッキンによれば、その最内周に配置された第1テープ部における第1多孔質材の孔に潤滑剤が保持されているので、従来のグランドパッキンと比較して潤滑剤がグランドパッキンの最内周から外周側へ移動するのを抑えることができる。これにより、グランドパッキンの最内周と、その最内周に対向する相手材の摺動面との間において潤滑剤が枯渇するのを抑制できるので、グランドパッキンの耐摩耗性が低下するのを抑制することができる。
【0008】
(2)前記テープ部材は、前記第1テープ部よりも外周側に配置された第2テープ部をさらに備え、前記第2テープ部は、潤滑剤が含浸されていない膨張黒鉛テープからなるのが好ましい。
この場合、第1テープ部よりも外周側に配置された第2テープ部には、潤滑剤が含浸されていないので、グランドパッキンの全体に潤滑剤が含浸されている場合と比較して、グランドパッキンの応力緩和が大きくなるのを抑えることができる。これにより、グランドパッキンのシール特性が低下することも抑制することができる。
【0009】
(3)前記第1テープ部は、前記グランドパッキンの最内周を含む内周領域に配置されているのが好ましい。
この場合、グランドパッキンの最内周と相手材の摺動面との間で潤滑剤が枯渇するのをさらに抑制することができる。
【0010】
(4)前記グランドパッキンの最内周を含む内周領域における前記テープ部材の巻回間に、多数の孔が形成された第2多孔質材からなる粉末が介在し、前記第2多孔質材の孔に、潤滑剤が保持されているのが好ましい。
この場合、テープ部材の巻回間に介在する粉末の第2多孔質材の孔に保持されている潤滑剤がグランドパッキンの最内周に染み出すので、グランドパッキンの最内周と相手材の摺動面との間で潤滑剤が枯渇するのをさらに抑制することができる。
【0011】
(5)前記第1多孔質材は、前記グランドパッキンの最内周に対する相手材の摺動を阻害しない材料からなるのが好ましい。
この場合、第1多孔質材を有する第1テープ部がグランドパッキンの最内周に配置されても、その最内周に対する相手材の摺動が阻害されるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グランドパッキンの耐摩耗性が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るグランドパッキンを備えた流体機器の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[流体機器]
図1は、本発明の実施形態に係るグランドパッキンを備えた流体機器の一部を示す断面図である。流体機器は、例えばポンプ、バルブ、又はドレッサージョイント等である。流体機器は、パッキンボックス1と、パッキンボックス1内に配置された軸2と、パッキンボックス1と軸2との間をシールする複数のグランドパッキン3とを備えている。
【0015】
軸2は、パッキンボックス1に対して、軸2の軸線C回りに回転したり、軸方向に往復移動したりするようになっている。なお、本実施形態の流体機器では、軸2の軸線Cを鉛直方向に配置しているが、当該軸線Cを水平方向に配置してもよい。
【0016】
複数のグランドパッキン3は、それぞれ環状に形成されており(
図2参照)、パッキンボックス1内に形成された環状空間Sにおいて軸方向に並べて配置されている。環状空間Sは、パッキンボックス1の大気側の内周面1a及び段差面1bと、軸2の外周面2aとによって区画形成されている。軸2の外周面2aは、各グランドパッキン3の内周面3bに対して摺動する摺動面とされている。
【0017】
複数のグランドパッキン3は、環状空間Sの大気側(
図1の上側)に配置されたパッキン押え4により機内側(
図1の下側)に押圧されている。パッキン押え4は、円筒状に形成されており、円環状のフランジ部4aを有している。フランジ部4aには、周方向に複数(
図1では1個のみ図示)のボルト5が軸方向に貫通しており、これらの各ボルト5は、パッキンボックス1の大気側の端面に形成されたねじ孔6に螺合されている。
【0018】
パッキン押え4は、ボルト5を締め付けることで機内側へ移動し、各グランドパッキン3を機内側に押圧する。そうすると、各グランドパッキン3が軸方向に押し潰され、各グランドパッキン3の外周面3a及び内周面3bは、径方向に対向するパッキンボックス1の内周面1a及び軸(相手材)2の外周面2aにそれぞれ密着する。これにより、各グランドパッキン3は、流体機器内の被密封流体が大気側へ漏れるのを防いでいる。
【0019】
[グランドパッキン]
図2は、グランドパッキン3を示す平面図である。
図3は、
図2のI-I矢視断面図である。
図2及び
図3において、グランドパッキン3は、環状の成形パッキンからなる。具体的には、グランドパッキン3は、帯状のテープ部材10(
図4参照)を渦巻状に巻回した状態で金型により加圧成形されたものである。
【0020】
テープ部材10は、グランドパッキンの内周領域Bに配置された第1テープ部11(
図2のハッチング部分)と、第1テープ部11よりも外周側に配置された第2テープ部12(
図2の白抜き部分)と、を備えている。内周領域Bは、グランドパッキン3における径方向の厚みの中央よりも径方向内側の領域であり、グランドパッキン3の最内周を含む。
【0021】
本実施形態の第1テープ部11は、内周領域Bの一部、具体的にはグランドパッキン3の最内周から2巻き目までの間に配置されている。第2テープ部12は、第1テープ部11の外周側の端部からグランドパッキン3の最外周まで巻回されている。
【0022】
[第1テープ部]
図4は、第1テープ部11の一部を示す斜視図である。第1テープ部11は、膨張黒鉛材13と、多数の孔14aが形成された第1多孔質材14とが混合された混合テープからなる。膨張黒鉛材13は、例えば、膨張黒鉛テープを細かく粉砕した粉砕物、又は膨張黒鉛テープの原料となる膨張黒鉛粉末である。
【0023】
第1多孔質材14は、グランドパッキン3の内周面(最内周)3bに対する軸2の外周面2aの摺動を阻害しない材料からなる。本実施形態の第1多孔質材14は、例えば、平均粒径が15μmの竹炭(活性炭)の粉末である。
【0024】
第1テープ部11は、例えば、膨張黒鉛材13に第1多孔質材14を5wt%~20wt%の割合で混合した状態で、厚みが0.2mm~0.5mmの帯状のテープ(混合テープ)に加圧成形されたものである。この混合テープには、潤滑剤15が含浸されている。潤滑剤15は、例えば10wt%~30wt%の割合で混合テープに含浸されている。これにより、第1テープ部11における第1多孔質材14の各孔14aには、潤滑剤15が保持されている。
図4では、潤滑剤15をクロスハッチングで示している。本実施形態の潤滑剤15は、例えばポリエーテル系等の液体潤滑剤である。
【0025】
[第2テープ部]
図5は、第2テープ部12の一部を示す斜視図である。第2テープ部12は、例えば、膨張黒鉛粉末が、第1テープ部11と同じ断面形状となる帯状のテープ(膨張黒鉛テープ)に加圧成形されたものである。この膨張黒鉛テープには、潤滑剤は含浸されていない。したがって、第2テープ部12は、潤滑剤が含浸されていない膨張黒鉛テープからなる。
【0026】
[第2多孔質材]
図6は、
図2のA部拡大図である。 グランドパッキン3の内周領域B(
図3参照)におけるテープ部材10の巻回間には、多数の孔16aが形成された第2多孔質材16からなる粉末が介在している。本実施形態では、第1テープ部11における1巻き目(最内周)と2巻き目との巻回間、及び第1テープ部11の2巻き目と第2テープ部12の1巻き目との巻回間に、それぞれ第2多孔質材16からなる粉末が介在している。
【0027】
本実施形態の第2多孔質材16は、例えば、第1多孔質材14と同じ竹炭(活性炭)である。第2多孔質材16の各孔16aには、潤滑剤17が保持されている。潤滑剤17は、例えば、第1多孔質材14に保持されている潤滑剤15と同じポリエーテル系等の液体潤滑剤である。
【0028】
潤滑剤17を保持している第2多孔質材16からなる粉末は、グランドパッキン3の製造時において、巻回したテープ部材10を金型に入れて加圧成形する前に、テープ部材10の上方から振りかけられる。その際、前記粉末は、テープ部材10における内周領域Bとなる部分に振りかけられる。その後、金型によってテープ部材10が加圧成形されることで、グランドパッキン3の内周領域Bにおけるテープ部材10の巻回間に、前記粉末がランダムに介在した状態となる。
【0029】
[作用効果]
以上の構成により、本実施形態におけるグランドパッキン3では、その最内周に配置された第1テープ部11における第1多孔質材14の孔14aに潤滑剤15が保持されているので、従来のグランドパッキンと比較して潤滑剤がグランドパッキン3の最内周から外周側へ移動するのを抑えることができる。これにより、グランドパッキン3の内周面3bと軸2の外周面(摺動面)2aとの間において潤滑剤が枯渇するのを抑制できるので、グランドパッキン3の耐摩耗性が低下するのを抑制することができる。
【0030】
また、第1テープ部11よりも外周側に配置された第2テープ部12には、潤滑剤が含浸されていないので、グランドパッキン3の全体に潤滑剤が含浸されている場合と比較して、グランドパッキン3の応力緩和が大きくなるのを抑えることができる。これにより、グランドパッキン3のシール特性が低下することも抑制することができる。
【0031】
また、第1テープ部11は、グランドパッキン3の最内周だけでなく2巻き目にも配置されているので、グランドパッキン3の内周面3bと軸2の外周面2aとの間で潤滑剤が枯渇するのをさらに抑制することができる。
【0032】
また、グランドパッキン3の内周領域Bにおけるテープ部材10の巻回間には、多数の孔16aが形成された第2多孔質材16からなる粉末が介在し、その第2多孔質材16の各孔16aに潤滑剤17が保持されている。これにより、第2多孔質材16の各孔16aに保持されている潤滑剤17が、グランドパッキン3の内周面3bに染み出すので、グランドパッキン3の内周面3bと軸2の外周面2aとの間で潤滑剤が枯渇するのをさらに抑制することができる。
【0033】
また、第1多孔質材14は、グランドパッキン3の内周面3bに対する軸2の外周面2aの摺動を阻害しない材料である竹炭からなる。これにより、第1多孔質材14を有する第1テープ部11がグランドパッキン3の最内周に配置されても、軸2の外周面2aの摺動が阻害されるのを抑制することができる。
【0034】
[その他]
上記実施形態において、第1テープ部11は、グランドパッキン3の最内周から2巻き目までの間に配置されているが、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1テープ部11は、グランドパッキン3の最内周のみに配置されていてもよいし、グランドパッキン3の内周領域Bの全体に配置されていてもよい。また、第1テープ部11は、グランドパッキン3の全体に配置されていてもよい。
【0035】
第2テープ部12は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば潤滑剤が含浸された膨張黒鉛テープであってもよい。第1多孔質材14及び第2多孔質材16は、竹炭以外に、セラミックス等の他の多孔質材であってもよい。第1多孔質材14及び第2多孔質材16は、互いに異なる材質であってもよく、例えば、第1多孔質材14が竹炭で、第2多孔質材16がセラミックスであってもよい。第1多孔質材14及び第2多孔質材16に保持される潤滑剤15,17は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0036】
第2多孔質材16は、上記実施形態以外のテープ部材10の巻回間(例えば第2テープ部12の巻回間)に介在させてもよい。また、第2多孔質材16は、テープ部材10の巻回間に介在させなくてもよい。
【0037】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0038】
2 軸(相手材)
3 グランドパッキン
10 テープ部材
11 第1テープ部
13 膨張黒鉛材
14 第1多孔質材
14a 孔
15 潤滑剤
16 第2多孔質材
16a 孔
17 潤滑剤
B 内周領域